説明

プラズマ処理装置

【課題】プラズマ処理時における被処理体の熱変形を防止することができ、被処理体の全体に渡って均一なプラズマ処理を施すことができるプラズマ処理装置を提供すること。
【解決手段】本発明のプラズマ処理装置1は、ワーク2を搬送する第1のコンベア3および第2のコンベア4と、ワーク2に対しプラズマ処理を施すプラズマ処理部5と、ワーク2をプラズマ処理するのに先立ってワーク2を予熱するヒータ61が設けられた予熱部6とを備える。プラズマ処理部5でプラズマ処理されているときのワーク2の最高温度とほぼ同等またはそれ以上の温度になるまでワーク2を予熱部6にて予熱した後、ワーク2をプラズマ処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大気圧、または大気圧近傍において、基板(被処理体)の表面にプラズマ処理を施す装置として、大気圧プラズマ処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
通常、大気圧プラズマ処理装置としては一対の電極を有するプラズマ処理装置が用いられる。このプラズマ処理装置は、高周波電力が印加された電極間に処理ガスを導入してプラズマを発生し、プラズマ発生領域を基板に沿って相対的に走査することにより、基板の表面全体にプラズマ処理を施す。
従来、プラズマ処理装置によってプラズマ処理が施される基板はプリント基板やプラスチックフィルムなど比較的小型の基板であり、プラズマ処理装置は、プリント基板の半田濡れ性改善処理やプラスチックフィルムの表面改質処理、例えば、親液性または撥水性向上などを行っていた。
【0003】
ところで、液晶ディスプレイや有機EL(organic electroluminescence)ディスプレイなどの表示装置用のガラス基板は、その表面に所定の材料をインクジェット法などによって塗布して成膜する工程を経て製造されることから、成膜の品質を向上すべく、成膜の前に表面改質処理が施される。そして、これら表示装置用のガラス基板の表面改質処理にもプラズマ処理装置が用いられる。
【0004】
上記のような基板に対してプラズマ処理を行う場合、以下に述べるような問題がある。プラズマ処理の際、基板は、プラズマが照射されている側の面が高温となるので、プラズマが照射されていない反対側の面との間に温度差が生じる。このため、プラズマ処理の際、基板に、反り、撓み等の熱変形が起こる。この熱変形のため、プラズマ発生領域を基板に沿って相対的に走査する間に放電ギャップのギャップ長が変わり、プラズマの強弱が変化してしまう。このため、基板の面内に表面処理ムラを生じてしまうことがある。上記のような熱変形は、ガラス基板、特に厚さが比較的薄いガラス基板の場合に顕著であり、上記弊害も大きい問題となる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−273084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、プラズマ処理時における被処理体の熱変形を防止することができ、被処理体の全体に渡って均一なプラズマ処理を施すことができるプラズマ処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のプラズマ処理装置は、プラズマを発生させ、該プラズマにより被処理体の表面をプラズマ処理するプラズマ処理装置であって、
前記被処理体を予熱する予熱手段を設けたことを特徴とする。
本発明のプラズマ処理装置によれば、プラズマ処理するのに先立って被処理体を予熱手段により予熱しておくので、被処理体にプラズマ処理が行われるとき、プラズマの照射によって被処理体の片面のみが高温に曝されても、被処理体が予め加温されているので、被処理体の他方の面との間に大きな温度差が生じることはない。よって、被処理体に反りや撓み等の熱変形が起こるのを防止することができ、その結果、放電ギャップ(電極と被処理体表面との隙間)のギャップ長が一定に保たれるので、プラズマの強度が変化することがなく、よって、被処理体の全体を均一にプラズマ処理することができる。このようなことから、本発明のプラズマ処理装置では、熱変形のし易いガラス基板、特に厚さが比較的薄いガラス基板のような被処理体に対しても、全体を均一にプラズマ処理することができる。
