説明

ロボットシステムおよびロボットシステムの制御方法

【課題】ワークが撮像されたボケ画像からワークの位置を精度良く検出するロボットシステムを提供する。
【解決手段】ワークWに対して作業を実施するロボット10と、前記ワークWを載置するとともに、蛍光体マーカー74を備えたステージ72と、前記ワークWと前記蛍光体マーカー74とを所定の露光時間で撮像するカメラ20と、前記カメラ20の露光時間より短い周期で前記蛍光体マーカー74を点滅発光させるマーカー制御部45と、を備え、前記カメラ20により撮像されたボケ画像から前記蛍光体マーカー74の軌跡画像100を抽出して、前記軌跡画像100から点拡散関数を算出する点拡散関数算出部35と、算出した前記点拡散関数を用いて、前記ボケ画像を画像変換し前記ボケ画像からボケていない元画像を生成する画像生成部37と、前記元画像から前記ワークWの位置を算出する位置算出部39と、を有するロボットシステム5。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業対象物に対して作業を実施するロボットシステムおよびロボットシステムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種生産現場において、作業の自動化や省力化のため産業用ロボットが多用されている。このような産業用ロボットは、カメラなどの撮像機器を備え作業対象物を撮像し、撮像された画像を画像処理して作業対象物の位置を検出する。作業対象物と撮像機器とが相対的に動いている場合は、撮像された画像に動きボケが発生する。近年、産業用ロボットによる作業の高速化や高精度化に伴い、正確な位置決めが求められている。そのため、撮影された画像における動きボケの補正が重要になっている。
【0003】
このような動きボケの補正方法としては、どのようにボケているかを推定し、画像に対してその逆特性を演算することにより、ボケていない画像を復元する方法がある。その方法の例として、撮像機器の動きに関する情報を撮像機器に設けられた角速度センサーで検出し検出した情報に基づいて、動きによるボケの特性を示す点拡散関数(PSF:Point Spread Function)を求める。そして、この点拡散関数を用いてフーリエ変換、逆フーリエ変換などの演算処理を行いボケ補正、すなわち、ボケ画像から元画像を復元する方法が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−118644号公報
【特許文献2】特開2008−11424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の方法において、角速度センサーは産業用ロボットの移動部(撮像機器)に設置されているため、作業環境や作業内容によっては温度変動や角速度変化が大きくなり、角速度センサーから出力される情報の信頼性や精度が低下する虞がある。また、点拡散関数を精度良く求めるためには、撮像機器の撮像タイミングと角速度センサーからの信号出力とを同期させる必要がある。そのためには制御が複雑になり多くのコストや手間が必要となってしまうという課題があった。また、撮像機器の動きのみしか検出できないため、作業対象物が動いている場合は、作業対象物の動きによるボケの特性が、求められる点拡散関数に十分に反映されないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
(適用例1)作業対象物に対して作業を実施するロボットと、前記作業対象物を載置するとともに、蛍光体マーカーを備えたステージと、前記作業対象物と前記蛍光体マーカーとを同一画像として所定の露光時間で撮像する撮像装置と、前記撮像装置の露光時間より短い周期で前記蛍光体マーカーを点滅発光させるマーカー制御部と、を備え、前記撮像装置により撮像された動きボケを含む劣化画像から前記蛍光体マーカーの軌跡画像を抽出して、前記軌跡画像から点拡散関数を算出する点拡散関数算出部と、算出した前記点拡散関数を用いて、前記劣化画像を画像変換することにより、前記劣化画像から劣化していない元画像を生成する画像生成部と、生成された前記元画像から前記作業対象物の位置を算出する位置算出部と、を有することを特徴とするロボットシステム。
【0008】
