説明

内燃機関の排気に炭化水素を添加するためのコンパクトなシステム

【課題】タービンホイールシャフトに隣接するターボチャージャのための軸受けハウジングに機関の燃料の形態で炭化水素を導入するためのコンパクトなシステムを提供すること。
【解決手段】炭化水素は、遠心力によって外側に向けられ、タービンの熱によって気化する。その結果、炭化水素が、ディーゼル・パティキュレート・フィルタの再生処理のために排気流の温度を上昇させるように、触媒と相互作用するタービンの実質上すぐ後で利用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関し、より詳細には、このような機関の排気の後処理に関する。
【背景技術】
【0002】
米国で数十年前に制定された環境保護法により、内燃機関からの許される放出に対する制限がますます増大している。ディーゼル機関は、耐久性のある燃料効率が高い機関であり、したがって商用、産業用および農業用に使用するために選ばれる機関であるという地位を享受している。放出制限が低くなるにつれて、ディーゼル機関で標準を満たすことがますます難しくなる。
【0003】
最新の標準では、ディーゼル機関の排気からの粒子状物質を、環境に送出される前に除去するためにディーゼル・パティキュレート・フィルタ(DPF、diesel particulate filter)が必要とされる。これらのフィルタは、粒子状物質を排気から除去する効果的な仕事をするが、定期的な清掃が必要になる。これは、フィルタによって捕集された炭素粒子が燃焼し実質上そのフィルタを清掃する約600℃まで、排気の温度を上昇させることを伴う。ディーゼル機関の排気の温度は、その固有の効率のため600℃より著しく低いので、排気の温度を一時的に上昇させるための手段を提供しなければならない。この高い温度を実現するための好ましい方法は、排気混合物の温度を必要なレベルまで上昇させるために、炭化水素を触媒コンバータに通すことである。
【0004】
必要な炭化水素を排気に添加する2つの主な手法がある。1つの手法は、機関の制御装置を使用して、燃料が通常の燃焼生成物と共に排出され触媒コンバータに流れるように、過剰な燃料を、燃焼されないとき機関シリンダに噴射することを含む。この方法は炭化水素と排気流を十分混合するが、通常、機関の潤滑油への望ましくない燃料漏れを促進し、不都合な結果をもたらす。
【0005】
炭化水素を排気に添加するための第2の手法は、主機関、および使用されるターボチャージャなど主機関の隣接する構成要素の下流で霧状の燃料を排気の流れに噴射することを含む。この手法は、機関の潤滑油の燃料希釈の問題を回避する。しかし、触媒コンバータを通る前に排気流に炭化水素を確実に完全に混合するために適切な時間および距離を提供しなければならないという点で、新しい問題が生じる。典型的には、適切な混合を可能にするには最大1メートルの長さが必要であると考えられる。多くの場合、機関の設置では、触媒コンバータの前に1メートルの排気ラインを収容するのが非常に困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、当技術分野では、オイルの希釈の問題のない、炭化水素を内燃機関の排気流に添加するためのコンパクトなシステムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一形態では、本発明は、パワー出力を生成し吸気システムおよび燃焼生成物を受けるための排気システムを有する空気吸入式燃料消費型内燃機関を有する内燃機関システムを含む。燃焼生成物が通るタービンを少なくとも有するターボ機械が、排気ガスを、少なくとも触媒を有する後処理システムに導く。ターボチャージャのタービンの隣に炭化水素を定期的に導入する装置が提供され、タービンの熱で炭化水素を気化し、それにより、排気後処理システムに入る燃焼生成物が、触媒と相互作用するために実質上すぐに利用可能になる。
【0008】
