説明

ハイブリッド自動車

【課題】いわゆるプラグインハイブリッド自動車において、システムオフするまでの燃料消費量を抑制すると共にシステムオフするまでに二次電池の蓄電量を小さくする。
【解決手段】電動走行優先モードが設定されているときに走行用パワーPdrv*がバッテリの出力制限Woutに相当するパワー(閾値Pstart)を超えるときには、走行用パワーPdrv*から閾値Pstartを減じたパワーをエンジンから出力すると共にバッテリ50から出力制限Woutに相当するパワーを出力して走行するようエンジン22と二つのモータを制御する(S390〜S450)。これにより、電動走行優先モードが設定されているときの燃料消費量を抑制すると共にバッテリの蓄電割合SOCを小さくする。即ち、システム停止されるまでの燃料消費量を抑制すると共にシステム停止されるまでにバッテリの蓄電割合SOCを小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車に関し、詳しくは、走行用の動力を出力可能な内燃機関と、走行用の動力を入出力可能な電動機と、電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、電動機から入出力される動力だけを用いて走行する電動走行と内燃機関から出力される動力と電動機から入出力される動力とを用いて走行するハイブリッド走行とが可能なハイブリッド自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド自動車としては、走行用の動力を出力するエンジンと走行用の動力を出力するモータとを搭載し、燃料残量が予め定めた閾値以上のときにはエンジンを運転して走行するハイブリッドモードを優先して走行し、燃料残量が閾値未満のときにはエンジンの運転を停止してモータからの動力により走行する電動走行モードを優先して走行するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このハイブリッド自動車では、上述の制御により、燃料残量が完全にゼロになるのを遅くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−12593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年のハイブリッド自動車には、システムオフの状態で外部電源に接続して外部電源からの電力によりモータに電力を供給する二次電池を充電することができるいわゆるプラグインハイブリッド自動車も提案されている。このプラグインハイブリッド自動車では、システムオフされる毎に二次電池が充電されるため、システムオフするまでに二次電池の蓄電量を低くするために、エンジンの運転を停止した状態でモータからのパワーだけで走行する電動走行を優先して走行するが、電動走行している最中に、運転者が大きくアクセルペダルを踏み込んで大きな駆動力による走行が要求されたときには、モータからのパワーだけでは要求される駆動力を出力することができないため、エンジンを始動してエンジンからのパワーとモータからのパワーとにより要求される駆動力により走行するよう制御が切り替えられる。このとき、エンジンから出力するパワーとモータから出力するパワーにより車両の燃費や二次電池の蓄電量に影響を与えるため、エンジンから出力するパワーとモータから出力するパワーとをどの様に配分するかが課題となる。
【0005】
本発明のハイブリッド自動車は、いわゆるプラグインハイブリッド自動車において、システムオフするまでの燃料消費量を抑制すると共にシステムオフするまでに二次電池の蓄電量を小さくすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド自動車は、
走行用の動力を出力可能な内燃機関と、走行用の動力を入出力可能な電動機と、前記電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、前記電動機から入出力される動力だけを用いて走行する電動走行と前記内燃機関から出力される動力と前記電動機から入出力される動力とを用いて走行するハイブリッド走行とが可能なハイブリッド自動車であって、
システムオフの状態で外部電源に接続されて該外部電源からの電力を用いて前記二次電池を充電する充電器と、
走行に要求される走行用パワーを設定する走行用パワー設定手段と、
前記二次電池の状態に基づいて該二次電池に蓄えられた蓄電量の全容量に対する割合である蓄電割合を演算する蓄電割合演算手段と、
前記二次電池の状態に基づいて該二次電池から出力可能な最大電力としての出力制限を設定する出力制限設定手段と、
システムオンされたときに少なくとも前記演算された蓄電割合が第1の所定割合以上のときには走行に伴って前記演算される蓄電割合が前記第1の所定割合より小さい第2の所定割合未満に至るまでは前記電動走行を優先して走行する電動走行優先モードを設定し、前記電動走行優先モードが設定されないときには前記ハイブリッド走行を優先して走行するハイブリッド走行優先モードを設定するモード設定手段と、
前記電動走行優先モードが設定されている最中に前記設定された走行用パワーが前記設定された出力制限に相当するパワーを超えているときには、前記設定された走行用パワーから前記設定された出力制限に相当するパワーを減じて得られるパワーが前記内燃機関から出力されると共に前記二次電池から出力制限に相当するパワーが出力されて走行するよう前記内燃機関と前記電動機とを制御する制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
