説明

ポリマー含有組成物、その調製、及び使用

ポリマー含有組成物の調製方法であって、a)グリコリド及びラクチドから選択される少なくとも1つの環状モノマーと、電荷均衡陰イオンの総量を基準にして、10〜100%の有機陰イオン及び0〜90%のヒドロキシドを電荷均衡陰イオンとして含む層状複水酸化物との混合物を調製するステップと、b)場合により重合開始剤又は触媒の存在下で、前記モノマーを重合させるステップとを含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状材料の存在下でのポリマー含有組成物の調製方法に関する。特に、この方法は、粘土の存在下でのラクチド及びグリコリドから選択される少なくとも1つの環状モノマーの開環重合を伴う。本発明はさらに、この方法によって得ることができる組成物、及びこの組成物の使用に関する。
【0002】
開環重合によって調製可能なポリマーの一例は、脂肪族ポリエステルのポリ(ε−カプロラクトン)(PCl)である。この合成は、ラクトンモノマーのカルボニル基が酸、アミン、又はアルコールによって攻撃される開環反応を介して開始する。このポリマーは高結晶性構造を有し、生分解性及び非毒性である。それは、包装材料及び医薬品において、例えば分解性包装材料、薬物の制御放出、及び整形外科用ギプスにおいて広く使用されている。PClは容易に加工することができ、他のポリマーとも良好な適合性を有するが、その低い融点(60℃)のため多くの用途で使用が限定されている。従って、カプロラクトンは、他のポリマーとブレンドするか、他のモノマーと共重合させることで、その使用を拡大させている。
【0003】
ポリマーの性質を改善するために、ナノサイズの粒子を添加することによって、いわゆるポリマー系ナノ複合材料を得ることができる。一般に、用語「ナノ複合材料」は、少なくとも1つの成分が、0.1〜100nm範囲内の少なくとも1つの寸法を有する無機層を含む複合材料を意味する。ポリマー系ナノ複合材料(PNC)の種類の1つは、少量の非常に薄くナノメートルサイズで高アスペクト比の無機粒子をポリマーマトリックス中に混入することによって得られる複合有機−無機材料を含む。少量のナノ粒子を加えることは、加えない場合には相互排他的となるポリマーの性質、例えば強度及び靱性を改善するのに有効である。この種類のナノ複合材料の大きな利点の1つは、通常は両立しない材料の複数の性質が同時に改善されることである。従来の無機充填剤を充填したポリマーと比較して改善された強度対重量比が得られるのに加えて、PNCは改善された難燃性、より良い高温安定性、及びより良い寸法安定性を示す。特に、膨張係数の大きな減少は、自動車用途において実用的な関心が持たれる。改善されたバリア性及び透明性は、例えば、包装用箔、瓶、及び燃料系統の用途の場合、ナノ複合材料に固有の利点となる。
【0004】
PNC中に存在すると好適なナノサイズ粒子としては、デラミネーテッドクレー層が挙げられる。このような粘土を含有するPNCは、従来技術において開示されるように粘土の存在下でモノマーを重合させることによって調製することができる。
【0005】
陽イオン性粘土、例えばモンモリロナイトの存在下での環状モノマーの開環重合 (ring-opening polymersation)が、B.Lepoittevinら, Polymer 44 (2003) 2033-2040に開示されている。陽イオン性粘土は、4価、3価、及び場合により2価の金属水酸化物の特定の組み合わせでできた負に帯電した層と、その間に存在する陽イオン及び水分子とからなる結晶構造を有する層状材料である。モンモリロナイトの層は、Si、Al、及びMgの水酸化物でできている。
【0006】
上記開示によると、開環重合の触媒として機能するBu(MeO)の存在下で、モンモリロナイトをε−カプロラクトンとともに撹拌し100℃に加熱している。モンモリロナイトのインターカレーション及び/又は層間剥離の程度は、カプロラクトン混合物中のモンモリロナイト濃度、及びその層間陽イオンの性質に依存する。
【0007】
D. Kubiesら, Macromolecules 35 (2002) 3318-3320では、Cloisite 25A(N,N,N,N−ジメチルドデシル−オクタデシル−アンモニウムモンモリロナイト)又はN,N−ジエチル−N−3−ヒドロキシプロピル−オクタデシル−アンモニウムブロマイド−交換モンモリロナイトの存在下でε−カプロラクトンを重合させている。スズ(II)オクテート又はジブチルスズ(IV)ジメトキシドが触媒として使用されている。
【0008】
