説明

半導体レーザ素子の製造方法

【課題】性層の成長にMBE装置を用いるハイブリッド方式において、製品のスループットの向上が図られる半導体レーザ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】この半導体レーザ素子1の製造方法では、水素プラズマクリーニングと活性層14の成長とを別々の真空装置で分離して実行することにより、クリーニング終了時の成長室33内の水素残留濃度を考慮する必要が無くなり、成長室33への基板搬送後に速やかに窒素プラズマ発生用のRFガン44の窒素プラズマを点火して活性層14の再成長を行うことが可能となる。したがって、この半導体レーザ素子の製造方法では、従来のように同一の真空装置内で水素プラズマクリーニングと活性層の成長とを連続して行う場合と比較して、製品のスループットの向上が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaInNAsなどからなる活性層を含んで構成される半導体レーザ素子は、長波長光通信用の光源として用いられている。かかる半導体レーザ素子の製造にあたっては、例えば特許文献1に記載の面発光レーザ素子の製造方法のように、有機金属気相成長(MOCVD)法と分子線エピタキシー(MBE)法とを組み合わせたハイブリッド方式を採用したものがある。
【0003】
このハイブリッド方式では、例えばMOCVD装置を用いてn型クラッド層までの半導体層を十分な速度で成長させ、その後、MBE装置を用いてガイド層・バリア層を含む活性層を成長させる。そして、活性層を成長させた後、再びMOCVD装置を用いてp型クラッド層以降の半導体層を成長させる。
【0004】
このような製造方法によれば、MOCVD装置でクラッド層等の半導体層を迅速に形成して製品のスループットを向上させつつ、MBE装置で活性層を形成することで活性層中の水素濃度を低減し、信頼性の高い半導体レーザ素子の製造が可能となる。
【特許文献1】特開2004−207500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したハイブリッド方式のように、活性層の成長にMBE装置を用いる手法では、MBE装置にエピタキシャル基板を移送する際、エピタキシャル基板が大気に曝されるため、表面の酸化や不純物の付着が問題となる。そこで、MBE装置内で半導体層を再成長させる前に、例えば水素プラズマ等による基板表面のクリーニングを行うのが通常となっている。
【0006】
水素プラズマクリーニングは、MBE装置に装備されたRFガンから活性化された水素ラジカルを照射することにより、基板表面の酸化物や不純物を還元して除去するものである。しかしながら、このクリーニング方法を従来の手順で行うと、クリーニング終了時にMBE装置内の水素残留濃度が高い状態となるため、半導体層の再成長に用いるRFガンにおいて窒素プラズマの点火が阻害されることがあった。そのため、MBE装置内の水素濃度が十分に低下するまでの待ち時間が製品のスループットを低下させる一因となっていた。
【0007】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、活性層の成長にMBE装置を用いるハイブリッド方式において、製品のスループットの向上が図られる半導体レーザ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決のため、本発明に係る半導体レーザ素子の製造方法は、MOCVD装置又はMBE装置を用いることにより、基板上に下部クラッド層を含む半導体層を成長させる第1の工程と、MBE装置を用いることにより、半導体層が形成された基板上に活性層を成長させる第2の工程と、を含む半導体レーザ素子の製造方法であって、第2の工程の実行にあたって、MBE装置と真空搬送系で連結された真空装置に基板を導入して水素プラズマクリーニングを行うクリーニング工程と、真空搬送系を介し、クリーニング後の基板を真空装置からMBE装置に搬送する搬送工程とを備えたことを特徴としている。
【0009】
この半導体レーザ素子の製造方法では、活性層の成長を行うMBE装置とは別の真空装置で基板の水素プラズマクリーニングを行い、クリーニング終了後に、真空搬送系を介して基板をMBE装置に搬送する。このように、クリーニングと活性層の成長とを別々の真空装置で分離して実行することにより、クリーニング終了時のMBE装置内の水素残留濃度を考慮する必要が無くなり、基板搬送後に速やかにRFガンを点火して活性層の再成長を行うことが可能となる。したがって、この半導体レーザ素子の製造方法では、製品のスループットの向上が図られる。
【0010】
また、活性層は、GaInNAs又はGaInNAsSbを含むことが好ましい。この場合、良好な半導体レーザ素子の特性が得られる。
【0011】
また、第2の工程において、活性層の成長に窒素プラズマを用いることが好ましい。クリーニング終了時のMBE装置内の水素残留濃度を考慮する必要が無いので、基板搬送後に速やかにRFガンの窒素プラズマを点火して活性層の再成長を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、活性層の成長にMBE装置を用いるハイブリッド方式において、製品のスループットの向上が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る半導体レーザ素子の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法を用いて製造される半導体レーザ素子の層構成例を示す図である。同図に示すように、半導体レーザ素子1は、例えば長距離光通信システムの光源として用いられる素子であり、n−GaAs基板11と、n−AlGaAs下部クラッド層12と、GaAs下部ガイド層13と、活性層14と、GaAs上部ガイド層17と、p−AlGaAs上部クラッド層18と、p−GaAsコンタクト層19と、p型電極層20と、n型電極層21と、によって構成されている。
