可変動弁装置のコントローラ及び内燃機関の可変動弁装置
【課題】機関の始動性と排気エミッション性能の両方を満足させる可変動弁装置のコントローラを提供する。
【解決手段】ステップ1で、デフォルトタイミングEO1、EC1に予め保持し、ステップ3で燃焼自力始動であると判断した場合は、初回クランク回転を燃焼そのものにより行ってクランク回転を迅速に立ち上げる。ステップ4では、第1燃焼気筒を検出すると共に、クランク総回転角θを検出し、ステップ5で、クランク総回転角θが90°付近の所定範囲θ1内にあると判断したならば、ステップ6で、EC1/EO1(作動角D1)に制御する信号を出力すると共に、#2気筒への筒内燃料噴射と点火を行う。この#2気筒で、排気弁開時期遅角制御によるクランクシャフトの回転上昇を得ることができ、バルブオーバーラップO/Lが小さいことによる触媒の初期温度上昇促進効果が得られる。
【解決手段】ステップ1で、デフォルトタイミングEO1、EC1に予め保持し、ステップ3で燃焼自力始動であると判断した場合は、初回クランク回転を燃焼そのものにより行ってクランク回転を迅速に立ち上げる。ステップ4では、第1燃焼気筒を検出すると共に、クランク総回転角θを検出し、ステップ5で、クランク総回転角θが90°付近の所定範囲θ1内にあると判断したならば、ステップ6で、EC1/EO1(作動角D1)に制御する信号を出力すると共に、#2気筒への筒内燃料噴射と点火を行う。この#2気筒で、排気弁開時期遅角制御によるクランクシャフトの回転上昇を得ることができ、バルブオーバーラップO/Lが小さいことによる触媒の初期温度上昇促進効果が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の始動性の向上などを図り得る可変動弁装置のコントローラ及び内燃機関の可変動弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の内燃機関の可変動弁装置としては、以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
概略を説明すれば、この可変動弁装置は、多気筒内燃機関において、自動始動時の初爆気筒において、最初の燃焼後に訪れる最初の排気弁の開時期を遅角させるようになっている。この結果、膨張行程における初爆の燃焼圧を動力として効率良くクランクシャフトに取り出して、機関を迅速に始動させることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−337110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の可変動弁装置にあっては、初爆気筒の排気弁開弁後における後続気筒では、排気弁の開時期が通常の進角側に制御されるので、バルブオーバーラップ期間が縮小、あるいは零になってしまう。このため、排気エミッション性能の悪化を伴っていた。
【0006】
本発明は、前記従来の可変動弁装置の技術的課題に鑑みて案出したもので、機関の始動性と排気エミッション性能の両方を満足させる可変動弁装置のコントローラと内燃機関の可変動弁装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、可変動弁装置のコントローラに関し、内燃機関の始動時に、最初に燃焼を行う第1気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁開時期を、ピストン下死点に近づくように制御すると共に、前記第1気筒の後に燃焼を行う所定気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間を、前記第1気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間よりも大きくなるように制御することを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の発明は、可変動弁装置のコントローラに関し、最初に燃焼を行う第1気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁の開時期を遅角させるように制御すると共に、前記第1気筒の後に燃焼を行う所定気筒の、最初の燃焼後の排気ガスを吸気側に戻すように制御することを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載の発明は、内燃機関の可変動弁装置に関し、内燃機関の始動時に、最初に燃焼を行う第1気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁の開時期をピストン下死点に近づけると共に、前記第1気筒の後に燃焼を行う所定気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間を、前記第1気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間よりも大きくすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、十分な圧縮が行われず燃焼圧が得にくい前記第1気筒の排気弁の開時期を遅角制御してピストンの下死点付近としたことによって、前記燃焼圧を動力として効率良くクランクシャフトに取り出してクランク回転の速やかな立ち上がりが得られると共に、後期燃焼において該燃焼後の最初に訪れるバルブオーバーラップ期間を大きくすることによって、排気エミッション性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の可変動弁装置が適用される内燃機関を示す概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態に供される可変動弁装置を示す要部斜視図である。
【図3】A及びBは可変動弁装置である排気VELによる小リフト制御時の作動説明図である。
【図4】A及びBは同排気VELによる最大リフト制御時の作動説明図である。
【図5】本実施形態に供される駆動機構を一部断面して示し、Aは最小リフト位置に保持されたす状態を示し、Bは最大リフト位置に制御された作動説明図である。
【図6】本実施形態における排気弁のバルブリフト量と作動角の特性図である。
【図7】第2実施形態に供される排気VTCの要部を断面して示す作動説明図であって、Aは最大遅角制御状態を示す図8のA−A線断面図、Bは最大進角制御状態を示す図8のA−A線断面図である。
【図8】同排気VTCの縦断面である。
【図9】第1実施形態における排気VELによる排気弁の開閉時期を示す特性図である。
【図10】第1実施形態における排気VELによる各気筒の時系列制御説明図である。
【図11】第1実施形態の技術的効果をまとめて示す表である。
【図12】第1実施形態のコントローラによる制御フローチャート図である。
【図13】第2実施形態における排気VTCと吸気VTCによる排気弁と吸気弁のそれぞれの開閉時期を示す特性図である。
【図14】第2実施形態における排気VTCと吸気VTCによる各気筒の時系列制御説明図である。
【図15】第2実施形態のコントローラによる制御フローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る内燃機関の可変動弁装置及び該可変動弁装置のコントローラの各実施例を図面に基づいて詳述する。
〔第1実施形態〕
この実施形態では、火花点火式ガソリン仕様のいわゆる4サイクル4気筒内燃機関に適用したものであって、自らの意思によらず機関の停止、始動するアイドリングストップ車に適用されている。
【0013】
この内燃機関は、図1に示すように、シリンダブロック01とシリンダヘッド02との間に、ピストン03を介して燃焼室04が形成されていると共に、前記シリンダヘッド02のほぼ中央位置に点火プラグ05が設けられている。
【0014】
前記ピストン03は、図外のピストンピンに一端部が連結されたコネクチングロッド06を介してクランクシャフト07に連結されており、このクランクシャフト07は、冷機時の通常の始動やアイドリングストップ後の自動的な始動がピニオンギア機構08を介して駆動モータ09によって行われるようになっている。なお、前記クランクシャフト07は、後述するクランク角センサ010によってクランク角及び回転数が検出されるようになっている。
【0015】
前記シリンダブロック01には、ウォータジャケット内の水温を検出する水温センサ011が取り付けられていると共に、シリンダヘッド02には、燃焼室04内に燃料を噴射する燃料噴射弁012が設けられている。
【0016】
さらに、シリンダヘッド02の内部に形成された吸気ポート013や排気ポート014を開閉する1気筒当たりそれぞれ2つ吸気弁4、4及び排気弁5、5がそれぞれ摺動自在に設けられていると共に、前記吸気弁4側と排気弁5側には、可変動弁装置が設けられている。
【0017】
前記可変動弁装置は、図2〜図4に示すように、内燃機関の両排気弁5,5のバルブリフト及び作動角(開期間)を制御する第1可変機構である排気VEL1と、排気弁5,5の開閉時期(バルブタイミング)を制御する第2可変機構である排気VTC2と、吸気弁4の開閉時期を制御する吸気VTC3と、を備えている。また、前記排気VEL1と排気VTC2及び吸気VTC3は、後述するコントローラ22によって機関運転状態に応じてそれぞれの作動が制御されるようになっている。
【0018】
この第1実施形態では、前記排気VEL1のみを使用し、排気VTC2と吸気VTC3は第1実施形態では使用せずに第2実施形態のみで使用するが、便宜上、この図2中に合わせて記載した。
〔第1実施形態の可変動弁装置〕
前記排気VEL1は、本出願人が先に出願した例えば特開2003−172112号公報(吸気弁側に適用)などに記載されたものと同様の構成であるから、図2及び図3に基づいて簡単に説明すると、シリンダヘッド02の上部に有する軸受27に回転自在に支持された中空状の駆動軸6と、該駆動軸6の外周面に圧入等により固設された回転カム7と、駆動軸6の外周面に揺動自在に支持されて、各排気弁5,5の上端部に配設された各バルブリフター8、8の上面に摺接して各排気弁5,5を開作動させる2つの揺動カム9,9と、回転カム7と揺動カム9,9との間に介装されて、回転カム7の回転力を揺動運動に変換して揺動カム9,9に揺動力として伝達する伝達機構とを備えている。
【0019】
前記駆動軸6は、一端部に設けられたタイミングスプロケット31を介して前記クランクシャフト07から図外のタイミングチェーンによって回転力が伝達されており、この回転方向は図2中、時計方向(矢印方向)に設定されている。なお、この第1実施形態では、前記駆動軸6とタイミングスプロケット31との位相は変化しない。すなわち、排気VTC2は装着されているものの使用されず位相変換は行われない。
【0020】
前記回転カム7は、ほぼリング状を呈し、内部軸方向に形成された駆動軸挿通孔を介して駆動軸6に貫通固定されていると共に、カム本体の軸心Yが駆動軸6の軸心Xから径方向へ所定量だけオフセットしている。
【0021】
前記両揺動カム9は、円筒状のカムシャフト10の両端部に一体的に設けられていると共に、該カムシャフト10が内周面を介して駆動軸6に回転自在に支持されている。また、下面にベースサークル面やランプ面及びリフト面からなるカム面9aが形成されており、該ベースサークル面とランプ面及びリフト面が、揺動カム9の揺動位置に応じて各バルブリフター8の上面の所定位置に当接するようになっている。
【0022】
前記伝達機構は、駆動軸6の上方に配置されたロッカアーム11と、該ロッカアーム11の一端部11aと回転カム7とを連係するリンクアーム12と、ロッカアーム11の他端部11bと揺動カム9とを連係するリンクロッド13とを備えている。
【0023】
前記ロッカアーム11は、中央に有する筒状の基部が支持孔を介して後述する制御カムに回転自在に支持されていると共に、一端部11aがピン14によってリンクアーム12に回転自在に連結されている一方、他端部11bがリンクロッド13の一端部13aにピン15を介して回転自在に連結されている。
【0024】
前記リンクアーム12は、円環状の基端部12aの中央位置に有する嵌合孔に前記回転カム7のカム本体が回転自在に嵌合している一方、基端部12aから突出した突出端12bが前記ピン14によってロッカアーム一端部11aに連結されている。
【0025】
前記リンクロッド13は、他端部13bがピン16を介して揺動カム9のカムノーズ部に回転自在に連結されている。
【0026】
また、駆動軸6の上方位置に同じ軸受部材に制御軸17が回転自在に支持されていると共に、該制御軸17の外周に前記ロッカアーム11の支持孔に摺動自在に嵌入されて、ロッカアーム11の揺動支点となる制御カム18が固定されている。
【0027】
前記制御軸17は、駆動軸6と並行に機関前後方向に配設されていると共に、駆動機構19によって回転制御されている。一方、前記制御カム18は、円筒状を呈し、軸心P2位置が制御軸17の軸心P1から所定分だけ偏倚している。
【0028】
前記駆動機構19は、図5A,Bに示すように、ケーシング19aの一端部に固定された電動モータ20と、ケーシング19aの内部に設けられて電動モータ20の回転駆動力を前記制御軸17に伝達するボール螺子伝達手段21とから構成されている。
【0029】
前記電動モ−タ20は、比例型のDCモータによって構成され、機関運転状態を検出する制御機構であるコントローラ22からの制御信号によって駆動するようになっている。
【0030】
前記ボール螺子伝達手段21は、電動モータ20の駆動シャフト20aとほぼ同軸上に配置されたボール螺子軸23と、該ボール螺子軸23の外周に螺合する移動部材であるボールナット24と、前記制御軸17の一端部に直径方向に沿って連結された連係アーム25と、該連係アーム25と前記ボールナット24とを連係するリンク部材26とから主として構成されている。
【0031】
前記ボール螺子軸23は、両端部を除く外周面全体に所定幅のボール循環溝23aが螺旋状に連続して形成されていると共に、一端部にモータ駆動軸を介して連結され電動モータ20によって回転駆動されるようになっている。
【0032】
前記ボールナット24は、ほぼ円筒状に形成され、内周面に前記ボール循環溝23aと共同して複数のボールを転動自在に保持するガイド溝24aが螺旋状に連続して形成されていると共に、各ボールを介してボール螺子軸23の回転運動をボールナット24に直線運動に変換しつつ軸方向の移動力が付与されるようになっている。また、このボールナット24は、付勢手段であるコイルスプリング30のばね力によって電動モータ20側(最小リフト側)に付勢されている。したがって、機関停止時には、かかるボールナット24が、前記コイルスプリング30のばね力によってボール螺子軸23の軸方向に沿って最小リフト側に移動するようになっている。
【0033】
前記コントローラ22は、機関コントロールユニット(ECU)の内部に組み込まれており、現在の機関回転数N(rpm)やクランク角を検出する前記クランク角センサ010からの検出信号やアクセル開度センサ、車速センサ、ギア位置センサ、前記水温センサ011などから各種情報信号から現在の機関運転状態を検出している。また、駆動軸6の回転角度を検出する駆動軸角度センサ28からの検出信号や、前記制御軸17の回転位置を検出するポテンショメータ29からの検出信号を入力して、駆動軸6のクランク角に対する相対回転角度や各排気弁5,5のバルブリフト量や作動角を検出するようになっている。
【0034】
以下、前記排気VEL1の基本作動を説明すると、所定の運転領域で、前記コントローラ22からの制御電流によって一方向へ回転駆動した電動モータ20の回転トルクによってボール螺子軸23が一方向へ回転すると、ボールナット24が、図5Aに示すように、コイルスプリング30のばね力にアシストされながら最大一方向(電動モータ20に接近する方向)へ直線状に移動し、これによって制御軸17がリンク部材26と連係アーム25を介して一方向へ回転する。
【0035】
したがって、制御カム18は、図3A、B(フロントビュー)に示すように、軸心が制御軸17の軸心の回りを同一半径で回転して、肉厚部が駆動軸6から上方向に離間移動する。これにより、ロッカアーム11の他端部11bとリンクロッド13の枢支点は、駆動軸6に対して上方向へ移動し、このため、各揺動カム9は、リンクロッド13を介してカムノーズ部側が強制的に引き上げられて全体が図3に示す時計方向へ回動する。
【0036】
よって、回転カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド13を介して揺動カム9及びバルブリフター16に伝達され、これによって、排気弁5,5は、そのバルブリフト量が図6のバルブリフト曲線で示すように小リフト(L1)になり、その作動角D1(クランク角での開弁期間)が小さくなる。前記作動角は、前記排気弁5のリフトの開時期から閉時期までを示している。
【0037】
別の運転状態では、コントローラ22からの制御信号によって電動モータ20が他方向へ回転して、この回転トルクがボール螺子軸23に伝達されて回転すると、この回転に伴ってボールナット24がコイルスプリング30のばね力に抗して反対方向、つまり、図5A中、右方向へ所定量だけ直線移動する。これにより、制御軸17が、図3中、時計方向へ所定量だけ回転駆動する。
【0038】
このため、制御カム18は、軸心が制御軸17の軸心P1から所定量だけ下方の回転角度位置に保持され、肉厚部が下方へ移動する。このため、ロッカアーム11は、全体が図3の位置から反時計方向へ移動して、これによって各揺動カム9がリンクロッド13を介してカムノーズ部側が強制的に押し下げられて、全体が反時計方向へ僅かに回動する。
【0039】
したがって、前記回転カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド13を介して各揺動カム9及びバルブリフター8に伝達され、排気弁5,5のリフト量が図6に示すように、中リフト(L2)あるいは大リフト(L3)になり、作動角もD2、D3のように大きくなる。
【0040】
また、例えば高回転高負荷領域に移行した場合などは、コントローラ22からの制御信号によって電動モータ20がさらに他方向に回転してボールナット24を、図5Bに示すように、最大右方向へ移動させる。これにより、制御軸17は、制御カム18をさらに図3中、時計方向へ回転させて、軸心P2をさらに下方向へ回動させる。このため、ロッカアーム11は、図4A、Bに示すように、全体がさらに駆動軸6方向寄りに移動して他端部11bが揺動カム9のカムノーズ部を、リンクロッド13を介して下方へ押圧して該揺動カム9全体を所定量だけさらに反時計方向へ回動させる。
【0041】
よって、回転カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド13を介して揺動カム9及びバルブリフター8に伝達されるが、そのバルブリフト量は図6に示すようにL2、L3からL4に連続的に大きくなる。その結果、高回転域での排気効率を高め、もって出力を向上させることができる。
【0042】
すなわち、排気弁5,5のリフト量は、機関の運転状態に応じて中リフトL2、大リフトL3から最大リフトL4まで連続的に変化するようになっており、したがって、各排気弁5,5の作動角も小リフトD1から大リフトのD4まで連続的に変化する。
【0043】
また、機関の停止時には、前述したように、ボールナット24がコイルスプリング30のばね力によって電動モータ20側へ付勢されて自動的に移動することから、小作動角D1及び小リフトL1位置(デフォルト位置)に安定に保持される。
〔第2実施形態の可変動弁装置〕
第2実施形態に供される前記排気VTC2は、いわゆるベーンタイプのものであって、図7A,B及び図8に示すように、機関のクランクシャフト07によって回転駆動されて、この回転駆動力を前記駆動軸6に伝達する前記タイミングスプロケット31と、前記駆動軸6の端部に固定されてタイミングスプロケット31内に回転自在に収容されたベーン部材32と、該ベーン部材32を油圧によって正逆回転させる油圧回路とを備えている。
【0044】
前記タイミングスプロケット31は、前記ベーン部材32を回転自在に収容したハウジング34と、該ハウジング34の前端開口を閉塞する円板状のフロントカバー35と、ハウジング34の後端開口を閉塞するほぼ円板状のリアカバー36とから構成され、これらハウジング34及びフロントカバー35,リアカバー36は、4本の小径ボルト37によって駆動軸6の軸方向から一体的に共締め固定されている。
【0045】
前記ハウジング34は、前後両端が開口形成された円筒状を呈し、内周面の周方向の約90°位置に4つの隔壁であるシュー34aが内方に向かって突設されている。
【0046】
