説明

レーザダイシング方法

【課題】パルスレーザビームの照射条件を最適化することで改質領域、クラックの発生を制御し、優れた割断特性を実現するレーザダイシング方法を提供する。
【解決手段】被加工基板をステージに載置し、クロック信号を発生し、クロック信号に同期したパルスレーザビームを出射し、被加工基板とパルスレーザビームとを相対的に移動させ、被加工基板へのパルスレーザビームの照射と非照射を、クロック信号に同期して、パルスピッカーを用いてパルスレーザビームの通過と遮断を制御することで、光パルス単位で切り替え、被加工基板に基板表面に達するクラックを形成するレーザダイシング方法であって、パルスレーザビームの照射エネルギー、パルスレーザビームの加工点深さ、および、パルスレーザビームの照射非照射の間隔を制御することにより、クラックが被加工基板表面において連続するよう形成することを特徴とするレーザダイシング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーザビームを用いるレーザダイシング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板のダイシングにパルスレーザビームを用いる方法が特許文献1に開示されている。特許文献1の方法は、パルスレーザビームによって生ずる光学的損傷により加工対象物の内部に改質領域を形成する。そして、この改質領域を起点として加工対象物を切断する。
【0003】
従来の技術では、パルスレーザビームのエネルギー、スポット径、パルスレーザビームと加工対象物の相対移動速度等をパラメータとして改質領域の形成を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3867107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
もっとも、従来の方法では予期せぬ場所にクラックが生じるなど、クラックの発生を十分に制御できないという問題がある。例えばサファイアなどのような硬質の基板のダイシングを容易にするためには、被加工基板表面に連続的なクラックを設けることが望まれる。しかしながら、従来の方法では、被加工基板表面に安定して連続的なクラックを設けることが困難である。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、パルスレーザビームの照射条件を最適化することで改質領域とクラックの発生を制御し、優れた割断特性を実現するレーザダイシング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様のレーザダイシング方法は、被加工基板をステージに載置し、クロック信号を発生し、前記クロック信号に同期したパルスレーザビームを出射し、前記被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させ、前記被加工基板への前記パルスレーザビームの照射と非照射を、前記クロック信号に同期して、パルスピッカーを用いて前記パルスレーザビームの通過と遮断を制御することで、光パルス単位で切り替え、前記被加工基板に内部改質領域と基板表面に達するクラックを形成するレーザダイシング方法であって、前記パルスレーザビームの照射エネルギー、前記パルスレーザビームの加工点深さ、および、前記パルスレーザビームの照射領域および非照射領域の長さを制御することにより、前記クラックが前記被加工基板表面において連続するよう形成することを特徴とする。
【0008】
上記態様の方法において、前記クラックが前記被加工基板表面において略直線的に形成されることが望ましい。
【0009】
上記態様の方法において、前記被加工基板の位置と前記パルスピッカーの動作開始位置が同期することが望ましい。
【0010】
上記態様の方法において、前記被加工基板がサファイア基板、水晶基板、またはガラス基板であることが望ましい。
【0011】
上記態様の方法において、前記ステージを前記クロック信号に同期させて移動することにより、前記被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パルスレーザビームの照射条件を最適化することで改質領域、クラックの発生を制御し、優れた割断特性を実現するレーザダイシング方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態のレーザダイシング方法で用いられるレーザダイシング装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】実施の形態のレーザダイシング方法のタイミング制御を説明する図である。
【図3】実施の形態のレーザダイシング方法のパルスピッカー動作と変調パルスレーザビームのタイミングを示す図である。
【図4】実施の形態のレーザダイシング方法の照射パターンの説明図である。
【図5】サファイア基板上に照射される照射パタ−ンを示す上面図である。
【図6】図5のAA断面図である。
【図7】ステージ移動とダイシング加工との関係を説明する図である。
【図8】実施例1の照射パターンを示す図である。
【図9】実施例1〜4、比較例1のレーザダイシングの結果を示す図である。
【図10】実施例1のレーザダイシングの結果を示す断面図である。
【図11】実施例5〜10のレーザダイシングの結果を示す図である。
【図12】実施例11〜15のレーザダイシングの結果を示す図である。
【図13】実施例16〜21のレーザダイシングの結果を示す図である。
【図14】異なる加工点深さのパルスレーザビームを複数回基板の同一走査線上を走査してクラックを形成する場合の説明図である。
【図15】図14の条件で割断した場合の割断面の光学写真である。
【図16】実施例22〜24のレーザダイシングの結果を示す図である。
【図17】実施の形態の作用の説明図である。
【図18】実施例25のレーザダイシングの結果を示す図である。
【図19】実施例26〜28、比較例2、3のレーザダイシングの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書中、加工点とは、パルスレーザビームの被加工基板内での集光位置(焦点位置)近傍の点であり、被加工基板の改質程度が深さ方向で最大となる点を意味する。そして、加工点深さとは、パルスレーザビームの加工点の被加工基板表面からの深さを意味するものとする。
【0015】
