説明

プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法

【課題】周方向全体に渡ってカスプ磁場によるプラズマの閉じこめ効果を高めることでプラズマ処理の均一性を高める。
【解決手段】減圧された処理室内に処理ガスのプラズマを生成することにより基板に対して所定の処理を施すプラズマ処理装置であって,処理室の周囲に沿って上下に離間して設けられた2つのマグネットリング210,220を有し,各マグネットリングは内周面にその周方向に沿って2個ずつ交互に極性が逆になる順序で同じように配列された多数のセグメント212,222を有する磁場形成部200を備え,磁場形成部は,下部マグネットリング220を上部マグネットリング210に対して周方向にずらして配置することで上下の磁極配置をずらしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,処理室内にプラズマを生成することにより半導体ウエハ,FPD(フラットパネルディスプレイ)基板,太陽電池基板などの基板を処理するプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板例えば半導体ウエハ(以下,単に「ウエハ」とも称する)に対してスパッタリング,エッチング,成膜などのプラズマ処理を行うのに,ウエハの処理面に均一な処理を行うために,処理室内にプラズマの周囲を囲むようなカスプ磁場を発生させるプラズマ処理装置がある。
【0003】
このようなプラズマ処理装置では,極性の異なる磁石を周方向に交互に配置してなる所謂マルチポールリング磁石を処理室の周囲に配置することでカスプ磁場を発生させるようになっている。このカスプ磁場によってプラズマを閉じこめることができるので,ウエハに対するプラズマ処理の均一性を高めることができる。
【0004】
従来はウエハのセンタ部とエッジ部での処理の均一性をより高めるために,2つのマルチポールリング磁石を上下に配置してその間隔を調整したり,これらのマルチポールリング磁石を回転させたりするものが知られている(例えば下記特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−234331号公報
【特許文献2】特開2000−306845号公報
【特許文献3】特開2004−111334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,特許文献1,2に示すように上下にリング磁石を並べるタイプのプラズマ処理装置では,上下の磁性配列によっては,カスプ磁場を形成する磁力線は処理室の側壁に平行な磁場よりも垂直な磁場の方が大きい部分が多くなる場合もある。このような場合には,プラズマの径方向(側壁に平行な磁場を横切る方向)の拡散係数を十分に小さくできないのでプラズマの閉じこめ効果を十分に発揮できず,ウエハのセンタ部とエッジ部とで処理の均一性が低下するとともに,側壁にダメージを与える虞がある。
【0007】
なお,特許文献3には2つのリング磁石を相対的に回転させるものが記載されているものの,これはダイポールリング磁石である。ダイポールリング磁石は,処理室の周囲に複数の異方性セグメント磁石をその磁化方向を少しずつ変えてリング状に配置することで全体として一様な水平磁場をウエハ上に形成するものである。これは,ウエハの処理面に直交する高周波電界を印加して,その際に生じる電子のドリフト運動を利用して極めて高効率でエッチング等のプラズマ処理をするものである。
【0008】
このようなダイポールリング磁石では,ウエハ上に形成される磁場の方向によって均一性が大きく左右される点で,ウエハ上にはほとんど磁場が形成されないマルチポールリング磁石の場合とは大きく事情が異なる。このため,ダイポールリング磁石での考え方をマルチポールリング磁石の場合にそのまま適用することはできない。
【0009】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,その目的とするところは,周方向全体に渡ってカスプ磁場によるプラズマの閉じこめ効果を高めることでプラズマ処理の均一性を高めることができるプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,減圧された処理室内に処理ガスのプラズマを生成することにより基板に対して所定の処理を施すプラズマ処理装置であって,前記処理室内に設けられ,前記基板を載置する載置台と,前記処理室内に前記処理ガスを導入する処理ガス導入部と,前記処理室内を排気して減圧する排気部と,前記処理室の周囲に沿って上下に離間して設けられた2つのマグネットリングを有し,前記各マグネットリングは内周面にその周方向に沿って1個ずつ又は複数個ずつ交互に極性が逆になる順序で同じように配列された多数のセグメントを有する磁場形成部と,を備え,前記磁場形成部は,前記一方のマグネットリングを前記他方のマグネットリングに対して周方向にずらして配置することで上下の磁極配置をずらしたことを特徴とするプラズマ処理装置が提供される。なお,前記セグメントは,例えば永久磁石セグメント又は電磁石の磁極セグメントで構成される。
【0011】
この場合,前記セグメントの同極連続数をmとすると,前記セグメントの1個分から(2m−1)個分まで前記一方のマグネットリングを周方向にずらして前記基板に対するプラズマ処理を実行したときに,前記基板の処理結果が最も良好な場合のセグメント数をずらし調整量として記憶部に記憶しておき,前記基板に対するプラズマ処理を実行する前に前記ずらし調整量のセグメント数分だけ前記一方のマグネットリングを前記他方のマグネットリングに対して周方向にずらして配置することが好ましい。
【0012】
また,前記一方のマグネットリングを前記他方のマグネットリングに対して周方向にずらすように回転させるリングずらし量調整機構と,前記リングずらし量調整機構を制御する制御部と,を備え,前記記憶部には,前記プラズマ処理の複数の処理条件に応じて求めた前記ずらし調整量が前記各処理条件に関連づけられて記憶されており,前記制御部は,前記処理条件に基づいて前記基板に対するプラズマ処理を実行する前に,その処理条件に関連づけられたずらし調整量を読み出して,その分だけ前記リングずらし量調整機構を制御して前記一方のマグネットリングの周方向のずらし量を調整するようにしてもよい。
【0013】
この場合,前記各マグネットリングの上下方向の間隔を調整するリング間隔調整機構を備え,前記記憶部には前記各処理条件に前記ずらし調整量とともに間隔調整量も記憶されており,前記制御部は,前記処理条件に基づいて前記基板に対するプラズマ処理を実行する前に,その処理条件に関連づけられた間隔調整量を読み出して,その分だけ前記リング間隔調整機構を制御して前記上下方向の間隔を調整するようにしてもよい。
