説明

ハイブリッド車両

【課題】内燃機関の押しがけ始動を行う場合に、クランキング中にクラッチにおいて生じる動力損失を抑制しつつ、ファイアリングの開始直後において駆動輪に作用するトルクである駆動トルクの変化を抑制可能な、デュアルクラッチ式変速機を備えたハイブリッド車両の制御技術を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両1は、原動機として内燃機関5と電気モータ50とを有し、デュアルクラッチ式変速機10を備えている。ハイブリッド車両1のECU100は、内燃機関5のクランキング中にファイアリングを開始した後、少なくとも、機関回転速度が、第1入力軸27及び第2入力軸28のうちハイギア側の入力軸(第1入力軸27)の回転速度を上回るまでには、第1クラッチ21及び第2クラッチ22のうち、それまで係合状態又は半係合状態にあったハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)が解放状態となるよう制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デュアルクラッチ式変速機を備えたハイブリッド車両の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用変速機には、内燃機関の出力軸(以下、機関出力軸と記す)と、複数の変速段(例えば、奇数段)を有する第1変速機構の入力軸(以下、第1入力軸と記す)とを係合させることが可能な第1クラッチと、当該機関出力軸と、複数の変速段(例えば、偶数段)を有する第2変速機構の入力軸(以下、第2入力軸と記す)とを係合させることが可能な第2クラッチとを有する、いわゆるデュアルクラッチ式変速機(Dual Clutch Transmission)が知られている。デュアルクラッチ式変速機は、第1クラッチと第2クラッチを交互に係合状態にすることで、機関出力軸からの機械的動力を変速する変速段を、第1変速機構と第2変速機構との間で切替えるときに、機関出力軸から駆動輪への動力伝達に途切れが生じることを抑制している。また、近年、原動機として内燃機関と電気モータとを有し、デュアルクラッチ式変速機の第1及び第2入力軸のうち少なくとも一方が電気モータのロータに係合するハイブリッド車両が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
下記の特許文献1には、原動機として内燃機関(エンジン)と、2つの電気モータ(モータ)とを有し、デュアルクラッチ式変速機を備えた自動車、いわゆるハイブリッド車両が開示されている。特許文献1に記載のハイブリッド車両は、デュアルクラッチ式変速機の第1入力軸及び第2入力軸に、それぞれ第1モータ及び第2モータが接続されており、第1入力軸とエンジン出力軸とを係合させることが可能な第1摩擦クラッチと、第2入力軸とエンジン出力軸とを係合させることが可能な第2摩擦クラッチとを備えている。特許文献1には、第1モータにより車両を発進させた後、所定の車速に達した場合や、バッテリの残存容量が少なくなった場合には、第2摩擦クラッチを徐々に締結して、第2モータによりエンジンを始動する、いわゆる「押しがけ」を行うことが記載されている。また、特許文献1には、押しがけによるエンジン始動を行ったときに、当該エンジン始動に起因するトルク変動が出力軸に伝達されることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−79005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、デュアルクラッチ式変速機を備えたハイブリッド車両においては、電気モータから出力される機械的動力のみを駆動輪に伝達する車両走行(以下、EV走行と記す)を行っているときに内燃機関を始動させる場合、第1クラッチ及び第2クラッチのうち一方を係合状態又は半係合状態にして、内燃機関の機関出力軸と駆動輪とを係合させると共に、電気モータが出力するトルクすなわち機械的動力を増大させて、当該機械的動力の一部を機関出力軸に伝達して、内燃機関の始動のためのクランキングを行う。このようなクランキングを行っている間にファイアリングを開始することで、駆動輪に生じる駆動力が一時的にゼロとなる、いわゆる「駆動力抜け」を生じさせることなく、内燃機関を始動させる「押しがけ始動」を行うことができる。
【0006】
このような押しがけ始動を行う場合、内燃機関のクランキング中であってファイアリング開始前においては、電気モータから出力された機械的動力の一部は、第1入力軸又は第2入力軸から、第1及び第2クラッチのうち係合状態又は半係合状態にあるクラッチを介して機関出力軸に伝達される。そして、ファイアリングが開始され、内燃機関が生じる機械的動力により機関出力軸の回転速度(以下、機関回転速度と記す)が、係合状態又は半係合状態にあるクラッチに対応する入力軸の回転速度(以下、入力軸回転速度と記す)を上回ると、今度は、機関出力軸からクラッチを介して入力軸に機械的動力が伝達される。つまり、クラッチを介して伝達されるトルクの向きが、ファイアリング開始直後において「逆向き」に変化する。このようにファイアリングの開始直後において、係合状態にあるクラッチを介して伝達されるトルクが大きく変化すると、入力軸に係合する駆動輪に作用するトルク(駆動トルク)に変動が生じることがある。
【0007】
また、押しがけ始動を行う際の内燃機関のクランキング中において、デュアルクラッチ式変速機の第1入力軸又は第2入力軸と、内燃機関の機関出力軸との回転速度差が大きいと、当該機関出力軸と第1入力軸又は第2入力軸とを係合させるクラッチにおいて生じる動力損失(摩擦損失)が大きいという問題が生じる。また当該クラッチにかかる負荷が大きいという問題も生じる。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、内燃機関の押しがけ始動を行う場合に、クランキング中にクラッチにおいて生じる動力損失を抑制しつつ、ファイアリングの開始直後において駆動輪に作用するトルクである駆動トルクの変化を抑制可能な、デュアルクラッチ式変速機を備えたハイブリッド車両の制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明に係るハイブリッド車両は、原動機として内燃機関と電気モータとを有し、複数の変速段のうちいずれか1つを係合状態にして、第1入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第1変速機構と、複数の変速段のうちいずれか1つを係合状態にして、第2入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第2変速機構と、第1変速機構に対応して設けられ、内燃機関の機関出力軸と第1入力軸とを係合させることが可能な第1クラッチと、第2変速機構に対応して設けられ、当該機関出力軸と第2入力軸とを係合させることが可能な第2クラッチとを有し、第1入力軸及び第2入力軸のうち少なくとも一方が電気モータのロータに係合するデュアルクラッチ式変速機と、第1及び第2クラッチの係合/解放状態を制御可能な制御手段と、を備えたハイブリッド車両であって、制御手段は、電気モータから出力される機械的動力のみを駆動輪に伝達する車両走行であるEV走行中において、機関出力軸と駆動輪とを係合させてクランキングを行い、当該クランキング中にファイアリングを開始して内燃機関を始動させる場合、前記ファイアリングの開始前において、第1及び第2クラッチのうち対応する変速機構において、係合状態にある変速段の減速比が大きい側であるローギア側のクラッチを解放状態にすると共に、第1及び第2クラッチのうち対応する変速機構において、係合状態にある変速段の減速比が小さい側であるハイギア側のクラッチを係合状態又は半係合状態にして、クランキングを行い、前記クランキング中にファイアリングを開始した後、少なくとも、機関回転速度が、第1及び第2入力軸のうち、ハイギア側の入力軸の回転速度を上回るまでには、第1及び第2クラッチのうちハイギア側のクラッチが解放状態となるよう制御することを特徴とする。
【0010】
上記のハイブリッド車両において、制御手段は、前記クランキング中にファイアリングを開始した後、少なくとも、機関回転速度が、第1及び第2入力軸のうち、ハイギア側の入力軸の回転速度を上回るまでには、第1クラッチ及び第2クラッチのうち、ハイギア側のクラッチを解放状態とする解放動作を行うと共に、ローギア側のクラッチを係合状態又は半係合状態にする係合動作を行わせるものとすることができる。
【0011】
上記のハイブリッド車両において、制御手段は、機関回転速度が、第1及び第2入力軸のうちハイギア側の入力軸の回転速度から、予め設定された設定回転速度を減じた値の回転速度を上回ったときに、ハイギア側のクラッチの解放動作を開始すると共に、ローギア側のクラッチの係合動作を開始するものとすることができる。
【0012】
上記のハイブリッド車両において、設定回転速度は、機関回転速度が第1及び第2入力軸のうちハイギア側のクラッチに対応する入力軸の回転速度を上回ったときに、ハイギア側のクラッチを解放状態にする解放動作と、ローギア側のクラッチを係合状態又は半係合状態にする係合動作が完了するように、設定されているものとすることができる。
【0013】
また、本発明に係るハイブリッド車両は、原動機として内燃機関と電気モータとを有し、複数の変速段のうちいずれか1つを係合状態にして、第1入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第1変速機構と、複数の変速段のうちいずれか1つを係合状態にして、第2入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第2変速機構と、第1変速機構に対応して設けられ、内燃機関の機関出力軸と第1入力軸とを係合させることが可能な第1クラッチと、第2変速機構に対応して設けられ、当該機関出力軸と第2入力軸とを係合させることが可能な第2クラッチとを有し、第1入力軸及び第2入力軸のうち少なくとも一方が電気モータのロータに係合するデュアルクラッチ式変速機と、第1及び第2クラッチの係合/解放状態を制御可能な制御手段と、を備えたハイブリッド車両であって、制御手段は、電気モータから出力される機械的動力のみを駆動輪に伝達する車両走行であるEV走行中において、機関出力軸と駆動輪とを係合させてクランキングを行い、当該クランキング中にファイアリングを開始して内燃機関を始動させる場合、前記ファイアリングの開始前において、第1及び第2クラッチのうち対応する変速機構において、係合状態にある変速段の減速比が大きい側であるローギア側のクラッチを解放状態にすると共に、第1及び第2クラッチのうち対応する変速機構において、係合状態にある変速段の減速比が小さい側であるハイギア側のクラッチを半係合状態にして、クランキングを行い、前記クランキング中にファイアリングを開始した後、少なくとも、機関回転速度が、第1及び第2入力軸のうち、ハイギア側の入力軸の回転速度以上となったときには、第1及び第2クラッチのうち、ローギア側のクラッチが半係合状態となるよう制御することを特徴とする。
【0014】
上記のハイブリッド車両において、原動機として単数の電気モータを備え、デュアルクラッチ式変速機は、当該電気モータのロータに、第1入力軸及び第2入力軸のうち第2入力軸が係合するものであり、制御手段は、前記EV走行中において、第2入力軸の回転速度が、所定の判定回転速度に比べて低い場合には、第1変速機構においては、第2変速機構において第2入力軸と駆動輪とを係合させる変速段であるEV走行段に比べて、減速比が大きい変速段を係合状態にし、第2入力軸の回転速度が、判定回転速度に比べて高い場合には、第1変速機構においては、EV走行段に比べて、減速比が小さい変速段を係合状態にするものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、内燃機関の押しがけ始動を行う場合に、クランキング中にクラッチにおいて生じる動力損失を抑制しつつ、ファイアリングの開始直後において駆動輪に作用するトルクである駆動トルクの変化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態(以下、実施形態と記す)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0017】
〔実施形態1〕
まず、本実施形態に係るハイブリッド車両の構成について、図1〜図3を用いて説明する。図1は、ハイブリッド車両の概略構成を示す模式図である。図2は、デュアルクラッチ式変速機が有するデュアルクラッチ機構の構造を示す模式図である。図3は、変形例のデュアルクラッチ機構の構造を示す模式図である。
【0018】
ハイブリッド車両1は、駆動輪88を回転駆動するための原動機(動力源)として、内燃機関5と、発電可能な電動機であるモータジェネレータ50(以下、単に「電気モータ」と記す)とを備えている。電気モータ50は、デュアルクラッチ式変速機10と共に駆動装置(10,50)を構成している。本実施形態において、ハイブリッド車両1は、原動機としての電気モータを単数備えている。駆動装置(10,50)は、内燃機関5と結合されて、ハイブリッド車両1に搭載される。ハイブリッド車両1には、内燃機関5、電気モータ50、及びデュアルクラッチ式変速機10を協調して制御する制御手段として、ハイブリッド車両用の電子制御装置(以下、単に「ECU」と記す)100が設けられている。ECU100には、各種制御定数を記憶する記憶手段としてROM(図示せず)が設けられている。
