説明

有機金属化学的気相成長法によるグレーディングPrxCa1−xMnO3薄膜の堆積方法

【課題】 適切な記憶装置動作のために膜厚を通して種々の構成でメモリ抵抗素子を製造可能なグレーディングPCMO薄膜の堆積方法を提供する。
【解決手段】 PCMO膜中に含まれるCa、Mn、及び、Prが、そのスイッチング特性において大きく影響するため、RRAM記憶装置に使用するためのグレーディングPCMO薄膜を実現させる方法として、堆積温度、気化温度のような堆積パラメータに関して、異なった堆積速度の作用を有するPr、Ca及びMnの前駆体を選択することによって、堆積処理中の個々の堆積パラメータを変化させることで、Pr、CaまたはMnの配分が傾斜したグレーディングPCMO薄膜を堆積する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積回路(IC)メモリ抵抗素子セルアレイに関し、より詳細にはグレーディングPCMOメモリ抵抗素子セルに関する。
【背景技術】
【0002】
外部からの影響によって変化する電気抵抗特性を有する材料の最近の開発は、新しい種類の不揮発性メモリ、つまり抵抗性ランダムアクセスメモリ(Resistance Random Access Memory(RRAM):RRAMはシャープ株式会社の登録商標)に導入されている。RRAMセルの基本構成は、高抵抗、低抵抗(2値のメモリ回路)、或いは、中間抵抗値(多値メモリセル回路)を書き込み可能な可変抵抗素子である。
【0003】
RRAMセルの異なる抵抗値は、RRAM回路に格納された情報を表わす。更に、RRAMメモリにおける高抵抗と低抵抗の多安定状態は、その安定状態を切り替えるのにのみ電力供給を必要とし、その安定状態を維持するためには電力供給を必要としない。従って、RRAM装置は、そのより小さな装置に導く回路の簡潔性、抵抗性メモリセルの不揮発性特性、及び、記憶状態の安定性等によって、先進的なメモリセル構造として有望である。
【0004】
このようなメモリ抵抗材料の例として、Pr0.7Ca0.3MnOのような薄膜巨大磁気抵抗(CMR)材料でみられる電気パルス抵抗変化(EPIR)を有する材料がある(特許文献1、特許文献2参照)。しかしながら、メモリ抵抗材料は、信頼できるメモリ動作や、メモリ抵抗の電気特性を劣化させる比較的大きな振幅のパルス等の種々の製造上の難題に直面している。
【0005】
メモリ抵抗素子の材料構造と構成は、薄膜電気特性とメモリセル動作に直接影響することが、一般的に分かってきている。従って、結晶構造、酸素成分の分配、或るは、多層構造を最適化する等のRRAM装置のメモリ抵抗材料を改善する方法が提案されている。例えば、弱い多結晶PCMO薄膜は、単極性パルスによって誘導される抵抗スイッチ特性を有し、高結晶膜は、双極性パルスによって誘導される抵抗スイッチ特性を有するという発見と併せて、参考文献としての同じ発明者による係属中の米国出願(Method for obtaining reversible resistance swiches on a PCMO thin film when integrated with a highly crystalline seed layer)に、抵抗調節の方法を変えるために高結晶とアモルファスPCMO層をサンドイッチ膜(積層膜)とすることが開示されている。
【0006】
PCMO抵抗材料を用いた記憶装置の動作が、異なる電界強度と同様に異なる電界方向によっても顕著な影響を受けるので、PCMO膜の抵抗スイッチ特性は、記憶装置を実現するにおいて一様なPCMO膜または対称の装置設計が必ずしも最適ではないと考えられる。一つの電極が他方の電極よりも大きくなっている非対称な記憶装置では、大きい方の電極において電界強度が弱くなっているため、PCMO膜抵抗は小さい方の電極においてのみ変化し、確実に記憶装置が適切に機能することになる。このことは、参考文献としての同じ発明者による係属中の米国出願(Asymmeric memory cell)に開示されている。
【0007】
