説明

圧縮機

【課題】摺動部材の耐久性の向上において、形状が複雑で小さいものに対して応用でき、かつコスト的にもメリットがある効果的な表面改質方法が求められている。
【解決手段】少なくとも表層部にFeOが分散している鉄系粉末材料を焼結して摺動部材を形成するとともに、潤滑油として合成油を用いることにより、摺動面に活性なFeOが露出することになり、合成油が積極的にFeOに吸着されて摺動面に潤滑油が確保されることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、業務用および家庭用の主として空気調和装置に使用される圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摺動部材のコーティングとして、燃焼機関のエンジンブロックのシリンダ摺動面として機能する基板に、プラズマ溶射操作により設けられた、1〜4重量%の含量の結合酸素を有している第1鉄コーティングが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−212717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の構成では、燃焼機関の様に動作環境に十分空気がある場合は、第1鉄コーティング中のFeOが酸化されてFe3O4に移行できるため、摺動面におけるFe3O4が増し、その固体潤滑作用が発揮されて高い耐久性が得られるものである。
【0004】
しかし、プラズマ溶射操作による第1鉄コーティングであり、摺動部材は簡単な形状に限られだけでなく、溶射によるコーティングの特徴であるが、歩留まりが悪くてコスト高になるなどの欠点を有している。
【0005】
摺動部材の耐久性の向上において、部分的な表面改質は重要な技術である。しかし、圧縮機の摺動部材の様に形状が複雑で小さいものに対して応用でき、かつコスト的にもメリットがある効果的な方法が求められている。
【0006】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、摺動部材の摺動面に潤滑油を積極的に吸着する、信頼性の高い圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明の圧縮機は、少なくとも表層部にFeOが分散している鉄系粉末を焼結して摺動部材を構成するとともに、潤滑油として合成油を用いたものである。
【0008】
これによって、摺動部材の摺動面にFeOが露出するが、FeOは構造的に不安定であり、活性である。そのため、極性の高い合成油はFeOに吸着されて、摺動面には潤滑油が確保されることになる。その潤滑作用によって高い信頼性が得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の圧縮機は、一時的な潤滑油不足が発生する様な過渡運転時において、その耐久性を大幅に向上できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
第1の発明は、少なくとも表層部にFeOが分散している鉄系粉末を焼結して摺動部材を構成するとともに、合成油を潤滑油として用いたことにより、摺動面に露出した活性なFeOによって潤滑油が積極的に吸着されることになり、摺動面における潤滑作用を確保することができる。
【0011】
第2の発明は、特に、第1の発明の鉄系粉末材料をFeOが分散している微細粉末を造粒したものとしたことにより、摺動部材は緻密になり、摺動部材の機械強度を向上できる。
【0012】
第3の発明は、特に、第1の発明の摺動部材を内部は粒径が大きい鉄系粉末材料で構成し、外周部は粒径が小さくFeOが分散している鉄系粉末材料で構成したことにより、焼結部材の内部は多孔質となり、摺動部材を軽くできる。
【0013】
第4の発明は、特に、第3の発明の摺動部材を摺動部のみにFeOが分散している鉄系粉末材料を用いたことにより、部分的表面改質になり、摺動部材のコストを下げることができる。
【0014】
第5の発明は、特に、第1の発明の合成油を対称な分子構造を有するものとしたことにより、潤滑油の油膜形成能力が高くなり、高負荷における潤滑作用を確保できる。
【0015】
第6の発明は、特に、第5の発明の合成油をそれより極性が高い油性剤や極圧剤を添加したものとしたことにより、油性剤や極圧剤も摺動面に吸着されることになり、摺動部材の耐摩耗性を向上できる。
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0017】
(実施の形態1)
図1〜図3に本発明の実施の形態を示している。本実施の形態は冷凍空調用のスクロール圧縮機の場合で、図1に全体構成を示している。
【0018】
図1において、1は密閉容器であり、その内部に電動機2と、圧縮機構3を配している。圧縮機構3は、電動機2により駆動されるクランク軸4と、旋回スクロール5と、固定スクロール6と、旋回スクロール5を固定スクロール6に対して自転させずに旋回運動させるように支持するオルダムリング7と、このオルダムリング7を前記支持のために移動できるように支持するフレーム8で構成されている。
【0019】
クランク軸4はフレーム8の軸受10および軸受11によって支持されている。旋回スクロール5はその軸5aがクランク軸4のクランク部4aに設けられた軸受4cで支持され、一方固定スクロール6と互いに噛み合わされて圧縮室9を形成している。なお、12は吸入口であり、13は吐出口である。
【0020】
密閉容器1内の最下部には油溜め14が設けられ、油溜め14内の潤滑油15はクランク軸4の油供給路4bを通じて潤滑対象部へ供給される。なお、潤滑油15として、エステル、エーテル、又はポリアルキレングリコールなどの極性の高いものが封入されている。また、油性剤として多価アルコールなどの長鎖の分子構造を有するものが、また極圧剤としてリン酸エステル系のものが添加されている。ともに合成油より極性の高い添加剤である。
【0021】
密閉容器1は、圧縮機構部3の吸入口12に開口している吸入管16と、吐出管17によって空調用冷凍サイクル(図示せず)に接続されている。
【0022】
