説明

内燃機関の燃焼状態判定方法

【課題】イオン電流の増加量と所定のクランク角の幅から増加率を算出し、増加率から燃焼状態が正常燃焼,ノッキング,プレイグニッションのいずれであるかを決定場合、増加率が所定のクランク角に進角するまではプレイグニッションが検出されない。このため、プレイグニッションを抑制する制御を開始するのが遅くなってしまい、プレイグニッションの前兆が発生している期間の燃焼効率の低下を放置していることとなる。
【解決手段】イオン電流検出回路が検出したイオン電流波形から増加率の最大値を算出し、クランク角センサはイオン電流波形の増加率が最大となった位置のクランクの角度を検出し、イオン電流検出回路が検出したイオン電流波形の増加率が増加率しきい値以上で、且つクランク角センサが検出したクランク角がクランク角しきい値より進角していればプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションであると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン等の内燃機関の燃焼状態を判定する方法において、特に、イオン電流を用いた燃焼状態判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、火花点火式の内燃機関において、点火プラグの中心電極付近の温度が上昇することによってシリンダ内が圧縮行程中にピストンが上死点に到達する前に自己発火してしまうプレイグニッションが発生することがある。このようなプレイグニッションが発生すると内燃機関の燃焼効率や耐久性が低下するため、プレイグニッションを発生前に検出し、抑制することを目的としていくつかの構成が提案されており、例えば特開2009−030545号公報(以下「特許文献1」)が知られている。
【0003】
上記特許文献1において、車両用エンジンの燃焼室のイオンに起因するイオン電流を検出するイオン電流検出手段と、このイオン電流検出手段が検出したイオン電流に基づいて車両用エンジンの筒内での異常燃焼を判定する異常燃焼判定手段と、を備えた車両用エンジンの制御装置であって、点火放電前の所定クランク角の幅dθに対するイオン電流の増加量dIから、判定値である増加率(=dI/dθ)を算出する。また、PCMは、正常燃焼,ノッキング及びプリイグニッション(プレイグニッション)とイオン電流の増加率との関係を表すデータを記憶している。このデータは、予め実験等により設定されたものである。さらに、増加率が第1閾値T1未満の範囲のとき正常燃焼に設定され、増加率が第1閾値T1以上で第2閾値T2未満の範囲のときノッキング発生に設定され、増加率が第2閾値T2以上の範囲のときプリイグニッション(プレイグニッション)発生に設定されている。
【0004】
したがって、PCMは、イオン電流の増加率がいずれの範囲にあるかを判定することにより、その後の燃焼状態が正常燃焼,ノッキング,プリイグニッション(プレイグニッション)のいずれであるかを決定することができる車両用エンジンの制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−030545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の内燃機関の制御装置では次のような問題が生じている。即ち、点火前におけるイオン電流に基づいて算出した判定値が、第2閾値以上のときに車両用エンジンの筒内でプリイグニッション(プレイグニッション)が発生していると判定している。しかし、イオン電流の増加量と所定のクランク角の幅から増加率を算出すると、イオン電流波形が急峻な変化をしても所定のクランク角に進角されるまでは増加率として算出されず、プレイグニッションと判定されない。このため、プレイグニッションを抑制する制御を開始するのが遅くなってしまい、プレイグニッションの前兆が発生している期間の燃焼効率の低下を放置していることとなる。
【0007】
また、プレイグニッションの前兆を検知するために安易に増加量を算出する所定のクランク角を遅角させると正常燃焼をプレイグニッションと判定してしまうことが生じてしまうため、内燃機関の経年劣化や使用状態を考慮しつつ、適切な所定のクランク角を設定することは非常に難しい。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、前記内燃機関に発生するプレイグニッションの前兆が発生直後でも検出し、さらに高い精度で検出する前記内燃機関に発生するプレイグニッションの前兆及びプレイグニッションを検出する内燃機関の燃焼状態判定方法を提供することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は次のような構成とする。即ち、請求項1の発明においては、複数の気筒を有する内燃機関と、当該気筒のシリンダ内に供給された燃料と空気の混合気に点火を行う点火プラグと、当該点火プラグへ高電圧を供給する1次コイルと2次コイルと鉄芯からなる点火コイルと、当該点火コイルへ点火信号を供給するイグナイタと、前記内燃機関の燃焼によって前記点火プラグに発生するイオン電流を検出するイオン電流検出回路を備え、当該イオン電流検出回路が検出したイオン電流から前記内燃機関に発生するプレイグニッションを判定する内燃機関の燃焼状態判定方法において、前記内燃機関のクランクの角度を検出するクランク角センサを備え、前記イオン電流検出回路が検出したイオン電流波形から増加率の最大値を算出し、前記クランク角センサはイオン電流波形の増加率が最大となった位置の前記クランクの角度を検出し、前記イオン電流検出回路が検出したイオン電流波形の増加率が増加率しきい値以上で、且つ前記クランク角センサが検出したクランク角がクランク角しきい値より進角していればプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションであると判定することを特徴とする内燃機関の燃焼状態判定方法とする。
