説明

樹脂含浸シート及び金属箔付き樹脂含浸シート積層体の製造方法

【課題】樹脂含浸シート間の密着性に優れる金属箔付き樹脂含浸シート積層体を与える樹脂含浸シートを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂が繊維シートに含浸されてなり、225℃で30分熱処理したときの減量割合が6.8〜10質量%である樹脂含浸シートとする。熱可塑性樹脂としては、液晶ポリエステルが好ましく用いられる。樹脂含浸シートは、熱可塑性樹脂と溶媒とを含む液状組成物を、繊維シートに含浸した後、溶媒を除去することにより得ることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂が繊維シートに含浸されてなる樹脂含浸シート、及びこの樹脂含浸シートを用いる金属箔付き樹脂含浸シート積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の絶縁層として、熱可塑性樹脂が繊維シートに含浸されてなる樹脂含浸シートを用いることが検討されている。例えば、特許文献1及び2には、前記樹脂含浸シートを熱処理した後、複数枚重ね、その両側に金属箔を配置してプレスすることにより、プリント配線板用の金属箔付き樹脂含浸シート積層体を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−146139号公報
【特許文献2】特開2010− 80479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2に開示の金属箔付き樹脂含浸シート積層体は、樹脂含浸シート間の密着性が必ずしも十分でなく、例えば、高湿下に曝された後、高温下に曝されると、樹脂含浸シート間に剥離が生じ易く、樹脂含浸シート積層体の表面に膨れが生じ易いという問題がある。
【0005】
本発明者は、前記問題を解消すべく検討した結果、熱可塑性樹脂が繊維シートに含浸されてなる樹脂含浸シートを複数枚重ねて予備プレスし、得られた樹脂含浸シート積層体を熱処理した後、その両側に金属箔を配置して本プレスすることにより、樹脂含浸シート間の密着性が向上し、樹脂含浸シート間に剥離が生じ難くなることを見出した。そして、その際、予備プレスの温度を高くすると、樹脂含浸シート間の密着性がさらに向上し、樹脂含浸シート間に剥離がさらに生じ難くなることを見出したが、一方で、熱可塑性樹脂が劣化し易くなり、熱可塑性樹脂と繊維シートとの間で剥離が生じ易くなるという問題に遭遇した。
【0006】
そこで、本発明の目的は、予備プレスの温度が低くても、樹脂含浸シート間の密着性に優れる金属箔付き樹脂含浸シート積層体を与える樹脂含浸シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、熱可塑性樹脂が繊維シートに含浸されてなり、225℃で30分熱処理したときの減量割合が6.8〜10質量%である樹脂含浸シートを提供する。また、本発明によれば、前記樹脂含浸シートを複数枚重ねて予備プレスし、得られた樹脂含浸シート積層体を熱処理した後、その両側に金属箔を配置して本プレスする金属箔付き樹脂含浸シート積層体の製造方法も提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂含浸シートを用いることにより、樹脂含浸シート間の密着性に優れる金属箔付き樹脂含浸シート積層体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の樹脂含浸シートは、熱可塑性樹脂が繊維シートに含浸されてなるものであり、熱可塑性樹脂と溶媒とを含む液状組成物を、繊維シートに含浸した後、溶媒を除去することにより得られるものであることが好ましい。
【0010】
熱可塑性樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びポリエーテルイミドが挙げられる。中でも、耐熱性が高く、誘電損失が低いことから、液晶ポリエステルが好ましく用いられる。
【0011】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示すポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0012】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0013】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0014】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0015】
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
【0016】
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0017】
(4)−Ar4−Z−Ar5
【0018】
