説明

基板処理方法および基板処理装置

【課題】基板表面上の処理液を溶剤で置換した後に当該溶剤を基板表面から除去して当該基板表面を乾燥させる基板処理方法および基板処理装置において、基板表面に水滴が付着するのを防止して乾燥性能を高める。
【解決手段】基板表面Wfの上方位置に遮断部材64が配置されている。この遮断部材64の中央部にはIPA液供給路が設けられており、当該IPA液供給路に対してIPA液供給ユニットが接続されており、所定温度にまで加熱された高温の100%IPA液(高温IPA液)を基板表面Wfに向けて吐出可能となっている。そして、置換処理を行う際には、高温IPA液を基板表面Wfに供給することで基板表面Wf上のリンス液を置換している。このため、基板表面Wf上のリンス液が高い置換効率で高温IPA液に置換されてスピン乾燥処理前に基板表面Wf上に残存するリンス液の量を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表面が処理液で濡れた基板を乾燥させる基板処理方法および装置に関するものである。なお、乾燥処理対象となる基板には、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(電界放出ディスプレイ:Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板等が含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置などの電子部品の製造工程では、薬液による薬液処理および純水などのリンス液によるリンス処理が行われた後、基板表面に付着するリンス液を除去すべく、乾燥処理が実行される。この一連の処理を枚葉方式で実行するために、例えば特許文献1では次のように構成された基板処理装置が用いられている。この基板処理装置は、基板を水平姿勢にて保持するスピンチャックと、スピンチャックを回転させるチャック回転駆動機構と、スピンチャックに保持された基板の表面に向けて薬液および純水やDIW(deionized water:脱イオン水)などのリンス液を供給する第1ノズルと、スピンチャックに保持された基板の表面に向けて溶剤を供給する第2ノズルとを備えている。そして、同装置では、次のようにして薬液処理、リンス処理、第1置換処理、第2置換処理および乾燥処理が実行される。すなわち、基板表面に対してフッ酸などの薬液が第1ノズルから供給されて薬液処理が実行された後、同ノズルからDIWが供給されてリンス処理が実行される。また、同基板表面に対し、DIWよりも揮発性の高い水溶性有機溶剤であるIPA(isopropyl alcohol:イソプロピルアルコール)と、純水よりも表面張力が低く、IPAよりも水溶性の低いフッ素系溶剤であるHFE(Hydrofluoroether:ハイドロフルオロエーテル)とを含む混合溶剤が供給されて基板上のリンス液(DIW)が混合溶剤に置換される。その後、HFEのみを基板の表面に供給して基板の表面上の混合溶剤をHFEに置換する。最後に、基板の高速回転によって基板表面からHFEを振り切ることで基板表面が乾燥される(乾燥処理)。
【0003】
また、IPAを用いて基板処理する方法として、例えば特許文献2では、剥離液によるレジスト膜の剥離処理、剥離液のIPAへの置換処理、IPAの水洗処理および乾燥処理の全てをいわゆるバッチ方式で行うものが知られている。この特許文献2に記載の処理方法では、40〜60[゜C]程度に加熱されたIPA液が使用されている。
【0004】
【特許文献1】特開2008−153452号公報(図1、図3)
【特許文献2】特開2002−151394号公報(段落0012、0013)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように乾燥処理前に基板表面全体をHFEで覆っておくことで、リンス液で濡れた基板をそのままスピン乾燥する場合に比べて乾燥性能を格段に高めることができる。しかしながら、乾燥処理を行っている間に基板表面上のHFE液膜の乾燥移動にしたがって微細な水滴が基板表面に付着してしまい、乾燥性能を低下させてしまうことがあった。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、基板表面上の処理液を溶剤で置換した後に当該溶剤を基板表面から除去して当該基板表面を乾燥させる基板処理方法および基板処理装置において、基板表面に水滴が付着するのを防止して乾燥性能を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる基板処理方法は、表面が処理液で濡れた基板を乾燥させる基板処理方法であって、上記目的を達成するため、イソプロピルアルコールを主成分とする溶剤を基板表面に供給して処理液を溶剤で置換する置換工程と、置換工程後に基板表面から溶剤を除去する除去工程とを備え、置換工程は、処理液の温度以上で、かつ溶剤の沸点以下の温度に調整された溶剤を用いることを特徴としている。
