説明

水性剥離及び清浄用組成物

【課題】人又は環境的な毒性を示さず、水混合性で生物分解性である剥離用組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、極性アミン、有機又は無機アミン、及び没食子酸、そのエステル又は類似物である腐食抑制剤の混合物を含む水性剥離用組成物を提供する。その剥離用組成物は、プラズマ処理で発生した有機、金属−有機物質、無機塩類、酸化物、水酸化物又は有機ホトレジストと組み合わされた複合物又は有機ホトレジストを除く複合物からホトレジスト、残留物を、低温で実質的な量の金属イオンを再析出させることなく剥離するのに有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、ワニス、エナメル、ホトレジスト等の剥離に特に有用な水性剥離用組成物の改良に関する。さらに詳しくは、本発明は、没食子酸又は没食子酸エステルである腐食抑制剤を提供することによって、極性溶媒及び有機又は無機アミンから成る優れた水性剥離用組成物に関する。その水性剥離用組成物はヒドロキシルアミンを含まない。
【背景技術】
【0002】
基材から被膜を除去するのに使用される剥離用組成物は、大部分が極めて引火性の組成物、人及び環境に一般に危険な組成物、及び望ましくない毒性度を示す反応性溶媒の混合体である組成物であった。さらに、これらの剥離用組成物は、毒性のみならず、それらが危険な廃棄物であって、廃棄しなければならないので、それらの廃棄は高コストである。さらに、これらの剥離用組成物は、一般に厳しく限定された浴寿命を有し、大部分がリサイクル又は再利用できない。
【0003】
一般に、塩素化炭化水素及び/又はフェノール化合物又は他の高アルカリ及び腐食性材料を含有する組成物は、木材、金属又はシリコンウェファーのような基材から塗料、ワニス、ラッカー、エナメル、ホトレジスト、粉末被膜、等を剥離するための剥離用組成物として使用されてきた。熱アルカリ性組成物は、一般に金属から被膜の除去及び木材から塩化メチレン組成物の除去に使用されてきた。多くの場合に、それらの剥離用組成物は、比較的毒性で反応性溶媒混合体であるから、厳しい使用条件を受けなければならず、剥離用組成物との接触を回避するために使用者による危険な化学取扱い操作及び安全衣服及び服装品の着服を必要とする。
【0004】
さらに、かかる剥離用組成物の有毒成分の多くは極めて揮発性で過度に高い蒸発速度を受けやすいから、剥離用組成物はその貯蔵及び使用中に特別の人及び環境安全の用心を必要とする。ヒドロキシルアミン及びアミン溶媒を使用するホトレジストの剥離においては、チタンの腐食及びアルミニウムの腐食の基材の問題がある。従って、かかる腐食用組成物が種々のホトレジストに使用できるような腐食抑制剤を提供する必要がある。
【0005】
バコス(Bakos)らの米国特許第4、276、186号は、N−メチル−2−ピロリドン及びアルカノールアミンを含む清浄用組成物を開示している。しかしながら、比較研究において、出願人は、N−メチル−2−ピロリドンの使用は発明の組成物でできる広範囲の清浄を提供できないことを見出した。
【0006】
シゼンスキ−(Sizensky)の米国特許第4、617、251号は、選り抜きのアミン及び有機極性溶媒で調製される剥離用組成物を開示している。その組成物は、約2〜98重量%のアミン化合物及び約98〜2重量%の有機極性溶媒を使用して生成されている。
【0007】
ワード(Ward)の米国特許第4、770、713号は、アルキルアミン及びアルカノールアミンから成る剥離用組成物を開示している。
【0008】
ワード(Ward)の米国特許第5、419、779号は、約62重量%のモノエタノールアミン、約19重量%のヒドロキシルアミン、没食子酸及び没食子酸エステル、及び水から成る組成物を塗布することによって、基材から有機被膜を除去する方法を開示している。
【0009】
ワード(Ward)の米国特許第5、496、491号は、塩基性アミン、極性溶媒、及びアルカノーアミンと二環式化合物との反応生成物である抑制剤から成るホトレジスト剥離用組成物を開示している。しかしながら、没食子酸及び没食子酸エステルが抑制剤として開示されていない。
【0010】
