説明

メタル版の洗浄方法

【課題】クリーム半田が洗浄液を吸収して固化することによる洗浄不良を防止して、メタル版の印刷パターンを全体的に綺麗に洗浄可能なメタル版の洗浄方法を提供する。
【解決手段】印刷配線基板に対してクリーム半田を印刷するために用いたメタル版1の洗浄方法であって、メタル版1を水平方向に対して一定の角度を付けて支持した状態で、メタル版1に向けて噴射ノズル14から水系の洗浄液を噴き付けながら、該噴射ノズル14を水平方向に往復移動させて下側から順番にメタル版1を粗洗浄する。また、粗洗浄後、メタル版1に向けて噴射ノズル14から洗浄液を噴き付けながら、該噴射ノズル14を水平方向に往復移動させて上側から順番にメタル版1を仕上げ洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷配線基板に対してクリーム半田を印刷するために用いたメタル版の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷配線基板の半田付け部位にクリーム半田を塗着させる方法として、ステンレスやニッケル等からなるメタル版を用いたスクリーン印刷法により、クリーム半田を印刷して塗着させる方法が広く採用されている。ところが、このスクリーン印刷法によりクリーム半田を印刷する場合には、経時変化によりクリーム半田の溶剤が揮散して、クリーム半田が徐々に固化することから、印刷作業を行っているうちに、クリーム半田がメタル版の印刷パターンの穴内面、特に穴の端部内面に固化して堆積し、メタル版が目詰まりを起こして、所望の印刷品質が得られなくなるという問題が発生する。このため、印刷に用いたメタル版は、設定時間毎に洗浄して、穴内面に堆積したクリーム半田の固化物を除去している。このようなメタル版の洗浄装置としては、洗浄ノズルから洗浄液を高圧で噴き付けてメタル版を洗浄する洗浄装置(例えば、特許文献1参照。)や、超音波振動子で洗浄液を振動させながらメタル版を洗浄する洗浄装置(例えば、特許文献2参照。)などが提案されている。
【0003】
前記特許文献1記載の洗浄装置では、ホルダにメタル版を取り付けて縦向きに支持し、1対の洗浄ノズルでメタル版の表裏両面に対して洗浄液を噴き付けながら、ホルダを上下方向にスライド移動させて、メタル版を洗浄するように構成している。また、メタル版、及びこれを支持するホルダ、及び洗浄ノズルはケーシングにより全体が覆われており、更に、このケーシングの下方には、ロート状の仕切り板が形成されており、洗浄ノズルより噴射された洗浄液は、メタル版を洗浄した後、仕切り板を介して、タンクに回収できるように構成されている。
【0004】
前記特許文献2記載の洗浄装置では、超音波振動子を取り付けた縦向きの振動板に対して、メタル版を略平行に且つ僅かな隙間をあけて配置させ、超音波振動子により振動板を振動させながら、振動板とメタル版間に洗浄液を流下させ、メタル版を超音波洗浄するように構成されている。
【0005】
一方、水または電解質水溶液を電気分解して、水素イオン指数がpH9以上、12以下の電解アルカリ水を生成し、これを加圧して、機械部品、電気部品、自動車、建築物外壁、土木構造物表面などの洗浄対象物に対して、ノズルで噴き付けて、洗浄対象物を洗浄する洗浄装置が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
また、基板の表面上に付着している汚染物を除去する洗浄装置として、液滴を基板に向けて噴出する噴射ノズルと、噴射ノズルに接続され、該噴射ノズル内に純水などの液体を供給する液体供給手段と、噴射ノズルに接続され、該噴射ノズル内に気体を供給するガス供給手段と、噴射ノズル内に設けられ、該噴射ノズル内に供給された液体と気体とを混合し、液体を液滴に変える混合手段と、を備えたものが提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0007】
【特許文献1】特開平10−71705号公報
【特許文献2】特開2000−107711号公報
【特許文献3】特開2001−327934号公報
【特許文献4】特開平8−318181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記特許文献1記載の洗浄方法では、グリコール系もしくはアルコール系の有機溶剤を洗浄ノズルから大量に噴射するためランニングコストが高くなるだけでなく、排液を産業廃棄物として取り扱わねばならず環境負荷が非常に大きいという問題点があった。また、有機溶剤は強い臭気をともなうため、作業者の身体にかかる負荷も少なくはなく作業環境の改善が望まれている。一方、特許文献2記載の洗浄方法では、使用する洗浄液を大幅に少なくできるが、洗浄液として、特許文献1記載の洗浄方法と同様にグリコール系もしくはアルコール系の有機溶剤を用いる必要があり、やはり排液を産業廃棄物として取り扱わねばならず環境負荷が大きくなってしまうという問題があった。
【0009】
また、メタル版の洗浄方法として、特許文献1、2に記載されている方法以外にも、溶剤に浸した布紙等による清拭や、エアーガンを用いて吹き飛ばす方式や、吸引ノズルで吸い取る方式なども用いられているが、近年では印刷配線基板のピッチが非常に狭くなっており、これに伴いメタル版の印刷パターンの穴も0.22mm幅や0.14mm幅といったように非常に狭くなっているため、これらの洗浄方法では、印刷パターンの穴内に残った半田を完全に除去することが困難になっている。
【0010】
一方、特許文献3記載のように、電解アルカリ水を用いた洗浄方法や、特許文献4記載のように、ノズル内で空気と純水などの液体とを混合し、ノズルから高速の液滴を噴射して洗浄する洗浄方法は、メタル版の洗浄方法としては未だ採用されておらず、0.22mm幅や0.14mm幅の印刷パターンの穴を有するメタル版を効果的且つ効率的に洗浄可能な洗浄方法は未だ確立されていないのが実状である。
【0011】
また、本発明者は、特許文献3、4記載のような電解アルカリ水や純水などの水系の洗浄液を用いてメタル版を洗浄する試験を行なった結果、有機溶剤を用いた特許文献1、2記載の洗浄方法と同様に、洗浄した半田ボールの再付着を防止するため、メタル版を縦向きにして、上側から順番にメタル版を洗浄すると、メタル版の下端側へ行くにしたがって、洗浄不良が発生するという問題が発生することを見出した。そして、その原因について鋭意検討した結果、特許文献1、2記載の洗浄方法では、クリーム半田のフラックスが有機溶剤に溶けるため、洗浄後の有機溶剤がメタル版に沿ってその下側へ移動しても問題ないが、特許文献3、4記載のような電解アルカリ水や純水などの水系の洗浄液を用いると、フラックスが洗浄水を吸収して固化し、洗浄不良が発生することを見出した。
