説明

プラスチックの表面改質方法及び金属膜の形成方法

【課題】 表面粗さが良好で且つ密着力の高い金属膜を形成することが可能な高圧流体を
用いたプラスチックの表面改質方法を提供することである。
【解決手段】 高圧流体を用いたプラスチックの表面改質方法であって、高圧流体を用い
て界面活性剤をプラスチックの表面内部を浸透させることと、上記プラスチックに浸透した上記界面活性剤を溶媒で溶解して上記プラスチックの表面から上記界面活性剤を除去することとを含む表面改質方法を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧流体を用いたプラスチックの表面改質方法及び金属膜の形成方法に関す
る。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形品からなる電子機器等の部品の表面に金属導電膜を形成する手段とし
ては、現在、無電解メッキ法が広く利用されている。プラスチック成形品の成形から無電
解メッキのプロセスは、成形品の材料などにより多少異なるが、一般には、樹脂成形、成
形品の脱脂、エッチング、中和及び湿潤化、触媒付与、触媒活性化、並びに、無電解メッ
キの工程からなり、この順で行なわれる。
【0003】
上記従来の無電解メッキプロセスにおけるエッチングでは、クロム酸溶液やアルカリ金
属水酸化物溶液などを用いてプラスチック成形品の表面を物理的に粗化し、粗化されたプ
ラスチック表面におけるアンカー効果により成形品とメッキ膜との密着性を確保している
。しかしながら、これらのエッチング液は中和等の後処理が必要なため、コスト高の要因
となっている。また、毒性の高いエッチング液であるので、その取り扱いが煩雑であると
いう問題がある。
【0004】
また、無電解メッキ法以外のプラスチック表面の金属膜の形成方法として、従来、超臨
界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)を用いたプラスチックの無電解
メッキ法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1に記載された方
法によれば、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させ、その超臨界二酸化炭素を各種
ポリマーに接触させることで、ポリマー表面に有機金属錯体を注入する(浸透させる)。
次いで、有機金属錯体が浸透したポリマーに対して加熱や化学還元処理する等によって有
機金属錯体を還元することにより金属微粒子をポリマー表面に析出させる。これにより、
ポリマー表面全体が無電解メッキ可能になる。このプロセスによれば、廃液処理が不要で
、表面粗さが良好な樹脂の無電解メッキプロセスを実現することができるとされている。
【0005】
また、プラスチックの表面粗化を抑え且つ良好なアンカー効果を得るプロセスとして、
光触媒を用いたメッキ前処理プロセスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特
許文献1では、光触媒として酸化チタンを用い、それをプラスチック表面に塗布して紫外
線照射を行いプラスチック表面に微細な凹凸を形成する。次いで、形成された凹凸面上に
メッキ膜を形成する。
【0006】
また、従来、超臨界二酸化炭素を用いて樹脂組成物を多孔化する方法が提案されている
(例えば、特許文献2参照)。特許文献2では、ポリイミドの前駆体であるポリアミック
酸樹脂及びそれに分散可能な分散性化合物が含有した感光性樹脂組成物から、分散性化合
物を除去することにより、多孔化されたポリアミック酸樹脂を形成する。また、特許文献
2には、多孔化されたポリアミック酸樹脂上に導電層を形成している。しかしながら、特
許文献2には、樹脂材料がポリイミド樹脂に限定されている他、樹脂の最表面における物
理的形状は開示されておらず、樹脂と導電層との密着性に関する記載はない。
【0007】
一方、超臨界二酸化炭素や二酸化炭素に溶解する界面活性剤としては、各種研究が盛んであるが(例えば非特許文献2、特許文献3)、水系溶媒と超臨界二酸化炭素を相溶させることが目的であり、プラスチックに分散させた後、溶解および抽出する方法およびそれを用いたメッキ法については開示および示唆されていない。
【特許文献1】特開2005−85900号公報
【特許文献2】特開2001−215701号公報
【特許文献3】特願2002−171609号公報
【非特許文献1】堀照夫著「超臨界流体の最新応用技術」株式会社エヌ・ティー・エス出版、p.250−255(2004)
【非特許文献2】永井隆文「機能材料2007年1月号Vol.27 No.1」株式会社シーエムシー出版 p27-p36
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記非特許文献1に記載の超臨界二酸化炭素を用いた表面改質プロセスについて、本発
明者らが鋭意検討した結果、次のような課題があることが判明した。超臨界二酸化炭素を
用いた表面改質プロセスでは、プラスチック表面を物理的に粗面化するプロセスを経てい
ないため表面の平滑性は良好であるが、メッキ膜とプラスチックとの界面においてアンカ
ー効果が得られない。非特許文献1の方法でプラスチック表面にメッキ膜を形成した場合
には、メッキ膜は浸透した有機金属錯体により密着が確保される。それゆえ、メッキ膜の
密着性は、有機金属錯体の還元性、及び、それに起因するプラスチック表面における金属
微粒子の密度や凝集状態等に影響されることになり、非特許文献1の方法で、これらの条
件をすべて制御することは困難であることが分かった。
【0009】
また、プラスチックの表面を粗化するために、特許文献2に記載されている酸化チタン
を用いた光触媒プロセスを用いた場合には、紫外線をプラスチック表面に照射して光触媒
反応を発生させる必要があるので、2次元形状(例えば、フィルム状)の成形品に対して
は適用可能と考えられるが、複雑な3次元形状の成形品に対しては、その表面に均一に紫
外線を照射することが困難であると考えられる。また、光触媒の反応時間も数十分と長い
ので、この反応時間の長さが工業化する際の課題となる恐れがある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、表面粗さ
が良好で且つ密着力の高い金属膜を形成することが可能なプラスチックの表面改質方法及
び金属膜の形成方法を提供することである。
【0011】
また、上述したように、従来、ポリマー表面に安価に金属膜を形成する方法として無電
解メッキ法が知られている。しかしながら、この方法では、ポリマー表面をクロム酸等の
エッチングで粗化する必要があり、これらのエッチング液で粗化されるポリマーはABS
等の樹脂に限定されていた。また、上記エッチング液で粗化され難いポリカーボネート等
の他の材料では、無電解メッキ可能にするために、ABSやエラストマーを混合したメッ
キグレードの樹脂材料が市販されている。しかしながら、このようなメッキグレードの樹
脂材料は耐熱性や反射性能の要求を十分に満足するものではなかった。
【0012】
そこで、本発明の別の目的は、様々な種類のプラスチックに対して表面粗さが良好でか
つ密着力の高いメッキ膜を形成することが可能なプラスチックの表面改質方法及び金属膜
の形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様に従えば、プラスチックの表面改質方法であって、界面活性剤が表面近傍に分散したプラスチックを用意するステップと、上記界面活性剤を溶媒で溶解させ上記プラスチック表面から上記界面活性剤を除去するステップとを含む表面改質方法が提供される。
【0014】
本態様によれば、界面活性剤はプラスチックの内部よりも表面近傍に偏析しやすいので、容易に表面から溶解および除去しやすい。それにより、少ない添加量で、効率よく除去できる。また、副次的な効果として、射出成形等の成形時には、金型からの離型剤として有効に機能させることができる。
【0015】
上記界面活性剤は、例えばグリセリン脂肪酸エステル等やシリコーンオイル等の各種プラスチック射出成形の離型剤を用いることができる。
本発明における界面活性剤は、さらに、超臨界二酸化炭素や二酸化炭素等に溶解する界面活性剤が望ましい。界面活性剤の種類としては、公知の、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性、両性イオン性界面活性剤のうち、少なくも1種類以上を選択して用いることができる。例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)−ポリプロピレンオキシド(PPO)のブロックコポリマー、PEO−ポリブチレンオキシド(PBO)のブロックコポリマー、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ペンタエチレングリコールn−オクチルエーテル等を用いることができる。これらは、溶媒として超臨界二酸化炭素や二酸化炭素を用いて、界面活性剤を溶解、除去する際に好適である。
【0016】
本発明における界面活性剤は、特にフッソを含有した界面活性剤を用いてもよい。フッソを含有した界面活性剤では、超臨界二酸化炭素に対する溶解度が向上し、超臨界二酸化炭素等の高圧流体で溶解および除去することが容易となる。例えば、各種フッソ化ポリアルキレングリコール、カルボキシレートパーフルオロポリエーテル(化学構造式:F‐(CF2CF(CF3)O)n‐CF2CF2COOH(Dupont社製 商品名Krytox))、ペルフルオロポリエーテルカルボン酸アンモニウム塩((化学構造式:F‐(CF(CF3)CF2O)n‐CF(CF3)COO−NH4+(ダイキン化学工業社製 C2404アンモニウム塩)、スルファコハク酸エステル塩(AOT)のペルフルオロアナキルアナローグ、ペルフルオロポリエーテル(PFPE)基を有する各種界面活性剤を用いることができる。
【0017】
本発明においては、上記界面活性剤はアミド基、アミン、アンモニウム塩のいずれかを有することが望ましい。本発明者らは、二酸化炭素に金属錯体を溶解させポリマーに接触および浸透させた場合、アミド基を有するモノマー等を用いることで、金属錯体の浸透性や還元性が向上することを見出している。上記態様においては、界面活性剤のなかにアミド基等を有するので、金属錯体の還元性を補助する役割を界面活性剤が有する。そのため、金属錯体を上記方法で浸透させた場合に好適である。アミド基やアミン、アンモニウム塩を有する界面活性剤としては、ペルフルオロポリエーテルカルボン酸アンモニウム塩((化学構造式:F‐(CF(CF3)CF2O)n‐CF(CF3)COO−NH4+(ダイキン化学工業社製 C2404アンモニウム塩)、ペルフルオロポリエーテル基(PFPE)を有しトリス(ヒドロキシルメチル)メチルアミノ基を有する化合物(化学構造式:PFPE‐CONH‐(OH)3)等を用いることができる。
【0018】
本発明の表面改質方法の界面活性剤が表面近傍に分散したプラスチックを用意するステップでは、高圧流体を用いて界面活性剤をプラスチックの表面内部を浸透させることが好ましい(図22中のステップS1)。例えば、界面活性剤を溶解した高圧流体をプラスチックの表面に接触させることによりプラスチック表面を膨潤等させ、界面活性剤を高圧流体とともにプラスチックの表面内部に浸透させる。或いは、上記プラスチックを成形により得る場合には、原料となる樹脂ペレットに予め界面活性剤が所定量練りこんであるものを用いることもできる。この場合、高圧流体を用いずに本発明の表面改質方法を実施できる。
【0019】
その後、界面活性剤が溶解する溶媒を用いてプラスチックを洗浄等することによりプラスチックの表面から界面活性剤を除去する(図22中のステップS2)。界面活性剤は数十〜数百nmのクラスター状でプラスチック表面近傍に浸透しているため、上記溶媒による除去処理(洗浄処理)により、界面活性剤が除去されたプラスチックの表面にはサブミクロンからナノオーダーの微細孔が形成される。すなわち、プラスチックの表面にサブミクロンからナノオーダーの微細な凹凸を形成することができる。本発明の表面改質方法を用いると、様々な種類のプラスチックに対して、その表面に微細な凹凸を形成することができる。
【0020】
なお、本明細書でいう「高圧流体」とは、超臨界流体のみならず、高圧の液状流体(液体)及び高圧不活性ガスのような高圧気体も含む意味である。
【0021】
上記本発明の表面改質方法により得られたプラスチックの表面に無電解メッキ等で金属
膜を形成すると、プラスチックの表面に形成された微細な凹凸によるアンカー効果や表面
積の拡大によるスケールメリット等により、密着性の優れた金属膜を形成することができ
る。また、上記本発明の表面改質方法によりプラスチックの表面に形成された凹凸は、上
述のように、サブミクロンからナノオーダーのサイズであるので、上記本発明の表面改質
方法により得られたプラスチックの表面に金属膜を形成した場合には、非常に平滑性の優
れた(表面粗化が抑制された)金属膜を形成することができ、電気特性の優れた金属膜を
形成することができる。また、プラスチックの表面に形成される微細孔の含有割合を調整
することにより、プラスチックの誘電率、誘電正接等の電気特性や、低屈折率化等の光学
特性を制御することもできる。或いは、乱反射による反射板として用いることもできる。
【0022】
本発明の表面改質方法では、上記プラスチックの少なくとも表面近傍には金属微粒子が分散されていてもよい。上記微細凹凸や微細孔を形成した後のプラスチック表面にNi,Pd,Pt,Cu等の金属微粒子が露出することによって、前記金属微粒子が無電解メッキの触媒核となり、密着性の優れたメッキ膜を形成することが可能となる。
【0023】
本発明の表面改質方法では、上記高圧流体を用いて界面活性剤をプラスチックの表面内部を浸透させることが、上記界面活性剤を高圧流体に溶解させることと、上記界面活性剤が溶解した高圧流体を上記プラスチックに接触させて上記界面活性剤を上記プラスチックの表面内部に浸透させることとを含むことが好ましい。
【0024】
また、本発明の表面改質方法では、上記高圧流体を用いて界面活性剤をプラスチックの表面内部を浸透させることが、上記界面活性剤を溶解した溶液を上記プラスチックの表面に塗布することと、上記界面活性剤が塗布された上記プラスチックに高圧流体を接触させて上記界面活性剤を上記プラスチックの表面内部に浸透させることとを含むことが好ましい。
【0025】
本発明の表面改質方法では、上記プラスチックが凹部を有し、上記界面活性剤を上記プラスチックの表面内部に浸透させる際に、上記高圧流体を上記プラスチックに接触させた状態で、上記凹部により上記プラスチックの表面に画成された開口を塞いで上記高圧流体を上記凹部に滞留させ、上記凹部を画成する上記プラスチックの表面内部に上記界面活性剤を浸透させることが好ましい。
【0026】
表面に凹部を有するプラスチックに対する表面改質方法によれば、プラスチックの凹部
を画成する表面に微細な凹凸を形成することができ、凹部を画成する表面の物理的形状を
選択的に変化させることができる。それゆえ、この表面改質方法で作製したプラスチック
に無電解メッキ等で金属膜を形成した場合には、プラスチックの凹部を画成する表面のみ
で選択的にナノオーダーでのアンカー効果を得ることができ、凹部を画成する表面のみに
密着性及び平滑性の優れた金属膜を形成することができる。
【0027】
本発明の表面改質方法では、上記表面改質方法が、金型とプラスチックの溶融樹脂を該
金型内に射出する加熱シリンダーとを備えた射出成形機を用いた表面改質方法であり、上
記高圧流体を用いて界面活性剤をプラスチックの表面内部を浸透させることが、上記浸透物質が溶解した高圧流体を上記加熱シリンダー内部に導入することと、上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填することとを含むことが好ましい。加熱シリンダーの導入部は、加熱シリンダーのスクリュー全体でもよいし、スクリュー前方にあたる溶融樹脂のフローフロント部であってもよい。
【0028】
この射出成形機を用いた表面改質方法では、界面活性剤が溶解した高圧流体を例えば、加熱シリンダー内の溶融樹脂のフローフロント部に導入しているので、加熱シリンダー内の溶融樹脂を金型に射出すると、まず、界面活性剤が浸透したフローフロント部の溶融樹脂が射出され、その後、界面活性剤がほぼ浸透していない溶融樹脂が金型に射出充填される。界面活性剤が浸透したフローフロント部の溶融樹脂が射出された際には、金型内における流動樹脂のファウンテンフロー現象(噴水効果)により、フローフロント部の溶融樹脂は金型表面に引っ張られながら金型に接して表面層(スキン層)を形成する。それゆえ、この表面改質方法では、界面活性剤が分散したスキン層と界面活性剤がほとんど分散していないコア層とからなるプラスチック成形品が得られる。さらに、界面活性剤は、スキン層のさらに金型に近い上層部に浮き出る性質を有するので、最表面に界面活性剤を偏在化させることができる。また、フッソ含有の界面活性剤を用いることで、金型よりの離型性を向上させることも可能となる。上記射出成形機を用いた表面改質方法では、成形工程と表面改質工程とを同時に行うことができる。それゆえ、この方法を用いれば、高圧流体にある程度の溶解性を有する界面活性剤量であれば、様々な種類のプラスチック成形品の表面のみに界面活性剤を均一に分散配置することができる。すなわち、この射出成形機を用いた表面改質方法は、様々な種類のプラスチックの表面改質技術に応用可能である。