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0019】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0020】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0021】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar1がp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びAr1が2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0022】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar2がp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2がm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2が2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びAr2がジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0023】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar3がp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びAr3が4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0024】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、通常30モル%以上、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは30〜60モル%、さらに好ましくは30〜40モル%である。繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは20〜35モル%、さらに好ましくは30〜35モル%である。繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは20〜35モル%、さらに好ましくは30〜35モル%である。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0025】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0026】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0027】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位及び/又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位を有することが、溶媒に対する溶解性が優れるので、好ましく、繰返し単位(3)として、X及び/又はYがイミノ基であるもののみを有することが、より好ましい。
【0028】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0029】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、通常250℃以上、好ましくは250℃〜350℃、より好ましくは260℃〜330℃である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、液状組成物の粘度が高くなり易かったりする。
【0030】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0031】
溶媒としては、熱可塑性樹脂が溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([熱可塑性樹脂の質量]/([熱可塑性樹脂の質量]+[溶媒の質量]))で溶解可能なものが、適宜選択して用いられる。
【0032】
溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p−クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド、テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;及びヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン化合物が挙げられ、それらの2種以上を用いてもよい。
【0033】
溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%である。また、前記非プロトン性化合物としては、熱可塑性樹脂を溶解し易いことから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミドを用いることが好ましい。
【0034】
また、溶媒としては、熱可塑性樹脂を溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める双極子モーメントが3〜5である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%であり、前記非プロトン性化合物として、双極子モーメントが3〜5である化合物を用いることが好ましい。
【0035】
また、溶媒としては、除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を主成分とするとする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める1気圧における沸点が220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%であり、前記非プロトン性化合物として、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を用いることが好ましい。
【0036】
液状組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂及び溶媒の合計量に対して、通常5〜60質量%、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜45質量%であり、所望の粘度の液状組成物が得られるように、また、所望の量の熱可塑性樹脂が繊維シートに含浸するように、適宜調整される。