本実施の形態のレーザダイシング方法は、被加工基板をステージに載置し、クロック信号を発生し、このクロック信号に同期したパルスレーザビームを出射し、被加工基板とパルスレーザビームとを相対的に移動させ、被加工基板へのパルスレーザビームの照射と非照射を、クロック信号に同期してパルスレーザビームの通過と遮断を制御することで、光パルス単位で切り替え、被加工基板に内部改質領域(内部改質層)を形成し、基板表面に達するクラックを形成するレーザダイシング方法である。そして、パルスレーザビームの照射エネルギー、パルスレーザビームの加工点深さ、および、パルスレーザビームの照射非照射の間隔を制御することにより、クラックが被加工基板表面において略直線状に連続するよう形成する。
【0016】
上記構成により優れた割断特性を実現するレーザダイシング方法を提供することが可能になる。ここで、優れた割断特性とは、(1)割断部が直線性良く割断されること、(2)ダイシングした素子の収率が向上するよう小さな割断力で割断できること、(3)内部改質領域およびクラック形成の際に照射するレーザの影響で基板上に設けられる素子、例えば、基板上のエピタキシャル層で形成されるLED素子、の劣化が生じないこと等が挙げられる。
【0017】
そして、被加工基板表面において連続するクラックを形成することで、特にサファイア基板のように硬質な基板のダイシングが容易になる。また、狭いダイシング幅でのダイシングが実現される。
【0018】
上記レーザダイシング方法を実現する本実施の形態のレーザダイシング装置は、被加工基板を載置可能なステージと、クロック信号を発生する基準クロック発振回路と、パルスレーザビームを出射するレーザ発振器と、パルスレーザビームをクロック信号に同期させるレーザ発振器制御部と、レーザ発振器とステージとの間の光路に設けられ、パルスレーザビームの被加工基板への照射と非照射を切り替えるパルスピッカーと、クロック信号に同期して、光パルス単位でパルスレーザビームのパルスピッカーにおける通過と遮断を制御するパルスピッカー制御部と、を備える。
【0019】
図1は本実施の形態のレーザダイシング装置の一例を示す概略構成図である。図1に示すように、本実施の形態のレーザダイシング装置10は、その主要な構成として、レーザ発振器12、パルスピッカー14、ビーム整形器16、集光レンズ18、XYZステージ部20、レーザ発振器制御部22、パルスピッカー制御部24および加工制御部26を備えている。加工制御部26には所望のクロック信号S1を発生する基準クロック発振回路28および加工テーブル部30が備えられている。
【0020】
レーザ発振器12は、基準クロック発振回路28で発生するクロック信号S1に同期した周期TcのパルスレーザビームPL1を出射するよう構成されている。照射パルス光の強度はガウシアン分布を示す。クロック信号S1は、レーザダイシング加工の制御に用いられる加工制御用クロック信号である。
【0021】
ここでレーザ発振器12から出射されるレーザ波長は被加工基板に対して透過性の波長を使用する。レーザとしては、Nd:YAGレーザ、Nd:YVOレーザ、Nd:YLFレーザ等を用いることができる。例えば、被加工基板がサファイア基板である場合には、波長532nmの、Nd:YVOレーザを用いることが望ましい。
【0022】
パルスピッカー14は、レーザ発振器12と集光レンズ18との間の光路に設けられる。そして、クロック信号S1に同期してパルスレーザビームPL1の通過と遮断(オン/オフ)を切り替えることで被加工基板へのパルスレーザビームPL1の照射と非照射を、光パルス数単位で切り替えるよう構成されている。このように、パルスピッカー14の動作によりパルスレーザビームPL1は、被加工基板の加工のためにオン/オフが制御され、変調された変調パルスレーザビームPL2となる。
【0023】
パルスピッカー14は、例えば音響光学素子(AOM)で構成されていることが望ましい。また、例えばラマン回折型の電気光学素子(EOM)を用いても構わない。
【0024】
ビーム整形器16は、入射したパルスレーザビームPL2を所望の形状に整形されたパルスレーザビームPL3とする。例えば、ビーム径を一定の倍率で拡大するビームエキスパンダである。また、例えば、ビーム断面の光強度分布を均一にするホモジナイザのような光学素子が備えられていてもよい。また、例えばビーム断面を円形にする素子や、ビームを円偏光にする光学素子が備えられていても構わない。
【0025】
集光レンズ18は、ビーム整形器16で整形されたパルスレーザビームPL3を集光し、XYZステージ部20上に載置される被加工基板W、例えばLEDが下面に形成されるサファイア基板にパルスレーザビームPL4を照射するよう構成されている。
【0026】
XYZステージ部20は、被加工基板Wを載置可能で、XYZ方向に自在に移動できるXYZステージ(以後、単にステージとも言う)、その駆動機構部、ステージの位置を計測する例えばレーザ干渉計を有した位置センサ等を備えている。ここで、XYZステージは、その位置決め精度および移動誤差がサブミクロンの範囲の高精度になるよう構成されている。そして、Z方向に移動させることでパルスレーザビームの焦点位置を被加工基板Wに対して調整し、加工点深さを制御することが可能である。
【0027】
加工制御部26はレーザダイシング装置10による加工を全体的に制御する。基準クロック発振回路28は、所望のクロック信号S1を発生する。また、加工テーブル部30には、ダイシング加工データをパルスレーザビームの光パルス数で記述した加工テーブルが記憶される。
【0028】
次に、上記レーザダイシング装置10を用いたレーザダイシング方法について、図1〜図7を用いて説明する。
【0029】
まず、被加工基板W、例えば、サファイア基板をXYZステージ部20に載置する。このサファイア基板は、例えば下面にエピタキシャル成長されたGaN層を有し、このGaN層に複数のLEDがパターン形成されているウェハである。ウェハに形成されるノッチまたはオリエンテーションフラットを基準にXYZステージに対するウェハの位置合わせが行われる。
【0030】
図2は、本実施の形態のレーザダイシング方法のタイミング制御を説明する図である。加工制御部26内の基準クロック発振回路28において、周期Tcのクロック信号S1が生成される。レーザ発振器制御部22は、レーザ発振器12がクロック信号S1に同期した周期TcのパルスレーザビームPL1を出射するよう制御する。この時、クロック信号S1の立ち上がりとパルスレーザビームの立ち上がりには、遅延時間tが生ずる。
【0031】
