説明

プラズマ成膜装置

【課題】プラズマCVDによる成膜と、蒸発源を用いる成膜とを、成膜空間を大気圧に開放することなく、連続して行うことのできる成膜装置を提供する。
【解決手段】蒸発材料8aが充填される坩堝8bの開口には、開閉可能な遮蔽部材8cが配置され、遮蔽部材8cは、プラズマ源2の陽極を兼用する。これにより、プラズマCVD工程では、陽極を兼用する遮蔽部材8cによって蒸発材料8aを遮蔽することができるため、蒸発材料8aに膜が付着しない。また、遮蔽部材8cを陽極とすることにより、遮蔽部材8cがプラズマの放電に影響を与えない。また、遮蔽部材8cを開放し、蒸発材料8aを蒸発させて蒸着工程を行うことができる。遮蔽部材8cがプラズマ5aで加熱されるため、遮蔽部材8cの内側に付着する蒸発物を蒸発させて除去することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いる成膜装置に関し、特に、原料ガスを用いる成膜法と蒸発源を用いる成膜法の両者を行うことのできる成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマを用いる成膜方法としては、プラズマ源から引き出したプラズマに成膜原料ガスを供給し、分解物や反応生成物を基板上に付着させる化学的気相成長(プラズマCVD)法や、蒸発源をプラズマによって加熱し、蒸気をイオン化して蒸着するイオンプレーティング法や、蒸発源を抵抗加熱等により加熱し、蒸気にプラズマを照射しながら蒸着するプラズマアシスト蒸着法等が知られている。例えば、特許文献1には、有機珪素化合物を原料ガスとし、低温プラズマCVD法により撥水性の有機化合物膜を形成する方法が開示されている。
【0003】
一方、有機化合物膜の成膜方法として、特許文献2および3には、蒸発源となる有機材料をヒーターで加熱して蒸発させ、基板上に堆積させる成膜装置が開示されている。特許文献2および3の成膜装置は、蒸発源を覆うシャッターにもヒーターが備えられている。蒸発源の加熱開始時に蒸発速度が不安定であるため、シャッターは閉じられたままであり、蒸発源の蒸気が所定の蒸発速度に達してからシャッターを開いて成膜が行われる。シャッターを開くまで、シャッターには蒸気が付着し付着物となる。そこで、シャッターをヒーターにより加熱して付着した有機材料を蒸気にして回収または排気することが提案されている。
【特許文献1】特開平11−263860号公報
【特許文献2】特開平5−132760号公報
【特許文献3】特開平10−168559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の成膜装置を用いて、プラズマCVD法による成膜と、イオンプレーティング等の蒸発源を用いる成膜とを同一の成膜室で大気に開放することなく連続して行うと、プラズマCVDによる生成物(分解・反応生成物)が、蒸発源の表面に付着して蒸発源を汚染しまうという問題が生じる。
【0005】
例えば、図4に示した従来の成膜装置を用いて、連続成膜を行う手順を簡単に説明する。プラズマCVD法による成膜時には、スイッチ11を閉とし、プラズマガン2の陰極5と成膜室3の陽極10との間に電源4から電圧を印加する。プラズマガン2から陽極10に向かってプラズマ5aが導入され、成膜室3にガス導入管6から原料ガスを供給すると、原料ガスがプラズマ5aによって分解または反応し、分解物または反応生成物は、基板12に堆積して膜13を形成する。このとき、分解物または反応生成物は、固体蒸発源8の表面にも付着し、蒸発源を汚染する。分解物または反応生成物が有機材料等の絶縁物の場合、蒸発源8の表面が絶縁膜で覆われてしまう。その後、イオンプレーティング法を行うために、スイッチ11を開、スイッチ9を閉として、蒸発源8にプラズマ5aを導き、蒸発源8を加熱し、蒸発させる。しかしながら、蒸発源8が絶縁膜で覆われている場合には、プラズマ5aを蒸発源8に導くことができなくなり、プラズマによる加熱ができなくなる。このため、連続してイオンプレーティング法を行うことはできない。
