説明

ポリプロピレン系樹脂組成物

【課題】耐高速衝撃性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリプロピレン樹脂、(B)アルキルフェノール樹脂、(C)フェノールと反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂、および(D)ラジカル開始剤を、好ましくは溶融混練してポリプロピレン系樹脂組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、耐熱性、成形加工性、機械的性質、耐薬品性などに優れ、しかも安価であることから電気・電子部品、家庭電化製品、ハウジング、包装材料、自動車部品など、工業的に幅広く用いられている。さらに近年、自動車軽量化の要望から、ポリプロピレンは、バンパー、内外装部品など自動車用途にも幅広く用いられている。
【0003】
これまでポリプロピレンは、以下の例に示すように、耐熱性、耐衝撃性などの改良が施されてきた。
例えば、特許文献1には、ポリプロピレン、グリシジルメタクリレートをグラフト共重合した樹脂、およびガラス繊維からなる樹脂組成物が開示されている。
特許文献2には、ポリプロピレン、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン、メチロール基含有フェノール樹脂からなる組成物が開示されている。
特許文献3には、ポリプロピレン、カルボン酸無水物基がグラフトされた変性ポリプロピレン、エポキシ基含有エチレン共重合体、および多官能性化合物からなる組成物が開示されている。
特許文献4には、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンゴム、および変性剤としてアミノ基かエポキシ基を含むエチレン性不飽和化合物またはエポキシ基含有エチレン性不飽和化合物を用いた組成物が開示されている。
特許文献5には、ポリプロピレン、官能基をグラフト重合したポリプロピレン、特定のカルボキシル基含有エチレン系混合物、グリシジル基かヒドロキシル基を有するエチレン系共重合体、および反応促進剤からなる樹脂組成物が開示されている。
特許文献6には、ポリプロピレン、ヒドロキシル基変性ポリプロピレン、エチレンープロピレンゴム、不飽和カルボン酸変性エチレンープロピレンゴムなどから構成される組成物が開示されている。
特許文献7には、(A)ポリプロピレン等のポリオレフィン、(B)エチレン−αオレフィン共重合体ゴム、(C)フェノールノボラック樹脂、および(D)エポキシ変性ポリオレフィンからなる組成物が開示されている。
【0004】
ところで、ポリプロピレンをより優れた自動車部材として用いるためには、耐熱性や、耐衝撃性などの一般的な力学特性に加え、高速衝撃に対する耐性(「耐高速衝撃性」ともいう)が必要とされる。すなわち、高速の衝撃に対して延性的にふるまえることが必要とされる。自動車事故などの際に、ポリプロピレンを用いた部材が、衝撃を吸収して人体への衝撃を低下させられれば、車両乗員、または歩行者の安全性を著しく向上させることができるからである。ところが、従来のポリプロピレンは、高速で引張試験を行うと、引張速度が大きくなるほど降伏点以降の引張り応力が大きくなり、しかも、伸び率は著しく低下することが知られていた。すなわち、従来のポリプロピレンは、高速の衝撃に対して応力が大となり、しかも脆性破壊を起こしやすかった。
【0005】
上述の特許文献1〜6に記載の組成物は、主として耐衝撃性の向上を目的として提案されたものであるが、高速衝撃性については一切記載されていない。しかし、高速ではない通常の引張試験における伸び率や、耐衝撃性試験の結果から、耐高速衝撃性には劣ると予想された。
また、特許文献7に記載の組成物は、難燃性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物であり、前記組成物の耐高速衝撃性については一切記載されていない。当該組成物は、通常の引張試験における引張伸び率の値から、十分な耐高速衝撃性を有していないことが予想された。
【0006】
一方、特許文献8には、高剛性のブロックポリプロピレン、エチレン−高級αオレフィン共重合体ゴム、および水添ジエンブロック共重合体からなる組成物が開示されている。当該組成物は、高速延伸時の伸び率が大きいことから自動車内外装部品に好適であるとされている。しかし、当該文献における高速延伸試験の延伸速度は264mm/min程度であり、高速とはいえない領域での試験である。さらに当該組成物の前記試験における伸び率も十分といえる値ではなかった。
【0007】
ポリプロピレン以外の例としては、特許文献9には、ポリアミドと、エチレンーグリシジルメタクリレート共重合体とを溶融混練して得られる樹脂組成物が開示されている。当該組成物は、変形速度が大きいほど、組成物に発生する応力が小さくなり、かつ組成物の変形量は大きくなるという特徴を有するとされている。そのため当該組成物は、自動車内外装部品、自動車外板などの衝撃吸収能力を必要とする分野に適するとされている。しかしながら、当該組成物の変形速度が大きいときの変形量も十分なものとはいえなかった。さらに、当該組成物はポリアミドを主成分としているため、高価格であり、かつ吸水率が高いため成形体の寸法安定性が悪いなどの問題もあった。
【特許文献1】特開昭47−23438号公報
【特許文献2】特開昭62−167341号公報
【特許文献3】特開平5−170988号公報
【特許文献4】特開平5−222254号公報
【特許文献5】特開平6−166777号公報
【特許文献6】特開平8−283488号公報
【特許文献7】特開平7−33915号公報
【特許文献8】国際公開第99/11708号パンフレット
