説明

化合物半導体光素子の製造方法

【課題】良好なエッチングの制御性を提供できる化合物半導体光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】III−V族化合物半導体からなる半導体基板上101にGaを構成原子として含むコンタクト層105を形成し、コンタクト層105上にGaを構成原子として含まないエッチングモニタ層106を形成し、エッチングモニタ層上にGaを構成原子として含むカバー層107を形成する半導体層形成工程と、塩素系ガスを用いたドライエッチングにより、カバー層107及びエッチングモニタ層106を連続してエッチングするエッチング工程と、を含み、エッチング工程では、Gaの発光プラズマの波長成分の有無を観察することにより、ドライエッチングを停止するタイミングを制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器等の化合物半導体光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体レーザ素子の製造方法に関する技術が記載されている。この製造方法では、メサを絶縁膜により被覆した後に、メサ頂部をドライエッチングにより除去する。そしてコンタクト層を露出させ、その上に電極を形成する。
【0003】
また、特許文献2には、半導体装置の製造方法に関する技術が記載されている。この製造方法では、CF系ガスを用いたドライエッチングにより絶縁性樹脂を除去する。ここでF系ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)では、Alが当該F系ガスに晒されるとAlFが容易に生成される。そこで、Cl系ガスによるRIEを継続して行うことにより、当該Alフッ化物をAlClの形態で昇華させ、Alの表面に生成した不純物を取り除く。
【0004】
また、特許文献3には、化合物半導体光デバイスを作製する方法に関する技術が記載されている。この方法は、有機シラン系原料及び酸素原料を含む成膜ガスを供給して、誘導結合プラズマ‐化学的気相成長法で、シリコン化合物からなる誘電体マスク膜を化合物半導体領域上に堆積する工程と、誘電体マスク膜にパターンを形成して誘電体マスクを形成する工程と、誘電体マスクを用いて、化合物半導体領域のドライエッチングを行ってメサ形状の化合物半導体領域を形成する工程とを備える。誘電体マスクの厚みは1マイクロメートル以上である。また、CHとHとの混合ガスを供給して電子サイクロトロン共鳴型反応性イオンエッチング(ECR‐RIE)により半導体層をエッチングする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004‐104073号公報
【特許文献2】特開2010‐16233号公報
【特許文献3】特開2007‐208134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した技術では、ドライエッチングによりメサ上の絶縁膜を除去した後に、コンタクト層上に電極を形成している。このドライエッチングにより、ダメージを受けた部分がコンタクト層表面に形成される。そのダメージを受けた部分には結晶欠陥が形成されているために、デバイス特性上及び信頼性上問題となる。そのため、ダメージを受けたコンタクト層表面の部分を、ウエットエッチングや塩素系ドライエッチングにより除去する方法が考えられている。
【0007】
しかし、ウエットエッチングでは、エッチングレートのばらつきが大きいために、エッチング深さ等の制御が困難である。そのために、エッチング後のコンタクト層の厚さが素子毎に不均一となる。また、ウエットエッチングでは、サイドエッチングが進行し、絶縁膜の界面から下方のメサ側面がエッチングされることもある。一方、塩素系ドライエッチングでも、エッチングレートのばらつきが大きい。しかも、塩素系ドライエッチングにおけるエッチングレートが絶縁膜の開口幅に影響されるため、エッチング深さを正確に制御することはさらに困難である。
【0008】
本発明は、上述した問題を鑑みてなされたものであり、良好なエッチングの制御性を提供できる化合物半導体光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した問題を解決するために、本発明による化合物半導体光素子の製造方法は、III−V族化合物半導体からなる半導体基板上にGaを構成原子として含む第1の半導体層を形成し、第1の半導体層上にGaを構成原子として含まない第2の半導体層を形成し、第2の半導体層上にGaを構成原子として含む第3の半導体層を形成する半導体層形成工程と、塩素系ガスを用いたドライエッチングにより、第3の半導体層及び第2の半導体層を連続してエッチングするエッチング工程と、を含み、エッチング工程では、Gaの発光プラズマの波長成分の有無を確認することにより、ドライエッチングを停止するタイミングを制御することを特徴とする。
【0010】
この方法によれば、Gaを構成原子として含む第3の半導体層を除去しているときには、Gaの発光プラズマの波長成分である850ナノメートルの信号成分が確認され、Gaを構成原子として含まない第2の半導体層を除去しているときには850ナノメートルの信号成分が確認されない。このGaの発光プラズマの波長成分の有無を確認することにより、ドライエッチングを停止するタイミングを精度良く制御することが可能となり、良好なエッチングの制御性を提供できる。
【0011】
