説明

成形型

【課題】合成樹脂材料からなる転がり軸受けの保持器等の円環状部品を「多数個取り」により製造する成形型であり、高速充填、かつ、低圧圧縮射出成形法を用いて、真円度、反り、倒れ等について高精度の成形を行うことができ、かつ、ウェルド接合部の強度不足が改善され、ハイサイクル成形が可能な成形型を提供する。
【解決手段】複数の円環状キャビティCを形成する上型A及び下型Bと、溶融樹脂の供給路となるをホットランナー11と、各キャビティC内を圧縮する円環状圧縮入れ子とを備え、各キャビティCは、溶融樹脂が充填された後、上型A及び下型Bを型締めした状態においてオーバーフローランナー13によって連通され、各キャビティC内が圧縮されるとき、オーバーフローランナ13ーによりウェルド付近のトンネルゲート9が連通され、各キャビティC内の圧力が一定に保たれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製品の製造に使用される成形型に関し、特に、円環形状の合成樹脂製品の製造に使用される成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成樹脂製品(プラスチック製品)の製造方法として広く用いられている射出成形法(高圧射出成形法)においては、成形型(金型)を用いて、高い型締圧力による型締を行い、かつ、熱可塑性樹脂を高圧で成形型のキャビティ内に射出し、その後、高圧にて一定時間保圧をかけつつ、冷却することにより成形されていた。そのため、ゲート及びウェルド付近に残留応力が発生し、倒れ、歪み、ねじれ、ソリ等の変形が生じる欠点があった。
【0003】
これに対し、例えば、特許文献1に示されているように、熱可塑性樹脂をキャビティ内に射出する際に上下金型を開けておき、充填完了時に、または、充填完了直前に型締めを行い、所望の厚さにプレス成形する圧縮成形法(低圧圧縮成形法)が提案されている。このような圧縮成形法においては、変形及び形状精度、強度、転写性、薄肉化等が改善されることが知られている。
【0004】
また、特許文献2、特許文献3及び特許文献4には、導光板を製造するための圧縮成形法を行う成形型が記載されている。この成形型においては、トンネルゲートを介して溶融樹脂をキャビティ内に流し、型締め力により、キャビティを遮断し全体を圧縮するようになっている。ただし、この導光板は、円環形状ではないので、内側からはトンネルゲートが設けられていない。
【0005】
ところで、転がり軸受けにおいてボールや円柱を保持する保持器などの円環状部品には、近年、合成樹脂により製造されたものが提案されている。しかし、合成樹脂製の保持器については、形状が複雑なため、従来、射出成形法により製造されており、圧縮成形法によっては製造されていなかった。また、近年、産業機械をはじめとして、高精度で高速回転仕様の工作機械が増えており、また、振動や騒音を抑えるため、保持器自体に対しても、真円度も含めてさらに厳しい形状精度が要求がされている。
【0006】
さらに、一つの成形型によって複数の成形品を同時に成形するいわゆる「多数個取り」を行う場合には、複数の製品間でゲートバランスを完全にとることは極めて困難である。ゲートバランスが崩れると、各成形品の重量が異なってしまい、寸法、バリ、ショット等に影響が出る。
【0007】
また、射出時にキャビティ内に空気があると、溶融樹脂が充填されるときには、この空気が排除させる。そのため、充填圧が高くなって圧カ損失が大きくなり、各キャビティの充填バランスが崩れる虞がある。また、ガスが断熱圧縮され、いわゆるガス焼け不良が生ずる虞がある。
【0008】
多数個取りの成形型においてゲートバランスをとる技術として、特許文献5には、各キャビティに流すランナーの流量を調整できるバルブを設けた成形型が記載されている。
【0009】
また、特許文献6及び特許文献7には、各キャビティにセンサーを設け、このセンサーによる検出結果に応じて、ホットランナーのシリンダにより各キャビティのバルブゲートを個別に止め、各キャビティにおける成形品の重量を一定にする技術が記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開昭61−022917号公報
