説明

モータ駆動装置およびハイブリッド駆動装置

【課題】複数のモータを備えたモータ駆動装置およびハイブリッド駆動装置において、1つのモータの異常発生時に実行される他のモータを用いた退避運転での過電流発生の防止および退避運転による移動距離の増加を両立する。
【解決手段】インバータ14に短絡故障が発生した場合には、モータジェネレータMG2による退避運転が実行される。MGECU300は、退避運転時には、位置センサ22の検出値から算出したモータジェネレータMG1の回転数が所定の基準回転数を超える場合には、電源線に対して短絡故障したスイッチング素子と並列接続されるスイッチング素子をすべてオンさせる。回転数が基準回転数以下の場合には、MGECU300は、短絡故障したスイッチング素子と直列接続されるスイッチング素子のみをオンさせる。これにより、退避運転を制限することなく、インバータ14における過電流の発生を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータ駆動装置およびハイブリッド駆動装置に関し、より特定的には、共通の出力軸へ動力を出力可能に連結された複数のモータを含んで構成されたモータ駆動装置およびハイブリッド駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、環境に配慮した自動車として、ハイブリッド自動車(Hybrid Vehicle)が注目されている。ハイブリッド自動車は、従来のエンジンに加え、直流電源とインバータとインバータによって駆動されるモータとを動力源とする自動車である。つまり、エンジンを駆動することにより動力源を得るとともに、直流電源からの直流電圧をインバータによって交流電圧に変換し、その変換した交流電圧によりモータを回転することによって動力源を得るものである。
【0003】
このようなハイブリッド自動車の一種として、たとえば特開2007−28733号公報(特許文献1)には、いわゆるパラレルハイブリッド車両が開示される。パラレルハイブリッド車両では、エンジンから出力された動力は、第1のモータジェネレータを有する動力分割機構を介することにより、その一部が駆動軸に伝達され、残りの動力が第1のモータジェネレータにより電力として回生される。この電力は、バッテリ充電や、エンジン以外の動力源としての第2のモータジェネレータの駆動に用いられる。
【0004】
しかしながら、このようなパラレルハイブリッド車両では、エンジンまたは第1のモータジェネレータに異常が生じた場合には、エンジンを主動力源とした通常の車両走行が不可能となる。このため、特許文献1には、エンジンまたは第1のモータジェネレータの異常時に、二次電池の充電量に応じて決定された性能範囲の中で第2のモータジェネレータを用いた退避運転を行なうことにより、退避運転による移動距離を延ばす技術が開示されている。
【0005】
このような退避運転時においては、第1および第2のモータジェネレータが同一の出力軸に連結されるため、第2のモータジェネレータの回転に伴なって第1のモータジェネレータも回転する。このため、第1のモータジェネレータに接続されたインバータ内に短絡故障が発生している場合は、退避運転時に、第1のモータジェネレータに発生した誘起電圧により、インバータ内に短絡電流が発生するおそれがある。
【0006】
そのため、特許文献1では、退避運転中に、第1のモータジェネレータに接続されたインバータを流れる電流が過大となった場合には、第2のモータジェネレータによる退避運転を制限する構成とする。これにより、過大な短絡電流により、インバータ構成部品の耐熱温度を超える高温の発生によって、さらなる素子損傷が発生するのを防止している。
【特許文献1】特開2007−28733号公報
【特許文献2】特開2006−170120号公報
【特許文献3】特開2007−245966号公報
【特許文献4】特開平8−182105号公報
【特許文献5】特開2007−244126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように、第1のモータジェネレータに接続されたインバータを流れる電流に応じて、第2のモータジェネレータの運転を制限する構成では、過大な短絡電流によるさらなる素子損傷の発生を防止できる一方で、退避運転による移動距離の増加に限界が生じることになる。そのため、車両を安全な場所まで避難させることができない可能性がある。
【0008】
したがって、異常発生時の車両の安全性を保障するフェイルセーフ機能をより一層充実させるためには、インバータの素子保護と退避運転による移動距離の増加との両立が求められる。
【0009】
それゆえ、この発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その目的は、共通の出力軸へ連結された複数のモータを備えたモータ駆動装置およびハイブリッド駆動装置において、1つのモータの異常発生時に他のモータを用いた退避運転を実行する場合において、異常モータに対応するモータ駆動回路の素子保護と退避運転による移動距離の増加とを両立することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明によれば、モータ駆動装置は、共通の出力軸へ動力を出力可能に連結された複数の多相交流モータと、複数の多相交流モータにそれぞれ接続された複数の電力変換装置と、複数の電力変換装置を制御する制御装置とを備える。複数の電力変換装置の各々は、各々が、多相交流モータの各相コイルに接続される複数のアーム回路を含む。複数のアーム回路の各々は、第1および第2電源線間に各相コイルとの接続点を介して直列接続された第1および第2のスイッチング素子を有する。制御装置は、複数の電力変換装置のうちの第1の電力変換装置の異常時に、第1の電力変換装置と接続された第1の多相交流モータとは異なる第2の多相交流モータを用いた異常時運転を指示する異常制御手段と、異常時運転において、第2の多相交流モータの運転に伴なって、第1の電力変換装置を流れる電流に基づいて、短絡故障したスイッチング素子を検出する短絡検出手段と、異常時運転において、短絡故障したスイッチング素子と接続点を介して直列接続されるスイッチング素子を導通させることにより、第1の電力変換装置を流れる電流を制御する第1のモータ制御手段と、異常時運転において、電源線に対して短絡故障したスイッチング素子と並列接続されるスイッチング素子をすべて導通させることにより、第1の電力変換装置を流れる電流を制御する第2のモータ制御手段と、第1の多相交流モータの回転数に応じて、第1のモータ制御手段および第2のモータ制御手段を選択的に設定する選択手段とを含む。
【0011】
好ましくは、選択手段は、第1の多相交流モータの回転数が所定の基準回転数以下の場合には、第1のモータ制御手段を選択し、第1の多相交流モータの回転数が所定の基準回転数を超える場合には、第2のモータ制御手段を選択する。
【0012】
好ましくは、第1のモータ制御手段の実行時において、第1の多相交流モータは、第2の多相交流モータの運転に伴なって発生する制動トルクが、第1の多相交流モータの回転数が高くなるにつれて小さくなる第1の特性を有する。第2のモータ制御手段の実行時において、第1の多相交流モータは、第2の多相交流モータの運転に伴なって発生する制動トルクが、第1の多相交流モータの回転数が高くなるにつれて大きくなる第2の特性を有する。選択手段は、第1および第2の特性を予め有しており、第1の特性と第2の特性とで第1の多相交流モータに発生する制動トルクが一致するときの第1の多相交流モータの回転数を、所定の基準回転数に設定する。