【0006】
また、イオンプレーティングの最中に、蒸発源をシャッターで遮蔽することも考えられるが、シャッターがプラズマの安定放電に影響を与える可能性があり、装置構成も複雑になる。
【0007】
本発明の目的は、プラズマCVDによる成膜と、蒸発源を用いる成膜とを、成膜空間を大気圧に開放することなく、連続して行うことのできる成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明により提供される成膜装置は、成膜室と、直流プラズマを発生するプラズマ源と、成膜室に配置され、蒸発材料が充填される坩堝と、成膜室に原料ガスを導入するためのガス導入管とを有し、坩堝の開口には、開閉可能な遮蔽部材が配置され、遮蔽部材は、プラズマ源の陽極を兼ねるものである。これにより、プラズマCVD工程では、陽極を兼用する遮蔽部材によって蒸発材料を遮蔽することができるため、蒸発材料に膜が付着しない。また、遮蔽部材を陽極とすることにより、遮蔽部材がプラズマの放電に影響を与えない。また、遮蔽部材を開放するだけで、イオンプレーティング工程や蒸着工程を行うことができる。さらに、遮蔽部材がプラズマで加熱されるため、遮蔽部材の内側に付着する蒸発物を蒸発させて除去することも可能になる。
【0009】
上述の遮蔽部材および前記坩堝には、これらの一方に選択的に前記プラズマ源の陽極電位を印加するための切り替え手段を接続することができる。これにより、プラズマCVD工程と、イオンプレーティング工程とを連続して行うことができる。
【0010】
例えば、成膜装置は、遮蔽部材を開閉するための駆動機構と、駆動機構および切り替え手段の動作を制御するための制御部とを有する構成にすることもできる。制御部は、駆動機構により遮蔽部材を閉状態とし、切り替え手段により遮蔽部材に陽極電位を印加して、プラズマ源の直流プラズマを遮蔽部材に導くことにより、原料ガスを直流プラズマに曝してプラズマ化学気相成長法により成膜を行った後、連続して、駆動機構により遮蔽部材を開状態とし、切り替え手段により坩堝に陽極電位を印加して、直流プラズマを蒸発材料に導くことにより、蒸発材料を蒸発させて成膜を行うことができる。
【0011】
また、遮蔽部材には、プラズマ源の陽極電位を印加するための電位印加手段が接続され、坩堝には、蒸発材料を加熱するための加熱手段が備えられている構成にすることもできる。これにより、プラズマCVD工程と、蒸着工程とを連続して行うことができる。
【0012】
例えば、成膜装置が、遮蔽部材を開閉するための駆動機構と、駆動機構、電位印加手段および加熱手段の動作を制御するための制御部とを有する構成にすることができる。制御部は、駆動機構により遮蔽部材を閉状態とし、電位印加手段により遮蔽部材に陽極電位を印加して、プラズマ源の直流プラズマを遮蔽部材に導くことにより、原料ガスを直流プラズマに曝してプラズマ化学気相成長法により成膜を行った後、連続して、加熱手段により坩堝を加熱して蒸発材料を蒸発させ、駆動機構により遮蔽部材を開状態とし、蒸着法による成膜を行うことができる。
【0013】
この場合、制御部は、プラズマ化学気相成長法により成膜した後も、遮蔽部材への陽極電位の印加を継続することにより遮蔽部材へ直流プラズマを導いて遮蔽部材を加熱することができる。これにより、遮蔽部材に付着する蒸発材料の蒸気による付着物を除去することが可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、プラズマCVDによる絶縁膜の成膜と、蒸発源を用いる成膜とを、成膜空間を大気圧に開放することなく、連続して行うことができるため、真空排気の時間を減らすことができ、スループットを向上させることができる。また、膜界面が大気に触れないため、積層膜の密着性が高く、耐久性の高い積層膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施の形態の直流放電型プラズマ成膜装置について図面を用いて説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
