説明

導電性ペーストおよびそれを用いたセラミック多層基板の製造方法

【課題】いわゆる無収縮プロセスを用いて製造されるセラミック多層基板に備える層間接続導体を形成するのに適した導電性ペーストを提供する。
【解決手段】無機成分および有機成分を含み、無機成分は、銀粉末と、アルミナおよび/またはアノーサイトを含む添加物粉末とを含み、銀粉末は、D050が3〜6μm、Dminが1.5μm以上、比表面積が0.3m/g以下であり、添加物粉末は、D050が1.0μm以下であり、銀粉末の含有量が85〜95重量%であり、添加物粉末の含有量が0.2〜1.0重量%である、導電性ペースト。この導電性ペーストは、セラミック多層基板を得るために作製される複合積層体8における未焼結セラミック基材層1に関連して設けられる未焼結導体パターン3,4を形成するために有利に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銀粉末を含む導電性ペースト、および当該導電性ペーストを導体パターンの形成のために用いて実施されるセラミック多層基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスセラミック多層基板は、ガラス成分およびセラミック成分を含む複数のガラスセラミック層を積層してなるガラスセラミック積層体と、このガラスセラミック積層体の表面や内部に形成された導体パターンとを有するものである。この導体パターンとしては、ガラスセラミック層の平面方向に延びる面内導体と、ガラスセラミック層を貫通するように延びる層間接続導体(代表的にはビアホール導体)とがある。
【0003】
一般に、このようなガラスセラミック多層基板は、半導体デバイスやチップ積層コンデンサ等の表面実装部品を搭載し、各表面実装部品を相互に配線するものである。また、ガラスセラミック多層基板には、キャパシタやインダクタのような受動部品が内蔵されることがあり、上述した面内導体や層間接続導体によって、これらの受動素子が構成され、また、必要に応じて、各表面実装部品と内蔵された受動素子とが接続される。
【0004】
ガラスセラミック多層基板をより多機能化、高機能化、高性能化するためには、上述した導体パターンを高精度かつ高密度に形成することが必要となる。
【0005】
ところで、ガラスセラミック多層基板を得るためには、ガラスセラミックグリーンシートを積層してなる未焼結セラミック積層体を焼成しなければならない。この焼成工程において、ガラスセラミックグリーンシートは、このグリーンシートに含まれる有機バインダの消失やセラミック粉末の焼結に伴って収縮するが、収縮は、特に大面積のセラミック多層基板においては、基板全体にて均一には生じにくく、そのため、ガラスセラミック多層基板の平面方向に関して、収縮ばらつきによる寸法誤差を生じることがある。
【0006】
その結果、導体パターンに不所望な変形や歪みが生じ、より具体的には、面内導体や層間接続導体の位置精度が低下したり、面内導体や層間接続導体において断線が生じたりすることがある。このような導体パターンに生じる変形や歪みは、導体パターンの高密度化を阻害する主な原因となっている。
【0007】
そこで、たとえばセラミック多層基板を製造するにあたって、セラミック多層基板の平面方向における焼成収縮を実質的に生じさせない方法、いわゆる無収縮プロセスが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0008】
この無収縮プロセスにおいては、Al等のセラミック粉末にホウ珪酸ガラス等のガラス粉末を混合してなるガラスセラミック粉末を主成分とする基板用ガラスセラミックグリーンシートが用意されるとともに、Al粉末を主成分とする補助層(収縮抑制層)用セラミックグリーンシートが用意される。そして、基板用ガラスセラミックグリーンシートに面内導体や層間接続導体が形成された後、これらを積層して、未焼結ガラスセラミック積層体を作製し、次いで、このガラスセラミック積層体の上下両主面上に補助層用セラミックグリーンシートを配置し、これらを圧着することによって、複合積層体が作製される。
【0009】
このようにして得られた複合積層体は、各グリーンシート中に含まれる有機バインダ等の有機成分を除去するために熱処理され、次いで、ガラスセラミックグリーンシートが焼結する温度、すなわち、ガラスセラミック粉末が焼結する温度で焼成される。この焼成工程において、補助層用セラミックグリーンシートに含まれるAl粉末は実質的に焼結しないため、補助層用セラミックグリーンシートは、実質的に収縮せず、ガラスセラミック積層体の上下両主面に対して拘束力を及ぼす。このことから、ガラスセラミック積層体の平面方向の収縮が実質的に抑制され、ガラスセラミック積層体は、実質的に厚み方向にのみ収縮する。そして、焼成工程の後、補助層用セラミックグリーンシートに由来するAl粉末からなる多孔質層を除去することによって、焼結したガラスセラミック積層体、すなわちガラスセラミック多層基板が取り出される。
【0010】
上述した無収縮プロセスによれば、平面方向に関して、積層されたガラスセラミックグリーンシートの寸法精度が維持されるため、不均一な変形がもたらされにくく、導体パターンの不所望な変形や歪みがもたらされにくくなり、高精度に形成された信頼性の高い導体パターンを有したガラスセラミック多層基板を得ることができる。
【0011】
しかしながら、上述した無収縮プロセスによれば、未焼結ガラスセラミック積層体は、その平面方向に実質的に収縮しない代わりに、厚み方向には大きく収縮する。したがって、面内導体や層間接続導体とガラスセラミックグリーンシートとの焼結挙動の違いにより、面内導体や層間接続導体の内部にボイドが発生したり、面内導体や層間接続導体とその周囲のガラスセラミック層部分との間に空隙が発生したり、さらには、面内導体や層間接続導体の周辺のガラスセラミック層部分にクラックが発生したり、あるいは、層間接続導体の端部がセラミック多層基板の表面から突出して、セラミック多層基板の表面に凸形状をもたらしたりする、という問題が発生することがある。
【0012】
上記の問題は、また、次のような問題を引き起こす。
【0013】
すなわち、面内導体や層間接続導体の内部にボイドが発生すると、面内導体や層間接続導体の比抵抗値が増加し、特に高周波帯域の信号の損失が大きくなって、半導体素子等の動作性が劣化することがある。
【0014】
また、面内導体や層間接続導体の周囲に空隙やクラックが発生すると、ここからめっき時に水分が侵入し、この水分によって、面内導体や層間接続導体に含まれる導体成分が拡散し、導体成分(代表的には銀)のマイグレーションが発生することがある。
【0015】