非対称なメモリセルを実現するための別の方法として、幾何学的には対称ではあるが、物理的には非対称な特性を有する。装置の物理的構造は、膜全体において事実上均一であるが、酸素分布がメモリ抵抗薄膜を通して制御されることで、転じて装置のスイッチング特性に影響を与える。例えば、酸素量の多い亜マンガン酸塩領域では低抵抗となり、一方、酸素量の少ない亜マンガン酸領域では高抵抗となる。従って、酸素量の少ない亜マンガン酸塩領域は電界に対応して抵抗を変化させ、一方、酸素量の多い亜マンガン酸塩領域の抵抗が一定に維持されるので、酸素量の多いPCMO層と酸素量の少ないPCMO層とのサンドイッチ膜(積層膜)は、抵抗調節の方法を変えることができる。このサンドイッチ層はアニーリング処理によって簡単に実現でき、参考文献としての同じ発明者による係属中の米国出願(Oxigen contact system and method for controlling memory resistance properties)に開示されている。
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,204,139号明細書
【特許文献2】米国特許第6,473,332号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、PCMOのようなRRAM材料において、酸素は流動的であるため、装置の製造過程或いは回路動作中において装置の温度が上昇すると、信頼性上の問題が生じる。従って、適切な記憶装置動作のために、膜厚を通して種々の構成でメモリ抵抗素子を製造することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、PCMO膜中に含まれるCa、Mn、及び、Prが、そのスイッチング特性において大きく影響するため、RRAM記憶装置に使用するためのグレーディングPCMO薄膜を実現させる方法を開示している。堆積温度、気化温度のような堆積パラメータに関して、異なった堆積速度の作用を有するPr、Ca及びMnの前駆体を選択することによって、堆積処理中の個々の堆積パラメータを変化させることで、Pr、CaまたはMnの配分が傾斜したグレーディングPCMO薄膜を堆積することができる。Prの前駆体Pr(thd)と、Caの前駆体Ca(thd)と、Mnの前駆体Mn(thd)を選択することによって、PrとMnの堆積速度の作用は、基板温度と気化温度に関して、Caの堆積温度反応とは異なることが示されている。従って、PrとMnをグレーディング(傾斜)させたPCMO薄膜は基板温度を制御することによって堆積され、Caをグレーディング(傾斜)させたPCMO薄膜は気化温度を制御することによって堆積される。
【0011】
本発明は、プロセスパラメータに関して、異なる堆積速度の作用を有する複数の前駆体を準備した後に、堆積温度、気化温度、搬送ライン温度、シャワーヘッド温度、プラズマエネルギ、ランプヒータ等のような堆積パラメータの一つを変えることによって、如何なる複数成分のグレーディング薄膜の製造に対しても広く適用できる。例えば、成分Aと成分Bよりなる複数成分薄膜のグレーディング成分Aを堆積するため、堆積温度に強く依存する堆積速度の前駆体PAと堆積温度に弱く依存する堆積温度の前駆体PBが選択される。そして、A成分のグレーディング薄膜の堆積は、堆積温度を変化させることによって行われる。成分Aの堆積速度は温度に強く依存するので、堆積処理中の堆積温度の変化は、堆積薄膜中での成分Aのグレーディング(傾斜)した分布を引き起こす、また、成分Bの堆積速度は温度依存性が弱いので、堆積温度の変化は成分Bに影響せず、その結果、成分Bは概ね均一な分布となる。グレーディング薄膜の製造には、適切な堆積速度作用の前駆体を選択した後において、気化温度のような他の堆積パラメータも使用できる。本発明によるグレーディング層の傾斜形成は、段階的、連続的、或いは、ディジタル的(2段階に)に行われる。
【0012】
本発明は、堆積条件に関して異なる堆積速度を有する適切な前駆体の選択で始まる。選択された前駆体は、異なる搬送システムに各別に配置でき、或いは、一つの搬送システムを使用すべく適切な混合比で予め混合しておくこともでき、更には、直接液体注入搬送システムとガス状処理ガスのために分離したガス状前駆体搬送システムを使用して2または3つの液状前駆体の混合物等の他の組み合わせで予め混合しておくこともできる。そして、適切な堆積条件を変化させることによって、グレーディング薄膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係るグレーディング薄膜の堆積方法(以下、適宜「本発明方法」と略称する)の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