この構成によれば、作業対象物が載置されるステージに、撮像装置の露光時間より短い周期で点滅発光する蛍光体マーカーが設けられている。そして、撮像装置により撮像された作業対象物の劣化画像、いわゆるボケ画像は、その蛍光体マーカーの点滅発光の軌跡画像を含んでいる。蛍光体マーカーの軌跡画像は、複数の輝点が列をなしている輝点列として構成されているため、輝点列の方向、輝点間の距離からボケを発生させた動きの方向や速度変化等、点拡散関数の構成要素を容易に取得することができる。その結果、点拡散関数を精度良く算出することができる。そして、算出された点拡散関数を用いてボケ画像からボケていない元画像を生成することができ、生成された元画像から、作業対象物の位置を算出することができる。すなわち、角速度センサー等を用いず、簡単な構成および制御で作業対象物の位置を容易に算出できるロボットシステムを提供することができる。また、作業対象物が載置されるステージと撮像装置の相対的な動きを直接拾うため、作業対象物の相対的な動きによるボケの特性を点拡散関数に十分反映することができる。
【0009】
(適用例2)前記マーカー制御部は、前記蛍光体マーカーの蛍光体の励起装置を有し、前記蛍光体を断続的に励起させることを特徴とする上記のロボットシステム。
【0010】
(適用例3)前記励起装置は、極短光パルスレーザー発生装置であり、前記蛍光体マーカーに励起用レーザー光を照射することを特徴とする上記のロボットシステム。
【0011】
これらの構成によれば、蛍光体マーカーは、当該蛍光体の時定数および付与される励起用レーザー光のパルス周期によって、所定の露光時間内に一定の回数以上発光することができる。そのため、劣化画像内に所望数の輝点からなる輝点列を形成することができる。
【0012】
(適用例4)前記蛍光体マーカーは、前記ステージ上に複数設けられていることを特徴とする上記のロボットシステム。
【0013】
この構成によれば、複数の軌跡画像を解析することにより、ステージの相対的な回転や移動等をより正確に知ることができる。
【0014】
(適用例5)複数の前記蛍光体マーカーは、それぞれ異なった波長の光を放出していることを特徴とする上記のロボットシステム。
【0015】
この構成によれば、ボケ画像に撮像されている蛍光体マーカーを特定することができる。
【0016】
(適用例6)作業対象物に対して作業を施すロボットシステムの制御方法であって、マーカー制御部により撮像装置の露光時間よりも短い周期で点滅発光するように制御される蛍光体マーカーを備えたステージに載置される前記作業対象物を、前記撮像装置により前記蛍光体マーカーとともに撮像する撮像工程と、前記撮像工程で撮像された動きボケを含む劣化画像から前記蛍光体マーカーの軌跡画像を抽出して、前記軌跡画像から点拡散関数を算出する点拡散関数算出工程と、算出した前記点拡散関数を用いて、前記劣化画像を画像変換することにより、前記劣化画像から劣化していない元画像を生成する画像生成工程と、生成された前記元画像から前記作業対象物の位置を算出する位置算出工程と、を有することを特徴とするロボットシステムの制御方法。
【0017】
この方法によれば、作業対象物が載置されるステージに、撮像装置の露光時間より短い周期で点滅発光する蛍光体マーカーが設けられている。そして、撮像装置により撮像された作業対象物の劣化画像、いわゆるボケ画像は、その蛍光体マーカーの点滅発光の軌跡画像を含んでいる。蛍光体マーカーの軌跡画像は、複数の輝点が列をなしている輝点列として構成されているため、輝点列の方向、輝点間の距離からボケを発生させた動きの方向や速度変化等、点拡散関数の構成要素を容易に取得することができる。その結果、点拡散関数を精度良く算出することができる。そして、算出された点拡散関数を用いてボケ画像からボケていない元画像を生成することができ、生成された元画像から、作業対象物の位置を算出することができる。すなわち、角速度センサー等を用いず、簡単な構成および制御で作業対象物の位置を容易に算出できるロボットシステムを提供することができる。また、作業対象物が載置されるステージと撮像装置の相対的な動きを直接拾うため、作業対象物の相対的な動きによるボケの特性を点拡散関数に十分反映することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ロボットシステムの構成例を示す図。
【図2】作業対象物であるワークが載置されるステージを説明する図。
【図3】ワークの位置検出方法の流れを示すフローチャート。
【図4】カメラで撮像されたワークの画像を示す図。
【図5】第2実施例のステージを説明する図。