【特許文献2】特開2003−326557公報
【特許文献3】特願2002−138877公報
【特許文献4】特許3908593号公報
【特許文献5】特開2002−103401公報
【特許文献6】特開2002−66453公報
【特許文献7】特開平6−339952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したような射出成形法においては、転がり軸受けの保持器を合成樹脂材料により成形するにあたり、溶融樹脂がゲートから流れ込みウェルド付近で合流するため、溶融樹脂の合流部は溶融が不完全となり、スキン層が形成され、ウェルド以外の場所と比べて剛性が低くなるという問題があった。また、合成樹脂材料を射出し充填した後、高圧で保圧を行なうため、ウェルド及びゲート付近には、バリが出易くなっていた。
【0012】
また、保持器の製造に使用する合成樹脂材料は、ガラス繊維やカーボン繊維で強化されているものが多いため、合成樹脂材料の流れ方向と流れに直交する方向とでは、繊維の配向の影響により、収縮率が異なる。そして、ウェルド付近では、溶融した合成樹脂材料が高圧で衝突するため、繊維の方向が変化し、真円度が劣化して楕円形になる虞がある。
【0013】
保持器の真円度が劣化すると、この保持器を用いて軸受けを構成した場合において、遠心力の影響で外側に振られるため、保持器の内側の案内面が拘束されたり、あるいは、外側の案内隙間が拡大してしまったりする。この結果、軸受けの回転が停止してしまったり、振動や騒音が発生し、軸受けの機能が低下する虞があった。特に、このような保持器は、高速回転及び高精度の保持器として使用することは困難であった。また、樹脂材料中の繊維の配向や残留応力による反りや倒れの影響により、成形収縮率が一定にならないため、金型指示寸法が一定にならないという不都合があった。
【0014】
さらに、いわゆる「多数個取り」を行う場合において、特許文献5に記載された技術においては、各ショット毎にバラツキが出た場合には、各キャビティのゲートバランスが変わってしまう虞がある。また、特許文献6及び特許文献7に記載された技術においては、成形型の構造が複雑であるとともに、各キャビティのバルブゲートを最適なタイミングで止めることは困難である。
【0015】
なお、前述したような導光板を製造するための成形型においては、導光板の形状が平面板状であるため、製品内側の位置にトンネルゲートを設けることは不可能である。一方、円環状部品を製造する場合においては、内側にトンネルゲートを設けることにより、高精度、かつ、高速の充填が可能となり、スキン層を薄くして、高い強度の製品を製造することができると考えられる。
【0016】
そこで、本発明は、前述の実情に鑑みて提案されるものであって、合成樹脂材料からなる円環状部品、例えば、転がり軸受けの保持器をいわゆる「多数個取り」により製造するための成形型であって、高速充填、かつ、低圧圧縮射出成形法を用いることにより、真円度、反り、倒れ等について高精度の成形を行うことができ、かつ、ウェルド接合部の強度不足が改善され、また、ハイサイクル成形を可能にした成形型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前述の課題を解決するため、本発明に係る成形型は、以下のいずれかの構成を有するものである。
【0018】
〔構成1〕
合成樹脂材料製の円環状部品を複数同時に製造するための成形型であって、複数の円環状のキャビティを形成する上型及び下型と、各キャビティ内への溶融樹脂の供給路となるをホットランナーと、各キャビティ内を圧縮する円環状圧縮入れ子とを備え、各キャビティは、ホットランナーを介して溶融樹脂が充填された後、上型及び下型を型締めした状態において、オーバーフローランナーによって連通されており、円環状圧縮入れ子がキャビティ側に前進され各キャビティ内が圧縮されるときには、オーバーフローランナーにより、各キャビティのウェルド付近のトンネルゲートが連通され、各キャビティ内の圧力が一定に保たれることを特徴とするものである。
【0019】
〔構成2〕