本発明方法は、特定のプロセスパラメータに関して、異なる堆積速度の作用を有する複数の前駆体を準備した後、堆積温度や気化温度のような堆積パラメータ一つを変化させることによって、複数成分のグレーディング薄膜を堆積するための製造方法である。例えば、本発明方法は、上層部分で成分Aの濃度が増大し、成分Bは均一な濃度分布となる成分Aと成分Bからなる複数成分薄膜を堆積するのに使用される。
【0015】
本発明方法は、堆積温度に対する依存性の強い堆積速度の前駆体PA(例えば、堆積温度が高い程、堆積速度が速い前駆体)と、堆積温度に対する依存性の弱い堆積速度の前駆体PB(例えば、前駆体PAと同じ堆積温度の変動に対し堆積速度が一定の前駆体)とを選択することで、開始される。次に、成分Aの濃度の増加した薄膜が、堆積温度を高くすることによって堆積可能となる。成分Aの堆積速度は温度依存性が強いので、堆積処理中の堆積温度の変化によって、堆積した薄膜中に成分Aのグレーディング(傾斜)した分布が形成される。また、成分Bの堆積速度は、温度依存性が弱いので、堆積温度の変化は成分Bに影響せず、その結果、堆積した薄膜中の成分Bの分布は略均一となる。
【0016】
本発明方法は、化学的気相成長法(CVD)との適合性が良いが、他の堆積法にも適合可能である。一般に、CVD技術は半導体の製造処理に長年使用されてきており、その特性は、使用可能な種々の前駆体とともに周知である。しかしながら、CVDプロセスは、新規材料やより厳重な膜質や特性の最新技術要件を満たすためには、まだ大きな改善が必要で、その改善の一つが薄膜をグレーディングして堆積することである。CVDでは、前駆体ガスや蒸気の混合物が、高い温度でウェハ表面等の基板上を流れる。導入された前駆体の反応は、堆積が起こる熱い基板表面で発生する。この堆積反応は、熱エネルギ(抵抗または放射熱の形態で)や、プラズマエネルギ(プラズマ励起の形態で)等のエネルギ源の存在が必要なことも多く、また、薄膜堆積速度に直接関係することも多い。従って、薄膜の堆積速度は、異なる反応や異なる前駆体で影響の度合いは変化するが、供給されるエネルギにより普通に影響を受ける。本発明方法は、この原理を用いて、異なる反応速度を示す複数の前駆体を供給することによってグレーディング薄膜を堆積する新規な方法であり、異なる堆積速度や堆積処理中の供給エネルギを変化させることにより明らかにされる。供給エネルギは、好ましくは堆積温度であり、当該堆積温度は、ウォームウォールプロセスまたはコールドウォールプロセスの反応室内の基板温度、或いは、ホットウォールファーネス内のプロセス反応室温度である。供給エネルギは、更に好ましくは、前駆体を蒸気に変換するためのエネルギ供給を制御する気化器温度である。供給エネルギは、また、搬送ライン温度、シャワーヘッド温度、プラズマエネルギ、ランプヒータ、及び、一般的に、薄膜反応への経路上において前駆体に供給される如何なるエネルギ源であってもよい。
【0017】
堆積温度、典型的にはウェハ表面温度は、前駆体の堆積反応や堆積速度、膜質や大きなウェハ表面上の堆積の均一性に影響するので、CVD堆積における重要な因子である。CVDでは、典型的に高い温度が要求され、400〜800℃程度の温度が必要である。堆積温度を下げるために、前駆体はPECVD(plasma enhanced chemical vapor deposition)でのプラズマのような外部エネルギで励起される。CVDプロセスでのウェハ温度は、望ましい膜組成と特性を最適化するのに選択されるが、一般的には、膜の特性や組成の殆どがウェハ温度に依存している。例えば、低温でのCVDは、均一性と純度に関して低質な膜が生成される。
【0018】
本発明方法は、CVD堆積工程の堆積速度の強い温度依存性を利用して、前駆体を適切に選択し、堆積処理中の堆積温度を変化させることによって、グレーディング薄膜特性を実現した。従って、前駆体の選択は、堆積温度に関して異なった堆積速度作用を呈する複数の前駆体が選択され、薄膜をグレーディングする本発明方法の処理において重要な局面であり、その結果、前駆体を、堆積反応室で混合するか、或いは、搬送前に前駆体混合物を形成するために混合すると、堆積温度を変えることによって結果として生じる薄膜がグレーディング特性を有することができる。堆積温度の変化幅は、100〜600℃の範囲内であるが、より好ましくは、約200℃の範囲であり、更により好ましくは、約100℃程度である。