【0014】
上記課題を解決するために,本発明の別の観点によれば,減圧された処理室内に処理ガスのプラズマを生成することにより基板に対して所定の処理を施すプラズマ処理装置のプラズマ処理方法であって,前記プラズマ処理装置は,前記処理室内に設けられ,前記基板を載置する載置台と,前記処理室内に前記処理ガスを導入する処理ガス導入部と,前記処理室内を排気して減圧する排気部と,前記処理室の周囲に沿って上下に離間して設けられた2つのマグネットリングを有し,前記各マグネットリングは内周面にその周方向に沿って1個ずつ又は複数個ずつ交互に極性が逆になる順序で同じように配列された多数のセグメントを有する磁場形成部と,前記一方のマグネットリングを前記他方のマグネットリングに対して周方向にずらすように回転させるリングずらし量調整機構と,前記プラズマ処理の複数の処理条件に応じて求めたずらし調整量が前記各処理条件に関連づけられて記憶された前記記憶部とを備え,前記処理条件に基づいて前記基板に対するプラズマ処理を実行する前に,その処理条件に関連づけられたずらし調整量を読み出して,その分だけ前記リングずらし量調整機構を制御して前記一方のマグネットリングの周方向のずらし量を調整することで上下の磁極配置を前記ずらし調整量だけずらしたことを特徴とするプラズマ処理方法が提供される。なお,前記セグメントは,例えば永久磁石セグメント又は電磁石の磁極セグメントで構成される。
【0015】
この場合,前記各処理条件に関連付けられるずらし調整量は,前記セグメントの同極連続数をmとすると,前記各処理条件で前記セグメントの1個分から(2m−1)個分まで前記一方のマグネットリングを周方向にずらして前記基板に対するプラズマ処理を実行したときに,前記基板の処理結果が最も良好な場合のセグメント数であることが好ましい。
【0016】
また,前記各マグネットリングの上下方向の間隔を調整するリング間隔調整機構を備え,前記記憶部には前記各処理条件に前記ずらし調整量とともに間隔調整量も記憶されており,前記処理条件に基づいて前記基板に対するプラズマ処理を実行する前に,その処理条件に関連づけられた間隔調整量を読み出して,その分だけ前記リング間隔調整機構を制御して前記上下方向の間隔を調整するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,上下のマグネットリングの磁極配置をずらすことで,処理室の側壁に垂直な方向の磁場を減少させるとともに側壁に平行な方向の磁場を増加させることができる。これにより,周方向全体に渡ってプラズマの拡散を抑制することができるので,カスプ磁場によるプラズマの閉じこめ効果をより高めることができ,これによって基板処理の均一性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態にかかるプラズマ処理装置の構成例を示す断面図である。
【図2A】同実施形態におけるマグネットリングの構成の概略を示す斜視図であって,周方向のずらし調整量なしの場合である。
【図2B】同実施形態におけるマグネットリングの構成の概略を示す斜視図であって,周方向のずらし調整量ありの場合である。
【図3A】同実施形態におけるリング間隔調整機構を説明するための断面図であって,上下方向のリング間隔を広くした場合である。
【図3B】同実施形態におけるリング間隔調整機構を説明するための断面図であって,上下方向のリング間隔を狭くした場合である。
【図4】本実施形態におけるマグネットリングで形成される磁場を説明するための観念図である。
【図5】本実施形態におけるマグネットリングで形成される磁力線を説明するための斜視図である。
【図6A】同実施形態における作用説明図であって,側壁に垂直な方向の磁場が強い場合である。
【図6B】同実施形態における作用説明図であって,側壁に平行な方向の磁場が強い場合である。
【図7】ずらし調整量と上下の極性配置との関係を示す図である。
【図8】径方向の距離と,磁場強度の大きさ|B|及びその直角方向成分の大きさ(|B|,|Bθ|,|B|)との関係を示す図である。
【図9】処理室の側壁に対する磁力線の入射角と磁束密度との関係を示す図である。
【図10】本実施形態におけるカスプ磁場によるプラズマの拡散抑制効果を説明するための観念図である。
【図11】本実施形態におけるマグネットリングのずらし調整量を変えてプラズマエッチング処理を行った場合のエッチングレートを測定した結果を示す図である。
【図12】本実施形態におけるマグネットリングを電磁石で構成した場合の構成例を示す図である。
【図13】図12に示すマグネットリングのずらし調整量を変えてプラズマエッチング処理を行った場合のエッチングレートを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
(プラズマ処理装置の構成例)
先ず,本発明の実施形態にかかるプラズマ処理装置の概略構成を図面を参照しながら説明する。図1は,本実施形態にかかるプラズマ処理装置の概略構成を示す断面図である。ここでは,下部電極(サセプタ)に周波数が異なる2周波の高周波を印加する容量結合型(平行平板型)のプラズマエッチング装置として構成されたプラズマ処理装置100を例に挙げる。
【0021】
プラズマ処理装置100は,例えば表面が陽極酸化処理(アルマイト処理)されたアルミニウムまたはステンレス鋼等の金属から成る円筒形状に成形された処理容器を有する処理室(チャンバ)102を備える。処理室102は接地されている。処理室102内には,基板例えば半導体ウエハ(以下,単に「ウエハ」とも称する。)Wを載置する載置台を兼ねた円板状の下部電極(サセプタ)110と,下部電極110に対向して配設され,処理ガスやパージガスなどを導入するシャワーヘッドを兼ねた上部電極120とを備える。
【0022】
下部電極110は例えばアルミニウムからなる。下部電極110は処理室102の底部から垂直上方に延びる筒状部104に絶縁性の筒状保持部106を介して保持されている。下部電極110の上面には,ウエハWを静電吸着力で保持するための静電チャック112が設けられている。静電チャック112は例えば導電膜からなる静電チャック電極114を絶縁膜内に挟み込んで構成される。静電チャック電極114には直流電源115が電気的に接続されている。この静電チャック112によれば,直流電源115からの直流電圧により,クーロン力でウエハWを静電チャック112上に吸着保持することができる。
【0023】
