説明

弾性表面波センサー内蔵発振回路及びバイオセンサー装置

液体が付着した場合であっても、バイアス電圧の印加による電極膜の剥離が生じ難く、かつ安定に動作させ得る弾性表面波センサー内蔵発振回路を提供する。 圧電基板上にインターデジタル電極33,34と、インターデジタル電極33,34を覆うように、検出対象物質または検出対象物質を結合する結合物質を結合する反応膜が設けられており、微小な質量負荷を周波数変化により検出することを可能とする弾性表面波センサー32が共振子として接続されている弾性表面波センサー内蔵発振回路であって、弾性表面波センサー32に対して、直列に直流カット用コンデンサ36,42が接続されており、該直流カット用コンデンサ36,42が、それぞれ、インピーダンス整合回路を構成している、弾性表面波センサー内蔵発振回路31。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、バイオセンサーやガスセンサーなどとして用いられる弾性表面波センサーを共振子として有する弾性表面波センサー内蔵発振回路に関し、より詳細には、質量負荷による周波数変化に基づいて検出対象物質が検出される弾性表面波センサーを内蔵した弾性表面波センサー内蔵発振回路及び該弾性表面波センサー内蔵発振回路を備えるバイオセンサー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な物質を検出するために、弾性表面波素子を用いた種々の弾性表面波センサーが提案されている。例えば、DNAや抗体などの生体物質を検出する弾性表面波センサーでは、弾性表面波素子上に特定のDNAや抗体などの生体物質とのみ反応する反応膜が設けられている。上記DNAや抗体が反応膜と反応し、反応膜に結合され、それによって弾性表面波素子上に質量が負荷される。この質量負荷に起因する周波数変化により、DNAや抗体の有無や濃度が検出される。
【0003】
他方、下記の特許文献1には、この種の弾性表面波センサーの一例が開示されている。この先行技術に記載の弾性表面波センサーは、水中に含まれるカビ臭物質である2−MIB(2−メチルイソボルネオール)の検出を可能とするものである。図11に示すように、弾性表面波センサー101では、圧電基板102上にインターデジタル電極103,104及び金属薄膜105が形成されている。一方のインターデジタル電極103と他方のインターデジタル電極104との間に増幅器106,107が接続されており、出力側のインターデジタル電極104及び増幅器106,107の後段に混合器108が接続されている。混合器108から弾性表面波センサー101の出力が取り出されるように構成されている。
【0004】
この先行技術に記載の弾性表面波センサー101では、上記圧電基板102の上面において、カンファー・Ova複合体が固定化される。このカンファー・Ova複合体が反応膜として機能し、カンファー・Ova複合体との反応により2−MIBが検出される。
【0005】
すなわち、カビ臭原因物質である2−MIBに類似の構造を有するカンファー及び蛋白質の複合体抗原が、弾性表面波センサー101において固定化されている。そして、弾性表面波センサー101が、2−MIBを特異的に結合する抗2−MIB抗体を一定濃度で含む被測定溶液中に浸漬され、溶液中に存在している未知濃度の2−MIBと、上記カンファー・蛋白質複合体抗原とが競合的に反応する。そして、弾性表面波センサー101上に固定化されているカンファー・蛋白質複合体抗原に結合した抗2−MIB抗体量が、弾性表面波センサーに対する質量負荷による出力変化により求められる。そして、カンファー・蛋白質複合体抗原に結合された抗2−MIB抗体量と、2−MIBが存在しない場合の結合抗体量の差により、被測定溶液中の2−MIB濃度が定量される。
【0006】
上記のように、この種の弾性表面波センサーでは、質量変化が周波数変化として検出される。より詳細には、該弾性表面波センサーが共振子として発振回路に組み込まれ、該発振回路の発振周波数の変化により質量変化が検出されることになる。
【0007】