また、被処理体が予熱されて初めから加温されていることにより、プラズマ処理時の処理ガスの反応が促進されるので、プラズマを迅速かつ良好に発生させることができる。その結果、プラズマ処理を短時間で行うことができるとともに、全体をより均一にプラズマ処理することにも寄与する。
【0008】
本発明のプラズマ処理装置では、前記予熱手段は、前記プラズマ処理されているときの前記被処理体の最高温度とほぼ同等またはそれ以上の温度に前記被処理体を予熱することが好ましい。
これにより、被処理体の全体をより均一にプラズマ処理することができ、また、プラズマ処理をさらに短時間で行うことができる。
【0009】
本発明のプラズマ処理装置では、前記予熱手段は、前記被処理体の全体を同時に加熱することが好ましい。
これにより、被処理体の全体を均一に加熱することができるので、被処理体の熱変形をより確実に防止することができる。また、被処理体をさらに迅速に予熱することができる。
【0010】
本発明のプラズマ処理装置では、前記被処理体を搬送する搬送手段を備え、
前記搬送手段により前記被処理体はプラズマ処理空間を搬送されることが好ましい。
これにより、予熱された被処理体の温度が下がらないうちに迅速にプラズマ処理を行うことができるので、上記効果をより確実に発揮することができる。
本発明のプラズマ処理装置では、前記搬送手段は、ローラーコンベアで構成されることが好ましい。
これにより、搬送手段を簡単に構成することができるとともに、被処理体を安定的に搬送することができる。
【0011】
本発明のプラズマ処理装置では、前記予熱手段と、前記プラズマ処理空間とが隣接して配置されていることが好ましい。
これにより、予熱された被処理体を極めて迅速にプラズマ処理することができ、予熱された被処理体の温度低下をより確実に防止することができる。
本発明のプラズマ処理装置では、前記予熱手段は、複数の被処理体を予熱可能であることが好ましい。
これにより、多数の被処理体に対して効率よく迅速に予熱を行うことができ、量産性を向上することができる。
【0012】
本発明のプラズマ処理装置では、被処理体の搬送経路を挟んで互いに対向して配置され、前記被処理体の搬送方向と直交する方向に沿って細長い形状をなす第1の電極および第2の電極と、
前記第1の電極および第2の電極のうち少なくとも1つに高周波電力を供給する高周波電源と、
前記搬送方向と直交する方向に沿って細長く開口する処理ガス供給口を有する処理ガス供給部とを備え、
前記第1の電極および前記第2の電極の間を前記被処理体が通過するように前記被処理体を搬送しつつ、前記第1の電極と前記被処理体との間の空間に前記処理ガス供給口より処理ガスを供給して前記被処理体の表面をプラズマ処理することが好ましい。
【0013】
これにより、被処理体にプラズマ処理を施す際に、電極を移動させる必要が無くなり、さらに、被処理体を載置するステージも必要ないので、プラズマ処理装置を小型化することができる。よって、被処理体が大型のものである場合であっても、プラズマ処理装置のレイアウトを容易にすることができる。
また、2つの電極の位置関係が変化しないので、高周波電界の形態が変化せず、さらに、処理ガスを被処理体の搬送方向と直交する方向に沿って満遍なく噴出することができ、もってプラズマ処理の均一化をさらに充分に達成することができる。
【0014】
本発明のプラズマ処理装置では、前記処理ガス供給口は、前記第1の電極を貫通して開口することが好ましい。
これにより、処理ガスを第1の電極および第2の電極の間に発生する高周波電界に確実に供給することができ、安定したプラズマを形成することができる。
【0015】
本発明のプラズマ処理装置では、前記第1の電極と前記被処理体との間の空間に供給された処理ガスを回収するガス回収部をさらに備えることが好ましい。
これにより、プラズマが拡散するのを確実に防止することができ、プラズマ処理領域の制御を容易に行うことができる。
【0016】
本発明のプラズマ処理装置では、前記ガス回収部は、前記搬送方向に関して前記第1の電極より前方に配置されたガス回収口を有することが好ましい。
これにより、プラズマが拡散するのをより確実に防止することができる。
本発明のプラズマ処理装置では、前記ガス回収部は、前記搬送方向に関して前記第1の電極より後方に配置されたガス回収口を有することが好ましい。
