説明

受信部及び局側装置並びにクロック・データ再生回路における周波数校正方法

【課題】電圧制御型発振器を用いた受信部等において、温度補償用に容量素子を増やすことなく、温度変化による電圧制御型発振器の周波数特性を補償する。
【解決手段】本発明の受信部/局側装置は、受信信号からクロック信号及びデータ信号を再生するクロック・データ再生回路11を含むものであって、クロック・データ再生回路11に含まれる電圧制御型発振器17の発振周波数を校正する校正器16と、信号受信のスケジュールを管理する機能を有し、クロック信号及びデータ信号を再生すべき受信信号(上り信号)が無い状態の持続時間が校正器16による校正の所要時間を満たす時を選んで校正器16に対してリセット信号(校正指令信号)を出力する管理部104とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロック・データ再生回路を含む受信部及び、例えばPON(Passive Optical Network)システムにおいて当該受信部を含む局側装置に関し、特に、クロック・データ再生回路に設けられている電圧制御型発振器の発振周波数を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
PONシステムは、複数の端末装置(宅側装置)及び、これらと光ファイバを介して接続された局側装置によって構成される。局側装置には、端末装置が送信した上り信号からクロック信号及びデータ信号を再生するクロック・データ再生回路が搭載されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
クロック・データ再生回路には、制御電圧に応じた発振周波数を出力する電圧制御型発振器(VCO)が含まれている。この電圧制御型発振器は、素子特性のばらつきや、温度変化によって、出力特性が若干変化する。そこで、素子特性についての補償用可変容量を設けて、素子特性のばらつきを補償するように容量を調整し、また、温度に関しては別途、補償用可変容量を設け、温度検出器の情報に基づいて容量を変更することにより温度補償を行う発振器が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−172665号公報(図5)
【特許文献2】特開2004−320721号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような電圧制御型発振器において、温度補償を行うには、周波数を連続して監視することにより変動を検出し、それを補償するという過程が必要である。ところが、PONシステムのようなP2MP(Point to Multi-Point)の通信システムでは、受信信号が不連続であるため、クロック・データ再生回路の位相ロック動作における電圧制御型発振器の周波数変動が大きい。このような大きな変動に含まれる、温度変化による微小な周波数変化を検出することは、困難である。また、素子特性補償の可変容量とは別に温度補償の可変容量を設けると、容量素子の数が増大して配線等の浮遊容量が無視できない大きさをもつようになる、という問題点もある。
【0006】
かかる従来の問題点に鑑み、本発明は、電圧制御型発振器を用いた受信部や局側装置において、温度補償用に容量素子を増やすことなく、温度変化による電圧制御型発振器の周波数特性を補償することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、受信信号からクロック信号及びデータ信号を再生するクロック・データ再生回路を含む受信部であって、
前記クロック・データ再生回路に含まれる電圧制御型発振器の発振周波数を校正する校正器と、信号受信のスケジュールを管理する機能を有し、クロック信号及びデータ信号を再生すべき受信信号が無い状態の持続時間が前記校正器による校正の所要時間を満たす時を選んで前記校正器に対して校正指令信号を出力する管理部とを備えたものである。
【0008】
上記のように構成された受信部では、クロック信号及びデータ信号を再生すべき受信信号が無い状態の持続時間(言わば空き時間)が校正の所要時間以上である時に、管理部から校正器に校正指令信号が出力され、電圧制御型発振器の発振周波数が校正される。このような校正が随時行われることにより、温度変化による周波数変化を校正することができる。
【0009】
(2)一方、本発明は、光ファイバを介して一対多接続された複数の端末装置と共にPONシステムを構成し、当該端末装置から送信される上り信号を時分割多重方式で受信する局側装置であって、
電圧制御型発振器及びその発振周波数を校正する校正器を有し、前記上り信号からクロック信号及びデータ信号を再生するクロック・データ再生回路と、前記上り信号を受信するスケジュールを管理する機能を有し、クロック信号及びデータ信号を再生すべき上り信号が無い状態の持続時間が前記校正器による校正の所要時間を満たす時を選んで前記校正器に対して校正指令信号を出力する管理部とを備えたものである。
【0010】
上記のように構成された局側装置では、クロック信号及びデータ信号を再生すべき上り信号が無い状態の持続時間(言わば空き時間)が校正の所要時間以上である時に、管理部から校正器に校正指令信号が出力され、電圧制御型発振器の発振周波数が校正される。このような校正が随時行われることにより、温度変化による周波数変化を校正することができる。
【0011】
(3)上記(2)の局側装置において、管理部は、新規な端末装置を検索するためのディスカバリ期間内におけるディスカバリ完了後の無信号区間に、校正指令信号を出力するようにしてもよい。
この場合、定期的に割り当てられるディスカバリ期間の後半の無信号区間を有効に利用して校正を行うことができる。
【0012】
(4)また、上記(2)の局側装置において、管理部は、新規な端末装置を検索するためのディスカバリ期間として割り当て可能な期間が複数あるうちの一部を、校正指令信号を出力するために使用することを繰り返す、としてもよい。
この場合、ディスカバリ期間として割り当て可能な期間が複数あるうちの一部を利用して、校正を繰り返し確実に行うことができる。
【0013】
(5)また、本発明は、光ファイバを介して一対多接続された複数の端末装置と共にPONシステムを構成し、当該端末装置から送信される複数の伝送レートの上り信号を時分割多重方式で受信する局側装置であって、
前記上り信号を受信するスケジュールを管理する機能を有する管理部と、電圧制御型発振器及びその発振周波数を前記管理部から校正指令信号を受けて校正する校正器を有し、相異なる複数種類の伝送レートで前記上り信号のクロック信号及びデータ信号を再生する複数のクロック・データ再生回路と、を備え、前記管理部は、いずれか一つの前記クロック・データ再生回路が連続して上り信号を取り扱う状態の持続時間が、他のクロック・データ再生回路における電圧制御型発振器の発振周波数を校正する所要時間を満たす時、当該他のクロック・データ再生回路の校正器に校正指令信号を出力するようにしてもよい。
