多気筒内燃機関の制御装置
【課題】 エミッション量の低減効果を確保しつつ空燃比気筒間インバランスの検出精度を向上させること。
【解決手段】 気筒別空燃比の間の差(空燃比気筒間インバランス)の大きさを表わす「インバランス指標値」が、触媒の上流に配置された空燃比センサの出力値に基づいて取得される。インバランス指標値により表わされる空燃比気筒間インバランスの大きさが大きいとき、EGR制御によるEGRガス導入までのディレイ時間として、空燃比気筒間インバランスの大きさが大きくなるほど通常時におけるディレイ時間に比べて大きくなるディレイ時間が設定される。そして、設定されたディレイ時間内において、EGRガス導入に伴う影響が排除されたインバランス指標値が取得される。
【解決手段】 気筒別空燃比の間の差(空燃比気筒間インバランス)の大きさを表わす「インバランス指標値」が、触媒の上流に配置された空燃比センサの出力値に基づいて取得される。インバランス指標値により表わされる空燃比気筒間インバランスの大きさが大きいとき、EGR制御によるEGRガス導入までのディレイ時間として、空燃比気筒間インバランスの大きさが大きくなるほど通常時におけるディレイ時間に比べて大きくなるディレイ時間が設定される。そして、設定されたディレイ時間内において、EGRガス導入に伴う影響が排除されたインバランス指標値が取得される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の気筒から延びるそれぞれの排気通路が集合してなる集合排気通路に配設された空燃比センサの出力値に基づいて、集合排気通路を通過するガス(混合排ガス)の空燃比をフィードバック制御する空燃比制御装置が広く知られている。混合排ガスは、各気筒から排出された排ガスが混合されて得られる排ガスである。より具体的には、この空燃比制御装置では、混合排ガスの空燃比が理論空燃比に一致するように、複数の気筒に対して共通する空燃比フィードバック量が空燃比センサの出力値に基づいて算出される。その空燃比フィードバック量に基づいて複数の気筒に対してそれぞれ噴射される燃料の量が調整されることにより、混合排ガスの空燃比がフィードバック制御される。
【0003】
また、近年、内燃機関を搭載した車両から内燃機関に起因して排出される有害物質の排出量(エミッション量)の規制が厳しくなってきていることに対応して、エミッション量を低減する制御も種々提案されてきている。具体的には、パージ制御、EGR制御、AI増量制御、冷間VVT制御、触媒暖機遅角制御等が挙げられる。
【0004】
ところで、多気筒内燃機関においては、燃料噴射弁からの噴射量の気筒間のばらつき、吸気弁の最大リフト量の気筒間のばらつき、EGR機構により吸気系に還流されたEGRガス量の複数の気筒への分配のばらつき等が発生し得る。係る気筒間での特性のばらつきが発生すると、気筒間にて空燃比のばらつき(空燃比気筒間インバランス、空燃比気筒間ばらつき、気筒間における空燃比の不均一)が発生し得る。したがって、従来から、この空燃比のばらつきに応じて上述したエミッション量を低減する制御を行われている。
【0005】
そして、気筒間の空燃比のばらつきの検出に関し、例えば、下記特許文献1では、触媒要素の上下流側にそれぞれ第1の空燃比センサと第2の空燃比センサとを設け、第1の空燃比センサ出力に基づいて主空燃比制御を実行し、第2の空燃比センサ出力に基づいて補助空燃比制御を実行するようになっており、補助空燃比制御のための制御量が所定の異常判定値に達したときに気筒間の空燃比のばらつき異常が発生したと判定することが記載されている。また、例えば、下記特許文献2では、空燃比センサによる軌跡長の実測値と予め設定された軌跡長の参考値とを比較することにより、気筒間の空燃比のばらつきが発生したと判定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−74388号公報
【特許文献2】米国特許第7,152,594号公報
【発明の概要】
【0007】
上述した各種エミッション量を低減する制御を適切に実行するためには、空燃比のばらつき(空燃比気筒間インバランス)を正確に検出することが重要である。しかしながら、エミッション量を低減する制御の一つとしてEGR制御が実行されている状況では、導入されるEGRガスの影響により、空燃比気筒間インバランスの検出精度が低下する場合がある。この場合、単に、EGRガスの導入を停止すると、空燃比気筒間インバランスの検出精度を向上させることができる一方でエミッション量の低減効果を損なう可能性がある。
【0008】
本発明は上記問題に対処するためになされたものであり、その目的は、エミッション量の低減効果を確保しつつ空燃比気筒間インバランスの検出精度を向上させることができる、多気筒内燃機関の制御装置を提供することにある。
【0009】
係る目的を達成するための本発明による多気筒内燃機関の制御装置(本制御装置)は、複数の気筒を有する多気筒内燃機関に適用される。本制御装置は、空燃比センサと、複数の燃料噴射弁と、フィードバック量算出手段と、フィードバック制御手段と、排気還流制御実行手段と、を備える。
【0010】
前記空燃比センサは、前記集合排気通路に配設されて、前記混合排ガスの空燃比に応じた出力値を発生する。
【0011】
前記複数の燃料噴射弁は、前記複数の気筒のそれぞれに対応して配設される。前記複数の燃料噴射弁は、前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気に含まれる燃料をそれぞれ噴射する。すなわち、燃料噴射弁は、一つに気筒に対して一つ以上設けられている。各燃料噴射弁は、その燃料噴射弁に対応する気筒に対して燃料を噴射する。
【0012】
前記フィードバック量算出手段は、前記複数の気筒に対して共通する空燃比フィードバック量を算出する。この空燃比フィードバック量は、前記混合排ガスの空燃比が理論空燃比と一致するように、前記空燃比センサの出力値に基づいて算出される。
【0013】
前記フィードバック制御手段は、前記空燃比フィードバック量に基づいて前記複数の燃料噴射弁のそれぞれから噴射される燃料の量を調整する。これにより、前記混合排ガスの空燃比がフィードバック制御される。
【0014】
前記排気還流制御実行手段は、前記排気通路内の排ガスを内燃機関の吸気通路へ導く制御を実行する。これにより、前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室内のガスのうち不活性ガスの割合を高めて最高燃焼温度を下げて燃焼による窒素酸化物(NOx)の生成を抑制し、燃焼室から排出される排ガス中の窒素酸化物の量、すなわち、エミッション量を低減する。
【0015】
本制御装置の特徴の1つは、インバランス指標値取得手段を備えることにある。前記インバランス指標値取得手段は、インバランス指標値を取得する。インバランス指標値とは、「前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気の空燃比」である「複数の気筒別空燃比」の間の相違の程度(差、不均衡の程度)が大きいほど大きくなるか、または、小さくなる値(単調増加するか、または、単調減少する値)であり、前記空燃比センサの出力値に基づいて得られる値である。以下、「複数の気筒別空燃比」の間の相違の程度(差、不均衡の程度)を「空燃比気筒間インバランスの程度」とも呼ぶ。
【0016】
前記インバランス指標値には、空燃比センサの出力値の軌跡長、空燃比センサの出力値により表される空燃比(検出空燃比)の軌跡長等が含まれる。これに対し、前記インバランス指標値として、前記検出空燃比の時間微分値に基づく値を取得するように構成されることが好適である。検出空燃比の時間微分値は、検出空燃比の軌跡長に比較して、機関回転速度の影響を受け難い。したがって、上記構成によれば、機関の回転速度により変動し難い特性を有するインバランス指標値を得ることができる。この結果、機関の回転速度によらず、空燃比気筒間インバランスの程度を安定して取得することができる。
【0017】
本制御装置の特徴の他の1つは、前記排気還流制御実行手段が、前記インバランス指標値により表される前記相違の程度が大きいとき、前記相違の程度が小さいときに比べて、所定の条件が成立してから前記排気通路内の排ガスを前記吸気通路へ導くまでの時間差を大きく設定することにある。所定の条件としては、フューエルカット制御が終了されて前記複数の燃料噴射弁による燃料の噴射が復帰される条件や、機関の回転速度が予め設定された閾値回転速度を超える条件等が挙げられる。
【0018】
通常、フューエルカット制御の終了後や機関の回転速度が予め設定された閾値回転速度以下では、予め設定された時間差が経過するまで前記排気通路内の排ガスを内燃機関の吸気通路へ導く制御は停止される。これに対し、上記構成によれば、空燃比気筒間インバランスの程度が大きいとき、前記予め設定された時間差が大きくなるように、例えば、付加時間が設定される。この結果、前記排気通路内の排ガスを内燃機関の吸気通路へ導く制御の実行時に取得された空燃比気筒間インバランスの程度が大きいときには、通常時に実行される前記排気通路内の排ガスを内燃機関の吸気通路へ導く制御の停止状態の継続時間(時間差)を若干長くして設定することができる。
【0019】
本制御装置の特徴の他の1つは、前記インバランス指標値取得手段が、前記大きく設定された時間差内における前記インバランス指標値を取得することにある。これによれば、前記排気通路内の排ガスを内燃機関の吸気通路へ導く制御が停止されている状態、すなわち、還流される排ガスの影響を排除した状態における空燃比気筒間インバランスの程度を取得することができる。したがって、エミッション量の低減効果を確保しつつ空燃比気筒間インバランスの検出精度を向上させることができる。
【0020】
本制御装置は、前記排気還流制御実行手段が、前記インバランス指標値により表される前記相違の程度が大きいほど、前記時間差を大きく設定するように構成され得る。これによれば、空燃比気筒間インバランスの程度に応じて、前記排気通路内の排ガスを内燃機関の吸気通路へ導く制御の停止状態の継続時間(時間差)がより適切に設定され、この結果、エミッション量の低減効果を確保しつつ空燃比気筒間インバランスの検出精度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る制御装置が適用される多気筒内燃機関の概略構成を示した図である。
【図2】図1に示したSCVの近傍の吸気通路内を説明するための図である。
【図3】図1に示した内燃機関が備えるパージ制御機構を説明するための図である。
【図4】図1に示した内燃機関が備えるAI増量制御機構を説明するための図である。
【図5】図1に示した触媒、上流側空燃比センサ、及び下流側空燃比センサが集合排気通路に配設された様子を示した図である。
【図6】図1に示した上流側空燃比センサの出力と空燃比の関係を示したグラフである。
【図7】図1に示した下流側空燃比センサの出力と空燃比の関係を示したグラフである。
【図8】空燃比気筒間インバランスが発生していて、かつ、混合排ガスの空燃比が理論空燃比に一致している場合における各気筒の空燃比の一例を示した図である。
【図9】空燃比気筒間インバランスが発生した場合と発生していない場合のインバランス指標値に関連する各値の挙動を示したタイムチャートである。
【図10】図1に示したCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図11】インバランス割合(空燃比気筒間インバランスの程度)とディレイ時間(時間差)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る多気筒内燃機関の制御装置(以下、単に「本装置」とも称呼する。)について図面を参照しながら説明する。
【0023】
(構成)
図1は、本装置を、4サイクル・火花点火式・多気筒(直列4気筒)・内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。なお、図1は、特定気筒の断面のみを示しているが、他の気筒も同様な構成を備えている。
【0024】
この内燃機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケースおよびオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20にガソリン混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排ガスを外部に放出するための排気系統50と、を含んでいる。
【0025】
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23およびクランク軸24を含んでいる。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これにより同クランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21の壁面およびピストン22の上面は、シリンダヘッド部30の仮面とともに燃焼室25を形成している。
【0026】
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフトを含むとともに同インテークカムシャフトの位相角を連続的に変更する可変吸気タイミング制御装置33、可変吸気タイミング制御装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフトを含むとともに同エキゾーストカムシャフトの位相角を連続的に変更する可変排気タイミング制御装置36、可変排気タイミング制御装置36のアクチュエータ36a、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38および燃料を吸気ポート31内に噴射する燃料噴射弁(燃料噴射手段、燃料供給手段)39を備えている。このように、内燃機関10は、吸気弁32および排気弁35の開閉タイミングを変更する「可変動弁(VVT)システム」を備える。
【0027】
燃料噴射弁39は、一つの燃料室25に対して一つずつ配設されている。燃料噴射弁39は吸気ポート31に設けられている。このように、複数の気筒のそれぞれは、他の気筒とは独立して燃料供給を行う燃料噴射弁39を備えている。