これにより、プラズマが拡散するのをより確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のプラズマ処理装置の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明のプラズマ処理装置の概略構成を示す斜視図である。
図1に示すように、プラズマ処理装置1は、例えばガラス基板のような平板状のワーク(被処理体)2を搬送する搬送手段としての第1のコンベア3および第2のコンベア4と、ワーク2に所定のプラズマ処理を施すプラズマ処理部5と、ワーク2を予熱するヒータ(予熱手段)61を内蔵した予熱部6とを備える。
【0018】
第1のコンベア3は、互いに平行に配置された複数のローラー7からなるローラーコンベア8を有し、各ローラー7はワーク2の裏面を支持する。また、第1のコンベア3は、図示しないモータによってローラー7を回転させることによってワーク2を自在に搬送する。ローラー7の表面は絶縁体、例えば、セラミックスやゴムで覆われる。これにより、第1のコンベア3とワーク2とが導通してワーク2が帯電するのを防止できる。特に、ローラー7の表面をゴムで覆った場合、ワーク2に傷が付くのを防止することもでき、好ましい。また、第1のコンベア3の上方は作業空間に開放されており、作業者が未処理のワーク2を投入し、若しくはプラズマ処理済みのワーク2を回収するワーク投入口として機能する。
第2のコンベア4は、第1のコンベア3と同様の構成を有し、プラズマ処理部5を挟んで第1のコンベア3と縦列に配置される。第2のコンベア4の上方には、予熱部6が配置されている。また、第1のコンベア3および第2のコンベア4の間に配置されたプラズマ処理部5は、後述するプラズマ処理ユニット9を内蔵する。
【0019】
図2は、図1に示すプラズマ処理装置の模式的な断面側面図である。
図2に示すように、プラズマ処理部5の処理空間24には、プラズマ処理ユニット9によりプラズマが発生する。第1のコンベア3および第2のコンベア4におけるローラーコンベア8の高さは、プラズマ処理部5の処理空間24とほぼ同じ高さに設定される。したがって、第1のコンベア3および第2のコンベア4は、ワーク2をプラズマ処理部5における処理空間24へ搬送する。
【0020】
予熱部6には、第2のコンベア4のローラーコンベア8に対向する位置に、ワーク2を加熱するヒータ61が設置されている。ヒータ61としては、特に限定されないが、赤外線ヒータ(IRヒータ)が好ましく用いられる。
プラズマ処理装置1において、ワーク2にプラズマ処理を施す場合、まず、作業者が第1のコンベア3のローラーコンベア8にワーク2を載置すると、第1のコンベア3および第2のコンベア4がワーク2を図2中の右方向へ搬送するように作動して、ワーク2を、ヒータ61と対向する予熱位置62へ移動させる。
【0021】
ワーク2は、予熱位置62にてヒータ61により加熱(加温)される。このとき、ワーク2を加温する温度の目安としては、次のようにするのが好ましい。すなわち、この後にプラズマ処理部5でプラズマ処理したときにワーク2がプラズマにより熱せられるが、そのときのワーク2の最高温度とほぼ同等またはそれ以上の温度になるまでワーク2を予熱位置62にて予熱するのが好ましい。具体的には、ワーク2を30〜300℃までの間で予熱するのが好ましい。
【0022】
予熱部6でのワーク2が予熱が終了したら、プラズマ処理部5が作動して処理空間24にプラズマを発生させるとともに、第1のコンベア3および第2のコンベア4がワーク2を図2中の左方向へゆっくりと搬送するように作動する。これにより、ワーク2は、プラズマ処理部5の処理空間24を通過していき、この間に、処理空間24に発生したプラズマがワーク2の上面に照射される。これにより、ワーク2の上面全体に対しプラズマ処理が施される。このように、プラズマ処理装置1では、プラズマ処理時におけるワーク2の搬送方向(以下、単に「搬送方向」と言う)は、図2中の白抜き矢印方向である。
【0023】
このように、本発明のプラズマ処理装置1では、予熱部6を一体的に設け、プラズマ処理するのに先立ってワーク2を予熱しておくので、ワーク2が処理空間24を通過してプラズマ処理が行われるとき、プラズマがワーク2の上面にのみ照射されて高温に曝されるが、ワーク2が予め加温されているので、ワーク2の上面と下面との間に大きな温度差が生じることはない。よって、ワーク2に反りや撓み等の熱変形が起こるのを防止することができ、その結果、ワーク2が処理空間24を通過する間に放電ギャップ(電極とワーク2表面との隙間)のギャップ長が一定に保たれるので、プラズマの強度が変化することがなく、よって、ワーク2の上面全体を均一にプラズマ処理することができる。このようなことから、本発明のプラズマ処理装置1では、熱変形のし易いガラス基板、特に厚さが比較的薄いガラス基板のようなワーク2に対しても、全体を均一にプラズマ処理することができる。