【0014】
上記のように構成された局側装置では、いずれか一つのクロック・データ再生回路が連続して上り信号を取り扱う状態の持続時間(言わば、他のクロック・データ再生回路にとっては空き時間)が、他のクロック・データ再生回路における電圧制御型発振器の発振周波数を校正する所要時間を満たす時、管理部から当該他のクロック・データ再生回路の校正器に校正指令信号が出力され、電圧制御型発振器の発振周波数が校正される。このような校正が随時行われることにより、温度変化による周波数変化を校正することができる。
【0015】
(6)一方、本発明は、受信信号からクロック信号及びデータ信号を再生する機能及び、電圧制御型発振器の発振周波数を校正器によって校正する機能を有するクロック・データ再生回路における周波数校正方法であって、
(a)予め、前記クロック・データ再生回路が信号を受信するスケジュールを管理し、(b)クロック信号及びデータ信号を再生すべき受信信号が無い状態の持続時間が前記校正器による校正の所要時間を満たす時を選び、(c)前記校正器により前記電圧制御型発振器の校正を行う、ことを特徴とするものである。
【0016】
上記のような周波数校正方法では、クロック信号及びデータ信号を再生すべき受信信号が無い状態の持続時間(言わば空き時間)が校正の所要時間以上である時に、電圧制御型発振器の発振周波数が校正される。このような校正が随時行われることにより、温度変化による周波数変化を校正することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の受信部/局側装置/周波数校正方法によれば、校正器によって電圧制御型発振器の発振周波数の校正が、随時行われることにより、温度変化による周波数変化を校正することができる。従って、温度補償用の容量素子を設けることなく、温度変化による電圧制御型発振器の周波数特性を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る局側装置を含むPONシステムの接続図である。
【図2】図1のPONシステムにおける局側装置について、その内部構成の概略を示すブロック図である。
【図3】図1のPONシステムにおける一の端末装置について、その内部構成の概略を示すブロック図である。
【図4】図1のPONシステムにおける他の端末装置について、その内部構成の概略を示すブロック図である。
【図5】局側装置と端末装置との間での動作を示すシーケンス図である。
【図6】端末装置に対する帯域割当てと、局側装置と端末装置との間での上り方向通信に関する送受信を示すシーケンス図である。
【図7】局側装置と未登録端末装置との間で行われるディスカバリプロセスを示す図である。
【図8】クロック・データ再生部の回路構成の一例を示すブロック図である。
【図9】クロック・データ再生回路の内部構成を示すブロック図である。
【図10】校正器の内部構成を示すブロック図である。
【図11】電圧制御型発振器の内部構成を示す回路図である。
【図12】電圧制御型発振器の入出力特性を示すグラフである。
【図13】端末装置から上り信号としてパケットを受信する合間に、ディスカバリ期間が設けられることを示す図である。
【図14】本来ならディスカバリ期間として割り当て可能な期間を、複数回に1回の割合で、ディスカバリに使用せず、この期間を校正に使用するときの図である。
【図15】伝送レートが単一レートの場合の、クロック・データ再生回路の内部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
《PONシステムの全体構成》
図1は、本発明の一実施形態に係る局側装置を含む、PONシステムの接続図である。図において、局側装置1は、「一対多」の関係で接続される複数の端末装置2〜4に対する集約局として設置される。端末装置2〜4はそれぞれ、PONシステムの加入者宅に設置される。当該システムでは、局側装置1に接続された1本の光ファイバ5(幹線)から光カプラ6を介して複数の光ファイバ(支線)7〜9に分岐した光ファイバ網(5〜9)が構成され、分岐した光ファイバ7〜9の終端にそれぞれ端末装置2〜4が接続されている。さらに、局側装置1は上位ネットワークN1と接続され、端末装置2,3,4はそれぞれのユーザネットワークN2,N3,N4と接続されている。
【0020】
なお、図1では3個の端末装置2〜4を示しているが、1つの光カプラ6から例えば32分岐して32個の端末装置を接続することが可能である。また、図1では光カプラ6を1個だけ使用しているが、光カプラを縦列に複数段設けることにより、さらに多くの端末装置を局側装置1と接続することができる。
【0021】
図1において、各端末装置2〜4から局側装置1への上り方向には波長λ1でデータが送信される。逆に、局側装置1から端末装置2〜4への下り方向には波長λ2でデータが送信される。これらの波長λ1及びλ2は、IEEE規格802.3ah−2004のClause60に基づいて、以下の範囲の値とすることができる。
1260nm≦λ1≦1360nm
1480nm≦λ2≦1500nm
【0022】
また、端末装置2,3,4における上り方向通信の伝送レートはそれぞれ、L[Gbps]、L[Gbps]、H[Gbps]である。ここで、L,Hの値は、L<Hの関係にあり、例えば、L=1,H=10である。すなわち、このシステムは、伝送レートが複数種類あるマルチレートのPONシステムである。一方、局側装置1における下り方向通信の伝送レートはD[Gbps]1種類であり、Dの値は例えば1である。
なお、本例では端末装置を3台として、2種類の伝送レートとしたが、端末装置の台数及び異なる伝送レートの数は種々のパターンがあり得る。
【0023】
《局側装置の構成》
図2は、局側装置1について、その内部構成の概略を示すブロック図である。局側装置1内の各部(101〜105,107〜115)は、図示のように接続されている。図において、上位ネットワークN1からのフレームは上位ネットワーク側受信部101により受信され、データ中継処理部103に送られる。データ中継処理部103は、PON側送信部105へフレームを渡し、これが、光送信部108で波長λ2、伝送レートD[Gbps]の光信号に変換され、合分波部110を介して、端末装置2〜4に送られる。
【0024】
