説明

パターニングデバイスサポート

【課題】高加速度下で機能することができるパターニングデバイスのスリップ防止解決法を提供する。
【解決手段】リソグラフィ装置のパターニングデバイスステージの移動中のパターニングデバイス270の滑りを実質的に除去するための構成が提供される。このような構成の一つは、保持システムとサポート輸送装置230とを含む。保持システムは、支持デバイス250と、保持デバイス280と、磁歪アクチュエータ260とを含む。保持デバイス280はパターニングデバイス270を支持デバイス250に解放可能に結合する。磁歪アクチュエータ260は、パターニングデバイス270に解放可能に結合され、パターニングデバイス270に加速力を付与する。サポート輸送装置230は支持デバイス250に結合され、磁歪アクチュエータ260による力の付与と同時に支持デバイス250移動し、パターニングデバイス270滑りを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般にリソグラフィに関し、より詳細にはパターニングデバイス用の支持構造および構成に関する。
【背景技術】
【0002】
リソグラフィは、集積回路(IC)並びに他のデバイスおよび/または構造を製造する主要なプロセスとして広く認識されている。リソグラフィ装置は、所望のパターンをターゲット部分などの基板に転写するリソグラフィの間に用いられる機械である。リソグラフィ装置を用いたICの製造中、マスクまたはレチクルとも呼ばれるパターニングデバイスを通常使用して、ICの個々のレイヤ上に形成される回路パターンを作成する。このパターンは、基板(例えばシリコンウェーハ)のターゲット部分(例えば一つまたは複数のダイの一部を含む)に転写される。典型的に、基板上に設けられた放射感応性材料(例えばレジスト)の層へのパターンの結像によってパターンが転写される。典型的な基板は、互いに隣接し連続してパターニングされる多くのターゲット部分を含んでもよい。
【0003】
既知のリソグラフィ装置は、ターゲット部分にパターン全体を一度に露光することで各ターゲット部分が照射されるいわゆるステッパと、所与の方向(「走査」方向)に放射ビームによりパターンを走査する一方、この方向と平行にまたは逆平行に基板を同期して走査することで各ターゲット部分が照射されるいわゆるスキャナとを含む。パターンを基板上にインプリントすることで、パターニングデバイスから基板にパターンを転写することも可能である。
【0004】
走査パターンの生成速度を増大させるために、例えばマスクまたはレチクルであるパターニングデバイスが、例えば毎秒3mである一定の速度で、投影レンズを横切って走査方向に沿って前後に走査される。したがって、静止状態から開始し、レチクルは速やかに加速して走査速度に到達し、続いて走査の終了時にレチクルは速やかにゼロまで減速し、方向を逆転し、反対方向に加速して走査速度に到達する。加速度/減速度は例えば重力加速度の15倍である。走査の定速部分の間はパターニングデバイスには慣性力が存在しない。しかしながら、走査の加速部分および減速部分の間に遭遇する、例えば約60ニュートン(=パターニングデバイス質量0.4kg×加速度150m/sec)という大きな慣性力が、パターニングデバイスをスリップさせてしまうことがある。このようなスリップは、基板上でのデバイスパターンの位置ずれを引き起こしうる
【0005】
パターニングデバイスの滑りを解決する試みは、真空システムなどのクランプを用いてパターニングデバイスを適所に保持すること、および/または摩擦コーティングを用いてパターニングデバイスとクランプの間の摩擦を増加させることを含む。しかしながら、生成速度の要求が増大するにつれ方向反転の速度が速くなり、加速度がより大きくなってこれらの解決策の利点を低下させている。クランプを用いる場合、パターニングデバイスとクランプとの間の垂直抗力(normal force)が、走査の加速部分および減速部分の間に摩擦力を発生させる。これらの部分の間、この摩擦力がパターニングデバイスを適所に保持する。しかしながら、真空クランプを用いる場合、大気と真空の間の最大差圧によって摩擦力が制限され、約1barに過ぎない。さらに、クランプと接触するパターニングデバイスの表面積が小さく、クランプによって発生可能な垂直抗力が制限される。現在のところ、適切な摩擦コーティングの最大摩擦係数は、約0.25に過ぎない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のことを考えると、追加される質量および制御を最小限にして、高加速度下で機能することができるパターニングデバイスのスリップ防止解決法を提供する改善された方法およびシステムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、支持デバイスと保持デバイスと磁歪アクチュエータとを有する保持システムと、支持デバイスに結合され支持デバイスを移動するよう構成されたサポート輸送装置と、を備えるパターニングデバイス輸送システムを提供する。保持デバイスはパターニングデバイスを支持デバイスに解放可能に結合するよう構成され、磁歪アクチュエータはパターニングデバイスに力を与えるように構成される。サポート輸送装置は、磁歪アクチュエータがパターニングデバイスに力を与えるのと同時に支持デバイスを移動して、支持デバイスの移動中のパターニングデバイスの滑りが実質的に除去されるようにする。
【0008】
本発明の別の実施形態は、リソグラフィ装置用のパターニングデバイスステージシステムを提供する。このシステムは、パターニングデバイスをステージに解放可能に結合するよう構成されたステージと、ステージの移動を制御するよう構成されたステージ制御システムと、パターニングデバイスに力を付与するよう構成された磁歪制御システムと、を備える。
【0009】
本発明のさらなる実施形態は、パターニングデバイスステージの移動中のパターニングデバイスの滑りを低減する方法を提供する。この方法は、支持デバイスを用いてパターニングデバイスを支持し、保持デバイスを用いてパターニングデバイスを支持デバイスに対して同時に保持し、第1移動装置を用いて支持デバイスを移動し、第1移動装置を用いて支持デバイスを移動するのと同時に、磁歪アクチュエータを用いてパターニングデバイスに力を付与することを含む。
【0010】
本発明の特徴および利点は、本発明の様々な実施形態の構造および作用とともに、添付の図面を参照して以下で詳細に説明される。本発明は、本書で説明される特定の実施形態に限定されない。このような実施形態は、例証目的で本書に提示されているに過ぎない。本書に含まれる教示に基づけば、さらなる実施形態は関連分野の当業者にとって明らかであろう。
【0011】
本書に包含され明細書の一部をなす添付の図面は本発明を例証し、詳細な説明とともに本発明の原理を説明し、関連分野の当業者が本発明を実施し使用できるようにする役割を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】本発明の一実施形態に係る反射型リソグラフィ装置の模式図である。