さらに、ボイドに水分が蓄積されてしまうと、めっき後に半導体素子やチップコンデンサ等をはんだで基板表面に実装するとき、はんだ溶融時のリフローによる熱で、蓄積された水分が蒸発し、蒸発した水分が溶融したはんだを吹き飛ばし、周辺の部品と短絡してしまう、いわゆる「はんだ爆ぜ」という問題が生じることがある。「はんだ爆ぜ」は面内導体や層間接続導体の内部のボイドによっても発生する。
【0016】
また、層間接続導体がセラミック多層基板の表面に凸形状をもたらすと、セラミック多層基板の表面の平滑性が損なわれ、特に、凸形状部の上にはんだを介して半導体素子やチップコンデンサ等を実装すると、その接合部の強度が低下し、一般的に言われているはんだ接合応力により、接合部が破断するという問題が生じることがある。
【0017】
これらの問題が生じる原因は、焼成過程において、面内導体や層間接続導体を形成するために付与された導電性ペーストと未焼結ガラスセラミック積層体との焼成収縮量や焼成収縮挙動のずれに大いに関係しているものと思われる。すなわち、未焼結ガラスセラミック積層体と導電性ペーストとの焼成収縮量や焼成収縮挙動に大きなずれがあると、焼成されたセラミック多層基板とその内部に形成された面内導体や層間接続導体との間に過大な応力や歪みが生じて、前述のようなボイドや空隙、クラック、さらにはセラミック多層基板表面の層間接続導体による凸形状が生じることとなる。
【0018】
ところで、上述した無収縮プロセスにおいては、未焼結のガラスセラミック積層体の積層方向に強制的に圧力を加えながら焼成する、という手法もある(たとえば特許文献2参照)。このように、強制的に高い圧力を加えながら焼成することにより、ボイドや空隙、クラック、さらには層間接続導体による凸形状を抑制することができると考えられる。
【0019】
実際、前記のような加圧焼成によれば、ボイドや空隙、クラック、層間接続導体による凸形状の発生は抑制され得る。しかしながら、加圧焼成を実施しようとすると、加圧するための設備コストが高くなるばかりか、加圧によってガラスセラミックグリーンシート中のガラスが基板の表面に浮き出てきやすくなるため、ガラスが補助層に含有しているAlと激しく反応し、不必要に補助層が焼結してしまうため、焼成後に補助層を除去するのが困難になるといった欠点を有している。
【特許文献1】特許第2554415号公報
【特許文献2】特開平10−84056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
この発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、いわゆる無収縮プロセスにおいて、ボイドの発生を抑制し、信頼性の高いセラミック多層基板を製造することができる、銀粉末を含む導電性ペースト、およびそれを用いたセラミック多層基板の製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この発明に係る導電性ペーストは、無機成分および有機成分を含む。無機成分は、銀粉末と、アルミナおよび/またはアノーサイトを含む添加物粉末とを含む。銀粉末は、積算50%粒径(D050)が3〜6μm、積算最小粒径(Dmin)が1.5μm以上、かつ比表面積(SSA)が0.3m/g以下であり、添加物粉末は、積算50%粒径(D050)が1.0μm以下である。また、銀粉末の含有量は85〜95重量%であり、添加物粉末の含有量は0.2〜1.0重量%である。
【0022】
この発明に係る導電性ペーストにおいて、銀粉末は、積算50%粒径(D050)が3.5〜5μm、かつ積算最小粒径(Dmin)が2μm以上であり、添加物粉末の含有量は0.2〜0.8重量%であることが好ましい。
【0023】
また、銀粉末は球状であることが好ましい。
【0024】
この発明は、また、上述の導電性ペーストを用いて実施されるセラミック多層基板の製造方法にも向けられる。
【0025】
この発明に係るセラミック多層基板の製造方法は、複数の未焼結セラミック基材層を積層してなり、かつ未焼結セラミック基材層に関連して設けられる未焼結導体パターンを備えた、未焼結セラミック積層体と、未焼結セラミック基材層に接するように設けられ、未焼結セラミック基材層および未焼結導体パターンが焼結する温度では実質的に焼結しない、収縮抑制層とを含む、複合積層体を作製する工程と、複合積層体を、収縮抑制層が実質的に焼結せず、未焼結セラミック基材層および未焼結導体パターンが焼結する温度で焼成する工程とを有するものであって、未焼結導体パターンが、前述した、この発明に係る導電性ペーストによって形成されることを特徴としている。
【0026】
上述した焼成する工程において、強制的な加圧を伴わずに、複合積層体を焼成することが好ましい。
【0027】
また、未焼結セラミック基材層は、セラミック粉末およびガラス粉末を含んで構成される基材層用グリーンシートによって与えられることが好ましい。この場合、基材層用グリーンシートは、CaO−Al−SiO−B系ガラス粉末とAl系セラミック粉末とを含み、他方、収縮抑制層はAl系セラミック粉末を含むことが好ましい。
【0028】
また、複合積層体において、収縮抑制層は未焼結セラミック積層体の両主面上に位置しているとき、焼成する工程の後、収縮抑制層を除去する工程がさらに実施される。他方、複合積層体において、収縮抑制層は複数の未焼結セラミック基材層の層間に位置していてもよい。
【0029】
この発明に係るセラミック多層基板の製造方法は、さらに、表面実装部品を搭載する工程を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0030】
いわゆる無収縮プロセスを適用して実施されるセラミック多層基板の製造方法において、面内導体や層間接続導体のような導体パターンを形成するために、この発明に係る導電性ペーストを用いると、導体パターンの内部ボイド等の欠陥をなくし、また、導体パターン周辺のセラミック部分へのクラックや空隙の発生、さらには、層間接続導体による凸形状等の欠陥等をなくすことができる。
【0031】
すなわち、この発明に係る上記組成の導電性ペーストによれば、セラミック多層基板の焼成時、セラミックの焼成収縮挙動に導電性ペーストによる厚膜導体パターンの焼成収縮挙動を一致させるよう、その無機成分の組成が調整されているため、面内導体や層間接続導体の内部ボイド等の欠陥をなくし、また、面内導体や層間接続導体周辺のセラミック部分へのクラックや空隙の発生、さらには、層間接続導体による凸形状等の欠陥等をなくすことができる。
【0032】
