説明

半導体装置

【課題】半導体装置の実装時の特性値変動を従来よりも低減した、より高精度の特性を有する半導体装置を提供する。
【解決手段】特性値に影響の大きい対を形成したトランジスタ間の特性値変動、ここではK値の変動を等しくし、シフトを相殺する事でシフトを低減することが可能となる。希ガスのイオン注入などにより、MOSトランジスタ形成領域の結晶性を崩す。このことにより、対となったトランジスタ間でのシフトが同じになるため、結果的にパッケージング時の特性変化を低減することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度な半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
VD、VR、リチウム電池保護IC等の電源ICにおいて、近年、更なる高精度化が要求されている。通常、高精度を実現する為には、ウエハー製造工程(前工程) 段階で発生した製造ばらつきを、ウエハーテスト工程(後工程)において、ポリシリコン製のヒューズをレーザー等によってトリミングして特性値を合わせこみ、高精度を実現するなどの手法が取られている。
【0003】
しかし、このようにして高精度に作成したチップでも、パッケージング工程やプリント基板への実装工程に於ける特性変化があると、場合によっては製品仕様を満たせないケースが発生する。パッケージング工程や基板実装工程での特性変化の原因は、熱応力による素子特性の変化と考えられる。すなわち、これらの工程を経ることによって半導体チップに応力がかかり、若しくは加えられた熱によって応力のかかり方が変化することで、ポリシリコン抵抗の抵抗値やトランジスタの閾値電圧、移動度、K値などが変化するのである。これを防止する為に、プリント基板への実装後に半導体製品の特性を調整できるようにしておくなどの発明が報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、特許文献1で示されている工程は特殊であり、コスト的に実現性が少ないと考えられる。よりシンプルで、コスト的に見合った特性値安定化手法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−124343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、以下のとおりである。半導体製品をパッケージングするにあたって、高精度の半導体製品の特性が変化してしまう。この原因は、前述したとおり応力による素子特性の変化と考えられる。例えば、封入樹脂から半導体チップに対して応力がかかり、ピエゾ抵抗効果によって素子の抵抗値、特性が変化する。具体的には、ポリシリコン抵抗の抵抗値やトランジスタの閾値電圧、移動度、K値などが変化する事になる。
【0006】
近年、部品の小型化要求により、小型のパッケージへの実装が盛んに行われているが、それに伴って半導体チップの薄型化が進んでいる。半導体チップが薄型化すればするほど、同じ応力がかかった場合により大きく半導体チップがひずみ、より大きな特性変化が発生する懸念がある。特性の変化量は、例えばリチウム電池保護ICの過充電検出電圧にして数mVといった程度の変化であるが、高精度の製品においてこの変化量は無視できない量となる。
【0007】
高精度な半導体製品においては、対を形成したトランジスタ間で特性が同じであることを利用して高精度を実現している。例えば、カレントミラー回路では対を形成するPチャネルMOSトランジスタ間で同一な電流が流れることを利用して、2つの電流経路の電流が等しくなるように働くことを利用した回路である。通常、対を成すトランジスタはその特性が大きく違わないように、半導体製品内で出来るだけ近く、可能であれば隣接しておくことが望ましい。また、そのチャネル方向も揃えて置くことが特性安定化に寄与する。
【0008】
このような半導体製品に応力がかかり、特性値の変動(シフト)が発生する。このとき、対を形成しているトランジスタ間で不均一な応力がかかった場合、すなわち個々のトランジスタにかかる応力が違った場合に、それぞれのトランジスタでの特性値変動が違う事になる。特に、オリフラ面方位が<110>方向を持つシリコン半導体では、PチャネルMOSトランジスタが応力に対する角度によってシフトの方向が違うという現象が起きる。このことは、レイアウトによって角度の違うPチャネルMOSトランジスタ間でシフトの大きさや方向が違う、といった現象が起きることとなり、高精度の半導体製品においては精度悪化の原因となる。これは、オリフラの結晶方位が<110>の場合での現象であるが、Nチャネルトランジスタの場合においてはオリフラの結晶方位が<100>の場合に、応力との角度依存性を持つことが知られており、この場合はNチャネルMOSトランジスタに対しても同様の現象が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために以下のような手段を用いた。
【0010】
まず、MOSトランジスタの動作時に形成されるチャネル領域の深さよりも深いアモルファス領域を有することを特徴とする半導体装置とする。
また、前記アモルファス領域は、前記チャネル領域と略同じであることを特徴とする半導体装置とする。
【0011】
また、前記アモルファス領域は、アルゴンなどの希ガスのイオン注入にて形成したことを特徴とする半導体装置とする。
【0012】
また、前記アモルファス領域は、シリコンのイオン注入にて形成したことを特徴とする半導体装置とする。
【0013】
また、前記アモルファス領域は、堆積により形成させたアモルファスシリコン層であることを特徴とする半導体装置とする。
【0014】
そして、前記アモルファス領域は、堆積により形成させたポリシリコン層であることを特徴とする半導体装置とする。
【発明の効果】
【0015】
以上の発明を用いることにより、半導体装置の実装時の特性値変動を従来よりも低減することが可能となり、より高精度の半導体装置を実現することが可能となる
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による製造方法の実施例を示す断面図である。
【図2】本発明による半導体装置および製造方法の実施例を示す断面図である。
【図3】本発明による半導体装置の実施例を示す断面図である。