【図1B】本発明の一実施形態に係る透過型リソグラフィ装置の模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る、スリップ防止制御を用いるパターニングデバイス輸送システムの模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る、スリップ防止制御を用いないパターニングデバイス輸送システムの上面模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る、スリップ防止制御を用いるパターニングデバイス輸送システムの部分側面模式図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る、スリップ防止制御を用いるステージシステムの模式図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る、スリップ防止制御を用いたパターニングデバイス輸送方法を表すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態に係る、スリップ防止制御を用いた輸送システムにパターニングデバイスを搭載する方法を表すフローチャートである。
【図8】図8A−8Dは、本発明の一実施形態に係る、輸送システム上にパターニングデバイスを搭載する方法の様々なステップにおける、スリップ防止制御を用いたパターニングデバイス輸送システムの部分側面模式図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る、スリップ防止制御を用いるステージシステムの模式図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る、スリップ防止制御を用いるパターニングデバイス輸送システムの部分側面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の特徴および利点は、同様の参照符号が全文書を通して対応する要素を特定する図面とともに以下で述べられる詳細な説明からより明らかになるだろう。一般に、図面において同様の参照符号は、同一の、機能的に類似の、および/または構造が類似の要素を表している。概して、要素が最初に現れる図面は、対応する参照番号の左端の数字で表される。
【0014】
本発明の実施形態は、スリップ防止制御を用いるパターニングデバイス輸送システムを対象にしている。本明細書は、本発明の特徴を含む一つまたは複数の実施形態を開示する。開示される実施形態は本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲は開示される実施形態に限定されない。本発明は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【0015】
説明される実施形態、および「一実施形態」、「実施形態」、「例示的な実施形態」等への明細書内での言及は、説明する実施形態が特定の特徴、構造または特性を備えてもよいが、必ずしもあらゆる実施形態がその特定の特徴、構造または特性を備える必要はないことを示している。また、このような表現は同一の実施形態を必ずしも指し示すものではない。さらに、実施形態とともに特定の特徴、構造または特性が記載される場合、明示的に記載されているか否かに関わらず、そのような特徴、構造または特性を他の実施形態とともに実現することは当業者の知識内であると理解されたい。
【0016】
本発明の実施形態は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、またはそれらの任意の組合せで実現することができる。本発明の実施形態は、一つまたは複数のプロセッサで読み取り実行することが可能な機械可読媒体に格納された命令として実装することも可能である。機械可読媒体は、機械(例えば、計算装置)によって読み取り可能な形態で情報を記録または伝達する任意の機構を含んでもよい。例えば、機械可読媒体は以下を含むことができる。すなわち、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、磁気ディスク記憶媒体、光記憶媒体、およびフラッシュメモリデバイスである。さらに、本明細書では、ファームウェア、ソフトウェア、ルーチン、命令が、特定の動作を実行するものとして記載されてもよい。しかしながら、そのような記載は便宜上のものに過ぎず、そのような動作は実際には計算装置、プロセッサ、コントローラ、またはファームウェア、ソフトウェア、ルーチン、命令等を実行する他のデバイスから生じるものであると理解されたい。
【0017】
図1は、リソグラフィ装置100およびリソグラフィ装置100’をそれぞれ模式的に示す図である。リソグラフィ装置100およびリソグラフィ装置100’はそれぞれ、放射ビームB(例えばDUV放射またはEUV放射)を調整する照明系(イルミネータ)ILと、パターニングデバイス(例えばマスク、レチクル、または動的パターニングデバイス)MAを支持するよう構成されるとともに、パターニングデバイスMAを正確に位置決めするよう構成された第1ポジショナPMに接続されている支持構造(例えばマスクテーブル)MTと、基板(例えば、レジストでコーティングされたウェーハ)Wを保持するよう構成されるとともに、基板Wを正確に位置決めするよう構成された第2ポジショナPWに接続されている基板テーブル(例えばウェーハテーブル)WTと、を備える。リソグラフィ装置100およびリソグラフィ装置100’は、パターニングデバイスMAにより放射ビームBに付与されたパターンを基板Wの(例えば一つまたは複数のダイを含む)目標部分Cに投影するように構成された投影系PSも備える。リソグラフィ装置100では、パターニングデバイスMAおよび投影系PSが反射型であり、リソグラフィ装置100’では、パターニングデバイスMAおよび投影系PSが透過型である。
【0018】
照明系ILは、放射ビームBの向きや形状を変え、または放射ビームBを統制するために、屈折光学素子、反射光学素子、磁気的光学素子、電磁気的光学素子、静電的光学素子、あるいは他の種類の光学素子などの各種の光学素子、またはこれらの組合せを含み得る。
【0019】
支持構造MTは、パターニングデバイスMAの向き、リソグラフィ装置100および100’の構成、及びパターニングデバイスMAが真空環境で保持されるか否か等のその他の条件に応じた方式でパターニングデバイスMAを保持する。支持構造MTは、機械的固定、真空固定、静電固定、またはパターニングデバイスMAを保持するその他の固定技術を用いてもよい。支持構造MTは、例えばフレームまたはテーブルであってもよく、これらは固定されていてもよいし必要に応じて移動可能であってもよい。支持構造MTは、例えば投影系PSに対して所望の位置にパターニングデバイスを位置決めすることを保証してもよい。
【0020】
