説明

三輪走行装置

【課題】前後方向だけでなく、横へも移動可能にした、三輪走行装置を提供する。
【解決手段】車軸が同一直線上に配置された第1車輪110及び第2車輪120と、第1車輪と第2車輪との間に配置され車軸が第1車輪及び第2車輪の車軸の延長線と直交する水平な直線上に配置された第3車輪130と、第1車輪,第2車輪及び第3車輪を別々に駆動するように各車輪に設けられた駆動手段と、各駆動手段を制御する制御手段と、を備え、各車輪110〜130が車輪外周に沿って並んで配置された複数の回転体31を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は三輪の走行装置に係り、特に、前後方向の移動だけでなく、装置自体の向きを変えずに横方向への移動が可能な走行装置及びそれを備えた電動車椅子、ロボット、その他の産業、学術、家庭用の器具、装置、機械、玩具などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、人が移動するための手段として車輪を備えた各種の走行装置が知られている。この種の走行装置は、少なくとも三輪或いは四輪の車を車体のコーナー或いはそれに近接した部位に配設している。
【0003】
また、近年では、車輪が二輪の走行装置が開発・市販され、レジャー用などとして活用されている。
特許文献1には自立型の二輪走行装置が開示されており、この走行装置は、高速回転するホイールのジャイロ効果によって自立姿勢を保持する機構を備えている。特許文献2にも自立型の二輪走行装置が開示されている。
このような自立型二輪走行装置は、普通の乗用自動車に比べると小型で、走行の際にも小回りがきくため利便性が高い。
【0004】
【特許文献1】特開2003−237665号公報
【特許文献2】特開平06−92273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1,2に示す自立型二輪走行装置を車庫などの収納場所へ移動させるなど、少しだけ横へ移動させたい場合には、図12に示すように、自立型二輪走行装置300を前方へ移動させてからハンドル310を右(或いは左)に切り、ハンドル310を切った状態で自立型二輪走行装置300を後退させることで、当初の位置Aからその横位置Bに移動させる必要がある。少しの移動にこれだけの作業を必要とすることは煩わしいし、このような移動操作は狭い場所では行えない。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みて創作されたものであり、前後方向だけでなく横へも移動可能にした、三輪走行装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、車軸が同一直線上に配置された第1車輪及び第2車輪と、第1車輪と第2車輪との間に配置され、車軸が第1車輪及び第2車輪の車軸の延長線と直交する水平な直線上に配置された第3車輪と、各車輪に設けられた駆動手段と、各駆動手段を制御する制御手段と、を備え、各車輪が車輪外周に沿って配置された複数の回転体を備えていることを特徴としている。
【0008】
本発明の三輪走行装置において、好ましくは、メインフレーム部と、このメインフレームの左側と右側にそれぞれ配設されたサブフレーム部とメインフレーム部と左側のサブフレームとの間及びメインフレーム部と右側のサブフレーム部との間にそれぞれ配設され、一端部がメインフレーム部に回転可能に取り付けられ、他端部がサブフレーム部に回転可能に取り付けられた一対のアームと、左右のアームとメインフレーム部との間にそれぞれ配設された弾機手段と、を備え、第1車輪が左側のサブフレーム部に支持され、第2車輪が右側のサブフレーム部に支持され、第3車輪がメインフレーム部に支持されている。
本発明の三輪走行装置において、好ましくは、制御装置は、第1車輪及び第2車輪を駆動させる際は第3車輪を駆動させず、第3車輪を駆動させる際は第1車輪及び第2車輪を駆動させない。駆動手段はホイールインモーターで構成されるのが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前後方向への移動の駆動力を発揮する第1車輪及び第2車輪の他に、第1車輪及び第2車輪の進行方向と直交する方向へ転動する第3車輪を備えていることから、装置の向きを変えずに横方向への移動を行える。