【0008】
また、この発明にかかる基板処理装置は、上記目的を達成するため、処理液で濡れた表面を上方に向けた略水平姿勢で基板を保持する基板保持手段と、基板保持手段に保持された基板の表面に向けてイソプロピルアルコールを主成分とする溶剤を供給して処理液を溶剤で置換する溶剤供給手段とを備え、溶剤供給手段は、溶剤の温度を処理液の温度以上でかつ溶剤の沸点以下の温度に調整された溶剤を供給することを特徴としている。
【0009】
このように構成された発明(基板処理方法および基板処理装置)では、基板表面に溶剤を供給することで基板表面上の処理液を置換しているが、溶剤の温度が処理液の温度以上でかつ溶剤の沸点以下の温度に調整されている。このように高温に温度調整された溶剤では、温度上昇にしたがって溶剤の粘度は低下し、その拡散速度は高くなる。そのため、高温に温度調整された溶剤を基板表面に供給すると、常温の溶剤を用いた場合よりも高い置換効率で処理液が溶剤に置換され、基板表面に残存する処理液の量を抑えることができる。また、例えば基板表面に微細なパターンが形成されている場合、基板乾燥のために上記パターンの凹部に入り込んだ溶剤を除去する際にパターン倒壊させる方向に応力が作用する。この応力は溶剤の表面張力と密接に関連しており、当該表面張力が大きくなるにしたがって上記応力が増大する。この点、本発明では、上記のように温度調整された溶剤を用いているため、溶剤の表面張力が低下して上記応力が低減される。そのため、微細パターンの倒壊を確実に防止して良好な基板乾燥が行われる。さらに、高温に温度調整された溶剤を基板表面に供給することで基板温度は上昇して乾燥速度が高められる。
【0010】
ここで、溶剤としては、例えば100%イソプロピルアルコールを用いることができる。また、溶剤の温度を40〜55[゜C]に調整するのが望ましい。
【0011】
また、ノズルから基板表面に向けて溶剤を吐出する前にノズルから溶剤を吐出してノズル内および配管内を温度調整された溶剤で満たす、プリディスペンス工程を設けるのが望ましい。このプリディスペンス工程を実行することで置換工程では常に所定温度に調整された溶剤が基板表面に供給されるため、良好な乾燥処理を安定して行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、基板表面にイソプロピルアルコールを主成分とする溶剤を供給して処理液を溶剤で置換した後に基板表面から溶剤を除去して基板乾燥を行う際に、処理液の温度以上で、かつ溶剤の沸点以下の温度に調整された溶剤を用いているので、基板表面に水滴が付着するのを防止して乾燥性能を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明にかかる基板処理装置の一実施形態を示す図である。また、図2は図1の基板処理装置を制御する電気的構成を示すブロック図である。この基板処理装置1は、半導体ウエハ等の基板Wの表面Wfに付着している不要物を除去するための洗浄処理に用いられる枚葉式の基板処理装置である。より具体的には、(1)基板表面Wfに対してフッ酸などの薬液による薬液処理、(2)純水やDIWなどのリンス液によるリンス処理、(3)基板表面Wfにリンス液膜をパドル状に形成するパドル形成処理、(4)基板W上のリンス液をIPA液で置換する置換処理、(5)基板WからIPA液を除去して基板Wを乾燥させる除去処理を実行する装置である。
【0014】
この基板処理装置1では、処理チャンバー2の天井部分にファンフィルタユニット(FFU)4が配置されている。このファンフィルタユニット4はファン4aおよびフィルタ4bを有している。このファンフィルタユニット4では、装置1の上方空間より送り込まれた気体がファン4aによってフィルタ4bに向けて送られて当該フィルタ4bで清浄された後に処理チャンバー2の中央空間に送り込まれる。
【0015】