一方、端末装置2〜4(図1)から上り方向に送信された光信号(波長λ1、伝送レートL,H[Gbps])は、合分波部110を通過して、光受信部109により受信される。光受信部109は、内部に、光電変換素子111及び増幅器112を備えている。光電変換素子111は、フォトダイオードやアバランシェフォトダイオード等の半導体受光素子であり、受光量に応じた電気信号を出力する。増幅器112は、電気信号を増幅して出力する。増幅器112の出力信号はPON側受信部107に入力される。
【0025】
PON側受信部107は、内部に、クロック・データ再生部113、物理層符号化/復号化部114及び、フレーム再生部115を備えている。クロック・データ再生部113は、増幅器112から受けた電気信号に同期してタイミング成分(クロック信号)とデータ信号とを再生する。物理層符号化/復号化部114は、再生されたデータに施されている符号を復号する。フレーム再生部115は、復号されたデータからフレームの境界を検出して例えば、イーサネット(登録商標)フレームを復元する。また、フレーム再生部115は、フレームのヘッダ部分を読みとることにより、受信したフレームがデータフレームであるか、又は、レポートフレーム等のメディアアクセス制御のための制御情報のフレームであるかを判定する。
【0026】
なお、制御情報の例として、IEEE規格802.3ah−2004のClause 64に記載のMPCP(Multi-point Control Protocol) PDU(Protocol Data Unit)を挙げることができる。局側装置1が端末装置2〜4に対して上り方向データの送出開始時刻および送出許可量を指示するため制御情報であるグラントや、端末装置2〜4が局側装置1に対して上り方向データの蓄積量に関する値を通知するための制御情報であるレポートは、このMPCP PDUの一種である。
【0027】
上記判定の結果、データフレームであれば、フレーム再生部115はこれをデータ中継処理部103に送る。データ中継処理部103は、データフレームのヘッダ情報の変更や上位ネットワーク側送信部102に対する送信制御等の所定の中継処理を行い、処理後のフレームは上位ネットワーク側送信部102から上位ネットワークN1へ送出される。また、上記判定の結果、フレームがレポートフレームであれば、フレーム再生部115はこれを管理部104に送る。管理部104はこのレポートに基づいて、制御情報としてのグラントフレームを生成し、これが、PON側送信部105及び光送信部108から合分波部110を介して、波長λ2、伝送レートD[Gbps]で、下り方向に送信される。
【0028】
上記管理部104は、端末装置2〜4が使用する伝送レートを記憶し、グラントに基づいて、次にバースト信号を受信する時期及びその伝送レートを特定する。すなわち管理部104は、信号受信のスケジュールを管理している。そして、特定された伝送レートは、光受信部109及びPON側受信部107に通知される。光受信部109及びPON側受信部107は、その時期に合わせて、受信機能を、特定された伝送レートに対応させることができる。
【0029】
具体的には、光受信部109における光電変換素子111の増倍率、増幅器112のゲイン、PON側受信部107における量子化判定閾値、クロック・データ再生部113におけるロック許容範囲、参照クロックの周波数等、バースト受信に関する回路パラメータを切り替えることにより、所定の伝送レートに対応させることができるように構成されている。例えば、端末装置2〜4が同一の線路条件で接続されており(必要な光のパワーバジェットが同じであり)、同じビット誤り率の伝送品質を満足させなければならないような場合において、端末装置2,3と比較して伝送レートが高い端末装置4から受信するとき、光受信部109のゲインを下げ、帯域を拡げる。
【0030】
また、例えば、端末装置2(3),4がそれぞれ1.25Gbps,10.3125Gbpsで上り方向にバースト通信する場合、クロック・データ再生部113に対して予め、次のバーストの伝送レートがそれぞれ1Gbps,10Gbpsであると通知されていれば、後は端数分を合わせるだけでよいので、短い時間で確実に、クロック・データ再生部113の同期を確立することができる。さらにまた、1.25Gbps及び10.3125Gbpsに対してそれぞれ8B/10B符号及び64B/66B符号で物理層符号化/復号化を行うことが前提となっている場合、次のバーストに対して使用すべき復号化回路を簡単かつ確実に選択することができる。
【0031】
《端末装置の構成》
図3は、端末装置2について、その内部構成の概略を示すブロック図であり、端末装置2内の各部(201〜209)は、図示のように接続されている。図3において、局側装置1(図1)から下り方向に送信されて来る光信号は、合分波部201を通過して、光受信部202により電気信号に変換され、さらに、この電気信号はPON側受信部204により受信される。
【0032】
PON側受信部204は、受信したフレームのヘッダ部分(プリアンブル部分を含む)を読みとることにより、当該フレームが自己宛(ここでは、自己又は自己の配下のユーザーネットワークN2内の装置宛を意味する。)であるか否かを判定する。判定の結果、自己宛であれば、当該フレームを取り込み、そうでなければ、当該フレームを廃棄する。例えば、上記の宛先判定を行うためのヘッダ情報の例として、IEEE規格802.3ah−2004に記載の論理リンク識別子(LLID)を挙げることができる。
【0033】
さらに、PON側受信部204は、フレームのヘッダ部分を読みとることにより、受信したフレームがデータフレームであるか、又は、グラントフレームであるかを判定する。判定の結果、データフレームであれば、PON側受信部204はこれをデータ中継処理部207に送る。データ中継処理部207は、ユーザネットワーク側送信部208に対する送信制御等の所定の中継処理を行い、処理後のフレームはユーザネットワーク側送信部208からユーザネットワークN2へ送出される。
【0034】
また、上記判定の結果、フレームがグラントフレームであれば、PON側受信部204はこれを制御信号処理部206に転送する。制御信号処理部206は、グラントフレームに基づいて上り方向の送出をデータ中継処理部207に指示する。
【0035】
一方、ユーザネットワークN2からのフレームはユーザネットワーク側受信部209により受信され、データ中継処理部207に転送される。転送されたフレームはデータ中継処理部207内のバッファメモリに一旦蓄積され、また、そのデータ量が制御信号処理部206に通知される。制御信号処理部206は、PON側送信部205に対して送信制御を行い、所定のタイミングで、バッファメモリに蓄積されているフレームをPON側送信部205に出力させるとともに、通知されたバッファメモリ内のデータ蓄積量に基づいてレポートフレームを作成してPON側送信部205に出力させる。PON側送信部205の出力は光送信部203で光信号に変換され、波長λ1、伝送レートL[Gbps]の信号として、合分波部201を介して上り方向に送信される。
