説明

外輪製造方法

【課題】ヒケやキズの発生を抑えることができて高品質の外輪(車輪用軸受装置用の外輪)を製造することができる外輪製造方法を提供する。
【解決手段】内周に軌道面が形成された筒状本体部23と、筒状本体部23から外径方向へ突出する取付用フランジ24とを備えた車輪用軸受装置の外輪を成形するする外輪製造方法である。第1工程31にて、中実材30を温間または熱間鍛造領域にて、冷間閉塞鍛造金型装置に投入する素材35を成形する。第2工程32にて、第1工程31後に素材35に対して軟化処理と潤滑処理とを行う。第3工程33にて、軟化処理と潤滑処理とが施された素材35を冷間閉塞鍛造金型装置に投入して冷間閉塞鍛造金型装置にて素材35に対して両端側からの押圧で中央部を押出して取付用フランジ24を成形する。第4工程34にて、成形品38の仕切部37を除去して内部を貫通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内周に軌道面が形成された筒状本体部と、筒状本体部から外径方向へ突出する取付用フランジとを備えた車輪用軸受装置の外輪を成形する外輪製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車輪は、車体の懸架装置に取付られる車輪用軸受装置を介して回転自在に支持される。車輪用軸受装置は、ハブ輪と、転がり軸受と、等速自在継手とが一体化されてなるものである。
【0003】
図9に示すように、ハブ輪102は、筒部113と前記フランジ101とを有し、フランジ101の外端面114(反継手側の端面)には、図示省略のホイール及びブレーキロータが装着される短筒状のパイロット部115が突設されている。
【0004】
そして、筒部113の端部の外周面に切欠部116が設けられ、この切欠部116に内輪117が嵌合されている。ハブ輪102の筒部113の外周面のフランジ近傍には第1内側軌道面118が設けられ、内輪117の外周面に第2内側軌道面119が設けられている。また、ハブ輪102のフランジ101にはボルト装着孔112が設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ101に固定するためのハブボルトがこのボルト装着孔112に装着される。
【0005】
転がり軸受の一部を構成する外方部材105は、その内周に2列の外側軌道面120、121が設けられる筒状本体部133と、その筒状本体部133の外周にフランジ(車体取付フランジ)132とを備える。そして、外方部材105の第1外側軌道面120とハブ輪102の第1内側軌道面118とが対向し、外方部材105の第2外側軌道面121と、内輪117の軌道面119とが対向し、これらの間に転動体122が介装される。
【0006】
ハブ輪102の筒部113に外側継手部材103の軸部123が挿入される。軸部123は、その反椀形部の端部にねじ部124が形成され、このねじ部124と椀形部107との間にスプライン部125が形成されている。また、ハブ輪102の筒部113の内周面(内径面)にスプライン部126が形成され、この軸部123がハブ輪102の筒部113に挿入された際には、軸部123側のスプライン部125とハブ輪102側のスプライン部126とが係合する。
【0007】
そして、筒部113から突出した軸部123のねじ部124にナット部材127が螺着され、ハブ輪102と外側継手部材103とが連結される。この際、ナット部材127の内端面(裏面)128と筒部113の外端面129とが当接するとともに、外側継手部材103の椀形部107の軸部側の端面130と内輪117の外端面131とが当接する。すなわち、ナット部材127を締め付けることによって、ハブ輪102が内輪117を介してナット部材127と椀形部107とで挟持される。
【0008】
ところで、転がり軸受の外方部材105は、中空材を冷間加工にて成形するものである(例えば、特許文献1及び特許文献2)。すなわち、図5(a)の中空素材1に対して成形型を用いて押し込む成形と直交する側方押し出し成形を施すことにより、図5(b)に示すように、筒状本体部133とフランジ132とが一体化された外方部材105が成形される。この際、内周面に一方(インボード側)の軌道面120を構成するための段部120aが成形される。その後は、図5(c)に示すように、内周面に他方(アウトボード側)の軌道面121を構成するための段部121aが形成される。なお、この外方部材105には図6に示すように4個のフランジ132が成形される。