まず、第1の実施の形態の直流放電型プラズマ成膜装置の構成について、図1、図2を用いて説明する。この成膜装置は、プラズマCVD法による成膜と、イオンプレーティング法による成膜とを連続して行うことができる。
【0017】
図1に示したように、この成膜装置は、プラズマガン2と、これに連結された成膜室3とを有している。プラズマガン2の内部には、グロー放電からアーク放電(直流放電型プラズマ5a)に移行させるのに適した公知の複合陰極構造の陰極5が配置されている。陰極5には、電源4の負極が接続されている。プラズマガン2には、放電ガス1を導入するための放電ガス導入口21が備えられている。
【0018】
成膜室3内には、基板12を保持する基板ホルダ22と、蒸発材料8aが充填された蒸発坩堝8bが配置されている。蒸発坩堝8bは、導電性材料によって形成され、スイッチ9を介して、電源4の正極に電気的に接続されている。スイッチ9には、制御部30が接続され、制御部30がスイッチ9を閉にすることにより、坩堝8bには陽極電位が印加される。これにより、坩堝8bは、陽極として作用し、蒸発材料8aが導電性である場合には、プラズマ5aは蒸発材料8aに導かれ、イオンプレーティングを行うことが可能でなる。
【0019】
蒸発坩堝8bの開口は、板状で導電性の遮蔽部材8cで開閉可能に覆われている。遮蔽部材8cは、プラズマ5aで高温に加熱されるため、カーボン、または、ホウ化ランタン、Ta、W等の高融点金属により形成されている。
【0020】
坩堝8bと遮蔽部材8cには、遮蔽部材8cの開閉のための駆動機構部23が備えられている。駆動機構部23は、制御部30の指示に応じて遮蔽部材8cを開閉する。駆動機構部23としては、例えば、遮蔽部材8cの裏面にラックを設置し、蒸発坩堝8bにピニオンを取り付け、ピニオンをモーターで回転させることにより遮蔽部材8cを開閉するラックとピニオン構造の駆動機構を用いることができる。または、遮蔽部材8cに凸条を、坩堝8bの縁に溝を設け、遮蔽部材8cに接続したワイヤをモーターで回転させたプーリーで巻き取ることにより、遮蔽部材8cを溝に沿ってスライドさせる構造の駆動機構を用いることも可能である。いずれの機構の場合も、制御部30の指示に応じてモーターを駆動させる構成とする。ただし、遮蔽部材8cは、プラズマ5aにより高温に加熱されるため、モーターは、遮蔽部材8cおよび坩堝8bから離れた位置に配置したり、熱伝導性の低い回転軸を用いる等、高温にならないように構成する。
【0021】
遮蔽部材8cは、スイッチ11を介して、電源4の正極に電気的に接続されている。スイッチ11には、制御部30が接続され、制御部30がスイッチ11を閉にすることにより、遮蔽部材8c間には陽極電位が印加される。これにより、遮蔽部材8cが陽極として作用するため、プラズマ5aは遮蔽部材8cに導かれる。
【0022】
成膜室3には、原料ガス導入管6,16が備えられている。プラズマ5aを遮蔽部材8cに導いた状態で、原料ガス導入管6,16からプラズマ5aに原料ガス7、17を供給することにより、分解および重合反応が生じ、プラズマCVDを行うことが可能である。
【0023】
プラズマガン2と成膜室3との連結部には、オリフィス20が配置されている。オリフィス20は、プラズマガン2内の圧力を成膜室3の圧力よりも高く維持し、圧力勾配を形成する。これにより、プラズマ5aをプラズマガン2から成膜室3に引き出すとともに、反応生成物やイオンがプラズマガン2に逆流するのを防止している。オリフィス20には、陰極5と陽極との中間の電位を付与することにより、プラズマを陽極に導く中間電極を兼用させることも可能である。
【0024】