リー(Lee)の米国特許第5、334、32号及び第5、275、771号は、ヒドロキシルアミン、アルカノールアミン及びキレート化剤を含有する組成物を開示しているが、そのキレート化剤は没食子酸又は没食子酸エステルではない。
【0011】
ワード(Ward)の米国特許第5、595、420号は、本質的にモノエタノールアミン、水及び腐食抑制剤から成り、ヒドロキシルアミンを含まない剥離用組成物を開示している。
【0012】
最近、OSHA、EPA及び他の類似の連邦、州及び地方政府規制庁(局)は、人及び環境とよく両立する剥離用組成物及び剥離方法(それらは前記欠点及び問題点を受けやすい)の使用の方向へのシフトを支持している。
【0013】
その上、これまで入手できるホトレジスト剥離用組成物は、被膜を除去するために過度に長い滞留時間又は反復塗布を必要とした。さらに、種々の被膜は、これまで入手できる剥離用組成物での基材からの除去が困難であった。即ち、これら従来の剥離用組成物は、除去困難な被膜の種々の基材からの適切な又は完全な除去を提供しなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、人又は環境的な毒性を示さず、水混合性で生物分解性である剥離用組成物を提供することが極めて望ましい。また、実質的に非引火性で、蒸発の傾向が比較的少なく、一般に非反応性で、かつ人への毒性がなく、環境的に両立する剥離用組成物を提供することが望ましい。
【0015】
さらに、高度の剥離効率、特に従来の剥離用組成物に必要な温度より低い温度で高効率の剥離をするホトレジスト剥離用組成物を提供することが望ましい。
【0016】
また、基材、特にチタン及び/又はアルミニウム又はシリコンを含有する基材に腐食作用を示さないホトレジスト剥離用組成物を提供することが望ましい。
【0017】
また、有害な塩素化又はフェノール成分を欠き、かつ熱アルカリ成分の使用を要しない有効な剥離用組成物の提供が望ましい。剥離用組成物の生産及び使用を監督する規制局によって望ましいと見なされる剥離用組成物及びその使用が極めて望ましい。
【0018】
また、成分の混合体がサイドウォールの有機金属及び金属酸化物の残留物の除去に対して個々の成分では常に得られない剥離効力及び剥離結果を与える相乗剥離作用を示す上記望ましい特性をもった剥離用組成物の提供が最も有利である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記腐食の欠点が排除又は実質的に低減され、かつ剥離用組成物の有用性の範囲が著しく拡大される適当な剥離及び清浄用組成物が、本発明の教示に従って得られることがわかった。
【0020】
本発明によって、水、水溶性極性溶媒及び有機又は無機アミンの混合物から成る剥離及び清浄用組成物において、次の一般式
【化1】

(式中のRは低級アルキル又は水素である)を有する有効量の腐食抑制剤との混合物から成ることを特徴とする剥離及び清浄用組成物が提供される。
【0021】
その腐食抑制剤は、基材と5−又は6−員環配位錯体を形成すると考えられる。没食子酸は、カテコールより有効な酸素捕そく剤であって、配位子結合により多くの部位を有するので、カテコールより有効な抑制剤である。即ち、没食子酸は、より有効な共有結合を有する。抑制剤の好適な量は約0.1〜10重量%である。本発明の組成物は非水性にできる、又は水を含むことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の新規の剥離用組成物は、個々の成分の使用又はN−メチルピロリドン又はアルキルアミドのような他の剥離成分との組合せからは不可能な低温での相乗的増大剥離作用及び剥離能力を、腐食を発生することなく示す。
【0023】
腐食抑制剤を有する本発明の剥離用組成物は、有効な剥離作用を提供すると共に、基材への金属イオンの再析出、例えば、アルカリ土類及びアルカリ金属イオンの再析出を防止する。
【0024】
本発明の一般的目的は、低温で有効な非腐食性剥離用組成物の提供にある。本発明の別の目的は、特にアルミニウム及びシリコンに非腐食性であるホトレジスト剥離用組成物の提供にある。
【0025】
さらに、本発明の目的は、金属イオンの再析出を抑制するホトレジスト剥離用組成物の提供にある。さらに、本発明の目的は、腐食抑制剤としてカテコールよりも安く、かつ有効な抑制剤を提供することである。