なお、端末装置3についても、その構成は図3と同様である。
【0036】
図4は、端末装置4(伝送レートH[Gbps])について、その内部構成の概略を示すブロック図であり、端末装置4内の各部(401〜411)は、図示のように接続されている。このうち401〜409は、図3における201〜209に相当する回路要素であり、同様の機能を有する。図3との違いは、制御信号処理部406と光送信部403との間に登録要求送信部411を設けた点と、PON側送信部405と登録要求送信部411とを、送信部切替判定部410によって切り替えることができるようにした点、及び、この送信部切替判定部410は制御信号処理部406の指令を受けて送信部切替を行うようにした点である。通常、送信部としては、PON側送信部405が動作するようになっている。なお、PON側送信部405が動作する場合の端末装置14は、実質的に端末装置2と同様である。
【0037】
《PONシステムの基本動作シーケンス》
次に、上記のように構成されたPONシステムにおける動作手順について、図5のシーケンス図を参照して説明する。なお、このシーケンス図は、局側装置1と端末装置2との間での動作についてのものであるが、他の端末装置3,4についても同様である。
【0038】
図5において、局側装置1は、運用時間開始時刻T0の時点で端末装置2に関するRTT(Round Trip Time)を既に計算している。時刻Ta1において、局側装置1は送出要求量を通知させるために、端末装置2に対してレポート送出開始時刻Tb2を含んだグラント(グラントフレーム)G1を送信する。このレポート送出開始時刻Tb2は、他の端末装置3,4から送信されるレポートと衝突しないように計算される。
【0039】
端末装置2は、自身に対するグラントG1を受信すると、データ中継処理部207のバッファメモリに蓄積されたデータ量を参照して送出要求量を算出し、グラントG1に含まれるレポート送出開始時刻Tb2に、局側装置1に対して送出要求量を含んだレポート(レポートフレーム)R1を送出する。
【0040】
局側装置1はレポートR1を受信すると、固定または可変の最大送出許可量以下となり、かつ、レポートR1に含まれるバッファメモリ内データ量のデータをなるべく多く送れるような値を演算し、演算結果を送出許可量としてグラントG2に挿入する。レポートR1に含まれる送出要求量がゼロの場合には、局側装置1による演算結果がゼロとなるため帯域が割当てられないが、端末装置2にレポートR2を送出させる必要があるので、局側装置1は端末装置2に対して必ずグラントG2を送出する。
【0041】
グラントG2に含まれる送出開始時刻Tb4は、演算済みである前回の端末装置データの受信予定時刻、前回の端末装置2の送出許可量、現在の端末装置2に関するRTT及び固定時間であるガードタイムを用い、データ及びレポートが他の端末装置3,4からのデータまたはレポートと衝突しないように計算される。なお、局側装置1は、送出許可量及び送出開始時刻Tb4を含むグラントG2を送出する時刻Ta3を、送出開始時刻Tb4までにグラントG2が端末装置2に到着するように計算する。
【0042】
端末装置2は、自身に対するグラントG2を受信すると、グラントG2に含まれる送出開始時刻Tb4に、送出許可量分のデータDを、次回の送出要求量を含んだレポートR2とともに局側装置1に送出する。このレポートR2はデータDの直前または直後に送出されるが、データDの直前に送出される場合には、送出要求量として局側装置1に報告する値は、バッファメモリに蓄積されているデータ量とデータDのデータ量との差分である。
【0043】
局側装置1は、データD及びレポートR2を受信すると、データDを上位ネットワークN1に送出し、レポートR2についてはレポートR1に対する処理と同様の処理を行なう。以上説明したシーケンス処理は、全ての端末装置2〜4に対して独立に行なわれ、運用時間が終了するまで時刻Ta3〜時刻Ta4の処理が繰返される。
【0044】
図6は、端末装置2〜4に対する帯域割当てと、局側装置1と端末装置2〜4との間での上り方向通信に関する送受信を示すシーケンス図であり、分散割当方式の一例を示している。図の左側から右側へ時間が進行するとして、局側装置1を主体として見たシステムの動作について説明する。
【0045】
まず、局側装置1は、端末装置4,3,2に対してそれぞれ、グラントG41,G31,G21を順次送出する。そして局側装置1は、端末装置4,3,2からレポートR41,R31,R21を受信すると、最初にデータの送出を許可する端末装置4に対するグラントG42を送出する。
【0046】
局側装置1は、端末装置4から送出されるデータD41及び次のレポートR42を受信するとともに、これと並行して端末装置3に対するグラントG32を送出する。局側装置1は、端末装置3から送出されるデータD31及び次のレポートR32を受信するとともに、これと並行して端末装置2に対するグラントG22を送出する。また、続いて、端末装置4に対するグラントG43も送出する。
【0047】
局側装置1は、端末装置2から送出されるデータD21及び次のレポートR22を受信する。また、局側装置1は、端末装置4から送出されるデータD42及び次のレポートR43を受信するとともに、これと並行して端末装置3に対するグラントG33を送出する。さらに、局側装置1は、端末装置3から送出されるデータD32及び次のレポートR33を受信するとともに、これと並行して端末装置2に対するグラントG23を送出する。ここで、端末装置2から送出されるデータがなければ、局側装置1は、次のレポートR23のみを受信する。これ以降、同様の処理が繰返され、局側装置1は、順次端末装置2〜4に対して帯域を割当てて、データの受信を繰返す。
【0048】
図6に示すシーケンスによれば、ユーザネットワークN2,N3,N4(図1)から送出されたデータが、対応する端末装置2〜4に到着し、そこから送出されるまでの待ち時間は、端末装置2〜4がレポートを送出してから、そのレポートに対応したデータを送出するまでの時間に依存する。すなわち、全ての端末装置2〜4からの送出データ量によって変化する。
【0049】
例えば、端末装置2〜4からのレポートによる送出要求量を全て許可すると、レポートの送出からデータの送出までの待ち時間が大幅に増加し、リアルタイム処理が要求されるサービスに影響を及ぼすだけでなく、TCP(Transmission Control Protocol)スループットにも大きく影響を及ぼすことになる。従って、端末装置内のバッファにおける待ち時間を、許容される時間内に抑えられるように、局側装置1は端末装置2〜4からの送出データ量を制御する必要がある。
【0050】
