説明

接着剤組成物、接着シートおよび半導体装置の製造方法

【課題】半導体チップを実装したパッケージにおいて、厳しいリフロー条件に曝された場合であっても、接着界面での剥離やパッケージクラックの発生がない、高いパッケージ信頼性を達成できる接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】本発明に係る接着剤組成物は、エネルギー線硬化型粘着成分と、光重合開始剤と、熱硬化型接着成分とを含み、
該光重合開始剤の重量平均分子量が400〜100000であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハなどをダイシングし半導体チップを得て、半導体チップを有機基板やリードフレーム上にダイボンディングする工程で使用するのに特に適した接着剤組成物、および該接着剤組成物からなる接着剤層を有する接着シート、ならびに該接着シートを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウエハは大径の状態で製造され、この半導体ウエハは、素子小片(半導体チップ)に切断分離(ダイシング)された後に次の工程であるボンディング工程に移されている。この際、半導体ウエハは予め粘着シートに貼着された状態でダイシング、洗浄、乾燥、エキスパンディング、ピックアップの各工程が加えられた後、次工程のボンディング工程に移送される。
【0003】
これらの工程の中でダイシング工程とボンディング工程のプロセスを簡略化するために、ウエハ固定機能とダイ接着機能とを同時に兼ね備えたダイシング・ダイボンディング用接着シートが種々提案されている(たとえば、特許文献1〜4参照)。ダイシング・ダイボンディング用接着シートの接着剤層は、ウエハのダイシング時にはウエハを固定し、ダイシング時にウエハとともにダイシングされ、チップと同形状の接着剤に切断される。その後、チップのピックアップを行うと、チップ裏面に接着剤層が残着した状態でピックアップされる。チップ裏面に残着した接着剤層を介して、チップをリードフレーム等のチップ搭載部に載置し、160℃程度で接着剤層を熱硬化することで、ダイボンドが完了する。次いで、樹脂封止して半導体装置が得られる。その後、半田リフローなどにより半導体装置を所望の箇所に実装する。
【0004】
上記特許文献1〜4に開示されている接着シートは、ダイ接着用接着剤の塗布工程を省略できる利点がある。このような接着シートは一般にエネルギー線硬化性と熱硬化性とを有し、エネルギー線硬化型粘着成分と、熱硬化型接着成分を含有する接着剤層を有する。また、より効果的にエネルギー線硬化性を発現するため、光重合開始剤が配合されている。
【0005】
一般的に使用される光重合開始剤は、エネルギー線の照射により開裂し、ラジカル種を発生させる低分子量の化合物であり、このラジカル種が重合開始のトリガーとなる。しかし、重合反応の終了後には、ラジカル種の残渣が接着剤層中に残留することがある。また、ラジカル種発生時には、強い臭気を発生し、作業衛生の点でも問題がある。
【0006】
また、ウエハのダイシング時には、発生する熱や切屑を除去するために、水を噴霧するが、水によって低分子量の光重合開始剤が流失してしまうこともある。光重合開始剤が流失すると、接着剤層の硬化不全が起こり、チップのピックアップ時に接着剤層が接着シートの基材側に残着し、チップとともに接着剤層をピックアップできない場合がある。
【0007】
また、接着シートの製造時には、接着剤組成物を溶剤に希釈した後に塗布・乾燥し、接着剤層を形成している。乾燥時には低分子量の光重合開始剤が揮発してしまい、設計した組成の接着剤層が得られない場合があった。
【0008】
なお、特許文献5には、エネルギー線硬化型粘着剤に、ポリマー化した光重合開始剤を配合した粘着シートが開示されている。ポリマー化した光重合開始剤によれば、上記のような乾燥時の揮発、水による流出や、臭気の問題は低減される。しかし、特許文献5においては、もっぱらダイシングシートとしての用途のみが考慮されており、ダイ接着機能を付与することは何ら記載がなく、したがって熱硬化性成分を配合することについての記載もない。当然、ダイ接着のために粘着剤層が半導体パッケージの一部として使用されることや、その際に高い信頼性が要求されていることについて検討されていない。また、特許文献5におけるエネルギー線硬化型粘着剤は、アクリル系の粘着ポリマー(ベースポリマー)に、比較的低分子量のエネルギー線硬化性樹脂(放射線重合性化合物)を配合してなる粘着剤である。このため、ダイシング時に噴霧する水によって、エネルギー線硬化性樹脂が流失してしまうことがある。この結果、接着剤層の硬化不全や未反応の低分子量化合物による汚染等の問題が発生し、そのダイ(チップ)を使用したパッケージの信頼性低下を招来することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−32181号公報
【特許文献2】特開平8−239636号公報
【特許文献3】特開平10−8001号公報
【特許文献4】特開2000−17246号公報
【特許文献5】特開平10−279894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、半導体装置に対する要求特性は非常に厳しいものとなっている。たとえば、厳しい湿熱環境下におけるパッケージ信頼性が求められている。しかし、半導体チップ自体が薄型化した結果、チップの強度が低下し、厳しい湿熱環境下におけるパッケージ信頼性は十分なものとは言えなくなってきた。
【0011】
また、電子部品の接続において行われている表面実装法ではパッケージ全体が半田融点以上の高温下にさらされる表面実装法(リフロー)が行われている。最近では環境への配慮から鉛を含まない半田へ移行したことにより、実装時の最大温度が従来の230〜240℃から260〜265℃へと上昇し、半導体パッケージ内部で発生する応力が大きくなり、接着界面での剥離やパッケージクラックの危険性はさらに高くなっている。
【0012】