【特許文献9】特開2006−89701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでにポリプロピレンの耐衝撃性あるいは難燃性などの特性向上を目的とした提案は多数存在するが、耐高速衝撃性の向上を目的とする提案はされてこなかった。また、ポリプロピレン以外の樹脂においては、耐高速衝撃性の向上を目的とする提案があるものの、十分な耐高速衝撃性を得るには至っていなかった。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、耐高速衝撃性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリプロピレン、アルキルフェノール樹脂、エポキシ基含有エチレン共重合体およびラジカル発生剤を含むポリプロピレン系樹脂組成物が、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち前記課題は以下の本発明により解決される。
【0012】
[1](A)ポリプロピレン樹脂、
(B)アルキルフェノール樹脂、
(C)フェノールと反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂、および
(D)ラジカル開始剤を、配合して成る、ポリプロピレン系樹脂組成物。
[2](E)エチレン−αオレフィン共重合体ゴムをさらに配合して成る、[1]記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[3]前記(A)ポリプロピレンは、マトリックスを形成する樹脂である、[1]または[2]記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[4]前記(B)アルキルフェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂であり、かつその融点または軟化点は、20〜165℃である、[1]〜[3]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[5]前記(C)フェノールと反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂の官能基は、エポキシ基である、[1]〜[4]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[6]前記(C)フェノールと反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂は、グリシジル(メタ)アクリレート−エチレン共重合体である、[1]〜[5]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[7]前記(E)エチレン−αオレフィン共重合体ゴムは、エチレン−プロピレン共重合体またはエチレン−プロピレン−ジエン共重合体である、[2]〜[6]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[8]前記(A)と前記(B)の配合比は、質量比にして(A)/(B)=99.8〜70/0.2〜30であり、
前記(C)の配合比は、(A)と(B)の合計量100質量部に対し、1〜40質量部であり、
前記(D)の配合比は、(A)と(B)の合計量100質量部に対し、0.001〜10質量部であり、
前記(E)の配合比は、(A)と(B)の合計量100質量部に対し、1〜100質量部である [2]〜[7]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[9]前記[1]〜[8]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物を含む成形体。
[10]前記成形体は、射出成形体、押し出し成形体、シート、ボトルまたはフィルムである、[9]記載の成形体。
[11]前記[1]〜[8]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物を用いた電気・電子機器部品、家電部品、または自動車内外装部品。
[12]前記自動車内外装部品は、自動車外板、バンパー、インスツルメンツパネル、ドア、ピラー、またはエアバッグ周辺部品である、[11]記載の自動車内外装部品。
[13]前記[1]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法であって、
前記(A)〜(D)を、供給機を用いて二軸押出し機に供給する工程、および
前記二軸押出し機のシリンダーおよびダイ温度を130〜290℃に設定して、前記二軸押出し機内を真空脱気装置で真空脱気しながら溶融混練する工程、
を含む、ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
[14]前記[2]〜[8]いずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法であって、
前記(A)〜(E)を、供給機を用いて二軸押出し機に供給する工程、および
前記二軸押出し機のシリンダーおよびダイ温度を130〜290℃に設定して、前記二軸押出し機内を真空脱気装置で真空脱気しながら溶融混練する工程、
を含む、ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、耐高速衝撃性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
1.ポリプロピレン系樹脂組成物
(A)ポリプロピレン
本発明は成分(A)として、ポリプロピレンを含む。ポリプロピレンは、プロピレンの重合体であるが、本発明においては、他のモノマーとの共重合体も含む。本発明のポリプロピレンの例には、ホモポリプロピレン、プロピレンとエチレンおよび炭素数4〜10のαオレフィンとのブロック共重合体(「ブロックポリプロピレン」ともいう)、プロピレンとエチレンおよび炭素数4〜10のαオレフィンとのランダム共重合体(「ランダムポリプロピレン」ともいう)が含まれる。「ブロックポリプロピレン」と「ランダムポリプロピレン」を合わせて、「ポリプロピレン共重合体」ともいう。
【0015】
本発明においては、ポリプロピレンとして上記のホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンの1種あるいは2種以上を使用してよい。中でも本発明のポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレンやブロックポリプロピレンが好ましい。
【0016】
ポリプロピレン共重合体に用いられる炭素数4〜10のαオレフィンの例には、1−ブテン、1−ペンテン、イソブチレン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセンが含まれる。
ポリプロピレン共重合体中のエチレンの含有量は、全モノマー中、5質量%以下であることが好ましい。ポリプロピレン共重合体中の炭素数4〜10のαオレフィンの含有量は、全モノマー中20質量%以下であることが好ましい。
【0017】
ポリプロピレン共重合体は、プロピレンとエチレンとの共重合体、またはプロピレンと1−ブテンとの共重合体であることが好ましく、特にプロピレンとエチレンとの共重合体が好ましい。
【0018】
本発明におけるポリプロピレンのメルトフローレシオ(230℃、2.16kg、10分間)は、0.05〜60gであることが好ましく、1〜30gであることがより好ましい。ポリプロピレンのメルトフローレシオが上記の範囲外であるとポリプロピレン系樹脂組成物の物性が不十分になることがある。メルトフローレシオは「MFR」とも呼ばれる。
【0019】
(B)アルキルフェノール樹脂
本発明は、成分(B)としてアルキルフェノール樹脂を含む。アルキルフェノール樹脂とは、ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂をいう。
アルキルフェノール樹脂は、成分(A)のポリプロピレンと反応し、ポリプロピレンを変性する役割を担うと考えられる。この反応については後で詳しく述べる。
【0020】
本発明におけるノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)を、酸触媒下で縮合させて得られる樹脂である。ノボラック型フェノール樹脂は、1)配合モル比(F/P)が0.5〜1.0となるような配合比率で反応容器に仕込み、2)触媒として塩酸、硫酸、燐酸、パラトルエンスルフォン酸、ベンゼンスルフォン酸、蓚酸、マレイン酸、蟻酸、酢酸などから選ばれた1種または2種以上を添加し、3)適当な時間還流反応を行った後、4)反応によって生成した縮合水を除去するため真空脱水あるいは常圧脱水し、5)さらに残っている水と未反応のフェノール類を除去する方法によって得られる。必要に応じて、3)工程の前に変性剤を添加して加熱する工程を加えてもよい。
【0021】
本発明におけるレゾール型フェノール樹脂は、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)を、アルカリ触媒下で縮合して得られる樹脂をいう。レゾール型フェノール樹脂は、1)配合モル比(F/P)が1.0〜2.0となるような配合比率で反応容器に仕込み、2)さらに樹脂化触媒として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ類、アンモニア、トリエチルアミン等のアミン類の中から選ばれた1種または2種以上を添加し、3)適当な時間還流反応を行った後、4)反応によって生成した縮合水を除去するため真空脱水あるいは常圧脱水する方法によって得られる。必要に応じて、3)工程の前に変性剤を添加して加熱する工程を加えてもよい。
【0022】
フェノール樹脂の原料となるフェノール類の例には、フェノール、オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、プロピルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノールが含まれる。これらは、単独で用いてもよく、または2種以上を用いてよい。
【0023】
フェノール樹脂の原料となるアルデヒド類の例には、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒドが含まれる。これらは、単独で用いてもよく、または2種以上を用いてよい。
また、変性剤として、アルキルベンゼン(キシレン系樹脂)、カシューオイル、ロジンなどのテルペン類およびホウ酸を用いてよい。
【0024】
本発明においては、成分(B)として、ノボラック型フェノール樹脂を単独で用いてもよく、または異なる種類のノボラック型フェノール樹脂を二種類以上用いてもよい。あるいは、成分(B)として、レゾール型フェノール樹脂を単独で用いてもよく、または異なる種類のレゾール型フェノール樹脂を二種類以上用いてもよい。
さらに、成分(B)として、ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂を併用してもよい。
【0025】
本発明のアルキルフェノール樹脂は、融点または軟化点が30〜165℃であることが好ましく、40〜130℃であることがさらに好ましい。融点はDSC等により、軟化点は環球法等の周知の方法で求めてよい。本発明のアルキルフェノール樹脂が、結晶性である場合には融点を、非晶性である場合には軟化点を測定することが好ましい。
【0026】
本発明で使用するアルキルフェノール樹脂は、熱を加えると硬化する、熱硬化タイプのアルキルフェノール樹脂が好ましい。
アルキルフェノール樹脂のうち、(A)ポリプロピレンと反応できなかったものは、組成物中に残留することになる。アルキルフェノール樹脂は比較的低分子量であるため、組成物の耐熱性等を低下させることがある。しかし、アルキルフェノール樹脂が、自硬化性のアルキルフェノール樹脂であると、自己硬化により分子量が向上するため、組成物中に低分子の物質が残留することを低減させることができる。
【0027】
(C)フェノールと反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂
本発明は、成分(C)として、フェノールと反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂(以下単に「官能基含有熱可塑性樹脂」という)を含む。
フェノールと反応可能な官能基とは、フェノールの水酸基、またはフェノールのベンゼン環と反応しうる基をいう。このような官能基の例には、エポキシ基、オキサゾリン基、酸無水物基、イソシアネート基、アミノ基、スルホン酸基が含まれる。この中でも官能基としては、エポキシ基が好ましい。