この各シュー34aは、横断面ほぼ台形状を呈し、ほぼ中央位置に前記各ボルト37の軸部が挿通する4つのボルト挿通孔34bが軸方向へ貫通形成されていると共に、各内端面に軸方向に沿って切欠形成された保持溝内に、コ字形のシール部材38と該シール部材38を内方へ押圧する図外の板ばねが嵌合保持されている。
【0047】
前記フロントカバー35は、円盤プレート状に形成されて、中央に比較的大径な支持孔35aが穿設されていると共に、外周部に前記各シュー34aの各ボルト挿通孔34bに対応する位置に図外の4つのボルト孔が穿設されている。
【0048】
前記リアカバー36は、後端側に前記タイミングチェーンが噛合する歯車部36aが一体に設けられていると共に、ほぼ中央に大径な軸受孔36bが軸方向に貫通形成されている。
【0049】
前記ベーン部材32は、中央にボルト挿通孔を有する円環状のベーンロータ32aと、該ベーンロータ32aの外周面の周方向のほぼ90°位置に一体に設けられた4つのベーン32bとを備えている。
【0050】
前記ベーンロータ32aは、前端側の小径筒部が前記フロントカバー35の支持孔35aに回転自在に支持されている一方、後端側の小径な円筒部が前記リアカバー36の軸受孔36bに回転自在に支持されている。
【0051】
また、ベーン部材32は、前記ベーンロータ32aのボルト挿通孔に軸方向から挿通した固定ボルト57によって駆動軸6の前端部に軸方向から固定されている。
【0052】
前記各ベーン32bは、その内の3つが比較的細長い長方体形状に形成され、他の1つの幅長さが大きな台形状に形成されて、前記3つのベーン32bはそれぞれの幅長さがほぼ同一に設定されているのに対して1つのベーン32bはその幅長さが前記3つのものよりも大きく設定されて、ベーン部材32全体の重量バランスが取られている。
【0053】
また、各ベーン32bは、各シュー34a間に配置されていると共に、各外面の軸方向に形成された細長い保持溝内に前記ハウジング34の内周面に摺接するコ字形のシール部材40及び該シール部材40をハウジング34の内周面方向に押圧する板ばねが夫々嵌着保持されている。また、各ベーン32bの前記駆動軸6の回転方向と反対側のそれぞれの一側面には、ほぼ円形状の2つの凹溝32cがそれぞれ形成されている。
【0054】
また、この各ベーン32bの両側と各シュー34aの両側面との間に、それぞれ4つの進角側油圧室41と遅角側油圧室42がそれぞれ隔成されている。
【0055】
前記油圧回路は、図8に示すように、前記各進角側油圧室41に対して作動油の油圧を給排する第1油圧通路43と、前記各遅角側油圧室42に対して作動油の油圧を給排する第2油圧通路44との2系統の油圧通路を有し、この両油圧通路43,44には、供給通路45とドレン通路46とが夫々通路切り換え用の電磁切換弁47を介して接続されている。前記供給通路45には、オイルパン48内の油を圧送する一方向のオイルポンプ49が設けられている一方、ドレン通路46の下流端がオイルパン48に連通している。
【0056】
前記第1、第2油圧通路43,44は、円柱状の通路構成部39の内部に形成され、この通路構成部39は、一端部が前記ベーンロータ32aの小径筒部から内部の支持穴32d内に挿通配置されている一方、他端部が前記電磁切換弁47に接続されている。
【0057】
また、前記通路構成部39の一端部の外周面と支持穴14dの内周面との間には、各油圧通路43,44の一端側間を隔成シールする3つの環状シール部材27が嵌着固定されている。
【0058】
前記第1油圧通路43は、前記支持穴32dの駆動軸6側の端部に形成された油室43aと、ベーンロータ32aの内部にほぼ放射状に形成されて油室43aと各進角側油圧室41とを連通する4本の分岐路43bとを備えている。
【0059】
一方、第2油圧通路44は、通路構成部39の一端部内で止められ、該一端部の外周面に形成された環状室44aと、ベーンロータ32の内部にほぼL字形状に折曲形成されて、前記環状室44aと各遅角側油圧室42と連通する第2油路44bとを備えている。
【0060】
前記電磁切換弁47は、4ポート3位置型であって、内部の弁体が各油圧通路43、44と供給通路45及びドレン通路46とを相対的に切り替え制御するようになっていると共に、前記コントローラ22からの制御信号によって切り替え作動されるようになっている。
【0061】
この排気VTC2の電磁切換弁47は、制御電流が作用しない場合に、供給通路45が遅角側油圧室42に連通する第2油圧通路44と連通し、ドレン通路46が進角側油圧室41と連通する前記第1油圧通路43に連通するようになっている。また、電磁切換弁47内のコイルスプリングによって機械的にかかるポジションとなるように形成されている。
【0062】
このコントローラ22は、排気VEL1と共通のものであって、機関運転状態を検出すると共に、クランク角センサ27及び駆動軸角度センサ28からの信号によってタイミングスプロケット31と駆動軸6との相対回転位置を検出している。
【0063】
また、前記ベーン部材32とハウジング34との間には、このハウジング34に対してベーン部材32の回転を拘束及び拘束を解除する拘束手段であるロック機構が設けられている。このロック機構は、前記幅長さの大きな1つのベーン32bとリアカバー36との間に設けられ、前記ベーン32bの内部の駆動軸6の軸方向に沿って形成された摺動用穴50と、該摺動用穴50の内部に摺動自在に設けられた有蓋円筒状のロックピン51と、前記リアカバー36に有する固定孔内に固定された横断面カップ状の係合穴構成部52に設けられて、前記ロックピン51のテーパ状先端部51aが係脱する係合穴52aと、前記摺動用穴50の底面側に固定されたスプリングリテーナ53に保持されて、ロックピン51を係合穴52a方向へ付勢するばね部材54とから構成されている。
【0064】
また、前記係合穴52aには、図外の油孔を介して前記遅角側油圧室42内の油圧あるいはオイルポンプ49の油圧が直接供給されるようになっている。
【0065】
そして、前記ロックピン51は、前記ベーン部材32が最遅角側に回転した位置で、先端部51aが前記ばね部材54のばね力によって係合穴52aに係合してタイミングスプロケット31と駆動軸6との相対回転をロックする。また、前記遅角側油圧室42から係合穴52a内に供給された油圧あるいはオイルポンプ49の油圧によって、ロックピン51が後退移動して係合穴52aとの係合が解除されるようになっている。
【0066】
また、前記各ベーン32bの一側面と該一側面に対向する各シュー34aの対向面との間には、ベーン部材32を遅角側へ回転付勢する付勢部材である一対のコイルスプリング55、56が配置されている。
【0067】
各コイルスプリング55,56は、最大圧縮変形時にも互いが接触しない軸間距離をもって並設されていると共に、各一端部がベーン32bの凹溝32cに嵌合する図外の薄板状のリテーナを介して連結されている。
【0068】
以下、排気VTC2の基本的な動作を説明すると、まず、機関停止時には、コントローラ22から電磁切換弁47に対する制御電流の出力が停止されて、弁体がコイルスプリング55,56のばね力によって機械的に図7Aに示すデフォルト位置になり、供給通路45と遅角側の第2油圧通路44とが連通されると共に、ドレン通路46と第1油圧通路43が連通される。また、かかる機関が停止された状態ではオイルポンプ49の油圧が作用せず供給油圧も0になる。
【0069】
したがって、ベーン部材32は、図7Aに示すように、前記各コイルスプリング55,56のばね力によって最遅角側に回転付勢されて1つの幅広ベーン32bの一端面が対向する1つのシュー34aの一側面に当接する、と同時に前記ロック機構のロックピン51の先端部51aが係合穴52a内に係入して、ベーン部材32をかかる最遅角位置に安定に保持する。すなわち、最遅角位置に排気VTC2が機械的に安定するデフォルト位置になっている。
【0070】
ここで、デフォルト位置とは、非作動時、つまり、制御信号が発せられない場合にメカニカルに自動的に安定する位置のことである。
【0071】
次に、機関始動時、つまりイグニッションスイッチをオン操作して、駆動モータ09などによりクランクシャフトをクランキング回転させると、電磁切換弁47にコントローラ22から制御信号が出力されるようになる。しかしながら、このクランク開始直後の時点では、まだオイルポンプ49の吐出油圧が十分に上昇していないことから、ベーン部材32は、ロック機構と各コイルスプリング55,56のばね力とによって最遅角側に保持されている。
【0072】
このとき、コントローラ22から出力された制御信号によって電磁切換弁47が供給通路45と第2油圧通路44を連通させると共に、ドレン通路46と第1油圧通路43とを連通させている。そして、クランキングが進み、オイルポンプ49から圧送された油圧の油圧上昇とともに第2油圧通路44を通って遅角側油圧室42に供給される一方、進角側油圧室41には、機関停止時と同じく油圧が供給されずにドレン通路46から油圧がオイルパン48内に開放されて低圧状態を維持している。
【0073】
ここで、クランキング回転が上昇し油圧がさらに上昇した後は、電磁切換弁47による自在のベーン位置制御ができるようになる。すなわち、遅角側油圧室42の油圧の上昇に伴ってロック機構の係合穴52a内の油圧も高まってロックピン51が後退移動し、先端部51aが係合穴52aから抜け出してハウジング34に対するベーン部材32の相対回転を許容するため、自在なベーン位置制御が可能になる。
【0074】
例えば、コントローラ22からの制御信号によって電磁切換弁47が作動して、供給通路45と第1油圧通路43を連通させる一方、ドレン通路46と第2油圧通路44を連通させる。
【0075】
したがって、今度は遅角側油圧室42内の油圧が第2油圧通路44を通ってドレン通路46からオイルパン48内に戻され、該遅角側油圧室42内が低圧になる一方、進角側油圧室41内に油圧が供給されて高圧となる。
【0076】
よって、ベーン部材32は、かかる進角側油圧室41内の高圧化によって各コイルスプリング55,56のばね力に抗して図中時計方向へ回転して図7Bに示す位置に向かって相対回転して、タイミングスプロケット31に対する駆動軸6の相対回転位相を進角側に変換する。また、電磁切換弁47のポジションを中立位置にすることで、任意の相対回転位相に保持できる。
【0077】
さらに、始動後の機関運転状態に応じて前記相対回転位相を最遅角(図7A)から最進角(図7B)まで連続的に変化させるのである。
【0078】
次に、第2実施形態に使用される前記吸気VTC3は、基本構成は、排気VTC2と同様にベーンタイプのものであるから、簡単に説明すると、吸気カムシャフト59の端部に配置されてクランクシャフト07から回転駆動力が伝達されるタイミングスプロケット60と、該タイミングスプロケット60の内部に回転自在に収容された図外のベーン部材と、該ベーン部材を油圧によって正逆回転させる油圧回路とを備えている。なお、この吸気VTC3も、この第1実施形態では作動せず、固定されたスプロケットとして機能するだけである。
【0079】
前記油圧回路は、基本的に排気VTC2のものと同様であり、前述の3ポジション(図8参照)も同様の構成になっている。
【0080】
電磁切換弁も排気VTC2のものと同じ構成であり、内部の弁体が各油圧通路と供給通路及びドレン通路とを相対的に切り替え制御するようになっていると共に、前記同じコントローラ22からの制御信号によって切り替え作動されるようになっている。
〔第1実施形態における排気弁の開閉時期制御〕
図9は第1実施形態における各吸気弁4と各排気弁5のそれぞれの開閉時期を示し、この実施形態では、前記吸気VTC3は作動しないので、吸気弁4の開時期IOと閉時期ICは固定的になっている。
【0081】
一方、各排気弁5側では、排気VEL1によって最小リフトL1(最小作動角D1)に制御されている場合は、開時期と閉時期が図示のEO1、EC1になっている。同様に、中間リフトL2(中間作動角D2)では、EO2、EC2、大リフトL3(大作動角D3)では、EO3、EC3となっている。
【0082】
図9はクランクシャフト07の姿勢も示している。クランクピンとピストンピンは、実際は前述のようにコンロッドを介して連結されているが(図1参照)、図9では、分かりやすくするために、ピストンピン位置をクランクピン位置と一致させて簡略表現している。これでも、クランク角とピストン位置の関係を十分説明できるものである。
【0083】
図10は本実施形態における4気筒機関のサイクル(行程)を時系列に記載したものであって、始動制御を開始する前の機関停止状態においては、膨張行程で停止している気筒が例えば#2気筒だったとして、各気筒でのサイクル作動と吸気、排気弁4,5の作動を時系列にまとめたものである。横軸には、#2気筒の圧縮上死点(TDC)を基準にしてクランク総回転角θを取ってあり、縦軸には、上から点火順序に応じて#2気筒−#1気筒−#3気筒−#4気筒の順に取ってある。ここで、#で示すナンバーは、4気筒内燃機関の各気筒を前方から数えたナンバーである。つまり、点火順序を最前端の#1気筒から数えれば、#1気筒−#3気筒−#4気筒−#2気筒という基本点火順序になっている。
【0084】
機関が停止している状態では、前述のクランク総回転角θは90°付近(縦破線)となっている。
【0085】
図9において機関が停止する間際の筒内圧を考察すると、既に燃料噴射や点火は行われなくなり、筒内には空気が出し入れされるだけであり、クランクシャフト07は、図1中、ゆっくり時計方向に回転しながら減速している。#2気筒は膨張行程にあるが、θ90°を越えて時計方向へ回転すると、圧縮行程にある#1気筒のコンプレッションが高まるまでの#1気筒のピストン03を介して#1気筒のクランクピンが押し下げられ、クランクシャフト07は反時計方向に回転し始める。そうすると、今度は、#2気筒のコンプレッションが増加してクランクシャフト07を時計方向に回転させようとする。これを交互に繰り返すことでθ90°付近に落ち着くのである。
【0086】
図9の説明に戻るが、機関の停止状態では、多少のばらつきはあるもののθ90°付近に落ち着いている。そして、機関停止を向かえるや否や、各吸気弁4と各排気弁5の両方が閉弁状態にある#2気筒と#1気筒においてもピストン03外周の隙間から大気圧が筒内に浸入して来て、筒内圧はほぼ大気圧状態になる。
【0087】
次に、始動条件になると、膨張行程の気筒(図9,図10における#2気筒)において、燃料噴射を行い、その後に点火を行って、燃焼圧そのものによってクランクシャフト07を回転させる(燃焼自力始動)。
【0088】
しかしながら、この初回燃焼圧は低い。なぜなら、筒内の空気容量は理論気筒当たり排気量の約半分程度しかない上に、筒内圧は大気圧程度しかないからである。したがって、この初回燃焼により、次の気筒(#1気筒)のピストン03が圧縮上死点を越える際の反力(コンプレッション)に打ち勝ってクランクシャフト07を回転させるのは容易ではない。
【0089】
そこで、各排気弁5の開時期(EO1)を、図9に示すように、ピストン下死点側に遅角制御している。すなわち、燃焼圧が抜ける時期を遅らせることによって、この非力な燃焼圧にも拘わらず動力として効率が良くクランクシャフト07に駆動トルクとして取り出し(膨張ストローク増大)、クランクシャフト07の回転立ち上がりを早くできると共に、確実に次の気筒(#1気筒)が圧縮上死点を乗り越えることが可能になるのである。
【0090】
一方、その後の排気弁5の閉時期(EC1)は、最小作動角D1であることから、ピストン上死点(TDC)付近まで進角する。この結果、次の吸気弁4の開時期(IO)との間のバルブオーバーラップ(O/L)期間は小さくなるか、あるいは零ないしマイナスになるのである。
【0091】
このバルブオーバーラップを小さくすることによって、以下の特異な効果が得られる。
【0092】
すなわち、初回燃焼による燃焼ガスの量は少ないため、この燃焼ガスを燃焼直後のO/L期間中に吸気系に吐き出す量が減少して、極力排気系に流れるようにして排気触媒の初期加熱を促進できるためである。また、この燃焼ガスは、筒内圧が低い(大気圧)状態で燃焼したものであるから、不完全燃焼による燃え残りがあり、これが排気触媒内で熱反応する。この面からも排気触媒の初期加熱を促進することができ、これによって、後の行程も含めて排気エミッション性能の低下を抑制できる。
【0093】
続いて、次の膨張(燃焼)行程の気筒(#1気筒)について考察すると、機関が停止しているθ90°付近では、#1気筒は圧縮行程にあり、筒内は前述したように、ほぼ大気圧になっている。気筒の容積(量)は、#2気筒の初回燃焼によりクランクシャフト07が回転すると、#1気筒はピストン03の上昇に伴って筒内圧が高なっていく。そして、筒内への燃料噴射と点火(第2燃焼)が行われる。
【0094】
この第2燃焼は、第1燃焼(初回燃焼)に比べて圧縮圧力がやや高く(有効圧縮比約5で約5気圧程度)、燃焼圧がやや大きくなっている。
【0095】
しかしながら、前述のように、気筒内の空気量は第1燃焼と同程度しかないため、燃焼圧は第1燃焼よりは高いものの、不十分な状態にある。そのため、燃焼直後の排気弁5の開時期は、図10に示すようにEO1を維持する。これによって、不十分な燃焼圧を動力として効率良くクランクシャフト07に駆動トルクとして取り出して、該クランクシャフト07の回転の立ち上がりをさらに早くすることができる。
【0096】
そして、クランク総回転角θが360°を越えたあたりのθ2(第2燃焼気筒のEO1直後)に達すると、排気VEL1に中作動角D2(中リフトL2)に切り換える信号を送る。それに基づき、排気弁5の閉時期はEC2に遅角制御されるのである。したがって、この第2燃焼気筒については、排気弁5の開時期EO1のままで閉時期はEC2になったことになる。
【0097】
このEC2に遅角制御されたことによって、次の吸気弁4の開時期IOとの間に中程度のバルブオーバーラップO/L期間ができる。これによって、排気行程の最後のあたりで、ピストンが掻き上げて排出する高濃度のハイドロカーボンHCを排気系ではなく吸気系にある程度排気戻すことによって、次燃焼(第6燃焼)でこの高濃度HCを再燃焼させることで、HCの排出量を抑制することができる。
【0098】
一方、この中程度のO/L期間により、排気管下流側に設けられた触媒側に流れる燃焼ガス(排気ガス)の絶対量はやや低下するが、初回燃焼による初期暖機効果が残っており、また、前述の高濃度HC排気ガスの排出低減と相俟ってエミッションを低減できる。また前述の中程度のO/L期間によってポンプ損失がある程度低減するので、燃費も可及的に低減できる。ここでは、前記O/Lを中程度の期間としているが、θ2の時期を遅らせEC1のままとし、小期間のO/Lを継続して、触媒に流れる燃焼ガスの絶対量を増加させて初期温度上昇効果をさらに高めることも可能である。
【0099】
次に、第3燃焼気筒(#3気筒)について説明する。
【0100】
機関が停止しているθ90°付近では、吸気行程の途中になっている。クランクシャフト07が回転してピストン03が下死点まで降下すると、回転が低いこともあって、ハーフストロークではあるが、比較的多くの空気量を吸気弁4から筒内に導くことができる。そして、ピストン下死点(BDC)から上死点(TDC)に向かってフルストロークで十分圧縮することができる。この結果、第1燃焼や第2燃焼よりも高い筒内圧にすることができ、また、第1・第2燃焼気筒に対し回転が上昇したことによる吸入空気量の増加に伴って燃焼ガス量も増加する。
【0101】
したがって、駆動トルクも高められるので、排気弁5の開時期EO2をやや早めることができ、燃焼温度がまだ高い状態で大量の排気ガスを触媒に送ることができる。これによって、触媒をさらに加熱して活性化を高め、もって、第3燃焼により増加して排気ガス量(エミッション量)を効果的に浄化することができる。また、排気弁5の開時期EO2を早めることによって、排気押し出し損失を低減でき、燃費を削減できる。
【0102】
ここで、排気弁5の開時期がEO2に変化しているのは、前述したθ2の段階で排気VEL1が中間作動角D2への切り換え信号が出力されたためである。さらに、θがθ3(第2燃焼気筒のEC2の直後)になると、さらに大作動角D3への変換信号が出力される。これによって、排気弁5の開時期はEO2であるが閉時期はEC3まで遅角制御される。
【0103】
この結果、第3燃焼のO/Lは、排気弁閉時期EC3と吸気弁開時期IOとの間の大きな期間となる。
【0104】
したがって、第3燃焼による大量の排気ガスから排気行程末期に排出される高濃度HCを大O/Lにより効率的に吸気系に戻し、再度燃焼させる(第7燃焼)ことによって機関から触媒に排出される排気ガス中のHC量を低減できる。
【0105】
これと、前述の排気弁5開時期EO2の進角制御による触媒の活性化と相俟って十分に排気エミッションを低減できる。
【0106】
また、O/Lの拡大化によってポンプ損失を大幅に低減できることから、この点でも燃費を削減できる。
【0107】
次に、第4燃焼気筒(#4気筒)について説明する。
【0108】
