説明

ボールトランスファユニットおよびボールテーブル

半球状に窪む座面13bが形成された本体13と、この本体13の座面13bにそれぞれ転動自在に当接する複数の小ボール14と、これら複数の小ボール14に転動自在に当接する1個の大ボール15と、本体13に取り付けられて大ボール15を保持すると共にこの大ボール15と本体13の座面13bとの間に小ボール14を保持するカバー16とを具えた本発明によるボールトランスファユニット12は、少なくとも本体13および大ボール15をPAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香属ポリアミド樹脂,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,窒化ケイ素の何れかにて形成した。本発明によると、被搬送物の表面に損傷を与えたり、被搬送物自体に欠陥を招いたり、あるいは後工程での洗浄作業でも除去し得ないような異物は発生しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、被搬送物をその搬送面に沿って任意の方向に変位可能に支持するボールテーブルおよびこれに用いるボールトランスファユニットに関する。
【背景技術】
被搬送物をその搬送経路の途中で搬送姿勢を修正したり、その搬送方向を直交方向に変えるため、定盤などの支持部材の上に複数のボールトランスファユニットを配列したボールテーブルが使用される。このボールテーブルに組み込まれるボールトランスファユニットは、半球状に窪む座面が形成された本体と、この本体の座面にそれぞれ転動自在に当接する複数の小ボールと、これら複数の小ボールに転動自在に当接する1個の大ボールと、本体に取り付けられて大ボールを保持すると共にこの大ボールと本体の座面との間に小ボールを保持するカバーとを具えている。このようなボールトランスファユニットにおいては、大ボール上に載せられる被搬送物の移動に伴い、大ボールが転動すると共にこの大ボールと本体の座面とに接触する小ボールをこれらの間で転動させることにより、被搬送物と大ボールとの間での静止摩擦抵抗を極めて小さくすることができる。
このため、ボールテーブルにおいては被搬送物の搬送面内での任意の方向の外力に対して被搬送物を容易に変位させることが可能であり、搬送途中にある被搬送物の搬送姿勢を極めて容易に修正することができる。例えば特許第2641187号公報には、ボールテーブル上に搬送された重量の嵩む自動車用窓ガラスなどの被搬送物の位置決め基準となる側端をボールテーブルに対して固定された位置決め基準ブロックにアクチュエータを用いて押し当てることにより、被搬送物の搬送姿勢を修正するようにした技術が開示されている。
また、ボールトランスファユニット自体の技術を開示する特開平7−164078号公報には、被搬送物である板金の表面が損傷を受けたり、これに潤滑油が付着するのを防止するため、自己潤滑性を有すると共に金属よりも軟質の合成樹脂にてボールトランスファユニットを構成することが記載されている。
半導体ウェハに対する回路形成の製造ラインや、フラットパネルディスプレィの製造ラインにおいて、半導体ウェハやガラス基板を搬送する場合、特定の工程毎にこれらの位置決めを行う必要がある。このような位置決めを行うため、ボールテーブルを使用することが考えられている。このような半導体ウェハやフラットパネルディスプレィ用のガラス基板を被搬送物とする場合、摩擦によるその表面への傷の形成はもちろん、異物の付着なども極力避け、異物が付着したとしても後工程での洗浄作業で容易に除去できるものである必要がある。
このような観点を考慮に入れると、特許第2641187号公報や特開平7−164078号公報に開示された従来のものは、被搬送物の表面に損傷を与えたり、被搬送物に欠陥を生ずるような異物が付着したり、あるいは後工程での洗浄作業でも除去し得ないような異物が付着してしまう欠点があった。例えば、本体や大ボールがステンレス鋼などの金属で形成されたものでは、その摩粍によって生ずる金属粉が被搬送物の表面に損傷を与えたり、後工程での洗浄作業によっても除去し切れない異物として被搬送物の表面に付着する不具合を生ずる。また、特許文献2で用いられているようなポリウレタンやポリアセタール製のボールトランスファユニットでは、その摩耗によって生ずる樹脂粉が明瞭な痕跡となって被搬送物の表面に固着し、後工程での洗浄作業を著しく困難にしてしまう問題があった。
【発明の開示】
