説明

モータ一体型磁気軸受装置

【課題】 スラスト荷重に対する転がり軸受の長期耐久性を向上させることができ、コンパクト化,高速回転化に対応でき、かつ簡単な構成で必要なモータ冷却が行えるモータ一体型磁気軸受装置を提供する。
【解決手段】 このモータ一体型磁気軸受装置は、モータ28のロータ28aとコンプレッサ翼車6aとタービン翼車7aとが設けられた主軸13を支持する。転がり軸受15,16と磁気軸受とを備え、転がり軸受15,16がラジアル負荷を支持し、磁気軸受がアキシアル負荷と軸受予圧のどちらか一方または両方を支持する。磁気軸受を構成する電磁石17は、主軸13に設けられたスラスト板13aに非接触で対向するように、スピンドルハウジング14に取付けられる。スピンドルハウジング14内のモータ28の配置部を貫通するモータ冷却流路41が設けられる。このモータ冷却流路41は、前記コンプレッサ翼車6aを有するコンプレッサ6、および前記タービン翼車7aを有する膨張タービン7が介在する冷凍サイクル装置の冷媒流路に介在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気サイクル冷凍冷却用タービンユニット等に用いられる磁気軸受装置に関し、特に、転がり軸受と磁気軸受を併用し、磁気軸受がアキシアル負荷と軸受予圧のどちらか一方または両方を支持するようにしたモータ一体型の磁気軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気サイクル冷凍冷却システムは、冷媒として空気を用いるため、フロンやアンモニアガス等を用いる場合に比べてエネルギー効率が不足するが、環境保護の面では好ましい。また、冷凍倉庫等のように、冷媒空気を直接に吹き込むことができる施設では、庫内ファンやデフロストの省略等によってトータルコストを引下げられる可能性があり、このような用途で空気サイクル冷凍冷却システムが提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
また、−30℃〜−60℃のディープ・コール領域では、空気冷却の理論効率は、フロンやアンモニアガスと同等以上になることが知られている。ただし、上記空気冷却の理論効率を得ることは、最適に設計された周辺装置があって、始めて成り立つとも述べられている。周辺装置は、圧縮機や膨張タービン等である。
圧縮機,膨張タービンとしては、コンプレッサ翼車および膨張タービン翼車を共通の主軸に取付けたタービンユニットが用いられている(特許文献1)。
【0004】
なお、プロセスガスを処理するタービン・コンプレッサとしては、主軸の一端にタービン翼車、他端にコンプレッサ翼車を取付け、前記主軸を電磁石の電流で制御するジャーナルおよびスラスト軸受で支承した磁気軸受式タービン・コンプレッサが提案されている(特許文献2)。
また、ガスタービンエンジンにおける提案ではあるが、主軸支持用の転がり軸受に作用するスラスト荷重が軸受寿命の短縮を招くことを回避するため、転がり軸受に作用するスラスト荷重をスラスト磁気軸受により低減することが提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特許第2623202号公報
【特許文献2】特開平7−91760号公報
【特許文献3】特開平8−261237公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、空気サイクル冷凍冷却システムとして、ディープ・コール領域で高効率となる空気冷却の理論効率を得るためには、最適に設計された圧縮機や膨張タービンが必要となる。
圧縮機,膨張タービンとしては、上記のようにコンプレッサ翼車および膨張タービン翼車を共通の主軸に取付けたタービンユニットが用いられている。このタービンユニットは、膨張タービンの生じる動力によりコンプレッサ翼車を駆動できることで空気サイクル冷凍機の効率を向上させている。
【0006】
しかし、実用的な効率を得るためには、各翼車とハウジングとの隙間を微小に保つ必要がある。この隙間の変動は、安定した高速回転の妨げとなり効率の低下を招く。