上記シーケンス(図6)において、例えば端末装置4にグラントG42が送出されたとき、図2の管理部104は、このグラントG42に基づいて、レポートR42を受信する前のバースト間ギャップの期間に、次に受信するバースト(レポートR42+データD41)の伝送レートH(10Gbps)を、光受信部109及びPON側受信部107に通知する。通知を受けた光受信部109及びPON側受信部107は、受信機能を10Gbpsに対応させ、当該バーストを待つ。従って、当該バースト到来時に、伝送レートHに対応した受信態勢が整っており、極めて迅速に同期を確立することができる。
【0051】
同様に、端末装置3にグラントG32が送出されたとき、管理部104は、データD41とレポートR32との間のバースト間ギャップの期間に、次に受信するバースト(レポートR32+データD31)の伝送レートL(1Gbps)を、光受信部109及びPON側受信部107に通知する。通知を受けた光受信部109及びPON側受信部107は、受信機能を1Gbpsに対応させ、当該バーストを待つ。従って、当該バースト到来時に、伝送レートLに対応した受信態勢が整っており、極めて迅速に同期を確立することができる。以下同様にして、迅速な同期確立が可能となるので、上り方向通信の効率を高めることができる。
【0052】
以上のようにして、局側装置1は、端末装置2〜4に与えるグラントに基づいて、次に上り方向の信号を受信する時期及びその伝送レートの情報を、実際の受信前に得ることができる。また、その伝送レートに受信機能を対応させた状態で信号を受信すれば、迅速に同期を確立することができる。従って、簡単かつ迅速に、上り方向通信の伝送レートに同期を確立して、上り方向通信の効率を高めることができる。
【0053】
《ディスカバリプロセス》
なお、以上の説明において、端末装置2〜4はPONシステムに既に加入しているものとしたが、実際には、局側装置1に認識されていない電源オフの状態から、電源オンにより局側装置1に認識され、PONシステムに加入する手順が存在する。この手順はディスカバリプロセスと呼ばれるものであり、IEEE規格802.3ah−2004のClause 64に規定されている。以下、このディスカバリプロセスに関して説明する。
【0054】
そもそも、局側装置1に認識される前の端末装置は、グラントを与えられる機会が無い。一方、全ての端末装置は、局側装置1から明示的にグラントが与えられない限り、上り方向通信を行うことができない。そこで、局側装置1は、電源オフ(未接続も含む。)から電源オンになり、PONシステムに加入しようとする端末装置(以下、未登録端末装置という。)を検出するためのディスカバリプロセスを周期的に実行し、未登録端末装置に応答の機会を与える。
【0055】
図7は、局側装置と未登録端末装置との間で行われるディスカバリプロセスを示す図である。図において、局側装置は時刻T1においてディスカバリプロセスを開始し、下り方向にディスカバリゲートメッセージをブロードキャストする。このディスカバリゲートメッセージには、これに対する応答が許されるディスカバリ期間の開始時刻と期間の長さの情報が含まれている。このディスカバリ期間は、ディスカバリウインドウと呼ばれ、例えば時刻T2からT4までの時間ΔTdとなる。
【0056】
ディスカバリゲートメッセージを受け取った未登録端末装置は、時刻T2(局側装置と同期している。)からランダム長の時間をもつランダム待ち時間ΔTwだけ待ち、時刻T3に、登録要求メッセージを局側装置に送信する。このランダム待ち時間ΔTwは、登録要求メッセージがディスカバリウインドウに収まる範囲内で、ランダムな値となる。従って、仮に、PONシステムに加入しようとする未登録端末装置が複数あった場合でも、複数の未登録端末装置からの登録要求メッセージが相互に衝突する確率を低下させることができる。
【0057】
登録要求メッセージには、その未登録端末装置の個体識別番号としてのMACアドレスが含まれている。登録要求メッセージの受信に成功した局側装置は、PONシステム上の論理的なリンク番号(LLID)を当該未登録端末装置に割り当て、MACアドレスとLLIDとを相互に関連付けて、PONシステムに登録する。次に、局側装置は、新たに登録した端末装置に対して、時刻T5において、登録メッセージを送信する。登録メッセージには、当該端末装置のLLIDと、局側装置が上り方向のバースト通信を受信する際に必要な同期時間の情報とが含まれている。
【0058】
その後、時刻T6において局側装置は、当該端末装置に対して上り方向通信を許可するグラント(グラントゲートメッセージ)を送信する。グラントを受信した未登録端末装置は、そのグラントを用いて時刻T7に登録アクノレッジを局側装置に送信し、これを局側装置が受信してディスカバリプロセスが終了となる。その後は、通常のPONシステムの通信が開始される。
【0059】
図1に示すPONシステムの構成において、例えば全ての端末装置2〜4について上記ディスカバリプロセスが行われるとすると、局側装置1は、端末装置2〜4からそれぞれ登録要求メッセージを受け取らなければならない。端末装置2〜4がPONシステムに加入した後の通常のPON通信では、前述のように、グラントに基づいて局側装置1の受信態勢を整える(受信機能を伝送レートに対応させる)ことができるが、未登録の段階ではこれができない。そこで、局側装置1は、例えば以下のようにして、未登録端末装置からの上り方向通信(登録要求メッセージ)を受信する。
【0060】
すなわち、通常のPON通信における伝送レートが互いに異なる端末装置2〜4であっても、登録要求メッセージに関しては1種類の伝送レート(典型的にはL)を使用するようにすれば、受信する前から伝送レートが判明している。
具体的には、伝送レートLの端末装置2は、通常のPON通信と同様に伝送レートLで登録要求メッセージを送信する。一方、図4に示す伝送レートHの端末装置4は、ディスカバリゲートメッセージを受け取ると、これを、制御信号処理部406から送信部切替判定部410に送る。これにより、送信部切替判定部410は、送信機能をPON側送信部405から登録要求送信部411に切り替える。そして、制御信号処理部406は、登録要求送信部411から伝送レートLで、登録要求メッセージを送信させる。
【0061】
従って、通常のPON通信では伝送レートHの端末装置4が、登録要求メッセージに関しては、伝送レートLで送信を行うことになる。なお、登録要求メッセージの送信後、送信部切替判定部410は、送信機能を登録要求送信部411からPON側送信部405に戻す。
【0062】