本発明の目的は、被搬送物の表面に損傷を与えたりせず、被搬送物自体に欠陥を招いたりせず、あるいは後工程での洗浄作業でも除去し得ないような異物の発生がないボールトランファユニットおよびこれを用いたボールテーブルを提供することにある。
この目的を達成する本発明の第1の形態は、半球状に窪む座面が形成された本体と、この本体の前記座面にそれぞれ転動自在に当接する複数の小ボールと、これら複数の小ボールに転動自在に当接する1個の大ボールと、前記本体に取り付けられて前記大ボールを保持すると共にこの大ボールと前記本体の座面との間に前記小ボールを保持するカバーとを具えたボールトランスファユニットであって、少なくとも前記本体および前記大ボールがPAI(ポリアミドイミド),PBI(ポリベンゾイミダゾール),PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン),PEEK(ポリエーテルエーテルケトン),PEI(ポリエーテルイミド),PI(ポリイミド),PPS(ポリフェニレンスルフィド),メラミン樹脂,芳香属ポリアミド樹脂(アラミド樹脂),酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,窒化ケイ素の何れかにて形成されていることを特徴とするものである。
本発明においては、大ボールの上に搭載された被搬送物に外力が加えられると、被搬送物の変位に伴って大ボールが転動すると共に大ボールを支持する小ボールも本体の座面に対して転動し、被搬送物の移動に対する摩擦抵抗を最小限に抑える。
本発明のボールトランスファユニットによると、少なくとも本体および大ボールをPAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香属ポリアミド樹脂,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,窒化ケイ素の何れかにて形成したので、大ボールの上に搭載される被搬送物の移動に対する摩擦抵抗を最小限に抑え、被搬送物を小さな外力で変位させることができる。この場合、大ボールや小ボールの回転に伴ってこれらの摩耗粉塵が発生しにくく、これが発生して被搬送物に痕跡となって付着したとしても容易に洗浄することができるので、特に半導体ウェハの処理やフラットパネルディスプレィの製造における悪影響を未然に防止することが可能である。しかも、紫外線に対する耐性または耐薬品性に関しても優れた特性を得ることができる。
本発明の第1の形態によるボールトランスファユニットにおいて、本体および小ボールおよび大ボールのロックウェル硬さHR(Rスケール)がそれぞれ75以上であることが好ましい。これらのロックウェル硬さHRが75未満の場合には、大ボールの上に搭載される被搬送物の自重などによって大ボールや本体の座面が弾性変形し、静止状態から被搬送物を移動させる場合の摩擦抵抗が増大して被搬送物の円滑な移動が阻害されたり、特に大ボールの表面に傷などが発生してここに異物が挟まり、被搬送物に悪影響を与える可能性が高くなってしまう。
本体および小ボールおよび大ボールのロックウェル硬さHRをそれぞれ75以上に設定した場合には、大ボールの上に搭載される被搬送物の自重などによって大ボールや本体の座面の弾性変形が抑制され、静止状態から被搬送物を移動させる場合の摩擦抵抗を最小限に抑えて被搬送物を極めて円滑に移動させることが可能となる。
同様に、ASTM D648試験による本体および小ボールおよび大ボールの熱変形温度がそれぞれ120℃以上であることが有効である。これらの熱変形温度が120℃未満の場合には、比較的高温状態にある被搬送物や環境温度が高い雰囲気下での使用に際し、大ボールや本体の座面が変形してしまい、静止状態から被搬送物を移動させる場合の摩擦抵抗が増大して被搬送物の円滑な移動が阻害される。
ASTM D648試験による本体および小ボールおよび大ボールの熱変形温度をそれぞれ120℃以上に設定した場合には、比較的高温状態にある被搬送物や環境温度が高い雰囲気下での使用に際し、大ボールや本体の座面の変形が抑制され、静止状態から被搬送物を移動させる場合の摩擦抵抗を最小限に抑えて被搬送物を極めて円滑に移動させることができる。
上述したPAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香属ポリアミド樹脂は、すべてロックウェル硬さHRが75以上であって、ASTM D648試験による熱変形温度がそれぞれ120℃以上である。なお、酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,窒化ケイ素は、これらの樹脂よりも硬さおよび耐熱性がさらに優れていることは当然である。
