説明

圧電発振器

【課題】圧電片の厚みすべり振動のオーバトーンを利用した圧電発振器において、基本波振動による電気エネルギーを抑え、位相雑音を低減できる技術を提供すること。
【解決手段】ATカットの水晶片1の一面側の電極2における励振電極部分は、厚みすべり振動方向と直交する方向(Z´軸方向)に互いに離間し、平行に短冊状に分割電極21、22として形成される。これらの端部同士は接続され、全体としてコ字型形状とする。他面側の電極3は、一面側の第1の分割電極21及び第2の分割電極22に夫々対向する位置に短冊状の励振電極部31、32が形成され、逆向きのコ字型上の電極とする。このため分割電極21、22だけが励振電極部として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚みすべり振動を起こす圧電片を利用した圧電発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶発振器における安定した温度特性を得るためにTCXO、OCXO、MCXOなどが知られている。TCXOは温度センサの信号を利用して水晶発振器の周波数を制御するものである。この温度センサとしては一般的にサーミスタが利用され、周波数安定度の制御は−20℃〜+75℃の温度範囲で±0.2ppm程度が限界であると言われている。OCXOは、オーブンを利用して水晶振動子が置かれる環境温度を一定化するものであり、周波数の温度安定性が高く、また低雑音が実現できる。しかし、消費電力が大きく且つ高価であるため、用途が限られてしまい、例えば基地局用として使用されている。
【0003】
またMCXOは、例えば一枚のSCカット水晶の片面に形成された一対の電極により発生する厚みすべり振動モード、厚みねじれ振動モード夫々の周波数をフィルタで分離し、厚みすべり振動モードの周波数を出力周波数信号、厚みねじれ振動モードの周波数を温度信号として取り扱い、マイクロコンピュータを利用して温度信号に応じて出力周波数制御するものである。このMCXOも、TCXOよりも周波数の安定性が高く、また低雑音が実現できるが、回路構成が複雑で消費電力が大きく、且つ高価であるため最近では利用されなくなっている。
【0004】
更にまた前記水晶振動子では、基本波振動に比べてオーバトーンの方が安定した周波数温度特性を示すことから、上記の各方式に代えてあるいは各方式と組み合わせてオーバトーンを利用することも知られている。しかし、電極上には基本波の振動による電気エネルギーも発生するので、基本波の成分がオーバトーンの出力信号に乗ってしまい、結果として位相雑音が大きくなる。
【0005】
特許文献1には、圧電基板の上に2つの分割電極を、短絡しない程度まで接近させ、厚みねじれ振動を起こさせること、表面電極及び裏面側の電極を直列または並列接続させることが記載されているが、本発明の技術を示唆するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2640936号公報:第8欄32行〜35行、第10欄38行〜43行、第13欄第43行〜47行、第5図及び第7図
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、圧電片の厚みすべり振動のオーバトーンを利用した圧電発振器において、基本波振動による電気エネルギーを抑え、位相雑音を低減できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電圧の印加により厚みすべり振動を起こす圧電片と、
この圧電片の両面に夫々設けられ、電源及びアースのうちの一方及び他方に夫々接続される一面側の電極及び他面側の電極と、
これら電極に接続され、当該圧電片を厚みすべり振動のオーバトーンモードで発振させるための発振回路と、を備え、
前記圧電片の一面側の電極における励振電極部分は、厚みすべり振動方向と直交する方向に左右対称となるように互に間隔をおいて分割され、互に電気的に接続された第1の分割電極及び第2の分割電極により構成され、
前記圧電片の他面側の電極は、前記第1の分割電極及び第2の分割電極に各々対向し、互に電気的に接続された励振電極部分を備え、
前記第1の分割電極及び第2の分割電極の間隔は、厚みねじれ振動モードが発生しない寸法であることを特徴とする。
前記圧電片は、例えばATカットされた水晶片であり、この場合第1の分割電極及び第2の分割電極は、水晶の結晶軸であるX軸方向に互に離間している。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧電片例えばATカットされた水晶片の厚みすべり振動のオーバトーンを利用した発振器において、圧電片の振動方向中心部を避け、当該中心部に対して左右対称に励振電極部分をなす第1の分割電極及び第2の分割電極を設けているので、オーバトーンにより出力周波数を得るにあたって、両分割電極の基本波による電気エネルギーを抑えることができ、位相雑音を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の圧電発振器に用いられる水晶振動子の一例の表面図及び裏面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った縦断側面図である。