【0010】
第1車輪,第2車輪及び第3車輪がそれぞれ車輪外周に沿った回転軸を備えた回転体を複数配設した全方向車輪で構成されていることから、前後方向への走行の際に回転しない第3車輪ではその下端の回転体が走行装置の走行に伴って回転し、左側或いは右側への横移動の際に回転しない第1車輪及び第2車輪ではその下端の回転体が走行装置の横移動に伴って回転する。よって、走行時に回転しない車輪がある場合でも、本実施形態に係る走行装置1は、前後方向及び横方向への移動を円滑に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。なお、図中のFrは三輪走行装置の前方を、Upは三輪走行装置の上方を、LHは三輪走行装置の横幅方向である左方を示す。
図1は本発明の実施形態に係る三輪走行装置(以下、走行装置と言う)1を示す斜視図であり、図2は正面図、図3は背面図、図4はA−A線断面図、図5は平面図である。
【0012】
走行装置1は、図1〜図3に示すように、ボディ10と、ボディ10の左側に配設した第1車輪110と、ボディの右側に配設した第2車輪120と、第1車輪110と第2車輪120との間に配設された第3車輪130とを備える他、図示省略する各車輪110,120,130を駆動する駆動手段とこの駆動手段を制御する制御手段とを備えている。
【0013】
ボディ10は、メインフレーム部11と、このメインフレーム部11に揺動可能に取り付けられ第1車輪110,第2車輪120を支持するサブフレーム部12L,12Rと、走行中の路面の状況に応じてボディ10が受ける振動などを減衰させるダンパー機構15と、を備えている。
【0014】
メインフレーム部11は、図2〜図4に示すように、垂直状に起立し走行装置前方に面した正面プレート11Aと、この正面プレート11Aと同形に形成され一定の距離を置いて正面プレート11Aと対向するように配設された背面プレート11Bと、正面プレート11Aの上端と背面プレート11Bの上端とを連結する水平板状の連結プレート11Cと、この連結プレート11Cの上面に固定され中心軸を鉛直方向に沿わせた筒材11Dと、この筒材11D内を摺動可能な鉛直シャフト11Eと、この鉛直シャフト11Eの上端に固定されたプレート状の台座11Fと、から構成されている。メインフレーム部11の各構成部材11A〜11Fは鋼材でできている。なお、メインフレーム部11は、パイプ状の鋼材を組み合わせて、或いはパイプ状と板状の鋼材を組み合わせて構成されてもよい。
【0015】
サブフレーム部12L,12Rは鋼材で成り、例えば図1に示すように矩形状のプレート部材として構成され、広い面が走行装置1の幅方向外側を向くように走行装置1に配設されており、走行装置1の左側と右側とにそれぞれ設けられている。左側のサブフレーム部12Lには駆動系としての第1車輪110が、右側のサブフレーム部12Rには第2車輪120が取り付けられる。
【0016】
ダンパー機構15は、各サブフレーム部12L,12Rを揺動可能に支持する一対のサスペンションアーム151U,151Dと、サスペンションアーム151U,151Dの急激な揺動やメインフレーム部11に及ぼす振動を緩衝するスプリング、ゴムなどの弾機手段と、を備えている。以下、弾機手段としてスプリング152を使用した場合を説明する。
【0017】
ダンパー機構15の具体的構成について例示する。
図2に示すように、走行装置1の前部左側では、左側のサブフレーム部12Lの前端面221Lに一対のサスペンションアーム151U,151Dの各先端部がピン153によって回転可能に取り付けられている。走行装置1の前部右側では、右側のサブフレーム部12Rの前端面221Rに他の一対のサスペンションアーム151U,151Dの各先端部がピン153によって回転可能に取り付けられている。これらのサスペンションアーム151U,151Dの基部は、それぞれピン154によって正面プレート11Aに回転可能に取り付けられている。
【0018】