小ボールが本体または大ボールと同じ材料にて形成されていてもよく、あるいは小ボールをSUS304,SUS316,SUS420j2,SUS440Cまたは湿式表面処理(化学研磨ならびに表面洗浄)されたSUS304,SUS316などのステンレス鋼にて形成することも可能である。小ボールをステンレス鋼にて形成した場合には、本体および大ボールをPAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香属ポリアミド樹脂にて形成することが好ましい。
小ボールを上述したような本体または大ボールと同じ材料にて形成した場合には、ボールトランスファユニットから摩耗による金属粉が全く発生しないため、特に半導体ウェハの処理やフラットパネルディスプレィの製造における悪影響を未然に防止することができる。
ボールトランスファユニットを単一の材料にて形成するようにしてもよく、これによって異物の処理をより簡略化させることができる。また、単一の材料としてPBI,PEEK,PIの何れかを選択することにより、液晶パネル用基板ガラスに対する前処理装置、例えば露光装置,プラズマドライエッチャ,スパッタリング装置などにおける真空チャンバ内や加熱炉内、あるいは薬液にさらされる場所やガラスの切断または検査装置ならびに検査後の修正のためのレーザーリペアなどでのボールトランスファユニットの使用に際して特に良好な結果をもたらす。
本体はその外周面に形成された環状溝をさらに有し、カバーは本体の外周面を囲むように嵌合する筒部と、この筒部の下端部内周に形成されて環状溝内に係止し得る径方向に弾性変形可能な環状の係止部とを有し、この係止部の内径が本体の外径よりも小さく設定されているものであってよい。この場合、カバーをPAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香属ポリアミド樹脂にて形成することが好ましい。
本体の外周面に環状溝を形成し、本体の外周面を囲むように嵌合する筒部と、この筒部の下端部内周に形成されて環状溝内に係止し得る径方向に弾性変形可能な環状の係止部とをカバーに設け、この係止部の内径を本体の外径よりも小さく設定した場合には、本体に対してカバーをスナップ止めすることが可能となり、本体にカバーを固定する際に異物の発生を未然に防止することができ、特にクリーンルームでの使用に対する信頼性を確保することができる。このような観点から、製造直後のボールトランスファユニットを洗浄してクリーンパッキングし、クリーンルームにてこれを開封使用することが有効である。具体的には、製造直後のボールトランスファユニットをIPA(イソプロピルアルコール)や界面活性剤を用いて予備洗浄し、これらの表面の脱脂や異物の除去を行い、次いで界面活性剤を添加した純水が貯溜された超音波洗浄槽内に予備洗浄後のボールトランスファユニットを投入し、これらを適当な温度に加熱しつつ超音波洗浄を行った後、純水によるすすぎ洗い処理を多段で行い、クリーンエアで水切りを行う。しかる後、洗浄後のボールトランスファユニットを乾燥室内で加熱乾燥させ、所定の包装材にてクリーンパッキングを行う。これによってボールトランスファユニットの清浄度を例えばクラス10程度まで保証することが可能である。
本体を貫通し、一端が座面に開口する連通孔をさらに具えることができる。この連通孔は、座面に沿った小ボールの転動動作を妨げないように、その開口部分の内径を小ボールの半径よりも小さく設定することが好ましい。
本体を貫通し、一端が座面に開口する連通孔を具えた場合、特に真空チャンバ内でボールトランスファユニットを使用する場合、連通孔の存在によってボールトランスファユニット内の脱気を容易かつ迅速に行うことが可能となる。また、被搬送物の洗浄に伴ってボールトランスファユニット内に流入する洗浄液も連通孔を介して容易に外部に排出させることができる。
本体を固定するための雌ねじ筒や雄ねじ部、あるいは取り付けフランジなどの締結部をこの本体に一体的に形成することができる。
本発明の第2の形態は、被搬送物を支持するボールテーブルであって、本発明の第1の形態による複数個のボールトランスファユニットと、これらボールトランスファユニットが所定間隔で固定された支持部材とを具えたことを特徴とするボールテーブルにある。