N. Pantoustierら, Polymer Engineering and Science 42 (2002) 1928-1937では、ε−カプロラクトンが、触媒、例えばスズ(II)オクテートやジブチルスズ(IV)ジメトキシドを加えることなく、170℃において、Na−モンモリロナイト(montmorrilonite)の存在下で重合できることが示されている。上記著者らは、粘土表面上の酸性部位との相互作用を介してモノマーが活性化されるためであると理論づけている。
【0009】
国際公開第2006/000550号には、無機電荷均衡陰イオンだけを含む層状複水酸化物を使用した、環状モノマー、例えばラクチド及びグリコリドの重合方法が開示されている。
【0010】
本発明の目的の1つは、ポリマー含有組成物を環状モノマーから、特にラクチド及びグリコリドから調製するための改善された方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、ポリ(L−ラクチド)及びポリ(L−ラクチド/−グリコリド)の立体特異的な調製方法を提供することである。
【0011】
従って本発明は、ポリマー含有組成物の調製方法であって、
a)グリコリド及びラクチドから選択される少なくとも1つの環状モノマーと、電荷均衡陰イオンの総量を基準にして10〜100%の有機陰イオン及び0〜90%のヒドロキシドを電荷均衡陰イオンとして含む層状複水酸化物との混合物を調製するステップと、
b)場合により重合開始剤又は触媒の存在下で、前記モノマーを重合させるステップとを含む方法に関する。
【0012】
本発明の方法で製造されるポリマー含有組成物は、一般に、層状複水酸化物(LDH)が層間剥離及び/又は剥脱するナノ複合材料である。有機電荷均衡陰イオンによって、環状モノマー及び/又は結果として得られるポリマーに対するLDHの相溶性が改善される。さらに、本発明の方法によって、立体特異的なポリL−ラクチド(PLLA)を調製することができる。このことは、無機電荷均衡陰イオンを有する従来のLDH、例えばハイドロタルサイトによって、ラセミ化されたポリラクチドが得られることと対照的である。
【0013】
さらに、本発明による方法は単純であり、工業的に実現可能であり、経済的に魅力がある。層状複水酸化物は、環状モノマーの開環重合の開始剤としての機能を果たすことができる。これらのLDHは、重合速度を増加させることができ、ポリマーの性質にも影響を与えることができ、例えば重量平均分子量を増加させることができる。
【0014】
本明細書において、用語「ポリマー」は、少なくとも2つの構成要素(すなわちモノマー)の有機物質を意味し、従って、オリゴマー、コポリマー、及びポリマー樹脂を含む。
【0015】
本明細書において用語「環状モノマー」は、環状の二量体、三量体、又は四量体を含む。本発明による方法に使用すると好適な環状モノマーとしては、ラクチド(乳酸の環状ジエステル)、グリコリド(グリコール酸の二量体エステル)、及びこれらのモノマーの組み合わせが挙げられる。ラクチドという用語は、L,L−ラクチド、D,D−ラクチド、メソラクチド、及びそれらの混合物を含む。
【0016】
本明細書の文脈の範囲内において、用語「電荷均衡陰イオン」は、結晶LDHシートの帯電欠陥を補償する陰イオンを指す。LDHは典型的には層状構造を有するので、電荷均衡陰イオンは、積み重なったLDH層の中間層中、縁端部上、外面上に位置することができる。積み重なったLDH層の中間層中に位置する陰イオンは、層間イオンと呼ばれる。
【0017】
有機層間陰イオンを含むLDHは、有機粘土とも呼ばれ、例えばポリマーマトリックス中で層間剥離又は剥脱を起こすことがある。本明細書の文脈の範囲内において、用語「層間剥離」は、LDH構造の層が少なくとも部分的に外れることによるLDHシートの平均積層度の減少として定義され、それによって、体積当たりにはるかに多くの個別のLDHシートを含有する材料が得られる。用語「剥脱」は、完全な層間剥離、すなわちLDHシートに対して垂直方向における周期性の消失として定義され、これにより媒体中で個別の層が不規則に分散し、それによって積層の秩序が全く存在しなくなる。
【0018】
LDHの膨潤又は膨張もインターカレーションと呼ばれ、これはX線回折(XRD)によって観察することができるが、その理由は、基底反射、すなわちd(001)反射の位置が、層間距離を示しており、インターカレーションによってこの距離が増加するからである。
【0019】
平均積層度の減少は、XRD反射が消失するまでのブロードニングとして、又は基底反射(001)の非対称性の増加によって観察することができる。
【0020】
完全な層間剥離、すなわち剥脱の特性決定には、分析的な課題が残っているが、一般には、元のLDHからの非(hk0)反射の完全な消失から結論づけることができる。
【0021】
層の秩序、従って、層間剥離の程度は、透過型電子顕微鏡法(TEM)によってさらに可視化することができる。
【0022】
層状複水酸化物は一般式:
【化1】