【0029】
本発明の表面改質方法では、上記金型のキャビティ側表面に凹凸パターンが形成されて
おり、上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填して、表面に凹部を有し且つ該凹
部の表面に界面活性剤が浸透したプラスチックを成形し、上記界面活性剤を溶媒で溶解してプ
ラスチック表面から除去する際に、該溶媒を上記凹部の表面のみに接触させて上記凹部に
浸透した界面活性剤を除去することが好ましい。
【0030】
本発明の表面改質方法では、上記表面改質方法が、上記表面改質方法が、押し出し成形
機を用いた表面改質方法であり、上記高圧流体を用いて界面活性剤をプラスチックの表面内部を浸透させることが、上記界面活性剤を溶解した高圧流体を上記押し出し成形機内のプラスチックの溶融樹脂に接触させて、上記界面活性剤を該溶融樹脂に浸透させることと、上記溶融樹脂を押し出し成形することとを含むことが好ましい。
【0031】
上記押し出し成形機を用いた表面改質方法においても、界面活性剤を溶解した高圧流体を押し出し成形機内の溶融樹脂に注入するので、成形工程と同時に改質処理を行うので、様々な種類のプラスチックの表面改質が可能となる。それゆえ、この押し出し成形機を用いた表面改質方法もまた、様々な種類のプラスチックの表面改質技術に応用可能である。また、上記押し出し成形機を用いた表面改質方法を用いれば、表面改質したフィルム状のプラスチック成形品を連続して製造することもできる。なお、押し出し成形機内の界面活性剤の注入箇所は加熱シリンダーから押し出しダイまでの領域内の位置であれば任意の位置に設け得る。
【0032】
本発明の表面改質方法では、上記高圧流体の圧力が、5〜25MPaであることが好ま
しい。高圧流体に対する界面活性剤の溶解度は圧力の上昇とともに高くなる。圧力が5MPa以下であると界面活性剤の溶解度が極めて低くなり、プラスチック表面への界面活性剤の浸透効果が現れない。また、25MPa以上の高圧になると、プラスチックに対する高圧流体の浸透性が高くなり、プラスチックの発泡の制御が困難となる恐れがある。
【0033】
本発明の表面改質方法では、上記高圧流体が、二酸化炭素であることが好ましい。本発
明の表面改質方法において、高圧流体として二酸化炭素を用いた場合には、超臨界二酸化
炭素、亜臨界二酸化炭素、液体二酸化炭素または気体二酸化炭素が高圧流体として用い得
る。ただし、本発明はこれに限定されない。高圧流体としては、界面活性剤をある程度溶解する媒体であれば任意のものを用い得る。例えば、高圧流体として、空気、水、ブタン、ペンタン、メタノール等を用いても良い。なお、界面活性剤を溶解する高圧流体としては、有機材料に対する溶解度がnヘキサン並みであり、無公害であり、且つプラスチックに対する親和性の高い超臨界二酸化炭素が特に好ましい。また、高圧流体に対する界面活性剤の溶解度を向上させるために少量のエタノール等の有機溶剤をエントレーナとして混合しても良い。
【0034】
本発明の表面改質方法では、上記プラスチックが熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬
化性樹脂のいずれか1つから形成されていることが好ましい。上述のように、本発明の表
面改質方法は様々な種類のプラスチックに適用可能であり、例えば、熱可塑性樹脂として
は、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルペ
ンテン、非晶質ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、液晶ポリマー、スチレン
系樹脂、ポリメチルペンテン、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチルエーテルケトン、シクロオレフィンポリマー等を用い得、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂等を用い得る。また、プラスチックとして、上記材料を複合種混合したもの、これらを主成分とするポリマーアロイやこれらに各種の充填剤を配合したものを使用してもよい。
【0035】
本発明の表面改質方法では、上記界面活性剤の分子量が500〜10000であることが好ましい。分子量が10000以上の材料を用いると、高圧流体に対する溶解度が低下し、プラスチック表面への界面活性剤の浸透効果およびそれからの溶解除去効果が低下する。また、界面活性剤の分子量が10000以上の材料を用いた場合には、射出成形時においてプラスチック表面へ浮き出しにくくなる。また、分子量が500以下であると、抽出(除去)した際に、所望の穴を形成しにくくなる。その他、プラスチック樹脂との相溶性の点を考慮した場合、界面活性剤の分子量の範囲は上記範囲が望ましい。
【0036】
本発明の第2の態様に従えば、プラスチックの表面に金属膜を形成する方法であって、
界面活性剤が表面に分散したプラスチックを用意することと、上記界面活性剤を溶媒で溶解して上記プラスチックの表面から上記界面活性剤を除去することと、上記界面活性剤が除去されたプラスチックの表面に金属膜を形成することとを含む金属膜の形成方法が提供される。
【0037】
本発明の金属膜の形成方法では、上述した本発明の表面改質方法によりプラスチックの
表面を改質し(図23中のステップS1’及びS2’)、その後、得られたプラスチック
の表面に無電解メッキ等で金属膜を形成する(図23中のステップS3)。それゆえ、プ
ラスチックの表面に形成されたサブミクロンからナノオーダーのサイズの微細な凹凸によ
るアンカー効果や表面積の拡大によるスケールメリット等により、平滑性及び密着性の優
れた金属膜を形成することができる。また、上述したように、本発明の表面改質方法では
様々な種類のプラスチックの表面に微細な凹凸を形成できるので、本発明の金属膜の形成
方法では、様々な種類のプラスチックの表面に平滑性及び密着性の優れた金属膜を形成す
ることができる。
【0038】
本発明の金属膜の形成方法では、上記界面活性剤が除去されたプラスチックの表面に金属膜を形成することが、上記界面活性剤の除去されたプラスチックの表面にメッキ触媒核を付与することと、無電解メッキ法により、上記メッキ触媒核が付与されたプラスチックの表面に金属膜を形成することとを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0039】
本発明の表面改質方法によれば、様々な種類のプラスチックに対して、高圧流体を用い
てプラスチックの表面にサブミクロンからナノオーダーの微細な凹凸を形成することがで
きる。それゆえ、例えば、本発明の表面改質方法を無電解メッキ前処理プロセスとして用
いた場合には、低コストでクリーンな無電解メッキ前処理プロセスを提供することができ
る。また、プラスチックの表面に形成された微細孔の含有割合を調整することにより、プ
ラスチックの誘電率、誘電正接等の電気特性や、低屈折率化、高反射率等の光学特性を制御することもできる。
【0040】
本発明の金属膜の形成方法によれば、本発明の表面改質方法により得られたプラスチッ
クの表面に無電解メッキ等で金属膜を形成するので、プラスチックの表面に形成されたサ
ブミクロンからナノオーダーのサイズの微細な凹凸によるアンカー効果や表面積の拡大に
よるスケールメリット等により、密着性の優れた金属膜を形成することができる。また、
プラスチックの表面に形成された凹凸は、サブミクロンからナノオーダーのサイズである
ので、非常に平滑性の優れた(表面粗化が抑制された)金属膜を形成することができる。
また、本発明の金属膜の形成方法によれば、従来のメッキ法のように有害なエッチャント
(エッチング液)を用いることなくプラスチックの表面を粗化できるので、低コストでク
リーンな金属膜の形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の表面改質方法及び金属膜の形成方法の実施例について図面を参照しなが
ら具体的に説明するが、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこ
れに限定されない。
【実施例1】
【0042】
実施例1では、熱可塑性樹脂(プラスチック)の表面に界面活性剤の溶解した超臨界状態の二酸化炭素(高圧流体)を接触させて界面活性剤を熱可塑性樹脂に浸透させた後、熱可塑性樹脂から界面活性剤を除去して表面改質を行う例を説明する。また、実施例1では、表面改質された熱可塑性樹脂の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する例についても説明する。この例では、界面活性剤にオクタエチレングリコールモノドデシルエーテル(分子量:539)を用い、熱可塑性樹脂には非晶質ポリオレフィン(ZEONEX、ガラス転移温度145℃)を用いた。
【0043】
[改質装置]
この例の熱可塑性樹脂の表面改質に用いた装置の概略構成を図1に示した。改質装置1
00は、図1に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ1と、超臨界状態の二酸化炭素
(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)を生成するシリンジポンプ2(ISCO社製 26
0D)と、界面活性剤を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽3と、熱可塑性樹脂101を収容する高圧容器4と、高圧容器4等から排出されるガスを回収する回収槽5と、それらの構成要素を繋ぐ配管13とで構成されている。また、配管13には、図1に示すように、改質装置100内の高圧流体の流動を制御するための手動ニードルバルブ6〜10、保圧弁11及び逆止弁12が所定の位置に設けられている。
【0044】
なお、この例で用いた高圧容器4は、カートリッジヒーター(不図示)で温調可能な高
圧容器であり、冷却回路(不図示)を流動する冷却水によって冷却可能である。また、こ
の例では、高圧容器4内の熱可塑性樹脂101が装着される空間14の容量は1mlとし
た。
【0045】
[表面改質方法]
次に、この例の熱可塑性樹脂の表面改質方法について、図1及び3を用いて説明する。
なお、以下では、図1中の各バルブが全て閉じられた状態からこの例の表面改質方法を説
明する。
【0046】
まず、表面改質を施す熱可塑性樹脂101(非晶質ポリオレフィン(ZEONEX))を、図1に示すように、所定の温度(120℃)に温調された高圧容器4内に装着した。次に、界面活性剤であるオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルを内容積10mlの溶解槽3に仕込んだ。なお、この例では、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテルの仕込み量は100mgとした。
【0047】
次に、液体二酸化炭素ボンベ1から液体二酸化炭素をシリンジポンプ2に供給して加圧し、圧力計15が15MPaを示すように昇圧した。これにより、超臨界二酸化炭素を生成した。次いで、手動ニードルバルブ6を開き、逆止弁12を介して溶解槽3に超臨界二酸化炭素を導入し、溶解槽3の内部を15MPaに昇圧するとともに、界面活性剤を超臨界二酸化炭素に溶解させた(図3中のステップS11)。昇圧後、再度ニードルバルブ6を閉鎖した。
【0048】
次に、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2からそのポンプ圧と同圧(15MPa)の界面活性剤の溶解していない超臨界二酸化炭素を高圧容器4内に導入して、高圧容器4内部を15MPaに昇圧した。この際、界面活性剤の溶解していない超臨界二酸化炭素は高圧容器4を介して手動ニードルバルブ9及び10まで充填されており、圧力計16では15MPaが表示された。この例では、図1に示すように、高圧容器4の排出側に予め1次側の圧力が15MPaになるように調節された保圧弁11を設けて、超臨界二酸化炭素が圧力一定で流動するようにした。次いで、ニードルバルブ8を閉鎖し、高圧容器4内の空間30の圧力を15MPaに保持した。このように、高圧容器4内の圧力を予め15MPaに昇圧することにより、界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を高圧容器4に導入する際に圧力損失なく導入することができる。
【0049】
次に、界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を溶解槽3から高圧容器4に導入して、熱可塑性樹脂101に界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を接触させた(図3中のステップS12)。具体的には、次のようにして超臨界二酸化炭素を導入した。まず、手動ニードルバルブ6および7を開放し、シリンジポンプ2を圧力制御から流量制御に切り替え、溶解槽3内の界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を高圧容器4に導入した。なお、ポンプの流量の設定は10ml/minとした。さらに、手動ニードルバルブ10を開き、超臨界二酸化炭素を回収槽5に1分間流動させた(排出した)。上記操作により、圧力を一定に保持した状態で高圧容器4内部および高圧容器4に流通する流路(配管等)を界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素で置換した。その後、ニードルバルブ6及び7を閉鎖した。
【0050】
次いで、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2から界面活性剤が溶解していない超臨界二酸化炭素を高圧容器4に流通する流路(配管等)に導入し、流量10ml/minで10秒間流動させ、配管等に充填されている界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を所望の位置に輸送した(高圧容器4内に押し込んだ)。これにより、高圧容器4内に装着された熱可塑性樹脂101の表面付近では、超臨界二酸化炭素中の界面活性剤の溶解濃度を高濃度に分布させることができる。この状態で、10分間圧力を保持し、界面活性剤を熱可塑性樹脂101の表面に浸透させた。
【0051】
次に、高圧容器4のヒーターの電源を切り、冷却水を流し、高圧容器4を40℃まで冷
却した。冷却中に高圧容器内圧が低下すると、熱可塑性樹脂101の表面および内部に発
泡を招く恐れがある。それゆえ、冷却中は外圧を保持することが望ましい。その後、手動ニードルバルブ8を閉じ、同時にバルブ9を開放して、回収槽5に界面活性剤及び二酸化炭素を回収しながら、高圧容器4を大気開放した。その後、界面活性剤が表面内部に浸透した熱可塑性樹脂101を高圧容器4から取り出した。
【0052】
次に、高圧二酸化炭素を溶媒として用い、界面活性剤が表面内部に含浸した熱可塑性樹脂101から界面活性剤を洗浄除去した(図3中のステップS13)。本実施例においては超臨界状態となる温度40℃、圧力15MPaとし、30分洗浄処理を行った。
【0053】
本発明において、界面活性剤と高圧二酸化炭素を接触させる場合においては、非晶性樹脂材料が十分に膨潤する様に樹脂材料のガラス転移温度近傍の温度において、処理を行うことが望ましい。また、樹脂材料内部に導入した界面活性剤のみを溶解および抽出する場合においては、ガラス転移温度よりも十分低い温度にて処理することが望ましい。抽出時には樹脂が膨潤することで孔のサイズが拡大してしまうためである。
【0054】
このプロセスにより、熱可塑性樹脂101の表面に浸透していたオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルが脱離し、そのオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルが離脱した部分には、微細孔が形成される。すなわち、上記洗浄処理により、熱可塑性樹脂101の表面に微細孔(微細な凹凸)を形成した(表面の物理的形状を変化させた)。その様子を示したのが、図2である。図2(a)は、上記洗浄処理前の熱可塑性樹脂101の表面のAFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope)観察像であり、図2(b)は、上記洗浄処理後の熱可塑性樹脂101の表面のAFM観察像である。図2(a)及び(b)から明らかなように、この例では洗浄処理後の熱可塑性樹脂101の表面には、100〜300nm程度の微細な孔が形成されて多数形成されていることが分かった。この例では、上述のようにして、熱可塑性樹脂101の表面改質を行った。