【0028】
吸気系統40は、インテークマニホールド41、吸気管42、スロットル弁43、およびスワールコントロール弁(SCV)44を備えている。インテークマニホールド41は、複数の枝部41aとサージタンク41bとからなる。複数の枝部41aのそれぞれの一端は複数の吸気ポート31のそれぞれに接続されている。複数の枝部41aの他端はサージタンク41bに接続されている。吸気管42の一端はサージタンク41bに接続されている。吸気ポート31、インテークマニホールド41および吸気管42は、吸気通路を構成している。
【0029】
スロットル弁43は、吸気管42内にあって吸気通路の開口断面積(スロットル弁開度)を可変とするようになっている。スロットル弁43は、スロットル弁アクチュエータ43a(スロットル弁駆動手段の一部)により吸気管42内で回転駆動されるようになっている。
【0030】
SCV44は、各枝部41a内にあって、SCVアクチュエータ44aにより回転駆動されるようになっている。図2に示すように、各吸気ポート31は、実際には吸気ポート31a,31bからなっている。吸気ポート31aは、燃焼室25内にスワール(旋回流)を発生させるようにヘリカル状に形成され所謂スワールポートを構成し、吸気ポート31bは所謂ストレートポートを構成している。
【0031】
各枝部41aには、インテークマニホールド41の長手方向に沿って伸びる隔壁41aaが形成されていて、これにより各枝41aは、吸気ポート31aに連通する第1インテークマニホールド41acと、吸気ポート31bに連通する第2インテークマニホールド41adとに区画されている。SCV44は、この第2インテークマニホールド41ad内において回動可能に支持され、第2インテークマニホールド44adの開口断面積(SCV開度)を変更し得るようになっている。
【0032】
また、隔壁41aaの適宜個所には第1,第2インテークマニホールド41ac,41adを連通する連通路41abが形成されている。燃料噴射弁39はこの連通路41abの近傍位置に固定され、吸気ポート31a,31bに向けて燃料を噴射するようになっている。このように、内燃機関10は、SCV44の開度調整により吸気流を調整する「吸気流調整システム」を備える。
【0033】
図1および図3に示すように、内燃機関10は、液体ガソリン燃料を貯留する燃料タンク45、燃料タンク45内に貯留された燃料の蒸発により発生した燃料ガスを吸蔵可能なキャニスタ(チャコールキャニスタ)46、前記燃料ガスを燃料タンク45からキャニスタ46へと導くためのベーパ捕集管47、キャニスタ46から離脱した燃料ガスをサージタンク41bへと導くためのパージ流路管48およびパージ流路管48に配設されたパージ制御弁49を備えている。パージ制御弁49は、パージ流路管48の開口断面積を変更するようになっている。
【0034】
キャニスタ46は、パージ制御弁49が開かれている期間において、筐体内に収納された吸着剤46aに吸蔵された燃料ガスを、パージ流路管48を通じてサージタンク41bに放出するようになっている。また、キャニスタ46の筐体には大気ポート46bが形成されていて、吸着剤46aから漏出(離脱)した燃料ガスが大気ポート46bを通して大気に開放可能となっている。このように、内燃機関10は、燃料タンク45内に貯留された燃料の蒸発により発生した燃料ガスを吸気通路へ導く「パージシステム」を備える。
【0035】
ふたたび、図1を参照すると、排気系統50は、各気筒の排気ポート34に一端が接続された複数の枝部を含むエキゾーストマニホールド51、エキゾーストマニホールド51の複数の枝部の各他端であって総ての枝部が集合している集合部(エキゾーストマニホールド51の排気集合部)に接続されたエキゾーストパイプ52、エキゾーストパイプ52に配設された上流側触媒(三元触媒)53、および、上流側触媒53よりも下流のエキゾーストパイプ52に配設された図示しない下流側触媒(三元触媒)を備えている。排気ポート34、エキゾーストマニホールド51およびエキゾーストパイプ52は、排気通路を構成している。このように、上流側触媒53は、複数の気筒から延びるそれぞれの排気通路が集合してなる集合排気通路に配設されている。
【0036】
さらに、内燃機関10は、外部EGR通路を構成する排気還流管54、および、EGR弁55を含んでいる。排気還流管54の一端はエキゾーストマニホールド51の集合部に接続されている。排気還流管54の他端はサージタンク41bに接続されている。EGR弁55は排気還流管54に配設されている。EGR弁55は、排気還流管54の開口断面積を変更するようになっている。このように、内燃機関10は、「排気還流(EGR)システム」を備えている。
【0037】
また、図1および図4に示すように、内燃機関10は、二次空気供給装置60を備える。二次空気供給装置60は、スロットル弁53の上流の吸気通路と触媒53の上流の集合排気通路とを連通する二次空気供給通路61と、二次空気供給通路61に介装されたエアポンプ62と、エアポンプ62よりも下流の二次空気供給通路61に介装されたエアスイッチングバルブ(ASV)63と、ASV63よりも下流の二次空気供給通路61に介装されたリード弁64(上流から下流への流れのみを許容するチェック弁)とを備えている。また、二次空気供給装置60は、サージタンク41b内の負圧をASV63に導入するための負圧導入通路65と、負圧導入通路65に介装された電磁弁66をも備えている。
【0038】
ASV63は、電磁弁66が開状態にあってサージタンク41b内の負圧が導入されているとき開状態となり、電磁弁66が閉状態にあって前記負圧が導入されていないときに閉状態となる。すなわち、二次空気供給装置60では、エアポンプ62を作動し、かつ、電磁弁66を開状態とすることで、触媒53の上流の集合排気通路に空気が導入される。このように、内燃機関10は、「二次空気供給システム」を備えている。
【0039】
一方、内燃機関10は、図1に示すように、エアフローメータ71、スロットルポジションセンサ72、水温センサ73、クランクポジションセンサ74、インテークカムポジションセンサ75、エキゾーストカムポジションセンサ76、上流側空燃比センサ77、下流側空燃比センサ78、アクセル開度センサ79、SCV開度センサ81、および、圧力センサ82(図4を参照)を備えている。
【0040】
エアフローメータ71は、吸気管42内を流れる吸入空気の質量流量(吸入空気流量)Gaを検出する。スロットルポジションセンサ72は、スロットル弁43の開度(スロットル弁開度)を検出する。水温センサ73は、内燃機関10の冷却水の温度を検出する。クランクポジションセンサ74は、クランク軸24の回転角度の位相(変化)を検出する。この検出結果は、機関回転速度NEを表す。
【0041】
インテークカムポジションセンサ75は、インテークカムシャフトの回転角度の位相(変化)を検出する。クランクポジションセンサ74およびインテークカムポジションセンサ75からの信号に基づいて、基準気筒(例えば、第1気筒)の圧縮上死点を基準とした絶対クランク角CAが取得される。この絶対クランク角CAは、基準気筒の圧縮上死点において「0°クランク角」に設定され、クランク角の回転角度に応じて「720°クランク角」まで増大し、その時点にて再び0°クランク角に設定される。エキゾーストカムポジションセンサ76は、エキゾーストカムシャフトの回転角度の位相(変化)を検出する。
【0042】
上流側空燃比センサ77(本発明における空燃比センサ)は、図5に示すように、エキゾーストマニホールド51の集合部HK(排気集合部)よりも下流の集合排気通路において、上流側触媒53より上流に配設されている。上流側空燃比センサ77は、例えば、特開平11−72473号公報、特開2000−65782号公報、および、特開2004−69547号公報等に開示された、「拡散抵抗層を備える限界電流式広域空燃比センサ」である。
【0043】
以下、集合排気通路内を通過する排ガスを「混合排ガス」と称呼する。混合排ガスは、各気筒から排出された排ガスが混合されて得られる排ガスである。上流側空燃比センサ77は、上流側触媒53に流入する混合排ガスの空燃比に応じた出力値Vabyfs(V)を発生する。この出力値Vabyfsは、図6に示した空燃比変換テーブル(マップ)Mapabyfsを利用して、出力値Vabyfsにより表される空燃比(以下、「検出空燃比」と呼ぶ。)abyfsに変換される。
【0044】
ふたたび、図1および図5を参照すると、下流側空燃比センサ78は、集合排気通路において上流側触媒53より下流側であり、かつ、下流側触媒よりも上流側に配設されている。下流側空燃比センサ78は、周知の起電力式の酸素濃度センサ(安定化ジルコニアを用いた周知の濃淡電池型の酸素濃度センサ)である。下流側空燃比センサ78は、上流側触媒53から流出する混合排ガスの空燃比(したがって、機関に供給される混合気の空燃比の時間的平均値)に応じた出力値Voxs(V)を発生する。
【0045】
図7に示すように、この出力値Voxsは、空燃比が理論空燃比よりもリッチのとき最大出力値max(例えば、約0.9V)となり、空燃比が理論空燃比よりもリーンのとき最小出力値min(例えば、約0.1V)となり、空燃比が理論空燃比であるとき最大出力値maxと最小出力値minの略中間の電圧Vst(例えば、約0.5V)となる。さらに、この出力値Voxsは、空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比からリーンな空燃比へと変化する際に最大出力値maxから最小出力値minへと急変し、空燃比が理論空燃比よりもリーンな空燃比からリッチな空燃比へと変化する際に最小出力値minから最大出力値maxへと急変する。
【0046】
ふたたび、図1を参照して、アクセル開度センサ79は、運転者によって操作されるアクセルペダルAPの操作量(アクセルペダル操作量)を検出する。SCV開度センサ81は、SCV44の開度(SCV開度)を検出する。圧力センサ82(図4参照)は、ASV63の上流の二次空気供給通路61内の圧力を検出するようになっている。
【0047】
電気制御装置90は、図1に示すように、互いにバスで接続された「CPU91、CPU91が実行するプログラム、各種テーブル(マップ、関数)および定数等を予め記憶したROM92、CPU91が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM93、および、バックアップRAM94、並びに、ADコンバータを含む各種インターフェース95等」からなる周知のマイクロコンピュータである。
【0048】
インターフェース95は、センサ71〜82と接続され、CPU91にそれらのセンサからの信号を供給する。さらに、インターフェース95は、CPU91の指示に応じてアクチュエータ33a、アクチュエータ36a、各気筒のイグナイタ38、各気筒に対応して設けられた燃料噴射弁39、スロットル弁アクチュエータ43a、SCVアクチュエータ44a、パージ制御弁49、EGR弁55、および、電磁弁66等に駆動信号(指示信号)を送出するようになっている。
【0049】
(空燃比フィードバック制御)
次に、本装置による空燃比フィードバック制御の概要について説明する。本装置は、上流側空燃比センサ77の出力値Vabyfsおよび下流側空燃比センサ78の出力値Voxsに基づいて、混合排ガスの空燃比を理論空燃比と一致するようにフィードバック制御する。
【0050】
このフィードバック制御の一例としては、以下のものが挙げられる。すなわち、下流側空燃比センサ78の出力値Voxsと理論空燃比に相当する目標値Vstとの偏差についてPID処理してフィードバック補正値(サブフィードバック補正量)が求められる。このサブフィードバック補正量により上流側空燃比センサ77の出力値Vabyfsを補正して得られる値を図6に示した空燃比変換テーブルMapabyfsに適用して、見掛け上の空燃比が求められる。この見掛け上の空燃比と理論空燃比との偏差についてPID処理して空燃比フィードバック量が求められる。この空燃比フィードバック量は、全気筒に対して共通する値である。
【0051】
この空燃比フィードバック量により、「機関回転速度NEと吸入空気流量Gaと理論空燃比とに基づいて得られる基本燃料噴射量」を補正して得られる量の燃料が、各気筒の燃料噴射弁39からそれぞれ噴射される。このように、全気筒に共通する空燃比フィードバック量に基づいて各燃料噴射弁39から噴射される燃料の量をそれぞれ調整することにより、混合排ガスの空燃比がフィードバック制御される。
【0052】
(エミッション量低減制御)
次に、本装置によるエミッション量低減制御の概要について説明する。本装置は、エミッション量低減制御として、パージ制御、EGR制御、AI増量制御、冷間VVT制御、触媒暖機遅角制御、および、SCV制御を実行する。以下、各制御について順に簡単に説明する。
【0053】
<パージ制御>
パージ制御は、上述した「パージシステム」(図3を参照)を利用して行われる。パージ制御は、所定の条件下、パージ制御弁49を開状態とすることにより燃料タンク45内に貯留された燃料の蒸発により発生した燃料ガスを吸気通路へ導き、かつ、各燃料噴射弁39から噴射される燃料の量を(上述した空燃比フィードバック量により調整された量から)減少する制御である。
【0054】
燃料ガスを吸気通路に導くのは、キャニスタ46内から大気ポート46bを通して燃料ガス(すなわち、未燃物、HC等)が外部に漏出することを抑制するためである。燃料噴射量は、吸気通路に導かれた燃料ガス分だけ減少される。吸気通路に導かれた燃料ガス分は、周知の手法の1つを用いて推定され得る。このように、パージ制御によれば、空燃比を理論空燃比(近傍)に維持しつつ、キャニスタ46から排出される未燃物(HC等)の量を低減することができる。
【0055】
<EGR制御>
EGR制御は、上述した「EGRシステム」を利用して行われる。EGR制御は、所定の条件下、EGR弁55を開状態とすることにより排気通路内の排ガスを吸気通路に導く制御である。この動作は、外部EGRとも呼ばれる。
【0056】
排気通路内の排ガス(EGRガス)を吸気通路に導くのは、燃焼室25内のガスのうち不活性ガスの割合を高めて最高燃焼温度を下げることにより、燃焼による窒素酸化物(NOx)の生成を抑制するためである。このように、EGR制御によれば、燃焼室25から排出される排ガス中の窒素酸化物の量を低減することができる。