本発明のハイブリッド自動車では、システムオンされたときに少なくとも二次電池に蓄えられた蓄電量の全容量に対する割合である蓄電割合が第1の所定割合以上のときには走行に伴って蓄電割合が第1の所定割合より小さい第2の所定割合未満に至るまでは電動走行を優先して走行する電動走行優先モードを設定し、電動走行優先モードが設定されないときにはハイブリッド走行を優先して走行するハイブリッド走行優先モードを設定し、電動走行優先モードあるいはハイブリッド走行優先モードにより走行するよう電動機や内燃機関を制御する。そして、電動走行優先モードが設定されている最中に走行に要求される走行用パワーが二次電池から出力可能な最大電力としての出力制限に相当するパワーを超えているときには、走行用パワーから出力制限に相当するパワーを減じて得られるパワーが内燃機関から出力されると共に二次電池から出力制限に相当するパワーが出力されて走行するよう内燃機関と電動機とを制御する。このように、走行用パワーが大きくて二次電池から走行用パワーの全てを出力することができないときには、二次電池から出力制限に相当するパワーを出力し、その不足分のパワーを内燃機関から出力することによって、電動走行優先モードが設定されているときの燃料消費量を小さくすると共に二次電池の蓄電割合を小さくすることができる。即ち、システムオフするまでの燃料消費量を抑制すると共にシステムオフするまでに二次電池の蓄電量を小さくすることができるのである。なお、本発明のハイブリッド自動車において、前記二次電池と電力のやりとりが可能で動力を入出力可能な発電機と、前記内燃機関の出力軸と前記発電機の回転軸と車軸に連結された駆動軸との3軸に3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、を備え、前記制御手段は、前記内燃機関の運転制御に際して前記発電機を制御する手段である、ものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される走行モード設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される電動走行優先モード駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図5】エンジン22の動作ラインの一例と目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する様子の一例を示す説明図である。
【図6】実施例における走行用パワーPdrv*とバッテリ50からのパワーとエンジン22からのパワーとの関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、例えばガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関として構成されたエンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して複数のピニオンギヤ33を連結したキャリア34が接続されると共に駆動輪39a,39bにギヤ機構37とデファレンシャルギヤ38とを介して連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aにリングギヤ32が接続されて遊星歯車機構として構成された3軸式の動力分配統合機構30と、例えば周知の同期発電電動機として構成されて動力分配統合機構30のサンギヤ31にロータが接続されたモータMG1と、例えば周知の同期発電電動機として構成されて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに減速ギヤ35を介してロータが接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ50と、バッテリ50からの電力を昇圧してインバータ41,42に供給する周知の昇圧コンバータとして構成された昇圧回路55と、バッテリ50と昇圧回路55との接続や接続の解除を行なうシステムメインリレー56と、昇圧回路55よりシステムメインリレー56側の低電圧系電力ライン59に取り付けられて外部電源100からの交流電力を直流電力に変換してバッテリ50を充電する充電器90と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0012】
エンジン22は、エンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24によりその燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御がなされている。エンジンECU24には、エンジン22の運転状態を検出する各種センサからの信号が入力されており、エンジンECU24からは、図示しないスロットルバルブや燃料噴射弁,点火プラグ,可変バルブタイミング機構などへの駆動制御信号が出力されている。エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。また、エンジンECU24は、図示しないクランクポジションセンサからのクランクポジションに基づいてクランクシャフト26の回転数、即ちエンジン22の回転数Neも演算している。
【0013】
モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0014】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された電圧センサ51aからの端子間電圧Vb,バッテリ50の正極側の出力端子に取り付けられた電流センサ51bからの充放電電流Ib,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51cからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために、電流センサ51bにより検出された充放電電流Ibの積算値に基づいてバッテリ50から放電可能な蓄電量の全容量に対する割合としての蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりする。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。
【0015】
充電器90は、車両側コネクタ92を外部電源100の外部電源側コネクタ102に接続することにより、外部電源100からの電力を用いてバッテリ50を充電する。充電器90は、図示しないが低電圧系電力ライン59と車両側コネクタ92との接続や接続の解除を行なう充電用リレーや、外部電源100からの交流電力を直流電力に変換するAC/DCコンバータ,AC/DCコンバータにより変換した直流電力の電圧を変換して低電圧系電力ライン59側に供給するDC/DCコンバータなどを備える。