レーザ光は、被加工基板に対して透過性を有する波長のものを使用する。ここで、被加工基板材料の吸収のバンドギャプEgより、照射するレーザ光の光子のエネルギーhνが大きいレーザ光を用いることが好ましい。エネルギーhνがバンドギャプEgより非常に大きいと、レーザ光の吸収が生ずる。これを多光子吸収と言い、レーザ光のパルス幅を極めて短くして、多光子吸収を被加工基板の内部に起こさせると、多光子吸収のエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、イオン価数変化、結晶化、非晶質化、分極配向または微小クラック形成等の永続的な構造変化が誘起されてカラーセンターが形成される。
【0032】
このレーザ光(パルスレーザビーム)の照射エネルギー(照射パワー)は、被加工基板表面に連続的なクラックを形成する上での最適な条件を選ぶ。
【0033】
そして、被加工基板材料に対して、透過性を有する波長を使用すると、基板内部の焦点付近にレーザ光を導光、集光が可能となる。従って、局所的にカラーセンターを作ることが可能となる。このカラーセンターを、以後、改質領域と称する。
【0034】
パルスピッカー制御部24は、加工制御部26から出力される加工パターン信号S2を参照し、クロック信号S1に同期したパルスピッカー駆動信号S3を生成する。加工パターン信号S2は、加工テーブル部30に記憶され、照射パターンの情報を光パルス単位で光パルス数で記述する加工テーブルを参照して生成される。パルスピッカー14は、パルスピッカー駆動信号S3に基づき、クロック信号S1に同期してパルスレーザビームPL1の通過と遮断(オン/オフ)を切り替える動作を行う。
【0035】
このパルスピッカー14の動作により、変調パルスレーザビームPL2が生成される。なお、クロック信号S1の立ち上がりとパルスレーザビームの立ち上がり、立下りには、遅延時間t、tが生ずる。また、パルスレーザビームの立ち上がり、立下りと、パルスピッカー動作には、遅延時間t、tが生ずる。
【0036】
被加工基板の加工の際には、遅延時間t〜tを考慮して、パルスピッカー駆動信号S3等の生成タイミングや、被加工基板とパルスレーザビームとの相対移動タイミングが決定される。
【0037】
図3は、本実施の形態のレーザダイシング方法のパルスピッカー動作と変調パルスレーザビームPL2のタイミングを示す図である。パルスピッカー動作は、クロック信号S1に同期して光パルス単位で切り替えられる。このように、パルスレーザビームの発振とパルスピッカーの動作を、同じクロック信号S1に同期させることで、光パルス単位の照射パターンを実現できる。
【0038】
具体的には、パルスレーザビームの照射と非照射が、光パルス数で規定される所定の条件に基づき行われる。すなわち、照射光パルス数(P1)と、非照射光パルス数(P2)を基にパルスピッカー動作が実行され、被加工基板への照射と非照射が切り替わる。パルスレーザビームの照射パターンを規定するP1値やP2値は、例えば、加工テーブルに照射領域レジスタ設定、非照射領域レジスタ設定として規定される。P1値やP2値は、被加工基板の材質、レーザビームの条件等により、ダイシング時の改質領域およびクラック形成を最適化する所定の条件に設定される。
【0039】
変調パルスレーザビームPL2は、ビーム整形器16により所望の形状に整形されたパルスレーザビームPL3とする。さらに、整形されたパルスレーザビームPL3は、集光レンズ18で集光され所望のビーム径を有するパルスレーザビームPL4となり、被加工基板であるウェハ上に照射される。
【0040】
ウェハをX軸方向およびY軸方向にダイシングする場合、まず、例えば、XYZステージをX軸方向に一定速度で移動させて、パルスレーザビームPL4を走査する。そして、所望のX軸方向のダイシングが終了した後、XYZステージをY軸方向に一定速度で移動させて、パルスレーザビームPL4を走査する。これにより、Y軸方向のダイシングを行う。
【0041】
上記の照射光パルス数(P1)と、非照射光パルス数(P2)およびステージの速度で、パルスレーザビームの照射非照射の間隔が制御される。
【0042】
Z軸方向(高さ方向)については、集光レンズの集光位置(焦点位置)がウェハ内の所定深さに位置するよう調整する。この所定深さは、ダイシングの際に改質領域(改質層)が形成され、クラックが被加工基板表面に所望の形状に形成されるよう設定される。
【0043】
この時、
被加工基板の屈性率:n
被加工基板表面からの加工位置:L
Z軸移動距離:Lz
とすると、
Lz=L/n
となる。即ち、集光レンズによる集光位置を被加工基板の表面をZ軸初期位置とした時、基板表面から深さ「L」の位置に加工する場合、Z軸を「Lz」移動させればよい。
【0044】
図4は、本実施の形態のレーザダイシング方法の照射パターンの説明図である。図のように、クロック信号S1に同期してパルスレーザビームPL1が生成される。そして、クロック信号S1に同期してパルスレーザビームの通過と遮断を制御することで、変調パルスレーザビームPL2が生成される。
【0045】
そして、ステージの横方向(X軸方向またはY軸方向)の移動により、変調パルスレーザビームPL2の照射光パルスがウェハ上に照射スポットとして形成される。このように、変調パルスレーザビームPL2を生成することで、ウェハ上に照射スポットが光パルス単位で制御され断続的に照射される。図4の場合は、照射光パルス数(P1)=2、非照射光パルス数(P2)=1とし、照射光パルス(ガウシアン光)がスポット径のピッチで照射と非照射を繰り返す条件が設定されている。
【0046】
ここで、
ビームスポット径:D(μm)
繰り返し周波数:F(KHz)
の条件で加工を行うとすると、照射光パルスがスポット径のピッチで照射と非照射を繰り返すためのステージ移動速度V(m/sec)は、
V=D×10−6×F×10
となる。
【0047】
例えば、
ビームスポット径:D=2μm
繰り返し周波数:F=50KHz
の加工条件で行うとすると、
ステージ移動速度:V=100mm/sec
となる。
【0048】
また、照射光のパワーをP(ワット)とすると、パルスあたり照射パルスエネルギーP/Fの光パルスがウェハに照射されることになる。
【0049】
パルスレーザビームの照射エネルギー(照射光のパワー)、パルスレーザビームの加工点深さ、および、パルスレーザビームの照射非照射の間隔のパラメータが、クラックが被加工基板表面において連続して形成されるよう決定される。
【0050】