本発明においては、ボールトランスファユニットを介して支持部材の上に載せられた被搬送物に支持部材の表面と平行な外力が加えられると、被搬送物の変位に伴って個々のボールトランスファユニットの大ボールがそれぞれ転動すると共にこれら大ボールを支持する小ボールも各本体の座面に対して転動し、被搬送物の移動に対する摩擦抵抗が最小限に抑えられる。
本発明のボールテーブルによると、本発明による複数個のボールトランスファユニットと、これらボールトランスファユニットが所定間隔で固定された支持部材とを具えているので、個々のボールトランスファユニットに跨がって支持部材の上に搭載される被搬送物の移動に対する摩擦抵抗を最小限に抑え、被搬送物を小さな外力で支持部材の上で変位させることができる。この場合、大ボールや小ボールの回転に伴ってこれらの摩耗粉塵が発生しにくく、これが発生して被搬送物に痕跡となって付着したとしても容易に洗浄することができるので、特に半導体ウェハやフラットパネルディスプレィ用ガラス基板の処理を行う際にボールテーブルを使用することによる悪影響を未然に防止することが可能である。
本発明の第2の形態によるボールテーブルにおいて、被搬送物が半導体ウェハまたはフラットパネルディスプレィ用ガラス基板であってよい。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明によるボールテーブルの一実施例の外観を抽出して破断状態で表す投影図である。
図2は、図1に示したボールテーブルに組み込まれる本発明によるボールトランスファユニットの一実施例の内部構造を表す一部破断断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明によるボールテーブルをフラットパネルディスプレィ用ガラス基板の位置決めテーブルとして応用した一実施例について、その主要部の外観を表す図1および個々のボールトランスファユニットの内部構造を破断状態で表す図2を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこのような実施例のみに限らず、この明細書の特許請求の範囲に記載された本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が可能であり、従って本発明の精神に帰属する他の任意の技術にも当然応用することができる。
本実施例におけるボールテーブルの主要部の外観を図1に示し、このボールテーブルに組み込まれたボールトランスファユニットの断面構造を図2に示す。すなわち、表面に無電解ニッケルメッキ処理を施したSUS304などで形成される本発明における支持部材としての定盤11の表面には、所定間隔で図示しない雌ねじ穴が形成されている。各雌ねじ穴には、ボールトランスファユニット12の本体13中央部から下向きに突出する雄ねじ部13aが締結部としてねじ込まれている。定盤11には図示しない位置決めブロックが固定され、この定盤11の上に搬送されて来たガラス基板Wの側端部を図示しないアクチュエータによって定盤11上を滑らせて位置決めブロック側に押し当てることにより、ガラス基板Wの姿勢を矯正するようにしている。
本実施例におけるボールトランスファユニット12は、半球状に窪む座面13bが上端部中央に形成された円柱状をなす本体13と、この本体13の座面13bにそれぞれ転動自在に当接する複数の小ボール14と、これら複数の小ボール14に転動自在に当接する1個の大ボール15と、本体13に取り付けられて大ボール15を保持すると共にこの大ボール15と本体13の座面13bとの間に小ボール14を保持するカバー16とを具え、これらはすべてロックウェル硬さHRが110〜115程度であって、ASTM D648試験による熱変形温度が360℃以上であるPI(ポリイミド)、例えばデュポン社のベスペル(登録商標)にて形成されている。小ボール14および大ボール15は共に所定の真球度が得られるように機械研磨加工され、同様に本体13の座面13bも所定の曲率半径となるように機械研磨加工されており、基本的に大部分の小ボール14が本体13の座面13bと大ボール15の外周面とに同時に点接触状態にされる。これによって、大ボール15の上にガラス基板Wを載せた状態からガラス基板Wを動かす際の摩擦抵抗が最小となるように配慮している。