他方、弾性表面波素子を共振子として用いた発振回路は、例えば、特許文献2及び特許文献3にそれぞれ開示されている。特許文献2,3に記載の発振回路は、電圧制御発振回路やリモートコントローラなどの無線装置などに用いられているものである。図12は、この種の発振回路の一例を示す回路図である。
【0008】
発振回路121では、弾性表面波素子122が共振子として用いられている。ここでは、弾性表面波素子122は、2ポート型の弾性表面波共振子により構成されている。2ポート型弾性表面波共振子122の第1のポートが、FET123のゲート端子に接続されている。そして、第2のポートがFET123のドレイン端子に接続されている。
【0009】
ここでは、FET123のゲート端子に接続された出力端子124から発振出力が取出される。
【特許文献1】特開平10−90270号公報
【特許文献2】特開平2−60211号公報
【特許文献3】特開平2−164121号公報
【発明の開示】
【0010】
図12に示した発振回路121は、特許文献2,3に記載のように、弾性表面波素子を共振子として用いた発振回路である。しかしながら、このような発振回路は、いずれも、電圧制御発振回路やリモートコントローラなどの無線装置に用いられるものであり、検出対象物質の検出のために用いられる発振回路ではなかった。
【0011】
また、図12に示した発振回路121では、FET123に接続される弾性表面波素子122のくし型電極部に、通常、FET123のバイアス電圧に相当する数Vの直流電圧が印加される。
【0012】
上記特許文献1に記載のような弾性表面波センサーを、図12に示した発振回路121に用いた場合、以下のような問題が生じる。すなわち、弾性表面波センサーによる検出対象物質を検出する場合、通常、弾性表面波センサーは、体液や血液などの液体に浸漬される。そのため、弾性表面波センサーの表面に液体の一部が付着する。他方、図12に示した発振回路121における弾性表面波素子122に代えて、上記弾性表面波センサーを用いると、前述したように、弾性表面波センサーのくし型電極部に、直流バイアス電圧が印加される。従って、上記直流バイアス電圧が印加されると、弾性表面波センサーの表面に付着している液体を介しての絶縁破壊が生じ、くし型電極部において、電極が剥離したりするという問題が生じる。
【0013】
すなわち、発振回路121などは、液体に浸漬される弾性表面波センサーを組み合わせて用いることを考慮されているものではないため、このような発振回路121において弾性表面波センサーを得ることはできなかった。
【0014】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、質量負荷の変化により周波数変化として検出対象物質を検出することを可能とする弾性表面波センサーを共振子として用いた発振回路であって、直流バイアス電圧の印加による電極剥離などの不具合が生じ難く、安定に動作し得る弾性表面波センサー内蔵発振回路並びに該弾性表面波センサー内蔵発振回路を用いたバイオセンサー装置を提供することにある。
【0015】
本発明は、圧電基板と、圧電基板上に形成されている表面波励振用電極と、表面波励振用電極を覆うように、前記圧電基板上に形成されており、かつ検出対象物質または検出対象物質と結合する結合物質を結合する反応膜とを有し、微小な質量負荷を周波数変化により検出することを可能とする弾性表面波センサーが共振子として接続されている弾性表面波センサー内蔵発振回路であって、前記弾性表面波センサーに対して直列に接続された直流カット用コンデンサを備え、該直流カット用コンデンサを有するインピーダンス整合回路が構成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る弾性表面波センサー内蔵発振回路のある特定の局面では、前記インピーダンス整合回路が、前記直流カット用コンデンサに直列に接続されたインダクタンス素子と、該インダクタンス素子の両端とグラウンド電位との間にそれぞれ接続された第1,第2のコンデンサとを有する。
【0017】
本発明に係る弾性表面波センサー内蔵発振回路のさらに他の特定の局面では、前記弾性表面波センサーと、前記直流カット用コンデンサとの間の接続点と、グラウンド電位との間に接続されている抵抗がさらに備えられる。
