説明

ヘテロフラーレン内包カーボンナノチューブを用いた電子デバイス

【課題】本発明は、nタイプのカーボンナノチューブを用いた電子素子を提供することを目的とする。
【解決手段】炭素骨格の一部を他の原子で置換したヘテロフラーレンを内包したカーボンナノチューブをn型半導体として用いた電子素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロフラーレン内包カーボンナノチューブを用いた電子デバイスに係る。
【背景技術】
【0002】
【非特許文献1】Available online at www.sciencedirect.com Carbon 44(2006) Encapsulating C59N azafullerene derivatives inside single-wall carbon nanotubes www.elsevier.com/locate/carbon
【特許文献1】特開2007−70155号公開公報
【0003】
ヘテロフラーレンは、フラーレンの炭素骨格の一部をホウ素、窒素により置換させたものである。
【0004】
このヘテロフラーレンをカーボンナノチューブに内包させた技術は非特許文献1に記載されている。
【0005】
一方、カーボンナノチューブ内にフラーレンや他の制御分子を内包させて光特性、電子物性を変化させ、電界効果トランジスタ(FET)に利用する技術が特許文献1に記載されている。
【0006】
しかし、ヘテロフラーレンを内包させたカーボンナノチューブが具体的にどのような特性を示すかについて示唆する記載は現在のところ報告されていない。また、従来pタイプのカーボンナノチューブの報告はあるがnタイプのカーボンナノチューブの報告はない。
【0007】
本発明者は、ヘテロフラーレンを内包させたカーボンナノチューブは、他の物質を内包させたカーボンナノチューブとは異なる特性を示すことを知見した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、nタイプのカーボンナノチューブを用いた電子素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、炭素骨格の一部を他の原子で置換したヘテロフラーレンを内包したカーボンナノチューブをn型半導体として用いた電子素子である。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記へテロフラーレンは、窒素又はホウ素置換へテロフラーレンである請求項1記載の電子素子である。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記ヘテロフラーレンを内包したカーボンナノチューブをnチャネルとした電界効果トランジスタである請求項1または2記載の電子素子である。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記ヘテロフラーレンを内包したカーボンナノチューブをnチャネルとしたCMOSトランジスタである請求項1または2記載の電子素子である。
【0013】
請求項5に係る発明は、p型ナノチューブと、へテロフラーレンを内包したカーボンナノチューブとを接合したダイオードである請求項1または2記載の電子素子である。
【0014】
請求項6に係る発明は、前記ヘテロフラーレンを内包したカーボンナノチューブの両端に電極を設けたスイッチング素子である請求項1または2記載の電子素子である。
【0015】
請求項7に係る発明は、前記へテロフラーレンはC59Nである請求項1ないし6のいずれか1項記載の電子素子である。
【0016】
請求項8に係る発明は、前記へテロフラーレンはダイマーである請求項1ないし7のいずれか1項記載の電子素子である。
【0017】
請求項9に係る発明は、フラーレンを併せて内包する請求項1ないし8のいずれか1項記載の電子素子である。
【発明の効果】
【0018】
nタイプのカーボンナノチューブを提供することが可能であり、電子素子として用途をさらに広げることが可能となる。
【実施例1】
【0019】
図1にヘテロフラーレン製造装置例を示す。
【0020】
本装置10は、筒状体からなる成膜室1の一端にガス導入口2を有している。成膜室2の外周には、RFプラズマを発生させるためのコイル3が巻回され、本例では、13.56MHzの高周波電源に接続されている。
【0021】
成膜室1の内部の内周には基板としてステンレス基板5が設けられている。基板5には、可変のバイアス電圧を印加するために電源7に接続されている。なお、その周囲には、基板5を冷却するためのウォータジャケット6が設けられている。
【0022】
プラズマ発生部3と基板6との間には、可変電圧を印加することができるグリッド4が設けられている。
【0023】
本装置10は内部にフラーレンが充填されているオーブン8を有している。オーブン8内のフラーレンを加熱することによりフラーレンを昇華させ、真空室1内に昇華したフラーレンを導入する。
【0024】
図1に示す装置を用いてヘテロフラーレンを作成した。
【0025】
ドライポンプ9により成膜室1を減圧状態とした後、ガス導入口2から成膜室1内に窒素ガスを導入し、RF放電を行うことにより窒素プラズマを発生させた。一方、内部にフラーレンが充填されているオーブン3を過熱することによりフラーレンを昇華させ、昇華したフラーレンを成膜室1内に導入した。
【0026】
これにより基板5上にヘテロフラーレンを堆積させた。その際基板へのバイアス電圧Vsuvを変動させて収率が最適な値を求めて堆積を行った。
【0027】
基板5上の堆積物をトルエンに溶解した。なお、C60はトルエンに溶解し、C59Nはトルエンに不溶である。溶解後、トルエンを除去し、不溶物をまた、トルエンに溶解した。この操作を繰り返し行い、不溶物を試料とした。
【0028】
この試料につき、TOF−MSを用いて分析を行った。その結果を図2に示す。図2に示す例では、C60は少し残存している。トルエンによる抽出を繰り返すことによりC60の含有量は減少させることができる。TOF−MSのスペクトル図において、C60/C59Nの強度比は1/5(=0.2)であった。
【0029】
次に、図3に示す操作によりSWNTs内にC59Nを内包化させた。
