説明

ロジウムアルミナイド系層を含む皮膜系

【課題】 高温に付される部品での使用に適した被覆法及び皮膜系の提供。
【解決手段】 皮膜系(20)は、ロジウム約25〜約90原子%、アルミニウム約10〜約60原子%、任意成分として白金、パラジウム、ルテニウム及びイリジウムからなる群から選択される1種以上の白金族金属合計約25原子%以下、任意成分として基材(22)の母材及び合金成分約20原子%以下を含有するB2相RhAl金属間化合物を主成分とするオーバーレイ皮膜(24,32)を含む。RhAl金属間化合物皮膜(24,32)は、外側セラミック皮膜(26)と共に又はセラミック皮膜なしで、耐環境皮膜(24)として、耐環境皮膜(24)用の拡散障壁層(32)として、又はその両方として役立てることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広義にはガスタービンエンジンの過酷な温度環境のような高温に曝露される部品の保護皮膜系に関する。具体的には、本発明は、例えば耐環境皮膜、ボンドコート及び拡散障壁層としてロジウムアルミナイド系層を含む皮膜系に関する。
【背景技術】
【0002】
タービンのある種の部品、燃焼器及びオーグメンター部品は酸化及び高温腐食作用による損傷を受け易く、通例、耐環境皮膜及び適宜遮熱コーティング(TBC)によって保護される。TBCを有する場合、耐環境皮膜はボンドコートと呼ばれ、TBCと共にTBC系と呼ばれる系を形成する。耐環境皮膜及びTBCボンドコートは耐酸化性アルミニウム含有合金又は金属間化合物から形成されることが多く、それらのアルミニウム成分が、付着性の強い連続酸化アルミニウム層(アルミナスケール)を高温でゆっくりと成長させる。この熱成長酸化物(TGO)は酸化及び高温腐食から保護し、ボンドコートの場合にはセラミック層との化学的結合を促進する。
【0003】
広く用いられている耐環境皮膜及びTBCボンドコートとしては、アルミニウム金属間化合物(主にβ相からなるニッケルアルミナイド(β−NiAl)及び白金改質ニッケルアルミナイド)を含有する拡散皮膜、並びにMCrAlX(式中、Mは鉄、コバルト及び/又はニッケルであり、Xはイットリウム、希土類金属及び反応性金属である、)のようなオーバーレイ皮膜がある。オーバーレイ皮膜は物理的にも組成上も拡散皮膜とは区別できる。拡散皮膜は成膜時の拡散プロセスの結果として保護される基材と顕著に相互作用して基材表面内部に様々な金属間化合物及び準安定相を形成するのに対して、オーバーレイ皮膜は、成膜時に基材と相互作用せず、大部分が堆積したままの組成(MCrAlXの場合には固溶体合金)を保持し、拡散帯は限られている。TBCの寿命は、耐環境性だけでなく、そのボンドコートの強さにも依存するもので、高強度のボンドコートが開発されており、その例としてβ相NiAlオーバーレイ皮膜がある。金属間化合物相を含有する金属固溶体である上述のMCrAlXオーバーレイ皮膜とは対照的に、NiAlβ相は約30〜約60原子%のアルミニウムを含有するニッケル−アルミニウム組成物に存在する金属間化合物である。β相NiAlオーバーレイ皮膜の具体例は、本出願人に譲渡されたNagaraj他の米国特許第5975852号、Rigney他の同第6153313号、Daroliaの同第6255001号、Darolia他の同第6291084号、及びPfaendtner他の同第6620524号に開示されている。また、Gleeson他の米国特許出願公開第2004/0229075号、Darolia他の同第2006/0093801号及びDarolia他の同第2006/0093850号に開示されているように、fcc γ(γ−Ni)及びγ′相(γ′−NiAl)を含有するNiAlPtから形成された耐環境皮膜及びTBCボンドコートの適性も検討されている。
【0004】
白金その他ロジウムやパラジウムのような白金族金属(PGM)は、MCrAlXオーバーレイ皮膜、拡散アルミナイド皮膜及びγ/γ′相NiAl皮膜の添加剤としての使用だけでなく、ボンドコート材料としても検討されている。例えば、本出願人に譲渡されたNagaraj他の米国特許第5427866号には、白金、ロジウム又はパラジウムを基材表面に堆積して拡散させるか、或いは従来のボンドコート材料中にPGMを拡散させることによって形成されたPGM系拡散ボンドコートが開示されている。
【0005】