【0024】
また、ワーク2が予熱されて初めから加温されていることにより、プラズマ処理時の処理ガスの反応が促進されるので、プラズマを迅速かつ良好に発生させることができる。その結果、プラズマ処理を短時間で行うことができるとともに、全体をより均一にプラズマ処理することにも寄与する。
本実施形態では、予熱部6には、ワーク2の全体を同時に加熱することができるように、予熱位置62に搬送されたワーク2の全面を覆うように複数のヒータ61が並べて設置されている。これにより、ワーク2の全体を均一に加熱することができるので、ワーク2の熱変形をより確実に防止することができる。また、ワーク2を迅速に予熱することができる。
【0025】
また、本実施形態では、ワーク2を搬送する第1のコンベア3および第2のコンベア4を設け、予熱位置62から処理空間24へワーク2を搬送しつつプラズマ処理を施すように構成したので、予熱されたワーク2の温度が下がらないうちに迅速にプラズマ処理を行うことができるので、上記効果をより確実に発揮することができる。特に、本実施形態では、予熱位置62と、プラズマ処理を行う処理空間24とが隣接して配置されているので、予熱されたワーク2を極めて迅速にプラズマ処理することができ、予熱されたワーク2の温度低下をより確実に防止することができる。
【0026】
以下、プラズマ処理装置1におけるプラズマ処理部5について、詳細に説明する。
図3は、図1におけるプラズマ処理部が有するプラズマ処理ユニットの概略構成を示す斜視図である。なお、以下の説明では、図3中の上側を「上方」、下側を「下方」と言う。また、図3中の白抜き矢印方向が「搬送方向」である。
図3において、プラズマ処理ユニット9は、後述の印加電極(第1の電極)14などを有する上部電極部10と、該上部電極部10に対してワーク2の搬送経路を挟んで対向するように下方に配置される下部電極(第2の電極)11と、上部電極部10の印加電極14に高周波電力を供給する高周波電源12と、高周波電源12および印加電極14の間に介在し、高周波電力を整合する整合器(Matcher)13とを有する。
【0027】
高周波電源12は、印加電極14に例えば周波数が数百Hz〜100MHzであって、出力が数十W〜数kWである高周波電力を供給する。整合器13は、印加電極14からの高周波電力の反射を低減して該高周波電力の印加電極14への供給効率を最大にする。具体的には、整合器13および印加電極14の間を流れる電流の変動に応じたインピーダンスの変動を補正する。特に、大気圧プラズマ処理は、真空プラズマ処理に比して電力印加時のインピーダンスを安定させることが困難である。したがって、整合器13としては追従性のよい整合器を用いることが好ましい。
【0028】
下部電極11は接地されてアース電極として機能するとともに、整合器13の下端と接続する。この下部電極11は、搬送方向と直交する方向に沿って細長い形状をなしている。また、上部電極部10は、下部電極11との間の空間(以下「処理空間24」という。)に処理ガスを供給する処理ガス供給部23を内蔵している。
図4は、図3に示す状態から上部電極部のカバーを取り外した状態を示す斜視図、図5は、図3における線I−Iに沿う断面図である。なお、以下の説明では、図4および図5中の上側を「上方」、下側を「下方」と言う。また、図4および図5中の白抜き矢印方向が「搬送方向」である。
【0029】
図4に示すように、上部電極部10内には、導電性の材料、例えば、銅などからなる印加電極14と、該印加電極14の下方に配置されるセラミックス、例えば、SiOなどからなる誘電体15とが設けられている。印加電極14は、搬送方向と直交する方向に沿って細長い形状をなしている。この印加電極14は、整合器13と導電性の電極接続部16を介して接続され、整合器13によって整合された高周波電力が印加される。該高周波電力が印加された印加電極14は、対向する下部電極11との間に高周波電界Eを発生する。このとき、誘電体15は印加電極14および高周波電界Eが直接接触するのを防止してアーク放電などの異常放電の発生を防止する。誘電体15の厚みは、厚すぎると高周波電界Eを発生するために高電圧を要することがあり、薄すぎると高周波電力印加時に絶縁破壊が起こり、アーク放電が発生することがあるため、通常は、0.01〜4mm程度であることが好ましい。