図5は、サファイア基板上に照射される照射パタ−ンを示す上面図である。照射面上からみて、照射光パルス数(P1)=2、非照射光パルス数(P2)=1で、照射スポット径のピッチで照射スポットが形成される。図6は、図5のAA断面図である。図に示すようにサファイア基板内部に改質領域が形成される。そして、この改質領域から、光パルスの走査線上に沿って基板表面に達するクラック(または溝)が形成される。そして、このクラックが被加工基板表面において連続して形成される。なお、本実施の形態では、クラックは基板表面側のみに露出するよう形成され、基板裏面側にまでは達していない。
【0051】
図17は、本実施の形態の作用の説明図である。例えば、設定できる最大のパルスレーザビームのレーザ周波数で、かつ、設定できる最速のステージ速度で、パルスレーザを照射する場合のパルス照射可能位置を、図17(a)の点線丸で示す。図17(b)は、照射/非照射=1/2の場合の照射パターンである。実線丸が照射位置で、点線丸が非照射位置である。
【0052】
ここで、照射スポットの間隔(非照射領域の長さ)をより短くした方が、割断性が良いと仮定する。この場合は、図17(c)に示すように、ステージ速度を変更せずに照射/非照射=1/1とすることで対応が可能である。仮に本実施の形態のように、パルスピッカーを用いなければ、同様の条件を現出させるためにはステージ速度を低下させることが必要となり、ダイシング加工のスループットが低下するという問題が生ずる。
【0053】
ここで、照射スポットを連続させて照射領域の長さをより長くした方が、割断性が良いと仮定する。この場合は、図17(d)に示すように、ステージ速度を変更せずに照射/非照射=2/1とすることで対応が可能である。仮に本実施の形態のように、パルスピッカーを用いなければ、同様の条件を現出させるためにはステージ速度を低下させ、かつ、ステージ速度を変動させることが必要となり、ダイシング加工のスループットが低下するとともに制御が極めて困難になるという問題が生ずる。
【0054】
あるいは、パルスピッカーを用いない場合、図17(b)の照射パターンで照射エネルギーを上げることで、図17(d)に近い条件とすることも考えられるが、この場合、1点に集中するレーザパワーが大きくなり、クラック幅の増大やクラックの直線性の劣化が懸念される。また、サファイア基板にLED素子が形成されているような被加工基板を加工するような場合には、クラックと反対側のLED領域に到達するレーザ量が増大し、LED素子の劣化が生ずるという恐れもある。
【0055】
このように、本実施の形態によれば、例えば、パルスレーザビームの条件やステージ速度条件を変化させずとも多様な割断条件を実現することが可能であり、生産性や素子特性を劣化させることなく最適な割断条件を見出すことが可能となる。
【0056】
なお、本明細書中、「照射領域の長さ」「非照射領域の長さ」とは図17(d)に図示する長さとする。
【0057】
図7は、ステージ移動とダイシング加工との関係を説明する図である。XYZステージには、X軸、Y軸方向に移動位置を検出する位置センサが設けられている。例えば、ステージのX軸またはY軸方向への移動開始後、ステージ速度が速度安定域に入る位置をあらかじめ同期位置として設定しておく。そして、位置センサにおいて同期位置を検出した時、例えば、移動位置検出信号S4(図1)がパルスピッカー制御部24に送られることでパルスピッカー動作が許可され、パルスピッカー駆動信号S3によりパルスピッカーを動作させるようにする。同期位置を、例えば、被加工基板の端面として、この端面を位置センサで検出する構成にしてもよい。
【0058】
このように、
:同期位置から基板までの距離
:加工長
:基板端から照射開始位置までの距離
:加工範囲
:照射終了位置から基板端までの距離
が管理される。
【0059】
このようにして、ステージの位置およびそれに載置される被加工基板の位置と、パルスピッカーの動作開始位置が同期する。すなわち、パルスレーザビームの照射と非照射と、ステージの位置との同期がとられる。そのため、パルスレーザビームの照射と非照射の際、ステージが一定速度で移動する(速度安定域にある)ことが担保される。したがって、照射スポット位置の規則性が担保され、安定したクラックの形成が実現される。
【0060】
ここで、厚い基板を加工する場合に、異なる加工点深さのパルスレーザビームを複数回(複数層)基板の同一走査線上を走査してクラックを形成することにより、割断特性を向上させることが考えられる。このような場合、ステージ位置とパルスピッカーの動作開始位置が同期することにより、異なる深さの走査において、パルス照射位置の関係を任意に精度よく制御することが可能となり、ダイシング条件の最適化が可能になる。
【0061】
図14は、異なる加工点深さのパルスレーザビームを、複数回基板の同一走査線上を走査してクラックを形成する場合の説明図である。基板断面における照射パターンの模式図である。ON(色付き)が照射、OFF(白色)が非照射領域である。図14(a)は、照射の走査の1層目と2層目が同相の場合、すなわち、1層目と2層目で照射パルス位置の上下関係が揃っている場合である。図14(b)は、照射の走査の1層目と2層目が異相の場合、すなわち、1層目と2層目で照射パルス位置の上下関係がずれている場合である。
【0062】
図15は、図14の条件で割断した場合の割断面の光学写真である。図15(a)が同相、図15(b)が異相の場合である。それぞれ上側の写真が低倍率、下側の写真が高倍率となっている。このように、ステージ位置とパルスピッカーの動作開始位置が同期することにより、照射の走査の1層目と2層目の関係を精度よく制御することが可能となる。
【0063】
なお、図15(a)、(b)に示した被加工基板は厚さ150μmのサファイア基板である。この場合、割断に要した割断力は同相の場合が0.31N、異相の場合が0.38Nであり、同相の方が割断特性に優れていた。
【0064】
なお、ここでは照射/非照射のパルス数を、1層目と2層目で同じとする場合を例に示したが、1層目と2層目で異なる照射/非照射のパルス数として最適な条件を見出すことも可能である。
【0065】
また、例えば、ステージの移動をクロック信号に同期させることが、照射スポット位置の精度を一層向上させるため望ましい。これは、例えば、加工制御部26からXYZステージ部20に送られるステージ移動信号S5(図1)をクロック信号S1に同期させることで実現可能である。
【0066】
本実施の形態のレーザダイシング方法のように、改質領域の形成により、基板表面にまで達し、かつ、被加工基板表面において連続するクラックを形成することで、後の基板の割断が容易になる。例えば、サファイア基板のように硬質の基板であっても、基板表面にまで達するクラックを割断または切断の起点として、人為的に力を印加することで、割断が容易になり、優れた割断特性を実現することが可能となる。したがって、ダイシングの生産性が向上する。