さて、オルダムリング7であるが、図2に示すように、リング7aの旋回スクロール5に対向する側の面の直径線上2か所に突起7bが、またフレーム5と対向する側の面の直径線上2か所に突起7cがそれぞれ設けられ、双方の配列が互いに直角な方向に向くよう
になっている。
【0023】
オルダムリング7の突起7bは、旋回スクロール5の直径線上2か所に設けられた半径方向の溝5bと嵌まり合って、突起7bが並ぶ方向に移動できるように支持され、突起7cはフレーム8の直径線上2か所に設けられた半径方向の溝8aと嵌まり合ってオルダムリング7が突起7cの並ぶ方向に移動できるように支持されている。これによって、旋回スクロール5は自転せずに旋回運動できるように支持される。
【0024】
オルダムリング7は、少なくとも表層部にFeOが分散している鉄系粉末材料を用いて焼結したものである。摺動表面付近の断面組織を図3に示す。図中、20はFeO層であり、一部摺動面に露出している。また21は空孔である。
【0025】
以上のように構成されたスクロール圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
【0026】
電動機2に駆動されてクランク軸4が回転すると、オルダムリング7を介し旋回スクロール5が旋回運動し、ガス冷媒を吸込管16から吸込口12へと吸入する。圧縮室9において、ガス冷媒は吸込口12に通じる外周側から吐出口13に通じる内周側に移動されながらその容積を縮小して圧縮され、吐出口13から密閉容器1内に吐出される。吐出管17から空調用冷凍サイクルに供給された後、前記吸込管16に戻り循環し、冷凍サイクルを実行する。
【0027】
オルダムリング7の4箇所の突起7b、7cが旋回スクロール5の溝5bとフレーム8の溝8a内を往復運動することによって旋回スクロール5を自転させないようにしているため、オルダムリング7の突起7b、7cには移動方向に対して直角方向に荷重が発生する。高負荷になり圧縮負荷が増すとその荷重は増大し、混合潤滑状態で摺動する突起7b、7cと溝5b、8aとの潤滑状態は更に厳しくなる。
【0028】
しかし、突起7b、7cの表面には摺動に従い、FeO層20の一部が露出してくる。FeOは分子構造上不安定であり、活性である。一方、合成油は極性が高い。その結果、合成油は突起7b、7cの摺動面に積極的に吸着されて潤滑油量が確保され、潤滑状態を良好に保つことができる。更に、空孔21内にはFeO層20の吸着作用によって合成油が含浸されて油溜りが形成され、潤滑油の供給不足が発生した場合に摺動面への潤滑油供給源になる。従って、耐久性の高いスクロール圧縮機が得られる。
【0029】
また、微細粉末を造粒して鉄系粉末材料とすることによって、オルダムリング7は緻密になり、機械強度が向上する。その結果、能力が大きいスクロール圧縮機が実現できる。
【0030】
また、オルダムリング7の内部は粒径が大きい鉄系粉末材料を用い、外周部は粒径が小さくFeOが分散している鉄系粉末材料を用いて焼結して構成することによって、オルダムリング7は多孔質になり、軽くできる。その結果、能力制御幅の広いスクロール圧縮機が得られる。
【0031】
また、潤滑油として対称な分子構造を有する合成油、例えばジエーテルで両末端が同じアルキルキ基よりなるPAGなどを使用することによって、油分子同士が連結しやすくなり、高面圧における油膜形成能力を向上できる。高負荷における潤滑性が向上し、運転可能な負荷範囲が広いスクロール圧縮機が得られる。
【0032】
また、合成油より極性の高い極圧剤や油性剤を添加することによって、FeOに強くに吸着されて摺動面に合成油と添加剤が共存する潤滑膜を形成できる。その結果、選択的に潤滑作用が発揮されるので、初期馴染みや過渡運転などの潤滑油供給不足での運転におい
ても、耐久性が高いスクロール圧縮機が得られる。
【0033】
以上述べてきたことは、摺動部材を旋回スクロール、固定スクロール、旋回スクロールを受けるフレームのスラスト部、または軸受とした場合でも、同様の作用・効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明にかかる圧縮機は、摺動部材に分散するFeOと合成油によって摺動面に潤滑油を確保できるものであり、冷凍設備または給湯設備並びに自動車用空調機にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態1におけるスクロール圧縮機の縦断面図
【図2】同実施の形態1における圧縮機の要部の分解斜視図
【図3】同実施の形態1におけるオルダムリングの断面組織図
【符号の説明】
【0036】
5 旋回スクロール
5b 溝
6 固定スクロール
7 オルダムリング
7b、7c 突起
8 フレーム
8a 溝
20 FeO層
21 空孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層部にFeOが分散している鉄系粉末材料を焼結して摺動部材を形成するとともに、潤滑油として合成油を用いた圧縮機。
【請求項2】
鉄系粉末材料として、FeOが分散している微細粉末を造粒したものを用いた請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
摺動部材として、その内部は粒径が大きい鉄系粉末材料で構成し、その外周部は粒径が小さくFeOが分散している鉄系粉末材料で構成したものを用いた請求項1に記載の圧縮機。
【請求項4】
摺動部材として、その摺動部のみをFeOが分散している鉄系粉末材料を用いたものを用いた請求項3に記載の圧縮機。
【請求項5】
合成油として、対称な分子構造を有するものを用いた請求項1に記載の圧縮機。
【請求項6】
合成油として、それより極性が高い油性剤や極圧剤を添加したものを用いた請求項5に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−113510(P2007−113510A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306919(P2005−306919)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】