より具体的に言うと、銀粉末の粒径、粒度分布や比表面積を特定し、かつ、添加物粉末の組成や粒径を特定しているので、添加物粉末であるアルミナ粉末あるいはアノーサイト粉末が焼成中、導体パターンの核として保持されるため、銀粉末同士の焼結(ネッキング)をコントロールし、また、さらに、添加したアルミナおよび/またはアノーサイトを含む添加物粉末がセラミック基材層、特にセラミック基材層のガラス中に拡散することで、厚膜導体パターン周囲のガラスの軟化収縮を抑制でき、未焼結セラミック基材層の焼成収縮温度範囲で、未焼結セラミック基材層の焼成収縮に導体パターンが追従し、面内導体や層間接続導体での内部ボイド等の欠陥をなくし、また、面内導体や層間接続導体周辺のセラミック部分へのクラックや空隙の発生、さらには、層間接続導体による凸形状等の欠陥等をなくすことができ、セラミック多層基板の内部に信頼性の高い面内導体や層間接続導体といった導体パターンを形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本件発明者は、前述した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、いわゆる無収縮プロセスを適用して製造されたセラミック多層基板において、面内導体や層間接続導体の内部のボイド等の欠陥をなくし、また、面内導体や層間接続導体の周辺のクラックや空隙の発生や、さらには、層間接続導体による凸形状等の不所望な欠陥等をなくすためには、
(1)未焼結セラミック基材層と比べて、層間接続導体用の導電性ペーストの焼結温度、焼結開始温度等が低くなり過ぎないようにすること、
(2)焼成時において、面内導体/層間接続導体の周辺のセラミックと他の部分のセラミックとの軟化温度の差、軟化の速さの差が生じないようにすること、
が必要で、そのためには、面内導体や層間接続導体を形成するための導電性ペーストに含まれる無機成分のうち、銀粉末の粒径や含有量さらには添加物種等を特定する必要があることを見出すに至った。
【0034】
すなわち、この発明に係る導電性ペーストは、無機成分として、積算50%粒径(D050)が3〜10μmで、積算最小粒径(Dmin)が1.5μm以上、かつ比表面積(SSA)が0.3m/g以下の銀粉末を85〜95重量%含有するとともに、D050が1.0μm以下のアルミナおよび/またはアノーサイトを含む添加物粉末を0.2〜1.0重量%含有することを特徴とするものである。
【0035】
この発明に係る導電性ペーストによれば、焼成サイクル中、セラミック多層基板の焼結温度より低い温度領域では、未焼結セラミック基材層は焼結収縮せず、銀粉末については、アルミナ粉末等の添加物粉末が銀粉末間に存在するために、その焼結が抑制されている。そして、セラミック多層基板の焼結温度付近では、未焼結セラミック基材層が焼結収縮を開始し、これに伴い、面内導体や層間接続導体等を形成するための未焼結導体パターンの体積も収縮する。このとき、銀粉末は、アルミナ粉末等の添加物粉末が銀粉末間に存在するために、銀の焼結(ネッキング)が妨げられており、銀粉末が比較的自由に移動できる状態にあるので、未焼結セラミック基材層の焼結収縮に追従して、未焼結導体パターンの体積収縮が生じ、さらに、このとき、添加したアルミナ等の添加物粉末粒子が導体パターンの周囲のセラミック中に拡散し、この粒子がセラミックのガラスに溶け込み、ガラスの軟化が抑制され、セラミック多層基板中のセラミックの軟化状態の不均一さが緩和される。このため、面内導体や層間接続導体の周辺のセラミック部分へのクラックや空隙の発生、さらには、層間接続導体による凸形状等の欠陥等をなくすことができる。
【0036】
以下、この発明に係る導電性ペーストをより詳細に説明する。
【0037】
導電性ペーストにおける導体材料としては、低抵抗で難酸化性材料である銀が用いられる。銀は、純銀であることが望ましいが、白金やパラジウムが極少量含まれていても構わない。
【0038】
この発明に係る導電性ペーストにおける銀粉末は、D050が3〜6μmであることが必要であり、3.5〜5μmであることが好ましい。
【0039】
050が3μm未満の場合、アルミナ粉末等の添加物とは無関係に焼結が低温領域側より開始されるようになり、導体パターンの体積収縮も大きくなるので、セラミックとの焼結収縮開始のタイミングが大きくずれ、これにより、得られた面内導体や層間接続導体の内部には、空隙やボイド等の欠陥が生じやすくなる。また、D050が3μm未満であると、銀のセラミックに対する拡散量が増えるため、面内導体や層間接続導体の近傍のセラミックの軟化収縮が早くなり、面内導体や層間接続導体の近傍にボイドが発生しやすくなる。
【0040】
なお、銀の拡散によるガラスの軟化が早くなる現象は、セラミックのガラスに銀が拡散すると、ガラスを構成するSiOの格子の中に銀が入り込み、SiOの結合を切るため、軟化が進むと考えられている。
【0041】
他方、D050が6μmより大きいと、面内導体や層間接続導体の焼結が進みにくくなるため、厚み方向へのセラミックの収縮量に対して追従できなくなり、層間接続導体の内部にボイドの発生が見られるようになる。また、印刷性も低下する。
【0042】
また、D050が上記適正範囲内でも、粒径の小さい銀粉末が多く含まれる場合には、銀が面内導体や層間接続導体の近傍に拡散しやすくなり、銀の拡散によって面内導体や層間接続導体の近傍のセラミックのガラス中に溶け込み、セラミックの軟化収縮を促進するため、面内導体/層間接続導体の近傍にボイドが発生しやすくなる。このことから、Dminは、1.5μm以上であることが必要であり、2μm以上であることが好ましい。
【0043】
同様に、D050が上記適正範囲内でも、SSAが0.3m/gより大きな銀粉末になると、焼成時に軟化したガラスが面内導体/層間接続導体と接触する割合がより多くなるので、銀が拡散しやすくなり、面内導体/層間接続導体の近傍のセラミックのガラス中に溶け込み、セラミックの軟化収縮を促進するため、面内導体/層間接続導体の近傍に空隙が発生しやすくなる。したがって、SSAは0.3m/g以下であることが必要である。
【0044】
なお、銀粉末のSSAを0.3m/g以下とするためには、銀粉末は、SSAをより小さくすることが容易な球状であることが好ましい。
【0045】
銀粉末や後記の添加物粉末の粒径D050およびDminについては、たとえば、レーザー式粒度分布測定装置により測定して算出することができる。また、銀粉末のSSAについては、BET法によって求められる。
【0046】
導電性ペースト中に含まれる銀粉末の含有量は85〜95重量%であることが必要である。
【0047】
銀粉末の含有量が85重量%未満の場合、導電性ペーストを層間接続導体用として用いると、層間接続導体を受け入れる穴内での導電材料の充填量が少なくなるため、後述する収縮抑制層による拘束力の影響が小さい多層基板の厚み方向の中央付近において、焼成時にセラミック基材層がその平面方向に局所的に収縮して、層間接続導体との境界で剥がれやすくなる。
【0048】