【0015】
活性層14は、GaInNAs井戸層15及びGaAsバリア層16が交互に積層された多重量子井戸構造を有している。GaInNAs井戸層15及びGaAsバリア層16は、例えば分子線エピタキシー(MBE)法によって形成される。活性層14には、n−AlGaAs下部クラッド層12及びp−AlGaAs上部クラッド層18からキャリアが注入され、このキャリアが再結合することによって光が発生する。GaInNAs井戸層15及びGaAsバリア層16の形成にMBE法を用いることで、結晶中の水素濃度を低減できるので、半導体レーザ素子1の信頼性の向上が図られている。
【0016】
n−AlGaAs下部クラッド層12と、p−AlGaAs上部クラッド層18と、p−GaAsコンタクト層19とは、例えば有機金属気相成長(MOCVD)法によって形成されている。GaAs下部ガイド層13は、n−GaAs基板11側の部分がMOCVD法によって形成され、活性層14側の部分がMBE法による再成長によって形成されている。また、GaAs上部ガイド層17は、活性層14側の部分がMBE法によって形成され、p−AlGaAs上部クラッド層18側の部分がMOCVD法による再成長によって形成されている。
【0017】
n−AlGaAs下部クラッド層12、GaAs下部ガイド層13、GaAs上部ガイド層17、及びp−AlGaAs上部クラッド層18の屈折率は、活性層14よりも小さくなっており、活性層14で発生した光を閉じ込める層として機能する。これらの層12,13,17,18の形成に十分な成長速度が見込めるMOCVD法を用いることにより、製品のスループット向上が図られている。
【0018】
続いて、上述した半導体レーザ素子1の製造方法について説明する。
【0019】
図2は、図1に示した半導体レーザ素子1の製造工程を示すフローチャートである。半導体レーザ素子1の製造にあたっては、まず、n−GaAs基板11を用意する。そして、n−GaAs基板11をMOCVD装置(不図示)に導入し、n−GaAs基板11の一面側に、n−AlGaAs下部クラッド層12と、GaAs下部ガイド層13とをそれぞれ成長させる(ステップS01)。なお、MOCVD装置は、公知の装置を用いることができるので、詳細な説明を省略する。
【0020】
次に、ステップS01でGaAs下部ガイド層13まで成長させたエピタキシャル基板PをMBE装置31に導入する。ここで、図3に、MBE装置31の構成の一例を示す。同図に示すように、MBE装置31は、エピタキシャル基板Pの導入口となる導入室32と、成膜を行う成長室33とを備えている。また、成長室33には、基板表面のクリーニングを実行するクリーニング室34が連結されている。成長室33とクリーニング室34とは、真空搬送系35によって互いに連結され、導入室32は、真空搬送系35の中間部分に連結されている。
【0021】
成長室33内には、成膜材料を供給するGaセル41、Inセル42、及びAsセル43と、窒素プラズマ発生用のRFガン44とが設けられている。また、クリーニング室34内には、水素プラズマ発生用のRFガン45が設けられている。また、成長室33及びクリーニング室34内には、マニピュレータ46と、マニピュレータ46に保持されたMo製の基板ホルダ47とがそれぞれ設けられており、真空搬送系35を介して搬送されるエピタキシャル基板Pを保持可能となっている。
【0022】
まず、エピタキシャル基板Pを導入室32内に導入し、真空引きを行った後、真空搬送系35を介してクリーニング室34に搬送する(ステップS02)。次に、マニピュレータ46により、基板ホルダ4に保持されたエピタキシャル基板Pを約700℃まで昇温させる。また、水素プラズマ発生用のRFガン45に水素を約1.0sccm流し、RFパワーを約450Wに上げてプラズマを点火させる。その後、シャッタを開放してエピタキシャル基板Pに水素プラズマを照射し、30分程度のクリーニングを実行する(ステップS03)。
【0023】
この水素プラズマクリーニングにより、MOCVD装置からMBE装置への搬送の際にエピタキシャル基板の表面に生じた酸化物や不純物が還元・除去される。クリーニング終了後、クリーニング室34からエピタキシャル基板Pを取り出し、真空搬送系35を介して成長室33に搬送する(ステップS04)。
【0024】
エピタキシャル基板Pを成長室33に搬送した後、Gaセル41を約900℃、Inセル42を約750℃に昇温する。また、Asセル43は、ソース温度を約350℃に維持しておく。次に、マニピュレータ46により、基板ホルダ4に保持されたエピタキシャル基板Pを約630℃まで昇温させる。エピタキシャル基板Pの温度が約630℃に到達した後、同温度を一定時間維持し、エピタキシャル基板Pのサーマルクリーニングを行う(ステップS05)。これにより、エピタキシャル基板Pの表面酸化物が分解・除去される。
【0025】