温度変化の範囲が小さくなればなるほど、温度変化もより速くなるため、処理効率が良くなる。更に、堆積温度に関して異なった堆積速度作用を有するという本発明要件に加えて、CVDプロセスに適した前駆体が、最小の不純物混入での急速な反応、堆積温度での十分な蒸気圧、高温熱安定性、周囲条件の安定性、及び、最小量の毒性等の他の要件を満たすように選択されるのも好ましい。従来、半導体プロセスに使用される前駆体は、相応の反応性化学物質を適量含んだガス状の原料である。新規材料として、適切なガス状の原料前駆体を見つけることが益々難しくなってきているため、特に、有機金属化学的気相成長法(MOCVD)の領域では、益々多くの液状前駆体が使用されるようになってきている。固体原料は、CVDプロセスの気化の原料として使用されるが、しかしながら、再現性や制御性、表面汚染、及び、熱変質等の種々の問題により、固体原料前駆体は、多くのCVDプロセスに対し容易に利用することができない。熱変質はまた、液状原料においても潜在的な問題であるが、その影響は迅速且つ瞬間的に気化させることにより最小限に抑制される。当該気化は、室温で液体を計量して、液体が急速に蒸発する熱い領域(気化器)に流入させることによって実現される。このような直接液体注入(DLI:direct liquid injection)システムにおいて、液体は、液体貯蔵器で使用される時点においてのみ熱せられ、室温を維持する。従って、熱に敏感な液体でさえも、熱変質を減少させる。また、固体原料は、適切な液体溶媒に溶解させることができるのであれば、DLIシステムにおいて使用することができる。
【0019】
DLIシステムを使用した本発明方法の他の実施形態では、適切に前駆体を選択して堆積処理中に気化器温度を変化させることによって、グレーディング薄膜特性を実現することができ、個々の前駆体の気化性質が異なっていたとしても、DLIシステムの他の利点を使用して、複数の前駆体を使用した膜構成を再現できる。複数の前駆体の原料は、成分試薬の全てと任意の一つの溶媒を含む「カクテル」として、単独の複数成分前駆体の溶剤中に正確に混合される。単独の複数成分前駆体溶剤は、気化器の中で瞬間的に気化され、生成した蒸気は反応器に搬送される。本発明方法によれば、グレーディング薄膜特性を得るためには、上記混合物中の選択された前駆体は、気化器の温度に関して、異なる堆積速度の作用を有するように選択される。本発明方法によれば、気化器の温度を変化させることによって、生成された薄膜はグレーディングした成分状態を得ることができる。気化器の温度変化幅は、10〜200℃の範囲であるが、より好ましくは、約100℃程度で、更により好ましくは、約50℃である。堆積温度における変化と同じように、気化器の温度変化幅が少ないほど、温度変化がより速くなるため、処理効率が上がる。混合物中の前駆体が堆積温度について異なる堆積速度の作用を有するように選択される場合、堆積温度を変化させる好適実施形態が、本実施形態にも適用することができる。更に、異なった堆積速度作用を有するという本発明要件に加えて、同様の揮発性と変成作用、或いは、同様の揮発性と変成作用が達成できない場合における、薄膜の適切な成分を制御する比較的高い揮発性の過剰な前駆体に対する補償等の他の要件を満たすように選択されるのが好ましい。更に、溶媒は化学反応溶液の主成分となるため、前駆体混合物は、適切な溶媒に溶解するものが好ましい。前駆体を搬送するために使用される溶剤は、適切な溶剤の種類または溶剤の種類の混合物からなり、選択された前駆体と適合し、前駆体混合物を容易に溶解させることができるものである。溶剤は、テトラヒドロフラン、アルキルアセタート、酢酸ブチル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラグリム、グリム、脂肪族炭水化物、芳香族炭水化物、エーテル、エステル、アルキル亜硝酸塩、アルカノール、アミン、ポリアミン、イソプロパノール、アルコール、グリコール、テトラチオシクロデカン、または、ヘキサンやトルエンやペンタンのような従来の有機溶媒が好ましい。溶媒には、一種類を使用してもよいし、混合して使用してもよい。例えば、ブチルエーテルとテトラグリムを3:1の容量比で混合して使用してもよい。
【0020】