特に、前記特許文献1〜4にように、比較的低分子量の光重合開始剤を使用した場合には、未反応の光重合開始剤や、ラジカル種の残渣などの低分子量化合物がエネルギー線硬化後の接着剤層中に残留している。これらの低分子量化合物は、チップを搭載する際の熱硬化温度(160℃程度)において、ガス化しやすく、ボイド発生の原因となる。接着剤層中にボイドが発生すると、接着力が低下し、接着界面での剥離やパッケージクラックを誘発する。また、最終的に熱硬化した接着剤層中にも低分子量化合物が残留するため、高温化したリフロー条件下で爆発的に気化し、接着界面での剥離やパッケージクラックが多発するようになった。
【0013】
以上のように、実装温度の上昇がパッケージの信頼性低下を招いており、厳格化しつつある半導体パッケージの信頼性に対して、従来の接着剤では要求レベルを満たせなくなってきた。
【0014】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであって、高温度高湿度に曝された場合であってもチップ裏面への密着性が高く保たれた接着剤組成物および接着シート、ならびにこの接着剤組成物を用いた半導体装置の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題の解決を目的として鋭意研究した結果、接着剤組成物中に含まれる光重合開始剤として、比較的高分子量の開始剤を使用することで、ガス化する低分子量成分が減少し、厳しいリフロー条件に曝された場合であっても、接着界面での剥離やパッケージクラックが発生しないことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
本発明は、以下の要旨を含む。
(1)エネルギー線硬化型粘着成分と、光重合開始剤と、熱硬化型接着成分とを含み、
該光重合開始剤の重量平均分子量が400〜100000である接着剤組成物。
【0017】
(2)前記エネルギー線硬化型粘着成分が、主鎖または側鎖に、エネルギー線重合性基が結合されてなるエネルギー線硬化型粘着性重合体からなる(1)に記載の接着剤組成物。
【0018】
(3)光重合開始剤の含有量が、接着剤組成物の全量100重量部に対して0.08〜5.5重量部である(1)または(2)に記載の接着剤組成物。
【0019】
(4)上記(1)〜(3)の何れかに記載の接着剤組成物からなる接着剤層が基材上に剥離可能に形成されてなる接着シート。
【0020】
(5)上記(4)に記載の接着シートの接着剤層に半導体ウエハを貼着し、該半導体ウエハをダイシングして半導体チップとし、該半導体チップ裏面に該接着剤層を固着残存させて基材から剥離し、該半導体チップをダイパッド部上、または別の半導体チップ上に該接着剤層を介して載置する工程を含む半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、半導体チップを実装したパッケージにおいて、厳しいリフロー条件に曝された場合であっても、半導体チップや基板などとの接着界面での剥離やパッケージクラックの発生がない、高いパッケージ信頼性を達成できる接着剤組成物および該接着剤組成物からなる接着剤層を有する接着シートならびに該接着シートを用いた半導体装置の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について、その最良の形態も含めてさらに具体的に説明する。本発明に係る接着剤組成物は、エネルギー線硬化型粘着成分と、熱硬化型接着成分と、重量平均分子量が400〜100000の光重合開始剤とが含まれてなることを特徴としている。さらに、本発明の接着剤組成物には、各種物性を改良するため、必要に応じ他の成分が含まれていてもよい。以下、これら各成分について具体的に説明する。
【0023】
エネルギー線硬化型粘着成分
エネルギー線硬化型粘着成分は、接着剤組成物に十分な接着性および造膜性(シート加工性)を付与するためにアクリル重合体(A)のような粘着ポリマー成分を含有し、またエネルギー線硬化性化合物(B)を含有する。エネルギー線硬化性化合物(B)は、またエネルギー線重合性基を含み、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化し、接着剤組成物の粘着力を低下させる機能を有する。また、上記成分(A)および(B)の性質を兼ね備えるものとして、主鎖または側鎖に、エネルギー線重合性基が結合されてなるエネルギー線硬化型粘着性重合体(以下、成分(AB)と記載する場合がある)を用いてもよい。このようなエネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)は、粘着性とエネルギー線硬化性とを兼ね備える性質を有する。
【0024】
アクリル重合体(A)としては、従来公知のアクリル重合体を用いることができる。
アクリル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、1万以上200万以下であることが望ましく、10万以上150万以下であることがより望ましい。アクリル重合体(A)の重量平均分子量が低過ぎると接着剤層と基材との粘着力が高くなり、ピックアップ不良が起こることがあり、高過ぎるとチップ搭載部の凹凸へ接着剤層が追従できないことがあり、ボイドなどの発生要因になることがある。
【0025】
アクリル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−60℃以上30℃以下、さらに好ましくは−50℃以上20℃以下、特に好ましくは−40℃以上10℃以下の範囲にある。アクリル重合体(A)のガラス転移温度が低過ぎると接着剤層と基材との剥離力が大きくなってチップのピックアップ不良が起こることがあり、高過ぎるとウエハを固定するための接着力が不十分となるおそれがある。
【0026】
上記アクリル重合体(A)を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体が挙げられる。例えば、アルキル基の炭素数が1〜18であるアルキル(メタ)アクリレート、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられ;環状骨格を有する(メタ)アクリレート、例えばシクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、イミドアクリレートなどが挙げられ;水酸基を有する2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどが挙げられる。これらの中では、水酸基を有しているモノマーを重合して得られるアクリル重合体が、後述するエポキシ系熱硬化性樹脂(D)との相溶性が良いため好ましい。また、上記アクリル重合体(A)は、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルアセテートなどが共重合されていてもよい。