【0026】
さらに、本発明の目的は、金属イオンの再析出をもたらさない低温で達成できるコーテッド基材の剥離法を提供することである。
【0027】
本発明の他の目的及び利点は、添付図面及び好適な実施態様の記載からさらに完全に理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の剥離用組成物は、次の一般式
【化2】

(式中のRは低級アルキル又は水素である)の化合物である腐食抑制剤の約0.1〜10重量%と組み合わされた極性溶媒及び有機又は無機アミンの混合物から成る。
【0029】
望ましいホトレジスト剥離用組成物は、約58〜63重量%のN−モノエタノールアミン、約30〜40重量%のジメチルスルホキシド、約1〜4重量%の没食子酸及び水から成る。必要ならば、腐食抑制剤として約5重量%までのアントラニリル酸も添加できる。
【0030】
本発明に使用できる極性溶媒は、限定ではないが、水、多価アルコール、例えば、プロピレングリコール、グリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、等、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ブチロラクトン、グリコールエーテル、N−アルキルピロリドン、例えば、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルを含むグリコールエーテル、エチレンジアミン、エチレントリアミン、ジメチルアセトアミド(DMAC)、等を含む。
【0031】
本発明に使用できるアミンは、限定ではないが、米国特許第4、765、844号及び4、617、251号に記載されているようなジアミノ又はアミノヒドロキシ化合物、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド、アルカノールアミン(それらは炭素原子数が1〜5の第一級、第二級又は第三級である)、モルホリン、N−メチルアミノエタノール、等を含む。任意成分としては界面活性剤を含む。
【0032】
本発明の剥離用組成物は、特に以下に記載する理由を含む多くの理由のために有用かつ有利である。その剥離用組成物は、水溶性、非腐食性、非引火性、及び環境に対して低毒性である。本剥離用組成物は、広範囲の被膜及び基材に対して低温で高剥離効率を示す。それらは、金属イオン、特にナトリウム及びカリウムイオンの再析出も防止するから、特にそれらはホトレジスト及び集積回路の製造に使用されるプラズマ処理からの残留物の除去に適する。本発明の剥離用組成物は、成分を室温で混合するだけで容易に調製される。
【0033】
本発明の方法は、フィルム又は残留物(即ち、サイドウォール重合体(SWP))としての有機又は金属−有機重合体、無機塩、酸化物、水酸化物又は錯体又はそれらの混合体を、記載した剥離用組成物と接触させることによって実施される。実際の条件、即ち、温度、時間、等は、除去される複合(ホトレジスト及び/又はサイドウォール重合体)物質の性質及び厚さ、並びに当業者が周知の他の要素に左右される。一般に、ホトレジストの剥離には、ホトレジストを剥離用組成物を含有する容器中に25〜75℃の温度で約5〜30分間浸漬又は接触させ、水で洗浄し、次に不活性ガスで乾燥する。
【0034】
有機重合体物質の例は、ホトレジスト、電子ビームレジスト、X−線レジスト、イオンビームレジスト、等を含む。有機重合体物質の特例は、フェノールホルムアルデヒド樹脂、又はポリ(p−ビニルフェノール)、ポリメチルメタクリレート含有レジスト、等を含む。プラズマ処理残留物(サイドウォール重合体)の例は、金属−有機複合体及び/又は無機塩類、酸化物、水酸化物又はフィルム又は残留物を単独で又はホトレジストの有機重合体樹脂と組み合って残留物を形成する複合体を含む。有機物質及び/又はSWPは、当業者が周知の通常の基材、例えば、ケイ素、二酸化ケイ素、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、等から除去できる。
【0035】