【0057】
<AI増量制御>
AI増量制御は、上述した「二次空気供給システム」(図4を参照)を利用して行われる。AI増量制御は、所定の条件下、電磁弁66を開状態とし(したがって、ASV63を開状態とし)、かつ、エアポンプ62を作動することにより上流側触媒53の上流側の集合排気通路に空気を導入し、かつ、各燃料噴射弁39から噴射される燃料の量(上述した空燃比フィードバック量により調整された量から)増大する制御である。
【0058】
上流側触媒53の上流側の集合排気通路に空気を導くのは、この部位で排ガス中の未燃物(HC等)を燃焼させることにより、上流側触媒53の暖機を促進するためである。燃料噴射量は、上流側触媒53の上流側に導かれた空気を燃焼させるのに必要な量(例えば、導かれた空気の量を理論空燃比で除した値)だけ増大される。導かれた空気の量は、周知の手法の1つを用いて推定され得る。このように、AI増量制御によれば、内燃機関10の冷間始動直後等の触媒の温度が低いとき、触媒を早期に活性化させて、触媒から排出される排ガス中の未燃物(HC、CO等)および窒素酸化物(NOx)の量を低減することができる。
【0059】
<冷間VVT制御>
冷間VVT制御は、上述した「VVTシステム」を利用して行われる。冷間VVT制御は、所定の条件下、吸気弁32の開閉タイミング、および/または、排気弁35の開閉タイミングを(通常の非冷間VVT制御時と比較して)調整して燃焼室25内の既燃ガスが吸気弁32の周囲を介して吸気通路に吹き返す量(既燃ガス吹き返し量)を(通常の非冷間VVT制御時と比較して)増大し、かつ、各燃料噴射弁39から噴射される燃料の量を(上述した空燃比フィードバック量により調整された量から)減少する制御である。既燃ガス吹き返し量を増大する動作は、内部EGRとも呼ばれる。非冷間VVT制御時における、吸気弁32の開閉タイミング、および/または、排気弁35の開閉タイミングは、内燃機関10の運転状態に基づいて(上述した各種センサの出力結果に基づいて)決定される。
【0060】
燃焼室内の既燃ガスを吸気通路に導くのは、吸気通路の暖気を促進して吸気通路に付着する液体燃料の霧化を促進するためである。燃料噴射量は、霧化された燃料ガスの増大分だけ減少される。霧化された燃料ガスの増大分は、周知の手法の1つを用いて推定され得る。このように、冷間VVT制御によれば、内燃機関10の冷間始動直後等の吸気通路の温度が低いとき、噴射された燃料の霧化を促進して、空燃比を理論空燃比(近傍)に維持しつつ、燃焼室25から排出される排ガス中の未燃物(HC、CO等)の量を低減することができる。
【0061】
<触媒暖機遅角制御>
触媒暖機遅角制御は、所定の条件下、点火プラグ37の点火時期を(通常の非触媒暖機遅角制御時と比較して)遅角する制御である。非触媒暖機遅角制御時における点火時期は、内燃機関10の運転状態に基づいて(上述した各種センサの出力結果に基づいて)決定される。
【0062】
点火時期を遅角するのは、燃料の燃焼タイミングを遅らせて触媒に流入する排ガスの温度を高めることにより、上流側触媒53の暖機を促進するためである。このように、触媒暖機遅角制御によれば、内燃機関10の冷間始動直後等の触媒の温度が低いとき、触媒を早期に活性化させて、触媒から排出される排ガス中の未燃物(HC、CO等)および窒素酸化物(NOx)の量を低減することができる。
【0063】
<SCV制御>
SCV制御は、上述した「吸気流調整システム」を利用して行われる。SCV制御は、内燃機関10の運転状態に応じてSCV44を開閉する制御である。SCV44を閉状態とするのは、吸気流速を高めてスワールの流速を高めることにより噴射された燃料の霧化を促進するためである。SCV44を開状態とするのは、吸気抵抗を小さくしてより多くの空気を燃焼室25に吸入させるためである。このように、SCV制御によれば、内燃機関10の冷間始動直後のアイドリング状態等の燃料が霧化し難く、かつ、スワール流速が小さいとき、SCV44を閉状態とすることで噴射された燃料の霧化を促進して、燃焼室25から排出される排ガス中の未燃物(HC、CO等)の量を低減することができる。また、それ以外のとき、SCV44を開状態とすることでより多くの空気を燃焼室25内に吸入させて、内燃機関10の最大出力を向上させることができる。
【0064】
(空燃比気筒間インバランス)
次に、空燃比気筒間インバランス発生時について説明する。「空燃比気筒間インバランス」とは、気筒間における空燃比のばらつきを指す。空燃比気筒間インバランスは、例えば、燃料噴射弁39からの実際の噴射量の気筒間のばらつき、吸気弁32の実際の最大リフト量の気筒間のばらつき、EGRシステムにより吸気通路に還流された排ガス(EGRガス)の量の各気筒への分配のばらつき等に起因して発生し得る。
【0065】
図8に示すように、「空燃比気筒間インバランス」が発生している場合、混合排ガスの空燃比が理論空燃比と一致していても、空燃比が理論空燃比よりもリッチとなる気筒(リッチ気筒)と、空燃比が理論空燃比よりもリーンとなる気筒(リーン気筒)が必ず発生する。図8では、一例として、第4気筒が「リッチ機構」となり、第1〜第3気筒が「リーン気筒」となる場合が示されている。
【0066】
図8に示す空燃比気筒間インバランスは、例えば、第1〜第3気筒の燃料噴射弁39が「指示された燃料噴射量と等しい量の燃料を噴射する」正常な状態にあり、第4気筒の燃料噴射弁39のみが「指示された燃料噴射量よりも過大な量の噴射量を噴射する」異常な状態にある場合に発生し得る。すなわち、この場合、第4気筒の空燃比のみが大きくリッチ側に変化する。これにより、集合排気通路を通過する混合排ガスの空燃比(全気筒の空燃比の平均)は、理論空燃比よりもリッチとなる。したがって、全気筒に対して共通する上述した「空燃比フィードバック量」により、第4気筒の空燃比は理論空燃比に近づけられるようにリーン側へと変更され、同時に、他の3つの気筒の空燃比は理論空燃比から遠ざけられるようにリーン側へと変更させられる。この結果、集合排気通路を通過する混合排ガスの空燃比は略理論空燃比に一致させられる。
【0067】
しかしながら、第4気筒の空燃比は依然として理論空燃比よりもリッチに維持され、他の3つの気筒の空燃比は理論空燃比よりもリーンに維持される。以上のことから、第4気筒が「リッチ気筒」となり、第1〜第3気筒が「リーン気筒」となる。
【0068】
このように、空燃比気筒間インバランスが発生すると、各気筒における混合気の燃料状態が完全燃焼とは相違した燃焼状態となる。この結果、各気筒から排出されるエミッションの量(未燃物の量および窒素酸化物の量)が増大する。このため、集合排気通路を通過する混合排ガスの空燃比(全気筒の空燃比の平均)が理論空燃比であったとしても、増大したエミッションを三元触媒が浄化しきれず、結果として、排ガスに含まれるエミッション量が増大する。
【0069】
(空燃比気筒間インバランスの検出)
次に、空燃比気筒間インバランスの発生の検出について説明する。空燃比気筒間インバランスを検出するためには、気筒別空燃比の間の差(不均衡の程度、相違の程度)を表す指標値を取得する必要がある。気筒別空燃比とは、各気筒に供給される混合気の空燃比を指す。以下、この指標値を「インバランス指標値」と呼ぶ。また、説明の便宜上、「全気筒(上流側空燃比センサ77に到達する排ガスを排出している全ての気筒)において各一回の燃焼工程が終了するのに要するクランク角が経過する期間」を、「単位燃焼サイクル期間」と呼ぶ。4気筒・4サイクル・エンジンの場合、単位燃焼サイクル期間は720°クランク角である。
【0070】
図9(B)は、4気筒・4サイクル・エンジンの場合における、検出空燃比abyfs(上流側空燃比センサ77の出力値Vabyfsを図6に示した空燃比変換テーブルMapabyfsに適用することにより得られる空燃比)の推移の一例を示す。上流側空燃比センサ77には、各気筒からの排ガスが点火順(ゆえに、排気順)に到達する。空燃比気筒間インバランスが発生していない場合、全気筒の気筒別空燃比は互いに略同一である。したがって、空燃比気筒間インバランスが発生していない場合の検出空燃比abyfsは、例えば、図9(B)において破線C1により示すように推移する。すなわち、空燃比気筒間インバランスが発生していない場合、検出空燃比abyfsの波形は略平坦である。
【0071】
これに対し、空燃比気筒間インバランスが発生している場合、「リッチ気筒」と「リーン気筒」とが必ず存在するため、全気筒の気筒別空燃比の間において差が生じる。したがって、空燃比気筒間インバランスが発生している場合の検出空燃比abyfsは、例えば、図9(B)において実線C2により示すように、720°クランク角(すなわち、単位燃焼サイクル期間)を一周期として大きく変動する。
【0072】
以上から理解されるように、空燃比気筒間インバランスが発生すると、検出空燃比abyfsは、単位燃焼サイクル期間を一周期として大きく変動する。さらに、気筒別空燃比の間の差が大きいほど、検出空燃比abyfsの振幅が大きくなる。例えば、検出空燃比abyfsが図9(B)の実線C2のように推移する場合よりも気筒別空燃比の間の差が大きい場合、検出空燃比abyfsは図9(B)の一点鎖線C2aにより示すように推移する。
【0073】
したがって、インバランス指標値は、検出空燃比abyfsのこのような変動の状態を反映した値であればよい。すなわち、インバランス指標値は、気筒別空燃比の間の差が大きいほど大きくなるかまたは小さくなる値であって上流側空燃比センサ77の出力値Vabyfs(したがって、検出空燃比abyfs)に基づいて取得される値であればよい。インバランス指標値の一例としては、上流側空燃比センサ77の出力値Vabyfs(検出空燃比abyfs)の軌跡長が考えられる。
【0074】
また、インバランス指標値として、例えば、「検出空燃比abyfsの単位時間当たりの変化量」に基づく値が使用され得る。「検出空燃比abyfsの単位時間当たりの変化量」は、単位時間が例えば4m秒程度の極めて短い時間であるとき、検出空燃比abyfsの時間微分値d(abyfs)/dtであると言うこともできる。したがって、「検出空燃比abyfsの単位時間当たりの変化量」は「検出空燃比変化率ΔAF」とも称呼される。
【0075】
図9(C)において破線C3により示すように、空燃比気筒間インバランスが発生していない場合、検出空燃比変化率ΔAFの絶対値は小さい、一方、図9(C)において実線C4により示すように、空燃比気筒間インバランスが発生している場合、検出空燃比変化率ΔAFの絶対値は大きくなる。さらに、検出空燃比変化率ΔAFの絶対値は、気筒別空燃比の間の差が大きいほど大きくなる。
【0076】
本装置では、インバランス指標値として、検出空燃比変化率ΔAFに基づく値(例えば、サンプリング時間tsが経過するごとに得られる検出空燃比変化率ΔAFの絶対値そのもの、複数の検出空燃比変化率ΔAFの絶対値の平均値、および、複数の検出空燃比変化率ΔAFの絶対値のうちの最大値等)が使用される。これは、検出空燃比変化率ΔAFが検出空燃比abyfsの軌跡長に比較して、機関回転速度NEの影響を受け難いことに基づく。
【0077】
(空燃比気筒間インバランスの検出精度)
通常はEGRガス(排ガス)導入状態により検出される。ところが、EGRガス導入に伴って検出空燃比変化率ΔAF、すなわち、検出空燃比abyfsの時間微分値d(abyfs)/dtの傾きが小さくなる(緩やかになる)傾向を有するため、インバランス指標値の検出精度、すなわち、空燃比気筒間インバランスの検出精度が低下する可能性がある。なお、以下の説明において、EGRガス導入状態で空燃比気筒間インバランスを検出することを「一次検出」と称呼する。一方で、「一次検出」における空燃比気筒間インバランスの検出精度を向上させるためには、上述したエミッション量低減制御のうちの「EGR制御」を制限する、具体的には、EGRガス導入を停止させた状態でインバランス指標値を検出すればよいが、エミッション量を低減させる観点からすれば、EGR制御を無用に制限することは好ましくない。なお、以下の説明において、EGRガス導入停止状態で空燃比気筒間インバランスを検出することを「二次検出」と称呼する。
【0078】
図10は、本装置のCPU91により実行される、「空燃比気筒間インバランスの検出精度の向上」に係る処理の流れの一例を示すフローチャートである。この例では、まず、ステップ1005にて、「一次検出」によって検出されたインバランス指標値X1を用いて、インバランス割合Y1が算出されて学習(更新)されているか否かを判定する。
【0079】
具体的には、サンプリング時間ts(例えば、4m秒)が経過するごとに新たな検出空燃比abyfsが取得される。新たな検出空燃比abyfsが算出されるごとに(すなわち、サンプリング時間tsが経過するごとに)、検出空燃比変化率ΔAFが、今回の検出空燃比から前回の検出空燃比を減じることによって取得される。所定の期間内に取得された複数個の検出空燃比変化率ΔAFの絶対値の平均値ΔAFaveが算出される。この所定の期間は、上述した単位燃焼サイクル期間(4気筒・4サイクル・エンジンの場合、720°クランク角)であることが好ましい。
【0080】
この平均値ΔAFaveは、「検出空燃比変化率ΔAFの絶対値の1つの単位燃焼サイクル期間における平均値」と記載することもできる。この平均値ΔAFaveが複数の単位燃焼サイクル期間においてそれぞれ取得される。このように取得された複数個の平均値ΔAFaveの平均値がインバランス指標値X1として取得される。このインバランス指標値X1は、気筒別空燃比の間の差が大きいほど大きくなる値である。
【0081】
次に、インバランス割合Y1が算出されて、例えば、RAM93の所定記憶位置に記憶されて学習(更新)される。この例では、予め求められている「空燃比気筒間インバランスが発生していないとき(気筒別空燃比の間の差がゼロのとき)のインバランス指標値X1の値」をP1、「空燃比気筒間インバランスの程度が最大のとき(気筒別空燃比の間の差が最大のとき)のインバランス指標値X1の値」をQ1としたとき(Q1>P1)、例えば、Y1=(X1−P1)/(Q1−P1)なる式に従って、インバランス割合Y1(%)が求められる。すなわち、インバランス割合Y1は、空燃比気筒間インバランスが発生していないとき「0%」となり、空燃比気筒間インバランスの程度が最大のとき「100%」となる。
