説明

内燃機関のEGR制御装置

【課題】エンジン停止中に残留EGRガスから生じる凝縮水によって再始動時の燃焼が不安定化することを抑制する。
【解決手段】エンジン停止要求時にEGR弁13及びスロットル弁14を全開し、第1バンク2の気筒4を燃料カットし、当該第1バンク2の燃料カットに対して所定の遅延期間をおいて第2バンク3の気筒5を燃料カットする。エンジン1の回転停止までの期間に、燃料カット制御中の第1バンク2から排出される空気が、EGR通路12や共有吸気通路8、第1吸気通路6、第2吸気通路7等のEGRガスの流通経路を流れ、該EGRガスの流通経路内のEGRガスが掃気される。エンジン停止中に該流通経路内に残留することになるEGRガスの量が低減される。これにより、エンジン停止中にEGRガスの流通経路が冷却された場合に流通経路内のEGRガスから生じる凝縮水の量が減少し、次回エンジン始動時における燃焼安定性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のEGR制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関からの排気の一部をEGR通路経由で吸気通路に流入させる外部EGRが知られている。このような外部EGRを行う内燃機関では、EGR通路内のEGRガスが冷却されてEGRガスから凝縮水が発生する場合がある。この凝縮水は吸気系を腐食させたり燃焼を不安定化させたりする問題がある。
【0003】
この問題に対して、ターボチャージャのコンプレッサより下流側の吸気通路とEGR通路の吸気通路寄りの箇所とを連通する通路を備え、コンプレッサから流出する高圧の吸気の一部をこの通路経由でEGR通路に流入させ、この高圧の吸気をEGR通路の吸気通路寄りの箇所から排気通路側へと逆流させることにより、EGR通路内に滞留するEGRガスを吹き飛ばし、EGR通路内に滞留するEGRガスから凝縮水が発生することを抑制する技術が提案されている(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2007−198310号公報
【特許文献2】特開2004−116402号公報
【特許文献3】特開2007−262956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この従来技術では、コンプレッサ下流側の吸気通路とEGR通路の吸気通路寄りの箇所とを連通する通路を新設する必要があり、コストアップや装置の複雑化を招く可能性がある。
【0005】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、EGR通路により外部EGRを行う内燃機関において、コストアップや装置の複雑化を抑えつつ、EGR通路や吸気通路等のEGRガスの流通経路内に存在するEGRガスから凝縮水が生じて、当該凝縮水に起因して燃焼が不安定化することを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の内燃機関のEGR制御装置は、
内燃機関の排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路と、
前記EGR通路に設けられたEGR弁と、
前記吸気通路に設けられたスロットル弁と、
前記内燃機関への燃料供給を制御する燃料制御手段と、
前記内燃機関の停止要求時に、前記燃料制御手段によって前記内燃機関への燃料供給を停止する燃料カット制御を行うとともに、前記スロットル弁及び前記EGR弁を開弁する機関停止制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、内燃機関の停止要求時の燃料カット制御実施中においても空気の吸入が継続的に行われることになる。この空気は内燃機関に吸入されてそのまま燃焼することなく内燃機関から排出されるが、この時EGR弁が開弁されるので、内燃機関から排出される空気の一部がEGR通路を通って吸気通路に流入する。このようにEGR通路を流れる空気によって、内燃機関の停止要求時点においてEGR通路及び吸気通路内に存在しているEGRガスが掃気される。
【0008】
また、燃料カット制御においてスロットル弁が開弁される本発明の場合、燃料カット制御においてスロットル弁を閉弁する場合と比較して、燃料カット制御が開始されて以降の機関回転数の落ち込みが遅くなるため、内燃機関の回転が停止するまでの時間は長くなる。従って、EGR通路内を流れる空気によってEGR通路内や吸気通路内の残留EGRガスを掃気するための時間を比較的長く確保することができる。
【0009】
これにより、燃料カット制御が開始されてから内燃機関の回転が停止するまでの期間に、EGR通路内や吸気通路内に残留するEGRガスの量をより確実に減少させることができる。
【0010】
従って、内燃機関の回転が停止した後の機関停止状態においてEGR通路や吸気通路が冷却されたとしても、EGR通路や吸気通路内に残留するEGRガスの量が減少しているため、このEGRガスから生じる凝縮水の量を減少させることができる。
【0011】
よって、機関停止状態においてEGR通路や吸気通路内の残留EGRガスから生じた凝縮水が内燃機関の再始動時に燃焼室内に吸入されて燃焼不良を招くことを好適に抑制することが可能となる。
【0012】
本発明は、複数の気筒を有する内燃機関に好適に適用することができる。すなわち、
前記内燃機関は複数の気筒を有し、
前記複数の気筒のうちの一部の気筒は、その気筒からの排気の一部が前記EGR通路によって取り出されてEGRガスとして前記吸気通路に流入させられる気筒であるEGR取り出し有り気筒であり、
前記複数の気筒のうちの一部の気筒は、その気筒からの排気の一部が前記EGR通路によって取り出されない気筒であるEGR取り出し無し気筒であり、
前記燃料制御手段は、前記EGR取り出し有り気筒への燃料供給と前記EGR取り出し無し気筒への燃料供給とを独立に制御可能であり、
前記機関停止制御手段は、前記内燃機関の停止要求時に、前記燃料制御手段によって前記EGR取り出し有り気筒に対してのみ燃料カット制御を開始し、該EGR取り出し有り気筒に対する燃料カット制御開始から所定期間遅延させたタイミングにおいて前記燃料制御手段によって前記EGR取り出し無し気筒に対する燃料カット制御を開始するようにしても良い。
【0013】
EGR取り出し有り気筒に対して燃料カット制御を行うことにより、EGR取り出し有り気筒からの排出されるガスのほとんどは空気となる。この空気によって、上述したように、内燃機関の停止要求時点においてEGR通路及び吸気通路内に存在しているEGRガスが掃気される。
【0014】
更に、上記の構成によれば、EGR取り出し無し気筒からの排気はEGR通路に流入することはないので、EGR取り出し無し気筒に対しては燃料供給を継続しても、EGR通路や吸気通路内の残留EGRガスの量には影響しない。
【0015】