この中央空間にはスピンチャック6が配置されている。このスピンチャック6は基板表面Wfを上方に向けた状態で基板Wを略水平姿勢に保持して回転させるものであり、本発明の「基板保持手段」として機能する。また、このスピンチャック6では、回転支軸8がモータを含むチャック回転機構10(図2)の回転軸に連結されており、チャック回転機構10の駆動によりスピンチャック6が回転軸(鉛直軸)回りに回転可能となっている。これら回転支軸8およびチャック回転機構10は、円筒状のケーシング14内に収容されている。また、回転支軸8の上端部には、円盤状のスピンベース16が一体的にネジなどの締結部品によって連結されている。したがって、制御部18からの動作指令に応じてチャック回転機構10を駆動させることによりスピンベース16が回転軸回りに回転する。また、制御部18はチャック回転機構10を制御してスピンベース16の回転速度を調整する。
【0016】
スピンベース16の周縁部付近には、基板Wの周縁部を把持するための複数個のチャックピン12が立設されている。チャックピン12は、円形の基板Wを確実に保持するために3個以上設けてあればよく、スピンベース16の周縁部に沿って等角度間隔で配置されている。チャックピン12のそれぞれは、基板Wの周縁部を下方から支持する基板支持部と、基板支持部に支持された基板Wの外周端面を押圧して基板Wを保持する基板保持部とを備えている。また、各チャックピン12は、基板保持部が基板Wの外周端面を押圧する押圧状態と、基板保持部が基板Wの外周端面から離れる解放状態との間を切り替え可能に構成されている。
【0017】
スピンベース16に対して基板Wが受渡しされる際には、複数個のチャックピン12を解放状態とし、後述する基板処理を基板Wに対して行う際には、複数個のチャックピン12を押圧状態とする。このように押圧状態とすることによって、複数個のチャックピン12は基板Wの周縁部を把持してその基板Wをスピンベース16から所定間隔を隔てて略水平姿勢に保持することができる。これにより、基板Wはその表面を上方に向け、裏面を下方に向けた状態で支持される。なお、基板保持機構としてはチャックピン12に限らず、基板裏面を吸引して基板Wを支持する真空チャックを用いてもよい。
【0018】
スピンチャック6により保持された基板Wの上方位置には、ノズルアーム22と遮断部材64が設けられている。これらのうちノズルアーム22は水平面内で揺動自在に設けられている。このノズルアーム22の先端部には薬液供給ノズル26が取り付けられ、薬液供給ユニット34(図2)からフッ酸またはBHF(Buffered Hydrofluoric acid:バッファードフッ酸)などの基板洗浄に適した薬液を供給可能となっている。そして、制御部18からの指令に応じて薬液供給ユニット34が薬液供給ノズル26に向けて薬液を圧送すると、ノズル26から薬液が基板Wに向けて吐出される。また、ノズルアーム22にはノズルアーム移動機構38が接続されており、制御部18からの動作指令に応じてノズルアーム移動機構38が作動することで、基板Wの表面上方の吐出領域と吐出領域から側方に退避した待機位置との間でノズル26は移動可能となっている。
【0019】
遮断部材64は、中心部に開口部を有するドーナツ盤状の板状部材66と、内部が中空に仕上げられ、板状部材66を支持する回転支軸68と、回転支軸68の中空部および板状部材66の開口部に挿通された内挿軸(図示省略)とを有している。板状部材66はスピンチャック6に保持された基板Wの表面Wfに対向配置されている。板状部材66は、その下面(底面)66aが基板表面Wfと略平行に対向する基板対向面となっており、その平面サイズは基板Wの直径と同等以上の大きさに形成されている。板状部材66は略円筒形状を有する回転支軸68の下端部に略水平に取り付けられ、回転支軸68は水平方向に延びるアーム70により基板Wの中心を通る回転軸回りに回転可能に保持されている。内挿軸の外周面と回転支軸68の内周面との間にはベアリング(図示省略)が介在して取り付けられている。また、アーム70には、遮断部材回転機構72と遮断部材昇降機構74が接続されている。
【0020】
遮断部材回転機構72は、制御部18からの動作指令に応じて回転支軸68を回転軸回りに回転させる。この回転支軸68の回転によって板状部材66が回転支軸68とともに一体的に回転する。遮断部材回転機構72は、スピンチャック6に保持された基板Wの回転に応じて基板Wと同じ回転方向でかつ略同じ回転速度で板状部材66(下面66a)を回転させるように構成されている。
【0021】