【0018】
本発明に係る弾性表面波センサー内蔵発振回路のさらに別の特定の局面では、前記弾性表面波センサーが、2ポート型表面波共振子を用いて構成されている。
【0019】
本発明に係る弾性表面波センサー内蔵発振回路のさらに他の特定の局面では、前記2ポート型表面波共振子を用いて構成された弾性表面波センサーが、第1,第2のポートを有し、前記直流カット用コンデンサとして第1,第2の直流カット用コンデンサを有し、前記インピーダンス整合回路として、第1,第2の端子を有し、第1の端子が前記第1のポートに接続されており、かつ前記第1の直流カット用コンデンサを含む第1のインピーダンス整合回路と、第1,第2の端子を有し、第1の端子が前記第2のポートに接続されており、かつ前記第2の直流カット用コンデンサを含む第2のインピーダンス整合回路とを有し、前記第1のインピーダンス整合回路の第2の端子及び前記第2のインピーダンス整合回路の第2の端子に接続されているトランジスタをさらに備える。
【0020】
本発明に係る弾性表面波内蔵発振回路のさらに別の特定の局面では、前記トランジスタとして、電界効果型トランジスタが用いられる。
【0021】
本発明に係るバイオセンサー装置は、本発明に従って構成された弾性表面波センサー内蔵発振回路を用いて構成されていることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る弾性表面波センサー内蔵発振回路では、質量負荷を周波数変化により検出することを可能とする弾性表面波センサーが共振子として用いられており、該弾性表面波センサーに対して、直列カット用コンデンサが接続されており、該直流カット用コンデンサを有するインピーダンス整合回路が構成されているため、弾性表面波センサーが水溶液などの液体中に浸漬されたとしても、上記直流カット用コンデンサにより直流バイアス電圧の電極部への印加が抑制される。従って、直流バイアス電圧による電極剥離等を抑制することが可能となる。
【0023】
また、単に直流カット用コンデンサを接続した場合には、回路のインピーダンス整合がずれ、発振の振幅条件である正帰還量が1を超えないため、発振しなくなる。しかしながら、本発明では、上記直流カット用コンデンサがインピーダンス整合回路をも構成しているため、発振停止を避けることができる。すなわち、微小な質量負荷が弾性表面波センサーに与えられたしても、質量負荷に応じて変化した周波数の発振出力を確実に得ることができ、弾性表面波センサーによる質量負荷の検出を安定にかつ高精度に行うことができる。
【0024】
本発明において、インピーダンス整合回路が、直流カット用コンデンサに直列に接続されたインダクタンス素子と、該インダクタンス素子の両端と、グラウンド電位との間にそれぞれ接続された、第1,第2のコンデンサとを有する場合、スミスチャート等でZ=R+jX等のように複素数で表現されるインピーダンス平面上を任意に移動させることができるため、弾性表面波センサーのインピーダンスに関わらずインピーダンス整合を容易に図ることができる。このため、広帯域の発振出力を得ることができる。
【0025】
本発明において、弾性表面波センサーと直流カット用コンデンサとの間の接続点とグラウンド電位との間に接続されている抵抗がさらに備えられている場合には、焦電作用によるくし型電極の電極指間の短絡を効果的に抑制することができる。
【0026】
本発明において、弾性表面波センサーが、2ポート型表面波共振子を用いて構成されている場合には、0次、1次(または1次、2次)と呼ばれるそれぞれ逆相で励振強度が強い2つのSAWのモード間隔を広くとることで通過域を広帯域化させることができ、弾性表面波センサーとしての検出感度を高めることができる。
【0027】
本発明において、2ポート型表面波共振子を用いて構成された弾性表面波センサーが、第1,第2のポートを有し、直流カット用コンデンサとして第1,第2の直流カット用コンデンサを有し、インピーダンス整合回路として、第1,第2のインピーダンス整合回路を有し、第1のインピーダンス整合回路の第1の端子が、第1のポートに、第2の端子がトラジスタに、第2のインピーダンス整合回路の第1の端子が第2のポートに、第2の端子がトランジスタに接続されている場合には、2ポート弾性表面波共振子の第1,第2のポートに、それぞれ、第1,第2のインピーダンス整合回路が接続されるため、トランジスタとのインピーダンス整合を良好に図ることができ、発振条件を確実に満足させることができる。従って、2ポート型弾性表面波共振子を用いて構成された弾性表面波センサーを有する弾性表面波センサー内蔵発振回路の動作をより一層安定とすることができる。