【0027】
エネルギー線硬化性化合物(B)は、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化する化合物である。このエネルギー線重合性化合物の例としては、エネルギー線重合性基を有する低分子量化合物(単官能、多官能のモノマーおよびオリゴマー)があげられ、具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジシクロペンタジエンジメトキシジアクリレート、イソボルニルアクリレートなどの環状脂肪族骨格含有アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレート、イタコン酸オリゴマーなどのアクリレート系化合物が用いられる。このような化合物は、分子内に少なくとも1つの重合性二重結合を有し、通常は、分子量が100〜30000、好ましくは300〜10000程度である。
【0028】
一般的には成分(A)100重量部に対して、成分(B)は30〜200重量部、好ましくは50〜150重量部程度の割合で用いられる。
【0029】
上記成分(A)および(B)の性質を兼ね備えるエネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)は、主鎖または側鎖に、エネルギー線重合性基が結合されてなる。
【0030】
エネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)の主骨格は特に限定はされず、粘着剤として汎用されているアクリル系共重合体であってもよく、またエステル型、エーテル型の何れであっても良いが、合成および粘着物性の制御が容易であることから、アクリル系共重合体を主骨格とすることが特に好ましい。
【0031】
エネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)の主鎖または側鎖に結合するエネルギー線重合性基は、たとえばエネルギー線重合性の炭素−炭素二重結合を含む基であり、具体的には(メタ)アクリロイル基等を例示することができる。エネルギー線重合性基は、アルキレン基、アルキレンオキシ基ポリアルキレンオキシ基を介してエネルギー線硬化型粘着性重合体に結合していてもよい。
【0032】
このような重合性基の具体例は、以下に説明するエネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)の製法からさらに明らかになる。
【0033】
重合性基が結合されたエネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)の重量平均分子量は、好ましくは10万以上であり、好ましくは10万〜150万であり、特に好ましくは15万〜100万である。またエネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)のガラス転移温度は、通常−70〜30℃程度である。
【0034】
エネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)は、官能基を含有する粘着性重合体と、該官能基と反応する置換基を有する重合性基含有化合物とを反応させて得られる。
【0035】
エネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)の主骨格の構造は特に限定はされないが、粘着剤として汎用されている各種のアクリル系共重合体が好ましい。
【0036】
以下、エネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)の製法について、特にアクリル系共重合体を主骨格とする例について詳述する。
【0037】
重合性基が結合されたエネルギー線硬化型アクリル系粘着性重合体(AB)は、官能基含有モノマー単位を有するアクリル系共重合体(a1)と、該官能基に反応する置換基を有する重合性基含有化合物(a2)とを反応させることによって得られる。
【0038】
アクリル系共重合体(a1)を形成する官能基含有モノマーは、重合性の二重結合と、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を分子内に有するモノマーであり、好ましくはヒドロキシル基含有不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和化合物が用いられる。
【0039】
このような官能基含有モノマーのさらに具体的な例としては、2-ヒドロキシメチルアクリレート、2-ヒドロキシメチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート等のヒドロキシル基含有アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有化合物があげられる。上記の官能基含有モノマーは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
アクリル系共重合体(a1)は、上記官能基含有モノマーから導かれる構成単位と、(メタ)アクリル酸エステルモノマーあるいはその誘導体から導かれる構成単位とからなる。(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられる。(メタ)アクリル酸エステルモノマーの誘導体としては、ジメチルアクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド等のジアルキル(メタ)アクリルアミドがあげられる。これらの中でも、特に好ましくはアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ジメチルアクリルアミド等である。