グレーディング薄膜堆積の本発明方法では、気化搬送ライン温度、シャワーヘッド温度、プラズマエネルギ、ランプヒータ、及び、一般的に、薄膜反応への経路上において前駆体に供給される如何なるエネルギ源等の他の堆積条件にも適用することができる。唯一の要件は、特定の堆積条件に関して異なる堆積速度作用を有するように前駆体が選択されることである。
【0021】
図1に、本発明方法における複数の前駆体搬送システムを使用した処理室を示す。処理室50は、ガス状前駆体搬送システム10、蒸気誘引前駆体搬送システム20、液体バブリング前駆体搬送システム30、直接液体注入搬送システム40を備え、各搬送システムは、基板60を含む処理室50内に前駆体を搬送する。ガス状前駆体搬送システム10は、圧縮ガス状前駆体シリンダー11を備え、流量計12によるガス状前駆体の流量制御を行い、ガス状前駆体搬送ライン13を介してガス状前駆体を処理室50に搬送する。上記ガス状前駆体搬送システムは、酸素、アンモニア、シラン等のガス状の処理ガスに対して典型的な構成となっている。液状前駆体に対する液状前駆体搬送システムの最も単純な形態では、ガス状前駆体と同様に液状前駆体からの蒸気を誘引する。当該技術は高い蒸気圧を伴う高い揮発性の液体でうまく機能する。そして、必要な蒸気圧を実現し、凝縮を防ぐために、液状前駆体と蒸気搬送ラインは、更に加熱可能である。蒸気誘引前駆体搬送システム20は、液状前駆体容器21を備え、流量計22による前駆体蒸気の流量制御を行い、蒸気搬送ライン23を介して、前駆体蒸気を処理室50に搬送する。液状前駆体を搬送する他の技術は、キャリアガスと呼ばれるアルゴンや窒素のような不活性ガスを使用して液状前駆体を通してバブリングする。そして、キャリアガスは前駆体蒸気を処理室に搬送する。液体バブリング搬送システム30は、注入口の圧力を増大するためにキャリアライン34が追加され、蒸気誘引前駆体搬送システム20と同様に、液状前駆体容器31を備え、流量計32による前駆体蒸気の流量制御を行い、蒸気搬送ライン33を介して、前駆体蒸気を処理室50に搬送する。
【0022】
しかしながら、低蒸気圧前駆体で高堆積速度を得るために、上述のように直接液体注入搬送システムが最も好適である。直接液体注入システムの基本的な構成要素は、液体搬送ライン、気化器、及び、蒸気搬送ラインである。液体搬送ラインは、液体容器から気化器に液状前駆体を搬送する。液体の流量は、質量流量制御器と同様の液体流量制御器によって制御される。気化器は、液状前駆体を蒸気の形態に変え、蒸気搬送ラインは、ウェハ基板上に前駆体蒸気を搬送する。キャリアガスは、通常、基板へ前駆体蒸気を搬送するために気化器で使用される。幾つかの出願では、反応性のある前駆体をキャリアガスに置き換えて、化学反応とともに搬送機能を奏している例がある。直接液体注入搬送システム40は、液状前駆体容器41を備え、液体流量計42による液状前駆体の流量制御を行い、液状前駆体搬送ライン46を介して、液状前駆体を気化器45へ搬送し、気化器45から蒸気搬送ライン43を経て、蒸気前駆体を処理室50へと搬送する。複数の前駆体反応が処理室内で行われるため、最良の膜堆積を確実にするためには、基板60の回転やシャワーヘッド搬送、同軸ポンピング、プラズマ結合等の適切な反応室の設計(図示せず)が必要である。複数の前駆体の混合は、堆積前に行うことができ、前駆体容器11、21、31、41で保存される。
【0023】
本発明方法は、堆積温度や気化器温度等の堆積条件に関して異なる堆積速度を有する適切な前駆体を選択することから開始する。選択された前駆体は、異なる搬送システムに各別に配置でき、或いは、一つの搬送システムを使用すべく適切な混合比で予め混合しておくこともでき、更には、直接液体注入搬送システムとガス状処理ガスのために分離したガス状前駆体搬送システムを使用して2または3つの液状前駆体の混合物等の他の組み合わせで予め混合しておくこともできる。そして、適切な堆積条件を変化させることによって、グレーディング薄膜が得られる。
【0024】