【0012】
本発明の目的は、クリーム半田が洗浄液を吸収して固化することによる洗浄不良を防止して、メタル版の印刷パターンを全体的に綺麗に洗浄可能なメタル版の洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、メタル版を縦向きにして水系の洗浄液で洗浄する場合において、メタル版の上側から洗浄を行なうと、メタル版のうちの洗浄位置よりも下側に付着しているクリーム半田のフラックスが、メタル版に沿って流れ落ちる洗浄液を吸収し、該フラックスが固化することにより、洗浄不良が発生し易くなることを見出し、下側から順番にメタル版を洗浄することで、メタル版に沿って流れ落ちる洗浄液との接触によるフラックスの固化を極力防止して、メタル版を綺麗に洗浄できるとの発想を得て、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明に係るメタル版の洗浄方法は、印刷配線基板に対してクリーム半田を印刷するために用いたメタル版の洗浄方法であって、前記メタル版を水平方向に対して一定の角度を付けて支持した状態で、前記メタル版に向けて噴射ノズルから水系の洗浄液を噴き付けながら、該噴射ノズルを水平方向に往復移動させて下側から順番にメタル版を粗洗浄するものである。尚、本発明において、水系の洗浄液とは、アルカリ性水、イオン交換水、純水などの水を意味する。また、アルカリ性水とは、アルカリ電解水やアルカリ性水溶液やアルカリイオン水などからなるpHが7.5以上の水を意味する。
【0015】
この洗浄方法では、メタル版を水平方向に対して一定の角度を付けて支持した状態で洗浄するので、メタル版に噴き付けた洗浄液は、メタル版に沿ってその下側へ流れることになるが、下側から順番にメタル版を粗洗浄するので、洗浄液として水系の洗浄液を用いた場合でも、メタル版に噴き付けた洗浄液は、メタル版のうちの洗浄が完了した部分に沿って流れ落ちることになり、メタル版に付着しているクリーム半田のフラックスが水系の洗浄液を吸って固化することによる洗浄不良を効果的に防止でき、メタル版を綺麗に洗浄することができる。しかも、有機溶剤を使用しないで、アルカリ性水などの水系の洗浄液でのみで洗浄するので、洗浄後の廃液は、産業廃棄物として取り扱う必要がなく、環境負荷を著しく低減することができ、また有機溶剤に比べ臭気がないので作業環境も改善することができる。また、アルカリ性水などの水系の洗浄液は有機溶剤のように揮発性がないために常時補充する必要がなく、洗浄後も水洗いし乾燥させるだけでよいのでランニングコストも安価である。
【0016】
ここで、前記粗洗浄後、メタル版に向けて噴射ノズルから洗浄液を噴き付けながら、該噴射ノズルを水平方向に往復移動させて上側から順番にメタル版を仕上げ洗浄することが好ましい実施の形態である。このように上側から順番に仕上げ洗浄すると、粗洗浄においてクリーム半田の一部がメタル版に再付着した場合でも、これを綺麗に洗浄することができる。
【0017】
前記粗洗浄において、メタル版の印刷パターンの形成範囲に対して洗浄液を順次噴き付けて粗洗浄を行い、前記仕上げ洗浄において、メタル版の全面に対して洗浄液を順次噴き付けて仕上げ洗浄を行なうことも好ましい実施の形態である。このように構成すると、粗洗浄による洗浄時間を極力短縮することができ、洗浄時間を全体的に短縮できる。しかも、メタル版の最も重要な印刷パターンの形成範囲に関しては、2度の洗浄によりクリーム半田を綺麗に洗浄することができる。
【0018】
前記洗浄液を30℃〜60℃に加熱した状態で噴射ノズルへ供給することも好ましい実施の形態である。噴射ノズルに供給する洗浄液の温度は、クリーム半田のフラックスの軟化による洗浄力の向上を考慮して、30℃以上に設定することが好ましく、また60℃を超えると洗浄液のpHが低下し、洗浄力が低下するので、30℃〜60℃に設定することが好ましい。
【0019】
前記洗浄液としてアルカリ性水を用い、前記噴射ノズル内において洗浄液と圧縮空気とを混合して、前記洗浄液を微細粒化しながら、この微細粒化した洗浄液を噴射ノズルからメタル版に向けて高速で噴き付けてメタル版を洗浄することも好ましい実施の形態である。
【0020】
この洗浄方法では、噴射ノズル内においてアルカリ性水と圧縮空気とを混合して、印刷パターンの穴を通過可能な大きさにまで微細粒化した状態で、噴射ノズルからメタル版に対して噴き付けるので、微細粒化したアルカリ性水をエネルギーロスなく印刷パターン内部の半田ボールやフラックスに衝突させて、半田ボールやフラックスを効果的且つ効率的に除去することが可能となる。また、アルカリ性水には油分を鹸化・分散する能力があるため、フラックスを鹸化、分散し洗浄しやすくする効果があり、これによりメタル版に付着したフラックスや印刷パターンの穴内のフラックスが、一層効率的且つ綺麗に除去される。更に、アルカリ性水はイオン交換水や有機溶剤に比べると微細化されやすいという性質を有しており、0.22mm幅や0.14mm幅といった非常に狭い印刷パターンの穴よりも小径に微細粒化できるので、穴内の半田およびフラックスを効率的に除去できる。
【0021】
アルカリ性水を洗浄液として用いる場合には、前記洗浄液の水素イオン指数をpH=10.5〜12.0に設定することが好ましい実施の形態である。即ち、pHが高すぎると、半田やメタル版の金属部分が腐食されてしまい、pHが低すぎると長時間の洗浄が必要となってしまい、排液処理やランニングコストを考えると好ましくないので、pHは10.5以上12.0以下に設定することが好ましい。
【0022】
アルカリ性水を洗浄液として用いる場合には、前記圧縮空気と前記洗浄液の体積比率を500:1〜700:1に設定することも好ましい実施の形態である。つまり、圧縮空気の体積比率が大きい場合には、半田に衝突するアルカリ性水の量が少なくなってしまうため十分な洗浄力が得られず、半田とフラックスを印刷パターンから完全に除去するためには、長時間の洗浄が必要となってしまう。また圧縮空気の体積比率が少なすぎる場合には、アルカリ性水を十分に微細粒化することができないため、0.22mm幅や0.14mm幅といった非常に狭い幅ではアルカリ性水の粒が印刷パターンの穴を通り抜けることができず、十分な洗浄効果を得ることができない。また、同じく、圧縮空気の体積比率が少なすぎる場合には、噴射したアルカリ性水が、メタル版表面で水膜を形成し、新たな粒子の衝突を妨げてしまうという現象が発生し、洗浄効果が低減してしまう。