【0041】
アクリル系共重合体(a1)は、上記官能基含有モノマーから導かれる構成単位を通常3〜100重量%、好ましくは5〜40重量%、特に好ましくは10〜30重量%の割合で含有し、(メタ)アクリル酸エステルモノマーあるいはその誘導体から導かれる構成単位を通常0〜97重量%、好ましくは60〜95重量%、特に好ましくは70〜90重量%の割合で含有してなる。
【0042】
アクリル系共重合体(a1)は、上記のような官能基含有モノマーと、(メタ)アクリル酸エステルモノマーあるいはその誘導体とを常法にて共重合することにより得られるが、これらモノマーの他にも、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、スチレン、ビニルアセテート等が共重合されていてもよい。
【0043】
アクリル系共重合体(a1)の製造方法については、特に限定されるものではなく、例えば溶剤、連鎖移動剤、重合開始剤等の存在下で溶液重合する方法や、乳化剤、連鎖移動剤、重合開始剤、分散剤等の存在下の水系でエマルション重合する方法にて製造される。
【0044】
上記官能基含有モノマー単位を有するアクリル系共重合体(a1)を、該官能基に反応する置換基を有する重合性基含有化合物(a2)と反応させることにより、重合性基が結合されたエネルギー線硬化型アクリル系粘着性重合体(AB)が得られる。
【0045】
重合性基含有化合物(a2)には、アクリル系共重合体(a1)中の官能基と反応しうる置換基が含まれている。この置換基は、前記官能基の種類により様々である。たとえば、官能基がヒドロキシル基またはカルボキシル基の場合、置換基としてはイソシアネート基、エポキシ基等が好ましく、官能基がカルボキシル基の場合、置換基としてはイソシアネート基、エポキシ基等が好ましく、官能基がアミノ基または置換アミノ基の場合、置換基としてはイソシアネート基等が好ましく、官能基がエポキシ基の場合、置換基としてはカルボキシル基が好ましい。このような置換基は、重合性基含有化合物(a2)1分子毎に一つずつ含まれている。
【0046】
また重合性基含有化合物(a2)には、エネルギー線重合性炭素−炭素二重結合が、1分子毎に1〜5個、好ましくは1〜2個含まれている。このような重合性基含有化合物(a2)の具体例としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタ−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、ポリエチレンオキシ変性(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等が挙げられる。また、ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物などがあげられる。
【0047】
重合性基含有化合物(a2)は、上記アクリル系共重合体(a1)の官能基含有モノマー100当量当たり、通常10〜100当量、好ましくは15〜95当量、特に好ましくは20〜90当量の割合で用いられる。
【0048】
アクリル系共重合体(a1)と重合性基含有化合物(a2)との反応は、通常は、室温程度の温度で、常圧にて、24時間程度行なわれる。この反応は、例えば酢酸エチル等の溶液中で、ジブチル錫ラウレート等の触媒を用いて行なうことが好ましい。
【0049】
この結果、アクリル系共重合体(a1)中の側鎖に存在する官能基と、重合性基含有化合物(a2)中の置換基とが反応し、重合性基含有基がアクリル系共重合体(a1)中の側鎖に導入され、エネルギー線硬化型アクリル系粘着性重合体(AB)が得られる。
【0050】
上記のようなアクリル重合体(A)およびエネルギー線硬化性化合物(B)あるいは、エネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)を含むエネルギー線硬化型粘着成分は、エネルギー線照射により硬化する。エネルギー線としては、具体的には、紫外線、電子線等が用いられる。
【0051】
(C)光重合開始剤
本発明の接着剤組成物はその使用に際して、紫外線等のエネルギー線を照射して、エネルギー線硬化型粘着成分を硬化させる。この際、該組成物中に光重合開始剤(C)を含有させることで、重合硬化時間ならびに光線照射量を少なくすることができる。本発明においては、光重合開始剤(C)として、比較的高分子量の光重合開始剤が含有されている。
【0052】
光重合開始剤(C)の重量平均分子量は、400〜100000、好ましくは500〜50000、さらに好ましくは600〜10000の範囲にある。
【0053】
このような高分子量の光重合開始剤を用いると、紫外線などのエネルギー線を照射して接着剤層を硬化させる際に、この接着剤層が発熱したときでも、熱による揮散や分解などに起因した臭気の発生がみられなくなる。さらに、硬化後の接着剤層中に、低分子量の光重合開始剤や、その残渣物が存在しないため、厳しいリフロー条件に曝された場合であっても、気化する成分がなく、ガスの発生が低減される。この結果、得られる半導体装置においては、半導体チップや基板などとの接着界面での剥離やパッケージクラックの発生がなく、高いパッケージ信頼性を達成できる。
【0054】
このような光重合開始剤としては、ベンゾイン型、カルボニル型などを用いるのが好ましく、これらの基が高分子中に複数個あるもの、たとえば、ポリビニルベンゾイン系、ポリビニルケトン系などが好適に用いられる。市販品としては、ランベルティ社の「ESACURE KIP100」、「ESACURE KIP150」、「ESACURE ONE」などが挙げられる。「ESACURE KIP150」は、下記の構造式(1)で表される、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン}である。
【0055】
【化1】

【0056】
上記以外の光重合開始剤として、下記の構造式(2)〜(7)で表される化合物も使用することができる。これらの詳細は、たとえばJ.Polyme.Sci Apolymer chem 24.875(‘86)、Tetrahedron Lett 323(‘74)、Eur.Polymer J.14.317(‘78)、J.Polyme.Sci chem,ed.,19.855(‘81)などに記載されている。