本発明方法は、PCMO等のメモリ材料に特に適している。当該メモリ材料は、Pr0.7Ca0.3MnO(PCMO)、La0.7Ca0.3MnO(LCMO)、Nd0.7Sr0.3MnO(NCMO)等のRe1−xAeMnO構造(Re:希土類元素、Ae:アルカリ土類元素)の亜マンガン酸塩ペロブスカイト材料のような磁気抵抗効果を有するペロブスカイト材料にみられる電気パルス誘導抵抗変化(EPIR)効果を有する典型的な材料である。希土類元素は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb,Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及び、Luである。アルカリ土類金属(元素)は、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、及び、Raである。適切なペロブスカイト材料は、PrCaMnO(PCMO)、LaCaMnO(LCMO)、LaSrMnO(LSMO)、LaBaMnO(LBMO)、LaPbMnO(LPMO)、NdCaMnO(NCMO)、NdSrMnO(NSMO)、NdPbMnO(NPMO)、LaPrCaMnO(LPCMO)、及び、GdBaCoO(GBCO)等の磁気抵抗材料や高温超伝導(HTSC)材料を更に含む。HTSC材料は、外部の磁界や電界によって変化する安定した磁気抵抗状態によって情報を保存することができる。また、保存された情報は、当該状態の磁気抵抗を感知することにより読み出すことができる。PbZrTi1-x、YBCO(酸化イットリウムバリウム銅、YBaCuやその変形)のようなHTSC材料は、超伝導体として主な使用目的を有するが、その導電性は電流または磁界により影響を受けるので、HTSC材料は半導体メモリセルにおいて可変抵抗素子としても使用される。
【0025】
以下に、Ca、PrまたはMnの含有量がグレーディング(傾斜)した堆積PCMO膜を成膜する液体搬送MOCVD技術を使用したグレーディングPCMO薄膜の堆積処理の実施例を説明する。PCMO膜のCa及びPrの含有量は、そのスイッチング特性において大きな影響を有するので、グレーディングしてドープ処理されたPCMO薄膜を使用することで、RRAMメモリ抵抗素子の信頼性が大幅に改善される。更に、これらのイオンは、適度な温度領域ではPCMO膜中において安定しているため、RRAMメモリセル内でのCaまたはPrの含有量の調節によって、単極性または双極性の書き込み処理の何れかによってメモリセルをプログラムすることが可能となる。また、RRAM装置は非対称構造で、高いプログラミング電圧を必要としない。
【0026】
PCMO堆積に選択された前駆体は、固体有機金属化合物のPr(thd)、Ca(thd)、Mn(thd)と酸素ガス前駆体である。有機溶媒は、容積比3:1のブチルエーテルとテトラグリムが混合しており、Pr(thd)とCa(thd)とMn(thd)の各前駆体の1N(規定)の金属が、約0.9:0.6:1の比率で溶解している。前駆体溶液は各成分Pr、Ca及びMnに対して濃度が0.1M/Lの金属を有する。その前駆体溶液は、液体流量計によって0.1〜0.5ml/分の流量に制御され、240〜260℃の温度範囲の気化器の中へ搬送される。前駆体混合物は、気化器内で気化され、PCMO薄膜堆積を行うCVD室に搬送される。気化後の搬送ラインは、凝縮を防止するために240〜280℃の温度に保たれる。基板に使用されているのは、Pt/(Ti、TiNまたはTaN)/SiO/Siと、Ir/(Ti、TiNまたはTaN)/SiO/Siである。堆積温度は400〜500℃で、堆積圧力は133.322Pa〜666.61Pa(1〜5Torr)である。酸素分圧は約20〜30%である。当該条件では、堆積時間は約20〜60分であり、膜厚に依存する。PCMO薄膜の構成はX線分析(EDX:エネルギー分散型X線分析装置)によって測定され、PCMO薄膜の相(位相)は、X線回析を用いて確認される。
【0027】
堆積速度が選択された堆積処理条件で変化するように、前駆体は最初に選択される。図2に、Ca、Pr及びMnの堆積速度を、400℃から500℃まで変化する基板温度の関数として示している。基板温度に関して、PrとMnの堆積速度の作用がCaとは異なっており、基板温度の上昇に対して、PrとMnの堆積速度は増大するが、Caの堆積速度は略一定である。従って、PrとMnをグレーディングしたPCMO薄膜は、基板温度を制御することによって堆積できる。
【0028】
図3に、Ca、Pr及びMnの堆積速度を250℃から275℃まで変化する気化器温度の関数として示している。気化器温度に関して、Caの堆積速度の作用がPr及びMnとは異なっており、気化器温度の上昇に対して、Caの堆積速度は著しく増大するが、PrとMnの堆積速度の変化は僅かである。従って、CaをグレーディングしたPCMO薄膜は、気化器温度を制御することによって堆積できる。
【0029】
