説明

撮像光学系及び撮像装置

【課題】 良好な色再現性を確保した上で製造の容易化等を図る。
【解決手段】 光路上に少なくとも一つのレンズ又はレンズ群2、2、・・・と赤外線吸収機能を有する光学フィルター4と少なくとも一つの光学部材5と撮像素子3を配置し、光学フィルターを、赤外線吸収機能を有するフィルム状の樹脂材料によって形成された基材7と、該基材の物体側を向く面と像側を向く面の両面にそれぞれ形成された反射防止膜8、9とによって構成し、光学部材に紫外線及び赤外線を反射し光学系の分光特性を調整する多層膜10を形成した。赤外線の除去機能を光学フィルターと多層膜によって分担することにより、光学フィルターの構成が簡素となり、良好な色再現性を確保した上で製造の容易化及び製造時間の短縮化が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撮像光学系及び撮像装置についての技術分野に関する。詳しくは、光学フィルター以外の光学部材に分光特性を調整する多層膜を形成して良好な色再現性を確保した上で製造の容易化等を図る技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルビデオカメラやデジタルスチルカメラ等の撮像装置において、画像や映像の高画質化を確保した上での小型化の要求が高まっている。
【0003】
この要求に応えるべく、撮像装置の撮像素子として、高密度CCD(Charge Coupled Device)や高密度CMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)を搭載した上で、撮像光学系を小型化した撮像装置が提案されている。
【0004】
一般に、撮像素子を用いた撮像光学系において、高画質化を図る手段として高解像度化を実現している技術が多く知られている。一方、高解像度化以外に高画質化を図るために、画像や映像の良好な色再現性を確保することが重要であり、良好な色再現性の確保には光路上に配置される光学フィルターの分光特性が大きく影響する。
【0005】
例えば、従来の撮像装置として、赤外線の吸収作用を有する光学フィルターが撮像光学系の光路上に配置されたものがある(例えば、特許文献1参照)。このような光学フィルターを有する撮像装置にあっては、上記したように、光学フィルターの良好な分光特性を確保する必要がある。
【0006】
また、撮像光学系やこれを含む撮像装置の小型化に伴い、撮像光学系を構成する光学要素、特に、多層膜によって紫外線や赤外線を干渉させる光学フィルターにおける光の反射に起因する反射ゴーストが発生し易い状況になっている。従って、反射ゴーストの発生を抑制することが高画質化と小型化を両立させるために重要である。
【0007】
【特許文献1】特開2004−345680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多層膜によって紫外線や赤外線を干渉させる光学フィルターが配置された従来の撮像装置においては、高画質化を実現するための高解像度化は図られているが、上記したように、赤色の反射ゴーストの発生により、色再現性の確保が不十分であると言う問題がある。
【0009】
また、光学フィルターの構成によっては、光学フィルターの製造の容易化が図られなかったり、光学フィルターを含む撮像光学系の製造時間が長くなったりする場合もあり、撮像光学系の製造の容易化及び製造時間の短縮化も図る必要がある。
【0010】
そこで、本発明撮像光学系及び撮像装置は、上記した問題点を克服し、良好な色再現性を確保した上で製造の容易化等を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
撮像光学系は、上記した課題を解決するために、光路上に少なくとも一つのレンズ又はレンズ群と赤外線吸収機能を有する光学フィルターと少なくとも一つの光学部材と撮像素子が配置され、前記光学フィルターは、赤外線吸収機能を有するフィルム状の樹脂材料によって形成された基材と、該基材の物体側を向く面と像側を向く面の両面にそれぞれ形成された反射防止膜とから成り、前記光学部材に紫外線及び赤外線を反射し光学系の分光特性を調整する多層膜を形成したものである。
【0012】
従って、撮像光学系にあっては、赤外線の除去機能が光学フィルターと多層膜によって分担される。
【0013】
上記した撮像光学系においては、前記光学部材として前記撮像素子を密封するリッドを設け、前記リッドの物体側を向く面又は像側を向く面に前記多層膜を形成することが望ましい。
【0014】
リッドの物体側を向く面又は像側を向く面に多層膜を形成することにより、多層膜を形成するための専用の部品を必要としない。
【0015】
上記した撮像光学系においては、前記光学フィルターと前記光学部材に形成された多層膜とを重ねた際の分光透過率及び前記多層膜の前記光学部材に接した面と反対側の面である光学面における分光反射率が以下の条件式(1)乃至条件式(4)を満足することが望ましい。
(1)0.75<TFL(600)/TFL(540)<0.95
(2)615<λFLT50%<670
(3)|TFL(700)/TFL(540)|<0.05
(4)680≦λLR50%
但し、
FL(600):波長600nmの光の分光透過率
FL(540):波長540nmの光の分光透過率
λFLT50%:分光透過率が50%になる近赤外光の波長
FL(700):波長700nmの光の分光透過率
λLR50%:分光反射率が50%になる近赤外光の波長
とし、波長の単位はnmとする。
【0016】
条件式(1)乃至条件式(4)を満足することにより、赤色の反射ゴーストの発生の抑制、良好なホワイトバランスの確保及び赤色領域における良好な色再現性が確保される。
【0017】
上記した撮像光学系においては、前記多層膜の分光透過率が以下の条件式(5)及び条件式(6)を満足することが望ましい。
(5)400≦λLT−UV50%≦440
(6)680≦λLT−IR50%≦720
但し、
λLT−UV50%:分光透過率が50%になる紫外光の波長
λLT−IR50%:分光透過率が50%になる近赤外光の波長
とし、波長の単位はnmとする。
【0018】
条件式(5)及び条件式(6)を満足することにより、撮像素子3に入射する紫外線〜青色領域及び赤色〜近赤外領域の光の透過光量と透過波長領域が適正化される。
【0019】
上記した撮像光学系においては、撮像素子に入射する光の分光特性を前記光学フィルターと前記リッドに形成された多層膜のみによって調整することが望ましい。