【0057】
【化2】

【0058】
【化3】

【0059】
【化4】

【0060】
【化5】

【0061】
【化6】

【0062】
【化7】

【0063】
上記の光重合開始剤は1種類単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。光重合開始剤(C)は、接着剤組成物の全量100重量部に対して0.08〜5.5重量部、さらには0.10〜5.0重量部、特に0.15〜0.45重量部の範囲の量で用いられることが好ましい。光重合開始剤(C)の割合が上記範囲を外れると、パッケージ信頼性が低下する。特に、光重合開始剤(C)の割合が多いと揮発成分が多くなり、少ないと硬化反応が不十分になる傾向がみられる。
【0064】
熱硬化型接着成分
本発明の接着剤組成物は、上記の光重合開始剤およびエネルギー線硬化型粘着成分に加えて、熱硬化型接着成分を含有する。熱硬化型接着成分は、エネルギー線によっては硬化しないが、加熱を受けると三次元網状化し、被着体を強固に接着する性質を有する。このような熱硬化型接着成分は、一般的にはエポキシ、フェノキシ、フェノール、レゾルシノール、ユリア、メラミン、フラン、不飽和ポリエステル、シリコーン等の熱硬化性樹脂と、適当な熱硬化剤および硬化促進剤とから形成されている。このような熱硬化型接着成分は種々知られており、本発明においては特に制限されることなく従来より公知の様々な熱硬化型接着成分を用いることができる。このような熱硬化型接着成分の特に好ましい例としては、エポキシ系熱硬化性樹脂(D)、熱硬化剤(E)および硬化促進剤(F)からなる接着成分を挙げることができる。
【0065】
(D)エポキシ系熱硬化性樹脂
エポキシ系熱硬化性樹脂(D)としては、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ系熱硬化性樹脂(D)としては、具体的には、多官能系エポキシ樹脂や、ビフェニル化合物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやその水添物、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂など、分子中に2官能以上有するエポキシ化合物が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
本発明の接着剤組成物には、エネルギー線硬化型粘着成分の合計100重量部に対して、エポキシ系熱硬化性樹脂(D)が、好ましくは1〜1500重量部含まれ、より好ましくは10〜1200重量部含まれ、さらに好ましくは500〜1000重量部含まれる。エポキシ系熱硬化性樹脂(D)の含有量が1重量部未満であると十分な接着性が得られないことがあり、1500重量部を超えると接着剤層と基材との剥離力が高くなり、ピックアップ不良が起こることがある。
【0067】
(E)熱硬化剤
熱硬化剤(E)は、エポキシ系熱硬化性樹脂(D)に対する硬化剤として機能する。好ましい熱硬化剤(E)としては、1分子中にエポキシ基と反応しうる官能基を2個以上有する化合物が挙げられ、その官能基としてはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基および酸無水物などが挙げられる。これらのうち好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基、酸無水物などが挙げられ、さらに好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基が挙げられる。
【0068】
熱硬化剤の具体的な例としては、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、多官能系フェノール樹脂、アラルキルフェノール樹脂などのフェノール性熱硬化剤;DICY(ジシアンジアミド)などのアミン系熱硬化剤が挙げられる。これらの熱硬化剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
これら熱硬化剤(E)は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、ジシアンジアミドが好ましい。
【0070】
上記のような熱硬化剤(E)は、エポキシ系熱硬化性樹脂(D)100重量部に対して通常0.1〜20重量部、好ましくは1〜10重量部の割合で用いられる。
【0071】
(F)硬化促進剤
硬化促進剤(F)は、熱硬化型接着成分の硬化速度を調整するために用いられる。
好ましい硬化促進剤としては、具体的には、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン類;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0072】
硬化促進剤(F)は、エポキシ系熱硬化性樹脂(D)および熱硬化剤(E)の合計100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部、さらに好ましくは1〜10重量部の量で含まれる。硬化促進剤(F)を上記範囲の量で含有することにより、高温度高湿度下に曝されても優れた接着特性を有し、厳しいリフロー条件に曝された場合であっても高いパッケージ信頼性を達成することができる。硬化促進剤(F)の含有量が少ないと硬化不足で十分な接着特性が得られず、過剰であると高い極性をもつ硬化促進剤は高温度高湿度下で接着剤層中を接着界面側に移動し、偏析することによりパッケージの信頼性を低下させる。
【0073】
その他の成分
本発明に係る接着剤組成物は、上記光重合開始剤、エネルギー線硬化型粘着成分および熱硬化型接着成分に加えて下記成分を含むことができる。
【0074】
(G)カップリング剤
カップリング剤(G)は、接着剤組成物の被着体に対する接着性、密着性を向上させるために用いてもよい。また、カップリング剤(G)を使用することで、接着剤組成物を硬化して得られる硬化物の耐熱性を損なうことなく、その耐水性を向上することができる。
【0075】