上述の皮膜材料は、それらで保護される超合金とは異なるレベルの合金成分(例えばアルミニウム)を含む。さらに、超合金はボンドコート中には全く又は比較的少量でしか存在しない高融点金属などの様々な元素を含有している。上述のボンドコート及び耐環境皮膜を超合金基材に堆積すると、超合金部品が頻繁に遭遇する高温で皮膜と超合金基材との間で固相拡散がある程度起こる。こうした移動によって、界面近傍の皮膜及び基材双方の化学組成及びミクロ組織が変化し、概して有害な結果を伴う。例えば、アルミナイド拡散皮膜又はオーバーレイ皮膜からのアルミニウムの移動によってその耐酸化性が低下し、皮膜の下の基材との相互拡散によってトポロジー最密充填(TCP;topologicallyclose-packed)相が形成しかねないが、TCPが十分に高レベルで存在すると合金の耐荷性能が大幅に低下しかねない。PGM系ボンドコートには、超合金基材との相互拡散の影響を受け易いという問題もあり、皮膜の望ましくない汚染と過度のカーケンドール空孔形成を招きかねない。
【0006】
以上の点から、拡散障壁皮膜の開発及び評価がなされている。皮膜と基材との間の元素移動を防ぐことに加えて、拡散障壁皮膜は、特に皮膜がPGM系皮膜である場合、白金族金属の酸素透過性のため、耐酸化性でもなければならない。拡散障壁皮膜の例としては、Spitsberg他の米国特許第6306524号、Zhao他の同第6720088号及びZhao他の同第6746782号に開示されたルテニウム系皮膜が挙げられる。
【特許文献1】米国特許第5427866号明細書
【特許文献2】米国特許第6306524号明細書
【特許文献3】米国特許第6455167号明細書
【特許文献4】米国特許第6551063号明細書
【特許文献5】米国特許第6554920号明細書
【特許文献6】米国特許第6582534号明細書
【特許文献7】米国特許第6609894号明細書
【特許文献8】米国特許第6623692号明細書
【特許文献9】米国特許第6720088号明細書
【特許文献10】米国特許第6746782号明細書
【特許文献11】米国特許第6921586号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第20030079810号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第20030186075号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第20050064228号明細書
【特許文献15】米国特許出願公開第20050079368号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第20050118334号明細書
【特許文献17】米国特許出願公開第20050265888号明細書
【特許文献18】米国特許出願公開第20060093851号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の皮膜系によって高温部品用保護皮膜系は格段の進歩を遂げたが、さらに改良することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、酸化及び高温腐食作用による損傷を受け易い材料からなる部品を始めとして、高温に付される部品での使用に適した被覆法及び皮膜系を提供する。皮膜系は、TBCと共に又はTBCなしで、耐環境皮膜又は耐環境皮膜の下の拡散障壁層として役立てることができる主にロジウムアルミナイド(RhAl)金属間化合物材料からなる層を含む。拡散障壁層として、RhAl金属間化合物層は耐環境皮膜又はボンドコートと基材との間の相互拡散を抑制し、また白金族金属を含有又は主成分とする(それぞれPGM含有及びPGM系という)耐環境皮膜と共に用いるのが特に有用であると考えられる。
【0009】
本発明のRhAl金属間化合物材料はオーバーレイ皮膜の形態であり、母材と各種合金成分とを含む基材の保護に用いられる皮膜系の一部である。オーバーレイ皮膜は、B2相RhAl金属間化合物を主成分とし、約25〜約90原子%のロジウム、約10〜約60原子%のアルミニウム、任意成分として合計約25原子%以下の1種以上の白金族金属(白金、パラジウム、ルテニウム及びイリジウム)及び合計約20原子%以下の基材の母材及び合金成分を含む。オーバーレイ皮膜は、皮膜系の最外表面を画成する耐環境皮膜、オーバーレイ皮膜上に堆積させるセラミック層のボンドコート、又はオーバーレイ皮膜上に堆積させる第2の皮膜に対する拡散障壁層として役立てることができる。最後の例では、オーバーレイ皮膜は第2の皮膜と基材の間の相互拡散を防ぎ、特に、第2の皮膜に含まれる白金族金属が基材に拡散するのを防ぐとともに基材元素が第2の皮膜に拡散するのを防ぐのに有効である。第2の皮膜が存在する場合、第2の皮膜はセラミックコーティング用のボンドコートでもよいし、或いは皮膜系の最外表面を画成する耐環境皮膜でもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のB2相RhAl金属間化合物オーバーレイ皮膜の顕著な利点としては、金属安定性、耐酸化性、酸素不透過性及び白金族金属その他の元素の膜厚方向の移動に対する抵抗が挙げられる。オーバーレイ皮膜は、耐酸化性を高めるとともにTBCのようなセラミックコーティングの付着性を促進するアルミナスケールを形成することもできる。