【0028】
成分(B)のアルキルフェノール樹脂のフェノールは、前述のとおり成分(A)のポリプロピレンと反応する。さらに成分(B)は、本発明の組成物の成分(C)とも反応できる。よって、本発明の組成物は、(A)、(B)および(C)が反応してなる成分を含むことができる。当該成分は、成分(A)と成分(C)に対して相溶化剤のようにふるまうことが可能になると考えられる。このため本発明の組成物は、特異な相構造を有し、高速延伸時に靭性を示すことから、耐高速衝撃性に優れると考えられる。相構造については後述する。
【0029】
官能基含有熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、エチレン共重合体、ポリアミド、ABS、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂を変性して得られる。また、官能基含有熱可塑性樹脂は、オレフィン、スチレン、アクリル酸等の重合性モノマーと、官能基を有する重合性モノマーと共重合しても得られる。中でも、官能基含有熱可塑性樹脂としては、オレフィンまたはエチレンと、官能基を有する重合性モノマーとを共重合体させたものが好ましく、特に、エチレンと官能基を有する重合性モノマーとを共重合体させたものが好ましい。
【0030】
エチレンと官能基を有する重合性モノマーの共重合体の例には、(c1)エチレン70〜99質量%、(c2)不飽和カルボン酸グリシジルエステルまたは不飽和グリシジルエーテル化合物30〜1質量%を共重合して得られるエポキシ基含有エチレン共重合体が含まれる。
【0031】
成分(c2)の一つである不飽和カルボン酸グリシジルエステルは、下記一般式(1)で表される。
【化1】

一般式(1)において、Rはエチレン系不飽和結合を有する炭素数2〜13の炭化水素基である。
【0032】
不飽和グリシジルエーテル化合物は、下記一般式(2)で表される。
【化2】

一般式(2)において、Rは一般式(1)と同様に定義される。Xは−CH−O−、または式(3)で表される基である。
【化3】

【0033】
成分(c2)の一つである不飽和カルボン酸グリシジルエステルの例には、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、イタコン酸グリシジルエステルが含まれる。
成分(c2)の一つである不飽和グリシジルエーテル化合物の例には、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテルが含まれる。
【0034】
また、エポキシ基含有エチレン共重合体には、(c1)、(c2)に、さらに(c3)エチレン系不飽和エステル化合物を共重合した、3元以上の多元共重合体を用いてもよい。(c3)エチレン系不飽和エステル化合物の例には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のカルボン酸ビニルエステル、α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステルが含まれる。エチレン系不飽和エステル化合物としては、特に酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルが好ましい。
【0035】
成分(c1)〜(c3)の比率(質量比)は、35〜94/25〜1/40〜5とすることが好ましい。
本発明において記号「〜」はその両端の値を含む。
【0036】
本発明の成分(C)である、官能基含有熱可塑性樹脂の具体例には、エチレンとグリシジルメタクリレートからなる二元系エポキシ基含有エチレン共重合体、エチレンとグリシジルメタクリレートとメチルアクリレートからなる三元系エポキシ基含有エチレン共重合体、エチレンとグリシジルメタクリレートとエチルアクリレートからなる三元系エポキシ基含有エチレン共重合体、エチレンとグリシジルメタクリレートと酢酸ビニルからなる三元系エポキシ基含有エチレン共重合体が含まれる。
【0037】
中でも本発明の官能基含有熱可塑性樹脂としては、三元のエポキシ基含有エチレン共重合体が好ましく用いられる。また、当該エポキシ基含有エチレン共重合体のMFR(JIS K6760、190℃、2.16kg荷重にて測定)は、0.5〜100g/10分であることが好ましく、2〜50g/10分であることがさらに好ましい。MFRが上記の範囲外の場合には、組成物の機械的物性が低下する場合がある。
当該エポキシ基含有エチレン共重合体は、得られる成形品の機械的性質を向上させるために、曲げ剛性率が10〜1300kg/cmのものが好ましく、20〜1100kg/cmのものがさらに好ましい。
【0038】
エポキシ基含有エチレン共重合体は、通常不飽和エポキシ化合物とエチレンをラジカル発生剤の存在下、500〜4000気圧、100〜300℃で適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下または不存在下に共重合させる方法により製造される。またポリエチレンに不飽和エポキシ化合物およびラジカル発生剤を混合し、押出機の中で溶融グラフト共重合させる方法によっても製造することができる。
【0039】
本発明は成分(D)としてラジカル開始剤を含む。本発明で使用するラジカル重合開始剤は、公知のものが用いられるが、成分(A)と成分(B)間の反応を起こさせるものが好ましい。成分(A)と成分(B)を反応させる方法は特に限定されず、成分(A)〜(B)を溶媒中で加熱して反応させてもよいし、成分(A)〜(B)を溶融混練して反応させてもよい。本発明においては、成分(A)〜(B)を溶融混練させることが好ましいので、成分(D)は、これらの溶融混練時の温度において分解し、ラジカルを発生させるものが好ましい。このため、ラジカル開始剤としては、半減期が1分となるための温度が、130〜270℃であるラジカル開始剤が好ましい。
【0040】