構成1を有する成形型において、ホットランナーのノズル出口付近には、外部から操作可能な流量調整ピンが進入されており、該流量調整ピンの進入量を調整することにより、ゲートバランスがとられることを特徴とするものである。
【0020】
〔構成3〕
構成2を有する成形型において、型内圧カセンサーと、型内圧カセンサーの検知結果に応じて駆動されるモータとを備え、モータにより流量調整ピンの進入量を調整することによって、ゲートバランスをとることを特徴とするものである。
【0021】
〔構成4〕
構成1乃至構成3のいずれか一を有する成形型において、オーバーフローランナーには、各キャビティから略等距離の位置に真空吸引バルブが設けられており、溶融樹脂が各キャビティ内に充填された後、各キャビティ内が圧縮されるときに、真空吸引バルブを介して各キャビティ内を吸引し、各キャビティからオーバーフローした溶融樹脂が真空吸引バルブの中心付近の円環状の立ち上がり壁に当たることにより、樹脂圧により上がり壁が下降して真空吸引バルブを閉じることにより、溶融樹脂の流出が防止されることを特徴とするものである。
【0022】
なお、真空吸引バルブは、中心に複数の縦溝を設けることにより、この溝から吸引可能となっている。真空吸引バルブを介して吸引することにより、高速充填が可能となり、ガス焼けが防止される。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る成形型においては、構成1を有することにより、各キャビティは、ホットランナーを介して溶融樹脂が充填された後、上型及び下型を型締めした状態において、オーバーフローランナーによって連通されており、円環状圧縮入れ子がキャビティ側に前進され各キャビティ内が圧縮されるときには、オーバーフローランナーにより、各キャビティのウェルド付近のトンネルゲートが連通され、各キャビティ内の圧力が一定に保たれるので、いわゆる「多数個取り」を行う場合において、1個のキャビティにより成形する場合と同様に、各キャビティにおいてバランスのとれた圧縮成形が可能となる。
【0024】
本発明に係る成形型においては、構成2を有することにより、ホットランナーのノズル出口付近に外部から操作可能な流量調整ピンが進入されており、該流量調整ピンの進入量を調整することにより、ゲートバランスがとられるので、各キャビティのバランスをとり各キャビティにおける製品重量を一定にすることができる。
【0025】
本発明に係る成形型においては、構成3を有することにより、型内圧カセンサーの検知結果に応じて駆動されるモータにより流量調整ピンの進入量を調整することによって、ゲートバランスをとるので、各キャビティにおける製品重量を一定にすることができる。また、製品重量の違う異形成形の場合には、モータによりピンの進入量を調整できるので、効果的である。
【0026】
本発明に係る成形方法においては、構成4を有することにより、オーバーフローランナーには、各キャビティから略等距離の位置に真空吸引バルブが設けられており、溶融樹脂が各キャビティ内に充填された後、各キャビティ内が圧縮されるときに、真空吸引バルブを介して各キャビティ内を吸引し、各キャビティからオーバーフローした溶融樹脂が真空吸引バルブの中心付近の円環状の立ち上がり壁に当たることにより、樹脂圧により上がり壁が下降して真空吸引バルブを閉じることにより、溶融樹脂の流出が防止されるので、型内圧カ損失が低下し高速充填が可能となり、スキン層を薄くしてウェルド強度の向上を図ることができ、また、ハイサイクル成形が可能になるとともに、ガス焼けを防ぐことができる。
【0027】
すなわち、本発明は、合成樹脂材料からなる円環状部品、例えば、転がり軸受けの保持器をいわゆる「多数個取り」により製造するための成形型であって、高速充填、かつ、低圧圧縮射出成形法を用いることにより、真円度、反り、倒れ等について高精度の成形を行うことができ、かつ、ウェルド接合部の強度不足が改善され、また、ハイサイクル成形を可能にした成形型を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
【0029】
〔第1の実施の形態〕
図1は、本発明に係る成形型の第1の実施の形態における射出時の構成を示す断面図である。