【図6】第2実施例にかかるワークの画像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施例)
(ロボットシステムの構成について)
本実施例のロボットシステムについて、図1および図2を参照して説明する。図1は、ロボットシステムの構成例を示す図であり、図2は作業対象物であるワークが載置されるステージを説明する図である。
【0020】
図1に示すように、ロボットシステム5は、ロボット10と、作業対象物であるワークWを載置し搬送するワーク載置部70と、撮像装置としてのカメラ20と、制御部50とを備える。ロボット10は、いわゆる多関節型ロボットであり、ベース25と、アーム17A,17Bと、ロボットハンド19を含む手首部18と、それぞれを回動自在に支持する関節部である第1軸12と第2軸14と第3軸16とから構成されている。
【0021】
ロボット10は、設置面にベース25により設置される。ベース25は、第1回転軸11を備え、ベース25より上方のロボット10本体を設置面との鉛直軸を中心に回転させることができる。ベース25には、第1軸12を介してアーム17Aが回動自在に取り付けられている。アーム17Aは、第2回転軸13を備え、アーム17A自身が軸方向に回転することができる。アーム17Aには、第2軸14を介してアーム17Bが回動自在に取り付けられている。
【0022】
アーム17Bは、第3回転軸15を備え、アーム17B自身が軸方向に回転することができる。アーム17Bには、第3軸16を介して手首部18が回動自在に取り付けられている。手首部18の先端にはロボットハンド19が設けられ、ワークWに対して作業を実施する。これらの第1〜3軸12,14,16、第1〜3回転軸11,13,15およびロボットハンド19は、図示しないモーターや空圧機器等により操作される複数の図示しないアクチュエーターの駆動により、回動するように構成されている。複数のアクチュエーターは、制御部50からケーブル85を介して送られる制御信号に基づいて駆動される。
【0023】
カメラ20は、ロボット10の手首部18に設置されている。カメラ20は、いわばロボット10の眼として機能するものであり、例えば、CCDのような撮像素子によりロボットハンド19が作業する方向を所定の露光時間で撮像する。そして撮像されたワークWを含む画像は、画像信号としてケーブル86を介して制御部50に送られる。
【0024】
ワーク載置部70は、ワークWを載置するステージ72を有する。ステージ72では、ロボット10によるワークWに対する作業が実施される。ステージ72は、ワークWが載置されるステージ面72aを有し、ステージ面72aは、所定の蛍光体からなるマーカー74(蛍光体マーカー)を1つ以上備えている。このマーカー74の詳細については後述する。ワークWは、例えば、図示しないベルトコンベアで搬送されワーク載置部70のステージ72に搬入され、ロボット10による作業が実施された後、次のワーク載置部70もしくは次の工程に搬出される。なお、ワーク載置部70そのものがベルトコンベアにより搬送されてもよい。
【0025】
制御部50は、少なくとも、画像処理装置30と、ロボット動作制御部40と、マーカー制御部45と、コンピューター60とから構成されている。画像処理装置30は、少なくとも、画像入力部32と、位置情報取得部34とから構成され、ロボット10のカメラ20で撮像され、画像入力部32を介して入力されたワークWとマーカー74とを含む画像を処理してワークWの位置情報を取得する。位置情報取得部34は、点拡散関数算出部35と、画像生成部37と、位置算出部39とを備え、種々の演算処理を行いワークWの位置情報を取得する。位置情報取得部34の動作については後述する。ロボット動作制御部40は、コンピューター60の指令に基づいて上述のロボット10の動作を制御し、ワークWに対して所定の作業を実施する。
【0026】
マーカー制御部45は、ワークWが載置されるステージ面72aに設けられたマーカー74の蛍光体から特定の波長の光を放出させる励起装置46を有している。本実施例では、励起装置46として極短光パルスレーザー発生装置47を備えている場合を例にとり説明する。極短光パルスレーザー発生装置47は、レーザー照射部48からステージ面72aに設けられたマーカー74に向けて、極めて短い周期で光パルスレーザーを照射する。レーザー照射部48は、ケーブル49により図示しない極短光パルスレーザー発生装置47のコントロール部に接続され、コントロールされる。マーカー制御部45の動作の詳細については後述する。