【0055】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上述のようにして作製した表面に微細な凹凸が形成されている熱可塑性樹脂101上に、無電解メッキ膜を形成した。具体的には、次のようにして、無電解メッキ膜を形成した。まず、熱可塑性樹脂101を公知のコンディショナー(奥野製薬工業(株)製 OPC−370)を用いて脱脂した。次いで、触媒(奥野製薬工業(株)製 OPC−80キャタリスト)を熱可塑性樹脂101に付与し(図3中のステップS14)、その後、活性剤(奥野製薬工業(株)製 OPC−500アクセレーターMX)を用いて触媒を活性化した。次いで、無電解銅メッキを施した(図3中のステップS15)。なお、メッキ液には奥野製薬工業(株)製 OPC−750無電解銅を用いた。その結果、熱可塑性樹脂101上に形成されたメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【実施例2】
【0056】
実施例2では、熱硬化性樹脂(プラスチック)の表面に界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素(高圧流体)を接触させて界面活性剤を熱硬化性樹脂に浸透させた後、熱硬化性樹脂から界面活性剤を除去して表面改質を行う例を説明する。また、実施例2では、表面改質された熱硬化性樹脂の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法についても説明する。この例では、界面活性剤にオクタエチレングリコールモノドデシルエーテル(分子量:539)、熱硬化性樹脂にはポリイミド基板を用いた。
【0057】
本実施例では、実施例1と同様に、図1に示した改質装置を用いて熱硬化性樹脂の表面改質を行った。本実施例における熱硬化性樹脂の表面改質方法および金属膜の形成方法は、図1に示す高圧容器4の温度を80℃としたこと以外は実施例1と同様にして行った。
【0058】
その結果、洗浄処理により界面活性剤を除去した後の熱硬化性樹脂の表面には、実施例1と同様に微細な孔が形成されて多数形成されていた。また、熱硬化性樹脂上に無電界メッキにより形成したメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【実施例3】
【0059】
実施例3では、光硬化性樹脂(プラスチック)の表面に界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素(高圧流体)を接触させて界面活性剤を光硬化性樹脂に浸透させた後、光硬化性樹脂から界面活性剤を除去して表面改質を行う例を説明する。また、実施例3では、表面改質された熱硬化性樹脂の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する例についても説明する。この例では、界面活性剤にオクタエチレングリコールモノドデシルエーテル(分子量:539)、光硬化性樹脂にはエポキシ樹脂材と硬化剤とを含む紫外線硬化型樹脂基板を用いた。
【0060】
本実施例では、実施例1と同様に、図1に示した改質装置を用いて光硬化性樹脂の表面改質を行った。なお、本実施例における光硬化性樹脂の表面改質方法および金属膜の形成方法は、図1に示す高圧容器4の温度を150℃としたこと以外は実施例1と同様にして行った。
【0061】
その結果、洗浄処理により界面活性剤を除去した後の光硬化性樹脂の表面には、実施例1と同様に微細な孔が形成されて多数形成されていた。また、光硬化性樹脂上に無電界メッキにより形成したメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【実施例4】
【0062】
実施例4では、実施例1と同様に、熱可塑性樹脂(プラスチック)の表面に界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素(高圧流体)を接触させて界面活性剤を熱可塑性樹脂に浸透させた後、熱可塑性樹脂の表面に浸透した界面活性剤を除去して表面改質を行い、さらに、表面改質された熱可塑性樹脂の表面に無電解メッキによりメッキ膜(金属膜)を形成する例について説明する。ただし、この例では、界面活性剤にカルボキシレートパーフルオロポリエーテル(F‐(CF2CF(CF3)O)n‐CF2CF2COOH,n=60,分子量:約10000(Dupont社製 商品名Krytox))を用い、それ以外は実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂の表面改質および無電解メッキ膜を形成した。なお、改質装置としては、図1に示した装置を用いた。
【0063】
その結果、洗浄処理により界面活性剤を除去した後の熱可塑性樹脂の表面には、実施例1と同様に微細な孔が形成されて多数形成されていた。また、熱可塑性樹脂上に形成したメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0064】
[テープ剥離試験及び表面粗さの測定]
上記実施例1〜4の表面改質方法およびメッキ膜の形成方法により得られたメッキ膜に対して、テープ剥離試験を実施してメッキ膜の密着性を評価した。具体的には、メッキ膜が形成されたプラスチック基板を1mm間隔に100等分の升目を切り、分割された各プラスチック基板(100枚)に対してテープ剥離試験を行い、メッキ膜が剥離した枚数により無電解メッキ特性を評価した。テープにはニチバン(株)製の粘着テープ(No.405)を用いた。その結果を表1に示す。なお、表1中の評価基準は下記の通りである。
◎:剥離枚数が9枚以下の場合
○:剥離枚数が10枚以上29枚以下の場合
△:剥離枚数が30枚以上59枚以下の場合
×:剥離枚数が60枚以上、もしくはメッキ膜形成されなかった場合
【0065】
また、実施例1〜4でプラスチック表面に形成したメッキ膜の表面粗さを触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)を用いて測定した。その結果も表1に示した。なお、表面粗さの測定では、各プラスチック基板の算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rz)を測定した。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示したテープ剥離試験の結果から明らかなように、実施例1〜4で形成されたメッキ膜は、全て◎評価となり、十分良好な密着強度が得られていることが分かった。これは、プラスチック基板の表面に含浸した界面活性剤を洗浄除去して、プラスチック基板の表面に微細な凹凸を形成したことにより、アンカー効果等が増大したためであると考えられる。
【0068】
また、実施例1〜4でプラスチック表面に形成されたメッキ膜の表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で数十nmのオーダーであり、十点平均粗さ(Rz)で数百nmのオーダーであることが分かった。従来のエッチング処理により表面粗化を図った場合には、プラスチックの表面粗さが数μm〜数十μmのオーダーになることを考えると、本発明のメッキ膜の形成方法では、従来の無電解メッキ方法に比べて、表面粗化が抑制され良好な平滑性が得られることが分かる。金属膜の表面粗さが大きい場合には、金属膜の反射率や電気特性(抵抗等)等が劣化するが、本発明のメッキ膜の形成方法は、基板の表面粗さを非常に小さくすることができるので、例えば、高反射率を必要とするリフレクター等の金属膜、良好な電気特性を必要とする高周波電気回路やアンテナ等の金属膜の形成方法として好適である。また、浸透させる界面活性剤の分子量により表面の平滑性を制御できることが分かり、本発明においては、分子量が500〜10000において、良好な密着強度と平滑性が得られることが分かった。
【実施例5】
【0069】
実施例5では、表面に凹部を有する熱可塑性樹脂(プラスチック)に対して、高圧流体を用いて凹部のみを表面改質し且つメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。この例では、熱可塑性樹脂(以下、プラスチック部材ともいう)には非晶質ポリオレフィン(ZEONEX)を用い、公知の射出成形により、表面に凹部およびスルーホールを有するプラスチック部材を作製した。この例では、プラスチック部材の表面には幅50μm、深さ50μmの凹パターンおよび直径Φ200μm、高さ1.0mm(アスペクト比1.0/0.2=5.0)のスルーホールを形成した。また、この例では、界面活性剤にオクタエチレングリコールモノドデシルエーテル(分子量:539)を用い、高圧流体としては超臨界二酸化炭素を用いた。
【0070】
[改質装置]
この例のプラスチック部材の表面改質に用いた装置の概略構成を図4に示した。改質装置200は、図4に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ1と、超臨界二酸化炭素を生成するシリンジポンプ2(ISCO社製 260D)と、界面活性剤(オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル)を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽3と、複数のプラスチック部材201が収容可能な金型4’と、金型4’等から排出されるガスを回収する回収槽5と、それらの構成要素を繋ぐ配管13とで構成されている。また、配管13には、図4に示すように、改質装置200内の高圧流体の流動を制御するための手動ニードルバルブ6〜10、保圧弁11及び逆止弁12が所定の位置に設けられている。すなわち、この例の改質装置200では、実施例1で用いた改質装置100の高圧容器4の代わりに、金型4’を用いた。
【0071】
金型4’は、図4及び5に示すように、主に、固定金型20と、可動金型21とから構成され、型締め装置(プレスピストン:不図示)により開閉される。なお、図5は、図4中の破線Aで囲まれた領域の拡大図である。プレスピストンは電動サーボモータ(不図示)による位置制御により移動可能となっている。また、金型4’は、図示しないカートリッジヒータにより温調可能な構造になっている。さらに、この例の金型4’は、図示しない冷却回路を流動する冷却水によって冷却可能である。
【0072】
この例の金型4’では、図4及び5に示すように、固定金型20と可動金型21との間に複数のプラスチック部材201を挟み込んで保持する構造になっている。固定金型20の可動金型21側の表面には、図4及び5に示すように、プラスチック部材201の上半分の外形と倣った凹部20aが複数形成されており、可動金型21の固定金型20側の表面には、プラスチック部材201の下半分の外形と倣った凹部21aが複数形成されている。そして、固定金型20の凹部20aと可動金型21の凹部21aとは互いに対向する位置に配置されている。すなわち、固定金型20と可動金型21とを閉じた際に、可動金型21と固定金型20との界面に、固定金型20の凹部20aと可動金型21の凹部21aにより、プラスチック部材201の外形寸法及び形状とほぼ同じ寸法及び形状を有する空間(以下、キャビティともいう)が複数画成されるような構造になっている。それゆえ、固定金型20及び可動金型21の界面にプラスチック部材201を装着して金型を閉めると、プラスチック部材201の表面に形成されている凹部202及びスルーホール203の開口部(凹部及びスルーホールによりプラスチック部材201の表面に画成された開口)は金型により塞がれた状態となる。
【0073】
また、金型4’には、図4に示すように、超臨界二酸化炭素を固定金型20及び可動金型21間に画成される空間と導入するための導入口23と、金型4’から超臨界二酸化炭素が排出される排出口24が形成されている。また、本実施例におけるプレスピストンの初期型開量22は1mmとなるようにした(図5参照)。
【0074】
[表面改質方法]
実施例5におけるプラスチック部材の表面改質方法について図4〜6を用いて説明する。なお、以下では、図4中の各バルブが全て閉じられた状態からこの例の表面改質方法を
説明する。
【0075】
まず、公知の射出成形によりプラスチック部材201を作製し、そのプラスチック部材201に、波長185nmの低圧水銀ランプによりUV光を1分間照射した。これにより、プラスチック部材201の表面を親水化処理し、界面活性剤であるオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルとプラスチック部材201との親和性を高めた。次に、図4に示すように、所定の温度(120℃)に温調された金型4’内に複数のプラスチック部材201を装着した。
【0076】
次に、界面活性剤であるオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルを内容積10mlの溶解槽3に仕込んだ。なお、この例では、オクタエチレングリコールモノドデシル
【0077】
次に、液体二酸化炭素ボンベ1から液体二酸化炭素をシリンジポンプ2に供給して加圧し、圧力計15が15MPaを示すように昇圧して超臨界二酸化炭素を生成した。次いで、手動ニードルバルブ6を開き、逆止弁12を介して溶解槽3に超臨界二酸化炭素を導入し、溶解槽3の内部を15MPaに昇圧するとともに、界面活性剤を超臨界二酸化炭素に溶解させた(図6中のステップS51)。昇圧後、再度ニードルバルブ6を閉鎖した。
【0078】
次に、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2からそのポンプ圧と同圧(15MPa)の界面活性剤の溶解していない超臨界二酸化炭素を金型4’のキャビティに導入して、金型4’内部を15MPaに昇圧した。この際、界面活性剤の溶解していない超臨界二酸化炭素は金型4’を介して手動ニードルバルブ9及び10まで充填されており、圧力計16では15MPaが表示された。この例では、図4に示すように、金型4’の排出側に予め1次側の圧力が15MPaになるように調節された保圧弁11を設けて、超臨界二酸化炭素が圧力一定で流動するようにした。次いで、ニードルバルブ8を閉鎖し、金型4’内のキャビティの圧力を15MPaに保持した。このように、金型4’内の圧力を予め15MPaに昇圧することにより、界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’に導入する際に圧力損失なく導入することができる。
【0079】
次に、界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を溶解槽3から金型4’に導入して、界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素をプラスチック部材201に接触させた(図6中のステップS52)。具体的には、次のようにして界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を導入した。まず、手動ニードルバルブ6および7を開放し、シリンジポンプ2を圧力制御から流量制御に切り替え、溶解槽3内の界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’に導入した。なお、ポンプの流量の設定は10ml/minとした。さらに、手動ニードルバルブ10を開き、回収槽5に超臨界二酸化炭素を1分間流動させた(排出した)。上記操作により、圧力を一定に保持した状態で金型4’内部および金型4’に流通する流路(配管等)を界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素で置換した。その後、ニードルバルブ6及び7を閉鎖した。
【0080】
次いで、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2から界面活性剤が溶解していない超臨界二酸化炭素を金型4’に流通する流路(配管等)に導入し、流量10ml/minで10秒間流動させ、配管等に充填されている界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を所望の位置に輸送した(金型4’内部に押し込んだ)。これにより、金型4’内に装着されたプラスチック部材201の表面付近では、超臨界二酸化炭素中の界面活性剤の溶解濃度を高濃度に分布させることができる。
【0081】
次いで、超臨界二酸化炭素をプラスチック部材201に接触させた状態で、金型4’を閉め、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の開口部を塞いで、界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を凹部202及びスルーホール203のみに滞留させた(図6中のステップS53)。具体的には、プレスピストンを上昇させてプラスチック部材201をプレスすることにより金型4’を閉め、前記凹部202及びスルーホール203を画成するプラスチック部材201の表面にのみ選択的に、界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を接触させた。この際、界面活性剤が超臨界二酸化炭素とともに凹部202及びスルーホール203を画成するプラスチック部材201の表面内部に浸透する。この例では、この状態を10分間保持して、界面活性剤を凹部202及びスルーホール203を画成するプラスチック部材201の表面内部に浸透させた。この方法を用いると、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203を画成するプラスチック部材201表面にのみ均一に且つ高濃度で界面活性剤を浸透させることができる。