機関が停止しているθ90°付近では、排気行程の途中になっている。機関が回転し始めると、ピストン03が上死点に向けて上昇し、筒内にある空気を、排気弁5を介して排気系に排出し、その後、ピストン03が上死点から下降すると吸気弁4から空気を吸い込む。ここで、ピストン上死点付近からフルストロークで空気を最大限吸い込むことができる。
【0109】
したがって、第3燃焼気筒以上に大量の空気を吸い込むことができ、またフルストロークで圧縮できるので、燃焼圧と排気ガス量もそれぞれ一層増加する。
【0110】
ここで、排気弁5の開閉時期であるが、これら両者ともにθ3より後であり、それぞれEO3、EC3となっている。すなわち、排気弁5の開時期が、EO3になって十分に進角しているので、温度の高い排気ガスを多量に触媒に送り込め、加熱による一層の触媒の活性化が図れる。また、第3燃焼気筒と同様、大きなO/L期間となっているので、第4燃焼による大量の排気ガスから排気行程末期に排出される高濃度のHCを、この大きなO/L期間によって効率的に吸気系に戻して再燃焼させる(第8燃焼)ことによって、機関から触媒に排出されるHCの排出量を低減できる。これと前述の排気弁5の閉時期進角(EO3)による触媒の活性化と相俟ってエミッションを十分に低減できる。
【0111】
なお、排気弁5の開時期の十分な進角制御(EO3)による十分な排気押し出し損失低減と、O/L期間の拡大化による大幅なポンプ損失低減により、一層の燃費低減効果も得られる。
【0112】
以上の本実施形態における技術的効果をまとめると、図11の表のようになる。すなわち、燃焼が非力な第1燃焼(第1気筒)では、排気弁5の開時期EO1を遅角させ、燃焼圧をクランクシャフト07に有効にトルク変換してクランクシャフト07の回転立ち上がりを迅速化する。
【0113】
また、O/L期間を小さくして、燃焼ガスを極力触媒側に流して、未撚ガスが多いこともあって該触媒の初期温度上昇を促して触媒の初期活性を高める。
【0114】
燃焼がやや非力な第2燃焼(第2気筒)では、第1燃焼と同様に排気弁5の開時期EO1を遅角させて、燃焼圧を有効にクランクシャフト07のトルクに変換して、クランクシャフト07の回転の立ち上がりの迅速化を図る。また、中程度のO/L期間とし、排気行程の末期に排出される高濃度のHCを吸気側に再吸入させることによって、HCの排出量を抑制し、また、ポンプ損失を低減させて燃費を削減する。あるいは、第1燃焼と同様の小さなO/Lを維持して触媒温度上昇を一層早めることができる。
【0115】
クランクシャフト07の回転が上昇して燃焼ガスが増加する第3燃焼(第3気筒)では、排気弁5の開時期EO2をやや進角制御して燃焼ガスの温度が低下しない間に触媒側に送って触媒をさらに加熱してさらに活性化させる。
【0116】
また、バルブオーバーラップO/Lの期間の拡大化によって排気行程の末期に排出される高濃度HCを吸気側に再吸入させることによってHCの排出量を効率良く抑制し、もって、排気エミッションを低減させる。また、排気弁5の開時期EO2をやや進角制御して、排気ガスの増加による排気押し出し損失を低減すると共に、ポンプ損失もバルブオーバーラップO/L期間の拡大により低下させて燃費の低減化を図る。
【0117】
クランクシャフト07の回転がさらに上昇して燃焼ガスも増加する第4燃焼(第4気筒)では、排気弁5の開時期EO3を十分進角制御して、燃焼ガスの温度が低下しないうちに触媒側に送り込んで、触媒をさらに加熱して活性化を促進させる。
【0118】
また、O/L期間の拡大化により排気行程の末期に排出される高濃度のHCを吸気側に再吸入させることによって、HCの排出量を効果的に抑制し、もって、排気エミッションを効率的に低減する。また、開時期EO3を十分に進角させて排気ガスの増加により一層増加する排気押し出し損失を低減させ、ポンプ損失も低減させ、バルブオーバーラップO/Lの期間の拡大により燃費の向上を図る。
【0119】
また、前記第3燃焼でEO2と、第4燃焼でEO3が遅角制御されることによって、前述の効果に加えて燃焼始動による迅速始動の後行程で機関回転が吹き上がるのを、排気弁5を早めに開いて燃焼ガスを逃がすことによって抑制することができる。
【0120】
さらに、第2燃焼以降、バルブオーバーラップO/Lの期間を中から拡大化していく。これによって、各燃焼気筒の次の燃焼、すなわち、第6燃焼以降において、吸入空気中の燃焼ガス比率が高まるので、燃焼トルクの増加を抑え、同様に機関回転が吹き上がるのを防止できる。このように、燃焼始動が迅速な回転上昇が得られ、そこで弊害として生じがちな機関回転の吹き上がり現象も、このような排気弁5の開時期EOの進角制御及びバルブオーバーラップO/Lの拡大制御により抑制することができるのである。
【0121】
以上のように、クランクシャフト07の回転上昇が迅速でかつ排気エミッションの低減と低燃費の燃焼自力始動を実現しつつ、回転吹き上がりも抑制するのである。
【0122】
図12は本実施形態におけるコントローラ22による始動制御のフローチャートを示している。
【0123】
ステップ1では、機関の停止時における排気弁5の開閉タイミングを、排気VEL1の前記コイルスプリング30のばね力によって機械的にデフォルトタイミングEO1、EC1に予め保持する。このデフォルトタイミングにあるか否かはセンサによって検出する。排気VEL1をクランク停止時にも変換できるような、大きめの電動モ−タによる駆動とすれば、付勢バイアススプリングによらずともデフォルトタイミングに制御できる。
【0124】
次のステップ2では、始動条件か否かを判断し、NOならそのままリターンするが、YESであればステップ3に移行する。
【0125】
このステップ3では、燃焼自力始動条件か否かを判断する。この燃焼自力始動というのは、前述の第1燃焼のように、初回クランク回転を燃焼そのものにより行うものである。あるいは、前記駆動モ−タ09を弱い力で駆動してクランクシャフト07の回転をアシストしても良い。
【0126】
いずれにしても、この燃焼自力始動は、通常の駆動モ−タ09による始動に対して、ピニオンギヤ機構08に作用する荷重が無くなるか、あるいは低減されることで静かなクランキングが実現できるし、クランク回転を迅速に立ち上げることもできる。これらの効果は、頻繁に機関停止・始動を繰り返すアイドルストップ車などで特に大きくなる。
【0127】
逆に、冷機時の最初の機関スタ−ト時などは燃焼が不安定であり、また必ずしも迅速な始動は要求されないことから、静粛さや迅速さより始動信頼性を重視するので、通常の始動制御が選択される。
【0128】
前記ステップ3で、例えば、機関温度Tが所定温度以下(冷機時)であればNOと判断されてステップ15で駆動モ−タ09主体の通常の始動制御が選ばれるが、所定温度を超えていれば、YESと判断されて燃焼自力始動が選択されてステップ4に移行する。
【0129】
このステップ4では、膨張行程気筒すなわち第1燃焼気筒を、クランク角センサなどより検出する。そして、同気筒の圧縮行程のピストン上死点(TDC)を基準としたクランク総回転角θを検出する。
【0130】
次に、ステップ5では、前記クランク総回転角θが90°付近の所定範囲θ1(例えば60°〜120°)内にあるかどうか判断する。NOなら、信頼性の高い燃焼自力始動は困難と判断し、ステップ15に移行して駆動モ−タ09主体の通常始動が選ばれる。YESならば、ステップ6で、具体的な燃焼自力始動制御が開始される。
【0131】
なお、ここで、駆動モ−タ09などによるクランク停止位置制御を予め盛り込んでおけば、前記クランク総回転角θを90°付近に精度良く機関停止できるので、その場合はステップ5を廃止することも可能である。
【0132】
ここで、排気VEL1は予め排気弁5の開閉時期をEC1やEO1に機械的に保持しているが、クランクシャフト07の回転が開始されると制御軸17の負荷変動などでずれる可能性もあるので、前記電動モータ20によってEC1/EO1(作動角D1)に制御する信号を出力する。そして、第1燃焼気筒(#2気筒)への筒内燃料噴射と点火を行う。これにより、第1燃焼気筒(#2気筒)において、前述のような排気弁開時期遅角(EO1)によるクランク軸回転上昇を得ることができる。
【0133】
また、第1燃焼気筒(#2気筒)では、バルブオーバーラップO/Lが小さい(EC1進角)ことによる触媒の初期温度上昇促進効果を得ることもできる。
【0134】
そして、ステップ7でクランク総回転角θを検出し、ステップ8で前記θがθ2より大きいかまたは等しいか否かを判断する。ここで大きいか等しいと判断した場合は、ステップ9において、排気VEL1によって排気弁5の作動角をD2(EC2/EO2)に制御する。この結果、第2燃焼気筒(#1気筒)における燃焼後のバルブオーバーラップO/Lがやや拡大し、これにより、燃焼ガス量がやや増大するのに伴い排気行程の最後のあたりで排出する高濃度HCを排気系ではなく吸気系の吐き戻すことで、HCの排出量を抑制できる。
【0135】
ここで、排気弁5の開時期時点ではまだ小作動角D1であるので、排気弁5の開時期はEO1のままで、これにより第1燃焼気筒(#2気筒)と同様のクランクシャフト07の回転上昇も得られる。
【0136】
さらに、ステップ10で前記θを検出し、ステップ11でこのθがθ3よりも大きいかまたは等しいかを判断する。ここで大きいかまたは等しいと判断した場合は、ステップ12において、排気VEL1により排気弁5の作動角をD3(EC3/EO3)に制御する。この結果、第3燃焼気筒(#3気筒)における燃焼後のバルブオーバーラップO/Lがさらに拡大し、これにより、燃焼ガス量がさらに増大するのに伴い排気行程の最後のあたりで排出する高濃度HCを排気系ではなく吸気系に吐き戻すことで、HCの排出量を抑制できる。
【0137】
ここで、排気弁5の開時期時点では作動角がまだ中作動角D2であるので、排気弁5の開時期はやや進んだEO2となっており、これにより、燃焼温度がまだ高い状態で大量の排気ガスを触媒に送る。これにより、触媒をさらに加熱して活性を高め、もって、第3燃焼により増加した排気ガス量(エミッション量)を効率的に浄化できる。また、上述のように燃費も削減できる。
【0138】
第4燃焼気筒(#4気筒)については、第3燃焼気筒(#3気筒)と同様のバルブオーバーラップO/Lが大きくなっていることから、大量の燃焼ガスから発生する高濃度HCを排気系ではなく吸気系の吐き戻すことで、排気エミッション性能が向上する。
【0139】
ここで、排気弁5の開時期時点でも作動角は大作動角D3になっているので、排気弁5の開時期は大きく進んだEO3になっている。これにより、燃焼温度がさらに高い状態で一層の大量の排気ガスを触媒に送る。これにより、触媒をさらに加熱し活性を高め、もって、第4燃焼により一層増加した排気ガス量(エミッション量)を効率的に浄化できる。また、前述のように燃費も削減できる。
【0140】
なお、第3燃焼気筒以降の排気弁5の開弁時期EOが進角制御され、第2燃焼以降のバルブオーバーラップO/Lの増加制御は、前述のように機関回転の吹き上がり抑制効果も有する。
【0141】
さらに、ステップ13でθを検出し、ステップ14でθがθ4より大きいかまたは等しいか否かを判断する。ここで大きいか等しいと判断した場合は、機関の暖機が終了したと判断し、始動制御を完了する。
【0142】
その後は、機関運転条件に応じた排気VEL1の作動マップに基づき、最小リフトL1から最大リフトL4にわたり連続的に制御される。
以上のようにして、燃焼自力始動を活用した、迅速で低エミッションの始動を行えるのである。
【0143】
ところで、図11や図12では、第4燃焼(第4気筒)までで、始動バルブタイミング変化を終えた例を示したが、バルブタイミングの変化速度を落として、始動制御領域に範囲内において、もっと多くの燃焼サイクルを経た後に、バルブタイミング変化を終了させても良い。こうすれば、可変動弁装置に切り換え応答性を遅くできるので、切り換え駆動エネルギーを抑えて、消費エネルギーを低下することができる。
【0144】
なお、前記ステップ3,5において、燃焼自力始動ではなく通常始動が選択された場合は、ステップ15に移行し、前記駆動モ−タ09によってクランキングを開始する。
【0145】
そして、ステップ16で排気弁5を標準的な中作動角D2、通常的なEO2、EC2に変換制御し、燃料噴射及び点火制御が開始されるのである。
【0146】
この場合、クランクシャフト07の回転は、駆動モータ09によって行うので、回転立ち上がりが遅く、そのため大作動角D3(EO3、EC3)に変換してしまうと、回転が充分には立ち上がっていない状態で排気弁5の開時期の大きな進角(EO3)による機関トルクの低下、排気弁5の閉時期の大きな遅角(EC3)によるバルブオーバーラップO/Lの大きな期間による筒内への過大な残留ガス取り込みが生じてしまう。これにより、機関燃焼の不安定や機関スト−ル(回転落ち)が生じてしまうので、大作動角D3(EO3、EC3)でなく、標準的な中作動角D2、通常的なEO2、EC2に変換されるのである。
【0147】
逆に言えば、燃焼自力始動とし前述の燃焼自力始動制御を行えば、回転立ち上がりが早いので、後期燃焼気筒において大作動角D3(EO3、EC3)を使うことができるので、充分な触媒の加熱と、高濃度HCを排気系ではなく吸気系の吐き戻すことでHCの排出量を抑制し、もって低エミッション効果も得ることができると共に、燃費削減効果も得られるのである。
【0148】
ここで、回転立ち上がりが早いと述べたが、過度に速くなり機関回転が吹き上がる現象は、前述のように、後半のEVOの進角制御、O/Lの増大制御により抑制されるのである。
【0149】
再び、通常始動のフローチャートに戻り、ステップ17でクランク軸総回転角θを検出し、ステップ18でθが所定値θ0を越えているまたは等しいか否かを判断して、越えているまた等しいと判断した場合は、燃焼が安定したと判断し、ステップ19において、駆動モ−タ09への通電をOFFにする。
【0150】
その後は、燃焼によって機関の回転が維持されるが、ステップ20では、機関温度Tを検出し、ステップ21において温度Tが所定温度T0を越えているかまたは等しいか否かを判断し、NOであればステップ20にリターンするが越えているかまたは等しいと判断した場合は始動制御を終了するのである。
〔第2実施形態における排気弁と吸気弁の開閉時期制御〕
本実施形態は、排気弁5の開弁時期EO変化とバルブオーバーラップO/Lの変化を排気VEL1でなく、前記排気VTC2と吸気VTC3によって行ったものである。つまり、この実施形態では、排気VEL1は装着されず、排気側には一定リフト特性を示す従来型の固定動弁が装着されているのである。
【0151】
図13は、吸気弁4と排気弁5の前記各VTC2,3による開閉タイミングを示しており、排気VTC2が最遅角の場合は、図13に示すように、排気弁5の開時期/閉時期はEO1/EC1になっている。同様に中間リフト位相ではEO2/EC2、最進角ではEO3/EC3となっている。
【0152】
吸気VTC3が最遅角の場合は、図13に示すように、吸気弁開時期/閉時期はIO1/IC1になっている。同様に中間リフト位相ではIO2/IC2、最進角ではIO3/IC3となっている。
【0153】
前記排気VTC2と吸気VTC3を進角制御していくにつれて、次第にバルブオーバーラップO/Lが拡大するのは、吸気VTC3の方が進角変換角が相対的に大きいからである。
【0154】
図14は時系列制御説明図を示し、第1実施形態の図10と同様に、4気筒機関であり、点火順序も同様となっている。この図14では、始動制御を開始する前の機関停止状態において、膨張気筒で停止している気筒が例えば#2気筒だったとして、各気筒でのサイクル作動、吸排気弁4,5の作動を時系列的にまとめた。
【0155】
排気弁5の開時期EOの制御、バルブオーバーラップO/L期間の制御パタ−ンも第1実施形態と同様であるから、簡略して説明する。
【0156】
横軸には#2気筒圧縮TDC(上死点)基準にしてクランク総回転角θを取ってある。縦軸には、上から点火順序に応じて、#2気筒-#1気筒-#3気筒-#4気筒の順で気筒を取ってある。機関が停止している状態では、θは90°付近(縦破線)となっている。
【0157】
この時、吸排気弁4,5の両方が閉じている#2気筒、#1気筒においても、ピストン05の外周面側の隙間から大気圧が進入してきて、筒内圧は略大気圧になっている。
【0158】
次に、始動条件になると、膨張気筒(#2気筒)において、燃料噴射、その後に点火を行いその燃焼圧そのものによりクランク軸を回転させる。(燃焼自力始動)
しかしながら、この初回燃焼は弱いものである。なぜなら、気筒内空気容積は理論気筒あたり排気量の約半分しかない上、筒内圧が大気圧程度しかない。したがって、この初回燃焼により次気筒(#1気筒)が圧縮上死点を超える際の反力に打ち勝ってクランクシャフト07を回転させるのは容易ではない。
【0159】
そこで、排気VTC2のデフォルト位置は最遅角にしており、排気弁5の開時期(EO1)を最大限下死点側に遅角させているのである。すなわち、燃焼圧が抜ける時期を(EVO)を遅らせるので、この非力な燃焼圧にもかかわらず動力として効率良くクランクシャフト07に駆動トルクとして取り出し、クランクシャフト07の回転立ち上がりを早くできると共に、確実に次気筒(#1気筒)が圧縮上死点を乗り越えることが可能となるのである。
【0160】
一方、その後の排気弁5の閉時期(EC1)は最遅角であるために、上死点(TDC)を越えて遅角する。
【0161】
ここで、吸気VTC3もデフォルトも最遅角になっており、吸気弁4の開時期(IO1)の遅角量がEC1の遅角量を上回っており、IO1とEC1との間のバルブオーバーラップO/Lの期間は小さく(ないしは0もしくはマイナス)なるのである。この小O/L期間により、第1実施形態と同様の触媒の初期温度上昇効果を得ることができる。
【0162】
次に、次の第2燃焼気筒(#1気筒)は、第1実施形態と同様に、第1燃焼(初回燃焼)に較べて圧縮圧力がやや高く(有効圧縮比約5で筒内圧程度)、燃焼圧がやや大きくなっているものの不十分な状態にある。そのため、燃焼直後の排気弁5の閉時期は図14に示すようにEO1を維持する。これにより、不十分な燃焼圧を動力として効率良くクランク軸に駆動トルクとして取り出し、さらにクランクシャフト07の回転立ち上がりを早くできる。
【0163】
そして、クランク総回転角θが360°と540°との中程にあるθ2(第4燃焼気筒のIC1の直後)に達すると、排気VTC2、吸気VTC3が共に中間位相に切り換える信号を送る。それに基づき、排気弁5の閉時期はEC2に進角され、吸気弁4の開時期はIO2、閉時期はIC2に進角される。したがって、この第2燃焼気筒については、排気弁開時期EO1のままで閉時期はEC2になったことになる。
【0164】
この排気弁5の閉時期がEC2に遅角されたことにより、次の吸気弁4の開時期IO2との間に中程度のバルブオーバーラップO/L期間ができる。これにより、排気行程の最後のあたりでピストン03が掻き上げて排出する高濃度HCを排気系ではなく吸気系のある程度吐き戻すことができる。これによって、次の燃焼(第6燃焼)でこの高濃度HCを再燃焼させることで、HCの排出量を抑制できる。
【0165】
一方、この中程度のバルブオーバーラップO/L期間により、触媒に流れる排気ガスの絶対量はやや低下するが、初回燃焼による触媒の初期暖機効果があり、前述の高濃度HCの低減効果と相俟って排気ガスのエミッションを浄化することができる。ここでは中程度のバルブオーバーラップO/L期間としているが、EC1、IO1のままとし小O/L期間を継続し、触媒に流れる排気ガスの絶対量を増加し、初期暖機効果をさらに高めても良い。
【0166】
次に第3燃焼気筒(#3気筒)については、第1燃焼・第2燃焼より、高い筒内圧になり、また排気ガス量も増加する。したがって、クランクシャフト07の駆動トルクも高められるので、排気弁5の開時期はEO2とやや早め、燃焼温度がまだ高い状態で大量の排気ガスを触媒に送る。これにより、触媒をさらに加熱し活性を高め、もって、第3燃焼により増加した排気ガス量(エミッション量)を効率的に浄化できる。
【0167】
ここで、排気弁開時期がEO2に変化しているのは、前述のθ2の段階で排気VTC2に中間位相の切り替え信号が出力されたためである。
【0168】
さらに、θがθ3(第1燃焼気筒のIC2の直後)になると、さらに排気VTC2・吸気VTC3に最進角への変換信号が出力される。これにより、排気弁開時期はEO2のまま閉時期はEC3まで遅角され、吸気弁4の開閉時期は開時期IO3と閉時期IC3まで遅角される。これにより、第3燃焼後のO/Lは、EC3とIO3との間のバルブオーバーラップO/Lは大期間となる。
【0169】
したがって、第3燃焼による大量の排気ガスから排気行程末期に排出される高濃度のHCを、この大O/Lにより効率に吸気系に戻し、再度燃焼させる(第7燃焼)ことによって、機関から触媒に排出されるHCエミッション量を低減できる。これと前述の排気弁5の開時期進角(EO2)による触媒活性化と相まって、十分エミッションを低減できる。また、第1実施形態と同様の燃費効果が得られる。