一方、銀粉末の含有量が95重量%より多くなると、焼成時にセラミック基材層が厚み方向に収縮するときに、導電性ペーストが追従できなくなり、層間接続導体がセラミック多層基板の表面から飛び出て、セラミック多層基板が破損されやすい。
【0049】
よって、導電性ペースト中に含まれる銀粉末の含有量は、85〜95重量%であることが必要であり、88〜92重量%の範囲にあるのがより好ましい。
【0050】
なお、主成分粉末である銀粉末は、粗大粉末や極端な凝集粉末がなく、導電性ペーストとした後の最大粗粒の粒径(Dmax)が50μm以下になるようにすることが望ましい。
【0051】
また、導電性ペーストには、主成分の銀粉末以外に、アルミナ(Al)および/またはアノーサイト(CaAlSi)を含む添加物粉末が含まれる。
【0052】
添加物粉末の平均粒径D050は1.0μm以下であることが必要である。平均粒径が1.0μmより大きくなると、焼成時に、これら添加物がガラス中に拡散せず、主成分の銀が優先的にガラス中に拡散してしまい、その結果、添加物が導体中に占める割合が大きくなり、導体抵抗値が上がるため、電気伝導性や熱伝導性が低下する。
【0053】
また、添加物粉末の含有量は、0.2〜1.0重量%であることが必要であり、0.2〜0.8重量%であることが好ましい。
【0054】
添加物粉末の含有量が0.2重量%未満の場合、添加物粉末の、セラミック中のガラスとの反応性に乏しくなるため、セラミックの軟化抑制の効果が十分に得られず、また、収縮抑制の効果が十分に得られないため、面内導体/層間接続導体の近傍での空隙の発生を抑制できなくなる。
【0055】
他方、添加物粉末の含有量が1.0重量%より多くなると、必要以上に導体の焼結時の収縮を妨げるため、導体とセラミックの収縮が合わず、導体とセラミックとが焼成中に剥がれやすくなる。そのため、面内導体とセラミック基材層との間、および層間接続導体とその周囲のセラミック基材層との間、すなわち、層間接続導体の外周面とセラミック基材層側の層間接続導体を受け入れる穴を規定する内周面との間に、空隙が生じたり、面内導体/層間接続導体の周辺のセラミック基材層部分にクラックが発生したり、あるいは、層間接続導体の端部がセラミック多層基板の表面から突出して、さらには、埋め込まれた層間接続導体がセラミック層を押し上げて、この表面に凸形状をもたらしたりしやすくなる。
【0056】
なお、添加物粉末の平均粒径が0.01μm未満の場合、比表面積が大きくなって、添加物粉末同士の凝集が進み、添加物粉末が導電性ペースト中で均一に拡散しなくなってしまうことがある。そして、その結果、面内導体/層間接続導体近傍に添加物が十分に拡散しないため、セラミックの軟化を抑制できず、面内導体/層間接続導体の近傍の空隙の発生を抑制できなくなることがある。このことから、添加物粉末の平均粒径は、0.01μm以上であることが好ましい。
【0057】
この発明に係る導電性ペーストは、上記の無機成分に対して、所定の割合で有機成分としての有機ビヒクルを所定量加え、攪拌、混練することにより作製されたもの、すなわち、上記の無機成分が、有機バインダを構成するバインダや溶剤とともに均一に分散したペースト状組成物である。
【0058】
有機ビヒクルに含まれるバインダとしては、たとえばエチルセルロース、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂などを使用することができる。また、有機ビヒクルに含まれる溶剤としては、たとえばターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、オクタンジオール、テキサノール、アルコール類などを使用することができる。また、必要に応じて、導電性ペーストに、各種の分散剤、可塑剤、活性剤などを添加してもよい。
【0059】
導電性ペーストの粘度は、印刷性を考慮して、50〜700Pa・sとすることが望ましい。
【0060】
以下、この発明に係るセラミック多層基板の製造方法の一実施形態について、図1ないし図4の各断面図を参照しながら説明する。
【0061】
まず、図1に示すように、未焼結のセラミック基材層1(図2参照)となるべき基材層用グリーンシート1aが用意される。基材層用グリーンシート1aは、たとえば、ガラスセラミック原料混合物を、有機バインダ、有機溶剤、可塑剤等からなる有機ビヒクル中に分散させることによって、スラリーを調製し、次いで、得られたスラリーをドクターブレード法やキャスティング法によってシート状に成形することによって作製される。
【0062】
上記ガラスセラミック原料混合物としては、具体的には、CaO:10〜55重量%、SiO:35〜70重量%、Al:0〜30重量%、不純物:0〜10重量%、およびB:5〜20重量%からなる組成のガラス粉末:50〜64重量%と、不純物が0〜10重量%のAl粉末:35〜50重量%とからなるものが用いられる。
【0063】
なお、未焼結のセラミック基材層1は、上述したシート成形法により形成したグリーンシート1aによって与えられることが好ましいが、厚膜印刷法により形成した未焼結の厚膜印刷層によって与えられてもよい。
【0064】
また、基材層用グリーンシート1aに含まれるセラミック粉末としては、上述したAl粉末のような絶縁体材料粉末のほか、フェライト等の磁性体材料からなる粉末、チタン酸バリウム等の誘電体材料からなる粉末を使用することもできる。いずれにしても、基材層用グリーンシート1aは、1050℃以下の温度で焼結するものであることが好ましく、このため、上述したガラス粉末は、750℃以下の軟化点を有するものであることが好ましい。
【0065】
次いで、同じく図1を参照して、パンチング加工やレーザー加工により、基材層用グリーンシート1aに層間接続導体用孔2が形成される。そして、層間接続導体用孔2に、この発明に係る導電性ペーストが充填され、未焼結の層間接続導体3が形成される。次いで、基材層用グリーンシート1a上に、この発明に係る導電性ペーストをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等により印刷することによって、未焼結の面内導体4が形成される。なお、図示した実施形態では、一部の面内導体4については、後述する収縮抑制層用グリーンシート5a上に形成される。
【0066】
いわゆる無収縮プロセスを適用したとき、焼成によって、セラミック積層体は、その平面方向には実質的に収縮しない代わりに、厚み方向には大きく収縮する(おおよそ45〜55%位縮む)ため、特に、層間接続導体の焼成収縮挙動をセラミック積層体の焼成収縮挙動に合わせ込むことが重要である。したがって、この発明に係る導電性ペーストは、特に、セラミック多層基板内に設けられる層間接続導体(ビアホール導体)を形成するために有利に用いられる。