に対応する層状構造を有し、式中、M2+は、二価の金属イオン、例えばZn2+、Mn2+、Ni2+、Co2+、Fe2+、Cu2+、Sn2+、Ba2+、Ca2+、Mg2+、及びそれらの混合物であり;M3+は、三価の金属イオン、例えばAl3+、Cr3+、Fe3+、Co3+、Mn3+、Ni3+、Ce3+、Ga3+、及びそれらの混合物であり;m及びnは、m/n=1〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは2〜4となるような値を有し;bは、0〜10、好ましくは2〜6の範囲内の値を有し;Xz−は、電荷均衡陰イオンである。好ましくは、M2+はMg2+であり、M3+はAl3+である。
【0023】
本発明の方法において使用されるLDH中に存在する電荷均衡有機陰イオンは、当分野で公知のあらゆる好適な有機陰イオンであってもよい。このような有機陰イオンとしては、モノ−、ジ−、又はポリカルボン酸類、スルホン酸類、ホスホン酸類、及びサルフェート酸(sulfate acid)類が挙げられる。好ましくは、有機陰イオンは、少なくとも2個の炭素原子、より好ましくは少なくとも8個の炭素原子、さらにより好ましくは少なくとも10個の炭素原子、最も好ましくは少なくとも12個の炭素原子を含み;有機陰イオンは最大1,000個の炭素原子、好ましくは最大500個の炭素原子、より好ましくは最大100個の炭素原子、最も好ましくは最大50個の炭素原子を含む。
【0024】
電荷均衡有機陰イオンが、1つ以上の追加の官能基、例えばヒドロキシル、アミン、カルボン酸、及びビニルを含むこともさらに考慮され、これらの官能基はポリマーと相互作用又は反応してもよい。有機陰イオンの好適な例は、モノカルボン酸類、例えば脂肪酸類、及びロジン系イオンである。
【0025】
一実施形態では、有機陰イオンは、8〜22個の炭素原子を有する脂肪酸である。このような脂肪酸は、飽和又は不飽和の脂肪酸であってもよい。このような脂肪酸の好適な例は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、デセン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及びそれらの混合物である。
【0026】
本発明の別の一実施形態では、有機陰イオンはロジンである。ロジンは、天然源から誘導され、容易に利用可能であり、合成有機陰イオンと比べて比較的安価である。ロジンの天然源の典型的な例は、ガムロジン、ウッドロジン、及びトール油ロジンである。一般に、ロジンは、約20個の炭素原子を通常含有するモノカルボン酸三環式ロジン酸の種々の異性体の多種多様な懸濁物である。種々のロジン酸の三環構造は、主として二重結合の位置が異なる。典型的には、ロジンは、レボピマル酸、ネオアビエチン酸、パルストリン酸、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、seco−デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、ピマル酸、及びイソピマル酸を含む物質の懸濁物である。天然源から誘導されるロジンとしては、ロジン類、すなわち、特に重合、異性化、不均化、水素化、並びにアクリル酸、無水物、及びアクリル酸エステルとのディールス−アルダー反応によって改質されたロジン懸濁物も挙げられる。これらの方法によって得られた生成物は改質ロジンと呼ばれる。天然ロジンも、当分野で周知のあらゆる方法によって化学的に変化させることができ、例えばロジン上のカルボキシル基と、金属酸化物、金属水酸化物、又は塩と反応させて、ロジンセッケン又は塩(いわゆる樹脂酸塩)を形成することができる。このような化学的に変化させたロジンは、ロジン誘導体と呼ばれる。
【0027】
このようなロジンは、有機基、陰イオン性基、又は陽イオン性基を導入することによって改質又は化学的に変化させることができる。有機基は、1〜40個の炭素原子を有する置換又は非置換の脂肪族又は芳香族炭化水素であってもよい。陰イオン性基は、当業者に公知のあらゆる陰イオン性基、例えばカルボキシレート又はスルホネートであってもよい。
【0028】
一実施形態では、有機陰イオンは、脂肪酸及びロジンの混合物である。好ましくは、層間陰イオンの総量の少なくとも10%が、脂肪酸由来又はロジン系の陰イオン、或いは両方のイオンの懸濁物であり、層間イオンの総量の好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも90%が、脂肪酸由来又はロジン系の陰イオン、或いは両方のイオンの懸濁物である。
【0029】