【図3】前記水晶振動子の電極の寸法を示すための説明図である。
【図4】前記水晶振動子を容器に収納してなる構造体を示す縦断側面図である。
【図5】前記構造体と発振回路とをプリント基板に搭載してなる水晶発振器を示す側面図である。
【図6】本発明の圧電発振器に用いられる発振回路の一例を示す回路図である。
【図7】前記水晶振動子における厚みすべり振動の様子を示す模式図である。
【図8】前記水晶振動子における基本波及びオーバトーンの振動エネルギー分布を示す説明図である。
【図9】前記水晶振動子における基本波及びオーバトーンの電気エネルギー分布を示す説明図である。
【図10】水晶振動子の比較例における基本波及びオーバトーンの電気エネルギー分布を示す説明図である。
【図11】本発明の圧電発振器に用いられる水晶振動子の他の例の表面図及び裏面図である。
【図12】図11のB−B線に沿った縦断側面図である。
【図13】本発明の圧電発振器に用いられる発振回路の他の例を示す回路図である。
【図14】本発明の圧電発振器に用いられる水晶振動子の更に他の例の表面図及び裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
本発明の圧電発振器である水晶発振器の実施の形態について説明する。図1(a)、(b)は、水晶発振器に用いられる圧電振動子としての水晶振動子10の一面側及び他面側を示し、図2は図1のA−A線に沿った断面を示している。1は圧電片であるATカットの短冊状(矩形状)の水晶片であり、長辺及び短辺が夫々X軸及びZ´軸に沿って形成されている。この矩形状の水晶片1は、厚みすべり振動方向に直交する方向に伸びるラインつまりX軸に対して左右対称に形成された圧電片ということができる。なお、Z´軸とは、水晶の機械軸であるZ軸を反時計方向に約35度15分回転させた軸である。
【0012】
前記水晶片1の一面側及び他面側には夫々電極2及び電極3が設けられている。図1(a)に示すように一面側の電極2における励振電極部分は、短辺(Z´軸方向)の中点を通りかつ長辺(X軸)と平行に伸びる中心ライン20の両側に当該中心ライン20に対して左右対称となるように分割された第1の分割電極21及び第2の分割電極22により構成されている。即ち、第1の分割電極21及び第2の分割電極22は、厚みすべり振動方向と直交する方向に互いに離間しており、互に平行に短冊状に形成されている。そしてこれら分割電極21、22の端部同士は、Z´軸方向に伸びる接続部分23により接続されており、これらによりコ字型形状が形成されている。更に第1の分割電極21から引き出し電極24が水晶片1の短辺側に引き出され、水晶片1の他面側に回しこまれて端子部25に接続されている。
【0013】
図1(b)に示すように他面側の電極3においては、一面側の第1の分割電極21及び第2の分割電極22に夫々対向する位置(投影領域)に短冊状の励振電極部31、32が形成されている。これら励振電極部31、32の端部同士は接続部分33により互に接続されてコ字型上の電極を形成し、一面側の引き出し電極24が回しこまれた短辺とは反対側の短辺に向かって引き出し電極34が伸びている。即ち、一面側のコ字型の電極(21,22、23)に対して、他面側のコ字型の電極(31,32、33)は、逆向きになっており、このため一面側の電極2においては、分割電極21、22だけが励振電極部として機能するようになっている。
【0014】
そして引き出し電極34から当該短辺に沿って左右に幅狭の導電路が伸び、一方側の導電路は図1(a)に示すように水晶片1の一面側に回しこまれ、更に水晶片1の長辺に沿って形成されている。また他方側の導電路は、図1(b)に示すように当該他面側において前記長辺とは反対側の長辺に沿って伸び、更に水晶片1の短辺にて折り返されて端子部35に接続されている。
【0015】
水晶片1の一面側の電極2に接続された端子部25は、後述のように発振回路の直流電源側に接続され、また水晶片1の他面側の電極3に接続された端子部35は接地される。水晶片1の両側の長辺に沿って伸びる道電路に符号36、37を割り当ててタブ電極と呼ぶことにすると、この実施の形態では水晶片1のZ´軸方向の端部に、接地されるタブ電極36、37が設けられていることになる。このタブ電極36、37の利点については後述することにする。
【0016】
この例では、水晶片の長辺、短辺の寸法が夫々9.0mm及び6.5mmであり、電極の2、3の膜厚は例えば4000オングストロームである。また図3に示すように分割電極21、22の幅D1は、1.5mm、分割電極21、22の離間距離Lは1.5mmであり、タブ電極36、37の幅D2は0.4mmである。電極2、3の材質は、クロム層を下地とし、その上に金層を積層したものである。
