説明

内燃機関の制御装置

【課題】過給機における振動及びノイズを効果的に低減する。
【解決手段】内燃機関の制御装置は、タービン(217a)及びコンプレッサ(217b)を有する過給機(217)を備えた内燃機関(200)の制御装置であって、内燃機関の回転数が所定閾値よりも大きく低下することを検出する回転数低下検出手段回転数低下検出手段(206)と、内燃機関の回転数が前記所定閾値よりも大きく低下することが検出された場合に、過給機の回転数を低下させる過給機回転数低下手段(100)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばVNT(Variable Nozzle Turbo:可変ノズルターボ)等の過給機を備える内燃機関を制御するための内燃機関の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の内燃機関として、タービン及びコンプレッサがボールベアリングを有する主軸によって結合された過給機を備えるものがある。例えば、スプリング予圧式ボールベアリングでは、スプリングから一定のスラスト荷重がかけられることによってボールベアリングの隙間がなくなり、安定した回転性能が得られる。しかし、常に一定のスラスト荷重がかかるため、ボールベアリングのボールと軌道輪との接触部が変化せず、ボールにバンド摩耗が発生してしまうおそれがある。このため、スプリングを使用せず、ボールベアリングに一定の隙間を残すことによって、ボールベアリングのボールと軌道輪との接触部を状況により変化させるという技術が提案されている。
【0003】
他方で、過給機の回転数を意図的に低下させるための技術として、例えば特許文献1から3に示すような技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−151062号公報
【特許文献2】特開2007−23816号公報
【特許文献3】特開2005−220761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したスプリングを使用しないボールベアリングでは、過給機の回転数が主軸の固有振動数と重なってしまうことにより、比較的大きな振動やノイズが発生してしまうという技術的問題点がある。このような過給機における振動やノイズは、内燃機関の回転数が高い場合には、さほど大きな問題とはならない。しかしながら、例えば内燃機関がアイドル状態になった直後など、内燃機関の回転数に対して過給機の回転数が大きくなってしまう際には、不快感を与える原因となってしまう。
【0006】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、過給機における振動やノイズを低減可能な内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内燃機関の制御装置は上記課題を解決するために、タービン及びコンプレッサを有する過給機を備えた内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関の回転数が所定閾値よりも大きく低下することを検出する回転数低下検出手段と、前記内燃機関の回転数が前記所定閾値よりも大きく低下することが検出された場合に、前記過給機の回転数を低下させる過給機回転数低下手段とを備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【0008】
本発明における「内燃機関」とは、例えば複数の気筒を有し、当該複数の気筒の各々における燃焼室において、ガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料が燃焼した際に発生する爆発力を、ピストン、コネクティングロッド及びクランク軸等を適宜介して動力として取り出すことが可能に構成される機関を包括する概念であり、例えば自動車用の2サイクル或いは4サイクルレシプロエンジン等を指す。
【0009】
また本発明に係る「過給器」とは、少なくとも排気系にタービンを、また吸気系にコンプレッサを備えた構成を有し、例えばタービンの回転力を、タービンと回転同軸に構成されるコンプレッサの回転力に変換し、当該コンプレッサの回転力によって大気圧以上の吸気圧を得ることが可能な物理的、機械的、機構的或いは電気的な手段を包括する概念であり、所謂ターボチャージャやスーパーチャージャ等を好適に含む趣旨である。ターボチャージャの好適な一態様としては、例えばモータ等の電動機を備え、タービン、コンプレッサ或いはそれらを同軸で連結する回転軸等に対し回転駆動用のトルクを供給することが可能に構成されているものが挙げられる。この場合、過給器は、所謂MAT(Motor Assist Turbo)と称される構成を有してもよい。
【0010】