本発明による方法において使用されるLDH中の層間陰イオンの総量の少なくとも10%が有機陰イオンであり、層間陰イオンの総量の好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも90%が有機陰イオンである。有機陰イオンに加えて、電荷均衡陰イオンとしての水酸化物が、層間陰イオンの総量を基準にして0〜90%の量、電荷均衡陰イオンの総量の好ましくは最大70%、より好ましくは最大40%、最も好ましくは最大10%の量で存在することができる。
【0030】
本発明の方法において使用される層状複水酸化物は、好ましくは個別の層の間の距離が1.5nmを超える。このような層間距離によって、層状複水酸化物がポリマーマトリックス中で容易に加工可能となり、層状複水酸化物の容易な層間剥離及び/又は剥脱がさらに可能となり、その結果、改善された物理的性質を有する層状複水酸化物とポリマーマトリックスとの混合物が得られる。好ましくは、LDH中の層間距離は少なくとも1.5nm、より好ましくは少なくとも1.6nm、さらにより好ましくは少なくとも1.8nm、最も好ましくは少なくとも2nmである。個別の層の間の距離は、先に概説したようにX線回折及び透過型電子顕微鏡法(TEM)を使用して測定することができる。
【0031】
本発明の方法は、環状モノマー、例えばL,L−ラクチドからのPLLAの重合において立体特異的な触媒反応特性を示す。カーボネートを電荷均衡陰イオンとして含む従来のハイドロタルサイトでは、環状モノマーのラセミ化が生じ、これは望ましくない場合がある。例えば、L,L−ラクチドの場合、ラセミ化によって非晶質ポリマーが得られる。L,L−ラクチドの重合中に有機電荷均衡陰イオンを含むLDHを使用すると、重合が起こるときのラセミ化が防止され、その結果、改善された物理的及び機械的性質を有するポリマーが得られる。
【0032】
所望であれば、重合開始剤又は触媒を本発明の混合物に加えることができる。重合開始剤は、開環重合を開始させることができ、それによってポリマー鎖を成長させる化合物として定義される。開環重合のためのこのような開始剤の例はアルコール類である。重合触媒(活性化剤とも呼ばれる)は、ポリマー鎖の成長速度を増加させる化合物である。このような触媒の例は、有機金属化合物、例えばスズ(II)2−エチルヘキサノエート(一般にはスズ(II)オクトエートと呼ばれる)、スズアルコキシド(例えばジブチルスズ(IV)ジメトキシド)、アルミニウムトリ−イソプロポキシド、及びランタニドアルコキシドである。
【0033】
本発明による方法において存在する層状複水酸化物は重合開始剤又は触媒として機能することができるが、本明細書において用語「重合開始剤」及び「重合触媒」は、前記層状複水酸化物を含んでいない。
【0034】
重合開始剤又は触媒は、本発明の混合物中に、環状モノマーの重量を基準にして0〜10重量%、より好ましくは0〜5重量%、さらにより好ましくは0〜1重量%の量で存在することができる。しかし、このような開始剤又は触媒の使用は必要なものではなく、費用が増加したり、結果として得られる組成物が汚染されたりする可能性がある。特に結果として得られる生成物の医学的応用又は生分解性での応用が想定される場合、重合開始剤又は触媒の残留によって有害な影響が生じ得る。従って、最も好ましくは、従来の重合開始剤又は触媒、例えば前述の有機金属化合物は、本発明の方法では使用されない。
【0035】
本発明の一実施形態では、本発明の方法は、有機電荷均衡陰イオンを含有するLDHと、LDHの全重量を基準にして10〜90重量%、好ましくは15〜80重量%、最も好ましくは20〜70重量%の、無機電荷均衡陰イオンのみ、例えばヒドロキシド、ニトレート、クロライド、ブロマイド、スルホネート、サルフェート、ビサルフェート、ホスフェート、又はそれらの組み合わせを有するLDHとの両方を使用する。最も好ましくは、無機電荷均衡陰イオンは、ヒドロキシド、ニトレート、クロライド、ブロマイド、サルフェート、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0036】
ステップa)の混合物は、層状複水酸化物を環状モノマーと混合することによって調製される。混合温度において環状モノマーが液体であるか固体であるかに依存し、溶媒が加えられるか加えられないかに依存するが、この混合によって懸濁物、ペースト、又は粉末の混合物が得られる。
【0037】
ステップa)の混合物中の層状複水酸化物の量は、混合物の全重量を基準にして、好ましくは0.01〜75重量%、より好ましくは0.05〜50重量%、さらにより好ましくは0.1〜30重量%である。
【0038】
1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%の量の層状複水酸化物が、ポリマー系ナノ複合材料、すなわち層間剥離から剥脱までが起こった層状複水酸化物を含有する本発明によるポリマー含有組成物の調製に特に有利となる。
【0039】