また、遮断部材昇降機構74は、制御部18からの動作指令に応じて遮断部材64をスピンベース16に近接して対向させたり、逆に離間させることが可能となっている。具体的には、制御部18は遮断部材昇降機構74を作動させることで、基板処理装置1に対して基板Wを搬入出させる際には、スピンチャック6の上方の離間位置に遮断部材64を上昇させる。その一方で、基板Wに対して所定の処理を施す際には、スピンチャック6に保持された基板Wの表面Wfのごく近傍に設定された所定の対向位置(図4参照)まで遮断部材64を下降させる。この実施形態では、リンス処理が開始されてから遮断部材64を離間位置から対向位置に下降させ、乾燥処理が完了するまで継続して遮断部材64を対向位置に位置させる。
【0022】
この遮断部材64では、回転支軸68と内挿軸は全周にわたって互いに均一に離間しており、気体供給経路が形成されている。そして、この気体供給経路の上端側(図1の上方側)に窒素ガスが圧送されると、窒素ガスは気体供給経路を介して気体供給経路の下端側開口からスピンチャック6に向けて吐出される。
【0023】
一方、内挿軸には2本の流体供給路が鉛直軸方向に延びるように形成されている。すなわち、リンス液(DIW)の通路となるリンス液供給路およびIPA液の通路となるIPA液供給路が内挿軸に形成されている。これらの流体供給路はPTFE(ポリテトラフルオロエチレン:polytetrafluoroethylene)からなる内挿軸にそれぞれ、PFA(パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製のチューブを軸方向に挿入することによって形成されている。そして、リンス液供給路に対してリンス液供給ユニット36(図2)が接続されており、薬液処理された基板Wに向けて常温のリンス液(DIW)を吐出させてリンス処理を実行可能となっている。また、IPA液供給路に対してIPA液供給ユニット40(図2)が接続されており、所定温度にまで加熱された高温の100%IPA液をリンス液で濡れた基板Wに向けて吐出させて置換処理を実行可能となっている。このように、IPA液供給ユニット40が本発明の「溶剤供給手段」に相当している。また、IPA液供給路を有する遮断部材64が本発明の「ノズル」に相当している。
【0024】
図3はIPA液供給ユニットの構成を示す図である。IPA液供給ユニット40には、IPA液を貯留するタンク401が設けられている。このタンク401に対してIPA液供給管402を介して常温のIPA液を適宜補給可能となっており、タンク401内でのIPA液の貯留量が所定以下になると、IPA液供給管402に介挿された開閉弁403が制御部18からの開指令に応じて開成されてタンク401にIPA液が補給されて常に所定量の有機溶剤としての100%IPA液が貯留されるようになっている。また、こうしてタンク401内に貯留されるIPA液に浸漬されるようにタンク401の内底面近傍にステンレス、銅などの金属管で形成されたコイル状の熱交換パイプ404が加熱用熱媒体の通送路として設けられている。この熱交換パイプ404には、循環用配管405により恒温槽406が接続されており、恒温槽406により約70[゜C]に保たれた加熱用熱媒体が循環用配管405および熱交換パイプ404を循環することでタンク401内のIPA液が所望の温度、例えば50[゜C]に調整される。なお、本実施形態では、後述するようにリンス液をIPA液で置換するためにリンス液の温度よりも高い温度を有するIPA液を用いており、この明細書では、上記のようにして加熱されてリンス液の温度よりも高く、しかも沸点よりも低い温度に温度調整されたIPA液を「高温IPA液」と称する。
【0025】
また、IPA液タンク401には、窒素供給管407を介して窒素ガスが供給されるようになっている。この窒素供給管407には開閉弁408が介挿されており、制御部18からの開閉指令に応じて開成されてタンク401に窒素ガスが導入されると、IPA液タンク401内の圧力が高められ、IPA液タンク401からIPA液供給管409を介して遮断部材64内のIPA液供給路に向けて高温IPA液が流出する。このIPA液供給管409には、タンク401側から遮断部材64側に開閉弁410、フィルタ411、流量計412および開閉弁413が介挿されており、流量計412から出力される電気信号に基づき制御部18が開閉弁408、410の開閉および開度を制御することで開閉弁413を開いたときに遮断部材64内のIPA液供給路に供給される高温IPA液の流量を所望値に制御する。
【0026】
次に、上記のように構成された基板処理装置1の動作について図4を参照しつつ詳述する。この実施形態では、制御部18がメモリに記憶されているプログラムにしたがって装置各部を制御して基板Wに対して薬液処理、リンス処理、パドル形成処理、置換処理および乾燥処理(除去処理)を施す。これらのうちリンス処理ではリンス液が本発明の「処理液」として用いられ、置換処理では100%濃度のIPA液が本発明の「溶剤」として用いられる。
