説明

水性平版印刷方法、水性平版印刷版、その製造方法および水性平版印刷システム

【課題】印刷機として簡便に使用され、価格も安価であり、デジタル印刷機能を有する印刷システムであり、高速大量印刷のできる大型印刷機として構築でき、また多品種少量印刷にも対応できる補助的小型印刷機としても利用でき、また優れた印刷品質を保持し、且つ環境面、安全性、衛生性、健康面などの要望に対応できる印刷システム、それに使用される印刷版および印刷インクを提供すること。
【解決手段】水性平版印刷方法において、印刷インクが水性媒体中に微細化顔料および水性固着剤を含有する水性顔料インクであり、印刷版が親水性画像部分と撥水性非画像部分からなる平版印刷版であり、親水性画像部分が、前記水性顔料インクが付着するように親水化した光触媒型酸化物を表面に有する膜部分よりなり、撥水性非画像部分が撥水性を有する疎水性部分を表面に有する膜部分からなる平版印刷版であることを特徴とする水性平版印刷方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性平版印刷方法、水性平版印刷版、その製造方法および水性平版印刷システムに関し、さらに詳しくは、親水化した光触媒型酸化物を表面に有する膜部分を親水性画像部分とし、撥水性を有する膜部分を撥水性非画像部分とする水性平版印刷版、その製造方法および水性インクを使用する平版印刷方法および印刷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷業界の印刷需要も多品種少量生産の要望が出てき、それと併せて印刷システムの電子化による印刷方式の合理化が進んでいる。プレートレスのデジタル印刷機として、電子写真方式やインクジェット方式の印刷機も大型化し、印刷速度の向上や印刷品質が向上し、また、頁折り、裁断、製本などの後加工も連結させる方式も開発された。その大型印刷機が比較的低価格であり、設置場所を大きくとらないことなどによってオフセット大型印刷機の補助印刷機として普及しつつある。さらに環境面、安全性からの要望や、作業者の対する衛生性、健康の側面からの改善が要望され、それらの対応できる印刷インクへの移行が要望されている。その面からは、粉体インクあるいは水性インクが好ましく、開発が進められている。
【0003】
しかしながら電子写真印刷ではトナーの製造は配合、混練、磨砕、分級の工程が必要で、粒子径に微小化にも限界がある。また、粒子中の顔料も加熱混練中に大きくなる傾向にあり、透明な印刷が困難である。また、水性インクについては、水性グラビア印刷は凹版の印刷版を使用するので転移するインクの量が多く、乾燥速度が遅くなり、高速大量印刷に適応できていない。また、水性インクジェット印刷においても同様にインク液滴の乾燥に起因する印刷速度に限界があり、高速印刷はできていない。また印刷品質面からも吐出されるインク液滴のドットの大きさから画素密度に限界があり、紙面に吸収する際の滲みが避けられないなどの問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、印刷機として簡便に使用され、価格も安価であり、プレートレスのデジタル印刷機としてオフセット大型印刷機に代わる大型印刷機として、また多品種少量印刷にも対応できる、大型印刷機の補助印刷機として好適であり、また優れた印刷品質を保持し、且つ環境面、安全性、衛生性、健康面などの要望に対応できる印刷システム、それに使用される印刷版および印刷インクを提供することにある。
【0005】
本発明者らは前記した問題点を解決すべく鋭意研究した結果、印刷インクとして水性顔料インクを使用し、印刷版として水性平版印刷版を使用することが好ましく、さらに、デジタル印刷方式に対応すべく、刷版面として光触媒型酸化物を表面に有する膜部分を画像に対応させた紫外線の照射により水性顔料インクが付着するように親水化し、非画像部分に撥水性を有させた水性平版印刷版を使用することで、上記した問題点をも解決できることを見出し、水性平版印刷システムの提供を目的としてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
本発明は、水性平版印刷方法において、印刷インクが水性媒体中に微細化顔料および水性固着剤を含有する水性顔料インクであり、印刷版が親水性画像部分と撥水性非画像部分からなる平版印刷版であり、親水性画像部分が、前記水性顔料インクが付着するように親水化した光触媒型酸化物を表面に有する膜部分よりなり、撥水性非画像部分が撥水性を有する疎水性部分を表面に有する膜部分からなる平版印刷版であることを特徴とする水性平版印刷方法を提供する。
【0007】