【特許文献1】特開2006−111070号
【特許文献2】特開2006−142983号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、前記特許文献1及び特許文献2に記載の製造方法では、製品形状に応じて中空材を選択し、全ての工程を冷間加工にて成形することになる。このため、加工歪が蓄積されて加工硬度による強度向上を図ることができるとともに、ニアネットシェイプ化によりコスト削減を図ることができる。また、最終成形においては閉塞鍛造を行うことになり、この閉塞鍛造の特性から低荷重で成形できるため小さい設備で加工できる利点がある。
【0010】
しかしながら、フランジ132の成形は中空材の据え込み加工による側方押出しであり、中心部からの材料の供給がないため、フランジ132を対応する部位の内径に図7と図8に示すようなヒケ2(またはまくれ込みキズ)等が発生する。このようにヒケ2が生じれば、強度低下を招き、製品(外輪)として機能することができない不良品となる。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて、ヒケやキズの発生を抑えることができて高品質の外輪(車輪用軸受装置用の外輪)を製造することができる外輪製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の外輪製造方法は、内周に軌道面が形成された筒状本体部と、筒状本体部から外径方向へ突出する取付用フランジとを備えた車輪用軸受装置の外輪を成形する外輪製造方法であって、中実材を温間または熱間鍛造領域にて、冷間閉塞鍛造金型装置に投入する素材を成形する第1工程と、前記第1工程後に素材に対して軟化処理と潤滑処理とを行う第2工程と、軟化処理と潤滑処理とが施された素材を冷間閉塞鍛造金型装置に投入してこの冷間閉塞鍛造金型装置にて素材に対して両端側からの押圧で中央部を押出して前記取付用フランジを成形するとともに、軸方向中央部内部に仕切部を有する成形品を成形する第3工程と、前記成形品の仕切部を除去して内部を貫通させる第4工程とを備えたものである。
【0013】
本発明の外輪製造方法によれば、第1工程および第2工程においては、温間または熱間鍛造領域にて成形される。第2工程後に常温まで冷却された素材に対して軟化処理と潤滑処理とを行うので、第3工程において、金型と素材との間に生じる摩擦を軽減でき、焼き付きを起こすことなく塑性加工を容易とすることができる。しかも、材料を軟化させる軟化処理も行うので、塑性加工の容易性向上を図ることができる。そして、第4工程において仕切部を除去して内部を貫通させる。これによって、外輪が成形される。
【0014】
軟化処理とは球状化焼鈍による熱処理のことである。焼鈍(焼なまし)とは、金属材料が加工工程で不安定な状態になっている時、それを熱処理で安定な状態にする処理である。A1変態点付近まで加熱しその後炉内にて徐冷し、鋼の中の炭化物(セメンタイト)を球状化させ、加工性を上げることができる。
【0015】
潤滑処理としては、例えばリン酸塩皮膜処理といわれる金属表面処理を行うことができる。このリン酸塩皮膜処理は化成処理又はボンデ処理とも呼ばれる。この処理は金属(主に鉄)の表面に各種のリン酸化合物の層を形成させ金属そのものを守る働きをする。このため、加工素材に処理を行う事で、冷間鍛造金型の寿命を延ばしたり、鍛造時の精度を上げる働きが有る。冷間鍛造で、プレス加工を行う場合、金型と素材がこすれて潤滑処理されていない加工素材を使うと、金型と材料の凝着、材料割れ、金型破損等が発生するが、これをリン酸塩皮膜処理を行ことによって防ぐことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の外輪製造方法では、第1工程および第2工程においては、温間または熱間鍛造領域にて成形される。このため、第1工程前にボンデ等の潤滑処理を行うことなく、生産性の向上およびコストの低減を図ることができる。
【0017】
第3工程前の素材に対して、ボンデ等の潤滑処理を行うことによって、金型と素材材との間に生じる摩擦を軽減でき、焼き付きを起こすことなく塑性加工を容易とすることができる。しかも、第3工程前の素材に対し、この潤滑処理に加えて材料を軟化させる軟化処理を行うので、塑性加工を容易性の向上を図ることができる。このため、第3工程では、高い圧力が金型や素材にかかるのを防止することができる。ヒケやまくれ込みキズ等が発生しにくい形状を低荷重で加工できる上、使用する金型の破損防止および金型寿命を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明の実施の形態を図1〜図4に基づいて説明する。