【0017】
図4は水晶振動子10を保持器41内に搭載した水晶電子部品100の側面図である。保持器41は、水晶振動子10を支持する基板42と、基板42表面に形成された電極43、43(図では1つのみ示している)と、基板42上に水晶振動子1の側周を囲うように設けられた側周部44と、側周部44上に設けられた蓋部45と、を備えている。水晶振動子1は前記電極43上に塗布された導電性接着材46を介して、基板42表面上に支持されている。図中47は基板42に設けられた導電路である。
【0018】
基板42の裏面には電極48,48が設けられており(電極44、48は、図では夫々1つずつのみ示している)、各電極48は導電路47、電極44及び導電性接着材46を介して、図1に示した水晶振動子1の引き出し電極25、35に夫々電気的に接続されている。図中49はダミー電極である。図5は、水晶電子部品100が回路基板200上に搭載され、他の電子部品群300及びICチップ400と共に構成された水晶発振器を示している。また図6はこの水晶発振回路の回路図であり、水晶振動子10の両端には、図1に対応する電極25、35を示している。500はコルピッツ発振回路であり、水晶振動子をオーバトーンで発振させるように構成されている。501は同調回路であり、発振させるべくオーバトーンにより共振されるように構成されている。502は増幅回路である、例えばICチップ400内に設けられるトランジスタであり、例えばトランジスタ502のコレクタからバッファ回路600を介して発振出力が取り出される。オーバトーンとしては3次、5次、7次などが用いられるが、図1の水晶振動子10は3次のオーバトーンを発振させるために用いられる。
【0019】
なお、発振回路500としては、同調回路501を設けずにあるいは同調回路500を設けた上で、トランジスタ502のエミッタにインダクタをもうけ、コンデンサ503及びインダクタの並列共振周波数をオーバトーンと基本波の周波数との中間の周波数に設定する構成を採用してもよい。
【0020】
このような水晶発振器においては、水晶片1に電極2、3により電界が印加されると、図7の矢印で示されるX軸の方向に振動する厚みすべり振動が起こる。そして発振回路が例えば3次のオーバトーンで発振するように構成されている場合、水晶片1において3次のオーバトーンによる振動エネルギー分布は、図8の実線で示される。また基本波による振動エネルギー分布は図8の点線で示される。ただし便宜上、波高値については正確に記載されていない。また図9は、励振電極部である分割電極21、22に発生する電気エネルギー分布を示し、実線は3次のオーバトーンに基づく電気エネルギーであり、点線は基本波に基づく電気エネルギーである。
【0021】
図10は、水晶片1のZ´軸方向の中央部に励振電極部を設けた場合における電気エネルギーの分布である。2´、3´は励振電極部である。実線及び点線は夫々オーバトーンに基づく電気エネルギー及び基本波に基づく電気エネルギーである。この場合には、基本波の振動エネルギーが大きいことから、基本波に基づく電気エネルギーも大きく、このためオーバトーンの発振出力において基本波が乗ることによる位相雑音が大きくなる。そこでこの実施の形態では、励振電極部を左右両側に分割し、中央を避けるようにしている。なお安定した発振を得るために、分割電極21、22は、図1に示す中心線20に対して左右対称であることが好ましい。
【0022】
分割電極21、22の形成領域には、基本波の振動も存在することから、当該分割電極21、22には、基本波の電気エネルギーも発生する。そして基本波の電気エネルギーは、その裾野が電極の両側に広がるため、この実施の形態の水晶振動子10においても図9の点線に示すようにその裾野が分割電極21、22の両側に広がっている。このため励振電極部である分割電極21、22を接近しすぎると、一方における基本波の電気エネルギーが他方における電気エネルギーに乗ってくる程度が大きくなり、位相雑音が大きくなる。そこで分割電極21、22をある程度の距離以上離す必要がある。この離間距離があまり小さすぎると、厚みねじれ振動モードが発生してしまい、本発明の目的が達成できなくなる。励振電極部の好ましい膜厚は2000オングストロームから10000オングストロームであり、2000オングストロームの場合には、前記離間距離(図3にてLで示す距離)は例えば1.3mm以上であることが好ましく、この程度であれば厚みねじれ振動モードが発生しないかまたは無視できる。
【0023】
図1及び図2に戻って、水晶片1のZ´軸方向の両端つまり長辺側には、設置されるタブ電極36、37を設けているため、基本波の電気エネルギーがこのタブ電極36,37を介して接地側に流れ、このためより一層、基本波に基づく位相雑音が抑えられる点で好ましい。
【0024】