【0067】
そこで、層間接続導体を形成するために、この発明に係る導電性ペーストを用いた場合、面内導体は、必ずしも、この発明に係る導電性ペーストを用いる必要はない。所定形状の金属箔を転写する等の方法により、面内導体を形成することも可能である。
【0068】
他方、同じく図1に示すように、収縮抑制層5(図2参照)となるべき収縮抑制層用グリーンシート5aが用意される。収縮抑制層用グリーンシート5aは、上記の基材層用グリーンシート1aならびに未焼結の層間接続導体3および面内導体4が焼結する温度では実質的に焼結しないアルミナ等のセラミック粉末を含むものである。収縮抑制層用グリーンシート5aは、セラミック粉末を、有機バインダ、有機溶剤、可塑剤等からなる有機ビヒクル中に分散させてスラリーを調製し、得られたスラリーをドクターブレード法やキャスティング法等によってシート状に成形することによって作製される。収縮抑制層用グリーンシート5aの焼結温度は、たとえば1400〜1600℃であり、前述した基材層用グリーンシート1aの焼結温度では実質的に焼結しない。
【0069】
なお、収縮抑制層用グリーンシート5aに含まれるセラミック粉末の平均粒径は0.1〜5.0μmであることが好ましい。
【0070】
収縮抑制層用グリーンシート5a中のセラミック粉末の平均粒径が0.1μm未満であると、後述する焼成工程において、セラミック粉末が、セラミック基材層1の表面近傍に含有しているガラスと激しく反応して、焼成後にセラミック基材層1と収縮抑制層5とが密着して、収縮抑制層5の除去ができなくなったり、小粒径のためにシート中のバインダ等の有機成分が、焼成工程において、分解飛散しにくく、そのため、得られたセラミック多層基板6(図4参照)中にデラミネーションが発生したりすることがある。
【0071】
他方、収縮抑制層用グリーンシート5a中のセラミック粉末の平均粒径が5.0μmを超えると、焼成収縮の抑制力が小さくなって、セラミック多層基板6が平面方向に収縮したり、うねったりする傾向にある。
【0072】
また、収縮抑制層用グリーンシート5a中のセラミック粉末は、前述したように、未焼結のセラミック基材層1ならびに層間接続導体3および面内導体4が焼結する温度では実質的に焼結しないものであればよく、アルミナのほか、ジルコニアやマグネシア等からなるセラミック粉末も使用できる。ただし、未焼結のセラミック基材層1の表層領域にガラスを多く存在させるためには、表層と収縮抑制層5とが接触している境界で表層のガラスが収縮抑制層5に対して好適に濡れる必要があるので、収縮抑制層用グリーンシート5a中のセラミック粉末は、未焼結のセラミック基材層1に含まれるセラミック粉末と同種のものであることが好ましい。
【0073】
次いで、層間接続導体3や面内導体4といった導体パターンがそれぞれ形成された複数の基材層用グリーンシート1aが積層されることによって、図2に示すような未焼結セラミック積層体7が作製される。セラミック積層体7において、基材層用グリーンシート1aは未焼結セラミック基材層1を構成する。また、未焼結セラミック積層体7の一方主面上および他方主面上のそれぞれに、収縮抑制層用グリーンシート5aが重ね合わされることによって、セラミック積層体7の一方主面および他方主面に沿って収縮抑制層5が形成される。このようにして得られた複合積層体8は、たとえば5〜200MPaの圧力下にて、静水圧プレス等によって、圧着される。
【0074】
なお、収縮抑制層5の厚みは25〜500μmが好ましい。この厚みが25μm未満であると、焼成収縮の抑制力が小さくなって、得られたセラミック多層基板6が平面方向に収縮したり、うねったりすることがあり、他方、厚みが500μmを超えると、収縮抑制層5中のバインダ等の有機成分が焼成中に分解飛散しにくく、得られたセラミック多層基板6中にデラミネーションが発生する傾向にある。
【0075】
また、収縮抑制層5は、1枚のグリーンシート5aで構成してもよいが、複数枚のグリーンシート5aを積層することにより構成してもよい。
【0076】
次いで、周知のベルト炉やバッチ炉を用いて、収縮抑制層5が実質的に焼結せず、未焼結のセラミック基材層1および未焼結の層間接続導体3や面内導体4が焼結する温度、たとえば850〜950℃の温度で、複合積層体8が焼成される。焼成雰囲気は、大気雰囲気とされるが、必要に応じて、低酸素雰囲気とされてもよい。また、この焼成工程において、複合積層体8は、強制的な加圧を伴わずに焼成される。
【0077】
上述の焼成工程の結果、複合積層体8において、収縮抑制層5は実質的に焼結しないが、セラミック積層体7を構成するセラミック基材層1ならびに層間接続導体3および面内導体4が焼結して、図3に示すように、収縮抑制層5の間に、焼結後のセラミック積層体7、すなわちセラミック多層基板6がもたらされる。図2と図3とを対比すればわかるように、焼結後のセラミック多層基板6は、焼成前のセラミック積層体7に比べて、収縮抑制層5の作用により、平面方向の収縮が抑制されている。他方、厚み方向に関しては、図2に焼成前のセラミック積層体7の厚みT1および図3に焼結後のセラミック多層基板6の厚みT2がそれぞれ示されているが、T2<T1であり、焼結後のセラミック多層基板6は、焼成前のセラミック積層体7に比べて、厚み方向に比較的大きく収縮している。
【0078】
次いで、焼成後の複合積層体8から収縮抑制層5を除去することによって、図4に示すように、焼結後のセラミック多層基板6が取り出される。なお、図3に示した焼成後の複合積層体8において、収縮抑制層5は、前述したように、実質的に焼結しておらず、また、焼成前に含まれていた有機成分が飛散し、多孔質の状態になっているため、サンドブラスト法、ウェットブラスト法、超音波振動法等により容易に除去することができる。
【0079】
上述のようにして取り出されたセラミック多層基板6を製造するにあたって、層間接続導体3および面内導体4を形成するため、この発明に係る導電性ペーストを用いているので、焼成工程において、複合積層体8に対して強制的な加圧を行なわなくても、欠陥のない状態でセラミック多層基板6を得ることができる。そのため、設備コストも低減することができる。
【0080】
セラミック多層基板6の上方主面上には、図5の断面図に示すように、表面実装部品11および12が搭載される。一方の表面実装部品11は、たとえばチップコンデンサであり、外表面上に位置する面内導体4に半田13を介して電気的に接続される。他方の表面実装部品12は、たとえば半導体チップであり、外表面上に位置する面内導体4に半田バンプ14を介して電気的に接続される。
【0081】
なお、表面実装部品11および12の電気的接続のために用いた面内導体4に代えて、特定の層間接続導体3の端面(表面に露出した部分)そのものを利用してもよい。
【0082】