【0013】
この発明によるハイブリッド駆動装置は、燃料の燃焼によって作動するエンジンと、第1のモータジェネレータと、動力を出力するための出力部材と、出力部材、エンジンの出力軸および第1のモータジェネレータの出力軸を相互に連結する動力分割機構と、出力部材に連結された第2のモータジェネレータと、直流電源と第1のモータジェネレータとの間に接続されて、第1のモータジェネレータを駆動制御する第1のインバータと、直流電源と第2のモータジェネレータとの間に接続されて、第2のモータジェネレータを駆動制御する第2のインバータと、第1および第2のモータジェネレータの運転を制御する制御装置とを備える。第1のインバータは、各々が、第1のモータジェネレータの各相コイルに接続される第1の複数のアーム回路を含む。第2のインバータは、各々が、第2のモータジェネレータの各相コイルに接続される第2の複数のアーム回路を含む。第1および第2の複数のアーム回路の各々は、第1および第2電源線間に各相コイルとの接続点を介して直列接続された第1および第2のスイッチング素子を有する。制御装置は、第1のインバータの異常時に、第2のモータジェネレータを用いた異常時運転を指示する異常制御手段と、異常時運転において、第2のモータジェネレータの運転に伴なって、第1のインバータを流れる電流に基づいて、短絡故障したスイッチング素子を検出する短絡検出手段と、異常時運転において、短絡故障したスイッチング素子と接続点を介して直列接続されるスイッチング素子を導通させることにより、第1のインバータを流れる電流を制御する第1のモータ制御手段と、異常時運転において、電源線に対して短絡故障したスイッチング素子と並列接続されるスイッチング素子をすべて導通させることにより、第1のインバータを流れる電流を制御する第2のモータ制御手段と、第1のモータジェネレータの回転数に応じて、第1のモータ制御手段および第2のモータ制御手段を選択的に設定する第1の選択手段とを含む。
【0014】
好ましくは、第1の選択手段は、第1のモータジェネレータの回転数が所定の基準回転数以下の場合には、第1のモータ制御手段を選択し、第1のモータジェネレータの回転数が所定の基準回転数を超える場合には、第2のモータ制御手段を選択する。
【0015】
好ましくは、異常制御手段は、第2のインバータの異常時に、エンジンおよび第1のモータジェネレータを用いた異常時運転を指示する。短絡検出手段は、異常時運転において、第2のモータジェネレータの回転に伴なって、第2のインバータを流れる電流に基づいて、短絡故障したスイッチング素子を検出する。制御装置は、異常時運転において、短絡故障したスイッチング素子と接続点を介して直列接続されるスイッチング素子を導通させることにより、第2のインバータを流れる電流を制御する第3のモータ制御手段と、異常時運転において、電源線に対して短絡故障したスイッチング素子と並列接続されるスイッチング素子をすべて導通させることにより、第2のインバータを流れる電流を制御する第4のモータ制御手段と、第2のモータジェネレータの回転数に応じて、第3のモータ制御手段および第4のモータ制御手段を選択的に設定する第2の選択手段とをさらに含む。
【0016】
好ましくは、第2の選択手段は、第2のモータジェネレータの回転数が所定の基準回転数以下の場合には、第3のモータ制御手段を選択し、第2のモータジェネレータの回転数が所定の基準回転数を超える場合には、第4のモータ制御手段を選択する。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、共通の出力軸へ連結された複数のモータを備えたモータ駆動装置およびハイブリッド駆動装置において、1つのモータの異常発生時に他のモータを用いた退避運転を実行する場合において、異常モータに対応するモータ駆動回路の素子保護と退避運転による移動距離の増加とを両立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一符号は同一または相当部分を示す。
【0019】
図1は、この発明の実施の形態に従うハイブリッド駆動装置100を備えたハイブリッド自動車10の概略構成を示すブロック図である。なお、ハイブリッド駆動装置100は、共通の出力軸へ動力を出力可能に連結された複数のモータと、これら複数のモータにそれぞれ接続された複数のモータ駆動回路とを備えたモータ駆動回路の代表例として示されるものである。
【0020】
図1を参照して、ハイブリッド自動車10は、ハイブリッド駆動装置100と、ディファレンシャルギヤ30と、駆動軸40と、駆動輪50とを備える。
【0021】
ハイブリッド駆動装置100は、内部にエンジン(内燃機関)および2つのモータジェネレータを内蔵し、エンジンおよびモータジェネレータの協調制御により出力を発生する。ハイブリッド駆動装置100の出力は、ディファレンシャルギヤ30を介して駆動軸40に伝達されて、駆動輪50の回転駆動に用いられる。ディファレンシャルギヤ30は、路面からの抵抗の差を利用して駆動輪50の左右間の回転差を吸収する。
【0022】
図2は、図1に示したハイブリッド駆動装置100の構成を詳細に説明するブロック図である。
【0023】
図2を参照して、ハイブリッド駆動装置100は、燃料の燃焼によって作動する内燃機関などのエンジンENGと、そのエンジンENGの回転変動を吸収するスプリング式のダンパ装置114と、そのダンパ装置114を介して伝達されるエンジンENGの出力をモータジェネレータMG1および出力部材118に機械的に分配する遊星歯車式の動力分割機構PSDと、出力部材118に回転力を加えるモータジェネレータMG2とを備えている。
【0024】
エンジンENG、ダンパ装置114、動力分割機構PSD、およびモータジェネレータMG1は同軸上において軸方向に並んで配置されており、モータジェネレータMG2は、ダンパ装置114および動力分割機構PSDの外周側に同心に配設されている。
【0025】
動力分割機構PSDは、シングルピニオン型の遊星歯車装置で、3つの回転要素としてモータジェネレータMG1のモータ軸124に連結されたサンギヤ120sと、ダンパ装置114に連結されたキャリア120cと、モータジェネレータMG2のロータ122rと連結されたリングギヤ120rとを含む。
【0026】
出力部材118は、モータジェネレータMG2のロータ122rとボルトなどによって一体的に固設されており、そのロータ122rを介して動力分割機構PSDのリングギヤ120rに連結されている。出力部材118には出力歯車126が設けられており、中間軸128の大歯車130および小歯車132を介して傘歯車式のディファレンシャルギヤ30が減速回転させられて、図1に示した駆動輪50に動力が分配される。
【0027】
出力歯車126には、出力部材118からの出力をロックするためのパーキングロックブレーキ機構(図示せず)が設けられる。パーキングロックブレーキ機構は、運転者によるパーキングポジション(Pポジション)選択時に、出力歯車126をロックすることにより、ハイブリッド駆動装置100からの駆動力出力を制限する。
【0028】
モータジェネレータMG1およびモータジェネレータMG2は、それぞれ、インバータ14およびインバータ31を介して、直流電源140に電気的に接続されている。