従って、EGR通路や吸気通路内の残留EGRガスの掃気を行うべき運転条件下においても、EGR取り出し無し気筒に対しては燃料供給を継続することができる。
【0016】
これにより、内燃機関の停止要求時点においてEGR通路や吸気通路内に存在しているEGRガスが、内燃機関の回転が停止するまでの期間にEGR通路や吸気通路から掃気されるので、内燃機関の回転が停止した後の機関停止中においてEGR通路や吸気通路内に残留するEGRガスから凝縮水が生じることを抑制でき、機関再始動時の燃焼安定性が凝
縮水によって損なわれることを好適に抑制することが可能となる。
【0017】
上記構成においては、EGR取り出し無し気筒への燃料供給を適当に制御することによって、内燃機関の停止要求時(換言するとEGR取り出し有り気筒に対する燃料カット制御開始時)から内燃機関の回転が停止するまでの期間を調節することができる。
【0018】
内燃機関の停止要求時から内燃機関の回転が停止するまでの期間が長くなるほど、内燃機関の停止要求時点でEGR通路や吸気通路内に残留しているEGRガスがより確実に空気によって掃気されるようになる。
【0019】
従って、EGR取り出し有り気筒に対する燃料カット制御の開始タイミングに対してEGR取り出し無し気筒に対する燃料カット制御の開始タイミングを遅延させる所定期間を、前記内燃機関の停止要求時点で前記EGR通路内に存在するEGRガスが空気によって掃気されるのに要する時間に基づいて定めるようにしても良い。
【0020】
例えば、内燃機関の停止要求時にEGR通路及び吸気通路内に存在するEGRガスを内燃機関の回転が停止するまでの期間に全て掃気することができるように、上記所定期間を設定するようにすれば、より確実に凝縮水の発生を抑制することが可能となる。
【0021】
この所定期間は、EGR取り出し有り気筒に対する燃料カット制御の開始前後における内燃機関の回転数や、EGR通路や吸気通路の通路容積等の諸条件によって異なる期間としても良い。また、所定期間をサイクル数に換算して設定しても良い。
【0022】
ここで、内燃機関の外気温が低いほど、内燃機関の停止後にEGR通路や吸気通路が冷却され易く、従って内燃機関の停止後にEGR通路や吸気通路内に残留しているEGRガスから凝縮水が生じ易い。
【0023】
従って、上記構成において、前記所定期間は、前記内燃機関の外気の温度が低いほど長い期間に設定されるようにしても良い。
【0024】
所定期間を長い期間に設定することにより、EGR通路や吸気通路内のEGRガスを、より確実に掃気することができる。
【0025】
従って、内燃機関の回転が停止する時点でEGR通路や吸気通路内に残留するEGRガスの量をより確実に低減できるので、外気温が低く凝縮水が発生し易い状況にであっても、EGR通路や吸気通路内でEGRガスから凝縮水が生じることを抑制できる。
【0026】
上記のように、EGR取り出し有り気筒に対して燃料カット制御を行うと、EGR取り出し有り気筒の数に応じてトルクが減少するため、トルク段差が生じ、ドライバビリティを低下させる要因となる。
【0027】
そこで、上記構成において、前記機関停止制御手段は、前記内燃機関の停止要求時の前記燃料制御手段による前記EGR取り出し無し気筒への燃料供給量を、前記内燃機関の停止要求直前と比較して増加させるようにしても良い。
【0028】
これにより、EGR取り出し有り気筒への燃料カット制御実施に起因して低下するトルクを、EGR取り出し無し気筒のトルク増加によって補うことができるので、トルク段差が生じることを抑制できる。
【0029】
なお、EGR取り出し無し気筒の燃料供給量は、内燃機関の停止要求時に停止要求直前
の燃料供給量より増加させた後、徐々に減少させて、所定期間経過後の燃料カット制御にスムーズにつながるように制御しても良い。
【0030】
こうすることで、EGR取り出し有り気筒に対する燃料カット制御実施時のトルク段差を回避できるとともに、EGR取り出し無し気筒への燃料カット実施までの期間においてもトルクの急激な変化を抑制し、ドライバビリティを向上させることができる。
【0031】
以上説明した発明により、内燃機関の回転停止後の機関停止中にEGR通路や吸気通路内で凝縮水が生じることを抑制することができ、次回の機関再始動時に燃焼室への凝縮水の流入によって燃焼安定性が損なわれることを好適に抑制することが可能となる。
【0032】
ところで、前回機関回転停止してからの経過時間が長い場合や、外気温が低い場合等においては、EGR通路や吸気通路の温度が低く、内燃機関が運転中であっても、EGR通路に流入した既燃ガスが低温のEGR通路や吸気通路内で冷却されて、凝縮水が生じる可能性がある。
【0033】
そこで、本発明の内燃機関のEGR制御装置は、
複数の気筒を有する内燃機関と、
前記内燃機関の排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路と、
前記内燃機関への燃料供給を制御する燃料制御手段と、
前記EGRガスの流通経路の温度状態を判定する判定手段と、
を有する内燃機関のEGR制御装置であって、
前記複数の気筒のうちの一部の気筒は、その気筒からの排気の一部が前記EGR通路によって取り出されてEGRガスとして前記吸気通路に流入させられる気筒であるEGR取り出し有り気筒であり、
前記複数の気筒のうちの一部の気筒は、その気筒からの排気の一部が前記EGR通路によって取り出されない気筒であるEGR取り出し無し気筒であり、
前記燃料制御手段は、前記EGR取り出し有り気筒への燃料供給と前記EGR取り出し無し気筒への燃料供給とを独立に制御可能である
内燃機関のEGR制御装置であって、
前記EGR通路を介して前記吸気通路へEGRガスを流入させるEGR実施条件が成立し、且つ、前記判定手段により前記EGRガスの流通経路が所定の暖機状態になっていないと判定される場合、前記燃料制御手段によって前記EGR取り出し有り気筒の少なくとも一部の気筒について燃料カット制御を行う減筒運転手段を備えることを特徴とする内燃機関のEGR制御装置としても良い。
【0034】
EGR取り出し有り気筒の一部において燃料カット制御が行われることにより、EGRガスの一部が空気となるので、EGRガス中の既燃ガスの割合が低下する。これにより、EGRガスから生じる凝縮水の量を低減することができる。
【0035】
これにより、EGRガスから生じる凝縮水が燃焼室に流入して燃焼が不安定になることを抑制することが可能となる。
【0036】
ここで、判定手段は、例えば内燃機関の水温や、機関始動後の積算燃料噴射量や、機関始動後の経過時間等に基づいて、EGRガスの流通経路の温度状態を判断することができる。
【0037】
例えば、内燃機関の水温が所定温度より低い場合に、EGRガスの流通経路が暖機状態になっていないと判定することができる。EGR通路や吸気通路等のEGRガスの流通経路の温度を直接測定により取得する手段により判定することもできる。
【0038】