また、図示していないが、成膜室3には、排気口が備えられ真空排気装置に接続されている。また、プラズマガン2の外側、ならびに、成膜室3の外側には、電磁石等の磁界発生手段を配置することができる。この磁界により、陰極5から生じたプラズマ5aをビーム状に収束させ、オリフィス20を容易に通過させることができる。
【0025】
つぎに、図1および図2の成膜装置を用いて、プラズマCVD法による成膜と、イオンプレーティング法による成膜とを、成膜室3を大気に開放することなく連続して行う動作について説明する。
【0026】
準備として、蒸発坩堝8bにイオンプレーティング工程により成膜する蒸発材料(導電性材料)を充填し、遮蔽部材8cを閉にする。基板ホルダ22に基板12を取り付ける。成膜室3およびプラズマガン2を所定の真空度まで排気する。
【0027】
まず、プラズマCVD工程を行う。プラズマガン2にアルゴン、ヘリウム等の放電ガス1を導入する。制御部30は、図1のようにスイッチ11を閉、スイッチ9を開状態し、電源4から陰極5と遮蔽部材8c間に直流電圧を印加する。陰極は、電圧印加開始時にはグロー放電によるプラズマを発生するが、グロー放電を続けると、陰極5が加熱されてアーク放電に移行し、直流放電型プラズマ5aが生じる。プラズマ5aは、オリフィス20の作用によりプラズマガン2より低い圧力の成膜室3に引き出され、陽極電位が印加された遮蔽部材8cに到達する。
【0028】
成膜室3内に原料ガス導入管6、16から原料ガス7、17を供給すると、成膜室3内に引き出されたプラズマ5aに原料ガス7、17が曝され、分解物や反応生成物等が生じ、これが基板12に堆積して、膜13が形成される。
【0029】
このとき、遮蔽部材8cは、蒸発坩堝8bの中を遮蔽している。しかも、スイッチ9が開、スイッチ11が閉であるため、プラズマ5aは遮蔽部材8cに集中し、蒸発坩堝8bの中に侵入しない。
【0030】
つぎに、イオンプレーティング工程を行う。プラズマCVD工程におけるプラズマ5aの発生を継続させたまま、原料ガス7、17のうち、イオンプレーティングでは使用しない原料ガスの供給を停止し、使用しない原料ガスを十分に排気する。図2の例では、原料ガス7のみを停止し、イオンプレーティングで原料ガス17を使用するので、供給したままとする。
【0031】
制御部30は、図2のようにスイッチ9を閉とし、駆動機構23により遮蔽部材8cを開とし、さらに、スイッチ11を開にする。この手順で切り替えることにより、プラズマ5aの放電を持続させたまま、プラズマ5aの到達先を遮蔽部材8cから蒸発坩堝8bの内部に移動させることができ、坩堝8bの蒸発材料8aにプラズマ5aを照射することができる。蒸発材料8aがプラズマ5aにより加熱され、蒸発する。蒸発した粒子は、プラズマ5aにより活性化されて基板12上に堆積し、イオンプレーティングによる膜14を形成する。図2のように原料ガス17を供給している場合には、原料ガス17がプラズマ5aにより活性化されて蒸発粒子と反応し、反応生成物が基板12上に堆積し、膜14を形成する。
【0032】
このように、本実施の形態の形態では、成膜室3を大気圧に開放することなく、しかも、放電を継続させたまま、1バッチで連続して、プラズマCVD工程と、イオンプレーティング工程とを行って、2種類の異なる膜を連続して成膜することができる。
蒸発坩堝8bは、陽極を兼用する遮蔽部材8cによって遮蔽されているため、プラズマCVD工程で坩堝8b内の蒸発材料8aに堆積物が付着することはない。また、プラズマCVD工程とイオンプレーティング工程との切り替え時に、成膜室3を開放せず、プラズマも停止させないため、真空排気時間および放電の安定化のための時間が不要であり、成膜効率を向上させることができ、量産性を高めることができる。
【0033】
また、プラズマCVD法により形成された膜13が大気に曝されないため、積層膜の密着性が高まり、積層膜の耐久性が向上する。
【0034】
(第2の実施の形態)
つぎに、第2の実施の形態の直流放電型プラズマ成膜装置の構成について図3を用いて説明する。図3の成膜装置は、プラズマCVD法による成膜と、抵抗加熱による蒸着法による成膜とを連続して行うことができる。