また、コンプレッサ翼車やタービン翼車に作用する空気により、主軸にスラスト力が作用し、主軸を支持する軸受にスラスト荷重が負荷される。空気サイクル冷凍冷却システムにおけるタービンユニットの主軸の回転速度は、1分間に8万〜10万回転であり、一般的な用途の軸受に比べて非常に高速となる。そのため、上記のようなスラスト荷重は、主軸を支持する軸受の長期耐久性の低下、寿命低下を招き、空気サイクル冷凍冷却用タービンユニットの信頼性を低下させる。このような軸受の長期耐久性の課題を解消しなくては、空気サイクル冷凍冷却用タービンユニットの実用化が難しい。しかし、上記特許文献1に開示の技術は、この高速回転下におけるスラスト荷重の負荷に対する軸受の長期耐久性の低下については解決されるに至っていない。
【0007】
特許文献2の磁気軸受式タービン・コンプレッサのように、主軸を磁気軸受からなるジャーナル軸受およびスラスト軸受で支承したものでは、ジャーナル軸受にアキシアル方向の規制機能がない。そのため、スラスト軸受の制御の不安定要因等があると、上記翼車とディフューザ間の微小隙間を保って安定した高速回転を行うことが難しい。磁気軸受の場合は、電源停止時における接触の問題もある。
【0008】
そこで、主軸の支持に転がり軸受とスラスト支持用の磁気軸受を併用し、かつ磁気軸受のスラスト板をモータロータとして用いるモータ一体型の磁気軸受装置を提案した(例えば、特願2005−356035号)。
これによると、主軸にかかるスラスト力を磁気軸受で支持するため、非接触でトルクの増大を抑えながら、転がり軸受に作用するスラスト力を軽減することができる。その結果、各翼車とハウジングとの微小隙間を一定に保つことができ、スラスト荷重の負荷に対する転がり軸受の長期耐久性を向上させることができる。また、磁気軸受とモータロータの一体化により、コンパクトな構成とできる。
【0009】
しかし、モータの冷却性能につき、いま一つ不十分であった。モータ一体型磁気軸受装置では、磁気軸受とモータとが設けられ、磁気軸受におけるコイル等での発熱と、モータにおける発熱とが生じるため、冷却効果を十分に得ることが難しい。特に、主軸のスラスト板を磁気軸受の電磁石ターゲットとモータロータ用の永久磁石の取付けに用いる形式のものであると、コンパクト化の面では優れるが、モータでの発熱量が非常に多くなる。モータの冷却不足はモータ効率を下げ、回転速度を制限するばかりか、安全性にも係わるので、効果的な冷却対策が求められる。また、冷却液を循環させる手段を設けるのでは、構成が複雑となる。
【0010】
この発明の目的は、スラスト荷重に対する転がり軸受の長期耐久性を向上させることができ、コンパクト化,高速回転化に対応でき、かつ簡単な構成で必要なモータ冷却が行えるモータ一体型磁気軸受装置を提供することである。
この発明の他の目定は、モータ冷却のための専用のブロア類を必要とせずに、モータへの冷媒の強制送りが行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明のモータ一体型磁気軸受装置は、コンプレッサ翼車およびタービン翼車が設けられた主軸を支持する転がり軸受および磁気軸受と、前記主軸を回転駆動するモータとを備え、前記転がり軸受がラジアル負荷を支持し、前記磁気軸受がアキシアル負荷と軸受予圧のどちらか一方または両方を支持し、前記磁気軸受を構成する電磁石は主軸に設けられた強磁性体からなるフランジ状のスラスト板に非接触で対向するように、スピンドルハウジングに取付けられ、前記モータのロータが前記主軸に設けられ、このモータロータと対向してモータコイルを有するモータステータが前記スピンドルハウジングに設置されたモータ一体型の磁気軸受装置であって、前記スピンドルハウジング内の前記モータの配置部を貫通するモータ冷却流路を設け、前記コンプレッサ翼車を有するコンプレッサ、および前記タービン翼車を有する膨張タービンが介在する冷凍サイクル装置の冷媒流路に、前記モータ冷却流路を介在させたことを特徴とする。
【0012】
この構成によると、転がり軸受と磁気軸受を併用し、転がり軸受がラジアル負荷を支持し、磁気軸受がアキシアル負荷と軸受予圧のどちらか一方または両方を支持するものであるため、アキシアル方向の精度の良い支持が行え、また転がり軸受の長期耐久性を確保でき、磁気軸受のみの支持の場合における電源停止時の損傷も回避される。
また、前記スピンドルハウジング内の前記モータの配置部を貫通するモータ冷却流路を設け、前記コンプレッサ翼車を有するコンプレッサ、および前記タービン翼車を有する膨張タービンが介在する冷凍サイクル装置の冷媒流路に、前記モータ冷却流路を介在させたため、モータ冷却流路を設けただけの簡単な構成で必要なモータ冷却が行え、ブロア類等の専用の冷媒供給源を必要とせずにモータへの冷媒の強制送りを行うことができる。