また、EGRガスの流通経路が所定の暖機状態になっていないと判定される場合としては、例えば、EGRガスの流通経路の温度状態が、当該流通経路をEGRガスが通過する過程でEGRガスから凝縮水が発生し、且つその発生量が燃焼安定性に所定の許容限度を超える影響を与えるほどの量となる可能性のある状態である場合を例示できる。具体的には、冷間始動時や、寒冷季等の外気温が低い場合等を例示できる。
【0039】
このようにEGR取り出し有り気筒の一部に対して燃料カット制御を行って減筒運転を実施すると、燃料カット制御対象となるEGR取り出し有り気筒の数だけトルクが減少するため、トルク不足によりドライバビリティが低下する虞がある。
【0040】
そこで、上記構成において、前記減筒運転手段は、前記燃料制御手段によって前記EGR取り出し有り気筒の一部の気筒について燃料カット制御を行う場合、燃料カット制御を行わない場合と比較して、前記燃料制御手段による前記EGR取り出し無し気筒への燃料供給量を増量するようにしても良い。
【0041】
これにより、減筒運転の実施に起因して低下するトルクを、EGR取り出し無し気筒のトルク増加によって補うことができるので、トルク不足が生じることを抑制できる。EGR取り出し無し気筒への燃料供給量を増量した場合でも、EGR取り出し無し気筒からの排気はEGR通路には流入しないので、本発明によるEGRガスからの凝縮水の発生を抑制する効果への影響はない。
【0042】
EGR取り出し無し気筒への燃料供給量の増量補正は、減筒運転において燃料カット制御対象となるEGR取り出し有り気筒の数に応じて定めるようにしても良い。
【0043】
例えば、燃料カット制御対象の気筒の数が多いほど、EGR取り出し無し気筒への燃料供給量をより増量するようにしても良い。
【0044】
また、筒内噴射型機関の場合にはEGR取り出し無し気筒の燃料噴射時期を補正してトルクを増加させても良い。火花点火型機関の場合にはEGR取り出し無し気筒の点火時期を補正してトルクを増加させても良い。可変圧縮比機構を備えた内燃機関の場合にはEGR取り出し無し気筒の圧縮比を補正してトルクを増加させても良い。可変バルブタイミング機構を備えた内燃機関の場合にはEGR取り出し無し気筒の吸気バルブや排気バルブの開閉弁時期やリフト量を補正してトルクを増加させても良い。
【0045】
要は、EGRガス成分への影響が無いEGR取り出し無し気筒の燃焼制御を補正することによって、減筒運転に起因するトルク低下を補うようにすれば良い。
【0046】
EGRガスの流通経路の温度が上昇すれば、当該流通経路をEGRガスが通過する過程で凝縮水が生じにくくなる。
【0047】
従って、上記構成において、前記減筒運転手段は、前記判定手段によって判定される前記EGRガスの流通経路の温度状態が高温状態になるほど、前記EGR取り出し有り気筒において燃料カット制御を行う気筒の数を減少させるようにしても良い。
【0048】
燃料カット制御の実施対象となる気筒の数を減少させると、その分EGRガス中の空気の割合が小さくなり、既燃ガスの割合が大きくなるが、EGRガスの流通経路の温度状態がある程度高温状態であれば、EGRガス中の既燃ガスの割合が大きくなっても凝縮水の発生量が増加する虞は少ない。
【0049】
減筒運転における燃料カット制御実施対象の気筒数を減らしていくことにより、EGR通路や吸気通路等のEGRガスの流通経路の暖機を促進させることができる。
【0050】
燃料カット制御の実施対象となる気筒数を減少させるタイミングは、その燃料カット制御対象の気筒数の減少によるEGRガス中の既燃ガスの割合の増加の程度や、既燃ガスの割合の増加に起因する凝縮水の発生量の変化の程度や、その時点での内燃機関の水温等の燃焼安定性に関わるパラメータや、それを考慮した凝縮水による燃焼安定性への影響の大きさ等の諸条件を考慮して定めると好適である。
【0051】
以上説明したように、EGR取り出し有り気筒とEGR取り出し無し気筒とを有する内燃機関に本発明を好適に適用することが可能である。
【0052】
EGR取り出し有り気筒やEGR取り出し無し気筒の具体的な構成としては、例えば、単一のバンクを有する内燃機関において、そのバンク内の一部の気筒に連通する第1の排気通路と、残りの気筒に連通する第2の排気通路と、を有し、第1の排気通路と吸気通路とをEGR通路により接続する構成とすれば、第1の排気通路に連通する気筒がEGR取り出し有り気筒ということになり、第2の排気通路に連通する気筒がEGR取り出し無し気筒ということになる。
【0053】
この場合、第1の排気通路と第2の排気通路とはそのまま独立して大気に開放するように構成しても良いし、下流側において第1の排気通路と第2の排気通路が合流するように構成しても良いが、後者の構成とする場合には、第1の排気通路と第2の排気通路との合流箇所は第1の排気通路におけるEGR通路の接続箇所より下流側となるようにする。
【0054】
また、複数のバンクを有する内燃機関においては、EGR取り出し有り気筒のみを有するバンクや、EGR取り出し無し気筒のみを有するバンクといったように、EGR取り出しの有無をバンク毎に構成しても良い。
【発明の効果】
【0055】
本発明により、EGR通路により外部EGRを行う内燃機関において、コストアップや装置の複雑化を抑えつつ、EGR通路や吸気通路等のEGRガスの流通経路内に存在するEGRガスから凝縮水が生じて、当該凝縮水に起因して燃焼が不安定化することを抑制することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0057】
図1は、本実施例に係る内燃機関のEGR制御装置を適用する内燃機関とその吸気系及び排気系の概略構成を模式的に示す概念図である。
【0058】
図1において、エンジン1は、3つの気筒4を含む第1バンク2と、3つの気筒5を含む第2バンク3とが、V字型に配置された6気筒V型エンジンである。第1バンク2には、第1バンク2の各気筒4に連通する第1吸気通路6が接続されている。第2バンク3には、第2バンク3の各気筒5に連通する第2吸気通路7が接続されている。第1吸気通路6と第2吸気通路7とは上流において共有吸気通路8に集合している。
【0059】
第1バンク2には、第1バンク2の各気筒4に連通する第1排気通路10が接続されて
いる。
【0060】
第2バンク3には、第2バンク3の各気筒5に連通する第2排気通路9が接続されている。
【0061】
第1排気通路10と第2排気通路9とは下流において共有排気通路11に集合している。
【0062】
第1バンク2の各気筒4の吸気ポートに燃料を噴射する第1燃料噴射弁16と、第2バンク3の各気筒5の吸気ポートに燃料を噴射する第2燃料噴射弁17と、が備えられている。第1燃料噴射弁16による燃料噴射と、第2燃料噴射弁17による燃料噴射とは、後述するECU18によって独立に制御可能に構成されている。
【0063】