下部電極110の内部には冷却機構が設けられている。この冷却機構は,例えば下部電極110内の円周方向に延在する冷媒室116に,図示しないチラーユニットからの所定温度の冷媒(例えば冷却水)を配管を介して循環供給するように構成される。冷媒の温度によって静電チャック112上のウエハWの処理温度を制御できる。
【0024】
下部電極110と静電チャック112には伝熱ガス供給ライン118がウエハWの裏面に向けて配設されている。伝熱ガス供給ライン118には例えばHeガスなどの伝熱ガス(バックガス)が導入され,静電チャック112の上面とウエハWの裏面との間に供給される。これにより,下部電極110とウエハWとの間の熱伝達が促進される。下部電極110上に載置されたウエハWの周囲を囲むようにフォーカスリング119配置されている。フォーカスリング119は,例えば石英やシリコンからなり,筒状保持部106の上面に設けられている。
【0025】
上部電極120は処理室102の天井部に設けられている。上部電極120は接地されている。上部電極120には処理室102内での処理に必要なガスを供給する処理ガス供給部122が配管123を介して接続されている。処理ガス供給部122は,例えば処理室102内でのウエハのプロセス処理や処理室102内のクリーニング処理などに必要な処理ガスやパージガスなどを供給するガス供給源,ガス供給源からのガスの導入を制御するバルブ及びマスフローコントローラにより構成される。
【0026】
上部電極120には多数のガス通気孔125を有する下面の電極板124と,この電極板124を着脱可能に支持する電極支持体126とを有する。電極支持体126の内部にバッファ室127が設けられている。このバッファ室127のガス導入口128には上記処理ガス供給部122の配管123が接続されている。
【0027】
処理室102の側壁と筒状部104との間には排気路130が形成され,この排気路130の入口または途中に環状のバッフル板132が取り付けられるとともに,排気路130の底部に排気口134が設けられている。この排気口134には排気管を介して排気装置136が接続されている。排気装置136は,例えば真空ポンプを備え,処理室102内を所定の真空度まで減圧することができるようになっている。また,処理室102の側壁には,ウエハWの搬入出口を開閉するゲートバルブ108が取り付けられている。
【0028】
下部電極110には,2周波重畳電力を供給する電力供給装置140が接続されている。電力供給装置140は,第1周波数の第1高周波電力(プラズマ生起用高周波電力)を供給する第1高周波電力供給機構142と,第1周波数よりも低い第2周波数の第2高周波電力(バイアス電圧発生用高周波電力)を供給する第2高周波電力供給機構152から構成されている。
【0029】
第1高周波電力供給機構142は,下部電極110側から順次接続される第1フィルタ144,第1整合器146,第1電源148を有している。第1フィルタ144は,第2周波数の電力成分が第1整合器146側に侵入することを防止する。第1整合器146は,第1高周波電力成分をマッチングさせる。
【0030】
第2高周波電力供給機構152は,下部電極110側から順次接続される第2フィルタ154,第2整合器156,第2電源158を有している。第2フィルタ154は,第1周波数の電力成分が第2整合器156側に侵入することを防止する。第2整合器156は,第2高周波電力成分をマッチングさせる。
【0031】
処理室102にはその周囲を囲むように磁場形成部200が配設されている。磁場形成部200は,処理室102の周囲に沿って上下に離間して配置された上部マグネットリング210と下部マグネットリング220を備え,処理室102内にプラズマ処理空間を囲むカスプ磁場を発生させる。マグネットリング210,220は,一方に対して他方を周方向に回転自在に構成されるとともに,これらの鉛直方向の間隔を可変自在に構成される。
【0032】
ここでは,上部マグネットリング210に対して下部マグネットリング220が回転するように構成するとともに,各マグネットリング210,220をウエハの処理面の高さを中心にして上下に駆動するように構成する場合を例に挙げる。このような各マグネットリング210,220の具体的構成と作用効果については後述する。なお,各マグネットリング210,マグネットリング220の駆動機構はここでの例に限られるものではない。例えば下部マグネットリング220に対して上部マグネットリング210が回転するように構成してもよい。
【0033】
プラズマ処理装置100には,制御部(全体制御装置)160が接続されており,この制御部160によってプラズマ処理装置100の各部が制御されるようになっている。また,制御部160には,オペレータがプラズマ処理装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや,プラズマ処理装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなる操作部162が接続されている。
【0034】
さらに,制御部160には,プラズマ処理装置100で実行される各種処理(ウエハWに対するプラズマ処理など)を制御部160の制御にて実現するためのプログラムやプログラムを実行するために必要な処理条件(レシピ)などが記憶された記憶部164が接続されている。
【0035】
記憶部164には,例えば複数の処理条件(レシピ)が記憶されている。また,各処理条件に関連づけられた後述する各マグネットリング210,220のずらし調整量を記憶しておいてもよい。各処理条件は,プラズマ処理装置100の各部を制御する制御パラメータ,設定パラメータなどの複数のパラメータ値をまとめたものである。各処理条件は例えば処理ガスの流量比,処理室内圧力,高周波電力などのパラメータ値を有する。
【0036】
なお,これらのプログラムや処理条件はハードディスクや半導体メモリに記憶されていてもよく,またCD−ROM,DVD等の可搬性のコンピュータにより読み取り可能な記憶媒体に収容された状態で記憶部164の所定位置にセットするようになっていてもよい。
【0037】
制御部160は,操作部162からの指示等に基づいて所望のプログラム,処理条件を記憶部164から読み出して各部を制御することで,プラズマ処理装置100での所望の処理を実行する。また,操作部162からの操作により処理条件を編集できるようになっている。
【0038】
(マグネットリングの構成例)
次に,各マグネットリング210,220の構成例について図面を参照しながら説明する。図2A,図2Bは,各マグネットリング210,220の構成例を示す斜視図である。図2Aは各マグネットリング210,220のずらし調整量なしの場合であり,図2Bは下部マグネットリング220を上部マグネットリング210に対して1セグメント分だけ周方向にずらした場合である。
