説明

プラズマ処理装置

【課題】マイクロ波を用いたプラズマ処理装置において、プラズマ処理の均一性を向上する。
【解決手段】リング状空洞共振器204を用いたプラズマ処理装置において、処理室の中心軸と同心に設置されたプラズマ発生用電磁波導入経路を有し、電磁波を複数の出力ポートに分配する分岐回路の出力ポートに接続され、プラズマ発生用電磁波の導入経路と同心に設置されたリング状空洞共振器204を備え、プラズマ発生用電磁波導入経路が円形導波管201により構成され、分岐回路が、該処理室の中心軸に対して均等な角度で配置された複数の導波路で構成され、円形導波管201に円偏波の発生機構602を備えて、共振器内部に進行波を励振する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理基板をプラズマ処理するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体メモリやロジックLSI等の半導体装置の製造に用いられる基板は、生産性向上等のために大径化する傾向にあり、最先端の半導体メモリ等の半導体装置では直径300mmのシリコン基板を用いることが主流となっている。さらに直径450mmと巨大なシリコン基板が必要との意見もあり、基板大径化の傾向は続くと考えられる。これらの半導体装置の製造工程でプラズマ処理装置が用いられるが、被処理基板上に均一なプラズマ処理を施す必要があり、被処理基板の大径化に伴う技術的な難易度は増す傾向にある。
【0003】
被処理基板上で均一なプラズマ処理を施すには、当然ながら被処理基板付近でのプラズマの密度や温度などのプラズマ特性の分布が重要であり、プラズマ分布をプラズマ処理均一化の観点から最適化する技術が重要となっている。
【0004】
マイクロ波電力によりプラズマを発生させるプラズマ処理装置は、低圧力下でも高密度のプラズマを生成できる、静磁界との併用でプラズマの分布を静磁界分布調整で容易に制御できる等の特徴を持ち、前記半導体装置の製造等に広く用いられている。前述の基板大径化の傾向に対応してマイクロ波プラズマ処理装置においても、プラズマ分布の制御が重要である。
【0005】
しかし、マイクロ波は波長が数cmから十数cm程度と短く波長と同等オーダーの寸法でマイクロ波の分布が変わりやすい。そのため広い範囲で均一なプラズマ処理を得るべくマイクロ波の分布を最適化することが困難となる傾向にある。マイクロ波を用いてプラズマを発生させるプラズマ源については、例えば、下記の従来技術がある。
【0006】
特許文献1ではプラズマ発生用のマイクロ波を処理室内に放射するため、方形導波管をリング状に配置した空洞共振器を用いた例が開示されている。該空洞共振器のプラズマ処理室側にはスロットアンテナが配置され、プラズマ処理室に効率よくマイクロ波電力を放射してプラズマを発生させることが出来る。リング状の空洞共振器を励振するために方形導波管を接続してマイクロ波を供給する構造としている。
【0007】
また、特許文献2では、特許文献1におけるリング状空洞共振器を励振するために同軸線路をリング状空洞共振器と同軸に配置することで空洞共振器内電磁界の偏りを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−270386号公報
【特許文献2】特開2007−35411号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】中島将光著、マイクロ波工学、森北出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1、2において、リング状空洞共振器内の電磁界は定在波を形成する。図10にリング状空洞共振器内の電界強度分布の一例を示す。電界の高い部分を濃い色、低い部分を薄い色で示す。図10の例では、電界の定在波が形成され、8箇所の電界強度の強い腹部、電界強度の弱い節部がある。これらの腹節の位置は固定されており、プラズマ処理室内にも空洞共振器内の電界強度腹節に対応した電界強度の強弱が発生する場合があることがわかった。
【0011】
そのため、処理室内に発生するプラズマも不均一となる場合がある。この不均一により真空処理室を気密に保持しつつマイクロ波を透過させる誘電体窓部のプラズマによる削れが局所的に大きくなる、被処理基板に施すプラズマ処理の均一性に悪影響を与える、等の不具合が生じる場合があることがわかった。