図4に、気化器温度を制御することによって作製したCaの組成比を約0.2から0.4までグレーディングしたPCMO薄膜のEDSパターンを示す。堆積温度は405℃に維持し、気化器温度は徐々に265℃から275℃に変化させた。グレーディング薄膜の全組成は、概ねPr0.71Ca0.29Mn1.02である。
【0030】
図5は、Pt/Ti/SiO/Siウェハ上にCaの含有量をグレーディングしたPCMO薄膜のX線パターンを示している。当該X線パターンは、小さなPCMOの110、112及び312の各ピークを示しており、CaのグレーディングしたPCMO薄膜が小さな粒(グレイン)を含んでいることを意味している。
【0031】
図6は、Ca含有量をグレーディングしたPCMO薄膜のスイッチング特性を示しており、当該スイッチング特性は、安定したスイッチング特性を有する両極性スイッチングのみである。図6より、パルス時間を増大させると、抵抗変化率も増大する。尚、図6中の右上枠内において、Wは書き込みパルス条件(振幅、パルス幅)と、Rはリセット(消去)パルス条件(振幅、パルス幅)を夫々示している。
【0032】
以上、記憶装置用のグレーディングPCMOの出願の詳細な説明として、グレーディング薄膜の新規な製造方法が開示された。特定の製造プロセスに関して図示並びに説明がなされているが、本発明方法、上記実施形態によって示された詳細な内容に限定されるものではない。半導体製造の一般的なプロセスは、何年にも亘って実践されてきており、多数の異なるデバイスや構造の製造方法が存在するので、本発明方法の意義から逸脱することなく、上記製造方法の詳細につき様々な修正が可能である。本発明方法の好ましい実施形態を開示したが、上記実施形態に対する更なる変形及び修正が、特許請求の範囲で規定される本発明方法の技術的範囲内で可能であると認められる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るグレーディング薄膜の堆積方法で使用する種々の搬送システムを備えたプロセス反応室の模式図
【図2】基板温度とCa、Pr及びMnの各堆積速度の関係を示す図
【図3】気化器温度とCa、Pr及びMnの各堆積速度の関係を示す図
【図4】Ca含有量をグレーディングしたPCMO薄膜のEDSパターン図
【図5】Pt/Ti/SiO/Si基板上のCa含有量をグレーディングしたPCMO薄膜のX線パターン図。
【図6】Pt/Ti/SiO/Si基板上のCa含有量のグレーディングしたPCMO薄膜のスイッチング特性図
【符号の説明】
【0034】
10: ガス状前駆体搬送システム
11: 圧縮ガス状前駆体シリンダー
12: 流量計
13: ガス状前駆体搬送ライン
20: 蒸気誘引前駆体搬送システム
21: 液状前駆体容器
22: 流量計
23: 蒸気搬送ライン
30: 液体バブリング前駆体搬送システム
31: 液状前駆体容器
32: 流量計
33: 蒸気搬送ライン
34: キャリアライン
40: 直接液体注入搬送システム
41: 液状前駆体容器
42: 液体流量計
43: 蒸気搬送ライン
44: キャリアライン
45: 気化器
46: 液状前駆体搬送ライン
50: 処理室(反応室)
60: 基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理室内に設置された基板上にグレーディング薄膜を堆積する堆積方法であって、
複数の前駆体を前記処理室に搬送する工程と、
前記前駆体または前記前駆体の反応に対して供給されるエネルギ量に影響を及ぼす堆積パラメータを変化させる工程を備え、
前記前駆体の少なくとも2つが、前記堆積パラメータに関して、異なる堆積速度の作用を有することを特徴とする堆積方法。
【請求項2】
前記堆積パラメータが堆積温度であることを特徴とする請求項1に記載の堆積方法。
【請求項3】
前記前駆体の搬送工程において、前記前駆体を蒸気状に変換する気化器が使用され、
前記堆積パラメータが、前記気化器の温度であることを特徴とする請求項1に記載の堆積方法。
【請求項4】
前記前駆体は、各別に前記処理室に搬送されることを特徴とする請求項1に記載の堆積方法。
【請求項5】
前記前駆体の少なくとも2つが、予め混合されて混合体が形成され、前記混合体が前記処理室に搬送されることを特徴とする請求項1に記載の堆積方法。
【請求項6】