上記本発明においては、水性平版印刷方法において、前記光触媒型酸化物が酸化チタンおよび/または酸化亜鉛であること;前記撥水性を有する疎水性部分が撥水性シリコーン化合物および/または撥水性フッ素化合物を含有する樹脂膜であること;前記水性顔料インクが、黄色インク、紅色インク、藍色インク、墨色インクからなる4原色インク、あるいはさらに赤色インク、橙色インク、緑色インク、菫色インク、桃色インク、空色インク、灰色インクからなる群から選ばれる1種または2種以上の顔料インクを加えてなる多色インクであること;前記水性固着剤が、水溶性樹脂水溶液、高分子ラテックス、高分子ディスパージョン、高分子エマルジョンおよび高分子ハイドロゾルからなる群から選ばれる1種または2種以上の水性固着剤であることが好ましい。
【0008】
また、本発明は、支持体上に形成された下層の光触媒型酸化チタンを含む層を光触媒反応によって親水性に変化させて水性顔料インクが付着する親水性画像部分を形成させ、その上層に非画像部分に対応して撥水性を有する樹脂層を形成させて撥水性非画像部分とすることを特徴とする水性平版印刷版の製造方法を提供する。
【0009】
また、上記本発明においては、前記撥水性を有する樹脂層が、撥水性シリコーン化合物および/または撥水性フッ素化合物を含有すること;非画像部分に対応して撥水性を有する樹脂層を形成させる方法が、下層の光触媒型酸化チタン層の上層として撥水性を有するポジ型レジスト樹脂層を塗布し、画像に対応する露光を行い、可溶化されたポジ型レジスト樹脂層を溶解除去し、非露光の樹脂層を残存させて撥水性非画像部分を形成させること;非画像部分に対応して撥水性を有する樹脂層を形成させる方法が、下層の光触媒型酸化チタン層の上層として非画像部分に対応させて撥水性を有する樹脂層をインクジェット方式で吐出し、撥水性非画像部分を形成させることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、支持体上に形成された親水性画像部分と撥水性非画像部分からなる水性平版印刷版であり、画像部分が、水性顔料インクが付着するように親水化した光触媒型酸化物を表面に有する膜面よりなり、非画像部分が撥水性を有する樹脂膜部分からなることを特徴とする水性平版印刷版;水性平版印刷版および水性顔料インク貯層、乾燥装置を装着する印刷機、および画像を形成するための露光機および画素部分形成現像機、非画素部分形成インクジェット装置を装備する製版装置を有することを特徴とする水性平版印刷システムを提供する。
また、上記本発明においては、ドラム状あるいはベルト状回転体の上に平板印刷版が貼付されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多品種少量印刷にも対応できるプレートレスのデジタル印刷機としてオフセット大型印刷機に代わる印刷機として、また大型印刷機の補助印刷機として使用され得る。さらに水性顔料インクを使用することから、環境面、安全性の社会的な要望や、作業者の対する衛生性、健康の側面からも好ましい。
さらに水性インクを使用しているに拘わらず平版印刷であることから吸収乾燥も含め、乾燥が速く、高速印刷にも適応できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明に使用する水性平版印刷版およびその製造方法について説明する。
印刷版が親水性画像部分と撥水性非画像部分からなる平版印刷版であり、親水性画像部分が、前記水性顔料インクが付着するように親水化した光触媒型酸化物を表面に有する膜部分よりなり、撥水性非画像部分が撥水性を有する疎水性部分を表面に有する膜部分からなる平版印刷版である。
【0013】
上記した光触媒型酸化物としては光触媒型酸化チタンや酸化亜鉛などが挙げられる。光触媒酸化物層の形成方法としては、アナターゼ型酸化チタンの場合を例にとると、アナターゼ型酸化チタンゾルを薄膜に塗布して形成する方法が好ましい。また、親水性を強化するためには光触媒酸化物とシリカからなる複合物であり、例えばアナターゼ型酸化チタンゾルとシリカゾルとの混合液を印刷版基材表面に塗布して形成する方法が好ましい。
【0014】
本発明の撥水性非画像部分を形成させる実施態様の一例として使用されるポジ型レジストとしては、従来公知のキノンジアジド化合物として、o−芳香族キノン−2−ジアジドのスルホン酸エステルまたはスルホン酸アミド類が挙げられる。例えば、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホニルクロライド、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホニルクロライド、1,2−ベンソキノン−2−ジアジド−5−スルホニルクロライド類とフェノール類とのモノ〜ポリスルホン酸エステル類、アミン類とのモノ〜ポリスルホン酸アミド類が挙げられる。スルホン酸エステル形成に使用されるフェノール類としては、フェノール−ホルムアルデヒドノボラック樹脂、o−クロルフェノール−ホルムアルデヒドノボラック樹脂、ビスフェノールA、トリヒドロキベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,7−ジヒドロキシナフタリンなどである。スルホン酸アミド形成に使用されるアミン類としてはロジンアミンなどのアミン類が挙げられる。