他の形態では、本発明は、内燃機関から排気を受けるタービンを少なくとも有する、空気吸入式燃料消費型内燃機関の排気に炭化水素を添加する方法を含む。その方法は、炭化水素を気化するために、タービンの隣において排気に炭化水素を定期的に導くステップと、タービンのすぐ後で、排気の温度を上昇させるために気化した炭化水素を含む排気を触媒と相互作用させるステップとを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1を参照すると、内燃機関システムは、電子制御ユニット(ECU)17によって指示された量およびタイミングで、機関10に計量供給された供給燃料を、圧縮熱を使用して着火させる、圧縮着火機関として本明細書に示された、内燃機関10を含む。本明細書で示すように、ECU17を使用して、以下で説明する排気後処理システムならびに機関を制御する。しかし、内燃機関システムの様々な機能を制御するために多数のECUを採り入れることができることが当業者には明らかなはずである。
【0010】
内燃機関10からの燃焼生成物は、排気ライン11によって、参照符号13で全体的に示されたターボチャージャに導かれる。ターボチャージャ13は、内燃機関10の排気からの、他の方法では使用されないエネルギーを利用して、吸気ライン15を介して機関の吸気口に送るための空気を圧縮する、よく知られた構成要素である。ターボチャージャ13を通った排気生成物は、排気ライン19に送出され、そこでは、それらの生成物が触媒21およびディーゼル・パティキュレート・フィルタ23を通り、その後、大気に排出される。
【0011】
上述のように、ディーゼル・パティキュレート・フィルタ23は、内燃機関10から放出される炭素粒子を収集する。それらの粒子はフィルタ媒体上に蓄積されて、定期的な掃除または再生処理が必要になる。この再生処理は、ディーゼル・パティキュレート・フィルタの上流にある排気ライン19の温度を、炭素粒子がその温度で焼き去られディーゼル微粒子の連続した捕集のためにフィルタを清掃する、約600℃まで上昇させることを含む。触媒21は、必要とされる約600℃まで温度を上昇させるために追加の炭化水素が排気ライン19に添加されるときに化学反応を促進するという点で、排気温度を選択的に上昇させる役割を果たす。
【0012】
本発明によれば、炭化水素を添加するためのコンパクトなシステムが提供される。ターボチャージャ13が、こうした効率的なシステムに寄与する重要な役割を果たす。ターボチャージャ13は、遠心圧縮機を遠心タービンによって駆動して、内燃機関への吸気を大気より高いレベルまで加圧する、ターボ機械の特定の形態である。しかし、ターボ機械が他の形態の羽根車および圧縮機を使用することができることは当業者には明らかなはずである。さらに、ターボ機械は、排気ガスが出力タービンを通り、機関の出力に適用するために排気エネルギーの一部を抽出するターボコンパウンド機関の場合のように、タービンから構成することができることに留意されたい。
【0013】
ターボチャージャ13は、ターボチャージャのための構造上の連結部として働く、中心軸受けハウジング2を特徴とする。ハウジング2は、中心シャフト8を軸支するために遊動スリーブ軸受け4および6を有する。シャフト8は、一方の端部でタービン9に、反対側の端部で圧縮機の羽根車12に固定される。圧縮機の羽根車12は、吸気口14を通る空気を受け、ディフューザ16、ボリュート18に、次いで機関の吸気15に連結された出口20に送出するためにその空気を加圧する。
【0014】
タービン9は、機関の排気ライン11に連結されたフランジ22を有するタービンハウジング26内に配置される。ハウジング26は、環状の入口28を有し、その環状の入口28は、圧縮機の羽根車12を駆動する回転出力を生成するように、燃焼生成物をライン11からタービン9のベーンを越えて径方向内側に導く。
【0015】
タービンシャフト8の軸受け4および6は、入口ポート30ならびに通路32および34を介して、潤滑油、通常は内燃機関10に供給されるのと同じ潤滑油の供給を受ける。軸受け4および6を通る潤滑油は、軸受けとハウジング2の間ならびに軸受けとシャフト8の間に薄膜を提供する。通路32および34を通り軸受け4および6から出る潤滑油は、機関10ならびにターボチャージャ13の潤滑で再利用するために、ハウジング2内のチャンバ36に、最終的には機関のサンプに連結するための出口38に排出される。潤滑油は、シャフト8を軸支する手段を提供するだけでなく、過剰の熱をハウジング2から出口38を介して機関サンプまで運び、機関で利用するために適切に冷却されるという点で冷却機能も有する。
【0016】