第1排気通路10と共有吸気通路8とは、EGR通路12によって連通している。第1バンク2の各気筒4から排出された排気の一部がEGR通路12によって取り出され、EGR通路12を通ってEGRガスとして共有吸気通路8に流入する。EGR通路12の途中にはEGR通路12を流れるEGRガスの流量を調節するEGR弁13が配置されている。
【0064】
共有吸気通路8におけるEGR通路12の接続箇所より上流側には、スロットル弁14が配置されている。
【0065】
第1バンク2の各気筒4は、その排気の一部がEGR通路12によって取り出され、EGRガスとして共有吸気通路8に流入させられる気筒であり、本発明における「EGR取り出し有り気筒」に相当する。
【0066】
一方、第2バンク3の各気筒5は、その排気の一部がEGR通路12によって取り出されない気筒であり、本発明における「EGR取り出し無し気筒」に相当する。
【0067】
エンジン1にはエンジン1の冷却水の温度を測定する水温センサ15が備えられている。
【0068】
エンジン1にはECU18が備えられている。ECU18はエンジン1の運転を制御するコンピュータであり、各種の制御プログラムや制御マップが記憶されたROM、制御プログラムを実行するCPU、測定データ等を一時的に記憶するRAM等の公知の構成を有する。
【0069】
ECU18には水温センサ15その他のエンジン1の運転状態を把握するための各種物理量を測定するセンサが接続され、それら各種センサによる測定データがECU18入力されるようになっている。
【0070】
また、ECU18にはEGR弁13、スロットル弁14、第1燃料噴射弁16、第2燃料噴射弁17、その他のエンジン1の運転状態を制御するための機器が接続され、それら各種機器の動作がECU18からの制御信号によって制御されるようになっている。
【0071】
このように、EGR通路12によって外部EGRを行うエンジンでは、エンジン停止要求直前にEGRが行われていた場合、エンジン停止後にEGR通路12や、共有吸気通路8、第1吸気通路6及び第2吸気通路7等の、EGRガスの流通経路内にEGRガスが残留し、エンジン1やEGRガスの流通経路の温度低下に伴って残留EGRガスが冷却され、残留EGRガスから凝縮水が生じる可能性がある。
【0072】
このようにエンジン停止中にEGRガスの流通経路内で生じた凝縮水は、次回のエンジン始動時に気筒4や気筒5に吸入され、始動時の燃焼を不安定化させる虞がある。
【0073】
そこで、本実施例では、エンジン停止要求があった場合、第1燃料噴射弁16を制御して第1バンク2の気筒4に対して燃料カット制御を行うとともに、EGR弁13及びスロットル弁14を開弁するようにした。
【0074】
更に、エンジン停止要求があった時点では第1バンク2の気筒4に対してのみ燃料カット制御を行い、第2バンク3の気筒5に対しては燃料カット制御を行わず、燃料噴射を継続するようにした。そして、第1バンク2の気筒4に対する燃料カット制御の開始時(すなわちエンジン停止要求時)から所定の遅延期間が経過した時に、第2バンク3の気筒5に対しても燃料カット制御を行うようにした。
【0075】
この制御によれば、エンジン停止要求時に第1バンク2の気筒4に対して燃料カット制御が行われる時に、スロットル弁14が開弁されるので、燃料カット制御実施中も第1バンク2の気筒4には継続的に空気が吸入され、第1バンク2の気筒4からは排気として空気が排出される。
【0076】
この時、EGR弁13が開弁されているので、第1バンク2の気筒4から排出された空気の一部はEGR通路12によって取り出され、EGR通路12を通過して共有吸気通路8に流入し、第1吸気通路6及び第2吸気通路7を流れる。すなわち、EGRガスの流通経路に空気が流れる。
【0077】
この空気の流れによって、EGRガスの流通経路内に存在するEGRガスが該流通経路から掃気されるので、エンジン1の回転が停止した後のエンジン停止中にEGRガスの流通経路内に残留するEGRガスの量を低減することができる。
【0078】
従って、エンジン停止中にこの残留EGRガスから生じる凝縮水の量を低減することができる。これにより、次回のエンジン1の始動時に気筒4、5に凝縮水が流入して燃焼を不安定化させることを抑制することが可能となる。
【0079】
上記説明した本実施例のエンジン停止時の制御について、図2に基づいて説明する。図2は本実施例のエンジン停止時の制御ルーチンを表すフローチャートである。このルーチンはエンジン1の稼働中定期的にECU18によって実行される。
【0080】
ステップS101において、ECU18は、エンジン停止要求がある否かを判定する。エンジン停止要求がある場合(Yes)は、ECU18はステップS103に進む。エンジン停止要求が無い場合(No)は、ECU18はステップS102に進む。
【0081】
ステップS102において、ECU18は、第1バンク2及び第2バンク3の燃料噴射制御、スロットル弁14の開度制御、EGR弁13の開度制御について、エンジン1の運転状態に応じて予め定められたベースマップ値に従った通常制御を行う。
【0082】
ステップS103において、ECU18は、第1バンク2の気筒4の燃料カット制御開始タイミングに対する、第2バンク3の気筒5の燃料カット制御開始タイミングの遅延期間を設定する。ここで、この遅延期間の設定について説明する。
【0083】
上述したように、本実施例では、エンジン停止要求時に第1バンク2の気筒4に対して燃料カット制御を行うことにより、エンジン1の回転が停止するまでの期間、EGRガス
の流通経路内に空気の流れが生じる。この空気の流れはエンジン1の回転が停止するまで継続する。
【0084】
従って、エンジン停止要求時からエンジン1の回転が停止するまでの期間が長いほど、EGRガスの流通経路内のEGRガスがより確実に掃気され、エンジン停止後のEGRガス流通経路内の残留EGRガスの量をより確実に低減することができる。
【0085】
本実施例では、エンジン停止要求時に第1バンク2の気筒4に対してはすぐに燃料カット制御が実施されるが、第2バンク3の気筒5に対してはエンジン停止要求から遅延期間をおいて燃料カット制御が実施される。
【0086】
この遅延期間が長くなるほど、エンジン停止要求時からエンジン1の回転が停止するまでの期間は長くなる。すなわち、この遅延期間を調節することにより、EGRガス流通経路内のEGRガスを空気によって掃気する期間を調節することができる。つまり、遅延期間を長くすれば、EGRガス流通経路内の残留するEGRガスの量をより低減することができる。
【0087】
ここで、外気温が低いほど、エンジン1の回転が停止した後のエンジン停止中にEGRガスの流通経路が冷却され易く、従って流通経路内にEGRガスが残留している場合には凝縮水が生じ易い。
【0088】
従って、外気温が低いほど、より確実にEGRガス流通経路内の残留EGRガス量を低減することが好ましい。
【0089】
そこで、本実施例では、エンジン停止要求時の外気温が低いほど、上記遅延期間を長く設定することとした。
【0090】