ラジカル開始剤が成分(A)と成分(B)を反応させるメカニズムは明らかではないが、ラジカル開始剤が分解されて生じたラジカルが、(A)ポリプロピレンの側鎖のメチル基、あるいは主鎖のメチレン基またはメチン基の水素原子を引き抜き、ポリプロピレン上に炭素ラジカルを発生させ、この炭素ラジカルが、(B)アルキルフェノール樹脂のベンゼン環を攻撃すると推察される。その結果、成分(A)に成分(B)が結合したポリマーが生成されると考えられる。ただし、メカニズムはこれに限定されない。
【0041】
本発明における成分(D)のラジカル開始剤の例には、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;n−ブチル4,4ービス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類;t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−i−プロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキセン−3等のジアルキルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパ−オキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレート等のパーオキシエステル類;2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシi−プロピルカーボネート等のパーオキシエステル類が含まれる。この中でも、ジーt−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。
【0042】
本発明の組成物は、成分(E)として、エチレン−αオレフィン共重合体ゴム(以下単に「ゴム」ともいう)をさらに含んでいてもよい。本発明におけるエチレン−αオレフィン共重合体ゴムとは、室温(20〜25℃)において弾性体であるエチレン−αオレフィンの共重合体を意味する。その具体例には、エチレン−プロピレン共重合体ゴムおよびエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、エチレン−ブタジエン共重合体ゴム、エチレン−ヘキセン共重合体ゴムが含まれる。また、成分(E)として、これらの共重合体ゴムを各種変性したものを用いてもよい。なかでも、成分(E)としては、エチレン/プロピレン共重合体ゴムまたはエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムが好ましく用いられる。
【0043】
本発明に用いるゴムは、ムーニー粘度が15〜75のものが好ましく、20〜70のものがより好ましい。ここでいうムーニー粘度は、JIS K6300に準じて100℃ラージローターを用いて測定した値をいう。
また、本発明に用いるゴムは、硬度が25〜80のものが好ましく、30〜65のものがさらに好ましい。ここでいう硬度は測定温度23℃で、JIS−K7215に準じてデュロメータにより測定した値である。
本発明に用いるゴムは、プロピレン含量が30〜85質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがさらに好ましい。また、本発明におけるゴムはペレット形状であると取り扱い性が良好であるので特に好ましい。
【0044】
本発明の組成物は、(A)ポリプロピレンがマトリックス樹脂を形成し、成分(D)を除く他の成分や、成分(A)〜(C)が反応して生成された生成物などが、数平均粒子径にして4μm未満のサイズで、ドメインとして分散している構造が好ましい。ポリプロピレンがマトリックス樹脂となることにより、ポリプロピレン本来の耐熱性や機械的性質を維持しつつ、組成物として耐高速衝撃性に優れたものが得られる。
【0045】
ポリプロピレンがマトリックス樹脂である組成物は、各種成分の比率や各成分の粘度、あるいは混練条件などを調整することにより得られる。本発明においては、各種成分の比率を調整することによりポリプロピレンがマトリックス樹脂となる組成物を得ることが好ましい。
そのため、(A)/(B)の質量比は、99.8〜70/0.2〜30が好ましく、99.5〜80/0.5〜20であることがさらに好ましい。(A)/(B)の質量比がこれらの範囲外であると、ポリプロピレンがマトリックス樹脂になりにくく、組成物の物性が低下する場合がある。また、(A)/(B)の質量比が前記範囲外であると、ポリプロピレンがマトリックス樹脂であっても、成分(B)の含有量が多すぎることにより、組成物の物性が低下する場合がある。
【0046】
成分(C)は、成分(A)と成分(B)の合計量100質量部に対し、1〜40質量部であることが好ましく、2〜35質量部であることがより好ましい。
成分(D)は、成分(A)と成分(B)の合計量100質量部に対し、0.001〜10質量部であることが好ましく、0.01〜5質量部であることがより好ましい。
成分(E)は、四成分系組成物の場合は添加されないが、五成分系組成物の場合は、成分(A)と成分(B)の合計量100質量部に対し、1〜100質量部であることが好ましく、2〜90質量部であることがより好ましい。
【0047】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂組成物の相構造は、該組成物を酸化ルテニウムなどで染色処理したのち、ミクロトームなどを使用してその超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡で観察できる。
【0048】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂組成物が高速延伸時に靭性を示す理由は必ずしも明らかではない。しかしながら、本発明の組成物は、前述のとおり(A)、(B)および(C)が反応してなる成分を含むことができる。このため、耐高速衝撃性を発現しうる相構造が形成されるものと考えられる。
【0049】
本発明の組成物は、無機充填剤を含んでいてもよい。無機充填剤の例には、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、石膏、ガラスフレーク、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウム繊維が含まれる。