【0039】
図3A,図3Bは,リング間隔調整機構232を説明するための断面図である。図3Aは上下方向のリング間隔を広くした場合であり,図3Bは上下方向のリング間隔を狭くした場合である。なお,図3A,図3Bにおいて処理室102の構成は図1に示すものと同様であるが,同図ではリング間隔調整機構232の説明を分かり易くするため,簡略化している。
【0040】
図2Aに示すように,各マグネットリング210,220は内周面(処理室102の側壁の外周面に対向する面)の周方向に環状(同心円状)に磁極が並ぶように多数のセグメント212,222が配列している。ここでは,セグメント212,222をそれぞれ永久磁石で構成した場合を例に挙げている。セグメント212,222を構成する磁石材料は限定されるものではなく,例えば希土類系磁石,フェライト系磁石,アルニコ(登録商標)磁石等、公知の磁石材料を適用することができる。またセグメント212,222の断面形状も長方形に限られるものではなく,円形、正方形、台形等、任意の形状を採用することができる。
【0041】
ここで,セグメント212,222の具体的な配置例を図2Aを参照しながら詳細に説明する。各マグネットリング210,220のセグメント212,222の配列は同じであるので,ここでは上部マグネットリング210を代表して説明する。
【0042】
図2Aに示す上部マグネットリング210において,セグメント212はマルチポール状態で配列されている。すなわち,セグメント212は上部マグネットリング210の周方向に沿って極性(N極とS極)が複数個(例えば2個)ずつ交互に逆になるように配列されている。この例では,図4に示すように18極のセグメント磁石を2個ずつ配列している。
【0043】
なお,セグメント212,222の個数や配列は図2A,図4に示すものに限られるものではない。例えば同じ極性のセグメント212,222を連続して配列する数は,2個に限られるものではなく,3個以上でもよい。また,セグメント212,222を1個ずつ交互に極性が逆になるように配列してもよい。
【0044】
図1に示すように磁場形成部200は,上部マグネットリング210に対して下部マグネットリング220を周方向に所定のずらし調整量だけ回転するリングずらし量調整機構(例えばモータ)230を備える。ずらし調整量は回転角度で設定してもよいが,ここでは上下でずらすセグメント212の数nで設定する場合を例に挙げる。例えば下部マグネットリング220を図2Aに示す位置から1セグメント分だけずらすように回転すると図2Bに示すようになる。
【0045】
また,磁場形成部200は,図1に示すように各マグネットリング210,220のそれぞれを鉛直方向に駆動するリング間隔調整機構(例えばモータ)232を備える。各マグネットリング210,220の間隔を図3Aに示す状態から図3Bの状態のように狭くすることで,各マグネットリング210,220によって発生するカスプ磁場を大きくすることができる。
【0046】
この場合,各マグネットリング210,220は,ウエハWの表面の高さから上下に同じ距離だけ離間させることが好ましい。ここでは図3Aに示すようにウエハWの処理面の高さを基準高さ(0mm)とし,この基準高さと上部マグネットリング210との距離dmm,基準高さと下部マグネットリング220との距離−dmmをそれぞれリング間隔調整量とする。
【0047】
次に,各マグネットリング210,220の作用効果をプラズマ処理装置100の動作とともに図面を参照しながら説明する。図4,図5は,各マグネットリング210,220によって形成される磁場を説明するための観念図である。図4は各マグネットリング210,220を上方から見た図である。図5は,各マグネットリング210,220の一部に発生する磁力線を説明するための斜視図である。図4,図5は各マグネットリング210,220のずらし調整量なしの場合である。なお,図4のセグメント212,222の配列は,発生する磁力線を分かり易く表現するため,同じ極性の2つのセグメント212,222ずつ離間して表現したものである。
【0048】
本実施形態にかかるプラズマ処理装置100によって,例えば処理室102内のウエハWにエッチング処理などのプロセス処理を施す場合には,処理ガス供給部122により処理室102内に所定の処理ガスを導入し,排気装置136により処理室102内を排気することにより,所定の真空度まで減圧する。
【0049】
この状態で,下部電極110に,第1電源148から第1高周波として10MHz以上,例えば100MHzを供給し,第2電源158から第2高周波として2MHz以上10MHz未満,例えば3MHzの第2の高周波電力を供給する。これにより,第1高周波の働きで下部電極110と上部電極120との間に処理ガスのプラズマが発生するとともに,第2高周波の働きで下部電極110にセルフバイアス電位が発生し,ウエハWに対して例えば反応性イオンエッチング等のプラズマ処理を実行することができる。このように,下部電極110に第1高周波および第2高周波を供給してこれらを重畳させることにより,プラズマを適切に制御して良好なエッチング処理を行うことができる。
【0050】
このとき,磁場形成部200の各マグネットリング210,220の作用により,図4に示すように処理室102の側壁内側にはウエハW上のプラズマ処理空間を囲むようにその周辺部にカスプ磁場202が発生する。このとき,図2に示すA−A’部分の極性の異なる上方の2つのセグメント212とその下方の2つのセグメント222に注目すると,図5に示すような磁力線が発生している。
【0051】
先ず,隣設するN極とS極のセグメント212には,そのN極からS極に向かう磁力線202が発生する。隣設するN極とS極のセグメント222にも,そのN極からS極に向かう磁力線203が発生する。
【0052】
各マグネットリング210,220ではそれぞれ,図2Aに示すようにN極とS極が2個ずつ交互に配列するため,これらの間にそれぞれ磁力線202,203が発生し,図4に示すように処理室102の側壁内側にウエハW上のプラズマ処理空間を囲むようにその周辺部にカスプ磁場が発生する。
【0053】
このとき,例えばプラズマ処理空間の周辺部には0.02〜0.2T(200〜2000Gauss),好ましくは0.03〜0.045T(300〜450Gauss)のカスプ磁場が形成され,ウエハW上は実質的に無磁場状態となる。このように磁場強度が規定されるのは,磁場が強すぎるとウエハW上が無地場状態ではなくなってしまい,弱すぎるとプラズマ閉じこめ効果が得られなくなるためである。ただし,適正な磁場強度は装置構造等にも依存するため,その範囲は装置によって異なる。