【0170】
次に第4燃焼気筒(#4気筒)について説明する。
【0171】
機関が停止しているθ90°付近では、排気行程途中になっている。機関が回転し始めると、ピストン03が上死点(TDC)に向け上昇し筒内にある空気を、排気弁を介して排気系に排出し、その後、ピストン03がTDCから下降すると吸気弁4から空気を吸い込む。ここで、TDC付近からフルストロ−クで、空気を最大限吸い込むことができる。
【0172】
したがって、第3燃焼気筒以上に大量の空気を吸い込め、またフルストロ−クで圧縮できるので、燃焼圧と排気ガス量も一層増加する。
【0173】
ここで吸排気弁4,5の開閉タイミングであるが、θ3より後であり、それぞれ最進角位置EO3、EC3、IO3,IC3となっている。すなわち、排気弁5の閉時期がEO3と充分進角しているので、温度の高い排気ガスを多量に触媒に送り込め、一層の触媒活性化が図れる。また、第3燃焼気筒と同様、大O/L期間となっているので、第4燃焼による大量の排気ガスから排気行程末期に排出される高濃度HCを、この大O/Lにより効率に吸気系に戻し、再度燃焼させる(第8燃焼)ことで機関から触媒に排出されるHCエミッション量を低減できる。これと前述の排気弁5の開時期進角(EO3)による触媒活性化と相まって、十分に排気エミッション性能を向上させることができる。また、燃費効果は第1実施形態と同様である。
【0174】
また、排気弁5の開時期が、第3燃焼でEO2、第4燃焼でEO3と遅角することによって、前述の効果に加えて、燃焼始動による迅速始動の後行程で機関回転が吹き上がるのを、早めに排気弁5を開き燃焼ガスを逃がすことで抑制できるのは第1実施形態と同様である。
【0175】
さらに、第2燃焼以降、バルブオーバーラップO/Lを中から大へと拡大していく。これにより、各燃焼気筒の次の燃焼、すなわち、第6燃焼以降において、吸入空気中の燃焼ガス比率が高まるので燃焼トルクを抑えて機関回転が吹き上がるのを防止できるのも第1実施形態と同様である。
【0176】
以上の効果は前記図11に示す内容と同じである。
【0177】
さらに、第4燃焼気筒における燃焼直前の吸気弁閉時期を図14に示すように、最遅角となっているので、過度の空気を吸い込むことが抑制され、機関回転吹き上がりを第1実施形態以上に抑制することもできる。逆に第5燃焼以降は、IC2,IC3と下死点に近づいていくので、吹き上がり防止をしつつも、空気充填効率を高めて完爆性能を向上させることができる。
【0178】
図15は本実施形態におけるコントローラ22による始動制御のフローチャートを示している。
【0179】
ステップ21では、機関停止時における排気弁5の開閉タイミングが排気VTC2によってデフォルト位置、つまりコイルスプリング55,56のばね力によってEO1/EC1に保持されていると共に、吸気弁4の開閉タイミングが吸気VTC3のコイルスプリングによってIO1/IC1に保持されている。
【0180】
次に、ステップ22では、始動条件かどうか判断し、NOならそのままリターンするが、YESならステップ23に移行し、ここで燃焼自力始動条件か判断をする。つまり、例えば、機関温度Tが所定温度以下(冷機時)であればNOが選択されてステップ35に移行して駆動モ−タ09主体の通常始動が選ばれるが、所定温度を超えていれば、YESとなり燃焼自力始動が選択されてステップ24に移行する。
【0181】
このステップ24では、膨張行程気筒すなわち第1燃焼気筒を、クランク角センサなどより検出し、同気筒の圧縮上死点(TDC)を基準としたクランク総回転角θを検出する。
【0182】
そして、ステップ25で、前記θが90°付近の所定範囲θ1(例えば60°〜120°)内にあるかどうか確認する。NOならば、信頼性の高い燃焼自力始動は困難と判断し、ステップ35へ移行して前記駆動モ−タ09主体の通常始動が選択される。一方、YESなら、ステップ26へ移行して、具体的な燃焼自力始動制御が開始される。
【0183】
排気VTC2は予めEO1/EC1(最遅角)に、吸気VTC3は予めIO1/IC1(最遅角)に機械的に保持されているが、回転し始めると負荷変動などでずれる可能性もあるので、排気VTC2によって排気弁5開閉時期をEO1/EC1に制御する信号、吸気VTC3によって吸気弁4開閉時期をIO1/IC1に制御する信号を出力する。そして、第1燃焼気筒(#2気筒)への筒内燃料噴射と点火を行う。これにより、第1燃焼気筒において、前述のような排気弁5の開時期遅角(EO1)によるクランクシャフト07の回転上昇を得ることができる。
【0184】
第1燃焼気筒では、O/L小(EC1進角)による触媒の初期温度上昇の促進効果(前述)を得ることができる。
【0185】
そして、ステップ27で前記θを検出し、ステップ28でθがθ2に達したか否かを判断し、達しない場合は戻るが、達したと判断した場合は、ステップ29で排気VTC2及び吸気VTC3を中間位相(EO2/EC2、IO2/IC2)に制御する。この結果、第2燃焼気筒における燃焼後のO/Lがやや拡大し、これにより、燃焼ガス量がやや増大するのに伴い排気行程の最後のあたりで排出する高濃度HCを排気系ではなく吸気系の吐き戻すことができるので、HCの排出量を抑制できる。
【0186】
ここで、排気弁5の開時期時点ではまだ最遅角であるので、排気弁5の開時期はEO1のままで、これにより第1燃焼気筒と同様のクランクシャフト07の回転上昇も得られる。
【0187】
さらに、ステップ30で前記θを検出し、ステップ31でθがθ3に達したか否かを判断し、達したと判断した場合は、ステップ32において、排気VTC2によって排気弁5の開閉時期を最進角(EO3/EC3)に、吸気VTC3によって吸気弁4の開閉時期も最進角(IO3/IC3)に制御する。
【0188】
この結果、第3燃焼気筒における燃焼後のバルブオーバーラップO/Lがさらに拡大し、これにより、燃焼ガス量がさらに増大するのに伴い排気行程の最後のあたりで排出する高濃度HCを排気系ではなく吸気系の吐き戻すことができるので、HCの排出量を抑制できる。
【0189】
ここで、排気弁5の開時期時点ではまだ中間位相であるので、排気弁5の開時期はやや進んだEO2であるが、これにより、燃焼温度がまだ高い状態で大量の排気ガスを触媒に送る。これにより、触媒をさらに加熱し活性化が高められて、第3燃焼により増加した排気ガス量(エミッション量)を効率的に浄化できると共に、第1実施形態と同様の燃費効果が得られる。
【0190】
第4燃焼気筒については、第3燃焼気筒と同様の大O/Lであり、一層の大量燃焼ガスから発生する高濃度HCを排気系ではなく吸気系の吐き戻すことで、HCエミッション排出を抑制できる。
【0191】
ここで、排気弁5の開時期は大きく進んだEO3であるが、これにより、燃焼温度がさらに高い状態で一層の大量の排気ガスを触媒に送る。これにより、触媒をさらに加熱し活性を高め、もって、第4燃焼により一層増加した排気ガス量(エミッション量)を効率的に浄化できると共に、第1実施形態と同様の燃費効果が得られる。
【0192】
さらに、ステップ33で前記θを検出し、ステップ34でθがθ4に達したか否かを判断し、達したと判断した場合は、機関の暖機が終了したと判断して始動制御を終了する。
【0193】
その後は、運転条件に応じた排気VTC2、吸気VTC3の各作動マップに基づき、最遅角から最進角にわたり各々制御される。
【0194】
以上のように、燃焼自力始動を活用した、機関回転の立ち上がりが早い低エミッションで低燃費の始動をできるのである。ここで、機関回転の立ち上がりが早いと述べたが、過度に速くなり機関回転が吹き上がる現象は、前述のように、IVC遅角制御、後半のEVO進角制御、O/L増大制御により抑制されるのである。
【0195】
なお、ステップ23、25において、燃焼自力始動ではなく通常始動が選択された場合は、ステップ35に移行して、前記駆動モ−タ09でクランキングを開始する。そして、ステップ36では、標準的な中間位相、すなわち通常的なEO2、EC2、IO2,IC2に変換され、燃料噴射及び点火制御が開始されるのである。
【0196】
この場合クランク軸の回転は、駆動モータ09によって行うので、回転立ち上がりが遅く、そのため最進角(EO3、EC3、IO3、IC3)に変換してしまうと、回転が充分には立ち上がっていない状態で、排気弁開時期の大きな進角(EO3)による機関トルク低下、大きなO/L期間による筒内への過大残留ガス取り込みが生じ、それにより、機関燃焼不安定や機関スト−ル(回転落ち)が生じてしまうので、最進角でなく、標準的な中間位相に変換されるのである。逆に言えば、燃焼自力始動とし前述の燃焼自力始動制御を行えば、回転立ち上がりが早いので、後期燃焼気筒において最進角(EO3、EC3、IO3,IC3)を使うことができるので、充分な触媒暖機と、高濃度HCを排気系ではなく吸気系の吐き戻すことでHCエミッション排出を抑制し、もって低エミッション効果も得ることができるのである。また、第1実施形態と同様の燃費効果も得られる。
【0197】
再び、通常始動部のフローチャートに戻るが、ステップ37〜41は先の図12のステップ17〜21と同じであるから、説明は省略する。
【0198】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものでなく、本発明の主旨である始動制御時における排気弁5の開時期変化制御、バルブオーバーラップ変化制御から逸脱しない範囲であれば、どんな可変動弁装置であってもよい。例えば、前述のVTCは油圧駆動ではなく、電動としてもよい。こうすれば、始動初期における応答性を高められ、より迅速な始動が可能になる。また、期間が停止している状態で変換できるので、始動初期のバルブタイミングの精度を高められる。
【0199】
また本発明は、通常の自動車用機関に限らず、ハイブリッド用機関に適用されても良い。その場合、電動モ−タの走行からの機関始動を伴う急加速の際、燃焼自力始動によって電動モ−タのクランキング負荷を低減し、機関始動に伴う車両駆動トルクの過渡的な落ち込みのない一層の加速性を実現できる。
【0200】
また、本実施形態は、4気筒機関でクランク停止位置制御を用いないものについて述べたが、図1に示す駆動モ−タ09などをクランク停止位置制御手段として用い、停止位置のθを90°付近に精度良く制御すれば、始動性がより安定する。また、4気筒でなくても良く、例えば3気筒であれば、気筒インタ−バルが180°でなく240°に拡大するので、図9における停止位置θは90°付近から120°付近へシフトさせる。あるいは、4気筒と同様に停止位置θが90°付近になるように、クランク停止位置制御手段を制御してもよい。このやり方は2気筒機関にも適用できる。すなわち、2気筒以上であれば、気筒数によらず本発明は適用可能である。
【0201】
また、排気弁の開閉時期などのバルブタイミングはまさしく開始点、終了点そのものでも良いが、リフト開始部と終了部に微小リフトのランプ区間が設定されており、それを除外した点としても良い。後者の場合は、実質的な吸入開始点、終了点を意味するので、より効果を高めることができる。
【0202】
前記実施形態から把握される前記請求項以外の発明の技術的思想について以下に説明する。
〔請求項a〕請求項1に記載の内燃機関のコントローラであって、
前記第1気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁閉時期をピストン上死点に近づくように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
【0203】
この発明によれば、排気弁と吸気弁のオーバーラップが小さくなるので、排気ガスの吸気側への吹き返しがなくなり、触媒を効率的に初期加熱できる。
〔請求項b〕請求項aに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第1気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップを零またはマイナスとすることを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項c〕請求項1に記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第1気筒の直後に燃焼を行う第2気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁開時期を前記第1気筒と同様にピストン下死点に近づけることを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項d〕請求項cに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第2気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間を、前記第1気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間よりも大きくするように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項e〕請求項dに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第2気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁作動角を、前記第1気筒の排気弁作動角よりも大きくしたことを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項f〕請求項dに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第2気筒の後に燃焼を行う第3気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁開時期を、ピストン下死点より早めるように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項g〕請求項dに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第2気筒の後に燃焼を行う第3気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間を、前記第2気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間よりも大きくするように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項h〕請求項gに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第3気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁作動角を、前記第2気筒の排気弁作動角より大きくしたことを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項i〕請求項gに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第3気筒の後に燃焼を行う第4気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁開時期を、前記第3気筒の、燃焼後訪れる最初の排気弁時期より早めるように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項j〕請求項iに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第4気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁作動角を、前記第3気筒の排気弁作動角より大きくしたことを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項k〕請求項eとhまたはjのいずれか一項に記載の可変動弁装置のコントローラであって、
排気弁作動角の拡大は、排気弁が開弁してから閉弁するまでの間に行われることを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項l〕請求項1に記載の可変動弁装置のコントローラであって、
内燃機関の停止時に、最初に燃焼を行う第1気筒の、最初の排気弁開時期をピストン下死点に近づくように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項m〕請求項lに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
内燃機関の停止時に、最初に燃焼を行う第1気筒の、最初の排気弁開時期をピストン下死点に近づくように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項n〕請求項1に記載の可変動弁装置のコントローラであって、
内燃機関の温度が所定以下である場合には、排気弁の制御を中止することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項o〕請求項1に記載の可変動弁装置のコントローラであって、
少なくとも吸気弁開時期を制御することにより、前記第1気筒の後に燃焼を行う所定気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間を可変させることを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項p〕請求項3に記載の内燃機関の可変動弁装置であって、
燃料を燃焼室に直接噴射して着火することによって始動させる内燃機関に適用したことを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
〔請求項q〕請求項3に記載の内燃機関の可変動弁装置であって、
内燃機関の停止時に、前記第1気筒の排気弁開時期がピストン下死点に近づき、前記第1気筒の排気弁閉時期がピストンの上死点に近づく位置に安定して保持されるように構成したことを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
【0204】
この発明によれば、機関停止時に排気弁の開閉時期を再始動に適した位置にデフォルトしたことから、再始動性が向上する。
〔請求項r〕請求項3に記載の内燃機関の可変動弁装置であって、
運転者の意思によらず機関を停止及び始動する内燃機関に適用されることを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
【0205】
この発明は、アイドリングストップ車やいわゆるハイブリット車に適用したものである。
〔請求項s〕請求項3に記載の内燃機関の可変動弁装置であって、
機関停止時にも排気弁特性を可変にできることを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
【符号の説明】
【0206】
1…排気VEL
2…排気VTC
3…吸気VTC
4…吸気弁
5…排気弁
6…駆動軸
20…電動モータ
22…コントローラ
30…コイルスプリング
31・60…タイミングスプロケット
32…ベーン部材
41…進角側油圧室
42…遅角側油圧室
55,56…コイルスプリング
59…吸気カムシャフト
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の始動性の向上などを図り得る可変動弁装置のコントローラ及び内燃機関の可変動弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の内燃機関の可変動弁装置としては、以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
概略を説明すれば、この可変動弁装置は、多気筒内燃機関において、自動始動時の初爆気筒において、最初の燃焼後に訪れる最初の排気弁の開時期を遅角させるようになっている。この結果、膨張行程における初爆の燃焼圧を動力として効率良くクランクシャフトに取り出して、機関を迅速に始動させることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−337110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の可変動弁装置にあっては、初爆気筒の排気弁開弁後における後続気筒では、排気弁の開時期が通常の進角側に制御されるので、バルブオーバーラップ期間が縮小、あるいは零になってしまう。このため、排気エミッション性能の悪化を伴っていた。
【0006】