【0035】
図3の成膜装置は、第1の実施の形態の図1の成膜装置と同様の工程であるが、蒸発坩堝8bの下部に抵抗加熱ヒーター15が配置され、蒸発坩堝8bと電源4とは接続されていない点が図1の成膜装置とは異なっている。抵抗加熱ヒーター15には、電源24が接続されている。また、遮蔽部材8cと坩堝8bとが接する部分には、絶縁部材8eが配置され、遮蔽部材8cと坩堝8bとを電気的に絶縁している。他の構成は、第1の実施の形態の成膜装置と同じであるので、説明を省略する。なお、図3では、原料ガス導入管6のみを備えている場合について説明したが、2以上の原料ガス導入管を備える構成することも可能である。
【0036】
図3の成膜装置により、プラズマCVD法と抵抗加熱蒸着法とにより連続成膜を行う動作について説明する。
【0037】
プラズマCVD工程は、第1の実施の形態と同様であり、坩堝8bの開口を遮蔽部材8cで覆った状態で、スイッチ11を閉じ、遮蔽部材8cに陽極電位を印加してプラズマガン2からプラズマ5aを引き出し、原料ガス6を供給する。これにより、原料ガスの分解物や反応生成物が、基板12に堆積し、膜13を形成する。
【0038】
このとき、プラズマガン2から引き出されたプラズマ5aは、陽極として作用している遮蔽部材8cに到達するため、遮蔽部材8cが加熱される。
【0039】
必要な膜厚の膜13が成膜されたならば、原料ガス7の供給を停止する。このとき、遮蔽部材8cへの陽極電位の印加は継続し、プラズマ5aは発生させたままにする。
【0040】
つぎに、蒸着工程を行う。電源24をオンにし、抵抗加熱ヒーター15により、坩堝8bおよび蒸発材料8aを加熱し、蒸発させる。所定の蒸発速度が得られるまで遮蔽部材8cは閉じたままにし、所定の蒸発速度に達したならば、遮蔽部材8cを開ける。蒸発材料8aの蒸気は、基板12に到達し、膜を形成する。これにより、遮蔽部材8cがシャッターとして機能し、安定した蒸発速度に達してから成膜を行うことができる。
【0041】
このように、所定の蒸発速度が得られるまで遮蔽部材8cは閉じられているため、遮蔽部材8cに蒸発材料8aの蒸気が付着するが、本実施の形態では、遮蔽部材8cがプラズマ5aにより加熱されているので、付着物を再蒸発させて排気することができる。よって、遮蔽部材8cの付着物が蒸発材料8a上に落下して、蒸発速度を不安定にさせたり、蒸発材料8aの純度を低下させることがなく、安定した蒸発速度および高純度を維持できる。
【0042】
なお、プラズマ5aは、蒸発材料8aの蒸発速度が所定の速度に達し、遮蔽部材8cを開く時点で停止させることも可能であるし、プラズマ5aを停止させずに蒸着法による成膜工程中も発生させたままにすることも可能である。また、遮蔽部材8cが十分に加熱され、プラズマCVD工程で加熱された遮蔽部材8cの余熱で付着物を蒸発させることができるならば、蒸着法の開始前に停止させることも可能である。
【0043】
第2の実施の形態では、蒸着法による成膜工程時に遮蔽部材8cに付着する蒸発物を、プラズマによって加熱して除去することができるため、蒸発源のシャッター(遮蔽部材8c)を加熱するための特別な加熱機構を備えることなく、高純度の膜を安定に成膜することができる。これは、蒸発材料として、有機材料や、有機モノマーを用いる際に特に有効である。
【0044】
また、プラズマを発生させたまま、蒸着を行うことが可能であるため、プラズマCVD工程と、蒸着工程とを交互に行って多層膜を成膜する場合には、蒸着後、すぐに原料ガスを供給してプラズマCVDを行うことができ、成膜に要する時間を短縮できる。
【0045】
蒸着法による成膜工程中もプラズマ5aを発生させたままにする場合には、開放した遮蔽部材8cの下面(蒸発材料8aの蒸気が付着した面)と対向する位置に、冷媒により冷却された皿状の部材を配置しておくことにより、プラズマ5aによる加熱で遮蔽部材8cの下面に付着した物質を再び蒸発させ、これを皿状部材で冷却して回収することが可能である。これにより、蒸着法による成膜中に蒸発材料の回収を行うことができ、効率よく回収ができる。また、回収物を再利用することができ、蒸発材料8aが高価な有機材料等の場合には製造コストを低減できる。