【0015】
上記のポジ型レジストによる画像の形成について述べる。上記のo−ナフトキノンジアジド類は500nm付近までの紫外線に感光性を有する。現像液に浸漬することで露光部分が溶解し、除去される。現像液としてアルカリ水溶液が使用され、燐酸三ナトリウム、燐酸三ナトリウムと苛性ソーダとの混合液、炭酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウムなどの無機アルカリ性水溶液、テトラメチルアンモニウムハイドロオキシドなどの有機アルカリ性水溶液などである。
【0016】
本発明においては、撥水性を有する疎水性部分がシリコーン化合物および/またはフッ素化合物を含有する樹脂膜にすることも好ましい。シリコーン化合物としては、オルガノポリシラン類、例えばジメチルポリシロキサン、ジメチルシロキサン−メチルフェニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサン共重合体など、シリコーンオイル類、例えばジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなど公知のシリコーン化合物が挙げられる。
また、撥水性フッ素化合物としては従公知のフッ素樹脂、フッ素樹脂オリゴマー、フッ化炭化水素系低分子化合物などが挙げられる。
【0017】
本発明の撥水性非画像部分を形成させる実施態様の一例として、下層の光触媒型酸化チタン層の上層として非画像部分に対応させて撥水性を有する樹脂層をインクジェット方式で吐出し、撥水性非画像部分を形成させる方法も好ましい方法である。樹脂成分は公知の樹脂類、例えばアクリル系共重合体、メタクリル系共重合体、スチレン系共重合体、ビニルエステル系共重合体、オレフィン系(共)重合体、芳香族系ビニル共重合体、それらの共重合体など;ポリウレタン、ウレタン−ビニル、ポリアミド−ビニル系、ポリエステル系など;メラミン樹脂系、エポキシ樹脂系などが1種または2種以上選択されて使用される。また、非画素部分に撥水性を付与するためには、前記と同様に撥水性シリコーン化合物や撥水性フッ素化合物を添加することが好ましい。
【0018】
本発明に使用される水性顔料インクとしては、通常使用される4原色インクとして、黄色インク、紅色インク、藍色インク、墨色インクからなる4原色セットインク、色再現性を主体にして色域を拡大させるようにさらに色を特定した中間に色インクや特色インクとして、例えば赤色インク、橙色インク、緑色インク、菫色インク、紫色インク、ピンク色インク、スカイブルー色インク、グレイ色インクなどから1種または2種以上の顔料インクを選んで加えて多色インクが使用される。
【0019】
上記の各種色調の印刷インクに使用される有彩色、黒色、白色顔料としては従来公知の顔料が使用される。例えば、有機顔料では、不溶性アゾ系、溶性アゾ系、高分子量アゾ系などのアゾ系顔料、キナクリドンレッド系、キナクリドンマゼンタ系などのキナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロシアニンブルー系、フタロシアニングリーン系などのフタロシアニン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジンバイオレットなどのジオキサジン系顔料、キノフタロンイエロー顔料、ニッケルアゾエローなどの錯体顔料などの有機顔料およびカーボンブラック系、酸化鉄系、水酸化鉄系、酸化チタン系、複合酸化物系の無機顔料が挙げられる。
【0020】
上記の各種印刷インクを調製するために使用されるインク用の固着剤樹脂成分、溶剤や水系媒体、印刷インク用添加剤などは従来公知の材料が使用される。また、インク調製用の顔料分散機、混練機、混合機などの従来公知の製造機械が同様に使用される。
【0021】
水性固着剤としては、水溶性樹脂水溶液、高分子ラテックス、高分子ディスパージョン、高分子エマルジョン、高分子ハイドロゾルなど従来公知の固着剤からなる群から選ばれる1種または2種以上の水性固着剤が使用される。これら各種の形態で使用される樹脂成分としては、アクリル系共重合体、メタクリル系共重合体、スチレン系共重合体、ビニルエステル系共重合体、オレフィン系(共)重合体、芳香族系ビニル共重合体、それらの共重合体など;ポリウレタン、ウレタン−ビニル、ポリアミド−ビニル系、ポリエステル系など;石油樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂系、エポキシ樹脂系などが1種または2種以上選択されて使用される。また、特に水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸塩セルロース誘導体、でんぷん誘導体、セラック、変性カゼインなどを使用することができる。