ここで本発明の内燃機関の制御装置によれば、その動作時には、先ず回転数低下検出手段によって、内燃機関の回転数が所定閾値よりも大きく低下することが検出される。尚、ここでの「所定閾値」とは、後述する過給機における振動やノイズが問題となってしまう程度に、内燃機関の回転数の低下度合いが大きいか否かを判定するための閾値であり、予めシミュレーション等により過給機のノイズや振動を計測或いは予測しておくことで設定される。また、ここでの「低下する」とは、実際に内燃機関の回転数が低下した場合の他、内燃機関の回転数が低下することが予測できるような場合をも包括する概念である。即ち、回転数低下検出手段は、回転数低下予測手段と呼ぶことができる。
【0011】
続いて、内燃機関の回転数が所定閾値よりも大きく低下することが検出されると、過給機回転数低下手段によって、過給機の回転数が低下させられる。即ち、過給機は、慣性や摩擦等によって自然に回転数が低下させられることに加えて、過給機回転数低下手段によって意図的に回転数が低下させられる。言い換えれば、過給機回転数低下手段は、過給機に対してブレーキング動作を行う過給機ブレーキ手段ともよべる。
【0012】
過給機の回転数は、典型的には、内燃機関の回転数と連動するように構成されている。このため、内燃機関の回転数が低下すると、過給機の回転数は次第に低下する。しかしながら、内燃機関の回転数の減少に比べると、過給機の回転数の減少の速度は遅い場合が多い。よって、仮に上述した過給機回転数低下手段が備えられていないとすると、内燃機関の回転数が急速に低下していくのに対して、過給機の回転数は比較的高い値のまま保たれた状態となる。この場合、内燃機関から発せられる振動及びノイズが大きく減少するのに対して、過給機から発せられる振動及びノイズはさほど減少しないため、過給機における振動及びノイズが目立つようになり、不快感を与える原因となってしまう。
【0013】
しかるに本発明では特に、上述したように、内燃機関の回転数が所定閾値よりも大きく低下する場合に、過給機回転数低下手段によって、過給機の回転数が低下させられる。よって、回転数が低下することで内燃機関から発せられる振動及びノイズが減少した場合には、これに対応して、過給機から発せられる振動及びノイズも減少する。従って、過給機から発せられる振動及びノイズが、不快感を与えてしまう程に目立ってしまうことを防止することができる。
【0014】
尚、過給機回転数低下手段による回転数の低下は、典型的には、内燃機関の回転数が過給機の振動やノイズが目立たなくなるまでに高くなった際に解除される。即ち、回転数低下検出手段によって、内燃機関の回転数の低下が検出されなくなった場合には、過給機回転数低下手段の動作は停止させられる。
【0015】
また、過給機回転数低下手段によって、過給機の回転数をどの程度低下させるかは、過給機における振動やノイズを予め計測しておくことにより、好適に設定することが可能である。また、状況に応じて、過給機の回転数の低下の度合いを変化させるように構成することによって、より好適に振動及びノイズを低減することができる。
【0016】
以上説明したように、本発明の内燃機関の制御装置によれば、内燃機関の回転数が大きく低下する際の、過給機における振動及びノイズを効果的に低減することが可能である。
【0017】
本発明の内燃機関の制御装置の一態様では、前記タービン及び前記コンプレッサは、ボールベアリングによって支持された主軸によって互いに結合されており、前記ボールベアリングは、該ボールベアリングを保持する保持部材との間に所定の間隙を有するように構成されている。
【0018】
この態様によれば、タービン及びコンプレッサが主軸によって互いに結合されており、過給機の動作時には、タービンの回転力が主軸を介してコンプレッサに伝達される。主軸は、ボールベアリングによって支持されており、ボールベアリングが保持部材に保持された構成となっている。
【0019】
ここで本態様では特に、ボールベアリングと保持部材との間には、所定の間隙が設けられている。具体的には、例えばバネ等によってスラスト荷重をかけないようにすることで、ボールベアリングにおける転動体部分と保持部材との間隙がゼロとならないように構成されている。これにより、ボールベアリングと保持部材との接触部分が状況に応じて変化するようになるため、バンド摩耗の発生を防止することが可能となる。
【0020】
上述した構成では、間隙を有しているが故に、スラストの発生しない低速回転時等において、過給機から振動やノイズが発生し易い。しかしながら本態様では、上述したように、内燃機関の回転数が大きく低下する場合に、過給機回転数低下手段によって、過給機の回転数が低下させられる。よって、過給機から発せられる振動及びノイズを効果的に低減することができる。従って、過給機から発せられる振動及びノイズが、不快感を与えてしまう程に目立ってしまうことを防止することができる。
【0021】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記回転数低下検出手段は、前記内燃機関の回転数を検出する内燃機関回転数検出手段を含んでいる。
【0022】
この態様によれば、回転数低下検出手段が内燃機関の回転数が大きく低下することを検出する際に、内燃機関回転数検出手段によって、内燃機関の回転数が検出される。このため、内燃機関の回転数の低下を実際の回転数に基づいて検出することができる。
【0023】