【0030】
この成形型は、合成樹脂材料製の円環状部品を複数同時に製造するための成形型であって、それぞれが円環状の複数のキャビティCを形成する上型A及び下型Bを有している。上型Aは、固定型であって、固定側取付け板1、ホットランナー用受け板4、圧縮板5、固定側受け板6が積層され、さらに、固定側外輪7及び固定側内輪8が取付けられて構成されている。
【0031】
この上型Aの中心部には、溶融樹脂材料の流入口となるスプール部2が形成され、スプール部2から分岐した複数のホットランナー部11を経て、トンネルゲート9を介して、成形品12を形成する複数のキャビティCまで通じている。トンネルゲート9は、スプール部2及び各ホットランナー部11を介して流入した合成樹脂材料を、キャビティCの内側部より、このキャビティC内に流すようになっている。なお、このトンネルゲート9は、1箇所であってもよく、また、キャビティCの内側部に沿って複数が設けられていてもよい。
【0032】
なお、トンネルゲート9の反対側のウェルド側には、高速充填を改善するためのガス逃げ用の湯溜りが設けられている。この湯溜りの位置は、キャビティCの外側及び内側のいずれに設けてもよい。
【0033】
また、この上型A内には、シリンダ3−1、このシリンダ3−1により円環状のピストン及び圧縮板5を介して下型B側に押圧される複数の連結ポール3−2が設けられている。複数の連結ポール3−2の下端部は、それぞれ円環状圧縮入れ子3−3に当接している。これら円環状圧縮入れ子3−3の下端部は、各キャビティCの上面部をなしている。
【0034】
下型Bは、可動型であって、可動側型板18、受け板17、突き出し板(エジェクタプレート)16が積層されて構成されている。この下型B内には、突き出しピン14が設けられている。この突き出しピン14は、キャビティC内において成形された成形品12を、キャビティCから上方に押し出すためのものである。なお、パーティングの押し切り面は、図6に示すように、外周と内周の両方に設けられている。
【0035】
各キャビティCは、ホットランナー部11を介して溶融樹脂が充填された後、上型A及び下型Bを型締めした状態において、オーバーフローランナー13によって連通されている。
【0036】
図8は、本発明に係る成形型におけるオーバーフローランナー構成を示す平面図である。
【0037】
オーバーフローランナー13は、図8に示すように、各キャビティCを互いに連通させるように、各キャビティCの中心部(各キャビティCから略等距離の位置)から放射状に形成されている。
【0038】
この成形型においては、射出時、シリンダー3−1が前進している時は、円環状圧縮入れ子3−3は後退し、圧縮時は、シリンダー3−1が型閉めにより後退し、円環状圧縮入れ子3−3は逆に前進して、各キャビティC内を圧縮する。各キャビティC内が圧縮されるときには、オーバーフローランナー13により、各キャビティCのウェルド付近のトンネルゲート9が連通され、各キャビティC内の圧力が一定に保たれるようになっている。
【0039】
また、図1に示すように、各ホットランナー部11の各ノズル出口付近には、外部から調整螺子19により操作可能な流量調整ピン20が進入されており、流量調整ピン20の進入量を調整することにより、ゲートバランスがとられるようになっている。調整螺子19と流量調整ピン20とは、ウォームギヤ21及びウォームホイール22を介して連結されている。
【0040】
さらに、オーバーフローランナー13には、図1及び図8に示すように、各キャビティCから略等距離の位置に真空吸引バルブ15が設けられている。この成形型においては、溶融樹脂が各キャビティC内に充填された後、各キャビティC内が圧縮されるときに、真空吸引バルブ15を介して各キャビティC内を吸引し、各キャビティCからオーバーフローした溶融樹脂が真空吸引バルブ15に到達したときに真空吸引バルブ15を閉じる。このとき、溶融樹脂の流出が防止される。
【0041】
なお、真空吸引バルブ15は、中心に複数の縦溝を設けたバルブシリンダを有し、この溝から吸引可能となっている。真空吸引バルブ15を介して吸引することにより、高速充填が可能となり、ガス焼けが防止される。
【0042】