【0013】
この発明において、前記冷凍サイクル装置の冷媒流路は、前記コンプレッサから吐出された冷媒を冷却する熱交換器を有し、前記冷媒流路における前記熱交換器よりも後段の部分に前記モータ冷却流路を介在させても良い。
この構成の場合、コンプレッサから吐出され熱交換器で冷却された後の冷媒がモータ冷却流路を経てモータに供給されるため、効率の良いモータ冷却が行える。
【0014】
この発明において、前記モータがアキシアルギャップ型のモータであって、前記モータのロータが、前記スラスト板とこのスラスト板の周方向に等ピッチで設けられた複数個の永久磁石とで構成されるものとしても良い。アキシアルギャップ型のモータであると、主軸を短く構成できて、それだけ主軸の固有振動数が高くなり、共振上の問題が生じることなく、主軸を高速回転できる。その反面、モータの効率の良い冷却を行うことが難しい。しかし、上記のようにモータ冷却流路を設けることで、モータの必要な冷却が行える。
【0015】
この発明において、前記主軸に前記スラスト板を対向して2枚設け、これら2枚のスラスト板の間に前記モータコイルを配置し、前記2枚のスラスト板に前記永久磁石を設け、前記2枚のスラスト板の互いの対向側とは反対側の面にそれぞれ対向して前記磁気軸受の電磁石を配置し、前記モータ冷却流路は、前記2枚のスラスト板および前記モータコイルが内部に位置するものとしても良い。
この構成の場合、主軸に設けたれた2枚の対向するスラスト板にモータロータとなる永久磁石を設け、これら2枚のスラスト板の間にモータコイルを配置したため、主軸をより一層短くできて全体をコンパクトな構成とできる。しかも、モータ冷却流路に流入する冷媒が、モータロータの構成部材となる2枚のスラスト板と、モータステータを構成するモータコイルの配置部を流れることになるので、より効率の良いモータ冷却を行うことができる。
【0016】
この発明において、前記冷凍サイクル装置が、前記冷媒となる流入空気に対して、前記コンプレッサによる圧縮、他の熱交換器による冷却、前記膨張タービンによる断熱膨張、を順次行い、空調または冷凍を行う空気サイクル冷凍冷却システムであっても良い。
前記冷凍サイクル装置がこのような空気サイクル冷凍冷却システムであると、圧縮膨張タービンシステムにおいて、各翼車の適切な隙間を保って主軸の安定した高速回転が得られ、かつ軸受の長期耐久性の向上、寿命の向上が得られることから、圧縮膨張タービンシステムの全体として、しいては空気サイクル冷凍冷却システムの全体としても信頼性が向上する。また、空気サイクル冷凍冷却システムのネックとなっている圧縮膨張タービンシステムの主軸軸受の安定した高速回転、長期耐久性、信頼性が向上することから、空気サイクル冷凍冷却システムの実用化が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
この発明のモータ一体型磁気軸受装置は、コンプレッサ翼車およびタービン翼車が設けられた主軸を支持する転がり軸受および磁気軸受と、前記主軸を回転駆動するモータとを備え、前記転がり軸受がラジアル負荷を支持し、前記磁気軸受がアキシアル負荷と軸受予圧のどちらか一方または両方を支持し、前記磁気軸受を構成する電磁石は主軸に設けられた強磁性体からなるフランジ状のスラスト板に非接触で対向するように、スピンドルハウジングに取付けられ、前記モータのロータが前記主軸に設けられ、このモータロータと対向してモータコイルを有するモータステータが前記スピンドルハウジングに設置されたモータ一体型の磁気軸受装置であって、前記スピンドルハウジング内の前記モータの配置部を貫通するモータ冷却流路を設け、前記コンプレッサ翼車を有するコンプレッサ、および前記タービン翼車を有する膨張タービンが介在する冷凍サイクル装置の冷媒流路に、前記モータ冷却流路を介在させたため、簡単な構成で必要なモータ冷却が行える。