【0012】
本発明が解決しようとする第1の課題は、リング状空洞共振器内に生ずる定在波に起因する不均一を解決することである。
【0013】
また、特許文献2において、リング状空洞共振器の励振に同軸線路を用いていたが、高出力のマイクロ波電力を投入する場合に同軸線路が加熱される場合があることがわかった。
【0014】
本発明が解決しようとする第2の課題は、高出力のマイクロ波電力投入を可能とするように特許文献2を改良したプラズマ処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、第1の課題に対して、円偏波を用いて該リング状空洞共振器内に進行波を励振することで解決できる。
また、本発明は、第2の課題に対して、リング状空洞共振器の励振に同軸線路に代えて、円形導波管と方形導波管からなる構造を用いることで解決できる。
【0016】
本発明のプラズマ処理装置は、内部が減圧排気される処理室と、前記処理室内に設けられ被処理基板が配置される基板電極と、前記処理室内にプラズマ発生用電磁波によりプラズマを発生させるプラズマ発生装置と、前記処理室内に処理ガスを供給する供給系と、前記処理室内を排気するための真空排気系とを有するプラズマ処理装置であって、前記処理室の中心軸と同心に設置されたプラズマ発生用電磁波導入経路を有し、該電磁波を複数の出力ポートに分配する分岐回路と、該分岐回路の出力ポートに接続され、前記プラズマ発生用電磁波の導入経路と同心に設置されたリング状空洞共振器を備え、前記プラズマ発生用電磁波導入経路が円形導波管により構成されたことを特徴とする。
【0017】
本発明のプラズマ処理装置は、更に、該分岐回路が、該処理室の中心軸に対して均等な角度で配置された複数の導波路で構成されたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明のプラズマ処理装置は、更に、該円形導波管に円偏波の発生機構を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、リング状空洞共振器内に進行波を励振することで、定在波に起因するプラズマ密度の空間的な変動を防止でき、均一なプラズマ処理を可能とする効果がある。同様に誘電体窓のプラズマによる局所的な削れも防止できる。
【0020】
また、本発明によれば、空洞共振器の励振に円形導波管と方形導波管を主要素とする立体回路系を用いることで、同軸線路を用いた励振系に比べ、マイクロ波電力損失の低減や耐電圧向上による高出力の投入を可能とする効果がある。
【0021】
その他、従来技術に比べて、プラズマ密度分布の均一化が図れ、被処理基板に施すプラズマ処理の面内均一性が向上する他、マイクロ波導入窓のプラズマ不均一に起因する局所的な消耗を防止することが出来る。
【0022】
また、高出力のマイクロ波を投入可能となり、最適なプロセス条件を探索する範囲を拡大することができる。またマイクロ波電力の損失も減るためエネルギー消費を減らす効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1はマイクロ波を用いたエッチング装置の構成を説明する概略図である。
【図2】図2はリング状空洞共振器とこれを励振するための方形導波管と円形導波管を示す上面図である。
【図3】図3はリング状空洞共振器とこれを励振するための方形導波管と円形導波管を示す側面図である。
【図4】図4はリング状空洞共振器内と円形導波管内の電界分布を示す説明図である。
【図5】図5はリング状空洞共振器の励振点を説明するための図である。
【図6】図6は本発明を用いたエッチング装置を説明する概略図である。
【図7】図7は円偏波発生器の構造を示す説明図である。
【図8】図8は円矩形変換器を示す上面図である。
【図9】図9は円矩形変換器を示す側面図である。
【図10】図10は従来例の空洞共振器と内部の電界強度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1から図9を用いて、本発明のプラズマ処理装置の実施の形態について説明する。
【0025】