【0067】
従来のように、パルスレーザビームを連続的に基板に照射する方法では、例え、ステージ移動速度、集光レンズの開口数、照射光パワー等を最適化したとしても、基板表面に連続して形成するクラックを所望の形状に制御することは困難であった。本実施の形態のように、パルスレーザビームの照射と非照射を、光パルス単位で断続的に切り替えて照射パターンを最適化することで、改質領域の形成および基板表面に達するクラックの発生が制御され、優れた割断特性を備えたレーザダイシング方法が実現される。
【0068】
すなわち、例えば、基板表面にレーザの走査線に沿った略直線的で連続する幅の狭いクラックの形成が可能となる。このような略直線的な連続するクラックを形成することで、ダイシング時に、基板に形成されるLED等のデバイスに及ぼされるクラックの影響を最小化できる。また、例えば、直線的なクラックの形成が可能となるため、基板表面にクラックが形成される領域の幅を狭くできる。このため、設計上のダイシング幅を狭めることが可能である。したがって、同一基板あるいはウェハ上に形成されるデバイスのチップ数を増大させることが可能となり、デバイスの製造コスト削減にも寄与する。
【0069】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。実施の形態においては、レーザダイシング方法、レーザダイシング装置等で、本発明の説明に直接必要としない部分については記載を省略したが、必要とされるレーザダイシング方法、レーザダイシング装置等に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0070】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのレーザダイシング方法は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【0071】
例えば、実施の形態では、被加工基板として、LEDが形成されるサファイア基板を例に説明した。サファイア基板のように硬質で劈開性に乏しく割断の困難な基板に本発明は有用であるが、被加工基板は、その他、SiC(炭化珪素)基板等の半導体材料基板、圧電材料基板、水晶基板、石英ガラス等のガラス基板であっても構わない。
【0072】
また、実施の形態では、ステージを移動させることで、被加工基板とパルスレーザビームとを相対的に移動させる場合を例に説明した。しかしながら、例えば、レーザビームスキャナ等を用いることで、パルスレーザビームを走査することで、被加工基板とパルスレーザビームとを相対的に移動させる方法であっても構わない。
【0073】
また、実施の形態においては、照射光パルス数(P1)=2、非照射光パルス数(P2)=1とする場合を例に説明したが、P1とP2の値は、最適条件とするために任意の値を取ることが可能である。また、実施の形態においては、照射光パルスがスポット径のピッチで照射と非照射を繰り返す場合を例に説明したが、パルス周波数あるいはステージ移動速度を変えることで、照射と非照射のピッチを変えて最適条件を見出すことも可能である。例えば、照射と非照射のピッチをスポット径の1/nやn倍にすることも可能である。
【0074】
特に、被加工基板がサファイア基板の場合には照射エネルギーを30mW以上150mW以下とし、パルスレーザビームの通過を1〜4光パルス単位、遮断を1〜4光パルス単位とすることにより照射の間隔を1〜6μmとすることで、被加工基板表面において連続性および直線性の良好なクラックを形成することが可能である。
【0075】
また、ダイシング加工のパターンについては、例えば、照射領域レジスタ、非照射領域レジスタを複数設けたり、リアルタイムで照射領域レジスタ、非照射領域レジスタ値を所望のタイミングで、所望の値に変更したりすることでさまざまなダイシング加工パターンへの対応が可能となる。
【0076】
また、レーザダイシング装置として、ダイシング加工データをパルスレーザビームの光パルス数で記述した加工テーブルを記憶する加工テーブル部を備える装置を例に説明した。しかし、必ずしも、このような加工テーブル部を備えなくとも、光パルス単位でパルスレーザビームのパルスピッカーにおける通過と遮断を制御する構成を有する装置であればよい。
【0077】
また、割断特性をさらに向上させるために、改質領域、基板表面に連続するクラックを形成した後、さらに、例えば、レーザを照射することで表面に対し溶融加工またはアブレーション加工を追加する構成とすることも可能である。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0079】
(実施例1)
実施の形態に記載した方法により、下記条件でレーザダイシングを行った。
被加工基板:サファイア基板、基板厚100μm
レーザ光源:Nd:YVOレーザ
波長:532nm
照射エネルギー:50mW
レーザ周波数:20KHz
照射光パルス数(P1):1
非照射光パルス数(P2):2
ステージ速度:25mm/sec
加工点深さ:被加工基板表面から約25.2μm
【0080】
図8は、実施例1の照射パターンを示す図である。図に示すように、光パルスを1回照射した後、光パルス単位で2パルス分を非照射とする。この条件を以後、照射/非照射=1/2という形式で記述する。なお、ここでは照射・非照射のピッチはスポット径と等しくなっている。
【0081】
実施例1の場合、スポット径は約1.2μmであった。したがって、照射の間隔は約3.6μmとなっていた。
【0082】
レーザダイシングの結果を、図9(a)に示す。上側の光学写真は、基板内部の改質領域に焦点を合わせて撮影している。下側の光学写真は、基板表面のクラックに焦点を合わせて撮影している。また、図10はクラックの方向に垂直な基板の断面SEM写真である。
【0083】
被加工基板は幅約5mmの短冊状であり、短冊の伸長方向に垂直にパルスレーザビームを照射して、クラックを形成した。クラックを形成した後、ブレーカーを用いて割断に要する割断力を評価した。
【0084】
(実施例2)
照射/非照射=1/1とする以外は、実施例1と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図9(b)に示す。上側の光学写真は、基板内部の改質領域に焦点を合わせて撮影している。下側の光学写真は、基板表面のクラックに焦点を合わせて撮影している。