【0020】
撮像素子に入射する光の分光特性を光学フィルターとリッドに形成された多層膜のみによって調整することにより、少ない部品点数で良好な色再現性が確保される。
【0021】
上記した撮像光学系においては、前記光学フィルターを最も像側に配置された前記レンズと前記撮像素子の間に配置することが望ましい。
【0022】
光学フィルターを最も像側に配置されたレンズと撮像素子の間に配置することにより、球面収差の乱れや劣化が軽減される。
【0023】
上記した撮像光学系においては、開口絞りを有する前記レンズ群を少なくとも一つ配置し、前記光学フィルターを、前記開口絞りを有する前記レンズ群に配置することが望ましい。
【0024】
光学フィルターを、開口絞りを有するレンズ群に配置することにより、レンズの径が小さいレンズ群に光学フィルターが配置される。
【0025】
上記した撮像光学系においては、前記光学フィルターの光軸方向における厚みを120μm以下とすることが望ましい。
【0026】
光学フィルターの光軸方向における厚みを120μm以下とすることにより、光学フィルターが薄型化される。
【0027】
上記した撮像光学系においては、前記光学フィルターの基材の両面にそれぞれ形成された前記反射防止膜の膜構成を同一とすることが望ましい。
【0028】
光学フィルターの基材の両面にそれぞれ形成された反射防止膜の膜構成を同一とすることにより、撮像光学系及び撮像装置の組立工程において、光学フィルターの両面を同等に取り扱うことが可能になる。
【0029】
上記した撮像光学系においては、前記基材をポリオレフィン系樹脂によって形成することが望ましい。
【0030】
基材をポリオレフィン系樹脂によって形成することにより、優れた光学性能、耐熱性及び低吸水性が確保される。
【0031】
上記した撮像光学系においては、前記基材に赤外線吸収機能を有する着色剤として有機系の色素を少なくとも1種類含有することが望ましい。
【0032】
基材に赤外線吸収作用を有する着色剤として有機系の色素を少なくとも1種類含有することにより、基材に対する着色剤の良好な混合性が確保される。
【0033】
撮像装置は、上記した課題を解決するために、光路上に配置された少なくとも一つのレンズ又はレンズ群と赤外線吸収機能を有する光学フィルターと少なくとも一つの光学部材と撮像素子を有する撮像光学系を備え、前記光学フィルターは、赤外線吸収機能を有するフィルム状の樹脂材料によって形成された基材と、該基材の物体側を向く面と像側を向く面の両面にそれぞれ形成された反射防止膜とから成り、前記光学部材に紫外線及び赤外線を反射し光学系の分光特性を調整する多層膜を形成したものである。
【0034】
従って、撮像装置にあっては、赤外線の除去機能が光学フィルターと多層膜によって分担される。
【発明の効果】
【0035】
本発明撮像光学系及び撮像装置にあっては、光学フィルターの構成が簡素となり、良好な色再現性を確保した上で製造の容易化及び製造時間の短縮化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に、本発明撮像光学系及び撮像装置の実施の形態を添付図面に従って説明する。
【0037】
以下に示した実施の形態は、本発明撮像装置をデジタルスチルカメラに適用し、本発明撮像光学系をこのデジタルスチルカメラに備えられた撮像光学系に適用したものである。
【0038】
尚、本発明の適用範囲はデジタルスチルカメラ及びこれに備えられた撮像光学系に限られることはない。本発明は、例えば、デジタルビデオカメラ、携帯電話やパーソナルコンピューターやPDA(Personal Digital Assistant)等に組み込まれたカメラ及びこれらの各種のカメラに備えられた撮像光学系に広く適用することができる。
【0039】
[撮像光学系の全体構成]
撮像光学系(デジタルスチルカメラ)1は、図1に示すように、例えば、三つのレンズ群2、2、2とCCDやCMOS等の撮像素子3が光路上に配置されている。図1には、3群構成のタイプの撮像光学系1を例として示しているが、撮像光学系1のレンズ群2の数は任意である。
【0040】
撮像素子3は光路上の最も像側に配置されている。
【0041】
最も像側に配置されたレンズ群(第3レンズ群)2における最も像側に位置するレンズ2aと撮像素子3の間には光学フィルター4が配置されている。
【0042】
光学フィルター4と撮像素子3の間には透明なリッド5、例えば、カバーガラスが配置されている。リッド5は、例えば、ガラスに限らずセラミックによって形成されたカバーであってもよい。撮像素子3はリッド5によって密封されて保護されている。
【0043】
物体側から像側へ向けて2番目に配置されたレンズ群(第2レンズ群)2には像側に開口絞り6が配置されている。
【0044】
[光学フィルターの構成]
光学フィルター4は赤外線吸収機能を有し、図2に示すように、フィルム状の樹脂材料によって形成された基材7と該基材7の物体側を向く面及び像側を向く面の両面にそれぞれ形成された反射防止膜8、9とから成る。
【0045】
反射防止膜8、9はそれぞれ単層膜又は多層膜として形成されているが、多層膜の場合であっても多くても10層程度とされ、薄膜状に形成されている。
【0046】
光学フィルター4にあっては、基材7がフィルム状の材料によって形成されているため、十分な薄型化を図ることができる。従って、撮像光学系1及び撮像装置の小型化を図ることが可能であり、特に、非撮影時にレンズ鏡筒を収納し撮影時にレンズ鏡筒を突出させる所謂沈胴タイプの撮像装置において、非撮影時における薄型化を図ることが可能である。
【0047】
尚、光学フィルター4の基材7と反射防止膜8、9の合計の厚みを120μm以下にすると、上記した薄型化の利点が特に顕著になるので好ましい。
【0048】
基材7は赤外線吸収機能を有している。具体的には、赤色波長領域から近赤外線領域(約540nm乃至約700nm)に吸収特性を有している。
【0049】
従って、撮像素子3に入射する光の分光強度のバランス(例えば、青色領域、緑色領域、赤色領域の光強度のバランス)を最適に調整することが可能になり、画像及び映像のホワイトバランス調整や色再現を良好に行うことが可能である。
【0050】
また、過度な電気的色調整を行うことによる色ノイズの発生を防止することも可能になる。
【0051】
さらに、撮像光学系1における不要な光の反射により発生し画質の劣化を生じるおそれがある赤色の反射ゴーストの発生を抑制することができるため、高画質化を図ることが可能になる。
【0052】