【0027】
コンピューター60は、中央処理装置として機能し、図示しないCPU、RAM、ROM、HDD、シーケンサーおよびロボットコントローラー等からなるハードウェア資源と、ROMやHDD等に記憶された種々のソフトウェアとを有機的に協働させることにより、ロボット10、画像処理装置30、およびマーカー制御部45等を総括的に制御する。
【0028】
ここで、本実施例のステージ72と、ステージ72に設けられるマーカー74について図2を参照して説明する。図2に示すように、ステージ72は四角形形状に形成され、例えばステージ面72aの1つのコーナー付近にマーカー74が設けられている。なお、本実施例では説明を簡便にするため、マーカー74が1つ設けられている場合について説明するが、マーカー74の数はこれに限定されない。マーカー74の数は複数でもよい。
【0029】
マーカー74は、短い時定数を持つ蛍光体Kからなる発光部75を有する。蛍光体Kとしては、例えば、ローダミンなどの減衰時間が10nsec以下の蛍光体が、好適に適用され得る。蛍光体Kは、ステージ面72aに凹部を設け埋め込んでもよいし、別に蛍光体Kを保持する保持体を用いステージ面72aに取り付けてもよい。形状は丸形状が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0030】
次いで、蛍光体Kを点滅発光させる励起装置46(マーカー制御部45)について図1を参照して説明する。図1に示すように、励起装置46としての極短光パルスレーザー発生装置47は、レーザー照射部48を備え、ステージ面72aに設けられたマーカー74に向けて、極めて短い周期tでパルスレーザー光を照射する。このときのパルス周期tは、カメラ20の露光時間と比較して極めて短い周期であることが好ましい。
【0031】
蛍光体Kは、特定波長の励起光を吸収し、それにより励起された状態(励起状態)から元の状態(基底状態)に戻る際にエネルギーを光(蛍光)として放出する特性をもつ物質である。そのため、蛍光体Kは、極めて短い周期tのパルスレーザー光に反応して10nsec以下の減衰時間で蛍光を放出する。一般に高速カメラでも、フレーム間隔は数msec程度である。従って、蛍光体Kからなるマーカー74は、図1に示すカメラ20の露光時間内に、多数回光を放出することができる。なお、マーカー74から放出される光の種類(波長)は、適用される蛍光体の種類によって設定することができる。また、マーカー74から放出される点滅光の周期は、極短光パルスレーザー発生装置47から照射されるパルスレーザー光の周期tにより設定される。
【0032】
なお、ステージ72に載置されるワークWは、図2に示すように、例えば、長方形の板状に形成され、平面部には3つの貫通穴が設けられている。ワークWは、ステージ面72aに設けられたマーカー74を避けて載置されることが好ましい。
【0033】
(ロボットシステムにおける作業について)
上述のロボットシステム5を用いた作業について、おなじく図1および図2を参照して説明する。ロボットシステム5のロボット10は、図示しないベルトコンベアによりステージ72に搬送されたワークWに対して、作業を実施する。本実施例では、生産効率向上、設備の汎用化および簡素化のため、ワークWの整列装置や位置決め装置を設けていないため、ワークWは、ランダムな姿勢で搬送され、それぞれに固有の作業が実施される。そのため、ロボット10は、作業を実施するワークWの位置や姿勢を検出する必要がある。従って、ロボット10は、図1に示すカメラ20を用いて、ステージ72に載置されるワークWを撮像してワークWの位置検出を行う。
【0034】
例えば、図2に示すようなレイアウトで、ワークWがステージ72上に置かれたとする。ワークWの位置を検出するため、ロボット10の手首部18の先端部に設けられたカメラ20を用いて、ステージ72上のワークWを撮像する。このとき、ロボット10の手首部18の動きを静止させるか、ワークWを静止させることが好ましい。ところが、このような方法では作業や移動動作が中断されてしまい、作業効率が著しく低下する。そのため、一般には、双方が移動動作を行っている状態で撮像する。このとき、カメラ20は、所定の露光時間に渡りシャッターを開放して撮像する。
【0035】