【0029】
これらのモータジェネレータMG1,MG2は、直流電源140からの電気エネルギーが供給されて所定のトルクで回転駆動される回転駆動状態と、回転制動(モータジェネレータ自体の電気的な制動トルク)により発電機として機能して直流電源140に電気エネルギーを充電する充電状態と、モータ軸124やロータ122rが自由回転することを許容する無負荷状態との間で動作を切換えられる。
【0030】
HVECU(Electronic Control Unit)200は、予め設定されたプログラムに従って信号処理を行なうことにより、運転状況に応じて、モータジェネレータMG1,MG2による走行モードを、モータ走行、充電走行やエンジン・モータ走行等の間で切換える。
【0031】
たとえばモータ走行では、ハイブリッド自動車10は、モータジェネレータMG1を無負荷状態とするとともにモータジェネレータMG2を回転駆動状態とし、そのモータジェネレータMG2のみを動力源として走行する。また、充電走行では、モータジェネレータMG1を発電機として機能させるとともにモータジェネレータMG2を無負荷状態としてエンジンENGのみを駆動力源として走行しながら、モータジェネレータMG1によって直流電源140が充電される。
【0032】
あるいは、エンジン・モータ走行では、モータジェネレータMG1を発電機として機能させる一方で、エンジンENGおよびモータジェネレータMG2の両方を動力源として走行しながらモータジェネレータMG1によって直流電源140が充電される。
【0033】
また、上記モータ走行時にモータジェネレータMG2を発電機として機能させて回生制動する回生制動制御や、車両停止時にモータジェネレータMG1を発電機として機能させるとともにエンジンENGを作動させ、もっぱらモータジェネレータMG1によって直流電源140を充電する充電制御などもHVECU200によって行なわれる。
【0034】
HVECU200は、各走行モードにおいて、所望の駆動力発生や発電が行なわれるように、各モータジェネレータMG1,MG2のトルク指令値を発生する。また、エンジンENGは、車両停止時には自動的に停止される一方で、その始動タイミングは、運転状況に応じてHVECU200によって制御される。
【0035】
具体的には、発進時ならびに低速走行時あるいは緩やかな坂を下るとき等の軽負荷時には、エンジン効率の悪い領域を避けるために、エンジンENGを起動させることなく、モータジェネレータMG2による駆動力で走行する。そして、一定以上の駆動力が必要な運転状態となったときには、エンジンENGが始動される。但し、暖気等のためにエンジンENGの駆動が必要な場合には、エンジンENGは発進時に無負荷状態で始動されて、所望の暖機が実現するまでアイドリング回転数で駆動される。また、車両駐車時に上記充電制御を行なう場合にも、エンジンENGが始動される。
【0036】
図3は、図2に示されたハイブリッド駆動装置100の電気的な構成を示す回路図である。
【0037】
図3を参照して、ハイブリッド駆動装置100は、直流電源140と、電圧センサ13と、システムリレーSR1,SR2と、平滑用コンデンサC2と、インバータ14,31と、電流センサ24,28と、位置センサ22,26と、MGECU300とをさらに備えている。
【0038】
直流電源140は、蓄電装置(図示せず)を含んで構成され、電源ラインVLおよびアースラインSLの間に直流電圧を出力する。たとえば、直流電源140を、二次電池および昇降圧コンバータの組合せにより、二次電池の出力電圧を変換して電源ラインVLおよびアースラインSLに出力する構成とすることが可能である。この場合には、昇降圧コンバータを双方向の電力変換可能なように構成して、電源ラインVLおよびアースラインSL間の直流電圧を二次電池の充電電圧に変換する。
【0039】
システムリレーSR1は、直流電源140の正極と電源ラインVLとの間に接続され、システムリレーSR2は、直流電源140の負極とアースラインSLとの間に接続される。システムリレーSR1,SR2は、MGECU300からの信号SEによりオン/オフされる。
【0040】
電源ラインVLおよびアースラインSLの間には、平滑用コンデンサC2が接続されている。電圧センサ13は、平滑用コンデンサC2の両端の電圧Vm(インバータ14,31の入力電圧に相当する。以下同じ。)を検出してMGECU300へ出力する。
【0041】
モータジェネレータMG1と接続されるインバータ14は、U相アーム15と、V相アーム16と、W相アーム17とからなる。U相アーム15、V相アーム16およびW相アーム17は、電源ラインVLとアースラインSLとの間に並列に設けられる。
【0042】
U相アーム15は、直列接続された電力用半導体スイッチング素子(以下、単にスイッチング素子とも称する)Q1,Q2からなる。V相アーム16は、直列接続されたスイッチング素子Q3,Q4からなる。W相アーム17は、直列接続されたスイッチング素子Q5,Q6からなる。また、各スイッチング素子Q1〜Q6のコレクタ−エミッタ間には、エミッタ側からコレクタ側へ電流を流すダイオードD1〜D6がそれぞれ接続されている。この実施の形態におけるスイッチング素子としては、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が適用される。スイッチング素子Q1〜Q6は、MGECU300からのスイッチング制御信号PWMI1に対応してオン・オフ制御、すなわちスイッチング制御される。
【0043】
各相アームの中間点は、導電線(ワイヤハーネス)を介してモータジェネレータMG1の各相コイルの各相端に接続されている。すなわち、モータジェネレータMG1は、3相の永久磁石モータであり、U,V,W相の3つのコイルの一端が中性点に共通に接続されて構成される。U相コイルの他端が導電線18を介してIGBT素子Q1,Q2の中間点に、V相コイルの他端が導電線19を介してIGBT素子Q3,Q4の中間点に、W相コイルの他端が導電線20を介してIGBT素子Q5,Q6の中間点にそれぞれ接続されている。
【0044】
導電線18〜20の各々には、電流センサ24が介挿されている。電流センサ24は、モータジェネレータMG1に流れる電流MCRT1を検出する。なお、U相、V相、W相のモータ電流Iu,Iv,Iw(瞬時値)の和は零であることから、2相に電流センサ24を配置することによって各相のモータ電流を検出する構成としてもよい。電流センサ24による電流検出値MCRT1は、MGECU300へ送出される。
【0045】
モータジェネレータMG1には、回転子(図示せず)の回転角を検出する位置センサ22がさらに配置される。位置センサ22によって検出された回転角は、MGECU300へ送出される。
【0046】
モータジェネレータMG2と接続されるインバータ31は、インバータ14と同様の構成からなる。すなわち、インバータ31は、スイッチング素子Q1〜Q6と、ダイオードD1〜D6とを含む。スイッチング素子Q1〜Q6は、MGECU300からのスイッチング制御信号PWMI2に対応してオン・オフ制御(スイッチング制御)される。
【0047】
モータジェネレータMG2は、モータジェネレータMG1と同様に、U,V,W相の3つのコイルの一端が中性点に共通接続されて構成された3相の永久磁石モータである。インバータ31の各相アームの中間点は、導電線を介してモータジェネレータMG2のU相コイル、V相コイルおよびW相コイルとそれぞれ電気的に接続される。