本発明は、前記従来の可変動弁装置の技術的課題に鑑みて案出したもので、機関の始動性と排気エミッション性能の両方を満足させる可変動弁装置のコントローラと内燃機関の可変動弁装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、可変動弁装置のコントローラに関し、内燃機関の始動時に、最初に燃焼を行う第1気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁開時期を、ピストン下死点に近づくように制御すると共に、前記第1気筒の後に燃焼を行う所定気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間を、前記第1気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間よりも大きくなるように制御することを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の発明は、可変動弁装置のコントローラに関し、最初に燃焼を行う第1気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁の開時期を遅角させるように制御すると共に、前記第1気筒の後に燃焼を行う所定気筒の、最初の燃焼後の排気ガスを吸気側に戻すように制御することを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載の発明は、内燃機関の可変動弁装置に関し、内燃機関の始動時に、最初に燃焼を行う第1気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁の開時期をピストン下死点に近づけると共に、前記第1気筒の後に燃焼を行う所定気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間を、前記第1気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間よりも大きくすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、十分な圧縮が行われず燃焼圧が得にくい前記第1気筒の排気弁の開時期を遅角制御してピストンの下死点付近としたことによって、前記燃焼圧を動力として効率良くクランクシャフトに取り出してクランク回転の速やかな立ち上がりが得られると共に、後期燃焼において該燃焼後の最初に訪れるバルブオーバーラップ期間を大きくすることによって、排気エミッション性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の可変動弁装置が適用される内燃機関を示す概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態に供される可変動弁装置を示す要部斜視図である。
【図3】A及びBは可変動弁装置である排気VELによる小リフト制御時の作動説明図である。
【図4】A及びBは同排気VELによる最大リフト制御時の作動説明図である。
【図5】本実施形態に供される駆動機構を一部断面して示し、Aは最小リフト位置に保持されたす状態を示し、Bは最大リフト位置に制御された作動説明図である。
【図6】本実施形態における排気弁のバルブリフト量と作動角の特性図である。
【図7】第2実施形態に供される排気VTCの要部を断面して示す作動説明図であって、Aは最大遅角制御状態を示す図8のA−A線断面図、Bは最大進角制御状態を示す図8のA−A線断面図である。
【図8】同排気VTCの縦断面である。
【図9】第1実施形態における排気VELによる排気弁の開閉時期を示す特性図である。
【図10】第1実施形態における排気VELによる各気筒の時系列制御説明図である。
【図11】第1実施形態の技術的効果をまとめて示す表である。
【図12】第1実施形態のコントローラによる制御フローチャート図である。
【図13】第2実施形態における排気VTCと吸気VTCによる排気弁と吸気弁のそれぞれの開閉時期を示す特性図である。
【図14】第2実施形態における排気VTCと吸気VTCによる各気筒の時系列制御説明図である。
【図15】第2実施形態のコントローラによる制御フローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る内燃機関の可変動弁装置及び該可変動弁装置のコントローラの各実施例を図面に基づいて詳述する。
〔第1実施形態〕
この実施形態では、火花点火式ガソリン仕様のいわゆる4サイクル4気筒内燃機関に適用したものであって、自らの意思によらず機関の停止、始動するアイドリングストップ車に適用されている。
【0013】
この内燃機関は、図1に示すように、シリンダブロック01とシリンダヘッド02との間に、ピストン03を介して燃焼室04が形成されていると共に、前記シリンダヘッド02のほぼ中央位置に点火プラグ05が設けられている。
【0014】
前記ピストン03は、図外のピストンピンに一端部が連結されたコネクチングロッド06を介してクランクシャフト07に連結されており、このクランクシャフト07は、冷機時の通常の始動やアイドリングストップ後の自動的な始動がピニオンギア機構08を介して駆動モータ09によって行われるようになっている。なお、前記クランクシャフト07は、後述するクランク角センサ010によってクランク角及び回転数が検出されるようになっている。
【0015】
前記シリンダブロック01には、ウォータジャケット内の水温を検出する水温センサ011が取り付けられていると共に、シリンダヘッド02には、燃焼室04内に燃料を噴射する燃料噴射弁012が設けられている。
【0016】
さらに、シリンダヘッド02の内部に形成された吸気ポート013や排気ポート014を開閉する1気筒当たりそれぞれ2つ吸気弁4、4及び排気弁5、5がそれぞれ摺動自在に設けられていると共に、前記吸気弁4側と排気弁5側には、可変動弁装置が設けられている。
【0017】
前記可変動弁装置は、図2〜図4に示すように、内燃機関の両排気弁5,5のバルブリフト及び作動角(開期間)を制御する第1可変機構である排気VEL1と、排気弁5,5の開閉時期(バルブタイミング)を制御する第2可変機構である排気VTC2と、吸気弁4の開閉時期を制御する吸気VTC3と、を備えている。また、前記排気VEL1と排気VTC2及び吸気VTC3は、後述するコントローラ22によって機関運転状態に応じてそれぞれの作動が制御されるようになっている。
【0018】
この第1実施形態では、前記排気VEL1のみを使用し、排気VTC2と吸気VTC3は第1実施形態では使用せずに第2実施形態のみで使用するが、便宜上、この図2中に合わせて記載した。
〔第1実施形態の可変動弁装置〕
前記排気VEL1は、本出願人が先に出願した例えば特開2003−172112号公報(吸気弁側に適用)などに記載されたものと同様の構成であるから、図2及び図3に基づいて簡単に説明すると、シリンダヘッド02の上部に有する軸受27に回転自在に支持された中空状の駆動軸6と、該駆動軸6の外周面に圧入等により固設された回転カム7と、駆動軸6の外周面に揺動自在に支持されて、各排気弁5,5の上端部に配設された各バルブリフター8、8の上面に摺接して各排気弁5,5を開作動させる2つの揺動カム9,9と、回転カム7と揺動カム9,9との間に介装されて、回転カム7の回転力を揺動運動に変換して揺動カム9,9に揺動力として伝達する伝達機構とを備えている。
【0019】
前記駆動軸6は、一端部に設けられたタイミングスプロケット31を介して前記クランクシャフト07から図外のタイミングチェーンによって回転力が伝達されており、この回転方向は図2中、時計方向(矢印方向)に設定されている。なお、この第1実施形態では、前記駆動軸6とタイミングスプロケット31との位相は変化しない。すなわち、排気VTC2は装着されているものの使用されず位相変換は行われない。
【0020】
前記回転カム7は、ほぼリング状を呈し、内部軸方向に形成された駆動軸挿通孔を介して駆動軸6に貫通固定されていると共に、カム本体の軸心Yが駆動軸6の軸心Xから径方向へ所定量だけオフセットしている。
【0021】
前記両揺動カム9は、円筒状のカムシャフト10の両端部に一体的に設けられていると共に、該カムシャフト10が内周面を介して駆動軸6に回転自在に支持されている。また、下面にベースサークル面やランプ面及びリフト面からなるカム面9aが形成されており、該ベースサークル面とランプ面及びリフト面が、揺動カム9の揺動位置に応じて各バルブリフター8の上面の所定位置に当接するようになっている。
【0022】
前記伝達機構は、駆動軸6の上方に配置されたロッカアーム11と、該ロッカアーム11の一端部11aと回転カム7とを連係するリンクアーム12と、ロッカアーム11の他端部11bと揺動カム9とを連係するリンクロッド13とを備えている。
【0023】
前記ロッカアーム11は、中央に有する筒状の基部が支持孔を介して後述する制御カムに回転自在に支持されていると共に、一端部11aがピン14によってリンクアーム12に回転自在に連結されている一方、他端部11bがリンクロッド13の一端部13aにピン15を介して回転自在に連結されている。
【0024】
前記リンクアーム12は、円環状の基端部12aの中央位置に有する嵌合孔に前記回転カム7のカム本体が回転自在に嵌合している一方、基端部12aから突出した突出端12bが前記ピン14によってロッカアーム一端部11aに連結されている。
【0025】
前記リンクロッド13は、他端部13bがピン16を介して揺動カム9のカムノーズ部に回転自在に連結されている。
【0026】
また、駆動軸6の上方位置に同じ軸受部材に制御軸17が回転自在に支持されていると共に、該制御軸17の外周に前記ロッカアーム11の支持孔に摺動自在に嵌入されて、ロッカアーム11の揺動支点となる制御カム18が固定されている。
【0027】
前記制御軸17は、駆動軸6と並行に機関前後方向に配設されていると共に、駆動機構19によって回転制御されている。一方、前記制御カム18は、円筒状を呈し、軸心P2位置が制御軸17の軸心P1から所定分だけ偏倚している。
【0028】
前記駆動機構19は、図5A,Bに示すように、ケーシング19aの一端部に固定された電動モータ20と、ケーシング19aの内部に設けられて電動モータ20の回転駆動力を前記制御軸17に伝達するボール螺子伝達手段21とから構成されている。
【0029】
前記電動モ−タ20は、比例型のDCモータによって構成され、機関運転状態を検出する制御機構であるコントローラ22からの制御信号によって駆動するようになっている。
【0030】
前記ボール螺子伝達手段21は、電動モータ20の駆動シャフト20aとほぼ同軸上に配置されたボール螺子軸23と、該ボール螺子軸23の外周に螺合する移動部材であるボールナット24と、前記制御軸17の一端部に直径方向に沿って連結された連係アーム25と、該連係アーム25と前記ボールナット24とを連係するリンク部材26とから主として構成されている。
【0031】
前記ボール螺子軸23は、両端部を除く外周面全体に所定幅のボール循環溝23aが螺旋状に連続して形成されていると共に、一端部にモータ駆動軸を介して連結され電動モータ20によって回転駆動されるようになっている。
【0032】
前記ボールナット24は、ほぼ円筒状に形成され、内周面に前記ボール循環溝23aと共同して複数のボールを転動自在に保持するガイド溝24aが螺旋状に連続して形成されていると共に、各ボールを介してボール螺子軸23の回転運動をボールナット24に直線運動に変換しつつ軸方向の移動力が付与されるようになっている。また、このボールナット24は、付勢手段であるコイルスプリング30のばね力によって電動モータ20側(最小リフト側)に付勢されている。したがって、機関停止時には、かかるボールナット24が、前記コイルスプリング30のばね力によってボール螺子軸23の軸方向に沿って最小リフト側に移動するようになっている。
【0033】
前記コントローラ22は、機関コントロールユニット(ECU)の内部に組み込まれており、現在の機関回転数N(rpm)やクランク角を検出する前記クランク角センサ010からの検出信号やアクセル開度センサ、車速センサ、ギア位置センサ、前記水温センサ011などから各種情報信号から現在の機関運転状態を検出している。また、駆動軸6の回転角度を検出する駆動軸角度センサ28からの検出信号や、前記制御軸17の回転位置を検出するポテンショメータ29からの検出信号を入力して、駆動軸6のクランク角に対する相対回転角度や各排気弁5,5のバルブリフト量や作動角を検出するようになっている。
【0034】
以下、前記排気VEL1の基本作動を説明すると、所定の運転領域で、前記コントローラ22からの制御電流によって一方向へ回転駆動した電動モータ20の回転トルクによってボール螺子軸23が一方向へ回転すると、ボールナット24が、図5Aに示すように、コイルスプリング30のばね力にアシストされながら最大一方向(電動モータ20に接近する方向)へ直線状に移動し、これによって制御軸17がリンク部材26と連係アーム25を介して一方向へ回転する。
【0035】
したがって、制御カム18は、図3A、B(フロントビュー)に示すように、軸心が制御軸17の軸心の回りを同一半径で回転して、肉厚部が駆動軸6から上方向に離間移動する。これにより、ロッカアーム11の他端部11bとリンクロッド13の枢支点は、駆動軸6に対して上方向へ移動し、このため、各揺動カム9は、リンクロッド13を介してカムノーズ部側が強制的に引き上げられて全体が図3に示す時計方向へ回動する。
【0036】
よって、回転カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド13を介して揺動カム9及びバルブリフター16に伝達され、これによって、排気弁5,5は、そのバルブリフト量が図6のバルブリフト曲線で示すように小リフト(L1)になり、その作動角D1(クランク角での開弁期間)が小さくなる。前記作動角は、前記排気弁5のリフトの開時期から閉時期までを示している。
【0037】
別の運転状態では、コントローラ22からの制御信号によって電動モータ20が他方向へ回転して、この回転トルクがボール螺子軸23に伝達されて回転すると、この回転に伴ってボールナット24がコイルスプリング30のばね力に抗して反対方向、つまり、図5A中、右方向へ所定量だけ直線移動する。これにより、制御軸17が、図3中、時計方向へ所定量だけ回転駆動する。
【0038】
このため、制御カム18は、軸心が制御軸17の軸心P1から所定量だけ下方の回転角度位置に保持され、肉厚部が下方へ移動する。このため、ロッカアーム11は、全体が図3の位置から反時計方向へ移動して、これによって各揺動カム9がリンクロッド13を介してカムノーズ部側が強制的に押し下げられて、全体が反時計方向へ僅かに回動する。
【0039】
したがって、前記回転カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド13を介して各揺動カム9及びバルブリフター8に伝達され、排気弁5,5のリフト量が図6に示すように、中リフト(L2)あるいは大リフト(L3)になり、作動角もD2、D3のように大きくなる。
【0040】
また、例えば高回転高負荷領域に移行した場合などは、コントローラ22からの制御信号によって電動モータ20がさらに他方向に回転してボールナット24を、図5Bに示すように、最大右方向へ移動させる。これにより、制御軸17は、制御カム18をさらに図3中、時計方向へ回転させて、軸心P2をさらに下方向へ回動させる。このため、ロッカアーム11は、図4A、Bに示すように、全体がさらに駆動軸6方向寄りに移動して他端部11bが揺動カム9のカムノーズ部を、リンクロッド13を介して下方へ押圧して該揺動カム9全体を所定量だけさらに反時計方向へ回動させる。
【0041】
よって、回転カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド13を介して揺動カム9及びバルブリフター8に伝達されるが、そのバルブリフト量は図6に示すようにL2、L3からL4に連続的に大きくなる。その結果、高回転域での排気効率を高め、もって出力を向上させることができる。
【0042】
すなわち、排気弁5,5のリフト量は、機関の運転状態に応じて中リフトL2、大リフトL3から最大リフトL4まで連続的に変化するようになっており、したがって、各排気弁5,5の作動角も小リフトD1から大リフトのD4まで連続的に変化する。
【0043】
また、機関の停止時には、前述したように、ボールナット24がコイルスプリング30のばね力によって電動モータ20側へ付勢されて自動的に移動することから、小作動角D1及び小リフトL1位置(デフォルト位置)に安定に保持される。
〔第2実施形態の可変動弁装置〕
第2実施形態に供される前記排気VTC2は、いわゆるベーンタイプのものであって、図7A,B及び図8に示すように、機関のクランクシャフト07によって回転駆動されて、この回転駆動力を前記駆動軸6に伝達する前記タイミングスプロケット31と、前記駆動軸6の端部に固定されてタイミングスプロケット31内に回転自在に収容されたベーン部材32と、該ベーン部材32を油圧によって正逆回転させる油圧回路とを備えている。
【0044】
前記タイミングスプロケット31は、前記ベーン部材32を回転自在に収容したハウジング34と、該ハウジング34の前端開口を閉塞する円板状のフロントカバー35と、ハウジング34の後端開口を閉塞するほぼ円板状のリアカバー36とから構成され、これらハウジング34及びフロントカバー35,リアカバー36は、4本の小径ボルト37によって駆動軸6の軸方向から一体的に共締め固定されている。
【0045】
前記ハウジング34は、前後両端が開口形成された円筒状を呈し、内周面の周方向の約90°位置に4つの隔壁であるシュー34aが内方に向かって突設されている。
【0046】
この各シュー34aは、横断面ほぼ台形状を呈し、ほぼ中央位置に前記各ボルト37の軸部が挿通する4つのボルト挿通孔34bが軸方向へ貫通形成されていると共に、各内端面に軸方向に沿って切欠形成された保持溝内に、コ字形のシール部材38と該シール部材38を内方へ押圧する図外の板ばねが嵌合保持されている。
【0047】
前記フロントカバー35は、円盤プレート状に形成されて、中央に比較的大径な支持孔35aが穿設されていると共に、外周部に前記各シュー34aの各ボルト挿通孔34bに対応する位置に図外の4つのボルト孔が穿設されている。
【0048】
前記リアカバー36は、後端側に前記タイミングチェーンが噛合する歯車部36aが一体に設けられていると共に、ほぼ中央に大径な軸受孔36bが軸方向に貫通形成されている。
【0049】
前記ベーン部材32は、中央にボルト挿通孔を有する円環状のベーンロータ32aと、該ベーンロータ32aの外周面の周方向のほぼ90°位置に一体に設けられた4つのベーン32bとを備えている。
【0050】
前記ベーンロータ32aは、前端側の小径筒部が前記フロントカバー35の支持孔35aに回転自在に支持されている一方、後端側の小径な円筒部が前記リアカバー36の軸受孔36bに回転自在に支持されている。
【0051】
また、ベーン部材32は、前記ベーンロータ32aのボルト挿通孔に軸方向から挿通した固定ボルト57によって駆動軸6の前端部に軸方向から固定されている。
【0052】
前記各ベーン32bは、その内の3つが比較的細長い長方体形状に形成され、他の1つの幅長さが大きな台形状に形成されて、前記3つのベーン32bはそれぞれの幅長さがほぼ同一に設定されているのに対して1つのベーン32bはその幅長さが前記3つのものよりも大きく設定されて、ベーン部材32全体の重量バランスが取られている。
【0053】
また、各ベーン32bは、各シュー34a間に配置されていると共に、各外面の軸方向に形成された細長い保持溝内に前記ハウジング34の内周面に摺接するコ字形のシール部材40及び該シール部材40をハウジング34の内周面方向に押圧する板ばねが夫々嵌着保持されている。また、各ベーン32bの前記駆動軸6の回転方向と反対側のそれぞれの一側面には、ほぼ円形状の2つの凹溝32cがそれぞれ形成されている。
【0054】
また、この各ベーン32bの両側と各シュー34aの両側面との間に、それぞれ4つの進角側油圧室41と遅角側油圧室42がそれぞれ隔成されている。
【0055】
前記油圧回路は、図8に示すように、前記各進角側油圧室41に対して作動油の油圧を給排する第1油圧通路43と、前記各遅角側油圧室42に対して作動油の油圧を給排する第2油圧通路44との2系統の油圧通路を有し、この両油圧通路43,44には、供給通路45とドレン通路46とが夫々通路切り換え用の電磁切換弁47を介して接続されている。前記供給通路45には、オイルパン48内の油を圧送する一方向のオイルポンプ49が設けられている一方、ドレン通路46の下流端がオイルパン48に連通している。
【0056】
前記第1、第2油圧通路43,44は、円柱状の通路構成部39の内部に形成され、この通路構成部39は、一端部が前記ベーンロータ32aの小径筒部から内部の支持穴32d内に挿通配置されている一方、他端部が前記電磁切換弁47に接続されている。