最初に図1により、例えば、特許文献2に記載されているエッチング装置について簡単に説明する。高周波電源117により発生した電磁波が導波管119によりアイソレータ121、自動整合機120を介して同軸導波管変換器118で同軸線路101に伝送される。高周波電源117として発振周波数2.45GHzのマグネトロンを用いた。
【0026】
さらに同軸線路101中を電磁波は伝送され、導体102と誘電体板103からなる分岐回路111により複数の短い同軸線路104に分岐されてリング状の空洞共振器105にもたらされる。リング状の空洞共振器105の下部には放射状のスロットアンテナ106が設けられ、誘電体窓107、シャワープレート108を介して処理室114に放射される。誘電体窓107およびシャワープレート108の材質としては石英を用いた。
【0027】
シャワープレート108には誘電体窓107とシャワープレート108の間の微小な間隙を介して図示しない処理ガスの供給系から供給される処理ガスを処理室114内にシャワー状に供給できるように図示しない微小なガス供給孔が多数設けられている。また処理室114には図示しない真空排気系が接続され、処理室114内を真空排気すると共に、処理室内を処理に適した所定の圧力に保持する働きをもつ。
【0028】
処理室114内には被処理基板109を戴置するための基板電極110が設置されている。基板電極110にはバイアス電源115が自動整合機116を介して接続され、被処理基板109にバイアス電位を与えることができる。バイアス電源115の周波数としては400kHzのものを用いた。
【0029】
処理室114の周囲には静磁界の発生手段112が設けられ、処理室114内に静磁界を加えることができる。処理室114内に電子サイクロトロン共鳴となる静磁界(周波数2.45GHzの場合、0.0875テスラ)を発生させることで、高真空域でもプラズマの発生を容易にし、広い圧力範囲でのプラズマ処理を可能にすることができる。また静磁界の分布を調整することで、前記電子サイクロトロン共鳴を起こす位置やプラズマの拡散を制御して、プラズマの分布を調整することができる。
【0030】
また、リング状の空洞共振器105のリングの内側にも静磁界の発生手段113が設けられ、静磁界の制御可能な範囲を拡大することができる。
【0031】
図1に示すプラズマエッチング装置を評価したところ、下記の課題が判明した。
・課題1:高出力投入時に同軸導波管部が発熱する場合がある。
・課題2:空洞共振器内に生じる電界定在波のパターンに対応したエッチング速度の不均一が生じる場合がある。同様にマイクロ波導入窓に上記電界定在波パターンに対応した局所的な削れが起きる場合がある。
【0032】
課題1に対応して、リング状空洞共振器の励振構造を見直した。同軸導波管を円形導波管に置き換え、さらに分岐回路を、方形導波管を用いて構成する構造を検討した。検討にあたり、同軸線路、円形導波管、方形導波管など公知のマイクロ波伝送線路の特性を非特許文献1により確認した。
【0033】
通常、導波管を使用する場合は、単一のモードのみが伝搬可能な周波数を用いることが多い。例えば、本実施例で使用する周波数2.45GHzのマイクロ波の場合には、WRJ−2規格の断面が109.2mm×54.6mmの導波管を用いることが多い。この場合、導波管内のマイクロ波電磁界は方形導波管のTE10モードと呼ばれる分布のみが伝送され、導波管内の電磁界分布が安定化する効果がある。
【0034】
一方、複数の伝搬モードが存在する導波管を用いた場合には、導波管内の電磁界は該複数の伝搬モードの重畳となる。各伝搬モードの混合比は例えば負荷のインピーダンスにより変動し、電磁界分布の安定化を図ることが困難となる問題がある。
【0035】
上記の課題1を解決するために、同軸導波管部を円形導波管に置き換えることにした。同軸導波管の基本モードは中心軸から放射状の電界を持っており、円形導波管のTM01モードと類似の電磁界分布となることが知られている。そのため、同軸導波管部を円形導波管に置き換えるには、TM01モードで動作する円形導波管を用いることが簡単である。
【0036】
しかし、円形導波管のTM01モードは高次モードであるため、上述のように最低次のTE11モードが混入し、電磁界分布の安定性を損なう可能性がある。そこで電磁界分布の安定化を図る観点から、用いる周波数2.45GHz帯で、最低次モードであるTE11のみが伝搬可能な寸法の円形導波管を用いることにした。
【0037】