また、本発明の組成物は、必要に応じてさらに、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、無機または有機系着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂などの離型改良剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0050】
2.本発明の組成物の製造方法
本発明の組成物は、各成分を配合して得られる。配合の例には、溶融混練することや、溶媒中で各種成分を混合することが含まれる。本発明の組成物は、発明の効果を損なわない範囲で任意に製造してよいが、高混練の二軸押し出し機を用いて溶融混練して製造されることが好ましい。以下、その製造方法について説明する。
本発明の組成物は、
1)各種成分を供給機を用い二軸押出し機に供給する工程、
2)二軸押出し機のシリンダーおよびダイ設定温度130〜290℃に設定して、前記二軸押出し機内を真空脱気装置で真空脱気しながら溶融混練する工程、を経て製造されることが好ましい。
【0051】
1)各成分は予めタンブラーもしくはヘンシェルミキサーのような装置で各成分を均一に混合してもよいし、必要な場合には混合を省き、供給機に供給される。供給機とは、一定量の原料を、二軸押出し機(以下「混練装置」という)に供給しうる装置であり、混練装置に装備される。供給機の例には、定量フィーダー、一軸押出し機、または混練装置とは異なる二軸押出し機が含まれる。
【0052】
2)の工程の溶融混練においては、混練装置のシリンダーおよびダイの設定温度は
130〜290℃とすることが好ましく、170〜260℃とすることがより好ましい。また、溶融混練の時間は、各成分の配合割合、溶融混練温度等により異なり一概には限定されるものではないが、1〜30分程度とすることが好ましい。本工程における混練装置は、高混練の二軸押出し機であることが好ましい。
【0053】
混練は、総ての成分を、一カ所に設けられた供給機から、混連装置に供給して行ってよいが、まず成分(A)、(B)および(D)を混連装置で混練し、一次ペレットを得て、その後、一次ペレットと成分(C)、(E)を混連装置に供給して、二段階で混練して本発明の組成物のペレットを得てもよい。
また、混連装置の上流側と下流側に供給機を配置し、上流側の供給機に成分(A)、(B)、(D)を供給し、下流側の供給機へ成分(C)、(E)を供給して混練を行ってもよい。
【0054】
本工程の溶融混練時においては、混連装置に真空脱気装置を設置し、真空脱気を行いながら溶融混練する方法が好ましい。既に述べたとおり、各成分を溶融混練することで、成分(D)のラジカル発生作用により、成分(A)と(B)が反応したポリマーが生成される。さらに当該ポリマーは成分(C)と反応すると考えられる。この際、真空脱気により、混連装置内での揮発成分、未反応成分などを除去すると、組成物の物性を一層向上させられる。特に、(B)アルキルフェノールのうち、(A)ポリプロピレンと反応しなかったものは、組成物中に比較的低分子量の物質として残留することがある。低分子量の物質が、組成物中に残留すると、組成物の耐熱性の低下等を招くことがある。よって、真空脱気により、混連装置内での揮発成分、未反応成分などを除去する方法は有効である。
【0055】
3.本発明の組成物の用途
本発明の組成物は、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、中空成形、回転成形、トランスファー成形、熱プレス成形、チューブ成形等の周知の加工方法により、射出成形体、押し出し成形体、ブロー成形体、中空成形体、回転成形体、トランスファー成形体、プレス成形体、チューブ成形体等に成形することができる。
また、上記本発明の樹脂組成物を、例えば、Tダイから溶融樹脂を押出し巻き取るTダイ法、環状ダイスを設置した押出し機から溶融樹脂を円筒状に押出し、冷却し巻き取るインフレーション成膜法、あるいは、熱プレス法や溶媒キャスト法により、フィルムまたはシートとして成形品を得ることもできる。
【0056】
本発明の組成物は、耐熱性、耐高速衝撃性に優れ、しかも軽量で安価である。そのため、本発明の組成物は、電気・電子機器部品、家電部品、または自動車内外装部品として好適である。
特に、本発明の組成物を自動車内外装部品に適用する場合には、衝突時などに該組成物からなる部品が衝撃を吸収することで、人体への直接の衝撃を緩和できることから、人体への安全性に多大に貢献できる。
【0057】
自動車内外装部品の例には、自動車外板、ドア、ドアトリム、クォータートリム、バンパー、インスツルメンツパネル、フロントエンドモジュール、エアバッグ周辺部品、コックピット、ファンシュラウド、ラジエータークーリングファン、リザーブタンク、自動車用ホイールカバー、カウジング、ウインドウオッシャー液タンク、スポイラー、インスツルメントパネル、ボンネット、燃料ポンプハウジング、エアクリーナー、スロットボディ、インテークマニフィールド、ヒーターハウジング、ボンネット、ピラー、安全ベルト部品などの自動車部品が含まれる。中でも、自動車外板、ドア、バンパー、自動車用ホイールカバー、ドア、ドアトリム、ピラー、インスツルメンツパネル、エアバッグ周辺部品が、特に好ましい。
【0058】
その他にも、本発明の組成物は、電気・電子部品、家電部品、包装材、建築用内装材、コンテナ、フィルム、シート、ボトル、ハウジング、機械部品などへ幅広く適用することができる。
特に、本発明の組成物は、耐高速衝撃性に優れているため、低温での耐衝撃性にも優れている。このため、低温で用いられる用途にも有用である。
【0059】
(実施例)
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらによって限定されない。
(1)ポリプロピレン系樹脂組成物
成分(A)のポリプロピレンとして以下のものを使用した。
A−1:住友化学株式会社製ポリプロピレン(ブロックポリプロピレン)
ノーブレンAH561
MFR(230℃、2.16kg荷重)=3g/10min