この結果、未登録の端末装置2〜4から局側装置1に対してディスカバリウインドウの期間内に届く登録要求メッセージ(2又は3台同時に電源オンであれば同期間内にランダムに前後して届く。)は、全て伝送レートLで送られてくる。一方、局側装置1の管理部104は、ディスカバリゲートメッセージに対して、次に受信するバースト(登録要求メッセージ)の伝送レートLを、光受信部109及びPON側受信部107に通知する。通知を受けた光受信部109及びPON側受信部107は、受信機能を伝送レートLに対応させ、登録要求メッセージを待つ。
【0063】
従って、局側装置1では、登録要求メッセージ到来時に、その伝送レートLに対応した受信態勢が整っており、未登録の端末装置2〜4からの登録要求メッセージを迅速かつ確実に受信することができる。
なお、登録アクノレッジに関しては、通常のPON通信の場合と同様に、その前に端末装置2〜4に対して与えられるグラントに基づいて、局側装置1の受信機能を伝送レートに対応させることができる。
【0064】
《局側装置におけるクロック・データ再生部の構成》
次に、図2の局側装置1における、クロック・データ再生部113の構成と、管理部104との関係について、さらに詳細に説明する。
【0065】
図8は、クロック・データ再生部113の回路構成の一例を示すブロック図である(なお、この図は、便宜上、図2と対比すると信号の流れに関して左右が反転している。)。図において、この再生部113は、複数種類の上り方向の伝送レートに対応して、その各伝送レートの上り信号からそれぞれクロック信号及びデータ信号の再生を行う複数のクロック・データ再生回路11L,11Hを備えている。すなわち、本例では、低速の伝送レートL[Gbps]用のクロック・データ再生回路11Lと、高速の伝送レートH[Gbps]用のクロック・データ再生回路11Hとが設けられている。また、クロック・データ再生回路11L,11Hにそれぞれ、アンド回路20L,20Hが接続されている。
【0066】
アンド回路20L,20Hには、管理部104からレート選択信号(選択すべき伝送レートを示す信号)S1と、増幅器112からデータ検出信号(データ信号を検出したことを示す信号)S2とが入力される。従って、アンド回路20Lでは、管理部104から低速の伝送レートLを選択する指示を受け、かつ、データ信号が検出されたとき、出力の論理が成立する。アンド回路20Hでは、管理部104から高速の伝送レートHを選択する指示を受け、かつ、データ信号が検出されたとき、出力の論理が成立する。
【0067】
クロック・データ再生回路11L及び11Hには、それぞれ、管理部104からのリセット信号(校正指令信号)と、水晶発振器(図示せず。)からの参照クロック信号と、増幅器112からの上り信号とが入力される。クロック・データ再生回路11Lは、上り信号から再生したクロック信号(低速)及び低速のデータ信号を出力する。また、クロック・データ再生回路11Hは、上り信号から再生したクロック信号(高速)及び高速のデータ信号を出力する。
なお、管理部104は、クロック・データ再生回路11L,11Hとともに、後述の校正器も含めて、本発明の一実施形態に係る「受信部」を構成するものである。
【0068】
《クロック・データ再生回路の構成》
図9は、クロック・データ再生回路11(11L,11Hの総称符号)の内部構成を示すブロック図である。クロック・データ再生回路11は、位相同期方式によってクロック信号及びデータ信号を再生するものであり、前段側(図9の左側)から後段側(図9の右側)に向かって、位相比較器12、周波数比較器13、切り替え器14、チャージポンプ及びループフィルタ(以下、単にループフィルタという。)15、校正器16、電圧制御型発振器(VCO又はVCXO)17、分周器18、及び、デシリアライザ19を備えている。
【0069】
切り替え器14は、アンド回路20(20L,20Hの総称符号)の出力に応じて、位相比較器12及び周波数比較器13の2入力を択一的に通過させる機能を有する。すなわち、アンド回路20の出力があるときは位相比較器12からループフィルタ15へ信号を通過させ、アンド回路20の出力がないときは周波数比較器13からループフィルタ15へ信号を通過させる。
【0070】
増幅器112(図8)からの上り信号は、クロック・データ再生回路11の位相比較器12に入力される。アンド回路20の出力があるときは、位相比較器12から、切り替え器14、ループフィルタ15、及び、電圧制御型発振器17を経て、位相比較器12に戻る位相ロックループが構成される。このループにより、電圧制御型発振器17は、出力の位相を、上り信号に同期させる。
【0071】
一方、周波数比較器13には、参照クロック信号が入力される。アンド回路20の出力がないときは、周波数比較器13から、切り替え器14、ループフィルタ15、電圧制御型発振器17、及び、分周器18を経て、周波数比較器13に戻る周波数ロックループが構成される。このループにより、電圧制御型発振器17は、自己の発振周波数を参照クロックに同期させる。
【0072】
すなわち、低速用のクロック・データ再生回路11Lでは、レート選択信号S1が低速に設定され、データ検出信号S2が立ち上がった時に位相ロックループとなり、それ以外の時には、周波数ロックループとなる。他方、高速用のクロック・データ再生回路11Hでは、レート選択信号S1が高速に設定され、データ検出信号S2が立ち上がった時に位相ロックループとなり、それ以外の時には、周波数ロックループとなっている。
【0073】
このため、増幅器112(図8)から入力される上り信号の伝送レートが低速Lの場合には、低速用のクロック・データ再生回路11Lの位相ロックループが作動し、低速の伝送レートLでのクロック信号及びデータ信号の再生が行われる。この際、高速用のクロック・データ再生回路11Hは周波数ロックループになっていて、自己の発振周波数を参照クロックに同期させている。他方、増幅器112から入力される上り信号の伝送レートが高速Hの場合には、高速用のクロック・データ再生回路11Hの位相ロックループが作動し、高速の伝送レートHでのクロック信号及びデータ信号の再生が行われる。この際、低速用のクロック・データ再生回路11Lは周波数ロックループになっていて、自己の発振周波数を参照クロックに同期させている。
【0074】
このようにして、クロック・データ再生部113(図8)では、管理部104が生成したレート選択信号S1に基づいてアンド回路20L,20Hがクロック・データ再生回路11L,11Hを作動させるので、伝送レートの切り替えを迅速に行うことができる。そして、このレート選択信号S1は、管理部104が、グラントを利用して生成する信号であるから、局側装置1が受信する上り信号の伝送レートを判定する回路を別途設ける必要がなく、回路構成が容易になる。
【0075】