この成形型を用いることによって、以下のように円環状製品の成形を行うことができる。
【0043】
図2は、図1に示した成形型の型開き状態の金型全体断面図である。
【0044】
この成形型においては、図2に示すように、成形の開始前には、上型Aと下型Bとを離間させた型開き状態とする。
【0045】
図3は、図1に示した成形型の型閉め射出完了時の金型全体断面図である。
【0046】
次に、図3に示すように、上型Aと下型Bとを合わせて型閉めを行い、シリンダ3−1及び円環状圧縮入れ子3−3を前進させた状態で、スプール部2、ホットランナー部11及び複数のトンネルゲート9を介して、各キャビティC内に、溶融合成樹脂を高速充填させる。
【0047】
この成形型において、圧縮時は、シリンダー3−1が型閉めにより後退し、円環状圧縮入れ子3−3が逆に前進し、トンネルゲート9を塞いでキャビティC内を隔離し、さらにキャビティC内が圧縮される。すなわち、この成形型は、型開き時には、シリンダ3−1が前進状態で、上型Aはストップボルトによりストップ状態となっており、固定側外輪7及び固定側内輪8が前進状態で一定隙間を保っており、型閉め後に樹脂材料を射出し、シリンダ3−1の力以上の力で圧縮成形を行う構造となっている。
【0048】
図4は、図1に示した成形型の圧縮成形時の金型全体断面図である。
【0049】
キャビティC内に一定量の溶融合成樹脂が充填された後、または、同時に、図4に示すように、シリンダ3−1を後退させる。すると、圧縮板5、複数の連結ポール3−2及び円環状圧縮入れ子3−3が、多段、または、一定の速度で前進することにより、トンネルゲート9が塞がれる。さらに、シリンダ3−1を後退させることにより、キャビティC内の合成樹脂材料は、均一な圧力で圧縮成形される。また、このとき、オーバーフローランナー13により、各キャビティCのウェルド付近のトンネルゲート9が連通されているため、各キャビティC内の圧力が一定に保たれる。
【0050】
また、図7に示すように、各ホットランナー部11の各ノズル出口付近には、外部から操作可能な流量調整ピン20が進入されており、流量調整ピン20の進入量を調整することにより、ゲートバランスがとられるようになっている。
【0051】
さらに、オーバーフローランナー13には、図1及び図8に示すように、各キャビティCから略等距離の位置に真空吸引バルブ15が設けられている。この成形型においては、溶融樹脂が各キャビティC内に充填された後、各キャビティC内が圧縮されるときに、真空吸引バルブ15を介して各キャビティC内を吸引し、各キャビティCからオーバーフローした溶融樹脂が真空吸引バルブ15に到達したときに真空吸引バルブ15を閉じる。このとき、溶融樹脂の流出が防止される。
【0052】
真空吸引バルブ15のバルブシリンダは、図9中の(a)に示すように、オーバーフローランナー13内に溶融樹脂が到達していないときには、バネ23によりオーバーフローランナー13側に付勢されており、このとき、バルブシリンダに設けられた複数の縦溝15aがオーバーフローランナー13内に連通している。このとき、この縦溝15aからオーバーフローランナー13内を吸引することが可能である。そして、各キャビティC内に充填された溶融樹脂が各キャビティCからオーバーフローして、オーバーフローランナー13内に到達すると、図9中の(b)に示すように、溶融樹脂の圧力により、真空吸引バルブ15のバルブシリンダがバネ23の付勢力に抗してオーバーフローランナー13より離間する方向に移動され、複数の縦溝15aが塞がれる。
【0053】
図5は、図1に示した成形型の型開き後、成形品突き出し時の金型全体断面図である。
【0054】
成形品12が形成された後、図5に示すように、上型Aと下型Bとを離間させた型開き状態とし、突き出しピン14により、各キャビティC内において成形された複数の成形品12を、キャビティCから上方に押し出す。
【0055】