【0054】
ここでいう「実質的に無磁場状態」とは,完全に磁場が存在しない場合のみならず,ウエハWにエッチング処理に影響を与える磁場が形成されず,実質的にウエハWの処理に影響を与えない磁場が存在する場合も含む。例えば,ウエハWのチャージアップダメージを防止する観点から,ウエハWの存在部分の磁場強度はゼロ又は0.001T(10Gauss)以下となることが望ましい。
【0055】
このようにプラズマ処理空間の周辺部にカスプ磁場を形成することによりプラズマを閉じこめる効果が発揮され,ウエハWのセンタ部とエッジ部との間のエッチングレートの均一性を高めることができる。
【0056】
ところで,このようなマルチポール状態のマグネットリング210,220によってカスプ磁場を形成する際に,図5に示すように上下に並ぶセグメントの極性が同じである場合(各マグネットリング210,220の周方向にずれがない場合)には,処理室102の側壁近傍においてプラズマの径方向の拡散係数を小さくできない部分が生じ易い。ここで,プラズマの拡散というのは,プラズマを構成している粒子がその密度の高いところから空間的に拡大していき,密度の不均一性を消滅していく過程における粒子群の流れ易さを表わす。プラズマを構成している粒子は,電子,イオン,ラジカルなどの活性種が挙げられるが,ここでは特に磁場の作用を受ける荷電粒子の中でも質量の小さい粒子である電子を挙げて説明する。
【0057】
一般に磁場に垂直な方向のプラズマの拡散係数Dは下記(1)式のように表すことができる。下記(1)式において,Dは無磁場又は磁場に平行な方向の拡散係数,ωはサイクロトロン角周波数を,Vmは衝突周波数である。
【0058】
=D/(1+(ω/Vm)) ・・・(1)
【0059】
ここでの磁場は,処理室102の側壁に水平な磁場とすれば,サイクロトロン角周波数ωは,その磁場の大きさに比例するので,(1)式によれば処理室102の側壁に水平な磁場が小さいほど垂直な方向の拡散係数は無地場のものに近くなり,処理室102の側壁に水平な磁場が大きいほど垂直な方向の拡散係数は小さくなることがわかる。
【0060】
ここで,このような各方向成分の磁場強度と処理室102の側壁近傍における電子の挙動との関係について説明する。図6A,図6Bは,処理室102の側壁近傍の電子の挙動を観念的に表した作用説明図である。図6Aは,側壁に垂直な方向の磁場が強い場合であり,図6Bは側壁に平行な方向の磁場が強い場合である。
【0061】
例えば磁力線202のうち処理室102の側壁に垂直な成分Bが大きく,側壁に平行な成分Bθ,Bの小さいS極の部分は,図6Aに示すようにプラズマ中の電子が側壁に誘導され易くなり,プラズマの径方向(側壁に水平な磁場を横切る方向)の拡散係数Dが小さくならない。なお,磁場に平行な拡散係数Dについては磁場の強度には依存しない。
【0062】
また,本実施形態のようにマグネットリング210,220を上下に配置する場合には,セグメント212とセグメント222との間でも逆極性が近傍にある場合には磁力線204が発生する。このとき,図5に示すように上下に並ぶセグメントの極性が同じである場合には,磁力線204のZ方向の成分Bは打ち消し合って小さくなるものの,処理室102の側壁に垂直な成分Bとθ方向の成分Bθは残る。このとき,これらの成分B,Bθが小さい領域は,プラズマの径方向(側壁に水平な磁場を横切る方向)の拡散係数が小さくならない。
【0063】
プラズマの径方向の拡散係数が径方向の全領域で大きいと,ウエハWのエッジ部とセンタ部との間のエッチングレートの均一性が低下したり,処理室102の側壁の磁極に対向する部分が削られる現象が生じ易くなったりという問題がある。
【0064】
そこで,本発明者の検討結果によれば,マグネットリング210,220を周方向に僅かにずらして配置することで,上記の問題を解消できることを見出した。すなわち,図2Bに示すように上下に並ぶセグメントの極性配列をずらすことにより,セグメント212,222に発生する磁力線において,処理室102の側壁に垂直な成分Bを減少させるとともに,側壁に平行な成分B,Bθを増加させることができることがわかった。
【0065】
これによれば,プラズマの径方向(側壁に水平な磁場を横切る方向)の拡散係数を減少させることができる。すなわち,図6Bに示すようにプラズマ中の電子が側壁に誘導され難くなり,プラズマの径方向への拡散を抑制できる。これにより,ウエハWのエッジ部とセンタ部との間のエッチングレートの均一性を向上させることができる。また,処理室102の側壁の磁極に対向する部分が削られる現象を抑制できる。
【0066】
ここで,マグネットリング210,220のずらし調整量を変化させた場合における,各セグメント212,222間に発生する磁力線の特性の変化を確認した実験結果を図面を参照しながら説明する。図7はこの実験で用いたマグネットリング210,220のずらし調整量とセグメント212,222の配置との関係を示す図である。
【0067】
ここでは,マグネットリング210,220のずらし調整量をセグメント数nで表す。先ず(a)ずらし調整量がゼロ場合(n=0),(b)1セグメントずれの場合(n=1),(c)2セグメントずれの場合(n=2),(d)3セグメントずれの場合(n=3)について,それぞれのセグメント212,222の極性配置は図7に示すようになる。
【0068】
マグネットリング210,220のずらし調整量が(a)〜(c)の場合において,発生するカスプ磁場の強度|B|及びその各垂直方向成分の磁場強度(|B|,|Bθ|,|B|)を図8に示す。図8においてウエハWの直径は300mmであるので,各グラフ中のウエハWの中心から150mmの部位の点線はウエハWの縁部に相当する。この実験に用いた処理室102の内径は540mmであるので,ウエハWの中心から270mmの部位の点線は処理室102の側壁の内側表面に相当する。本実施形態におけるカスプ磁場|B|は,ウエハWの縁部から側壁の間に発生させることが好ましい。
【0069】
図8に示す実験結果によれば,マグネットリング210,220のずらし調整量がゼロの場合(n=0)に比して,1セグメントずれの場合(n=1),2セグメントずれの場合(n=2)とずらし調整量が大きくなるに連れて処理室102の側壁に垂直な成分Bが減少し,平行な成分Bθ,Bが増加していることが確認できた。
【0070】