【図4】本発明による半導体装置の実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図1〜2に基づいて説明する。
【0018】
半導体素子は、実装時の応力によるピエゾ抵抗効果によってキャリアの移動度が変化し、素子の抵抗値、若しくは電流値が変化することが知られている。MOSトランジスタにおいては、特に移動度の変化によるK値の変化が顕著に見られる。そうすると、カレントミラーなど対となったトランジスタ間のK値が一定であることを前提とした回路ではこの実装による応力での特性値変化が無視できないほど大きくなる。ここで例に示したカレントミラー回路を考えると、対を形成しているトランジスタ間でK値の変化量、ΔKが違った場合に回路としての特性値変動を生じることとなる。例えば、<110>方向の正孔移動度は応力の方向に対する角度が垂直の場合と平行の場合で、逆の変動を示すことが判っている。すなわち、Pチャネルトランジスタの角度依存により、ペアトランジスタの間のシフト量が顕著に違うという様な現象が実際に起きうる。これは、オリフラの結晶方位が<110>の場合での現象であるが、Nチャネルトランジスタの場合においてはオリフラの結晶方位が<100>の場合に、応力との角度依存性を持つことが知られており、この場合はNチャネルMOSトランジスタに対しても同様な対策が可能となる。
【0019】
そこで、チャネル領域に希ガス、例えばアルゴンをイオン注入して、結晶性を破壊することにより、上記のような結晶方位依存を無くすことが出来、結果としてペアトランジスタ間のシフト量がそろい、半導体装置の特性が安定することとなる。
【0020】
図1に従って、N型またはP型の半導体基板1に、NチャネルMOSトランジスタとPチャネルトランジスタを作りこむ場合の本実施例の製造方法を説明する。N型またはP型の半導体基板1上に、P型ウェル領域10とN型ウェル領域12にイオン注入で不純物を注入し、1100℃以上の熱処理によって不純物を拡散させることによりウェル領域を形成する。図では省略しているが、素子分離領域をこの段階で形成することが一般的である。次に、半導体基板1上にゲート酸化膜20を熱酸化によって形成する。次に、イオン注入で希ガス、例えばアルゴンをイオン注入し、単結晶シリコンの結晶性を崩してアモルファス領域102を形成する。アモルファス領域102の深さは、MOSトランジスタの動作時に形成されるチャネル領域101の深さよりも深く形成されていれば良い。また、イオン注入には希ガスに代えてシリコンを用いても構わない。
【0021】
図2は、本発明による半導体装置および製造方法の実施例を示す断面図である。図1の工程終了後、ゲート電極22をCVDとフォトリソグラフィなどを用いる事で形成し、次いで、イオン注入によってN型ソース・ドレイン領域30とN型LDD領域32、P型ソース・ドレイン領域40、P型LDD領域42を形成する。図では省略しているが、層間絶縁膜や配線を形成する事で半導体装置が形成される。
【0022】
以上のような構造とすることにより、結晶方位によらずペアトランジスタ間のK値が一定である半導体装置とすることができる。
【0023】
図4では、アモルファス領域102の深さをソース・ドレイン領域30,40の深さと略同程度としている。アモルファス領域102の深さはチャネル領域101の深さよりも深ければ良いが、ソース・ドレイン領域と同等の深さであってもペアトランジスタ間のK値が一定である半導体装置とすることができる。
【0024】
また、図2および図4では、チャネル領域101だけでなくソース・ドレイン領域30,40もアモルファス化されている構造を図示したが、図3に示すようにチャネル領域101だけを選択的にアモルファス化しても構わない。
【0025】
以上の説明では、アモルファス領域をイオン注入にて形成したが、イオン注入法に代えて、非単結晶膜を堆積するという方法を用いても良い。非単結晶膜としてはアモルファスシリコン膜が好適であり、CVD法やスパッタ法にて半導体基板上に堆積することで形成できる。また、非単結晶層としてポリシリコン膜を用いても構わない。
【0026】
以上のような構成とすることにより、ペアトランジスタ間のシフト量がそろい、半導体装置の特性が安定することになる。
【符号の説明】
【0027】
1 N型またはP型半導体基板
10 P型ウェル領域
12 N型ウェル領域
20 ゲート酸化膜
22 ゲート電極
30 N型ソース・ドレイン領域
32 N型LDD領域
40 P型ソース・ドレイン領域
42 P型LDD領域
101 チャネル領域
102 アモルファス領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶のシリコン基板と、
前記シリコン基板上に形成された対を構成する複数のMOSトランジスタと、を有し、
前記複数のMOSトランジスタの動作時に形成されるチャネル領域の深さよりも深いアモルファス領域を前記チャネル領域に有することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記アモルファス領域は、前記チャネル領域と略同じ位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記アモルファス領域は、アルゴンなどの希ガス元素のイオン注入により形成されたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の半導体装置。
【請求項4】
前記アモルファス領域は、シリコン原子のイオン注入にて形成したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の半導体装置。
【請求項5】
前記アモルファス領域は、堆積により形成させたアモルファスシリコン層であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の半導体装置。
【請求項6】
前記アモルファス領域は、堆積により形成したポリシリコン層であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−182953(P2010−182953A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26501(P2009−26501)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】