【0082】
続いて、ステップ1010では、「一次検出」において算出されたインバランス割合Y1が所定値A(%)以上であるかが判定され、Y≧Aが成立する場合(ステップ1010にて「Yes」)、ステップ1015にて、フューエルカット制御の終了後からEGR制御によるEGRガス導入までの時間差すなわちディレイ時間が大きく設定される。一方、Y<Aが成立する場合(ステップ1010にて「No」)、ステップ1030にて、フューエルカット制御の終了後からEGR制御によるEGRガス導入までのディレイ時間が通常の時間差に設定される。ここで、ステップ1010にて「No」と判定されることは、「一次検出」において空燃比気筒間インバランスが発生していないと判定されることを意味し、「Yes」と判定されることは、「一次検出」において空燃比気筒間インバランスが発生している、または、空燃比気筒間インバランスの発生が疑われると判定されることを意味する。
【0083】
以下、まず、ステップ1015における「ディレイ時間の設定」について具体的に説明する。この場合においては、「一次検出」において空燃比気筒間インバランスが発生しているまたはその発生が疑われるため、フューエルカット制御の終了後からEGRガス導入までの時間が長くなるようにディレイ時間を設定する。図11に示すように、インバランス割合Y1が所定値A(%)以上であれば、ディレイ時間は、通常、フューエルカット制御の終了後からEGRガス導入までの時間差として予め決定されているTbaseに対して、インバランス割合Y1の大きさが大きくなるほど大きな値に変化する付加時間Taddが付加されて設定される。すなわち、ステップ1015においては、ディレイ時間Tbase+Tadd(Tadd≠0)が設定される。
【0084】
なお、フューエルカット制御は、予め設定されたフューエルカット開始条件が成立すると燃料噴射弁39からの燃料の噴射を停止し、予め設定されたフューエルカット終了条件(フューエルカット復帰条件)が成立すると燃料噴射弁39からの燃料の噴射を復帰させる制御である。ここで、フューエルカット開始条件としては、例えば、スロットル弁43の開度(スロットル弁開度)が「ゼロ」(または所定の開度未満)であること、および、機関回転速度NEが所定のフューエルカット回転速度以上であること等を条件として設定することができる。一方、フューエルカット終了条件(フューエルカット復帰条件)としては、スロットル弁43の開度(スロットル弁開度)が「ゼロ」(または所定の開度)以上であること、および、機関回転速度NEが所定のフューエルカット回転速度未満であること等を条件として設定することができる。そして、上記フューエルカット開始条件のいずれもが成立するときにフューエルカット制御が開始され、上記フューエルカット終了条件(フューエルカット復帰条件)のうちの少なくとも一つが成立するときにフューエルカット制御が終了される。
【0085】
ステップ1015にてディレイ時間Tbase+Taddが設定されると、続いて、ステップ1020が実行される。ステップ1020では、フューエルカット制御が終了してから(すなわち、燃料噴射弁39から燃料の噴射が復帰してから)設定されたディレイ時間Tbase+Taddが経過したか否かが判定される。未だディレイ時間Tbase+Taddが経過していない場合(ステップ1020にて「No」)、ステップ1025にて、EGR制御によるEGRガス導入がなされていない状態で(EGRガス導入が停止された状態で)上述したインバランス指標値X1の検出およびインバランス割合Y1の算出が実行される。すなわち、ステップ1025においては、「二次検出」によるインバランス指標値X1の検出およびインバランス割合Y1の算出(空燃比気筒間インバランスの検出)が、ディレイ時間Tbase+Taddを経過するまで複数回実行される。
【0086】
次に、ステップ1030における「ディレイ時間」の設定について具体的に説明する。この場合においては、「一次検出」において空燃比気筒間インバランスが発生していないため、通常時におけるフューエルカット制御の終了後からEGRガス導入までのディレイ時間(時間差)として予め決定されているTbaseが設定される。すなわち、ステップ1015においては、付加時間Taddが「0」とされ、ディレイ時間Tbaseが設定される。
【0087】
ステップ1030にてディレイ時間Tbaseが設定されると、続いて、ステップ1035が実行される。ステップ1035では、フューエルカット制御が終了してから(すなわち、燃料噴射弁39から燃料の噴射が復帰してから)設定されたディレイ時間Tbaseが経過したか否かが判定される。未だディレイ時間Tbaseが経過していない場合、ディレイ時間Tbaseが経過するまで繰り返しステップ1035にて「No」の判定が繰り返される。
【0088】
ステップ1020にてフューエルカット制御が終了してから(すなわち、燃料噴射弁39から燃料の噴射が復帰してから)設定されたディレイ時間Tbase+Taddが経過したと判定される場合(ステップ1020にて「Yes」)、または、ステップ1035にてフューエルカット制御が終了してから(すなわち、燃料噴射弁39から燃料の噴射が復帰してから)設定されたディレイ時間Tbaseが経過したと判定される場合(ステップ1035にて「Yes」)、ステップ1040にて、EGR制御が実行されてEGRガス導入が開始される。すなわち、ステップ1040においては、EGR弁55を閉状態から開状態とし、排気通路内の排ガス(EGガス)を吸気通路に導入する。
【0089】
以上のように、本発明に係る実施形態(具体的には、図10に示した処理)によれば、「一次検出」において空燃比気筒間インバランスが発生していると判定される場合(ステップ1010にて「Yes」)、フューエルカット制御の終了後からEGR制御によるEGRガス導入までのディレイ時間Tbase+Taddが設定され(ステップ1015)、ディレイ時間Tbase+Taddが経過するまでに「二次検出」における空燃比気筒間インバランスの検出が実行される(ステップ1020,1025)。したがって、EGRガス導入による影響が排除された極めて正確な空燃比気筒間インバランスを検出することができる。
【0090】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、インバランス指標値として検出空燃比abyfsの時間微分値(検出空燃比変化率ΔAF)に基づくインバランス指標値X1(気筒別空燃比の間の差が大きいほど大きくなる値)が使用されていたが、検出空燃比abyfsの時間に関する2階微分値に基づく値が使用されてもよい。また、上流側空燃比センサ77の出力値Vabyfaの軌跡長、または、検出空燃比abyfsの軌跡長が使用されてもよい。これらの値は、全て「気筒別空燃比の間の差が大きいほど大きくなる値」である。
【0091】
また、インバランス指標値として、以下のように求められるインバランス指標値X2が使用されてもよい。サンプリング時間ts(例えば、4m秒)が経過するごとに新たな検出空燃比abyfsが取得される。所定の期間内に取得された複数個の検出空燃比abyfsの中から最小MINが選択される。この所定の期間は、上述した単位燃焼サイクル期間(4気筒・4サイクル・エンジンの場合、720°クランク角)であることが好ましい。
【0092】
この最小MINは、「検出空燃比abyfsの1つの単位燃焼サイクル期間における最小値」と記載することもできる。この最小値MINが複数の単位燃焼サイクル期間においてそれぞれ取得される。このように取得された複数個の最小MINの平均値がインバランス指標値X2として取得される。このインバランス指標値X2は、気筒別空燃比の間の差が大きいほど小さくなる値である。
【0093】
このようにインバランス指標値X2が使用される場合、インバランス割合として、インバランス割合Y2が算出される。すなわち、予め求められている「空燃比気筒間インバランスが発生していないとき(気筒別空燃比の間の差がゼロのとき)のインバランス指標値X2の値」をP2、「空燃比気筒間インバランスの程度が最大のとき(気筒別空燃比の間の差が最大のとき)のインバランス指標値X2の値」をQ2としたとき(P2>Q2)、例えば、Y2=(P2−X2)/(P2−Q2)なる式に従って、インバランス割合Y2(%)が求められる。すなわち、インバランス割合Y2は、空燃比気筒間インバランスが発生していないとき「0%」となり、空燃比気筒間インバランスの程度が最大のとき「100%」となる。
【0094】
また、上記実施形態では、インバランス指標値に基づいてインバランス割合が算出され、インバランス割合の大きさに基づいてEGR制御によるEGRガス導入までのディレイ時間、より具体的には付加時間Taddの大きさが決定されているが、インバランス割合を算出することなく、インバランス指標値そのものの大きさに基づいて付加時間Taddの大きさが決定されてもよい。
【0095】
さらに、上記実施形態では、EGR制御によるEGRガス導入までのディレイ時間Tbase+Taddがフューエルカット制御の終了後に燃料噴射弁39による燃料の噴射が復帰してからの時間差として決定されている。この場合、機関回転速度NEが予め設定された所定の閾値回転速度を超えてから(例えば、アイドル状態から増加する機関回転速度NEが所定の閾値回転速度を超えてから)の時間差、すなわちディレイ時間Tbase+Taddとして決定することも可能である。
【0096】
このように機関回転速度NEが使用される場合、インバランス割合Y1(%)が所定値A(%)未満である場合(ステップ1010にて「No」)、ステップ1030にて、付加時間Taddが「0」に設定されて通常のディレイ時間Tbaseが設定される。そして、ステップ1035にて、機関回転速度NEが閾値回転速度を超えてからディレイ時間Tbaseが経過したことが判定された後、ステップ1040にてEGR制御によるEGRガス導入が開始される。
【0097】
一方、インバランス割合Y1(%)が所定値A(%)以上である場合(ステップ1010にて「Yes」)、ステップ1015にて、付加時間Taddがインバランス割合Y1(%)に応じて大きな値に設定されてディレイ時間Tbase+Taddが設定される。そして、ステップ1020にて、機関回転速度NEが閾値回転速度を超えてからディレイ時間Tbase+Taddが経過したことが判定された後、ステップ1040にてEGR制御によるEGRガス導入が開始される。したがって、機関回転速度NEが閾値回転速度を超えてからディレイ時間Tbase+Taddが経過するまでは、EGRガス導入が停止されるため、ステップ1025にて、EGRガス導入に伴う影響を排除してインバランス指標値X1(すなわち、インバランス割合Y1)を極めて精度よく検出(算出)することができる。
【符号の説明】
【0098】
25…燃焼室、37…点火プラグ、39…燃料噴射弁、33…可変吸気タイミング制御装置、36…可変排気タイミング制御装置、44…SCV、44a…SCVアクチュエータ、49…パージ制御弁、54…排気還流管、55…EGR弁、63…ASV、66…電磁弁、53…上流側触媒、77…上流側空燃比センサ、90…電気制御装置、91…CPU
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の気筒から延びるそれぞれの排気通路が集合してなる集合排気通路に配設された空燃比センサの出力値に基づいて、集合排気通路を通過するガス(混合排ガス)の空燃比をフィードバック制御する空燃比制御装置が広く知られている。混合排ガスは、各気筒から排出された排ガスが混合されて得られる排ガスである。より具体的には、この空燃比制御装置では、混合排ガスの空燃比が理論空燃比に一致するように、複数の気筒に対して共通する空燃比フィードバック量が空燃比センサの出力値に基づいて算出される。その空燃比フィードバック量に基づいて複数の気筒に対してそれぞれ噴射される燃料の量が調整されることにより、混合排ガスの空燃比がフィードバック制御される。
【0003】
また、近年、内燃機関を搭載した車両から内燃機関に起因して排出される有害物質の排出量(エミッション量)の規制が厳しくなってきていることに対応して、エミッション量を低減する制御も種々提案されてきている。具体的には、パージ制御、EGR制御、AI増量制御、冷間VVT制御、触媒暖機遅角制御等が挙げられる。
【0004】
ところで、多気筒内燃機関においては、燃料噴射弁からの噴射量の気筒間のばらつき、吸気弁の最大リフト量の気筒間のばらつき、EGR機構により吸気系に還流されたEGRガス量の複数の気筒への分配のばらつき等が発生し得る。係る気筒間での特性のばらつきが発生すると、気筒間にて空燃比のばらつき(空燃比気筒間インバランス、空燃比気筒間ばらつき、気筒間における空燃比の不均一)が発生し得る。したがって、従来から、この空燃比のばらつきに応じて上述したエミッション量を低減する制御を行われている。
【0005】
そして、気筒間の空燃比のばらつきの検出に関し、例えば、下記特許文献1では、触媒要素の上下流側にそれぞれ第1の空燃比センサと第2の空燃比センサとを設け、第1の空燃比センサ出力に基づいて主空燃比制御を実行し、第2の空燃比センサ出力に基づいて補助空燃比制御を実行するようになっており、補助空燃比制御のための制御量が所定の異常判定値に達したときに気筒間の空燃比のばらつき異常が発生したと判定することが記載されている。また、例えば、下記特許文献2では、空燃比センサによる軌跡長の実測値と予め設定された軌跡長の参考値とを比較することにより、気筒間の空燃比のばらつきが発生したと判定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−74388号公報
【特許文献2】米国特許第7,152,594号公報
【発明の概要】
【0007】
上述した各種エミッション量を低減する制御を適切に実行するためには、空燃比のばらつき(空燃比気筒間インバランス)を正確に検出することが重要である。しかしながら、エミッション量を低減する制御の一つとしてEGR制御が実行されている状況では、導入されるEGRガスの影響により、空燃比気筒間インバランスの検出精度が低下する場合がある。この場合、単に、EGRガスの導入を停止すると、空燃比気筒間インバランスの検出精度を向上させることができる一方でエミッション量の低減効果を損なう可能性がある。
【0008】