また,マグネットリング210,220のずらし調整量が(a)〜(c)の場合において,処理室102の側壁への磁力線の入射角を図9に示す。図9に示す実験結果によれば,マグネットリング210,220のずらし調整量がゼロの場合(n=0)に比して,1セグメントずれの場合(n=1),2セグメントずれの場合(n=2)とずらし調整量が大きくなるに連れて処理室102の側壁に垂直に近い角度で入射する磁力線の数が減少し,平行に近い角度で入射する磁力線の数が増加していることが確認できた。
【0071】
このようなマグネットリング210,220の作用により,プラズマの径方向の拡散係数を小さくできるので,処理室102の側壁近傍でのプラズマの径方向の拡散を抑制できる。これにより,ウエハWのエッジ部上のプラズマ密度の低下を抑えることができるので,ウエハWのエッジ部とセンタ部との間の処理の均一性を向上させることができる。
【0072】
このことを図面を参照しながら,より具体的に説明する。図10に示すグラフは,処理室102の径方向の距離とプラズマ密度との関係を観念的に表したものである。図10において,実線グラフは各マグネットリング210,220のずらし調整量なしの場合のプラズマ密度であり,点線グラフはずらし調整量ありの場合のプラズマ密度である。図10に示すように,各マグネットリング210,220をずらすことによって,処理室102の側壁近傍でのプラズマの径方向の拡散が抑制されると,プラズマ密度は実線グラフから点線グラフのようになるので,ウエハWのエッジ部上のプラズマ密度の低下を抑えることができる。
【0073】
次に,マグネットリング210,220を周方向にずらして実際にエッチングレートを測定した実験結果について図面を参照しながら説明する。図11は,図7に示す(a)〜(d)の場合に,直径300mmのウエハW上に形成されたSiO膜をエッチングしたときのSiO膜のエッチングレートを測定して得られたグラフである。
【0074】
ここでの処理条件は,処理室内圧力は30mTorr,処理ガスの流量比はNガス/CHガス/Oガス=60sccm/30sccm/10sccm,第1高周波の周波数は100MHzでパワーは2400W,第2高周波の周波数は3.2MHzでパワーは200Wとした。また,磁場強度を変えて実験を行うために,マグネットリング210,220の間隔は,図3Aに示すd,−dをそれぞれ47mm,−47mmとする場合(磁場強度A)と35mm,−35mmとする場合(磁場強度B)について実験を行った。図11の(a)〜(d)におけるSiO膜のエッチングレートはウエハW上の各点について測定してプロットしたものである。なお,マグネットリング210,220の間隔は狭いほど磁場強度が増加する。
【0075】
図11に示す実験結果では,磁場強度Aの場合の(a)〜(d)のエッチングレートの平均と面内均一性はそれぞれ,192.5nm/min±20.9%,221.8nm/min±12.3%,259.8nm/min±7.7%,232.2nm/min±11.4%である。磁場強度Bの場合の(a)〜(d)のエッチングレートはそれぞれ,187.8nm/min±19.1%,206.6nm/min±16.5%,249.2nm/min±8.2%,217.8nm/min±14.2%である。
【0076】
この実験結果によれば,磁場強度A,Bのいずれの場合もずらし調整量がゼロの(a)に比して,ずらし調整量がある(b),(c),(d)の方がエッチングレートの面内均一性が向上しており,(c)2セグメントずれの場合(n=2)に最も面内均一性が高くなっていることがわかる。またエッチングレート自体も向上している。これは,処理室102の側壁近傍においてプラズマの径方向の拡散が抑制された結果であると考えられる。
【0077】
なお,本実施形態においては各マグネットリング210,220のセグメント212,222は永久磁石セグメントで構成した場合について説明したが,これに限られるものではなく,例えば電磁石の磁極セグメントで構成してもよい。
【0078】
ここで,各マグネットリング210,220を電磁石で構成した場合の具体例を図12を参照しながら説明する。図12に示すマグネットリング210,220はそれぞれ,コイル216,226を巻回した環状コア218,228をケーシングで覆って構成される。ここでのセグメント212,214は,環状コア218,228の内周面に形成される磁極セグメント(ティース部)として構成される。
【0079】
環状コア218,228は金属系,フェライト系,セラミック系などの磁性体で構成される。ここでは,環状コア218,228を環状鉄芯で構成した場合を例に挙げる。なお,ケーシングは,環状コア218,228の内周面に発生する磁力線が透過するように,例えばセラミックスや石英で構成される。また,ケーシングの材質は上記のものに限られるものではなく,例えばケーシングの下面だけをセラミックスや石英で構成し,その他の部分はステンレスで構成してもよい。ケーシングの内周面は周方向に渡って開口していてもよい。
【0080】
セグメント(ティース部)212,222は,環状コア218,228の内周面に周方向に一定の間隔を置いて形成される。各セグメント212,222の間には溝部が形成されており,コイル216,226は溝部に挿通して各セグメント212,222に巻き付けられる。
【0081】
コイル216,226は,各セグメント212,222がマグネットリング210の周方向に沿って極性(N極とS極)が複数個(例えば2個)ずつ交互に逆の配列になるように巻回される。ここでは,16極のセグメントを2個ずつ配列した場合を例に挙げる。コイル216,226にはそれぞれ,これらに電流を供給する電源240,242が接続されている。これらの電源240,242は制御部160により制御されるようになっている。
【0082】
なお,セグメント212,222の個数や配列はこれに限られるものではない。例えば図4に示す18極の配置構成でもよい。また,同じ極性のセグメント212,222を連続して配列する数は,2個に限られるものではなく,3個以上でもよい。さらに,セグメント212,222を1個ずつ交互に極性が逆になるように配列してもよい。
【0083】
ここで,セグメント212,222を電磁石で構成したプラズマ処理装置100で,上下の磁極をずらして実際にエッチングレートを測定した実験結果について説明する。図13は,図7に示す(a)〜(d)の場合に,直径300mmのウエハW上に形成されたSiO膜をエッチングしたときのSiO膜のエッチングレートを測定して得られたグラフである。なお,マグネットリング210,220のずらし調整量とセグメント212,222の配置は図7に示すものと同様である。
【0084】