「パターニングデバイス」MAなる用語は、基板Wの目標部分Cにパターンを生成するために放射ビームBの断面にパターンを与えるのに使用される何らかのデバイスを指すものと広義に解釈される。放射ビームBに付与されたパターンは、目標部分Cに生成される集積回路等のデバイスにおける特定の機能層に対応する。
【0021】
パターニングデバイスMAは、(図1Bのリソグラフィ装置100’のような)透過型であってもよいし、(図1Aのリソグラフィ装置100のような)反射型であってもよい。パターニングデバイスMAには例えばマスク、プログラム可能ミラーアレイ、及びプログラム可能LCDパネルが含まれる。マスクはリソグラフィにおいて周知であり、バイナリマスク、レベンソン型位相シフトマスク、減衰型位相シフトマスク、さらには多様なハイブリッド型マスクなどのマスク種類が含まれる。プログラム可能ミラーアレイは例えば、微小ミラーのマトリックス配列で構成される。各微小ミラーは、入射する放射ビームを異なる複数の方向に反射するよう個別的に傾斜可能である。ミラーマトリックスにより反射された放射ビームには、傾斜されたミラーによってパターンが付与されている。
【0022】
「投影系」なる用語は、使用される露光放射、または液浸液の使用あるいは真空の使用などの他の要因に適合する、屈折光学素子、反射光学素子、反射屈折光学素子、磁気的光学素子、電磁気的光学素子、静電的光学素子、またはこれらの組合せを含む何らかの投影系を包含することができる。過剰な放射または過剰の電子を他の気体が吸収するので、EUVまたは電子ビーム放射のために真空環境を使用してもよい。したがって、真空壁および真空ポンプの助けを借りて、ビーム経路の全体に真空環境が与えられてもよい。
【0023】
リソグラフィ装置100および/またはリソグラフィ装置100’は2つ以上(2つの場合にはデュアルステージと呼ばれる)の基板テーブル(および/または2つ以上のマスクテーブル)WTを備えてもよい。このような「多重ステージ」型の装置においては、追加の基板テーブルWTを平行して使用することもできるし、あるいは1以上のテーブルWTで露光が行われている間に1以上の他の基板テーブルで準備工程が実行することもできる。
【0024】
図1Aおよび図1Bを参照すると、イルミネータILは放射源SOから放射ビームを受け取る。例えば光源SOがエキシマレーザである場合には、光源SOとリソグラフィ装置100、100’とは別体であってもよい。この場合、光源SOはリソグラフィ装置100、100’の一部を構成しているとはみなされず、放射ビームBは光源SOからビーム搬送系BD(図1B)を介してイルミネータILへと到達する。ビーム搬送系BDは例えば適当な方向変更用ミラー及び/またはビームエキスパンダを含む。別の場合、例えば光源SOが水銀ランプである場合には、光源SOはリソグラフィ装置100、100’と一体に構成されていてもよい。光源SOとイルミネータILとは、またビーム搬送系BDが必要とされる場合にはこれも合わせて、放射系と総称されることがある。
【0025】
イルミネータILは放射ビームの角強度分布を調整するアジャスタAD(図1B)を備えてもよい。一般には、イルミネータの瞳面における照度分布の少なくとも外径及び/または内径の値(通常それぞれ「σouter」、「σinner」と呼ばれる)が調整される。加えてイルミネータILは、インテグレータIN及びコンデンサCOなどの他の要素(図1B)を備えてもよい。イルミネータILはビーム断面における所望の均一性及び照度分布を得るべく放射ビームBを調整するために用いられる。
【0026】
図1Aを参照すると、放射ビームBは、支持構造(例えばマスクテーブル)MTに保持されているパターニングデバイス(例えばマスク)MAに入射して、当該パターニングデバイスMAによりパターンが付与される。リソグラフィ装置100、100’では、放射ビームBはパターニングデバイス(例えばマスク)MAから反射される。パターニングデバイス(例えばマスク)MAから反射された後に、放射ビームBは投影系PSを通過する。投影系PSはビームBを基板Wの目標部分Cに合焦させる。第2ポジショナPWと位置センサIF2(例えば、干渉計、リニアエンコーダ、静電容量センサなど)により基板テーブルWTを正確に移動することができる(例えば、放射ビームBの経路に異なる目標部分Cを位置決めする)。同様に、第1ポジショナPMおよび別の位置センサIF1を使用して、放射ビームBの経路に対してパターニングデバイス(例えばマスク)MAを正確に位置決めすることができる。マスクアライメントマークM1、M2および基板アライメントマークP1、P2を使用して、パターニングデバイス(例えばマスク)MAおよび基板Wを位置合わせすることができる。
【0027】
図1Bを参照すると、支持構造(例えばマスクテーブルMT)に保持されるパターニングデバイス(例えばマスクMA)に放射ビームBが入射し、パターニングデバイスによってパターンが付与される。マスクMAの通過後、放射ビームBは投影系PSを通過し、投影系PSが基板Wの目標部分Cにビームを合焦させる。第2ポジショナPWと位置センサIF(例えば、干渉計、リニアエンコーダ、静電容量センサなど)の助けにより、基板テーブルWTを正確に移動させることができる(例えば、放射ビームBの経路に異なる目標部分Cを位置決めする)。同様に、(例えば、走査中またはマスクライブラリからのマスク交換後に)第1ポジショナPMと別の位置センサ(図1Bには明示されていない)により放射ビームBの経路に対してマスクMAが正確に位置決めされてもよい。
【0028】
一般に、マスクテーブルMTの移動は、ロングストロークモジュール(粗い位置決め用)及びショートストローク(SS)モジュール(精細な位置決め用)により実現される。これらモジュールは、第1ポジショナPMの一部を構成する。同様に、基板テーブルWTの移動は、第2ポジショナPWの一部を構成するロングストロークモジュール及びショートストロークモジュールにより実現される。ステッパの場合には(スキャナとは異なり)、マスクテーブルMTはショートストロークモジュールにのみ接続されていてもよいし、マスクテーブルMTは固定されていてもよい。マスクMAと基板Wとは、マスクアライメントマークM1、M2、及び基板アライメントマークP1、P2を使用して位置合わせされる。(図示される)基板アライメントマークは専用の目標部分を占有しているが、基板アライメントマークは目標部分間の領域に配置されていてもよい(スクライブラインアライメントマークとして公知である)。同様に、マスクMAに複数のダイがある場合には、マスクアライメントマークがダイ間に配置されてもよい。
【0029】
リソグラフィ装置100、100’は以下のモードのうち少なくとも一つで使用することができる。
1.ステップモードにおいては、放射ビームBに付与されたパターンの全体が1回の照射で一つの目標部分Cに投影される間、支持構造(例えばマスクテーブル)MT及び基板テーブルWTは実質的に静止状態とされる(すなわち1回の静的な露光)。そして基板テーブルWTがX方向及び/またはY方向に移動されて、異なる目標部分Cが露光される。