本発明は上記問題に対処するためになされたものであり、その目的は、エミッション量の低減効果を確保しつつ空燃比気筒間インバランスの検出精度を向上させることができる、多気筒内燃機関の制御装置を提供することにある。
【0009】
係る目的を達成するための本発明による多気筒内燃機関の制御装置(本制御装置)は、複数の気筒を有する多気筒内燃機関に適用される。本制御装置は、空燃比センサと、複数の燃料噴射弁と、フィードバック量算出手段と、フィードバック制御手段と、排気還流制御実行手段と、を備える。
【0010】
前記空燃比センサは、前記集合排気通路に配設されて、前記混合排ガスの空燃比に応じた出力値を発生する。
【0011】
前記複数の燃料噴射弁は、前記複数の気筒のそれぞれに対応して配設される。前記複数の燃料噴射弁は、前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気に含まれる燃料をそれぞれ噴射する。すなわち、燃料噴射弁は、一つに気筒に対して一つ以上設けられている。各燃料噴射弁は、その燃料噴射弁に対応する気筒に対して燃料を噴射する。
【0012】
前記フィードバック量算出手段は、前記複数の気筒に対して共通する空燃比フィードバック量を算出する。この空燃比フィードバック量は、前記混合排ガスの空燃比が理論空燃比と一致するように、前記空燃比センサの出力値に基づいて算出される。
【0013】
前記フィードバック制御手段は、前記空燃比フィードバック量に基づいて前記複数の燃料噴射弁のそれぞれから噴射される燃料の量を調整する。これにより、前記混合排ガスの空燃比がフィードバック制御される。
【0014】
前記排気還流制御実行手段は、前記排気通路内の排ガスを内燃機関の吸気通路へ導く制御を実行する。これにより、前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室内のガスのうち不活性ガスの割合を高めて最高燃焼温度を下げて燃焼による窒素酸化物(NOx)の生成を抑制し、燃焼室から排出される排ガス中の窒素酸化物の量、すなわち、エミッション量を低減する。
【0015】
本制御装置の特徴の1つは、インバランス指標値取得手段を備えることにある。前記インバランス指標値取得手段は、インバランス指標値を取得する。インバランス指標値とは、「前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気の空燃比」である「複数の気筒別空燃比」の間の相違の程度(差、不均衡の程度)が大きいほど大きくなるか、または、小さくなる値(単調増加するか、または、単調減少する値)であり、前記空燃比センサの出力値に基づいて得られる値である。以下、「複数の気筒別空燃比」の間の相違の程度(差、不均衡の程度)を「空燃比気筒間インバランスの程度」とも呼ぶ。
【0016】
前記インバランス指標値には、空燃比センサの出力値の軌跡長、空燃比センサの出力値により表される空燃比(検出空燃比)の軌跡長等が含まれる。これに対し、前記インバランス指標値として、前記検出空燃比の時間微分値に基づく値を取得するように構成されることが好適である。検出空燃比の時間微分値は、検出空燃比の軌跡長に比較して、機関回転速度の影響を受け難い。したがって、上記構成によれば、機関の回転速度により変動し難い特性を有するインバランス指標値を得ることができる。この結果、機関の回転速度によらず、空燃比気筒間インバランスの程度を安定して取得することができる。
【0017】
本制御装置の特徴の他の1つは、前記排気還流制御実行手段が、前記インバランス指標値により表される前記相違の程度が大きいとき、前記相違の程度が小さいときに比べて、所定の条件が成立してから前記排気通路内の排ガスを前記吸気通路へ導くまでの時間差を大きく設定することにある。所定の条件としては、フューエルカット制御が終了されて前記複数の燃料噴射弁による燃料の噴射が復帰される条件や、機関の回転速度が予め設定された閾値回転速度を超える条件等が挙げられる。
【0018】
通常、フューエルカット制御の終了後や機関の回転速度が予め設定された閾値回転速度以下では、予め設定された時間差が経過するまで前記排気通路内の排ガスを内燃機関の吸気通路へ導く制御は停止される。これに対し、上記構成によれば、空燃比気筒間インバランスの程度が大きいとき、前記予め設定された時間差が大きくなるように、例えば、付加時間が設定される。この結果、前記排気通路内の排ガスを内燃機関の吸気通路へ導く制御の実行時に取得された空燃比気筒間インバランスの程度が大きいときには、通常時に実行される前記排気通路内の排ガスを内燃機関の吸気通路へ導く制御の停止状態の継続時間(時間差)を若干長くして設定することができる。
【0019】
本制御装置の特徴の他の1つは、前記インバランス指標値取得手段が、前記大きく設定された時間差内における前記インバランス指標値を取得することにある。これによれば、前記排気通路内の排ガスを内燃機関の吸気通路へ導く制御が停止されている状態、すなわち、還流される排ガスの影響を排除した状態における空燃比気筒間インバランスの程度を取得することができる。したがって、エミッション量の低減効果を確保しつつ空燃比気筒間インバランスの検出精度を向上させることができる。
【0020】
本制御装置は、前記排気還流制御実行手段が、前記インバランス指標値により表される前記相違の程度が大きいほど、前記時間差を大きく設定するように構成され得る。これによれば、空燃比気筒間インバランスの程度に応じて、前記排気通路内の排ガスを内燃機関の吸気通路へ導く制御の停止状態の継続時間(時間差)がより適切に設定され、この結果、エミッション量の低減効果を確保しつつ空燃比気筒間インバランスの検出精度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る制御装置が適用される多気筒内燃機関の概略構成を示した図である。
【図2】図1に示したSCVの近傍の吸気通路内を説明するための図である。
【図3】図1に示した内燃機関が備えるパージ制御機構を説明するための図である。
【図4】図1に示した内燃機関が備えるAI増量制御機構を説明するための図である。
【図5】図1に示した触媒、上流側空燃比センサ、及び下流側空燃比センサが集合排気通路に配設された様子を示した図である。
【図6】図1に示した上流側空燃比センサの出力と空燃比の関係を示したグラフである。
【図7】図1に示した下流側空燃比センサの出力と空燃比の関係を示したグラフである。
【図8】空燃比気筒間インバランスが発生していて、かつ、混合排ガスの空燃比が理論空燃比に一致している場合における各気筒の空燃比の一例を示した図である。
【図9】空燃比気筒間インバランスが発生した場合と発生していない場合のインバランス指標値に関連する各値の挙動を示したタイムチャートである。
【図10】図1に示したCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図11】インバランス割合(空燃比気筒間インバランスの程度)とディレイ時間(時間差)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る多気筒内燃機関の制御装置(以下、単に「本装置」とも称呼する。)について図面を参照しながら説明する。
【0023】
(構成)
図1は、本装置を、4サイクル・火花点火式・多気筒(直列4気筒)・内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。なお、図1は、特定気筒の断面のみを示しているが、他の気筒も同様な構成を備えている。
【0024】
この内燃機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケースおよびオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20にガソリン混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排ガスを外部に放出するための排気系統50と、を含んでいる。
【0025】
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23およびクランク軸24を含んでいる。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これにより同クランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21の壁面およびピストン22の上面は、シリンダヘッド部30の仮面とともに燃焼室25を形成している。
【0026】
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフトを含むとともに同インテークカムシャフトの位相角を連続的に変更する可変吸気タイミング制御装置33、可変吸気タイミング制御装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフトを含むとともに同エキゾーストカムシャフトの位相角を連続的に変更する可変排気タイミング制御装置36、可変排気タイミング制御装置36のアクチュエータ36a、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38および燃料を吸気ポート31内に噴射する燃料噴射弁(燃料噴射手段、燃料供給手段)39を備えている。このように、内燃機関10は、吸気弁32および排気弁35の開閉タイミングを変更する「可変動弁(VVT)システム」を備える。
【0027】
燃料噴射弁39は、一つの燃料室25に対して一つずつ配設されている。燃料噴射弁39は吸気ポート31に設けられている。このように、複数の気筒のそれぞれは、他の気筒とは独立して燃料供給を行う燃料噴射弁39を備えている。
【0028】
吸気系統40は、インテークマニホールド41、吸気管42、スロットル弁43、およびスワールコントロール弁(SCV)44を備えている。インテークマニホールド41は、複数の枝部41aとサージタンク41bとからなる。複数の枝部41aのそれぞれの一端は複数の吸気ポート31のそれぞれに接続されている。複数の枝部41aの他端はサージタンク41bに接続されている。吸気管42の一端はサージタンク41bに接続されている。吸気ポート31、インテークマニホールド41および吸気管42は、吸気通路を構成している。
【0029】
スロットル弁43は、吸気管42内にあって吸気通路の開口断面積(スロットル弁開度)を可変とするようになっている。スロットル弁43は、スロットル弁アクチュエータ43a(スロットル弁駆動手段の一部)により吸気管42内で回転駆動されるようになっている。
【0030】
SCV44は、各枝部41a内にあって、SCVアクチュエータ44aにより回転駆動されるようになっている。図2に示すように、各吸気ポート31は、実際には吸気ポート31a,31bからなっている。吸気ポート31aは、燃焼室25内にスワール(旋回流)を発生させるようにヘリカル状に形成され所謂スワールポートを構成し、吸気ポート31bは所謂ストレートポートを構成している。
【0031】
各枝部41aには、インテークマニホールド41の長手方向に沿って伸びる隔壁41aaが形成されていて、これにより各枝41aは、吸気ポート31aに連通する第1インテークマニホールド41acと、吸気ポート31bに連通する第2インテークマニホールド41adとに区画されている。SCV44は、この第2インテークマニホールド41ad内において回動可能に支持され、第2インテークマニホールド44adの開口断面積(SCV開度)を変更し得るようになっている。
【0032】
また、隔壁41aaの適宜個所には第1,第2インテークマニホールド41ac,41adを連通する連通路41abが形成されている。燃料噴射弁39はこの連通路41abの近傍位置に固定され、吸気ポート31a,31bに向けて燃料を噴射するようになっている。このように、内燃機関10は、SCV44の開度調整により吸気流を調整する「吸気流調整システム」を備える。
【0033】
図1および図3に示すように、内燃機関10は、液体ガソリン燃料を貯留する燃料タンク45、燃料タンク45内に貯留された燃料の蒸発により発生した燃料ガスを吸蔵可能なキャニスタ(チャコールキャニスタ)46、前記燃料ガスを燃料タンク45からキャニスタ46へと導くためのベーパ捕集管47、キャニスタ46から離脱した燃料ガスをサージタンク41bへと導くためのパージ流路管48およびパージ流路管48に配設されたパージ制御弁49を備えている。パージ制御弁49は、パージ流路管48の開口断面積を変更するようになっている。
【0034】
キャニスタ46は、パージ制御弁49が開かれている期間において、筐体内に収納された吸着剤46aに吸蔵された燃料ガスを、パージ流路管48を通じてサージタンク41bに放出するようになっている。また、キャニスタ46の筐体には大気ポート46bが形成されていて、吸着剤46aから漏出(離脱)した燃料ガスが大気ポート46bを通して大気に開放可能となっている。このように、内燃機関10は、燃料タンク45内に貯留された燃料の蒸発により発生した燃料ガスを吸気通路へ導く「パージシステム」を備える。
【0035】
ふたたび、図1を参照すると、排気系統50は、各気筒の排気ポート34に一端が接続された複数の枝部を含むエキゾーストマニホールド51、エキゾーストマニホールド51の複数の枝部の各他端であって総ての枝部が集合している集合部(エキゾーストマニホールド51の排気集合部)に接続されたエキゾーストパイプ52、エキゾーストパイプ52に配設された上流側触媒(三元触媒)53、および、上流側触媒53よりも下流のエキゾーストパイプ52に配設された図示しない下流側触媒(三元触媒)を備えている。排気ポート34、エキゾーストマニホールド51およびエキゾーストパイプ52は、排気通路を構成している。このように、上流側触媒53は、複数の気筒から延びるそれぞれの排気通路が集合してなる集合排気通路に配設されている。
【0036】
さらに、内燃機関10は、外部EGR通路を構成する排気還流管54、および、EGR弁55を含んでいる。排気還流管54の一端はエキゾーストマニホールド51の集合部に接続されている。排気還流管54の他端はサージタンク41bに接続されている。EGR弁55は排気還流管54に配設されている。EGR弁55は、排気還流管54の開口断面積を変更するようになっている。このように、内燃機関10は、「排気還流(EGR)システム」を備えている。