特に、冷媒供給のための専用のブロア類を必要とせずに、冷媒の強制送りが行え、簡単な構成で効率の良いモータ冷却が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の一実施形態を図1ないし図3と共に説明する。図1は、この実施形態のモータ一体型の磁気軸受装置を組み込んだタービンユニット5の断面図を示す。このタービンユニット5は圧縮膨張タービンシステムを構成するものであり、コンプレッサ6および膨張タービン7を有し、コンプレッサ6のコンプレッサ翼車6aおよび膨張タービン7のタービン翼車7aが主軸13の両端にそれぞれ嵌合して固定されている。主軸13の材料には、磁気特性の良好な低炭素鋼が使用される。
【0019】
図1において、コンプレッサ6は、コンプレッサ翼車6aと隙間d1を介して対向するコンプレッサハウジング6bを有し、中心部の吸込口6cから軸方向に吸入した空気を、コンプレッサ翼車6aで圧縮し、外周部の出口(図示せず)から矢印6dで示すように排出する。
膨張タービン7は、タービン翼車7aと微小の隙間d2を介して対向するタービンハウジング7bを有し、外周部から矢印7cで示すように吸い込んだ空気を、タービン翼車7aで断熱膨張させ、中心部の排出口7dから軸方向に排出する。
【0020】
このタービンユニット5におけるモータ一体型の磁気軸受装置は、主軸13をラジアル方向に対し複数の転がり軸受15,16で支持し、主軸13にかかるアキシアル負荷と軸受予圧のどちらか一方または両方を、それぞれ磁気軸受となる電磁石17と永久磁石17Aとにより支持すると共に、主軸13を回転駆動するアキシアルギャップ型のモータ28を設けたものである。このタービンユニット5は、主軸13に作用するスラスト力を検出するセンサ18と、このセンサ18の出力に応じて前記電磁石17による支持力を制御する磁気軸受用コントローラ19と、電磁石17とは独立に前記モータ28を制御するモータ用コントローラ29とを有している。
主軸13の軸方向中間部には、強磁性体からなるフランジ状の2つのスラスト板13a,13bが、軸方向に並んで主軸13に垂直かつ同軸に設けられている。片方の磁気軸受の構成部品である電磁石17は、前記2枚のスラスト板13a,13bのうち、コンプレッサ6寄りに位置するスラスト板13aのコンプレッサ6側に向く片面を磁石ターゲットとして、この片面に非接触で対向するようにスピンドルハウジング14に設置されている。もう片方の磁気軸受の構成部品である永久磁石17Aは、膨張タービン7寄りに位置するスラスト板13bの膨張タービン7側に向く片面を磁石ターゲットとして、この片面に非接触で対向するようにスピンドルハウジング14に設置されている。なお、ここでは片方の磁気軸受に永久磁石17Aを用いたが、永久磁石17Aを電磁石17に置き換えても良い。
【0021】
モータ28は、主軸13に設けられたモータロータ28aと、このモータロータ28aに対し軸方向に対向するモータステータ28bとでなる。具体的には、モータ28の一部品を構成するモータロータ28aは、主軸13における前記各スラスト板13a,13bの電磁石17および永久磁石17Aが対向する側とは反対側の各片面に、円周方向に等ピッチで並ぶ永久磁石28aaを配置することで左右一対のものが構成される。このように軸方向に対向配置される永久磁石28aaは、その磁極が互いに異極となるように設定される。主軸13には磁気特性の良好な低炭素鋼を使用しているので、主軸13と一体構造となるように設けられる前記各スラスト板13a,13bを、永久磁石28aaのバックヨークおよび磁石ターゲットに兼用できる。
【0022】
モータ28の他の部品であるモータステータ28bは、前記左右一対のモータロータ28aに挟まれる軸方向中央の位置において、これら両モータロータ28aの各面に非接触で対向するようにコアの無い状態で配置したモータコイル28baを、スピンドルハウジング14に設置して構成される。このモータ28は、前記モータロータ28aとモータステータ28b間に作用するローレンツ力により、主軸13を回転させる。このように、このアキシアルギャップ型のモータ28はコアレスモータとされていることから、モータロータ28aとモータステータ28b間の磁気カップリングによる負の剛性はゼロとなっている。
【0023】
モータ28の冷却手段として、モータ28の配置部を貫通するモータ冷却流路41が、スピンドルハウジング14に設けられている。このモータ冷却流路41は、前記コンプレッサ翼車6aを有するコンプレッサ6、および前記タービン翼車7aを有する膨張タービン7が介在する図4の冷凍サイクル装置50(後に説明する)の冷媒流路1に介在させている。モータ28のモータステータ28bは、前記モータ冷却流路41の内壁に支持部材42を介して支持されている。この場合、モータ冷却流路41は、その内部に前記2枚のスラスト板13a,13bおよび前記モータコイル28が位置するように設置される。