【0019】
内燃機関5は、燃料のエネルギを燃焼により機械的エネルギに変換して出力する熱機関であり、ピストン6がシリンダ内を往復運動するピストン往復動機関である。内燃機関5は、図示しない燃料噴射装置、点火装置、及びスロットル弁装置を備えている。これら装置は、ECU100により制御される。内燃機関5は、発生した機械的動力を、機関出力軸(クランク軸)8から出力する。機関出力軸8には、後述するデュアルクラッチ式変速機10のデュアルクラッチ機構20の入力側、例えば、クラッチハウジング14a(図2参照)が結合される。ECU100は、内燃機関5の機関出力軸8から出力する機械的動力を調整することが可能となっている。内燃機関5には、機関出力軸8の回転角位置(以下、クランク角と記す)を検出するクランク角センサ(図示せず)が設けられており、クランク角に係る信号をECU100に送出している。内燃機関5の作動により機関出力軸8に生じるトルク(以下、機関トルクと記す)は、ECU100により制御される。
【0020】
電気モータ50は、供給された電力を機械的動力に変換して出力する電動機としての機能と、入力された機械的動力を電力に変換して回収する発電機としての機能とを兼ね備えた回転電機、いわゆるモータジェネレータである。電気モータ50は、永久磁石型交流同期電動機で構成されており、後述するインバータ110から三相の交流電力の供給を受けて回転磁界を形成するステータ54と、回転磁界に引き付けられて回転する回転子であるロータ52とを有しており、当該ロータ52から機械的動力を入出力可能となっている。電気モータ50には、ロータ52の回転角位置を検出するレゾルバ(図示せず)が設けられており、ロータ52の回転角位置に係る信号をECU100に送出している。
【0021】
また、ハイブリッド車両1には、電気モータ50に電力を供給する電力供給装置として、インバータ110と二次電池120が設けられている。インバータ110は、二次電池120から供給される直流電力を交流電力に変換して電気モータ50に供給することが可能に構成されている。二次電池120は、電気モータ50に供給される電力を貯蔵する。また、インバータ110は、電気モータ50からの交流電力を直流電力に変換して二次電池120に回収することも可能に構成されている。このようなインバータ110から電気モータ50への電力供給、及び電気モータ50からの電力回収は、ECU100により制御される。
【0022】
なお、以下の説明において、電気モータ50を電動機として機能させて、電気モータ50がロータ52から機械的動力を出力することを「力行」と記す。これに対して、電気モータ50を発電機として機能させて、駆動輪88から電気モータ50のロータ52に伝達された機械的動力を電力に変換して二次電池120に回収すると共に、このときロータ52に生じる回転抵抗により、ロータ52及びこれに係合する部材(例えば、駆動輪88)の回転を制動することを「回生制動」と記す。電気モータ50の電動機/発電機としての機能の切替えと、電気モータ50においてロータ52から入力又は出力されるトルク(以下、モータトルクと記す)は、ECU100により制御される。
【0023】
また、ハイブリッド車両1は、内燃機関5及び電気モータ50からの機械的動力を駆動輪88に伝達する動力伝達装置として、機関出力軸8及び電気モータ50からの機械的動力を変速しトルクを変化させて、駆動輪88に係合する推進軸66に向けて伝達可能なデュアルクラッチ式変速機10と、推進軸66に伝達された機械的動力を、減速すると共に駆動輪88に係合する左右の駆動軸80に分配する終減速装置70とを有している。
【0024】
デュアルクラッチ式変速機10は、第1入力軸27で受けた機械的動力を、第1群の変速段31,33,35,39のうちいずれか1つにより変速して駆動輪88に係合する推進軸66に伝達可能な第1変速機構30と、第2入力軸28で受けた機械的動力を、第2群の変速段42,44のうちいずれか1つにより変速して駆動輪88に係合する推進軸66に伝達可能な第2変速機構40とを有しており、加えて、内燃機関5の機関出力軸8と第1入力軸27とを係合させることが可能な第1クラッチ21と、機関出力軸8と第2入力軸28とを係合させることが可能な第2クラッチ22により構成されるデュアルクラッチ機構20を有している。
【0025】
デュアルクラッチ式変速機10は、前進用に第1速ギア段31から第5速ギア段35までの5つの変速段を有しており、後進用に1つの変速段、後進ギア段39を有している。第1速ギア段31〜第5速ギア段35の減速比は、第1速ギア段31、第2速ギア段42、第3速ギア段33、第4速ギア段44、第5速ギア段35の順に小さくなるよう設定されている。すなわち、前進用の変速段のうち、第1速ギア段31が最も低速側の変速段となっている。
【0026】
なお、第1変速機構30の第1群の前進用変速段31,33,35の減速比には、各メインギア31a,33a,35aと、それぞれ対応するカウンタギア31c,33c,35cとの間における減速比だけでなく、第1駆動ギア37cと動力統合ギア58との間における減速比が含まれている。一方、第2変速機構40の第2群の変速段42,44の減速比には、各メインギア42a,44aと、それぞれ対応するカウンタギア42c,44cとの間における減速比だけでなく、第2駆動ギア48cと、動力統合ギア58との間における減速比が含まれている。
【0027】
第1変速機構30は、複数の歯車対を備えた平行軸歯車装置として構成されており、第1群の変速段は、奇数段すなわち第1速ギア段31と、第3速ギア段33と、第5速ギア段35と、後進ギア段39により構成されている。第1変速機構30において、前進用の変速段31,33,35のうち、第1速ギア段31が最も低速側の変速段となっている。
【0028】
第1速ギア段31は、第1入力軸27に結合されている第1速メインギア31aと、第1出力軸37を中心に回転可能に設けられ、第1速メインギア31aと噛み合う第1速カウンタギア31cとを有している。第1変速機構30には、第1速ギア段31に対応して、第1速カウンタギア31cと第1出力軸37とを係合させることが可能な第1速カップリング機構31eが設けられている。第1速カップリング機構31eにより第1速カウンタギア31cと第1出力軸37を係合させる、すなわち第1速ギア段31を係合状態にすることで、第1変速機構30は、第1入力軸27で受けた機械的動力を、第1速ギア段31により変速し、トルクを変化させて第1出力軸37に伝達することが可能となっている。
【0029】
同様に、第3速ギア段33は、第1入力軸27に結合されている第3速メインギア33aと、第1出力軸37を中心に回転可能に設けられ、第3速メインギア33aと噛み合う第3速カウンタギア33cとを有している。第1変速機構30には、第3速ギア段33に対応して、第3速カウンタギア33cと第1出力軸37とを係合させることが可能な第3速カップリング機構33eが設けられている。第3速カップリング機構33eにより第3速カウンタギア33cと第1出力軸37を係合させる、すなわち第3速ギア段33を係合状態にすることで、第1変速機構30は、第1入力軸27で受けた機械的動力を、第3速ギア段33により変速し、トルクを変化させて第1出力軸37に伝達することが可能となっている。
【0030】
また、第5速ギア段35は、第1入力軸27に結合されている第5速メインギア35aと、第1出力軸37を中心に回転可能に設けられ、第5速メインギア35aと噛み合う第5速カウンタギア35cとを有している。第1変速機構30には、第5速ギア段35に対応して、第5速カウンタギア35cと第1出力軸37とを係合させることが可能な第5速カップリング機構35eが設けられている。第5速カップリング機構35eにより第5速カウンタギア35cと第1出力軸37を係合させる、すなわち第5速ギア段35を係合状態にすることで、第1変速機構30は、第1入力軸27で受けた機械的動力を、第5速ギア段35により変速し、トルクを変化させて、第1出力軸37に伝達することが可能となっている。
【0031】
また、後進ギア段39は、第1入力軸27に結合されている後進メインギア39aと、後進メインギア39aと噛み合う後進中間ギア39bと、後進中間ギア39bと噛み合い、第1出力軸37を中心に回転可能に設けられた後進出力ギア39cとを有している。第1変速機構30には、後進ギア段39に対応して、後進出力ギア39cと第1出力軸37とを係合させることが可能な後進カップリング機構39eが設けられている。後進カップリング機構39eにより後進出力ギア39cと第1出力軸37とを係合させる、すなわち後進ギア段39を係合状態にすることで、第1変速機構30は、第1入力軸27から受けた機械的動力を、後進ギア段39により、回転方向を逆方向に変えると共に変速し、トルクを変化させて第1出力軸37に伝達することが可能となっている。
【0032】
第1変速機構30の第1出力軸37には、第1駆動ギア37cが結合されており、当該第1駆動ギア37cは、動力統合ギア58と噛み合っている。動力統合ギア58には、推進軸66が結合されている。推進軸66は、後述する終減速装置70を介して、駆動輪88が結合された駆動軸80と係合している。つまり、第1変速機構30の第1群の変速段31,33,35,39の出力側にある第1出力軸37と、駆動輪88は係合している。
【0033】
第1変速機構30における各変速段31,33,35,39の係合状態と解放状態(非係合状態)との切替えは、図示しないアクチュエータを介してECU100により制御される。ECU100は、第1変速機構30の第1群の変速段31,33,35,39のうちいずれか1つを選択して係合状態にすることで、第1変速機構30が第1入力軸27で受けた機械的動力を、選択されて係合状態にある変速段により変速し、第1出力軸37から駆動輪88に向けて伝達することが可能となっている。
【0034】
一方、第2変速機構40は、第1変速機構30と同様に、複数の歯車対を備えた平行軸歯車装置として構成されており、第2群の変速段は、偶数段、すなわち第2速ギア段42と、第4速ギア段44から構成されている。第2変速機構40の入力軸である第2入力軸28には、電気モータ50のロータ52が結合されている。
【0035】
第2速ギア段42は、第2入力軸28に結合されている第2速メインギア42aと、第2出力軸48を中心に回転可能に設けられ、第2速メインギア42aと噛み合う第2速カウンタギア42cとを有している。第2変速機構40には、第2速ギア段42に対応して、第2速カウンタギア42cと第2出力軸48とを係合させることが可能な第2速カップリング機構42eが設けられている。第2速カップリング機構42eにより第2速カウンタギア42cと第2出力軸48とを係合させる、すなわち第2速ギア段42を係合状態にすることで、第2変速機構40は、第2入力軸28で受けた機械的動力を、第2速ギア段42により変速し、トルクを変化させて、第2出力軸48に伝達することが可能となっている。
【0036】
同様に、第4速ギア段44は、第2入力軸28に結合されている第4速メインギア44aと、第2出力軸48を中心に回転可能に設けられ、第4速メインギア44aと噛み合う第4速カウンタギア44cとを有している。第2変速機構40には、第4速ギア段44に対応して、第4速カウンタギア44cと第2出力軸48とを係合させることが可能な第4速カップリング機構44eが設けられている。第4速カップリング機構44eにより第4速カウンタギア44cと第2出力軸48とを係合させる、すなわち第4速ギア段44を係合状態にすることで、第2変速機構40は、第2入力軸28で受けた機械的動力を、第4速ギア段44により変速し、トルクを変化させて、第2出力軸48に伝達することが可能となっている。
【0037】
第2変速機構40の第2出力軸48には、第2駆動ギア48cが結合されており、当該第2駆動ギア48cは、動力統合ギア58と噛み合っている。動力統合ギア58には、推進軸66が結合されており、推進軸66は、後述する終減速装置70を介して、駆動輪88に結合された駆動軸80と係合している。つまり、第2変速機構40の第2群の変速段42,44の出力側を構成する第2出力軸48と、駆動輪88は係合している。
【0038】
電気モータ50のロータ52は、第2変速機構40の第2入力軸28に結合されており、ロータ52から入出力する機械的動力すなわちトルクは、第2変速機構40の第2入力軸28にそのまま伝達される。つまり、デュアルクラッチ式変速機10を構成する第1変速機構30及び第2変速機構40にそれぞれ対応して設けられた第1入力軸27及び第2入力軸28のうち、第2入力軸28には、電気モータ50のロータ52が係合している。
【0039】
第2変速機構40における各変速段42,44の係合状態と解放状態(非係合状態)との切替えは、図示しないアクチュエータを介してECU100により制御される。ECU100は、第2変速機構40の第2群の変速段42,44のうちいずれか1つの変速段を選択して係合状態にすることで、第2変速機構40が第2入力軸28で受けた機械的動力を、選択されて係合状態にある変速段により変速し、第2出力軸48から駆動輪88に向けて伝達することが可能となっている。
【0040】