【0011】
本発明のその他の目的及び利点は以下の詳細な説明から明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は一般に、比較的高い温度で特徴付けられる環境中で作動し、酸化、高温腐食、熱サイクル及び/又は熱応力に付される部品に応用できる。かかる部品の例としては、ガスタービンエンジンの高圧及び低圧タービンノズル及び動翼、シュラウド、燃焼器ライナー、並びにオーグメンターハードウェアが挙げられる。高圧タービン動翼10の一例を図1に示す。動翼10は一般にガスタービンエンジンの作動時に高温燃焼ガスが直接当たり、表面が厳しい環境条件に付される翼形部12を含む。翼形部12は、動翼10の根元部16に形成されたダブテール14でタービンディスク(図示せず)に植え込まれる。翼形部12には冷却通路18が存在しており、その内部に抽気を強制的に流して動翼10から熱を伝達する。図1に示す高圧タービン動翼10のようなガスタービンエンジンの部品に関して本発明の作用効果を説明するが、本発明の教示内容は高温に付される基材の保護に皮膜系を用いる部品、特に酸化及び高温腐食作用による損傷を受け易い部品に広く応用できる。
【0013】
図2に、本発明の実施形態に係る皮膜系20で保護された動翼10の表面領域を示す。図に示すように、皮膜系20は、超合金基材22(通例動翼10の母材である)を被覆するボンドコート24を含む。本図では、ボンドコート24は、遮熱セラミック層(つまりTBC)26を基材22に接着するものとして示してある。基材22(ひいては動翼10)に適した材料としては、等軸、一方向凝固及び単結晶超合金、及び金属間化合物材料が挙げられる。本発明は、クロム及び高融点金属(例えば、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン及びレニウム)を含むニッケル基及びコバルト基超合金に特に有益であると考えられる。かかる合金の例は、米国特許第6074602号に開示されたRene N5と呼ばれるニッケル基超合金であり、その公称組成は、約7.5重量%のCo、7.0重量%のCr、6.5重量%のTa、6.2重量%のAl、5.0重量%のW、3.0重量%のRe、1.5重量%のMo、0.15重量%のHf、0.05重量%のC、0.004重量%のB、0.01重量%のY、残部のニッケル及び不可避不純物である。
【0014】
図に示すように、セラミック層26は当技術分野で公知の物理気相堆積技術(例えば電子ビーム物理気相堆積法(EBPVD))を用いてセラミック層26を堆積することによって生じた柱状結晶粒30の耐歪み性組織を有するが、プラズマ溶射技術を用いて非柱状セラミック層を設けることもできる。セラミック層26として好ましい材料はイットリア安定化ジルコニア(YSZ)であり、好ましい組成物は約6〜約8重量%のイットリアを含むもの(6〜8%YSZ)で、適宜熱伝導率を下げるため約60重量%以下のランタニド系列元素の酸化物を1種以上含んでいてもよい。イットリア、非安定化ジルコニア、或いはマグネシア、セリア、スカンジア及び/又はその他の酸化物で安定化されたジルコニアのような他のセラミック材料をセラミック層26として使用することもできる。
セラミック層26は、基材22及び動翼10に所要の熱的保護を与えるのに十分な厚さ、一般に約75〜約300μmの程度に堆積されるが、これより薄くても厚くてもよい。セラミック層(TBC)26を含む皮膜系20に関して説明してきたが、本発明はセラミック皮膜のない皮膜系にも適用でき、この場合ボンドコート24が皮膜系20の最外層であり、耐環境皮膜と呼ばれる。
【0015】