【0016】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、昇圧回路55よりインバータ41,42側の高電圧系電力ライン54に取り付けられたコンデンサ57の端子間に取り付けられた電圧センサ57aからの電圧(高電圧系の電圧)VHや、低電圧系電力ライン59に取り付けられたコンデンサ58の端子間に取り付けられた電圧センサ58aからの電圧(低電圧系の電圧)VL,イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70からは、昇圧回路55のスイッチング素子へのスイッチング制御信号やシステムメインリレー56への駆動信号,充電器90への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0017】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、トルク変換運転モードと充放電運転モードは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するモードであるから、以下、両者を合わせてエンジン運転モードとして考えることができる。
【0018】
また、実施例のハイブリッド自動車20では、自宅や予め設定した充電ポイントに到達するときにエンジン22の始動については十分に行なうことができる程度にバッテリ50の蓄電割合SOCが低くなるように走行中にバッテリ50の充放電の制御を行ない、自宅や予め設定した充電ポイントで車両をシステム停止した後に充電器90の車両側コネクタ92を外部電源100の外部電源側コネクタ102に接続し、充電器90の図示しないDC/DCコンバータとAC/DCコンバータとを制御することによって外部電源100から電力によりバッテリ50を満充電や満充電より低い所定の充電状態とする。そして、バッテリ50の充電後にシステム起動したときには、図2に例示する走行モード設定ルーチンに示すように、システム起動したときのバッテリ50の蓄電割合SOCがある程度の電動走行が可能な蓄電割合SOCとして予め設定された閾値Shv1(例えば40%や50%など)以上のときにバッテリ50の蓄電割合SOCがエンジン22の始動を行なうことができる程度に設定された閾値Shv2(例えば20%や30%など)に至るまでモータ運転モードによる走行(電動走行)を優先して走行する電動走行優先モードを設定して走行し(ステップS100〜S140)、システム起動したときのバッテリ50の蓄電割合SOCが閾値Shv1未満のときやシステム起動したときのバッテリ50の蓄電割合SOCが閾値Shv1以上であってもその後にバッテリ50の蓄電割合SOCが閾値Shv2に至った以降はエンジン運転モードによる走行(ハイブリッド走行)を優先して走行するハイブリッド走行優先モードを設定して走行する(ステップS150)。
【0019】
次に、実施例のハイブリッド自動車20で電動走行優先モードにより走行しているときの動作、特に、電動走行優先モードで走行している最中にモータMG2からのパワーだけでなくエンジン22からパワーを用いて走行する際の動作について説明する。図3は、実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される電動走行優先モード駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0020】
電動走行優先モード駆動制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速V,モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2,バッテリ50の蓄電割合SOC,バッテリ50の入出力制限Win,Woutなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS300)。ここで、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、回転位置検出センサ43,44により検出されたモータMG1,MG2の回転子の回転位置に基づいて演算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。また、バッテリ50の蓄電割合SOCは、電流センサ51bにより検出されたバッテリ50の充放電電流Ibの積算値に基づいて演算されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。さらに、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、バッテリ50の電池温度Tbとバッテリ50の蓄電割合SOCとに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。
【0021】
こうしてデータを入力すると、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて車両に要求されるトルクとして駆動輪63a,63bに連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*と走行のために車両に要求される走行用パワーPdrv*とを設定すると共に(ステップS310)、電力を駆動系のパワーに換算する換算係数kwをバッテリ50の出力制限Woutに乗じて得られる値をエンジン22を始動するための閾値Pstartに設定する(ステップS320)。要求トルクTr*は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてROM74に記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTr*を導出して設定するものとした。図4に要求トルク設定用マップの一例を示す。走行用パワーPdrv*は、設定した要求トルクTr*にリングギヤ軸32aの回転数Nrを乗じたものと損失としてのロスLossとの和として計算することができる。なお、リングギヤ軸32aの回転数Nrは、車速Vに換算係数kを乗じること(Nr=k・V)によって求めたり、モータMG2の回転数Nm2を減速ギヤ35のギヤ比Grで割ること(Nr=Nm2/Gr)によって求めることができる。