比重0.9
A−2:プライムポリマー(株)製ポリプロピレン(ホモポリプロピレン)
プライムポリプロJ700GP
MFR(230℃、2.16kg荷重)=8g/10min
比重0.9
【0060】
成分(B)のアルキルフェノール樹脂として以下のものを使用した。
B−1:荒川化学株式会社製のアルキルフェノール樹脂(レゾール型、熱硬化タイプ) タマノル1010R
軟化点(環球法による)87.5℃、酸価79.0
B−2:旭有機材工業株式会社製のアルキルフェノール樹脂(レゾール型、熱硬化タイプ) SP456A
融点65℃
B−3:旭有機材工業株式会社製のアルキルフェノール樹脂(ノボラック型、熱硬化タイプ) KB5006N
融点100℃
【0061】
成分(C)の官能基含有熱可塑性樹脂として以下のものを使用した。
C−1:住友化学株式会社製 ボンドファースト 2B
MFR(190℃、2.16kg荷重)=3g/10min
融点95℃
表面硬度(ASTM D2240に基づくShore D)39
組成:エチレン/グリシジルメタクリレート/酢酸ビニル=83/12/5(質量比)
C−2:住友化学株式会社製 ボンドファースト7L
MFR(190℃、2.16kg荷重)=7g/10min
融点60℃
表面硬度(ASTM D2240に基づくShore D)18
組成:エチレン/グリシジルメタクリレート/アクリル酸メチル=70/27/3(質量比)
【0062】
成分(D)のラジカル開始剤として以下のものを使用した。
D−1: 日本油脂株式会社製 ジクミルパーオキサイド
1min分解温度(半減期が1分となる温度) 171℃
【0063】
成分(E)のエチレン−αオレフィン共重合体ゴムとして以下のものを使用した。
E−1:住友化学株式会社製 エチレンープロピレン共重合体ゴム エスプレンSPO V0141
ムーニー粘度 ML1+4(100℃)=52
MFR(190℃、2.16kg荷重)=0.7g/10min
表面硬度(ASTM D2240に基づくShore D)57
プロピレン含量 57質量%
ペレット形状
E−2:住友化学株式会社製 エチレンープロピレン共重合体ゴム、エスプレンSPO V0132
ムーニー粘度 ML1+4(100℃)=28
MFR(190℃、2.16kg荷重)=1.6g/10min
表面硬度(ASTM D2240に基づくShore D)58
プロピレン含量 73質量%
ペレット形状
【0064】
(2)物性測定
(i)荷重たわみ温度(HDT)
射出成形した短冊状樹脂試験片を用いて、荷重4.6kgで、JIS K7191に準拠して、測定した。
(ii)アイゾット衝撃試験
射出成形した短冊状試験片にノッチ加工を施した後、JIS K7110に準拠して室温で行った。
(iii)引張試験
ダンベル形状の射出成形片を用いて、島津製作所株式会社製、引張試験機AG100Kng型を使用して、引張速度100mm/min、500mm/min、および1000mm/minで行った。
(iv)透過型電子顕微鏡による相構造の観察
以下の実施例1で作製した射出成型品を加工して、図1に示すような試験片を作製した。次に、観察部位1近傍を、クライオウルトラミクロトームを用いて観察部位1から、超薄切片を切り出した後、該超薄切片を室温にて酸化ルテニウム蒸気で染色した。当該切片を透過型電子顕微鏡で観察した。透過型電子顕微鏡はPhilips株式会社製、CM300−Twin型を使用し、加速電圧200KVで観察した。
【0065】
(3)実施例1〜8
成分(A)はあらかじめ熱風型乾燥機を使用して、120℃で8時間予備乾燥を行った。また、成分(B)は乳鉢を使用して粉末化した。成分(B)、(C)、(D)および(E)に関しては予備乾燥を行わずに使用した。
【0066】
スクリューが同方向に回転する東芝機械株式会社製TEM−35BS型二軸押出機(スクリュー径35mm)のフィード口に供給機を設置した。
表1〜4に示す組成で各成分の所定量を室温で十分にドライブレンドした。このドライブレンド物を前記供給機に供給した。
【0067】
TEM−35BSのシリンダー設定温度200℃、スクリュー回転数150rpmとして、真空脱気装置により系内を真空にしながら混練を行い、組成物をストランド状に押し出した。当該ストランドは定法により切断されペレットとされた。このようにしてペレット形状の本発明の組成物を得た。
【0068】
このようにして得られたペレットは、熱風型乾燥機を使用して、120℃で4時間乾燥された。乾燥ペレットは、射出成形されて、各種試験片に成形された。
射出成形には日精樹脂工業株式会社製、NP7型Real Mini射出成形機を使用し、射出時間9秒、冷却時間30秒、金型温度60℃、シリンダー設定温度210℃でダンベル形状試験片と短冊状試験片の射出成形を行った。
引張り試験に用いたダンベル形状試験片は、長さ74mm、厚さ2mm、くびれ部の幅4mmとした。また、HDT測定およびアイゾット衝撃試験に用いた短冊状試験片は厚さ4mm、幅10mm、長さ80mmとした。
得られた結果を表1〜4に示す。
【0069】
図2に実施例1で得られた成形品の透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す。図2において、2は、ブロックポリプロピレンにおけるホモのポリプロピレン部である。3は比較的小さなドメイン、4は比較的大きなドメインである。5は、3または4のドメイン中に存在する微小ドメインである。
ドメイン3〜5の構成成分は必ずしも明確ではない。しかしながら、これらのドメインは、成分(A)のブロックポリプロピレンのホモポリプロピレン部以外のブロック部分、成分(B)、成分(C)、成分(E)、または成分(A)〜(C)が反応してなる生成物などを含むと推察される。
【0070】
(4)比較例1〜6
比較例1および比較例4は、ポリプロピレン(A−1)、(A−2)のペレットを各々、熱風型乾燥機を使用して、120℃で4時間予備乾燥を行い、射出成形して、試験用サンプルを作製した。
比較例2、3、5、6においては、各成分を表2〜4に示す組成でドライブレンドした後、実施例と同様にしてペレットを製造した。当該ペレットは、実施例と同様にして射出成形により、試験用サンプルに成形された。得られた試験用サンプルを用い、実施例と同様にして各種試験を行った。