図2では、ボンドコート24をオーバーレイ皮膜として示す。陰極アーク蒸着(イオンプラズマ堆積(IPD)とも呼ばれる。)、スパッタリング、EBPVDなどを始めとする様々な物理気相堆積(PVD)法を用いてオーバーレイボンドコート24を堆積させることができる。特に、オーバーレイ皮膜としてのボンドコート24は、基材22の表面に限られた拡散帯しか形成しない。しかし、高温では時間経過とともに、ボンドコート24と基材22の間で拡散勾配に起因するあるレベルの相互拡散が起こり、基材22の局所領域で元素溶解度が変化する。ボンドコート24の成分は基材22内部に拡散する傾向があり、ボンドコート24の基材22保護能力が低下する。例えば、ボンドコート24からのアルミニウムの移動によってその耐酸化性が低下し、一方ボンドコート24の下の基材22にアルミニウムが蓄積されると、特に基材22がタングステン、レニウム、タンタル、モリブデン及びクロムのような1種以上の高融点金属を相当量含んでいる場合、有害な二次反応帯(SRZ;secondary reaction zone)を形成しかねない。基材22の組成に依存するが、SRZは、γ′マトリックス相(基材22に比してγ/γ′転相で特徴付けられる)内部で(クロム、レニウム、タングステン及び/又はタンタルのP、σ及びμ相並びにTCP相のような)板状及び針状析出相を含有する。SRZ成分と元の基材22との境界は大傾角粒界であり、変形耐性がないので、SRZとその境界は応力下で容易に変形し、その結果合金の破断強さ、延性及び耐疲労性が低下する。
【0016】
本発明の第一の実施形態では、ボンドコート24はアルミニウムリッチな組成であり、例として上述のMCrAlX合金、β相NiAl金属間化合物、PGM含有材料及びPGM系材料などがある。アルミニウムリッチなボンドコートでは、それ以上の酸化を防ぐとともにセラミック層26の付着性を高めるアルミニウム酸化物(アルミナ)スケール28が自然に発生する。ボンドコート24と基材22の間の相互拡散を防ぐため、図2に示すボンドコート24は拡散障壁層32によって基材22から隔てられ、拡散障壁層32は好ましくは基材22の表面に直接堆積される。有効なものとするため、拡散障壁層32を構成する材料は、高温暴露時の拡散速度が低く、基材22との相互拡散又は相互作用が少なく、ボンドコート24から超合金基材22内部に拡散する傾向のあるアルミニウム及びPGMのような成分の、基材22とボンドコート24との間での相互拡散を防ぐ材料とすべきである。こうすると、障壁層32はボンドコート24及び基材22の特性及び寿命を向上させることができる。
【0017】
本発明のこの実施形態では、拡散障壁層32は、ロジウムとアルミニウムの金属間化合物を主成分とし、任意成分として1種以上のPGM(白金、パラジウム、ルテニウム及びイリジウム)のような合金成分、基材22の母材(例えば、ニッケル又はコバルト)及び/又は基材22の主要合金成分(例えば、クロム、タンタルなど)を含むオーバーレイ皮膜である。RhAl金属間化合物は具体的にはB2相であり、その化学式はMAlであるる。本発明では、Mはロジウムであり、得られる金属間化合物はB2結晶構造を有する。好ましくは、障壁層32のほぼすべてのアルミニウムがB2相RhAl金属間化合物相に存在する。RhAl金属間化合物障壁層32の適当な組成は、約25〜約90原子%のロジウム、約25〜約90原子%のアルミニウム、任意成分として合計約25原子%以下の白金、パラジウム、ルテニウム及び/又はイリジウム、及び任意成分として合計約20原子%以下の母材及び/又は主要合金成分である。障壁層32のさらに好ましい組成範囲は、約40〜約75原子%のロジウム、約25〜約55原子%のアルミニウム、任意成分として合計約10原子%以下の白金、パラジウム、ルテニウム及び/又はイリジウム、及び任意成分として合計約15原子%以下の母材及び/又は主要合金成分である。RhAl金属間化合物材料の適当な組成範囲及び好ましい組成範囲をそれぞれ図3及び図4にグラフとして示す。広いアルミニウム範囲の下限及び広いロジウム範囲の上限では、主にB2RhAlからなる構造を発生させるための十分なアルミニウムが障壁層32に与えられていないときの傾向として、基材22から拡散障壁層32へのアルミニウムの拡散が起こることがある。アルミニウムの上限は、RhAl相における推定アルミニウム限界によって設定される。金属元素の許容範囲は、拡散空孔形成の程度を低減するとともに、高温稼働温度に曝露されたときに複合超合金基材で生成すると予想される自然な組成を計算に入れたものである。例として、上述のN5超合金(母材金属がニッケルであり、クロム、コバルト及びタンタルを始めとする合金成分を含む)からなる基材22と共に使用した場合、拡散障壁層32の最終組成は約45%のロジウム、約40%のアルミニウム、約5%の白金族金属、約8%のニッケル、約2%のクロム、少量のコバルト及び/又はタンタル、並びに基材22からの拡散に起因する痕跡量の1種以上の高融点金属を含んでいた。
【0018】