図9に戻り、デシリアライザ19は、各クロック・データ再生回路11L,11Hにおいて再生したデータをパラレル信号化して出力するものであり、このデシリアライザ19には、位相比較器12が出力するデータ信号(シリアル)と、電圧制御型発振器17の出力するフルレートクロック信号と、このクロック信号を分周器57で分周した分周クロック信号がそれぞれ入力される。なお、デシリアライザは既知の回路であり、ここでは詳細な説明は省略する。
【0076】
このように、再生したデータをパラレル信号化して出力するデシリアライザ19を内蔵することによって、クロック・データ再生部113(図8)の後段の回路ブロック(図2参照。)に対して、高速なシリアル信号ではなく低速のパラレル信号が送信される。このため、後段の回路ブロックにおいて再度クロック・データ再生を行う必要がなくなり、後段の回路ブロックの負担を軽減させることができる。
【0077】
《電圧制御型発振器及びその校正器》
次に、電圧制御型発振器17及びその発振周波数を校正する校正器16について説明する。電圧制御型発振器17の出力するフルレートクロック信号は、分周器18によって分周され、分周クロック信号となる。校正器16は、この分周クロック信号と参照クロック信号とに基づいて、電圧制御型発振器17に対する周波数校正信号を出力することができる。
【0078】
図10は、校正器16の内部構成を示すブロック図である。図において、校正器16は、分周器161、同期器162、カウンタ163,164、同期器165、及び、比較器166を図示のように接続して構成されている。分周器161は、入力された分周クロック信号をさらに分周したクロック信号を得る。カウンタ163,164は、分周器161の出力するクロック信号又は、参照クロック信号の立ち上がりエッジをカウントする。このカウント値は、比較器166からのリセット信号でリセットされる。
【0079】
同期器162は、参照クロック信号と、校正器16に入力される分周クロック信号とを互いに同期させる。同期器162は、管理部104(図8)からのリセット信号によりリセットされる。同期器165は、参照クロック信号のカウント結果を分周器161の出力するクロック信号に同期させる。比較器166は、参照クロック信号と分周器161の出力するクロック信号とを比較し、電圧制御型発振器17に与える周波数校正信号を決定する。
【0080】
図11は、電圧制御型発振器17の内部構成を示す回路図である。電圧制御型発振器17は、負性抵抗172、インダクタ173及び可変容量174によって構成される共振回路171と、共振回路171の素子特性補償用の容量素子群175と、この容量素子群175と直列に接続されたスイッチ176とを備えている。容量素子群175は、複数本の定容量キャパシタを容量素子とするもので、これらを、スイッチ176の各種オン・オフパターンによって可変容量とする。従って、校正器16からの周波数校正信号は、どの容量素子をGNDと接続するかを指示する1/0複数桁の信号となる。
校正器16は、通常、クロック・データ再生回路11に電源が投入されたとき、電圧制御型発振器17の校正を行う。これにより、共振回路171の素子特性のばらつきを補償することができる。
【0081】
図12は、電圧制御型発振器17の入出力特性(周波数特性)を示すグラフであり、横軸が入力の制御電圧Vcを表し、縦軸が出力の周波数を表している。一般に、制御電圧Vcには範囲があるので、その範囲の中心の電圧Vc_midのとき、所望の周波数Fdが得られることが好ましい。しかし、素子特性のばらつきによって、所望の周波数Fdが得られる電圧が、制御電圧の範囲の端になってしまうと、制御電圧の範囲を広くとることができない。そこで、容量素子群175のオン・オフパターンを変更することにより全体としての容量を変化させ、図示のように、特性を縦軸方向にシフトさせることができる。従って、所望の周波数Fdと、範囲の中心の電圧Vc_midとが最も良く対応する実線の特性になるように容量素子群175のオン・オフパターンを設定することで、素子特性のばらつきを補償することができる。
【0082】
《随時行う校正の動作》
一方、本実施形態における校正器16は、管理部104からの指令によるリセット信号によって随時、電圧制御型発振器17の校正を行う。管理部104は、上り信号を受信するスケジュールを管理する機能を有している。また、ディスカバリを行うディスカバリ期間を、どのタイミングで入れるかを把握している。従って、管理部104は、クロック信号及びデータ信号を再生すべき受信信号(上り信号)が無い状態を、察知することができる。そこで、このような状態の持続時間が校正器16による校正の所要時間を満たす(以上である)時を選んで、校正器16に対して校正指令信号(リセット信号)を出力する。このような「時」としては、例えば以下のものがある。
【0083】
(その1)
前述のように局側装置1による新規な端末装置のディスカバリは定期的に行われている。図13は、端末装置2〜4から上り信号としてパケットを受信する合間に、ディスカバリ期間が設けられることを示す図であり、横軸は時間を意味する。図において、パケット間の隙間は高々1μsec程度しかないが、ディスカバリ期間は数百msec〜1秒の時間がある。また、ディスカバリ期間には通常、その後半に、ディスカバリ完了後の無信号区間があり、この長さが、校正の所要時間以上である可能性がある。そこで、管理部104は、ディスカバリ期間においてディスカバリ完了により無信号区間となった時、残りの無信号区間が校正の所要時間以上である場合、無信号区間に入ると同時に校正器16に対してリセット信号を出力する。これにより、校正器16は、電圧制御型発振器17の校正を行う。
【0084】
なお、無信号区間であるので、ループフィルタ15からの制御電圧は、電源投入時と同様の初期値である。このとき、温度変化によって周波数が変化していれば、スイッチ176のオン・オフパターンが変更され、所望の周波数となる。こうして、電圧制御型発振器17のリセットにより温度補償を行うことができる。また、このような校正は、定期的に割り当てられるディスカバリ期間の後半の無信号区間を有効に利用して行うことができるので便利である。
【0085】
なお、上記の説明では、無信号区間に入ると同時に校正器16に対してリセット信号を出力する、としたが、これは必ずしも同時でなくてもよい。すなわち、無信号区間が、校正の所要時間に比べて十分に長い場合は、無信号区間に入った後でリセット信号を出力することも可能である。要するに、リセット信号を出力する時点で、無信号区間の残り時間が、校正の所要時間を満たしていればよい。
【0086】
(その2)
一方、上記のようなディスカバリ期間の無信号区間ではなく、ディスカバリ期間として定期的に割り当て可能な期間を、複数回に1回の割合で、校正のために使用するようにしてもよい。すなわち、図14に示すように、本来ならディスカバリ期間として割り当て可能な期間を、複数回に1回の割合で、ディスカバリに使用せず、校正用の期間とする。そして、この期間内に、管理部104から校正器16にリセット信号を出力する。この場合、ディスカバリを複数回に1回休む形で、校正を定期的に確実に行うことができる。