デュアルクラッチ機構20は、内燃機関5の機関出力軸8と第1変速機構30の第1入力軸27とを係合させることが可能な第1クラッチ21と、内燃機関5の機関出力軸8と第2変速機構40の第2入力軸28とを係合させることが可能な第2クラッチ22とを有している。第1クラッチ21及び第2クラッチ22は、湿式多板クラッチや乾式単板クラッチ等の摩擦式ディスククラッチ装置で構成される。
【0041】
第1クラッチ21が係合状態となることで、機関出力軸8と第1入力軸27が一体に回転して、機関出力軸8からの機械的動力を、第1変速機構30の変速段31,33,35,39のうちいずれか1つにより変速して駆動輪88に向けて伝達することが可能となっている。つまり、第1クラッチ21は、第1変速機構30の第1群の変速段31,33,35,39に対応して設けられている。
【0042】
一方、第2クラッチ22を係合状態にすることで、機関出力軸8と第2入力軸28が一体に回転して、機関出力軸8からの機械的動力を、第2変速機構40の変速段42,44のうちいずれか1つにより変速して駆動輪88に向けて伝達することが可能となっている。つまり、第2クラッチ22は、第2変速機構40の第2群の変速段42,44に対応して設けられている。
【0043】
第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合状態と解放状態(非係合状態)との切替えは、図示しないアクチュエータを介してECU100により制御される。ECU100は、デュアルクラッチ機構20において、第1クラッチ21又は第2クラッチ22のうちいずれか一方を係合状態にして、他方を解放状態にすることで、内燃機関5からの機械的動力を、第1変速機構30及び第2変速機構40のうちいずれか一方に伝達させることが可能となっている。
【0044】
ここで、デュアルクラッチ機構20の詳細な構造の一例について図2を用いて説明する。図2に示すように、デュアルクラッチ機構20において、機関出力軸8には、図示しないダンパ等を介してデュアルクラッチ機構20のクラッチハウジング14aが結合されている。すなわち、クラッチハウジング14aは、機関出力軸8と一体に回転する。クラッチハウジング14aは、摩擦板(クラッチディスク)27a,28aを収容可能に構成されている。
【0045】
これに対して、第1変速機構30の第1入力軸27と、第2変速機構40の第2入力軸28は、同軸に配置されており、2重軸構造となっている。具体的には、第1入力軸27は、中空シャフトとして構成されており、第1入力軸27内には、第2入力軸28が延びている。内側の軸である第2入力軸28は、外側の軸である第1入力軸27に比べて軸方向に長く構成されている。機関出力軸8側から駆動輪88側に向かうに従って、まず、第1変速機構30の各変速段のメインギア31a,33a,35a,39aが配設されており、次に、第2変速機構40の各変速段のメインギア42a,44aが配設されている。
【0046】
第1入力軸27の端には、円板状の摩擦板27aが結合されており、一方、第2入力軸28の端にも、同様の摩擦板28aが結合されている。第1クラッチ21は、摩擦板27aと対向して設けられた摩擦相手板(図示せず)と、摩擦相手板を駆動するアクチュエータ(図示せず)とを有している。摩擦相手板が摩擦板27aをクラッチハウジング14aに結合された部材に押し付けることで、第1クラッチ21は、機関出力軸8と、第1変速機構30の第1入力軸27とを係合することが可能となっている。
【0047】
これと同様に、第2クラッチ22は、摩擦板28aに対向して設けられた摩擦相手板(図示せず)が、摩擦板28aをクラッチハウジング14aに結合された部材に押し付けることで、機関出力軸8と、第2変速機構40の第2入力軸28とを係合することが可能となっている。デュアルクラッチ機構20における、第1及び第2クラッチ21,22にそれぞれ対応して設けられた摩擦相手板のアクチュエータによる駆動は、ECU100により制御される。
【0048】
なお、上述のデュアルクラッチ機構20の詳細な構造において、第1変速機構30の第1入力軸27と第2変速機構40の第2入力軸28は同軸に配置されるものとしたが、デュアルクラッチ機構20の詳細な構造は、これに限定されるものではない。例えば、図3に示すように、第1入力軸27と第2入力軸28は、所定の間隔を空けて平行に延びるよう配置されるものとしても良い。この変形例のデュアルクラッチ機構20においては、機関出力軸8の端に、駆動ギア14cが結合されている。駆動ギア14cには、第1ギア16と、第2ギア18が噛み合っており、第1ギア16は、第1クラッチ21に結合されており、第2ギア18は、第2クラッチ22に結合されている。第1クラッチ21は、第1変速機構30の第1入力軸27と、機関出力軸8に係合する第1ギア16とを係合させることが可能に構成されている。一方、第2クラッチ22は、第2変速機構40の第2入力軸28と、機関出力軸8に係合する第2ギア18とを係合させることが可能に構成されている。
【0049】
第1及び第2クラッチ21,22は、それぞれ摩擦式クラッチ等の任意のクラッチ機構で構成することができる。第1クラッチ21及び第2クラッチ22において交互に係合状態と解放状態を切替えることで、機関出力軸8から出力される内燃機関5の機械的動力は、駆動ギア14cから、第1変速機構30の第1入力軸27、又は第2変速機構40の第2入力軸28のいずれかに伝達されることとなる。
【0050】
また、ハイブリッド車両1には、図1に示すように、原動機から推進軸66に伝達された機械的動力を、減速すると共に、駆動輪88に係合する左右の駆動軸80に分配する終減速装置70が設けられている。終減速装置70は、推進軸66に結合された駆動ピニオン68と、駆動ピニオン68とリングギア72が直交して噛み合う差動機構74とを有している。終減速装置70は、原動機すなわち内燃機関5及び電気モータ50のうち少なくとも一方から推進軸66に伝達された機械的動力を、駆動ピニオン68及びリングギア72により減速し、差動機構74により左右の駆動軸80に分配して、駆動軸80に結合されている駆動輪88に伝達することで、当該駆動輪88の接地面にハイブリッド車両1を駆動する駆動力[N]を生じさせることが可能となっている。
【0051】
また、ハイブリッド車両1には、駆動輪88の回転速度を検出する車輪速センサ(図示せず)が設けられており、検出した駆動輪88の回転速度に係る信号をECU100に送出している。また、ハイブリッド車両1には、電気モータ50に供給される電力を貯蔵する二次電池120の蓄電状態(state-of-charge:SOC)を検出する電池監視ユニット(図示せず)が設けられており、検出した二次電池120の蓄電状態に係る信号を、ECU100に送出している。また、ハイブリッド車両1には、運転者によるアクセルペダルの操作量を検出するアクセルペダルポジションセンサ(図示せず)が設けられており、アクセルペダルの操作量(以下、アクセル操作量と記す)に係る信号を、ECU100に送出している。
【0052】
ECU100は、第1変速機構30及び第2変速機構40における各変速段の係合/解放状態と、第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合/解放状態とを検出している。また、ECU100は、クランク角センサ(図示せず)からの機関出力軸8の回転角位置(クランク角)に係る信号と、レゾルバからの電気モータ50のロータ52の回転角位置に係る信号と、車輪速センサからの駆動輪88の回転速度に係る信号とを検出している。また、ECU100は、電池監視ユニットからの二次電池120のSOCに係る信号と、アクセルペダルポジションセンサからのアクセル操作量に係る信号を検出している。
【0053】
これら検出した信号に基づいて、ECU100は、各種制御変数を算出、推定している。制御変数には、内燃機関5の機関出力軸8の回転速度(以下、機関回転速度と記す)と、内燃機関5が機関出力軸8から出力する「機関トルク」と、電気モータ50のロータ52の回転速度(以下、モータ回転速度と記す)と、電気モータ50のロータ52に生じる「モータトルク」と、第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合/解放状態と、第1変速機構30及び第2変速機構40において現在選択されている(係合状態にある)変速段と、ハイブリッド車両1の走行速度(以下、車速と記す)と、二次電池120のSOCと、運転者により駆動軸80に生じることが要求される駆動力(以下、要求駆動力と記す)等が含まれている。
【0054】
加えて、ECU100は、車速等の制御変数と、第1変速機構30の各変速段31,33,35,39の係合/解放状態に基づいて、第1入力軸27の回転速度(以下、第1入力軸回転速度と記す)を推定する機能を有している。また、ECU100は、車速等の制御変数と、第2変速機構40の各変速段42,44の係合/解放状態に基づいて、第2入力軸28の回転速度(以下、第2入力軸回転速度と記す)を推定する機能を有している。なお、第1入力軸回転速度および第2入力軸回転速度を推定する手法は、この態様に限定されるものではなく、例えば、第1入力軸27の回転速度又は回転角位置を検出可能なセンサと、第2入力軸28の回転速度又は回転角位置を検出可能なセンサとを備え、これらセンサからの信号をECU100が検出して、第1入力軸回転速度および第2入力軸回転速度を推定するものとしても良い。
【0055】
これら制御変数に基づいて、ECU100は、内燃機関5及び電気モータ50の作動を把握しており、ECU100は、内燃機関5の運転状態、すなわち機関回転速度及び機関トルクと、電気モータ50の運転状態、すなわちモータ回転速度及びモータトルクと、第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合/解放状態と、第1変速機構30及び第2変速機構40の各変速段31〜44の係合/解放状態とを、協調して制御する機能を有している。ECU100は、電気モータ50の運転状態と、第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態とを協調して制御して、内燃機関5の機関出力軸8の回転駆動(以下、単に「クランキング」と記す)を行う機能を有している。また、ECU100は、当該クランキングを行っているとき(以下、クランキング中と記す)において、内燃機関5の燃料噴射装置や点火装置等を制御することで、内燃機関5のファイアリングを開始する機能を有している。
【0056】
以上のように構成されたハイブリッド車両1は、第1クラッチ21及び第2クラッチ22を交互に係合状態にすることで、内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力を駆動輪88に伝達する動力伝達に用いる変速段(機関出力変速段)を、第1変速機構30の変速段31,33,35と、第2変速機構40の変速段42,44との間で切替える動作を行うときに、機関出力軸8から駆動輪88への動力伝達に途切れが生じることを抑制することが可能となっている。
【0057】
例えば、機関出力変速段を、第1変速機構30の第1速ギア段31から、第2変速機構40の第2速ギア段42に切替えるアップシフトを行う場合、第1クラッチ21を係合状態にしており、且つ第2クラッチ22を解放状態にしているときに、第2速ギア段42を予め係合状態にしておくことで、第2入力軸28を空転させる。そして、係合状態にある第1クラッチ21を解放状態にしながら、解放状態にある第2クラッチ22を係合状態にすることで、第1クラッチ21と第2クラッチ22とをつなぎ替える動作、いわゆる「クラッチ・トゥ・クラッチ」を行わせる。これにより、機関出力軸8から推進軸66への動力伝達経路を、徐々に第1変速機構30の第1入力軸27から第2変速機構40の第2入力軸28に移していき、第1速ギア段31から第2速ギア段42へのアップシフトが完了する。このようにして、デュアルクラッチ式変速機10は、機関出力軸8から駆動輪88への動力伝達に途切れを生じさせることなく、第1変速機構30の変速段すなわち奇数段と、第2変速機構40の変速段すなわち偶数段との間において、機関出力変速段を切替えるシフト動作を行うことが可能となっている。
【0058】
また、ハイブリッド車両1は、原動機として内燃機関5と電気モータ50とを併用又は選択使用することで、様々な車両走行(走行モード)を実現することができる。例えば、内燃機関5の機関出力軸8から出力される機械的動力のみを駆動輪88に伝達することで駆動輪88に駆動力を生じさせる車両走行である「エンジン走行」、内燃機関5の機関出力軸8から出力される機械的動力と、電気モータ50のロータ52から出力される機械的動力とを統合して駆動輪88に伝達することで駆動輪88に駆動力を生じさせる車両走行である「HV走行」、電気モータ50のロータ52から出力される機械的動力のみを駆動輪88に伝達することで駆動輪88に駆動力を生じさせる車両走行である「EV走行」等がある。
【0059】
これら車両走行は、運転者により駆動輪88に生じることが要求される要求駆動力や、電気モータ50に供給する電力を貯蔵する二次電池120のSOCに応じて、ECU100により、逐次、自動的に切替えられる。以下に、各走行モードにおけるECU100の制御と、内燃機関5、第1クラッチ21及び第2クラッチ22、第1変速機構30及び第2変速機構40、及び電気モータ50の動作を併せて説明する。
【0060】