ここでの処理条件は,処理室内圧力は30mTorr,処理ガスの流量はCFガス=150sccm,第1高周波の周波数は100MHzでパワーは800W,第2高周波の周波数は13.56MHzでパワーは200Wとした。また,マグネットリング210,220に与える磁場強度を変えて実験を行うために,コイルに供給する電流を0AT(磁場なし),1500AT(磁場強度A),2500AT(磁場強度B),3000AT(磁場強度C)について(a),(b)の実験を行った。なお,(c),(d)の場合については,0AT(磁場なし),3000ATについてだけ実験を行った。これは(a),(b)の実験結果によって傾向がある程度予測できるからである。
【0085】
図13に示す実験結果では,1500AT(磁場強度A)の場合の(a),(b)のエッチングレートの平均と面内均一性はそれぞれ,226.8nm/min±19.4%,226.8nm/min±19.0%であり,2500AT(磁場強度B)の場合の(a),(b)のエッチングレートの平均と面内均一性はそれぞれ,199.9nm/min±13.7%,174.0nm/min±7.8%である。また,3000AT(磁場強度C)の場合の(a)〜(d)のエッチングレートの平均と面内均一性はそれぞれ,178.3nm/min±8.9%,165.2nm/min±7.2%,181.0nm/min±20.6%,165.2nm/min±7.3%である。また,0AT(磁場なし)の場合の(a)〜(d)のエッチングレートの平均と面内均一性は234.4nm/min±20.6%である。
【0086】
この実験結果によれば,磁場ありの場合(磁場強度A〜C)は,磁場なしの場合に比していずれの場合も向上している。また磁場強度Cの場合を見ると,ずらし調整量がゼロの(a)に比して,ずらし調整量がある(b),(c),(d)の方がエッチングレートの面内均一性がさらに向上しており,(b)1セグメントずれの場合(n=1)に最も面内均一性が高くなっていることがわかる。磁場強度A,Bの場合も,ずらし調整量がゼロの(a)に比して,ずらし調整量がある(b)の方がエッチングレートの面内均一性が向上している。
【0087】
なお,上述した図11の実験結果では,(c)2セグメントずれの場合(n=2)に最も面内均一性が高くなっていたのに対して,図13の実験結果では,(b)1セグメントずれの場合(n=1)に最も面内均一性が高くなっている。このように,装置構成や処理条件によって,最適なずらし調整量が異なる。このため,装置構成や処理条件に応じて最適なずらし調整量を決定することが好ましい。この場合,処理条件に応じた最適なずらし調整量を処理条件に関連づけて予め記憶部164に記憶しておき,制御部160はプラズマ処理を実行する前にその処理条件に関連づけられたずらし調整量を記憶部164から読み出して,マグネットリング210,220の相対位置を制御してもよい。
【0088】
また,セグメント212,222を電磁石で構成する場合には,一方のマグネットリングのセグメントの磁極を切り替えることによって,各マグネットリング210,220を相対的にずらすようにしてもよい。これによれば,マグネットリングを回転させずに上下の磁極をずらすことができる。
【0089】
ここで,制御部160が行う各マグネットリング210,220の調整方法について説明する。ここでのずらし調整量(セグメント数n)は予め実験等によって求めた最適値を用いる。この場合,例えばセグメント212,222の同極連続数をmとすると,上下のセグメント212,222の極性がずれる場合は2m−1通りある。例えば図7に示す場合はm=2であるので,上下のセグメント212,222の極性がずれる場合は3通り(図7に示す(b),(c),(d))である。そこで,セグメント数nが1個分から(2m−1)個分まで一方のマグネットリングを周方向にずらして,それぞれの場合にウエハWに対するプラズマ処理を実行したときに,ウエハWの処理結果が最も良好な場合にずらしたセグメント数nをずらし調整量として記憶部164に記憶しておくことが好ましい。複数の処理条件がある場合には処理条件ごとにずらし調整量nを関連づけて記憶しておく。このとき,リング間隔調整量±dも各処理条件に関連づけて予め記憶部164に記憶しておく。
【0090】
制御部160は,各処理条件に基づいてウエハWのプラズマ処理を行う前に,その処理条件に関連づけられたずらし調整量nと間隔調整量±dを記憶部164から読み出す。そして,リング間隔調整機構232により各マグネットリング210,220を上下に駆動してこれらの間隔を調整し,リングずらし量調整機構230により下部マグネットリング220を回転させて上部マグネットリング210に対してセグメント数n分だけずれるように調整する。これによれば,処理条件に応じて最適なずらし調整量,リング間隔になるように自動的に調整できる。
【0091】
なお,ずらし調整量n,リング間隔調整量±dは操作部162からのオペレータの操作によっても自由に設定可能であり,その設定値は記憶部164に記憶される。また,リングずらし量調整機構230は必ずしも設けなくても良い。この場合には,上部マグネットリング210に対して下部マグネットリング220を配置するときにずらし調整量nだけずらすようにすればよい。
【0092】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0093】
例えば上述した実施形態では,下部電極110のみに2周波の高周波を重畳して印加する場合について説明したが,これに限定されるものではない。例えば上部電極120と下部電極110の両方に高周波を印加する場合,上部電極120のみに高周波を印加する場合にも本発明を適用できる。さらに,基板としてはウエハWを用い,これにエッチングを施す場合について説明したが,これに限られるものではなく,FPD基板,太陽電池用基板等の他の基板であってもよい。また,プラズマ処理もエッチングに限られず,スパッタリング,CVD等の他の処理であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は,処理室内にプラズマを生成することにより基板処理を実行するプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0095】
100 プラズマ処理装置
102 処理室
104 筒状部
106 筒状保持部
108 ゲートバルブ
110 下部電極
112 静電チャック
114 静電チャック電極
115 直流電源
116 冷媒室
118 伝熱ガス供給ライン
119 フォーカスリング
120 上部電極
122 処理ガス供給部
123 配管
124 電極板
125 ガス通気孔
126 電極支持体
127 バッファ室
128 ガス導入口
130 排気路