【0048】
そして、インバータ31とモータジェネレータMG2の各相コイルとを結ぶ導電線には、電流センサ24と同様の電流センサ28が介挿されている。さらに、モータジェネレータMG2にも、位置センサ22と同様の位置センサ26が配置される。電流センサ28による電流検出値MCRT2および位置センサによる検出値は、MGECU300へ送出される。
【0049】
なお、MGECU300へは、電流センサ24,28および位置センサ22,26の検出値の他にも、電圧センサ13によって検出された、各インバータ14,31への入力電圧Vm、および適宜設けられたセンサ(図示せず)によって検出されたモータジェネレータMG1,MG2のコイル端子間電圧等が入力されてモータ駆動制御に用いられる。
【0050】
MGECU300は、図示しないHVECU200からモータジェネレータMG1の運転指令を受ける。この運転指令には、モータジェネレータMG1の運転許可/禁止指示や、トルク指令値TR1、回転数指令MRN1等が含まれる。MGECU300は、電流センサ24および位置センサ22の検出値に基づくフィードバック制御により、HVECU200からの運転指令に従ってモータジェネレータMG1が動作するように、スイッチング素子Q1〜Q6のスイッチング動作を制御するスイッチング制御信号PWMI1を発生する。
【0051】
たとえば、HVECU200によりモータジェネレータMG1の運転指示が発せられている場合には、MGECU300は、モータジェネレータMG1のトルク指令値TR1に応じた各相モータ電流が供給されるように、電源ラインVLおよびアースラインSL間の直流電圧をモータジェネレータMG1の各相コイルに印加される交流電圧に変換するためのスイッチング制御信号PWMI1を発生する。
【0052】
また、モータジェネレータMG1の回生制動時には、MGECU300は、モータジェネレータMG1によって発電された交流電圧を電源ラインVLおよびアースラインSL間の直流電圧に変換するように、スイッチング制御信号PWMI1を発生する。これらの際に、スイッチング制御信号PWMI1は、たとえば周知のPWM制御方式に従う、センサ検出値を用いたフィードバック制御により生成される。
【0053】
一方、MGECU300は、HVECU200からモータジェネレータMG1の運転禁止指示が発せられた場合には、インバータ14を構成するスイッチング素子Q1〜Q6の各々がスイッチング動作を停止(すべてオフ)するように、スイッチング制御信号STPを生成する。
【0054】
さらに、MGECU300は、HVECU200からモータジェネレータMG2の運転指令を受けると、上述したモータジェネレータMG1の制御と同様に、電流センサ28および位置センサ26の検出値に基づくフィードバック制御により、HVECU200からの運転指令に従ってモータジェネレータMG2が動作するように、スイッチング素子Q1〜Q6のスイッチング動作を制御するスイッチング制御信号PWMI2を発生する。
【0055】
また、MGECU300によって検知された、インバータ14,31の異常に関する情報は、HVECU200に対して送出される。HVECU200は、これらの異常情報をモータジェネレータMG1,MG2の運転指令へ反映することが可能なように構成されている。
【0056】
図2および図3に示した構成において、モータジェネレータMG1,MG2は、本発明における「複数の多相交流モータ」に対応し、インバータ14,31は、本発明における「複数の電力変換装置」に対応する。また、MGECU300およびHVECU200は、本発明における「制御装置」に対応する。
【0057】
(ハイブリッド自動車の退避運転)
以上の構成からなるハイブリッド自動車10において、モータジェネレータMG1に接続されたインバータ14の異常によりモータジェネレータMG1が使用不能である場合には、特許文献1にも記載されるように、エンジンENGおよびモータジェネレータMG1の動作を停止して、モータジェネレータMG2による動力を用いた「異常時運転」によってハイブリッド自動車10の「退避運転」が実行可能である。
【0058】
このような退避運転時には、モータジェネレータMG1およびモータジェネレータMG2が動力分割機構PSDを介して互いに連結されているので、モータジェネレータMG2を運転(回転)するのに伴なって、モータジェネレータMG1も回転される。
【0059】
そして、図4に示すように、このような退避運転時のモータジェネレータMG1の回転に伴なって、その回転子に装着された磁石PMが回転する。これにより、モータジェネレータMG1の各相コイルに誘起電圧が発生する。
【0060】
図4には、オン状態を維持して制御不能となる短絡故障がスイッチング素子Q1に発生したケースが、インバータ14中の短絡故障の一例として示される。
【0061】
このようなケースでは、スイッチング制御信号STPにより、各スイッチング素子Q1〜Q6のスイッチング動作を停止(オフ状態)するように制御しても、短絡故障したスイッチング素子Q1を介した短絡経路が形成される。具体的には、電源ラインVL〜スイッチング素子Q1(短絡故障)〜U相コイルを経由してU相モータ電流Iuが流れる。そして、U相モータ電流Iuは、モータジェネレータMG1の中性点において、V相コイル〜V相アーム16の中間点〜ダイオードD3〜電源ラインVLに至る経路Rt1と、W相コイル〜W相アーム17の中間点〜ダイオードD5〜電源ラインVLに至る経路Rt2とに分岐される。このため、誘起電圧および当該短絡経路の電気抵抗に応じた短絡電流が発生する。
【0062】
ここで、モータジェネレータMG1の各相コイルに発生する誘起電圧は、モータジェネレータMG1の回転数に比例するので、退避運転時におけるモータジェネレータMG2の回転数が上昇すれば、モータジェネレータMG1に発生する誘起電圧も高くなり、インバータ14中の短絡電流も増大する。短絡電流が過大となると、インバータ14の構成部品の耐熱温度を超える高温の発生によって、さらなる素子損傷を発生してしまう可能性がある。
【0063】
そのため、上述したように特許文献1では、インバータ14内を流れる短絡電流のレベルを監視することによって、インバータ14内に過大な短絡電流が流れる場合には、モータジェネレータMG2による退避運転を制限する制御構成とする。これにより、退避運転の実行によってインバータ内にさらなる素子損傷が発生するのを防止する。
【0064】
しかしながら、このような制御構成では、インバータの素子保護を図ることができる一方で、退避運転による移動距離の増加には限界が生じてしまう。そのため、車両を安全な場所まで避難させることができない可能性がある。
【0065】
そこで、本実施の形態に従うハイブリッド駆動装置100では、モータジェネレータMG1の回転数に応じて、インバータ14を構成するスイッチング素子Q1〜Q6をスイッチング制御する構成とする。かかる構成によれば、回転数の上昇による短絡電流の増大が抑えられる。その結果、インバータの素子保護と退避運転時の移動距離の増加とを両立させることが可能となる。
【0066】
以下に、本実施の形態に従うハイブリッド駆動装置100における退避運転時のインバータのスイッチング制御を実現するための制御構造について説明する。
【0067】
(制御構造)
図5は、この発明の実施の形態に従うMGECU300における制御構造を示すブロック図である。図5に示す各機能ブロックは、代表的にMGECU300が予め格納されたプログラムを実行することで実現されるが、その機能の一部または全部を専用のハードウェアとして実装してもよい。
