説明

波長可変フィルタ及び波長可変レーザ光源

【課題】簡易なプロセス技術や実装技術で光学素子の反射戻り光の影響を抑制した小型な波長可変レーザを実現する。
【解決手段】半導体ゲインチップと波長可変フィルタを集積した波長可変レーザ光源において、静電力を使ってエタロン間隔を調整する波長可変フィルタに金属の斜め反射鏡を集積すること、および垂直出射型の半導体ゲインチップに用いる45°斜め反射鏡の角度を45°からずらすことで、フィルタを斜め配置することなく、一般的かつ簡易なプロセス技術や実装技術を用いて波長可変フィルタ入射端面からの波長反射戻り光の影響を抑制した小型な波長可変レーザ光源。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信などで用いる波長可変フィルタ及びそれを用いた波長可変レーザ光源に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の伝送容量は年々増大の傾向にあり、これに対応して高速かつ大容量の伝送技術として波長分割多重(WDM)システムが実用化され始めている。WDMはITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)によって標準化された波長間隔(たとえば、波長間隔0.8 nmもしくは0.4 nm)の波長信号光を多重して1本の光ファイバ内に同時に伝送するシステムであり、ファイバ1本辺りの伝送容量を増やすことが可能である。
【0003】
このシステムを実現するためには波長の異なる多数の半導体レーザダイオード(以下、レーザと略す)と、それを駆動するモジュール化された装置(以下、モジュールと略す)が必要であった。レーザを製造するには波長毎に結晶を作る必要があり、また、モジュールも波長毎に製造する必要があった。製造コストが高くなること、モジュールの在庫管理が煩雑であることから、通信キャリアや装置ベンダーにとってはコストのかかるモジュールであった。そこで、1種類のモジュールで波長を自由に変えられる波長可変レーザモジュールがあれば、必要なレーザは少数もしくは1種類になるため、製造コストの低減及び在庫管理の煩雑さも解消できる。このレーザモジュールの実現には、所望の波長範囲(たとえば、中長距離通信の一般的な波長帯であるC-bandやL-band)で発振波長が可変である波長可変レーザが必要である。仮にC-bandの波長帯域を40 nm、波長間隔0.4 nmとした場合、100種類の異なる波長を1種類のレーザから切り換え発振させる必要があり、波長可変レーザには、広波長帯域に亘って安定した波長制御性が求められている。波長可変レーザは固定波長レーザの代替であるため、固定波長レーザと同程度のコストが求められており、更に近年は、レーザモジュールの小型・低消費電力化が求められている。
【0004】
波長可変レーザには複数の方式があるが、本発明に関わるのは主として外部共振器型波長可変レーザになる。このレーザは発振波長に利得を持つ半導体ゲインチップと該ゲインチップの外部に設けた波長可変フィルタによって構成されており、該波長可変フィルタの透過もしくは反射波長を制御することで発振波長を選択する。たとえば、特許文献1及び非特許文献1にいくつかの構造が提案されている。特許文献1に示されている波長可変フィルタは液晶を使ったエタロン構造であり、エタロンを形成する1対の電極間に液晶を充填し、液晶の屈折率を変化させることによって透過する光の波長を変えることができる。非特許文献1の波長選択素子は、内部エタロンと液晶フィルタであり、液晶フィルタ内の液晶の屈折率を変えることで、反射する波長を変えることができる。
【0005】
これらの外部共振器型波長可変レーザでは波長選択素子(液晶エタロン、内部エタロン、液晶フィルタなど)の入射面からの反射戻り光がゲインチップに結合することで、複合共振器が形成され、レーザ発振が不安定になる。そのため、一般的には波長選択素子を光軸から傾けて実装する必要がある。しかしながら、光軸から傾けて実装するためには、高精度かつ難易度の高い実装技術が必要になり、低コストな半導体レーザモジュールの実現が難しい。
【0006】
更に、液晶の屈折率を制御することで発振波長を変えるため、液晶エタロンもしくは液晶フィルタもゲインチップ同様に長期的に熱的な安定が求められ、大きな温度制御素子(ペルチエなど)が必要となる。小型かつ低消費電力な半導体レーザ光源を実現する上で、外部フィルタや温度制御素子の小型化は大きな課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-267037号公報
【特許文献2】特表2005-509897号公報
【特許文献3】特開2005-25020号公報
【特許文献4】特開2009-251105号公報