【0028】
トランジスタとして電界効果型トランジスタが用いられている場合には、比較的高いインピーダンスの弾性表面波センサーに向いている。
【0029】
本発明に係るバイオセンサー装置では、本発明に従って構成された弾性表面波センサー内蔵発振回路を用いて構成されているため、発振周波数の変化により微小な検出物質を安定に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の一実施形態の弾性表面波センサー内蔵発振回路を示す回路図である。
【図2】図2(a)〜(d)は、本発明の弾性表面波センサーの測定原理を説明するための図であり、(a)は液体中に検出対象物質が存在しない場合の状態を模式的に示す正面断面図、(b)は液体中に検出対象物質が存在しない場合の周波数変化を示す図、(c)は液体中に検出対象物質が存在する場合の模式的正面断面図、(d)は液体中に検出対象物質が存在する場合の周波数変化を説明するための図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態で用いられる2ポート型弾性表面波共振子の電極構造を模式的に示す平面図である。
【図4】図4は、図1に示した弾性表面波センサー内蔵発振回路の発振条件を説明するための変形例の回路図である。
【図5】図5は、図1に示した弾性表面波センサー内蔵発振回路の発振条件を説明するための他の変形例の回路図である。
【図6】図6は、図5に示した回路において、図8に示した特性のSAWフィルタを用い、かつ共振系回路部の設定を表1に示すように設定した際のポート3及びポート3Aの反射係数を説明するための図である。
【図7】図7は、ポート2A及びポート3Aを接続し、図4に示した回路を構成した際のS32の振幅特性及び位相特性を示す図である。
【図8】図8は、SAWフィルタの特性の一例を示す図である。
【図9】図9は、本実施形態及び比較のために用意した弾性表面波センサー内蔵発振回路を用いて弾性表面波センサーの表面に液体を付着させた場合の発振周波数の変化を示す図である。
【図10】図10は、本実施形態及び比較のために用意した弾性表面波センサー内蔵発振回路を用いて弾性表面波センサーの表面に液体を付着させた場合の出力レベルの変化を示す図である。
【図11】図11は、従来の弾性表面波センサーの一例を示す模式的平面図である。
【図12】図12は、従来の弾性表面波共振子を用いて構成された発振回路の回路図である。
【符号の説明】
【0031】
1…弾性表面波センサー
2…LiTaO基板
3…インターデジタル電極
4…反応膜
5…液体
6…検出対象物質
13,23…インターデジタル電極
14,15…反射器
31…弾性表面波センサー内蔵発振回路
32…弾性表面波センサー
32a,32b…第1,第2のポート
33,34…第1,第2のインターデジタル電極
35…トランジスタ
35a…ベース端子
35b…コレクタ端子
35c…リミッター端子
36…第1の直流カット用コンデンサ
37…インダクタンス素子
38,39…コンデンサ素子
40…接続点
41…抵抗
42…第2の直流カット用コンデンサ
43…インダクタンス素子
44,45…コンデンサ素子
46…抵抗
47…接続点
48…接続点
49…出力端子
50〜52…接続点
C1〜C4…コンデンサ素子
R1〜R5…抵抗素子
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0033】
図2(a)〜(d)は、本発明の一実施形態に係る弾性表面波センサー内蔵発振回路で用いられている弾性表面波センサーの測定原理を説明するための図である。
【0034】