カップリング剤(G)としては、上記アクリル重合体(A)、エポキシ系熱硬化性樹脂(B)などが有する官能基と反応する基を有する化合物が好ましく使用される。カップリング剤(G)としては、シランカップリング剤が望ましい。このようなカップリング剤としてはγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0076】
カップリング剤(G)は、エネルギー線硬化型粘着成分と、熱硬化型接着成分の合計100重量部に対して、通常0.1〜20重量部、好ましくは0.2〜10重量部の割合で含まれる。カップリング剤(G)の含有量が0.1重量部未満だと上記の効果が得られない可能性があり、20重量部を超えるとアウトガスの原因となる可能性がある。
【0077】
(H)架橋剤
接着剤組成物の初期接着力および凝集力を調節するために、架橋剤を添加することもできる。架橋剤(H)としては有機多価イソシアネート化合物、有機多価イミン化合物などが挙げられる。
【0078】
上記有機多価イソシアネート化合物としては、芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物、脂環族多価イソシアネート化合物およびこれらの有機多価イソシアネート化合物の三量体、ならびにこれら有機多価イソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマー等を挙げることができる。
【0079】
有機多価イソシアネート化合物としては、たとえば2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4'-ジイソシアネート、3-メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4'-ジイソシアネート、トリメチロールプロパンアダクトトリレンジイソシアネートおよびリジンイソシアネートが挙げられる。
【0080】
上記有機多価イミン化合物としては、N,N'-ジフェニルメタン-4,4'-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン-トリ-β-アジリジニルプロピオネートおよびN,N'-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミン等を挙げることができる。
【0081】
架橋剤(H)はエネルギー線硬化型粘着成分100重量部に対して通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部の比率で用いられる。
【0082】
(I)可とう性成分
接着剤組成物には、可とう性成分(I)を用いてもよい。このような可とう性成分は、硬化後の接着剤層の可とう性を保持するために配合される。上記可とう性成分としては、常温および加熱下で可とう性を有する成分であり、加熱やエネルギー線照射では実質的に硬化しない成分が選択される。
上記可とう性成分としては、例えば、熱可塑性樹脂、エラストマーなどのポリマー;ブロックコポリマー;これらのポリマーのグラフトポリマーが挙げられる。また、上記可とう性成分として、前記ポリマーがエポキシ樹脂により予め変性されたエポキシ変性樹脂を用いてもよい。
【0083】
(J)その他の添加剤
本発明の接着剤組成物には、上記の他に、必要に応じて各種添加剤が配合されてもよい。各種添加剤としては、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、無機充填材、顔料、染料などが挙げられる。
【0084】
(接着剤組成物
上記のような各成分からなる接着剤組成物は、感圧接着性と加熱硬化性とを有し、未硬化状態では各種被着体を一時的に保持する機能を有する。そして熱硬化を経て最終的には耐衝撃性の高い硬化物を与えることができ、しかもせん断強度と剥離強度とのバランスにも優れ、厳しい高温度高湿度条件下においても十分な接着特性を保持し得る。
【0085】
本発明に係る接着剤組成物は、上記各成分を適宜の割合で混合して得られる。混合に際しては、各成分を予め溶媒で希釈しておいてもよく、また混合時に溶媒を加えてもよい。
【0086】
(接着シート)
本発明に係る接着シートは、基材上に、上記接着剤組成物からなる接着剤層が積層してなる。本発明に係る接着シートの形状は、テープ状、ラベル状などあらゆる形状をとり得る。
【0087】
接着シートの基材としては、たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルムなどの透明フィルムが用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。また、これらを着色したフィルム、不透明フィルムなどを用いることができる。
【0088】
本発明に係る接着シートは、各種の被着体に貼付され、被着体に所要の加工を施した後、接着剤層は、被着体に固着残存させて基材から剥離される。すなわち、接着剤層を、基材から被着体に転写する工程を含むプロセスに使用される。このため、基材の接着剤層に接する面の表面張力は、好ましくは40mN/m以下、さらに好ましくは37mN/m以下、特に好ましくは35mN/m以下である。下限値は通常25mN/m程度である。このような表面張力が低い基材は、材質を適宜に選択して得ることが可能であるし、また基材の表面に剥離剤を塗布して剥離処理を施すことで得ることもできる。
【0089】
基材の剥離処理に用いられる剥離剤としては、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系などが用いられるが、特にアルキッド系、シリコーン系、フッ素系の剥離剤が耐熱性を有するので好ましい。
【0090】
上記の剥離剤を用いて基材の表面を剥離処理するためには、剥離剤をそのまま無溶剤で、または溶剤希釈やエマルション化して、グラビアコーター、メイヤーバーコーター、エアナイフコーター、ロールコーターなどにより塗布して、常温もしくは加熱または電子線硬化させたり、ウェットラミネーションやドライラミネーション、熱溶融ラミネーション、溶融押出ラミネーション、共押出加工などで積層体を形成すればよい。
【0091】
基材の厚さは、通常は10〜500μm、好ましくは15〜300μm、特に好ましくは20〜250μm程度である。また、接着剤層の厚みは、通常は1〜500μm、好ましくは5〜300μm、特に好ましくは10〜150μm程度である。