【0082】
なお、この例では、界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めてプラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の開口部を塞ぐまでの工程(図6中のステップS52からS53までの工程)を、短い時間(この例では5〜10秒)で行っているので、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203以外の表面にはほとんど界面活性剤は浸透しない。ただし、界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めるまでの時間を長くすると、超臨界二酸化炭素に溶解した界面活性剤が凹部202及びスルーホール203以外の表面にも高濃度で浸透する恐れがあるので、界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めるまでの工程は、できるだけ短い時間内で行なうことが好ましい。
【0083】
次に、金型4’のヒーターの電源を切り、冷却水を流し、金型4’を40℃まで冷却した。なお、冷却中に金型4’の内圧を低下させると、プラスチック部材201の表面および内部で発泡が起こる恐れがあるので、冷却中は外圧保持することが望ましい。その後、手動ニードルバルブ8を閉じ、同時にバルブ9を開放して、回収槽5に界面活性剤及び二酸化炭素を回収しながら、金型4’を大気開放した。次いで、金型4’からプラスチック部材201を取り出した。
【0084】
次に、高圧二酸化炭素を溶媒として用い、上記方法により凹部202及びスルーホール203の表面にオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルが含浸したプラスチック部材201から、該オクタエチレングリコールモノドデシルエーテルを洗浄除去した(図6中のステップS54)。本実施例においては超臨界状態となる温度40℃、圧力15MPaとし、30分洗浄処理を行った。この洗浄処理により、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の表面に浸透していたオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルが脱離して、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の表面に微細な凹凸が形成される。すなわち、この洗浄処理により、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の表面においてのみ、選択的に表面の物理的形状を変化させた。このようにして、この例ではプラスチック部材201の表面改質を行い、凹部202及びスルーホール203を画成する表面のみが改質されたプラスチック部材201を得た。
【0085】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック部材201に、実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック部材201の表面にメッキ膜を形成した(図6中のステップS55及びS56)。その結果、この例では、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203を画成する表面上にのみ金属膜が形成された。また、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0086】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が25.1nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が159.3nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の高い無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック成形品を得ることができた。
【実施例6】
【0087】
実施例6では、実施例5と同様に、表面に凹部及びスルーホールを有する熱可塑性樹脂(プラスチック)に対して、凹部及びスルーホールのみを表面改質し且つメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。ただし、この例では、界面活性剤を含む溶液をプラスチック部材表面に塗布した後、超臨界二酸化炭素(高圧流体)を接触させることにより界面活性剤を超臨界二酸化炭素に溶解し、超臨界二酸化炭素とともに界面活性剤をプラスチック部材の表面内部に浸透させる例について説明する。
【0088】
この例では、熱可塑性樹脂に非晶質ポリオレフィン(ZEONEX)を用い、公知の射出成形により、表面に凹部及びスルーホールを有するプラスチック部材を作製した。この例では、プラスチック部材の表面には幅50μm、深さ50μmの凹パターンおよび直径Φ200μm、高さ1.0mm(アスペクト比1.0/0.2=5.0)のスルーホールを形成した。また、この例では、界面活性剤にはオクタエチレングリコールモノドデシルエーテル(分子量:539)を用いた。
【0089】
[改質装置]
本実施例でプラスチック部材の表面改質を行うために用いた改質装置の概略構成を図7
に示した。この例の改質装置300は、図7に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ
1と、超臨界二酸化炭素を生成する高圧ポンプ33と、プラスチック部材301を収容す
る金型4’と、金型4’等から排出されるガスを回収する回収槽5と、それらの構成要素
を繋ぐ配管13とで構成されている。また、配管13には、図7に示すように、改質装置
300内の高圧流体の流動を制御するための手動ニードルバルブ8〜10、保圧弁11及
び逆止弁12が所定の位置に設けられている。
【0090】
図7から明らかなように、この例で用いた改質装置300では、実施例5で用いた改質
装置200(図4参照)のシリンジポンプ2の代わりに高圧ポンプ33を用いた。また、
この例で用いた改質装置300では、実施例5の改質装置200の溶解槽3を設けない構
成とした。なお、この例の改質装置300で用いた金型4’は実施例5と同様の構造であ
り、プレスピストンの初期型開量22は1mmとなるようにした(後述する図8参照)。
【0091】
[表面改質方法]
本実施例におけるプラスチック部材の表面改質方法について、図7〜11を用いて説明
する。なお、以下では、図7中の各バルブが全て閉じられた状態からこの例の表面改質方
法を説明する。
【0092】
まず、プラスチック部材301に、波長185nmの低圧水銀ランプによりUV光を1分間照射した。これにより、プラスチック部材301の表面を親水化処理し、界面活性剤であるオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルとプラスチック部材301の親和性を高めた。次いで、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテルを60℃に加熱して溶液の状態にし、その溶液(図8中の304)をプラスチック部材301(プラスチック)の表面に塗布した(図11中のステップS61)。なお、本実施例で用いたオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルは室温で半固体状物質であり、高温下で液状物質となる。
【0093】
次いで、図7及び8に示すように、表面に界面活性剤の溶液304が塗布されたプラスチック部材301を所定の温度(120℃)に温調された金型4’内に装着した。次いで、液体二酸化炭素ボンベ1から液体二酸化炭素を高圧ポンプ33に供給して加圧し、圧力計15が15MPaを示すように昇圧して超臨界二酸化炭素を生成した。次いで、手動ニードルバルブ8及び10を開放することにより、逆支弁12を介して金型4’および配管内に15MPaの超臨界二酸化炭素を導入して、超臨界二酸化炭素をプラスチック部材301に接触させた(図11中のステップS62)。ここで、金型4’の排出側には、本実施例のように予め1次側の圧力を15MPaに調節した保圧弁11を設けておき、圧力一定で超臨界二酸化炭素を流動させることが望ましい。
【0094】
次に、プラスチック部材301の表面に超臨界二酸化炭素を接触させた状態で、金型4’を閉め、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303の開口部を塞いで、超臨界二酸化炭素を凹部302及びスルーホール303のみに滞留させた(図9の状態、図11中のステップS63)。この例では、この状態10分間保持した。
【0095】
この際、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303のみに超臨界二酸化炭素を滞留させることで、超臨界二酸化炭素が、プラスチック部材301表面に塗布された溶液304を介して、凹部302及びスルーホール302を画成するプラスチック部材301の表面に接触する。それにより、熱可塑性樹脂であるプラスチック部材301の表面が膨潤し、その粘性が低下し軟化する。同時に、プラスチック部材301の表面に塗布された液状の界面活性剤304(オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル)が超臨界二酸化炭素に溶解して、超臨界二酸化炭素とともに凹部302及びスルーホール303を画成するプラスチック部材301の表面内部に浸透する。この方法を用いると、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303を画成するプラスチック部材301の表面にのみ均一に且つ高濃度で界面活性剤を浸透させることができる。
【0096】
なお、この例では、超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めてプラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303の開口部を塞ぐまでの工程(図11中のステップS62からS63までの工程)を、短い時間(この例では5〜10秒)で行っているので、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303以外の表面にはほとんど界面活性剤は浸透しない。ただし、超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めるまでの時間を長くすると、超臨界二酸化炭素に溶解した界面活性剤が凹部302及びスルーホール303以外の表面にも高濃度で浸透する恐れがあるので、超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めるまでの工程は、できるだけ短い時間内で行なうことが好ましい。
【0097】
次に、金型4’のヒーターの電源を切り、冷却水を流し、金型4’を40℃まで冷却した。なお、冷却中に金型4’の内圧が低下すると、プラスチック部材301の表面および内部発泡を招く恐れがある。それゆえ、冷却中は外圧保持することが望ましい。その後、手動ニードルバルブ8を閉じ、同時にバルブ9を開放して、回収槽5に界面活性剤及び二酸化炭素を回収しながら、金型4’を大気開放した(図10の状態)。その後、界面活性剤305が表面に浸透したプラスチック部材301を金型4’から取り出した。
【0098】
次に、高圧二酸化炭素を溶媒として用い、上記方法により凹部202及びスルーホール203の表面にオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルが含浸したプラスチック部材201から、該オクタエチレングリコールモノドデシルエーテルを洗浄除去した(図11中のステップS64)。本実施例においては超臨界状態となる温度40℃、圧力15MPaとし、30分洗浄処理を行った。これにより、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303を画成する表面に浸透していたオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルが脱離して、その表面に微細な凹凸(孔)が形成される。すなわち、上記洗浄処理により、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303を画成する表面のみを、選択的にその物理的形状を変化させた。このようにして、この例ではプラスチック部材301の表面改質を行い、凹部302及びスルーホール303を画成する表面のみが改質されたプラスチック部材301を得た。
【0099】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック部材301に、実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック部材301の表面にメッキ膜を形成した(図11中のステップS65及びS66)。その結果、この例では、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303を画成する表面上にのみ金属膜が形成された。また、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0100】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が29.6nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が168.8nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の高い無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック成形品を得ることができた。
【実施例7】
【0101】
実施例7では、プラスチック成形品(プラスチック)を射出成形により成形すると同時に高圧流体を用いて界面活性剤をプラスチック成形品に浸透させた後、プラスチック成形品から界面活性剤を除去して表面改質を行う表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。
【0102】
なお、この例では、プラスチック成形品の形成材料として、熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイドを用い、界面活性剤にはオクタエチレングリコールモノドデシルエーテル(分子量:539)を用いた。また、高圧流体としては超臨界二酸化炭素を用いた。
【0103】
[成形装置]
本実施例で用いた成形装置の概略構成を図12に示した。この例で用いた成形装置400は、図12に示すように、射出成形機部401と、超臨界流体発生装置部402とから構成される。
【0104】
射出成形機部401は、図12に示すように、主に、溶融樹脂を射出する可塑性シリンダー40と、可動金型43と、固定金型44とから構成される。金型42内では、可動金型43および固定金型44が突き当たることにより、中心にスプールを有する円盤形状のキャビティ45が形成される。なお、この例では、図12に示すように、可動金型43及び固定金型44のキャビティ45側の表面のうちキャビティ45の中央に対応する部分(スプール等)以外の領域の形状は平面(ミラー面)とした。また、加熱シリンダー40(可塑化シリンダー)内のフローフロント部56の側部には、図12に示すように、ガス導入機構41を設けた。その他の構造は、従来の射出成形機と同様の構造となっている。
【0105】
超臨界流体発生装置部402は、図12に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ1と、公知のシリンジポンプ2台からなる連続フローシステム47(ISCO社製E−260)と、界面活性剤を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽46とから構成され、各構成要素は配管52により繋がれている。また、溶解槽46は、図に示すように、エアーオペレートバルブ50,51を介して、射出成形機部401のガス導入機構41に繋がれている。
【0106】
[射出成形方法及び表面改質方法]
次に、図12〜14を用いて、この例の成形方法及び表面改質方法について説明する。まず、液体二酸化炭素ボンベ1に蓄えられた5〜7MPaの液体二酸化炭素は連続フローシステム47に導入され、昇圧されて超臨界二酸化炭素(高圧流体)が生成される。なお、連続フローシステム47では、二酸化炭素は、シリンジポンプの少なくとも1台により所定圧力である10MPaに常時昇圧および圧力保持される。次いで、連続フローシステム47から溶解槽46に超臨界二酸化炭素を導入して界面活性剤を超臨界二酸化炭素に溶解させた(図14中のステップS71)。溶解槽46は40℃に昇温されており、溶解槽46には界面活性剤であるオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルが過飽和になるように仕込まれている。それゆえ、溶解槽46内では界面活性剤が連続フローシステム47より導入された超臨界二酸化炭素に常時、飽和溶解している。このとき、溶解槽46の圧力計48は10MPaに表示されていた。