尚、内燃機関の回転数は、常時検出されるようにしてもよいし、所定の期間毎に検出されるようにしてもよい。或いは、内燃機関において特定の条件が満たされた時にのみ検出されるようにしてもよい。
【0024】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記回転数低下検出手段は、前記内燃機関の回転数を制御するためのアクセルの開度を検出するアクセル開度検出手段を含んでいる。
【0025】
この態様によれば、回転数低下検出手段が内燃機関の回転数が大きく低下することを検出する際に、アクセル開度検出手段によって、アクセルの開度が検出される。このため、アクセルの開度に対応するように所定の閾値を設定しておけば、より好適に回転数の低下を検出することができる。
【0026】
また、アクセル開度検出手段を備える態様では、アクセル開度に基づいて、実際に内燃機関の回転数が低下する前に、内燃機関の回転数が低下することを検出することができる。即ち、内燃機関の回転数の低下を予測することができる。よって、内燃機関の回転数が低下し始める前に、過給機の回転数を低下させることができる。従って、より好適に過給機から発せられる振動及びノイズが目立ってしまうことを防止することができる。
【0027】
尚、本態様におけるアクセル開度検出手段と、上述した内燃機関回転数検出手段を併用することで、より好適に内燃機関のアイドル状態を検出することも可能である。
【0028】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記過給機回転数低下手段によって、前記過給機の回転数が低下させられている期間を計測する計測手段と、前記計測された期間が所定の期間に達した場合に、前記過給機回転数低下手段による前記過給機の回転数の低下を停止する停止手段とを更に備える。
【0029】
この態様によれば、過給機回転数低下手段によって、過給機の回転数が低下させられると、計測手段によってカウントが開始され、過給機の回転数が低下させられている期間が計測される。そして、計測された期間が所定の期間に達した場合には、停止手段によって、過給機回転数低下手段による過給機の回転数の低下が停止させられる。尚、ここでの「所定の期間」とは、過給機回転数低下手段によって、過給機の回転数が低下され過ぎないようにするための閾値であり、内燃機関及び過給機における各種パラメータ等に基づいて予め設定される。また、停止手段による「停止」は、過給機回転数低下手段による回転数制御の停止を意味しており、過給機の回転数を低下させる前の状態に戻す(即ち、元の回転数まで高める)ことを意味するものではない。
【0030】
計測手段及び停止手段を設けることで、過給機の回転数が低下され過ぎてしまうことを防止することができるため、例えば過給機の回転数が極端に低下してしまうことで、過給機本来の機能が発揮できなくなったり、通常の運転に支障を来してしまうことを防止することができる。従って、より好適に過給機における振動やノイズの発生を防止可能である。
【0031】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記タービンに対する排気流入面積を調節可能とする流入調節手段を更に備え、前記過給機回転数低下手段は、前記排気流入面積が大きくなるように前記排気調節手段を制御することによって、前記過給機の回転数を低下させる。
【0032】
この態様によれば、流入調節手段が備えられることにより、タービンに対する流入面積が調節可能とされている。流入調節手段は、例えば可変ノズルであり、タービンブレードの開口面積を変化させることで排気ガスの流量を変化させる。可変ノズルは、通常の動作時には、内燃機関の回転数が低い場合に過給効率を向上させるため、開口面積を小さくするように調節される。また、内燃機関の回転数が高い場合に排気圧力を低下させるため、開口面積を大きくするように調節される。
【0033】
ここで本態様では特に、内燃機関の回転数が大きく低下することが検出された場合、過給機回転数低下手段が排気調節手段を制御することによって、過給機の回転数を低下させる。具体的には、過給機回転数低下手段は、排気流入面積が大きくなるように流入調節手段を調節することで、タービン上流の圧力を低下させる。本態様では、流入調節手段を調節することによって、確実に過給機の回転数を低下させることができるため、好適に過給機における振動やノイズの発生を防止可能である。
【0034】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記内燃機関の排気を吸気側へ再循環可能とする再循環手段と、前記再循環手段によって再循環される前記排気の量を調節可能とする再循環調節手段とを更に備え、前記過給機回転数低下手段は、前記再循環手段によって還流される前記排気の量が多くなるように前記再循環調節手段を調節することによって、前記過給機の回転数を低下させる。
【0035】