さらにまた、光学フィルター4には基材7の両面に反射防止膜8、9が形成されているため、光学フィルター4における不要な光の反射を抑制することができる。従って、撮像光学系1の他の光学部材との光反射によって生じるゴーストの発生を防止することができるため、画質の向上を図ることが可能になる。
【0053】
また、反射防止膜8、9は、光学ガラス等の材料と比較して柔軟なフィルム状の樹脂材料によって形成された基材7を保護する役割をも果たすため、製造工程等における傷付きの発生を防止することも可能になる。
【0054】
加えて、基材7の両面に反射防止膜8、9を形成することにより、例えば、基材7の両面に紫外線反射膜や赤外線反射膜を形成する場合に比し、基材7の両面における膜厚を均等に形成し易く、層数を低減することができる。従って、反りや湾曲の発生を極限まで抑制して光学フィルター4の平面精度の向上を図ることが可能になる上、温度変化や衝撃によって生じる膜のクラックである所謂コートクラックの発生を極限まで抑制することが可能になる。
【0055】
さらに、光学フィルター4の製造時における製膜工程の製造時間を大幅に短縮することができるため、製造コストの低減を図ることもできる。
【0056】
尚、上記した光学フィルター4の平面精度の向上と言う効果を最大限に発揮させるためには、反射防止膜8、9の層数を略同じにし、基材7の両面側における応力のバランスを保つことが望ましい。
【0057】
[多層膜の構成]
撮像素子3を保護するリッド5には、例えば、物体側の面に紫外線及び赤外線を反射し光学系の分光特性を調整する多層膜10が形成されている(図2参照)。多層膜10はリッド5の像側の面に形成されていてもよい。
【0058】
撮像光学系1に多層膜10を設けることにより、基材7が有する近赤外領域の吸収特性だけでは不十分な分光特性の微調整を行うことができる。従って、画像及び映像における色調整を最適に行うことができる透過分光特性を確保することができる。
【0059】
また、リッド5に多層膜10を形成することにより、多層膜10を形成した赤外線カットフィルターを撮像光学系1に別に配置する必要がなく、撮像光学系1及び撮像装置の小型化を図ることができると共に部品点数の削減による製造コストの低減を図ることが可能になる。
【0060】
さらに、一般に、撮像素子を保護するリッドの材料としては、ガラス材料やセラミック材料が用いられることが多い。従って、多層膜10を光学フィルター4の基材7のような樹脂材料に形成する場合に比し、分光特性の製造バラツキの抑制及び温度特性における優位性による品質の向上を図ることができる。また、多層膜10を樹脂材料に形成する場合に比し、高温環境において蒸着(成膜)することが可能になり、製膜工程の製造時間を大幅に短縮することができるため、リッド5に多層膜10を形成することにより、製造コストの低減を図ることもできる。
【0061】
さらにまた、撮像光学系1にあっては、赤外線吸収機能を有する光学フィルター4に加えリッド5に多層膜10を形成することにより、赤外線の除去機能を光学フィルター4と多層膜10によって分担することができる。従って、リッド5に形成する多層膜10の層数を低減することが可能になり、製造時間、歩留り及び材料コストの効率の向上を図ることができ、多層膜10が形成されるリッド5の大幅な製造コストの低減を図ることができる。
【0062】
加えて、光学フィルター4を赤外線吸収機能を有する基材7と反射防止膜8、9によって構成し、リッド5に紫外線及び赤外線を反射し光学系の分光特性を調整する多層膜10を形成することにより、良好な色再現性を確保した上で製造の容易化及び製造時間の短縮化を図ることができる。
【0063】
[光学フィルターと多層膜の光学条件]
撮像光学系1においては、光学フィルター4とリッド5に形成された多層膜10とを重ねた際の分光透過率及び多層膜10のリッド5に接した面と反対側の面である光学面における分光反射率が以下の条件式(1)乃至条件式(4)を満足するように構成されている。
(1)0.75<TFL(600)/TFL(540)<0.95
(2)615<λFLT50%<670
(3)|TFL(700)/TFL(540)|<0.05
(4)680≦λLR50%
但し、
FL(600):波長600nmの光の分光透過率
FL(540):波長540nmの光の分光透過率
λFLT50%:分光透過率が50%になる近赤外光の波長
FL(700):波長700nmの光の分光透過率
λLR50%:分光反射率が50%になる近赤外光の波長
とし、波長の単位はnmとする。
【0064】
条件式(1)乃至条件式(3)は、光学フィルター4と多層膜10を重ねた際の赤色波長領域から近赤外領域における分光透過特性を規定する式である。
【0065】
条件式(1)の上限又は下限を超えると、波長600nm付近の光の光量がその領域以外の可視光領域の光量に対して過剰にアンバランスになるため、色再現におけるホワイトバランス調整が困難になる。また、画像処理に伴う過剰な電気信号ゲインにより、色ノイズが大幅に発生し易くなり画質の劣化を来たしてしまう。
【0066】
条件式(2)の上限を超えると、赤外線透過のカットオフ波長が長くなり過ぎてしまい、近赤外領域の光の透過光量及び透過波長領域が多くなり過ぎるため、画像や映像の十分な色調整を行うことができなくなる。例えば、ホワイトバランス調整が困難になったり、目視では認識できない赤外領域の光を撮像素子3が感光してしまうと言う不具合が発生するおそれがある。
【0067】
逆に、条件式(2)の下限を超えると、赤外線透過のカットオフ波長が短くなり過ぎてしまい、赤色領域の光の透過光量及び透過波長領域が少なくなり過ぎるため、画像や映像の十分な色調整を行うことができなくなる。特に、赤色や紫色の色再現性に悪影響を及ぼし易くなる。
【0068】
条件式(3)の上限を超えると、波長700nm付近の光の光量が多くなり過ぎてしまい、撮像素子3に入射する近赤外領域の光量が多くなり過ぎるため、出力される画像や映像の、特に、赤色や黒色の色再現性に悪影響を及ぼしてしまう。例えば、ホワイトバランス調整が困難になったり、目視では認識できない赤外領域の光を撮像素子3が感光してしまうと言う不具合が発生するおそれがある。
【0069】
条件式(4)は、多層膜10の赤色波長領域から近赤外領域における分光反射特性を規定する式である。
【0070】
条件式(4)の下限を超えると、多層膜10における赤色領域から赤外線領域の分光反射率及び反射波長領域が大きくなり過ぎてしまい、光の反射に起因する赤色の反射ゴーストが顕著に発生し易くなり、大幅な画質の劣化を来たしてしまう。赤色の反射ゴーストは、例えば、撮像素子3や撮像光学系1のレンズと光学フィルター4との間における反射によって発生する。