本実施形態の弾性表面波センサー1は、SHタイプの表面波を利用しており、オイラー角が(0°,0°〜18°,0°±5°)または(0°,58°〜180°,0°±5°)である回転YカットLiTaO基板2を有する。このLiTaO基板2上に表面波励振用電極としてインターデジタル電極3が形成されている。インターデジタル電極3はAuにより構成されている。また、インターデジタル電極3の弾性表面波の波長で規格化された膜厚は0.8〜9.5%の範囲とされている。また、Au電極上には、SiO誘電膜が形成されている。
【0035】
上記LiTaO基板上に反応膜4が形成されている。反応膜4は、検出対象物質または検出対象物質と結合する結合物質を結合する適宜の材料で構成され得る。
【0036】
弾性表面波センサー1では、例えば、検出対象物質を含まない液体5に浸漬されると、図2(a)に示すように、液体5が反応膜4に接触する。この場合、液体5内に検出対象物質が存在しないが、液体5が反応膜4に接触し、ひいてはLiTaO基板2のインターデジタル電極3が形成されている面に質量が負荷されることになる。従って、図2(b)に示すように、液体5に浸漬される前の周波数特性Aから、液体に浸漬した後の周波数特性Bとなるように、周波数が低下する。しかしながら、この場合には、この周波数の変化量は比較的小さい。
【0037】
これに対して、図2(c)に示すように、検出対象物質6を含有している液体5に弾性表面波センサー1が浸漬された場合には、検出対象物質6が反応膜4に結合される。そのため、LiTaO基板2のインターデジタル電極3が形成されている面に、反応膜4の表面に結合された検出対象物質6による質量が、単に液体5による増加作用に追加されることになる。
【0038】
液体5中に検出対象物質6が存在した場合には、検出対象物質6が反応膜4と反応し、反応膜4の表面に結合される。そのため、該検出対象物質6による質量負荷作用により、LiTaO基板2の表面で励振されたSHタイプの表面波への影響が大きくなり、上記のように周波数変化により検出対象物質の有無を検出することができる。
【0039】
なお、本発明においては、上述した原理の弾性表面波センサー1が、効果的に用いられるが、この弾性表面波センサー1におけるインターデジタル電極の形状については限定されず、1つのインターデジタル電極の表面波伝搬方向両側に反射器が構成された1ポート型弾性表面波共振子でもよく、図3に示す2ポート型弾性表面波共振子であってもよい。
【0040】
図3は、2ポート型弾性表面波共振子の電極構造を示す模式的平面図である。ここでは、インターデジタル電極13,23が表面波伝搬方向に配置されており、インターデジタル電極13,23の設けられている領域の表面波伝搬方向両側に反射器14,15が配置されている。
【0041】
次に、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る弾性表面波センサー内蔵発振回路を説明する。
【0042】
図1に示すように、本実施形態の弾性表面波センサー内蔵発振回路31では、上記原理で測定する弾性表面波センサー32が用いられている。弾性表面波センサー32は、図1に略図的に示されているように、第1,第2のインターデジタル電極33,34を有する2ポート型弾性表面波共振子を用いて構成されている。従って、弾性表面波センサー32は、第1,第2のポート32a,32bを有する。
【0043】
なお、図1では、略図的に弾性表面波センサー32が示されているが、弾性表面波センサー32は、上記弾性表面波センサー1と同様に構成されている。すなわち、上記インターデジタル電極33,34を覆うように、反応膜が形成されている構成を有する。
【0044】
また、図1に示すように、第1のポート32aは、トランジスタ35のベース端子35aに接続されている。ここで、第1のポート32aと、ベース端子35aとの間には、第1の直流カット用コンデンサ36及びインダクタンス素子37が直列に接続されている。インダクタンス素子37は、直流カット用コンデンサ36よりもベース端子35a側に接続されている。そして、インダクタンス素子37の両端の接続点37a,37bとグラウンド電位との間に、コンデンサ素子38,39が接続されている。本実施形態では、上記インダクタンス素子37と、コンデンサ素子38,39とで構成されるπ型のフィルタ部分と、直流カット用コンデンサ36とにより、第1のインピーダンス整合回路が構成されている。第1のインピーダンス整合回路は、第1のポート32aの出力インピーダンスをトランジスタ35のベース端子35aの入力インピーダンスと整合させるために構成されている。