【0046】
なお、第2の実施の形態では、蒸発材料を抵抗加熱ヒーターにより加熱する構成について説明したが、蒸発材料の加熱方法は、抵抗加熱ヒーターに限られるものではなく、赤外線照射や電子ビーム照射による加熱等の他の方法を用いることが可能である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
(実施例)
第1の実施の形態の成膜装置を用いて、ポリカーボネート基板12上に、厚さ1μmの有機シリコン膜(SiOx膜)、厚さ0.1μmの酸化亜鉛膜(ZnO膜)、厚さ1μmの有機シリコン膜(SiOx膜)を順に成膜した。
【0048】
成膜工程は、第1の実施の形態と同様であるが、プラズマCVD工程と、イオンプレーティング工程とを連続して行った後、さらに連続して再びプラズマCVD工程とを行った。CVD工程では、原料ガス7としてヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を、原料ガス17として酸素ガスを供給し、有機シリコン膜(SiOx膜)を成膜した。プラズマCVD工程による有機シリコン膜の成膜時の成膜条件は、下記表1のように設定した。イオンプレーティング工程では、蒸発材料8aとして、Znを用い、原料ガス17として酸素ガスを供給しながら酸化亜鉛膜(ZnO膜)を成膜した。イオンプレーティング時の成膜条件は、下記表2のように設定した。各工程の切り替えは、第1の実施の形態で説明したように成膜室3を開放することなく連続して行った。
【表1】

【表2】

【0049】
(比較例)
比較例として、図4に示した従来の直流放電型プラズマ成膜装置を用いて、実施例と同様の構成の積層膜を成膜した。成膜手順は実施例と同じであるが、プラズマCVD工程時には、図4のように陽極10をイオンガン2と対向する位置に配置して行った。プラズマCVD工程時に、イオンプレーティング工程で用いる蒸発源8の表面に有機シリコンが付着するのを防止するため、プラズマCVD工程は、蒸発源8を配置せずに行った。プラズマCVD工程終了後に、成膜室3を大気に開放し、蒸発源8を配置し、イオンプレーティング工程を行った。他の成膜条件は、実施例の表1および表2の成膜条件と同じにした。
【0050】
(評価)
実施例で得られた試料と、比較例で得られた試料とについて、積層膜の耐衝撃性と耐薬品性とを調べた。
【0051】
耐衝撃性は、デュポン式衝撃試験機(東測精密工業(株)製)を用い、重量500gに加重された直径約10mmの鉄球を20cmの高さから積層膜の表面に落下させ、積層膜の損傷状態により評価した。
【0052】
耐薬品性は、0.1mol/lのNaOH溶液を、積層膜の表面に滴下し、24時間経過した後の膜の剥がれ、膨れ、変質の有無により評価した。
【0053】
評価した結果を表3に示す。膜衝撃性および耐薬品性ともに、本実施例の試料の方が比較例の試料よりも良好であった。これは、実施例の積層膜は、プラズマCVD工程とイオンプレーティング工程との切り替え時に、膜が大気に曝されていないため、積層膜の各界面における密着性が高いためであると推測される。
【表3】

【0054】
また、本実施例の成膜方法は、1バッチの中で連続して異なる膜を積層でき、成膜室を大気開放する必要がないため、排気時間ならびにプラズマ安定化時間が不要であった。これにより、成膜工程の全体の時間を比較例よりも短縮することができ、実施例の成膜方法は、量産性が高いことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】第1の実施の形態の直流高密度プラズマを用いた成膜装置を用いてプラズマCVD法により成膜する工程を示す説明図。