【0010】
上記構成においては、前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合には、前記内燃機関の前記気筒内の温度を低下させる制御を行させてもよい。また、前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合には、以降の燃焼サイクルにおける前記シリンダ32内へ再循環する排ガスの割合を減少させてもよいし、前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合には、以降の燃焼サイクルにおける前記シリンダ32内へ再循環する冷却した排ガスの割合を増加させてもよい。さらに、前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合には、以降の燃焼サイクルにおける前記内燃機関の圧縮圧を低下させてもよい。
【0011】
また、前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合には、以降の燃焼サイクルにおける燃料噴射量を増加させてもよいし、前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合には、以降の燃焼サイクルにおける前記イグナイタからの点火信号を遅角させてもよい。
【発明の効果】
【0012】
上記の通り、内燃機関のクランクの角度を検出するクランク角センサを備え、イオン電流検出回路が検出したイオン電流波形から増加率の最大値を算出し、クランク角センサはイオン電流波形の増加率が最大となった位置のクランクの角度を検出し、イオン電流検出回路が検出したイオン電流波形の増加率が増加率しきい値以上で、且つクランク角センサが検出したクランク角がクランク角しきい値より進角していればプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションであると判定することで、内燃機関に発生するプレイグニッションの前兆が発生直後でも検出でき、さらに高い精度で前記内燃機関に発生するプレイグニッションの前兆及びプレイグニッションを検出する内燃機関の燃焼状態判定方法が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施例とする内燃機関の構成を示す図である。
【図2】第1の実施例とする内燃機関の点火装置の回路図である。
【図3】第1の実施例とする内燃機関の燃焼状態の判定範囲を示す図である。
【図4】第1の実施例とする内燃機関の点火信号波形(イ)及び、点火信号に対するイオン電流波形(ロ)を示すタイムチャートである。
【図5】第1の実施例とする内燃機関のプレイグニッションの前兆を示すタイムチャートである。
【図6】第1の実施例とする内燃機関の燃焼状態判定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を示す実施例を図1乃至図6に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の第1の実施例とする内燃機関の構成を示す図を図1に、内燃機関の点火装置の回路図を図2に、内燃機関の燃焼状態の判定範囲を示す図を図3に、内燃機関の点火信号波形(イ)及び、点火信号に対するイオン電流波形(ロ)を示すタイムチャートを図4に、内燃機関のプレイグニッションの前兆を示すタイムチャートを図5に、内燃機関の燃焼状態判定方法を示すフローチャートを図6にそれぞれ示す。
【0016】
図1及び図2において、内燃機関は3つの気筒30からなる3気筒エンジンであり、当該気筒30毎に1つずつ形成されるシリンダ32内に燃料と空気からなる混合気を供給するためのインテークマニホールド36を備えている。また、当該インテークマニホールド36内に燃料を噴射するためのインジェクション50を備えている。さらに、当該シリンダ32内からの排気ガスを排出するためのエキゾーストマニホールド42を備えている。
【0017】
また、前記インテークマニホールド36には前記シリンダ32内への吸気量を調整する吸気バルブ38を備え、前記エキゾーストマニホールド42には前記シリンダ32内からの排気量を調整する排気バルブ44を備えている。さらに、当該吸気バルブ38及び当該排気バルブ44の開閉動作を行うために、当該吸気バルブ38側には吸気カム40が備えられ、当該排気バルブ44側には排気カム46が備えられている。
【0018】
また、前記内燃機関には前記シリンダ32内の混合気を圧縮するためのピストン34と、当該ピストン34に伝わる前記シリンダ32内の燃焼による上下運動を回転運動に変換するクランク48を備えている。さらに、当該クランク48及び前記吸気カム40、前記排気カム46はタイミングベルトによって連動して駆動している。
【0019】
また、前記内燃機関にはエンジンルーム内に備えられたバッテリ22の電圧を昇圧する点火コイル10と前記シリンダ32内の混合気に点火を行う点火プラグ20を備えている。当該点火コイル10は1次巻線を巻き回した1次コイル12と2次巻線を巻き回した2次コイル14、鉄芯16、当該点火コイル10に点火信号を供給するFETからなるイグナイタ18とで構成されている。