図3は、エンジン停止要求時の外気温と、第1バンク2の気筒4に対して燃料カット制御を開始してから、第2バンク3の気筒5に対して燃料カット制御を開始するまでの遅延サイクル数と、の関係を示す図である。
【0091】
図3の破線Aは、エンジン停止中に生じる凝縮水の量が次回エンジン始動時の燃焼を不安定化させるほどの量にならないようにすることが可能な遅延サイクル数の下限値を示している。すなわち、エンジン停止要求時の外気温に応じて決まるこの下限遅延サイクル数以上のサイクル数だけ、第2バンク3の燃料カット制御を第1バンク2の燃料カット制御に対して遅延させるようにすれば、次回エンジン再始動時に凝縮水によって燃焼が不安定化することを好適に抑制することが可能となる。
【0092】
本実施例では、図3に示すように、エンジン停止要求時の外気温TがTi−1<T≦T(i=1、2、3、4)(T<T<T<T<T)の場合には、第1バンク2の燃料カット制御開始から第2バンク3の燃料カット制御開始までの遅延サイクル数をN(i=1,2,3,4)(N>N>N>N)に設定することとした。但し、これは一例であって、要は、外気温に対して破線Aで示されるサイクル数より多いサイクル数遅延させるようにすれば良い。
【0093】
図2に戻って、ステップS104において、ECU18は、第1バンク2及び第2バンク3の燃料噴射制御、スロットル弁14の開度制御、EGR弁13の開度制御について、エンジン停止時の制御を実行する。すなわち、スロットル弁14及びEGR弁13の開度をそれぞれ全開にする。また、第1バンク2の気筒4に対して燃料カット制御を行う。
【0094】
更に、第2バンク3の気筒5については、第1バンク2の気筒4に対する燃料カット制御の実施と同時に、燃料噴射量を増量する。この燃料噴射量の増量分は、第1バンク2の気筒4に対する燃料カット制御の実施に起因するトルク低下を補償するように設定する。
【0095】
こうすることにより、第1バンク2の気筒4に対する燃料カット制御実施時にトルク段差が生じることを抑制でき、ドライバビリティの低下を抑制することができる。
【0096】
その後、第2バンク3の気筒5に対する燃料噴射量を徐々に減少させ、ステップS104で設定した遅延サイクル数経過後に、第2バンク3の気筒5に対して燃料カット制御を行う。
【0097】
以上のような制御ルーチンを実行することにより、エンジン停止要求時からエンジン1の回転が停止するまでの期間に、EGRガスの流通経路内のEGRガスが空気によって掃気され、該流通経路内のEGRガスの量が減少するので、エンジン1の回転が停止した後のエンジン停止中に該流通経路内に残留しているEGRガスから凝縮水が生じることを抑制できる。
【0098】
また、凝縮水が生じても、次回エンジン始動時の燃焼を不安定化させるほどの量の凝縮水が生じることを抑制できる。従って、次回エンジン始動時に安定した燃焼を行わせることができる。
【0099】
本実施例のEGR通路12が、本発明におけるEGR通路に相当する。本実施のEGR弁13が、本発明のEGR弁に相当する。本実施例のスロットル弁14が、本発明のスロットル弁に相当する。本実施例の第1燃料噴射弁16及び第2燃料噴射弁17が、本発明における燃料制御手段に相当する。本実施例のステップS103〜104を実行するECU18が、本発明における機関停止制御手段に相当する。
【実施例2】
【0100】
上述した実施例1では、本発明におけるEGR取り出し有り気筒に相当する気筒のみから成る第1バンク2と、EGR取り出し無し気筒に相当する気筒のみから成る第2バンク3と、の2つのバンクを備えたエンジン1に本発明を適用した例について説明したが、本実施例では、単一のバンクを有するエンジンに本発明を適用した例について説明する。
【0101】
図4は、本実施例に係る内燃機関のEGR制御装置を適用する内燃機関とその吸気系及び排気系の概略構成を模式的に示す概念図である。
【0102】
図4において、エンジン1000は、4つの気筒41、42、51、52を含むバンク20を有する4気筒エンジンである。バンク20には各気筒に連通する吸気通路80が接続されている。また、バンク20には気筒41、42に連通する第1排気通路100と、気筒51、52に連通する第2排気通路90と、が接続されている。第1排気通路100と第2排気通路90とは下流において共有排気通路110に集合している。
【0103】
気筒41、42の吸気ポートに燃料を噴射する第1燃料噴射弁161、162と、気筒51、52の吸気ポートに燃料を噴射する第2燃料噴射弁171、172と、が備えられている。第1燃料噴射弁161、162による燃料噴射と、第2燃料噴射弁171、172による燃料噴射とは、ECU18によって独立に制御可能に構成されている。
【0104】
第1排気通路100と吸気通路80とは、EGR通路120によって連通している。気筒41、42から排出された排気の一部がEGR通路120によって取り出され、EGR通路120を通ってEGRガスとして吸気通路80に流入する。EGR通路120の途中
にはEGR通路120を流れるEGRガスの流量を調節するEGR弁130が配置されている。
【0105】
吸気通路80におけるEGR通路120の接続箇所より上流側には、スロットル弁140が配置されている。
【0106】
気筒41、42は、その排気の一部がEGR通路120によって取り出され、EGRガスとして吸気通路80に流入させられる気筒であり、本発明における「EGR取り出し有り気筒」に相当する。
【0107】
一方、気筒51、52は、その排気の一部がEGR通路120によって取り出されない気筒であり、本発明における「EGR取り出し無し気筒」に相当する。
【0108】
エンジン1000にはエンジン1000の冷却水の温度を測定する水温センサ15が備えられている。
【0109】
エンジン1000にはECU18が備えられている。ECU18にはEGR弁130、スロットル弁140、第1燃料噴射弁161、162、第2燃料噴射弁171、172が接続され、ECU18からの制御信号によってこれらの機器の動作が制御されるように成っている。その他のECU18の構成は実施例1と概略同様である。
【0110】
本実施例では、エンジン停止要求時に、EGR弁130及びスロットル弁140の開度をそれぞれ全開にする。また、気筒41、42に対して燃料カット制御を行う。
【0111】
更に、気筒51、52については、気筒41、42に対する燃料カット制御の実施と同時に、燃料噴射量を増量する。この燃料噴射量の増量分は、気筒41、42に対する燃料カット制御の実施に起因するトルク低下を補償するように設定する。
【0112】
こうすることにより、気筒41、42に対する燃料カット制御実施時にトルク段差が生じることを抑制でき、ドライバビリティの低下を抑制することができる。
【0113】
その後、気筒51、52に対する燃料噴射量を徐々に減少させ、所定の遅延期間経過後に、気筒51、52に対して燃料カット制御を行う。遅延期間については、実施例1と同様の考え方により設定する。