この態様によれば、再循環手段が備えられることにより、内燃機関の排気が吸気側に再循環可能とされている。即ち、本態様に係る内燃機関には、排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)システムが設けられている。再循環手段によって再循環される排気の量は、例えばEGRバルブ等の再循環調節手段によって調節可能とされている。
【0036】
ここで本態様では特に、内燃機関の回転数が大きく低下することが検出された場合、過給機回転数低下手段が再循環調節手段を制御することによって、過給機の回転数を低下させる。具体的には、過給機回転数低下手段は、再循環させる排気の量が増加するように再循環調節手段を調節することで、タービンに流入する排気を低下させる。本態様では、再循環調節手段を調節することによって、確実に過給機の回転数を低下させることができるため、好適に過給機における振動やノイズの発生を防止可能である。
【0037】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記内燃機関の排気を吸気側へ再循環可能とする再循環手段と、前記吸気側に、前記コンプレッサから供給される空気の量を調節可能とする供給調節手段とを更に備え、前記過給機回転数低下手段は、前記吸気側に供給される空気の量が少なくなるように前記供給調節手段を制御することによって、前記過給機の回転数を低下させる。
【0038】
この態様によれば、上述した態様と同様に、再循環手段が備えられることにより、内燃機関の排気が吸気側に再循環可能とされている。また、供給調節手段が備えられえることで、コンプレッサから内燃機関の吸気側に供給される空気の量が調節可能とされている。
【0039】
ここで本態様では特に、内燃機関の回転数が大きく低下することが検出された場合、過給機回転数低下手段が供給調節手段を制御することによって、過給機の回転数を低下させる。具体的には、過給機回転数低下手段は、コンプレッサから内燃機関の吸気側に供給される空気の量が少なくなるように供給調節手段を調節することで、再循環される排気の量を増加させる。本態様では、供給調節手段を調節することによって、確実に過給機の回転数を低下させることができるため、好適に過給機における振動やノイズの発生を防止可能である。
【0040】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記コンプレッサの下流側から上流側に、前記コンプレッサによって圧縮された圧縮空気を環流可能とする還流手段と、前記還流手段によって還流される前記圧縮空気の量を調節可能とする還流調節手段とを更に備え、前記過給機回転数低下手段は、前記還流手段によって還流される前記圧縮空気の量が多くなるように前記還流調節手段を調節することによって、前記過給機の回転数を低下させる。
【0041】
この態様によれば、還流手段が備えられることにより、コンプレッサの下流側から上流側に、コンプレッサによって圧縮された圧縮空気が還流可能とされている。また、還流調節手段が備えられることで、還流手段によって還流される圧縮空気の量が調節可能とされている。
【0042】
ここで本態様では特に、内燃機関の回転数が大きく低下することが検出された場合、過給機回転数低下手段が還流調節手段を制御することによって、過給機の回転数を低下させる。具体的には、過給機回転数低下手段は、コンプレッサから内燃機関の吸気側に供給される空気の量が少なくなるように還流調節手段を調節することで、還流させる圧縮空気の量を増加させる。これにより、コンプレッサの負荷が増大し、結果的に過給機の回転数が低下することとなる。本態様では、供給調節手段を調節することによって、確実に過給機の回転数を低下させることができるため、好適に過給機における振動やノイズの発生を防止可能である。
【0043】
尚、上述した各態様における過給機回転数低下手段による制御は、組み合わせて行われてもよい。即ち、流入調節手段、再循環調節手段、供給調節手段及び還流調節手段のうち2つ以上が同時に制御されることによって、過給機の回転数が低下させられるようにしてもよい。
【0044】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態に係るエンジンシステムの構成を概略的に示す概略構成図である。
【図2】本実施形態に係るエンジンシステムにおけるターボチャージャの構成を示す断面図である。
【図3】本実施形態に係るエンジンシステムにおいて、アイドル状態へと遷移する際のエンジン回転数を示すグラフである。
【図4】比較例に係るエンジンシステムにおいて、エンジンがアイドル状態へと遷移する際のターボチャージャの回転数を示すグラフである。
【図5】本実施形態に係るエンジンシステムにおいて、ECUが実行するターボチャージャの回転数制御処理を示すフローチャートである。
【図6】本実施形態に係るエンジンシステムにおいて、エンジンがアイドル状態へと遷移する際のターボチャージャの回転数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0047】
<エンジンシステムの全体構成>
先ず、本実施形態に係るエンジンシステムの全体構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、本実施形態に係るエンジンシステムの構成を概略的に示す概略構成図である。