【0022】
特に、水溶性樹脂は顔料の分散剤としても有効であり、本発明の水性顔料インクの製造に使用される。水性顔料インク中における顔料に対する水溶性重合体の添加量は、顔料の発色性や充分な物性、分散安定性などの性質を付与する量であり、顔料に対して10〜200質量%が好ましく、さらに好適には20〜100質量%である。
【0023】
上記した付加重合型樹脂を親水性にするために共重合されるアニオン性基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;マレイン酸、イタコン酸などの不飽和2塩基酸およびそれらのハーフアルキル(C1〜C18)エステルなど;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸;ヒドロキシアルキル(C2〜C4)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(C2〜C4)メタクリレートの硫酸エステルなど;ノニオン性基を有する単量体としては、上記したα,β−エチレン性不飽和カルボン酸、不飽和2塩基酸、それらのハーフエステルなどの不飽和カルボン酸類のエチレングリコールエステル、ポリエチレングリコールエステル、アルコキシポリエチレングリコールエステル、グリセリルエステルなど;カチオン性基を有する単量体としては、ジメチルアミノアルキル(C2〜C3)アクリレート、ジメチルアミノアルキル(C2〜C3)メタクリレート、3−(トリメチルアンモニウムクロライド)−2−ヒドロキシープロピルメタクリレート、ビニルピリジンなどの親水性単量体が挙げられる。
【0024】
皮膜形成性あるいは顔料親和性をもたらす疎水性共単量体としては、スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体;上記したα,β−エチレン性不飽和カルボン酸、不飽和2塩基酸、それらのハーフエステルなどの不飽和カルボン酸類の脂肪族、脂環式、芳香族アルコール(C1〜C30)エステル、アルコキシ(C1〜C4)アルキル(C2〜C4)エステルなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族、脂環式、芳香族アルコールエステルなど、酢酸ビニル、ブタジエン、イソプレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられる。上記のアニオン性を主体とする親水性単量体と疎水性共単量体とからなる親水性ランダム共重合体、親水性グラフト共重合体あるいは親水性ブロック共重合体などが挙げられる。
【0025】
酸性基を有する重合体を水性媒体に親和性を付与し、あるいは可溶化するために使用するアルカリとしては、特に限定されないが、臭気や皮膚に対する影響を考えると、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属、アンモニア、第一級、第二級もしくは第三級の有機アミンなどであり、特に室内で取り扱うことで臭気のないことや作業者に対する影響を考えると、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、(モノ−、ジ−、トリ−)エタノールアミンなどが好ましい。また、塩基性基を有する重合体を水性媒体に親和性を付与し、あるいは可溶化するために使用する酸としては、特に限定されないが、酢酸、クエン酸、低分子アルキルスルホン酸、芳香族スルホン酸などの有機酸;塩酸、スルファミン酸などの無機酸が使用される。
【0026】
本発明の水溶性顔料インクは沸点が高く、揮発性の遅い水溶性有機溶剤との混合溶媒をインクの媒体としていることが好ましく、印刷機上の不都合な乾きに対する乾燥防止機能や再溶解促進などの機能を有し、安定性が向上する。
水としてはイオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。なお、インク中の水の含有量は、通常10〜70質量%、好ましくは20〜50質量%である。また、水溶性有機溶剤としては、アルキレン(C2〜C6)グリコール、ポリアルキレン(C2〜C3)グリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン、(モノ〜トリ−)エチレングリコールモノアルキル(C1〜C4)エーテル:N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどが使用される。