【0068】
図5を参照して、MGECU300は、インバータ14の制御手段として、モータ制御用相電圧演算部32と、インバータ用駆動信号変換部34と、インバータ異常検出部36と、短絡素子検出部38とを含む。なお、図示は省略するが、MGECU300は、図5と同様の構成からなるインバータ31の制御手段をさらに含む。
【0069】
モータ制御用相電圧演算部32は、HVECU200からモータジェネレータMG1の運転指令としてのトルク指令値TR1および回転数指令MRN1を受け、電圧センサ13からインバータ14の入力電圧Vmを受け、電流センサ24からモータジェネレータMG1の各相に流れるモータ電流Iu,Iv,Iwを受ける。そして、モータ制御用相電圧演算部32は、これらの入力信号に基づいて、モータジェネレータMG1の各相コイルに印加する電圧の操作量(以下、電圧指令とも称する)Vu*,Vv*,Vw*を演算し、その演算結果をインバータ用駆動信号変換部34へ出力する。
【0070】
インバータ用駆動信号変換部34は、モータ制御用相電圧演算部32からの各相コイルの電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に基づいて、実際にインバータ14のスイッチング素子Q1〜Q6をオン・オフするためのスイッチング制御信号PWMI1を生成し、その生成したスイッチング制御信号PWMI1をインバータ14へ送出する。
【0071】
これにより、各スイッチング素子Q1〜Q6は、スイッチング制御され、モータジェネレータMG1が指令されたトルクを出力するようにモータジェネレータMG1の各相に流す電流を制御する。このようにして、モータ電流MCRT1が制御され、トルク指令値TR1に応じたモータトルクが出力される。
【0072】
インバータ異常検出部36は、モータジェネレータMG1の運転時においてインバータ14に発生した異常を検知する。インバータ14の異常検知は、インバータ14のスイッチング素子Q1〜Q6に内蔵された自己保護回路からの過電流検知信号OVCに基づいて行なわれる。
【0073】
具体的には、自己保護回路は、電流センサ(または温度センサ)を含んで構成され、センサ出力に過電流(または過熱)が検出されたことに応じて過電流検知信号OVCを出力する。インバータ異常検出部36は、インバータ14から過電流検知信号OVCを受けると、スイッチング素子Q1〜Q6の短絡故障による異常と判定し、その判定した結果を示す異常信号FINVを生成する。そして、インバータ異常検出部36は、その生成した異常信号FINVをHVECU200および短絡素子検出部38へ送出する。
【0074】
HVECU200は、異常信号FINVを受けると、モータジェネレータMG2による退避運転を指示する。このとき、HVECU200は、インバータ用駆動信号変換部34に対して、インバータ14を構成するスイッチング素子Q1〜Q6のスイッチング動作の停止指示を発する。
【0075】
これに応答して、インバータ用駆動信号変換部34は、スイッチング素子Q1〜Q6のスイッチング動作を停止(オフ状態)するためのスイッチング制御信号STPを生成してインバータ14へ出力する。これにより、インバータ14は運転停止状態となる。
【0076】
短絡素子検出部38は、インバータ異常検出部36から異常信号FINVを受けると、電流センサ24によるインバータ14およびモータジェネレータMG1間の各相電流の検出値Iu,Iv,Iwに基づき、異常が発生したインバータから短絡故障したスイッチング素子を検出する。このとき、一例として、短絡素子検出部38は、モータ電流Iu,Iv,Iwの電流波形の各々について、定常運転時からのオフセット値を検出し、その検出したオフセット値の大きさと極性とに基づいて、短絡故障したスイッチング素子を検出する。そして、短絡素子検出部38は、検出した短絡故障したスイッチング素子を示す信号DEを生成してインバータ用駆動信号変換部34へ送出する。
【0077】
インバータ用駆動信号変換部34は、短絡素子検出部38から信号DEを受けると、位置センサ22の検出値から導出されるモータジェネレータMG1の回転数Nmg1に応じて、スイッチング制御信号Ton1およびスイッチング制御信号Ton2のいずれか一方を発生する。
【0078】
詳細には、スイッチング制御信号Ton1は、インバータ14を構成するスイッチング素子Q1〜Q6のうち、短絡故障したスイッチング素子と直列接続されるスイッチング素子のみをオンするように、スイッチング動作を制御する信号である。これにより、短絡故障したスイッチング素子とこれに直列接続されるスイッチング素子とがオンされるため、これら2つのスイッチング素子により構成される相が短絡する。以下では、このように短絡故障したスイッチング素子が所属する相を短絡させるためのスイッチング制御を、単に「一相短絡制御」とも称する。
【0079】
これに対して、スイッチング制御信号Ton2は、インバータ14を構成するスイッチング素子Q1〜Q6のうち、短絡故障したスイッチング素子と電源ライン(またはアースライン)に対して並列接続される全てのスイッチング素子をオンするように、スイッチング動作を制御する信号である。これにより、電源ライン(またはアースライン)に対して並列接続される三相すべてのスイッチング素子がオンされる。以下では、このように電源線に対して短絡故障したスイッチング素子と並列接続されるスイッチング素子をオンさせるためのスイッチング制御を、単に「三相オン制御」とも称する。
【0080】
そして、インバータ用駆動信号変換部34は、位置センサ22の検出値から導出したモータジェネレータMG1の回転数Nmg1に応じて、一相短絡制御および三相オン制御を切り換えて実行する。以下に、各々のスイッチング制御の詳細について説明する。
【0081】
図6は、一相短絡制御の実行時に発生するインバータ内部の短絡電流を説明する図である。
【0082】
図6を参照して、短絡故障がスイッチング素子Q1に発生している場合には、スイッチング制御信号Ton1により、スイッチング素子Q1と直列接続されるスイッチング素子Q2のみがオンされる。その結果、U相アーム15が短絡されるため、U相モータ電流Iuの経路は、図4で述べた経路Rt1,Rt2に加えて、電源ラインVL〜U相アーム15の中間点〜アースラインSLに至る新たな経路Rt3が形成されることになる。これにより、短絡故障したスイッチング素子Q1とダイオードD3,D5との間で形成される短絡経路を流れる電流が低減される。このとき、各相モータ電流Iu,Iv,Iwは、モータジェネレータMG1の正常運転時と同様に、略同じ振幅からなる交流波形となる。なお、後述するように、各相モータ電流の振幅は、モータジェネレータMG1の回転数を上昇させることによって大きくなる。
【0083】
図7は、三相オン制御の実行時に発生するインバータ内部の短絡電流を説明する図である。
【0084】
図7を参照して、図6と同様に短絡故障がスイッチング素子Q1に発生している場合には、スイッチング制御信号Ton2により、電源ラインVLに対してスイッチング素子Q1と並列接続されるスイッチング素子Q3,Q5のみがオンされる。これにより、短絡故障したスイッチング素子Q1とダイオードD3,D5との間で形成される短絡経路に加えて、スイッチング素子Q3とダイオードD1,D5との間で形成される経路、およびスイッチング素子Q5とダイオードD1,D3との間で形成される経路が新たに形成されることになる。