【0020】
また、前記エンジンルームに前記内燃機関の電気的制御を行うECU54が備えられ、当該ECU54は前記インジェクション50から噴射する燃料の量を制御するとともに、当該ECU54は前記点火コイル10と接続されていて、当該ECU54は前記内燃機関の燃焼サイクルに応じた点火信号を前記点火コイル10へ供給している。さらに、前記内燃機関の前記クランク48の角度を検出するためのクランク角センサ56を備え、当該クランク角センサ56は当該ECU54と接続されている。
【0021】
また、前記内燃機関には前記気筒30の燃焼によって前記点火プラグ20に発生するイオン電流を検出するイオン電流検出回路52が備えられ、当該イオン電流検出回路52は前記点火コイル10の前記2次コイル14の低圧側及び前記ECU54と接続されている。さらに、当該イオン電流検出回路52は検出したイオン電流波形に生じるノイズを除去するノイズフィルタを有している。
【0022】
また、図4において、前記イグナイタ18から前記点火コイル10に供給される点火信号波形は図4の(イ)に示すように、前記内燃機関の1回の点火に対して前記ECU64からの点火信号のオン・オフを切り替えた波形となる。さらに、当該点火信号がオンからオフに切り替えられると前記シリンダ32内への放電が開始される放電期間へと移行する。
【0023】
また、前記イオン電流検出回路52によって検出されるイオン電流波形は図4の(ロ)に示すように、前記内燃機関の燃焼によって前記シリンダ32内にイオン電流が発生し、前記点火コイル10が前記シリンダ32内への放電中は前記点火プラグ20から当該イオン電流を検出できないため、放電終了後にイオン電流波形が発生する波形となる。さらに、当該イオン電流波形には図4の(ロ)中に示すようにイオン電流のピーク位置が存在し、当該イオンピーク位置に向かう当該イオン電流波形の傾きを当該イオン電流の増加量diとクランク角度の幅dθから当該イオン電流波形の増加率(=di/dθ)とし、当該増加率(=di/dθ)が最大となる位置を最大増加率とする。
【0024】
また、前記イオン電流波形は前記イオン電流検出回路52に備えられた前記ノイズフィルタによってノイズを除去され、ノイズによる急峻な前記増加率(=di/dθ)を前記最大増幅率と判定しないようにされている。しかしながら、前記ノイズフィルタは前記イオン電流波形に発生した急峻なノイズは除去しなければならないが、本来前記最大増幅率と算出される波形はノイズとして除去されないバンドパスフィルタとして構成されている。
【0025】
また、図5において、前記内燃機関にプレイグニッションの前兆発生時のイオン電流波形は図5の(ハ)乃至(ヘ)に示すように、前記最大増加率が急峻な傾きとなり、前記イオンピーク位置も前記点火信号のオフタイミング(破線)方向へ進角する波形となっている。さらに、前記内燃機関のプレイグニッションの前兆は、(ハ)<(ニ)<(ホ)<(ヘ)の順番で強くなり、前記内燃機関のプレイグニッションの前兆が強くなるにつれて、前記最大増加率が発生する位置が進角すると共に、前記イオンピーク位置も進角していることから、前記最大増加率と前記イオンピーク位置は相関がある。
【0026】
また、前記内燃機関のプレイグニッションの前兆が強くなるにつれて、前記イオンピーク位置が進角することから、前記最大増加率は大きくなる。
【0027】
また、図3において、前記内燃機関のプレイグニッションの前兆及びプレイグニッションのしきい値を示し、縦軸は前記増加量(=di/dθ)が最も大きくなる前記最大増加率を示し、横軸は前記最大増加率となる時のクランク角度(以下「最大クランク角」)を示す。さらに縦軸には前記最大増加率に対する増加率しきい値を破線で示し、縦軸には当該最大クランク角に対するクランク角しきい値を破線で示す。
【0028】
また、前記増加率しきい値及び前記クランク角しきい値において、前記最大増加率が前記増加率しきい値以上且つ、前記最大クランク角が前記クランク角しきい値より進角している場合を範囲Aとしている。さらに、当該範囲Aは急峻な前記最大増加率が前記点火信号のオフタイミングに近い位置で発生しているため、前記内燃機関にプレイグニッションの前兆及びプレイグニッションが発生していると判定する範囲と設定されている。
【0029】
また、前記最大増加率が前記増加率しきい値以上且つ、前記最大クランク角が前記クランク角しきい値より遅角している場合を範囲Bとしている。さらに、当該範囲Bは急峻な前記最大増加率が発生しているが、前記最大増加率は前記点火信号のオフタイミングから遠い位置で発生しているため、前記内燃機関の燃焼状態を正常燃焼と判定する範囲と設定されている。
【0030】
また、前記最大増加率が前記増加率しきい値以下且つ、前記最大クランク角が前記クランク角しきい値より進角している場合を範囲Cとしている。さらに、当該範囲Cは前記最大増加率が前記点火信号のオフタイミングに近い位置で発生しているが、前記最大増加率が急峻でないため、前記内燃機関の燃焼状態を正常燃焼と判定する範囲と設定されている。
【0031】
また、前記最大増加率が前記増加率しきい値以下且つ、前記最大クランク角が前記クランク角しきい値より遅角している場合を範囲Dとしている。さらに、当該範囲Dは前記最大増加率が急峻ではなく、前記最大増加率は前記点火信号のオフタイミングに近い位置で発生しているため、前記内燃機関の燃焼状態を正常燃焼と判定する範囲と設定されている。