10〜50重量%の量の層状複水酸化物が、例えばポリマーの配合に適用できるいわゆるマスターバッチの調製に特に有利となる。一般にこのようなマスターバッチ中の層状複水酸化物は完全には層間剥離していないが、所望であれば、マスターバッチをさらなるポリマーとブレンドするときに、後の段階でさらに層間剥離を進行させることができる。
【0040】
市販の層状複水酸化物は、一般に、易流動性粉末として提供される。このような易流動性粉末は、本発明による方法で使用する前に、特殊な処理、例えば乾燥を必要としない。
【0041】
毎日のプロセスで使用する前に、一般に(例えばCaH上で)乾燥する必要がある環状モノマーでさえも、本発明による方法で使用する前の乾燥ステップは不要である。
【0042】
層状複水酸化物及び環状モノマーに加えて、ステップa)の混合物は、顔料、染料、UV安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、充填剤(例えば、ハイドロキシアパタイト、シリカ、グラファイト、ガラス繊維、及びその他の無機材料)、難燃剤、核剤、衝撃改質剤、可塑剤、レオロジー調整剤、架橋剤、及び脱ガス剤を含むことができる。これらの場合により追加される物質及びそれらの対応する量は、必要に応じて選択することができる。
【0043】
溶媒も本発明の混合物中に存在することができる。好適な溶媒は、重合反応を妨害しないあらゆる溶媒である。好適な溶媒の例は、ケトン類(例えばアセトン、アルキルアミルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びジイソブチルケトン)、1−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジメチルアセトアミド、エーテル類(例えばテトラヒドロフラン、(ジ)エチレングリコールジメチルエーテル、(ジ)プロピレングリコールジメチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、芳香族エーテル、例えばDowtherm(商標)、及びより高級なエーテル)、芳香族炭化水素(例えばソルベントナフサ(ダウ(Dow)製)、トルエン、及びキシレン)、ジメチルスルホキシド、炭化水素溶媒(例えばアルカン及びそれらの混合物、例えばホワイトスピリット及び石油エーテル、並びにハロゲン化溶媒(例えばジクロロベンゼン、パークロロエチレン、トリクロロエチレン、クロロホルム、ジクロロメタン、及びジクロロエタン)である。
【0044】
本発明の方法中に形成されるポリマーの分子量及び/又は構造を制御するために、重合反応を妨害したり、本発明の方法の生成物と反応したりする可能性がある、環状モノマーの種類には属さない反応性化学種を、ステップa)中の混合物又はステップb)の最中に意図的に加えることができる。例えば、非環状エステル類を加えて、例えばコモノマーとして機能させることができる。さらに、重合プロセスを停止させることによって平均分子量を制限する化合物を加えることができ、このような化合物の一例がアルコールである。2回以上反応させることが可能な試薬を加えることによって、分岐ポリマー鎖又はさらにゲル化した網目構造の形成を促進することもできる。
【0045】
ステップa)の混合物にポリマーを加えることもできる。好適なポリマーとしては、脂肪族ポリエステル類、例えばポリ(ブチレンスクシネート)、ポリ(ブチレンスクシネートアジペート)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、及びポリ(ヒドロキシバレレート)、芳香族ポリエステル類、例えばポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、及びポリ(エチレンナフタレート)、ポリ(オルトエステル)類、ポリ(エーテルエステル)類、例えばポリ(ジオキサノン)、ポリ無水物類、(メタ)アクリルポリマー類、ポリオレフィン類、ビニルポリマー類、例えばポリ(ビニルクロライド)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(アクリルアミド)、及びポリ(ビニルアルコール)、ポリカーボネート類、ポリアミド類、ポリアラミド類、例えばTwaron(登録商標)、ポリイミド類、ポリ(アミノ酸)類、多糖誘導ポリマー類、例えば(加工)デンプン、セルロース、及びキサンタン、ポリウレタン類、ポリスルホン類、並びにポリエポキシド類が挙げられる。
【0046】