RhAl金属間化合物障壁層32は、1種以上のPGMを含む(PGM含有)ボンドコート24、特にPGMを主成分とする(PGM系)ボンドコート24と共に使用する場合に特に有効であると考えられる。RhAl金属間化合物障壁層32は拡散障壁層として、、基材22の母材及び主要合金金属元素のボンドコート24への拡散及びボンドコート24の元素、特にPGM及び/又はアルミニウムの基材22への拡散を遅らせる。RhAl金属間化合物のB2相は耐酸化性で、酸素進入に耐性であり、安定で、分解や基材22又はボンドコート24への拡散を起こしにくい。その結果、アルミニウムは障壁層32内部に残って耐環境保護に利用でき、SRZを起こし易い基材材料(タングステン、レニウム、タンタル、モリブデン及びクロムのような1種以上の高融点金属を相当量含むもの)でSRZを惹起しない。障壁層32のアルミニウムの存在によって、基材22でのアルミニウムの消耗が防止されるとともに、拡散空孔形成が低減する。拡散障壁層32の適当な厚さは約3〜約15μmと思料されるが、これより薄くても厚くてもよい。障壁層32のロジウム、アルミニウム及び任意成分を同時に堆積させることができるPVD法を始めとする各種の方法を、オーバーレイ障壁層32の成膜に用いることができる。非限定的な例としては、EBPVD、スパッタリング、陰極アーク(IPDとも呼ばれる)などが挙げられる。別法として、障壁層32のロジウム及び任意成分を最初に(メッキなどで)堆積させた後、適当なアルミナイズ法(例えば、拡散又はCVD法)を用いてアルミニウムを導入してRhAl金属間化合物を形成することもできる。堆積後に、約1800〜約2200°F(約980〜約1200℃)の温度で約1〜16時間拡散熱処理を行ってもよい。
【0019】
本発明の別の実施形態では、上述の拡散障壁層32について説明したB2相RhAl金属間化合物組成からボンドコート24を形成することができる。B2相RhAl金属間化合物を主成分とするボンドコート24は純アルミナスケール28を生じるが、このアルミナスケールはゆっくりと成長し、保護作用を呈するとともに、セラミック(TBC)層26との良好な付着性を与える。なお、この実施形態では、拡散障壁層32を省いてRhAl金属間化合物ボンドコート24を基材22上に直接堆積してもよいが、基材22及びボンドコート24の組成によっては、RhAl金属間化合物ボンドコート24と基材22の間の拡散障壁層32を設けるのが有利であることもある。上述の実施形態と同様に、セラミック層26はなくてもよいが、その場合、B2相RhAl金属間化合物の層が皮膜系20の最外層を画成し、耐環境層と呼ぶことができる。ボンドコート又は耐環境皮膜のいずれの場合も、RhAl金属間化合物層の適当な厚さは約5〜約50μmと思料されるが、これより薄くても厚くてもよい。RhAl金属間化合物層の適当な成膜法としては、RhAl金属間化合物拡散層32について説明したものが挙げられる。
【実施例】
【0020】
本発明の各実施形態を実施した。図5及び図6は、それぞれRhAl金属間化合物拡散障壁層及びPtAl拡散障壁層の走査電子顕微鏡写真である。RhAl金属間化合物障壁層の概略組成は約50原子%のロジウムと約50原子%のアルミニウムであった。PtAl金属間化合物障壁層の概略組成は約50原子%の白金と約50原子%のアルミニウムであった。いずれの障壁層も、ReneN5上にスパッタリングによって厚さ約25μmに成膜し、その上に100%ロジウムの耐環境皮膜を約35μm(図5)及び約30μm(図6)の厚さに堆積した。図5及び図6は、これらの皮膜系を約1190℃の不活性雰囲気中に約10時間曝露した後の状態を示し、RhAl拡散障壁層を設けた試験片では基材と耐環境皮膜の間の相互拡散の程度が大幅に低減していることが分かる。図5及び図6の試験片で観察された拡散成長はそれぞれ52μm及び80μmであった。RhAl拡散障壁層を設けた試験片では 空隙(ボイド)も減少している。
【0021】
B2相RhAl金属間化合物材料をボンドコートとして成膜し、その上に7%YSZのTBCをEBPVDで成膜したN5試験片でボンドコート実験を行った。ボンドコートは約10μmの厚さに成膜し、約50原子%のロジウムと約50原子%のアルミニウムの概略組成を有していた。試験片の1枚で加熱炉サイクル試験(FCT)を行ってTBCの剥離耐性を評価した。試験条件は、略室温と約2175°F(約1190℃)の間の1時間サイクルで、ピーク温度の滞留時間は約45分であった。試験片をピーク温度まで急速加熱し、次いで15分間のファン空冷して略室温に冷却した。TBCの約20%が剥離した時点で試験片の試験を終了した。RhAlボンドコートで200サイクルを優に達成したが、これは、同一の試験条件下で通常120サイクルのレベルにある標準白金アルミナイドよりも格段に優れている。
【0022】