【0023】
前記メタル版を挟んでその両側に噴射ノズルをそれぞれ設け、両噴射ノズルからメタル版の両面に対して洗浄液を噴き付けながらメタル版を洗浄することも好ましい実施の形態である。メタル版を片面ずつ洗浄することも可能であるが、メタル版を挟んでその両側に噴射ノズルをそれぞれ設けて、メタル版の表裏面に向けてアルカリ性水などの水系の洗浄液を同時に噴き付けて洗浄すると、メタル版の洗浄効率を高めることができるので好ましい。また、この場合には、前記両噴射ノズルによる洗浄液の噴き付け位置をずらして、両噴射ノズルから噴射した洗浄液同士が衝突することによる洗浄力の低下を防止することが好ましい。噴き付け位置をずらす方法としては、両噴射ノズルにおける洗浄液の噴射角度を異なる角度に設定して噴き付け位置をずらすこともできるし、噴射角度を同じに設定しつつ、両噴射ノズルの位置をX軸方向或いはY軸方向へシフトさせて噴き付け位置をずらすこともできるし、両者を組み合わせて噴き付け位置をずらすこともできる。最も好ましい方法としては、両噴射ノズルの噴き付け方向をメタル版と直交方向に設定しつつ、両噴射ノズルの位置をX軸方向或いはY軸方向へシフトさせて噴き付け位置をずらすことが好ましい。
【0024】
前記噴射ノズルの先端部とメタル版間の距離を3〜8mmに設定することも好ましい実施の形態である。噴射ノズルの先端部とメタル版間の距離が長すぎると、洗浄液の衝突エネルギーをメタル版に付着したクリーム半田に十分に作用させることができず、また短すぎると、洗浄液が充分に微細化されずにメタル版に衝突するとともに、噴き付けた洗浄液がメタル版で跳ね返った洗浄液と衝突することにより、洗浄効率が低下するので、噴射ノズルの先端部とメタル版間の距離は3〜8mmに設定することが好ましい。
【0025】
前記噴射ノズルとして、圧縮空気の流通路と洗浄液の流通路とを形成したノズルボディと、ノズルボディの先端部に着脱自在に取り付けたノズルキャップとを有し、ノズルキャップの先端部に噴射口を形成し、ノズルボディの先端部に噴射口へ向けて突出する隔壁を形成し、この隔壁によりノズルボディとノズルキャップ間の空間を、隔壁両側の第1空間と、隔壁よりも先端側の第2空間の3つの空間に区画し、1対の第1空間と第2空間とを隔壁の先端部とノズルキャップ間に形成した絞り隙間を介して連通させ、圧縮空気の流通路を1対の第1空間にそれぞれ開口させるとともに、洗浄液の流通路を隔壁の先端部から第2空間に開口させ、第2空間内において洗浄液と圧縮空気とを混合して、洗浄液を微細粒化するものを用いることが好ましい実施の形態である。
【0026】
この噴射ノズルでは、圧縮空気は、ノズルボディ内部の流通路を通って隔壁両側の第1空間へ供給され、第1空間から絞り隙間を通って音速に近い速度まで加速されながら第2空間へ供給される。一方、洗浄液は、隔壁に形成した流通路を通って隔壁よりも先端側の第2空間へ供給され、第2空間内において高速の圧縮空気と混合されて、微細粒化され、噴射口から圧縮空気とともに噴出される。そして、この噴射口から噴出する微細粒化された高速の洗浄液をメタル版へ向けて噴き付けて、メタル版を洗浄することになる。このため、微細粒化した洗浄液をエネルギーロスなく印刷パターン内部の半田ボールやフラックスに衝突させて、半田ボールやフラックスを効果的且つ効率的に除去することが可能となる。
【0027】
前記噴射ノズルにおいて、前記噴射口をアスペクト比40以上の長穴形状に形成することもできる。噴射口は円形に形成することも可能であるが、大面積のメタル版を短時間で洗浄処理できるように、噴射口をアスペクト比40以上の長穴形状に形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るメタル版の洗浄方法によれば、下側から順番にメタル版を粗洗浄するので、洗浄液として水系の洗浄液を用いた場合でも、メタル版に噴き付けた洗浄液は、メタル版のうちの洗浄が完了した部分に沿って流れ落ちることになり、メタル版に付着しているクリーム半田のフラックスが水系の洗浄液を吸って固化することによる洗浄不良を効果的に防止でき、メタル版を綺麗に洗浄することができる。しかも、有機溶剤を使用しないで、アルカリ性水などの水系の洗浄液でのみで洗浄するので、洗浄後の廃液は、産業廃棄物として取り扱う必要がなく、環境負荷を著しく低減することができ、また有機溶剤に比べ臭気がないので作業環境も改善することができる。また、アルカリ性水などの水系の洗浄液は有機溶剤のように揮発性がないために常時補充する必要がなく、洗浄後も水洗いし乾燥させるだけでよいのでランニングコストも安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
本発明のメタル版の洗浄方法は、図1、図2に示すようなメタル版洗浄装置10を用いて、メタル版1を水平方向に対して一定の角度を付けて支持した状態で、メタル版1に向けて噴射ノズル14から水系の洗浄液を噴き付けながら、噴射ノズル14を水平方向に往復移動させて下側から順番にメタル版1を粗洗浄するものである。
【0030】
図1、図2に示すように、メタル版洗浄装置10は、洗浄液としての微細粒化したアルカリ性水をメタル版1に対して噴き付けて、メタル版1を洗浄する洗浄装置本体11と、洗浄液としてのアルカリ性水を供給するアルカリ性水供給装置30とを備えている。尚、本実施の形態では、洗浄液としてアルカリ性水をメタル版1に噴き付けて、メタル版1を洗浄するメタル版洗浄装置10に、本発明のメタル版の洗浄方法を適用した場合について説明するが、アルカリ性水以外の水系の洗浄液、例えばイオン交換水や純水などをメタル版1に噴き付けて、メタル版1を洗浄する既存のメタル版洗浄装置に対しても本発明を同様に適用できる。
【0031】
メタル版1の外周部には枠状の補強フレーム13が一体的に設けられ、メタル版1は、洗浄装置本体11のハウジング12内に、水平方向に対して一定の角度を付けて支持され、メタル版1に噴き付けた洗浄液がメタル版1に沿って流れ落ちるように構成されている。メタル版1の水平方向に対する傾斜角度は任意に設定できるが、洗浄装置本体11を極力小型に構成するため、図1、図12に示すように、水平方向に対して90°に設定して、ハウジング12内に鉛直方向に支持することが好ましい。