【0027】
制御部18はスプラッシュガード50を降下させてスピンチャック6をスプラッシュガード50の開口部から突出させる。このとき、ノズルアーム22はスプラッシュガード50の外側に退避し、遮断部材64はスピンチャック6の上方の離間位置に退避している。そして、この状態で基板搬送ロボット(図示省略)により未処理の基板Wが処理チャンバー2内に搬入される。より具体的には、基板表面を上方に向けた状態で基板Wが装置内に搬入され、スピンチャック6に保持される。これに続いて、スプラッシュガード50が1段階上昇されるとともに基板Wに対して薬液処理が実行される(図4(a))。
【0028】
薬液処理では、薬液供給ノズル26が基板表面の中央部上方に位置するようにノズルアーム移動機構38がノズルアーム22を移動させるとともに、チャック回転機構10の駆動によりスピンチャック6に保持された基板Wを200〜120rpmの範囲内で定められる回転速度(例えば800rpm)で回転させる。また、薬液供給ユニット34がフッ酸を薬液として薬液供給ノズル26に向けて圧送して当該ノズル26から基板表面に供給する。こうして基板表面の中央部に供給されたフッ酸は遠心力により径方向に広げられ、フッ酸による基板表面のエッチング処理(薬液処理)が実行される。
【0029】
薬液処理が完了すると、制御部18はノズルアーム移動機構38を制御してノズルアーム22を基板Wから離間移動させてノズル26をスプラッシュガード50の外側に退避させる。それに続いて、制御部18は遮断部材昇降機構74を制御して遮断部材64をスピンベース16に近接して対向させる。これによって、薬液処理を受けた基板Wの表面Wfに対して板状部材66の下面66aが略平行に、しかも近接して対向位置決めされて基板表面Wfを覆う。
【0030】
この状態でリンス処理から乾燥処理までの一連の処理が実行される。すなわち、リンス液供給ユニット36から遮断部材64のリンス液供給路にリンス液が圧送されて板状部材66に設けられたリンス液吐出口からリンス液が吐出される。こうして基板表面に吐出されたリンス液は基板Wの回転の遠心力によって基板Wの表面に拡がり、リンス液によるリンス処理が行われる。また、リンス処理が終了すると、次にパドル形成処理が実行される。すなわち、制御部18は、リンス処理の終了後に、基板Wの回転速度をリンス処理時の回転速度よりも遅い回転速度(この実施形態では10rpm)に減速する。これによって、リンス液供給ノズル28から吐出されるリンス液が基板表面Wfに溜められてリンス液膜がパドル状に形成される(同図(b))。なお、パドル形成処理時の回転速度は10rpmに限定されるものではないが、リンス液に作用する遠心力がリンス液と基板表面との間で作用する表面張力よりも小さくなるという条件が満足する範囲で回転速度を設定する必要がある。というのも、リンス液の液膜をパドル状に形成するためには、上記条件の充足が必須だからである。
【0031】
パドル形成が完了すると、リンス液吐出を停止するとともにIPA液供給ユニット40から遮断部材64のIPA液供給路に約50[゜C]に温度調整された高温IPA液が圧送されて板状部材66に設けられたIPA液吐出口から高温IPA液が吐出される(同図(c))。この高温IPA液吐出によって基板Wの表面中央部ではリンス液膜の中央部が高温IPA液に置換されて置換領域に対して高温IPA液膜が形成される。このときの回転速度はパドル形成処理と同程度(この実施形態では10rpm)に設定されている。
【0032】
そして、高温IPA液供給から所定時間が経過すると、高温IPA液供給を継続させたまま基板Wの回転速度を10rpmから25rpm、50rpm、300rpmと徐々に加速する。このように回転速度の加速によって基板表面上の液膜(リンス液領域+高温IPA液領域(置換領域))に作用する遠心力が増大してリンス液が振り切られるとともに置換領域が径方向に広がっていく。そして、所定時間が経過すると、基板Wの表面外周部に存在していたリンス液は基板Wから振り落とされるとともに、置換領域が基板表面の全面に均一に広がって基板表面は高温IPA液膜で全面的に覆われる(同図(d))。また、300rpmにまで回転速度を加速することによって高温IPA液が基板表面Wfで大きく流動し、これによって基板表面Wfに形成されている微細パターンの間隙内部(凹部)では残留リンス液が高温IPA液に効率良く置換される。