【0045】
また、第1のポート32aと直流カット用コンデンサ36との間の接続点40とグラウンド電位との間に、抵抗41が接続されている。抵抗41は、焦電効果によるインターデジタル電極32,33の短絡を防止するために設けられている。従って、抵抗41の抵抗値は、このような効果を発現するように選ばれる。
【0046】
他方、弾性表面波センサー32の第2のポート32bは、直列に接続された第2の直流カット用コンデンサ42及びインダクタンス素子43を介してトランジスタ35のコレクタ端子35bに接続されている。第2の直流カット用コンデンサ42は、直流バイアス電圧がインターデジタル電極34に印加されるのを防止するために設けられている。インダクタンス素子43は、直流カット用コンデンサ42よりもトランジスタ35のコレクタ端子35b側に設けられている。また、インダクタンス素子43の両側の接続点43a,43bとグラウンド電位との間に、コンデンサ素子44,45が接続されている。上記インダクタンス素子43及びコンデンサ素子44,45と、第2の直流カット用コンデンサ42とが、第2のインピーダンス整合回路を構成している。
【0047】
従って、弾性表面波センサー32では、第1,第2のポート32a,32bが、それぞれ、第1,第2のインピーダンス整合回路を介してトランジスタ35に接続されている。
【0048】
また、第2のポート32b側においても、焦電作用によるインターデジタル電極34の短絡を防止するために、抵抗46が、第2のポート32bと直流カット用コンデンサ42との間の接続点47とグラウンド電位との間に接続されている。
【0049】
また、第2のインピーダンス整合回路とトランジスタ35のコレクタ端子35bとの間の接続点48が、コンデンサC1を介して出力端子49に接続されている。また、接続点48と電源電圧Vccとの間に、互いに直列に抵抗R1,R2が接続されている。抵抗R1,R2間の接続点50が、コンデンサC2を介してグラウンド電位に接続されている。さらに、電源電圧Vccと抵抗R1との間の接続点51がコンデンサC3を介してグラウンド電位に接続されている。
【0050】
また、上記接続点50とグラウンド電位との間に、互いに、直列に、抵抗R3,R4が接続されており、抵抗R3,R4間の接続点52は、第1のインピーダンス整合回路の出力端に接続されている。さらに、トランジスタ35のエミッタ端子35cとグラウンド電位との間に、抵抗R5が接続されており、該抵抗R5に並列にコンデンサC4が接続されている。
【0051】
図1に示した弾性表面波センサー内蔵発振回路において、発振条件を考察するために、図4に示す変形例の回路について検討した。図4に示す回路では、図1に示した弾性表面波センサー内蔵発振回路において、ポートP1〜ポートP3が設けられて、オープンループ回路が構成されている。この回路では、弾性表面波センサー内蔵発振回路の発振条件は、下記の式(1)及び(2)を満たす必要がある。
|S32|≧0(dB)・・・(1)
∠S32=360×n(deg)nは整数・・・(2)
【0052】
上記式(1)が振幅条件であり、式(2)が位相条件である。従って、発振させるには、ループゲインが0dB以上であること、並びにループ位相差が360degの整数倍であることがわかる。ここで、ポートP1は、発振周波数を測定するための50Ω系の周波数カウンターに接続されている。従って、弾性表面波センサー内蔵発振回路の出力インピーダンスは50Ωに設定されている。
【0053】
次に、図1に示した回路を、共振系回路部と増幅系回路部とに分離した回路を図5に示す。ポートP2及びポートP2Aから増幅回路側を見たときのインピーダンスを50Ωとする。このとき、ポートP3及びポートP3Aから共振系回路部を見たときのインピーダンスは50Ωに近い程、各ポートの反射が小さく、ループゲインは大きいと見なすことができる。