走行装置1の後部では、図3に示すように、左側のサブフレーム部12Lの後端面222Lに一対のサスペンションアーム155U,155Dの各先端部がピン156によって回転可能に取り付けられ、右側では、右側のサブフレーム部12Rの後端面222Rに他の一対のサスペンションアーム155U,155Dの各先端部がピン156によって回転可能に取り付けられている。これらのサスペンションアーム155U,155Dの基部は、それぞれピン157によって背面プレート11Bに回転可能に取り付けられている。
【0019】
本実施形態において、走行装置1の前部(後部)で左右のサブフレーム部12L,12Rをそれぞれ支持する一対のサスペンションアーム151U,151D(155U,155D)は間隔をあけて上下に平行に配設されている。走行装置1の前部に配設されたサスペンションアーム151U,151Dの内、上側のサスペンションアーム151Uの中間部には、スプリング152を支持するバー158の一端部がピン159Aによって回転可能に取り付けられている。このバー158の先端部寄りにはバー表面から円環状のフランジ158Aが突出しており、このフランジ158Aにスプリング152の一端が固定されている。このスプリング152の自然長はバー158のフランジ158Aから先端までの距離よりも長く、スプリング152はバー158に取り付けられた状態でスプリング先端部がバー158の先端を越えてバー延長線上に配置されている。スプリング152の他端は、台座11Fの前端面にピン159Bによって回転可能に取り付けられた受け部159Cに取り付けられている。台座11Fとバー158との間でスプリング152は台座11F等の重みによって圧縮されて取り付けられるが、その弾性力によって鉛直シャフト11Eを筒材11Dから上方へ引き出した状態で台座11Fを支持している。
このようなダンパー機構15によって、サスペンションアーム151U,151Dの不要な上下動を吸収する。
【0020】
左側のサブフレーム部12Lの外側には幅方向外側へ突出するように駆動手段としてのホイールインモーター20が取り付けられており、このホイールインモーター20に第1車輪110が取り付けられている。ホイールインモーター20は従来より各種の構造のものが知られており、本実施形態では様々のタイプのものを適用可能であるが、特にステーター(stator)とそのまわりを回転するローター(rotor)を備えた装置を使用するのが望ましい。具体的には、ステーターを左側のサブフレーム部12Lに固定し、このステーターのまわりを回転するローターに第1車輪110を同軸状に取り付ける。このような構成によって、第1車輪110はローターと共に回転する。
右側のサブフレーム部12Rの外側面にもホイールインモーター20が取り付けられており、このローターに第2車輪120が取り付けられている。
【0021】
本実施形態において、第1車輪110と第2車輪120とは、それらの円板状の側面が対向するようにボディ10に配設され、平地に走行装置1が置かれた状態では第1車輪110と第2車輪120の回転の中心が仮想の同一直線α1(図1)上に配置される。
【0022】
第3車輪130は、走行装置1の前後水平方向の延びる仮想線α2(図4)、即ち、第1車輪110及び第2車輪120の車軸の延長線と直交する水平な直線まわりに回転するように配設されている。具体的には、図4に示すように、第3車輪130はメインフレーム部11を構成する正面プレート11Aと背面プレート11Bとの間に挟持されるように配設されたホイールインモーター20に取り付けられている。このホイールインモーター20は、ステーターが正面プレート11Aと背面プレート11Bとに固定され、このステーターのまわりを回転するローターに第3車輪130が取り付けられている。
【0023】