その結果、撮像されたワークWの画像は、動きボケを含んだ、いわゆるボケ画像Bとなってしまう場合が多い。そのままでは、ワークWの位置を検出することができない。そのため、何らかの画像処理が必要である。画像処理方法として、例えばボケ画像がどのようにボケているかを推定し、ボケ画像に対してその逆特性を演算することにより、ボケていない元画像を復元する方法がある。
【0036】
(ワークの位置検出方法について)
ここで、画像がどのようにボケているのかを表すパラメーターとして点拡散関数を用いたワークの位置検出方法について、図3および図4を参照して説明する。図3は、ワークの位置検出方法の流れを示すフローチャートであり、図4は、カメラで撮像されたワークの画像を示す図である。
【0037】
図3に示すように、この位置検出方法は、ワーク搬入工程S11と、マーカー&ワーク撮像工程S12と、画像入力工程S13と、点拡散関数算出工程S14と、画像生成工程S15と、ワーク位置算出工程S16と、を有する。ワーク搬入工程S11では、図1に示すロボットシステム5において、ワークWが、ベルトコンベア等で搬送されワーク載置部70のステージ72に供給される。このときワークWは、ランダムな姿勢で供給されるため、ワークWが現在どのような姿勢をなしているか分からない。そこで、次の工程に進む。
【0038】
マーカー&ワーク撮像工程S12では、図1に示すカメラ20を用いて、ステージ72に載置されるワークWを撮像する。このとき、ワークWが載置されるステージ面72aに設けられているマーカー74も同一視野内に入るように撮像する。しかしながら、カメラ20およびワークW(ステージ72)は相対的に移動している状態であるため、撮像される画像は、動きボケを含んだいわゆるボケ画像Bとなってしまう。
【0039】
図4(a)に示すように、ボケ画像Bは、動きボケを含んだワークWの画像Bwと、マーカー74の軌跡画像100とを含む。前述のように蛍光体Kからなるマーカー74は、極めて短い周期tで点滅発光するため、軌跡画像100は、図4(b)に示すように、輝点100a,100b,100c,100dからなる輝点列100Aを構成する。本実施例では、輝点100aおよび輝点100bの距離Lab、輝点100bおよび輝点100cの距離Lbc、輝点100cおよび輝点100dの距離Lcdはそれぞれ異なる距離である。
【0040】
図3に示す画像入力工程S13では、カメラ20によって撮像された軌跡画像100を含むボケ画像Bを、画像信号として、図1に示す制御部50の画像処理装置30の画像入力部32に取り込む。取り込まれたボケ画像Bは、位置情報取得部34に送られる。
【0041】
図3に示す点拡散関数算出工程S14では、ボケ画像Bから軌跡画像100を抽出して点拡散関数を算出する。この点拡散関数の算出方法は、特に限定しない。公知の算出方法を適用すればよい。なお、軌跡画像100は、点拡散関数の空間移動分の情報、すなわち、ボケを発生させる動きの方向と速度とをデータとして持つ。この場合、軌跡画像100の輝点列100Aの方向から移動の方向、すなわち動きベクトル(ボケを発生させた動き方向)を知ることができる。マーカー74は、略等しい間隔(周期t)で点滅発光している。そのため、各輝点100a,100b,100c,100d間の距離Lab,Lbc,Lcdから、マーカー74を撮像したときのカメラ20とマーカー74との相対移動速度vの関係を知ることができる。
【0042】
図4(b)に示す軌跡画像100を例にとると、輝点列100Aは、図中左上から右下の方向(矢印M)に向かって形成されている。そのため、少なくとも矢印Mに沿った移動をしていることがわかる。さらには、このときボケ画像Bの輝点100a,100b,100c,100dに注目することによって、移動の方向(始点および終点)を知ることができる。図4(b)に示すように、輝点100a,100b,100c,100dの画像は、図中右下から左上に向かっていわゆる尾引き状態となっている。そのため、輝点100aが始点方向で輝点100dが終点方向であることがわかる。
【0043】
また、輝点列100Aは、輝点100bおよび輝点100cの距離Lbc>輝点100cおよび輝点100dの距離Lcd>輝点100aおよび輝点100bの距離Labの関係になっている。そのため、輝点100a、輝点100b間を撮像したときのカメラ20とマーカー74との相対移動速度vabと、輝点100b、輝点100c間を撮像したときのカメラ20とマーカー74との相対移動速度vbcと、輝点100c、輝点100d間を撮像したときのカメラ20とマーカー74との相対移動速度vcdとの関係は、相対移動速度vbc>相対移動速度vcd>相対移動速度vabとなることがわかる。