また、第1の半導体層はInGaAsからなり、第2の半導体層はInPからなり、第3の半導体層はInGaAsからなっていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好なエッチングの制御性を提供できる化合物半導体光素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】化合物半導体光素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図2(a)は化合物半導体光素子の製造方法の一工程を示す断面図であり、図2(b)は図2(a)の次工程を示す断面図である。
【図3】図3(a)は図2(b)の次工程を示す断面図であり、図3(b)は図3(a)の次工程を示す断面図である。
【図4】図4(a)は図3(b)の次工程を示す断面図であり、図4(b)は図4(a)の次工程を示す断面図である。
【図5】図5(a)は図4(b)の次工程を示す断面図であり、図5(b)は図5(a)の次工程を示す断面図である。
【図6】図6は図5(b)の次工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明による化合物半導体光素子の製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本発明の製造方法により製造される化合物半導体光素子には、例えば半導体レーザ素子や光変調器がある。
【0015】
本実施形態に係る化合物半導体光素子の製造方法について、図1〜6を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る化合物半導体光素子の製造方法を示すフローチャートである。また、図2〜6は、本実施形態に係る化合物半導体光素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
(半導体層形成工程)
【0016】
まず、図2(a)に示されるように、複数の半導体層を形成するための半導体基板101を準備する。半導体基板101には、例えばIII‐V族化合物半導体であるn型InP基板が用いられる。次に、半導体基板101上に下クラッド層102、多重量子井戸構造(MQW)を含む活性層103、上クラッド層104、コンタクト層105、エッチングモニタ層106、及びカバー層107を順次形成する(S11)。この製造方法において、各半導体層は、例えば有機金属気相成長装置(OMVPE)により形成される。
【0017】
ここで、下クラッド層102には、例えば厚さ0.3マイクロメートルのn型InP層が用いられ、活性層103には、例えばAlGaInAs及びAlInAsからなる厚さ0.3マイクロメートルの半導体層が用いられ、上クラッド層104には、例えば厚さ0.3マイクロメートルのp型InP層が用いられる。さらに、コンタクト層105には、例えば厚さ0.2マイクロメートルのp型InGaAs層が用いられ、エッチングモニタ層106には、例えば厚さ0.1マイクロメートルのp型InPが用いられ、カバー層107には、例えば厚さ0.2マイクロメートルのp型InGaAs層が用いられる。なお、コンタクト層105は第1の半導体層に相当し、エッチングモニタ層106は第2の半導体層に相当し、カバー層107は第3の半導体層に相当する。
【0018】
次に、図2(b)に示されるように、化学気相成長(CVD)装置を用いて、第1の絶縁膜108を形成する(S13)。この第1の絶縁膜108には、例えばSiN膜、SiO膜、及びSiON膜が用いられる。また、第1の絶縁膜108の厚さは、例えば0.3マイクロメートルである。そして、フォトリソグラフィにより、フォトレジスト109を形成する。このフォトレジスト109は、メサの平面形状に応じたパターン形状を有している。また、フォトレジスト109の厚さは、例えば0.5マイクロメートルである。
【0019】
次に、図3(a)に示されるように、CFガスを用いたドライエッチングにより、第1の絶縁膜108の一部を除去する(S15)。このエッチングは、エッチングレートが例えば毎分0.1マイクロメートルに設定され、カバー層107が露出するまで行われる。また、エッチング時間はおよそ3分である。そして、有機溶剤を用いてフォトレジスト109を除去すると、図3(b)に示されるように、メサの平面形状にパターニングされた第1の絶縁膜108を得る。
【0020】
次に、図4(a)に示されるように、第1の絶縁膜108をマスクとして、塩素系ガスを用いたドライエッチングにより、メサ51を形成する(S17)。このエッチングは、エッチングレートが例えば毎分0.1マイクロメートルに設定され、半導体基板101が露出したところで停止される。このメサ51の高さは、例えば1.4マイクロメートルである。なお、図4(a)は、半導体基板101と下クラッド層102との界面においてエッチングを停止した様子を示しているが、オーバーエッチングにより半導体基板101内までメサ51が形成されてもよい。
【0021】
次に、CFガスを用いたドライエッチングにより、第1の絶縁膜108を除去する(S18)。そして、図4(b)に示されるように、CVD装置を用いて、第2の絶縁膜110をカバー層107上及びメサ51の側面に形成する(S21)。ここで、第2の絶縁膜110には、例えばSiN膜、SiO膜、及びSiON膜が用いられる。また、第2の絶縁膜110の厚さは、例えば0.3マイクロメートルである。
【0022】
次に、図5(a)に示されるように、フォトリソグラフィにより、レジストパターン111を、第2の絶縁膜110上に形成する。このレジストパターン111のメサ51上の部分には、開口部52が形成されている。また、レジストパターン111の厚さは、例えば0.5マイクロメートルである。そして、レジストパターン111をマスクとして、CFガスを用いたドライエッチングにより、メサ51上の第2の絶縁膜110の一部を除去する(S23)。このエッチングでは、エッチングレートが例えば毎分0.1マイクロメートルに設定される。また、エッチング時間はおよそ5分である。