ECU100が、第1クラッチ21を係合状態にすると共に第2クラッチ22を解放状態にすることで、デュアルクラッチ式変速機10は、内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力を、第1入力軸27で受け、第1変速機構30の変速段31,33,35のいずれか1つの係合状態にある変速段により変速し、第1出力軸37から駆動輪88に伝達することができる。このようにして、ハイブリッド車両1は、第1クラッチ21を係合状態にしている場合に、原動機として内燃機関5のみを選択使用する「エンジン走行」を実現することができる。
【0061】
この場合において、第2変速機構40の変速段42,44のいずれか1つを係合状態にすることで、第2入力軸28は、駆動輪88の回転速度すなわちハイブリッド車両1の車速に比例する回転速度で空転する。このとき、ECU100が電気モータ50を力行させて、ロータ52から第2入力軸28にモータトルクを出力することで、デュアルクラッチ式変速機10は、内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力と、電気モータ50のロータ52からの機械的動力とを、それぞれ第1変速機構30において係合状態にある変速段と、第2変速機構40において係合状態にある変速段により変速し、動力統合ギア58で統合して、駆動輪88に伝達することができる。このようにして、ハイブリッド車両1は、第1クラッチ21を係合状態にしている場合に、原動機として内燃機関5と電気モータ50とを併用する「HV走行」を実現することができる。
【0062】
一方、ECU100が第1クラッチ21を解放状態にすると共に第2クラッチ22を係合状態にすることで、デュアルクラッチ式変速機10は、内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力を、第2入力軸28で受け、第2変速機構40の変速段42,44のいずれか1つの係合状態にある変速段により変速し、第2出力軸48から駆動輪88に伝達することができる。このようにして、ハイブリッド車両1は、第2クラッチ22を係合状態にしている場合に、原動機として内燃機関5のみを選択使用する「エンジン走行」を実現することができる。
【0063】
この場合において、ECU100が電気モータ50を力行させて、ロータ52から第2入力軸28にモータトルクを出力することで、デュアルクラッチ式変速機10は、電気モータ50のロータ52からの機械的動力と、内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力とを、第2入力軸28で統合し、第2変速機構40において係合状態にある変速段により変速して、動力統合ギア58を介して駆動輪88に伝達することができる。このようにして、ハイブリッド車両1は、第2クラッチ22を係合状態にしている場合に、原動機として内燃機関5と電気モータ50とを併用する「HV走行」を実現することができる。
【0064】
また、ハイブリッド車両1に原動機として電気モータ50のみを選択使用するEV走行を行わせる場合、上述のエンジン走行及びHV走行の制御とは異なり、ECU100は、第1クラッチ21及び第2クラッチ22を双方共に解放状態にすると共に、第2変速機構40の変速段42,44のいずれか1つを係合状態にして、電気モータ50を力行させる。デュアルクラッチ式変速機10は、電気モータ50のロータ52からの機械的動力(以下、モータ出力と記す)を、第2入力軸28で受け、第2変速機構40において係合状態にある変速段により変速して、動力統合ギア58を介して駆動輪88に伝達する。このようにして、ハイブリッド車両1は、原動機として電気モータ50のみを選択使用する「EV走行」を実現することができる。
【0065】
なお、ハイブリッド車両1は、EV走行中において、制御手段が、第1及び第2クラッチ21,22を双方共に解放状態にすると共に、第2変速機構40の変速段42,44のうち、いずれかを係合状態にすることで、電気モータ50のロータ52と駆動輪88とを係合させている。第2変速機構40においてロータ52と駆動輪88とを係合させる変速段、つまり、第2変速機構40において係合状態にある変速段を、以下の説明において「EV走行段」と記す。
【0066】
以上のように、デュアルクラッチ式変速機10においては、第1変速機構30の変速段31,33,35に対応して、第1入力軸27と、第1クラッチ21が設けられており、第2変速機構40の変速段42,44に対応して、第2入力軸28と、第2クラッチ22が設けられている。
【0067】
EV走行中において、第1変速機構30の変速段31,33,35のうち係合状態にある(選択されている)変速段と、第2変速機構40の変速段42,44のうち係合状態にある(選択されている)変速段のうち、「減速比が小さい側」の変速段を「ローギア側」の変速段と記し、「減速比が大きい側」の変速段を「ハイギア側」の変速段と記す。
【0068】
加えて、第1入力軸27と第2入力軸28のうち、変速機構において係合状態にある変速段の「減速比が大きい側」の入力軸、すなわち「ローギア側」の変速段を有する変速機構の入力軸を、以下に「ローギア側の入力軸」と記す。これに対して、変速機構において係合状態にある変速段の「減速比が小さい側」の入力軸、すなわち「ハイギア側」の変速段を有する変速機構の入力軸を、以下に「ハイギア側の入力軸」と記す。
【0069】
同様に、第1クラッチ21及び第2クラッチ22のうち、「ローギア側」の変速段を有する変速機構に対応するクラッチを、以下に「ローギア側のクラッチ」と記す。これに対して、「ハイギア側」の変速段を有する変速機構に対応するクラッチを、以下に「ハイギア側のクラッチ」と記す。
【0070】
つまり、ハイブリッド車両1のEV走行中において、第1変速機構30においては、変速段31,33,35のうち第3速ギア段33が選択的に係合状態に制御されており、且つ第2変速機構40においては、変速段42,44のうち第2速ギア段42が選択的に係合状態に制御されている場合、第1変速機構30、第1入力軸27、及び第1クラッチ21が「ハイギア側」となり、第2変速機構40、第2入力軸28、及び第2クラッチ22が「ローギア側」となる。
【0071】
この状態から、第1変速機構30において、係合状態にする変速段を、第3速ギア段33から第1速ギア段31に切替えるダウンシフトが行われた場合、第1変速機構30において係合状態にある第1速ギア段31の減速比が、第2変速機構40において、係合状態にある第2速ギア段42に比べて、減速比が大きくなるため、この場合には、第1変速機構30、第1入力軸27、及び第1クラッチ21が「ローギア側」となり、第2変速機構40、第2入力軸28、及び第2クラッチ22が「ハイギア側」となる。このように、第1入力軸27と第2入力軸28、第1クラッチ21と第2クラッチ22における「ローギア側」と「ハイギア側」は、その時々の変速段の係合状態に応じて変化する。
【0072】
以上のように構成されたハイブリッド車両1においては、電気モータ50から出力される機械的動力のみを駆動輪に伝達する車両走行である「EV走行」を行っている間(以下、EV走行中と記す)において、内燃機関5を始動させる場合、第1クラッチ21及び第2クラッチ22のうち一方を係合状態にして、内燃機関5の機関出力軸8と駆動輪88とを係合させると共に、電気モータ50が出力する機械的動力(モータ出力)を増大させて、当該機械的動力の一部を機関出力軸8に伝達して、内燃機関5のクランキングを行う。このようなクランキング中に、内燃機関5のファイアリングを開始することで、EV走行中において、駆動輪88に生じる駆動力が一時的にゼロとなる「駆動力抜け」を生じさせることなく、内燃機関5を始動させることができる。このようにして内燃機関5を始動させる手法を、以下に「押しがけ始動」と記す。
【0073】
ここで、従来技術に係る内燃機関の押しがけ始動について、図8を用いて説明する。図8は、第1及び第2クラッチのうち一方を、内燃機関が始動するまで継続的に係合状態にしてクランキングを行うことで、押しがけ始動を行った場合のハイブリッド車両の動作を示すタイミングチャートである。なお、以下の説明において、クラッチ(第1クラッチ又は第2クラッチ)を介して伝達されるトルクを「クラッチ伝達トルク」と記す。
【0074】
ハイブリッド車両1のEV走行中においては、第1及び第2入力軸は、車速に比例した回転速度で回転しており、図8に時点t1で示すように、第1及び第2クラッチ21,22は、双方ともに解放状態にある。そして、時点t1以降において、内燃機関5の押しがけ始動を行うために、図に一点鎖線で示すように、解放状態にある第1及び第2クラッチ21,22のうち一方のクラッチを、係合状態にする係合動作を開始する。なお、他方のクラッチは、図に二点鎖線で示すように、そのまま解放状態が継続される。
【0075】
そして、時点t2において、係合動作が完了して一方のクラッチが完全に係合した係合状態となる。クランキングは、完全に係合状態となる時点t2以前の、係合動作が行われているときに開始されており、当該クラッチの係合動作が行われている過程において、内燃機関5のクランキングに用いられるトルクが、機関出力軸8に伝達されることによって行われる。
【0076】
なお、クランキングトルクは、図に「−a」で示すように、負の値のクラッチ伝達トルクとなっている。これに対して、正の値のクラッチ伝達トルクとは、機関出力軸8から、係合状態にあるクラッチを介して入力軸に伝達されるトルクとなっている。このように時点t1から内燃機関5のクランキングが開始され、機関出力軸8の回転速度である機関回転速度が上昇していく。
【0077】
そして、気筒判別を行い、ファイアリングが可能な状態となったらファイアリングを開始する。詳細には、内燃機関5の気筒内において初爆が行われる。初爆が行われた時点t3以降、機関回転速度が、急速に上昇する。
【0078】
そして、時点t4において、機関回転速度が、係合状態にあるクラッチに対応する入力軸回転速度Ninを上回る。この時点t4以前においては、図に「−a」で示すクランキングトルクが、入力軸から係合状態にあるクラッチを介して機関出力軸8に伝達され、時点t4以降においては、図に「+a」で示す機関トルクが、機関出力軸8から係合状態にあるクラッチを介して、対応する入力軸に伝達される。つまり、内燃機関5のファイアリングの開始直後に、機関回転速度が入力軸回転速度Ninを上回る時点t4の前後において、係合状態にあるクラッチを介して伝達されるトルクは、「−a」から「+a」に伝達方向が「逆向き」となり、加えて当該トルクは「2a」分だけ変化することとなる。
【0079】
このように、ファイアリングの開始直後において、係合状態にあるクラッチを介して伝達されるトルクの伝達方向が逆向きとなって、クラッチを介して伝達されるトルクが急激に変化すると、入力軸に係合する駆動軸(すなわち駆動輪)に作用するトルク(以下、駆動トルクと記す)に変動が生じることがある。また、押しがけ始動を行う際の内燃機関5のクランキング中において、デュアルクラッチ式変速機10の第1入力軸27又は第2入力軸28と、内燃機関5の機関出力軸8との回転速度差が大きいと、当該機関出力軸8と第1入力軸27又は第2入力軸28とを係合させるクラッチにおいて生じる動力損失(摩擦損失)が大きいという問題が生じる。また当該クラッチにかかる負荷が大きいという問題も生じる。
【0080】
そこで、本実施形態に係るハイブリッド車両1において、制御手段としてのECU100は、EV走行中において内燃機関の「押しがけ始動」を行う場合に、当該ファイアリングの開始前において、第1及び第2クラッチのうち、「ローギア側」のクラッチを解放状態にすると共に、「ハイギア側」のクラッチを半係合状態にしてクランキングを行い、当該クランキング中にファイアリングを開始して内燃機関を始動させている。以下に、ECU100がEV走行中に実行する内燃機関の押しがけ始動に係る制御(以下、押しがけ始動制御と記す)について、図1、図4及び図5を用いて説明する。
【0081】
図4は、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御手段(ECU)が実行する押しがけ始動制御を示すフローチャートである。図5は、本実施形態に係るハイブリッド車両において制御手段(ECU)により押しがけ始動制御が実行された場合のハイブリッド車両の動作の一例を説明するタイミングチャートである。
【0082】
ハイブリッド車両1において、制御手段としてのECU100は、EV走行中において二次電池120のSOCが低下した場合や、要求駆動力が増大した場合など、内燃機関5の始動要求が発生した場合に、以下に詳細を説明する押しがけ始動制御を実行する。
【0083】
なお、図5には、一例として、第2変速機構40において第4速ギア段44をEV走行段として係合状態にする共に、第1変速機構30においては、EV走行段に比べて減速比が小さい第5速ギア段35を係合状態にしているEV走行中に、内燃機関5の押しがけ始動を行う場合について説明する。つまり、図5においては、第1変速機構30の第1入力軸27、及び第1クラッチ21が「ハイギア側」であり、第2変速機構40の第2入力軸28、及び第2クラッチ22が「ローギア側」となっている。
【0084】