【0114】
この制御を行うことにより、エンジン停止要求時に気筒41、42に対して燃料カット制御が行われてからエンジン1000の回転が停止するまでの期間に、気筒41、42から排出される空気が第1排気通路100、EGR通路120、吸気通路80を含むEGRガスの流通経路内を流れ、この空気の流れによってEGRガスの流通経路内に残留しているEGRガスが掃気される。
【0115】
これにより、エンジン1000の回転が停止した後のエンジン停止中にEGRガスの流通経路内に存在する残留EGRガスの量を減少させることができるので、エンジン停止中にこのEGRガスの流通経路が冷却されても、次回のエンジン始動時における燃焼安定性を著しく損なう虞のあるほどの量の凝縮水が残留EGRガスから生じることを抑制できる。これにより、次回エンジン始動時の燃焼安定性を好適に確保することが可能となる。
【0116】
本実施例のEGR通路120が、本発明におけるEGR通路に相当する。本実施例のEGR弁130が、本発明のEGR弁に相当する。本実施例のスロットル弁140が、本発明のスロットル弁に相当する。本実施例の第1燃料噴射弁161、162、第2燃料噴射
弁171、172が、本発明の燃料制御手段に相当する。本実施例においてエンジン停止要求時にEGR弁130及びスロットル弁140を開弁し、気筒41、42に対して燃料カット制御を行い、該燃料カット制御から所定の遅延期間をおいて気筒51、52に対して燃料カット制御を行うECU18が、本発明における機関停止制御手段に相当する。
【実施例3】
【0117】
本実施例では、エンジンの運転時にEGRガスから生じる凝縮水による燃焼悪化を抑制する発明の実施例について説明する。
【0118】
本実施例に係る内燃機関のEGR制御装置を適用する内燃機関及びその吸排気系の概略構成については、実施例1の図1に示したものと概略同一である。
【0119】
本実施例では、更に、第1燃料噴射弁16による第1バンク2の各気筒4への燃料噴射は、3つの気筒4それぞれで独立に制御可能に構成されている。また、第2燃料噴射弁17による第2バンク3の各気筒5への燃料噴射は、3つの気筒5それぞれで独立に制御可能に構成されている。
【0120】
実施例1又は2係るエンジン停止時の制御を実行すれば、エンジン停止時にEGRガスの流通経路内に残留することになるEGRガスの量を減少させることができるので、エンジン停止中にEGRガスの流通経路が冷却された場合においても、次回エンジン始動時の燃焼安定性を著しく悪化させるほどの量の凝縮水が残留EGRガスから生じることを抑制できる。
【0121】
ところで、冷間始動時や外気温が低い場合等、EGRガスの流通経路の温度が低くなっている場合には、第1バンク2から排出されてEGR通路12に流入した既燃ガスが、低温のEGR通路12や吸気通路内で冷却され、凝縮水が生じる可能性がある。この凝縮水が気筒4、5に流入すると、燃焼が不安定化する虞がある。
【0122】
そこで、本実施例では、EGRの実施条件が成立し、且つ、上述のように燃焼を不安定化させ得る量の凝縮水が生じるほどEGRガスの流通経路の温度が低いと判定される場合には、第1バンク2の3つの気筒4のうちの少なくとも一部の気筒について燃料カット制御を行い、第1バンク2に関して減筒運転を行うこととした。
【0123】
この制御を行うことによって、第1バンク2から第1排気通路10に排出される排気のうち、燃料カット制御が行われる気筒からの排気が空気になるため、EGR通路12によって第1排気通路10から取り出されるEGRガスの一部が空気となる。すなわち、EGRガス中の既燃ガスの割合が低下する。
【0124】
これにより、EGRガスから生じる凝縮水の量を低減することができる。従って、EGRガスの流通経路の温度が低い場合であっても、燃焼を不安定化させるほどの量の凝縮水がEGRガスから生じることを抑制することができる。
【0125】
これにより、EGRガスから生じる凝縮水が気筒4、5の燃焼室に流入して燃焼が不安定になることを抑制することが可能となる。
【0126】
本実施例では、EGRガスの流通経路の温度状態、すなわち、EGR通路12、共有吸気通路8、第1吸気通路6、第2吸気通路7の温度状態を、水温センサ15によって測定されるエンジン水温に基づいて判定する。
【0127】
また、EGRガスの流通経路の温度が低いほど、該流通経路をEGRガスが通過する過
程で凝縮水が発生し易い。
【0128】
従って、EGRガスの流通経路の温度が低いほど、EGRガス中の既燃ガスの割合を小さくすることが好ましい。
【0129】
そこで、本実施例では、エンジン水温が低いほど、第1バンク2に対する減筒運転における減筒数(燃料カット制御の対象となる気筒4の数)を多くするようにした。具体的には、図5に示すように、エンジン水温TがT<T≦Tj+1の場合には、減筒数を2−jとする。
【0130】
これにより、凝縮水が発生し易い低温状況下では、より確実にEGRガス中の既燃ガスの割合が小さくされ、凝縮水の発生をより確実に抑制することができる。
【0131】
また、ある程度エンジン水温が高い状況下では、燃料が供給され燃焼が行われる気筒数が増加するので、エンジン水温の上昇が促進され、エンジン1やEGRガスの流通経路の暖機を促進することができる。
【0132】
ここで、図6を参照して、エンジン1の冷間始動時に本実施例の制御を実行した場合のエンジン水温、凝縮水発生量、第1バンク2の気筒4のうち燃焼が行われている気筒(減筒運転における燃料カット制御の対象となっていない気筒)の個数、及びEGR通路12の温度の時間変化の一例について説明する。
【0133】
図6において、実線は本実施例の制御を実行した場合の各量の変化を表し、破線は本実施例の制御を行わない従来技術における各量の変化を表す。
【0134】
図6(A)はエンジン水温の時間変化を表す図である。図6に示すように、冷間始動時に本実施例の制御を行う場合、減筒運転が行われるため、始動後のエンジン水温の上昇速度は、本実施例の制御を行わない場合の方が速い。
【0135】
従って、エンジン水温と関連するEGR通路12の温度(EGRガスの流通経路の温度状態を代表する)変化も、図6(D)に示すように、本実施例の制御を行わない場合の方が、本実施例の制御を行った場合と比較して速い。
【0136】
しかしながら、本実施例の制御を行う場合、図6(C)に示すように、エンジン水温、従ってEGR通路12の温度が低い状況下では、EGR取り出し有り気筒である第1バンク2の気筒4の一部に対して燃料カット制御が実施され、減筒運転が行われる。
【0137】
図6(C)に示すように、エンジン水温T≦Tである時刻tまでは、第1バンク2の気筒4のうち2つの気筒4に対して燃料カット制御が行われ、第1バンク2の気筒4のうち燃焼が行われる気筒数は1個である。エンジン水温TがT<T≦Tである時刻t<t≦tでは、燃焼が行われる気筒数が2つに増やされる。エンジン水温TがT<Tとなる時刻t<tでは、第1バンク2の気筒4の全てに対して燃料供給が行われ、減筒運転は行われない。