【0024】
主軸13を支持する軸受15,16は転がり軸受であって、アキシアル方向位置の規制機能を有するものであり、例えば深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受が用いられる。深溝玉軸受の場合、両方向のスラスト支持機能を有し、内外輪のアキシアル方向位置を中立位置に戻す作用を持つ。これら2個の転がり軸受15,16は、それぞれスピンドルハウジング14におけるコンプレッサ翼車6aおよびタービン翼車7aの近傍に配置されている。
【0025】
主軸13は、中間部の大径部13cと、両端部の小径部13dとを有する段付き軸とされている。両側の軸受15,16は、その内輪15a,16aが小径部13dに圧入状態に嵌合し、片方の幅面が大径部13cと小径部13d間の段差面に係合する。スピンドルハウジング14における両側の軸受15,16よりも各翼車6a,7a側の部分には、主軸13との間の隙間を密封するシール21,22が設けられている。
【0026】
前記センサ18は、タービン翼車7a側の軸受16の近傍における静止側、つまりスピンドルハウジング14側に設けられ、軸受16の外輪16bを支持する軸受ハウジングを兼ねる。このセンサ18は、アキシアル方向に移動自在にスピンドルハウジング14に嵌合している。また、センサ18には、センサ予圧ばね25によりアキシアル方向の予圧が印加されている。
【0027】
センサ予圧ばね25による予圧は、押し付け力によってスラスト力を検出するセンサ18が、主軸13のアキシアル方向のいずれの向きの移動に対しても検出できるようにするためであり、タービンユニット5の通常の運転状態で主軸13に作用する平均的なスラスト力以上の大きさとされる。
【0028】
センサ18の非配置側の軸受15は、スピンドルハウジング14に対してアキシアル方向に移動自在に設置され、かつ軸受予圧ばね26によって弾性支持されている。この例では軸受15の外輪15bが、軸受ハウジング27を介してスピンドルハウジング14の内径面にアキシアル方向移動自在に嵌合していて、軸受予圧ばね26は、軸受ハウジング27とスピンドルハウジング14との間に介在している。軸受予圧ばね26は、内輪15aの幅面が係合した主軸13の段面に対向して外輪15bを付勢するものとされ、軸受15に予圧を与えている。軸受予圧ばね26は、センサ予圧ばね25よりもばね定数が小さいものとされる。
【0029】
上記タービンユニット5におけるモータ一体型の磁気軸受装置の力学モデルは簡単なバネ系で構成することができる。すなわち、このバネ系は、軸受15,16とこれら軸受の支持系(センサ予圧ばね25、軸受予圧ばね26、軸受ハウジング27など)とで形成される合成バネと、モータ部(電磁石17と永久磁石17Aとモータ28)で形成される合成バネとが並列となった構成である。このバネ系において、軸受15,16とこれら軸受の支持系とで形成される合成バネは、変位した方向と逆の方向に変位量に比例して作用する剛性となるのに対し、電磁石17と永久磁石17Aとモータ28とで形成される合成バネは、変位した方向に変位量に比例して作用する負の剛性となる。
このため、上記した両合成バネの剛性の大小関係を、
軸受等による合成バネの剛性値<電磁石・モータによる合成バネの負の剛性値…(1)とした場合、機械システムの位相は180°遅れとなり不安定な系となることから、電磁石17を制御する磁気軸受用コントローラ19において、予め位相補償回路を付加する必要が生じ、コントローラ19の構成が複雑なものになる。
【0030】
そこで、この実施形態のモータ一体型の磁気軸受装置では、上記した両合成バネの剛性の大小関係を、
軸受等による合成バネの剛性値>電磁石・モータによる合成バネの負の剛性値…(2)としている。とくに、このモータ一体型の磁気軸受装置では、上記したようにアキシアルギャップ型のモータ28をコアレスモータとしているので、モータ28に作用する負の剛性値をゼロとすることができ、モータ28が高負荷動作し過大なアキシアル荷重が作用した状態においても上記(2)式の大小関係を保つことができる。