重合は好ましくは、層状複水酸化物と環状モノマーとの混合物を、環状モノマー及び結果として得られるポリマーの少なくとも融点の温度まで加熱することによって行われる。好ましくは、混合物は20〜300℃、より好ましくは50〜250℃、最も好ましくは70〜200℃の範囲内の温度まで加熱される。温度、環状モノマーの種類、混合物の組成、及び使用される装置に依存するが、この加熱は好ましくは10秒から最長24時間、より好ましくは1分〜6時間の間で行われる。例えば、本発明の方法が押出機中で行われる場合、使用される温度及び環状モノマーの種類、並びに混合物中の他の成分に依存して、数秒から最長数分までの範囲内の加熱時間を現実的には使用することができる。
【0047】
本発明の方法は、不活性雰囲気下、例えばN雰囲気下で行うことができるが、これは必ずしも必要ではない。
【0048】
本発明による方法は、様々な種類の重合装置、例えば撹拌フラスコ、管型反応器、押出機などの中で行うことができる。本発明の混合物は、混合物の内容物及び温度を均質化するために、好ましくはプロセス中に撹拌される。
【0049】
本発明による方法は、バッチ又は連続的に行うことができる。好適なバッチ反応器は、撹拌フラスコ及びタンク、バッチミキサー及びニーダー、ブレンダー、バッチ押出機、並びにその他の撹拌容器である。連続方式で本発明の方法を実施するのに適した反応器としては、管型反応器、ツイン又はシングルスクリュー押出機、プローミキサー(plow mixers)、配合機(compounding machines)、及びその他の好適な強力ミキサーが挙げられる。
【0050】
所望であれば、後の用途により好適となるように、例えば後に混入される場合があるポリマーマトリックスとの適合性を改善するために、ステップb)で得られた組成物を改質することができる。このような改質としては、本発明の方法中に形成されたポリマーのエステル交換、加水分解、又はアルコール分解、或いは、ポリマー末端基を修飾するための、ヒドロキシル基に対して反応性である試薬、例えば酸類、無水物類、イソシアネート類、エポキシド類、ラクトン類、ハロゲン酸類、及び無機酸ハライド類との反応を挙げることができる。
【0051】
さらなる一実施形態では、ステップb)で得られ、場合により上記改質ステップの後の組成物のポリマーマトリックス中への混入を、前記組成物をこのようなマトリックスポリマーと混合又はブレンドすることによって行うことができる。
【0052】
マトリックス化に適したポリマーとしては、脂肪族ポリエステル類、例えばポリ(ブチレンスクシネート)、ポリ(ブチレンスクシネートアジペート)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、及びポリ(ヒドロキシバレレート)、芳香族ポリエステル類、例えばポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、及びポリ(エチレンナフタレート)、ポリ(オルトエステル)類、ポリ(エーテルエステル)類、例えばポリ(ジオキサノン)、ポリ無水物類、(メタ)アクリルポリマー類、ポリオレフィン類(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、及びそれらのコポリマー)、ビニルポリマー類、例えばポリ(ビニルクロライド)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(アクリルアミド)、及びポリ(ビニルアルコール)、ポリカーボネート類、ポリアミド類、ポリアラミド類、例えばTwaron(登録商標)、ポリイミド類、ポリ(アミノ酸)類、多糖誘導ポリマー類、例えば(加工)デンプン、セルロース、及びキサンタン、ポリウレタン類、ポリスルホン類、並びにポリエポキシド類が挙げられる。
【0053】
この混入によって、インターカレートした又は層間剥離した層状複水酸化物のさらなる層間剥離を進行させることができる。
【0054】
上記方法によって得ることができるポリマー含有組成物は、コーティング、インク、樹脂、洗浄(cleaning)、又はゴムの配合物、掘削流体、セメント又はしっくい配合物、或いは製紙用パルプに加えることができる。この組成物は、熱可塑性樹脂中又は熱可塑性樹脂として、熱硬化性樹脂中又は熱硬化性樹脂として、並びに収着剤として使用することもできる。
【0055】
本発明の方法によって得ることができるポリマー含有組成物は、例えば、接着剤、手術器具及び医療機器、合成の創傷ドレッシング及びバンデージ、発泡体、(生分解性の)物体(例えば、瓶、管材料、又はライニング)、又はフィルム、薬物又は殺虫剤又は肥料(drugs, pesticides, or fertilisers)を制御放出するための材料、不織布、整形外科用ギプス、並びに組織修復誘導のため、又は移植前の播種された細胞を支持するための多孔質生分解性材料の製造に使用することができる。
【0056】
場合により、成形ステップ及び/又はコーティングステップの後で、有機化合物を除去するためにポリマー含有組成物を加熱し、それによって、触媒又は収着組成物として、或いはそれらの中に使用することが可能なセラミック材料、例えば多孔質酸化物を残すこともできる。