【0085】
図8は、三相オン制御の実行時に発生するモータ電流の出力波形を示す図である。なお、図8の出力波形は、図7に示す回路構成においてモータジェネレータMG1を所定の回転数で回転させたときに誘起されるモータ電流Iu,Iv,Iwをシミュレーションすることにより得られたものである。
【0086】
図8から明らかなように、モータ電流Iu,Iv,Iwは、略同じ振幅の交流波形を示している。なお、後述するように、モータ電流の振幅は、モータジェネレータMG1の回転数を上昇させることによってもほとんど変化しないことがシミュレーション結果から得られている。
【0087】
図9は、一相短絡制御および三相オン制御の実行時に発生するインバータ内部の短絡電流とモータジェネレータMG1の回転数との関係を示す図である。図9に示す関係は、図6および図7に示す回路構成において、それぞれ、モータジェネレータMG1を様々な回転数で回転させたときに、各回転数において誘起されるモータ電流Iu,Iv,Iwをシミュレーションすることにより得られたものである。なお、図9において、ラインLN1は一相短絡制御を行なったときの短絡電流を示し、ラインLN2は三相オン制御を行なったときの短絡電流を示す。
【0088】
図9を参照して、一相短絡制御の実行時には、インバータ14内を流れる短絡電流は、モータジェネレータMG1の回転数が上昇するにつれて増大する。これに対して、三相オン制御の実行時には、インバータ14内を流れる短絡電流は、相対的に低い回転数域では、モータジェネレータMG1の回転数の上昇に伴なって増大するが、相対的に高い回転数域では、回転数の上昇によってもほとんど変化していない。
【0089】
なお、三相オン制御の実行時において、回転数の上昇によっても短絡電流が増大しないのは、三相オン制御によって形成される短絡経路の電気抵抗のうち、モータジェネレータMG1の各相コイルのインダクタンス成分が回転数の上昇に伴なって高くなることが一因として挙げられる。
【0090】
さらに、図9からは、一相短絡制御の実行時の短絡電流と三相オン制御の実行時の短絡電流とは、相対的に低い所定の回転数において交差しており、当該所定の回転数を境として大小関係が反転していることが分かる。したがって、図9に示した短絡電流とモータジェネレータMG1の回転数との関係によれば、低回数域においては一相短絡制御を実行する一方で、高回転数域においては三相オン制御を実行する構成とすれば、インバータ14内を流れる短絡電流が増大するのを効果的に抑制できることが分かる。
【0091】
その一方で、モータジェネレータMG1においては、モータジェネレータMG2の回転に伴なって回転することにより制動トルクが発生する。この制動トルクは、モータジェネレータMG1の回転抵抗によって車両に作用する制動トルクであることから、以下では、「引きずりトルク」とも称する。そして、この引きずりトルクは、モータジェネレータMG1の回転数との間に図10に示すような関係が成立する。
【0092】
図10は、一相短絡制御および三相オン制御の実行時にモータジェネレータMG1に発生する引きずりトルクとモータジェネレータMG1の回転数との関係を示す図である。図10に示す関係は、一相短絡制御および三相オン制御の各々について、図9の短絡電流が流れているときにモータジェネレータMG1に発生する引きずりトルクを、磁場解析を用いたシミュレーションすることによって得られたものである。なお、引きずりトルクは、モータジェネレータMG1の力行制御時に生じるトルクと区別するために負の値で表わされている。
【0093】
図10において、ラインLN3は一相短絡制御を行なったときの引きずりトルクを示し、ラインLN4は三相オン制御を行なったときの引きずりトルクを示す。
【0094】
図10からは、一相短絡制御の実行時には、モータジェネレータMG1の回転数が上昇するにつれて、引きずりトルク(絶対値)が大きくなることが分かる。これに対して、三相オン制御の実行時には、引きずりトルクは、低回転数域の所定の回転数において極値を有しており、この所定の回転数から上昇するにつれて、小さくなる傾向を示している。
【0095】
すなわち、一相短絡制御の実行時と三相オン制御の実行時とでは、引きずりトルクは互いに異なる特性を示しており、図中の所定の基準回転数Nthを境として、大小関係が反転している。これによれば、所定の基準回転数Nthよりも低い回転数においては、三相オン制御を行なうことで、却って一相短絡制御の実行時よりも引きずりトルクを増加させてしまうこととなる。特に、ハイブリッド自動車10の発進時には、引きずりトルクがモータジェネレータMG2の発生するトルクを上回ることによって、運転性が低下する可能性がある。
【0096】
したがって、モータジェネレータMG1の回転数が所定の基準回転数Nth以下となる場合には、一相短絡制御を行なう一方で、回転数Nmg1が所定の基準回転数Nthよりも高い場合には、三相オン制御を行なう構成とすれば、モータジェネレータMG1の回転数に拘らず、引きずりトルクを小さく抑えることができる。
【0097】
さらに、図9に示した短絡電流とモータジェネレータMG1の回転数との関係に照らせば、所定の基準回転数Nthよりも高い回転数域においては、過大な短絡電流の発生を防止することが可能となる。
【0098】
実際には、再び図5を参照して、インバータ用駆動信号変換部34は、短絡素子検出部38から信号DEを受けると、位置センサ22の検出値からモータジェネレータMG1の回転数Nmg1を導出し、その導出した回転数Nmg1が所定の基準回転数Nthを超えるか否かを判定する。このとき、回転数Nmg1が所定の基準回転数Nth以下である場合には、インバータ用駆動信号変換部34は、一相短絡制御を行なうためのスイッチング制御信号Ton1を発生する。その一方で、回転数Nmg1が所定の基準回転数Nthを超える場合には、インバータ用駆動信号変換部34は、三相オン制御を行なうためのスイッチング制御信号Ton2を発生する。なお、所定の基準回転数Nthについては、予め図10に示す関係をシミュレーションすることで求めておくことができる。
【0099】
図11は、本発明の実施の形態に従うハイブリッド駆動装置におけるMG1異常時の退避運転を説明するフローチャートである。なお、図11に示す各ステップの処理は、MGECU300およびHVECU200が図5に示す各機能ブロックとして機能することで実現される。
【0100】
図11を参照して、インバータ異常検出部36(図5)として機能するMGECU300は、モータジェネレータMG1と接続されたインバータ14に異常が発生しているか否かを判定する(ステップS01)。このとき、MGECU300は、スイッチング素子Q1〜Q6に内蔵された自己保護回路からの過電流検知信号OCVを受けているか否かを判定する。インバータ14から過電流検知信号OCVを受けていない場合には、MGECU300は、インバータ14に異常が発生していないと判定し(ステップS01でNO判定)、退避運転を指示することなく(ステップS02)、退避運転に関する制御処理を終了する。
【0101】