これによって、基板表面Wfに付着するリンス液が高温IPA液に確実に置換される。この後、制御部18は基板Wの回転速度を10rpmまで減速して高温IPA液の液膜をパドル状に形成する(同図(e))。このように本実施形態の置換処理では、基板Wの回転速度が10rpm(同図(c))から300rpm(同図(d))に加速された後、10rpm(同図(e))に減速されており、置換処理1での回転速度「10rpm」、置換処理2での回転速度「300rpm」および置換処理3での回転速度「10rpm」がそれぞれ本発明の「第1回転速度」、「第2回転速度」、「第3回転速度」に相当している。
【0033】
高温IPA液によるリンス液の置換処理が完了すると、制御部18は高温IPA液の供給を停止するとともに、基板Wの回転速度を50rpmに加速し、さらに1500rpmまで加速する。これによって基板表面Wf上の高温IPA液が除去されて基板Wの乾燥処理が実行される(同図(f))。そして、基板Wの乾燥処理が終了すると、制御部18はチャック回転機構10を制御して基板Wの回転を停止させるとともに、液体加熱ユニット62に停止指令を与えて高温DIWの供給を停止して基板加熱を停止する(ステップS10)。そして、スプラッシュガード50を降下させて、スピンチャック6をスプラッシュガード50の上方から突出させる。その後、基板搬送ロボットが処理済の基板Wを基板処理装置1から搬出して、1枚の基板Wに対する一連の基板処理が終了する。そして、次の基板Wについても、上記と同様の処理が実行される。
【0034】
以上のように、この実施形態によれば、基板表面Wf上のリンス液をIPA液に置換するに際し、高温に温度調整されて高い拡散速度を有する高温IPA液を用いているため、基板表面Wf上のリンス液を高い置換効率で高温IPA液に置換することができ、スピン乾燥処理前に基板表面Wf上に残存するリンス液の量をゼロに近づけることができる。このため、乾燥処理を行っている間に微細な水滴が基板表面に付着するのを防止して乾燥性能を高めることができる。また、基板表面Wfには微細パターンが形成されているが、この実施形態では高温IPA液を用いているため、常温のIPA液と比べて表面張力が低下しており、パターンの間隙(凹部)に入り込むIPA液を除去する際にパターンを倒壊させる方向に作用する応力が弱まり、パターン倒壊を効果的に防止することができる。さらに高温IPA液を用いることで乾燥処理前に基板温度を高めることができるので、スピン乾燥に要する時間を短縮することができる。
【0035】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、IPA液を約50[゜C]に温度調整しているが、高温IPA液の温度についてはこれに限定されるものではない。すなわち、IPA液を種々の温度に設定した上で各温度での乾燥性能を検証したところ、40[゜C]ないし55[゜C]の温度範囲で乾燥性能の向上が認められた。ただし、それらの検証結果からは、高温IPA液を50[゜C]に調整することが好適であることがわかった。
【0036】
また、上記実施形態では、基板処理装置では1枚ずつ基板を処理する、いわゆる枚葉式の基板処理装置であり、基板を連続的に処理している間、定期的に高温IPA液が遮断部材64のIPA液供給路を介して基板表面Wfに向けて吐出される。この場合、先の基板Wに対して上記一連の基板処理(薬液処理、リンス処理、置換処理およびスピン乾燥処理)を行った後、続けて次の基板Wに対して上記一連の基板処理が実行され、遮断部材64のIPA液供給路とIPA液供給管409に高温IPA液が滞留する時間、つまり先の基板Wに対する置換処理を完了してから次の基板Wに対する置換処理を開始するまでの時間は短時間である。したがって、連続的に基板処理を行う間、基板表面Wfに供給されるIPA液の温度は約50[゜C]に保たれて基板乾燥を良好に行うことができる。つまり、先の基板Wに対する置換処理が実質的に次の基板Wに対して置換処理を実行する前のプリディスペンス処理として機能し、次の基板Wに対して常に所定温度に調整された高温IPA液を基板表面Wfに供給可能となっている。このため、良好な乾燥処理を安定して行うことができる。なお、先の基板Wに対する置換処理と次の基板Wに対する置換処理との間隔が長くなる場合には、次の基板Wに対する置換処理を実行する前に、スピンチャック6に基板Wを乗せないまま、あるいはダミー基板を乗せた状態でプリディスペンス処理を実行するように構成してもよく、これにより連続処理を行う場合と同様に良好な乾燥処理を安定して行うことができる。