【0027】
水性固着剤の主成分である樹脂成分が反応性である場合には、必要に応じて架橋剤を添加することも好ましい。使用される架橋剤としては、エポキシ基を有するトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなど、メチロール基を有するメトキシメチロール化メラミン、ブトキシメチロールメラミンなど、カルボジミド基を有するポリ(ヘキサメチレンカルボジイミド)ジイソシアネートとビスモノメトキシポリエチレングリコールおよびポリオキシエチレンソルビットモノラウレートとのウレタン反応生成物である多分岐型ポリカルボジイミドなど、イソシアネート基を有するトリメチロールプロパン−トリス(ヘキサメチレンジイソシアネートアダクト)のフェノールマスクッドイソシアネートなどが挙げられる。
【0028】
紫外線ラジカル硬化型、光カチオン重合型、電子線硬化型、熱重合型インクにおける重合型皮膜形成材料としては、従来公知の付加重合あるいは付加架橋性を有する不飽和二重結合あるいは重合性環状エーテル基を有する単量体、オリゴマーや重合体が使用される。
【0029】
付加重合性オリゴマーや多官能性単量体としては、(ポリ・テトラメチレングリコール−ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリウレタン)−ビスアクリレートなどのウレタンアクリレート系、ビスフェノールA系エポキシ樹脂−ビスアクリレート、フェノールノボラック系エポキシ樹脂−ポリアクリレートなどのエポキシアクリレート系、ポリ(ヘキシレンイソフタレート)−ビスアクリレート、(トリメチロールプロパン−アジピン酸系ポリエステル)−ポリアクリレートなどのポリエステルアクリレート系などのアクリル系オリゴマー、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ビスフェノールA−エチレンオキシド付加物のジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが挙げられる。
【0030】
脂環式ジエポキシ化合物としては3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、リモネンジオキサイドなどであり、オキサテン化合物としてはオキサテンアルコール、ジオキセタン、フェニルオキセタン、キシリレンジオキセタン、2−エチルヘキシルオキセタンなど、ビニルエーテル化合物としてはトリエチレングリコールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルなどが挙げられる。
【0031】
重合開始剤としては従来公知の開始剤が使用される。好ましいものとして、例えば、光重合開始剤としてはベンジルケタール系、α−ヒドロキアセトフェノン、α−アミノアセトフェノンなど、光カチオン重合開始剤としてはトリアリールスルフォニウム塩、アリールヨードニウム塩など、増感剤として1−クロロ−4−プロポキシチオキサントンなど、熱重合開始剤としてはアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシアノイソバレリン酸、ジメチル2,2’アゾビスイソブチレートなどが挙げられる。
【0032】
本発明における水性顔料インクは、上記の成分の他に必要に応じて所望の物性値をもつインクとするために上記以外の界面活性剤、消泡剤、防腐剤などを添加することができる。
【0033】
本発明の平版印刷機を中心とする印刷システムとして、水性平版印刷版や水性顔料インク貯槽に加え、水性顔料インクで湿潤している印字紙やフィルムを加熱乾燥する装置などは印刷機にインラインであるいはオフラインで装備される.加熱方法としては、加熱送風乾燥機による温風や熱風加熱、赤外ランプによる赤外線乾燥などの通常の方法で行われる。また、水性平版印刷版の製版装置として画像を形成するための露光機や現像機、撥水性の非画素部分を形成させるためのインクジェット装置などを装備した水性平版印刷システムが提供される。また、平板印刷版は従来のドラム状のほか、ベルト状回転体の上に貼付することによって、例えば多色印刷型であっても小型の印刷装置で大型紙の印刷を可能にするなどコンパクトな印刷システムが構築される。
【実施例】
【0034】
次に具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、文中の「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0035】