以上のように上述実施の形態の水晶発振器に用いられる水晶振動子10においては、水晶片1の振動方向中心部を避け、当該中心部に対して左右対称に励振電極部分をなす第1の分割電極21及び第2の分割電極22を設けている。従ってオーバトーンにより出力周波数を得るにあたって、両分割電極21、22における基本波の電気エネルギーは小さく、そして分割電極21、22を所定の距離以上離しているため、一方の分割電極21(22)が他方の分割電極22(21)から受ける基本波の電気エネルギーの影響が小さい。この結果、基本波に基づく位相雑音を低減させることができる。オーバトーンを利用した発振器は温度に対して周波数の安定度が高く、この点において優れているが、基本波の影響により位相雑音が大きくなる欠点があることから、基本波の影響を抑えたこの発明は非常に有効である。
【0025】
なお、水晶片1の形状は四角形に限られるものではなく、例えば円形であってもよい。また分割電極21、22の形状についても短冊形状に限られるものではなく、正方形であってもよいし、半円形などであってもよい。また上述の励振電極では一面側の電極2及び他面側の電極3を夫々電源側及びアース側に接続しているが、一面側の電極2及び他面側の電極3を夫々アース側及び電源側に接続してもよい。
【0026】
次に本発明の圧電発振器である水晶発振器の他の実施の形態について図11〜図13を参照しながら説明する。この実施の形態では、水晶振動子10として、一面側の励振電極部及び他面側の励振電極部からなる組を1枚の水晶片1に2組設けたものを用いている。図11(a)、(b)は、夫々水晶片10の一面側及び他面側を示す平面図である。図11に示す水晶振動子10は、概略的な言い方をすれば、1枚の水晶片1に図1に示した電極2、3の組をX軸方向に互いに離間させて2組並べたものであり、一方の組の電極の導電路と接続するための端子部を水晶片1の一方の短辺側に形成すると共に、他方の組の電極の導電路と接続するための端子部を水晶片1の他方の短辺側に形成している。
【0027】
図11において、算用数字の符号は図1における同じ算用数字の符号に対応し、その後に付した「a」、「b」の符号は夫々一方の組及び他方の組を区別するための符号である。そしてこの水晶振動子10は、図1のようにタブ電極を設けていないため、電極の引き回しのレイアウトは図1とは異なっているが、水晶片1の一面側に中心線20に対して対称に第1の分割電極21a(b)及び第2の分割電極22a(b)を形成し、一面側の電極2a(2b)と他面側の電極3a(3b)との間でコ字型の向きを反対にして、これら分割電極21a(b)、22a(b)が形成されている部分だけ励振電極部として機能させている点は先の実施の形態と同様である。10aは、電極2a及び3aにより励振される主振動領域であり、10bは、電極2b及び3bにより励振される従振動領域である。なお「主」、「従」は用語の混乱を避けるために便宜上付したものであり、機能的に主、従の関係を示すものではない。
【0028】
先の実施の形態では水晶振動子10は保持器41に片持ち構造で支持されていたが、図11の水晶振動子10は保持器41に両持ち構造で支持されることになる。このような水晶振動子10の適用例としては例えば、次の(1)、(2)に記載した手法を挙げることができる。
【0029】
(1)一方の振動領域10aに対応する発振出力を発振器の出力信号として使用し、他方の振動領域10bに対応する発振出力を温度センサ信号として使用する。具体的には図13に示すように、主振動領域10a及び従振動領域10bに夫々対応して2個の発振回路50a及び50bが用意され、他方の発振回路50bの発振出力が制御部51にて温度信号に変換される。この変換は予め発振出力(周波数)の温度特性を把握しておくことにより、制御部51にて発振出力に基づいてそのときの温度が求まる。そして検出した温度と基準温度との差分を求め、一方の発振回路50aにおける周波数温度特性に基づいて、前記温度の差分に対応する周波数の変化分を求め、この変化分がキャンセルされるように、基準温度において決められた制御電圧(基準制御電圧)の補償電圧を求め、基準制御電圧に補償電圧を加算して一方の発振回路50aの制御電圧とする。各振動領域10a、10bは同じ水晶片11に形成されており、これらは実質同じ温度であることから、発振回路50aの発振周波数は温度変化に対して高い安定性を示すことになる。なお各振動領域10a、10bは同じ次数のオーバトーンで発振させてもよいし、互いに異なるオーバトーン(例えば一方が3次オーバトーン、他方が5次オーバトーンなど)で発振させてもよい。
【0030】
(2)図13の回路の一部を利用して説明すると、発振回路50a、50bの発振出力の差分を混合器にて取り出し、差分周波数を出力周波数として使用する。この場合、出力周波数は例えば逓倍回路により逓倍されて使用してもよい。また各振動領域10a、10bは同じ次数のオーバトーンで発振させてもよいし、互いに異なるオーバトーン(例えば一方が3次オーバトーン、他方が5次オーバトーンなど)で発振させてもよい。同じ次数のオーバトーンを利用した場合であっても振動領域の互いの位置が異なることから、差分周波数が生じる。このような例においても、各振動領域10a、10bが同じ水晶片11に形成されており、これらは実質同じ温度であることから、両振動領域10a、10bの発振周波数の温度特性がキャンセルされることから、温度変化に対して安定した周波数が得られる。