【0092】
接着シートの製造方法は、特に限定はされず、基材上に、接着剤層を構成する組成物を塗布乾燥することで製造してもよく、また接着剤層を剥離フィルム上に設け、これを上記基材に転写することで製造してもよい。なお、接着シートの使用前に、接着剤層を保護するために、接着剤層の上面に剥離フィルムを積層しておいてもよい。また、接着剤層の表面外周部には、リングフレームなどの他の治具を固定するために別途粘着剤層や粘着テープが設けられていてもよい。
【0093】
次に本発明に係る接着シートの利用方法について、該接着シートを半導体装置の製造に適用した場合を例にとって説明する。
(半導体装置の製造方法)
本発明に係る半導体装置の製造方法は、上記接着シートの接着剤層に半導体ウエハを貼着し、該半導体ウエハをダイシングして半導体チップとし、該半導体チップ裏面に接着剤層を固着残存させて基材から剥離し、該半導体チップをダイパッド部上、または別の半導体チップ上に該接着剤層を介して載置する工程を含む。
【0094】
以下、本発明に係る半導体装置の製造方法について説明する。
本発明に係る半導体装置の製造方法においては、まず、半導体ウエハおよびリングフレームをマウンター装置上に載置し、半導体ウエハおよびリングフレームの一方の面を本発明に係る接着シートの接着剤層が接するように軽く押圧し、半導体ウエハおよびリングフレームを接着シートに固定する。次いで、接着剤層に基材側からエネルギー線を照射し、エネルギー線硬化型粘着成分を硬化し、接着剤層の凝集力を上げ、接着剤層と基材との間の接着力を低下させておく。照射されるエネルギー線としては、紫外線(UV)または電子線(EB)等が挙げられ、好ましくは紫外線が用いられる。次いで、ダイシング装置のダイシングソーなどの切断手段を用いて、上記の半導体ウエハを切断し半導体チップを得る。この際の切断深さは、半導体ウエハの厚みと、接着剤層の厚みとの合計およびダイシングソーの磨耗分を加味した深さにする。なお、エネルギー線照射は、半導体ウエハの貼付後、半導体チップの剥離(ピックアップ)前のいずれの段階で行ってもよく、たとえばダイシングの後に行ってもよく、また下記のエキスパンド工程の後に行ってもよい。さらにエネルギー線照射を複数回に分けて行ってもよい。
【0095】
次いで必要に応じ、接着シートのエキスパンドを行うと、半導体チップ間隔が拡張し、半導体チップのピックアップをさらに容易に行えるようになる。この際、接着剤層と基材との間にずれが発生することになり、接着剤層と基材との間の接着力が減少し、半導体チップのピックアップ性が向上する。このようにして半導体チップのピックアップを行うと、切断された接着剤層を半導体チップ裏面に固着残存させて基材から剥離することができる。
【0096】
次いで接着剤層を介して半導体チップを、リードフレームのダイパッド上または別の半導体チップ(下段チップ)表面に載置する(以下、チップが搭載されるダイパッドまたは下段チップ表面を「チップ搭載部」と記載する)。チップ搭載部は、半導体チップを載置する前に加熱するか載置直後に加熱される。加熱温度は、通常は80〜200℃、好ましくは100〜180℃であり、加熱時間は、通常は0.1秒〜5分、好ましくは0.5秒〜3分であり、載置するときの圧力は、通常1kPa〜200MPaである。
【0097】
半導体チップをチップ搭載部に載置した後、必要に応じさらに加熱を行ってもよい。この際の加熱条件は、上記加熱温度の範囲であって、加熱時間は通常1〜180分、好ましくは10〜120分である。
【0098】
また、載置後の加熱処理は行わずに仮接着状態としておき、パッケージ製造において通常行われる樹脂封止での加熱を利用して接着剤層を硬化させてもよい。このような工程を経ることで、接着剤層が硬化し、半導体チップとチップ搭載部とを強固に接着することができる。接着剤層はダイボンド条件下では流動化しているため、チップ搭載部の凹凸にも十分に埋め込まれ、ボイドの発生を防止できる。
【0099】
すなわち、得られる実装品においては、半導体チップの固着手段である接着剤が硬化し、かつチップ搭載部の凹凸にも十分に埋め込まれた構成となるため、過酷な条件下にあっても、十分なパッケージ信頼性が達成される。
【0100】
本発明の接着剤組成物および接着シートは、上記のような使用方法の他、半導体化合物、ガラス、セラミックス、金属などの接着に使用することもできる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、<表面実装性評価>は次のように行った。
【0102】
<表面実装性評価>
(1)半導体チップの製造
#2000研磨したシリコンウエハ(150mm径, 厚さ150μm)に、テープマウンター(リンテック(株)製、Adwill RAD2500)を用い、シリコンウエハを固定するテーブルの温度を40℃にして、実施例または比較例の接着シートを貼付し、同時にリングフレームに固定した。その後、紫外線照射装置(リンテック(株)製Adwill(登録商標) RAD2000)を用いて基材面から紫外線を照射(350mW/cm2、190mJ/cm2)した。次いで、ダイシング装置(東京精密社製、AWD-4000B)を使用して8mm×8mmのサイズにダイシングし、接着剤層を有するシリコンチップを作製した。ダイシングの際の切り込み量については、基材を20μm切り込むようにした。続いて、この接着剤層を有するシリコンチップを、接着シート側よりニードルで突き上げてピックアップした。
【0103】
(2)半導体パッケージの製造
基板として、銅箔張り積層板(三菱ガス化学(株)製, CCL-HL830)の銅箔に回路パターンが形成され、パターン上に40μm厚のソルダーレジスト(太陽インキ製造(株)製, PSR4000 AUS5)を有している基板((株)ちの技研製)を用いた。この基板上に、上記の接着剤層を有するシリコンチップを、該接着剤層を介して120℃, 100gf, 1秒間の条件で圧着し、次いで160℃で1時間の条件でオーブン中で加熱し、接着剤層を熱硬化させた。その後、モールド樹脂(京セラケミカル(株)製、KE-1100AS3)で封止厚400μmになるように封止装置(アピックヤマダ(株)製、MPC-06M Trial Press)を用いて封止し、175℃で5時間かけてモールド樹脂を硬化させた。次いで、封止された基板をダイシングテープ(リンテック(株)製、Adwill D-510T)に貼付して、ダイシング装置(東京精密社製、AWD-4000B)を使用して12mm×12mmサイズにダイシングすることで信頼性評価用の半導体パッケージを得た。