図5に示すように、上部電極部10内に設けられた処理ガス供給部23は、印加電極14および誘電体15を上下方向に貫通する処理ガス供給口18を有している。
【0030】
印加電極14や誘電体15の上方は、逆升状のカバー17により覆われている。カバー17は、印加電極14および誘電体15によって下方の開口部が閉鎖されて、内部に処理ガス供給流路20を形成する。該処理ガス供給流路20には、カバー17の端部に接続された図示しない処理ガス供給装置から供給された混合ガスが充填され、該混合ガスは処理ガス供給口18から噴出する。処理ガス供給口18は、搬送方向と直交する方向に沿って細長くスリット状に開口しており、印加電極14の長手方向に沿って一様に混合ガスを噴出する。
【0031】
該混合ガスは、OガスやCFガスなどの処理ガスと、Heガスなどのキャリアガスから成り、混合ガスの導入量としては、例えば、数十SCCM〜数SLMであることが好ましい。また、処理ガスとキャリアガスの混合割合は、プラズマ処理の種類によって異なるが、処理ガスの割合が大きすぎると、高周波電界Eにおいて放電が発生せず、若しくは、プラズマ処理の効率向上に寄与しないため、例えば、処理ガスの割合が1〜10体積%であることが好ましい。
【0032】
処理ガス供給口18から噴出された混合ガスのうち処理ガスは、処理空間24に形成された高周波電界Eに流入し、放電によって活性化されてプラズマ、例えば、イオンやラジカルになる。該プラズマはワーク2の表面に接触してプラズマ処理を施す。
搬送方向に関してカバー17の両側(前方および後方)には、それぞれ、ガス回収部19a、19bが隣接して設けられている。各ガス回収部19a、19bは、搬送方向と直交する方向に細長い直方体状の筐体で構成され、搬送方向と直交する方向に沿ってスリット状に細長く形成されたガス回収口191a、191bを有している。ガス回収部19a、19bの内部は、ガス回収部19の端部に接続された図示しない排気ポンプによって排気されるため、ガス回収部19の内部は排気流路21として機能し、該排気流路21は、ガス回収口191a、191bを介して処理空間24に存在するプラズマ(活性化された処理ガス)やキャリアガスを回収する。
【0033】
図5において、処理ガス供給口18から噴出されガス回収部19によって回収される混合ガスの流れを黒矢印で示す。ガス回収部19aのガス回収口191aは、搬送方向に関して、印加電極14の前端142や下部電極11の前端112よりさらに前方に位置している。処理ガス供給口18からガス回収口191aまでの間には、ワーク2の移動方向と同方向に流れる気流、すなわちパラレルフローが形成される。
【0034】
これに対し、ガス回収部19bのガス回収口191bは、搬送方向に関して、印加電極14の後端141や下部電極11の後端111よりさらに後方に位置している。処理ガス供給口18からガス回収口191bまでの間には、ワーク2の移動方向と反対方向に流れる気流、すなわちカウンターフローが形成される。
このような構成により、処理空間24に外気が流入するのを確実に防止することができ、処理空間24のプラズマを安定的に発生させることができる。
【0035】
図6は、図1のプラズマ処理装置の電気的接続関係を示すブロック図である。
図6に示すように、高周波電源12は同軸ケーブル22を介して整合器13に接続し、該整合器13は電極接続部16を介して印加電極14に接続する。したがって、高周波電源12は印加電極14と電気的に接続され、高周波電源12は所定の高周波電力を印加電極14に供給する。
【0036】
所定の高周波電力を供給された印加電極14は、下部電極11に向けて放電を行うことによって処理空間24に高周波電力を印加して高周波電界Eを形成する。処理空間24に高周波電界Eが形成されている間、下部電極11は処理空間24に印加された高周波電力によって電圧が発生するが、下部電極11は整合器13に直接接続されているため、発生した電圧は整合器13へ還流する。
プラズマ処理装置1において、ワーク2にプラズマ処理を施す場合には、前述したように、ワーク2は、まず、予熱部6にて予熱される。