132 バッフル板
134 排気口
136 排気装置
140 電力供給装置
142 第1高周波電力供給機構
144 第1フィルタ
146 第1整合器
148 第1電源
152 第2高周波電力供給機構
154 第2フィルタ
156 第2整合器
158 第2電源
160 制御部
162 操作部
164 記憶部
200 磁場形成部
202,203 磁力線
204,205 磁力線
210 上部マグネットリング
212,222 セグメント(永久磁石又は磁性セグメント)
216,226 コイル
218,228 環状コア
220 下部マグネットリング
230 リングずらし量調整機構
232 リング間隔調整機構
240,242 電源
W ウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧された処理室内に処理ガスのプラズマを生成することにより基板に対して所定の処理を施すプラズマ処理装置であって,
前記処理室内に設けられ,前記基板を載置する載置台と,
前記処理室内に前記処理ガスを導入する処理ガス導入部と,
前記処理室内を排気して減圧する排気部と,
前記処理室の周囲に沿って上下に離間して設けられた2つのマグネットリングを有し,前記各マグネットリングは内周面にその周方向に沿って1個ずつ又は複数個ずつ交互に極性が逆になる順序で同じように配列された多数のセグメントを有する磁場形成部と,を備え,
前記一方のマグネットリングを前記他方のマグネットリングに対して周方向にずらして配置することで上下の磁極配置をずらしたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記セグメントの同極連続数をmとすると,前記セグメントの1個分から(2m−1)個分まで前記一方のマグネットリングを周方向にずらして前記基板に対するプラズマ処理を実行したときに,前記基板の処理結果が最も良好な場合のセグメント数をずらし調整量として記憶部に記憶しておき,前記基板に対するプラズマ処理を実行する前に前記ずらし調整量のセグメント数分だけ前記一方のマグネットリングを前記他方のマグネットリングに対して周方向にずらして配置したことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記一方のマグネットリングを前記他方のマグネットリングに対して周方向にずらすように回転させるリングずらし量調整機構と,
前記リングずらし量調整機構を制御する制御部と,を備え,
前記記憶部には,前記プラズマ処理の複数の処理条件に応じて求めた前記ずらし調整量が前記各処理条件に関連づけられて記憶されており,
前記制御部は,前記処理条件に基づいて前記基板に対するプラズマ処理を実行する前に,その処理条件に関連づけられたずらし調整量を読み出して,その分だけ前記リングずらし量調整機構を制御して前記一方のマグネットリングの周方向のずらし量を調整することを特徴とする請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記各マグネットリングの上下方向の間隔を調整するリング間隔調整機構を備え,
前記記憶部には前記各処理条件に前記ずらし調整量とともに間隔調整量も記憶されており,
前記制御部は,前記処理条件に基づいて前記基板に対するプラズマ処理を実行する前に,その処理条件に関連づけられた間隔調整量を読み出して,その分だけ前記リング間隔調整機構を制御して前記上下方向の間隔を調整することを特徴とする請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記セグメントは,永久磁石セグメント又は電磁石の磁極セグメントで構成されることを特徴とする請求項4に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
減圧された処理室内に処理ガスのプラズマを生成することにより基板に対して所定の処理を施すプラズマ処理装置のプラズマ処理方法であって,
前記プラズマ処理装置は,
前記処理室内に設けられ,前記基板を載置する載置台と,
前記処理室内に前記処理ガスを導入する処理ガス導入部と,
前記処理室内を排気して減圧する排気部と,
前記処理室の周囲に沿って上下に離間して設けられた2つのマグネットリングを有し,前記各マグネットリングは内周面にその周方向に沿って1個ずつ又は複数個ずつ交互に極性が逆になる順序で同じように配列された多数のセグメントを有する磁場形成部と,
前記一方のマグネットリングを前記他方のマグネットリングに対して周方向にずらすように回転させるリングずらし量調整機構と,
前記プラズマ処理の複数の処理条件に応じて求めたずらし調整量が前記各処理条件に関連づけられて記憶された前記記憶部と,を備え,
前記処理条件に基づいて前記基板に対するプラズマ処理を実行する前に,その処理条件に関連づけられたずらし調整量を読み出して,その分だけ前記リングずらし量調整機構を制御して前記一方のマグネットリングの周方向のずらし量を調整することで上下の磁極配置を前記ずらし調整量だけずらしたことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項7】
前記各処理条件に関連付けられるずらし調整量は,前記セグメントの同極連続数をmとすると,前記各処理条件で前記セグメントの1個分から(2m−1)個分まで前記一方のマグネットリングを周方向にずらして前記基板に対するプラズマ処理を実行したときに,前記基板の処理結果が最も良好な場合のセグメント数であることを特徴とする請求項6に記載のプラズマ処理方法。
【請求項8】
前記各マグネットリングの上下方向の間隔を調整するリング間隔調整機構を備え,
前記記憶部には前記各処理条件に前記ずらし調整量とともに間隔調整量も記憶されており,
前記処理条件に基づいて前記基板に対するプラズマ処理を実行する前に,その処理条件に関連づけられた間隔調整量を読み出して,その分だけ前記リング間隔調整機構を制御して前記上下方向の間隔を調整することを特徴とする請求項7に記載のプラズマ処理方法。
【請求項9】
前記セグメントは,永久磁石セグメント又は電磁石の磁極セグメントで構成されることを特徴とする請求項8に記載のプラズマ処理方法。


【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−60885(P2011−60885A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206890(P2009−206890)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】