説明

回折構造形成体の製造方法

【課題】位置合わせなしに回折構造による絵柄と金属層による絵柄の位置が合った回折構造形成体を製造できる方法を提供する。
【解決手段】基材表面の一部に回折構造を形成する工程と、前記回折構造が形成された表面全面に金属層を形成し、前記金属層の全面にレーザー光を万線状または網点状に照射し、回折構造における吸収を利用して回折構造上の金属層の一部を選択的に破壊する工程と、前記回折構造が形成された表面全面にフォトレジストを形成し、露光光を金属層の一部が選択的に破壊された部分を通すことによって生じた回折光を前記フォトレジストに照射して前記回折構造上のフォトレジストを硬化させ、現像して前記回折構造を覆うレジストパターンを形成する工程と、前記レジストパターンをマスクとしてエッチングを行い、前記回折構造以外の部分の金属層を除去する工程とを有する回折構造形成体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回折構造形成体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、反射層として金属層を具備する回折構造形成体たとえばホログラムを製造するには、高精細な輪郭を形成するにあたって金属層をパターン化する方法が用いられている。このようなホログラムは、意匠性の向上のみならず、偽造防止効果が認められ、多くの国や地域の紙幣やID媒体に採用されている。
【0003】
このような回折構造形成体に金属層パターンを形成する方法としては、
(1)エッチングマスクまたは水洗インキをグラビアまたはスクリーンにより印刷し、エッチングまたはシーライト加工により実現する印刷法、
(2)レーザーにより、直接、金属層の融点以上に加熱し、反射層を破壊し実現するレーザー法、
(3)金属反射層上に形成したフォトレジストにフォトマスクを通してパターン露光し、現像、エッチングにより実現するフォトリソグラフィー法、
などがあげられる。
【特許文献1】特願平3−313280号公報
【特許文献2】特開2003−043233号公報
【特許文献3】特開2003−255115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属層をパターニングした絵柄と回折構造により形成した絵柄の位置合わせを行うと、その精度に応じて、さらに意匠性と偽造防止効果が向上する。
【0005】
しかし、従来の方法では、反射層のパターニングを行う場合、位置決め精度、加工精度、基材の伸縮などの影響を受けて回折構造に対して位置がばらつく問題があった。
【0006】
本発明の目的は、回折構造による絵柄と金属層による絵柄とを区別することなく全面に均一な処理を行い、位置合わせなしに両者の絵柄の位置が合った回折構造形成体を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、基材表面の一部に回折構造を形成する工程と、前記回折構造が形成された表面全面に金属層を形成し、前記金属層の全面にレーザー光を万線状または網点状に照射し、回折構造における吸収を利用して回折構造上の金属層の一部を選択的に破壊する工程と、前記回折構造が形成された表面全面にフォトレジストを形成し、露光光を金属層の一部が選択的に破壊された部分を通すことによって生じた回折光を前記フォトレジストに照射して前記回折構造上のフォトレジストを硬化させ、現像して前記回折構造を覆うレジストパターンを形成する工程と、前記レジストパターンをマスクとしてエッチングを行い、前記回折構造以外の部分の金属層を除去する工程とを有する回折構造形成体の製造方法である。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記フォトレジストは光散乱成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の回折構造形成体の製造方法である。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記フォトレジスト上に反射層を形成した後、露光光を照射することを特徴とする請求項1または2に記載の回折構造形成体の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回折構造による絵柄と金属層による絵柄とを区別することなく全面に均一な処理を行い、位置合わせなしに両者の絵柄の位置が合った回折構造形成体を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1〜図5は、本発明による回折構造形成体の製造方法の一例を示す断面図である。図1に示すように、基材(11)上に回折構造形成層(12)を設け、回折構造形成層(12)の表面の一部に回折構造を形成する。回折構造が形成された回折構造形成層(12)の表面全体を金属層(13)で被覆する。図1には、金属層(13)のうち、回折構造形成部分(14)とそれ以外の鏡面部分(15)を示す。