さらに、図1に示す構造では分岐回路は誘電体板と導体板を用いた構造であったが、これを方形導波管で置き換えることで、マイクロ波の損失を低減し、高電力マイクロ波の投入を可能とする構造を検討した。
【0038】
TE11モードで動作する円形導波管を中心軸上に配置し、該円形導波管から分岐した複数の方形導波管によりリング状空洞共振器を励振する方法を検討した。
【0039】
図2,図3に検討の結果得られた構造を模式的に示す。図2が上面図、図3が側面図である。TE11モードのみが伝搬できる円形導波管201がリング状空洞共振器204の中心軸上に配置されており、整合用円錐202を介して方形導波管203に分岐されている。
【0040】
図2では4分岐する例を示したが、分岐する方形導波管の個数はこれに限定されるものではない。分岐数が1個の場合は、リング状空洞共振器内に進行波を励振することが困難であるほか、リング状空洞共振器204内のマイクロ波分布の不均一性が顕在化する可能性がある。分岐数が多すぎると構造的に複雑となる欠点がある。
【0041】
そのため、3個以上5個以下程度が望ましいと考える。整合用円錐202は円形導波管201からのマイクロ波電力を方形導波管203に効率よく伝送するよう高さと下部径、上部径を調整している。また方形導波管203内に整合用リッジ205が設けられ、方形導波管203からのマイクロ波電力を効率よくリング状空洞共振器204に伝送するよう形状を調整している。
【0042】
円形導波管や方形導波管、整合用リッジ、整合用円錐の材質としてはマイクロ波損失低減のために導電率の高い金属を用いることが望ましく、本実施例ではアルミニウムを用いた。さらにマイクロ波電磁界に曝露される内面を銀などの導電率の高い材質で被覆してもよい。
【0043】
円形導波管201には、後述する機構により円偏波化されたマイクロ波が導入されている。円形導波管201内で円偏波化されたマイクロ波の偏波面(マイクロ波の進行方向と中心軸上電界ベクトルの方向からなる平面)はマイクロ波の1周期に1回転する。4分岐された各方形導波管203は図2に示すθ方向に90度毎に1周360度を4等分した位置に配置されている。
【0044】
各方形導波管203は長さと構造が同じであるため、リング状空洞共振器204との接続部で、それぞれ位相が90度異なるマイクロ波が励振される。各方形導波管203とリング状空洞共振器204の4箇所の接続部はリング状空洞共振器204のθ方向に互いに90度ことなる位置にあり、各位置から90度位相の異なるマイクロ波で励振されることになる。
【0045】
整合用リッジ205や整合用円錐202はマイクロ波不整合の度合いが著しくない場合や、マイクロ波自動整合機で反射波を抑制できる場合には省略してもよい。また、整合用リッジを省略して、整合用円錐のみで分岐回路およびリング状空洞共振器励振部よりの反射波を抑制してもよい。また導波管部に導体棒を挿入するなど他の公知の整合手段を用いてもよい。
【0046】
図2では4分岐した方形導波管203を用いた例を示したが、リング状空洞共振器内の電磁界分布と分岐の数、位置について説明する。図4にリング状空洞共振器等各部の電界ベクトルを記載した図を示す。円形導波管内電界ベクトル403は前述のように円形導波管TE11モードである。リング状空洞共振器内の電界401、402は図4の紙面に垂直な方向でそれぞれ180度方向が異なることを示している。リング状空洞共振器内では図4のθ方向に5波長分のマイクロ波が入る寸法となっている。円形導波管TE11モードの電界403は以下の式(1)のように表現できることが知られている。
【0047】
【数1】

【数2】

【0048】
式(1)より、角度θが0から360度の範囲で電界も1周期分の正弦的な変化をすることが分かる。一方、リング状空洞共振器内では角度θが0から360度の範囲に、5波長分のマイクロ波が存在するため、この範囲で5周期分の正弦的な変化をする。
【0049】
図5に、上記の位相関係を図示したグラフを示す。横軸に角度θを取り、縦軸にマイクロ波の位相を示す。リング状空洞共振器内では、角度θが0から360度の間に5波長分の位相変化をすることに対応して5本の直線となっている。
【0050】