【0037】
また、図1および図4に示すように、内燃機関10は、二次空気供給装置60を備える。二次空気供給装置60は、スロットル弁53の上流の吸気通路と触媒53の上流の集合排気通路とを連通する二次空気供給通路61と、二次空気供給通路61に介装されたエアポンプ62と、エアポンプ62よりも下流の二次空気供給通路61に介装されたエアスイッチングバルブ(ASV)63と、ASV63よりも下流の二次空気供給通路61に介装されたリード弁64(上流から下流への流れのみを許容するチェック弁)とを備えている。また、二次空気供給装置60は、サージタンク41b内の負圧をASV63に導入するための負圧導入通路65と、負圧導入通路65に介装された電磁弁66をも備えている。
【0038】
ASV63は、電磁弁66が開状態にあってサージタンク41b内の負圧が導入されているとき開状態となり、電磁弁66が閉状態にあって前記負圧が導入されていないときに閉状態となる。すなわち、二次空気供給装置60では、エアポンプ62を作動し、かつ、電磁弁66を開状態とすることで、触媒53の上流の集合排気通路に空気が導入される。このように、内燃機関10は、「二次空気供給システム」を備えている。
【0039】
一方、内燃機関10は、図1に示すように、エアフローメータ71、スロットルポジションセンサ72、水温センサ73、クランクポジションセンサ74、インテークカムポジションセンサ75、エキゾーストカムポジションセンサ76、上流側空燃比センサ77、下流側空燃比センサ78、アクセル開度センサ79、SCV開度センサ81、および、圧力センサ82(図4を参照)を備えている。
【0040】
エアフローメータ71は、吸気管42内を流れる吸入空気の質量流量(吸入空気流量)Gaを検出する。スロットルポジションセンサ72は、スロットル弁43の開度(スロットル弁開度)を検出する。水温センサ73は、内燃機関10の冷却水の温度を検出する。クランクポジションセンサ74は、クランク軸24の回転角度の位相(変化)を検出する。この検出結果は、機関回転速度NEを表す。
【0041】
インテークカムポジションセンサ75は、インテークカムシャフトの回転角度の位相(変化)を検出する。クランクポジションセンサ74およびインテークカムポジションセンサ75からの信号に基づいて、基準気筒(例えば、第1気筒)の圧縮上死点を基準とした絶対クランク角CAが取得される。この絶対クランク角CAは、基準気筒の圧縮上死点において「0°クランク角」に設定され、クランク角の回転角度に応じて「720°クランク角」まで増大し、その時点にて再び0°クランク角に設定される。エキゾーストカムポジションセンサ76は、エキゾーストカムシャフトの回転角度の位相(変化)を検出する。
【0042】
上流側空燃比センサ77(本発明における空燃比センサ)は、図5に示すように、エキゾーストマニホールド51の集合部HK(排気集合部)よりも下流の集合排気通路において、上流側触媒53より上流に配設されている。上流側空燃比センサ77は、例えば、特開平11−72473号公報、特開2000−65782号公報、および、特開2004−69547号公報等に開示された、「拡散抵抗層を備える限界電流式広域空燃比センサ」である。
【0043】
以下、集合排気通路内を通過する排ガスを「混合排ガス」と称呼する。混合排ガスは、各気筒から排出された排ガスが混合されて得られる排ガスである。上流側空燃比センサ77は、上流側触媒53に流入する混合排ガスの空燃比に応じた出力値Vabyfs(V)を発生する。この出力値Vabyfsは、図6に示した空燃比変換テーブル(マップ)Mapabyfsを利用して、出力値Vabyfsにより表される空燃比(以下、「検出空燃比」と呼ぶ。)abyfsに変換される。
【0044】
ふたたび、図1および図5を参照すると、下流側空燃比センサ78は、集合排気通路において上流側触媒53より下流側であり、かつ、下流側触媒よりも上流側に配設されている。下流側空燃比センサ78は、周知の起電力式の酸素濃度センサ(安定化ジルコニアを用いた周知の濃淡電池型の酸素濃度センサ)である。下流側空燃比センサ78は、上流側触媒53から流出する混合排ガスの空燃比(したがって、機関に供給される混合気の空燃比の時間的平均値)に応じた出力値Voxs(V)を発生する。
【0045】
図7に示すように、この出力値Voxsは、空燃比が理論空燃比よりもリッチのとき最大出力値max(例えば、約0.9V)となり、空燃比が理論空燃比よりもリーンのとき最小出力値min(例えば、約0.1V)となり、空燃比が理論空燃比であるとき最大出力値maxと最小出力値minの略中間の電圧Vst(例えば、約0.5V)となる。さらに、この出力値Voxsは、空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比からリーンな空燃比へと変化する際に最大出力値maxから最小出力値minへと急変し、空燃比が理論空燃比よりもリーンな空燃比からリッチな空燃比へと変化する際に最小出力値minから最大出力値maxへと急変する。
【0046】
ふたたび、図1を参照して、アクセル開度センサ79は、運転者によって操作されるアクセルペダルAPの操作量(アクセルペダル操作量)を検出する。SCV開度センサ81は、SCV44の開度(SCV開度)を検出する。圧力センサ82(図4参照)は、ASV63の上流の二次空気供給通路61内の圧力を検出するようになっている。
【0047】
電気制御装置90は、図1に示すように、互いにバスで接続された「CPU91、CPU91が実行するプログラム、各種テーブル(マップ、関数)および定数等を予め記憶したROM92、CPU91が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM93、および、バックアップRAM94、並びに、ADコンバータを含む各種インターフェース95等」からなる周知のマイクロコンピュータである。
【0048】
インターフェース95は、センサ71〜82と接続され、CPU91にそれらのセンサからの信号を供給する。さらに、インターフェース95は、CPU91の指示に応じてアクチュエータ33a、アクチュエータ36a、各気筒のイグナイタ38、各気筒に対応して設けられた燃料噴射弁39、スロットル弁アクチュエータ43a、SCVアクチュエータ44a、パージ制御弁49、EGR弁55、および、電磁弁66等に駆動信号(指示信号)を送出するようになっている。
【0049】
(空燃比フィードバック制御)
次に、本装置による空燃比フィードバック制御の概要について説明する。本装置は、上流側空燃比センサ77の出力値Vabyfsおよび下流側空燃比センサ78の出力値Voxsに基づいて、混合排ガスの空燃比を理論空燃比と一致するようにフィードバック制御する。
【0050】
このフィードバック制御の一例としては、以下のものが挙げられる。すなわち、下流側空燃比センサ78の出力値Voxsと理論空燃比に相当する目標値Vstとの偏差についてPID処理してフィードバック補正値(サブフィードバック補正量)が求められる。このサブフィードバック補正量により上流側空燃比センサ77の出力値Vabyfsを補正して得られる値を図6に示した空燃比変換テーブルMapabyfsに適用して、見掛け上の空燃比が求められる。この見掛け上の空燃比と理論空燃比との偏差についてPID処理して空燃比フィードバック量が求められる。この空燃比フィードバック量は、全気筒に対して共通する値である。
【0051】
この空燃比フィードバック量により、「機関回転速度NEと吸入空気流量Gaと理論空燃比とに基づいて得られる基本燃料噴射量」を補正して得られる量の燃料が、各気筒の燃料噴射弁39からそれぞれ噴射される。このように、全気筒に共通する空燃比フィードバック量に基づいて各燃料噴射弁39から噴射される燃料の量をそれぞれ調整することにより、混合排ガスの空燃比がフィードバック制御される。
【0052】
(エミッション量低減制御)
次に、本装置によるエミッション量低減制御の概要について説明する。本装置は、エミッション量低減制御として、パージ制御、EGR制御、AI増量制御、冷間VVT制御、触媒暖機遅角制御、および、SCV制御を実行する。以下、各制御について順に簡単に説明する。
【0053】
<パージ制御>
パージ制御は、上述した「パージシステム」(図3を参照)を利用して行われる。パージ制御は、所定の条件下、パージ制御弁49を開状態とすることにより燃料タンク45内に貯留された燃料の蒸発により発生した燃料ガスを吸気通路へ導き、かつ、各燃料噴射弁39から噴射される燃料の量を(上述した空燃比フィードバック量により調整された量から)減少する制御である。
【0054】
燃料ガスを吸気通路に導くのは、キャニスタ46内から大気ポート46bを通して燃料ガス(すなわち、未燃物、HC等)が外部に漏出することを抑制するためである。燃料噴射量は、吸気通路に導かれた燃料ガス分だけ減少される。吸気通路に導かれた燃料ガス分は、周知の手法の1つを用いて推定され得る。このように、パージ制御によれば、空燃比を理論空燃比(近傍)に維持しつつ、キャニスタ46から排出される未燃物(HC等)の量を低減することができる。
【0055】
<EGR制御>
EGR制御は、上述した「EGRシステム」を利用して行われる。EGR制御は、所定の条件下、EGR弁55を開状態とすることにより排気通路内の排ガスを吸気通路に導く制御である。この動作は、外部EGRとも呼ばれる。
【0056】
排気通路内の排ガス(EGRガス)を吸気通路に導くのは、燃焼室25内のガスのうち不活性ガスの割合を高めて最高燃焼温度を下げることにより、燃焼による窒素酸化物(NOx)の生成を抑制するためである。このように、EGR制御によれば、燃焼室25から排出される排ガス中の窒素酸化物の量を低減することができる。
【0057】
<AI増量制御>
AI増量制御は、上述した「二次空気供給システム」(図4を参照)を利用して行われる。AI増量制御は、所定の条件下、電磁弁66を開状態とし(したがって、ASV63を開状態とし)、かつ、エアポンプ62を作動することにより上流側触媒53の上流側の集合排気通路に空気を導入し、かつ、各燃料噴射弁39から噴射される燃料の量(上述した空燃比フィードバック量により調整された量から)増大する制御である。
【0058】
上流側触媒53の上流側の集合排気通路に空気を導くのは、この部位で排ガス中の未燃物(HC等)を燃焼させることにより、上流側触媒53の暖機を促進するためである。燃料噴射量は、上流側触媒53の上流側に導かれた空気を燃焼させるのに必要な量(例えば、導かれた空気の量を理論空燃比で除した値)だけ増大される。導かれた空気の量は、周知の手法の1つを用いて推定され得る。このように、AI増量制御によれば、内燃機関10の冷間始動直後等の触媒の温度が低いとき、触媒を早期に活性化させて、触媒から排出される排ガス中の未燃物(HC、CO等)および窒素酸化物(NOx)の量を低減することができる。
【0059】
<冷間VVT制御>
冷間VVT制御は、上述した「VVTシステム」を利用して行われる。冷間VVT制御は、所定の条件下、吸気弁32の開閉タイミング、および/または、排気弁35の開閉タイミングを(通常の非冷間VVT制御時と比較して)調整して燃焼室25内の既燃ガスが吸気弁32の周囲を介して吸気通路に吹き返す量(既燃ガス吹き返し量)を(通常の非冷間VVT制御時と比較して)増大し、かつ、各燃料噴射弁39から噴射される燃料の量を(上述した空燃比フィードバック量により調整された量から)減少する制御である。既燃ガス吹き返し量を増大する動作は、内部EGRとも呼ばれる。非冷間VVT制御時における、吸気弁32の開閉タイミング、および/または、排気弁35の開閉タイミングは、内燃機関10の運転状態に基づいて(上述した各種センサの出力結果に基づいて)決定される。
【0060】
燃焼室内の既燃ガスを吸気通路に導くのは、吸気通路の暖気を促進して吸気通路に付着する液体燃料の霧化を促進するためである。燃料噴射量は、霧化された燃料ガスの増大分だけ減少される。霧化された燃料ガスの増大分は、周知の手法の1つを用いて推定され得る。このように、冷間VVT制御によれば、内燃機関10の冷間始動直後等の吸気通路の温度が低いとき、噴射された燃料の霧化を促進して、空燃比を理論空燃比(近傍)に維持しつつ、燃焼室25から排出される排ガス中の未燃物(HC、CO等)の量を低減することができる。
【0061】
<触媒暖機遅角制御>
触媒暖機遅角制御は、所定の条件下、点火プラグ37の点火時期を(通常の非触媒暖機遅角制御時と比較して)遅角する制御である。非触媒暖機遅角制御時における点火時期は、内燃機関10の運転状態に基づいて(上述した各種センサの出力結果に基づいて)決定される。
【0062】
点火時期を遅角するのは、燃料の燃焼タイミングを遅らせて触媒に流入する排ガスの温度を高めることにより、上流側触媒53の暖機を促進するためである。このように、触媒暖機遅角制御によれば、内燃機関10の冷間始動直後等の触媒の温度が低いとき、触媒を早期に活性化させて、触媒から排出される排ガス中の未燃物(HC、CO等)および窒素酸化物(NOx)の量を低減することができる。
【0063】
<SCV制御>
SCV制御は、上述した「吸気流調整システム」を利用して行われる。SCV制御は、内燃機関10の運転状態に応じてSCV44を開閉する制御である。SCV44を閉状態とするのは、吸気流速を高めてスワールの流速を高めることにより噴射された燃料の霧化を促進するためである。SCV44を開状態とするのは、吸気抵抗を小さくしてより多くの空気を燃焼室25に吸入させるためである。このように、SCV制御によれば、内燃機関10の冷間始動直後のアイドリング状態等の燃料が霧化し難く、かつ、スワール流速が小さいとき、SCV44を閉状態とすることで噴射された燃料の霧化を促進して、燃焼室25から排出される排ガス中の未燃物(HC、CO等)の量を低減することができる。また、それ以外のとき、SCV44を開状態とすることでより多くの空気を燃焼室25内に吸入させて、内燃機関10の最大出力を向上させることができる。
【0064】
(空燃比気筒間インバランス)