雄ねじ部13aの中心部を通って本体13を貫通する連通孔13cは、その一端が本体13の座面13bに開口し、他端が雄ねじ部13aの端面に開口している。座面13b側の連通孔13cの開口端部は、座面13bに沿った小ボール14の円滑な転動を妨げないように、内径が小ボール14の半径よりも小さく設定された小径部13dとなっており、座面13bに臨む開口端に面取り部13eを形成している。この連通孔13cの存在によって、例えば真空チャンバ内でボールトランスファユニット12を使用する際、ボールトランスファユニット12内の排気操作迅速かつ確実に行うことかできる。また、ガラス基板Wを洗浄する際にボールトランスファユニット12内に流入する洗浄液を連通孔13cを介して外部に容易に排出させることができる。この連通孔13cは、本体13を貫通するようにその一端が座面13bに開口していさえすればよく、従って連通孔13cの他端を本体13の外周面に開口させるようにしてもよい。
なお、上述した雄ねじ部13aもPIにて本体13と一体に形成され、機械加工により仕上げられているが、雄ねじ部13aに代えて雌ねじ筒を採用することも可能であり、この場合には定盤11からのボールトランスファユニット12の突出高さの微調整をより容易に行うことができる。
円柱状なす本体13の外周面には、カップ形断面形状のカバー16の筒部16aの下端(図2中、下側)内周全域に亙って形成した係止部16bが係止し得る環状溝13fと、定盤11の雌ねじ穴に雄ねじ部13aをねじ込んで本体13を定盤11に固定するため、スパナなどの工具によって挟持されるいわゆる二面幅を持った一対の平面部13gとが形成されている。本実施例における環状溝13fは、一対の平面部13gよりも本体13の上端側(図2中、上方)に形成されている。
カバー16の中央部には、大ボール15の上端部を突出させる開口16cが形成されており、この開口16cの内径は、大ボール15の外径よりも小さく設定されているが、大ボール15が小ボール14を介して本体13の座面13bに保持された図2に示す状態において、大ボール15に対し非接触状態となるような寸法に設定されている。また、カバー16の筒部16aの内径は、本体13の外径に対して隙間嵌め状態となるように設定されているが、係止部16bの内径は本体13の外径よりも小さく設定されている。このため、カバー16の筒部16aを本体13に装着する際には係止部16bの部分が弾性変形して径方向外側に全体が膨出し、環状溝13fに達した時点でこれが元の状態に戻り、係止部16bが環状溝13f内に嵌まって本体13からカバー16が抜け外れないようになる。本実施例では、本体13の外径よりも小径の係止部16bが本体13の外周面に乗り上げるのを容易にするため、本体13の外周の上端部には、外径が係止部16bの内径よりも小さく先細りとなったテーパ部13hが形成され、さらにこのテーパ部13hとカバー16の内壁とで囲まれた空隙17に対する通気用の切欠き13iが本体13の上端面の一部に形成されている。
このようなスナップ止め機構を本体13とカバー16とに形成したことにより、カバー16を本体13に固定する際に接着剤やねじなどの独立した固定部材を必要とせず、より信頼性の高いものにすることが可能である。
なお、定盤11の表面から個々のボールトランスファユニット12の上端までの高さは、本体13を定盤11に固定する際に定盤11と本体13との間に適当な厚さのシム(図示せず)を介装することにより、適切に調整することができる。
上述した実施例では、ボールトランスファユニット12全体をPIにて形成したが、PAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香属ポリアミド樹脂,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,窒化ケイ素の何れかにて形成することができる。但し、液晶パネル用基板ガラスに対する前処理装置、例えば露光装置,プラズマドライエッチャ,スパッタリング装置などにおける真空チャンバ内や加熱炉内、あるいは薬液にさらされる場所やガラスの切断または検査装置ならびに検査後の修正のためのレーザーリペアなどでのボールトランスファユニット12の使用を企図した場合、これらの物性や被搬送物に対する異物の付着特性ならびに製造コストなどを考慮に入れて総合的に判断すると、PIまたはPEEKまたはPBIにてボールトランスファユニット12全体を形成することが現時点において最も好ましいと思われる。
ボールトランスファユニット12を構成する本体13,小ボール14,大ボール15,カバー16をすべて同材質のものに統一した場合、異物に対する洗浄処理を簡略化させることができる利点がある。また、相互に接触状態にある本体13と小ボール14と大ボール15とを同じ材質のものに統一した方が静止摩擦抵抗を最小化できる可能性が高い。しかしながら、小ボール14をSUS304,SUS316,SUS420j2,SUS440Cまたは湿式表面処理されたSUS304,SUS316などのステンレス鋼にて形成しても、その金属粉などが被搬送物に付着しないか、付着したとしても後工程の洗浄作業で問題なく除去できることも判明した。