【0057】
また、前記通路構成部39の一端部の外周面と支持穴14dの内周面との間には、各油圧通路43,44の一端側間を隔成シールする3つの環状シール部材27が嵌着固定されている。
【0058】
前記第1油圧通路43は、前記支持穴32dの駆動軸6側の端部に形成された油室43aと、ベーンロータ32aの内部にほぼ放射状に形成されて油室43aと各進角側油圧室41とを連通する4本の分岐路43bとを備えている。
【0059】
一方、第2油圧通路44は、通路構成部39の一端部内で止められ、該一端部の外周面に形成された環状室44aと、ベーンロータ32の内部にほぼL字形状に折曲形成されて、前記環状室44aと各遅角側油圧室42と連通する第2油路44bとを備えている。
【0060】
前記電磁切換弁47は、4ポート3位置型であって、内部の弁体が各油圧通路43、44と供給通路45及びドレン通路46とを相対的に切り替え制御するようになっていると共に、前記コントローラ22からの制御信号によって切り替え作動されるようになっている。
【0061】
この排気VTC2の電磁切換弁47は、制御電流が作用しない場合に、供給通路45が遅角側油圧室42に連通する第2油圧通路44と連通し、ドレン通路46が進角側油圧室41と連通する前記第1油圧通路43に連通するようになっている。また、電磁切換弁47内のコイルスプリングによって機械的にかかるポジションとなるように形成されている。
【0062】
このコントローラ22は、排気VEL1と共通のものであって、機関運転状態を検出すると共に、クランク角センサ27及び駆動軸角度センサ28からの信号によってタイミングスプロケット31と駆動軸6との相対回転位置を検出している。
【0063】
また、前記ベーン部材32とハウジング34との間には、このハウジング34に対してベーン部材32の回転を拘束及び拘束を解除する拘束手段であるロック機構が設けられている。このロック機構は、前記幅長さの大きな1つのベーン32bとリアカバー36との間に設けられ、前記ベーン32bの内部の駆動軸6の軸方向に沿って形成された摺動用穴50と、該摺動用穴50の内部に摺動自在に設けられた有蓋円筒状のロックピン51と、前記リアカバー36に有する固定孔内に固定された横断面カップ状の係合穴構成部52に設けられて、前記ロックピン51のテーパ状先端部51aが係脱する係合穴52aと、前記摺動用穴50の底面側に固定されたスプリングリテーナ53に保持されて、ロックピン51を係合穴52a方向へ付勢するばね部材54とから構成されている。
【0064】
また、前記係合穴52aには、図外の油孔を介して前記遅角側油圧室42内の油圧あるいはオイルポンプ49の油圧が直接供給されるようになっている。
【0065】
そして、前記ロックピン51は、前記ベーン部材32が最遅角側に回転した位置で、先端部51aが前記ばね部材54のばね力によって係合穴52aに係合してタイミングスプロケット31と駆動軸6との相対回転をロックする。また、前記遅角側油圧室42から係合穴52a内に供給された油圧あるいはオイルポンプ49の油圧によって、ロックピン51が後退移動して係合穴52aとの係合が解除されるようになっている。
【0066】
また、前記各ベーン32bの一側面と該一側面に対向する各シュー34aの対向面との間には、ベーン部材32を遅角側へ回転付勢する付勢部材である一対のコイルスプリング55、56が配置されている。
【0067】
各コイルスプリング55,56は、最大圧縮変形時にも互いが接触しない軸間距離をもって並設されていると共に、各一端部がベーン32bの凹溝32cに嵌合する図外の薄板状のリテーナを介して連結されている。
【0068】
以下、排気VTC2の基本的な動作を説明すると、まず、機関停止時には、コントローラ22から電磁切換弁47に対する制御電流の出力が停止されて、弁体がコイルスプリング55,56のばね力によって機械的に図7Aに示すデフォルト位置になり、供給通路45と遅角側の第2油圧通路44とが連通されると共に、ドレン通路46と第1油圧通路43が連通される。また、かかる機関が停止された状態ではオイルポンプ49の油圧が作用せず供給油圧も0になる。
【0069】
したがって、ベーン部材32は、図7Aに示すように、前記各コイルスプリング55,56のばね力によって最遅角側に回転付勢されて1つの幅広ベーン32bの一端面が対向する1つのシュー34aの一側面に当接する、と同時に前記ロック機構のロックピン51の先端部51aが係合穴52a内に係入して、ベーン部材32をかかる最遅角位置に安定に保持する。すなわち、最遅角位置に排気VTC2が機械的に安定するデフォルト位置になっている。
【0070】
ここで、デフォルト位置とは、非作動時、つまり、制御信号が発せられない場合にメカニカルに自動的に安定する位置のことである。
【0071】
次に、機関始動時、つまりイグニッションスイッチをオン操作して、駆動モータ09などによりクランクシャフトをクランキング回転させると、電磁切換弁47にコントローラ22から制御信号が出力されるようになる。しかしながら、このクランク開始直後の時点では、まだオイルポンプ49の吐出油圧が十分に上昇していないことから、ベーン部材32は、ロック機構と各コイルスプリング55,56のばね力とによって最遅角側に保持されている。
【0072】
このとき、コントローラ22から出力された制御信号によって電磁切換弁47が供給通路45と第2油圧通路44を連通させると共に、ドレン通路46と第1油圧通路43とを連通させている。そして、クランキングが進み、オイルポンプ49から圧送された油圧の油圧上昇とともに第2油圧通路44を通って遅角側油圧室42に供給される一方、進角側油圧室41には、機関停止時と同じく油圧が供給されずにドレン通路46から油圧がオイルパン48内に開放されて低圧状態を維持している。
【0073】
ここで、クランキング回転が上昇し油圧がさらに上昇した後は、電磁切換弁47による自在のベーン位置制御ができるようになる。すなわち、遅角側油圧室42の油圧の上昇に伴ってロック機構の係合穴52a内の油圧も高まってロックピン51が後退移動し、先端部51aが係合穴52aから抜け出してハウジング34に対するベーン部材32の相対回転を許容するため、自在なベーン位置制御が可能になる。
【0074】
例えば、コントローラ22からの制御信号によって電磁切換弁47が作動して、供給通路45と第1油圧通路43を連通させる一方、ドレン通路46と第2油圧通路44を連通させる。
【0075】
したがって、今度は遅角側油圧室42内の油圧が第2油圧通路44を通ってドレン通路46からオイルパン48内に戻され、該遅角側油圧室42内が低圧になる一方、進角側油圧室41内に油圧が供給されて高圧となる。
【0076】
よって、ベーン部材32は、かかる進角側油圧室41内の高圧化によって各コイルスプリング55,56のばね力に抗して図中時計方向へ回転して図7Bに示す位置に向かって相対回転して、タイミングスプロケット31に対する駆動軸6の相対回転位相を進角側に変換する。また、電磁切換弁47のポジションを中立位置にすることで、任意の相対回転位相に保持できる。
【0077】
さらに、始動後の機関運転状態に応じて前記相対回転位相を最遅角(図7A)から最進角(図7B)まで連続的に変化させるのである。
【0078】
次に、第2実施形態に使用される前記吸気VTC3は、基本構成は、排気VTC2と同様にベーンタイプのものであるから、簡単に説明すると、吸気カムシャフト59の端部に配置されてクランクシャフト07から回転駆動力が伝達されるタイミングスプロケット60と、該タイミングスプロケット60の内部に回転自在に収容された図外のベーン部材と、該ベーン部材を油圧によって正逆回転させる油圧回路とを備えている。なお、この吸気VTC3も、この第1実施形態では作動せず、固定されたスプロケットとして機能するだけである。
【0079】
前記油圧回路は、基本的に排気VTC2のものと同様であり、前述の3ポジション(図8参照)も同様の構成になっている。
【0080】
電磁切換弁も排気VTC2のものと同じ構成であり、内部の弁体が各油圧通路と供給通路及びドレン通路とを相対的に切り替え制御するようになっていると共に、前記同じコントローラ22からの制御信号によって切り替え作動されるようになっている。
〔第1実施形態における排気弁の開閉時期制御〕
図9は第1実施形態における各吸気弁4と各排気弁5のそれぞれの開閉時期を示し、この実施形態では、前記吸気VTC3は作動しないので、吸気弁4の開時期IOと閉時期ICは固定的になっている。
【0081】
一方、各排気弁5側では、排気VEL1によって最小リフトL1(最小作動角D1)に制御されている場合は、開時期と閉時期が図示のEO1、EC1になっている。同様に、中間リフトL2(中間作動角D2)では、EO2、EC2、大リフトL3(大作動角D3)では、EO3、EC3となっている。
【0082】
図9はクランクシャフト07の姿勢も示している。クランクピンとピストンピンは、実際は前述のようにコンロッドを介して連結されているが(図1参照)、図9では、分かりやすくするために、ピストンピン位置をクランクピン位置と一致させて簡略表現している。これでも、クランク角とピストン位置の関係を十分説明できるものである。
【0083】
図10は本実施形態における4気筒機関のサイクル(行程)を時系列に記載したものであって、始動制御を開始する前の機関停止状態においては、膨張行程で停止している気筒が例えば#2気筒だったとして、各気筒でのサイクル作動と吸気、排気弁4,5の作動を時系列にまとめたものである。横軸には、#2気筒の圧縮上死点(TDC)を基準にしてクランク総回転角θを取ってあり、縦軸には、上から点火順序に応じて#2気筒−#1気筒−#3気筒−#4気筒の順に取ってある。ここで、#で示すナンバーは、4気筒内燃機関の各気筒を前方から数えたナンバーである。つまり、点火順序を最前端の#1気筒から数えれば、#1気筒−#3気筒−#4気筒−#2気筒という基本点火順序になっている。
【0084】
機関が停止している状態では、前述のクランク総回転角θは90°付近(縦破線)となっている。
【0085】
図9において機関が停止する間際の筒内圧を考察すると、既に燃料噴射や点火は行われなくなり、筒内には空気が出し入れされるだけであり、クランクシャフト07は、図1中、ゆっくり時計方向に回転しながら減速している。#2気筒は膨張行程にあるが、θ90°を越えて時計方向へ回転すると、圧縮行程にある#1気筒のコンプレッションが高まるまでの#1気筒のピストン03を介して#1気筒のクランクピンが押し下げられ、クランクシャフト07は反時計方向に回転し始める。そうすると、今度は、#2気筒のコンプレッションが増加してクランクシャフト07を時計方向に回転させようとする。これを交互に繰り返すことでθ90°付近に落ち着くのである。
【0086】
図9の説明に戻るが、機関の停止状態では、多少のばらつきはあるもののθ90°付近に落ち着いている。そして、機関停止を向かえるや否や、各吸気弁4と各排気弁5の両方が閉弁状態にある#2気筒と#1気筒においてもピストン03外周の隙間から大気圧が筒内に浸入して来て、筒内圧はほぼ大気圧状態になる。
【0087】
次に、始動条件になると、膨張行程の気筒(図9,図10における#2気筒)において、燃料噴射を行い、その後に点火を行って、燃焼圧そのものによってクランクシャフト07を回転させる(燃焼自力始動)。
【0088】
しかしながら、この初回燃焼圧は低い。なぜなら、筒内の空気容量は理論気筒当たり排気量の約半分程度しかない上に、筒内圧は大気圧程度しかないからである。したがって、この初回燃焼により、次の気筒(#1気筒)のピストン03が圧縮上死点を越える際の反力(コンプレッション)に打ち勝ってクランクシャフト07を回転させるのは容易ではない。
【0089】
そこで、各排気弁5の開時期(EO1)を、図9に示すように、ピストン下死点側に遅角制御している。すなわち、燃焼圧が抜ける時期を遅らせることによって、この非力な燃焼圧にも拘わらず動力として効率が良くクランクシャフト07に駆動トルクとして取り出し(膨張ストローク増大)、クランクシャフト07の回転立ち上がりを早くできると共に、確実に次の気筒(#1気筒)が圧縮上死点を乗り越えることが可能になるのである。
【0090】
一方、その後の排気弁5の閉時期(EC1)は、最小作動角D1であることから、ピストン上死点(TDC)付近まで進角する。この結果、次の吸気弁4の開時期(IO)との間のバルブオーバーラップ(O/L)期間は小さくなるか、あるいは零ないしマイナスになるのである。
【0091】
このバルブオーバーラップを小さくすることによって、以下の特異な効果が得られる。
【0092】
すなわち、初回燃焼による燃焼ガスの量は少ないため、この燃焼ガスを燃焼直後のO/L期間中に吸気系に吐き出す量が減少して、極力排気系に流れるようにして排気触媒の初期加熱を促進できるためである。また、この燃焼ガスは、筒内圧が低い(大気圧)状態で燃焼したものであるから、不完全燃焼による燃え残りがあり、これが排気触媒内で熱反応する。この面からも排気触媒の初期加熱を促進することができ、これによって、後の行程も含めて排気エミッション性能の低下を抑制できる。
【0093】
続いて、次の膨張(燃焼)行程の気筒(#1気筒)について考察すると、機関が停止しているθ90°付近では、#1気筒は圧縮行程にあり、筒内は前述したように、ほぼ大気圧になっている。気筒の容積(量)は、#2気筒の初回燃焼によりクランクシャフト07が回転すると、#1気筒はピストン03の上昇に伴って筒内圧が高なっていく。そして、筒内への燃料噴射と点火(第2燃焼)が行われる。
【0094】
この第2燃焼は、第1燃焼(初回燃焼)に比べて圧縮圧力がやや高く(有効圧縮比約5で約5気圧程度)、燃焼圧がやや大きくなっている。
【0095】
しかしながら、前述のように、気筒内の空気量は第1燃焼と同程度しかないため、燃焼圧は第1燃焼よりは高いものの、不十分な状態にある。そのため、燃焼直後の排気弁5の開時期は、図10に示すようにEO1を維持する。これによって、不十分な燃焼圧を動力として効率良くクランクシャフト07に駆動トルクとして取り出して、該クランクシャフト07の回転の立ち上がりをさらに早くすることができる。
【0096】
そして、クランク総回転角θが360°を越えたあたりのθ2(第2燃焼気筒のEO1直後)に達すると、排気VEL1に中作動角D2(中リフトL2)に切り換える信号を送る。それに基づき、排気弁5の閉時期はEC2に遅角制御されるのである。したがって、この第2燃焼気筒については、排気弁5の開時期EO1のままで閉時期はEC2になったことになる。
【0097】
このEC2に遅角制御されたことによって、次の吸気弁4の開時期IOとの間に中程度のバルブオーバーラップO/L期間ができる。これによって、排気行程の最後のあたりで、ピストンが掻き上げて排出する高濃度のハイドロカーボンHCを排気系ではなく吸気系にある程度排気戻すことによって、次燃焼(第6燃焼)でこの高濃度HCを再燃焼させることで、HCの排出量を抑制することができる。
【0098】
一方、この中程度のO/L期間により、排気管下流側に設けられた触媒側に流れる燃焼ガス(排気ガス)の絶対量はやや低下するが、初回燃焼による初期暖機効果が残っており、また、前述の高濃度HC排気ガスの排出低減と相俟ってエミッションを低減できる。また前述の中程度のO/L期間によってポンプ損失がある程度低減するので、燃費も可及的に低減できる。ここでは、前記O/Lを中程度の期間としているが、θ2の時期を遅らせEC1のままとし、小期間のO/Lを継続して、触媒に流れる燃焼ガスの絶対量を増加させて初期温度上昇効果をさらに高めることも可能である。
【0099】
次に、第3燃焼気筒(#3気筒)について説明する。
【0100】
機関が停止しているθ90°付近では、吸気行程の途中になっている。クランクシャフト07が回転してピストン03が下死点まで降下すると、回転が低いこともあって、ハーフストロークではあるが、比較的多くの空気量を吸気弁4から筒内に導くことができる。そして、ピストン下死点(BDC)から上死点(TDC)に向かってフルストロークで十分圧縮することができる。この結果、第1燃焼や第2燃焼よりも高い筒内圧にすることができ、また、第1・第2燃焼気筒に対し回転が上昇したことによる吸入空気量の増加に伴って燃焼ガス量も増加する。
【0101】
したがって、駆動トルクも高められるので、排気弁5の開時期EO2をやや早めることができ、燃焼温度がまだ高い状態で大量の排気ガスを触媒に送ることができる。これによって、触媒をさらに加熱して活性化を高め、もって、第3燃焼により増加して排気ガス量(エミッション量)を効果的に浄化することができる。また、排気弁5の開時期EO2を早めることによって、排気押し出し損失を低減でき、燃費を削減できる。
【0102】
ここで、排気弁5の開時期がEO2に変化しているのは、前述したθ2の段階で排気VEL1が中間作動角D2への切り換え信号が出力されたためである。さらに、θがθ3(第2燃焼気筒のEC2の直後)になると、さらに大作動角D3への変換信号が出力される。これによって、排気弁5の開時期はEO2であるが閉時期はEC3まで遅角制御される。
【0103】
この結果、第3燃焼のO/Lは、排気弁閉時期EC3と吸気弁開時期IOとの間の大きな期間となる。
【0104】
したがって、第3燃焼による大量の排気ガスから排気行程末期に排出される高濃度HCを大O/Lにより効率的に吸気系に戻し、再度燃焼させる(第7燃焼)ことによって機関から触媒に排出される排気ガス中のHC量を低減できる。
【0105】
これと、前述の排気弁5開時期EO2の進角制御による触媒の活性化と相俟って十分に排気エミッションを低減できる。
【0106】
また、O/Lの拡大化によってポンプ損失を大幅に低減できることから、この点でも燃費を削減できる。
【0107】
次に、第4燃焼気筒(#4気筒)について説明する。
【0108】
機関が停止しているθ90°付近では、排気行程の途中になっている。機関が回転し始めると、ピストン03が上死点に向けて上昇し、筒内にある空気を、排気弁5を介して排気系に排出し、その後、ピストン03が上死点から下降すると吸気弁4から空気を吸い込む。ここで、ピストン上死点付近からフルストロークで空気を最大限吸い込むことができる。
【0109】
したがって、第3燃焼気筒以上に大量の空気を吸い込むことができ、またフルストロークで圧縮できるので、燃焼圧と排気ガス量もそれぞれ一層増加する。
【0110】
ここで、排気弁5の開閉時期であるが、これら両者ともにθ3より後であり、それぞれEO3、EC3となっている。すなわち、排気弁5の開時期が、EO3になって十分に進角しているので、温度の高い排気ガスを多量に触媒に送り込め、加熱による一層の触媒の活性化が図れる。また、第3燃焼気筒と同様、大きなO/L期間となっているので、第4燃焼による大量の排気ガスから排気行程末期に排出される高濃度のHCを、この大きなO/L期間によって効率的に吸気系に戻して再燃焼させる(第8燃焼)ことによって、機関から触媒に排出されるHCの排出量を低減できる。これと前述の排気弁5の閉時期進角(EO3)による触媒の活性化と相俟ってエミッションを十分に低減できる。
【0111】
なお、排気弁5の開時期の十分な進角制御(EO3)による十分な排気押し出し損失低減と、O/L期間の拡大化による大幅なポンプ損失低減により、一層の燃費低減効果も得られる。
【0112】
以上の本実施形態における技術的効果をまとめると、図11の表のようになる。すなわち、燃焼が非力な第1燃焼(第1気筒)では、排気弁5の開時期EO1を遅角させ、燃焼圧をクランクシャフト07に有効にトルク変換してクランクシャフト07の回転立ち上がりを迅速化する。
【0113】
また、O/L期間を小さくして、燃焼ガスを極力触媒側に流して、未撚ガスが多いこともあって該触媒の初期温度上昇を促して触媒の初期活性を高める。
【0114】
燃焼がやや非力な第2燃焼(第2気筒)では、第1燃焼と同様に排気弁5の開時期EO1を遅角させて、燃焼圧を有効にクランクシャフト07のトルクに変換して、クランクシャフト07の回転の立ち上がりの迅速化を図る。また、中程度のO/L期間とし、排気行程の末期に排出される高濃度のHCを吸気側に再吸入させることによって、HCの排出量を抑制し、また、ポンプ損失を低減させて燃費を削減する。あるいは、第1燃焼と同様の小さなO/Lを維持して触媒温度上昇を一層早めることができる。
【0115】
クランクシャフト07の回転が上昇して燃焼ガスが増加する第3燃焼(第3気筒)では、排気弁5の開時期EO2をやや進角制御して燃焼ガスの温度が低下しない間に触媒側に送って触媒をさらに加熱してさらに活性化させる。
【0116】
また、バルブオーバーラップO/Lの期間の拡大化によって排気行程の末期に排出される高濃度HCを吸気側に再吸入させることによってHCの排出量を効率良く抑制し、もって、排気エミッションを低減させる。また、排気弁5の開時期EO2をやや進角制御して、排気ガスの増加による排気押し出し損失を低減すると共に、ポンプ損失もバルブオーバーラップO/L期間の拡大により低下させて燃費の低減化を図る。