2.スキャンモードにおいては、放射ビームに付与されたパターンが目標部分Cに投影される間、支持構造(例えばマスクテーブル)MT及び基板テーブルWTは同期して走査される(すなわち1回の動的な露光)。支持構造(例えばマスクテーブル)MTに対する基板テーブルWTの速度及び方向は、投影系PSの拡大(縮小)特性及び像反転特性により定められる。
3.別のモードにおいては、放射ビームに付与されたパターンが目標部分Cに投影される間、支持構造(例えばマスクテーブル)MTはプログラム可能パターニングデバイスを保持して実質的に静止状態とされ、基板テーブルWTは移動または走査される。パルス放射源SOが用いられ、プログラム可能パターニングデバイスは走査中に基板テーブルWTが移動するたびに、または連続するパルスとパルスの間に必要に応じて更新される。この動作モードは、本明細書のプログラム可能ミラーアレイなどのプログラム可能パターニングデバイスを使用するマスクレスリソグラフィに適用可能である。
【0030】
上記のモードを組み合わせて動作させてもよいし、モードに変更を加えて動作させてもよく、さらに全く別のモードを用いてもよい。
【0031】
本明細書ではICの製造におけるリソグラフィ装置の使用を例として説明しているが、リソグラフィ装置は他の用途にも適用することが可能であるものと理解されたい。他の用途としては、集積光学システム、磁区メモリ用案内パターンおよび検出パターン、フラットパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD)、薄膜磁気ヘッドなどがある。当業者であればこれらの他の適用に際して、本明細書における「ウェーハ」あるいは「ダイ」という用語がそれぞれ「基板」あるいは「目標部分」という、より一般的な用語と同義であるとみなされると理解することができるであろう。基板は露光前または露光後においてトラック(典型的にはレジスト層を基板に塗布し、露光後のレジストを現像する装置)、メトロロジツール、及び/またはインスペクションツールにより処理されてもよい。適用可能であれば、本明細書の開示はこれらのまたは他の基板処理装置にも適用され得る。また、基板は例えば多層ICを製造するために複数回処理されてもよく、その場合には本明細書における基板という用語は既に処理されている多数の処理層を含む基板をも意味する。
【0032】
さらなる実施形態では、リソグラフィ装置100は、EUVリソグラフィのためのEUV放射ビームを生成する極紫外(EUV)光源を含む。一般に、EUV源は放射系(後述)に設けられ、対応する照明系はEUV源のEUV放射ビームを調整する。
【0033】
本明細書に記載の実施形態において、「レンズ」「レンズ素子」なる用語は文脈が許す限り、屈折光学素子、反射光学素子、磁気的光学素子、電磁的光学素子、及び静電的光学素子のいずれかまたは任意の組合せを示してもよい。
【0034】
また、本明細書における「放射」及び「ビーム」なる用語は、(例えば365nm、248nm、193nm、157nm、または126nmの波長λを有する)紫外(UV)放射、(例えば約5乃至20nmの範囲に含まれる波長(例えば13.5nm)を有するか)極紫外(EUVまたは軟X線)放射を含むあらゆる電磁放射、及びイオンビームまたは電子ビーム等の粒子ビームを含む。一般に、780乃至3000nm(またはそれ以上)の間の波長を有する放射は赤外放射とみなされる。UVとはおよそ100乃至400nmの波長を有する放射を言う。リソグラフィにおいては水銀放電ランプにより生成される波長がしばしば用いられる。436nmのG線、405nmのH線、365nmのI線である。真空UVまたはVUV(つまり空気に吸収されるUV)とはおよそ100乃至200nmの波長を有する放射を言う。深紫外(DUV)とは一般に約126から約428nmの波長を有する放射を言う。一実施例においては、エキシマレーザが、リソグラフィ装置で使用されるDUV放射を生成可能である。なお、例えば約5乃至20nmの波長を有する放射とは約5乃至20nmの範囲の少なくとも一部のある波長域を有する放射を言うものと理解されたい。
【0035】
図2は、本発明の一実施形態に係るパターニングデバイス輸送システム200の模式図である。パターニングデバイス輸送システム200は、サポート輸送装置230と、支持デバイス250を有する保持システムと、保持デバイス280と、磁歪アクチュエータ260とを備える。輸送装置230は支持デバイス250を動かす。支持デバイス250はパターニングデバイス270を支持する。磁歪アクチュエータ260は、走査移動プロファイルの加速部分の間、パターニングデバイス270に力を付与する。保持デバイス280はパターニングデバイス270を保持し、走査移動プロファイルの定速部分の間、支持デバイス250に対するパターニングデバイス270の変位がないようにする。
【0036】
一実施例では、パターニングデバイス270(例えば、マスク、レチクルまたは動的パターニングデバイス)は、保持デバイス280(例えば、真空システム)によって支持デバイス250に解放可能に保持される。支持デバイス250は、x方向とy方向の両方に移動するように構成可能である。輸送装置230は支持デバイス250に結合され、走査移動プロファイルの加速部分の間、輸送装置230が支持デバイス250を加速するのに十分な力を与えられるようにする。
【0037】
一実施例では、輸送装置230が、支持デバイス250と、解放可能に保持されたパターニングデバイス270とを高速度および高加速度で移動させてもよい。加速度を高くすると、パターニングデバイス270と支持デバイス250との間に剪断力が生じることがある。この剪断力は、保持デバイス280および支持デバイス250に対するパターニングデバイス270の滑りを引き起こすことがある。この剪断力を実質的に除去するために、磁歪アクチュエータ260がパターニングデバイス270に解放可能に結合されてもよい。磁歪アクチュエータ260は、パターニングデバイス270と支持デバイス250の間の剪断力を取り除くのに十分な力をパターニングデバイス270に直接与えることができる。磁歪アクチュエータ260とパターニングデバイス270とが結合されている場合、保持デバイス280は、パターニングデバイス270と支持デバイス250とが実質的に相対移動しないように十分な保持力を与えることができる。
【0038】
一実施例では、保持デバイス280は、移動中にパターニングデバイス270が相対的に静止するように保持するための、解放可能な真空クランプシステムを備える。別の実施例では、保持デバイス280は、当業者には既知である高摩擦コーティングなどの他の適切な方法を用いてパターニングデバイス270を保持することができる。真空クランプの剪断力限度を増大させるために高摩擦コーティングを使用してもよい。
【0039】
図3は、本発明の一実施形態に係る、スリップ防止制御を用いないパターニングデバイス輸送システム300の模式図である。
【0040】
この例では、パターニングデバイス輸送システム300は、長ストローク装置310と、支持フレーム320と、サポート輸送装置330(例えば、コイル330A−330Dおよび磁石340A−340D)と、支持デバイス350と、パターニングデバイス370を支持デバイス350に解放可能に結合する保持デバイス380と、を備える。