【0107】
次に、従来と同様にして加熱シリンダー40内のスクリュー53を回転させ、供給された樹脂のペレット54を可塑化溶融して(図14中のステップS72)、スクリュー53の前方59に溶融樹脂を押し出して計量しながらスクリュー53を後退させ、所定の計量位置で停止させた。次いで、さらに、スクリュー53を後退させ、計量した溶融樹脂の内圧を減圧した。この例では、加熱シリンダー40のフローフロント部56付近に設けたれた溶融樹脂の内圧モニター55では、樹脂内圧が4MPa以下に低下することを確認した。
【0108】
次に、加熱シリンダー40のフローフロント部56の溶融樹脂に、界面活性剤を溶解した超臨界二酸化炭素をガス導入機構41を介して導入して、界面活性剤を溶解した超臨界二酸化炭素を溶融樹脂に接触させた(図14中のステップS73)。具体的には、次のようにして界面活性剤を溶解した超臨界二酸化炭素を導入した。まず、第一のエアーオペレートバルブ50を開き、第二のエアーオペレートバルブ51と第一のエアーオペレートバルブ50との間の配管52内に界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素を導入して圧力計49を昇圧させた。次いで、加熱シリンダー40への導入時は、第一のエアーオペレートバルブ50を閉じた状態で第二のエアーオペレートバルブ51を開き、界面活性剤の溶解した超臨界二酸化炭素をガス導入機構41を介して加熱シリンダー40内の減圧状態にある溶融樹脂内部に導入して浸透させた。本実施例では、配管52の内容積で超臨界二酸化炭素の導入量を制御した。なお、溶融樹脂に浸透させる超臨界流体はこの例のように単独でもよいし、複数でもよい。
【0109】
次に、スクリュー53を背圧力によって前方に前進させ、充填開始位置までスクリュー53を戻した。この動作によりスクリュー53前方のフローフロント部56にて二酸化炭素及び界面活性剤を溶融樹脂内に拡散させた。次いで、エアーピストン57を駆動してシャットオフバルブ58を開き、可動金型43および固定金型44にて画成された金型42のキャビティ45内に溶融樹脂を射出充填した(図14中のステップS74)。
【0110】
射出充填時の金型22内における溶融樹脂の充填の様子を模式的に図13に示した。図13(a)は初期充填時の模式図であり、初期充填時にはフローフロント部56の溶融樹脂56’が充填され、それに浸透している界面活性剤及び二酸化炭素は減圧しながらキャビティ45に拡散する。この際、フローフロント部56の溶融樹脂56’は充填時の噴水効果により、金型表面に接しながら流動しスキン層403を形成する。
【0111】
次いで、射出充填が完了すると、図13(b)に示すように、プラスチック成形品の表面には、界面活性剤が含浸したスキン層403が形成され、成形品の内部中央には、浸透物質がほとんど浸透していないコア層404が形成される。それゆえ、この例の成形方法では、成形品内部に浸透した界面活性剤は表面機能に寄与しないことから、界面活性剤の使用量を削減できる。なお、上述の1次充填後に溶融樹脂圧の保圧を高くした場合には、二酸化炭素のガス化による成形品の発泡を抑制できる。本実施例の成形方法では、可塑化シリンダー内のフローフロント部にのみに超臨界二酸化炭素を浸透させるので、充填樹脂の全体量に対する二酸化炭素の絶対量が少ない。それゆえ、カウンタープレッシャーを金型42のキャビティ45内に付加しなくても、プラスチック成形品の表面性は悪化し難い。この例では、上述のようにして、プラスチック成形品の成形を行うとともに、成形品の表面に界面活性剤を浸透させた。
【0112】
次に、高圧二酸化炭素を溶媒として用い、プラスチック成形品表面から界面活性剤を除去した。本実施例においては超臨界状態となる温度40℃、圧力15MPaとし、30分洗浄処理を行った。(図14中のステップS75)。この洗浄処理により、プラスチック成形品の表面に微細な凹凸(微細孔)を形成した。すなわち、上記洗浄処理により、プラスチック成形品の表面形状を物理的に変化させた。このようにして、この例では、プラスチック成形品の表面改質を行った。
【0113】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック成形品に実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック成形品の表面にメッキ膜を形成した(図14中のステップS76及びS77)。その結果、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0114】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が15.2nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が105.8nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック成形品を得ることができた。
【実施例8】
【0115】
実施例8では、実施例7と同様に、プラスチック成形品(プラスチック)を射出成形により成形すると同時に高圧流体を用いて界面活性剤をプラスチック成形品に浸透させた後、プラスチック成形品から界面活性剤を除去して表面改質を行う表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック成形品の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。ただし、この例では、表面に凹凸を有するプラスチック成形品を成形し、プラスチック成形品の凹部のみを表面改質し、凹部上にメッキ膜を形成する方法について説明する。
【0116】
なお、この例では、プラスチック成形品の形成材料として、熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイドを用い、界面活性剤にはオクタエチレングリコールモノドデシルエーテル(分子量:539)を用いた。また、高圧流体としては超臨界二酸化炭素を用いた。
【0117】
[成形装置]
この例で用いた成形装置には、実施例7で用いた成形装置(図12)とほぼ同じ構成の装置を用いた。この例の成形装置では、固定金型44のキャビティ45側表面に、ラインアンドスペースの凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた。それ以外は、実施例7で用いた成形装置と同じ構造とした。
【0118】
[射出成形方法及び表面改質方法]
まず、実施例7と同様にして、界面活性剤が表面に含浸したプラスチック成形品を作製した。次いで、プラスチック成形品の凹部の開口部を塞いで、80℃に加熱した純水を凹部のみに1時間流動させて、凹部を画成する表面に浸透した界面活性剤のみを除去した。この洗浄処理により、プラスチック成形品の凹部を画成する表面に浸透していたオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルのみが脱離して、その表面に微細な凹凸(微細孔)が形成された。すなわち、上記洗浄処理により、プラスチック成形品の凹部を画成する表面のみを、選択的にその物理的形状を変化させた。このようにして、この例の表面改質されたプラスチック成形品を得た。
【0119】
なお、上記凹部の洗浄処理方法には種々の方法が考えられるが、この例では、次のようにして、凹部の洗浄処理を行った。まず、ラインアンドスペースの凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた金型面とミラー状の金型面の2面を有する金型を用意した。なお、この金型では、キャビティ内部で、成形品が凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた金型面とミラー状の金型面との間を移動可能となるような構造の金型を用いた。次いで、ラインアンドスペースの凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた金型面を使用して表面に凹部を有し且つ界面活性剤が浸透したプラスチック成形品を成形した(一次成形)。次いで、プラスチック成形品の凹部がミラー状の金型面と対向するようにプラスチック成形品を移動させた。次いで、ミラー状の金型面でプラスチック成形品をプレスして、プラスチック成形品の凹部の開口部を塞いだ。次いで、塞がれた凹部のみに高圧二酸化炭素を流動させて凹部を画成する表面に浸透した界面活性剤のみを除去した。本実施例においては超臨界状態となる温度40℃、圧力15MPaとし、30分洗浄処理を行った。ただし、プラスチック成形品の凹部の開口部を塞ぐ方法はこれに限定されず、例えば、次のような方法により開口部を塞いでも良い。まず、凹凸パターンを有するスタンパを取り付ける金型面及びミラー状の金型面の2面を可動金型に設け、凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた金型面を使用して表面に凹部を有し且つ界面活性剤が浸透したプラスチック成形品を成形する。次いで、可動金型のミラー状の金型面をプラスチック成形品表面と対向する位置に移動させてミラー状の金型面でプラスチック成形品をプレスし、プラスチック成形品の凹部の開口部を塞いでも良い。また、凹凸パターンを有するスタンパが取り付けられた金型面を有する第1金型と、ミラー状の金型面を有する第2金型を別個用意し、第1金型を使用して表面に凹部を有し且つ界面活性剤が浸透したプラスチック成形品を成形した後、成形品を第2金型に移して、ミラー状の金型面でプラスチック成形品の凹部の開口部を塞いでも良い。
【0120】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック成形品に実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック成形品の表面にメッキ膜を形成した。この例では、プラスチック成形品の凹部を画成する表面のみが表面改質され微細な凹凸が形成されているので、この例では、プラスチック成形品の凹部を画成する表面上のみにメッキ膜が形成された。また、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0121】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が15.8nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が120.8nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック成形品を得ることができた。
【実施例9】
【0122】
実施例9では、実施例7と同様に、プラスチック成形品(プラスチック)を射出成形により成形すると同時に高圧流体を用いて界面活性剤をプラスチック成形品に浸透させた後、プラスチック成形品から界面活性剤を除去して表面改質を行う表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック成形品の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。ただし、この例では、異なる2種類の浸透物質を高圧流体に溶解させて、2種類の浸透物質をプラスチック成形品の表面に浸透させた。2つの浸透物質には、界面活性剤であるオクタエチレングリコールモノドデシルエーテル(分子量:539)と、金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)とを用いた。また、プラスチック成形品の形成材料として、熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイドを用い、高圧流体としては超臨界二酸化炭素を用いた。
【0123】
[成形装置]
本実施例で用いた成形装置には、実施例7で用いた成形装置(図12)とほぼ同じ構成の装置を用いた。この例の成形装置では、溶解槽46に上述した2種類の浸透物質(界面活性剤及び金属錯体)をともに過飽和になるように仕込んだ。それ以外の構成は実施例7と同様である。
【0124】
[射出成形方法及び表面改質方法]
次に、図15を用いて、この例の成形方法及び表面改質方法について説明する。まず、実施例7と同様にして、2種類の浸透物質(界面活性剤及び金属錯体)が溶解した超臨界二酸化炭素を加熱シリンダー内の溶融樹脂に導入して、2種類の浸透物質が表面に含浸したプラスチック成形品を作製した(図15中のステップS91〜S94)。なお、この成形過程では溶融樹脂の熱により、浸透した金属錯体の多くが金属微粒子に還元される。次いで、高圧二酸化炭素を溶媒として用い、プラスチック成形品表面から界面活性剤を除去した(図15中のステップS95)。本実施例においては超臨界状態となる温度40℃、圧力15MPaとし、30分洗浄処理を行った。この洗浄処理では、プラスチック成形品に浸透している浸透物質のうち、界面活性剤がプラスチック成形品の表面から脱離して、その表面に微細な凹凸(微細孔)が形成される。もう一方の浸透した金属微粒子は、この洗浄処理によりほとんど除去されることはなく、プラスチック成形品の表面内部に浸透した状態を保っていた。この例では、このようにしてプラスチック成形品の表面改質を行った。
【0125】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック成形品に無電解メッキを施し、プラスチック成形品の表面にメッキ膜を形成した(図15中のステップS96及びS97)。具体的には、メッキ液には奥野製薬工業(株)製ICPニコロンDKを用い、無電解ニッケル−リンメッキを施した。その結果、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。なお、この例では、プラスチック成形品の表面には微細な凹凸が形成されているだけでなく、メッキ膜の触媒核となる金属微粒子も含浸しているので、微細な凹凸によるアンカー効果とメッキ触媒核の存在により、密着性の一層優れたメッキ膜形成することができた。
【0126】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が18.8nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が129.0nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック成形品を得ることができた。
【実施例10】
【0127】
実施例10では、プラスチック成形品(プラスチック)を射出成形により成形すると同時に高圧流体を用いて界面活性剤および金属錯体をプラスチック成形品の表面に浸透させた後、プラスチック成形品から界面活性剤を除去して表面改質を行う表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。ただし、この例では、外皮を形成する第一の可塑化シリンダー1017と内皮を形成する第二の可塑化シリンダー1018を有するサンドイッチ射出成形装置を用い、少なくとも第一の可塑化シリンダーに上記界面活性剤および金属錯体を高圧流体に溶解させて導入した。
【0128】
[射出成形]
本発明におけるサンドイッチ射出成形装置の概念図を図24に示す。本発明の射出成形装置は、外皮を形成する第一の可塑化シリンダー1017と内皮を形成する第二の可塑化シリンダー1018を有し、少なくとも第一の可塑化シリンダーに高圧二酸化炭素およびそれに溶解した機能性材料を導入する機能を有すれば、装置の形態は任意である。
【0129】
高圧流体に溶解させる機能性材料の種類は任意であるが、本実施例においては、界面活性剤および金属錯体を用いた。界面活性剤にはオクタエチレングリコールモノドデシルエーテル(分子量:539)、金属錯体にはヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。導入する高圧流体としては超臨界二酸化炭素を用い、温度、圧力条件は任意であるが、本実施例においては超臨界状態となる温度40℃、圧力10MPaとした。
【0130】
本発明における外皮を形成し機能性材料を高圧二酸化炭素により分散させる樹脂材料の種類は熱可塑性樹脂材料であれば任意であり、非晶性、結晶性いずれでも適用できるが、本実施例においてはポリフェニレンサルファイドを用いた。
【0131】
また本発明における内皮を形成する樹脂材料の種類は任意であり、外皮と同様な種類を選択することもできる。また内皮にのみガラス繊維や無機フィラー等を混合した材料を使用することで表面性が良好で、機械的強度や寸法安定性、吸湿性に優れた成形体を得ることができる。本実施例においてはガラス繊維が30%混合したポリフェニレンサルファイドを用いた。
【0132】
本発明に用いることのできる射出成形の金型およびキャビティの形態は任意であるが、本実施例においては固定金型1022および可動金型1023より形成されるキャビティ1019は、スプール1029を中心にして、自動車用のヘッドランプリフレクターが2個取り可能な金型とした。固定金型1022は成形機の固定プラテン1024、可動金型1023は可動プラテン1025にそれぞれ固定され、型締め機構1026により駆動する可動プラテン1025の開閉によって金型1029は開閉する。