【実施例】
【0057】
実施例1
200gのL−ラクチド(Purasorb L、ピューラック・バイオケムBV(Purac Biochem BV)製)を、機械的撹拌機、温度計/サーモスタット、及び窒素フラッシュが取り付けられた500mlの3口丸底フラスコに投入した。電荷均衡陰イオンとして約14mol% OH、43mol% C16脂肪酸、及び約43mol% C18脂肪酸(Perkalite(商標)F100、アクゾ・ノーベル・ポリマー・ケミカルズBV(Akzo Nobel Polymer Chemicals BV)製)を有する5gのMg−Al LDHを、L−ラクトンに加えた。電気マントルヒーターを使用して、この反応混合物を160℃まで加熱し、懸濁物中のL−ラクトンを重合させながら、混合物を6時間撹拌した。1時間の反応後、懸濁物は完全に透明になり、これは十分に分散したナノ複合材料が得られたことを示している。
【0058】
結果として得られたポリマー含有組成物は、示差走査熱量測定によって測定して約124℃の融点を有する半結晶質であった。プロトンNMRにより、ほぼ純粋なポリ−L−ラクチドであることが分かった。
【0059】
LDHの非存在下では160℃において6時間以内に、純粋なL−ラクチドの熱重合の兆候は全く見られなかった。
【0060】
比較例2
有機陰イオンの代わりにカーボネートイオンを電荷均衡陰イオンとして有するハイドロタルサイトを使用して、実施例1を繰り返した。この結果、非晶質ラセミ体のポリラクチド、すなわちポリ(D,L−ラクチド)が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー含有組成物の調製方法であって、
a)グリコリド及びラクチドから選択される少なくとも1つの環状モノマーと、電荷均衡陰イオンの総量を基準にして、10〜100%の有機陰イオン及び0〜90%のヒドロキシドを電荷均衡陰イオンとして含む層状複水酸化物との混合物を調製するステップと、
b)場合により重合開始剤又は触媒の存在下で、前記モノマーを重合させるステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記ラクチドがL−ラクチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーがポリ(L−ラクチド)又はポリ(L−ラクチド/グリコリド)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記層状複水酸化物が有機陰イオンのみを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記有機電荷均衡陰イオンが、脂肪酸類、ロジン系陰イオン、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記重合開始剤又は触媒がステップb)中に存在する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップa)の前記混合物が1つ以上のポリマーをさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマーが、ポリオレフィン類、脂肪族及び芳香族ポリエステル類、ポリ(エーテルエステル)類、ビニルポリマー類、(メタ)アクリルポリマー類、ポリカーボネート類、ポリアミド類、ポリアラミド類、ポリイミド類、ポリ(アミノ酸)類、多糖誘導ポリマー類、ポリウレタン類、ポリスルホン類、及びポリエポキシド類からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、ポリマー含有組成物。
【請求項10】
コーティング、インク、洗浄、ゴム、又は樹脂の配合物、掘削流体、セメント配合物、しっくい配合物、或いは製紙用パルプにおける、請求項9に記載のポリマー含有組成物の使用。
【請求項11】
接着剤、手術器具又は医療機器、合成の創傷ドレッシング又はバンデージ、発泡体、フィルム、薬物又は殺虫剤又は肥料を制御放出するための材料、不織布、整形外科用ギプス、収着剤、或いはセラミック材料を製造するための、請求項9に記載のポリマー含有組成物の使用。

【公表番号】特表2011−517709(P2011−517709A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550152(P2010−550152)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/052694
【国際公開番号】WO2009/112441
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】