【0037】
また、上記実施形態では、100%IPA液を用いたが、主成分をIPAとして数%の純水を含んでもよい。
【0038】
また、上記実施形態では、半導体ウエハ等の基板Wに対して薬液処理、リンス処理、パドル処理、置換処理および乾燥処置を行う装置および方法に本発明を適用しているが、基板Wの種類や処理内容はこれに限定されるものではなく、有機溶剤を主成分とする溶剤を基板表面から除去して当該基板表面を乾燥させる基板処理方法および基板処理装置に本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
この発明は、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などを含む基板の表面を乾燥させる基板処理方法および装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明にかかる基板処理装置の一実施形態を示す図である。
【図2】図1の基板処理装置を制御する電気的構成を示すブロック図である。
【図3】IPA液供給ユニットの構成を示す図である。
【図4】図1の基板処理装置の動作を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1…基板処理装置
6…スピンチャック(基板保持手段)
40…IPA液供給ユニット(溶剤供給手段)
64…遮断部材
409…IPA液供給管(配管)
W…基板
Wf…基板表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が処理液で濡れた基板を乾燥させる基板処理方法であって、
イソプロピルアルコールを主成分とする溶剤を前記基板表面に供給して前記処理液を前記溶剤で置換する置換工程と、
前記置換工程後に前記基板表面から前記溶剤を除去する除去工程とを備え、
前記置換工程は、前記処理液の温度以上で、かつ前記溶剤の沸点以下の温度に調整された前記溶剤を用いることを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
前記溶剤はイソプロピルアルコール100%である請求項1記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記溶剤の温度は40〜55[゜C]である請求項1または2記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記置換工程では、配管を介して温度調整された溶剤をノズルに供給し、当該ノズルから前記基板表面に向けて吐出して前記処理液を置換する請求項1ないし3のいずれか一項に記載の基板処理方法であって、
前記置換工程前に前記ノズルから前記溶剤を吐出して前記ノズル内および前記配管内を温度調整された溶剤で満たすプリディスペンス工程をさらに備える基板処理方法。
【請求項5】
前記置換工程および前記除去工程では、前記基板表面を覆うように遮断部材を前記基板表面に対して近接して配置しながら前記溶剤への置換と前記溶剤の除去を行う請求項1ないし4のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記置換工程は、前記基板を回転させながら前記基板表面に前記溶剤を供給して前記処理液を置換する工程であり、前記基板の回転速度を第1回転速度から前記第1回転速度よりも高い第2回転速度に加速した後に前記第2回転速度よりも低い第3回転速度に減速する請求項1ないし5のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
処理液で濡れた表面を上方に向けた略水平姿勢で基板を保持する基板保持手段と、
前記基板保持手段に保持された前記基板の表面に向けてイソプロピルアルコールを主成分とする溶剤を供給して前記処理液を前記溶剤で置換する溶剤供給手段とを備え、
前記溶剤供給手段は、前記溶剤の温度を前記処理液の温度以上でかつ前記溶剤の沸点以下の温度に調整された前記溶剤を供給することを特徴とする基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−129809(P2010−129809A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303554(P2008−303554)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】