【特許文献5】特開2008-277445号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Lightwave Technology、 vol.24、 No.8、 p.3202-3209、 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図8に特許文献1に記載されている外部共振器型波長可変レーザ光源を示す。このレーザは45°斜め反射鏡72とレンズ32を集積したゲインチップ21に液晶型のエタロン74を縦方向に集積している。エタロン内部の液晶76の屈折率を変化させることで、透過光の波長を制御している。エタロンを透過した光はエタロン上部に集積された反射鏡79で反射され再びエタロンを透過する。透過した光がゲインチップに集積されたレンズ32と45°斜め反射鏡72を通り、ゲインチップの活性層に結合し、ゲインチップの片端面の反射鏡で反射することでレーザ共振器が形成されている。ここで、エタロンの入射面での反射戻り光がゲインチップに結合すると、レーザ発振が不安定になるため、エタロン入射面からの反射光が共振器内に戻らないように厚さの異なる斜めのSi基板75を用いてエタロン入射面を光軸から斜めに搭載している。このようにエタロンフィルタ74のエタロン部分を斜め形状に作製し、ゲインチップ21上に実装するためには、高精度なプロセス技術や実装技術が必要になる。
【0010】
更には、ゲインチップ直上にエタロンフィルタ74を集積するため、レーザ駆動電流に起因したゲインチップの発熱の影響を受けやすい。ゲインチップからの熱によって、液晶76の屈折率が変化すると、発振波長も変化する。そのため、このような波長可変フィルタは温度的に安定でなければならない。非特許文献1で明示されているゲインチップと波長選択素子のハイブリッド集積構造においても、反射戻り光の影響や温度制御の課題を抱えている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の波長可変レーザ光源では、簡易なプロセス技術や実装技術で反射戻り光の影響を低減できること、更に温度の影響を受けても発振波長を安定化できることを特徴とする小型な波長可変フィルタと該波長可変フィルタと半導体ゲインチップを集積した波長可変レーザ光源を考案した。詳細な構造については後述するが、本願において開示される代表的な発明を説明すると下記のとおりである。
【0012】
透明基板、透明電極で形成される2枚の基板が平行に配置され、基板間に電圧を印加することで発生する静電力によって2枚の基板間の距離が変化し、基板間を透過する光の波長を可変させることができる透過型エタロンフィルタにおいて透過側透明基板の外側が金属膜で覆われかつ基板が平行面に対して斜めに形成された反射鏡を具備していることを特徴とする波長可変フィルタ。
【0013】
レーザ発振波長において利得を持つゲイン部、屈折率を変化させることによって位相を制御する位相調整部、垂直出射用の斜め反射鏡および前記斜め反射鏡の上部に形成された凸レンズを有する半導体ゲインチップに透明基板、透明電極で形成される2枚の基板が平行に配置され、基板間に電圧を印加することで発生する静電力によって2枚の基板間の距離が変化し、基板間を透過する光の波長を可変させることができる透過型エタロンフィルタにおいて透過側透明基板の外側が金属膜で覆われかつ基板が平行面に対して斜めに形成された反射鏡を具備していることを特徴とする波長可変フィルタを該ゲインチップの凸レンズ上部に集積した波長可変レーザ光源。
【0014】
なお、本発明に関係しているエタロンの電極間の距離を変化させて透過波長を可変させる方法は、特許文献2〜4にも記述されており、すでに公知ではあるが、レーザ共振器内の反射戻り光への影響を考慮した斜め反射鏡を具備した構造が無いことをあらかじめ明示しておく。
【発明の効果】
【0015】
簡易なプロセス技術や実装技術により、光学素子による反射戻り光の影響を抑制した小型な波長可変レーザ光源を実現できる。具体的には、静電力を使ってエタロン間隔を調整する波長可変フィルタに金属の斜め反射鏡を集積し、該波長可変フィルタと出射光を出射面に垂直な方向から斜めに出射させる半導体ゲインチップを集積することによって、反射戻り光の影響を低減し、かつゲインチップの水平部を使った簡易な実装により波長可変レーザ光源が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】波長可変フィルタの概略図。
【図2】波長可変レーザ光源の概略図。
【図3A】半導体ゲインチップの上面図。
【図3B】半導体ゲインチップの上面図(分布反射型反射鏡付)。
【図3C】半導体ゲインチップのメサ(導波路)垂直方向の断面図。
【図4】半導体ゲインチップの斜め反射鏡ならびにレンズ部分の光線追跡を説明する図。
【図5】Siスペーサとゲインチップ斜め反射鏡の角度の関係を説明する図。
【図6】変調器集積型の波長可変レーザ光源の概略図。
【図7】アレイ型波長可変レーザ光源の上面図。