【0019】
図1に外輪製造方法の工程図を示し、この外輪製造方法は、図4に示すような車輪用軸受装置の外輪(外方部材)を成形するものである。この場合の外輪は、内周に軌道面2021が形成された筒状本体部23と、筒状本体部23から外径方向へ突出する取付用フランジ24とを備えている。取付用フランジ24にはねじ孔25が設けられている。この外輪(外方部材)は、図3に示すように、4個の取付用フランジ24を備えている。なお、図3においては各取付用フランジ24にねじ孔25が形成される前の状態を示している。
【0020】
本発明に係る外輪製造方法は、中実材30を冷間閉塞鍛造金型装置(図示省略)に投入する素材35に成形する第1工程31および第2工程32と、軟化処理と潤滑処理とが施された素材35を冷間閉塞鍛造金型装置に投入してこの冷間閉塞鍛造金型装置にて素材35に対して両端側からの押圧で中央部を押出して前記取付用フランジ24を押し出す第3工程33と、前記成形品38の仕切部37を除去して内部を貫通させる第4工程34とを備える。
【0021】
第1工程31は、温間または熱間領域で行うものであって、図2(a)の軸部素材30に対して据込み工程を行って図2(b)に示すような円盤状部材30aを成形する。次に、円盤状部材30aに対して、前成形工程を行って、図2(c)に示すように両面に凹窪部39、40が形成された成形素材36を成形する。その後、この成形素材36に対して図示省略の成形型(冷間閉塞鍛造金型装置)を用いて押し込み方向と直交する側方押し出し成形を施すことにより、図3および図4に示すように、取付用フランジ24を備えた成形品38を成形する。その後は、この成形品38に穴開け工程を行うことによって、仕切部48を除去して図4(e)に示すように、外輪を成形する。
【0022】
また、第2工程32以後、常温まで冷却した素材に対する軟化工程とは、球状化焼鈍のことである。焼鈍(焼なまし)とは、金属材料が加工工程で不安定な状態になっている時、それを熱処理で安定な状態にする処理である。A1変態点付近まで加熱しその後炉内にて徐冷し、鋼の中の炭化物(セメンタイト)を微細な球状にする組織調整を行い、素材36が軟化される。
【0023】
第2工程32での潤滑処理としては、例えばリン酸塩皮膜処理といわれる金属表面処理である。このリン酸塩皮膜処理は化成処理又はボンデ処理とも呼ばれる。潤滑処理の目的は、この金型と素材との間に生じる摩擦を軽減し、焼き付きを起こすことなく塑性加工を容易にすることである。
【0024】
具体的には、潤滑処理は、リン酸塩処理と、このリン酸塩処理前に行う脱脂工程及びスケール除去(酸洗)と、このリン酸塩処理後に行う反応型石けん潤滑処理等の処理である。
【0025】
脱脂工程では、鋼材の切断までに使用された潤滑油や防錆油等の汚れを除去する工程である。例えば、強アルカリタイプの脱胎剤を使用する。脱胎剤の成分は通常、無機塩のアルカリビルダーと界面活性剤によって構成される。アルカリピルダーは、オルソ碇酸ソーダ、リン酸ソーダ、苛性ソーダ、炭酸ソーダが主である。
【0026】
スケール除去として、ショットプラスト法を用いる。なお、23の潤滑処理では工程中の酸洗で十分であるが、24の軟化処理後は大量のスケールが発生するため、25の潤滑処理前にスケール除去を行う。ショットプラスト法は、ショットと呼ばれる鉄鋼の小粒子を表面に投射してスケールを除去する方法であり、酸洗とは、酸の液中に通してスケールを取り除くことである。
【0027】
リン酸塩処理は、リン酸と亜鉛を主成分とした水溶液に浸漬することにより、脱スケールされた鋼表面に、密着性の良いリン酸塩皮膜を生成する処理である。また、リン酸塩処理をした後に、反応型石けん潤滑処理が行われる。石けんの主成分であるステアリン酸ナトリウムとリン酸亜鉛皮膜が反応して、密着性の良いステアリン酸亜鉛皮膜が生成する。生成した潤滑層は薄い層(2〜5μm程)であるが、このうすい層が金具と被加工物との直接接触を防止し、潤滑層の優れた耐熱性や密着性により、焼き付きやカジリの発生を防止し、過酷な加工を行うことができる。
【0028】
第3工程33では、冷間閉塞鍛造金型装置によって、素材35に対して上下方向から押圧して中央部から取付用フランジ24を押し出す。この際、軸方向中央部内部に仕切部37が成形され、仕切部37を有する成形品38が形成(成形)される。
【0029】