次に、空燃比気筒間インバランス発生時について説明する。「空燃比気筒間インバランス」とは、気筒間における空燃比のばらつきを指す。空燃比気筒間インバランスは、例えば、燃料噴射弁39からの実際の噴射量の気筒間のばらつき、吸気弁32の実際の最大リフト量の気筒間のばらつき、EGRシステムにより吸気通路に還流された排ガス(EGRガス)の量の各気筒への分配のばらつき等に起因して発生し得る。
【0065】
図8に示すように、「空燃比気筒間インバランス」が発生している場合、混合排ガスの空燃比が理論空燃比と一致していても、空燃比が理論空燃比よりもリッチとなる気筒(リッチ気筒)と、空燃比が理論空燃比よりもリーンとなる気筒(リーン気筒)が必ず発生する。図8では、一例として、第4気筒が「リッチ機構」となり、第1〜第3気筒が「リーン気筒」となる場合が示されている。
【0066】
図8に示す空燃比気筒間インバランスは、例えば、第1〜第3気筒の燃料噴射弁39が「指示された燃料噴射量と等しい量の燃料を噴射する」正常な状態にあり、第4気筒の燃料噴射弁39のみが「指示された燃料噴射量よりも過大な量の噴射量を噴射する」異常な状態にある場合に発生し得る。すなわち、この場合、第4気筒の空燃比のみが大きくリッチ側に変化する。これにより、集合排気通路を通過する混合排ガスの空燃比(全気筒の空燃比の平均)は、理論空燃比よりもリッチとなる。したがって、全気筒に対して共通する上述した「空燃比フィードバック量」により、第4気筒の空燃比は理論空燃比に近づけられるようにリーン側へと変更され、同時に、他の3つの気筒の空燃比は理論空燃比から遠ざけられるようにリーン側へと変更させられる。この結果、集合排気通路を通過する混合排ガスの空燃比は略理論空燃比に一致させられる。
【0067】
しかしながら、第4気筒の空燃比は依然として理論空燃比よりもリッチに維持され、他の3つの気筒の空燃比は理論空燃比よりもリーンに維持される。以上のことから、第4気筒が「リッチ気筒」となり、第1〜第3気筒が「リーン気筒」となる。
【0068】
このように、空燃比気筒間インバランスが発生すると、各気筒における混合気の燃料状態が完全燃焼とは相違した燃焼状態となる。この結果、各気筒から排出されるエミッションの量(未燃物の量および窒素酸化物の量)が増大する。このため、集合排気通路を通過する混合排ガスの空燃比(全気筒の空燃比の平均)が理論空燃比であったとしても、増大したエミッションを三元触媒が浄化しきれず、結果として、排ガスに含まれるエミッション量が増大する。
【0069】
(空燃比気筒間インバランスの検出)
次に、空燃比気筒間インバランスの発生の検出について説明する。空燃比気筒間インバランスを検出するためには、気筒別空燃比の間の差(不均衡の程度、相違の程度)を表す指標値を取得する必要がある。気筒別空燃比とは、各気筒に供給される混合気の空燃比を指す。以下、この指標値を「インバランス指標値」と呼ぶ。また、説明の便宜上、「全気筒(上流側空燃比センサ77に到達する排ガスを排出している全ての気筒)において各一回の燃焼工程が終了するのに要するクランク角が経過する期間」を、「単位燃焼サイクル期間」と呼ぶ。4気筒・4サイクル・エンジンの場合、単位燃焼サイクル期間は720°クランク角である。
【0070】
図9(B)は、4気筒・4サイクル・エンジンの場合における、検出空燃比abyfs(上流側空燃比センサ77の出力値Vabyfsを図6に示した空燃比変換テーブルMapabyfsに適用することにより得られる空燃比)の推移の一例を示す。上流側空燃比センサ77には、各気筒からの排ガスが点火順(ゆえに、排気順)に到達する。空燃比気筒間インバランスが発生していない場合、全気筒の気筒別空燃比は互いに略同一である。したがって、空燃比気筒間インバランスが発生していない場合の検出空燃比abyfsは、例えば、図9(B)において破線C1により示すように推移する。すなわち、空燃比気筒間インバランスが発生していない場合、検出空燃比abyfsの波形は略平坦である。
【0071】
これに対し、空燃比気筒間インバランスが発生している場合、「リッチ気筒」と「リーン気筒」とが必ず存在するため、全気筒の気筒別空燃比の間において差が生じる。したがって、空燃比気筒間インバランスが発生している場合の検出空燃比abyfsは、例えば、図9(B)において実線C2により示すように、720°クランク角(すなわち、単位燃焼サイクル期間)を一周期として大きく変動する。
【0072】
以上から理解されるように、空燃比気筒間インバランスが発生すると、検出空燃比abyfsは、単位燃焼サイクル期間を一周期として大きく変動する。さらに、気筒別空燃比の間の差が大きいほど、検出空燃比abyfsの振幅が大きくなる。例えば、検出空燃比abyfsが図9(B)の実線C2のように推移する場合よりも気筒別空燃比の間の差が大きい場合、検出空燃比abyfsは図9(B)の一点鎖線C2aにより示すように推移する。
【0073】
したがって、インバランス指標値は、検出空燃比abyfsのこのような変動の状態を反映した値であればよい。すなわち、インバランス指標値は、気筒別空燃比の間の差が大きいほど大きくなるかまたは小さくなる値であって上流側空燃比センサ77の出力値Vabyfs(したがって、検出空燃比abyfs)に基づいて取得される値であればよい。インバランス指標値の一例としては、上流側空燃比センサ77の出力値Vabyfs(検出空燃比abyfs)の軌跡長が考えられる。
【0074】
また、インバランス指標値として、例えば、「検出空燃比abyfsの単位時間当たりの変化量」に基づく値が使用され得る。「検出空燃比abyfsの単位時間当たりの変化量」は、単位時間が例えば4m秒程度の極めて短い時間であるとき、検出空燃比abyfsの時間微分値d(abyfs)/dtであると言うこともできる。したがって、「検出空燃比abyfsの単位時間当たりの変化量」は「検出空燃比変化率ΔAF」とも称呼される。
【0075】
図9(C)において破線C3により示すように、空燃比気筒間インバランスが発生していない場合、検出空燃比変化率ΔAFの絶対値は小さい、一方、図9(C)において実線C4により示すように、空燃比気筒間インバランスが発生している場合、検出空燃比変化率ΔAFの絶対値は大きくなる。さらに、検出空燃比変化率ΔAFの絶対値は、気筒別空燃比の間の差が大きいほど大きくなる。
【0076】
本装置では、インバランス指標値として、検出空燃比変化率ΔAFに基づく値(例えば、サンプリング時間tsが経過するごとに得られる検出空燃比変化率ΔAFの絶対値そのもの、複数の検出空燃比変化率ΔAFの絶対値の平均値、および、複数の検出空燃比変化率ΔAFの絶対値のうちの最大値等)が使用される。これは、検出空燃比変化率ΔAFが検出空燃比abyfsの軌跡長に比較して、機関回転速度NEの影響を受け難いことに基づく。
【0077】
(空燃比気筒間インバランスの検出精度)
通常はEGRガス(排ガス)導入状態により検出される。ところが、EGRガス導入に伴って検出空燃比変化率ΔAF、すなわち、検出空燃比abyfsの時間微分値d(abyfs)/dtの傾きが小さくなる(緩やかになる)傾向を有するため、インバランス指標値の検出精度、すなわち、空燃比気筒間インバランスの検出精度が低下する可能性がある。なお、以下の説明において、EGRガス導入状態で空燃比気筒間インバランスを検出することを「一次検出」と称呼する。一方で、「一次検出」における空燃比気筒間インバランスの検出精度を向上させるためには、上述したエミッション量低減制御のうちの「EGR制御」を制限する、具体的には、EGRガス導入を停止させた状態でインバランス指標値を検出すればよいが、エミッション量を低減させる観点からすれば、EGR制御を無用に制限することは好ましくない。なお、以下の説明において、EGRガス導入停止状態で空燃比気筒間インバランスを検出することを「二次検出」と称呼する。
【0078】
図10は、本装置のCPU91により実行される、「空燃比気筒間インバランスの検出精度の向上」に係る処理の流れの一例を示すフローチャートである。この例では、まず、ステップ1005にて、「一次検出」によって検出されたインバランス指標値X1を用いて、インバランス割合Y1が算出されて学習(更新)されているか否かを判定する。
【0079】
具体的には、サンプリング時間ts(例えば、4m秒)が経過するごとに新たな検出空燃比abyfsが取得される。新たな検出空燃比abyfsが算出されるごとに(すなわち、サンプリング時間tsが経過するごとに)、検出空燃比変化率ΔAFが、今回の検出空燃比から前回の検出空燃比を減じることによって取得される。所定の期間内に取得された複数個の検出空燃比変化率ΔAFの絶対値の平均値ΔAFaveが算出される。この所定の期間は、上述した単位燃焼サイクル期間(4気筒・4サイクル・エンジンの場合、720°クランク角)であることが好ましい。
【0080】
この平均値ΔAFaveは、「検出空燃比変化率ΔAFの絶対値の1つの単位燃焼サイクル期間における平均値」と記載することもできる。この平均値ΔAFaveが複数の単位燃焼サイクル期間においてそれぞれ取得される。このように取得された複数個の平均値ΔAFaveの平均値がインバランス指標値X1として取得される。このインバランス指標値X1は、気筒別空燃比の間の差が大きいほど大きくなる値である。
【0081】
次に、インバランス割合Y1が算出されて、例えば、RAM93の所定記憶位置に記憶されて学習(更新)される。この例では、予め求められている「空燃比気筒間インバランスが発生していないとき(気筒別空燃比の間の差がゼロのとき)のインバランス指標値X1の値」をP1、「空燃比気筒間インバランスの程度が最大のとき(気筒別空燃比の間の差が最大のとき)のインバランス指標値X1の値」をQ1としたとき(Q1>P1)、例えば、Y1=(X1−P1)/(Q1−P1)なる式に従って、インバランス割合Y1(%)が求められる。すなわち、インバランス割合Y1は、空燃比気筒間インバランスが発生していないとき「0%」となり、空燃比気筒間インバランスの程度が最大のとき「100%」となる。
【0082】
続いて、ステップ1010では、「一次検出」において算出されたインバランス割合Y1が所定値A(%)以上であるかが判定され、Y≧Aが成立する場合(ステップ1010にて「Yes」)、ステップ1015にて、フューエルカット制御の終了後からEGR制御によるEGRガス導入までの時間差すなわちディレイ時間が大きく設定される。一方、Y<Aが成立する場合(ステップ1010にて「No」)、ステップ1030にて、フューエルカット制御の終了後からEGR制御によるEGRガス導入までのディレイ時間が通常の時間差に設定される。ここで、ステップ1010にて「No」と判定されることは、「一次検出」において空燃比気筒間インバランスが発生していないと判定されることを意味し、「Yes」と判定されることは、「一次検出」において空燃比気筒間インバランスが発生している、または、空燃比気筒間インバランスの発生が疑われると判定されることを意味する。
【0083】
以下、まず、ステップ1015における「ディレイ時間の設定」について具体的に説明する。この場合においては、「一次検出」において空燃比気筒間インバランスが発生しているまたはその発生が疑われるため、フューエルカット制御の終了後からEGRガス導入までの時間が長くなるようにディレイ時間を設定する。図11に示すように、インバランス割合Y1が所定値A(%)以上であれば、ディレイ時間は、通常、フューエルカット制御の終了後からEGRガス導入までの時間差として予め決定されているTbaseに対して、インバランス割合Y1の大きさが大きくなるほど大きな値に変化する付加時間Taddが付加されて設定される。すなわち、ステップ1015においては、ディレイ時間Tbase+Tadd(Tadd≠0)が設定される。
【0084】
なお、フューエルカット制御は、予め設定されたフューエルカット開始条件が成立すると燃料噴射弁39からの燃料の噴射を停止し、予め設定されたフューエルカット終了条件(フューエルカット復帰条件)が成立すると燃料噴射弁39からの燃料の噴射を復帰させる制御である。ここで、フューエルカット開始条件としては、例えば、スロットル弁43の開度(スロットル弁開度)が「ゼロ」(または所定の開度未満)であること、および、機関回転速度NEが所定のフューエルカット回転速度以上であること等を条件として設定することができる。一方、フューエルカット終了条件(フューエルカット復帰条件)としては、スロットル弁43の開度(スロットル弁開度)が「ゼロ」(または所定の開度)以上であること、および、機関回転速度NEが所定のフューエルカット回転速度未満であること等を条件として設定することができる。そして、上記フューエルカット開始条件のいずれもが成立するときにフューエルカット制御が開始され、上記フューエルカット終了条件(フューエルカット復帰条件)のうちの少なくとも一つが成立するときにフューエルカット制御が終了される。
【0085】
ステップ1015にてディレイ時間Tbase+Taddが設定されると、続いて、ステップ1020が実行される。ステップ1020では、フューエルカット制御が終了してから(すなわち、燃料噴射弁39から燃料の噴射が復帰してから)設定されたディレイ時間Tbase+Taddが経過したか否かが判定される。未だディレイ時間Tbase+Taddが経過していない場合(ステップ1020にて「No」)、ステップ1025にて、EGR制御によるEGRガス導入がなされていない状態で(EGRガス導入が停止された状態で)上述したインバランス指標値X1の検出およびインバランス割合Y1の算出が実行される。すなわち、ステップ1025においては、「二次検出」によるインバランス指標値X1の検出およびインバランス割合Y1の算出(空燃比気筒間インバランスの検出)が、ディレイ時間Tbase+Taddを経過するまで複数回実行される。
【0086】
次に、ステップ1030における「ディレイ時間」の設定について具体的に説明する。この場合においては、「一次検出」において空燃比気筒間インバランスが発生していないため、通常時におけるフューエルカット制御の終了後からEGRガス導入までのディレイ時間(時間差)として予め決定されているTbaseが設定される。すなわち、ステップ1015においては、付加時間Taddが「0」とされ、ディレイ時間Tbaseが設定される。
【0087】