触媒21と相互作用するためにシステムに通される炭化水素は、燃料供給部40、通常、機関10用の燃料供給部で生じる。燃料は、ライン42を通りバルブ44を越えて、ハウジング2内の通路48と連結したライン46に至る。図2にさらに詳細に示すように、通路48は、遠回りした通路を追従し、シャフト8のシャフト封止材52とタービン9のハブ56との間の出口50に至る。遮熱材58が、ハブ56とハウジング2の間を延び、高温封止材59を、遮熱材58とハウジング2の出口50に隣接する部分との間に提供することができる。封止材52とハブ56の間の出口50を通る燃料は、遠心力によってハブ56の裏面60を上がって通り、加熱され、気化し、タービンブレード62によって生成される空気流に進み、ライン19に進むときまでに排気の流れと完全に混合される。
【0017】
バルブ44を通る通路48への燃料の送出を、内燃機関10からの排気を検出するライン66、ディーゼル・パティキュレート・フィルタ23の入口で温度を検出するライン68、および信号ライン70を介したライン42の圧力からの様々な信号の入力に応答して、ECU17に延びる信号ライン64によって制御する。
【0018】
動作の際には、排気後処理システムは、選択した動作パラメータに応答してディーゼル・パティキュレート・フィルタを定期的に再生処理するようにプログラムされる。この動作が必要なときは、ECU17は、燃料が燃料供給部40から通路48を通り、タービンシャフト8に沿ってハブ56の裏面60まで通る出口50に至るのを可能にする信号をバルブ44に送信する。ハブ56の熱により燃料が気化し、同時に、遠心力がその気化した燃料を外側に押しやり、タービンブレード62を通る空気流の通路に入り、排気ライン19に入る前に完全に混合される。図1の概略図では排気ライン19は長さに限度があるが、実際には、排気を増加するように触媒21と混合するためにほとんどすぐに利用可能である。ターボチャージャ13の中心ハウジング2が、潤滑油の連続した流れにより、重要なヒートシンクであり冷却剤の供給源であるので、通路48を通して燃料を運ぶことにより、燃料はコークスにならない。その結果、コークス化は、無くならないにせよ最小限に抑えられる。図1に示すような高い位置からハウジング2に流れを通すことにより、その流れが終わるときに重力が全ての燃料が通路48から確実に排気されるように助ける。こうした配置の利点は、機関10の潤滑油の希釈の問題なしに、炭化水素と触媒の間で相互作用するように実質上すぐに利用可能であるコンパクトなシステムである。
【0019】
好ましい実施形態を説明してきたが、添付の特許請求の範囲で定義されるような本発明の範囲から逸脱することなく、様々な改変を行うことができることが明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を採り入れた内燃機関システムを示す図である。
【図2】図1の内燃機関システムの一部分の非常に拡大した部分図である。
【符号の説明】
【0021】
2 中心軸受けハウジング
4、6 遊動スリーブ軸受け
8 中心シャフト
9 タービン
10 内燃機関
11 排気ライン
12 羽根車
13 ターボチャージャ
14 吸気口
15 吸気ライン
16 ディフューザ
17 電子制御ユニット(ECU)
18 ボリュート
19 排気ライン
20、50 出口
21 触媒
22 フランジ
23 ディーゼル・パティキュレート・フィルタ
26 タービンハウジング
28 環状の入口
30 入口ポート
32、34 通路
36 チャンバ
38 出口
40 燃料供給部
42、46 ライン
44 バルブ
48 通路
52 シャフト封止材
56 ハブ
58 遮熱材
59 高温封止材
60 裏面
62 タービンブレード
66 排気を検出するライン
68 温度を検出するライン
70 信号ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー出力を生成し吸気システムおよび燃焼生成物を受けるための排気システムを有する空気吸入式燃料消費型内燃機関と、
燃焼生成物が通るタービンを少なくとも有するターボ機械と、
前記燃焼生成物を前記タービンから受け、少なくとも触媒を有する排気後処理システムと、
前記タービンの熱が炭化水素を気化し、それにより、前記排気後処理システムに入る前記燃焼生成物が、前記触媒と相互作用するように実質上すぐに利用できるように、前記ターボ機械のタービンの隣に前記炭化水素を定期的に導入する装置とを備える内燃機関システム。