【0022】
続いて、エンジン22が運転中であるか或いは運転停止中であるかを判定し(ステップS330)、エンジン22が運転停止中であるときには、設定した走行用パワーPdrv*が閾値Pstart以下であるか否かを判定し(ステップS340)、走行用パワーPdrv*が閾値Pstart以下であるときには、電動走行を継続可能と判断し、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定すると共に(ステップS350)、要求トルクTr*を減速ギヤ35のギヤ比Grで除したものをモータMG2から出力すべきトルク指令Tm2*として設定し(ステップS360)、設定したトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信して(ステップS370)、本ルーチンを終了する。トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*,Tm2*のトルクがモータMG1,MG2から出力されるようインバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御する。こうした制御により、モータMG2から駆動軸としてのリングギヤ軸32aに要求トルクTr*を出力して走行することができる。
【0023】
ステップS340で走行用パワーPdrv*が閾値Pstartより大きいと判定されると、エンジン22を始動する(ステップS390)。ここで、エンジン22の始動は、モータMG1からトルクを出力すると共にこのトルクの出力に伴って駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力されるトルクをモータMG2によりキャンセルするトルクを出力することによりエンジン22をクランキングし、エンジン22の回転数Neが所定回転数(例えば1000rpm)に至ったときに燃料噴射制御や点火制御などを開始することにより行なわれる。なお、このエンジン22の始動の最中も要求トルクTr*がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG2の駆動制御が行なわれる。即ち、モータMG2から出力すべきトルクは、要求トルクTr*をリングギヤ軸32aに出力するためのトルクとエンジン22をクランキングする際にリングギヤ軸32aに作用するトルクをキャンセルするためのトルクとの和のトルクとなる。
【0024】
エンジン22を始動すると、走行用パワーPdrv*から閾値Pstartを減じたパワーをエンジン22から出力すべき要求パワーPe*とすると共に要求パワーPe*とエンジン22を効率よく動作させる動作ラインとに基づいてエンジン22を運転すべき運転ポイントとしての目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する(ステップS400)。エンジン22の動作ラインの一例と目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する様子を図5に示す。図示するように、目標回転数Ne*と目標トルクTe*は、動作ラインと要求パワーPe*(Ne*×Te*)が一定の曲線との交点により求めることができる。
【0025】
続いて、エンジン22の目標回転数Ne*とモータMG2の回転数Nm2と動力分配統合機構30のギヤ比(サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρとを用いて次式(1)によりモータMG1の目標回転数Nm1*を計算すると共に計算した目標回転数Nm1*と入力したモータMG1の回転数Nm1とに基づいて式(2)によりモータMG1から出力すべきトルク指令Tm1*を計算する(ステップS410)。ここで、式(1)は、動力分配統合機構30の回転要素に対する力学的な関係式である。ここで、式(2)は、モータMG1を目標回転数Nm1*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(2)中、右辺第2項の「k1」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「k2」は積分項のゲインである。
【0026】
Nm1*=Ne*・(1+ρ)/ρ-Nm2/ρ (1)
Tm1*=ρ・Te*/(1+ρ)+k1(Nm1*-Nm1)+k2∫(Nm1*-Nm1)dt (2)
【0027】
そして、バッテリ50の出力制限Woutと計算したモータMG1のトルク指令Tm1*に現在のモータMG1の回転数Nm1を乗じて得られるモータMG1の消費電力(発電電力)との偏差をモータMG2の回転数Nm2で割ることによりモータMG2から出力してもよいトルクの上限としてのトルク制限Tlimを次式(3)により計算すると共に(ステップS420)、要求トルクTr*とトルク指令Tm1*と動力分配統合機構30のギヤ比ρを用いてモータMG2から出力すべきトルクとしての仮モータトルクTm2tmpを式(4)により計算し(ステップS430)、計算したトルク制限Tlimで仮モータトルクTm2tmpを制限した値としてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定する(ステップS440)。このようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定することにより、駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力する要求トルクTr*を、バッテリ50の出力制限Woutで制限したトルクとして設定することができる。