【0037】
液状組成物は、充填材を含んでもよい。液状組成物が充填材を含むことにより、充填材を含み、その種類に応じて低熱膨張性、熱伝導性、誘電性、導電性等の性能が付与された樹脂含浸シートを得ることができる。また、充填材を含む樹脂含浸シートを用いてなる金属箔付き樹脂含浸シート積層体は、充填材を含まない樹脂含浸シートを用いてなる金属箔付き樹脂含浸シート積層体に比べて、樹脂含浸シート間の密着性に劣る傾向にあるので、充填材を含む樹脂含浸シートに対して、本発明は特に効果的である。
【0038】
充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の無機充填材;及び硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリル樹脂等の有機充填材が挙げられ、それら2種以上が用いられてもよい。充填材の含有量は、熱可塑性樹脂に対して、通常1〜50体積%、好ましくは5〜30体積%であり、所望の性能の樹脂含浸シートが得られるように、適宜調整される。
【0039】
また、液状組成物は、添加剤を含んでもよい。添加剤の例としては、レべリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤及び着色剤が挙げられ、その含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常0〜5質量部である。
【0040】
液状組成物は、熱可塑性樹脂、溶媒及び必要に応じて用いられる他の成分を、一括で又は適当な順序で混合することにより調製することができる。他の成分として充填材を用いる場合は、熱可塑性樹脂を溶媒に溶解させて、熱可塑性樹脂溶液を得、この熱可塑性樹脂溶液に充填材を分散させることにより調製することが好ましい。
【0041】
こうして得られる液状組成物を、繊維シートに含浸した後、液状組成物から溶媒を除去することにより、樹脂含浸シートを得ることができる。
【0042】
繊維シートを構成する繊維の例としては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミックス繊維等の無機繊維;及び液晶ポリエステル繊維その他のポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維等の有機繊維が挙げられ、その2種以上を用いてもよい。中でもガラス繊維が好ましい。ガラス繊維の例としては、含アルカリガラス繊維、無アルカリガラス繊維及び低誘電ガラス繊維が挙げられる。
【0043】
繊維シートは、織物(織布)であってもよいし、編物であってもよいし、不織布であってもよいが、樹脂含浸シートの寸法安定性が向上し易いことから、織物であることが好ましい。織物の織り方の例としては、平織り、朱子織り、綾織及びななこ織りが挙げられる。織物の織り密度は、通常10〜100本/25mmである。
【0044】
繊維シートの厚さは、通常10〜200μm、好ましくは10〜180μmである。繊維シートの単位面積あたりの質量は、通常10〜300g/m2である。繊維シートは、樹脂との密着性が向上するように、シランカップリング剤等のカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。
【0045】
液状組成物の繊維シートへの含浸は、典型的には、液状組成物を仕込んだ浸漬槽に、繊維シートを浸漬することにより行われる。ここで、液状組成物中の熱可塑性樹脂の含有量に応じて、繊維シートを浸漬する時間や、液状組成物が含浸された繊維シートを浸漬槽から引き上げる速度を、適宜調整することにより、繊維シートへの熱可塑性樹脂の付着量を調整することができる。この熱可塑性樹脂の付着量は、得られる樹脂含浸シートの全質量に対して、通常30〜80質量%、好ましくは40〜70質量%である。
【0046】
次いで、液状組成物が含浸された繊維シートから、液状組成物中の溶媒を除去することにより、樹脂含浸シートを得ることができる。溶媒の除去は、溶媒の蒸発により行うことが、操作が簡便で好ましく、その方法としては、例えば、加熱、減圧及び通風が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。
【0047】
そして、本発明では、樹脂含浸シートを225℃で30分熱処理したとき、その減量割合(([熱処理前の樹脂含浸シートの質量]−[熱処理後の樹脂含浸シートの質量])/[熱処理前の樹脂含浸シートの質量])が、6.8〜10質量%となるようにする。かかる特定の樹脂含浸シートを用いることにより、樹脂含浸シート間の密着性に優れる金属箔付き樹脂含浸シート積層体を得ることができ、具体的には、かかる特定の樹脂含浸シートを複数枚重ねて予備プレスし、得られた樹脂含浸シート積層体を熱処理した後、その両側に金属箔を配置して本プレスすることにより、予備プレスの温度が低くても、樹脂含浸シート間の密着性に優れる金属箔付き樹脂含浸シート積層体を得ることができる。
【0048】
前記減量割合が小さいと、樹脂含浸シート間の密着性を高めるために、前記予備プレス時の温度を高くする必要が生じ、この高温により、熱可塑性樹脂が劣化し易くなり、熱可塑性樹脂と繊維シートとの間で剥離が生じ易くなる。また、前記減量割合が大きいと、樹脂含浸シート同士がくっつき易くなり、取り扱い難くなる。
【0049】
前記減量割合は、揮発分の指標となるものであり、熱可塑性樹脂と溶媒とを含む液状組成物を、繊維シートに含浸した後、溶媒を除去することにより、樹脂含浸シートを得る場合は、樹脂含浸シート中の残存溶媒量の指標となるものであるので、溶媒除去時の温度や圧力や時間等の条件を調節して、溶媒除去量を調整し、樹脂含浸シート中の残存溶媒量を調整することにより、前記特定の減量割合を示す樹脂含浸シートを得ることができる。