【0032】
メタル版1を挟んでその前後両側には、メタル版1に対してアルカリ性水を噴射するための1対のアルカリ性水噴射ノズル14が対向状に設けられ、両アルカリ性水噴射ノズル14は、図示外の移動手段により、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ連動して移動可能に支持されている。移動手段としては、任意の構成のものを採用することができ、例えばX軸方向及びY軸方向へのガイドロッドと、X軸方向及びY軸方向への移動用のモーターとを備えたものを採用できる。
【0033】
前後のアルカリ性水噴射ノズル14は、図2に示すように、アルカリ性水の噴出し方向をメタル版1にそれぞれ直交させ、アルカリ性水の噴き付け位置をX軸方向に一定距離Sだけずらして対向して設けられている。これにより、前後のアルカリ性水噴射ノズル14から噴出したアルカリ性水同士が衝突したり干渉したりすることを防止して、洗浄効果の低下を防止できるとともに、片方のノズル14から噴射したアルカリ性水で除去できなかった半田5やフラックス4(図9、図10参照)を、他方のノズル14から噴射したアルカリ性水によって除去できるように構成されている。アルカリ性水噴射ノズル14の先端部とメタル版1間の距離Gは、3〜8mmに設定されている。アルカリ性水噴射ノズル14の先端部とメタル版1間の距離Gが長すぎると、アルカリ性水の衝突エネルギーをメタル版1に付着した半田5やフラックス4に十分に作用させることができず、また短すぎると、アルカリ性水が充分に微細化されずにメタル版1に衝突するとともに、噴き付けたアルカリ性水がメタル版1で跳ね返ったアルカリ性水と衝突することにより、洗浄効率が低下するので、アルカリ性水噴射ノズル14の先端部とメタル版1間の距離Gは3〜8mmに設定することが好ましい。
【0034】
アルカリ性水噴射ノズル14は、図3〜図6に示すように、圧縮空気の流通路15とアルカリ性水の流通路16とを形成したノズルボディ17と、ノズルボディ17の先端部に着脱自在に取り付けたノズルキャップ18と、ノズルキャップ18をノズルボディ17に固定するためのリテーナ19と、圧縮空気の供給管20をノズルボディ17に接続するためのプラグ21とを備えている。尚、噴射ノズルとしては、図3〜図6に例示しているもの以外の構成のものを採用することも可能である。
【0035】
ノズルキャップ18の先端部には上下方向に細長い長穴状の噴射口22が形成され、ノズルボディ17の先端部には噴射口22へ向けて突出する隔壁23が形成され、この隔壁23によりノズルボディ17とノズルキャップ18間の空間は、隔壁23両側の第1空間24と、隔壁23よりも先端側の第2空間25の3つの空間に区画されている。隔壁23の先端部とノズルキャップ18間には絞り隙間26が形成され、第1空間24と第2空間25とは絞り隙間26を介して連通されている。ノズルボディ17内には1対の圧縮空気の流通路15が形成され、両流通路15の下流部は6つの分岐通路15aにそれぞれ分岐されて2つの第1空間24にそれぞれ開口され、アルカリ性水の流通路16は隔壁23の先端部において第2空間25に開口されている。
【0036】
このアルカリ性水噴射ノズル14では、圧縮空気が、1対の流通路15を通って2つの第1空間24へそれぞれ供給され、更に絞り隙間26を通って第2空間25へ左右対称に供給される。流通路15は分岐通路15aにおいて通路断面が小さくなり、しかも第1空間24においては絞り隙間26側へ行くに従って通路断面が小さくなっているので、圧縮空気はベルヌーイの法則に従い、絞り隙間26側へ行くにしたがって加速され、高速で第2空間25内に流入することになる。一方、アルカリ性水は、流通路16を通って第2空間25に供給されることになるが、流通路16の断面積が隔壁23内において小さくなることから、隔壁23内において加速され、この状態で第2空間25に供給されることになる。そして、第2空間25では、圧縮空気とアルカリ性水とが高速で混合され、それによってアルカリ性水は第2空間25内において微細粒化され、この状態で噴射口22から外部へ噴射されることになる。ところで、アルカリ性水はイオン交換水や純水などの水系の洗浄液にくらべ微細化されやすい性質を備えており、微細化されたアルカリ性水の粒は図9に示すような印刷パターン2の穴3を容易に通過可能な直径となるため、印刷パターン2内部の半田ボール5に衝突しその圧力エネルギーをもって半田5を除去することができる。さらに、アルカリ性水には油分を鹸化・分散する能力があるため、フラックス4を鹸化、分散し洗浄しやすくする効果がある。これによりメタル版1に付着したフラックス4や印刷パターン2内のフラックス4、半田5が除去され、洗浄が実現される。
【0037】
噴射口22の開口幅Wは0.3mm以上0.7mm以下に設定することが好ましく、開口長さLは20mm以上30mm以下に設定することが好ましい。また、噴射口22のアスペクト比(L/W)は40以上に設定することが好ましい。噴射口22は円形に形成することも可能であるが、大面積のメタル版1を短時間で洗浄処理できるように、アスペクト比(L/W)が40以上の長穴形状に形成することが好ましい。
【0038】
移動手段によるアルカリ性水噴射ノズル14の移動速度は、5mm/sec以上、20mm/sec以下に設定することが好ましい。移動速度が5mm/sec未満の場合には、洗浄処理速度が遅くなり、20mm/secを超える場合には、洗浄不良が発生する。また、アルカリ性水噴射ノズル14からのアルカリ性水の噴射量は、500cc/min以上で700cc/min以下に設定することが好ましい。噴射量が、500cc/min未満の場合には、洗浄不良が発生し、700cc/minを越える場合には、アルカリ性水の消費量が増えて、アルカリ性水供給装置30として大型なものを採用する必要があること、アルカリ性水の水膜がメタル版1の表面に形成されて、反対に洗浄能力が低下するなどの問題が発生する。
【0039】