また、図6の断面図に示すように、セラミック多層基板6は、マザー基板15上に実装される。このとき、セラミック多層基板6の下方主面上に形成された面内導体4が、半田16を介して、マザー基板15上の導電ランド17に電気的に接続される。
【0083】
この発明に係る導電性ペーストは、上述したように、未焼結のセラミック積層体7の両主面上に位置する収縮抑制層5を焼成後に除去する工程を有する製造方法に用いることが好適であるが、複数の未焼結のセラミック基材層の層間に収縮抑制層を位置させ、未焼結のセラミック基材層と収縮抑制層との間のガラス流動を利用する製造方法(たとえば特開2000−25157号公報参照)にて使用することも可能である。
【0084】
以下に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0085】
まず、40重量部のアルミナ粉末と、60重量部のSiO(60重量%)−B(8重量%)−Al(6重量%)−CaO(26重量%)系ガラス粉末(軟化点:700℃)とを、アクリル樹脂からなる有機バインダ、トルエンおよびイソプロピレンアルコールからなる有機溶剤ならびにジ−n−ブチルフタレートからなる可塑剤を含んだ有機ビヒクル中に分散させ、スラリーを調製した。次いで、このスラリーをドクターブレード法でシート成形し、厚み100μmの基材層用グリーンシートを作製した。
【0086】
また、上記の基材層用グリーンシートの焼成温度では実質的に焼結しないアルミナ粉末(平均粒径:0.4μm)をポリビニルブチラールからなる有機バインダ、トルエンおよびイソプロピレンアルコールからなる有機溶剤ならびにジ−n−ブチルフタレートからなる可塑剤を含んだ有機ビヒクル中に分散させ、スラリーを調製した。次いで、このスラリーをドクターブレード法でシート成形し、厚み100μmの収縮抑制層用グリーンシートを作製した。なお、この収縮抑制層用グリーンシートの焼結温度は1600℃である。
【0087】
また、表1に示すように、銀粉末およびアルミナ粉末を固形分(無機成分)とし、これに、有機成分として、樹脂(エチルセルロース、アルキッド樹脂)および溶剤(ターピネオール)を加え、攪拌機にて予備混合し、その後、混練機で混練して、試料1〜20の各々に係る導電性ペーストを作製した。これら導電性ペーストの粘度は、約200Pa・sになるように調整した。
【0088】
【表1】

【0089】
同様に、表2に示すように、銀粉末およびアノーサイト粉末を固形分(無機成分)とし、これに、有機成分として、樹脂(エチルセルロース、アルキッド樹脂)および溶剤(ターピネオール)を加え、攪拌機にて予備混合し、その後、混練機で混練して、試料21〜23の各々に係る導電性ペースト作製した。これら導電性ペーストの粘度は、約200Pa・sになるように調整した。
【0090】
【表2】

【0091】
同様に、表3に示すように、銀粉末および酸化モリブデン粉末を固形分(無機成分)とし、これに、有機成分として、樹脂(エチルセルロース、アルキッド樹脂)および溶剤(ターピネオール)を加え、攪拌機にて予備混合し、その後、混練機で混練して、試料24〜26の各々に係る導電性ペースト作製した。これら導電性ペーストの粘度は、約200Pa・sになるように調整した。
【0092】
【表3】

【0093】
同様に、表4に示すように、銀粉末およびホウ珪酸ガラス粉末を固形分(無機成分)とし、これに、有機成分として、樹脂(エチルセルロース、アルキッド樹脂)および溶剤(ターピネオール)を加え、攪拌機にて予備混合し、その後、混練機で混練して、試料27〜29の各々に係る導電性ペースト作製した。これら導電性ペーストの粘度は、約200Pa・sになるように調整した。
【0094】
【表4】

【0095】
さらに、表5に示すように、銀粉末として、アルミナコート銀粉末(アルミナ0.5重量%相当)を用い、試料31および32においてのみ、さらに酸化モリブデン粉末を添加して、固形分(無機成分)とし、これに、有機成分として、樹脂(エチルセルロース、アルキッド樹脂)および溶剤(ターピネオール)を加え、攪拌機にて予備混合し、その後、混練機で混練して、試料30〜32の各々に係る導電性ペースト作製した。これら導電性ペーストの粘度は、約200Pa・sになるように調整した。
【0096】
【表5】

【0097】
以上の表1ないし表5に示した試料1〜32において、銀粉末としては、球状のものを使用した。ただし、表1の試料20については、偏平状(フレーク状)のものを使用した。また、アルミナ粉末、アノーサイト粉末、酸化モリブデン粉末およびホウ珪酸ガラス粉末としては、ともに、球状のものを使用した。
【0098】
次いで、基材層用グリーンシートにパンチングによって直径200μmの層間接続導体用孔を形成し、この孔に上記導電性ペーストを印刷によって充填した。
【0099】
次いで、11枚の上記基材層用グリーンシートを積層して、合計厚み1.1mmの未焼結セラミック積層体を得るとともに、その上下各主面上に、上記収縮抑制層用グリーンシートを3枚ずつ重ね合わせ、合計厚み0.3mmの収縮抑制層を未焼結セラミック積層体の各主面上に設けた、複合積層体を作製した。そして、複合積層体を、100MPaの圧力にてプレスした。
【0100】
次いで、複合積層体をアルミナセッターに載置し、低酸素濃度(PO:1%以下)の雰囲気下において、900℃の温度で1時間焼成した。その後、ウェットブラスト法により、焼成後の複合積層体から、多孔質状態にある収縮抑制層を除去して、セラミック多層基板を取り出した。
【0101】
得られた各試料に係るセラミック多層基板について、その断面を研磨して鏡面にした後、測長可能なSEMにより層間接続導体近傍(層間接続導体界面から30μmまでの距離の範囲内)における最大ボイドの径を測定した。その測定結果が表6に示されている。
【0102】
また、各試料に係るセラミック多層基板について、層間接続導体の隆起量をセラミック多層基板表面からレーザーによる3次元測長機を用いて測定した。その結果も表6に併せて示されている。
【0103】
なお、最大ボイドの径が12μm以上のものを不良として判定し、また、層間接続導体隆起量の絶対値が10μmより大きいものを不良として判定し、いずれかの不良に該当する試料については、表6の「判定」の欄に「×」を付し、それ以外の試料については、「○」を付した。
【0104】
【表6】

【0105】