【0048】
図1において、本実施形態に係るエンジンシステムは、ECU100及びエンジン200を備えて構成されている。
【0049】
ECU100は、図示せぬCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、エンジンシステムの動作全体を制御すると共に、本発明に係る「過給機回転数低下手段」、「計測手段」及び「停止手段」の一例として機能するように構成されている。尚、ECU100は、ROMに格納される制御プログラムに従って、後述するターボチャージャの回転数制御処理を実行することが可能に構成されている。
【0050】
エンジン200は、不図示の車両の動力源たるガソリンエンジンであり、本発明に係る「内燃機関」の一例である。
【0051】
エンジン200は、シリンダブロック(符号省略)内にシリンダ201が4本直列に配置されてなる直列4気筒ガソリンエンジンである。尚、ここでの詳細な図示は省略しているが、エンジン200は、各シリンダ201内部において空気と燃料との混合気が燃焼するに際して生じるピストンの往復運動を、コネクティングロッドを介してクランクシャフトの回転運動に変換することが可能に構成されている。また、エンジン200には、エンジン200の回転数を検出するためのエンジン回転数検出部206が設けられている。エンジン回転数検出部206は、本発明の「内燃機関回転数検出手段」の一例であり、検出したエンジン回転数をECU100に伝達可能に構成されている。
【0052】
エンジン200におけるシリンダ201内の燃焼室には、吸気管202を介して供給される空気と、吸気管202に連通する不図示の吸気ポートにおいてインジェクタから噴射供給される燃料とが混合されてなる混合気が吸入される。
【0053】
エンジン200における吸気側(即ち、シリンダ201より上流側)には、エアクリーナ222、ターボチャージャ217を構成するコンプレッサ217b、エアバイパス管204、エアバイパス弁205、インタークーラ224、スロットル弁225、インテークマニホールド203が設けられている。
【0054】
エアクリーナ222は、外部から吸入した空気を浄化し、コンプレッサ217bへと供給する。そしてコンプレッサ217bは、空気を圧縮し、圧縮空気として下流に供給する。この際、コンプレッサ217bによって圧縮された圧縮空気は、本発明の「還流手段」の一例であるエアバイパス管204を介して、コンプレッサ217bの上流側に環流可能とされている。還流される圧縮空気の量は、本発明の「還流調節手段」の一例であるエアバイパス弁205によって調節可能とされている。エアバイパス弁205は、ECU100によって開閉が制御されており、通常動作時には圧縮空気の還流を行わないように閉じられている。
【0055】
インタークーラ224は、吸入空気を冷却して空気の過給効率を上昇させることが可能に構成されている。インタークーラ224の下流には、本発明の「供給調節手段」の一例であるスロットルバルブ225が設置されている。スロットルバルブ225は、電子制御式のバルブであり、その開閉動作が不図示のスロットルバルブモータによって制御されるように構成されている。スロットルバルブモータは、ECU100と電気的に接続されており、その駆動力がECU100によって制御されている。ECU100は、例えばアクセル開度や車速或いはエンジン200の回転数等に応じてスロットルバルブモータを駆動制御し、スロットルバルブ225の開閉状態を制御する。スロットルバルブ225は、アクセルペダル207と機械的に連結されていないため、ECU100は、運転者のアクセル操作とは無関係にスロットルバルブ225の開閉状態を制御することが可能に構成される。尚、アクセル開度は、本発明の「アクセル開度検出手段」の一例であるアクセル開度検出部(図示せず)によって検出可能とされており、検出されたアクセル開度はECU100に伝達される。
【0056】
吸気側からシリンダ201内部に導かれた混合気は、不図示の点火装置による点火動作によって点火せしめられ、シリンダ201内で爆発工程が行われる。爆発工程が行われると、燃焼済みの混合気(一部未燃状態の混合気を含む)は、爆発工程に続く排気工程において、不図示の排気ポートに排出される。排気ポートに排出された排気は、排気管211に導かれる。
【0057】
エンジン200における排気側(即ち、シリンダ201より下流側)には、可変ノズル208、ターボチャージャ217を構成するタービン217a及び三元触媒212が設けられている。
【0058】
可変ノズル208は、本発明の「流入調節手段」の一例であり、タービン217aに対する排気の流量を変化することが可能に構成されている。可変ノズル208は、ECUによって開閉が制御されており、通常の動作時には、エンジン200の回転数が低い場合に過給効率を向上させるため、開口面積を小さくするように調節される。また、エンジン200の回転数が高い場合に排気圧力を低下させるため、開口面積を大きくするように調節される。
【0059】