同様に、円形導波管内では、角度θが0から360度の間に正弦波1周期分の位相変化をすることに対応して1本の直線となる。これらの直線の交点は角度θが0、90、180、270度の4点である。これらの交点で円形導波管内の波の位相とリング状空洞共振器内の波の位相が一致するため、各接続部での電磁界の不整合が生じず、励振点として望ましい。これらの交点に対応して4分岐した方形導波管を、角度θが0、90、180、270度の位置でリング状空洞共振器に接続して励振点とした。
【0051】
同様に、リング状空洞共振器として4波長分のマイクロ波で共振するモードを用いた場合は角度θが0、120、240度の3点で円形導波管内の波の位相とリング状空洞共振器内の位相が一致することから、これらの位置3点で励振することが望ましい。リング状空洞共振器のその他の共振モードを用いた場合も同様に励振点を定めることができる。
【0052】
上記、励振用の方形導波管はθ方向に関して均等に配置することで、リング状空洞共振器内のマイクロ波電力分布の不均一を極小とすることができる。即ち3個の方形導波管の場合は120度間隔、4個なら90度、5個なら72度間隔とすることが望ましい。さらに多くの導波管を用いると、リング状空洞共振器内の励振点に起因する不均一は減るが、構造が複雑となる欠点がある。またリング状空洞共振器の励振に用いる導波管は方形導波管以外の構造であっても同様の効果がある。例えば円形導波管、同軸導波管、マイクロストリップ線路等を用いてもよい。
【0053】
分岐の数が上記の原則を満たさない場合として、5波長分のマイクロ波で共振するリング状空洞共振器を3本の120度間隔で配置した方形導波管で励振した場合について検討した。3箇所の励振点に対応して、リング状空洞共振器内に4波長に相当する進行波が混入して励振されることが分かった。リング状空洞共振器はスロットアンテナや励振用方形導波管により空洞共振器外部と電磁気的に結合しており、所望のモードからの偏差が著しくない場合には、円偏波と複数個所の励振により、リング状空洞共振器内に進行波が励振できることが分かった。
【0054】
次に、図4に示す構造の変形として、180度間隔で2個の方形導波管により励振する場合を調べた。この場合、リング状空洞共振器内に進行波が励振できず、定在波となった。一般に右回りの進行波と左回りの進行波が等振幅で存在する場合に完全な定在波となり、振幅に偏差が生じると、進行波成分が生じる。180度間隔で2個の方形導波管により励振した場合は、θが180度異なる場所を180度の位相差で励振したことになる。各方形導波管に対して略左右対称の構造であり、各方形導波管から右回り、左回りの進行波が等振幅で生じる。このような構造では右回り進行波と左回り進行波いずれかを打ち消すことができず、両者が等振幅で存在するため、進行波の励振ができなかった。
【0055】
図6に、改良したプラズマ処理装置を示す。図1に示すプラズマ処理装置と重複する部分の説明を省略し、主に相違点に着目して述べる。図1では同軸線路101によりリング状空洞共振器にマイクロ波を伝送していたが、円形導波管201に変更している。これに伴い、同軸導波管変換器118が円矩形変換器601に変更されている。
【0056】
円矩形変換器601は入力ポートが方形導波管で出力ポートが円形導波管となっており、方形導波管からもたらされたマイクロ波を効率よく円形導波管のTE11モードに変換する働きを持つ。
【0057】
円矩形変換器601と円形導波管201の間に円偏波発生器602が配置されている。円偏波発生器602は円形導波管TE11モードの直線偏波として入力したマイクロ波を円偏波化する機能を持つ。円偏波化されたマイクロ波は円形導波管201から図2で説明した方形導波管203等を経てリング状空洞共振器204に伝送される。リング状空洞共振器として、図2に示すθ方向360度範囲に5波長分のマイクロ波が入る寸法とした。
【0058】
リング状空洞共振器の処理室側に放射状のスロットアンテナ106が設けられ、リング状空洞共振器内のマイクロ波を処理室側に放射して処理室にプラズマを生成する。放射状のスロットアンテナ106と誘電体窓107の間に空洞部603を設けた。一般にスロットアンテナ直下ではアンテナ開口部との位置関係によりマイクロ波電力の場所的な不均一が大きいが、空洞部603を設けることで、このスロットアンナ配置に起因する不均一性を緩和する効果がある。
【0059】
また、空洞部603の高さ(スロットアンテナ106と誘電体窓107の距離)を調整することでマイクロ波の反射や分布を調整できる効果もある。スロットアンテナによる場所的な不均一が著しくない場合には、空洞部603は省略してもよい。