【0044】
次いで、画像生成工程S15では、点拡散関数算出工程S14で算出した点拡散関数を用いて、ボケ画像Bからボケてない元画像を生成する。この方法を簡単に説明する。
画像のボケは、下記の式(1)のようにモデル化される。この式(1)で示すように、元画像をImage、ボケ画像をBlur、画像がどのようにボケているのかを表すパラメーターである点拡散関数をPSFとすると、ボケ画像(Blur)は点拡散関数(PSF)と元画像(Image)との畳み込み演算で与えられる。点拡散関数(PSF)は、名前のとおり、本来1点であるデータが、どのように拡がっているのかを表す関数である。
【0045】
【数1】

【0046】
ここで、下記の式(2)、(3)、(4)のように、関数fに対するフーリエ変換操作をF[f]と表すとすると、元画像(Image)のフーリエ変換はimage、ボケ画像(Blur)のフーリエ変換はblur、点拡散関数(PSF)のフーリエ変換はpsfと表すことができる。畳み込み演算は、フーリエ変換により単なる乗算に変換されるため、式(1)は下記の式(5)に変換される。
【0047】
【数2】

【0048】
【数3】

【0049】
下記の式(6)のように、元画像のフーリエ変換(image)は、点拡散関数(PSF)のフーリエ変換である(psf)の逆数と、ボケ画像(Blur)のフーリエ変換である(blur)との積により得られる。関数fの逆フーリエ変換操作をIF[f]とすると、ボケの無い元画像(Image)は、式(6)で得られた元画像のフーリエ変換(image)を、式(7)のように逆フーリエ変換することにより得られる。
【0050】
【数4】

【0051】
【数5】

【0052】
上述のような演算処理は、数学的処理としては単純なものであり、その一例として、ウィーナフィルター処理などがある。このようにして図4(c)に示すボケていない元画像Gが生成される。
【0053】
次いで、図3に示すワーク位置算出工程S16では、生成された元画像Gに基づいてワークWの位置を算出する。そして、算出した位置に関する情報を図1に示すロボット動作制御部40に送る。ロボット動作制御部40は、アーム17等の稼動部の動作を上記情報に基づいて制御する。すなわち、ロボット動作制御部40は、情報に基づき、ロボット10を移動させるための複数のアクチュエーターの駆動量を算出し、それぞれのアクチュエーター毎に駆動信号を生成し、それぞれのアクチュエーターに送る。この結果、アーム17が所定の位置まで移動しロボットハンド19によりワークWに所定の作業が施される。なお、ワークWの位置算出方法は、公知の位置算出方法が適用される。例えば、ワークWの形状の特徴点に注目して位置を算出してもよいし、別途用意されたワークWの姿勢ごとの画像と生成された元画像とを比較して位置を算出してもよい。
【0054】
以下、本実施例の効果を記載する。
(1)上述のロボットシステム5は、ワークWが載置されるステージ72にカメラ20の露光時間より短い周期で点滅発光する蛍光体Kからなるマーカー74が設けられている。そして、ワークWの位置を検出するとき、ロボット10に設けられたカメラ20でワークWとマーカー74とを同一視野に入れるように撮像する。撮像されたワークWの画像が動きボケを含んだボケ画像Bであった場合、ボケ画像Bは、そのマーカー74の点滅発光の軌跡画像100を含んでいる。
【0055】
マーカー74の軌跡画像100は、複数の輝点100a,100b,100c,100dが列をなしている輝点列100Aとして構成されているため、輝点列の100A方向、輝点100a,100b,100c,100d間の距離Lab,Lbc,Lcdからボケを発生させた動きの方向や速度変化等、点拡散関数の構成要素を容易に取得することができる。その結果、カメラ20の画像を解析するだけで、点拡散関数が容易に精度良く求めることができ、元画像の生成も精度良く行うことができる。その結果、ワークWの位置検出も容易に行うことができ、ロボットシステム5の作業効率を向上させることができる。
【0056】
(2)上述のロボットシステム5は、蛍光体Kからなるマーカー74を採用している。蛍光体Kが放出する光は、一般に単一波長であるため、フィルター等の手段を用いることによって、軌跡画像100をボケ画像Bから容易に抽出することができる。
【0057】