【0138】
このように、エンジン水温Tが低い状況下で第1バンク2に対して減筒運転が行われることにより、EGRガス中の空気の割合が増加し、既燃ガスの割合が低下する。
【0139】
従って、図6(B)に示すように、本実施例の制御を行わず、EGRガス中の既燃ガスの割合が100%である場合と比較して、凝縮水の発生量が大幅に低減されている。
【0140】
つまり、凝縮水が発生し易い低温状況下では、エンジン水温やEGR通路12の温度が本実施例の制御を行わない場合よりも多少低くなっても、EGRガス中の既燃ガスの割合が本実施例の制御を行わない場合よりも小さいことによる凝縮水の発生量の低減効果が大きい。
【0141】
また、エンジン水温が高い場合と比較して、エンジン水温が低い場合の方が、燃焼室内への凝縮水の流入が燃焼安定性に与える影響が大きい。すなわち、エンジン水温がある程度高い場合には、多少凝縮水が燃焼室内に流入しても燃焼安定性が著しく損なわれる可能性は低いが、エンジン水温が低い場合には、凝縮水の流入によって失火等の燃焼不良が発生する可能性が高い。
【0142】
このような事情から、エンジン水温が低い状況下では、エンジン1やEGR通路12の暖機の速度が多少遅くなっても、凝縮水の発生量をできるだけ少なくすることが、燃焼安定性を確保する点で好適である。
【0143】
上述のように、本実施例では、図6(C)のようにエンジン水温が低い状況下では減筒運転が行われるため、図6(A)、図6(D)に示すようにエンジン1やEGR通路12の暖機速度が遅くなるが、図6(B)に示すようにEGRガスからの凝縮水の発生量を大幅に低減できるため、エンジン水温が低い状況下での凝縮水に起因する燃焼不良を好適に抑制することが可能となる。
【0144】
上記説明した本実施例のエンジン運転中の制御について、図7に基づいて説明する。図7は本実施例のエンジン運転中の制御ルーチンを表すフローチャートである。このルーチンはエンジン1の稼働中定期的にECU18によって実行される。
【0145】
ステップS201において、ECU18は、EGRの実施条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、エンジン1の運転状態に応じて予め定められたEGR弁13の開度マップに基づいて、EGR弁13が開弁される運転状態である場合には、EGRの実施条件が成立していると判定する。
【0146】
ステップS201においてEGRの実施条件が成立していると判定された場合(Yes)、ECU18はステップS203に進む。ステップS201においてEGRの実施条件が成立していないと判定された場合(No)、ECU18はステップS202に進む。
【0147】
ステップS202において、ECU18は、第1バンク2及び第2バンク3の燃料噴射制御について、エンジン1の運転状態に応じて予め定められたベースマップ値に従った通常制御を行う。
【0148】
ステップS203において、ECU18は、EGRガスの流通経路の温度状態を判定する。本実施例の場合、水温センサ15によって測定されたエンジン水温に基づいて、EGRガスの流通経路の温度状態を判定する。
【0149】
測定されたエンジン水温Tが、図5を参照して説明した温度Tより高い場合、EGRガスの流通経路の温度状態は十分に暖機された状態であると判定し(ステップS203:Yes)、ECU18はステップS202の通常制御を実行する。
【0150】
測定されたエンジン水温Tが、温度T以下の場合、EGRガスの流通経路の温度状態は十分に暖機されておらず、低温状態であると判定し(ステップS203:No)、ECU18はステップS204に進む。
【0151】
ステップS204において、ECU18は、第1バンク2の3つの気筒4のうち、図5に示したエンジン水温と減筒数との関係と、水温センサ15によって測定されるエンジン水温Tと、に基づいて決まる数の気筒に対して燃料カット制御を行う。
【0152】
すなわち、測定されたエンジン水温TがT<T≦Tなら、3つの気筒4のうち2つの気筒に対して燃料カット制御を行う。
【0153】
測定されたエンジン水温TがT<T≦Tなら、3つの気筒4のうち1つの気筒に対して燃料カット制御を行う。
【0154】
更に、第2バンク3の気筒5に対する燃料噴射量を増量する。この増量分は、第1バンク2に対する減筒運転に起因して低下する第1バンク2のトルクを補償するように決定する。
【0155】
これにより、第1バンク2に対して減筒運転を行った場合にトルク段差が生じることを抑制できるので、ドライバビリティの悪化を抑制できる。
【0156】
本実施例では、エンジン水温に基づいてEGRガスの流通経路の温度を判定する例について説明したが、EGRガスの流通経路の温度を判定する基準はエンジン水温に限られない。
【0157】
例えば、エンジンの冷間始動時における制御の場合は、始動後の経過時間が長くなるほどEGRガスの流通経路の温度が高くなる傾向があるので、エンジン始動後の経過時間に基づいてEGRガスの流通経路の温度状態を判定するようにしても良い。
【0158】
また、同様にエンジンの冷間始動時における制御の場合は、始動後の燃料噴射量の積算値とEGRガスの流通経路の温度との間に相関があるので、始動後の燃料噴射量の積算値に基づいてEGRガスの流通経路の温度状態を判定するようにしても良い。
【0159】
また、上記各実施例では、気筒への燃料供給をポート噴射式燃料噴射弁によって行うエンジンに本発明を適用した例について説明したが、本発明は筒内直噴式燃料噴射弁によって気筒への燃料供給を行うエンジンに適用することも可能である。
【0160】
また、本実施例では、第1バンク2の気筒4に対する燃料カット制御の実施に起因するトルク低下を補償するために、第2バンク3の気筒5に対する燃料噴射量を増量する例について説明したが、気筒5の点火時期の補正、バルブタイミング変更機構を有しているなら気筒5のバルブタイミングの補正、圧縮比変更機構を有しているなら気筒5の圧縮比の補正、可変容量型過給機を備えているならノズルベーンの開度補正等によってトルク低下を補償するようにしても良い。
【0161】
本実施例のステップS203を実行するECU18が、本発明における判定手段に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】実施例1及び3に係る内燃機関のEGR制御装置を適用するエンジンとその吸気系及び排気系の概略構成を示す図である。
【図2】実施例1におけるエンジン停止時の制御ルーチンを表すフローチャートである。
【図3】実施例1におけるエンジン停止時の制御において、外気温に応じて、EGR取り出し有り気筒の燃料カット制御に対するEGR取り出し無し気筒の燃料カット制御の遅延期間を定めるマップの一例を示す図である。
【図4】実施例2に係る内燃機関のEGR制御装置を適用するエンジンとその吸気系及び排気系の概略構成を示す図である。