【0117】
クランクシャフト07の回転がさらに上昇して燃焼ガスも増加する第4燃焼(第4気筒)では、排気弁5の開時期EO3を十分進角制御して、燃焼ガスの温度が低下しないうちに触媒側に送り込んで、触媒をさらに加熱して活性化を促進させる。
【0118】
また、O/L期間の拡大化により排気行程の末期に排出される高濃度のHCを吸気側に再吸入させることによって、HCの排出量を効果的に抑制し、もって、排気エミッションを効率的に低減する。また、開時期EO3を十分に進角させて排気ガスの増加により一層増加する排気押し出し損失を低減させ、ポンプ損失も低減させ、バルブオーバーラップO/Lの期間の拡大により燃費の向上を図る。
【0119】
また、前記第3燃焼でEO2と、第4燃焼でEO3が遅角制御されることによって、前述の効果に加えて燃焼始動による迅速始動の後行程で機関回転が吹き上がるのを、排気弁5を早めに開いて燃焼ガスを逃がすことによって抑制することができる。
【0120】
さらに、第2燃焼以降、バルブオーバーラップO/Lの期間を中から拡大化していく。これによって、各燃焼気筒の次の燃焼、すなわち、第6燃焼以降において、吸入空気中の燃焼ガス比率が高まるので、燃焼トルクの増加を抑え、同様に機関回転が吹き上がるのを防止できる。このように、燃焼始動が迅速な回転上昇が得られ、そこで弊害として生じがちな機関回転の吹き上がり現象も、このような排気弁5の開時期EOの進角制御及びバルブオーバーラップO/Lの拡大制御により抑制することができるのである。
【0121】
以上のように、クランクシャフト07の回転上昇が迅速でかつ排気エミッションの低減と低燃費の燃焼自力始動を実現しつつ、回転吹き上がりも抑制するのである。
【0122】
図12は本実施形態におけるコントローラ22による始動制御のフローチャートを示している。
【0123】
ステップ1では、機関の停止時における排気弁5の開閉タイミングを、排気VEL1の前記コイルスプリング30のばね力によって機械的にデフォルトタイミングEO1、EC1に予め保持する。このデフォルトタイミングにあるか否かはセンサによって検出する。排気VEL1をクランク停止時にも変換できるような、大きめの電動モ−タによる駆動とすれば、付勢バイアススプリングによらずともデフォルトタイミングに制御できる。
【0124】
次のステップ2では、始動条件か否かを判断し、NOならそのままリターンするが、YESであればステップ3に移行する。
【0125】
このステップ3では、燃焼自力始動条件か否かを判断する。この燃焼自力始動というのは、前述の第1燃焼のように、初回クランク回転を燃焼そのものにより行うものである。あるいは、前記駆動モ−タ09を弱い力で駆動してクランクシャフト07の回転をアシストしても良い。
【0126】
いずれにしても、この燃焼自力始動は、通常の駆動モ−タ09による始動に対して、ピニオンギヤ機構08に作用する荷重が無くなるか、あるいは低減されることで静かなクランキングが実現できるし、クランク回転を迅速に立ち上げることもできる。これらの効果は、頻繁に機関停止・始動を繰り返すアイドルストップ車などで特に大きくなる。
【0127】
逆に、冷機時の最初の機関スタ−ト時などは燃焼が不安定であり、また必ずしも迅速な始動は要求されないことから、静粛さや迅速さより始動信頼性を重視するので、通常の始動制御が選択される。
【0128】
前記ステップ3で、例えば、機関温度Tが所定温度以下(冷機時)であればNOと判断されてステップ15で駆動モ−タ09主体の通常の始動制御が選ばれるが、所定温度を超えていれば、YESと判断されて燃焼自力始動が選択されてステップ4に移行する。
【0129】
このステップ4では、膨張行程気筒すなわち第1燃焼気筒を、クランク角センサなどより検出する。そして、同気筒の圧縮行程のピストン上死点(TDC)を基準としたクランク総回転角θを検出する。
【0130】
次に、ステップ5では、前記クランク総回転角θが90°付近の所定範囲θ1(例えば60°〜120°)内にあるかどうか判断する。NOなら、信頼性の高い燃焼自力始動は困難と判断し、ステップ15に移行して駆動モ−タ09主体の通常始動が選ばれる。YESならば、ステップ6で、具体的な燃焼自力始動制御が開始される。
【0131】
なお、ここで、駆動モ−タ09などによるクランク停止位置制御を予め盛り込んでおけば、前記クランク総回転角θを90°付近に精度良く機関停止できるので、その場合はステップ5を廃止することも可能である。
【0132】
ここで、排気VEL1は予め排気弁5の開閉時期をEC1やEO1に機械的に保持しているが、クランクシャフト07の回転が開始されると制御軸17の負荷変動などでずれる可能性もあるので、前記電動モータ20によってEC1/EO1(作動角D1)に制御する信号を出力する。そして、第1燃焼気筒(#2気筒)への筒内燃料噴射と点火を行う。これにより、第1燃焼気筒(#2気筒)において、前述のような排気弁開時期遅角(EO1)によるクランク軸回転上昇を得ることができる。
【0133】
また、第1燃焼気筒(#2気筒)では、バルブオーバーラップO/Lが小さい(EC1進角)ことによる触媒の初期温度上昇促進効果を得ることもできる。
【0134】
そして、ステップ7でクランク総回転角θを検出し、ステップ8で前記θがθ2より大きいかまたは等しいか否かを判断する。ここで大きいか等しいと判断した場合は、ステップ9において、排気VEL1によって排気弁5の作動角をD2(EC2/EO2)に制御する。この結果、第2燃焼気筒(#1気筒)における燃焼後のバルブオーバーラップO/Lがやや拡大し、これにより、燃焼ガス量がやや増大するのに伴い排気行程の最後のあたりで排出する高濃度HCを排気系ではなく吸気系の吐き戻すことで、HCの排出量を抑制できる。
【0135】
ここで、排気弁5の開時期時点ではまだ小作動角D1であるので、排気弁5の開時期はEO1のままで、これにより第1燃焼気筒(#2気筒)と同様のクランクシャフト07の回転上昇も得られる。
【0136】
さらに、ステップ10で前記θを検出し、ステップ11でこのθがθ3よりも大きいかまたは等しいかを判断する。ここで大きいかまたは等しいと判断した場合は、ステップ12において、排気VEL1により排気弁5の作動角をD3(EC3/EO3)に制御する。この結果、第3燃焼気筒(#3気筒)における燃焼後のバルブオーバーラップO/Lがさらに拡大し、これにより、燃焼ガス量がさらに増大するのに伴い排気行程の最後のあたりで排出する高濃度HCを排気系ではなく吸気系に吐き戻すことで、HCの排出量を抑制できる。
【0137】
ここで、排気弁5の開時期時点では作動角がまだ中作動角D2であるので、排気弁5の開時期はやや進んだEO2となっており、これにより、燃焼温度がまだ高い状態で大量の排気ガスを触媒に送る。これにより、触媒をさらに加熱して活性を高め、もって、第3燃焼により増加した排気ガス量(エミッション量)を効率的に浄化できる。また、上述のように燃費も削減できる。
【0138】
第4燃焼気筒(#4気筒)については、第3燃焼気筒(#3気筒)と同様のバルブオーバーラップO/Lが大きくなっていることから、大量の燃焼ガスから発生する高濃度HCを排気系ではなく吸気系の吐き戻すことで、排気エミッション性能が向上する。
【0139】
ここで、排気弁5の開時期時点でも作動角は大作動角D3になっているので、排気弁5の開時期は大きく進んだEO3になっている。これにより、燃焼温度がさらに高い状態で一層の大量の排気ガスを触媒に送る。これにより、触媒をさらに加熱し活性を高め、もって、第4燃焼により一層増加した排気ガス量(エミッション量)を効率的に浄化できる。また、前述のように燃費も削減できる。
【0140】
なお、第3燃焼気筒以降の排気弁5の開弁時期EOが進角制御され、第2燃焼以降のバルブオーバーラップO/Lの増加制御は、前述のように機関回転の吹き上がり抑制効果も有する。
【0141】
さらに、ステップ13でθを検出し、ステップ14でθがθ4より大きいかまたは等しいか否かを判断する。ここで大きいか等しいと判断した場合は、機関の暖機が終了したと判断し、始動制御を完了する。
【0142】
その後は、機関運転条件に応じた排気VEL1の作動マップに基づき、最小リフトL1から最大リフトL4にわたり連続的に制御される。
以上のようにして、燃焼自力始動を活用した、迅速で低エミッションの始動を行えるのである。
【0143】
ところで、図11や図12では、第4燃焼(第4気筒)までで、始動バルブタイミング変化を終えた例を示したが、バルブタイミングの変化速度を落として、始動制御領域に範囲内において、もっと多くの燃焼サイクルを経た後に、バルブタイミング変化を終了させても良い。こうすれば、可変動弁装置に切り換え応答性を遅くできるので、切り換え駆動エネルギーを抑えて、消費エネルギーを低下することができる。
【0144】
なお、前記ステップ3,5において、燃焼自力始動ではなく通常始動が選択された場合は、ステップ15に移行し、前記駆動モ−タ09によってクランキングを開始する。
【0145】
そして、ステップ16で排気弁5を標準的な中作動角D2、通常的なEO2、EC2に変換制御し、燃料噴射及び点火制御が開始されるのである。
【0146】
この場合、クランクシャフト07の回転は、駆動モータ09によって行うので、回転立ち上がりが遅く、そのため大作動角D3(EO3、EC3)に変換してしまうと、回転が充分には立ち上がっていない状態で排気弁5の開時期の大きな進角(EO3)による機関トルクの低下、排気弁5の閉時期の大きな遅角(EC3)によるバルブオーバーラップO/Lの大きな期間による筒内への過大な残留ガス取り込みが生じてしまう。これにより、機関燃焼の不安定や機関スト−ル(回転落ち)が生じてしまうので、大作動角D3(EO3、EC3)でなく、標準的な中作動角D2、通常的なEO2、EC2に変換されるのである。
【0147】
逆に言えば、燃焼自力始動とし前述の燃焼自力始動制御を行えば、回転立ち上がりが早いので、後期燃焼気筒において大作動角D3(EO3、EC3)を使うことができるので、充分な触媒の加熱と、高濃度HCを排気系ではなく吸気系の吐き戻すことでHCの排出量を抑制し、もって低エミッション効果も得ることができると共に、燃費削減効果も得られるのである。
【0148】
ここで、回転立ち上がりが早いと述べたが、過度に速くなり機関回転が吹き上がる現象は、前述のように、後半のEVOの進角制御、O/Lの増大制御により抑制されるのである。
【0149】
再び、通常始動のフローチャートに戻り、ステップ17でクランク軸総回転角θを検出し、ステップ18でθが所定値θ0を越えているまたは等しいか否かを判断して、越えているまた等しいと判断した場合は、燃焼が安定したと判断し、ステップ19において、駆動モ−タ09への通電をOFFにする。
【0150】
その後は、燃焼によって機関の回転が維持されるが、ステップ20では、機関温度Tを検出し、ステップ21において温度Tが所定温度T0を越えているかまたは等しいか否かを判断し、NOであればステップ20にリターンするが越えているかまたは等しいと判断した場合は始動制御を終了するのである。
〔第2実施形態における排気弁と吸気弁の開閉時期制御〕
本実施形態は、排気弁5の開弁時期EO変化とバルブオーバーラップO/Lの変化を排気VEL1でなく、前記排気VTC2と吸気VTC3によって行ったものである。つまり、この実施形態では、排気VEL1は装着されず、排気側には一定リフト特性を示す従来型の固定動弁が装着されているのである。
【0151】
図13は、吸気弁4と排気弁5の前記各VTC2,3による開閉タイミングを示しており、排気VTC2が最遅角の場合は、図13に示すように、排気弁5の開時期/閉時期はEO1/EC1になっている。同様に中間リフト位相ではEO2/EC2、最進角ではEO3/EC3となっている。
【0152】
吸気VTC3が最遅角の場合は、図13に示すように、吸気弁開時期/閉時期はIO1/IC1になっている。同様に中間リフト位相ではIO2/IC2、最進角ではIO3/IC3となっている。
【0153】
前記排気VTC2と吸気VTC3を進角制御していくにつれて、次第にバルブオーバーラップO/Lが拡大するのは、吸気VTC3の方が進角変換角が相対的に大きいからである。
【0154】
図14は時系列制御説明図を示し、第1実施形態の図10と同様に、4気筒機関であり、点火順序も同様となっている。この図14では、始動制御を開始する前の機関停止状態において、膨張気筒で停止している気筒が例えば#2気筒だったとして、各気筒でのサイクル作動、吸排気弁4,5の作動を時系列的にまとめた。
【0155】
排気弁5の開時期EOの制御、バルブオーバーラップO/L期間の制御パタ−ンも第1実施形態と同様であるから、簡略して説明する。
【0156】
横軸には#2気筒圧縮TDC(上死点)基準にしてクランク総回転角θを取ってある。縦軸には、上から点火順序に応じて、#2気筒-#1気筒-#3気筒-#4気筒の順で気筒を取ってある。機関が停止している状態では、θは90°付近(縦破線)となっている。
【0157】
この時、吸排気弁4,5の両方が閉じている#2気筒、#1気筒においても、ピストン05の外周面側の隙間から大気圧が進入してきて、筒内圧は略大気圧になっている。
【0158】
次に、始動条件になると、膨張気筒(#2気筒)において、燃料噴射、その後に点火を行いその燃焼圧そのものによりクランク軸を回転させる。(燃焼自力始動)
しかしながら、この初回燃焼は弱いものである。なぜなら、気筒内空気容積は理論気筒あたり排気量の約半分しかない上、筒内圧が大気圧程度しかない。したがって、この初回燃焼により次気筒(#1気筒)が圧縮上死点を超える際の反力に打ち勝ってクランクシャフト07を回転させるのは容易ではない。
【0159】
そこで、排気VTC2のデフォルト位置は最遅角にしており、排気弁5の開時期(EO1)を最大限下死点側に遅角させているのである。すなわち、燃焼圧が抜ける時期を(EVO)を遅らせるので、この非力な燃焼圧にもかかわらず動力として効率良くクランクシャフト07に駆動トルクとして取り出し、クランクシャフト07の回転立ち上がりを早くできると共に、確実に次気筒(#1気筒)が圧縮上死点を乗り越えることが可能となるのである。
【0160】
一方、その後の排気弁5の閉時期(EC1)は最遅角であるために、上死点(TDC)を越えて遅角する。
【0161】
ここで、吸気VTC3もデフォルトも最遅角になっており、吸気弁4の開時期(IO1)の遅角量がEC1の遅角量を上回っており、IO1とEC1との間のバルブオーバーラップO/Lの期間は小さく(ないしは0もしくはマイナス)なるのである。この小O/L期間により、第1実施形態と同様の触媒の初期温度上昇効果を得ることができる。
【0162】
次に、次の第2燃焼気筒(#1気筒)は、第1実施形態と同様に、第1燃焼(初回燃焼)に較べて圧縮圧力がやや高く(有効圧縮比約5で筒内圧程度)、燃焼圧がやや大きくなっているものの不十分な状態にある。そのため、燃焼直後の排気弁5の閉時期は図14に示すようにEO1を維持する。これにより、不十分な燃焼圧を動力として効率良くクランク軸に駆動トルクとして取り出し、さらにクランクシャフト07の回転立ち上がりを早くできる。
【0163】
そして、クランク総回転角θが360°と540°との中程にあるθ2(第4燃焼気筒のIC1の直後)に達すると、排気VTC2、吸気VTC3が共に中間位相に切り換える信号を送る。それに基づき、排気弁5の閉時期はEC2に進角され、吸気弁4の開時期はIO2、閉時期はIC2に進角される。したがって、この第2燃焼気筒については、排気弁開時期EO1のままで閉時期はEC2になったことになる。
【0164】
この排気弁5の閉時期がEC2に遅角されたことにより、次の吸気弁4の開時期IO2との間に中程度のバルブオーバーラップO/L期間ができる。これにより、排気行程の最後のあたりでピストン03が掻き上げて排出する高濃度HCを排気系ではなく吸気系のある程度吐き戻すことができる。これによって、次の燃焼(第6燃焼)でこの高濃度HCを再燃焼させることで、HCの排出量を抑制できる。
【0165】
一方、この中程度のバルブオーバーラップO/L期間により、触媒に流れる排気ガスの絶対量はやや低下するが、初回燃焼による触媒の初期暖機効果があり、前述の高濃度HCの低減効果と相俟って排気ガスのエミッションを浄化することができる。ここでは中程度のバルブオーバーラップO/L期間としているが、EC1、IO1のままとし小O/L期間を継続し、触媒に流れる排気ガスの絶対量を増加し、初期暖機効果をさらに高めても良い。
【0166】
次に第3燃焼気筒(#3気筒)については、第1燃焼・第2燃焼より、高い筒内圧になり、また排気ガス量も増加する。したがって、クランクシャフト07の駆動トルクも高められるので、排気弁5の開時期はEO2とやや早め、燃焼温度がまだ高い状態で大量の排気ガスを触媒に送る。これにより、触媒をさらに加熱し活性を高め、もって、第3燃焼により増加した排気ガス量(エミッション量)を効率的に浄化できる。
【0167】
ここで、排気弁開時期がEO2に変化しているのは、前述のθ2の段階で排気VTC2に中間位相の切り替え信号が出力されたためである。
【0168】
さらに、θがθ3(第1燃焼気筒のIC2の直後)になると、さらに排気VTC2・吸気VTC3に最進角への変換信号が出力される。これにより、排気弁開時期はEO2のまま閉時期はEC3まで遅角され、吸気弁4の開閉時期は開時期IO3と閉時期IC3まで遅角される。これにより、第3燃焼後のO/Lは、EC3とIO3との間のバルブオーバーラップO/Lは大期間となる。
【0169】
したがって、第3燃焼による大量の排気ガスから排気行程末期に排出される高濃度のHCを、この大O/Lにより効率に吸気系に戻し、再度燃焼させる(第7燃焼)ことによって、機関から触媒に排出されるHCエミッション量を低減できる。これと前述の排気弁5の開時期進角(EO2)による触媒活性化と相まって、十分エミッションを低減できる。また、第1実施形態と同様の燃費効果が得られる。
【0170】
次に第4燃焼気筒(#4気筒)について説明する。
【0171】
機関が停止しているθ90°付近では、排気行程途中になっている。機関が回転し始めると、ピストン03が上死点(TDC)に向け上昇し筒内にある空気を、排気弁を介して排気系に排出し、その後、ピストン03がTDCから下降すると吸気弁4から空気を吸い込む。ここで、TDC付近からフルストロ−クで、空気を最大限吸い込むことができる。
【0172】
したがって、第3燃焼気筒以上に大量の空気を吸い込め、またフルストロ−クで圧縮できるので、燃焼圧と排気ガス量も一層増加する。
【0173】
ここで吸排気弁4,5の開閉タイミングであるが、θ3より後であり、それぞれ最進角位置EO3、EC3、IO3,IC3となっている。すなわち、排気弁5の閉時期がEO3と充分進角しているので、温度の高い排気ガスを多量に触媒に送り込め、一層の触媒活性化が図れる。また、第3燃焼気筒と同様、大O/L期間となっているので、第4燃焼による大量の排気ガスから排気行程末期に排出される高濃度HCを、この大O/Lにより効率に吸気系に戻し、再度燃焼させる(第8燃焼)ことで機関から触媒に排出されるHCエミッション量を低減できる。これと前述の排気弁5の開時期進角(EO3)による触媒活性化と相まって、十分に排気エミッション性能を向上させることができる。また、燃費効果は第1実施形態と同様である。
【0174】
また、排気弁5の開時期が、第3燃焼でEO2、第4燃焼でEO3と遅角することによって、前述の効果に加えて、燃焼始動による迅速始動の後行程で機関回転が吹き上がるのを、早めに排気弁5を開き燃焼ガスを逃がすことで抑制できるのは第1実施形態と同様である。
【0175】
さらに、第2燃焼以降、バルブオーバーラップO/Lを中から大へと拡大していく。これにより、各燃焼気筒の次の燃焼、すなわち、第6燃焼以降において、吸入空気中の燃焼ガス比率が高まるので燃焼トルクを抑えて機関回転が吹き上がるのを防止できるのも第1実施形態と同様である。
【0176】
以上の効果は前記図11に示す内容と同じである。
【0177】
さらに、第4燃焼気筒における燃焼直前の吸気弁閉時期を図14に示すように、最遅角となっているので、過度の空気を吸い込むことが抑制され、機関回転吹き上がりを第1実施形態以上に抑制することもできる。逆に第5燃焼以降は、IC2,IC3と下死点に近づいていくので、吹き上がり防止をしつつも、空気充填効率を高めて完爆性能を向上させることができる。
【0178】
図15は本実施形態におけるコントローラ22による始動制御のフローチャートを示している。
【0179】
ステップ21では、機関停止時における排気弁5の開閉タイミングが排気VTC2によってデフォルト位置、つまりコイルスプリング55,56のばね力によってEO1/EC1に保持されていると共に、吸気弁4の開閉タイミングが吸気VTC3のコイルスプリングによってIO1/IC1に保持されている。
【0180】