図4に示すように、まず、ステップS100において、ECU100は、各種の制御変数を取得する。この制御変数(制御フラグ)には、第1入力軸回転速度(Nin1)と、第2入力軸回転速度(Nin2)と、機関回転速度と、第1及び第2変速機構30,40の各変速段の係合/解放状態、すなわちEV走行段と、第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態等が含まれている。
【0085】
そして、ステップS102において、ECU100は、電気モータ50のロータ52が係合する第2入力軸28の回転速度である第2入力軸回転速度Nin2が、予め設定された判定回転速度γを下回るか否かを判定する。この判定回転速度γは、内燃機関5においてファイアリングを行うと、内燃機関5に共振等の振動が生じる回転速度域よりも高い値に設定されており、内燃機関5において初爆を許可する機関回転速度の下限値より高い値に設定されている。判定回転速度γは、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。
【0086】
第2入力軸回転速度Nin2が、判定回転速度γを下回る場合(S102:Yes)、ECU100は、ステップS104において、第1変速機構30において係合状態にする変速段を、EV走行段である第4速ギア段44に比べて減速比が大きい(ローギア側の)変速段である第3速ギア段33に決定して、当該第3速ギア段33を係合状態にする。これにより、第2入力軸回転速度Nin2が、判定回転速度γに比べて低い場合には、第1入力軸回転速度Nin1を、判定回転速度γ及び第2入力軸回転速度Nin2に比べて高いものにすることができる。この場合、第1変速機構30の第1入力軸27、及び第1クラッチ21が「ローギア側」のものとなり、第2変速機構40の第2入力軸28、及び第2クラッチ22が「ハイギア側」のものとなる。
【0087】
一方、第2入力軸回転速度Nin2が、判定回転速度γ以上である場合(S102:No)、ECU100は、ステップS106において、第1変速機構30において係合状態にする変速段を、EV走行段である第4速ギア段44に比べて減速比の小さい(ハイギア側の)変速段である第5速ギア段35に決定して、当該第5速ギア段35を係合状態にする。これにより、第2入力軸回転速度Nin2が、判定回転速度γに比べて高い場合には、図5に示すように、第1入力軸回転速度Nin1を、判定回転速度γ及び第2入力軸回転速度Nin2に比べて低いものにすることができる。この場合、図5に示すように、第1変速機構30の第1入力軸27、第1クラッチ21が「ハイギア側」のものとなり、第2変速機構40の第2入力軸28、及び第2クラッチ22が「ローギア側」のものとなる。
【0088】
そして、ステップS108において、ECU100は、EV走行中において、第1クラッチ21及び第2クラッチ22のうち、ハイギア側のクラッチである第1クラッチ21を半係合状態にして、内燃機関5のクランキングを行う。すなわち解放状態にある第1クラッチ21及び第2クラッチ22のうち、それぞれ対応する変速機構において係合状態にある変速段のうち減速比が小さい側(ハイギア側)のクラッチである第1クラッチ21を半係合状態にしている。図5に示す時点t1から、ECU100は、解放状態にある第1クラッチ21を半係合状態にする係合動作を開始する。この時点t1の直後から、第1入力軸27から機械的動力(トルク)を、第1クラッチ21を介して機関出力軸8に伝達して、機関回転速度の上昇が開始される。
【0089】
なお、図5においては、第1クラッチ21を介して伝達されるクラッチ伝達トルクを、図に一点鎖線で示し、第2クラッチ22を介して伝達されるクラッチ伝達トルクを、図に二点鎖線で示す。また、第1クラッチ21のクラッチ伝達トルクと、第2クラッチ22のクラッチ伝達トルクとの合計のクラッチ伝達トルクを、図に点線で示す。図5において、マイナスの値のクラッチ伝達トルクは、第1入力軸又は第2入力軸から機関出力軸にトルクが伝達されることを示しており、マイナス値のクラッチ伝達トルクを以下「クランキングトルク」と記す。一方、クラッチ伝達トルクにおいて、プラスの値は、機関出力軸から第1入力軸及び/又は第2入力軸にトルクが伝達されることを示している。
【0090】
なお、「半係合状態」とは、機関出力軸8と第1入力軸27(又は第2入力軸28)との間で、所定の回転速度差を生じさせつつも、機械的動力の伝達が行われるような第1クラッチ21(又は第2クラッチ22)の係合状態を意味している。半係合状態は、完全な係合状態に比べてクラッチの係合力が低くなるように、当該クラッチの係合/解放動作を操作する操作力を制御することで実現される。
【0091】
そして、時点t2において、当該係合動作が完了して、第1クラッチ21(ハイギア側のクラッチ)が半係合状態となる。第1クラッチ21を半係合状態にすると共に第2クラッチ22をそのまま解放状態にしておくことで、第1入力軸27からは、半係合状態にある第1クラッチ21を介して、図に「−a」で示す値のクランキングトルクを機関出力軸8に伝達してクランキングを行う。
【0092】
このように、第1入力軸27と第2入力軸28のうち、回転速度が低い側、すなわちハイギア側の入力軸である第1入力軸27と機関出力軸8とを第1クラッチ21により係合させることで、第2クラッチ22により機関出力軸8と第2入力軸28とを係合させる場合に比べて、当該第1クラッチ21が吸収すべき機関出力軸8側と第1入力軸27側との回転速度差を小さくすることができ、クランキング時においてハイギア側のクラッチである第1クラッチ21において生じる動力損失(摩擦損失)を、ローギア側のクラッチである第2クラッチ22を係合状態にする場合に比べて抑制することができる。
【0093】
なお、本実施形態においては、クラッチの係合動作を開始する時点t1以降において、ECU100は、車速が一定となるように、電気モータ50が出力する機械的動力(モータ出力)を調整しているため、第1入力軸回転速度は、一定の値Nin1に、第2入力軸回転速度は、一定の値Nin2に維持されている。ECU100は、時点t1以降において、内燃機関5のクランキングに消費される機械的動力(クランキングトルクに機関回転速度を乗じたもの)の分と、半係合状態となる第1クラッチ21において生じる動力損失(摩擦損失)の分だけ、モータ出力を増大させている。
【0094】
そして、時点t2から所定時間経過した時点t3において、ECU100は、内燃機関5のファイアリングを開始する(図4、ステップS110)。すなわち内燃機関5の気筒内において初爆を行う。これにより、時点t3の直後から、内燃機関5は、機関出力軸8から機械的動力(機関トルク)の出力を開始し、それまでに比べて機関回転速度が急速に上昇する。
【0095】
そして、ステップS112において、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸(第1入力軸27)の回転速度である第1入力軸回転速度Nin1から、予め設定された「設定回転速度X」を減じた値(Nin1−X)の回転速度以上であるか否かを判定する。機関回転速度が、(Nin1−X)の回転速度に達していない場合(S112:No)、そのままハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)の半係合状態と、ローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)の解放状態を維持する。
【0096】
設定回転速度Xは、機関回転速度が、ハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)に対応する入力軸(第1入力軸27)の回転速度(第1入力軸回転速度Nin1)を上回る(時点t4直後)までには、図5に時点t3c〜t4で示すように、ハイギア側のクラッチである第1クラッチ21を、半係合状態から解放状態にする解放動作と、ローギア側のクラッチである第2クラッチ22を、解放状態から係合状態にする係合動作が完了するように設定されている。設定回転速度Xは、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。設定回転速度Xは、第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合動作及び解放動作に要する時間を適合実験により求めておき、これら係合/解放動作に要する時間や、第1クラッチ21及び第2クラッチ22の温度等に基づいて設定される。
【0097】
そして、図5に時点t3cで示すように、機関回転速度が、(Nin1−X)の回転速度以上となった場合(S112:Yes)、ECU100は、ステップS114において、ハイギア側のクラッチである第1クラッチ21を、半係合状態から解放状態にする解放動作を開始させると共に、ローギア側のクラッチである第2クラッチ22を、解放状態から「半係合状態」にする係合動作を開始させる。
【0098】
ECU100は、時点t3cまで半係合状態にあったハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)を、時点t4において解放状態にする解放動作を行わせると共に、時点t3cまで解放状態にあったローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)を、時点t4において「半係合状態」にする係合動作を行わせる。つまり、ECU100は、時点t3cから時点t4にかけて係合状態又は半係合状態にするクラッチを、ハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)からローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)に切替える「クラッチ・トゥ・クラッチ」を行わせ、これら係合/解放動作を、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度である第1入力軸回転速度Nin1を上回る時点t4までに完了する。
【0099】
このように第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態を協調して制御することにより、ハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)を介して機関出力軸8に伝達されるクランキングトルクは、「−a」(時点t3c)から、ゼロ(時点t4)に減少するが、その分、ローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)を介して機関出力軸8に伝達されるクランキングトルクが、ゼロ(時点t3c)から、「−a」に増大する。これにより、機関出力軸8に伝達される合計の伝達トルク(クランキングトルク)は、時点t3c以前の値である「−a」のまま、時点t3c〜時点t4、及び時点t4以降も維持される。このため、機関出力軸8と係合する駆動軸80及び駆動輪88に作用する駆動トルクに変動が生じることを抑制することができる。
【0100】
そして、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度である第1入力軸回転速度Nin1を上回る時点t4以降においては、すでに、ハイギア側のクラッチである第1クラッチ21は、解放状態となっており、ローギア側のクラッチである第2クラッチ22が「半係合状態」となっている。機関出力軸8とハイギア側の入力軸である第1入力軸27との間における動力伝達は遮断されており、クランキングに必要なトルクは、ローギア側の入力軸である第2入力軸28からローギア側のクラッチである第2クラッチ22を介して機関出力軸8に伝達される。
【0101】
これにより、上述した従来技術に係る内燃機関の押しがけ始動のように、係合状態にあるクラッチを介して伝達されるトルクの向きが逆向きに切り替わることがなくなり、機関出力軸に係合している駆動軸80及び駆動輪88に作用する駆動トルクに変動が生じることを抑制することができる。機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度(第1入力軸回転速度Nin1)を上回った時点t4以降において、ハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)のかわりに、ローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)が半係合状態となっており、且つローギア側の入力軸(第2入力軸28)の回転速度(第2入力軸回転速度Nin2)は、機関回転速度に比べて高い回転速度となっているため、時点t4以降においてもローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)を介して「−a」のクランキングトルクを、機関出力軸8に伝達することができる。このように、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度を上回っても、クランキングトルクを一定に維持したまま、内燃機関5のクランキングを継続することができる。
【0102】