そして、エンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*についてはエンジンECU24に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40にそれぞれ送信し(ステップS450)、本ルーチンを終了する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24はエンジン22が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とからなる運転ポイント(目標運転ポイント)で運転されるようエンジン22の燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などを行い、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*,Tm2*のトルクがモータMG1,MG2から出力されるようインバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御する。ここで、エンジン22が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とからなる運転ポイントで運転されている場合を考えると、エンジン22から走行用パワーPdrv*から閾値Pstartを減じたパワーを出力すると共にバッテリ50から閾値Pstartのパワーを出力して、即ち、エンジン22から走行用パワーPdrv*からバッテリ50の出力制限Woutに相当するパワーを出力すると共にバッテリ50の出力制限Woutに相当するパワーを出力して走行することになる。
【0028】
Tlim=(Wout-Tm1*・Nm1)/Nm2 (3)
Tm2tmp=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr (4)
【0029】
こうしてエンジン22からの動力を用いての走行を開始すると、次回このルーチンが実行されたときにはステップS330でエンジン22は運転中であると判定されるから、走行用パワーPdrv*を閾値Pstartからマージンとしての所定パワーαを減じた値と比較する(ステップS380)。ここで、所定パワーαは、走行用パワーPdrv*が閾値Pstart近傍のときにエンジン22の始動と停止とが頻繁に生じないようにヒステリシスを持たせるためのものであり、適宜設定することができる。走行用パワーPdrv*が閾値Pstartから所定パワーαを減じた値以上のときには、エンジン22の運転を継続すべきと判断し、エンジン22から走行用パワーPdrv*からバッテリ50の出力制限Woutに相当するパワーを出力すると共にバッテリ50の出力制限Woutに相当するパワーを出力して走行するようエンジン22の目標回転数Ne*,目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定してエンジンECU24やモータECU40に送信する処理を実行して(ステップS400〜S450)、本ルーチンを終了する。走行用パワーPdrv*が閾値Pstartから所定パワーαを減じた値未満のときには、エンジン22の運転を停止し(ステップS460)、電動走行するようモータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定すると共に要求トルクTr*を減速ギヤ35のギヤ比Grで除したものをモータMG2のトルク指令Tm2*に設定し、設定したトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信して(ステップS350〜S370)、本ルーチンを終了する。
【0030】
図6に実施例における走行用パワーPdrv*とバッテリ50からのパワーとエンジン22からのパワーとの関係を示す。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、電動走行優先モードが設定されているときには、走行用パワーPdrv*がバッテリ50の出力制限Woutに相当するパワー(閾値Pstart)以下のときにはバッテリ50からのパワーだけで走行(電動走行)し、走行用パワーPdrv*がバッテリ50の出力制限Woutに相当するパワー(閾値Pstart)を超えるときにはバッテリ50から出力制限Woutに相当するパワーを出力すると共に不足するパワー(走行用パワーPdrv*−閾値Pstart)についてはエンジン22からパワーを出力して走行する。
【0031】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、電動走行優先モードが設定されているときには、走行用パワーPdrv*がバッテリ50の出力制限Woutに相当するパワー以下のときにはバッテリ50からのパワーだけで走行し、走行用パワーPdrv*がバッテリ50の出力制限Woutに相当するパワーを超えるときにはバッテリ50から出力制限Woutに相当するパワーを出力すると共に不足するパワーについてはエンジン22からパワーを出力して走行するから、電動走行優先モードが設定されているときの燃料消費量を抑制することができると共にバッテリ50の蓄電割合SOCを小さくすることができる。即ち、システム停止されるまでの燃料消費量を抑制すると共にシステム停止されるまでにバッテリ50の蓄電割合SOCを小さくすることができる。
【0032】
実施例では、本発明の好適な実施形態として、エンジン22と二つのモータMG1,MG2と動力分配統合機構30とバッテリ50とを備えるハイブリッド自動車20の構成を用いたが、走行用の動力を出力可能な内燃機関と、走行用の動力を入出力可能な電動機と、電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、電動機から入出力される動力だけを用いて走行する電動走行と内燃機関から出力される動力と電動機から入出力される動力とを用いて走行するハイブリッド走行とが可能なハイブリッド自動車であれば如何なる構成のハイブリッド自動車を用いるものとしてもよい。