さらに、本実施形態に係る各車輪は全方向車輪30で構成されていることを特徴としている。即ち、第1車輪110、第2車輪120、第3車輪130は、例えば、特開2002−137602号公報及び特開2004−344289号公報に開示されている回転体付き車輪として構成されており、図6に示すように、その外周に沿った回転軸Yを備えた複数個の回転体31を備えている。これらの回転体31は、それぞれ車輪110,120,130の車軸方向X(図6参照)と直交する回転軸Y(図6参照)の周りに回動可能に支持されている。各回転体31の表面が車輪の外周円の円弧を画成するように形成されている。具体的には、各回転体31は、先端部の直径が後端部の直径より小さくした先細のカップ状に形成されている。これにより、車輪自体が車軸方向側(即ち、図示のX側)に移動しようとするとき、地面等FLに接地している回転体(図中のダブルハッチングを付した回転体;他の回転体と区別するために符号31Bを付す)はその回転軸Yの周りに回転することにより、地面等FLを転動して、車輪自体が方向転換することなく、車輪は横方向への移動を円滑に行うことができる。
第1車輪110、第2車輪120、第3車輪130は、同じ寸法、同じ形状に構成され、各回転の中心が同じ高さになるように、ボディ10に取り付けられている。平地に走行装置1が置かれた状態で各車輪110,120,130は地面に接触する。
【0024】
走行装置1は、例えば、下端部が支持されて回転可能な棒状のレバーと、このレバーの回転角度を検出するセンサーとを有するジョイスティック等の操作手段(図示省略)を備え、ユーザーがレバーを移動方向へ倒すことで、その回転角度の信号が操作手段から制御装置(図示省略)へ送られ、制御装置がその信号に基づいて第1〜第3車輪110〜130を制御する。例えば、レバーの回転角度に対応した各車輪110〜130の回転速度が予め規定されて、参照データとして制御装置に内蔵されたROM等の記憶手段に記憶されており、制御装置は操作手段の信号と参照データとに基づいて各車輪110〜130を制御する。
本実施形態では、例えば、制御装置としてエレクトロニック・コントロール・ユニット(Electronic Control Unit: ECU)が用いられる。制御装置や各駆動手段への電源は図示省略するバッテリーから供給される。バッテリーや制御装置は、例えば、メインフレーム部11に取り付けられる。
具体的には、図7のシステム動作フローのように、ECUが、ジョイスティック等の操作手段からの信号に基づいて車輪速度演算を行い、第1車輪110〜第3車輪130のモーター駆動アンプへ走行速度指令及び/又は横車輪速度指令を送出する。ECUは、左右の車輪としての第1車輪110及び第2車輪120に関連して走行方向の情報を含むハンドル指令を生成する。本実施形態に係る走行装置1では、左右の車輪としての第1車輪110及び第2車輪120への制御としてバランス制御を行う。即ち、走行装置1が自立するように第1車輪110及び第2車輪120を制御する。このため、ボディ10に取り付けた角度センサーからの角度信号に基づいて、ECUは、走行装置1がバランスをとるための走行速度指令を演算する。このバランス演算の結果と車輪速度演算の結果とに基づいて、走行速度指令が生成される。ECUはバランスを考慮した走行速度指令とハンドル指令とに基づいて、左車輪用の速度指令と右車輪用の速度指令を生成する。これらの速度指令は、ロータリーエンコーダで検出された速度に基づいてフィードバック制御が行われて、各モーター駆動アンプへ送られる。このように、各第1車輪110〜第3車輪130が駆動制御される。なお、角度センサーの数は1つに限るものではない。
【0025】
本実施形態において走行装置1は、第1車輪110及び第2車輪120を駆動させる際は第3車輪130を駆動させない第1走行モード、第3車輪130を駆動させる際は第1車輪110及び第2車輪120を駆動させない第2走行モード、第1車輪110,第2車輪120及び第3車輪130を同時に駆動させる第3走行モードによって走行する。具体的には、第2走行モードにおいて走行装置1は、操作手段のレバーが真横に倒された際に、即ち、真横への移動指示が出されたときには第3車輪130を駆動し、その際は第1車輪110及び第2車輪120を駆動しないように、駆動系に対する制御を行う。
また、第3走行モードでは、例えば、走行装置1の向きを変えずに斜めに走行するように、或いは、斜めに走行しつつ回転するように、走行装置1の三輪、即ち第1車輪110,第2車輪120及び第3車輪130を同時に駆動させる。
なお、上記走行モードは、例えば、モードごとに設けたボタンの何れかを押すことで選択できるようになっている。