圧縮空気とアルカリ性水の体積比率は、500:1〜700:1に設定されている。つまり、圧縮空気の体積比率が大きい場合には、半田5に衝突するアルカリ性水の量が少なくなってしまうため十分な洗浄力が得られず、半田5とフラックス4を印刷パターン2から完全に除去するためには、長時間の洗浄が必要となってしまう。また圧縮空気の体積比率が少なすぎる場合には、アルカリ性水を十分に微細粒化することができないため、0.22mm幅や0.14mm幅といった非常に狭い幅ではアルカリ性水の粒が印刷パターン2の穴3を通り抜けることができず、十分な洗浄効果を得ることができない。また、同じく、圧縮空気の体積比率が少なすぎる場合には、噴射したアルカリ性水が、メタル版1の表面で水膜を形成し、新たな粒子の衝突を妨げてしまうという現象が発生し、洗浄効果が低減してしまう。
【0040】
圧縮空気にはコンプレッサ27によって圧縮された、いわゆる工場エアを用いるが、フィルターやドライヤを通って油分や余計な水分を十分に除去されていることが好ましい。圧縮空気の圧力は絞り隙間26と圧縮空気の流通路15の断面積の比によってもことなるが、低くなると十分な流量と流速をえることができないため0.5MPa以上であることが望ましく、本実施例では0.5MPaに設定している。
【0041】
洗浄装置本体11には、アルカリ性水供給装置30から供給されるアルカリ性水を、30℃〜60℃に加熱した状態で、アルカリ性水噴射ノズル14へ供給する加熱手段29が設けられ、この加熱手段29によりアルカリ性水を加熱することで、メタル版1に付着しているクリーム半田のフラックスを軟化させて洗浄力を向上できるように構成されている。アルカリ性水噴射ノズル14に供給するアルカリ性水の温度は、クリーム半田のフラックスの軟化温度である30℃以上に設定することが好ましく、また60℃を超えると洗浄液のpHが低下し、洗浄力が低下するので、30℃〜60℃に設定することが好ましい。加熱手段29としては、任意の構成のものを採用することができ、例えば金属ブロック内にアルカリ性水の流通路を複数形成した熱交換器と、熱交換器を加熱するヒータとを有し、ヒータで金属ブロックを加熱しながら、流通路へアルカリ性水を流通させて、アルカリ性水を設定温度まで加熱するように構成したものを採用できる。この加熱手段29は、アルカリ性水の洗浄力を向上する上で設けることが好ましいが、省略したものも本発明の範疇である。
【0042】
次に、アルカリ性水を供給するアルカリ性水供給装置30について説明する。
アルカリ性水供給装置30は、図2に示すように、軟水生成手段31と、アルカリ性水生成手段32と、アルカリ性水加圧タンク33と、中性水加圧タンク34とを備えている。尚、本実施の形態では、水道水からアルカリ性水を生成し、これを洗浄装置本体11へ供給するように構成したが、市販のアルカリ性水をそのまま洗浄液として利用することも可能である。
【0043】
軟水生成手段31は、イオン交換樹脂により軟水を生成する周知の構成のもので、例えばサムソン社製SS−04Eを好適に使用できる。
【0044】
アルカリ性水生成手段32は、水を電気分解することにより、陰極側には水酸イオン(OH)を増加させてアルカリ性水を生成する周知の構成のもので、例えば(株)アマノ製δ1500Kを好適に使用できる。アルカリ性水はそのpHによって洗浄力が異なる。pHが高いと洗浄力が向上する方向にあるが、pH12を超えるとメタル版1や半田5が腐食してしまう恐れがある。一方、pH10.5より低い場合、完全に半田5とフラックス4を除去するためには長時間の洗浄が必要となるため、多量のアルカリ性水が必要となり好ましくない。このため、アルカリ性水のpHは、10.5〜12.0の範囲にあることが望ましく、特には11.2〜11.5の範囲にあることが望ましい。アルカリ性水に用いる塩基は苛性ソーダ、炭酸カリウムなど多種があるが、pHが前述の範囲内にあれば塩基の種類は特に問わない。
【0045】
次に、洗浄装置10を用いた洗浄方法について、図2を参照しながら説明する。
先ず、アルカリ性水供給装置30により、アルカリ性水の生成するため、軟水生成手段31へ水道水を供給して、軟水生成手段31にて軟水を生成する。具体的には、毎分1.9リットルの軟水を生成する。この軟水生成手段31で生成した軟水の一部は、アルカリ性水生成の生成用の軟水として用い、残りは中性水加圧タンク34に供給して、後述するように、アルカリ性水によるメタル版1の洗浄後のすすぎ水として使用することになる。
【0046】
次に、軟水生成手段31にて生成した軟水をアルカリ性水生成手段32に供給し、アルカリ性水生成手段32によりアルカリ性水を生成する。具体的には、1.9リットルの軟水から、1.5リットルのアルカリ性水と、0.4リットルの中性水を生成する。アルカリ性水の生成には炭酸カリウムを使用する。生成されたアルカリ性水は、アルカリ性水加圧タンク33に順次供給されて、アルカリ性水加圧タンク33に1回の洗浄に必要な分量以上の設定量だけ貯水される。尚、アルカリ性水の生成時、中性水も同時に生成されるので、この中性水を軟水とともに中性水加圧タンク34へ供給することもできる。
【0047】
次に、洗浄装置本体11にてメタル版1を洗浄するため、コンプレッサ27からの圧縮空気により、アルカリ性水加圧タンク33から加熱手段29へアルカリ性水を加圧供給して、アルカリ性水を30℃〜60℃の設定温度に加熱した後、これをアルカリ性水噴射ノズル14へ供給するとともに、コンプレッサ27からの圧縮空気をアルカリ性水噴射ノズル14へ供給して、アルカリ性水噴射ノズル14内において、アルカリ性水と圧縮空気とを混合してアルカリ性水を微細粒化し、微細粒化したアルカリ性水を噴射口22からメタル版1に向けて噴射させながら、移動手段により、アルカリ性水噴射ノズル14をメタル版1に沿ってX軸方向及びY軸方向へ順次移動させて、アルカリ性水の微細化粒子によりメタル版1に付着した半田5やフラックス4を洗浄除去することになる。
【0048】
具体的には、次のような粗洗浄と仕上げ洗浄とを順次行って、メタル版1を洗浄することになる。
【0049】
粗洗浄では、先ず、図7に示すように、移動手段により、アルカリ性水噴射ノズル14を印刷パターン2の形成範囲2Aの左側縁の下端へ移動させる。次に、アルカリ性水噴射ノズル14から、アルカリ性水の微細化粒子をメタル版1に噴き付けながら、アルカリ性水噴射ノズル14を形成範囲2Aの左側縁から右側縁まで略水平に移動させてから、アルカリ性水の噴き付け範囲が上下に一部重なるように、アルカリ性水噴射ノズル14を一段上側へ移動させ、次にアルカリ性水噴射ノズル14を前記とは逆に、形成範囲2Aの右側縁から左側縁へ略水平に移動させてから、アルカリ性水噴射ノズル14を一段上側へ移動させるという動作を繰り返して、印刷パターン2の形成範囲2Aの全体を下側から順番に洗浄することになる。尚、印刷パターン2の形成範囲2Aは、メタル版1に形成される全ての印刷パターン2が含まれるように、メタル版1毎に予め設定したものである。また、粗洗浄は、印刷パターン2の形成範囲2Aの右側縁の下端から行なうこともできる。