【0013】
本発明における回折構造形成体について説明する。回折構造形成体は、一般にホログラムと回折格子に分けられる。
【0014】
ホログラムは、光学的な撮影方法により微細な凹凸パターンからなるレリーフ型のマスター版を作製し、このマスター版から電気メッキ法により凹凸パターンを複製したニッケル製のプレス版を作製し、このプレス版を基材(11)または回折構造形成層(12)に加熱押圧するというエンボス成型により大量複製が行われる。このタイプのホログラムはレリーフ型ホログラムと称されている。
【0015】
回折格子を用いたものは、このような実際の画像を撮影するホログラムとは異なり、微少なエリアに複数種類の単純な回折格子を配置して画素とし、グレーティングイメージ、ドットマトリックス(ピクセルグラム等)と呼ばれる画像を表現する。このような回折格子を用いた画像は、レリーフ型ホログラムと同様な方法で大量複製が行われる。
【0016】
スタンパーにより回折構造と平滑部を形成する。これらの部分は、金属膜(13)を形成したときに回折構造形成部分(14)と鏡面部分(15)となる。
【0017】
基材(11)の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET、PENなどの延伸、無延伸の透明なフィルムを用いることができる。
【0018】
回折構造形成層(12)は、直接基材(11)にエンボス成型をかけにくい場合に設ける。回折構造形成層(12)としては、アクリル、ウレタン、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、メラミン、アクリルポリオールやポリエステルポリオールをイソシアネートで硬化した2液硬化型のウレタンなどの硬化性樹脂を用いることができる。基材上に設ける手段としては、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、ダイコーティング、スピンコーティングなどの公知の手法を用いることができる。
【0019】
回折構造形成体には、輝度を上げるために金属層(13)がレリーフの表面に形成される。金属層(13)は、Al、Sn、Ni、Cu、Auなどを蒸着、スパッタリングを用いて形成する。
【0020】
回折構造形成部分(14)は0.5から2.0μmの縞状の凹凸で形成される。この縞のピッチと同程度の波長の光は、鏡面部分(15)と比べて回折構造形成部分(14)において吸収率が向上する。ここで、回折構造を空間周波数1,000L/mm、深さ120nmの矩形形状の縞で形成し、金属層としてAl層を形成した場合について、FDTD(finite difference time domain)法を用いたシミュレーションの結果を示す。Nd:YAGレーザーの基本波1,064nmの光を照射した場合、回折構造形成部分(14)の吸収率は21.5%であるが、鏡面部分(15)の吸収率は10.0%である。即ち、回折構造形成部分(14)は、鏡面部分(15)に比べて2倍以上光を吸収しやすい。回折構造の縞に直交する偏光光を用いることにより、両者の部分で吸収率に更に大きな差をつけることができる。
【0021】
次に、図2に示すように、基材(11)側からレーザー光(16)を金属層(13)の全面を網羅するように万線状または網点状に照射して、回折構造形成部分(14)の金属層の一部のみを選択的に破壊して金属層破壊部分(17)を形成する。尚、レーザー照射は金属層(13)側から行ってもよい。
【0022】
このとき、上述した回折構造形成部分(14)と鏡面部分(15)の吸収率の差を利用し、回折構造形成部分(14)のみで金属層の一部を破壊し、鏡面部分(25)の金属層に変化を与えない加工が可能となる。
【0023】
レーザーとしては、Nd:YAGレーザー、炭酸ガスレーザー、レーザーダイオードなどの既存のレーザーを用いることができる。レーザーによる破壊は、基材側からでも金属層側からでも構わない。
【0024】