可変ノズル208を介してタービン217aに供給された排気は、タービン217aを回転させる駆動力となる。このタービン217aは、回転軸を介してコンプレッサ217bに連結されており、相互に一体に回転することが可能に構成されている。即ち、タービン217aとコンプレッサ217bとによって、本発明に係る「過給器」の一例であるターボチャージャ217が構成される。
【0060】
タービン217aを通過した排気は、三元触媒212によってHC(炭化水素)、CO(二酸化炭素)及びNOx(窒素酸化物)が夫々浄化された状態で、外部へと排出される。
【0061】
本実施形態に係るエンジンシステムでは更に、エンジン200の排気側に排出された排気を、吸気側に再循環可能とするEGRシステムを備えている。EGRシステムは、EGR管231、EGR触媒232、EGRクーラ233及びEGRバルブ234を備えて構成されている。
【0062】
EGR管231は、本発明の「再循環手段」の一例であり、例えば排気管211と吸気管203とを接続するように設けられた金属製の管状部材によって構成される。このEGR管231には、再循環されるEGRガスを浄化するためのEGR触媒232及び、EGRガスを冷却するためのEGRクーラ233が設けられている。また、EGR触媒232及びEGRクーラ233の下流側には、EGRガスの量を調節するEGRバルブ234が設置される。EGRバルブ234は、例えば全開及び全閉の二値的な開閉状態を採り得る電磁開閉弁であり、ECU100と電気的に接続されることによって、その開閉状態がECU100により制御される構成となっている。EGRバルブ220は、本発明に係る「再循環調節手段」の一例である。
【0063】
<ターボチャージャの具体的構成>
次に、上述したエンジンシステムにおけるターボチャージャ217のより具体的な構成について、図2を参照して説明する。ここに図2は、本実施形態に係るエンジンシステムにおけるターボチャージャの構成を示す断面図である。
【0064】
図2において、ターボチャージャ217は、エンジン200の排気通路に設けられたタービン217aと、エンジン200の吸気通路に設けられたコンプレッサ217bと、タービン217a及びコンプレッサ217bを互いに接続する主軸7とを備えて構成されている。
【0065】
タービン217aは排気によって駆動されるように構成されており、タービン217aが回転することにより、タービン217aと同軸的に接続されたコンプレッサ217bが駆動される。
【0066】
主軸7は2つのボールベアリング8a、8bによって軸7の軸線AXを中心として回転自在に支持されている。コンプレッサ217b側のボールベアリング8aはベアリングホルダ9aに保持された状態で、タービン217a側のボールベアリング8bはベアリングホルダ9bに保持された状態で、軸線AX方向に互いに間隔をあけてベアリングハウジング10に挿入されている。
【0067】
ここで特に、本実施形態に係るターボチャージャ217では、スペーサ11が設けられていることにより、ボールベアリング8a及び8bと、ベアリングホルダ9a及び9bとの間に所定の間隙が生じている。これにより、ボールベアリング8a及び8bと、ベアリングホルダ9a及び9bとの接触部分が状況に応じて変化するようになる。よって、バンド摩耗の発生を防止することが可能となる。
【0068】
しかしながら、上述した構成では、所定の間隙を有しているが故に、スラストの発生しない低速回転時等において、ターボチャージャ217から振動やノイズが発生し易くなってしまうおそれがある。
【0069】
<エンジンの回転数とターボチャージャの回転数との関係>
ここで、エンジン200の回転数と、ターボチャージャ217の回転数の関係について、図3及び図4を参照して説明する。ここに図3は、本実施形態に係るエンジンシステムにおいて、アイドル状態へと遷移する際のエンジン回転数を示すグラフであり、図4は、比較例に係るエンジンシステムにおいて、エンジンがアイドル状態へと遷移する際のターボチャージャの回転数を示すグラフである。
【0070】
図3において、エンジン200は、例えばアクセル操作が解除されアイドル状態となると、比較的早く回転数が低下する。具体的には、エンジン200の回転数は、図に示すように、低下し始めてから1秒程度で低下しきってしまう。
【0071】
図4において、ターボチャージャ217は、エンジン200がアイドル状態となった後にも、慣性モーメントにより惰性で回転を続ける。このため、仮に何らの制御も行わないとすると、ターボチャージャ217の回転数は、図に示すように、低下し始めてから6秒程度かけて低下しきる。
【0072】
以上のことから、エンジン200がアイドル状態となった直後において、ターボチャージャ217の回転数が、エンジン200の回転数に対して極めて高い状態となってしまう期間が生じることが分かる。このような期間には、エンジンから発生する振動やノイズが低下しているため、ターボチャージャ217から発せられる振動及びノイズが、不快感を与えてしまう程に目立ってしまうおそれがある。
【0073】