本発明の剥離用組成物の作用効果及び予想外の性質を、限定ではないが、次の実施例に示したデータによって説明する。特に断らない限り、部及びパーセンテージは全て重量表示である。
【実施例】
【0036】
実施例1
剥離及び清浄用組成物の種々の濃度の効率を示すために、次の試験を行った。商用ホトレジスト及び“ベール”として標識したプラズマ発生SWP残留物を含有する金属/ケイ素ウェーハ基材を180℃で60分間ポストベークした。それらの基材は、冷却し、剥離用組成物を含有する容器に浸漬して、磁気かくはん機でかくはんした。剥離用組成物を含有する容器は、50℃と55℃に維持された。剥離用組成物との接触時間は20〜30分であった。基材は脱イオン水で洗浄し、窒素で乾燥させた。それらの結果は、光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡検査によって決定し、次の表に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
結果
試料3は、VIASにおいて75℃で激しい腐食を示した。試料1、3及び5はVIASにおいて75℃で若干のSWP残留物又は腐食を示した。試料2、4及び7は、他の試料よりもアルミニウムに対して良い抑制剤性能を示した。
【0039】
実施例2
次の剥離及び清掃用組成物を調製して、実施例1の試験に従って試験した。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性極性溶媒及び有機又は無機アミンの混合物から成る剥離及び清浄用組成物であって、次の一般式
【化1】

(式中のRは低級アルキル又は水素である)を有する有効量の腐食抑制剤との混合物から成ることを特徴とする剥離及び清浄用組成物。
【請求項2】
前記腐食抑制剤が、0.1〜10重量%を構成することを特徴とする請求項1記載の剥離及び清浄用組成物。
【請求項3】
水を含むことを特徴とする請求項1記載の剥離及び清浄用組成物。
【請求項4】
58〜63重量%のN−モノエタノールアミン、30〜40重量%のジメチルスルホキシド、1〜4重量%の没食子酸及び残りが水から成る請求項1記載の剥離及び清浄用組成物。
【請求項5】
5重量%までのアントラニル酸を含むことを特徴とする請求項1記載の剥離及び清浄用組成物。
【請求項6】
前記極性溶媒が、ジメチルスルホキシドであることを特徴とする請求項1記載の剥離及び清浄用組成物。
【請求項7】
前記極性溶媒が、ジメチルアセトアミドであることを特徴とする請求項1記載の剥離及び清浄用組成物。
【請求項8】
前記極性溶媒と前記有機アミンが同一であることを特徴とする請求項1記載の剥離及び清浄用組成物。
【請求項9】
前記抑制剤が、アントラニル酸を含むことを特徴とする請求項1記載の剥離及び清浄用組成物。
【請求項10】
請求項1記載の有効量の剥離及び清浄用組成物をコーテッド基材に塗布し、前記剥離用組成物を前記コーテッド基材上に剥離に有効な時間残留させ、該コーテッド基材から被膜を除去する工程から成ることを特徴とするコーテッド基材から被膜を除去する方法。
【請求項11】
請求項3記載の有効量の剥離及び清浄用組成物をコーテッド基材に塗布し、前記剥離用組成物を前記コーテッド基材上に剥離に有効な時間残留させ、該コーテッド基材から被膜を除去する工程から成ることを特徴とするコーテッド基材から被膜を除去する方法。
【請求項12】
請求項8記載の有効量の剥離及び清浄用組成物をコーテッド基材に塗布し、前記剥離用組成物を前記コーテッド基材上に剥離に有効な時間残留させ、該コーテッド基材から被膜を除去する工程から成ることを特徴とするコーテッド基材から被膜を除去する方法。

【公開番号】特開2009−256680(P2009−256680A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−149844(P2009−149844)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【分割の表示】特願2000−516788(P2000−516788)の分割
【原出願日】平成10年10月13日(1998.10.13)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】