【図2】第1の実施の形態の直流高密度プラズマを用いた成膜装置を用いてイオンプレーティング法により成膜する工程を示す説明図。
【図3】第2の実施の形態の直流高密度プラズマを用いた成膜装置を用いてプラズマCVD法により成膜する工程を示す説明図。
【図4】従来の直流放電型プラズマ成膜装置の構成を示す説明図。
【符号の説明】
【0056】
1…放電ガス、2…プラズマガン、3…成膜室、4…電源、5…陰極、5a…プラズマ、6、16…原料ガス導入管、7、17…原料ガス、8a…蒸発材料、8b…蒸発坩堝、8c…遮蔽部材(陽極)、12…基板、13,14…膜、20…オリフィス、21…放電ガス導入口、22…基板ホルダ、24…電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜室と、直流プラズマを発生するプラズマ源と、前記成膜室に配置され、蒸発材料が充填される坩堝と、前記成膜室に原料ガスを導入するためのガス導入管とを有し、
前記坩堝の開口には、開閉可能な遮蔽部材が配置され、該遮蔽部材は、前記プラズマ源の陽極を兼ねることを特徴とするプラズマ成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ成膜装置において、前記遮蔽部材および前記坩堝の一方に選択的に前記プラズマ源の陽極電位を印加するための切り替え手段をさらに有することを特徴とするプラズマ成膜装置。
【請求項3】
請求項1に記載のプラズマ成膜装置において、前記遮蔽部材には、前記プラズマ源の陽極電位を印加するための電位印加手段が接続され、前記坩堝には、前記蒸発材料を加熱するための加熱手段が備えられていることを特徴とするプラズマ成膜装置。
【請求項4】
請求項2に記載のプラズマ成膜装置において、前記遮蔽部材を開閉するための駆動機構と、該駆動機構および前記切り替え手段の動作を制御するための制御部とを有し、
該制御部は、前記駆動機構により前記遮蔽部材を閉状態とし、前記切り替え手段により前記遮蔽部材に前記陽極電位を印加して、前記プラズマ源の直流プラズマを前記遮蔽部材に導くことにより、前記原料ガスを前記直流プラズマに曝してプラズマ化学気相成長法により成膜を行った後、連続して、前記駆動機構により前記遮蔽部材を開状態とし、前記切り替え手段により前記坩堝に前記陽極電位を印加して、前記直流プラズマを前記蒸発材料に導くことにより、前記蒸発材料を蒸発させて成膜を行うことを特徴とするプラズマ成膜装置。
【請求項5】
請求項3に記載のプラズマ成膜装置において、前記遮蔽部材を開閉するための駆動機構と、該駆動機構、前記電位印加手段および前記加熱手段の動作を制御するための制御部とを有し、
該制御部は、前記駆動機構により前記遮蔽部材を閉状態とし、前記電位印加手段により前記遮蔽部材に前記陽極電位を印加して、前記プラズマ源の直流プラズマを前記遮蔽部材に導くことにより、前記原料ガスを前記直流プラズマに曝してプラズマ化学気相成長法により成膜を行った後、連続して、前記加熱手段により前記坩堝を加熱して前記蒸発材料を蒸発させ、前記駆動機構により前記遮蔽部材を開状態とし、蒸着法による成膜を行うことを特徴とするプラズマ成膜装置。
【請求項6】
請求項5に記載のプラズマ成膜装置において、前記制御部は、前記プラズマ化学気相成長法により成膜した後も、前記遮蔽部材への前記陽極電位の印加を継続することにより前記遮蔽部材へ前記直流プラズマを導いて前記遮蔽部材を加熱し、前記遮蔽部材に付着する前記蒸発材料の蒸気による付着物を除去することを特徴とするプラズマ成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−231456(P2008−231456A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68480(P2007−68480)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】