【0085】
(実施例3)
照射/非照射=2/2とする以外は、実施例1と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図9(c)に示す。上側の光学写真は、基板内部の改質領域に焦点を合わせて撮影している。下側の光学写真は、基板表面のクラックに焦点を合わせて撮影している。
【0086】
(実施例4)
照射/非照射=2/3とする以外は、実施例1と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図9(e)に示す。上側の光学写真は、基板内部の改質領域に焦点を合わせて撮影している。下側の光学写真は、基板表面のクラックに焦点を合わせて撮影している。
【0087】
(比較例1)
照射/非照射=1/3とする以外は、実施例1と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図9(d)に示す。上側の光学写真は、基板内部の改質領域に焦点を合わせて撮影している。下側の光学写真は、基板表面のクラックに焦点を合わせて撮影している。
【0088】
実施例1〜4では、パルスレーザビームの照射エネルギー、加工点深さ、および、照射非照射の間隔を上記のように設定することで、図9および図10で示されるように、被加工基板表面において連続するクラックを形成できた。
【0089】
特に、実施例1の条件では、極めて直線的なクラックが被加工基板表面に形成されていた。このため、割断後の割断部の直線性も優れていた。そして、実施例1の条件が最も小さい割断力で基板を割断することが可能であった。したがって、被加工基板がサファイア基板である場合には、各条件の制御性も考慮すると、照射エネルギーを50±5mWとし、加工点深さを25.0±2.5μmとし、パルスレーザビームの通過を1光パルス単位、遮断を2光パルス単位とすることにより照射の間隔を3.6±0.4μmとすることが望ましい。
【0090】
一方、実施例3のように、改質領域が接近し、改質領域間の基板内部にクラックが形成されると表面のクラックが蛇行し、クラックが発生する領域の幅が広がる傾向がみられた。これは、狭い領域に集中するレーザ光のパワーが大きすぎるためと考えられる。
【0091】
比較例1では、条件が最適化されておらず、基板表面において連続するクラックは形成されなかった。したがって、割断力の評価も不可能であった。
【0092】
(実施例5)
実施の形態に記載した方法により、下記条件でレーザダイシングを行った。
被加工基板:サファイア基板、基板厚100μm
レーザ光源:Nd:YVOレーザ
波長:532nm
照射エネルギー:90mW
レーザ周波数:20KHz
照射光パルス数(P1):1
非照射光パルス数(P2):1
ステージ速度:25mm/sec
加工点深さ:被加工基板表面から約25.2μm
【0093】
レーザダイシングの結果を、図11(a)に示す。上側の光学写真は、基板内部の改質領域に焦点を合わせて撮影している。下側の光学写真は、基板表面のクラックに焦点を合わせて撮影している。
【0094】
(実施例6)
照射/非照射=1/2とする以外は、実施例5と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図11(b)に示す。上側の光学写真は、基板内部の改質領域に焦点を合わせて撮影している。下側の光学写真は、基板表面のクラックに焦点を合わせて撮影している。
【0095】
(実施例7)
照射/非照射=2/2とする以外は、実施例5と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図11(c)に示す。上側の光学写真は、基板内部の改質領域に焦点を合わせて撮影している。下側の光学写真は、基板表面のクラックに焦点を合わせて撮影している。
【0096】
(実施例8)
照射/非照射=1/3とする以外は、実施例5と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図11(d)に示す。上側の光学写真は、基板内部の改質領域に焦点を合わせて撮影している。下側の光学写真は、基板表面のクラックに焦点を合わせて撮影している。
【0097】
(実施例9)
照射/非照射=2/3とする以外は、実施例5と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図11(e)に示す。上側の光学写真は、基板内部の改質領域に焦点を合わせて撮影している。下側の光学写真は、基板表面のクラックに焦点を合わせて撮影している。
【0098】
(実施例10)
照射/非照射=2/3とする以外は、実施例5と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図11(f)に示す。上側の光学写真は、基板内部の改質領域に焦点を合わせて撮影している。下側の光学写真は、基板表面のクラックに焦点を合わせて撮影している。
【0099】
実施例5〜10では、パルスレーザビームの照射エネルギー、加工点深さ、および、照射非照射の間隔を上記のように設定することで、図11で示されるように、被加工基板表面において連続するクラックを形成できた。
【0100】
特に、実施例8の条件では、比較的直線的なクラックが被加工基板表面に形成されていた。また、実施例8の条件は割断力も小さかった。もっとも、実施例1〜4の照射エネルギーが50mWの場合に比べ、表面のクラックが蛇行し、クラックが発生する領域の幅が広がる傾向がみられた。このため、割断部の直線性も50mWの場合の方が優れていた。これは、90mWの場合は、50mWに比べて狭い領域に集中するレーザ光のパワーが大きすぎるためと考えられる。
【0101】
(実施例11)
実施の形態に記載した方法により、下記条件でレーザダイシングを行った。
被加工基板:サファイア基板、基板厚100μm
レーザ光源:Nd:YVOレーザ
波長:532nm
照射エネルギー:50mW
レーザ周波数:20KHz
照射光パルス数(P1):1
非照射光パルス数(P2):2
ステージ速度:25mm/sec
加工点深さ:被加工基板表面から約15.2μm
【0102】
実施例1より加工点深さが10μm浅い条件、すなわち、実施例1よりもパルスレーザビームの集光位置がより被加工基板表面に近い条件でダイシング加工を行った。
【0103】