【0041】
一実施例では、垂直指向のローレンツ型アクチュエータ(図示せず)によって、支持デバイス350を支持フレーム320に対して磁気浮上させることができる。支持フレーム320と支持デバイス350の間には物理的な接触がない。
【0042】
一実施例では、保持デバイス380によって、パターニングデバイス370(例えば、マスク、レチクルまたは動的パターニングデバイス)が支持デバイス350に解放可能に保持されてもよい。一実施例では、保持デバイス380が一組の真空クランプ380Aおよび380Bを備え、真空力によって強化された摩擦によって支持デバイス350に対してパターニングデバイス370を保持してもよい。一実施例では、支持デバイス350はx方向とy方向の両方に移動することができる。一実施例では、コイル330A−330Dが、支持デバイス350を動かすy方向の力を与えることができる。磁石340A−340Dは、物理接触なしでコイル330A−330Dと電磁気的に結合する。符号330−340の組はそれぞれ、純粋な力のカップリングと同程度に当分野で知られているローレンツ型電磁アクチュエータを構成する。
【0043】
一実施例では、長ストローク装置310は、パターニングデバイス370と支持デバイス350の間に剪断力を生じさせない比較的低速度で、(図示しないX方向のローレンツアクチュエータを介して)支持フレーム320をx方向に移動させる。
【0044】
一実施例では、輸送装置330は、比較的高い割合で加速して実質的な走査速度に達するように、支持デバイス350を+yおよび−y方向に移動し、パターニングデバイス370を解放可能に保持する。一実施例では、輸送装置330により、支持フレーム320によって支持デバイス350に高いY力を作用させることができる。一実施例では、輸送装置330はコイル330A−330Dおよび磁石340A−340Dを備える。一実施例では、コイル330A−330Dが支持フレーム320に取り付けられ、磁石340A−340Dが支持デバイス350に結合される。
【0045】
例えば、解放可能に結合されたパターニングデバイス370とともに支持デバイス350を−y方向に(例えば、図3で左から右に)移動するために、コイル330Aおよび330Cが励起され、磁石340Aおよび340Cに対する反発力を生成する。コイル330Aおよび330Cが励起されると、磁石340Aおよび340Cに対する反発力が支持デバイス350を−y方向に推進する。支持デバイス350の−y方向の動きを補助するために、磁石340Bおよび340Dに吸引力を実質的に同時に生成するように、コイル330Bおよび330Dが励起される。したがって、コイル330Aおよび330Cと磁石340Aおよび340Cが支持デバイス350を−y方向に押す一方、実質的に同時に、コイル330Bおよび330Dと磁石340Bおよび340Dが支持デバイス350を−y方向に引く。
【0046】
同様に、支持デバイス350とパターニングデバイス370の+y方向の移動は、力の向きが逆であることを除き、同様に実行される。デバイスコイル330Aおよび330Cと磁石340Aおよび340Cが励起されると、支持デバイス350を+y方向に引き、実質的に同時に、コイル330Bおよび330Dと磁石340Bおよび340Dが支持デバイス350を+y方向に押す。
【0047】
図3に示す実施形態は、移動中のパターニングデバイス370の滑りを防止するのに、保持デバイス380(例えば、真空クランプおよび/または摩擦コーティング)によってパターニングデバイス370と支持デバイス350との間に生成される摩擦に依存していることが理解される。
【0048】
図4は、本発明の一実施形態に係る、スリップ防止制御を用いるパターニングデバイス輸送システム400の模式図である。
【0049】
この例では、パターニングデバイス輸送システム400は、長ストローク装置(図示せず)に結合された支持フレーム420と、サポート輸送装置(図示せず)に結合された支持デバイス450と、パターニングデバイス470を支持デバイス450に解放可能に結合する保持デバイス480と、磁歪アクチュエータ460と、を備える。
【0050】
一実施例では、パターニングデバイス輸送システム400は、パターニングデバイス輸送システム300と同様に作動するが、磁歪アクチュエータ460が追加されている。x方向の移動は、図3と同様に長ストローク装置(図示せず)を用いて達成される。長ストローク装置は、支持デバイス450が結合された支持フレーム420を移動する。y方向の移動は、図3と同様に、結合されたサポート輸送装置(図示せず)を用いて達成される。一実施例では、−y方向に移動するために、サポート輸送装置(例えば、電磁的に結合されたコイルおよび磁石)が励起され、支持デバイス450を−y方向に移動する一方、支持デバイス450とパターニングデバイス470の+y方向の移動は、力の向きが逆であることを除き、同様に実行される。
【0051】
別の実施例では、パターニングデバイス輸送システム400で磁歪アクチュエータ460を用いて、保持デバイス480(例えば、真空クランプまたは摩擦コーティング)によって生成される摩擦力を、加速方向と逆向きの端でパターニングデバイス470に直接付与される垂直押圧力で補完して、パターニングデバイスの滑りを実質的に減少または排除する。一実施例では、磁歪アクチュエータ460は、磁場源462と、プッシュロッド463と、付勢デバイス464と、クランプデバイス465とを備えてもよい。磁歪アクチュエータ460は、パターニングデバイス470と同一の側または反対側のいずれかに、実質的に同様の態様で動作する、追加の磁場源、プッシュロッド、付勢デバイスおよびクランプデバイスをさらに備えてもよい。
【0052】
一実施例では、プッシュロッド463が、磁場下でその形状または寸法を変化させる磁歪材料からなる。プッシュロッド463を磁場源462と電磁気的に結合することができる。磁場源462が磁場を生成すると、プッシュロッド463が寸法を変化させてパターニングデバイス470と解放可能に結合する。
【0053】
一実施例では、磁場源462がコイルであり、プッシュロッド463がコイルを貫通する。コイルが励起されると、磁場がプッシュロッド463の長さを増加させて、プッシュロッド463の遠位端466がパターニングデバイス470と接触する。プッシュロッド463の遠位端466とパターニングデバイス470の接触により、パターニングデバイス470に直接に力が作用する。磁歪材料は、磁場下で寸法が変化する任意の適切な材料であってよい。プッシュロッドの磁歪材料および寸法と、プッシュロッドの単位長さ当たりのコイル巻数および電流は、プッシュロッド463の望み通りの長さ変化を達成するために変更および調節することができる。さらに、磁場によって生じるプッシュロッド463の長さ変化が実質的に線形であり繰り返し可能であるため、プッシュロッド463を閉ループ動作で制御するための追加の位置センサおよび力センサは不要である。代わりに、プッシュロッド463の繰り返し応答を開ループ動作の間に用いることができる。しかしながら、任意のICまたは他のデバイスおよび/または構造を製造する前に、そのようなセンサを使用してパターニングデバイス輸送システム400を較正してもよい。