【0071】
また、赤色の反射ゴーストは、その発生要因になる光の多層膜10に対する入射角が大きくなるに従って多層膜10に入射する光に干渉する影響が大きくなるため、発生頻度が高くなってしまう。従って、撮像光学系1及び撮像装置の小型化を図ったときに、ゴーストの発生要因になる光の多層膜10に対する入射角が大きくなったり、多層膜10に入射される光の密度が高くなった場合には、特に、赤色の反射ゴーストが発生し易くなってしまう。
【0072】
以上に記載した通り、光学フィルター4及び多層膜10が条件式(1)乃至条件式(4)を満足することにより、赤色の反射ゴーストの発生の抑制、良好なホワイトバランスの確保及び赤色領域における良好な色再現性を図ることができ、画質の大幅な向上を図ることが可能になる。特に、上記したように、撮像光学系1の小型化に起因してゴーストの発生要因になる光の多層膜10に対する入射角が大きくなったり、入射される光の密度が高くなった場合においても、条件式(1)乃至条件式(4)を満足することにより、赤色領域における良好な色再現性を確保することができる。
【0073】
撮像光学系1においては、撮像素子3に入射する光の分光特性を光学フィルター4とリッド5に形成された多層膜10のみによって調整することが望ましい。
【0074】
このように光の分光特性を光学フィルター4と多層膜10のみによって調整することにより、良好な色再現性を確保した上で製造の容易化等を図ると言う上記した効果を少ない部品点数によって実現することができるため、撮像光学系1及び撮像装置の小型化及び製造コストの低減を図ることが可能になる。
【0075】
また、撮像光学系1においては、光の分光特性を光学フィルター4と多層膜10のみによって調整し、さらに多層膜10の分光透過率が以下の条件式(5)及び条件式(6)を満足するように構成されている。
(5)400≦λLT−UV50%≦440
(6)680≦λLT−IR50%≦720
但し、
λLT−UV50%:分光透過率が50%になる紫外光の波長
λLT−IR50%:分光透過率が50%になる近赤外光の波長
とし、波長の単位はnmとする。
【0076】
条件式(5)は、多層膜10における紫外線領域のカットオフ波長を規定する式である。
【0077】
条件式(5)の下限を超えると、撮像素子3に入射する紫外線〜青色領域の光の透過光量が多くなり過ぎると共に透過波長領域が広くなり過ぎるため、画質の劣化を来たしてしまう。例えば、ホワイトバランス調整が困難になったり、撮像光学系1において発生する色収差の画質への影響が大きくなってしまう。
【0078】
一方、条件式(5)の上限を超えると、撮像素子3に入射する紫外線〜青色領域の光の透過光量が少なくなり過ぎると共に透過波長領域が狭くなり過ぎるため、画像の色調整に支障を生じ画質の劣化を来たしてしまう。特に、青色や紫色の色再現性の劣化が生じ易くなる。
【0079】
従って、多層膜10が条件式(5)を満足することにより、撮像素子3に入射する紫外線〜青色領域の光の透過光量と透過波長領域が適正化され、画質の向上を図ることができる。
【0080】
条件式(6)は、多層膜10における近赤外領域のカットオフ波長を規定する式である。
【0081】
条件式(6)の下限を超えると、赤色〜近赤外領域の光の反射率が高くなると共に反射波長領域が大きくなってしまう。従って、多層膜10等における光の反射、例えば、撮像素子3や撮像光学系1のレンズと多層膜10との間での反射に起因して発生する反射ゴースト、特に、赤色の反射ゴーストの発生が顕著になり、画質の顕著な劣化を来たしてしまう。
【0082】
一方、条件式(6)の上限を超えると、近赤外領域の光の透過光量が多くなり過ぎると共に透過波長領域が広くなり過ぎるため、画像の色調整に支障を生じ画質の劣化を来たしてしまう。例えば、ホワイトバランス調整が困難になったり、目視では認識できない赤外領域の光を撮像素子3が感光してしまうおそれがある。
【0083】
従って、多層膜10が条件式(6)を満足することにより、撮像素子3に入射する赤色〜近赤外領域の光の透過光量と透過波長領域が適正化され、画質の向上を図ることができる。
【0084】
[光学フィルターの位置等]
撮像光学系1においては、光学フィルター4が最も像側に配置されたレンズ2aと撮像素子3の間に配置されている(図1参照)。
【0085】
このように光学フィルター4をレンズ2aと撮像素子3の間に配置することにより、主光線と周辺光線の距離が離れる開口絞り6付近に光学フィルター4を配置する場合に比し、球面収差の乱れや劣化を軽減することができる。従って、撮像光学系1の解像度の劣化を抑制することが可能になる上、製造精度や温度変化によって生じるおそれのあるバックフォーカスの位置ずれを小さくすることもできる。
【0086】
また、光学フィルター4を最も像側に配置されたレンズ2aより物体側に配置する場合に比し、撮像素子3又はリッド5との間での反射に起因して発生するゴーストを小さくすることができるため、画質の劣化を低減することが可能になる。
【0087】
さらに、一般に、撮像素子を有する撮像光学系にあっては、像面照度を均一にするために、像側テレセントリック系に近付くように設計される。このように像側テレセントリック系に近付くように設計された場合には、撮像光学系の小型化を図る場合に、光学設計上、撮像光学系の最も像側に配置されたレンズと撮像素子の間に配置スペースを形成することが比較的容易である。
【0088】
従って、撮像光学系1のように、光学フィルター4を光路上の最も像側に配置されたレンズ2aと撮像素子3の間に配置することにより、比較的容易に形成可能な配置スペースに光学フィルター4が配置され、撮像光学系1の小型化を容易に図ることができる。
【0089】
尚、上記には、光学フィルター4を最も像側に配置されたレンズ2aと撮像素子3の間に配置した撮像光学系1を例として示したが、例えば、図3に示す撮像光学系1Aのように、光学フィルター4を開口絞り6を有するレンズ群2Aに配置してもよい。図3には、光学フィルター4を開口絞り6を有する第2レンズ群2Aに配置した例を示している。
【0090】
一般に、撮像光学系において開口絞りを有するレンズ群は、そのレンズ群より物体側及び像側に位置するレンズ群よりレンズの径が大幅に小さくなる。
【0091】