次に、ステップ22では、始動条件かどうか判断し、NOならそのままリターンするが、YESならステップ23に移行し、ここで燃焼自力始動条件か判断をする。つまり、例えば、機関温度Tが所定温度以下(冷機時)であればNOが選択されてステップ35に移行して駆動モ−タ09主体の通常始動が選ばれるが、所定温度を超えていれば、YESとなり燃焼自力始動が選択されてステップ24に移行する。
【0181】
このステップ24では、膨張行程気筒すなわち第1燃焼気筒を、クランク角センサなどより検出し、同気筒の圧縮上死点(TDC)を基準としたクランク総回転角θを検出する。
【0182】
そして、ステップ25で、前記θが90°付近の所定範囲θ1(例えば60°〜120°)内にあるかどうか確認する。NOならば、信頼性の高い燃焼自力始動は困難と判断し、ステップ35へ移行して前記駆動モ−タ09主体の通常始動が選択される。一方、YESなら、ステップ26へ移行して、具体的な燃焼自力始動制御が開始される。
【0183】
排気VTC2は予めEO1/EC1(最遅角)に、吸気VTC3は予めIO1/IC1(最遅角)に機械的に保持されているが、回転し始めると負荷変動などでずれる可能性もあるので、排気VTC2によって排気弁5開閉時期をEO1/EC1に制御する信号、吸気VTC3によって吸気弁4開閉時期をIO1/IC1に制御する信号を出力する。そして、第1燃焼気筒(#2気筒)への筒内燃料噴射と点火を行う。これにより、第1燃焼気筒において、前述のような排気弁5の開時期遅角(EO1)によるクランクシャフト07の回転上昇を得ることができる。
【0184】
第1燃焼気筒では、O/L小(EC1進角)による触媒の初期温度上昇の促進効果(前述)を得ることができる。
【0185】
そして、ステップ27で前記θを検出し、ステップ28でθがθ2に達したか否かを判断し、達しない場合は戻るが、達したと判断した場合は、ステップ29で排気VTC2及び吸気VTC3を中間位相(EO2/EC2、IO2/IC2)に制御する。この結果、第2燃焼気筒における燃焼後のO/Lがやや拡大し、これにより、燃焼ガス量がやや増大するのに伴い排気行程の最後のあたりで排出する高濃度HCを排気系ではなく吸気系の吐き戻すことができるので、HCの排出量を抑制できる。
【0186】
ここで、排気弁5の開時期時点ではまだ最遅角であるので、排気弁5の開時期はEO1のままで、これにより第1燃焼気筒と同様のクランクシャフト07の回転上昇も得られる。
【0187】
さらに、ステップ30で前記θを検出し、ステップ31でθがθ3に達したか否かを判断し、達したと判断した場合は、ステップ32において、排気VTC2によって排気弁5の開閉時期を最進角(EO3/EC3)に、吸気VTC3によって吸気弁4の開閉時期も最進角(IO3/IC3)に制御する。
【0188】
この結果、第3燃焼気筒における燃焼後のバルブオーバーラップO/Lがさらに拡大し、これにより、燃焼ガス量がさらに増大するのに伴い排気行程の最後のあたりで排出する高濃度HCを排気系ではなく吸気系の吐き戻すことができるので、HCの排出量を抑制できる。
【0189】
ここで、排気弁5の開時期時点ではまだ中間位相であるので、排気弁5の開時期はやや進んだEO2であるが、これにより、燃焼温度がまだ高い状態で大量の排気ガスを触媒に送る。これにより、触媒をさらに加熱し活性化が高められて、第3燃焼により増加した排気ガス量(エミッション量)を効率的に浄化できると共に、第1実施形態と同様の燃費効果が得られる。
【0190】
第4燃焼気筒については、第3燃焼気筒と同様の大O/Lであり、一層の大量燃焼ガスから発生する高濃度HCを排気系ではなく吸気系の吐き戻すことで、HCエミッション排出を抑制できる。
【0191】
ここで、排気弁5の開時期は大きく進んだEO3であるが、これにより、燃焼温度がさらに高い状態で一層の大量の排気ガスを触媒に送る。これにより、触媒をさらに加熱し活性を高め、もって、第4燃焼により一層増加した排気ガス量(エミッション量)を効率的に浄化できると共に、第1実施形態と同様の燃費効果が得られる。
【0192】
さらに、ステップ33で前記θを検出し、ステップ34でθがθ4に達したか否かを判断し、達したと判断した場合は、機関の暖機が終了したと判断して始動制御を終了する。
【0193】
その後は、運転条件に応じた排気VTC2、吸気VTC3の各作動マップに基づき、最遅角から最進角にわたり各々制御される。
【0194】
以上のように、燃焼自力始動を活用した、機関回転の立ち上がりが早い低エミッションで低燃費の始動をできるのである。ここで、機関回転の立ち上がりが早いと述べたが、過度に速くなり機関回転が吹き上がる現象は、前述のように、IVC遅角制御、後半のEVO進角制御、O/L増大制御により抑制されるのである。
【0195】
なお、ステップ23、25において、燃焼自力始動ではなく通常始動が選択された場合は、ステップ35に移行して、前記駆動モ−タ09でクランキングを開始する。そして、ステップ36では、標準的な中間位相、すなわち通常的なEO2、EC2、IO2,IC2に変換され、燃料噴射及び点火制御が開始されるのである。
【0196】
この場合クランク軸の回転は、駆動モータ09によって行うので、回転立ち上がりが遅く、そのため最進角(EO3、EC3、IO3、IC3)に変換してしまうと、回転が充分には立ち上がっていない状態で、排気弁開時期の大きな進角(EO3)による機関トルク低下、大きなO/L期間による筒内への過大残留ガス取り込みが生じ、それにより、機関燃焼不安定や機関スト−ル(回転落ち)が生じてしまうので、最進角でなく、標準的な中間位相に変換されるのである。逆に言えば、燃焼自力始動とし前述の燃焼自力始動制御を行えば、回転立ち上がりが早いので、後期燃焼気筒において最進角(EO3、EC3、IO3,IC3)を使うことができるので、充分な触媒暖機と、高濃度HCを排気系ではなく吸気系の吐き戻すことでHCエミッション排出を抑制し、もって低エミッション効果も得ることができるのである。また、第1実施形態と同様の燃費効果も得られる。
【0197】
再び、通常始動部のフローチャートに戻るが、ステップ37〜41は先の図12のステップ17〜21と同じであるから、説明は省略する。
【0198】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものでなく、本発明の主旨である始動制御時における排気弁5の開時期変化制御、バルブオーバーラップ変化制御から逸脱しない範囲であれば、どんな可変動弁装置であってもよい。例えば、前述のVTCは油圧駆動ではなく、電動としてもよい。こうすれば、始動初期における応答性を高められ、より迅速な始動が可能になる。また、期間が停止している状態で変換できるので、始動初期のバルブタイミングの精度を高められる。
【0199】
また本発明は、通常の自動車用機関に限らず、ハイブリッド用機関に適用されても良い。その場合、電動モ−タの走行からの機関始動を伴う急加速の際、燃焼自力始動によって電動モ−タのクランキング負荷を低減し、機関始動に伴う車両駆動トルクの過渡的な落ち込みのない一層の加速性を実現できる。
【0200】
また、本実施形態は、4気筒機関でクランク停止位置制御を用いないものについて述べたが、図1に示す駆動モ−タ09などをクランク停止位置制御手段として用い、停止位置のθを90°付近に精度良く制御すれば、始動性がより安定する。また、4気筒でなくても良く、例えば3気筒であれば、気筒インタ−バルが180°でなく240°に拡大するので、図9における停止位置θは90°付近から120°付近へシフトさせる。あるいは、4気筒と同様に停止位置θが90°付近になるように、クランク停止位置制御手段を制御してもよい。このやり方は2気筒機関にも適用できる。すなわち、2気筒以上であれば、気筒数によらず本発明は適用可能である。
【0201】
また、排気弁の開閉時期などのバルブタイミングはまさしく開始点、終了点そのものでも良いが、リフト開始部と終了部に微小リフトのランプ区間が設定されており、それを除外した点としても良い。後者の場合は、実質的な吸入開始点、終了点を意味するので、より効果を高めることができる。
【0202】
前記実施形態から把握される前記請求項以外の発明の技術的思想について以下に説明する。
〔請求項a〕請求項1に記載の内燃機関のコントローラであって、
前記第1気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁閉時期をピストン上死点に近づくように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
【0203】
この発明によれば、排気弁と吸気弁のオーバーラップが小さくなるので、排気ガスの吸気側への吹き返しがなくなり、触媒を効率的に初期加熱できる。
〔請求項b〕請求項aに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第1気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップを零またはマイナスとすることを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項c〕請求項1に記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第1気筒の直後に燃焼を行う第2気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁開時期を前記第1気筒と同様にピストン下死点に近づけることを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項d〕請求項cに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第2気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間を、前記第1気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間よりも大きくするように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項e〕請求項dに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第2気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁作動角を、前記第1気筒の排気弁作動角よりも大きくしたことを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項f〕請求項dに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第2気筒の後に燃焼を行う第3気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁開時期を、ピストン下死点より早めるように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項g〕請求項dに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第2気筒の後に燃焼を行う第3気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間を、前記第2気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間よりも大きくするように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項h〕請求項gに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第3気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁作動角を、前記第2気筒の排気弁作動角より大きくしたことを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項i〕請求項gに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第3気筒の後に燃焼を行う第4気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁開時期を、前記第3気筒の、燃焼後訪れる最初の排気弁時期より早めるように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項j〕請求項iに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
前記第4気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁作動角を、前記第3気筒の排気弁作動角より大きくしたことを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項k〕請求項eとhまたはjのいずれか一項に記載の可変動弁装置のコントローラであって、
排気弁作動角の拡大は、排気弁が開弁してから閉弁するまでの間に行われることを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項l〕請求項1に記載の可変動弁装置のコントローラであって、
内燃機関の停止時に、最初に燃焼を行う第1気筒の、最初の排気弁開時期をピストン下死点に近づくように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項m〕請求項lに記載の可変動弁装置のコントローラであって、
内燃機関の停止時に、最初に燃焼を行う第1気筒の、最初の排気弁開時期をピストン下死点に近づくように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項n〕請求項1に記載の可変動弁装置のコントローラであって、
内燃機関の温度が所定以下である場合には、排気弁の制御を中止することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項o〕請求項1に記載の可変動弁装置のコントローラであって、
少なくとも吸気弁開時期を制御することにより、前記第1気筒の後に燃焼を行う所定気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間を可変させることを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
〔請求項p〕請求項3に記載の内燃機関の可変動弁装置であって、
燃料を燃焼室に直接噴射して着火することによって始動させる内燃機関に適用したことを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
〔請求項q〕請求項3に記載の内燃機関の可変動弁装置であって、
内燃機関の停止時に、前記第1気筒の排気弁開時期がピストン下死点に近づき、前記第1気筒の排気弁閉時期がピストンの上死点に近づく位置に安定して保持されるように構成したことを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
【0204】
この発明によれば、機関停止時に排気弁の開閉時期を再始動に適した位置にデフォルトしたことから、再始動性が向上する。
〔請求項r〕請求項3に記載の内燃機関の可変動弁装置であって、
運転者の意思によらず機関を停止及び始動する内燃機関に適用されることを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
【0205】
この発明は、アイドリングストップ車やいわゆるハイブリット車に適用したものである。
〔請求項s〕請求項3に記載の内燃機関の可変動弁装置であって、
機関停止時にも排気弁特性を可変にできることを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
【符号の説明】
【0206】
1…排気VEL
2…排気VTC
3…吸気VTC
4…吸気弁
5…排気弁
6…駆動軸
20…電動モータ
22…コントローラ
30…コイルスプリング
31・60…タイミングスプロケット
32…ベーン部材
41…進角側油圧室
42…遅角側油圧室
55,56…コイルスプリング
59…吸気カムシャフト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有する内燃機関に用いられる可変動弁装置を制御するコントローラであって、
前記内燃機関の始動時に、最初に燃焼を行う第1気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁開時期を、ピストン下死点に近づくように制御すると共に、
前記第1気筒の後に燃焼を行う所定気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間を、前記第1気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間よりも大きくなるように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
【請求項2】
複数気筒を有する内燃機関に用いられる可変動弁装置を制御するコントローラであって、
最初に燃焼を行う第1気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁の開時期を遅角させるように制御すると共に、
前記第1気筒の後に燃焼を行う所定気筒の、最初の燃焼後の排気ガスを吸気側に戻すように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
【請求項3】
複数の気筒を有する内燃機関の動弁特性を可変させる内燃機関の可変動弁装置であって、
前記内燃機関の始動時に、最初に燃焼を行う第1気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁の開時期をピストン下死点に近づけると共に、
前記第1気筒の後に燃焼を行う所定気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間を、前記第1気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間よりも大きくすることを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
【請求項1】
複数の気筒を有する内燃機関に用いられる可変動弁装置を制御するコントローラであって、
前記内燃機関の始動時に、最初に燃焼を行う第1気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁開時期を、ピストン下死点に近づくように制御すると共に、
前記第1気筒の後に燃焼を行う所定気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間を、前記第1気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間よりも大きくなるように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
【請求項2】
複数気筒を有する内燃機関に用いられる可変動弁装置を制御するコントローラであって、
最初に燃焼を行う第1気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁の開時期を遅角させるように制御すると共に、
前記第1気筒の後に燃焼を行う所定気筒の、最初の燃焼後の排気ガスを吸気側に戻すように制御することを特徴とする可変動弁装置のコントローラ。
【請求項3】
複数の気筒を有する内燃機関の動弁特性を可変させる内燃機関の可変動弁装置であって、
前記内燃機関の始動時に、最初に燃焼を行う第1気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁の開時期をピストン下死点に近づけると共に、
前記第1気筒の後に燃焼を行う所定気筒の、前記燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間を、前記第1気筒の、燃焼後に訪れる最初の排気弁と吸気弁のオーバーラップ期間よりも大きくすることを特徴とする内燃機関の可変動弁装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−225287(P2012−225287A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94705(P2011−94705)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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