【0054】
図5に示した回路において、図8に示す特性のSAWフィルタを用い、かつ共振系回路部の各素子の値を下記の表1に示す値とした場合、ポートP3及びポートP3Aの対応する反射係数を図6に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
図6に示されているS33及びS3A3Aの特性から明らかなように、S3A3Aは、50Ωに近い特性であるが、S33は50Ωからかなりずれていることがわかる。
【0057】
図6に示した特性を与えるように表1に示すように各素子の値が設定されているとき、ポートP2A及びポートP3Aを接続し、図4に示す回路を構成したときのS32の振幅特性及び位相特性を図7に示す。図7から明らかなように、位相特性が0のとき、振幅特性が0より大きいゲインを得られると、発振条件を満たすことがわかる。なお、発振系回路部におけるインピーダンス整合をさらに改善するには、発振系回路部のコンデンサC7,C8,C9及びC10を挿入すればよい。これにより、S32における位相特性が0の場合の振幅特性が0より大きくなり、発振条件を余裕を持って満足させることができる。
【0058】
従って、上記のような手段により、発振系回路部のインピーダンスと増幅系回路部のインピーダンスができるだけ整合するように、インダクタンスL1、コンデンサC2、C7及びC8で構成されるインピーダンス整合回路と、インダクタンスL2、並びにコンデンサC3、C9及びC10で構成されるインピーダンス整合回路の各素子の値を決定すればよい。
【0059】
本実施形態の弾性表面波センサー内蔵発振回路31では、上記弾性表面波センサー32に検出対象物質の存在により微小な質量負荷が与えられた際に、弾性表面波センサー32の共振周波数が変化する。そのため、弾性表面波センサー内蔵発振回路31の出力端子49から取出される発振周波数が変化し、それによって検出対象物質の検出を行うことが可能とされている。この場合、第1,第2の直流カット用コンデンサ36,42により、前述した直流バイアス電圧が、インターデジタル電極33,34に印加されるのを確実に防止することができる。従って、直流バイアス電圧の印加によるインターデジタル電極33,34における短絡等が生じ難く、かつ電極膜の基板からの剥離も生じ難い。
【0060】
のみならず、単に直流カット用コンデンサを直列に接続しただけでは、インピーダンス整合状態が崩れ、発振条件を満足しないおそれがあるが、本実施形態では、第1,第2の直流カット用コンデンサ36,42は、前述した第1,第2のインピーダンス整合回路を構成するように接続されている。すなわち、第1,第2の直流カット用コンデンサ36,42の静電容量は、上記第1,第2のインピーダンス整合回路を構成するように選択されているため、発振条件が確実に満足され、発振停止が生じ難い。
【0061】
よって、本実施形態の弾性表面波センサー内蔵発振回路31では、直流バイアス電圧の印加による電極膜の剥離等が生じ難く、かつ蛋白質等の検出対象物質が弾性表面波センサー表面に付着することにより、発振周波数が変化したとしても、発振条件が確実に満足されるため、検出対象物質を確実に検出することができる。
【0062】
従って、本実施形態の弾性表面波センサー内蔵発振回路31は、例えば、体液中の蛋白質などの検出対象物質を検出するためのバイオセンサー装置に好適に用いられる。
【0063】
なお、上記実施形態では、トランジスタ35が用いられたが、トランジスタ35の代わりに、電界効果型トランジスタを用いてもよく、その場合には、比較的高いインピーダンスの弾性表面波センサーに向いている。
【0064】
次に、具体的な実験例につき説明する。
【0065】
2ポート型弾性表面波共振子を用いて構成された弾性表面波センサー32を用い、図1に示した弾性表面波センサー内蔵発振回路31を構成した。比較のために、同じ弾性表面波センサーを用い、但し、図12に示した発振回路121を構成した。
【0066】
また、使用した弾性表面波センサーの第1,第2のインターデジタル電極の電極指の対数は、それぞれ12、12とし、波長は5.8μmとした。また、インターデジタル電極上には、反応膜としてアルカンシラン膜上に抗アルブミンを付着させた。