従って、上記したように、光学フィルター4を開口絞り6を有するレンズ群2Aに配置することにより、光学フィルター4の小型化を図ることが可能になり、光学フィルター4の製造効率の大幅な向上を図ることができると共に撮像光学系1A及び撮像装置の製造コストの低減を図ることができる。
【0092】
また、光学フィルター4を開口絞り6を有するレンズ群2Aに配置することにより、撮像光学系1Aの主光線と上下光線の距離が離れた位置に光学フィルター4が配置されるため、万が一、光学フィルター4に塵埃が付着した場合においても、塵埃の影の画像への映り込みの影響を極限まで低減することが可能になる。
【0093】
尚、光学フィルター4を、最も像側に配置されたレンズ2aと撮像素子3の間に配置した場合と開口絞り6を有するレンズ群2Aに配置した場合の何れの場合においても、良好な色再現性を確保した上で製造の容易化等を図ると言う上記した効果を同等に得ることができる。従って、光学フィルター4を、最も像側に配置されたレンズ2aと撮像素子3の間に配置するか、又は、開口絞り6を有するレンズ群2Aに配置するかは、設計する撮像光学系及び撮像装置の設計性や商品性によって自由に選択することが可能である。
【0094】
光学フィルター4にあっては、基材7の両面にそれぞれ形成された反射防止膜8、9の膜構成を同一とすることが望ましい。
【0095】
反射防止膜8、9の膜構成を同一とすることにより、撮像光学系1、1A及び撮像装置の組立工程において、光学フィルター4の両面を同等に取り扱うことが可能になるため、量産時の品質管理が行い易くなる上、製造効率の向上や不良品の流出の防止を図ることが可能になる。
【0096】
また、光学フィルター4は基材7がフィルム状の樹脂材料によって形成されているが、基材7の材料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂を用いることが望ましい。
【0097】
ポリオレフィン系樹脂は、優れた光学性能(高い透過性、低複屈折性、高いアッベ数等)、耐熱性、低吸水性と言う特性を有している。従って、基材7をポリオレフィン系樹脂によって形成することにより、撮像光学系1が過酷な温度条件や過酷な湿度条件の下で使用された場合においても、光学フィルター4の良好な特性を確保することができる。
【0098】
また、ポリオレフィン系樹脂は、従来において基材の材料として用いられていた赤外線吸収ガラスよりも安価である。従って、基材7をポリオレフィン系樹脂によって形成することにより、撮像光学系1及び撮像装置の製造コストの低減を図ることができる。
【0099】
さらに、ポリオレフィン系樹脂は成形性においても優れた特性を有しているため、例えば、基材として赤外線吸収ガラスを用いる場合に比し、例えば、キャスト成型等の製法によって光学フィルター4の薄型化を図ることができる。従って、光学フィルター4の厚みを、例えば、120μm以下にして撮像光学系1及び撮像装置の小型化を図ることができる。
【0100】
上記のように、光学フィルター4の基材7としてポリオレフィン系樹脂を用いた場合に、赤外線吸収材料として近赤外領域の光吸収特性を有する有機系の色素である着色材料、例えば、アントシアニン色素やシアニン系色素やジチオール金属錯体系色素を混合させることが望ましい。
【0101】
アントシアニン色素やシアニン系色素やジチオール金属錯体系色素は、厳しい温度条件下でも安定した信頼性を期待できる上、天然系着色料であるため、合成着色料では実現が難しい環境への配慮も容易に達成することが可能になる。
【0102】
また、赤外線吸収材料として有機系の色素を用いたときには、ポリオレフィン系樹脂に対する着色剤の良好な混合性を確保することができる。
【0103】
さらに、有機系の色素を赤外線吸収材料として用いることにより、波長約700nm付近の分光透過率が高くならず、撮像光学系1の分光透過特性及び分光反射特性として理想的な上記した条件式(1)乃至条件式(4)を実現することができる。
【0104】
[撮像光学系の他の構成]
上記には、三つのレンズ群2、2、2を有する撮像光学系1、1Aを例として示したが、光学フィルター4及び多層膜10は、例えば、以下に示すような撮像光学系1B乃至撮像光学系1Gに設けられていてもよい(図4乃至図9参照)。
【0105】
撮像光学系1Bは、図4に示すように、例えば、五つのレンズ群2B、2B、・・・とCCDやCMOS等の撮像素子3が光路上に配置されている。
【0106】
最も物体側に位置するレンズ群(第1レンズ群)2Bには光路を90°折り曲げるプリズム2bが配置されている。このようなプリズム2bを有する撮像光学系1Bにあっては、プリズム2bによって光路が直角に折り曲げられるため、薄型化を図ることができる。
【0107】
光学フィルター4は最も像側に配置されたレンズ2cと撮像素子3の間に配置されている。物体側から像側へ向けて3番目に配置されたレンズ群(第3レンズ群)2Bには開口絞り6が配置されている。多層膜10はリッド5に形成されている。
【0108】
撮像光学系1Cは、図5に示すように、例えば、五つのレンズ群2C、2C、・・・とCCDやCMOS等の撮像素子3が光路上に配置されている。
【0109】
最も物体側に位置するレンズ群(第1レンズ群)2Cには光路を90°折り曲げるプリズム2dが配置されている。このようなプリズム2dを有する撮像光学系1Cにあっては、プリズム2dによって光路が直角に折り曲げられるため、薄型化を図ることができる。
【0110】
物体側から像側へ向けて3番目に配置されたレンズ群(第3レンズ群)2Cには開口絞り6が配置されている。光学フィルター4は開口絞り6を有するレンズ群(第3レンズ群)2Cに配置されている。多層膜10はリッド5に形成されている。
【0111】
撮像光学系1Dは、図6に示すように、例えば、四つのレンズ群2D、2D、・・・とCCDやCMOS等の撮像素子3が光路上に配置されている。
【0112】
光学フィルター4は最も像側に配置されたレンズ2eと撮像素子3の間に配置されている。物体側から像側へ向けて3番目に配置されたレンズ群(第3レンズ群)2Dには開口絞り6が配置されている。多層膜10はリッド5に形成されている。
【0113】
撮像光学系1Eは、図7に示すように、例えば、四つのレンズ群2E、2E、・・・とCCDやCMOS等の撮像素子3が光路上に配置されている。
【0114】
物体側から像側へ向けて3番目に配置されたレンズ群(第3レンズ群)2Eには開口絞り6が配置されている。光学フィルター4は開口絞り6を有するレンズ群(第3レンズ群)2Eに配置されている。多層膜10はリッド5に形成されている。
【0115】