【0050】
仕上げ洗浄では、先ず、図8に示すように、移動手段により、アルカリ性水噴射ノズル14をメタル版1の左側縁の上端へ移動させる。次に、アルカリ性水噴射ノズル14から、アルカリ性水の微細化粒子をメタル版1に噴き付けながら、アルカリ性水噴射ノズル14をメタル版1の左側縁から右側縁まで略水平に移動させてから、アルカリ性水の噴き付け範囲が上下に一部重なるように、アルカリ性水噴射ノズル14を一段下側へ移動させ、次にアルカリ性水噴射ノズル14を前記とは逆に、メタル版1の右側縁から左側縁へ略水平に移動させてから、アルカリ性水噴射ノズル14を一段下側へ移動させるという動作を繰り返して、メタル版1の全面を上側から順番に洗浄することになる。ただし、メタル版1の外縁部には補強フレーム13が設けられているので、メタル版1における補強フレーム13の内側に露出する部分を洗浄することになる。尚、仕上げ洗浄は、メタル版1の右側縁の上端から行なうこともできる。
【0051】
この洗浄方法では、粗洗浄により印刷パターン2の形成範囲2Aの全体を下側から順番に洗浄するので、メタル版1に付着しているクリーム半田が、メタル版1に沿って下側へ流れる洗浄処理後のアルカリ性水を吸収して固化することを防止して、クリーム半田が固化することによる洗浄不良を防止できる。しかも、この粗洗浄では、印刷パターン2の形成範囲2Aのみを洗浄するので、メタル版1の全面を洗浄する場合と比較して、洗浄処理時間を大幅に短縮できる。また、粗洗浄後、仕上げ洗浄にてメタル版1の全面を上側から順番に洗浄するので、粗洗浄においてクリーム半田が再付着した場合でも、これを綺麗に洗浄することができる。更に、アルカリ性水には油分を鹸化・分散する効果があるため、メタル版1表面のフラックス4も除去できる。また、アルカリ性水はイオン交換水と比較して微細化されやすい性質を備えており、微細化されたアルカリ性水の粒は印刷パターン2内を容易に通過することができるため、パターン内部の半田ボール5に衝突しその圧力エネルギーをもって半田5を除去できる。これによりメタル版1に付着したフラックス4や印刷パターン2内のフラックス4及び半田5を綺麗に除去できる。
【0052】
こうしてメタル版1を洗浄した後、中性水加圧タンク34に貯留した中性水を中性水噴射ノズル28からメタル版1の表裏面に向けて噴射して、メタル版1に付着したアルカリ性水を中性水で洗い流し、メタル版1を乾燥させて、メタル版1の洗浄を完了することになる。また、洗浄後の排液は、ハウジング12の底部に設置した図示外の排水タンクに集められて、フィルターを通して半田5を除去した後、排水することになる。尚、アルカリ性水加圧タンク33は少なくとも1つ以上設けることができ、例えば2つのアルカリ性水加圧タンク33を設けて、一方のアルカリ性水加圧タンク33内のアルカリ性水によるメタル版1の洗浄と、中性水加圧タンク34内の中性水によるメタル版1の洗い流しと、メタル版1の乾燥とを行なっている間に、他方のアルカリ性水加圧タンク33に対してアルカリ性水生成手段32で生成したアルカリ性水を貯留するように構成することが、無駄時間を少なくする上で好ましい。
【0053】
次に、本発明の洗浄方法の効果を検証すべく行った、メタル版1の洗浄試験について説明する。
使用したメタル版1は330mm×250mmのいわゆるMサイズ基板のものでパターンは0.14mm幅のQFP(Quad Flat Package)用のものである。試験はメタル版1にクリーム半田を塗布し、印刷パターン2の穴3全体にクリーム半田が充填されているかを確認した後、イオン交換水(pH6〜pH7)とアルカリ性水(pH11.2)の2種類の洗浄液を用いて洗浄し、結果を比較した。
【0054】
図9は洗浄前のパターンの様子で、穴3にはフラックス4と半田5とが付着されている。図10はイオン交換水を用いて洗浄した結果であり、図11はアルカリ性水を用いて洗浄した結果である。図10、図11を比較すると明らかなように、イオン交換水を用いた洗浄では印刷パターン2内だけでなく、パターン周辺のメタル版1表面にも半田5およびフラックス4が除去されずに残っているのに対し、アルカリ性水を用いた洗浄では印刷パターン2内およびメタル版1表面の半田5およびフラックス4が完全に除去されており、なおかつメタル版1には何等の損傷は見られなかった。洗浄にかかった時間はイオン交換水が46分であったのに対し、アルカリ性水は26分であり、約60%の洗浄時間でイオン交換水を用いたときよりも高い洗浄能力があることが確認できた。
【0055】
次に、アルカリ性水供給装置30の構成を部分的に変更した他の実施の形態について説明する。尚、前記実施の形態と同一部材には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0056】
図12に示すように、このアルカリ性水供給装置40は、アルカリ電解水からなるアルカリ性水を洗浄液として洗浄装置本体11へ供給するもので、塩分濃度を一定濃度に設定した中性水を貯留する貯水タンク41と、貯水タンク41内の中性水を用いてアルカリ電解水からなるアルカリ性水とその副産物としての強酸性水とを生成するアルカリ性水生成器42と、アルカリ性水生成器42から供給されて洗浄装置本体11において洗浄液として使用した後のアルカリ性水と、アルカリ性水生成器42にて生成した強酸性水とを混合して中和する中和タンク43とを備え、中和タンク43内にて生成される中性水を貯水タンク41に戻して、洗浄液として使用した後のアルカリ性水を中性水として再利用するものである。
【0057】
貯水タンク41内には、塩分濃度0.05〜0.2%の中性水が例えば100リットル貯留されている。塩分濃度は0.05%未満の場合には、アルカリ性水生成器42により生成されるアルカリ性水のpHを十分に高めることができず、0.2%を超えると、塩分により洗浄装置本体11やアルカリ性水供給装置40に錆等が発生し易くなるので、0.05〜0.2%に設定することが好ましい。また、貯水タンク41の底部内にはエアレーション管44が設けられ、エアレーション管44にはポンプP4が接続され、貯水タンク41内の中性水は、エアレーション管44から排出される気泡により攪拌されて、塩分濃度が一様になるように構成されている。