これに対し、本実施形態に係るエンジンシステムでは、エンジン200がアイドル状態なった場合のように、エンジン200の回転数が大きく低下する場合に、ターボチャージャ217の回転数を制御することにより、上述したようなターボチャージャ217から発せられる振動及びノイズを効果的に低減することを可能としている。
【0074】
<ターボチャージャ回転数制御処理>
以下では、ターボチャージャ217に対する回転数制御処理について、図1に加えて、図5及び図6を参照して説明する。ここに図5は、本実施形態に係るエンジンシステムにおいて、ECUが実行するターボチャージャの回転数制御処理を示すフローチャートであり、図6は、本実施形態に係るエンジンシステムにおいて、エンジンがアイドル状態へと遷移する際のターボチャージャの回転数を示すグラフである。
【0075】
図5において、本実施形態に係るエンジンシステムは、ターボチャージャ217の回転数を制御する際に、先ずエンジン回転数検出部206(図1参照)がエンジン200の回転数を検出する(ステップS1)。これに続いて或いは並行して、アクセル開度検出部がアクセル開度を検出する(ステップS2)。検出されたエンジン回転数及びアクセル開度についての情報は、ECU100に伝達される。
【0076】
次に、ECU100は、上述したエンジン回転数及びアクセル開度の各々に基づいて、エンジン200の回転数が所定閾値より大きく低下するか否かを判定する(ステップS3)。具体的には、例えばエンジン200の運転が高回転領域から低回転領域に移行することを検出した場合には、エンジン200の回転数が大きく低下すると判定する。所定閾値は、例えば実際に内燃機関の回転数と過給機からの振動及びノイズとを計測又は予測することによって予め設定される。この判定は、エンジン回転数及びアクセル開度を総合的に勘案して行われてもよいし、エンジン回転数及びアクセル開度のいずれか一方のみを用いて行われてもよい。但し、アクセル開度を用いれば、実際にエンジン200の回転数が低下する前であっても、その直後にエンジン200の回転数が低下することを予測することができる。よって、後述するターボブレーキモードへの移行を迅速に行うことができる。
【0077】
ここで、エンジン200の回転数が所定閾値より大きく低下しないと判定されると(ステップS3:NO)、ターボブレーキモードがオフの状態となり(ステップS4)、一連の処理が再び最初から行われることになる。ターボブレーキモードについては、後に詳述する。
【0078】
一方、エンジン200の回転数が所定閾値より大きく低下すると判定されると(ステップS3:YES)、ECU100は、現在の状態がターボブレーキモード中であるか否かを判定する(ステップS5)。即ち、ターボブレーキモードがオンとなっているか否かを判定する)。
【0079】
ここで、ターボブレーキモード中でないと判定されると(ステップS5:NO)、ECU100は、ターボブレーキモードをオンとする(ステップS6)。具体的には、可変ノズル208を全開にして、タービン217に対する排気流入面積が大きくなるようにする。これにより、タービン上流の圧力が低下する。加えて、スロットルバルブ225を全閉にして、コンプレッサ217bからエンジン200の吸気側に供給される空気の量が少なくなるようにすると共に、EGRバルブ234を全開にする。これにより、再循環されるEGRガスの量が増加し、タービン217aに流入する排気が低下する。更に、エアバイパス弁205を全開にして、コンプレッサ217bからエンジン200の吸気側に供給される空気の量が少なくなるようにする。即ち、エアバイパス管204を介して還流させる圧縮空気の量を増加させる。これにより、コンプレッサの負荷を増大させることができる。
【0080】
図6において、以上のような制御を行うことで、ターボチャージャ217にはブレーキがかけられた状態となり、回転数を効率的に低下させることができる。具体的には、図に示すように、2秒程度でターボチャージャ217の回転数が低下しきるようにすることができる。従って、ターボチャージャ217から振動やノイズが発生する期間を短くすることが可能である。
【0081】
図5に戻り、ステップ5において、ターボブレーキモード中であると判定された場合には(ステップS5:YES)、ステップS6の処理が省略される。
【0082】
ターボブレーキモードがオンとされると、ECU100は、ターボブレーキモードがオンとなってから経過した時間をカウントする(ステップS7)。そして、カウントされた時間が、予めセットされた時間を超えているか否かを判定する(ステップS8)。
【0083】
ここで、カウントされた時間がセットされた時間を超えていないと判定されると(ステップS8:NO)、処理は終了し、再び最初から処理が開始される。一方で、カウントされた時間がセットされた時間を超えていると判定されると(ステップS8:YES)、ECU100は、ターボブレーキモードをオフとする(ステップS4)。即ち、ステップS6において制御した可変ノズル208、スロットルバルブ225、EGRバルブ234及びエアバイパス弁205を、夫々通常制御に戻す。このようにすれば、ターボチャージャ217の回転数が極端に低下してしまうことで、本来の機能が発揮できなくなったり、通常の運転に支障を来してしまうことを防止することができる。