撮像光学系1Fは、図8に示すように、例えば、四つのレンズ群2F、2F、・・・とCCDやCMOS等の撮像素子3が光路上に配置されている。
【0116】
光学フィルター4は最も像側に配置されたレンズ2fと撮像素子3の間に配置されている。物体側から像側へ向けて3番目に配置されたレンズ群(第3レンズ群)2Fには開口絞り6が配置されている。
【0117】
最も像側に配置されたレンズ群2Fと光学フィルター4の間には水晶等によって形成され光学部材の一つとして用いられたローパスフィルター11が配置されている。ローパスフィルター11によって撮像素子3に入射される光束の高周波成分が減衰される。また、ローパスフィルター11によってモアレ縞の発生を防止することができる。
【0118】
多層膜10はローパスフィルター11の物体側を向く面又は像側を向く面に形成されている。
【0119】
撮像光学系1Fにあっては、上記したように、ローパスフィルター11に多層膜10が形成されている。このように撮像光学系に必要とされる場合のあるローパスフィルター11に多層膜10を形成することにより、多層膜10を形成するための専用の部品を必要とせず、最小限の部品点数において、良好な色再現性を確保した上で製造の容易化等を図ることが可能である。
【0120】
撮像光学系1Gは、図9に示すように、例えば、四つのレンズ群2G、2G、・・・とCCDやCMOS等の撮像素子3が光路上に配置されている。
【0121】
物体側から像側へ向けて3番目に配置されたレンズ群(第3レンズ群)2Gには開口絞り6が配置されている。光学フィルター4は開口絞り6を有するレンズ群(第3レンズ群)2Gに配置されている。
【0122】
最も像側に配置されたレンズ群2Gと光学フィルター4の間には水晶等によって形成され光学部材の一つとして用いられたローパスフィルター11が配置されている。ローパスフィルター11によって撮像素子3に入射される光束の高周波成分が減衰される。また、ローパスフィルター11によってモアレ縞の発生を防止することができる。
【0123】
多層膜10はローパスフィルター11の物体側を向く面又は像側を向く面に形成されている。
【0124】
撮像光学系1Gにあっては、上記したように、ローパスフィルター11に多層膜10が形成されている。このように撮像光学系に必要とされる場合のあるローパスフィルター11に多層膜10を形成することにより、多層膜10を形成するための専用の部品を必要とせず、最小限の部品点数において、良好な色再現性を確保した上で製造の容易化等を図ることが可能である。
【0125】
[実施例]
以下に、撮像光学系の具体的な実施例について説明する(図10乃至図18参照)。
【0126】
図10乃至図12は、第1の実施例を示すグラフ図である。
【0127】
図10は光学フィルター4と多層膜10を重ね合わせた際の波長と分光透過率の関係を示し、図11は多層膜10のリッド5に接した面と反対側の面である光学面における波長と分光反射率の関係を示し、図12は多層膜10における波長と分光透過率の関係を示している。
【0128】
第1の実施例においては、
(1)TFL(600)/TFL(540)=0.906
(2)λFLT50%=650nm
(3)|TFL(700)/TFL(540)|=0.002
(4)λLR50%=697nm
(5)λLT−UV50%=424nm
(6)λLT−IR50%=697nm
とされ、条件式(1)、条件式(2)、条件式(3)、条件式(4)、条件式(5)及び条件式(6)を満足するようにされている。
【0129】
第1の実施例においては、図10に示すように、波長約600nm乃至約700nmの赤色領域において、長波長側に近付くに従って分光透過率が緩やかに低下している。
【0130】
また、第1の実施例においては、図11に示すように、分光反射率が赤色の反射ゴーストの発生に寄与し易い光の波長領域である約600nm乃至約680nmにおいては低く、それより長波長側において高くされている。
【0131】
さらに、第1の実施例においては、図12に示すように、分光透過率が赤色の反射ゴーストの発生に寄与し易い光の波長領域である約600nm乃至約680nmにおいては高く、それより長波長側において低くされている。
【0132】
従って、第1の実施例にあっては、良好なホワイトバランスを確保することができると共に赤色領域における良好な色再現性を実現することができる。
【0133】
図13乃至図15は、第2の実施例を示すグラフ図である。
【0134】
図13は光学フィルター4と多層膜10を重ね合わせた際の波長と分光透過率の関係を示し、図14は多層膜10のリッド5に接した面と反対側の面である光学面における波長と分光反射率の関係を示し、図15は多層膜10における波長と分光透過率の関係を示している。
【0135】
第2の実施例においては、
(1)TFL(600)/TFL(540)=0.946
(2)λFLT50%=655nm
(3)|TFL(700)/TFL(540)|=0.002
(4)λLR50%=697nm
(5)λLT−UV50%=424nm
(6)λLT−IR50%=697nm
とされ、条件式(1)、条件式(2)、条件式(3)、条件式(4)、条件式(5)及び条件式(6)を満足するようにされている。
【0136】
第2の実施例においては、図13に示すように、波長約600nm乃至約700nmの赤色領域において、長波長側に近付くに従って分光透過率が緩やかに低下している。
【0137】
また、第2の実施例においては、図14に示すように、分光反射率が赤色の反射ゴーストの発生に寄与し易い光の波長領域である約600nm乃至約680nmにおいては低く、それより長波長側において高くされている。
【0138】
さらに、第2の実施例においては、図15に示すように、分光透過率が赤色の反射ゴーストの発生に寄与し易い光の波長領域である約600nm乃至約680nmにおいては高く、それより長波長側において低くされている。
【0139】
従って、第2の実施例にあっては、良好なホワイトバランスを確保することができると共に赤色領域における良好な色再現性を実現することができる。
【0140】
図16乃至図18は、第3の実施例を示すグラフ図である。
【0141】
図16は光学フィルター4と多層膜10を重ね合わせた際の波長と分光透過率の関係を示し、図17は多層膜10のリッド5に接した面と反対側の面である光学面における波長と分光反射率の関係を示し、図18は多層膜10における波長と分光透過率の関係を示している。
【0142】
第3の実施例においては、
(1)TFL(600)/TFL(540)=0.807
(2)λFLT50%=622nm