製造例1
(1)印刷刷版の調製
水性平版印刷版−1を調製した。印刷版の基材としてプライマーを塗布したアルミニウム製版材を準備し、その上に、アナタース型酸化チタンコーティング液(固形分9質量%)にテトラエトキシシランの混合液(酸化チタン:エトキシシラン=13:7)を塗布し、光触媒性層を厚みが3μmになるようにコーターで塗布し、100℃で乾燥した。その上に下記に示すポジ型レジスト溶液をコーターで塗布し、50℃以下で送風乾燥し、厚みが3μmのポジ型レジスト膜を形成した。調製された印刷版は、露光により親水性する光触媒酸化チタン−シラン層と露光により可溶化する撥水性ポジ型レジスト層の複層からなる水性平版印刷版である。
【0036】
上記で使用したポジ型レジスト組成物は、o−クロルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂に1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホニルクロライドを反応させたエステル6質量部、スチレン−エチルメタクリレート−ポリシリコーンマクロマー(5:3:2)共重合体4質量部、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート90質量部からなる樹脂溶液である。
【0037】
(2)水性顔料インキの調製
顔料分散剤溶液として、スチレン・メタクリル酸・メタクリル酸アルキルエステル共重合樹脂(酸価97、重量平均分子量:約32,000)100部をブチルセロソルブ50部、ブチルカルビトール50部、ジメチルエタノールアミン16部、水134部を混合し、80℃、5時間で加熱溶解し、水性樹脂溶液を調製した。以下、「分散剤溶液−1」と称する。
【0038】
水性顔料インキの調製をするために、顔料として、黄色不溶性アゾ顔料(C.I.ピグメントイエロー74)、ジメチルキナクリドン顔料(C.I.ピグメントレッド122)、フタロシアニンブルー顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)、カーボンブラック顔料(C.I.ピグメントブラック7)を使用した。
【0039】
下記の表1に記載の材料を配合し、ディゾルバーで2時間攪拌して、顔料の塊がなくなったことを確認後、横型媒体分散機「ダイノミル1.4リットルECM型」(シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズ 径0.65mm)を使用し、周速14m/sで分散処理を行った。4時間分散し、各色の水性印刷インクを調製した。
【0040】

【0041】
(3)印刷と印刷結果
上記(1)で得られた、露光により親水性する光触媒酸化チタン−シラン複合層と露光により可溶化する撥水性ポジ型レジスト層の複層からなる水性平版印刷版に、予め準備された印刷情報を紫外線レーザービームのスキャニングにより画像部分を露光した。次いで3%燐酸第3ソーダ水溶液で露光部分の現像を行い、水洗後、燐酸の1%水溶液で中和し、水洗、乾燥を行なった。作成された水性平版印刷版は画像部分に対応する親水性酸化チタン−シリカ部分と非画像部分に対応する撥水性ポジ型レジスト部分を形成している。
【0042】
上記(2)で得られた黄色インキ、紅色インキ、藍色インキおよび墨色インキを用いて、上記の画像の印刷潜像の形成された平版印刷版を装着した水性平版印刷機を用いて4色印刷を行なった。印刷物の印刷状態は、版かぶり、ベタ印刷状態、ドット再現性、総合的な印刷適性は良好であり、また反射濃度、輝度などの印刷画像状態も良好であった。
【0043】
製造例2
(1)印刷刷版の調製
水性平版印刷版−2を調製した。製造例1(1)の水性平版印刷版−1の製造に使用したプライマーを塗布したアルミニウム製版材上にアナタース型酸化チタンとテトラエトキシシランの混合液を塗布した光触媒性層を有するアルミニウム板を準備した。別に、下記の撥水性アクリル系共重合体混合溶液を充填したカートリッジをピエゾ方式インクジェットプリンターに装填した。上記の光触媒性層を有するアルミニウム基板の表面上にインクジェットプリンターのヘッドより予め調製された印刷面情報の非画素部分に合わせて厚みがほぼ3μmになるように吐出させ、撥水性の非画素部分を形成させた。調製された印刷版は、露光により親水化した光触媒酸化チタン−シラン部分と撥水性樹脂部分からなる水性平版印刷版である。
【0044】
上記の撥水性アクリル系共重合体混合溶液は、メチルメタクリレート−ブチルメタクリレート−スチレン−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体(質量比;20:50:25:5)にスチレン−エチルメタクリレート−ポリシリコーンマクロマー(5:3:2)共重合体を固形分比6:4で配合した酢酸ブチル溶液(固形分40%)である。