【0133】
[射出成形方法及び表面改質方法]
本実施例においては、高圧二酸化炭素への浸透物質の溶解および可塑化シリンダーへの導入は下記方法で行った。まず、液体二酸化炭素ボンベ1より供給された二酸化炭素をシリンジポンプ1027にて所定圧まで昇圧し、過飽和になるように溶解槽1013内に仕込まれた界面活性剤および金属錯体を溶解させた(図32中のステップS121)。この際、導入シリンダー1014まで加圧した。本実施例においては、後述する可塑化計量時における高圧二酸化炭素および機能性材料を可塑化シリンダー1017内に導入するタイミング以外においては、シリンジポンプ1027を溶解槽1013から導入シリンダー1014まで一定圧力に保持する制御とした。
【0134】
第一の可塑化シリンダー1017に内蔵された第一のスクリュー1012には2箇所の減圧箇所をベント部1010,1011としてそれぞれ設けた。図25に示す通り、可塑化計量時には第一のスクリュー1012の回転によりスクリュー前方の内圧が上昇しスクリュー1012が後退し始めるが、その際に導入シリンダー1014下部に設けられたベント部1011において溶融樹脂は減圧され、同時にエアー駆動式の導入シリンダー1014内における導入ピストン1042を上昇させ、前記減圧樹脂内部に浸透させた(図32中のステップS122〜S123)。機能性材料の溶解した高圧二酸化炭素の樹脂内部への浸透時間中は、シリンジポンプ1027を流量制御に切り替え一定流量の高圧二酸化炭素を一定時間、可塑化シリンダー1017内に注入した。
【0135】
本実施例の成形装置においては、機能性材料を溶解させ溶融樹脂に浸透させた高圧二酸化炭素を射出充填前に排気させる機能を有する。図25に示す通り、可塑化計量時に第一のスクリュー1012第二のベント部1010にて樹脂を減圧し高圧二酸化炭素を超臨界状態の圧力以下に減圧してガス化させた。
【0136】
同時に排出シリンダー1015に内蔵された排気ピストン1041を上昇させ、ガス化した二酸化炭素を一部可塑化シリンダー1017より排気した。二酸化炭素はフィルター1035、バッファー容器1034を通過した後、減圧弁1033で圧力計1032が0.5MPaになるように減圧され、真空ポンプ1031より排気した。
【0137】
第一のホッパー1036より供給された図示しない樹脂ペレットは、前記した方法で浸透物質(界面活性剤、金属錯体)および高圧二酸化炭素が均一に拡散した状態で可塑化溶融される。第一の可塑化シリンダー1017と第二の可塑化シリンダーの金型への流通はロータリーバルブ1009の回転によって制御される。例えば、第一の可塑化シリンダー1017における可塑化計量時には、加圧された樹脂がノズル1021の先端部より金型1029内へ漏れないように、ロータリーバルブ1009は図25、図26に示すように第二の可塑化シリンダー1018とノズル1021間の樹脂流動路を形成する。
【0138】
第一のスクリュー1012で第一の樹脂材料1007の可塑化計量が完了したタイミングで、図26に示す通り導入シリンダー1014および排出シリンダー1015における導入ピストン1042および排出ピストン1041を下降させ、同時にシリンジポンプを圧力制御に切り替え、高圧二酸化炭素の導入および排気を停止した。
【0139】
次に図27に示す通り、第一の可塑化シリンダー1017より可塑化計量された溶融樹脂が第一のスクリュー1012の前進により金型1029内へスプール1020およびキャビティ1019内に射出充填される際には、ロータリーバルブ1009は回転し、第一の可塑化シリンダーとノズル1021の樹脂流動路を形成した。
【0140】
同時に第二の可塑化シリンダー1018では、図示しない第二のホッパーより供給された、内皮を形成する樹脂ペレットを第二のスクリュー1016の回転により可塑化計量した。図28に示す通り、第一の樹脂が充填完了する直前には、第二の樹脂1008の可塑化計量を完了させた。
【0141】
第一の可塑化シリンダー1017より、外皮を形成する第一の樹脂材料1007が充填された(図32中のステップS124)直後、ロータリーバルブ1009を回転させ、図29に示す通り第二の可塑化シリンダーより第二の樹脂材料1008を射出充填した(図32中のステップS125)。そして図30に示す通り、外皮は2種類の浸透物質(界面活性剤及び金属錯体)の分散した第一の樹脂材料1007で形成され、内皮は第二の樹脂材料1008で形成されたサンドイッチ成形体1050を射出成形した。なお、この成形過程では溶融樹脂の熱により、浸透した金属錯体の多くが金属微粒子に還元される。冷却固化させた後、金型1029を開き成形体1050を取り出すことにより、2種類の浸透物質が表面に含浸したプラスチック成形品を作製した。次いで、高圧二酸化炭素を溶媒として用い、プラスチック成形品表面から界面活性剤を除去した(図32中のステップS126)。本実施例においては超臨界状態となる温度40℃、圧力15MPaとし、30分洗浄処理を行った。この洗浄処理では、プラスチック成形品に浸透している浸透物質のうち、界面活性剤であるオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルがプラスチック成形品の表面から脱離して、その表面に微細な凹凸(微細孔)が形成される。もう一方の浸透した金属微粒子は、この洗浄処理によりほとんど除去されることはなく、プラスチック成形品の表面内部に浸透した状態を保っていた。この例では、このようにしてプラスチック成形品の表面改質を行った。
【0142】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック成形品に無電解メッキを施し、プラスチック成形品の表面にメッキ膜を形成した。具体的には、超臨界二酸化炭素と無電解メッキ液の混合溶液によりエマルションを形成し、該混合溶液のエマルション中で無電解メッキを行った(図32中のステップS127)。
【0143】
本実施例におけるバッチ処理による、超臨界二酸化炭素を用いた無電解メッキ装置の概念図を図31に示す。本装置1100は、液体二酸化炭素ボンベ1、シリンジポンプ2と、高圧容器1101の構成からなり、高圧容器1101内部に、金型サンプル1130を挿入して、高圧二酸化炭素を用いたメッキ処理を行う。液体二酸化炭素ボンベ1からフィルター1124を通し、シリンジポンプ2で昇圧された高圧二酸化炭素は、手動バルブ1125により、高圧容器1101に導入される。高圧容器1101は、温調流路1136を流れる図示しない温調機により温度制御された温調水により30℃から145℃の任意の温度により温調することができる。高圧容器1101は、容器本体1131と、公知のバネが内蔵されたポリイミド製シール1133でシールされる蓋1132により、高圧ガスを内部に密閉する。
【0144】
上記により表面改質を行ったプラスチック成形品を、高圧容器1101の蓋1132より吊るし、予め無電解ニッケルメッキ液を内容積の70%満たし、マグネチックスタラー1135を高圧容器1101内に挿入した。
【0145】
本発明における高圧容器においては、腐食されにくい材質を用いることが望ましく、SUS316、SUS316L、インコネル、ハステロイ、チタン等を用いることができるが、本実施例においてはSUS316Lを用いた。本発明においては、高圧容器の内壁面が無電解メッキ液に接触する場合、容器内部にメッキ膜が成長しないように、内壁面表面には、非メッキ成長膜1140がコーティングされることが望ましい。非メッキ成長膜の材質としては、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、PTFE(ポリテトラフロオロエチレン)、PEEK(ポリエチルエーテルケトン)等を用いることができるが、本実施例においては、DLCをCVD(Chemical Vapor Deposition化学気相法)にてコーティングした。
【0146】
本発明において用いることのできる無電解メッキ液の種類はニッケルーリン、ニッケルーホウ素、パラジウム、銅、銀、コバルト等任意であるが、本実施例においてはニッケルーリンを用いた。高圧二酸化炭素がメッキ液に浸透することで、pHが低下するので、中性、弱アルカリ性から酸性の浴でメッキできる液が好適であり、ニッケルーリンはpH4〜6の範囲で用いることができるので望ましい。また、pHが低下すると、リン濃度が上昇し、析出速度が低下する等の弊害があるので、予めメッキ液のpHを上昇させておいてもよい。本発明の高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキ膜を形成した後、従来の無電解もしくは電解メッキ膜を積層してもよい。
【0147】
本発明の高圧二酸化炭素を用いた無電解メッキに関しては、アルコールが含まれる無電解メッキ液中でメッキ反応を行っても良い。アルコールは超臨界状態の二酸化炭素と攪拌せずとも高圧状態にて相溶しやすいことが知られる。本発明者らの検討によれば、メッキ液は水が主成分であるが、アルコールを添加することで、高圧状態の二酸化炭素とメッキ液が安定に混ざりやすくなる。そのため、界面活性剤を使用したり、攪拌する必要がなくなる。さらに、ポリマー内に高圧二酸化炭素とともにメッキ液を浸透させポリマー内部でメッキ反応を成長させるために、アルコールを添加させたほうが、水のみよりも表面張力が低下するため、好適である。
【0148】
通常、無電解メッキ液は、金属イオンや還元剤等の入った原液に、例えばメーカー推奨の成分比により水で薄めてメッキ液を健浴するが、本発明においては、アルコールを任意の割合で水に添加すればよい。水とアルコールの体積比は、任意であるが、10〜80%の範囲であることが望ましい。アルコールが少ないと、安定な混合液が得られにくくなる。また、アルコール成分が多すぎると、たとえばニッケル-リンメッキに用いられる硫酸ニッケルにエタノール等の有機溶媒は不溶であるため、浴が安定しない場合がある。
【0149】
本実施例においては、メッキ液1l中に、硫酸ニッケルの金属塩と還元剤や錯化剤の含まれる原液として奥野製薬社製ニコロンDKを150ml添加し、水を350ml、アルコールとしてエタノールを500mlそれぞれ加え調合した。つまり、アルコールはメッキ液中50%とした。硫酸ニッケルはアルコールに不溶なので、添加量が80%を超えると硫酸ニッケルが多く沈殿するので適用できないことがわかった。
【0150】
本発明に用いることのできるアルコールの種類は任意であり、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコール等を用いることができるが、本実施例ではエタノールを用いた。
【0151】
次に、上記アルコールが添加された無電解メッキ液1137とマグレチックスタラー1135およびマウント成形品1130が内蔵された高圧容器1101内に、導入口1138より高圧二酸化炭素を導入した。液体二酸化炭素ボンベ1より取り出した液体二酸化炭素を、フィルター1124を介し高圧シリンジポンプ2で吸い上げ、次いでポンプ内で15MPaに昇圧にし、手動バルブ1125を開いて15MPaの高圧二酸化炭素を高圧容器1101内部に導入した。本実施例のシリンジポンプ2は、手動バルブ1125を開いた状態で圧力一定制御することにより、高圧容器1101内部の温度および高圧二酸化炭素の密度が変化した際にも、圧力変動を吸収することができ、それにより、高圧容器1101内部の圧力を安定に保持することができる
【0152】
本発明においては、表面内部に金属微粒子が偏析したポリマーを、メッキ反応が起きない低温度にて高圧二酸化炭素が含まれる無電解メッキ液に接触させるステップと、次いで、ポリマーおよび高圧二酸化炭素の含まれるメッキ液の温度を上昇させることで、ポリマー表面に無電解メッキ膜を成長させることができる。それにより、高圧二酸化炭素を含んだ無電解メッキ液が、メッキ反応する前にポリマー内部に浸透するので、ポリマー内部で無電解メッキ膜を反応、成長させることができる。
【0153】
本実施例においては、高圧容器1101およびメッキ液1137の温度は、温調流路1136を流れる温調水により、メッキの反応温度70℃〜85℃以下である50℃に設定しておき、超臨界状態となる高圧二酸化炭素を導入した。その後、マグレチックスタラー1135を高速で回転させた。この際には、無電界メッキ液はポリマー内に入るのみで、メッキは成長しない。その後、高圧容器1101の温度を85℃に昇温して、メッキ反応をポリマー内で起こした。
【0154】
メッキ終了後、マグネチックスターラー1135を停止させ、二酸化炭素とメッキ液を2相分離させた。その後手動バルブ1125を閉じ、手動バルブ1145を開くことで、二酸化炭素を排気した。本実施例の成形品を高圧容器1101より取り出したところ、ポリマー表面に金属光沢がみられた。
【0155】
その後、大気中で従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿(80℃90%Rh500hr)試験した後、ピール試験したところ、膜剥れは発生せず、後述するように密着強度の良好なメッキ膜が形成できた。
【実施例11】
【0156】
実施例11では、実施例10と同様に、サンドイッチ射出成形装置を用い、射出成形により成形すると同時に高圧流体を用いて界面活性剤および金属錯体をプラスチック成形品の表面に浸透させた後、プラスチック成形品から界面活性剤を除去して表面改質を行う表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。本実施例では、フッソを含有する界面活性剤として、カルボキシレートパーフルオロポリエーテル(F−(CF2CF(CF3)O)n-CF2CF2COOH,n=7,分子量:約1000(Dupont社製 商品名Krytox))を用い、それ以外は、実施例10と同様の方法でプラスチック成形品の表面改質および無電解メッキ膜の形成を行った。
【0157】
本実施例におけるサンドイッチ射出成形工程において、フッソ含有の界面活性剤を用いることによって、金型よりの離型性が向上することが確認できており、離型時の突き出しストローク量を低減できることが分かった。
【0158】
実施例10と同様に無電解メッキを施した後、大気中で従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿(80℃90%Rh500hr)試験した後、ピール試験したところ、膜剥れは発生せず、後述するように密着強度の良好なメッキ膜が形成できた。
【実施例12】
【0159】
実施例12では、実施例10と同様に、サンドイッチ射出成形装置を用い、射出成形により成形すると同時に高圧流体を用いて界面活性剤および金属錯体をプラスチック成形品の表面に浸透させた後、プラスチック成形品から界面活性剤を除去して表面改質を行う表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。本実施例では、フッソ及びアミド基を含有する界面活性剤として、ペルフルオロポリエーテル基(PFPE)を有しトリス(ヒドロキシルメチル)メチルアミノ基を有する化合物(化学構造式:PFPE‐CONH‐(OH)3,分子量:771)を用いたこと以外は、実施例10と同様の方法でプラスチック成形品の表面改質および無電解メッキ膜の形成を行った。
【0160】
実施例10と同様に無電解メッキを施した後、大気中で従来の電気ニッケルメッキを約20μm施し、高温多湿(80℃90%Rh500hr)試験した後、ピール試験したところ、膜剥れは発生せず、後述するように密着強度の良好なメッキ膜が形成できた。
【0161】
以下に、上記実施例10〜12の表面改質方法およびメッキ膜の形成方法により得られたプラスチック成形品に対して、表面分析を行った。XPSによりプラスチック成形品表面のPd濃度を評価し、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)を用いて表面粗さの測定を行った。その結果を表2に示す。
【0162】
また、上記実施例10〜12により得られたメッキ膜に対して、引張り試験機((株)島津製作所製 オートグラフAGS−J)を用いて、90°ピール試験を行った。その結果も表2に示す。
【0163】
【表2】

【0164】
表2に示したXPSによる表面Pd濃度分析により、実施例10〜12で得られたプラスチック成形品全てにおいて無電解メッキ触媒核となるPdが検出されていることが分かった。また、特に実施例12においては表面Pd濃度が多く検出されているが、これはアミド基の存在によりPd金属錯体の還元を促進することが知られており、本実施例における界面活性剤中のアミド基が還元に寄与しているためと考えられる。また、本実施例においてPdが表面に高濃度に分散していることにより、良好な密着強度が得られることが分かった。
【0165】