【図8】エタロンフィルタを用いた従来の波長可変レーザ光源の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
<実施の形態1>
光通信で用いる波長1300 nm及び1550 nmの光はSiに対しては透明であるため、本発明で考案した通信用波長可変フィルタはSi基板を使って作製するのが適当である。図1に示す該波長可変フィルタ20は2つの平行な電極部(下部電極部15と上部電極部14)によって構成されている。下部電極部15は下記のような構成となる。Si基板10上に透明電極9(たとえばITO膜)及び高反射膜8(たとえば誘電体多層膜)を順次形成し、高反射膜とは反対のSi基板面からのエッチングにより一部のSi基板を抜き取る。抜き取った面に無反射膜4(たとえば誘電体多層膜)を形成する。次に上部電極部14は下記のような構成となる。SOI基板のSi厚さをエタロンのギャップ間隔相当に作製する。Siスペーサ3及びSiO2膜2の一部分をエッチングにより抜き取り、抜き取った面に無反射膜4、透明電極5及び高反射膜6を形成する。高反射膜6が形成されていないSi基板面は、Siのオフ角を使って斜めに切り出す。切り出し方はエッチングや研磨などの方法が一般的である。このときの角度はエタロンから斜めに出射された光と垂直に交わる角度とし、たとえば、±0〜20°程度が適当である。斜めに切り出したSi基板表面に金属(たとえばAu、Ag、Alなど)を蒸着することで、金属の斜め反射鏡11として機能する。下部電極部15と上部電極部14をそれぞれ貼り合わせることで、エタロン型のフィルタの構造ができあがる。貼り合わせる方法は、一般的に知られている接着、熱融着及び陽極接合などで実施すればよい。貼り合わせを用いるため、当然ながら、エタロン内部は空洞である。電極への配線を容易にするためには、パッド領域13を設ける必要があり、エッチング等により形成する。
【0018】
次に動作原理について説明する。下部電極9と上部電極5の両電極間に電圧を印加することで、電極間に静電力が発生する。静電力によって下部電極9が上下することで、両電極間の距離7が変化する。エタロンを透過する光の波長(λ)は、エタロンの間隔(Lgap)とエタロン内部の屈折率(n)によって決まり、次式で表すことができる。
【0019】
λ= Lgap×2n / m …(1)
ここで、mはエタロン内に定在する波の数を表す。電極間の距離7が短くなると、透過波長が短波にシフトし、逆に距離が長くなると透過波長が長波にシフトする。
【0020】
該波長可変フィルタの下部電極部側から光が入射すると、光は下部電極9を透過し、上部電極側の高反射膜6で反射する。反射した光は下部電極に設けられた高反射膜8で反射し、再び上部電極の方に伝播する。反射した光のうち、位相が一致する波長のみがお互いに干渉しあい、両電極を透過していく。上部電極から透過した光は、上部電極側のSi基板1に設けられた金属の斜め反射鏡11で反射し、再び、エタロン内に取り込まれる。前述と同様の原理により、位相が一致する特定の波長の光のみがエタロンを透過するため、入射光と同一方向から特定の波長の光のみが出射される。ここで、電極間の距離を電圧で制御することで透過波長を変化させ、波長可変フィルタとして機能する。
【0021】
nはエタロン内部の屈折率を表すが、本構造では空洞であるため、n=1となる。そのため、波長1550nmの光を透過させる場合、m=1の場合はLgap=775nmとかなり小さい。更に、波長をC-band(1530−1570nm)内で可変させるためには、Lgapを765〜785 nmの範囲で変化させるため、ギャップの変化量は20 nmである。これは、Lgapのわずか3 %分であり、小さな変動量で大きな波長変化量(40nm)を得ることができる。m≠1の場合でも40nmの可変量を得るためのギャップの変化量は約3%で良いため、動作電圧は小さくて済む。下部電極の稼動量が小さいため、電極間の距離7が急激に近接することはなく、電極同士が相互に接触してしまう問題も発生しない。
<実施の形態2>
該波長可変フィルタの波長を精度よく制御するためには、エタロンのギャップ間隔7を正確に把握する必要がある。更に、外部環境の変化に伴いエタロンギャップ間隔7が経時的に劣化することも予想される。そこで、本発明においては、ギャップ間隔のズレを検出し制御電圧に帰還制御する方法として、静電容量をモニタする方法及び温度をモニタする方法を考案した。波長可変レーザ光源のひとつの課題として、温度安定性があり、特許文献1や後述する波長可変レーザ光源では、半導体ゲインチップに波長可変フィルタを集積するため、半導体ゲインチップの発熱に起因した波長変動が懸念される。本発明においては、主たる要因を温度と仮定した上でその対策を下記に示すが、もちろん、そのほかの原因である歪などの物理的な劣化にも適用可能であることは言うまでもない。
【0022】