サーマルクリーニングの進行過程は、RHEED装置(不図示)でモニタリングし、電子線回折パターンがストリーク状になった時点でサーマルクリーニングを終了する。なお、このサーマルクリーニングの実行中に、窒素プラズマ発生用のRFガン44に窒素を約0.05sccm流し、RFパワーを約175Wに上げてプラズマを点火させておくことが好ましい。
【0026】
サーマルクリーニングの後、予め昇温させておいたGaセル41及びAsセル43を開放し、GaAs下部ガイド層13の再成長を開始させる。GaAs下部ガイド層13を約20nm成長させた後、Gaセル41及びAsセル43を一旦閉じて成長を中断し、エピタキシャル基板Pの温度を約400℃に降温する。
【0027】
エピタキシャル基板Pの温度が安定化した後、活性層14の成長を行う(ステップS06)。活性層14の成長にあたっては、まず、Gaセル41、Inセル42、及びAsセル43を開放すると共に、窒素プラズマ発生用のRFガン44を作動させ、GaAs下部ガイド層13の表面にGaInNAs井戸層15を約6nm成長させる。GaInNAs井戸層15の成長後、Gaセル41、Inセル42、及びAsセル43を閉じると共に、窒素プラズマ発生用のRFガン44を停止させ、エピタキシャル基板Pの温度を約550℃に昇温する。
【0028】
エピタキシャル基板Pの温度が安定化した後、Gaセル41及びAsセル43を開放し、GaInNAs井戸層15の表面にGaAsバリア層16を約10nm成長させる。以下、これらの工程を複数回繰り返すことにより、GaInNAs井戸層15とGaAsバリア層16とを交互に成長させ、活性層14を形成する。活性層14の形成の後、GaAs上部ガイド層17を約20nm成長させる。
【0029】
次に、GaAs上部ガイド層17まで成長させたエピタキシャル基板PをMBE装置31から取り出し、再び公知のMOCVD装置に導入する。そして、GaAs上部ガイド層17を所定の厚さで再成長させ、更に、GaAs上部ガイド層17の表面に、p−AlGaAs上部クラッド層18と、p−GaAsコンタクト層19とをそれぞれ成長させる(ステップS07)。この後、MOCVD装置から取り出したエピタキシャル基板Pにp型電極層20及びn型電極層21を形成すると、図1に示した半導体レーザ素子1が完成する。
【0030】
以上説明したように、この半導体レーザ素子1の製造方法では、MOCVD装置からMBE装置31にエピタキシャル基板Pを導入するにあたり、MBE装置31の成長室33と真空搬送系35で連結されたクリーニング室34にエピタキシャル基板Pを搬送して水素プラズマクリーニングを行い、クリーニング終了後に、真空搬送系35を介して基板を成長室33に搬送している。
【0031】
このように、クリーニングと活性層14の成長とを別々の真空装置で分離して実行することにより、クリーニング終了時の成長室33内の水素残留濃度を考慮する必要が無くなり、成長室33への基板搬送後に速やかに窒素プラズマ発生用のRFガン44の窒素プラズマを点火して活性層14の再成長を行うことが可能となる。したがって、この半導体レーザ素子の製造方法では、従来のように同一の真空装置内で水素プラズマクリーニングと活性層の成長とを連続して行う場合と比較して、製品のスループットの向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法を用いて製造される半導体レーザ素子の層構成例を示す図である。
【図2】図1に示した半導体レーザ素子1の製造工程を示すフローチャートである。
【図3】MBE装置の構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1…半導体レーザ素子、11…n−GaAs基板、12…n−AlGaAs下部クラッド層、14…活性層、31…MBE装置、33…成長室、34…クリーニング室、35…真空搬送系、P…エピタキシャル基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MOCVD装置又はMBE装置を用いることにより、基板上に下部クラッド層を含む半導体層を成長させる第1の工程と、
MBE装置を用いることにより、前記半導体層が形成された前記基板上に活性層を成長させる第2の工程と、を含む半導体レーザ素子の製造方法であって、
前記第2の工程の実行にあたって、
前記MBE装置と真空搬送系で連結された真空装置に前記基板を導入して水素プラズマクリーニングを行うクリーニング工程と、
前記真空搬送系を介し、クリーニング後の前記基板を前記真空装置から前記MBE装置に搬送する搬送工程とを備えたことを特徴とする半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項2】
前記活性層は、GaInNAs又はGaInNAsSbを含むことを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程において、前記活性層の成長に窒素プラズマを用いることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体レーザ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−295692(P2009−295692A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146172(P2008−146172)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】