【0104】
(3)半導体パッケージ表面実装性の評価
得られた半導体パッケージを下記条件1または2で吸湿させた後、最高温度260℃、加熱時間1分間のIRリフロー条件での加熱を3回行った(リフロー炉:相模理工製WL-15-20DNX型)。この際に、接合部の浮き・剥がれの有無、パッケージクラック発生の有無を、断面観察および走査型超音波探傷装置(日立建機ファインテック株式会社製Hye-Focus)により評価した。
条件1:85℃、85%RH条件下に168時間放置
条件2:85℃、60%RH条件下に168時間放置
【0105】
基板またはチップとの接合部に0.5mm2以上の剥離を観察した場合を剥離していると判断して、パッケージを25個試験に投入したときの接合部の浮き・剥がれ、パッケージクラックなどが発生した個数を数えた。
【0106】
<接着剤組成物>
接着剤組成物を構成する各成分を下記に示す。
(A)アクリル重合体:n−ブチルアクリレートを主体とするアクリル系共重合体(日本合成化学工業社製、コーポニールN−2359−6)
(B)エネルギー線重合性化合物:多官能アクリレートオリゴマー(共栄化学社製、ライトアクリレートDCP−A、分子量302)
(AB)エネルギー線硬化型粘着性重合体:n−ブチルアクリレート84重量部、メチルメタクリレート8重量部、アクリル酸3重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート15重量部を用いて酢酸エチル溶媒中、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを重合開始剤として溶液重合し、重量平均分子量65万のアクリル系共重合体を生成した。このアクリル系共重合体100重量部に対し、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート16重量部(アクリル系共重合体の官能基であるヒドロキシル基100当量に対して80当量)とを反応させ、重合性基が結合してなるアクリル系粘着性重合体を得た。
(C)光重合開始剤:
(C1)ESACURE KIP150(ランベルティ社製、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン}、重量平均分子量550)
(C2)ESACURE ONE(ランベルティ社製、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン}、重量平均分子量1200)
(C3)イルガキュア184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、分子量204)
(D)エポキシ系熱硬化性樹脂:
(D1)アクリル微粒子分散型ビスフェノールA型エポキシ樹脂(日本触媒製、BPA328、エポキシ基当量235g/eq)
(D2)クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製、EOCN104S)
(E)熱硬化剤:ジシアンジアミド((株)ADEKA製、ハードナー3636AS)
(F)硬化促進剤:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、キュアゾール2PHZ-PW)
(G)カップリング剤:シランカップリング剤(三菱化学株式会社製、MKCシリケートMSEP2)
(H)架橋剤:トリレンジイソシアネート誘導体(東洋インキ社製、BHS8515)
【0107】
(実施例および比較例)
表1に記載の組成の接着剤組成物を使用した。表1中、数値は固形分換算の重量部を示す。表1に記載の組成の接着剤組成物のメチルエチルケトン溶液(固形濃度61重量%)を、シリコーン処理された剥離フィルム(リンテック株式会社製、SP-PET381031)上に乾燥後30μmの厚みになるように塗布、乾燥(乾燥条件:オーブンにて100℃、1分間)した後に基材(アキレス社製、HUSL1301)と貼り合せて、接着剤層を基材上に転写することで接着シートを得た。
【0108】
得られた接着シートを用いて<表面実装性評価>を行った。結果を表2に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
実施例の接着シートは、優れた表面実装性を示した。この結果から、分子量の高い光重合開始剤を用いることで、高信頼性の半導体パッケージが得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー線硬化型粘着成分と、光重合開始剤と、熱硬化型接着成分とを含み、
該光重合開始剤の重量平均分子量が400〜100000である接着剤組成物。
【請求項2】
前記エネルギー線硬化型粘着成分が、主鎖または側鎖に、エネルギー線重合性基が結合されてなるエネルギー線硬化型粘着性重合体からなる請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
光重合開始剤の含有量が、接着剤組成物の全量100重量部に対して0.08〜5.5重量部である請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の接着剤組成物からなる接着剤層が基材上に剥離可能に形成されてなる接着シート。
【請求項5】
請求項4に記載の接着シートの接着剤層に半導体ウエハを貼着し、該半導体ウエハをダイシングして半導体チップとし、該半導体チップ裏面に該接着剤層を固着残存させて基材から剥離し、該半導体チップをダイパッド部上、または別の半導体チップ上に該接着剤層を介して載置する工程を含む半導体装置の製造方法。

【公開番号】特開2010−189484(P2010−189484A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33053(P2009−33053)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】