(3)上述のロボットシステム5は、蛍光体Kからなるマーカー74を点滅発光させるために、極短光パルスレーザー発生装置47を適用している。極短光パルスレーザー発生装置47は、極めて短い周期でパルスレーザー光を照射する。そのため、蛍光体Kは、そのパルスレーザー光に反応してカメラ20の露光時間と比較して極めて短い周期で蛍光を放出する。その結果、ボケ画像Bの軌跡画像100中に多くの輝点を含むことができる。
従って、ボケを発生させた動きの方向や速度変化等、点拡散関数の構成要素をより正確に取得することができ、点拡散関数を精度良く求めることができる。
【0058】
(第2実施例)
ここで、第2実施例のロボットシステムについて図5および図6を参照して説明する。図5は第2実施例のステージを説明する図であり、図6は第2実施例にかかるワークの画像を示す図である。なお、第2実施例は、第1実施例に対して、マーカー74の設置状況が異なる例である。また、第1実施例と同様な構成および内容については、符号を等しくして説明を省略する。
【0059】
図5に示すように、ステージ72は、ワークWが載置されるステージ面72aの3つのコーナー付近に、それぞれマーカー74a,74b,74cを1つずつ備えている。マーカー74a,74b,74cは、それぞれ蛍光体Kの種類が異なる。その結果、マーカー74a,74b,74cは、それぞれ異なる波長の光、すなわち異なる色の光を放出することができるように構成されている。
【0060】
図3に示す位置検出方法のマーカー&ワーク撮像工程S12では、図1に示すカメラ20を用いて、ステージ72に載置されるワークWおよびマーカー74a,74b,74cが同一視野内に入るように撮像する。その結果、図6に示す動きボケを含んだいわゆるボケ画像Baを得る。ボケ画像Baは、動きボケを含んだワークWの画像Bwと、画像の3つのコーナー付近のそれぞれにマーカー74aの軌跡画像110と、マーカー74bの軌跡画像120とマーカー74cの軌跡画像130とを有する。
【0061】
軌跡画像110は、例えば、図中右下から左上の方向(矢印N1方向)に向かって形成されている。そのため、矢印N1に沿った移動をしていることがわかる。さらには、ボケ画像Baの輝点110a,110b,110c,110dに注目することによって、第1実施例と同様に、移動の方向、動きベクトルおよびをカメラ20とマーカー74aとの相対移動速度vの関係を知ることができる。
【0062】
軌跡画像120は、図中右下から左上の方向(矢印N2方向)に向かって形成されている。そのため、矢印N2に沿った移動をしていることがわかる。軌跡画像130は、図中右下から左上の方向(矢印N3方向)に向かって形成されている。そのため、少なくとも矢印N3に沿った移動をしていることがわかる。また、軌跡画像110の輝点110a〜dの距離L110、軌跡画像120の輝点120a〜dの距離L120および軌跡画像130の輝点130a〜dの距離L130に注目すると、距離L110<距離L120<距離L130の関係にあり、各輝点間の距離が相似し大きくなっていることがわかる。この移動の方向(矢印N1,N2,N3)および距離L110,L120,L130の変化を解析することによって、軌跡画像110から求まる方向および速度で移動しながら、図6中の矢印R方向に回転していることがわかる。
【0063】
すなわち、カメラ20とワークW(ステージ72)との相対移動において、回転や傾き等の移動により動きボケが発生したとしても、軌跡画像110,120,130を解析することによって点拡散関数をより正確に算出することができる。従って、求められた点拡散関数よりワークWの位置をより正確に知ることができ、ロボット10の作業の精度を向上させることができる。なお、マーカー74の数は、第1実施例で説明した1つおよび第2実施例で説明した3つに限定されるものではない。予想されるカメラ20とワークW(ステージ72)との動きに対応して、マーカー74の数を決定すればよい。
【0064】
以上、本発明の実施例について説明したが、上記実施例に対しては、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で様々な変形を加えることができる。例えば上記実施例以外の変形例は、以下の通りである。
【0065】
(第1変形例)上述の実施例では、マーカー制御部45の励起装置46として極短光パルスレーザー発生装置47を適用する場合を例にとり説明したが、これに限定されない。マーカー74の蛍光体Kを励起する方法としては、特定波長のパルス光による励起であってもよいし、電流による励起であってもよい。図1に示すカメラ20の露光時間と比較して極めて短い周期で蛍光体Kを励起して光を放出することができればよい。