表6から、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm未満、および層間接続導体隆起量が−10μm〜10μmの範囲内という条件を満たすセラミック多層基板を得るためには、無機成分としての添加物粉末がアルミナ粉末である試料1〜20では、試料2、3、4、7、8、11、12、14、15、18および19のように、銀粉末については、積算50%粒径(D050)が3〜6μm、積算最小粒径(Dmin)が1.5μm以上、かつ比表面積(SSA)が0.3m/g以下であり、さらに、その含有量が85〜95重量%であり、また、アルミナ粉末については、積算50%粒径(D050)が1.0μm以下であり、かつその含有量が0.2〜1.0重量%である、ということが必要であることがわかる。
【0106】
また、添加物粉末がアノーサイト粉末である試料21〜23でも、上記条件を満たすセラミック多層基板を得るためには、試料21および22のように、銀粉末については、積算50%粒径(D050)が3〜6μm、積算最小粒径(Dmin)が1.5μm以上、かつ比表面積(SSA)が0.3m/g以下であり、さらに、その含有量が85〜95重量%であり、また、アノーサイト粉末については、積算50%粒径(D050)が1.0μm以下であり、かつその含有量が0.2〜1.0重量%である、ということが必要であることがわかる。
【0107】
これらに対して、試料1のように、導電性ペースト中の銀粉末含有量が85重量%未満になると、焼結収縮量が必要以上に多くなるため、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm以上になり、セラミック多層基板の中に欠陥が存在し、また、層間接続導体隆起量が−10μmを下回り、層間接続導体が凹んでしまった。この欠陥はセラミック多層基板において、層間ショートを引き起こす原因になる。
【0108】
また、試料5のように、導電性ペースト中の銀粉末含有量が95重量%より多くなると、焼結収縮量が必要以上に少なくなるため、層間接続導体隆起量が10μmより大きくなり、層間接続導体が飛び出してしまい、層間接続導体が側壁のセラミックとも剥がれてしまったため、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm以上と大きくなってしまった。
【0109】
また、試料6のように、導電性ペースト中のアルミナ粉末含有量が0.2重量%未満になると、基材層用グリーンシートの厚み方向の焼結収縮に追従できずに、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm以上になり、セラミック多層基板の中に欠陥が存在していた。この欠陥は、めっき時に水分をトラップしやすくし、はんだ爆ぜやマイグレーションの不具合を引き起こしやすくするものである。
【0110】
また、試料9のように、導電性ペースト中のアルミナ粉末含有量が1.0重量%より多くなると、層間接続導体隆起量が10μmより大きくなり、層間接続導体が飛び出してしまい、層間接続導体が側壁のセラミックとも剥がれてしまったため、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm以上と大きくなってしまった。
【0111】
また、試料10のように、導電性ペースト中の銀粉末粒径(D050)が3μm未満になると、銀の拡散量が増加し、層間接続導体周囲のセラミックの軟化収縮が速く進むため、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm以上になり、セラミック多層基板の中に欠陥が存在していた。この欠陥は、めっき時に水分をトラップしやすくし、はんだ爆ぜやマイグレーションの不具合を引き起こしやすくするものである。
【0112】
また、試料13のように、導電性ペースト中の銀粉末粒径(D050)が6μmより大きくなると、銀粉末の焼結が遅くなりすぎるため、層間接続導体隆起量が10μmより大きくなり、層間接続導体が飛び出してしまい、層間接続導体が側壁のセラミックとも剥がれてしまったため、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm以上と大きくなってしまった。
【0113】
また、試料16のように、導電性ペースト中のアルミナ粉末粒径(D050)が1μmより大きくなると、層間接続導体近傍のセラミックにアルミナが拡散しにくくなり、セラミックの軟化状態を抑制しづらくなるため、層間接続導体隆起量が10μmより大きくなり、層間接続導体が飛び出してしまい、層間接続導体が側壁のセラミックとも剥がれてしまったため、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm以上と大きくなってしまった。
【0114】
また、試料17のように、導電性ペースト中の銀粉末のDminが1.5μmより小さいと、この粒径1.5μm未満の銀粉末が激しくセラミック中に拡散し、セラミックの軟化収縮を促進してしまうため、層間接続導体隆起量が10μmより大きくなり、層間接続導体が飛び出してしまい、層間接続導体が側壁のセラミックとも剥がれてしまったため、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm以上と大きくなってしまった。
【0115】
また、試料20のように、導電性ペースト中の銀粉末のSSAが0.3m/gより大きいと、焼成時に軟化したガラスが層間接続導体と接触する割合がより多くなるので、銀が拡散しやすくなり、層間接続導体の近傍のセラミックのガラス中に溶け込み、セラミックの軟化収縮を促進してしまうため、層間接続導体隆起量が10μmより大きくなり、層間接続導体が飛び出してしまい、層間接続導体が側壁のセラミックとも剥がれてしまったため、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm以上と大きくなってしまった。
【0116】
また、試料23のように、導電性ペースト中のアノーサイト粉末含有量が1.0重量%より多くなると、アルミナ粉末を1.0重量%より多く含有する試料9の場合と同様、層間接続導体隆起量が10μmより大きくなり、層間接続導体が飛び出してしまい、層間接続導体が側壁のセラミックとも剥がれてしまったため、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm以上と大きくなってしまった。
【0117】
また、試料24〜26のように、アルミナ粉末でも、アノーサイト粉末でもない、酸化モリブデン粉末を添加した場合には、セラミック中に拡散した酸化モリブデンによって、セラミックの軟化が早くなってしまったため、添加量が0.2〜1.0重量%の範囲にあっても、1.2重量%となっても、層間接続導体隆起量が10μmより大きくなり、また、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm以上と大きくなってしまった。
【0118】