その結果、制御帯域において、機械システムの位相が180°遅れとなることを防止できるので、モータ28が高負荷動作し過大なアキシアル荷重が作用した状態でも磁気軸受用コントローラ19の制御対象を安定なものとでき、コントローラ19の回路構成を図2のように比例もしくは比例積分を用いた簡単なものに構成できる。
【0031】
ブロック図で示す図2の磁気軸受用コントローラ19では、センサ18の検出出力P1,P2をセンサ出力演算回路30で加減算し、その演算結果を比較器31で基準値設定手段32の基準値と比較して偏差を演算し、さらに演算した偏差をPI補償回路(もしくはP補償回路)33によりタービンユニット5に応じて適宜設定される比例積分(もしくは比例)処理を行うことで、電磁石17の制御信号を演算するようにしている。PI補償回路(もしくはP補償回路)33の出力は、電磁石17を駆動するパワー回路34に入力される。
【0032】
同じくブロック図で示す図3のモータ用コントローラ29では、回転同期指令信号を基に、モータロータ28aの回転角をフィードバック信号として位相調整回路38でモータ駆動電流の位相調整が行われ、その調整結果に応じたモータ駆動電流をモータ駆動回路39からモータステータ28bに供給することによって、定回転制御が行われる。前記回転同期指令信号は、モータロータ28aに設けられた回転角度検出センサ(図示せず)の出力に応じて演算される。
【0033】
この構成のタービンユニット5は、図4に冷凍サイクル装置50として示す例えば空気サイクル冷凍冷却システムに使用される。
このような使用例において、このタービンユニット5は、コンプレッサ翼車6aおよびタービン翼車7aが、前記スラスト板13a,13bとモータロータ28aと共通の主軸13に嵌合し、モータ28の動力とタービン翼車7aで発生した動力のどちらか一方または両方によりコンプレッサ翼車6aを駆動するものとしている。このため、各翼車6a,7aの適切な隙間d1,d2を保って主軸13の安定した高速回転が得られ、かつ軸受15,16の長期耐久性の向上、寿命の向上が得られる。
【0034】
タービンユニット5の圧縮,膨張の効率を確保するためには、各翼車6a,7aとハウジング6b,7bとの隙間d1,d2を微小に保つ必要がある。例えば、このタービンユニット5を空気サイクル冷凍冷却システムに適用する場合には、この効率確保が重要となる。これに対して、主軸13を転がり形式の軸受15,16により支持するため、転がり軸受の持つアキシアル方向位置の規制機能により、主軸13のアキシアル方向位置がある程度規制され、各翼車6a,7aとハウジング6b,7bとの隙間d1,d2を一定に保つことができる。
【0035】
しかし、タービンユニット5の主軸13には、各翼車6a,7aに作用する空気の圧力でスラスト力がかかる。また、空気冷却システムで使用するタービンユニット5では、1分間に例えば8万〜10万回転程度の非常に高速の回転となる。そのため、主軸13を回転支持する転がり軸受15,16に上記スラスト力が作用すると、軸受15,16の長期耐久性が低下する。
この実施形態は、上記スラスト力を電磁石17と永久磁石17Aとで支持するため、非接触でトルクの増大を抑えながら、主軸13の支持用の転がり軸受15,16に作用するスラスト力を軽減することができる。この場合に、主軸13に作用するスラスト力を検出するセンサ18と、このセンサ18の出力に応じて前記電磁石17による支持力を制御する磁気軸受用コントローラ19とを設けたため、転がり軸受15,16を、その軸受仕様に応じてスラスト力に対し最適な状態で使用することができる。
特に、軸方向に並べて主軸13に設けられた2つのスラスト板13a,13bの軸方向外側に1つの電磁石17と1つの永久磁石17Aを配置して磁気軸受ユニットを構成すると共に、前記両スラスト板13a,13bで挟まれる位置にアキシアルギャップ型のモータ28を配置してモータユニットを構成することにより、磁気軸受ユニットとモータユニットをコンパクトな一体構造としているため、主軸53の軸長を短くでき、それだけ主軸13の固有振動数が高くなって、主軸13を高速回転させることができる。
【0036】