次に、図3に示すように、回折構造が形成された回折構造形成層(12)の表面全体にネガ型レジスト(18)を形成する。任意に、レーザー光の照射前にネガ型レジスト(18)を形成しておいてもよい。ネガ型レジスト(18)を硬化させる波長の露光光(19)を基材(11)側から照射する。残存している金属層(13)がフォトマスクとして機能し、露光光(19)は金属層破壊部分(17)を通してネガ型レジスト(18)に到達する。このとき、露光光(19)は回折構造によって回折光を生じて回り込み、金属層破壊部分(17)の周辺のネガ型レジスト(18)も硬化する。結果として、回折構造を覆う部分のネガ型レジスト(18)が硬化する。
【0025】
ネガ型レジスト(18)としては、アルカリ現像型のラジカル重合型アクリレートなど、公知のものを用いることができる。レジストの膜厚は1から100μmが好ましい。レジストのコーティングには、グラビアコーティング法、マイクログラビアコーティング法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法などを用いることができる。露光機は、一般的な水銀ランプ、エキシマランプなどを用いた公知のものでよい。
【0026】
次に、図4に示すように、ネガ型レジスト(18)を現像し、回折構造を覆うレジストパターン(20)を形成する。現像は、レジストに適した現像液を用い、好適な条件を選択する。
【0027】
最後に、図5に示すように、レジストパターン(20)から露出した回折構造以外の鏡面部分(15)の金属層をエッチングによって除去し、回折構造による絵柄と金属層による絵柄の位置が合った回折構造形成体を製造する。
【0028】
エッチングは、反射層に用いた金属に適したエッチング剤を用い、適切な加工条件で行う。金属層にAlなどの両性金属、レジストにアルカリ現像タイプを用いた場合には、現像およびエッチングを同一工程で行うことも可能である。
【0029】
上述した回折構造による絵柄と金属層による絵柄の位置があった回折構造形成体の製造方法における加工条件について詳細に記述する。レーザーによって回折構造形成部分の金属層の一部を破壊するが、未破壊の部分は最終的に回折構造形成体の反射層として利用するため、破壊部分と未破壊部分の面積率を慎重に設計すべきである。露光時に光の回り込みによるレジストの硬化部分が回折構造を全て覆うようにするためには、レーザー照射による金属層の破壊は、万線状または網点状などの周期構造を形成するように行うことが望ましい。金属層を破壊する周期は、回り込みによる硬化幅に応じて設定する。
【0030】
レジスト中にフィラーなどの光散乱成分を添加し、光源に散乱光を用いることにより、回り込み幅を大きくすることができる。また、レジストの背面に反射層を設けることにより、露光光を有効に活用することができる。同時に、反射層のガスバリア性により、酸素による硬化阻害を防止することができる。
【0031】
回折構造形成部分の金属層の破壊面積率が大きくなるほど回折構造の視認性が低くなるが、一方でレジスト硬化の際の照度を低くすることができる。また、回折構造形成部分の金属層の破壊面積率が大きくなるほど下地に設けた印刷などの視認効果を付与することができる。破壊周期は1〜100μm、破壊面積率は10%から90%が望ましい。レーザーで周期構造を実現するには、ガルバノスキャン方式のレーザーでスキャン加工する方法や、フォトマスク、レンチキュラーレンズ、マイクロレンズアレイなどのレンズを通して照射する方法を用いることができる。
【0032】
本発明の方法で製造された回折構造形成体は、様々な用途に応用することができる。
【0033】
図6は図5に示した回折構造形成体に粘着層(31)を設けたステッカーとしての実施形態である。
【0034】
このように回折構造形成体の背面に粘着層(31)を設けることにより、偏光潜像ステッカーとすることができる。また、基材(11)にカッティングを入れたり、脆性層を形成したりすることにより、貼替え防止機能を付与することができる。
【0035】
図7は図5に示した回折構造形成体の基材(11)と回折構造形成層(12)との間に剥離層(41)を設け、さらに回折構造を形成した側に接着層(42)を設けた転写箔としての実施形態である。
【0036】
こうした転写箔は、ロール転写機やホットスタンプにより被転写体に接着後、基材から剥離することにより転写できる。剥離層(41)は、基材(11)と回折構造形成層(12)が安定に剥離できない場合に追加する。
【0037】
剥離層(41)にはアクリル、スチレン、硝化綿などを用いることができ、他の層と同様に、グラビアコーティング法やマイクログラビアコーティング法などの公知の方法を用いて加工する。
【0038】
図8は図5に示した回折構造形成体のスレッドとしての実施形態である。
【0039】
回折構造形成体をマイクロスリットし、紙に一部が見えるように窓開きで漉き込む。この漉き込み紙に粘着加工を施すことにより、有価証券媒体の基材やパッケージに対するステッカーとしても用いることができる。