また、試料27〜29のように、アルミナ粉末でも、アノーサイト粉末でもない、ホウ珪酸ガラス粉末を添加した場合には、層間接続導体近傍のセラミックの収縮軟化を抑制する効果が小さくなったため、添加量が0.2〜1.0重量%の範囲にあっても、1.2重量%となっても、層間接続導体隆起量が−10μm〜10μmの範囲内にあるものの、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm以上と大きくなってしまった。
【0119】
また、試料30のように、アルミナコート銀粉末を無機成分とした場合には、銀の焼結が大幅に遅れ、焼結が開始すると、急激に収縮するため、セラミックとの間で収縮タイミングおよび収縮量に大きな差が生じてしまい、層間接続導体隆起量が10μmより大きくなり、また、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm以上と大きくなってしまった。
【0120】
さらに、試料31および32のように、アルミナコート銀粉末および酸化モリブデン粉末を無機成分とした場合には、セラミック中に拡散した酸化モリブデンによって、セラミックの軟化が早くなってしまい、また、アルミナコート銀粉末のために、銀の焼結が遅くなりすぎてしまったため、添加量が0.5〜1.0重量%の範囲にあっても、層間接続導体隆起量が10μmより大きくなり、層間接続導体が飛び出してしまい、また、層間接続導体近傍で50μmより大きいクラックが発生し、層間接続導体近傍最大ボイド径が12μm以上と大きくなってしまった。
【0121】
上述の試料24〜32から、添加物粉末として、アルミナおよび/またはアノーサイトを含んでいなければならないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】この発明に係るセラミック多層基板の製造方法を説明するためのもので、基材層用グリーンシート1aおよび収縮抑制層用グリーンシート5aを互いに分離して示す断面図である。
【図2】図1に示した基材層用グリーンシート1aおよび収縮抑制層用グリーンシート5aを積層して得られた未焼結の複合積層体8を示す断面図である。
【図3】図2に示した複合積層体8を焼成した後の状態を示す断面図である。
【図4】図3に示した収縮抑制層5を除去して取り出された焼結後のセラミック多層基板6を示す断面図である。
【図5】図4に示したセラミック多層基板6上に表面実装部品11および12を搭載した状態を示す断面図である。
【図6】図5に示したセラミック多層基板6をマザー基板15上に実装した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0123】
1a 基材層用グリーンシート
1 セラミック基材層
3 層間接続導体
4 面内導体
5a 収縮抑制層用グリーンシート
5 収縮抑制層
6 セラミック多層基板
7 未焼結セラミック積層体
8 複合積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機成分および有機成分を含む、導電性ペーストであって、
前記無機成分は、銀粉末と、アルミナおよび/またはアノーサイトを含む添加物粉末とを含み、
前記銀粉末は、積算50%粒径(D050)が3〜6μm、積算最小粒径(Dmin)が1.5μm以上、かつ比表面積(SSA)が0.3m/g以下であり、
前記添加物粉末は、積算50%粒径(D050)が1.0μm以下であり、
前記銀粉末の含有量は85〜95重量%であり、
前記添加物粉末の含有量は0.2〜1.0重量%である、
導電性ペースト。
【請求項2】
前記銀粉末は、積算50%粒径(D050)が3.5〜5μm、かつ積算最小粒径(Dmin)が2μm以上であり、前記添加物粉末の含有量は0.2〜0.8重量%である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記銀粉末は球状である、請求項1または2の導電性ペースト。
【請求項4】
複数の未焼結セラミック基材層を積層してなり、かつ前記未焼結セラミック基材層に関連して設けられる未焼結導体パターンを備えた、未焼結セラミック積層体と、前記未焼結セラミック基材層に接するように設けられ、前記未焼結セラミック基材層および前記未焼結導体パターンが焼結する温度では実質的に焼結しない、収縮抑制層とを含む、複合積層体を作製する工程と、
前記複合積層体を、前記収縮抑制層が実質的に焼結せず、前記未焼結セラミック基材層および前記未焼結導体パターンが焼結する温度で焼成する工程と
を有する、セラミック多層基板の製造方法であって、
前記未焼結導体パターンは、導電性ペーストによって形成され、
前記導電性ペーストは、無機成分および有機成分を含み、
前記無機成分は、銀粉末と、アルミナおよび/またはアノーサイトを含む添加物粉末とを含み、
前記銀粉末は、積算50%粒径(D050)が3〜6μm、積算最小粒径(Dmin)が1.5μm以上、かつ比表面積(SSA)が0.3m/g以下であり、
前記添加物粉末は、積算50%粒径(D050)が1.0μm以下であり、
前記銀粉末の含有量は85〜95重量%であり、
前記添加物粉末の含有量は0.2〜1.0重量%である、
セラミック多層基板の製造方法。
【請求項5】
前記焼成する工程において、強制的な加圧を伴わずに、前記複合積層体を焼成する、請求項4に記載のセラミック多層基板の製造方法。
【請求項6】
前記未焼結セラミック基材層は、セラミック粉末およびガラス粉末を含んで構成される基材層用グリーンシートによって与えられる、請求項4または5に記載のセラミック多層基板の製造方法。
【請求項7】
前記基材層用グリーンシートは、CaO−Al−SiO−B系ガラス粉末とAl系セラミック粉末とを含み、前記収縮抑制層はAl系セラミック粉末を含む、請求項6に記載のセラミック多層基板の製造方法。
【請求項8】
前記複合積層体において、前記収縮抑制層は前記未焼結セラミック積層体の両主面上に位置しており、前記焼成する工程の後、前記収縮抑制層を除去する工程をさらに備える、請求項4ないし7のいずれかに記載のセラミック多層基板の製造方法。
【請求項9】
前記複合積層体において、前記収縮抑制層は複数の前記未焼結セラミック基材層の層間に位置している、請求項4ないし8のいずれかに記載のセラミック多層基板の製造方法。
【請求項10】
さらに、表面実装部品を搭載する工程を備える、請求項8または9に記載のセラミック多層基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−4514(P2008−4514A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186224(P2006−186224)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】