また、この構成によると、モータ28の冷却手段として、スピンドルハウジング14内のモータ28の配置部を貫通するモータ冷却流路41を設け、コンプレッサ翼車6aを有するコンプレッサ6、およびタービン翼車7aを有する膨張タービン7が介在する冷凍サイクル装置50(図4)の冷媒流路1に、前記モータ冷却流路41を介在させたため、モータ冷却流路41を設けただけの簡単な構成で、必要なモータ冷却が行える。この場合に、モータ冷却流路41に流す冷媒として、冷凍サイクル装置50の冷媒流路1を流れる冷却媒体(空気)を利用するため、ブロア類等の専用の冷媒供給源を必要とせずに、冷媒の強制循環が行え、簡単な構成で、効率の良いモータ冷却が行える。
【0037】
モータ28はアキシアルギャップモータであるため、主軸13を短く構成できて、共振上の問題を生じることなく主軸13を高速回転できる反面、モータ28の効率の良い冷却を行うことが難しい。しかし、上記のように、このモータ一体型磁気軸受装置が組み込まれるタービンユニット5のコンプレッサ6および膨張タービン7が介在する冷凍サイクル装置50の冷媒流路1を流れる冷媒を、スピンドルハウジング14内のモータ28の配置部に導入するため、簡単な構成で、冷媒の強制循環による優れた冷却効果がえられる。
【0038】
また、モータ冷却流路41は、その内部に前記2枚のスラスト板13a,13bおよび前記モータコイル28が位置するように設置されるので、モータ冷却流路41に流入する冷却媒体である空気が、モータロータ28aの構成部材となる2枚のスラスト板13a,13bと、モータステータ28bを構成するモータコイル28baの配置部を流れることになり、より効率の良いモータ冷却を行うことができる。
【0039】
図4は、上記タービンユニット5を用いた冷凍システム装置50の全体の構成を示す。この冷凍システム装置50は、冷凍庫等の被冷却空間10の空気を直接に冷媒として冷却するシステムであり、被冷却空間10にそれぞれ開口した空気の取入口1aから排出口1bに至る冷媒流路1を有している。この冷媒流路1は空気の循環経路であり、この冷媒流路1に、第1の熱交換器3、空気サイクル冷凍冷却用タービンユニット5のコンプレッサ6、第2の熱交換器8、中間熱交換器9、および前記タービンユニット5の膨張タービン7が順に設けられている。第1の熱交換器3から第2の熱交換器8に至る経路の途中が、モータ28の配置部を貫通する上記したモータ冷却流路41とされる。モータ冷却流路41をこのような配置とすると、コンプレッサ6から吐出され第1の熱交換器3で冷却された後の空気がモータ冷却流路41を経てモータ28に供給されるため、効率の良いモータ冷却が行える。
中間熱交換器9は、同じ冷媒流路1内で取入口1aの付近の流入空気と、後段の圧縮で昇温し、冷却された空気との間で熱交換を行うものであり、取入口1aの付近の空気は熱交換器9a内を通る。
【0040】
第1の熱交換器3および第2の熱交換器8は、冷却媒体を循環させる熱交換器3a,8aをそれぞれ有し、熱交換器3a,8a内の水等の冷却媒体と冷媒流路1の空気との間で熱交換を行う。各熱交換器3a,8aは、冷却塔11に配管接続されており、熱交換で昇温した冷却媒体が冷却塔11で冷却される。
【0041】
この冷凍サイクル装置50は、被冷却空間10を0℃〜−60℃程度に保つシステムであり、被冷却空間10から冷媒流路1の取入口1aに0℃〜−60℃程度で1気圧の空気が流入する。なお、以下に示す温度および気圧の数値は、一応の目安となる一例である。取入口1aに流入した空気は、中間熱交換器9により、冷媒流路1中の後段の空気の冷却に使用され、30℃まで昇温する。
【0042】
中間熱交換器9を経た30℃,1気圧の空気が、タービンユニット5のコンプレッサ6により、1.8気圧まで圧縮され、この圧縮により80℃程度に昇温した状態で、第1の熱交換器3により30℃に冷却される。この30℃の空気は、モータ28の冷却に利用されて50℃程度に昇温した状態で、第2の熱交換器8および中間熱交換器9により−20℃まで冷却される。気圧はコンプレッサ6から排出された1.8気圧が維持される。
中間熱交換器9で−20℃まで冷却された空気は、タービンユニット5の膨張タービン7により断熱膨張され、−50℃まで冷却されて排出口1bから被冷却空間10に排出される。この冷凍サイクル装置50は、このような冷凍サイクルを行う。
【0043】