【0066】
(第2変形例)上述の実施例では、ロボット10として多関節型ロボットを採用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、スカラー型のロボットであってもよい。また、ロボット10の用途は、ロボットハンド19による部品の把持、ハンダ付けや溶接のような加工を行う等様々な用途が想定される。さらに、産業用ロボットに限らず、医療用ロボットや家庭用ロボットであってもよい。
【符号の説明】
【0067】
5…ロボットシステム、10…ロボット、19…ロボットハンド、20…撮像装置としてのカメラ、30…画像処理装置、32…画像入力部、34…位置情報取得部、35…点拡散関数算出部、39…位置算出部、45…マーカー制御部、46…励起装置、47…極短光パルスレーザー発生装置、48…レーザー照射部、50…制御部、60…コンピューター、72…ステージ、74…マーカー、75…発光部、100,110,120,130…軌跡画像、100a,100b,100c,100d…輝点、100A…輝点列、B…ボケ画像、K…蛍光体、W…作業対象物としてのワーク、S12…マーカー&ワーク撮像工程、S14…点拡散関数算出工程、S15…画像生成工程、S16…ワーク位置算出工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業対象物に対して作業を実施するロボットと、
前記作業対象物を載置するとともに、蛍光体マーカーを備えたステージと、
前記作業対象物と前記蛍光体マーカーとを同一画像として所定の露光時間で撮像する撮像装置と、
前記撮像装置の露光時間より短い周期で前記蛍光体マーカーを点滅発光させるマーカー制御部と、を備え、
前記撮像装置により撮像された動きボケを含む劣化画像から前記蛍光体マーカーの軌跡画像を抽出して、前記軌跡画像から点拡散関数を算出する点拡散関数算出部と、
算出した前記点拡散関数を用いて、前記劣化画像を画像変換することにより、前記劣化画像から劣化していない元画像を生成する画像生成部と、
生成された前記元画像から前記作業対象物の位置を算出する位置算出部と、を有することを特徴とするロボットシステム。
【請求項2】
前記マーカー制御部は、前記蛍光体マーカーの蛍光体の励起装置を有し、前記蛍光体を断続的に励起させることを特徴とする請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記励起装置は、極短光パルスレーザー発生装置であり、前記蛍光体マーカーに励起用レーザー光を照射することを特徴とする請求項1または2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記蛍光体マーカーは、前記ステージ上に複数設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項5】
複数の前記蛍光体マーカーは、それぞれ異なった波長の光を放出していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項6】
作業対象物に対して作業を施すロボットシステムの制御方法であって、
マーカー制御部により撮像装置の露光時間よりも短い周期で点滅発光するように制御される蛍光体マーカーを備えたステージに載置される前記作業対象物を、前記撮像装置により前記蛍光体マーカーとともに撮像する撮像工程と、
前記撮像工程で撮像された動きボケを含む劣化画像から前記蛍光体マーカーの軌跡画像を抽出して、前記軌跡画像から点拡散関数を算出する点拡散関数算出工程と、
算出した前記点拡散関数を用いて、前記劣化画像を画像変換することにより、前記劣化画像から劣化していない元画像を生成する画像生成工程と、生成された前記元画像から前記作業対象物の位置を算出する位置算出工程と、を有することを特徴とするロボットシステムの制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−27454(P2011−27454A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170878(P2009−170878)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】