【0037】
ワーク2を予熱した後、高周波電源12が所定の高周波電力を印加電極14に供給し、該印加電極14は処理空間24に高周波電力を印加して高周波電界Eを形成する。そして、処理ガスを含む混合ガスが処理ガス供給口18から印加電極14の長手方向に沿って一様に噴出する。これにより、処理ガス供給口18から噴出された混合ガスのうち処理ガスは、処理空間24に形成された高周波電界Eに流入し、放電によって活性化されてプラズマとなる。
【0038】
次いで、第2のコンベア4がワーク2を第1のコンベア3に向けて比較的遅い速度で搬送する。ワーク2は第1のコンベア3に向けて搬送される間に処理空間24を通過するので、その全表面が高周波電界Eによって走査される。上述したように高周波電界Eにはプラズマが発生しているので、ワーク2の全表面にプラズマ処理が施される。また、ワーク2が処理空間24を通過する際、ガス回収部19a、19bは処理空間24に存在するプラズマやキャリアガスを回収する。
その後、処理空間24を通過したワーク2は第1のコンベア3のローラーコンベア8まで搬送され、作業者は該搬送されたワーク2を取り出す。
【0039】
以上説明したような本実施形態のプラズマ処理部5を備えたプラズマ処理装置1によれば、ワーク2にプラズマ処理を施す際に、電極を移動させる必要が無く、さらに、ワーク2を載置するステージも必要ないので、プラズマ処理装置1を小型化することができ、もってプラズマ処理装置1のレイアウトを容易にすることができる。また、2つの電極の位置関係が変化しないので、高周波電界の形態が変化せず、さらに、処理ガスを含む混合ガスを搬送方向と直交する方向に沿って満遍なく噴出することができ、もってプラズマ処理の均一化をさらに高いレベルで達成することができる。
【0040】
また、上述したプラズマ処理装置1では、第1のコンベア3および第2のコンベア4はローラーコンベア8を有し、該ローラーコンベア8によってワーク2を搬送するので、ワーク2を処理空間24に安定して搬送することができ、もってプラズマ処理の均一化をより充分に達成することができる。
また、上述したプラズマ処理装置1では、処理ガス供給口18が印加電極14および誘電体15を貫通して開口するので、混合ガスを処理空間24に発生する高周波電界に確実に供給することができ、安定したプラズマを形成することができる。
さらに、上述したプラズマ処理装置1では、ガス回収部19a、19bを設けたことにより、プラズマが拡散するのを確実に防止することができ、プラズマ処理領域の制御を容易に行うことができる。
【0041】
図7は、本発明のプラズマ処理装置の他の実施形態を模式的に示す断面側面図である。以下、同図に基づいて本発明のプラズマ処理装置の他の実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
図7に示すプラズマ処理装置1’は、予熱部6’の構成が異なること以外は、前述した実施形態と同様である。
【0042】
プラズマ処理装置1’が備える予熱部6’は、複数のワーク2を厚さ方向に沿って複数集積可能な集積部63を有しており、この集積部63は、平板状の複数のヒータ64により囲まれている。これにより、予熱部6’は、集積部63の複数のワーク2を同時に予熱可能になっている。
集積部63には、上方からワーク2が投入され、図示しないワーク移動機構により、集積部63内のワーク2は、徐々に下方へと移動していき、その間に十分な温度にまで予熱される。集積部63の最下端まで移動したワーク2は、順次、第2のコンベア4へと載置され、プラズマ処理部5へと搬送されて、プラズマ処理が施される。
このような構成の予熱部6’により、多数のワーク2に対して効率よく迅速に予熱を行うことができ、量産性を向上することができる。
【0043】
以上、本発明のプラズマ処理装置について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではなく、本発明のプラズマ処理装置の各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができ、特に、プラズマ処理部の構成は、図示の構成に限定されるものではない。
例えば、プラズマ処理部は、上部電極が固定的に設置され、下部電極を、被処理体を保持して搬送する搬送ステージと兼用するような構成のものであってもよい。