【0033】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、モータMG2が「電動機」に相当し、バッテリ50が「二次電池」に相当し、充電器90が「充電器」に相当し、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて車両に要求されるトルクとして駆動輪39a,39bに連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*を設定すると共に設定した要求トルクTr*にリングギヤ軸32aの回転数Nrを乗じたものと損失としてのロスLossとの和として走行のために車両に要求される走行用パワーPdrv*とを設定する図3の電動走行優先モード駆動制御ルーチンのステップS310の処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット70が「走行用パワー設定手段」に相当し、電流センサ51bにより検出された充放電電流Ibの積算値に基づいてバッテリ50から放電可能な蓄電量の全容量に対する割合としての蓄電割合SOCを演算するバッテリECU52が「蓄電割合演算手段」に相当し、蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算するバッテリECU52が「出力制限設定手段」に相当し、システム起動したときのバッテリ50の蓄電割合SOCが閾値Shv1以上のときに蓄電割合SOCが閾値Shv2に至るまでは電動走行を優先して走行する電動走行優先モードを設定し、システム起動したときのバッテリ50の蓄電割合SOCが閾値Shv1未満のときやシステム起動したときのバッテリ50の蓄電割合SOCが閾値Shv1以上であってもその後にバッテリ50の蓄電割合SOCが閾値Shv2に至った以降はハイブリッド走行を優先して走行するハイブリッド走行優先モードを設定する図2の走行モード設定ルーチンを実行するハイブリッド用電子制御ユニット70が「モード設定手段」に相当し、電動走行優先モードが設定されている最中に走行用パワーPdrv*がバッテリ50の出力制限Woutに相当するパワー(閾値Pstart)を超えているときには、バッテリ50から出力制限Woutに相当するパワーを出力すると共に不足するパワーについてはエンジン22からパワーを出力して走行するようエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定すると共にモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定し、エンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*についてはエンジンECU24に送信すると共にモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40に送信する図3の電動走行優先モード駆動制御ルーチンのステップS380〜S450の処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット70と、エンジン22を始動したりその運転を停止したり、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とに基づいてエンジン22を制御するエンジンECU24と、トルク指令Tm1*,Tm2*に基づいてモータMG1,MG2を制御するモータECU40と、が「制御手段」に相当する。
【0034】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0035】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、ハイブリッド自動車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、37 ギヤ機構、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51a 電圧センサ、51b 電流センサ、51c 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 高電圧系電力ライン、55 昇圧回路、56 システムメインリレー、57,58 コンデンサ、57a,58a 電圧センサ、59 低電圧系電力ライン、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、90 充電器、92 車両側コネクタ、100 外部電源、102 外部電源側コネクタ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力を出力可能な内燃機関と、走行用の動力を入出力可能な電動機と、前記電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、前記電動機から入出力される動力だけを用いて走行する電動走行と前記内燃機関から出力される動力と前記電動機から入出力される動力とを用いて走行するハイブリッド走行とが可能なハイブリッド自動車であって、
システムオフの状態で外部電源に接続されて該外部電源からの電力を用いて前記二次電池を充電する充電器と、
走行に要求される走行用パワーを設定する走行用パワー設定手段と、
前記二次電池の状態に基づいて該二次電池に蓄えられた蓄電量の全容量に対する割合である蓄電割合を演算する蓄電割合演算手段と、
前記二次電池の状態に基づいて該二次電池から出力可能な最大電力としての出力制限を設定する出力制限設定手段と、
システムオンされたときに少なくとも前記演算された蓄電割合が第1の所定割合以上のときには走行に伴って前記演算される蓄電割合が前記第1の所定割合より小さい第2の所定割合未満に至るまでは前記電動走行を優先して走行する電動走行優先モードを設定し、前記電動走行優先モードが設定されないときには前記ハイブリッド走行を優先して走行するハイブリッド走行優先モードを設定するモード設定手段と、
前記電動走行優先モードが設定されている最中に前記設定された走行用パワーが前記設定された出力制限に相当するパワーを超えているときには、前記設定された走行用パワーから前記設定された出力制限に相当するパワーを減じて得られるパワーが前記内燃機関から出力されると共に前記二次電池から出力制限に相当するパワーが出力されて走行するよう前記内燃機関と前記電動機とを制御する制御手段と、
を備えるハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−152819(P2011−152819A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14174(P2010−14174)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】