【0071】
実施例1〜8と比較例1〜6からアルキルフェノール樹脂などを配合して成る本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、耐高速衝撃性に優れることが明らかである。
また、実施例8と比較例6との比較から、エチレン−αオレフィン共重合体ゴムを含むポリプロピレン系樹脂組成物は、さらに耐高速衝撃性などに優れることが明らかである。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン本来の特性を損なわず、耐熱性、耐衝撃性などに優れ、安価であり、しかも耐高速衝撃性に優れる。よって本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、特に自動車内外装部品、バンパー、ドア、外板などの自動車部品に適用した場合、自動車の高速走行時の衝突の際に、運転者、あるいは歩行者などへの衝撃を緩和させることが可能となり、安全性に優れた自動車の開発に極めて大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】TEM観察用試験片
【図2】実施例1で得られた成形品のTEM像
【符号の説明】
【0078】
1 観察部位
2 ホモポリプロピレン
3 比較的小さなドメイン
4 比較的大きなドメイン
5 3または4のドメイン中に存在する微小ドメイン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリプロピレン、
(B)アルキルフェノール樹脂、
(C)フェノールと反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂、および
(D)ラジカル開始剤、を配合して成るポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
(E)エチレン−αオレフィン共重合体ゴムをさらに配合して成る(含む)、請求項1記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)ポリプロピレンは、マトリックスを形成する樹脂である、請求項1または2記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)アルキルフェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂であり、かつその融点または軟化点は、20〜165℃である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)フェノールと反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂の官能基は、エポキシ基である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)フェノールと反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂は、グリシジル(メタ)アクリレート−エチレン共重合体である、請求項1〜5のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記(E)エチレン−αオレフィン共重合体ゴムは、エチレン−プロピレン共重合体またはエチレン−プロピレン−ジエン共重合体である、請求項2〜6のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A)と前記(B)の配合比は、質量比にして(A)/(B)=99.8〜70/0.2〜30であり、
前記(C)の配合比は、(A)と(B)の合計量100質量部に対し、1〜40質量部であり、
前記(D)の配合比は、(A)と(B)の合計量100質量部に対し、0.001〜10質量部であり、
前記(E)の配合比は、(A)と(B)の合計量100質量部に対し、1〜100質量部である、請求項2〜7のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物を含む成形体。
【請求項10】
前記成形体は、射出成形体、押し出し成形体、シート、ボトルまたはフィルムである、請求項9記載の成形体。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物を用いた電気・電子機器部品、家電部品、または自動車内外装部品。
【請求項12】
前記自動車内外装部品は、自動車外板、バンパー、インスツルメンツパネル、ドア、ピラー、またはエアバッグ周辺部品である、請求項11記載の自動車内外装部品。
【請求項13】
請求項1記載のポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法であって、
前記(A)〜(D)を、供給機を用いて二軸押出し機に供給する工程、ならびに
前記二軸押出し機のシリンダーおよびダイ温度を130〜290℃に設定して、前記二軸押出し機内を真空脱気装置により真空脱気しながら溶融混練する工程、
を含む、ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項2〜8のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法であって、
前記(A)〜(E)を、供給機を用いて二軸押出し機に供給する工程、ならびに
前記二軸押出し機のシリンダーおよびダイ温度を130〜290℃に設定して、前記二軸押出し機内を真空脱気装置により真空脱気しながら溶融混練する工程、
を含む、ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−96820(P2009−96820A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266767(P2007−266767)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(507340050)
【Fターム(参考)】