【0067】
上記実施形態及び比較のために用意した発振回路を用い、それぞれの弾性表面波センサー表面に検出対象物質含有水溶液として生理食塩水を付着させた場合の出力周波数変化及び出力レベル変化を図9及び図10にそれぞれ示す。なお、図9及び図10において、破線が比較のために用意した発振回路による結果を示し、実線は、本実施形態の弾性表面波センサー内蔵発振回路による結果を示す。
【0068】
図9及び図10から明らかなように、比較のために用意した発振回路を用いた場合には、液体の付着により短時間で発振周波数や出力レベルが大きく変化し、早期に発振が停止したため、弾性表面波センサーを用いて検出対象物質を検出することができないことがわかる。これに対して、上記実施形態の弾性表面波センサー内蔵発振回路では、安定な周波数及び出力レベルを得ることができ、検出対象物質含有液体の付着による周波数変化をより確実にかつ安定に測定し得ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、圧電基板上に形成されている表面波励振用電極と、表面波励振用電極を覆うように、前記圧電基板上に形成されており、かつ検出対象物質または検出対象物質と結合する結合物質を結合する反応膜とを有し、微小な質量負荷を周波数変化により検出することを可能とする弾性表面波センサーが共振子として接続されている弾性表面波センサー内蔵発振回路であって、
前記弾性表面波センサーに対して直列に接続された直流カット用コンデンサを備え、該直流カット用コンデンサを有するインピーダンス整合回路が構成されていることを特徴とする、弾性表面波センサー内蔵発振回路。
【請求項2】
前記インピーダンス整合回路が、前記直流カット用コンデンサに直列に接続されたインダクタンス素子と、該インダクタンス素子の両端とグラウンド電位との間にそれぞれ接続された第1,第2のコンデンサとを有する、請求項1に記載の弾性表面波センサー内蔵発振回路。
【請求項3】
前記弾性表面波センサーと、前記直流カット用コンデンサとの間の接続点と、グラウンド電位との間に接続されている抵抗をさらに備える、請求項1または2に記載の弾性表面波センサー内蔵発振回路。
【請求項4】
前記弾性表面波センサーが、2ポート型表面波共振子を用いて構成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性表面波センサー内蔵発振回路。
【請求項5】
前記2ポート型表面波共振子を用いて構成された弾性表面波センサーが、第1,第2のポートを有し、
前記直流カット用コンデンサとして第1,第2の直流カット用コンデンサを有し、
前記インピーダンス整合回路として、第1,第2の端子を有し、第1の端子が前記第1のポートに接続されており、かつ前記第1の直流カット用コンデンサを含む第1のインピーダンス整合回路と、第1,第2の端子を有し、第1の端子が前記第2のポートに接続されており、かつ前記第2の直流カット用コンデンサを含む第2のインピーダンス整合回路とを有し、
前記第1のインピーダンス整合回路の第2の端子及び前記第2のインピーダンス整合回路の第2の端子に接続されているトランジスタをさらに備える、請求項4に記載の弾性表面波センサー内蔵発振回路。
【請求項6】
前記トランジスタとして、電界効果型トランジスタが用いられている、請求項5に記載の弾性表面波センサー内蔵発振回路。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性表面波センサー内蔵発振回路を用いて構成されていることを特徴とするバイオセンサー装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/043150
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515092(P2005−515092)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013072
【国際出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】