【0054】
一実施例では、磁歪材料はTerfenol−Dであり、プッシュロッド463の直径が約0.75cmであり長さが約5cmである。この例では、ロッド463の全長にわたりコイルが約500回の巻数を有し、約1Aの電流で駆動される。この例は単に本発明の例示のために提供されており、ロッド材料、ロッド寸法、コイル巻数およびコイル電流のこれらの特定の例に本発明が限定されるものではない。
【0055】
別の実施例では、磁歪アクチュエータは、パターニングデバイス470に向けてプッシュロッド463を付勢する付勢デバイス464を備える。図4には付勢デバイス464がバネとして示されているが、付勢デバイス464はバネに限定されない。付勢デバイス464は、バネ、空気圧式アクチュエータ、双安定アクチュエータ、またはプッシュロッド463に付勢力を与える任意の他の適切なデバイスであってよい。付勢デバイス464は、プッシュロッド463の遠位端466とパターニングデバイス470との間に初期ギャップ467を設定するためにプレロードを付与することができる。これについては、図7および図8A−8Dに関して後述する。付勢デバイス464は、パターニングデバイスの交換中に、パターニングデバイス470から離してプッシュロッド463を引き込むことができる。別の実施例では、パターニングデバイス470から離してプッシュロッド463を引き込むように付勢デバイス464を構成することができる。
【0056】
一実施例では、磁歪アクチュエータ460はクランプデバイス465を備えてもよい。クランプデバイス465は、プッシュロッド463の近位部468を支持デバイス450に解放可能に結合するように構成される。結合時、クランプデバイス465は、近位部468がパターニングデバイス470に対して移動することを防ぐ。クランプデバイス465は、例えば真空システムを備えてもよいし、プッシュロッド463の一部を解放可能に結合するための任意の他の適切なデバイスを備えてもよい。
【0057】
一実施例では、支持デバイス450に結合された輸送装置と磁歪アクチュエータ460とを共通の制御信号が制御する。例えば、輸送装置(例えば、電磁気的に結合されたコイルおよび磁石)の駆動に用いられる電流を使用して磁場源462を制御することができる。こうして、輸送装置が支持デバイス450を移動するのと実質的に同時に、磁場源462のコイルが励起されて磁場を生成する。同じく実質的に同時に、磁場によってプッシュロッド463の長さが増加してパターニングデバイス470と接触する。この動作により、パターニングデバイス470に力が作用して、保持デバイス480によって生成される摩擦力を補完する。別の実施例では、支持フレーム420に結合された長ストローク装置を駆動する電流を使用して、磁場源462を制御することができる。その結果、長ストロークデバイスを用いて支持フレーム420を動かすのと同時に、磁場源462のコイルが励起されてプッシュロッド463の長さが増加する。これらの構成は、磁歪アクチュエータ460を制御する信号に対する追加の制御信号処理装置(例えば、信号増幅器)を不要にする。
【0058】
しかしながら、別の実施例では、磁歪アクチュエータ460を制御する信号は、輸送装置または長ストローク装置を制御する信号とは別のものである。この例では、磁歪アクチュエータ460用の追加の制御信号処理装置(例えば、信号増幅器)が必要な場合もある。
【0059】
図5は、本発明の一実施形態に係るリソグラフィ装置用のステージシステム500の模式図である。ステージシステム500は、ステージ制御システム530と、ステージ550と、磁歪アクチュエータ560とを備える。
【0060】
一実施例では、パターニングデバイス570が(例えば真空を用いて)ステージ550に解放可能に保持される。ステージ制御システム530はステージ550に結合される。ステージ制御システム530は、ステージ550を移動するのに十分な力を与えることができる。ステージ制御システム530は、ステージ550と、解放可能に保持されたパターニングデバイス570とを、高い速度と対応する高い加速度をもって移動することができる。このような加速によって、パターニングデバイス570とステージ550との間に剪断力が発生し、その結果パターニングデバイス570がステージ550に対して滑ることがある。この剪断力を実質的に除去するために、磁歪アクチュエータ560がパターニングデバイス570に解放可能に結合される。磁歪アクチュエータ560は、パターニングデバイス570とステージ550の間の剪断力を減少するための力をパターニングデバイス570に直接与えることができる。パターニングデバイス570とステージ550との間の力は、磁歪アクチュエータ560がパターニングデバイス570に結合されている場合、パターニングデバイス570とステージ550とが実質的に相対移動しないような十分な保持力である。
【0061】
別の実施形態では、摩擦コーティングまたは当業者に既知である他の方法を用いて、ステージ550がパターニングデバイス570を保持してもよい。
【0062】
図6は、本発明の一実施形態に係るパターニングデバイスの移動方法600を示すフローチャートである。例えば、図1A、1B、2−5に示した上記の装置のうちの一つまたは複数を用いて方法600を実行することができる。この例では、方法600がステップ602から始まり、ステップ604に進む。ステップ604で、パターニングデバイスが支持デバイスで支持される。ステップ606で、保持デバイス(例えば真空システム)を用いてパターニングデバイスが同時に支持される。ステップ608で、第1移動装置を用いて支持デバイスが移動される。ステップ610で、支持デバイスの移動と同時に、磁歪アクチュエータを用いてパターニングデバイスに力が付与される。この方法はステップ612で終了する。
【0063】
図7は、本発明の一実施形態に係る、パターニングデバイス輸送システムにパターニングデバイスを搭載する方法700を示すフローチャートである。磁場下での磁歪プッシュロッドの長さ変化を数十マイクロメートルに制限することができる。このため、磁場にさらされておらず非伸張状態であるとき、プッシュロッドの遠位端がパターニングデバイスにごく近接して位置していなければならない。さらに、プッシュロッドの熱膨張がパターニングデバイスの位置決めを妨げることがあるので、走査インターバルの間、プッシュロッドはパターニングデバイスに常に接触することができない。よって、方法700にしたがってパターニングデバイス輸送システム上にパターニングデバイスを搭載して、プッシュロッドの遠位端とパターニングデバイスとの間に初期ギャップを自動的に形成することが望ましい。
【0064】