【0058】
貯水タンク41には、貯留した中性水の貯水量を測定する図示外のレベルセンサーが設けられるとともに、水供給タンク45がポンプP1と軟水器46とを経て接続され、貯水タンク41内における中性水の貯水量が下限レベルまで低下したときに、水供給タンク45内の水が軟水器46を経て設定レベルまで貯水タンク41へ自動供給されるように構成されている。つまり、貯水タンク41の中性水は、洗浄時における蒸発や拭き取りによって減少するので、この減少した中性水を自動補給することになる。尚、水供給タンク45から貯水タンク41内へ水を供給すると、貯水タンク41内の中性水の塩分濃度が低下するので、水供給タンク45に貯水タンク41の中性水と同じ塩分濃度の水を供給したり、貯水タンク41の塩分濃度を定期的に測定して、手作業で貯水タンク41の中性水の塩分濃度を調整したり、水供給タンク45から貯水タンク41に供給する水量に応じた塩化ナトリウムを貯水タンク41に自動供給して、貯水タンク41の塩分濃度が一様に保たれるように構成することになる。ただし、この水供給タンク45及びポンプP1を省略して、水道水を軟水器46へ直接的に供給するように構成することも可能である。
【0059】
貯水タンク41にはアルカリ性水生成器42がポンプP2と4次フィルターF4とバルブSV1を介して接続され、貯水タンク41内の中性水は4次フィルターF4を経て、例えば直径0.5μm〜1.0μmの油分やゴミが除去された後、アルカリ性水生成器42へ供給される。また、4次フィルターF4で浄化処理した中性水の一部は、バルブSV2を経て中性水加圧タンク34へ供給される。そして、コンプレッサ27から中性水加圧タンク34へ圧縮空気を供給することで、中性水加圧タンク34内の中性水を中性水噴射ノズル28へ加圧供給し、中性水噴射ノズル28からメタル版1の表裏両面に中性水を噴き付けて、メタル版1に付着したアルカリ性水を中性水で洗い流すことができるように構成されている。
【0060】
アルカリ性水生成器42は、電解助剤として塩化ナトリウムを用いて水を電気分解し、アルカリ電解水からなるアルカリ性水とその副産物の強酸性水とを生成する周知の構成のもので、例えばサナステック社製のテクノスーパー502を好適に採用できる。アルカリ性水のpHは、高い値に設定すると洗浄力が向上するが、pH12を超えるとメタル版1や半田5が腐食してしまう恐れがあり、またpH10.5よりも低いと洗浄力が低下して洗浄時間が長くなったり多量のアルカリ性水が必要になったりするので、10.5〜12.0の範囲に設定することが望ましく、特には11.2〜11.5の範囲に設定することが望ましい。また、強酸性水としては、pH2.3〜2.7のものが、アルカリ性水と略同量だけ生成される。
【0061】
アルカリ性水生成器42は、アルカリ性水加圧タンク33を経て洗浄装置本体11の加熱手段29に接続され、アルカリ性水生成器42にて生成したアルカリ性水は、アルカリ性水加圧タンク33に順次供給されて、アルカリ性水加圧タンク33に1回の洗浄に必要な分量以上の設定量だけ貯水される。そして、メタル版1を洗浄する際には、前記実施の形態と同様に、コンプレッサ27からの圧縮空気により、アルカリ性水加圧タンク33から加熱手段29へアルカリ性水を加圧供給して、アルカリ性水を30℃〜60℃の設定温度に加熱した後、これをアルカリ性水噴射ノズル14へ供給するとともに、コンプレッサ27からの圧縮空気をアルカリ性水噴射ノズル14へ供給して、アルカリ性水噴射ノズル14内において、アルカリ性水と圧縮空気とを混合してアルカリ性水を微細粒化し、微細粒化したアルカリ性水を噴射口22からメタル版1に向けて噴射させながら、移動手段により、アルカリ性水噴射ノズル14をメタル版1に沿ってX軸方向及びY軸方向へ順次移動させて、アルカリ性水の微細化粒子によりメタル版1に付着した半田5やフラックス4を洗浄除去することになる。尚、メタル版1の具体的な洗浄方法は、前記実施の形態と同様に、粗洗浄と仕上げ洗浄を行なって洗浄することになり、最後に中性水加圧タンク34に貯留した中性水を中性水噴射ノズル28からメタル版1の表裏面に向けて噴き付けて、メタル版1に付着したアルカリ性水を中性水で洗い流し、メタル版1を乾燥させて、メタル版1の洗浄を完了することになる。また、アルカリ性水加圧タンク33は少なくとも1つ以上設けることができ、例えば2つのアルカリ性水加圧タンク33を設けて、一方のアルカリ性水加圧タンク33内のアルカリ性水によるメタル版1の洗浄と、中性水加圧タンク34内の中性水によるメタル版1の洗い流しと、メタル版1の乾燥とを行なっている間に、他方のアルカリ性水加圧タンク33に対してアルカリ性水生成器42で生成したアルカリ性水を貯留するように構成することが、無駄時間を少なくする上で好ましい。
【0062】
一方、メタル版1の洗浄で使用した後のアルカリ性水及び中性水は、一次フィルターF1を経てアルカリ性水中の半田が除去された後、中和タンク43へ供給され、またアルカリ性水生成器42で生成された強酸性水は、そのまま中和タンク43内へ供給されて、アルカリ性水と強酸性水とが中和タンク43内において、ポンプP4からエアレーション管47へ供給される空気により攪拌されて中和される。そして、この中和により、pH6〜8で且つ塩分濃度が貯水タンク41の中性水と略同じ中性水が中和タンク43内に生成される。尚、洗浄装置10の稼動当初は、アルカリ性水加圧タンク33内に一定量のアルカリ性水が順次貯留され、中和タンク43には強酸性水のみが貯留されてしまう。このため、アルカリ性水加圧タンク33及び中和タンク43が空の状態で、洗浄装置10を稼動させたときには、アルカリ性水生成器42にて生成される強酸性水のうちの、アルカリ性水加圧タンク33に貯留されるアルカリ性水と同量の強酸性水を中和タンク43へ投入しないで洗浄装置10外へ排出し、中和タンク43内に同量のアルカリ性水と強酸性水とが供給されるように調整することになる。
【0063】