【実施例】
【0040】
25μmの厚さのPETフィルム上にアクリル樹脂からなる剥離保護層をグラビアコーティング法により1μmの厚さでコーティングした。その上に、アクリルポリオールにHMDI系イソシアネートを等量で添加した回折構造形成層をグラビアコーティングにより1μmの厚さでコーティングした。回折構造と平滑部を有するスタンパーを回折構造形成層に200℃、1MPaで押し当て形状をエンボス複製した。回折構造形成層の上に金属層としてAlを50nmの厚さで真空蒸着法を用いて形成した。基材側から1064nmの波長のガルバノスキャンレーザーを用いて、回折構造部分のみを破壊する照度で、20μmの周期で5μmの幅で回折構造形成層の全面に照射し、回折構造形成部分のみ万線状に金属層を破壊した。
【0041】
回折構造が形成された回折構造形成層の全面にシリカフィラーを添加したアルカリ現像型のネガ型レジストを10μm塗布した。ネガ型レジスト上にAl反射層を50nmの厚さで真空蒸着法により形成した。基材側から水銀光源の拡散光型露光機を用い、500mJ/cmの照度で硬化し、30℃の5%炭酸ナトリウム水溶液を用いて現像し、回折構造を覆うレジストパターンを形成した。レジストパターンをエッチングマスクとして、回折構造以外の部分の鏡面部分の金属層をエッチングした。
【0042】
さらに、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体からなる接着層を、グラビアコーティング法により塗工して転写箔を得た。
【0043】
得られた転写箔を、ホットスタンプを用いて紙に130℃、10MPaで転写した。得られた転写物は回折構造による絵柄と金属層による絵柄の位置が合っており、意匠性および偽造防止効果の高い媒体であった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る回折構造形成体の製造方法の一工程を示す断面図。
【図2】本発明に係る回折構造形成体の製造方法の一工程を示す断面図。
【図3】本発明に係る回折構造形成体の製造方法の一工程を示す断面図。
【図4】本発明に係る回折構造形成体の製造方法の一工程を示す断面図。
【図5】本発明に係る回折構造形成体の製造方法の一工程を示す断面図。
【図6】本発明に係る回折構造形成体をステッカーとして応用する実施形態を示す断面図。
【図7】本発明に係る回折構造形成体を転写箔として応用する実施形態を示す断面図。
【図8】本発明に係る回折構造形成体をスレッドとして応用する実施形態を示す断面図。
【符号の説明】
【0045】
11…基材、12…回折構造形成層、13…金属層、14…回折構造形成部分、15…鏡面部分、16…レーザー光、17…金属層破壊部分、18…ネガ型レジスト、19…露光光、20…レジストパターン、21…金属層パターン、31…粘着層、41…剥離層、42…接着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面の一部に回折構造を形成する工程と、
前記回折構造が形成された表面全面に金属層を形成し、前記金属層の全面にレーザー光を万線状または網点状に照射し、回折構造における吸収を利用して回折構造上の金属層の一部を選択的に破壊する工程と、
前記回折構造が形成された表面全面にフォトレジストを形成し、露光光を金属層の一部が選択的に破壊された部分を通すことによって生じた回折光を前記フォトレジストに照射して前記回折構造上のフォトレジストを硬化させ、現像して前記回折構造を覆うレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとしてエッチングを行い、前記回折構造以外の部分の金属層を除去する工程と
を有する回折構造形成体の製造方法。
【請求項2】
前記フォトレジストは光散乱成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の回折構造形成体の製造方法。
【請求項3】
前記フォトレジスト上に反射層を形成した後、露光光を照射することを特徴とする請求項1または2に記載の回折構造形成体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−157287(P2009−157287A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338382(P2007−338382)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】