基板上にSWNTsを設けた基板と、固体C59Nとを真空室内に配置した。
次に、真空室内を10−5〜10−6Torrにするとともに420℃に加熱した。
420℃に24〜48時間放置することによりをSWNTsに内包化させた。
内包化後の試料をTEM観察したところ図4に示す結果が得られた。
【0030】
図4(a)は、フラーレンを内包化したカーボンナノチューブ(C60@SWNTs)の場合であり、図4(b)がヘテロフラーレンを内包化したカーボンナノチューブ(C59N@SWNTs)の場合である。
【0031】
カーボンナノチューブ内において、粒子同士のつながりが観察され、C59NのダイマーあるいはC59NとC60との対を形成しているものを含んでいる。
【0032】
また、ラマンスペクトルの測定を行った。その結果を図5に示す。
【0033】
次に図6に示すように、C59N@SWNTsをチャネルとするFETを構築しその特性評価を行った。その際、SWNTs、C60@SWNTsについても同様の方法で評価を行った。
【0034】
その結果を図7に示す。
図7に示す通り、C59N@SWNTsの場合には、ゲート電圧Vを正にするとソース・ドレイン間の電流は増加するnチャネルFETとなっている。
【0035】
なお、SWNTs、C60@SWNTsの場合には、ゲート電圧Vを負にすると電流が増加するpチャネルFETとなっている。
【0036】
また、図8のCMOSFETにおけるnチャネル部分にC59N@SWNTsを用いることによりカーボンナノチューブを用いたCMOSFETを実現することができる。
【0037】
pチャネルを構成することができるSWNTsやC60@SWNTsと、C59N@SWNTsとを接合すればカーボンナノチューブからなるpn接合ダイオードを構築することも可能となる。
【実施例2】
【0038】
本例では、光スイッチング素子として利用可能な素子例を示す。
【0039】
図9に示す構成を示す。
図9に示す構成において、C59N@SWNTsに光を照射した。その際、ドレイン・ソース間に流れる電流IDSが急激に減少した。図10(b)にその結果を示す。なお、図10において下向きの矢印が光を照射したタイミングを示す。図10(b)に示すように、光を照射するとIDSは急激に減少し、光照射を停止するとIDSは復活する。
【0040】
なお、図10(a)はC60@SWNTsの場合における結果であり、C60@SWNTsの場合には図10(b)のような挙動は示さない。
【0041】
なお、図10において照射した光の波長は390nmであるが他の紫外線領域の光を照射した場合においても同様の傾向が観察された。
【実施例3】
【0042】
上記例においては、TOF−MSのスペクトル図において、C60/C59Nの強度比は1/5(=0.2)であったが、溶媒での抽出を繰り返し行うことによりC60の含有量を減少させてC60/C59Nの強度比が小さなヘテロフラーレンを図2における始発材料とした。
【0043】
TOF−MSのスペクトル図において、C60/C59Nの強度比が0.1以下、0.01以下の場合においても同様の評価が得られた。
【0044】
なお、上記も例にては、ヘテロフラーレンとしてC59Nをあげたが、C58、C59Bについても同様の結果が得られると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ヘテロフラーレンの製造装置の概念図である。
【図2】実施例におけるC59Nのマススペクトル図である。
【図3】C59NをSWNTsに内包化するプロセスを示す工程概念図である。
【図4】実施例におけるTEM写真図であり、(a)はC59N@SWNTs、(b)はC59N/C60@SWNTsの場合を示す。
【図5】実施例におけるRaman shiftを示すグラフである。
【図6】実施例において作成したC59N@SWNTsのFET構成図である。
【図7】図6に示す装置を用いて測定したソース・ドレイン電流を示すグラフである。
【図8】C59N@SWNTsを用いて構成するCMOSの回路図である。
【図9】実施例2において作成した装置の構成概念図である。
【図10】実施例2において光照射のオン・オフに対応するIDSの変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
1 成膜室
2 ガス導入口
3 コイル
4 グリッド
5 基板
6 冷却手段
7 バイアス電源
8 オーブン
9 真空排気手段(ドライポンプ)
10 装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素骨格の一部を他の原子で置換したヘテロフラーレンを内包したカーボンナノチューブをn型半導体として用いた電子素子。
【請求項2】
前記へテロフラーレンは、窒素又はホウ素置換へテロフラーレンである請求項1記載の電子素子。
【請求項3】
前記ヘテロフラーレンを内包したカーボンナノチューブをnチャネルとした電界効果トランジスタである請求項1または記載の電子素子。
【請求項4】
前記ヘテロフラーレンを内包したカーボンナノチューブをnチャネルとしたCMOSトランジスタである請求項1または2記載の電子素子。
【請求項5】
p型ナノチューブと、へテロフラーレンを内包したカーボンナノチューブとを接合したダイオードである請求項1または2記載の電子素子。
【請求項6】
前記ヘテロフラーレンを内包したカーボンナノチューブの両端に電極を設けたスイッチング素子である請求項1または2記載の電子素子。
【請求項7】
前記へテロフラーレンはC59Nである請求項1ないし6のいずれか1項記載の電子素子。
【請求項8】
前記へテロフラーレンはダイマーである請求項1ないし7のいずれか1項記載の電子素子。
【請求項9】
フラーレンを併せて内包する請求項1ないし7のいずれか1項記載の電子素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−21304(P2009−21304A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181340(P2007−181340)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(502344178)株式会社イデアルスター (59)
【Fターム(参考)】