【0044】
また、第1のコンベア3および第2のコンベア4はローラーコンベアではなく、ベルトコンベアを有していてもよい。
印加電極14に印加される電力は、高周波によるものに限られず、パルス波やマイクロ波によるものであってもよい。
印加電極14および下部電極11の材料としては、銅の他に、アルミニウムなどの金属単体、ステンレス、真鍮などの合金、金属間化合物などが挙げられる。
【0045】
また、誘電体15の材料としては、SiOに限られず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチック、ガラス、Al、ZrO、TiOなどの金属酸化物、BaTiO(チタン酸バリウム)などの複酸化物などを用いることができる。ここで、25℃における比誘電率が10以上のものである誘電体15を用いれば、高周波電界Eにおいて、低電圧で高密度のプラズマを発生させることができ、処理効率が向上する。
使用可能な誘電体15の比誘電率の上限は特に限定されるものではないが、比誘電率が10〜100のものが好ましい。比誘電率が10以上である誘電体15には、ZrO、TiOなどの金属酸化物、BaTiOなどの複酸化物が該当する。
【0046】
また、本発明のプラズマ処理装置が施すプラズマ処理の種類は、親水処理、撥水処理、アッシング処理、成膜処理、ダイシング処理またはエッチング処理などのいずれであってもよい。
本発明のプラズマ処理装置で用いられる処理ガスとしては、電界を印加することによってプラズマを発生するガスであれば、OガスやCFガスに限定されず、処理目的により種々のガスを用いることができる。
【0047】
例えば、ワーク2の表面を撥水化する撥水処理では、処理ガスとして、C、C、CClF、SFなどのフッ素含有化合物ガスが用いられる。また、ワーク2の表面を親水化する親水処理では、処理ガスとして、O、HO、空気などの酸素元素含有化合物、N、NHなどの窒素元素含有化合物、SO、SOなどの硫黄元素含有化合物が用いられる。これにより、ワーク2の表面にカルボニル基、水酸基、アミノ基などの親水性官能基を形成させて表面エネルギーを高くし、親水性表面を得ることができる。また、アクリル酸、メタクリル酸などの親水基を有する重合性モノマーを用いて親水性重合膜を堆積することもできる。
【0048】
ワーク2の表面に電気的、光学的機能を付加する成膜処理では、SiO、TiO、SnOなどの金属酸化物薄膜をワーク2の表面に形成するために、Si、Ti、Snなどの金属の金属−水素化合物、金属−ハロゲン化合物、金属アルコラートなどの処理ガスが用いられる。
エッチング処理やダイシング処理では、ハロゲン系ガスが用いられ、レジスト処理や有機物汚染の除去では、酸素系ガスが用いられる。表面クリーニングや表面改質では、Ar、Nなどの不活性ガスが処理ガスとして用いられ、不活性ガスのプラズマで表面クリーニングや表面改質が行われる。
キャリアガスとしても、Heガスに限られず、Ne、Ar、Xeなどの希ガス、Nガスなどが用いることができ、これらは単独でも2種以上を混合した形態でも用いられる。
【0049】
また、本発明における被処理体としては、表示装置用のガラス基板に限られず、シリコンウエハなどの半導体基板、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、液晶ポリマー、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などのプラスチック、セラミックなどから成る基板が挙げられる。また、被処理体の形状としては、板状やフィルム状などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のプラズマ処理装置の概略構成を示す斜視図。
【図2】図1に示すプラズマ処理装置の模式的な断面側面図。
【図3】図1におけるプラズマ処理部が有するプラズマ処理ユニットの概略構成を示す斜視図。
【図4】図3に示す状態から上部電極部のカバーを取り外した状態を示す斜視図。
【図5】図3における線I−Iに沿う断面図。
【図6】図1のプラズマ処理装置の電気的接続関係を示すブロック図。
【図7】本発明のプラズマ処理装置の他の実施形態を模式的に示す断面側面図。
【符号の説明】
【0051】