なお、上記の「複数回に1回の割合」とは一例に過ぎず、校正は、必ずしも一定頻度で行われなくてもよい。すなわち、校正を行う頻度(周期)は、変動してもよい。要するに、ディスカバリ期間として割り当て可能な期間が複数あるうちの一部を、校正指令信号を出力するために使用すること、を繰り返せばよいのである。これにより、ディスカバリ期間として割り当て可能な期間が複数あるうちの一部を利用して、校正を繰り返し確実に行うことができる。
【0087】
(その3)
また、マルチレートのPONシステムでは、図8に示すように、伝送レートに対応して複数のクロック・データ再生回路が設けられるので、いずれか1つのクロック・データ再生回路が上り信号からクロック信号及びデータ信号を再生しているときは、他のクロック・データ再生回路はクロック信号及びデータ信号を再生すべき受信信号が無い状態とも言える。従って、例えば、伝送レートL,Hのうち、いずれか一方の伝送レートのパケットが続くとき、他方の伝送レートのクロック・データ再生回路は、クロック信号及びデータ信号を再生すべき受信信号が無い状態の持続時間が校正の所要時間以上となる場合がある。従って、このような場合にも、他方のクロック・データ再生回路における電圧制御型発振器の校正を行うことができる。
【0088】
以上、詳説したように、クロック・データ再生回路11を含み、電圧制御型発振器17の校正器16及び、管理部104を備えた受信部あるいは局側装置1では、クロック信号及びデータ信号を再生すべき受信信号(上り信号)が無い状態の持続時間(言わば空き時間)が校正の所要時間以上である時に、管理部104から校正器16に校正指令信号が出力され、電圧制御型発振器17の発振周波数が校正される。このような校正が随時行われることにより、温度変化による周波数変化を校正することができる。従って、温度補償用の容量素子を追加的に設けることなく、温度変化による電圧制御型発振器17の周波数特性を補償することができる。
【0089】
《その他》
なお、上記実施形態では、より複雑なマルチレートPONシステム(図1)について説明したが、校正による温度補償は、単一(共通)レートでのクロック・データ再生回路にも適用可能であることは言うまでもない。単一レートの場合には、図8のように複数のクロック・データ再生回路11L,11Hを設ける必要はなく、1つのクロック・データ再生回路があればよい。但し、この場合には、他のクロック・データ再生回路が連続的に処理を行っている間に校正を行う、ということはできないので、ディスカバリ期間等を利用することになる。
図15は、マルチレート対応の図9に対して、単一レートの場合のクロック・データ再生回路を示すブロック図である。図示のように、この場合、切り替え器は不要である。
【0090】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0091】
1 局側装置
2〜4 端末装置
5,7〜9 光ファイバ
11(11L,11H) クロック・データ再生回路
16 校正器
17 電圧制御型発振器
104 管理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号からクロック信号及びデータ信号を再生するクロック・データ再生回路を含む受信部であって、
前記クロック・データ再生回路に含まれる電圧制御型発振器の発振周波数を校正する校正器と、
信号受信のスケジュールを管理する機能を有し、クロック信号及びデータ信号を再生すべき受信信号が無い状態の持続時間が前記校正器による校正の所要時間を満たす時を選んで前記校正器に対して校正指令信号を出力する管理部と
を備えていることを特徴とする受信部。
【請求項2】
光ファイバを介して一対多接続された複数の端末装置と共にPONシステムを構成し、当該端末装置から送信される上り信号を時分割多重方式で受信する局側装置であって、
電圧制御型発振器及びその発振周波数を校正する校正器を有し、前記上り信号からクロック信号及びデータ信号を再生するクロック・データ再生回路と、
前記上り信号を受信するスケジュールを管理する機能を有し、クロック信号及びデータ信号を再生すべき上り信号が無い状態の持続時間が前記校正器による校正の所要時間を満たす時を選んで前記校正器に対して校正指令信号を出力する管理部と
を備えていることを特徴とする局側装置。
【請求項3】
前記管理部は、新規な端末装置を検索するためのディスカバリ期間内におけるディスカバリ完了後の無信号区間に、前記校正指令信号を出力する請求項2記載の局側装置。
【請求項4】
前記管理部は、新規な端末装置を検索するためのディスカバリ期間として割り当て可能な期間が複数あるうちの一部を、前記校正指令信号を出力するために使用することを繰り返す請求項2記載の局側装置。
【請求項5】
光ファイバを介して一対多接続された複数の端末装置と共にPONシステムを構成し、当該端末装置から送信される複数の伝送レートの上り信号を時分割多重方式で受信する局側装置であって、
前記上り信号を受信するスケジュールを管理する機能を有する管理部と、
電圧制御型発振器及びその発振周波数を前記管理部から校正指令信号を受けて校正する校正器を有し、相異なる複数種類の伝送レートで前記上り信号のクロック信号及びデータ信号を再生する複数のクロック・データ再生回路と、を備え、
前記管理部は、いずれか一つの前記クロック・データ再生回路が連続して上り信号を取り扱う状態の持続時間が、他のクロック・データ再生回路における電圧制御型発振器の発振周波数を校正する所要時間を満たす時、当該他のクロック・データ再生回路の校正器に校正指令信号を出力することを特徴とする局側装置。
【請求項6】
受信信号からクロック信号及びデータ信号を再生する機能及び、電圧制御型発振器の発振周波数を校正器によって校正する機能を有するクロック・データ再生回路における周波数校正方法であって、
予め、前記クロック・データ再生回路が信号を受信するスケジュールを管理し、
クロック信号及びデータ信号を再生すべき受信信号が無い状態の持続時間が前記校正器による校正の所要時間を満たす時を選び、
前記校正器により前記電圧制御型発振器の校正を行う
ことを特徴とするクロック・データ再生回路における周波数校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−35544(P2011−35544A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178027(P2009−178027)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】