中和タンク43は、ポンプP3と2次フィルターF2と3次フィルターF3とを経て貯水タンク41に接続され、中和タンク43内において中和された中性水は、2次フィルターF2により例えば直径0.5μm以上の油分やゴミが除去された後、3次フィルターF3により、例えば直径0.35μm以上の大きさの金属水酸化物が除去され直径0.5μm以上の油分が除去され、貯水タンク41へ戻されることになる。尚、貯水タンク41内の中性水が汚れた場合には、バルブHVを開放して、貯水タンク41内の中性水を4次フィルターF4で濾過した後、洗浄装置10外へ排出することになる。また、フィルターF1〜F4を設ける位置は、ポンプに対する負荷等を考慮して適宜に変更することも可能である。
【0064】
このアルカリ性水供給装置40では、中性水から生成したアルカリ性水をメタル版1の洗浄で用いた後、アルカリ性水生成時に副産物として生成される強酸性水を用いて、この洗浄で用いた後のアルカリ性水を中和し、中和して得られる中性水を再利用して、アルカリ性水を生成できるので、洗浄後のアルカリ性水を長期にわたって洗浄装置10外へ排出する必要がなく、また排出する場合においても中性水として排出できるので、環境に優しい洗浄装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】洗浄装置本体の要部の斜視図
【図2】洗浄装置の概略説明図
【図3】噴射ノズルの斜視図
【図4】噴射ノズルの分解斜視図
【図5】図3のV-V線断面図
【図6】図3のVI-VI線断面図
【図7】粗洗浄の洗浄方法の説明図
【図8】仕上げ洗浄の洗浄方法の説明図
【図9】メタル版の印刷パターンの洗浄前の拡大図
【図10】メタル版の印刷パターンのイオン交換水による洗浄後の拡大図
【図11】メタル版の印刷パターンのアルカリ性水による洗浄後の拡大図
【図12】他のアルカリ性水生成装置を用いた洗浄装置の概略説明図
【0066】
1 メタル版 2 印刷パターン
2A 形成範囲 3 穴
4 フラックス 5 半田
10 メタル版洗浄装置 11 洗浄装置本体
12 ハウジング 13 補強フレーム
14 アルカリ性水噴射ノズル 15 流通路
15a 分岐通路 16 流通路
17 ノズルボディ 18 ノズルキャップ
19 リテーナ 20 供給管
21 プラグ 22 噴射口
23 隔壁 24 第1空間
25 第2空間 26 絞り隙間
27 コンプレッサ 28 中性水噴射ノズル
29 加熱手段
30 アルカリ性水供給装置 31 軟水生成手段
32 アルカリ性水生成手段 33 アルカリ性水加圧タンク
34 中性水加圧タンク
40 アルカリ性水供給装置 41 貯水タンク
42 アルカリ性水生成器 43 中和タンク
44 エアレーション管 45 水供給タンク
46 軟水器 47 エアレーション管
F1 1次フィルター F2 2次フィルター
F3 3次フィルター F4 4次フィルター
HV バルブ SV1 バルブ
SV2 バルブ
P1 ポンプ P2 ポンプ
P3 ポンプ P4 ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷配線基板に対してクリーム半田を印刷するために用いたメタル版の洗浄方法であって、
前記メタル版を水平方向に対して一定の角度を付けて支持した状態で、前記メタル版に向けて噴射ノズルから水系の洗浄液を噴き付けながら、該噴射ノズルを水平方向に往復移動させて下側から順番にメタル版を粗洗浄する、
ことを特徴とするメタル版の洗浄方法。
【請求項2】
前記粗洗浄後、メタル版に向けて噴射ノズルから洗浄液を噴き付けながら、該噴射ノズルを水平方向に往復移動させて上側から順番にメタル版を仕上げ洗浄する請求項1記載のメタル版の洗浄方法。
【請求項3】
前記粗洗浄において、メタル版の印刷パターンの形成範囲に対して洗浄液を順次噴き付けて粗洗浄を行い、前記仕上げ洗浄において、メタル版の全面に対して洗浄液を順次噴き付けて仕上げ洗浄を行なう請求項2記載のメタル版の洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄液を30℃〜60℃に加熱した状態で噴射ノズルへ供給する請求項1〜3のいずれか1項記載のメタル版の洗浄方法。
【請求項5】
前記洗浄液としてアルカリ性水を用い、前記噴射ノズル内において洗浄液と圧縮空気とを混合して、前記洗浄液を微細粒化しながら、この微細粒化した洗浄液を噴射ノズルからメタル版に向けて高速で噴き付けてメタル版を洗浄する請求項1〜4のいずれか1項記載のメタル版の洗浄方法。
【請求項6】
前記洗浄液の水素イオン指数をpH=10.5〜12.0に設定した請求項5記載のメタル版の洗浄方法。
【請求項7】
前記圧縮空気と前記洗浄液の体積比率を500:1〜700:1に設定した請求項5又は6記載のメタル版の洗浄方法。
【請求項8】
前記メタル版を挟んでその両側に噴射ノズルをそれぞれ設け、両噴射ノズルからメタル版の両面に対して洗浄液を噴き付けながらメタル版を洗浄する請求項1〜7のいずれか1項記載のメタル版の洗浄方法。
【請求項9】
前記両噴射ノズルによる洗浄液の噴き付け位置をずらした請求項8記載のメタル版の洗浄方法。
【請求項10】
前記噴射ノズルの先端部とメタル版間の距離を3〜8mmに設定した請求項1〜9のいずれか1項記載のメタル版の洗浄方法。
【請求項11】
前記噴射ノズルとして、圧縮空気の流通路と洗浄液の流通路とを形成したノズルボディと、ノズルボディの先端部に着脱自在に取り付けたノズルキャップとを有し、ノズルキャップの先端部に噴射口を形成し、ノズルボディの先端部に噴射口へ向けて突出する隔壁を形成し、この隔壁によりノズルボディとノズルキャップ間の空間を、隔壁両側の第1空間と、隔壁よりも先端側の第2空間の3つの空間に区画し、1対の第1空間と第2空間とを隔壁の先端部とノズルキャップ間に形成した絞り隙間を介して連通させ、圧縮空気の流通路を1対の第1空間にそれぞれ開口させるとともに、洗浄液の流通路を隔壁の先端部から第2空間に開口させ、第2空間内において洗浄液と圧縮空気とを混合して、洗浄液を微細粒化するものを用いた請求項1〜10のいずれか1項記載のメタル版の洗浄方法。
【請求項12】
前記噴射口をアスペクト比40以上の長穴形状に形成した請求項11記載のメタル版の洗浄方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−283842(P2009−283842A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136716(P2008−136716)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(302018053)株式会社中村超硬 (16)
【Fターム(参考)】