ステップ1030にてディレイ時間Tbaseが設定されると、続いて、ステップ1035が実行される。ステップ1035では、フューエルカット制御が終了してから(すなわち、燃料噴射弁39から燃料の噴射が復帰してから)設定されたディレイ時間Tbaseが経過したか否かが判定される。未だディレイ時間Tbaseが経過していない場合、ディレイ時間Tbaseが経過するまで繰り返しステップ1035にて「No」の判定が繰り返される。
【0088】
ステップ1020にてフューエルカット制御が終了してから(すなわち、燃料噴射弁39から燃料の噴射が復帰してから)設定されたディレイ時間Tbase+Taddが経過したと判定される場合(ステップ1020にて「Yes」)、または、ステップ1035にてフューエルカット制御が終了してから(すなわち、燃料噴射弁39から燃料の噴射が復帰してから)設定されたディレイ時間Tbaseが経過したと判定される場合(ステップ1035にて「Yes」)、ステップ1040にて、EGR制御が実行されてEGRガス導入が開始される。すなわち、ステップ1040においては、EGR弁55を閉状態から開状態とし、排気通路内の排ガス(EGガス)を吸気通路に導入する。
【0089】
以上のように、本発明に係る実施形態(具体的には、図10に示した処理)によれば、「一次検出」において空燃比気筒間インバランスが発生していると判定される場合(ステップ1010にて「Yes」)、フューエルカット制御の終了後からEGR制御によるEGRガス導入までのディレイ時間Tbase+Taddが設定され(ステップ1015)、ディレイ時間Tbase+Taddが経過するまでに「二次検出」における空燃比気筒間インバランスの検出が実行される(ステップ1020,1025)。したがって、EGRガス導入による影響が排除された極めて正確な空燃比気筒間インバランスを検出することができる。
【0090】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、インバランス指標値として検出空燃比abyfsの時間微分値(検出空燃比変化率ΔAF)に基づくインバランス指標値X1(気筒別空燃比の間の差が大きいほど大きくなる値)が使用されていたが、検出空燃比abyfsの時間に関する2階微分値に基づく値が使用されてもよい。また、上流側空燃比センサ77の出力値Vabyfaの軌跡長、または、検出空燃比abyfsの軌跡長が使用されてもよい。これらの値は、全て「気筒別空燃比の間の差が大きいほど大きくなる値」である。
【0091】
また、インバランス指標値として、以下のように求められるインバランス指標値X2が使用されてもよい。サンプリング時間ts(例えば、4m秒)が経過するごとに新たな検出空燃比abyfsが取得される。所定の期間内に取得された複数個の検出空燃比abyfsの中から最小MINが選択される。この所定の期間は、上述した単位燃焼サイクル期間(4気筒・4サイクル・エンジンの場合、720°クランク角)であることが好ましい。
【0092】
この最小MINは、「検出空燃比abyfsの1つの単位燃焼サイクル期間における最小値」と記載することもできる。この最小値MINが複数の単位燃焼サイクル期間においてそれぞれ取得される。このように取得された複数個の最小MINの平均値がインバランス指標値X2として取得される。このインバランス指標値X2は、気筒別空燃比の間の差が大きいほど小さくなる値である。
【0093】
このようにインバランス指標値X2が使用される場合、インバランス割合として、インバランス割合Y2が算出される。すなわち、予め求められている「空燃比気筒間インバランスが発生していないとき(気筒別空燃比の間の差がゼロのとき)のインバランス指標値X2の値」をP2、「空燃比気筒間インバランスの程度が最大のとき(気筒別空燃比の間の差が最大のとき)のインバランス指標値X2の値」をQ2としたとき(P2>Q2)、例えば、Y2=(P2−X2)/(P2−Q2)なる式に従って、インバランス割合Y2(%)が求められる。すなわち、インバランス割合Y2は、空燃比気筒間インバランスが発生していないとき「0%」となり、空燃比気筒間インバランスの程度が最大のとき「100%」となる。
【0094】
また、上記実施形態では、インバランス指標値に基づいてインバランス割合が算出され、インバランス割合の大きさに基づいてEGR制御によるEGRガス導入までのディレイ時間、より具体的には付加時間Taddの大きさが決定されているが、インバランス割合を算出することなく、インバランス指標値そのものの大きさに基づいて付加時間Taddの大きさが決定されてもよい。
【0095】
さらに、上記実施形態では、EGR制御によるEGRガス導入までのディレイ時間Tbase+Taddがフューエルカット制御の終了後に燃料噴射弁39による燃料の噴射が復帰してからの時間差として決定されている。この場合、機関回転速度NEが予め設定された所定の閾値回転速度を超えてから(例えば、アイドル状態から増加する機関回転速度NEが所定の閾値回転速度を超えてから)の時間差、すなわちディレイ時間Tbase+Taddとして決定することも可能である。
【0096】
このように機関回転速度NEが使用される場合、インバランス割合Y1(%)が所定値A(%)未満である場合(ステップ1010にて「No」)、ステップ1030にて、付加時間Taddが「0」に設定されて通常のディレイ時間Tbaseが設定される。そして、ステップ1035にて、機関回転速度NEが閾値回転速度を超えてからディレイ時間Tbaseが経過したことが判定された後、ステップ1040にてEGR制御によるEGRガス導入が開始される。
【0097】
一方、インバランス割合Y1(%)が所定値A(%)以上である場合(ステップ1010にて「Yes」)、ステップ1015にて、付加時間Taddがインバランス割合Y1(%)に応じて大きな値に設定されてディレイ時間Tbase+Taddが設定される。そして、ステップ1020にて、機関回転速度NEが閾値回転速度を超えてからディレイ時間Tbase+Taddが経過したことが判定された後、ステップ1040にてEGR制御によるEGRガス導入が開始される。したがって、機関回転速度NEが閾値回転速度を超えてからディレイ時間Tbase+Taddが経過するまでは、EGRガス導入が停止されるため、ステップ1025にて、EGRガス導入に伴う影響を排除してインバランス指標値X1(すなわち、インバランス割合Y1)を極めて精度よく検出(算出)することができる。
【符号の説明】
【0098】
25…燃焼室、37…点火プラグ、39…燃料噴射弁、33…可変吸気タイミング制御装置、36…可変排気タイミング制御装置、44…SCV、44a…SCVアクチュエータ、49…パージ制御弁、54…排気還流管、55…EGR弁、63…ASV、66…電磁弁、53…上流側触媒、77…上流側空燃比センサ、90…電気制御装置、91…CPU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有する多気筒内燃機関に適用される制御装置であって、
前記複数の気筒から延びるそれぞれの排気通路が集合してなる集合排気通路に配設されて、前記周到排気通路を通過する排ガスである混合排ガスの空燃比に応じた出力値を発生する空燃比センサと、
前記複数の気筒のそれぞれに対応して配設されるとともに前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気に含まれる燃料をそれぞれ噴射する複数の燃料噴射弁と、
前記混合排ガスの空燃比が理論空燃比と一致するように、前記複数の気筒に対して共通する空燃比フィードバック量を前記空燃比センサの出力値に基づいて算出するフィードバック量算出手段と、
前記空燃比フィードバック量に基づいて前記複数の燃料噴射弁のそれぞれから噴射される燃料の量を調整することで前記混合排ガスの空燃比をフィードバック制御するフィードバック制御手段と、
前記内燃機関の排気通路内の排ガスを前記内燃機関の吸気通路へ導く制御を実行する排気還流制御実行手段と、
を備えた、多気筒内燃機関の制御装置であって、
前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気の空燃比である複数の気筒別空燃比の間の相違の程度が大きいほど大きくなるかまたは小さくなるインバランス指標値を前記空燃比センサの出力値に基づいて取得するインバランス指標値取得手段を備え、
前記排気還流制御実行手段は、
前記インバランス指標値により表される前記相違の程度が大きいとき、前記相違の程度が小さいときに比べて、所定の条件が成立してから前記排気通路内の排ガスを前記吸気通路へ導くまでの時間差を大きく設定し、
前記インバランス指標値取得手段は、
前記大きく設定された時間差内における前記インバランス指標値を取得するように構成された、多気筒内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の多気筒内燃機関の制御装置において、
所定のフューエルカット条件が成立したとき前記複数の燃料噴射弁による前記燃料の噴射を停止するフューエルカット制御を実行するフューエルカット手段を備え、
前記排気還流制御実行手段は、
前記所定の条件の成立として前記フューエルカット手段による前記フューエルカット制御が終了されて前記複数の燃料噴射弁による前記燃料の噴射を復帰させる条件が成立し、この条件が成立してから前記排気通路内の排ガスを前記吸気通路へ導くまでの時間差を大きく設定するように構成された、多気筒内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の多気筒内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関の回転速度を取得する機関回転速度取得手段を備え、
前記排気還流制御実行手段は、
前記所定の条件の成立として前記機関回転速度取得手段によって取得された前記内燃機関の回転速度が予め設定された閾値回転速度を超える条件が成立し、この条件が成立してから前記排気通路内の排ガスを前記吸気通路へ導くまでの時間差を大きく設定するように構成された、多気筒内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか一項に記載の多気筒内燃機関の制御装置において、
前記排気還流制御実行手段は、
前記インバランス指標値により表される前記相違の程度が大きいほど、前記時間差を大きく設定するように構成された、多気筒内燃機関の制御装置。
【請求項1】
複数の気筒を有する多気筒内燃機関に適用される制御装置であって、
前記複数の気筒から延びるそれぞれの排気通路が集合してなる集合排気通路に配設されて、前記周到排気通路を通過する排ガスである混合排ガスの空燃比に応じた出力値を発生する空燃比センサと、
前記複数の気筒のそれぞれに対応して配設されるとともに前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気に含まれる燃料をそれぞれ噴射する複数の燃料噴射弁と、
前記混合排ガスの空燃比が理論空燃比と一致するように、前記複数の気筒に対して共通する空燃比フィードバック量を前記空燃比センサの出力値に基づいて算出するフィードバック量算出手段と、
前記空燃比フィードバック量に基づいて前記複数の燃料噴射弁のそれぞれから噴射される燃料の量を調整することで前記混合排ガスの空燃比をフィードバック制御するフィードバック制御手段と、
前記内燃機関の排気通路内の排ガスを前記内燃機関の吸気通路へ導く制御を実行する排気還流制御実行手段と、
を備えた、多気筒内燃機関の制御装置であって、
前記複数の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気の空燃比である複数の気筒別空燃比の間の相違の程度が大きいほど大きくなるかまたは小さくなるインバランス指標値を前記空燃比センサの出力値に基づいて取得するインバランス指標値取得手段を備え、
前記排気還流制御実行手段は、
前記インバランス指標値により表される前記相違の程度が大きいとき、前記相違の程度が小さいときに比べて、所定の条件が成立してから前記排気通路内の排ガスを前記吸気通路へ導くまでの時間差を大きく設定し、
前記インバランス指標値取得手段は、
前記大きく設定された時間差内における前記インバランス指標値を取得するように構成された、多気筒内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の多気筒内燃機関の制御装置において、
所定のフューエルカット条件が成立したとき前記複数の燃料噴射弁による前記燃料の噴射を停止するフューエルカット制御を実行するフューエルカット手段を備え、
前記排気還流制御実行手段は、
前記所定の条件の成立として前記フューエルカット手段による前記フューエルカット制御が終了されて前記複数の燃料噴射弁による前記燃料の噴射を復帰させる条件が成立し、この条件が成立してから前記排気通路内の排ガスを前記吸気通路へ導くまでの時間差を大きく設定するように構成された、多気筒内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の多気筒内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関の回転速度を取得する機関回転速度取得手段を備え、
前記排気還流制御実行手段は、
前記所定の条件の成立として前記機関回転速度取得手段によって取得された前記内燃機関の回転速度が予め設定された閾値回転速度を超える条件が成立し、この条件が成立してから前記排気通路内の排ガスを前記吸気通路へ導くまでの時間差を大きく設定するように構成された、多気筒内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか一項に記載の多気筒内燃機関の制御装置において、
前記排気還流制御実行手段は、
前記インバランス指標値により表される前記相違の程度が大きいほど、前記時間差を大きく設定するように構成された、多気筒内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−77713(P2012−77713A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225500(P2010−225500)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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