E……高周波電界 1、1’……プラズマ処理装置 2……ワーク 3……第1のコンベア 4……第2のコンベア 5……プラズマ処理部 6、6’……予熱部 61……ヒータ 62……予熱位置 63……集積部 64……ヒータ 7……ローラー 8……ローラーコンベア 9……プラズマ処理ユニット 10……上部電極部 11……下部電極 111……後端 112……前端 12……高周波電源 13……整合器 14……印加電極 141……後端 142……前端 15……誘電体 16……電極接続部 17……カバー 18……処理ガス供給口 19a、19b……ガス回収部 191a、191b……ガス回収口 20……処理ガス供給流路 21……排気流路 22……同軸ケーブル 23……処理ガス供給部 24……処理空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを発生させ、該プラズマにより被処理体の表面をプラズマ処理するプラズマ処理装置であって、
前記被処理体を予熱する予熱手段を設けたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記予熱手段は、前記プラズマ処理されているときの前記被処理体の最高温度とほぼ同等またはそれ以上の温度に前記被処理体を予熱する請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記予熱手段は、前記被処理体の全体を同時に加熱する請求項1または2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記被処理体を搬送する搬送手段を備え、
前記搬送手段により前記被処理体はプラズマ処理空間を搬送される請求項1ないし3のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記搬送手段は、ローラーコンベアで構成される請求項4に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記予熱手段と、前記プラズマ処理空間とが隣接して配置されている請求項1ないし5のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記予熱手段は、複数の被処理体を予熱可能である請求項1ないし6のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
被処理体の搬送経路を挟んで互いに対向して配置され、前記被処理体の搬送方向と直交する方向に沿って細長い形状をなす第1の電極および第2の電極と、
前記第1の電極および第2の電極のうち少なくとも1つに高周波電力を供給する高周波電源と、
前記搬送方向と直交する方向に沿って細長く開口する処理ガス供給口を有する処理ガス供給部とを備え、
前記第1の電極および前記第2の電極の間を前記被処理体が通過するように前記被処理体を搬送しつつ、前記第1の電極と前記被処理体との間の空間に前記処理ガス供給口より処理ガスを供給して前記被処理体の表面をプラズマ処理する請求項1ないし7のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記処理ガス供給口は、前記第1の電極を貫通して開口する請求項8に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記第1の電極と前記被処理体との間の空間に供給された処理ガスを回収するガス回収部をさらに備える請求項8または9に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記ガス回収部は、前記搬送方向に関して前記第1の電極より前方に配置されたガス回収口を有する請求項10に記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記ガス回収部は、前記搬送方向に関して前記第1の電極より後方に配置されたガス回収口を有する請求項10に記載のプラズマ処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−134829(P2006−134829A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325550(P2004−325550)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】