この例では、方法700がステップ702から始まり、ステップ704に進む。ステップ704で、支持デバイスを用いてパターニングデバイスが支持される。ステップ706で、付勢デバイスが磁歪プッシュロッドを支持デバイス上のパターニングデバイスに対して移動する。ステップ708で、磁場源を用いて磁場が生成される。一実施例では、磁場がないときの所望のクリアランス、すなわちプッシュロッドとパターニングデバイスの間のギャップに磁場が比例する。磁場源に電磁気的に結合された磁歪プッシュロッドの長さが増加する。ステップ706と708は交換可能であり、同時に実行されてもよい。ステップ710で、クランプデバイス(例えば、真空システム)を用いて、磁歪プッシュロッドの近位部が支持デバイスに解放可能に結合される。ステップ712で、磁場が取り除かれ、磁歪プッシュロッドが元の長さに戻り、プッシュロッドの遠位端とパターニングデバイスの間にギャップを形成する。
【0065】
図8A−8Dは、パターニングデバイス輸送システム800上にパターニングデバイス870を搭載する方法700の異なるステップにおける、スリップ防止制御を用いたパターニングデバイス輸送システム800の模式図である。
【0066】
図8Aでは、磁場源862のコイルが非励起状態にされ、支持デバイス850上にパターニングデバイス870が配置される(ステップ704)。付勢デバイス864が磁歪プッシュロッド863をパターニングデバイス870に向けて移動し、プッシュロッド863の遠位端866がパターニングデバイス870と接触する(ステップ706)。この接触によりパターニングデバイス870に対するプレロード力が生じる。図8Bでは、磁場源862のコイルが励起され磁場を生成する(ステップ708)。磁場源862に電磁気的に結合された磁歪プッシュロッド863の長さLが増加する。
【0067】
図8Cでは、クランプデバイス865(例えば真空システム)を用いて支持デバイス850に近位部868が解放可能に結合される(ステップ710)。クランプされると、近位部868がパターニングデバイス870に対して固定される。図8Dでは、磁場源862のコイルの励起が解除され磁場が取り除かれる。磁場が取り除かれると、ステップ704に示すように、磁歪プッシュロッド863の長さLが元の長さに戻る。長さLの減少により、プッシュロッド863の遠位端866とパターニングデバイス870との間にギャップ867が形成される。一実施例では、ギャップ867は約2マイクロメートルである。
【0068】
一実施例では、方法700にしたがってパターニングデバイス870を移動する前に、方法800が実行される。
【0069】
図9は、本発明の一実施形態に係るスリップ防止制御を用いるステージシステム900の模式図である。この実施形態では、システムは、上述の磁歪アクチュエータの代わりに圧電アクチュエータ960を備える。システム900は、上述したシステムと同様に構成することができ、パターニングデバイスステージ950の移動中に、上述と同様にしてパターニングデバイス970の滑りを低減するように動作することができる。例えば、電圧励起を使用して電場を生成または操作することができる。電場は、圧電アクチュエータ960の圧電素子の寸法を変化させる。
【0070】
図10は、本発明の一実施形態に係るスリップ防止制御を用いるパターニングデバイス輸送システム1000の部分側面模式図である。
【0071】
この例では、パターニングデバイス輸送システム1000は、長ストローク装置(図示せず)に結合された支持フレーム1020と、サポート輸送装置(図示せず)に結合された支持デバイス1050と、パターニングデバイス1070を支持デバイス1050に解放可能に結合する保持デバイス1080と、圧電アクチュエータ1060と、を備える。
【0072】
一実施例では、パターニングデバイス輸送システム1000は、パターニングデバイス輸送システム400と同様に動作するが、磁歪アクチュエータの代わりに圧電アクチュエータ1060を用いる。x方向の移動は、図4と同様に長ストローク装置(図示せず)を用いて達成される。長ストローク装置は、支持デバイス1050が結合された支持フレーム1020を移動する。y方向の移動は、図4と同様に、結合されたサポート輸送装置(図示せず)を用いて達成される。一実施例では、−y方向に移動するために、サポート輸送装置(例えば、電磁的に結合されたコイルおよび磁石)が励起され、支持デバイス1050を−y方向に移動する一方、支持デバイス1050とパターニングデバイス1070の+y方向の移動は、力の向きが逆であることを除き、同様に実行される。
【0073】
別の実施例では、パターニングデバイス輸送システム1000で圧電アクチュエータ1060を用いて、保持デバイス1080(例えば、真空クランプまたは摩擦コーティング)によって生成される摩擦力を、加速方向と逆向きの端でパターニングデバイス1070に直接付与される垂直押圧力で補完して、パターニングデバイスの滑りを実質的に減少または排除する。
【0074】
一実施例では、圧電アクチュエータ1060は、圧電素子1063と、付勢デバイス1064と、圧電素子1063の近位部1068と支持デバイス1050とを解放可能に結合するように構成されたクランプデバイス1065とを備えてもよい。圧電アクチュエータ1060は、パターニングデバイス1070と同一の側または反対側のいずれかに、実質的に同様の態様で動作する、追加の圧電素子、付勢デバイスおよびクランプデバイスをさらに備えてもよい。
【0075】
一実施例では、電場下で圧電素子1063が自身の寸法を変化させる。電力端子1069を介して、圧電素子1063を電圧源に電気的に接続することができる。圧電素子1063に電圧または電荷が印加されると、圧電素子1063の内部電場が変化し、これにより圧電素子1063の寸法が変化し、パターニングデバイス1070と解放可能に結合させる。一実施例では、圧電素子1062の遠位端がパターニングデバイス1070に接触するように、電場が圧電素子1062の長さを増加させる。圧電素子1062の遠位端とパターニングデバイス1070との接触が、パターニングデバイス1070に直接力を与える。圧電アクチュエータ1060は、電場下で寸法が変化する任意の適切なデバイス、例えば圧電スタックおよび圧電チューブであってよい。
【0076】
別の実施例では、パターニングデバイス輸送システム1000を用いて、上述したパターニングデバイスの移動方法600を実行してもよい。この例では、ステップ610で、支持デバイスの移動と同時に、圧電アクチュエータ1060を用いてパターニングデバイスに力が付与される。
【0077】
さらに、パターニングデバイス輸送システム1000を用いて、上述したパターニングデバイスの搭載方法700を実行してもよい。この例では、ステップ706で、付勢デバイスが圧電素子を支持デバイス上のパターニングデバイスに対して移動させる。ステップ708で、圧電素子への電圧または電荷の印加によって電場が生成され、これが圧電素子の長さを増加させる。ステップ710で、クランプデバイスを用いて、圧電素子の近位部が支持デバイスに解放可能に結合される。ステップ712で、電場が取り除かれ、圧電素子が元の長さに戻り、圧電素子の遠位端とパターニングデバイスの間にギャップ1067を形成する。