また、実施例1〜4でプラスチック表面に形成されたメッキ膜の表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で数十nmのオーダーであり、十点平均粗さ(Rz)で数百nmのオーダーであることが分かった。従来のエッチング処理により表面粗化を図った場合には、プラスチックの表面粗さが数μm〜数十μmのオーダーになることを考えると、本発明のメッキ膜の形成方法では、従来の無電解メッキ方法に比べて、表面粗化が抑制され良好な平滑性が得られることが分かる。金属膜の表面粗さが大きい場合には、金属膜の反射率や電気特性(抵抗等)等が劣化するが、本発明のメッキ膜の形成方法は、基板の表面粗さを非常に小さくすることができるので、例えば、高反射率を必要とするリフレクター等の金属膜、良好な電気特性を必要とする高周波電気回路やアンテナ等の金属膜の形成方法として好適である。
【実施例13】
【0166】
実施例13では、少なくとも表面に界面活性剤を有する樹脂フィルム(プラスチック製シート)を押し出し成形で作製した後、その樹脂フィルムを用いてインサート(インモールド)成形してプラスチック成形品(プラスチック)を作製し、次いで、界面活性剤を除去するプラスチックの表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック成形品の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。
【0167】
樹脂フィルムに用い得る樹脂材料は、押し出し成形できる熱可塑性樹脂であれば任意であるが、本実施例では、ポリカーボネートを用いた。また、樹脂フィルムに浸透させる材料もまた任意であるが、本実施例では界面活性剤にはオクタエチレングリコールモノドデシルエーテル(分子量:539)を用いた。なお、この例では、高圧流体として液状の高圧二酸化炭素を用いた。
【0168】
[成形装置]
まず、樹脂フィルムを作製するために用いたこの例の成形装置について説明する。この例で用いた成形装置の概略構成図を図16に示した。この例で用いた成形装置600は、図16に示すように、主に、押し出し成形機部601と、二酸化炭素供給部602と、二酸化炭素排出部603とから構成される。
【0169】
押し出し成形機部601は、図16に示すように、主に、可塑化溶融シリンダー70(以下、加熱シリンダーともいう)と、加熱シリンダー70内に樹脂のペレットを供給するホッパー73と、加熱シリンダー70内のスクリュー71を回転させるモーター72と、冷却ジャケット77と、溶融樹脂の肉厚を薄くし且つ溶融樹脂を扇状に拡大させながら押し出すダイ80と、冷却ロール81とから構成される。スクリュー71としては、減圧部となるベント構造部74を有する単軸スクリューを用いた。
【0170】
押し出しダイ80の構造・方式は任意であり、作製する成形品の形状、用途等により適宜設定できるが、この例では押し出しダイ80として、フィルム成形用のTダイを用いた。また、この例の成形装置600では、Tダイ80より押し出された樹脂フィルム82は冷却ロール81等により巻き取られる。本実施例では、Tダイ80のダイ押し出し口におけるギャップtは0.5mmに設定した。
【0171】
また、この例の成形装置600では、図16に示すように、二酸化炭素の導入口70aを溶融樹脂が減圧される単軸スクリュー71のベント機構部74付近に設けた。また、この例の成形装置600では、図16に示すように、樹脂内圧を測定するためのモニターを加熱シリンダー70と冷却ジャケット77との間の接続部(モニター76)と、冷却ジャケット77内部(モニター79)とに設けた。
【0172】
二酸化炭素供給部602は、図16に示すように、主に、二酸化炭素ボンベ60と、シリンジポンプ62と、溶解槽61と、背圧弁63と、バルブ64と、圧力計66と、これらの構成要素を繋ぐ配管67とから構成される。また、バルブ64の下流側(2次側)は、図16に示すように、配管67を介して加熱シリンダー70の二酸化炭素の導入口70aに繋がれており、加熱シリンダー70内部の溶融樹脂の流路と流通している。なお、二酸化炭素の導入箇所は、これに限定されず、スクリュー71からTダイ80までの領域であれば、任意の箇所に設け得る。
【0173】
また、二酸化炭素排出部603は、図16に示すように、主に、二酸化炭素を排出するための抽出容器83と、背圧弁84と、圧力計85と、これらの構成要素を繋ぐ配管86とから構成される。また、背圧弁84の上流側(1次側)は、図16に示すように、配管86を介して冷却ジャケット77の二酸化炭素排出口77aと繋がれており、冷却ジャケット77内部の溶融樹脂の流路と流通している。
【0174】
なお、本実施例の押し出し成形機部601において、スクリュー71、加熱シリンダー70、ダイ80等の各機構は、公知の押し出し成形機の各機構と同様な形態を用いることができる。
【0175】
[樹脂フィルムの成形方法]
次に、本実施例における樹脂フィルムの成形方法を図16及び20を参照しながら説明する。まず、押し出し成形機部601のホッパー73に樹脂材料(ポリカーボネート)のペレットを充分な量だけ供給し、モーター72によりスクリュー71を回転させて樹脂材料を可塑化溶融し、溶融樹脂を加熱シリンダー70の先端に送った(図20中のステップS101)。この際、バンドヒータ75により加熱シリンダー70を280℃に温度調節した。
【0176】
次いで、予め界面活性剤が仕込まれた溶解槽61の内部で高圧二酸化炭素(高圧流体)を流動させることにより界面活性剤を高圧二酸化炭素に溶解させた(図20中のステップS102)。具体的には、次のようにして界面活性剤を高圧二酸化炭素に溶解させた。まず、二酸化炭素ボンベ60から供給された液体二酸化炭素をシリンジポンプ62で昇圧および圧力調整し、圧力計46が15MPaになるよう圧力調整した。そして、昇圧された高圧二酸化炭素を、40℃に温度制御され、界面活性剤が過飽和になるように仕込まれた溶解槽61内部に流動させ、界面活性剤を高圧二酸化炭素に溶解させた。
【0177】
次いで、バルブ64を開放して、配管67及び導入口70aを介して、加熱シリンダー70のベント構造部74に界面活性剤を溶解した高圧二酸化炭素を導入し、界面活性剤を高圧二酸化炭素とともに溶融樹脂に接触させた浸透させた(図20中のステップS103)。この際、シリンジポンプ62により高圧二酸化炭素の流量を制御し、且つ、背圧弁63により高圧二酸化炭素の圧力を制御しながら一定流量で界面活性剤を溶解した高圧二酸化炭素を導入した。この際、ベント構造部74の溶融樹脂に注入された高圧二酸化炭素および浸透物質(界面活性剤:オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル)は、スクリュー71の回転により樹脂に混錬される。
【0178】
次いで、高圧二酸化炭素および界面活性剤が混錬された溶融樹脂の圧力が樹脂内圧力のモニター76の表示で20MPaに上昇するように調整しながら、溶融樹脂を加熱シリンダー70から押し出した。
【0179】
次いで、加熱シリンダー70から押し出された溶融樹脂を、冷却ジャケット77を通過させた。なお、冷却ジャケット77は、冷却ジャケット77内部に設けられた冷却水路78を流動する温調水により200℃まで冷却されている。また、この例の成形装置600では、図16に示すように、冷却ジャケット77内部の溶融樹脂の流路の断面積が、加熱シリンダー70と冷却ジャケット77との接続部の溶融樹脂の流路の断面積より大きくしているので、溶融樹脂が冷却ジャケット77内を通過した際には、冷却と同時に減圧される。この例では、溶融樹脂が冷却ジャケット77内を通過した際には、減圧部の樹脂内圧力モニター79は10MPaを示した。
【0180】
次いで、冷却ジャケット77から押し出された溶融樹脂は、Tダイ80を通過し、Tダイ80から押し出された樹脂82は冷却ロール81等で巻き取られフィルム状(シート状)に連続成形された(図20中のステップS104)。そして、この例では、図示しない延伸装置で樹脂82を薄肉化して厚み0.1mmの樹脂フィルムを作製した。このようにして、ポリエチレングリコールが表面及び内部に分散した樹脂フィルム(プラスチック製シート)を得た。
【0181】
[インサート成形]
次に、上記押し出し成形により作製された樹脂フィルムを用いて、インサート(インモールド)成形によりプラスチック成形品を作製する方法を、図17及び18を参照しながら説明する。なお、この例のインサート成形で用いた射出成形装置900は、従来と同様の構造のものを用いた。
【0182】
まず、図17に示すように、上記押し出し成形により作製された樹脂フィルム604を、金型90の可動金型91のキャビティ97側の表面に保持した。なお、この例では、キャビティ97側の表面がミラー曲面形状を有する可動金型91を用い、そのミラー曲面形状の表面に樹脂フィルム604を保持した。なお、金型90内のキャビティ97は固定金型92と可動金型91で画成される空間である。また、この例では、可動金型91のバキューム93回路を用いて、樹脂フィルム604を可動金型91表面に吸着することにより樹脂フィルム604を保持した。なお、この際、樹脂フィルム604は、図17に示すように、可動金型91の表面に完全に密着していなくてもよく、可動金型91の表面と樹脂フィルム604との間の一部に隙間が生じていてもよい。また、本実施例において、樹脂フィルム604と、金型表面やインサート成形時に射出される樹脂材料との密着性を向上させるために、樹脂フィルム604の表面に各種公知の接着層を設けてもよい。
【0183】
次いで、樹脂フィルム604を金型90のキャビティ97内に保持した状態で、射出成形装置900のスクリュー95にて可塑化溶融した樹脂96を射出成形装置900のスプール95を経てキャビティ97に射出充填した(インサート成形:図20中のステップ106)。この際、樹脂シート604は、図18に示すように、射出樹脂により金型表面に密着され(樹脂フィルム604と金型表面との隙間が無くなり)、樹脂フィルム604が所定に形状(ミラー形状)に成形される。このようにして、この例では、樹脂フィルム604と成形品基材605とが一体化されたプラスチック成形品を得た。
【0184】
なお、この際、溶融樹脂により樹脂フィルム604が塑性変形もしくは溶融することがあるが、成形品表面の金属膜の品質になんら影響を受けるものではない。また、この例では、ある程度弾力性を有する樹脂フィルム604をインサート成形しているので、従来のように金属フィルムをインサート成形した場合のように、金型内部に保持したフィルムに亀裂が生じることはない。
【0185】
なお、本実施例のプラスチック成形品の製造方法では、インサート(インモールド)成形時に射出成形する充填樹脂材料は任意の樹脂材料が用い得る。例えば、ポリエステル系等の合成繊維、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ABS系樹脂、ポリアミドイミド、ポリ乳酸等の生分解性プラスチック、ナイロン樹脂等及びそれら複合材料を用いることできる。また、ガラス繊維、カーボン繊維、ナノカーボン等の各種無機フィラー等を混練させた樹脂材料を用いることもできる。また、充填樹脂材料は樹脂フィルムの材料と同じでも異種でもよいが、樹脂フィルムの材料との接着性を高めるために同一材料であることが好ましい。本実施例では樹脂フィルムの材料と同一の材料、すなわち、ポリカーボネートをインサート成形にて射出充填した。ただし、ガラス繊維30%入りで荷重たわみ温度(ISO75−2)が148℃のポリカーボネート材料を用いた。
【0186】
また、この例のプラスチック成形品の製造方法では、界面活性剤が含浸した樹脂フィルムの膜厚等を制御することにより、インサート成形後のプラスチック成形品の界面活性剤の浸透量や浸透深さを制御できる。
【0187】
上述したこの例のインサート成形により得られたプラスチック成形品の表面粗さを触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)で測定した。算術平均粗さ(Ra)は5nm、十点平均粗さ(Rz)は8nmであった。
【0188】
次に、樹脂フィルム604と成形品基材605とが一体化されたプラスチック成形品を射出成形機900から取り出した後、高圧二酸化炭素を溶媒として用い、樹脂フィルムの表面近傍に分散しているオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルを除去した(図20中のステップS107)。本実施例においては超臨界状態となる温度40℃、圧力15MPaとし、30分洗浄処理を行った。この工程により、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテルが除去された箇所には微細孔が形成され、プラスチック成形品の表面に微細な凹凸を形成した。この例では、上述のようにして、プラスチック成形品の表面改質を行った。
【0189】
上述のように、本実施例のプラスチック成形品の表面改質方法では、樹脂フィルム及び成形品基材の材料とは異なる低分子成分(この例ではオクタエチレングリコールモノドデシルエーテル)が溶媒により樹脂フィルムから除去されるので、少なくとも成形品の表面に微細孔が形成された樹脂成形品が得られる。なお、樹脂フィルムから低分子成分を除去するプロセスのタイミングは任意であり、除去プロセスはインサート成形の前後いずれに行ってもよい。また、微細孔のサイズは、低分子成分(界面活性剤)の分子量や樹脂フィルムから低分子成分を抽出除去する際の条件により数nmオーダーからミクロンオーダーまでの範囲で制御可能である。
【0190】
上述のようにして作製された表面に微細孔が形成されたプラスチック成形品の表面粗さを実施例1と同様にして測定した。その結果、算術平均粗さ(Ra)は15nm、十点平均粗さ(Rz)は130nmとなり、界面活性剤を除去する前、すなわち、インサート成形後のプラスチック成形品に比べて、表面粗さが大きくなった。これは、樹脂フィルム表面に分散していた低分子成分(オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル)が除去され微細孔が形成されたことを示している。ただし、従来のメッキ工程で行うクロム酸や過マンガン酸のエッチング処理では成形品表面が数μm〜数十μm程度粗化されることを考えると、本実施例で表面改質されたプラスチック成形品では、従来のエッチング処理により粗化された成形品に比べて良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られることが分かった。
【0191】
[メッキ膜の形成方法]
次に、この例では、ポリエチレングリコールが除去されたプラスチック成形品に対して、実施例1と同様にして無電解銅メッキ処理を施してメッキ膜を形成した(図20中のステップS108)。なお、コンディショナー及び触媒の付与の工程においては、樹脂フィルム上への触媒核およびメッキ膜の浸漬を助長するため、超音波振動を付与した。その結果、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、クロスハッチのテープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0192】
上述のようにして表面にメッキ膜が形成されたプラスチック成形品の樹脂フィルム近傍の拡大概略断面図を図19に示した。この例で作製されたプラスチック成形品では、樹脂フィルムの表面近傍に分散した界面活性剤(オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル)を除去しているので、成形品基材605上に形成された樹脂フィルム604の表面には、図19に示すように、一部微細孔604aが形成されている。そして、無電解メッキにより、この微細孔内に触媒核およびメッキ膜607が浸漬し、樹脂フィルム604の表面の微細孔604aによりアンカー効果が得られ、メッキ膜の強固な密着強度が得られたものと考えられる。すなわち、この例のメッキ膜が形成されたプラスチック成形品では、表面を極力平滑に維持した状態で強固なアンカー効果を得ることができる。さらに、本実施例のプラスチック成形品のメッキ膜の形成方法では、従来のエッチングでは十分に粗化できなかった樹脂材料、例えば、ポリフェニレンサルファイド、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネートの非メッキグレード、液晶ポリマー等に対しても容易にメッキ膜を形成することができる。
【実施例14】
【0193】
実施例14では、高圧流体を用いないで、プラスチック成形品の表面を改質する方法及びプラスチック成形品の表面にメッキ膜を形成する方法の例について説明する。この例では界面活性剤としてオクタエチレングリコールモノドデシルエーテル(分子量:539)を用い、プラスチック成形品の形成材料としてはポリカーボネートを用いた。以下に、この例のプラスチック成形品の成形方法及び表面改質方法からメッキ膜の形成方法までの手順を図21を用いて説明する。
【0194】
[成形方法及び表面改質方法]
まず、この例では、プラスチック成形品の形成材料であるポリカーボネートと、浸透物質であるオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルとを公知の押し出し成形機内で混練してペレット(第1プラスチック樹脂)を作製した。具体的には、ポリカーボネートに対するオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルの混合比を30%として押し出し成形機に供給し、スクリューにて溶融及び混練しながらノズル先端のダイから樹脂を押出した。得られた成形品を冷却バスにて冷却し、ペレタイザーにて造粒した。この際、ポリカーボネートとポリエチレングリコールとの混練を均一にするために、添加剤により末端基を改質して親和性を向上させる等の改質を施しても良い。また、この例では、公知の押し出し成形機で、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテルを含まないポリカーボネートからなるペレット(第2プラスチック樹脂)を作製した(図21中のステップS111)。なお、本発明では、プラスチック成形品の形成材料は押し出し成形できる熱可塑性樹脂であれば任意である。