レーザダイシングの結果を、図12(a)に示す。基板表面に焦点を合わせて撮影している。写真において、右側の線(+10μm)が実施例11の条件である。比較のために、加工点深さのみ異なる実施例1の条件(0)が左側に示されている。
【0104】
(実施例12)
照射/非照射=1/1とする以外は、実施例11と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図12(b)に示す。
【0105】
(実施例13)
照射/非照射=2/2とする以外は、実施例11と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図12(c)に示す。
【0106】
(実施例14)
照射/非照射=1/3とする以外は、実施例11と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図12(d)に示す。
【0107】
(実施例15)
照射/非照射=2/3とする以外は、実施例11と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図12(e)に示す。
【0108】
実施例11〜15では、パルスレーザビームの照射エネルギー、加工点深さ、および、照射非照射の間隔を上記のように設定することで、図12で示されるように、被加工基板表面において連続するクラックを形成できた。
【0109】
もっとも、実施例1〜4の場合に比べ、表面に改質領域の大きな亀裂が露出した。そして、表面のクラックが蛇行し、クラックが発生する領域の幅が広がる傾向がみられた。
【0110】
(実施例16)
実施の形態に記載した方法により、下記条件でレーザダイシングを行った。
被加工基板:サファイア基板
レーザ光源:Nd:YVOレーザ
波長:532nm
照射エネルギー:90mW
レーザ周波数:20KHz
照射光パルス数(P1):1
非照射光パルス数(P2):1
ステージ速度:25mm/sec
加工点深さ:被加工基板表面から約15.2μm
【0111】
実施例5より加工点深さが10μm浅い条件、すなわち、実施例5よりもパルスレーザビームの集光位置がより被加工基板表面に近い条件でダイシング加工を行った。
【0112】
レーザダイシングの結果を、図13(a)に示す。基板内部の改質領域に焦点を合わせて撮影している。写真において、右側の線(+10μm)が実施例16の条件である。比較のために、加工点深さのみ異なる実施例5の条件(0)が左側に示されている。
【0113】
(実施例17)
照射/非照射=1/2とする以外は、実施例16と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図13(b)に示す。
【0114】
(実施例18)
照射/非照射=2/2とする以外は、実施例16と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図13(c)に示す。
【0115】
(実施例19)
照射/非照射=1/3とする以外は、実施例16と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図13(d)に示す。
【0116】
(実施例20)
照射/非照射=2/3とする以外は、実施例16と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図13(e)に示す。
【0117】
(実施例21)
照射/非照射=1/4とする以外は、実施例16と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図13(f)に示す。
【0118】
実施例16〜21では、パルスレーザビームの照射エネルギー、加工点深さ、および、照射非照射の間隔を上記のように設定することで、図13で示されるように、被加工基板表面において連続するクラックを形成できた。
【0119】
もっとも、実施例5〜10の場合に比べ、表面に改質領域の大きな亀裂が露出した。そして、表面のクラックが蛇行し、クラックが発生する領域の幅が広がる傾向がみられた。したがって、割断後の割断部も蛇行が見られた。
【0120】
以上、以上実施例1〜21、比較例1の評価から、被加工基板の厚さが100μmの場合には、クラックの直線性に優れるため割断部の直線性も優れ、割断力も小さい実施例1の条件が最適であることが明らかになった。
(実施例22)
実施の形態に記載した方法により、下記条件でレーザダイシングを行った。
被加工基板:サファイア基板、基板厚150μm
レーザ光源:Nd:YVOレーザ
波長:532nm
照射エネルギー:200mW
レーザ周波数:200KHz
照射光パルス数(P1):1
非照射光パルス数(P2):2
ステージ速度:5mm/sec
加工点深さ:被加工基板表面から約23.4μm
【0121】
実施例1〜21が被加工基板厚が100μmのサファイア基板であったのに対し、本実施例は被加工基板厚が150μmのサファイア基板である。レーザダイシングの結果を、図16(a)に示す。上側が基板の割断面の光学写真、下側が基板断面における照射パターンの模式図である。ON(色付き)が照射、OFF(白色)が非照射領域である。
【0122】
被加工基板は幅約5mmの短冊状であり、短冊の伸長方向に垂直にパルスレーザビームを照射して、クラックを形成した。クラックを形成した後、ブレーカーを用いて割断に要する割断力を評価した。
【0123】
(実施例23)
照射/非照射=2/4とする以外は、実施例22と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図16(b)に示す。
【0124】
(実施例24)
照射/非照射=3/5とする以外は、実施例22と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図16(c)に示す。
【0125】
クラックの直線性は実施例22〜23とも同程度であり、割断後の割断部の直線性も同程度であった。また、実施例22の割断に要する割断力は2.39N〜2.51N、実施例23は2.13N〜2.80N、実施例24は1.09N〜1.51Nであった。この結果、割断に要する割断力は照射/非照射=3/5とした実施例24の条件が最も少ないことが分かった。したがって、被加工基板の厚さが150μmの場合には、実施例24の条件が最適であることが明らかになった。
【0126】
以上、実施例より、被加工基板の厚さが変わった場合でも、パルスレーザビームの照射エネルギー、パルスレーザビームの加工点深さ等に加え、パルスレーザビームの照射と非照射を、パルスレーザビームが同期すると同じ加工制御用のクロック信号に同期して制御して、光パルス単位で切り替えることにより、最適な割断特性を実現できることが明らかになった。