【0026】
本実施形態に係る走行装置1は以上のように構成され、次のように動作する。
先ず、前後方向の走行は、ユーザーが操作手段のレバーを前方或いは後方へ倒すことで、制御装置によって第1車輪110及び第2車輪120のホイールインモーター20をそれぞれ駆動制御して、双方の第1車輪110及び第2車輪120を前周りに駆動すると走行装置1は前進する。また、双方の第1車輪110及び第2車輪120を後周りに駆動すると、走行装置1は後退する。
【0027】
また、レバーを前後方向の線から左側或いは右側に傾けて倒すことで、傾けた側の車輪の回転速度を遅くさせて、傾けた側に曲がりながら走行させることもできる。例えば、ユーザーがレバーを右前方へ倒すと、制御装置は、左の第1車輪110を前周りに比較的高速で駆動させると共に、右の第2車輪120を前周りに比較的低速で駆動させることで、左右の車輪の回転速度の差に基づいて、走行装置1は右に曲がりながら前進する。この際、駆動制御されない第3車輪130自体も走行面に接触しているので、第3車輪130において走行面に接触している回転体31だけが走行面から受ける摩擦によって回転する。
【0028】
一方、ユーザーが操作手段のレバーを真横、例えば、前後方向の線に対して直交するように右側或いは左側に倒すことで、制御装置によって第3車輪130だけが駆動制御される。これにより、走行装置1は、その向きを変えずに、横方向に、右側或いは左側に移動する。この際、駆動制御されない第1車輪110及び第2車輪120自体も走行面に接触しているので、第1車輪110及び第2車輪120では走行面に接触している回転体31だけが走行面から受ける摩擦によって回転する。
また、走行装置1の三輪、即ち第1車輪110,第2車輪120及び第3車輪130を同時に駆動させて、回転を伴いながら斜めへの走行等が可能である。
【0029】
このように、本発明の実施形態に係る走行装置1によれば、前後方向への移動の駆動力を発揮する第1車輪110及び第2車輪120の他に、第1車輪110及び第2車輪120の進行方向と直交する方向へ転動する第3車輪130を備えていることから、装置の向きを変えずに横方向への移動を行える。
【0030】
また、第1車輪110,第2車輪120及び第3車輪130がそれぞれ車輪外周に沿って回転体31を複数配設した全方向車輪30で構成されていることから、前後方向への走行の際に回転しない第3車輪130ではその下端の回転体31が走行装置1の走行に伴って回転し、左側或いは右側への横移動の際に回転しない第1車輪110及び第2車輪120ではその下端の回転体31が走行装置1の横移動に伴って回転する。よって、走行時に回転しない車輪があるとしても、本実施形態に係る走行装置1は、前後方向及び横方向への移動を円滑に行える。
【実施例】
【0031】
本発明の走行装置1を利用して、図8に示すように台座11Fにシート51を固定した電動車椅子50を構成することもできる。この場合、シート51のシートバック51Aの縁から前方に延出したアームレスト51Bに、レバー61を有する操作手段60を配設すると便利である。
【0032】
本実施例における電動車椅子50は、乗員が搭乗する際にシートがその形態を変形することを特徴としている。即ち、電動車椅子50は、図9(A)に示すように乗員がシート51に座る前にフットレスト51Gに立って乗り込むことができ、乗り込んだ後にシート51の形態が図9(B)に示すように変形して、最終的には、図9(C)に示すようにシート51が着座用の形態をとることを特徴としている。
【0033】
シート51は、図10(A)に示すように、台座11Fに取り付けたベース51Cと、このベース51Cの左右の縁部からそれぞれ起立したフレームステー51Dと、これらのフレームステー51D,51Dの上端部に側縁の中間部をそれぞれ回転可能に取り付けられた座部51Eと、この座部51Eの後部に回転可能に取り付けた上記シートバック51Aと、座部51Eの前部に回転可能に取り付けた前垂れフレーム51Fと、この前垂れフレーム51Fの下端に取り付けられたフットレスト51Gと、フレームステー51D,シートバック51A及び前垂れフレーム51Fにそれぞれ回転可能に取り付けたリンクバー51Hと、から構成されている。リンクバー51Hはシート51の左右にそれぞれ設けられていて、各リンクバー51H,51Hは、長さ中間部をフレームステー51Dに回転可能に取り付けられ、先端部を前垂れフレーム51Fに回転可能に取り付けられ、後端部をシートバック51Aの下端部に回転可能に取り付けられている。