この冷凍サイクル装置50では、タービンユニット5において、各翼車6a,7aの適切な隙間d1,d2を保って主軸13の安定した高速回転が得られ、かつ軸受15,16の長期耐久性の向上、寿命の向上が得られることで、軸受15,16の長期耐久性が向上することから、タービンユニット5の全体として、しいては冷凍サイクル装置50のシステム全体として信頼性が向上する。このように、空気サイクル冷凍冷却システムのネックとなっているタービンユニット5の主軸軸受15,16の安定した高速回転、長期耐久性、信頼性が向上するため、空気サイクル冷凍冷却システムの実用化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の一実施形態にかかるモータ一体型の磁気軸受装置が組み込まれたタービンユニットの断面図である。
【図2】モータ一体型の磁気軸受装置に用いられる磁気軸受用コントローラの一例を示すブロック図である。
【図3】モータ一体型の磁気軸受装置に用いられるモータ用コントローラの一例を示すブロック図である。
【図4】図1のタービンユニットを適用した冷凍サイクル装置の系統図である。
【符号の説明】
【0045】
1…冷媒流路
3…第1の熱交換器
5…タービンユニット
6…コンプレッサ
6a…コンプレッサ翼車
7…膨張タービン
7a…タービン翼車
8…第2の熱交換器
9…中間熱交換器
13…主軸
13a,13b…スラスト板
14…スピンドルハウジング
15,16…転がり軸受
17…電磁石(磁気軸受)
17A…永久磁石(磁気軸受)
28…アキシアルギャップモータ
28a…モータロータ
28aa…永久磁石
28b…モータステータ
28ba…モータコイル
41…モータ冷却流路
50…冷凍サイクル装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサ翼車およびタービン翼車が設けられた主軸を支持する転がり軸受および磁気軸受と、前記主軸を回転駆動するモータとを備え、前記転がり軸受がラジアル負荷を支持し、前記磁気軸受がアキシアル負荷と軸受予圧のどちらか一方または両方を支持し、前記磁気軸受を構成する電磁石は主軸に設けられた強磁性体からなるフランジ状のスラスト板に非接触で対向するように、スピンドルハウジングに取付けられ、前記モータのロータが前記主軸に設けられ、このモータロータと対向してモータコイルを有するモータステータが前記スピンドルハウジングに設置されたモータ一体型の磁気軸受装置であって、
前記スピンドルハウジング内の前記モータの配置部を貫通するモータ冷却流路を設け、前記コンプレッサ翼車を有するコンプレッサ、および前記タービン翼車を有する膨張タービンが介在する冷凍サイクル装置の冷媒流路に、前記モータ冷却流路を介在させたことを特徴とするモータ一体型磁気軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記冷凍サイクル装置の冷媒流路は、前記コンプレッサから吐出された冷媒を冷却する熱交換器を有し、前記冷媒流路における前記熱交換器よりも後段の部分に前記モータ冷却流路を介在させたモータ一体型磁気軸受装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記モータがアキシアルギャップ型のモータであって、前記モータのロータが、前記スラスト板とこのスラスト板の周方向に等ピッチで設けられた複数個の永久磁石とで構成されるモータ一体型磁気軸受装置。
【請求項4】
請求項2において、前記主軸に前記スラスト板を対向して2枚設け、これら2枚のスラスト板の間に前記モータコイルを配置し、前記2枚のスラスト板に前記永久磁石を設け、前記2枚のスラスト板の互いの対向側とは反対側の面にそれぞれ対向して前記磁気軸受の電磁石を配置し、前記モータ冷却流路は、前記2枚のスラスト板および前記モータコイルが内部に位置するものとしたモータ一体型磁気軸受装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記冷凍サイクル装置が、前記冷媒となる流入空気に対して、前記コンプレッサによる圧縮、他の熱交換器による冷却、前記膨張タービンによる断熱膨張、を順次行い、空調または冷凍を行う空気サイクル冷凍冷却システムであるモータ一体型磁気軸受装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−219988(P2008−219988A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51016(P2007−51016)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】