【0050】
こうして得られる本発明の樹脂含浸シートを複数枚重ねて予備プレスし、得られた樹脂含浸シート積層体を熱処理した後、その両側に金属箔を配置して本プレスすることにより、樹脂含浸シート間の密着性に優れる金属箔付き樹脂含浸シート積層体を得ることができる。
【0051】
予備プレスは、通常2〜10枚の樹脂含浸シートを重ね、その両側に、離型フィルム、金属板及びクッション材をこの順に配置した状態で、その両側からプレス機の一対の熱盤で加熱加圧することにより行うことが好ましい。また、樹脂含浸シートを重ねたものの両側に離型フィルムを配置してなるセットを、金属板を介して、複数セット重ね、その両側に金属板及びクッション材をこの順に配置した状態で、その両側からプレス機の一対の熱盤で加熱加圧することにより、複数の樹脂含浸シート積層体を同時に得ることができる。
【0052】
離型フィルムの例としては、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリスルホンフィルム及びポリエーテルスルホンフィルムが挙げられる。金属板の例としては、SUS板及びアルミニウム板が挙げられる。クッション材の例としては、アラミドクッション、カーボンクッション及びアルミナ繊維不織布クッションその他の無機繊維不織布クッションが挙げられる。
【0053】
予備プレスの温度は、熱可塑性樹脂の種類により適宜調整されるが、通常100〜200℃である。予備プレスの温度が低いほど、熱可塑性樹脂が劣化し難くなるが、樹脂含浸シート間の密着性が向上し難くなるので、予備プレスの温度が低い場合に、本発明は特に効果的である。予備プレスの圧力は、通常1〜30MPaであり、予備プレスの時間は、通常10分〜30時間である。予備プレスは、プレス機内を好ましくは2kPa以下の減圧にして、減圧下に行うことが好ましい。
【0054】
こうして予備プレスにより得られた樹脂含浸シート積層体を、熱処理する。熱処理の温度は、通常240〜330℃、好ましくは260〜320℃であり、熱処理の時間は、通常1〜30時間、好ましくは1〜10時間である。熱処理は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下に行うことが好ましい。
【0055】
こうして熱処理された樹脂含浸シート積層体を、その両側に金属箔を配置して、本プレスする。本プレスは、樹脂含浸シート積層体を、その両側に、金属箔、金属板及びクッション材をこの順に配置した状態で、その両側からプレス機の一対の熱盤で加熱加圧することにより行うことが好ましい。また、樹脂含浸シート積層体の両側に金属箔を配置してなるセットを、金属板を介して、複数セット重ね、その両側に金属板及びクッション材をこの順に配置した状態で、その両側からプレス機の一対の熱盤で加熱加圧することにより、複数の金属箔付き樹脂含浸シート積層体を同時に得ることができる。
【0056】
金属箔としては、通常、銅箔が用いられる。金属板の例としては、SUS板及びアルミニウム板が挙げられる。クッション材の例としては、アラミドクッション、カーボンクッション及びアルミナ繊維不織布クッションその他の無機繊維不織布クッションが挙げられる。
【0057】
こうして得られる金属箔付き樹脂含浸シート積層体の金属箔に、所定の配線パターンを形成することにより、絶縁層である樹脂含浸シート間の密着性に優れるプリント配線板を得ることができる。
【実施例】
【0058】
〔液晶ポリエステルの流動開始温度の測定〕
フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0059】
〔樹脂含浸シートの減量割合の測定〕
樹脂含浸シートから、10cm×10cmの試験片を切り出し、225℃で30分熱処理し、熱処理前後の樹脂含浸シートの質量から、次の式により減量割合を求めた。
減量割合(質量%)=([熱処理前の樹脂含浸シートの質量(g)]−[熱処理後の樹脂含浸シートの質量(g)])/[熱処理前の樹脂含浸シートの質量(g)]×100
【0060】
〔金属箔付き樹脂含浸シート積層体の吸湿はんだ耐熱性の評価〕
金属箔付き樹脂含浸シート積層体の金属箔をエッチングで除去し、残った樹脂含浸シート積層体から、50mm×50mmの試験片を切り出した。この試験片9個を、121℃、2気圧、相対湿度100%の恒温槽内で2時間静置した後、260℃のはんだ浴に30秒浸漬した。このはんだ浴浸漬後の試験片9個を目視で観察し、樹脂含浸シート間の剥離(デラミネーション)、樹脂と繊維シートとの間の剥離(ミーズリング)の有無を確認した。
【0061】
実施例1〜3、比較例1〜3
〔液晶ポリエステルの製造〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)及び無水酢酸2374g(23.25モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で3時間還流させた。次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から300℃まで2時間50分かけて昇温し、300℃で1時間保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状のプレポリマーを得た。このプレポリマーの流動開始温度は、235℃であった。次いで、このプレポリマーを、窒素ガス雰囲気下、室温から223℃まで6時間かけて昇温し、223℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、270℃であった。
【0062】
〔液状組成物の調製〕