このように、本発明においては、上型A及び下型Bにより形成された複数の円環状のキャビティC内を型締めするとともに、このキャビティC内を圧縮する円環形状のシリンダ3−1を前進させた状態として、キャビティC内に、このキャビティCの内側部よりスプール部2、ホットランナー部11及びトンネルゲート9を介して溶融させた合成樹脂材料を一定量充填させ、充填の後、または、充填と同時に、シリンダ3−1を後退させ円環状圧縮入れ子3−3を前進させてトンネルゲート9を塞ぎ、キャビティC内を隔離し、さらに、シリンダ3−1を後退させ円環状圧縮入れ子3−3を前進させて、キャビティC内全体において高密度の溶融樹脂材料を均一圧縮成形する。
【0056】
なお、本発明に係る成形方法において、圧縮成形は、初めは低圧で、一定短時間後に合成樹脂材料をキャビティCの隅々まで充填した後に、最後は高圧で圧縮する多段圧縮を行うことにより、バリの発生を防ぎ、残留応力を軽減することができる。
【0057】
従来の成形型においては、溶融合成樹脂を高圧で射出するため、ゲートやウェルドの付近には残留応力が生じ、変形やソリの原因になっていたが、本発明においては、溶融合成樹脂は、高速で充填され低圧で圧縮成形されるため、ゲートやウェルドの付近に残留応力が生じにくく、反りや変形が大幅に減少する。
【0058】
また、一般的な保持器の材料は、強度や耐熱性を考慮して、「ナイロン」(登録商標)にガラス、または、カーボン等の繊維を含ませている。そのため、ウェルド部において流動樹脂が衝突し、繊維の配向が変わるため、樹脂の流れ方向と、流れ方向に直交する方向とでは収縮率が異なり、ゲートやウェルドの付近に括れが生じ、円環形状全体が楕円形状になり、真円度が劣化していた。
【0059】
真円度が劣化すると、軸受けのコロや球体を保持するために最も重要なP.C.D精度が悪化し、高速回転時のブレの原因になり、騒音や振動が生ずることとなる。本発明においては、溶融合成樹脂を高速充填した後、低圧で型全体で均一に圧縮するため、溶融合成樹脂の合流部の衝突も抑えられ、溶融合成樹脂中の繊維の配向の影響も受けづらく、真円度を大幅に改善することができる。
【0060】
また、本発明においては、トンネルゲート9を介して高速充填された溶融合成樹脂は、ウェルド付近で合流するため、せん断発熱が生じ、粘度が低くなって流れが改善され、そのため、スキン層は薄くなり、ウェルドラインが出にくくなる。トンネルゲート9を円環形状の内側に設けていることにより、高速充填が可能となり、スキン層を薄くすることができる。また、通常成形と比較して溶融合成樹脂の充填量を変えることにより、高密度、かつ、高強度の保持器を成形することが可能になる。さらに、溶融合成樹脂を高速充填するため、成形のサイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0061】
すなわち、型締め時には、環状形状のシリンダ3−1が前進しており、溶融合成樹脂がホットランナー部11及びトンネルゲート9から、キャビティCの容積以上の溶融合成樹脂がキャビティC内に高速充填されるので、樹脂材料のせん断熱が発生し、粘度も低下する。そのため、流動性が改善され、スキン層が薄くなり、合流部のウェルドラインが発生しにくい。そして、一定量の溶融合成樹脂を充填した直後、または、同時に、円環状圧縮入れ子3−3が後退することにより、低圧で圧縮成形を行い、キャビティC全体において均一な圧力で成形するので、高剛性、高強度、高密度の保持器を成形することができる。
【0062】
また、溶融合成樹脂の高速充填後に、円環状圧縮入れ子3−3が後退することにより低圧で圧縮成形されるので、ウェルド付近の配向の乱れも少なく、ガス焼けやバリの発生が抑えられる。そのため、真円度も改善され、高精度の保持器の製造が可能になる。
【0063】
さらに、溶融合成樹脂の高速充填後の保圧が無く、低圧圧縮を行い、その後冷却されるため、全体のサイクルタイムの短縮が可能であり、生産性の向上が図られる。また、低圧で成形を行うので、金型寿命が長く、トータルコストの大幅な削減につながる。
【0064】
さらに、本発明に係る成形型においては、各キャビティCは、上型A及び下型Bを型締めした状態において、オーバーフローランナー13によって連通されており、各キャビティC内が圧縮されるときには、オーバーフローランナー13により、各キャビティCのウェルド付近のトンネルゲート9が連通され、各キャビティC内の圧力が一定に保たれるため、いわゆる「多数個取り」を行う場合において、1個のキャビティにより成形する場合と同様に、各キャビティCにおいてバランスのとれた圧縮成形が可能となる。