【0195】
次に、上記方法により得られた2種類のペレットを用いて、公知のサンドイッチ成形によりプラスチック成形品を成形した。この例で用いたサンドイッチ成形装置は、2つの加熱シリンダーと、それらの先端ノズルと流通した金型とを備え、一方の加熱シリンダー(以下、第1加熱シリンダーともいう)から溶融樹脂を金型内に射出した後、他方の加熱シリンダー(以下、第2加熱シリンダーともいう)から溶融樹脂を射出充填して成形する公知のサンドイッチ成形装置である。この例のサンドイッチ成形では、次のようにしてプラスチック成形品を成形した。
【0196】
まず、第1加熱シリンダー内に界面活性剤を含むポリカーボネート(第1プラスチック樹脂)のペレットを供給して、可塑化溶融した(図21中のステップS112)。また、第2加熱シリンダー内に界面活性剤を含まないポリカーボネート(第2プラスチック樹脂)のペレットを供給して、可塑化溶融した(図21中のステップS113)。次いで、第1加熱シリンダーから界面活性剤を含むポリカーボネートの溶融樹脂を金型内に射出した(図21中のステップS114)。次いで、溶融樹脂の射出経路を第2加熱シリンダーに切り替えて、第2加熱シリンダーから界面活性剤を含まないポリカーボネートの溶融樹脂を金型内に射出充填した(図21中のステップS115)。この結果、界面活性剤を含まないポリカーボネートからなるコア層と、コア層上に形成された界面活性剤を含むポリカーボネートからなるスキン層とを有するプラスチック成形品が得られた。この例では、このようにして、表面に界面活性剤が含浸したプラスチック成形品を作製した。なお、プラスチック成形品の成形方法としては、サンドイッチ成形に限らず、インサート成形、二色成形等を用いても良い。
【0197】
上記サンドイッチ成形で作製されたプラスチック成形品を、高圧二酸化炭素を溶媒として用い、プラスチック成形品表面から界面活性剤を除去した(図21中のステップS116)。本実施例においては超臨界状態となる温度40℃、圧力15MPaとし、30分洗浄処理を行った。これにより、プラスチック成形品の表面(スキン層)に浸透していたオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルが脱離し、プラスチック成形品の表面に微細な凹凸(微細孔)が形成された。すなわち、上記洗浄処理により、プラスチック成形品の表面の形状を変化させた。この例では、このようにして、プラスチック成形品の表面改質を行った。
【0198】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック成形品に実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック成形品の表面にメッキ膜を形成した(図21中のステップS117及びS118)。その結果、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0199】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が16.2nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が125.8nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック成形品を得ることができた。
【0200】
上記実施例1〜5及び7〜13では、浸透物質(界面活性剤及び/又は金属錯体)を溶解槽で高圧流体に溶解させた例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、予め浸透物質が溶解した高圧流体を充填したボンベ等の貯蔵器を用い、その貯蔵器から浸透物質が溶解した高圧流体を直接プラスチック(または溶融樹脂)に供給(導入)しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0201】
本発明の表面改質方法では、様々な種類のプラスチックに対して、高圧流体を用いてプラスチックの表面にサブミクロンからナノオーダーの微細な凹凸を形成することができる。それゆえ、例えば、本発明の表面改質方法を無電解メッキ前処理プロセスとして用いた場合には、低コストでクリーンな無電解メッキ前処理プロセスとして好適である。
【0202】
本発明の金属膜の形成方法では、従来のメッキ法のように有害なエッチャントを用いることなく、平滑性及び密着性の優れた金属膜を様々な種類のプラスチック表面に形成することができる。それゆえ、本発明の金属膜の形成方法は、あらゆる分野に適用可能であり且つ低コストでクリーンな金属膜の形成方法として好適である。また、本発明の金属膜の形成方法は、大面積の複雑な形状を有する成形品にも容易に適用可能である。
【0203】
また、本発明の表面改質方法ではプラスチックの表面に微細孔を形成することができるので、次のような用途に用いることができる。例えば、プラスチックの材料にポリ乳酸等の生分解性プラスチックを用いた場合には、微細孔に細胞を培養する再生医療用デバイスとして適用することができる。また、微細孔のサイズを可視光の波長より十分小さい100nm以下程度にした場合には、空孔率を増やすことで成形品表面の屈折率を低減することができる。さらに、プラスチックの表面から内部までの空孔率分布に傾斜をつけることにより、表面反射率を抑制することができる。この場合、表面の空孔率をプラスチック内部よりも増大させる必要があるが、本発明の表面改質方法の界面活性剤の除去方法では、低分子成分は表面に近いほど多く抽出(除去)されるので、より容易にプラスチックの表面から内部までの空孔率分布の傾斜を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0204】
【図1】図1は、実施例1で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図2】図2は、成形されたプラスチック部材の表面のAFM観察像であり、図2(a)は界面活性剤除去前のAFM観察像であり、図2(b)は界面活性剤除去後のAFM観察像である。
【図3】図3は、実施例1の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図4】図4は、実施例5で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図5】図5は、図4中の破線Aで囲まれた領域の拡大断面図である。
【図6】図6は、実施例5の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図7】図7は、実施例6で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図8】図8は、図7中の破線Aで囲まれた領域の拡大断面図である。
【図9】図9は、図7中の破線Aで囲まれた領域の拡大断面図である。
【図10】図10は、図7中の破線Aで囲まれた領域の拡大断面図である。
【図11】図11は、実施例6の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図12】図12は、実施例7で用いた成形装置の概略構成図である。
【図13】図13は、溶融樹脂の射出充填時の様子を示した図であり、図13(a)は、初期充填時の様子を示した図であり、図13(b)は、充填完了時の様子を示した図である。
【図14】図14は、実施例7の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図15】図15は、実施例9の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図16】図16は、実施例13で用いた成形装置の概略構成図である。
【図17】図17は、インサート成形の方法を説明するための図面であり、溶融樹脂を射出する前の様子を示した図である。
【図18】図18は、インサート成形の方法を説明するための図面であり、溶融樹脂を射出充填した際の様子を示した図である。
【図19】図19は、実施例13で作製されたプラスチック成形品の概略断面図である。
【図20】図20は、実施例13の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図21】図21は、実施例14の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図22】図22は、本発明の表面改質方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図23】図23は、本発明の金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図24】図24は、実施例10で用いたサンドイッチ成形装置の概略図である。
【図25】図25は、実施例10で用いたサンドイッチ成形方法の概念説明図である。
【図26】図26は、実施例10で用いたサンドイッチ成形方法の概念説明図である。
【図27】図27は、実施例10で用いたサンドイッチ成形方法の概念説明図である。
【図28】図28は、実施例10で用いたサンドイッチ成形方法の概念説明図である。
【図29】図29は、実施例10で用いたサンドイッチ成形方法の概念説明図である。
【図30】図30は、実施例10で用いたサンドイッチ成形方法の概念説明図である。
【図31】図31は、実施例10で用いた無電解メッキ装置の概略図である。
【図32】図32は、実施例10の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0205】
1 二酸化炭素ボンベ
2 シリンジポンプ
3 溶解槽
4 高圧容器
4’ 金型
5 回収槽
100,200,300 改質装置
101,201 プラスチック部材
202,302 凹部
203,303 スルーホール
305 界面活性剤
400,900 射出成形装置
600 押し出し成形装置
604 樹脂フィルム
604a 微細孔
605 成形品基材
606 メッキ触媒核
607 金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックの表面改質方法であって、
界面活性剤が表面近傍に分散したプラスチックを用意するステップと、
上記界面活性剤を溶媒で溶解させ、上記プラスチック表面から上記界面活性剤を除去するステップとを含む表面改質方法。
【請求項2】
上記界面活性剤にはフッ素が含まれていることを特徴とする請求項1記載の表面改質方法
【請求項3】
上記界面活性剤はアミド基、アミン、アンモニア塩のいずれかを有することを特徴とする請求項1〜2記載の表面改質方法
【請求項4】
上記プラスチックの少なくとも表面近傍には金属微粒子が分散されていることを特徴とする請求項1記載の表面改質方法
【請求項5】
上記プラスチックを用意するステップは、
高圧流体を用いて上記界面活性剤を上記プラスチック内部に浸透させることを含む
ことを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の表面改質方法
【請求項6】
上記高圧流体を用いて界面活性剤をプラスチックの表面内部を浸透させることが、
上記界面活性剤を上記高圧流体に溶解させることと、
上記界面活性剤の溶解した高圧流体を上記プラスチックに接触させて上記界面活性剤を上記プラスチックの表面内部に浸透させることとを含むことを特徴とする請求項5に記載の表面改質方法。
【請求項7】
上記高圧流体を用いて界面活性剤をプラスチックの表面内部を浸透させることが、
上記界面活性剤あるいは界面活性剤の溶解した溶液を上記プラスチックの表面に塗布することと、
上記界面活性剤が塗布されたプラスチックに上記高圧流体を接触させて、上記界面活性剤を上記プラスチックの表面内部に浸透させることとを含むことを特徴とする請求項5に記載の表面改質方法。
【請求項8】
上記プラスチックが凹部を有しており、
上記界面活性剤を上記プラスチックの表面内部に浸透させる際に、
上記高圧流体を上記プラスチックに接触させた状態で、上記凹部により上記プ
ラスチックの表面に画成された開口を塞いで上記高圧流体を上記凹部に滞留させ、上記凹
部を画成する上記プラスチックの表面内部に上記界面活性剤を浸透させることを特徴とする請求項6又は7に記載の表面改質方法。
【請求項9】
上記表面改質方法が、金型と該金型内にプラスチックの溶融樹脂を射出する加熱シリン
ダーとを備えた射出成形機を用いた表面改質方法であり、
上記高圧流体を用いて界面活性剤をプラスチックの表面内部に浸透させることが、
上記界面活性剤が溶解した高圧流体を上記加熱シリンダー内に導入することと、上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填することとを含むことを特徴とする請求項5に記載の表面改質方法。
【請求項10】
上記表面改質方法が、押し出し成形機を用いた表面改質方法であり、
上記高圧流体を用いて界面活性剤をプラスチックの表面内部を浸透させることが、
上記界面活性剤を溶解した高圧流体を上記押し出し成形機内のプラスチックの溶融樹脂に接触させて、上記界面活性剤を該溶融樹脂に浸透させることと、上記溶融樹脂を押し出し成形することとを含むことを特徴とする請求項5に記載の表面改質方法。
【請求項11】
前記プラスチックを用意するステップは、
上記界面活性剤含有する樹脂のペレットを用意することと、
上記ペレットを可塑化溶融し、前記プラスチックを成形することを含む
ことを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の表面改質方法
【請求項12】
上記プラスチックが凹部を有しており、
上記プラスチック表面から上記界面活性剤を除去するステップにおいて、
上記溶媒を上記凹部の表面のみに接触させて上記凹部に浸透した界面活性剤を除去することを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項13】
上記プラスチック表面から界面活性剤を除去する溶媒には、高圧流体を用いることを特徴とする請求項6乃至12記載の表面改質方法
【請求項14】
上記高圧流体の圧力が、5〜25MPaであることを特徴とする請求項6〜13のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項15】
上記高圧流体が、二酸化炭素であることを特徴とする請求項6〜14のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項16】
上記プラスチックが熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか1つから形成されていることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項17】
上記界面活性剤の分子量が500〜10000であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項18】
プラスチックの表面に金属膜を形成する方法であって、
界面活性剤が表面近傍に分散したプラスチックを用意することと、
上記界面活性剤を溶媒で溶解させ、上記プラスチック表面から上記界面活性剤を除去することと、
上記界面活性剤の除去されたプラスチックの表面に金属膜を形成することとを含む金属膜
の形成方法。
【請求項19】
プラスチックの表面に金属膜を形成する方法であって、
請求項1〜17いずれか記載の表面改質方法により、表面改質の行われたプラスチックの表面に金属膜を形成することとを含む金属膜の形成方法。
【請求項20】
上記金属膜を形成することが、
上記界面活性剤が除去されたプラスチックの表面にメッキ触媒核を付与することと、
無電解メッキ法により、上記メッキ触媒核が付与されたプラスチックの表面に金属膜を形成することとを含むことを特徴とする請求項18または19に記載の金属膜の形成方法。
【請求項21】
表面に金属膜が形成されたプラスチックであって、
界面活性剤が表面近傍に分散したプラスチックを用意し、
上記界面活性剤を溶媒で溶解させ、上記プラスチック表面から上記界面活性剤を除去した後に、
上記界面活性剤の除去されたプラスチックの表面に金属膜を形成することにより製造されたことを特徴とする表面に金属膜が形成されたプラスチック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2008−247962(P2008−247962A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87612(P2007−87612)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】