液晶ポリエステル2200gを、N,N−ジメチルアセトアミド7800gに加え、100℃で2時間加熱して、液晶ポリエステル溶液を得た。この液晶ポリエステル溶液に、球状シリカ(龍森(株))を、液晶ポリエステルに対して20体積%分散させ、液状組成物を得た。
【0063】
〔ガラスクロスの表面処理〕
純水594gに、酢酸0.5g及び3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業(株)の「KBM−502」)6gを加え、室温で30分、200rpmで攪拌し、シラン化合物溶液を得た。このシラン化合物溶液に、Tガラスクロス(日東紡績(株)、IPC呼称1078)を室温で30分浸漬した後、通風乾燥機を持ちいて、100℃で10分乾燥し、表面処理ガラスクロスを得た。
【0064】
〔樹脂含浸シートの製造〕
液状組成物を表面処理ガラスクロスに室温で1分浸漬した後、乾燥機を用いて、表1に示す温度で表1に示す時間、乾燥して溶媒を蒸発させ、樹脂含浸シートを得た。この樹脂含浸シートの減量割合を表1に示す。
【0065】
〔樹脂含浸シート積層体の作製〕
アラミドクッション材((株)イチカワテクノファブリクス、厚さ3mm)の上に、SUS304板(厚さ5mm)、ポリイミドフィルム(純正化学(株)、厚さ50μm)、4枚の樹脂含浸シート、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)、厚さ50μm)、SUS304板(厚さ5mm)及びアラミドクッション材((株)イチカワテクノファブリクス、厚さ3mm)をこの順に載せ、高温真空プレス機(北川精機(株)の「KVHC−PRESS」、縦300mm、横300mm)を用いて、表1に示す温度で表1に示す時間、5MPaで予備プレスし、4枚の樹脂含浸シートからなる樹脂含浸シート積層体を得た。なお、比較例3では、樹脂含浸シートが、使用前の保管中(真空パック内)に、互いにくっ付いてしまい、樹脂含浸シート積層体を作製することができなかった。
【0066】
〔樹脂含浸シート積層体の熱処理〕
樹脂含浸シート積層体を、熱風式乾燥機を用いて、窒素ガス雰囲気下、290℃で3時間熱処理した。
【0067】
〔金属箔付き樹脂含浸シート積層体の製造〕
アラミドクッション材((株)イチカワテクノファブリクス、厚さ3mm)の上に、SUS304板(厚さ5mm)、銅箔(三井金属鉱業(株)の「3EC−VLP」、厚さ18μm)、熱処理後の樹脂含浸シート積層体、銅箔(三井金属鉱業(株)の「3EC−VLP」、厚さ18μm)、SUS304板(厚さ5mm)及びアラミドクッション材((株)イチカワテクノファブリクス、厚さ3mm)をこの順に載せ、高温真空プレス機(北川精機(株)の「KVHC−PRESS」、縦300mm、横300mm)を用いて、340℃、5MPaで30分本プレスし、金属箔付き樹脂含浸シート積層体を得た。この金属箔付き樹脂含浸シート積層体の吸湿はんだ耐熱性を評価した結果を、表1に示す。
【0068】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂が繊維シートに含浸されてなり、225℃で30分熱処理したときの減量割合が6.8〜10質量%である樹脂含浸シート。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステルである請求項1に記載の樹脂含浸シート。
【請求項3】
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で示される繰返し単位とを有する液晶ポリエステルである請求項2に記載の樹脂含浸シート。
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar4−Z−Ar5
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項4】
前記液晶ポリエステルが、それを構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30〜80モル%、前記式(2)で表される繰返し単位を10〜35モル%、前記式(3)で示される繰返し単位を10〜35モル%有する液晶ポリエステルである請求項3に記載の樹脂含浸シート。
【請求項5】
X及び/又はYがイミノ基である請求項3又は4に記載の樹脂含浸シート。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂と溶媒とを含む液状組成物を、前記繊維シートに含浸した後、前記溶媒を除去することにより得られる請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂含浸シート。
【請求項7】
前記溶媒が、非プロトン性化合物を50質量%以上含む溶媒である請求項6に記載の樹脂含浸シート。
【請求項8】
前記非プロトン性化合物が、ハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物である請求項7に記載の樹脂含浸シート。
【請求項9】
前記非プロトン性化合物がアミドである請求項7又は8に記載の樹脂含浸シート。
【請求項10】
前記液状組成物中の前記熱可塑性樹脂の含有量が、前記熱可塑性樹脂及び前記溶媒の合計量に対して、10〜50質量%である請求項6〜9のいずれかに記載の樹脂含浸シート。
【請求項11】
請求項1〜のいずれかに記載の樹脂含浸シートを複数枚重ねて予備プレスし、得られた樹脂含浸シート積層体を熱処理した後、その両側に金属箔を配置して本プレスする金属箔付き樹脂含浸シート積層体の製造方法。

【公開番号】特開2012−116872(P2012−116872A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264839(P2010−264839)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】