【0065】
また、流量調整ピン20の進入量を調整することにより、ゲートバランスがとられるので、各キャビティCのバランスをとり各キャビティCにおける製品重量を一定にすることができる。
【0066】
さらに、本発明においては、オーバーフローランナー13には真空吸引バルブ15が設けられており、各キャビティC内が圧縮されるときに、真空吸引バルブ15を介して各キャビティC内を吸引し、各キャビティCからオーバーフローした溶融樹脂が真空吸引バルブ15に到達したときに真空吸引バルブ15を閉じることにより、溶融樹脂の流出が防止される。真空吸引バルブ15を用いることにより、型内圧カ損失が低下し高速充填が可能となり、スキン層を薄くしてウェルド強度の向上を図ることができ、また、ハイサイクル成形が可能になるとともに、ガス焼けを防ぐことができる。また、製品重量の違う異形成形の場合には、モータによりピンの進入量を調整できるので、効果的である。
【0067】
〔第2の実施の形態〕
図10は、本発明に係る成形型の第2の実施の形態における構成を示す断面図である。
【0068】
本発明に係る成形型は、図10に示すように、モータ24により、流量調整ピン20の進入量を調整して、ゲートバランスをとるようにしてもよい。すなわち、この成形型においては、前述の第1の実施の形態における調整螺子19に代えて、複数のモータ24が設けられており、これらモータ24により、各流量調整ピン20の進入量が調整される。他の構成は、前述の第1の実施の形態における成形型と同様である。
【0069】
そして、この成形型は、図11に示すように、型内圧カセンサー25を備えている。モータ24は、型内圧カセンサー25の検知結果に応じて駆動される。型内圧カセンサー25は、オーバーフローランナー13内に進入された検知ピン26を介して、オーバーフローランナー13内の圧力を検知する。
【0070】
この型内圧カセンサー25は、各キャビティCに対応させて、オーバーフローランナー13の複数箇所に設ける。各型内圧カセンサー25からの出力をプロットすると、図12に示すように、オーバーフローランナー13内の複数箇所における圧力変動を検知することができる。
【0071】
例えば、第1のキャビティCの付近に設けた第1の型内圧カセンサー25により検出された圧力のピーク時間をT1とし、第2のキャビティCの付近に設けた第2の型内圧カセンサー25により検出された圧力のピーク時間をT2とし、第3のキャビティCの付近に設けた第3の型内圧カセンサー25により検出された圧力のピーク時間をT3とし、第4のキャビティCの付近に設けた第4の型内圧カセンサー25により検出された圧力のピーク時間をT4とする。そして、真空吸引バルブ15付近に設けた第5の型内圧カセンサー25により検出された圧力のピーク時間をT5とする。ここで、各キャビティCに対応したタイムラグT5−T1、T5−T2、T5−T3、T5−T4をそれぞれ算出し、このタイムラグが等しい値になるように、流量調整ピン20の進入量を算出して、この算出結果に応じて、各モータ24を駆動する。
【0072】
すなわち、各キャビティCに対応する流量調整ピン20の進入量を調整して、T1,T2,T3,T4が一致するようにし、また、T1,T2,T3,T4における圧力のピーチ値が一致するようにする。このように流量調整ピン20を調整することにより、ゲートバランスがとられ、各キャビティCにおける製品重量を一定にすることができる。このようにして、この成形型においては、型内圧カセンサー25の検知結果に応じて駆動されるモータ24により、流量調整ピン20の進入量が調整され、ゲートバランスがとられる。
【0073】
なお、本発明に係る成形型においては、油圧シリンダーに代わる圧縮手段として、圧縮板5と固定側受け板6との間にスプリングを設けることとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る成形型の第1の実施の形態における射出時の構成を示す断面図である。
【図2】図1に示した成形型の型開き状態の金型全体断面図である。