産業上の利用の可能性
本発明は、金属粉や後工程での洗浄が困難な異物の付着を嫌うクリーンルームなどで搬送される板状の被搬送物を支持し、その容易な位置調整を可能とするボールテーブルとして利用することができる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半球状に窪む座面が形成された本体と、この本体の前記座面にそれぞれ転動自在に当接する複数の小ボールと、これら複数の小ボールに転動自在に当接する1個の大ボールと、前記本体に取り付けられて前記大ボールを保持すると共にこの大ボールと前記本体の座面との間に前記小ボールを保持するカバーとを具えたボールトランスファユニットであって、
少なくとも前記本体および前記大ボールがPAI,PBI,PCTFE,PEEK,PEI,PI,PPS,メラミン樹脂,芳香属ポリアミド樹脂,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,窒化ケイ素の何れかにて形成されていることを特徴とするボールトランスファユニット。
【請求項2】
前記本体および前記小ボールおよび前記大ボールのロックウェル硬さHRがそれぞれ75以上であることを特徴とする請求項1に記載のボールトランスファユニット。
【請求項3】
ASTM D648試験による前記本体および前記小ボールおよび前記大ボールの熱変形温度がそれぞれ120℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のボールトランスファユニット。
【請求項4】
前記小ボールが前記本体または前記大ボールと同じ材料にて形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のボールトランスファユニット。
【請求項5】
単一の材料にて形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のボールトランスファユニット。
【請求項6】
単一の材料がPBIか、PEEKか、またはPIであることを特徴とする請求項5に記載のボールトランスファユニット。
【請求項7】
前記小ボールがステンレス鋼にて形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のボールトランスファユニット。
【請求項8】
前記本体はその外周面に形成された環状溝をさらに有し、前記カバーは前記本体の外周面を囲むように嵌合する筒部と、この筒部の下端部内周に形成されて前記環状溝内に係止し得る径方向に弾性変形可能な環状の係止部とを有し、この係止部の内径が前記本体の外径よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1から請求項7の何れかに記載のボールトランスファユニット。
【請求項9】
前記本体を貫通し、一端が前記座面に開口する連通孔をさらに具えたことを特徴とする請求項1から請求項8の何れかに記載のボールトランスファユニット。
【請求項10】
被搬送物を支持するボールテーブルであって、
請求項1から請求項7の何れかに記載の複数個のボールトランスファユニットと、
これらボールトランスファユニットが所定間隔で固定された支持部材と
を具えたことを特徴とするボールテーブル。
【請求項11】
被搬送物が半導体ウェハまたはフラットパネルディスプレィ用ガラス基板であることを特徴とする請求項10に記載のボールテーブル。

【国際公開番号】WO2005/003001
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【発行日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511400(P2005−511400)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009672
【国際出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(599012765)株式会社井口機工製作所 (9)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】