【請求項2】
前記タービンがハウジング内で回転し、前記炭化水素がハウジングを通して導入される、請求項1に記載の内燃機関システム。
【請求項3】
前記タービンハウジングが、前記ハウジング内に潤滑された軸受けシステムを有し、前記炭化水素が、前記ハウジングを通して前記タービンに導入される、請求項2に記載の内燃機関システム。
【請求項4】
前記ターボ機械が、前記タービンによって駆動される圧縮機を備える、請求項1に記載の内燃機関システム。
【請求項5】
前記圧縮機およびタービンが、共通のシャフト上にあり、前記ハウジングが、潤滑システムを含む前記シャフトのための軸受けシステムを有し、前記炭化水素が、前記軸受けハウジングを通して導入される、請求項4に記載の内燃機関システム。
【請求項6】
前記内燃機関が燃料システムを有し、前記炭化水素が前記燃料システムから導かれる、請求項1に記載の内燃機関システム。
【請求項7】
前記機関が、前記燃料システムから隣接する前記タービンまでの燃料用の通路を有し、燃料の流れを制御するための、前記通路に挿入されたバルブを有する、請求項6に記載の内燃機関システム。
【請求項8】
前記内燃機関の燃料システムが、電子制御ユニット(ECU)を有し、前記バルブが、前記ECUによって制御される、請求項7に記載の内燃機関システム。
【請求項9】
前記ECUが、前記排気後処理システムからの信号に応答して前記バルブを作動させる、請求項8に記載の内燃機関システム。
【請求項10】
前記タービンが、前記シャフトおよび前記シャフトに固定された羽根車を備え、前記ターボ機械が、前記シャフトと前記軸受けハウジングの間に軸受けシステムを備え、前記ターボ機械が、前記シャフトと前記ハウジングの間に封止材を有し、前記ターボ機械がさらに、前記ハウジングの裏面の隣に遮熱材を備え、前記炭化水素のための前記通路が、前記軸受けハウジングを通って前記シャフト封止材とタービンブレードの間の開口部まで延びる、請求項2に記載の内燃機関システム。
【請求項11】
前記遮熱材と前記軸受けハウジングの間に封止材をさらに備える、請求項10に記載の内燃機関システム。
【請求項12】
前記通路が、炭化水素の供給源から前記開口部まで下向きに延びる、請求項10に記載の内燃機関システム。
【請求項13】
空気吸入式燃料消費型内燃機関から排気を受けるタービンを少なくとも有する前記内燃機関の排気に炭化水素を添加する方法であって、
前記炭化水素を気化するために前記タービンの隣および前記タービンにおいて、前記排気に炭化水素を定期的に導くステップと、
実質上前記タービンのすぐ後で、前記排気の温度を上昇させるために、気化した炭化水素を含む前記排気を触媒と相互作用させるステップとを含む方法。
【請求項14】
前記タービンが、ハウジング内で回転可能であり、前記炭化水素が、軸受けハウジングを通して導入される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記タービンが、シャフトおよび前記シャフトに固定された羽根車を備え、前記炭化水素が、前記シャフトにおいて導入され、それにより、前記羽根車上を遠心力によって外向きに流れる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記炭化水素が、前記シャフトより高い供給源から前記シャフトに導入される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ディーゼル・パティキュレート・フィルタが、前記触媒からの前記排気の出力を受け、前記炭化水素が、前記ディーゼル・パティキュレート・フィルタからの信号に応答して導入される、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−286193(P2008−286193A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−109973(P2008−109973)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(591005165)ディーア・アンド・カンパニー (109)
【氏名又は名称原語表記】DEERE AND COMPANY
【Fターム(参考)】