前記前駆体の搬送工程において、直接液体注入搬送システム、ガス状前駆体搬送システム、蒸気誘引前駆体搬送システム、または、液体バブリング前駆体搬送システムが使用されることを特徴とする請求項1に記載の堆積方法。
【請求項7】
前記前駆体の搬送工程において、気化器を備えた直接液体注入搬送システムが使用され、
前記堆積パラメータが、前記気化器の温度であることを特徴とする請求項1に記載の堆積方法。
【請求項8】
前記堆積パラメータに関して、異なる堆積速度の作用を有する前記前駆体の少なくとも2つが、有機金属前駆体であることを特徴とする請求項1に記載の堆積方法。
【請求項9】
処理室内に設置された基板上に、RRAM用途のグレーディングメモリ抵抗素子薄膜を堆積する堆積方法であって、
複数の前駆体を前記処理室に搬送する工程と、
前記前駆体または前記前駆体の反応に対して供給されるエネルギ量に影響を及ぼす堆積パラメータを変化させる工程を備え、
前記前駆体の少なくとも2つが、前記堆積パラメータに関して、異なる堆積速度の作用を有することを特徴とする堆積方法。
【請求項10】
前記メモリ抵抗素子薄膜は、REを希土類イオン、AEをアルカリ土類イオン、xを0.1から0.5の間の範囲の値、yを3の近傍値とした場合に、一般式RE1−xAEのペロブスカイト型マンガン酸化物を含むグループから選択される物質からの亜マンガン酸塩を含むことを特徴とする請求項9に記載の堆積方法。
【請求項11】
前記堆積パラメータが堆積温度であることを特徴とする請求項9に記載の堆積方法。
【請求項12】
前記前駆体の搬送工程において、前記前駆体を蒸気状に変換する気化器が使用され、
前記堆積パラメータが、前記気化器の温度であることを特徴とする請求項9に記載の堆積方法。
【請求項13】
処理室内に設置された基板上にグレーディングPCMO薄膜を堆積する堆積方法であって、
酸素含有前駆体と、Pr含有前駆体とCa含有前駆体とMn含有前駆体の前駆体混合物とを備えた複数の前駆体を前記処理室に搬送する工程と、
前記前駆体または前記前駆体の反応に対して供給されるエネルギ量に影響を及ぼす堆積パラメータを変化させる工程を備え、
Pr、Ca及びMnを含む前記前駆体の少なくとも2つが、前記堆積パラメータに関して、異なる堆積速度の作用を有することを特徴とする堆積方法。
【請求項14】
前記2つの前駆体は、前記酸素含有前駆体と共に搬送されたときに、前記堆積パラメータに関して、異なる堆積速度の作用を発揮することを特徴とする請求項13に記載の堆積方法。
【請求項15】
Pr含有前駆体、Ca含有前駆体、または、Mn含有前駆体は、液体有機金属前駆体または溶媒に溶解した固体有機金属前駆体であることを特徴とする請求項13に記載の堆積方法。
【請求項16】
Pr含有前駆体がPr(thd)であり、Ca含有前駆体がCa(thd)であり、Mn含有前駆体がMn(thd)であることを特徴とする請求項13に記載の堆積方法。
【請求項17】
Pr含有前駆体とCa含有前駆体とMn含有前駆体の比率が、約0.9:0.6:1であることを特徴とする請求項13に記載の堆積方法。
【請求項18】
Pr含有前駆体とCa含有前駆体とMn含有前駆体の前駆体混合物が溶媒に溶解していることを特徴とする請求項13に記載の堆積方法。
【請求項19】
前記溶媒が、ブチルエーテルとテトラグリムの混合物であることを特徴とする請求項18に記載の堆積方法。
【請求項20】
前記溶媒が、容積比3:1のブチルエーテルとテトラグリムの混合物であることを特徴とする請求項18に記載の堆積方法。
【請求項21】
前記堆積パラメータが前記基板の温度であることを特徴とする請求項1に記載の堆積方法。
【請求項22】
前記温度の変動範囲が、約200℃であることを特徴とする請求項21に記載の堆積方法。
【請求項23】
前記前駆体の搬送工程において、気化器を備えた直接液体注入搬送システムが使用され、
前記堆積パラメータが、前記気化器の温度であることを特徴とする請求項13に記載の堆積方法。
【請求項24】
前記温度の変動範囲が、約50℃であることを特徴とする請求項23に記載の堆積方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−108642(P2006−108642A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236286(P2005−236286)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】