【0032】
また、前記増加率しきい値及び前記クランク角しきい値は前記内燃機関の回転数に応じて変動し、前記ECU54が前記内燃機関の回転数に応じた最適な前記増加率しきい値及び前記クランク角しきい値を適宜決定している。
【0033】
次に、内燃機関の燃焼状態判定方法の動作を図6に基づいて説明する。
【0034】
図6において、前記イオン電流検出回路52は前記内燃機関の燃焼により前記点火プラグ20に発生するイオン電流を検出し(S1)、前記クランク角センサ56は(S1)で検出したイオン電流波形に対する前記クランク48の角度を検出する(S2)。また、前記ECU54は(S1)で検出したイオン電流の増加量diと前記クランク48の角度の幅dθからイオン電流波形の前記増加率(=di/dθ)を演算し(S3)、前記ECU54は(S3)で演算した前記増加率(=di/dθ)が最大となる前記最大増加率及び(S2)で検出した前記クランク48の角度から前記最大増加率となる位置の前記最大クランク角を算出する(S4)。さらに、前記ECU54は前記内燃機関の回転数に応じた前記最大増加率に対する前記増加率しきい値及び前記最大クランク角に対する前記クランク角しきい値を決定する(S5)。
【0035】
また、前記ECU54は(S4)で算出した前記最大増加率>(S5)で決定した前記増加率しきい値となるかの判定を行い(S6)、(S6)で前記最大増加率>前記増加率しきい値となる場合、前記ECU54は(S4)で算出した前記最大クランク角が(S5)で決定した前記クランク角しきい値より進角しているかの判定を行い(S7)、(S7)で前記最大クランク角が前記クランク角しきい値より進角している場合、前記ECU54は前記内燃機関にプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションが発生していると判定する(S8)。
【0036】
また、前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合には、前記ECU54は以降の燃焼サイクルにおいて、前記内燃機関の圧縮圧を低下させて前記内燃機関に発生したプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションを抑制している。
【0037】
上記構成により、イオン電流の増加量diと前記クランク48の角度の幅dθからイオン電流波形の前記増加率(=di/dθ)の最大となる前記最大増加率と、前記最大増加率となる位置の前記最大クランク角からプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションを判定する。これより、前記増加率(=di/dθ)は常に前記最大増加率となる位置を検出されるため、前記内燃機関の燃焼にプレイグニッションの前兆が発生直後から判定できる。即ち、プレイグニッションの前兆が発生後から素早くプレイグニッションを抑制する制御を開始し、前記内燃機関の燃焼効率や耐久性が低下を防ぐことができる。
【0038】
また、前記最大増加率及び前記最大クランク角から、前記最大増加率>前記増加率しきい値及び前記最大クランク角が前記クランク角しきい値より進角している場合のみ、前記内燃機関にプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションが発生していると判定する。このことから、前記最大増加率が発生する位置が進角すると共に、前記イオンピーク位置も進角している状態とは異なるため、誤って前記内燃機関にプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションが発生していないにもかかわらず、プレイグニッションの前兆又はプレイグニッションが発生していると誤判定するということを防ぐことができる。
【0039】
なお、上記実施例1の変形例として、前記内燃機関は3つの前記気筒30からなる3気筒エンジンとしたが、複数の気筒を有した内燃機関であれば適宜変更してもよいし、前記内燃機関の部品構成は設計事情によって任意に変更してもよい。また、前記増加率しきい値及び前記クランク角しきい値は前記内燃機関の構成によって適宜変更してもよい。さらに、前記増加率しきい値及び前記クランク角しきい値は前記内燃機関の吸気圧又は前記内燃機関の回転数、前記シリンダ32内の温度、吸気温度、EGR量、空燃比、可変バルブタイミング機構、可変バルブリフト機構、前記内燃機関の水温等の少なくとも1つ以上条件から決定してもよい。
【0040】
また、前記イオン電流検出回路52に備えた前記ノイズフィルタの回路構成は適宜変更してもよい。さらに、前記イオン電流波形に生じるノイズの除去は前記イオン電流検出回路52に備えた前記ノイズフィルタ等のハードウェアによって行う他にも、前記ECU54や前記ECU54の制御下で動作する専用コンピュータ回路等のソフトウェアを用いたデジタルフィルタ処理から行ってもよい。
【0041】
また、前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合に、前記ECU54は以降の燃焼サイクルにおいて、前記内燃機関は前記インテークマニホールド36と前記エキゾーストマニホールド42を繋ぐ排気ガス再循環通路を備え前記シリンダ32内に再循環を行う排気ガス再循環(以下「EGR」)で用いる排ガスの割合を減少させてもよい。さらに、前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合に、前記ECU54は以降の燃焼サイクルにおいて、前記EGRに使用する排ガスを前記内燃機関の外部で一旦冷却してから再度前記シリンダ32内に再循環を行うクールドEGRで用いる排ガスの割合を増加させてもよい。