【0034】
シート51を構成するベース51Cには、パワーシリンダー170がブラケット51Kを介して取り付けられている。このパワーシリンダー170は、本体部171と、この本体部171に摺動可能に取り付けられたロッド172と、を備え、本体部171に内蔵されたモーターが後述のECU65によって制御されることでロッド172の本体部171から引き出される長さが調整される。本体部171が上記ブラケット51Kに固定され、ロッド172の先端は上記リンクバー51Hに回転可能に取り付けられる。
なお、図10(A)に示すように、パワーシリンダー170が縮んでリンクバー51Hが水平に延びた状態で、リンクバー51Hの先端部と座部51Eの先端部とで支持された前垂れフレーム51Fが鉛直状に配設され、リンクバー51Hの後端部と座部51Eの後端部とで支持されたシートバック51Aが鉛直状に配設されることで、座面及びフットレスト51Gが水平に保持され、シートバック51Aが座面に対してほぼ直角を成すように保持される。一方、図10(A)に示す状態においてパワーシリンダー170が駆動してロッド172が伸びると、図10(B)に示すようにリンクバー51Hの後側が持ち上がり、リンクバー51Hの揺動動作に連動してシートバック51Aが上方へ移動すると共に前垂れフレーム51Fが下がる。ロッド172が最も引き出された状態では、前垂れフレーム51Fの下端に設けたフットレスト51Gが地面に当接する。このように、フットレスト51Gが接地した状態で、電動車椅子50に人が乗り込むことができる。以下、図9(A)及び図10(B)に示すように、フットレスト51Gが地面に接した電動車椅子50の姿勢を起立搭乗姿勢といい、図9(C)及び図10(A)に示すようにフットレスト51Gが所定の高さ位置で水平状に保持されて走行可能な姿勢をバランス走行姿勢という。なお、図10ではアームレスト51Bの表示を省略している。
【0035】
ここで、図11は本実施例の電動車椅子50の制御ブロック図であり、電動車椅子50は、第1車輪110のホイールインモーター20を制御するためのモータードライバー63Aと、第2車輪120のホイールインモーター20を制御するためのモータードライバー63Bと、第3車輪130のホイールインモーター20を制御するためのモータードライバー63Cと、パワーシリンダー170を制御するためのモータードライバー63Dと、ジャイロセンサー64と、レバー61を有する操作手段60と、各モータードライバー63A〜63Dを制御するECU65と、バッテリー66と、を備えている。
ECU65は、走行中において、操作手段60からの信号とジャイロセンサー64からの信号に基づいて各モータードライバー63A,63B,63Cを制御する。ジャイロセンサー64は、例えば、台座11Fの上に取り付けられて、走行装置1のピッチング角、即ち、第1車輪110と第2車輪120の車軸に平行な軸まわりの角度を検出するものである。このピッチング角に応じてECU65が第1車輪110と第2車輪120を駆動させることで、走行装置(即ち、電動車椅子50)が所望の傾きの姿勢を維持する。
パワーシリンダー170を操作するためのスイッチ、即ちロッド172の出し入れを操作するためのスイッチは、図示省略するが、例えば、アームレスト51B(図8)に配設されており、このスイッチからの信号がECU65へ送られる。
【0036】
次に、このように構成された電動車椅子50の制御について説明する。
先ず、図9(A)に示す起立搭乗姿勢において、使用者が電源を投入し、姿勢可変用のパワーシリンダー170を動作させてロッド172の引き出し長さを短くする。これにより、リンクバー51Hの先端部及びそれに連結した前垂れフレーム51Fが上へ持ち上がることで、フットレスト51Gが地面から離れる。この際、ECU65は、電動車椅子50が転倒しないように、即ち電動車椅子50が倒立するように、ジャイロセンサー64が検出したピッチング角に基づいて第1車輪110及び第2車輪120のホイールインモーター20,20を同方向へ回転させる制御(以下、倒立制御という)を行い、バランスを維持する。フットレスト51Gが予め決められた位置まで持ち上げられた後においても、バランスをとる制御が行われる。