【0078】
結語
特許請求の範囲を解釈するために本文書の「発明を実施するための形態」が用いられ、「発明の概要」および「要約」の部分は用いられないことが意図されている。「発明の概要」および「要約」の部分は、発明者によって考案された本発明の実施形態のうち一つまたは複数について述べているが、全ての例示的な実施形態について述べている訳ではない。したがって、本発明および添付の特許請求の範囲をいかなる方法によっても限定する意図はない。
【0079】
特定の機能およびその関係の実装を例証する機能的な構成要素の助けを借りて本発明を説明してきた。これらの機能的な構成要素の境界は、説明の便宜上、適宜定義されている。それらの特別な機能および関係が適切に実行される限り、別の境界も定義することができる。
【0080】
特定の実施形態についての上記説明は本発明の一般的性質を完全に公開しており、したがって、当分野の能力に含まれる知識を適用することによって、過度の実験をすることなく、および本発明の一般概念から逸脱することなく、種々の応用に対してそのような特定の実施形態を直ちに修正しおよび/または適応させることができる。したがって、そのような修正および適応は、本書に提示された教示および助言に基づき、開示された実施形態の意義および等価物の範囲内であると意図されている。本書の言葉遣いおよび専門用語は説明を目的としており限定のためではなく、本明細書の言葉遣いおよび専門用語は教示および助言を考慮して当業者によって解釈されるべきものである。
【0081】
本発明の広がりおよび範囲は、上述した例示的な実施形態のいずれによっても限定されるべきではなく、特許請求の範囲およびそれらの等価物にしたがってのみ規定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持デバイスと、パターニングデバイスを前記支持デバイスに解放可能に結合するよう構成された保持デバイスと、前記パターニングデバイスに力を与えるように構成された磁歪アクチュエータと、を有する保持システムと、
前記磁歪アクチュエータが前記パターニングデバイスに力を与えるのと同時に前記支持デバイスを移動して、該支持デバイスの移動中のパターニングデバイスの滑りを実質的に除去するように構成されたサポート輸送装置と、
を備えることを特徴とするパターニングデバイス輸送システム。
【請求項2】
前記磁歪アクチュエータは、第1磁場源と、磁歪材料からなる第1プッシュロッドとを備え、前記第1磁場源が、前記第1プッシュロッドの長さを増加させる磁場を生成することを特徴とする請求項1に記載のパターニングデバイス輸送システム。
【請求項3】
前記磁場源がコイルを含むことを特徴とする請求項2に記載のパターニングデバイス輸送システム。
【請求項4】
前記磁歪アクチュエータは、第2磁場源と、磁歪材料からなる第2プッシュロッドとをさらに備え、前記第2磁場源が、前記第2プッシュロッドの長さを増加させる磁場を生成することを特徴とする請求項2に記載のパターニングデバイス輸送システム。
【請求項5】
前記磁歪アクチュエータは、前記第1プッシュロッドを前記パターニングデバイスに向けて付勢するよう構成された付勢デバイスと、前記プッシュロッドの一部を前記支持デバイスに解放可能に結合するよう構成されたクランプデバイスと、をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のパターニングデバイス輸送システム。
【請求項6】
前記付勢デバイスが、前記パターニングデバイスから離して前記第1プッシュロッドを引き込むようにさらに構成されることを特徴とする請求項5に記載のパターニングデバイス輸送システム。
【請求項7】
前記保持デバイスは、前記パターニングデバイスを前記支持デバイスに解放可能に結合する真空システムをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のパターニングデバイス輸送システム。
【請求項8】
前記磁歪アクチュエータと前記サポート輸送装置を共通の制御信号が制御することを特徴とする請求項1に記載のパターニングデバイス輸送システム。
【請求項9】
パターニングデバイスをステージに解放可能に結合するよう構成されたステージと、
前記ステージの移動を制御するよう構成されたステージ制御システムと、
を備えることを特徴とする、リソグラフィ装置用のパターニングデバイスステージシステム。
【請求項10】
前記ステージ制御システムが電磁アクチュエータを備えることを特徴とする請求項9に記載のパターニングデバイス輸送システム。
【請求項11】
前記磁歪制御システムは、第1磁場源と、磁歪材料からなるプッシュロッドとを備え、前記第1磁場源が、前記第1プッシュロッドの長さを変える磁場を生成することを特徴とする請求項9に記載のパターニングデバイス輸送システム。
【請求項12】
パターニングデバイスステージの移動中のパターニングデバイスの滑りを低減する方法であって、
支持デバイスを用いてパターニングデバイスを支持し、
保持デバイスを用いて前記パターニングデバイスを前記支持デバイスに対して同時に保持し、
第1移動装置を用いて前記支持デバイスを移動し、
前記第1移動装置を用いて前記支持デバイスを移動するのと同時に、磁歪アクチュエータを用いて前記パターニングデバイスに力を付与することを含む方法。
【請求項13】
共通の信号を用いて前記第1移動装置と前記磁歪アクチュエータとを制御することをさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
磁歪アクチュエータを用いて前記パターニングデバイスに力を付与することは、磁場を生成して、磁歪材料からなるプッシュロッドの長さを増加させることを含み、
前記プッシュロッドが前記パターニングデバイスと解放可能に結合することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
支持デバイスと、パターニングデバイスを前記支持デバイスに解放可能に結合するよう構成された保持デバイスと、前記パターニングデバイスに力を与えるように構成された圧電アクチュエータと、を有する保持システムと、
前記圧電アクチュエータが前記パターニングデバイスに力を与えるのと同時に前記支持デバイスを移動して、該支持デバイスの移動中のパターニングデバイスの滑りを実質的に除去するように構成されたサポート輸送装置と、
を備えることを特徴とするパターニングデバイス輸送システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−119687(P2012−119687A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−263261(P2011−263261)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(503195263)エーエスエムエル ホールディング エヌ.ブイ. (232)
【Fターム(参考)】