【図5】実施例3におけるエンジン運転時の制御において、エンジン水温に応じて、EGR取り出し有り気筒の減筒運転における減筒数を定めるマップの一例を示す図である。
【図6】図6(A)は、実施例3におけるエンジン運転時の制御を実行した場合(実線)と実行しなかった場合(破線)の各場合におけるエンジン水温の変化の一例を示す図である。図6(B)は、実施例3におけるエンジン運転時の制御を実行した場合(実線)と実行しなかった場合(破線)の各場合における凝縮水の発生量の変化の一例を示す図である。図6(C)は、実施例3におけるエンジン運転時の制御を実行した場合(実線)と実行しなかった場合(破線)の各場合におけるEGR取り出し有り気筒のうち燃焼が行われる気筒の数の変化の一例を示す図である。図6(D)は、実施例3におけるエンジン運転時の制御を実行した場合(実線)と実行しなかった場合(破線)の各場合におけるEGR通路の温度変化の一例を示す図である。
【図7】実施例3におけるエンジン運転時の制御ルーチンを表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0163】
1 エンジン
2 第1バンク
3 第2バンク
4 気筒
5 気筒
6 第1吸気通路
7 第2吸気通路
8 共有吸気通路
9 第2排気通路
10 第1排気通路
11 共有排気通路
12 EGR通路
13 EGR弁
14 スロットル弁
15 水温センサ
16 第1燃料噴射弁
17 第2燃料噴射弁
18 ECU
20 バンク
41 気筒
42 気筒
51 気筒
52 気筒
80 吸気通路
90 第2排気通路
100 第1排気通路
110 共有排気通路
130 EGR弁
140 スロットル弁
161 燃料噴射弁
162 燃料噴射弁
171 燃料噴射弁
172 燃料噴射弁
1000 エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路と、
前記EGR通路に設けられたEGR弁と、
前記吸気通路に設けられたスロットル弁と、
前記内燃機関への燃料供給を制御する燃料制御手段と、
前記内燃機関の停止要求時に、前記燃料制御手段によって前記内燃機関への燃料供給を停止する燃料カット制御を行うとともに、前記スロットル弁及び前記EGR弁を開弁する機関停止制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関のEGR制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記内燃機関は複数の気筒を有し、
前記複数の気筒のうちの一部の気筒は、その気筒からの排気の一部が前記EGR通路によって取り出されてEGRガスとして前記吸気通路に流入させられる気筒であるEGR取り出し有り気筒であり、
前記複数の気筒のうちの一部の気筒は、その気筒からの排気の一部が前記EGR通路によって取り出されない気筒であるEGR取り出し無し気筒であり、
前記燃料制御手段は、前記EGR取り出し有り気筒への燃料供給と前記EGR取り出し無し気筒への燃料供給とを独立に制御可能であり、
前記機関停止制御手段は、前記内燃機関の停止要求時に、前記燃料制御手段によって前記EGR取り出し有り気筒に対してのみ燃料カット制御を開始し、該EGR取り出し有り気筒に対する燃料カット制御開始から所定期間遅延させたタイミングにおいて前記燃料制御手段によって前記EGR取り出し無し気筒に対する燃料カット制御を開始することを特徴とする内燃機関のEGR制御装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記所定期間は、前記内燃機関の停止要求時点で前記EGR通路内に存在するEGRガスを空気によって掃気するのに要する時間に基づいて定められることを特徴とする内燃機関のEGR制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3において、
前記所定期間は、前記内燃機関の外気の温度が低いほど長い期間に設定されることを特徴とする内燃機関のEGR制御装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項において、
前記機関停止制御手段は、前記内燃機関の停止要求時の前記燃料制御手段による前記EGR取り出し無し気筒への燃料供給量を、前記内燃機関の停止要求直前と比較して増加させることを特徴とする内燃機関のEGR制御装置。
【請求項6】
複数の気筒を有する内燃機関と、
前記内燃機関の排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路と、
前記内燃機関への燃料供給を制御する燃料制御手段と、
前記EGRガスの流通経路の温度状態を判定する判定手段と、
を有する内燃機関のEGR制御装置であって、
前記複数の気筒のうちの一部の気筒は、その気筒からの排気の一部が前記EGR通路によって取り出されてEGRガスとして前記吸気通路に流入させられる気筒であるEGR取り出し有り気筒であり、
前記複数の気筒のうちの一部の気筒は、その気筒からの排気の一部が前記EGR通路によって取り出されない気筒であるEGR取り出し無し気筒であり、
前記燃料制御手段は、前記EGR取り出し有り気筒への燃料供給と前記EGR取り出し無し気筒への燃料供給とを独立に制御可能である
内燃機関のEGR制御装置であって、
前記EGR通路を介して前記吸気通路へEGRガスを流入させるEGR実施条件が成立し、且つ、前記判定手段により前記EGRガスの流通経路が所定の暖機状態になっていないと判定される場合、前記燃料制御手段によって前記EGR取り出し有り気筒の一部の気筒について燃料カット制御を行う減筒運転手段を備えることを特徴とする内燃機関のEGR制御装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記減筒運転手段は、前記燃料制御手段によって前記EGR取り出し有り気筒の一部の気筒について燃料カット制御を行う場合、当該燃料カット制御を行わない場合と比較して、前記燃料制御手段による前記EGR取り出し無し気筒への燃料供給量を増量することを特徴とする内燃機関のEGR制御装置。
【請求項8】
請求項6又は7において、
前記減筒運転手段は、前記判定手段によって判定される前記EGRガスの流通経路の温度状態が高温状態になるほど、前記EGR取り出し有り気筒において燃料カット制御を行う気筒の数を減少させることを特徴とする内燃機関のEGR制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−59921(P2010−59921A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228896(P2008−228896)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】