【0037】
このように、フットレスト51Gが持ち上がり、図9(C)に示すようにバランス走行姿勢になった状態で、乗員がレバー61を操作することで電動車椅子50は走行する。
例えば、乗員がレバー61を回転させると、ECU65が倒立制御を行いながら第1車輪110及び第2車輪120のホイールインモーター20,20に差動を与えて、電動車椅子50は旋回する。
レバー61を前後に動かすと、ECU65が倒立制御に所定の迎え角を付けて、即ち進行方向側へ電動車椅子自体が前のめり状に若干傾斜するように第1車輪110及び第2車輪120のホイールインモーターを制御して、電動車椅子がバランスを保たせながら前後に走行する。
レバー61を左右に動かすと、ECU65が倒立制御を行いながら第3車輪130のホイールインモーター20を駆動して、電動車椅子50が真横へ移動する。
レバー61を斜め横に動かすと、ECU65が倒立制御を行いながら第1車輪110及び第2車輪120を前進或いは後進方向へ回転させると共に第3車輪130を回転させることで、電動車椅子50が斜め横へ移動する。
また、電動車椅子50は、上記の動作を複合すると倒立制御を行いながら、旋回を伴いつつ斜めに移動するような複雑な走行も可能である。
【0038】
このような電動車椅子50によれば、バランス制御しながら前後或いは斜めへの走行が可能であることに加え、第3車輪130だけを駆動することで真横への移動を行うこともできる。
【0039】
以上詳述したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施をすることができる。例えば、ホイールインモーター20に代えて、各車輪がシャフト(車軸)に固定され、このドライブシャフトがモーター、即ち車輪ごとに設けられたモーターによって駆動されるように構成してもよい。この場合も、第1車輪と第2車輪とはそれらの車軸が同一直線上に配置され、第3車輪は第1車輪と上記第2車輪との間に配置され第1車輪及び第2車輪の車軸の延長線と直交する水平に配置された回転軸(車軸)のまわりで回転するように構成される。この際、第1車輪用のモーターは左側のサブフレーム部に、第2車輪用のモーターは右側のサブフレーム部に、第3車輪用のモーターはメインフレーム部に取り付けられる。
【0040】
走行装置のボディの構造や形状は上記説明例に限定されるものではない。ボディを構成するメインフレーム部とサブフレーム部とはサスペンションアームを介さずに一体に連結した構成であってもよい。走行装置は、ダンパー機構を備えずに構成されてもよい。
【0041】
上記電動車椅子50のシート51は、ベース51Cを用いずに、走行装置1に配設されてもよい。この場合、例えば、フレームステー51D及びブラケット51Kは台座11Fに固定される。
本発明の走行装置は、電動車椅子に限らず、産業、学術、家庭用の器具、装置、機械、玩具が移動するための手段として適用可能である。例えば、移動型ロボットの脚として上記走行装置を適用できる。また、人が移動するための手段や物を搬送するための運搬具或いは、農作業用の移動する機械の移動手段として、また、遊園地やテーマパークなどのレジャー施設における遊具の移動機構としても利用可能である。さらに、本発明は、老人や体の不自由な障がい者などが利用する介助・福祉用の機械・器具にも利用できる。
本発明の走行装置及びこの走行装置を利用した移動手段等は、図11に示す上記電動車椅子の構成例のように、ジャイロセンサーなどを備えて走行装置のピッチング角度を検出して、倒立制御されるように構成されるのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態に係る三輪走行装置を示す斜視図である。
【図2】図1の三輪走行装置の正面図である。
【図3】図1の三輪走行装置の背面図である。
【図4】図1のA−A線断面図である。