【0084】
以上説明したように、本実施形態に係るエンジンシステムによれば、エンジン200の回転数が所定閾値より大きく低下する場合に、ターボチャージャ217の回転数を好適に低下させることができるため、ターボチャージャ217から発せられる振動及びノイズが、不快感を与えてしまう程に目立ってしまうことを効果的に防止することができる。
【0085】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0086】
7…主軸、8a、8b…ボールベアリング、9a、9b…ベアリングホルダ、11…スペーサ、100…ECU、200…エンジン、201…気筒、202…吸気管、204…エアバイパス管、205…エアバイパス弁、206…エンジン回転数検出部、207…アクセルペダル、208…可変ノズル、211…排気管、217…ターボチャージャ、217a…タービン、217b…コンプレッサ、225…スロットルバルブ、231…EGR管、232…EGR触媒、233…EGRクーラ、234…EGRバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービン及びコンプレッサを有する過給機を備えた内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の回転数が所定閾値よりも大きく低下することを検出する回転数低下検出手段と、
前記内燃機関の回転数が前記所定閾値よりも大きく低下することが検出された場合に、前記過給機の回転数を低下させる過給機回転数低下手段と
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記タービン及び前記コンプレッサは、ボールベアリングによって支持された主軸によって互いに結合されており、
前記ボールベアリングは、該ボールベアリングを保持する保持部材との間に所定の間隙を有するように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記回転数低下検出手段は、前記内燃機関の回転数を検出する内燃機関回転数検出手段を含んでいることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記回転数低下検出手段は、前記内燃機関の回転数を制御するためのアクセルの開度を検出するアクセル開度検出手段を含んでいることを特徴とする請求項1から3のいずれか胃一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記過給機回転数低下手段によって、前記過給機の回転数が低下させられている期間を計測する計測手段と、
前記計測された期間が所定の期間に達した場合に、前記過給機回転数低下手段による前記過給機の回転数の低下を停止する停止手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記タービンに対する排気流入面積を調節可能とする流入調節手段を更に備え、
前記過給機回転数低下手段は、前記排気流入面積が大きくなるように前記排気調節手段を制御することによって、前記過給機の回転数を低下させる
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記内燃機関の排気を吸気側へ再循環可能とする再循環手段と、
前記再循環手段によって再循環される前記排気の量を調節可能とする再循環調節手段と
を更に備え、
前記過給機回転数低下手段は、前記再循環手段によって還流される前記排気の量が多くなるように前記再循環調節手段を調節することによって、前記過給機の回転数を低下させる
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記内燃機関の排気を吸気側へ再循環可能とする再循環手段と、
前記吸気側に、前記コンプレッサから供給される空気の量を調節可能とする供給調節手段と
を更に備え、
前記過給機回転数低下手段は、前記吸気側に供給される空気の量が少なくなるように前記供給調節手段を制御することによって、前記過給機の回転数を低下させる
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記コンプレッサの下流側から上流側に、前記コンプレッサによって圧縮された圧縮空気を環流可能とする還流手段と、
前記還流手段によって還流される前記圧縮空気の量を調節可能とする還流調節手段と
を更に備え、
前記過給機回転数低下手段は、前記還流手段によって還流される前記圧縮空気の量が多くなるように前記還流調節手段を調節することによって、前記過給機の回転数を低下させる
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−270640(P2010−270640A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121859(P2009−121859)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】