【0060】
円偏波発生器として、公知の種々の構造を用いることができる。本実施例では図7に示す公知の構造を用いた。円形導波管701に誘電体板703を装荷した構造となっている。入力ポートでの円形導波管TE11モードの電界ベクトルを模式的に示している。入力ポートより入射するマイクロ波は直線偏波であり、図7に示すように誘電体板703とマイクロ波電界ベクトルは中心軸上で45度の角度で交差するように配置されている。誘電体板703としてマイクロ波702に対して損失の小さい誘電体を用いることができ、本実施例では石英を用いた。誘電体板703の厚さと長さを調整することで出力ポートでのマイクロ波を円偏波化することができる。
【0061】
図8および9に円矩形変換器の構造を示す。図8に上面図、図9に側面図を示す。入力側断面が方形導波管となる方形導波管部801と、出力側断面が円形導波管となる円形導波管部802が接続された構造となっている。さらにマイクロ波の進行方向を90度曲げる機能も有しており、装置の小型化に寄与している。円形導波管部のTE11モード電界分布も併せて示す。図7に示す円偏波発生器の誘電体板はこの円形導波管TE11モード電界に対して45度傾斜して設置した。
【0062】
本発明は図面に示すプラズマエッチング装置に限定されるものではなく、他のプラズマ発生方法によるプラズマエッチング装置にも適用可能である。また、その他のプラズマ処理として例えばプラズマCVD、プラズマアッシングにも適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
101 同軸線路
102 導体
103 誘電体板
104 短い同軸線路
105 リング状の空洞共振器
106 スロットアンテナ
107 誘電体窓
108 シャワープレート
109 被処理基板
110 基板電極
111 分岐回路
112 静磁界の発生手段
113 静磁界の発生手段
114 処理室
115 バイアス電源
116 自動整合機
117 高周波電源
118 同軸導波管変換器
120 自動整合機
119 導波管
121 アイソレータ
201 円形導波管
202 整合用円錐
203 方形導波管
204 リング状空洞共振器
205 整合用リッジ
401 リング状空洞共振器内の電界
402 リング状空洞共振器内の電界
403 円形導波管内電界ベクトル
601 円矩形変換器
602 円偏波発生器
603 空洞部
701 円形導波管
702 マイクロ波
703 誘電体板
801 方形導波管部
802 円形導波管部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が減圧排気される処理室と、
前記処理室内に設けられ被処理基板が配置される基板電極と、
前記処理室内にプラズマ発生用電磁波によりプラズマを発生させるプラズマ発生装置と、
前記処理室内に処理ガスを供給する供給系と、
前記処理室内を排気するための真空排気系と、を有するプラズマ処理装置において、
前記処理室の中心軸と同心に設置されたプラズマ発生用電磁波導入経路と、
該電磁波を複数の出力ポートに分配する分岐回路と、
該分岐回路の出力ポートに接続され、前記プラズマ発生用電磁波の導入経路と同心に設置されたリング状空洞共振器と、を備え、
前記プラズマ発生用電磁波導入経路が円形導波管により構成されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマ処理装置において、
該分岐回路が、該処理室の中心軸に対して均等な角度で配置された複数の導波路で構成されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のプラズマ処理装置において、
該円形導波管に円偏波の発生機構を備えていることを特徴とするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−190899(P2012−190899A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51424(P2011−51424)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】