【図5】図1の三輪走行装置の平面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る全方向車輪の斜視図である。
【図7】本発明の実施形態に係るシステムフローの図である。
【図8】図1の三輪走行装置を利用した電動車椅子の実施例の斜視図である。
【図9】(A)〜(C)は図8の電動車椅子の使用状態を説明する図である。
【図10】(A),(B)は図8の電動車椅子の側面図である。
【図11】図8の電動車椅子の制御ブロック図である。
【図12】従来の二輪走行装置の問題を説明するための図である。
【符号の説明】
【0043】
1 三輪走行装置
10 ボディ
11 メインフレーム部
11A 正面プレート
11B 背面プレート
11C 連結プレート
11D 筒材
11E 鉛直シャフト
11F 台座
12L,12R サブフレーム部
15 ダンパー機構
20 ホイールインモーター
30 全方向車輪
31,31A,31B 回転体
50 電動車椅子
51 シート
51A シートバック
51B アームレスト
51C ベース
51D フレームステー
51E 座部
51F 前垂れフレーム
51G フットレスト
51H リンクバー
51K ブラケット
60 操作手段
61 レバー
63A〜63D モータードライバー
64 ジャイロセンサー
65 ECU
66 バッテリー
110 第1車輪
120 第2車輪
130 第3車輪
151U,151D,155U,155D サスペンションアーム
152 スプリング
153,154,156,157,159A,159B ピン
158 バー
158A フランジ
159C 受け部
170 パワーシリンダー
171 本体部
172 ロッド
221L,221R 前端面
222L,222R 後端面
α1,α2 仮想線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸が同一直線上に配置された第1車輪及び第2車輪と、
上記第1車輪と上記第2車輪との間に配置され、車軸が上記第1車輪及び上記第2車輪の車軸の延長線と直交する水平な直線上に配置された第3車輪と、
各車輪に設けられた駆動手段と、
各駆動手段を制御する制御手段と、を備え、
各車輪が車輪外周に沿って配置された複数の回転体を備えて成ることを特徴とする、三輪走行装置。
【請求項2】
メインフレーム部と、
このメインフレームの左側と右側にそれぞれ配設されたサブフレーム部と、
上記メインフレーム部と左側のサブフレームとの間及び上記メインフレーム部と右側のサブフレーム部との間にそれぞれ配設され、一端部が上記メインフレーム部に回転可能に取り付けられ、他端部がサブフレーム部に回転可能に取り付けられた一対のアームと、
左右の上記アームと上記メインフレーム部との間にそれぞれ配設された弾機手段と、を備え、
前記第1車輪が左側のサブフレーム部に支持され、
前記第2車輪が右側のサブフレーム部に支持され、
前記第3車輪が上記メインフレーム部に支持されていることを特徴とする、請求項1に記載の三輪走行装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1車輪及び第2車輪を駆動させる際に前記第3車輪を駆動させず、前記第3車輪を駆動させる際に前記第1車輪及び前記第2車輪を駆動させないことを特徴とする、請求項1又は2に記載の三輪走行装置。
【請求項4】
前記駆動手段がホイールインモーターであることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の三輪走行装置。
【請求項5】
前記請求項1〜4の何れかに記載の三輪走行装置と、椅子とを備えたことを特徴とする、電動車椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−40165(P2009−40165A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205985(P2007−205985)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】