【0127】
なお、実施例では被加工基板が100μmと150μmの場合について例示したが、さらに厚い200μm、250μmの被加工基板でも最適な割断特性を実現できる。
【0128】
(実施例25)
実施の形態に記載した方法により、下記条件でレーザダイシングを行った。
被加工基板:水晶基板、基板厚100μm
レーザ光源:Nd:YVOレーザ
波長:532nm
照射エネルギー:250mW
レーザ周波数:100KHz
照射光パルス数(P1):3
非照射光パルス数(P2):3
ステージ速度:5mm/sec
加工点深さ:被加工基板表面から約10μm
【0129】
被加工基板は幅約5mmの短冊状であり、短冊の伸長方向に垂直にパルスレーザビームを照射して、クラックを形成した。クラックを形成した後、ブレーカーを用いて割断した。
【0130】
レーザダイシングの結果を、図18に示す。図18(a)が基板上面の光学写真、図18(b)が基板断面の光学写真である。図18に示すように被加工基板を水晶基板とした場合にも、内部に改質層が形成され、被加工基板表面において連続するクラックを形成できた。このため、ブレーカーにより直線的な割断が可能であった。
【0131】
(実施例26)
実施の形態に記載した方法により、下記条件でレーザダイシングを行った。
被加工基板:石英ガラス基板、基板厚500μm
レーザ光源:Nd:YVOレーザ
波長:532nm
照射エネルギー:150mW
レーザ周波数:100KHz
照射光パルス数(P1):3
非照射光パルス数(P2):3
ステージ速度:5mm/sec
加工点深さ:被加工基板表面から約12μm
【0132】
被加工基板は幅約5mmの短冊状であり、短冊の伸長方向に垂直にパルスレーザビームを照射して、クラックを形成した。クラックを形成した後、ブレーカーを用いて割断した。
【0133】
レーザダイシングの結果を、図19に示す。図19は基板上面の光学写真である。
【0134】
(実施例27)
加工点深さを被加工基板表面から約14μmとする以外は、実施例26と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図19に示す。
【0135】
(実施例28)
加工点深さを被加工基板表面から約16μmとする以外は、実施例26と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図19に示す。
【0136】
(比較例2)
加工点深さを被加工基板表面から約18μmとする以外は、実施例26と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図19に示す。
【0137】
(比較例3)
加工点深さを被加工基板表面から約20μmとする以外は、実施例26と同様の方法でレーザダイシングを行った。レーザダイシングの結果を、図19に示す。
【0138】
図19に示すように被加工基板を石英ガラス基板とした場合にも、実施例26〜実施例28の条件では、被加工基板表面において連続するクラックを形成できた。このため、ブレーカーにより直線的な割断が可能であった。特に、実施例27では、最も直線性の高いクラックが形成でき、直線性の高い割断が可能となった。比較例2、3では、条件が最適化されておらず、基板表面において連続するクラックは形成されなかった。
【0139】
以上、実施例25〜28より、被加工基板が、サファイア基板から水晶基板や石英ガラス基板に変わった場合でも、パルスレーザビームの照射エネルギー、パルスレーザビームの加工点深さ等に加え、パルスレーザビームの照射と非照射を、パルスレーザビームが同期すると同じ加工制御用のクロック信号に同期して制御して、光パルス単位で切り替えることにより、最適な割断特性を実現できることが明らかになった。
【符号の説明】
【0140】
10 パルスレーザ加工装置
12 レーザ発振器
14 パルスピッカー
16 ビーム整形器
18 集光レンズ
20 XYZステージ部
22 レーザ発振器制御部
24 パルスピッカー制御部
26 加工制御部
28 基準クロック発振回路
30 加工テーブル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工基板をステージに載置し、
クロック信号を発生し、
前記クロック信号に同期したパルスレーザビームを出射し、
前記被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させ、
前記被加工基板への前記パルスレーザビームの照射と非照射を、前記クロック信号に同期して、パルスピッカーを用いて前記パルスレーザビームの通過と遮断を制御することで、光パルス単位で切り替え、
前記被加工基板に基板表面に達するクラックを形成するレーザダイシング方法であって、
前記パルスレーザビームの照射エネルギー、前記パルスレーザビームの加工点深さ、および、前記パルスレーザビームの照射領域および非照射領域の長さを制御することにより、前記クラックが前記被加工基板表面において連続するよう形成することを特徴とするレーザダイシング方法。
【請求項2】
前記クラックが前記被加工基板表面において略直線的に形成されることを特徴とする請求項1記載のレーザダイシング方法。
【請求項3】
前記被加工基板の位置と前記パルスピッカーの動作開始位置が同期することを特徴とする請求項1または請求項2記載のレーザダイシング方法。
【請求項4】
前記被加工基板がサファイア基板、水晶基板、またはガラス基板であることを特徴とする請求項1ないし請求項3いずれか一項記載のレーザダイシング方法。
【請求項5】
前記ステージを前記クロック信号に同期させて移動することにより、前記被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させることを特徴とする請求項3記載のレーザダイシング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図17】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−46924(P2013−46924A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195562(P2011−195562)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】