一方、インバータ14から過電流検知信号OCVを受けている場合には、MGECU300は、インバータ14に異常が発生していると判定し(ステップS01でYES判定)、異常信号FINVを発する。これにより、HVECU200は、モータジェネレータMG2による退避運転を指示する(ステップS03)。このとき、HVECU200は、MGECU300に対して、インバータ14を構成する各スイッチング素子Q1〜Q6のスイッチング動作の停止指示を発する。これに応答して、MGECU300からのスイッチング制御信号PWMI1はオフ状態とされる。
【0102】
さらに、短絡素子検出部38として機能するMGECU300は、異常信号FINVを受けると、電流センサ24によるインバータ14およびモータジェネレータMG1間の各相電流の検出値Iu,Iv,Iwに基づき、異常が発生したインバータから短絡故障したスイッチング素子を検出する(ステップS04)。そして、短絡素子検出部38として機能するMGECU300は、検出した短絡故障したスイッチング素子を示す信号DEを生成してインバータ用駆動信号変換部34として機能するMGECU300へ送出する。
【0103】
次に、インバータ用駆動信号変換部34として機能するMGECU300は、短絡素子検出部38から信号DEを受けると、位置センサ22の検出値に基づいてモータジェネレータMG1の回転数Nmg1を取得する(ステップS05)。そして、インバータ用駆動信号変換部34として機能するMGECU300は、回転数Nmg1が所定の基準回転数Nthを超えるか否かを判定する(ステップS06)。
【0104】
回転数Nmg1が所定の基準回転数Nthを超える場合(ステップS06においてYESの場合)には、インバータ用駆動信号変換部34として機能するMGECU300は、三相オン制御を実行する(ステップS07)。具体的には、MGECU300は、スイッチング制御信号Ton2を生成してインバータ14を構成するスイッチング素子Q1〜Q6へ出力する。これにより、電源ライン(またはアースライン)に対して短絡故障したスイッチング素子と並列接続されたスイッチング素子が全てオン状態とされる。
【0105】
一方、回転数Nmg1が所定の基準回転数Nth以下となる場合(ステップS06においてNOの場合)には、インバータ用駆動信号変換部34として機能するMGECU300は、一相短絡制御を実行する(ステップS08)。具体的には、MGECU300は、スイッチング制御信号Ton1を生成してインバータ14を構成するスイッチング素子Q1〜Q6へ出力する。これにより、短絡故障したスイッチング素子と直列接続されたスイッチング素子がオン状態とされる。
【0106】
そして、インバータ用駆動信号変換部34として機能するMGECU300は、モータジェネレータMG2による退避運転が継続されているか否かを判定する(ステップS09)。退避運転が継続されている場合(ステップS09においてYESの場合)には、処理はステップS05に戻される。
【0107】
一方、退避運転が継続されていない場合(ステップS09においてNOの場合)には、MGECU300は、退避運転に関する制御処理を終了する。
【0108】
このような制御構成とすることにより、退避運転時におけるモータジェネレータMG2の回転数が上昇する場面においても、インバータ14内に過大な短絡電流が流れるのを防止することができる。これにより、インバータ内に素子損傷を発生させることなく、退避運転による移動距離を延ばすことができる。
【0109】
また、退避運転時におけるモータジェネレータMG2の回転数が低い場面においては、モータジェネレータMG2の回転に伴なってモータジェネレータMG1に発生する引きずりトルクを小さくすることができる。これにより、ハイブリッド自動車10の発進時において、引きずりトルクがモータジェネレータMG2の発生するトルクを上回り、運転性の低下を抑制することができる。
【0110】
なお、本実施の形態では、モータジェネレータMG1と接続された電力変換装置であるインバータ14に異常が発生したことにより、モータジェネレータMG2を用いた退避運転を行なう場合について説明したが、モータジェネレータMG2と接続された電力変換装置であるインバータ31に異常が発生した場合においても、図8に示したフローチャートと同様の処理を行なうことによって、エンジンENGおよびモータジェネレータMG1を用いた退避運転の実行によって、インバータ31内に過大な短絡電流が流れるのを防止しながら、退避運転による移動距離を延ばすことができる。
【0111】
また、本実施の形態では、動力分割機構によって相互に連結された2つのモータを備えるハイブリッド自動車におけるモータ駆動装置を例示したが、本発明の適用はこのような形式に限定されるものでなく、退避運転に1つのモータを運転することによって他のモータがこれに伴なって回転される構成であれば、いわゆる電気分配式等の任意の形式のハイブリッド駆動装置、ならびに、複数モータを備えて構成されるハイブリッド駆動装置以外のモータ駆動装置に対しても適用可能である。
【0112】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】この発明の実施の形態に従うハイブリッド駆動装置を備えたハイブリッド自動車10の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示したハイブリッド駆動装置の構成を詳細に説明するブロック図である。
【図3】図2に示されたハイブリッド駆動装置電気的な構成を示す回路図である。
【図4】短絡故障発生時に発生するインバータ内部の短絡電流を説明する図である。
【図5】この発明の実施の形態に従うMGECUにおける制御構造を示すブロック図である。
【図6】一相短絡制御の実行時に発生するインバータ内部の短絡電流を説明する図である。
【図7】三相オン制御の実行時に発生するインバータ内部の短絡電流を説明する図である。
【図8】三相オン制御の実行時に発生するモータ電流の出力波形を示す図である。
【図9】一相短絡制御および三相オン制御の実行時に発生するインバータ内部の短絡電流とモータジェネレータMG1の回転数との関係を示す図である。
【図10】一相短絡制御および三相オン制御の実行時にモータジェネレータMG1に発生する引きずりトルクとモータジェネレータMG1の回転数との関係を示す図である。
【図11】この発明の実施の形態に従うハイブリッド駆動装置におけるMG1異常時の退避運転を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0114】
10 ハイブリッド自動車、13 電圧センサ、14,31 インバータ、15 U相アーム、16 V相アーム、17 W相アーム、18〜20 導電線、22,26 位置センサ、24,28 電流センサ、30 ディファレンシャルギヤ、32 モータ制御用相電圧演算部、34 インバータ用駆動信号変換部、36 インバータ異常検出部、38 短絡素子検出部、40 駆動軸、50 駆動輪、100 ハイブリッド駆動装置、114 ダンパ装置、118 出力部材、120c キャリア、120s サンギヤ、120r リングギヤ、122r ロータ、124 モータ軸、126 出力歯車、128 中間軸、130 大歯車、132 小歯車、140 直流電源、200 HVECU、300 MGECU、C2 平滑用コンデンサ、D1〜D6 ダイオード、ENG エンジン、MG1,MG2 モータジェネレータ、PM 磁石、PSD 動力分割機構、Q1〜Q6 スイッチング素子、SL アースライン、SR1,SR2 システムリレー、VL 電源ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の出力軸へ動力を出力可能に連結された複数の多相交流モータと、