(エッチング工程)
【0023】
次に、有機溶剤を用いてレジストパターン111を除去する。そして、図5(b)に示されるように、第2の絶縁膜110をマスクとして、塩素系ガスを用いたドライエッチングにより、カバー層107、エッチングモニタ層106、及びコンタクト層105の一部を連続して除去する(S25)。このエッチングでは、エッチングレートが例えば毎分0.1マイクロメートルに設定される。また、エッチング時間はおよそ3分である。
【0024】
このエッチングを行っている間、発光プラズマをモニタする装置(図示せず)を使用し、Gaの波長成分(波長850ナノメートル)をモニタする。まず、カバー層107にはp型InGaAs層が用いられているために、カバー層107を除去している間はGaの波長成分の信号を確認できる。次に、エッチングモニタ層106にはp型InP層が用いられているため、エッチングモニタ層106を除去している間はGaの波長成分の信号が消える。そして、コンタクト層105にはp型InGaAs層が用いられているため、コンタクト層105が露出すると、Gaの波長成分の信号を再び確認できる。Gaの波長成分の信号が一旦消失し、再び現れたときが、エッチングがコンタクト層105に達したときである。そこで、Gaの波長成分の信号が再び現れたときに、エッチングを停止する。
【0025】
次に、図6に示されるように、蒸着により、p電極112を第2の絶縁膜110上に形成する。このp電極112は、例えば厚さ0.1マイクロメートルのAuZn/Au合金からなる。そして、半導体基板101の裏面を研磨し、n電極113を形成する。このn電極113は、例えば厚さ0.1マイクロメートルのAuGe/Ni合金からなる。
【0026】
以上の工程により化合物半導体光素子1が完成する。また、上述した工程は、メサ51の両側を樹脂で埋め込む構造を有する化合物半導体光素子の製造にも適用できる。
【0027】
次に、本実施形態に係る化合物半導体光素子の製造方法の効果について説明する。本実施形態により製造される化合物半導体光素子1は、Gaを構成原子として含む第1の半導体層であるコンタクト層105と、第2の絶縁膜110との間に、Gaを構成原子として含まない第2の半導体層であるエッチングモニタ層106、及びGaを構成原子として含む第3の半導体層であるカバー層107を有している。このため、ドライエッチングが行われている際に発生する発光プラズマの波長成分を確認すると、カバー層107を除去しているときには、Gaの発光プラズマの波長成分が確認される。そして、エッチングモニタ層106を除去しているときにはGaの発光プラズマの波長成分が確認されない。このGaの発光プラズマの波長成分の有無を確認することにより、カバー層107及びエッチングモニタ層106の順に進行するドライエッチングがどの深さまで進行したかを、精度良く知ることができる。これにより、ドライエッチングの界面がコンタクト層105に到達したことを精度良く検知することが可能となる。従って、本実施形態に係る化合物半導体光素子の製造方法によれば、良好なエッチングの制御性を提供することができる。
【0028】
また、ダメージ層が形成されたカバー層107を除去する際のドライエッチング(S25)において、ドライエッチング(S25)を停止するタイミングを精度良く制御することができる。従って、コンタクト層105の残り厚を精度良く制御することが可能となるため、素子毎の特性のばらつきを抑制することができる。
【0029】
さらに、コンタクト層105のオーバーエッチングに起因する素子抵抗の増大を防ぐことが可能となるため、化合物半導体光素子1の素子特性及び信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0030】
1…化合物半導体光素子、101…半導体基板、105…コンタクト層、106…エッチングモニタ層、107…カバー層、S11…半導体層形成工程、S25…エッチング工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III−V族化合物半導体からなる半導体基板上にGaを構成原子として含む第1の半導体層を形成し、前記第1の半導体層上にGaを構成原子として含まない第2の半導体層を形成し、前記第2の半導体層上にGaを構成原子として含む第3の半導体層を形成する半導体層形成工程と、
塩素系ガスを用いたドライエッチングにより、前記第3の半導体層及び前記第2の半導体層を連続してエッチングするエッチング工程と、
を含み、
前記エッチング工程では、Gaの発光プラズマの波長成分の有無を確認することにより、前記ドライエッチングを停止するタイミングを制御することを特徴とする化合物半導体光素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1の半導体層はInGaAsからなり、前記第2の半導体層はInPからなり、前記第3の半導体層はInGaAsからなることを特徴とする、請求項1に記載の化合物半導体光素子の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−109489(P2012−109489A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258739(P2010−258739)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】