【0031】
またこのように主振動領域10a及び従振動領域10bを備えたいわばツインセンサにおいても図1の実施の形態のようにタブ電極を設けてもよい。このような構成を図14に示しておくと、この例では水晶片1の他面側において水晶片1の長辺に沿ってタブ電極36、37を設けており、これらタブ電極36、37は接地される。また図14の例では水晶片1の一面側の電極2a、2bにおけるコ字型電極の向きを、接続部23a、23bが中央側に位置するように配置している。
【0032】
また、上記の例では圧電片としてATカットの水晶片を用いているが、厚みすべり振動を起こすものであれば本発明の効果が得られるので、水晶片としては例えばBTカットされたものでもよい。また圧電片は水晶片に限られず、セラミックスなどでもよい。
【0033】
(実験例)
水晶振動子として図11に示した構造を作成した。この構造は、図1に示した電極の組が2組用いられているため、電極の長さ寸法が図3において説明した寸法と異なるが、その他の寸法(、水晶片の寸法、分割電極の幅D1、離間距離L)は同じである。また電極の構造については、クロム膜を50オングストローム形成し、その上に金膜を2000オングストローム積層した。そして2つの振動領域10a、10bが夫々3次オーバトーン(54MHz)及び5次オーバトーン(90MHz)で振動するように構成した。
【0034】
周波数と信号強度とをスペクトラムアナライザにより調べた。そして、得られたスペクトルから両振動領域について、基本波振動モード、3次オーバトーン振動モード、5次オーバトーン振動モードで発振するときの等価回路定数としての直列抵抗R1の値を算出した。一方の振動領域10aでは基本波振動モード、3次オーバトーン振動モード、5次オーバトーン振動モードの夫々前記直列抵抗値R1が125Ω、16Ω、37Ωであった。また、他方の振動領域10bでは、基本波振動モード、3次オーバトーン振動モード、5次オーバトーン振動モードの夫々前記直列抵抗値R1が130Ω、18Ω、39Ωであった。このように基本波振動モードの直列抵抗値はオーバトーンの直列抵抗値よりも高く、基本波振動が抑圧されていることが分かる。従って本発明の効果が確認された。
【符号の説明】
【0035】
1 水晶片
10 水晶振動子
2、3 電極
21、22 分割電極
31、32 励振電極部
23、33 引き出し電極
24、34 接続部分
25、35 端子部
41 保持器
100 電子部品
21a、21b、22a、22b 分割電極
25a、25b、35a、35b 端子部
31a、31b、32a、32b 励振電極部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧の印加により厚みすべり振動を起こす圧電片と、
この圧電片の両面に夫々設けられ、電源及びアースのうちの一方及び他方に夫々接続される一面側の電極及び他面側の電極と、
これら電極に接続され、当該圧電片を厚みすべり振動のオーバトーンモードで発振させるための発振回路と、を備え、
前記圧電片の一面側の電極における励振電極部分は、厚みすべり振動方向と直交する方向に左右対称となるように互に間隔をおいて分割され、互に電気的に接続された第1の分割電極及び第2の分割電極により構成され、
前記圧電片の他面側の電極は、前記第1の分割電極及び第2の分割電極に各々対向し、互に電気的に接続された励振電極部分を備え、
前記第1の分割電極及び第2の分割電極の間隔は、厚みねじれ振動モードが発生しない寸法であることを特徴とする圧電発振器。
【請求項2】
前記圧電片は、ATカットされた水晶片であり、第1の分割電極及び第2の分割電極は、Z´軸方向に互に離間していることを特徴とする請求項1記載の圧電発振器。
【請求項3】
前記第1の分割電極及び第2の分割電極は、互に平行に延びる短冊状に形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載された圧電発振器。
【請求項4】
前記一面側の電極は、第1の分割電極の一端側及び第2の分割電極の一端側同士を互に接続する接続部分を備え、
前記他面側の電極は、前記接続部分に対向する領域には電極部分が存在しないことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の圧電発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−188373(P2011−188373A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53541(P2010−53541)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】