前記複数の多相交流モータにそれぞれ接続された複数の電力変換装置と、
前記複数の電力変換装置を制御する制御装置とを備え、
前記複数の電力変換装置の各々は、各々が、前記多相交流モータの各相コイルに接続される複数のアーム回路を含み、
前記複数のアーム回路の各々は、第1および第2電源線間に前記各相コイルとの接続点を介して直列接続された第1および第2のスイッチング素子を有し、
前記制御装置は、
前記複数の電力変換装置のうちの第1の電力変換装置の異常時に、前記第1の電力変換装置と接続された第1の多相交流モータとは異なる第2の多相交流モータを用いた異常時運転を指示する異常制御手段と、
前記異常時運転において、前記第2の多相交流モータの運転に伴なって、前記第1の電力変換装置を流れる電流に基づいて、短絡故障したスイッチング素子を検出する短絡検出手段と、
前記異常時運転において、前記短絡故障したスイッチング素子と前記接続点を介して直列接続されるスイッチング素子を導通させることにより、前記第1の電力変換装置を流れる電流を制御する第1のモータ制御手段と、
前記異常時運転において、電源線に対して前記短絡故障したスイッチング素子と並列接続されるスイッチング素子をすべて導通させることにより、前記第1の電力変換装置を流れる電流を制御する第2のモータ制御手段と、
前記第1の多相交流モータの回転数に応じて、前記第1のモータ制御手段および前記第2のモータ制御手段を選択的に設定する選択手段とを含む、モータ駆動装置。
【請求項2】
前記選択手段は、前記第1の多相交流モータの回転数が所定の基準回転数以下の場合には、前記第1のモータ制御手段を選択し、前記第1の多相交流モータの回転数が前記所定の基準回転数を超える場合には、前記第2のモータ制御手段を選択する、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記第1のモータ制御手段の実行時において、前記第1の多相交流モータは、前記第2の多相交流モータの運転に伴なって発生する制動トルクが、前記第1の多相交流モータの回転数が高くなるにつれて小さくなる第1の特性を有し、
前記第2のモータ制御手段の実行時において、前記第1の多相交流モータは、前記第2の多相交流モータの運転に伴なって発生する制動トルクが、前記第1の多相交流モータの回転数が高くなるにつれて大きくなる第2の特性を有し、
前記選択手段は、前記第1および第2の特性を予め有しており、前記第1の特性と前記第2の特性とで前記第1の多相交流モータに発生する制動トルクが一致するときの前記第1の多相交流モータの回転数を、前記所定の基準回転数に設定する、請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
燃料の燃料によって作動するエンジンと、
第1のモータジェネレータと、
動力を出力するための出力部材と、
前記出力部材、前記エンジンの出力軸および前記第1のモータジェネレータの出力軸を相互に連結する動力分割機構と、
前記出力部材に連結された第2のモータジェネレータと、
直流電源と前記第1のモータジェネレータとの間に接続されて、前記第1のモータジェネレータを駆動制御する第1のインバータと、
前記直流電源と前記第2のモータジェネレータとの間に接続されて、前記第2のモータジェネレータを駆動制御する第2のインバータと、
前記第1および第2のモータジェネレータの運転を制御する制御装置とを備え、
前記第1のインバータは、各々が、前記第1のモータジェネレータの各相コイルに接続される第1の複数のアーム回路を含み、
前記第2のインバータは、各々が、前記第2のモータジェネレータの各相コイルに接続される第2の複数のアーム回路を含み、
前記第1および第2の複数のアーム回路の各々は、第1および第2電源線間に前記各相コイルとの接続点を介して直列接続された第1および第2のスイッチング素子を有し、
前記制御装置は、
前記第1のインバータの異常時に、前記第2のモータジェネレータを用いた異常時運転を指示する異常制御手段と、
前記異常時運転において、前記第2のモータジェネレータの運転に伴なって、前記第1のインバータを流れる電流に基づいて、短絡故障したスイッチング素子を検出する短絡検出手段と、
前記異常時運転において、前記短絡故障したスイッチング素子と前記接続点を介して直列接続されるスイッチング素子を導通させることにより、前記第1のインバータを流れる電流を制御する第1のモータ制御手段と、
前記異常時運転において、電源線に対して前記短絡故障したスイッチング素子と並列接続されるスイッチング素子をすべて導通させることにより、前記第1のインバータを流れる電流を制御する第2のモータ制御手段と、
前記第1のモータジェネレータの回転数に応じて、前記第1のモータ制御手段および前記第2のモータ制御手段を選択的に設定する第1の選択手段とを含む、ハイブリッド駆動装置。
【請求項5】
前記第1の選択手段は、前記第1のモータジェネレータの回転数が所定の基準回転数以下の場合には、前記第1のモータ制御手段を選択し、前記第1のモータジェネレータの回転数が前記所定の基準回転数を超える場合には、前記第2のモータ制御手段を選択する、請求項4に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項6】
前記異常制御手段は、第2のインバータの異常時に、前記エンジンおよび前記第1のモータジェネレータを用いた異常時運転を指示し、
前記短絡検出手段は、前記異常時運転において、前記第2のモータジェネレータの回転に伴なって、前記第2のインバータを流れる電流に基づいて、短絡故障したスイッチング素子を検出し、
前記制御装置は、
前記異常時運転において、前記短絡故障したスイッチング素子と前記接続点を介して直列接続されるスイッチング素子を導通させることにより、前記第2のインバータを流れる電流を制御する第3のモータ制御手段と、
前記異常時運転において、電源線に対して前記短絡故障したスイッチング素子と並列接続されるスイッチング素子をすべて導通させることにより、前記第2のインバータを流れる電流を制御する第4のモータ制御手段と、
前記第2のモータジェネレータの回転数に応じて、前記第3のモータ制御手段および前記第4のモータ制御手段を選択的に設定する第2の選択手段とをさらに含む、請求項4に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項7】
前記第2の選択手段は、前記第2のモータジェネレータの回転数が所定の基準回転数以下の場合には、前記第3のモータ制御手段を選択し、前記第2のモータジェネレータの回転数が前記所定の基準回転数を超える場合には、前記第4のモータ制御手段を選択する、請求項6に記載のハイブリッド駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−195026(P2009−195026A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33426(P2008−33426)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【特許番号】特許第4240149号(P4240149)
【特許公報発行日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】