以上のように、EV走行中にECU100が上述した押しがけ始動制御を行うことで、回転速度の低いハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)により、当該クラッチにおける動力損失(摩擦損失)を抑制してクランキングを行い、ファイアリング開始後、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度を上回る前に、ハイギア側のクラッチに替えて、ローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)を半係合状態にしてクランキングを継続することで、ハイギア側のクラッチにおいてクラッチ伝達トルクの向きが逆向きになることを防止すると共に、機関出力軸8と駆動輪88との間において作用するクラッチ伝達トルクの変化を抑制することができる。
【0103】
また、本実施形態の押しがけ始動制御では、時点t4以降の、内燃機関5において機関出力軸8からハイブリッド車両1を駆動するのに十分な機械的動力が発生可能となった時点(図示せず)において、第1及び第2クラッチ21,22のうち、ローギア側のクラッチである第2クラッチ22を、半係合状態から係合状態にすることで、内燃機関5が機関出力軸8から出力した機械的動力を、ローギア側の入力軸である第2入力軸28に伝達し、(第1変速機構30において係合状態にある変速段(第5速ギア段35)に比べて減速比が大きい)第2変速機構40において係合状態にある変速段(第4速ギア段44)により減速し、トルクを増大させて、駆動輪88に向けて伝達することができる。
【0104】
これにより、EV走行中において要求駆動力が増大して、モータ出力のみを駆動輪88に伝達したのでは要求駆動力を達成できないため、内燃機関5を始動する場合において、クランキング中にクラッチにおいて生じる動力損失と、ファイアリング開始直後において駆動輪に作用する駆動トルクの変動を極力抑制しつつ、内燃機関5の始動後において、機関出力軸8から出力された機械的動力を、ローギア側の変速機構により極力トルクを増大させて駆動輪88に伝達することができ、内燃機関5の始動後におけるハイブリッド車両1のエンジン走行/HV走行による加速に備えることができる。
【0105】
なお、上述した実施形態1においては、ハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)を「半係合状態」にすることで、内燃機関5のクランキングを開始するものとしたが、クランキングの態様は、これに限定されるものではない。例えば、ハイギア側のクラッチを完全な「係合状態」にして、入力軸から機関出力軸に機械的動力(トルク)を伝達してクランキングを行うものとしても良い。この場合には、ハイギア側のクラッチにおいて生じる動力損失(摩擦損失)を、クラッチを「半係合状態」にする場合に比べて抑制することができる。
【0106】
また、上述した実施形態1においては、ファイアリング開始後、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度を上回る(時点t4)までに、ローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)を「半係合状態」にするものとしたが、図5に破線で示すように、ローギア側のクラッチ(第2クラッチ)を「係合状態」にするものとしても良い。このようにローギア側のクラッチを制御することで、内燃機関5の始動後において、ローギア側のクラッチを、半係合状態から係合状態にするクラッチ操作を行うことなく、機関出力軸8から出力された機械的動力を、ローギア側の変速機構により極力トルクを増大させて駆動輪88に伝達することができる。
【0107】
以上に説明したように本実施形態に係るハイブリッド車両1は、原動機として内燃機関5と電気モータ50とを有し、複数の変速段31,33,35,39のうちいずれか1つを係合状態にして、第1入力軸27と駆動輪88とを係合させることが可能な第1変速機構30と、複数の変速段42,44のうちいずれか1つを係合状態にして、第2入力軸28と駆動輪88とを係合させることが可能な第2変速機構40と、第1変速機構30に対応して設けられ、内燃機関5の機関出力軸8と第1入力軸27とを係合させることが可能な第1クラッチ21と、第2変速機構40に対応して設けられ、当該機関出力軸8と第2入力軸28とを係合させることが可能な第2クラッチ22とを有し、第1入力軸27及び第2入力軸28のうち少なくとも一方が電気モータ50のロータ52に係合するデュアルクラッチ式変速機10と、第1及び第2クラッチ21,22の係合/半係合/解放状態を制御可能な制御手段としてのECU100とを備えている。
【0108】
ECU100は、電気モータ50から出力される機械的動力(モータ出力)のみを駆動輪88に伝達する車両走行であるEV走行中において、機関出力軸8と駆動輪88とを係合させて時点t1からクランキングを行い、当該クランキング中に時点t3からファイアリングを開始して内燃機関5を始動させる。この場合、前記ファイアリングの開始(時点t3)前において、第1及び第2クラッチ21,22のうち、対応する変速機構30,40において係合状態にある変速段の減速比が大きい側であるローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)を解放状態にすると共に、第1及び第2クラッチ21,22のうち、対応する変速機構30,40において係合状態にある変速段の減速比が小さい側であるハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)を係合状態又は半係合状態にして、クランキングを行う。
【0109】
ECU100は、前記クランキング中にファイアリングを開始した後、少なくとも、機関回転速度が、第1入力軸27及び第2入力軸28のうち、ハイギア側の入力軸(第1クラッチ21)の回転速度を上回る(時点t4)までには、第1クラッチ21及び第2クラッチ22のうち、それまで係合状態又は半係合状態にあったハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)が解放状態となるよう制御するものとした。これにより、ハイギア側のクラッチにおいて、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸(第1入力軸)の回転速度を上回ることにより、当該クラッチを介して伝達されるトルクの向きが逆向きに切り替わることがなくなり、機関出力軸8に係合する駆動輪88に作用する駆動トルクに変化が生じることを抑制することができる。
【0110】
また、ECU100は、前記クランキング中にファイアリングを開始した後、少なくとも、機関回転速度が、第1及び第2入力軸27,28のうちハイギア側の入力軸の回転速度(第1入力軸回転速度Nin1)を上回る時点t4までには、第1及び第2クラッチ21,22のうち、それまで係合状態又は半係合状態にあったハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)を解放状態とする解放動作を行うと共に、それまで解放状態にあったローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)を係合状態又は半係合状態にする係合動作を行わせるものとした。これにより、ハイギア側のクラッチを介して伝達されるトルクの向きが逆向きに切り替わることを防止しつつ、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度(第1入力軸回転速度Nin1)を上回った時点t4以降においてもローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)を介してクランキングトルクを、機関出力軸8に伝達することができる。機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度を上回ったときに駆動トルクに変動が生じることを抑制しつつ、クランキングトルクを一定に維持したまま、内燃機関5のクランキングを継続することができる。
【0111】
ECU100は、機関回転速度が、第1及び第2入力軸27,28のうちハイギア側の入力軸の回転速度(第1入力軸回転速度Nin1)から、予め設定された設定回転速度Xを減じた値の回転速度(Nin1−X)を上回ったときに、ハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)の解放動作を開始すると共に、ローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)の係合動作を開始するものとした。
【0112】
設定回転速度Xを、機関回転速度が第1及び第2入力軸27,28のうちハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)に対応する入力軸の回転速度(第1入力軸回転速度Nin1)を上回ったときに、ハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)を解放状態にする解放動作と、ローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)を係合状態又は半係合状態にする係合動作が完了するように、予め設定しておくことで、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度を上回ったときには、ハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)が解放状態となり、且つローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)が係合状態となるようにすることができる。
【0113】
なお、上述した実施形態1において、クランキングのために、それまで半係合状態にあったハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)を解放状態にする解放動作と、それまで解放状態にあったローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)を係合状態にする係合動作は、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸(第1入力軸27)の回転速度である第1入力軸回転速度Nin1に達する時点t4において、完了するものとしたが、ハイギア側のクラッチの解放動作と、ローギア側のクラッチの係合動作が完了する時点は、これに限定されるものではない。機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度を上回る場合には、ハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)が解放状態になっていれば良く、例えば、時点t4の所定時間前に第1クラッチ21の解放動作を完了させるものとしても良い。
【0114】
〔実施形態2〕
本実施形態に係るハイブリッド車両1において、制御手段としてのECU100が、EV走行中に実行する内燃機関の押しがけ始動制御について、図1、図6及び図7を用いて説明する。図6は、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御手段(ECU)が実行する押しがけ始動制御を示すフローチャートである。図7は、本実施形態に係るハイブリッド車両において制御手段(ECU)により押しがけ始動制御が実行された場合のハイブリッド車両の動作の一例を説明するタイミングチャートである。
【0115】
本実施形態に係るハイブリッド車両1のハードウェア構成は、実施形態1と略同一であり、本実施形態に係る押しがけ始動制御においては、クランキング中にファイアリングを開始した後、少なくとも、機関回転速度が、第1及び第2入力軸のうち、ハイギア側の入力軸の回転速度以上となるまでには、第1及び第2クラッチのうち、それまで半係合状態にあったハイギア側のクラッチを半係合状態に維持したまま、それまで解放状態にあったローギア側のクラッチが半係合状態となるよう制御する点で、実施形態1と異なり、以下に詳細を説明する。なお、実施形態1と略共通の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0116】
なお、図7において、第1クラッチを介して伝達されるクラッチ伝達トルクを、図に一点鎖線で示し、第2クラッチを介して伝達されるクラッチ伝達トルクを、図に二点鎖線で示す。また、第1クラッチのクラッチ伝達トルクと、第2クラッチのクラッチ伝達トルクとの合計のクラッチ伝達トルクを、図に点線で示す。図7において、マイナスの値のクラッチ伝達トルクは、第1入力軸又は第2入力軸から機関出力軸にトルクが伝達されることを示しており、マイナス値のクラッチ伝達トルクを以下「クランキングトルク」と記す。一方、クラッチ伝達トルクにおいて、プラスの値は、機関出力軸から第1入力軸及び/又は第2入力軸にトルクが伝達されることを示している。
【0117】
なお、図7には、一例として、第2変速機構40において第4速ギア段44をEV走行段として係合状態にする共に、第1変速機構30においては、EV走行段に比べて減速比が小さい第5速ギア段35を係合状態にしているEV走行中に、内燃機関5の押しがけ始動を行う場合について説明する。つまり、図7においては、第1変速機構30の第1入力軸27、及び第1クラッチ21が「ハイギア側」であり、第2変速機構40の第2入力軸28、及び第2クラッチ22が「ローギア側」となっている。
【0118】