【0045】
(3)印刷と印刷結果
上記(1)の画像の印刷潜像の形成された平版印刷版を装着した水性平版印刷機を用いて上記(2)で得られた黄色インキ、紅色インキ、藍色インキおよび墨色インキを用いて4色印刷を行なった。印刷物の印刷状態は、版かぶり、ベタ印刷状態、ドット再現性、総合的な印刷適性は良好であり、また反射濃度、輝度などの印刷画像状態も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の印刷システムは、印刷インクとして水性顔料インクを使用し、印刷版として水性平版印刷版を使用し、さらに、デジタル印刷方式に対応すべく、刷版面として光触媒型酸化物を表面に有する膜部分を画像に対応させた光照射により水性顔料インクが付着するように親水化し、非画像部分は撥水性を有させた水性平版印刷版を使用する水性平版印刷システムを提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性平版印刷方法において、印刷インクが水性媒体中に微細化顔料および水性固着剤を含有する水性顔料インクであり、印刷版が親水性画像部分と撥水性非画像部分からなる平版印刷版であり、親水性画像部分が、前記水性顔料インクが付着するように親水化した光触媒型酸化物を表面に有する膜部分よりなり、撥水性非画像部分が撥水性を有する疎水性部分を表面に有する膜部分からなる平版印刷版であることを特徴とする水性平版印刷方法。
【請求項2】
前記光触媒型酸化物が酸化チタンおよび/または酸化亜鉛である請求項1に記載の水性平版印刷方法。
【請求項3】
前記撥水性を有する疎水性部分が撥水性シリコーン化合物および/または撥水性フッ素化合物を含有する樹脂膜である請求項1に記載の水性平版印刷方法。
【請求項4】
前記水性顔料インクが、黄色インク、紅色インク、藍色インク、墨色インクからなる4原色インク、あるいはさらに赤色インク、橙色インク、緑色インク、菫色インク、紫色インク、ピンク色インク、スカイブルー色インク、グレイ色インクからなる群から選ばれる1種または2種以上の顔料インクを加えてなる多色インクである請求項1に記載の水性平版印刷方法。
【請求項5】
前記水性固着剤が、水溶性樹脂水溶液、高分子ラテックス、高分子ディスパージョン、高分子エマルジョンおよび高分子ハイドロゾルからなる群から選ばれる1種または2種以上の水性固着剤である請求項1に記載の水性平版印刷方法。
【請求項6】
支持体上に形成された下層の光触媒型酸化チタンを含む層を光触媒反応によって親水性に変化させて水性顔料インクが付着する親水性画像部分を形成させ、その上層に非画像部分に対応して撥水性を有する樹脂層を形成させて撥水性非画像部分とすることを特徴とする水性平版印刷版の製造方法。
【請求項7】
前記撥水性を有する樹脂層が、撥水性シリコーン化合物および/または撥水性フッ素化合物を含有する請求項6に記載の水性平版印刷版の製造方法。
【請求項8】
非画像部分に対応して撥水性を有する樹脂層を形成させる方法が、下層の光触媒型酸化チタン層の上層として撥水性を有するポジ型レジスト樹脂層を塗布し、画像に対応する露光を行い、可溶化されたポジ型レジスト樹脂層を溶解除去し、非露光の樹脂層を残存させて撥水性非画像部分を形成させる請求項6に記載の水性平版印刷版の製造方法。
【請求項9】
非画像部分に対応して撥水性を有する樹脂層を形成させる方法が、下層の光触媒型酸化チタン層の上層として非画像部分に対応させて撥水性を有する樹脂層をインクジェット方式で吐出し、撥水性非画像部分を形成させる請求項6に記載の水性平版印刷版の製造方法。
【請求項10】
支持体上に形成された親水性画像部分と撥水性非画像部分からなる水性平版印刷版であり、画像部分が、水性顔料インクが付着するように親水化した光触媒型酸化物を表面に有する膜面よりなり、非画像部分が撥水性を有する樹脂膜部分からなることを特徴とする水性平版印刷版。
【請求項11】
水性平版印刷版および水性顔料インク貯層、乾燥装置を装着する印刷機、および画像を形成するための露光機および画素部分形成現像機、非画素部分形成インクジェット装置を装備する製版装置を有することを特徴とする水性平版印刷システム。
【請求項12】
ドラム状あるいはベルト状回転体の上に平板印刷版が貼付されている請求項11に記載の水性平版印刷システム。

【公開番号】特開2010−201670(P2010−201670A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47560(P2009−47560)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】