(3)|TFL(700)/TFL(540)|=0.0001
(4)λLR50%=694nm
(5)λLT−UV50%=424nm
(6)λLT−IR50%=694nm
とされ、条件式(1)、条件式(2)、条件式(3)、条件式(4)、条件式(5)及び条件式(6)を満足するようにされている。
【0143】
第3の実施例においては、図16に示すように、波長約600nm乃至約700nmの赤色領域において、長波長側に近付くに従って分光透過率が緩やかに低下している。
【0144】
また、第3の実施例においては、図17に示すように、分光反射率が赤色の反射ゴーストの発生に寄与し易い光の波長領域である約600nm乃至約680nmにおいては低く、それより長波長側において高くされている。
【0145】
さらに、第3の実施例においては、図18に示すように、分光透過率が赤色の反射ゴーストの発生に寄与し易い光の波長領域である約600nm乃至約680nmにおいては高く、それより長波長側において低くされている。
【0146】
従って、第3の実施例にあっては、良好なホワイトバランスを確保することができると共に赤色領域における良好な色再現性を実現することができる。
【0147】
尚、図19に、一例として、従来の光学素子と第1の実施例における多層膜10との分光反射率を比較して示す。
【0148】
図19に示すように、従来の光学素子においては、赤色の反射ゴーストの発生に寄与し易い光の波長領域である約600nm乃至約680nm(範囲P)において分光反射率が高くされているが、多層膜10においては、約600nm乃至約680nmより長波長側で分光反射率が高くされている。
【0149】
このように多層膜10を用いることにより、赤色の反射ゴーストの発生に寄与し易い光の波長領域より長波長側で分光反射率が高くなるため、赤色の反射ゴーストの発生が抑制され、良好なホワイトバランスを確保することができると共に赤色領域における良好な色再現性を実現することができる。
【0150】
[撮像装置の一実施形態]
図20に、本発明撮像装置の一実施形態によるデジタルスチルカメラのブロック図を示す。
【0151】
撮像装置(デジタルスチルカメラ)100は、撮像光学系1(1A〜1G)、カメラ信号処理部20、画像処理部30、LCD(Liquid Crystal Display)40、R/W(リーダ/ライタ)50、CPU(Central Processing Unit)60、入力部70及びレンズ駆動制御部80を備えている。
【0152】
撮像光学系1は撮像機能を担い、カメラ信号処理部20は撮影された画像信号のアナログ−デジタル変換等の信号処理を行い、画像処理部30は画像信号の記録再生処理を行い、LCD40は撮影された画像等を表示する。R/W50はメモリーカード1000への画像信号の書込及び読出を行い、CPU60は撮像装置100の全体を制御し、入力部70はユーザーによって所要の操作が行われる各種のスイッチ等から成り、レンズ駆動制御部80は撮像光学系1に配置されたレンズの駆動を制御する。
【0153】
撮像光学系1は、ズームレンズ11やCCDやCMOS等の撮像素子3等とによって構成されている。
【0154】
カメラ信号処理部20は、撮像素子3からの出力信号に対するデジタル信号への変換、ノイズ除去、画質補正、輝度・色差信号への変換等の各種の信号処理を行う。
【0155】
画像処理部30は、所定の画像データーフォーマットに基づく画像信号の圧縮符号化・伸張復号化処理や解像度等のデーター仕様の変換処理等を行う。
【0156】
LCD40はユーザーの入力部70に対する操作状態や撮影した画像等の各種のデーターを表示する機能を有している。
【0157】
R/W50は、画像処理部30によって符号化された画像データーのメモリーカード1000への書込及びメモリーカード1000に記録された画像データーの読出を行う。
【0158】
CPU60は、撮像装置100に設けられた各回路ブロックを制御する制御処理部として機能し、入力部70からの指示入力信号等に基づいて各回路ブロックを制御する。
【0159】
入力部70は、例えば、シャッター操作を行うためのシャッターレリーズボタンや、動作モードを選択するための選択スイッチ等によって構成され、ユーザーによる操作に応じた指示入力信号をCPU60に対して出力する。
【0160】
レンズ駆動制御部80は、CPU60からの制御信号に基づいてズームレンズ11の各レンズを駆動する図示しないモータ等を制御する。
【0161】
メモリーカード1000は、例えば、R/W50に接続されたスロットに対して着脱可能な半導体メモリーである。
【0162】
以下に、撮像装置100における動作を説明する。
【0163】
撮影の待機状態では、CPU60による制御の下で、撮像光学系1において撮影された画像信号が、カメラ信号処理部20を介してLCD40に出力され、カメラスルー画像として表示される。また、入力部70からのズーミングのための指示入力信号が入力されると、CPU60がレンズ駆動制御部80に制御信号を出力し、レンズ駆動制御部80の制御に基づいてズームレンズ11の所定のレンズが移動される。
【0164】
入力部70からの指示入力信号により撮像光学系1の図示しないシャッターが動作されると、撮影された画像信号がカメラ信号処理部20から画像処理部30に出力されて圧縮符号化処理され、所定のデーターフォーマットのデジタルデーターに変換される。変換されたデーターはR/W50に出力され、メモリーカード1000に書き込まれる。
【0165】
尚、フォーカシングは、例えば、入力部50のシャッターレリーズボタンが半押しされた場合や記録(撮影)のために全押しされた場合等に、CPU60からの制御信号に基づいてレンズ駆動制御部80がズームレンズ11の所定のレンズを移動させることにより行われる。
【0166】
メモリーカード1000に記録された画像データーを再生する場合には、入力部70に対する操作に応じて、R/W50によってメモリーカード1000から所定の画像データーが読み出され、画像処理部30によって伸張復号化処理が行われた後、再生画像信号がLCD40に出力されて再生画像が表示される。
【0167】
上記した最良の形態において示した各部の具体的な形状及び構造は、何れも本発明を実施する際の具体化のほんの一例を示したものにすぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならないものである。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】図2乃至図20と共に本発明の実施の形態を示すものであり、本図は、撮像光学系の構成を示す概念図である。