特定の実施形態に関して本発明を説明してきたが、他の形態も採用できることは当業者には明らかである。従って、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ定義される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】高圧タービン動翼の斜視図。
【図2】図1の動翼の表面領域のTBC系の断面図であり、本発明の実施形態に係る拡散障壁皮膜、ボンドコート及びセラミック層からなる皮膜系を表す。
【図3】図2の拡散障壁皮膜又はボンドコートとして使用できるオーバーレイ皮膜の好適な組成を示すRh−Al−[Ni,Cr,Co,Ta]組成領域のグラフ。
【図4】図2の拡散障壁皮膜又はボンドコートとして使用できるオーバーレイ皮膜の好ましい組成を示すRh−Al−[Ni,Cr,Co,Ta]組成領域のグラフ。
【図5】B2相Rh−Al金属間化合物拡散障壁皮膜及びロジウム系耐環境皮膜で保護された超合金基材の表面領域の走査電子顕微鏡断面写真。
【図6】PtAl拡散障壁皮膜及びロジウム系耐環境皮膜で保護された超合金基材の表面領域の走査電子顕微鏡断面写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と合金成分を含む基材(22)上の皮膜系(20)であって、皮膜系(20)が基材(22)上のオーバーレイ皮膜(24,32)を含んでおり、
オーバーレイ皮膜(24,32)が、ロジウム約25〜約90原子%、アルミニウム約10〜約60原子%、任意成分として白金、パラジウム、ルテニウム及びイリジウムからなる群から選択される1種以上の白金族金属合計約25原子%以下、及び任意成分として基材(22)の母材及び合金成分約20原子%以下を含むB2相RhAl金属間化合物を主成分とすることを特徴とする皮膜系(20)。
【請求項2】
オーバーレイ皮膜(24,32)は、皮膜系(20)の最外表面を画成する耐環境皮膜(24)であることを特徴とする請求項1記載の皮膜系(20)。
【請求項3】
オーバーレイ皮膜(24,32)がボンドコート(24)であって、皮膜系(20)がボンドコート(24)上にセラミックコーティング(26)をさらに含んでいることを特徴とする請求項1記載の皮膜系(20)。
【請求項4】
オーバーレイ皮膜(24,32)が拡散障壁層(32)であり、皮膜系(20)が拡散障壁層(32)上に第2の皮膜(24)をさらに含んでおり、拡散障壁層(32)が第2の皮膜(24)と基材(22)の間の相互拡散を防ぐことを特徴とする請求項1記載の皮膜系(20)。
【請求項5】
第2の皮膜(24)が1種以上の白金族金属を含み、拡散障壁層(32)が、第2の皮膜(24)から基材(22)への白金族金属の拡散及び基材(22)から第2の皮膜(24)への母材及び合金成分の拡散を防ぐことを特徴とする請求項4記載の皮膜系(20)。
【請求項6】
第2の皮膜(24)がボンドコート(24)であって、皮膜系(20)がボンドコート(24)上にセラミックコーティング(26)をさらに含んでいることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の皮膜系(20)。
【請求項7】
基材(22)の母材及び合金成分がニッケル、クロム、コバルト及びタンタルを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の皮膜系(20)。
【請求項8】
オーバーレイ皮膜(24,32)が、ロジウム約40〜約75原子%、アルミニウム約25〜約55原子%、任意成分として白金、パラジウム、ルテニウム及びイリジウムからなる群から選択される1種以上の白金族金属合計約10原子%以下、及び任意成分として基材(22)の母材及び合金成分約15原子%以下を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の皮膜系(20)。
【請求項9】
オーバーレイ皮膜(24,32)がB2相RhAl金属間化合物材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の皮膜系(20)。
【請求項10】
基材(22)がガスタービンエンジン部品(10)の一部であることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の皮膜系(20)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−144275(P2008−144275A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315336(P2007−315336)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】