図6に示すように、まず、ステップS200において、ECU100は、各種の制御変数を取得する。この制御変数(制御フラグ)には、第1入力軸回転速度(Nin1)と、第2入力軸回転速度(Nin2)と、機関回転速度と、第1及び第2変速機構30,40の各変速段の係合/解放状態、すなわちEV走行段と、第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態等が含まれている。
【0119】
そして、ステップS202において、ECU100は、電気モータ50のロータ52が係合する第2入力軸28の回転速度である第2入力軸回転速度Nin2が、予め設定された判定回転速度βを下回るか否かを判定する。この判定回転速度βは、内燃機関5においてファイアリングを行うと、内燃機関5に共振等の振動が生じる回転速度域よりも高い値に設定されており、内燃機関5において初爆を許可する機関回転速度の下限値より高い値に設定されている。判定回転速度βは、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。
【0120】
第2入力軸回転速度Nin2が、判定回転速度βを下回る場合(S202:Yes)、ECU100は、ステップS204において、第1変速機構30において係合状態にする変速段を、EV走行段である第4速ギア段44に比べて減速比が大きい(ローギア側の)変速段である第3速ギア段33に決定して、当該第3速ギア段33を係合状態にする。これにより、第2入力軸回転速度Nin2が、判定回転速度βに比べて低い場合には、第1入力軸回転速度Nin1を、判定回転速度β及び第2入力軸回転速度Nin2に比べて高いものにすることができる。この場合、第1変速機構30の第1入力軸27、及び第1クラッチ21が「ローギア側」のものとなり、第2変速機構40の第2入力軸28、及び第2クラッチ22が「ハイギア側」のものとなる。
【0121】
一方、第2入力軸回転速度Nin2が、判定回転速度β以上である場合(S202:No)、ECU100は、ステップS206において、第1変速機構30において係合状態にする変速段を、EV走行段である第4速ギア段44に比べて減速比の小さい(ハイギア側の)変速段である第5速ギア段35に決定して、当該第5速ギア段35を係合状態にする。これにより、第2入力軸回転速度Nin2が、判定回転速度β以上である場合には、図7に示すように、第1入力軸回転速度Nin1を、判定回転速度β及び第2入力軸回転速度Nin2に比べて低いものにすることができる。この場合、図7に示すように、第1変速機構30の第1入力軸27、第1クラッチ21が「ハイギア側」のものとなり、第2変速機構40の第2入力軸28、及び第2クラッチ22が「ローギア側」のものとなる。
【0122】
そして、ステップS208において、ECU100は、EV走行中において、第1クラッチ21及び第2クラッチ22のうち、ハイギア側のクラッチである第1クラッチ21を半係合状態にして、内燃機関5のクランキングを行う。すなわち、解放状態にある第1クラッチ21及び第2クラッチ22のうち、それぞれ対応する変速機構において係合状態にある変速段のうち減速比が小さい側(ハイギア側)のクラッチである第1クラッチ21を半係合状態にしている。図7に示す時点t1から、ECU100は、解放状態にある第1クラッチ21を「半係合状態」にする係合動作を開始する。この時点t1の直後から、第1入力軸27から機械的動力(トルク)を、第1クラッチ21を介して機関出力軸8に伝達して、機関回転速度の上昇が開始される。
【0123】
なお、「半係合状態」とは、機関出力軸8と第1入力軸27(又は第2入力軸28)との間で、所定の回転速度差を生じさせつつも、機械的動力の伝達が行われるような第1クラッチ21(又は第2クラッチ22)の係合状態を意味している。半係合状態は、完全な係合状態に比べてクラッチの係合力が低くなるように、当該クラッチの係合/解放動作を操作する操作力を制御することで実現される。
【0124】
そして、時点t2において、当該係合動作が完了して、第1クラッチ21(ハイギア側のクラッチ)が半係合状態となる。第1クラッチ21を半係合状態にすると共に第2クラッチ22をそのまま解放状態にしておくことで、第1入力軸27からは、半係合状態にある第1クラッチ21を介して、図に「−a」で示す値のクランキングトルクを機関出力軸8に伝達してクランキングを行う。
【0125】
そして、時点t2から所定時間経過した時点t3において、ECU100は、内燃機関5のファイアリングを開始する(図6、ステップS210)。すなわち内燃機関5の気筒内において初爆を行う。これにより、時点t3の直後から、内燃機関5は、機関出力軸8から機械的動力(機関トルク)の出力を開始し、それまでに比べて機関回転速度が急速に上昇する。
【0126】
そして、ステップS212において、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸(第1入力軸27)の回転速度である第1入力軸回転速度Nin1以上であるか否かを判定する。機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度に達していない場合(S212:No)、そのままハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)の半係合状態と、ローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)の解放状態を維持する。
【0127】
そして、図7に時点t4で示すように、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度(第1入力軸回転速度Nin1)に達したとき(S212:Yes)において、ECU100は、ハイギア側のクラッチである第1クラッチ21を、そのまま半係合状態に維持すると共に、ローギア側のクラッチである第2クラッチ22を、解放状態から「半係合状態」にする。
【0128】
時点t4において、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度(第1入力軸回転速度Nin1)以上となることにより、ハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)を介して機関出力軸8に伝達されるクランキングトルクは「−a」からゼロに減少し、当該ハイギア側のクラッチを介して機関出力軸8からハイギア側の入力軸(第1入力軸27)に伝達されるトルクは、ゼロから「a」に増大する。このハイギア側のクラッチ伝達トルクの変化と共に、時点t4において、ローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)が半係合状態となることにより、当該ローギア側のクラッチを介して、ローギア側の入力軸(第2入力軸28)から機関出力軸8に伝達されるクランキングトルクは、ゼロから「−a」に増大する。つまり、時点t4以降においては、合計のクラッチ伝達トルクは、ゼロとなり、時点t4より前「−a」に比べて、「+a」分だけ変化することとなる。
【0129】
これにより、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度(第1入力軸回転速度Nin1)に達する前後において、第1及び第2クラッチ21,22に生じるトルク変化の合計(合計のクラッチ伝達トルク)を、図8に示す従来技術のように第1及び第2クラッチ21,22のうち一方を完全に係合状態にしてクランキングを行う場合に比べて抑制することができる。このため、内燃機関5の押しがけ始動を行う場合に、各クラッチ21,22にかかる負荷や、各クラッチ21,22の損耗が、ハイギア側のクラッチに偏ることを抑制することができ、内燃機関5のファイアリング直後において、駆動輪88に伝達される駆動トルクに変動が生じることを抑制することができる。
【0130】
以上のように、EV走行中にECU100が上述した押しがけ始動制御を行うことで、回転速度の低いハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)により、当該クラッチにおける動力損失(摩擦損失)を抑制してクランキングを行い、ファイアリング開始後、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度(第1入力軸回転速度Nin1)以上となるときに、ハイギア側のクラッチの半係合状態はそのままに維持すると共に、ローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)を解放状態から半係合状態にすることで、第1及び第2クラッチ21,22を介して機関出力軸8の駆動輪88との間に作用する合計のクラッチ伝達トルクが、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度を上回った時点の前後において、大きく変化することを、図8に示す従来技術に比べて抑制することができる。
【0131】
なお、本実施形態の押しがけ始動制御では、時点t4以降において、内燃機関5において機関出力軸8からハイブリッド車両1を駆動するのに十分な機械的動力が発生可能となった時点(図示せず)で、第1及び第2クラッチ21,22のうち、一方、例えば、ハイギア側のクラッチである第1クラッチ21を、半係合状態から解放状態にする解放動作を行うと共に、他方、例えば、ローギア側のクラッチである第2クラッチ22を、半係合状態から完全な係合状態にすることで、内燃機関5が機関出力軸8から出力した機械的動力を、ローギア側の入力軸である第2入力軸28に伝達し、(第1変速機構30において係合状態にある変速段(第5速ギア段35)に比べて減速比が大きい)第2変速機構40において係合状態にある変速段(第4速ギア段44)により減速し、トルクを増大させて、駆動輪88に向けて伝達することができる。これにより、内燃機関5の始動後におけるハイブリッド車両1のエンジン走行/HV走行による加速を良好なものにすることができる。
【0132】
以上に説明したように本実施形態に係るハイブリッド車両1において、ECU100は、電気モータ50から出力される機械的動力(モータ出力)のみを駆動輪88に伝達する車両走行であるEV走行中において、機関出力軸8と駆動輪88とを係合させて時点t1からクランキングを行い、当該クランキング中に時点t3からファイアリングを開始して内燃機関5を始動させる。この場合、前記ファイアリングの開始(時点t3)前において、第1及び第2クラッチ21,22のうち、対応する変速機構30,40において係合状態にある変速段の減速比が大きい側であるローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)を解放状態にすると共に、第1及び第2クラッチ21,22のうち、対応する変速機構30,40において係合状態にある変速段の減速比が小さい側であるハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)を半係合状態にして、クランキングを行う。
【0133】
ECU100は、前記クランキング中にファイアリングを開始した後、少なくとも、機関回転速度が、第1及び第2入力軸のうち、ハイギア側の入力軸の回転速度以上となったとき(時点t4)には、第1及び第2クラッチ21,22のうち、それまで半係合状態にあったハイギア側のクラッチ(第1クラッチ21)を半係合状態に維持したまま、それまで解放状態にあったローギア側のクラッチ(第2クラッチ22)が半係合状態となるよう制御するものとしたので、機関回転速度が、ハイギア側の入力軸の回転速度に達する前後において、第1及び第2クラッチ21,22に生じるトルク変化の合計(合計のクラッチ伝達トルク)を、第1及び第2クラッチ21,22のうち一方を完全に係合状態にしてクランキングを行う場合に比べて抑制することができる。これにより、内燃機関5の押しがけ始動を行う場合に、各クラッチ21,22にかかる負荷や、各クラッチ21,22の損耗が、ハイギア側のクラッチに偏ることを抑制することができ、内燃機関5のファイアリング直後において、駆動輪88に伝達される駆動トルクに変動が生じることを抑制することができる。
【0134】
なお、上述した各実施形態1,2において、電気モータ50のロータ52が入力軸(第2入力軸28)に係合する変速機構である第2変速機構40の変速段42,44は、偶数段(第2速ギア段、第4速ギア段)で構成されているものとしたが、本発明が適用可能なデュアルクラッチ式変速機10の態様は、これに限定されるものではない。第2変速機構40の変速段が、奇数段で構成されており、一方、第1変速機構30の変速段が、偶数段で構成されていても良いことは勿論である。
【0135】
また、上述した各実施形態1,2において、電気モータ50は、供給された電力を機械的動力に変換して出力する電動機としての機能と、入力された機械的動力を電力に変換する発電機としての機能とを兼ね備えたモータジェネレータであるものとしたが、本発明に係る電気モータは、これに限定されるものではない。電気モータは、二次電池120から供給された電力を、機械的動力に変換してロータから出力する機能のみを有する電動機で構成するものとしても良い。
【0136】