【図2】光学フィルターと多層膜が形成されたリッドとを示す概念図である。
【図3】光学フィルターが開口絞りを有するレンズ群に配置された撮像光学系の構成を示す概念図である。
【図4】また別の撮像光学系の構成を示す概念図である。
【図5】光学フィルターが開口絞りを有するレンズ群に配置されたまた別の撮像光学系の構成を示す概念図である。
【図6】さらに別の撮像光学系の構成を示す概念図である。
【図7】光学フィルターが開口絞りを有するレンズ群に配置されたさらに別の撮像光学系の構成を示す概念図である。
【図8】ローパスフィルターが配置された撮像光学系の構成を示す概念図である。
【図9】光学フィルターが開口絞りを有するレンズ群に配置されローパスフィルターが配置された撮像光学系の構成を示す概念図である。
【図10】第1の実施例における光学フィルターと多層膜を重ね合わせた際の分光透過特性を示すグラフ図である。
【図11】第1の実施例における多層膜の分光反射特性を示すグラフ図である。
【図12】第1の実施例における多層膜の分光透過特性を示すグラフ図である。
【図13】第2の実施例における光学フィルターと多層膜を重ね合わせた際の分光透過特性を示すグラフ図である。
【図14】第2の実施例における多層膜の分光反射特性を示すグラフ図である。
【図15】第2の実施例における多層膜の分光透過特性を示すグラフ図である。
【図16】第3の実施例における光学フィルターと多層膜を重ね合わせた際の分光透過特性を示すグラフ図である。
【図17】第3の実施例における多層膜の分光反射特性を示すグラフ図である。
【図18】第3の実施例における多層膜の分光透過特性を示すグラフ図である。
【図19】従来の多層膜と第1の実施例における多層膜とについて、分光反射特性を比較して示すグラフ図である。
【図20】本発明撮像装置の一実施形態を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0169】
1…撮像光学系、2…レンズ群、2a…レンズ、3…撮像素子、4…光学フィルター、5…リッド、6…開口絞り、7…基材、8…反射防止膜、9…反射防止膜、10…多層膜、1A…撮像光学系、2A…レンズ群、1B…撮像光学系、2B…レンズ群、2c…レンズ、1C…撮像光学系、2C…レンズ群、1D…撮像光学系、2D…レンズ群、2e…レンズ、1E…撮像光学系、2E…レンズ群、1F…撮像光学系、2F…レンズ群、2f…レンズ、1G…撮像光学系、2G…レンズ群、100…撮像装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光路上に少なくとも一つのレンズ又はレンズ群と赤外線吸収機能を有する光学フィルターと少なくとも一つの光学部材と撮像素子が配置され、
前記光学フィルターは、赤外線吸収機能を有するフィルム状の樹脂材料によって形成された基材と、該基材の物体側を向く面と像側を向く面の両面にそれぞれ形成された反射防止膜とから成り、
前記光学部材に紫外線及び赤外線を反射し光学系の分光特性を調整する多層膜を形成した
撮像光学系。
【請求項2】
前記光学部材として前記撮像素子を密封するリッドを設け、
前記リッドの物体側を向く面又は像側を向く面に前記多層膜を形成した
請求項1に記載の撮像光学系。
【請求項3】
前記光学フィルターと前記光学部材に形成された多層膜とを重ねた際の分光透過率及び前記多層膜の前記光学部材に接した面と反対側の面である光学面における分光反射率が以下の条件式(1)乃至条件式(4)を満足する
請求項1に記載の撮像光学系。
(1)0.75<TFL(600)/TFL(540)<0.95
(2)615<λFLT50%<670
(3)|TFL(700)/TFL(540)|<0.05
(4)680≦λLR50%
但し、
FL(600):波長600nmの光の分光透過率
FL(540):波長540nmの光の分光透過率
λFLT50%:分光透過率が50%になる近赤外光の波長
FL(700):波長700nmの光の分光透過率
λLR50%:分光反射率が50%になる近赤外光の波長
とし、波長の単位はnmとする。
【請求項4】
前記多層膜の分光透過率が以下の条件式(5)及び条件式(6)を満足する
請求項1に記載の撮像光学系。
(5)400≦λLT−UV50%≦440
(6)680≦λLT−IR50%≦720
但し、
λLT−UV50%:分光透過率が50%になる紫外光の波長
λLT−IR50%:分光透過率が50%になる近赤外光の波長
とし、波長の単位はnmとする。
【請求項5】
撮像素子に入射する光の分光特性を前記光学フィルターと前記リッドに形成された多層膜のみによって調整した
請求項1に記載の撮像光学系。
【請求項6】
前記光学フィルターを最も像側に配置された前記レンズと前記撮像素子の間に配置した
請求項1に記載の撮像光学系。
【請求項7】
開口絞りを有する前記レンズ群を少なくとも一つ配置し、
前記光学フィルターを、前記開口絞りを有する前記レンズ群に配置した
請求項1に記載の撮像光学系。
【請求項8】
前記光学フィルターの光軸方向における厚みを120μm以下とした
請求項1に記載の撮像光学系。
【請求項9】
前記光学フィルターの基材の両面にそれぞれ形成された前記反射防止膜の膜構成を同一とした
請求項1に記載の撮像光学系。
【請求項10】
前記基材をポリオレフィン系樹脂によって形成した
請求項1に記載の撮像光学系。
【請求項11】
前記基材に赤外線吸収機能を有する着色剤として有機系の色素を少なくとも1種類含有した
請求項1に記載の撮像光学系。
【請求項12】
光路上に配置された少なくとも一つのレンズ又はレンズ群と赤外線吸収機能を有する光学フィルターと少なくとも一つの光学部材と撮像素子を有する撮像光学系を備え、
前記光学フィルターは、赤外線吸収機能を有するフィルム状の樹脂材料によって形成された基材と、該基材の物体側を向く面と像側を向く面の両面にそれぞれ形成された反射防止膜とから成り、
前記光学部材に紫外線及び赤外線を反射し光学系の分光特性を調整する多層膜を形成した
撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−101089(P2011−101089A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252752(P2009−252752)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】