【図3】図1に示した成形型の型閉め射出完了時の金型全体断面図である。
【図4】図1に示した成形型の圧縮成形時の金型全体断面図である。
【図5】図1に示した成形型の型開き後、成形品突き出し時の金型全体断面図である。
【図6】図1に示した成形型の型開き後、成形品を突き出した状態を示す断面図である。
【図7】図1に示した成形型のホットランナーのノズル付近の構成を示す断面図である。
【図8】図1に示した成形型におけるオーバーフローランナーの構成を示す平面図である。
【図9】図1に示した成形型におけるオーバーフローランナー真空吸引バルブの構成を示す断面図である。
【図10】本発明に係る成形型の第2の実施の形態における構成を示す断面図である。
【図11】図10に示した成形型の圧力センサーの構成を示す断面図である。
【図12】図10に示した成形型の圧力センサーにより検出されるオーバーフローランナー内の圧力変動を示すグラフである。
【符号の説明】
【0075】
1 固定側取付け板
2 スプール部
3−1 シリンダ
3−2 連結ポール
3−3 円環状圧縮入れ子
4 ホットランナー用受け板
5 圧縮板
6 固定側受け板
7 固定側外輪
8 固定側内輪
9 トンネルゲート
11 ホットランナー部
12 成形品
13 オーバーフローランナー
14 突き出しピン
15 真空吸引バルブ
16 突き出し板(エジェクタプレート)
17 受け板
18 可動側型板
19 調整螺子
20 流量調整ピン
21 ウォームギヤ
22 ウォームホイール
23 バネ
24 モータ
25 型内圧カセンサー
A 上型
B 下型
C キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂材料製の円環状部品を複数同時に製造するための成形型であって、
複数の円環状のキャビティを形成する上型及び下型と、
前記各キャビティ内への溶融樹脂の供給路となるをホットランナーと、
前記各キャビティ内を圧縮する円環状圧縮入れ子と
を備え、
前記各キャビティは、前記ホットランナーを介して溶融樹脂が充填された後、前記上型及び前記下型を型締めした状態において、オーバーフローランナーによって連通されており、
前記円環状圧縮入れ子が前記キャビティ側に前進され、前記各キャビティ内が圧縮されるときには、前記オーバーフローランナーにより、前記各キャビティのウェルド付近のトンネルゲートが連通され、前記各キャビティ内の圧力が一定に保たれる
ことを特徴とする成形型。
【請求項2】
前記ホットランナーのノズル出口付近には、外部から操作可能な流量調整ピンが進入されており、該流量調整ピンの進入量を調整することにより、ゲートバランスがとられる
ことを特徴とする請求項1記載の成形型。
【請求項3】
型内圧カセンサーと、
前記型内圧カセンサーの検知結果に応じて駆動されるモータとを備え、
前記モータにより、前記流量調整ピンの進入量を調整することによって、ゲートバランスをとる
ことを特徴とする請求項2記載の成形型。
【請求項4】
前記オーバーフローランナーには、前記各キャビティから略等距離の位置に真空吸引バルブが設けられており、
溶融樹脂が前記各キャビティ内に充填された後、前記各キャビティ内が圧縮されるときに、前記真空吸引バルブを介して前記各キャビティ内を吸引し、前記各キャビティからオーバーフローした溶融樹脂が前記真空吸引バルブの中心付近の円環状の立ち上がり壁に当たることにより、樹脂圧により前記上がり壁が下降して前記真空吸引バルブを閉じることにより、溶融樹脂の流出が防止される
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の成形型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−286052(P2009−286052A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142885(P2008−142885)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(507409302)
【Fターム(参考)】