また、上述した各実施形態1,2に係る第1及び第2変速機構30,40の各変速段31〜44において、メインギア31a〜44aは、それぞれ第1入力軸27又は第2入力軸28に結合されており、メインギア31a〜44aとそれぞれ噛み合うカウンタギア31c〜44cは、第1出力軸37又は第2出力軸48を中心に回転可能に設けられており、カップリング機構31e〜44eは、カウンタギア31c〜44cと、これに対応する出力軸37,48とを係合させるものとしたが、カップリング機構の態様は、これに限定されるものではない。第1及び第2変速機構30,40の各変速段31〜44のうち少なくとも一部の変速段において、メインギアが、これに対応する入力軸を中心に回転可能に設けられ、カウンタギアが、これに対応する出力軸に結合されており、カップリング機構がメインギアと入力軸とを係合させるものとしても良い。
【0137】
また、上述した各実施形態1,2において、第2変速機構40の第2入力軸28には、電気モータ50のロータ52が結合されているものとしたが、本発明が適用可能なデュアルクラッチ式変速機10の態様は、これに限定されるものではない。第2入力軸28は、電気モータ50のロータ52と係合していれば良く、例えば、第2入力軸28とロータ52との間に、ロータ52の回転速度を減速して第2入力軸28に伝達する減速機構や、ロータ52の回転速度を変速して第2入力軸28に伝達する変速機構を設けるものとしても良い。
【0138】
また、上述した各実施形態1,2において、デュアルクラッチ式変速機10は、第1変速機構30が、第1入力軸27で受けた機械的動力を、第1出力軸37から駆動輪88と係合する動力統合ギア58に伝達し、第2変速機構40が、第2入力軸28で受けた機械的動力を、第2出力軸48から動力統合ギア58に伝達するものとしたが、第1変速機構30及び第2変速機構40の態様は、これに限定されるものではない。第1変速機構30及び第2変速機構40は、それぞれ入力軸27,28で受けた機械的動力を、駆動輪88に向けて伝達可能であれば良く、例えば、第1変速機構30と第2変速機構40は、それぞれ第1入力軸27、第2入力軸28で受けた機械的動力を、駆動輪88と係合する共通の出力軸に伝達するものとしても良い。
【0139】
また、上述した各実施形態1,2において、デュアルクラッチ式変速機10は、内燃機関5の機関出力軸8及び電気モータ50のロータ52からの機械的動力を、第1変速機構30及び第2変速機構40のうち少なくとも一方により変速して、動力統合ギア58から、推進軸66、終減速装置70の差動機構74を介して駆動輪88に伝達するものとしたが、第1変速機構30及び第2変速機構40から駆動輪88に向けての動力伝達の態様は、これに限定されるものではない。デュアルクラッチ式変速機10において、第1変速機構30及び第2変速機構40は、それぞれ第1入力軸27及び第2入力軸28で受けた機械的動力を、駆動輪88に向けて伝達可能であれば良く、例えば、動力統合ギア58、又は当該動力統合ギア58と噛み合う第1及び第2駆動ギア37c,48cが、直接に差動機構74のリングギア72を駆動するものとしても良い。
【0140】
また、上述した各実施形態1,2においては、デュアルクラッチ式変速機10の第1入力軸27及び第2入力軸28のうち少なくとも一方に電気モータ50のロータ52が係合しているものとしたが、ハイブリッド車両1の態様は、これに限定されるものではない。EV走行中において内燃機関5を始動させる場合、第1クラッチ21又は第2クラッチ22を係合状態にして、駆動輪88に係合している電気モータ50のロータ52と、機関出力軸8とを係合させると共に、電気モータ50のロータ52に生じるモータトルクを増大させることで、ロータ52から出力されるモータ出力の一部を機関出力軸8に伝達して、クランキングを行うことができれば良く、例えば、原動機として第1及び第2の電気モータを有し、デュアルクラッチ式変速機10の第1入力軸には、第1の電気モータのロータが係合しており、第2入力軸には、第2の電気モータのロータが係合しているものとしても良い。
【0141】
また、上述した各実施形態1,2においては、EV走行中において、一定の車速を維持して内燃機関5の押しがけ始動を行う場合について説明したが、本発明の内燃機関の押しがけ始動制御が適用される車両走行の態様は、これに限定されるものではない。例えば、EV走行により加速走行を行っている場合に、本発明の押しがけ始動制御を行うことも好適である。
【0142】
また、上述した各実施形態1,2において、第1変速機構30において係合状態にある変速段が、第2変速機構40において係合状態にある変速段であるEV走行段に比べて減速比が小さい「ハイギア側」にしてのEV走行中に、内燃機関5の押しがけ始動を行う場合について説明したが、本発明が適用可能な押しがけ始動の態様は、これに限定されるものではない。第1変速機構30において係合状態にある変速段が、EV走行段に比べて減速比が大きい「ローギア側」にしてのEV走行中に、内燃機関5の押しがけ始動を行う場合についても、本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
以上のように、本発明は、デュアルクラッチ式の変速機を備えたハイブリッド車両に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】実施形態1に係るハイブリッド車両の概略構成を示す模式図である。
【図2】実施形態1に係るデュアルクラッチ機構の構造を示す模式図である。
【図3】実施形態1に係る変形例のデュアルクラッチ機構の構造を示す模式図である。
【図4】実施形態1に係るハイブリッド車両の制御手段(ECU)が実行する押しがけ始動制御を示すフローチャートである。
【図5】実施形態1に係るハイブリッド車両において制御手段(ECU)により押しがけ始動制御が実行された場合のハイブリッド車両の動作の一例を説明するタイミングチャートである。
【図6】実施形態2に係るハイブリッド車両の制御手段(ECU)が実行する押しがけ始動制御を示すフローチャートである。
【図7】実施形態2に係るハイブリッド車両において制御手段(ECU)により押しがけ始動制御が実行された場合のハイブリッド車両の動作の一例を説明するタイミングチャートである。
【図8】従来技術に係る押しがけ始動を行った場合のハイブリッド車両の動作を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0145】
1 ハイブリッド車両
5 内燃機関
8 機関出力軸
10 デュアルクラッチ式変速機
20 デュアルクラッチ機構
21 第1クラッチ
22 第2クラッチ
27 第1入力軸
28 第2入力軸
30 第1変速機構
31,33,35,39 ギア段(変速段、歯車対)
37 第1出力軸
40 第2変速機構
42,44 ギア段(変速段、歯車対)
48 第2出力軸
50 電気モータ(モータジェネレータ)
52 電気モータのロータ
66 推進軸
70 終減速装置
74 差動機構
80 駆動軸
88 駆動輪
100 ハイブリッド車両用の電子制御装置(ECU、制御手段、記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機として内燃機関と電気モータとを有し、
複数の変速段のうちいずれか1つを係合状態にして、第1入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第1変速機構と、複数の変速段のうちいずれか1つを係合状態にして、第2入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第2変速機構と、第1変速機構に対応して設けられ、内燃機関の機関出力軸と第1入力軸とを係合させることが可能な第1クラッチと、第2変速機構に対応して設けられ、当該機関出力軸と第2入力軸とを係合させることが可能な第2クラッチとを有し、第1入力軸及び第2入力軸のうち少なくとも一方が電気モータのロータに係合するデュアルクラッチ式変速機と、
第1及び第2クラッチの係合/解放状態を制御可能な制御手段と、
を備えたハイブリッド車両であって、
制御手段は、
電気モータから出力される機械的動力のみを駆動輪に伝達する車両走行であるEV走行中において、機関出力軸と駆動輪とを係合させてクランキングを行い、当該クランキング中にファイアリングを開始して内燃機関を始動させる場合、
前記ファイアリングの開始前において、第1及び第2クラッチのうち対応する変速機構において、係合状態にある変速段の減速比が大きい側であるローギア側のクラッチを解放状態にすると共に、第1及び第2クラッチのうち対応する変速機構において、係合状態にある変速段の減速比が小さい側であるハイギア側のクラッチを係合状態又は半係合状態にして、クランキングを行い、
前記ファイアリングを開始した後、少なくとも、機関回転速度が第1及び第2入力軸のうちハイギア側の入力軸の回転速度を上回るまでには、第1及び第2クラッチのうちハイギア側のクラッチが解放状態となるよう制御する
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両において、
制御手段は、
前記クランキング中にファイアリングを開始した後、少なくとも、機関回転速度が、第1及び第2入力軸のうちハイギア側の入力軸の回転速度を上回るまでには、第1クラッチ及び第2クラッチのうち、ハイギア側のクラッチを解放状態とする解放動作を行うと共に、ローギア側のクラッチを係合状態又は半係合状態にする係合動作を行わせる
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項3】
請求項2に記載のハイブリッド車両において、
制御手段は、
機関回転速度が、第1及び第2入力軸のうちハイギア側の入力軸の回転速度から、予め設定された設定回転速度を減じた値の回転速度を上回ったときに、ハイギア側のクラッチの解放動作を開始すると共に、ローギア側のクラッチの係合動作を開始する
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項4】
請求項3に記載のハイブリッド車両において、
設定回転速度は、
機関回転速度が第1及び第2入力軸のうちハイギア側のクラッチに対応する入力軸の回転速度を上回ったときに、ハイギア側のクラッチを解放状態にする解放動作と、ローギア側のクラッチを係合状態又は半係合状態にする係合動作が完了するように、設定されている
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項5】
原動機として内燃機関と電気モータとを有し、
複数の変速段のうちいずれか1つを係合状態にして、第1入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第1変速機構と、複数の変速段のうちいずれか1つを係合状態にして、第2入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第2変速機構と、第1変速機構に対応して設けられ、内燃機関の機関出力軸と第1入力軸とを係合させることが可能な第1クラッチと、第2変速機構に対応して設けられ、当該機関出力軸と第2入力軸とを係合させることが可能な第2クラッチとを有し、第1入力軸及び第2入力軸のうち少なくとも一方が電気モータのロータに係合するデュアルクラッチ式変速機と、
第1及び第2クラッチの係合/解放状態を制御可能な制御手段と、
を備えたハイブリッド車両であって、
制御手段は、
電気モータから出力される機械的動力のみを駆動輪に伝達する車両走行であるEV走行中において、機関出力軸と駆動輪とを係合させてクランキングを行い、当該クランキング中にファイアリングを開始して内燃機関を始動させる場合、
前記ファイアリングの開始前において、第1及び第2クラッチのうち対応する変速機構において、係合状態にある変速段の減速比が大きい側であるローギア側のクラッチを解放状態にすると共に、第1及び第2クラッチのうち対応する変速機構において、係合状態にある変速段の減速比が小さい側であるハイギア側のクラッチを半係合状態にして、クランキングを行い、
前記クランキング中にファイアリングを開始した後、少なくとも、機関回転速度が第1及び第2入力軸のうちハイギア側の入力軸の回転速度以上となったときには、第1及び第2クラッチのうちローギア側のクラッチが半係合状態となるよう制御する
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のハイブリッド車両において、
原動機として単数の電気モータを備え、
デュアルクラッチ式変速機は、当該電気モータのロータに、第1入力軸及び第2入力軸のうち第2入力軸が係合するものであり、
制御手段は、
前記EV走行中において、
第2入力軸の回転速度が、所定の判定回転速度に比べて低い場合には、
第1変速機構においては、第2変速機構において第2入力軸と駆動輪とを係合させる変速段であるEV走行段に比べて、減速比が大きい変速段を係合状態にし、
第2入力軸の回転速度が、判定回転速度に比べて高い場合には、
第1変速機構においては、EV走行段に比べて、減速比が小さい変速段を係合状態にする
ことを特徴とするハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−208376(P2010−208376A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54015(P2009−54015)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】