一般に、冷間閉塞鍛造金型装置は、開閉可能に設けられた一対のダイスと、このダイスの開閉方向と平行駆動してダイス内に配置された材料を押圧する一対のパンチとを備えたものである。なお、本発明の第3工程33における冷間閉塞鍛造金型装置には、この種のハ ブ輪を成形する際に使用する一般的なものを用いることができる。
【0030】
また、仕切部37を除去して内部を貫通させる第4工程34では、例えば冷間ピアシング(穴抜き加工)にて行うことができる。これによって、内周面に、軌道面20、21を構成するための段部20a、21aが形成された外輪(外方部材)を成形することができる。なお、その後は、各段部20a、21aに軌道面20、21を成形することによって外輪(外方部材)が完成する。
【0031】
本発明では、第1工程31および第2工程32においては、温間または熱間鍛造領域にて成形される。このため、第1工程31前にボンデ等の潤滑処理を行うことなく、生産性の向上およびコストの低減を図ることができる。
【0032】
第3工程33前の素材に対して、潤滑処理を行うことによって、金型と素材材との間に生じる摩擦を軽減でき、焼き付きを起こすことなく塑性加工を容易とすることができる。しかも、第3工程33前の素材に対して、この潤滑処理に加えて材料を軟化させる軟化処理を行うので、塑性加工を容易性の向上を図ることができる。このため、第3工程33では、高い圧力が金型や素材にかかるのを防止することができる。ヒケやまくれ込みキズ等が発生しにくい形状を低荷重で加工できる上、使用する金型の破損防止および金型寿命を高めることができる。
【0033】
ボンデ処理にて潤滑処置を行うことができ、球状化焼鈍にて軟化処理を行うことができ、ヒケやまくれ込みキズ等の発生防止の信頼性が向上する。
【0034】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、フランジ24が前記実施形態のように複数個が周方向に沿って配設されるものである場合、そのフランジ数の増減は任意である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態を示す外輪製造方法の簡略工程ブロック図である。
【図2】前記外輪製造方法の工程図である。
【図3】前記外輪製造方法にて製造された外輪の平面図である。
【図4】前記外輪製造方法の製造された外輪の断面図である。
【図5】従来の外輪製造方法の作業工程図である。
【図6】従来の外輪製造方法にて製造された外輪の平面図である。
【図7】従来の外輪製造方法にて製造された外輪の問題点を説明する断面図である。
【図8】従来の外輪製造方法にて製造された外輪の問題点を説明する平面図である。
【図9】従来の外輪製造方法にて製造された外輪を使用した車輪用軸受装置の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
23 筒状本体部
24 取付用フランジ
31 第1工程
32 第2工程
33 第3工程
34 第4工程
35 素材
37 仕切部
38 成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に軌道面が形成された筒状本体部と、筒状本体部から外径方向へ突出する取付用フランジとを備えた車輪用軸受装置の外輪を成形する外輪製造方法であって、
中実材を温間または熱間鍛造領域にて、冷間閉塞鍛造金型装置に投入する素材を成形する第1工程と、
前記第1工程後に素材に対して軟化処理と潤滑処理とを行う第2工程と、
軟化処理と潤滑処理とが施された素材を冷間閉塞鍛造金型装置に投入してこの冷間閉塞鍛造金型装置にて素材に対して両端側からの押圧で中央部を押出して前記取付用フランジを成形するとともに、軸方向中央部内部に仕切部を有する成形品を成形する第3工程と、
前記成形品の仕切部を除去して内部を貫通させる第4工程とを備えことを特徴とする外輪製造方法。
【請求項2】
前記軟化処理が球状化焼鈍であることを特徴とする請求項1の外輪製造方法。
【請求項3】
前記潤滑処理がボンデ処理であることを特徴とする請求項1の外輪製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−196662(P2008−196662A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35032(P2007−35032)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】