【0042】
また、前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合に、前記ECU54は以降の燃焼サイクルにおける前記インジェクション50から前記インテークマニホールド36への燃料噴射量を増加させてもよい。さらに、前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合に、前記ECU54は以降の燃焼サイクルにおける前記イグナイタ18からの点火信号を遅角させる制御を行ってもよい。
【0043】
また、前記内燃機関の前記気筒30内の温度を低下させる制御であれば上記以外の方法でプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションの抑制を行ってもよい。
【符号の説明】
【0044】
10:点火コイル
12:1次コイル
14:2次コイル
16:鉄芯
18:イグナイタ
20:点火プラグ
30:気筒
32:シリンダ
34:ピストン
36:インテークマニホールド
38:吸気バルブ
40:吸気カム
42:エキゾーストマニホールド
44:排気バルブ
46:排気カム
48:クランク
50:インジェクション
52:イオン電流検出回路
54:ECU
56:クランク角センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有する内燃機関と、
当該気筒のシリンダ内に供給された燃料と空気の混合気に点火を行う点火プラグと、
当該点火プラグへ高電圧を供給する1次コイルと2次コイルと鉄芯からなる点火コイルと、
当該点火コイルへ点火信号を供給するイグナイタと、
前記内燃機関の燃焼によって前記点火プラグに発生するイオン電流を検出するイオン電流検出回路を備え、
当該イオン電流検出回路が検出したイオン電流から前記内燃機関に発生するプレイグニッションを判定する内燃機関の燃焼状態判定方法において、
前記内燃機関のクランクの角度を検出するクランク角センサを備え、
前記イオン電流検出回路が検出したイオン電流波形から増加率の最大値を算出し、
前記クランク角センサはイオン電流波形の増加率が最大となった位置の前記クランクの角度を検出し、
前記イオン電流検出回路が検出したイオン電流波形の増加率が増加率しきい値以上で、且つ前記クランク角センサが検出したクランク角がクランク角しきい値より進角していればプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションであると判定することを特徴とする内燃機関の燃焼状態判定方法。
【請求項2】
前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合には、前記内燃機関の前記気筒内の温度を低下させる制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃焼状態判定方法。
【請求項3】
前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合には、以降の燃焼サイクルにおける前記シリンダ内へ再循環する排ガスの割合を減少させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃焼状態判定方法。
【請求項4】
前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合には、以降の燃焼サイクルにおける前記シリンダ内へ再循環する冷却した排ガスの割合を増加させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃焼状態判定方法。
【請求項5】
前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合には、以降の燃焼サイクルにおける前記内燃機関の圧縮圧を低下させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃焼状態判定方法。
【請求項6】
前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合には、以降の燃焼サイクルにおける燃料噴射量を増加させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃焼状態判定方法。
【請求項7】
前記内燃機関がプレイグニッションの前兆又はプレイグニッションと判定された場合には、以降の燃焼サイクルにおける前記イグナイタからの点火信号を遅角させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃焼状態判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−113284(P2013−113284A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263181(P2011−263181)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000109093)ダイヤモンド電機株式会社 (387)
【Fターム(参考)】