静電容量による間接モニタ方法は両電極間の静電容量を測定することで、両電極間の距離を検出する方法である。原理を下記に示す。静電容量Cは電極間距離(Lgap)と電極面積Sを用いると式(2)で表すことができる。
【0023】
C =εr×ε0×S/Lgap …(2)
ここで、εrは比誘電率、ε0は真空中の誘電率を表す。本発明のエタロンは電極間が空洞であるため、εr=1である。Lgapが外部環境の変化、たとえば、温度や歪などにより、経時的に劣化したとする。静電容量Cの変化は式(2)より式(3)で表される。
ΔC =ΔLgap×εr×ε0×S/Lgap2 …(3)
式(3)より、静電容量の変化をモニタすることで、電極間距離の変化(ΔLgap)を検出できることがわかる。静電容量モニタにより、電極間距離のズレを検知し、印加電圧を帰還制御することで、常に安定的な波長選択フィルタとして機能する。
【0024】
温度をモニタする方法について説明する。波長可変フィルタの波長が温度により変化する理由として、図1におけるSiスペーサ3が熱膨張することが考えられる。そのため、温度を測定するためのデバイス(一般的にはサーミスタ)をSiスペーサ3近傍に設け、温度の変化に伴う電極間距離7の変化を計測する。Siスペーサ3の線熱膨張係数はおおよそ、2.6×10−4K−1である。Siスペーサ3の熱膨張だけが電極間距離7の変化に起因していること、Siスペーサ3の長さが電極間距離(Lgap)に一致していることを仮定すると、Lgapの熱による変化は、式(4)で表すことができる。
【0025】
ΔL =αi×ΔT×Lgap …(4)
ここで、αiは熱膨張係数、ΔTが温度変化量である。式(1)と式(4)から、温度変化による波長変化量は、
Δλ=αi×ΔT×Lgap×2n/m …(5)
となる。たとえば、n=1、m=1、αi=2.6×10−4とすると、ΔT=1 Kによる波長の変化量(Δλ)は0.4 nmとなる。これは、光通信のWDMシステムにおける波長間隔(50 GHz≒0.4 nm)と一致する大きさである。後述する波長可変レーザとして用いる場合、1波長間隔分の波長変化はWDMシステムにおける波長のモードホップとなり、システムエラーという重大なトラブルを引き起こしてしまう。そのため、温度による波長シフトを補償する必要がある。
【0026】
温度をモニタする方法は、上述のサーミスタを用いる方法が最も一般的であり、Siスペーサ3近傍にサーミスタを集積する。その他の方法として、Siダイオードの電流-電圧特性の変化量から温度をモニタする方法も挙げられ、種種の方法を用いて温度を測定すればよい。ただし、温度測定箇所とSiスペーサ3の距離が離れることで、測定精度が悪くなるため、できるだけSiスペーサ3近傍で測定する必要がある。温度モニタによる帰還制御フローの一案を示す。初期温度を設定し、初期温度における電極間距離(Lgap)7と透過波長の関係を明示しておく。レーザ動作によって測定温度が初期温度からずれた場合、測定温度と初期温度の差(ΔT)から電極間距離7の初期からのずれ(ΔL)を式(4)を用いて計算し、印加電圧にΔLに相当するバイアスを加えることで波長ずれを補償する。
<実施の形態3>
前記実施の形態1及び2の該波長可変フィルタ20と半導体ゲインチップ21を集積することで、波長可変レーザが実現できる。図2に波長可変レーザの構造を示す。半導体ゲインチップ21は、波長1550 nm近傍のレーザで用いられるInGaAsP/InGaAsPの多重量井戸構造を用いた利得部36から構成されるのが一般的である。更に、利得部36よりも波長が短波長かつInPよりも長波長であるInGaAsPの多重量子井戸もしくはバルク半導体で構成される位相部37や分布型反射鏡38を集積した構造をとる。図3Aには端面反射鏡を用いた場合のゲインチップを、図3Bに分布型反射鏡を用いた場合のゲインチップの上面図をそれぞれ示す。ゲインチップの作製手順は一般的な半導体レーザの作製手順と同じであり、詳細な説明は省略する。図3Cに一般的なレーザの断面図を示す。図3Cはリッジ構造を示しているが、横構造はBH(Buried-Heterostructure)構造など一般的なレーザに用いられる構造でもよい。図2の実施の形態では、ゲインチップ21の片端面に斜め反射鏡33とその上部にレンズ32を集積している。当該ゲインチップ21は、斜め反射鏡33とレンズ32を用いることで、チップ垂直方向に光を出射させている。半絶縁InP基板31を用いて、n型電極40をp型電極39側と同一方向から取り出し、サブマウント22へのジャンクションダウン実装をしている。もちろん、特許文献1に示されている図8のゲインチップのようにn型InP基板を用いて作製してもよい。斜め反射鏡33とレンズ32の設計や作製方法に関する詳細な説明は特許文献5に記載されているため、ここでは省略する。
【0027】
以下の説明においては、話を明瞭にするため、分布型反射鏡38を含まない半導体ゲインチップ(図3A)を用いた波長可変レーザの動作原理について詳細に説明する。まず、半導体ゲインチップ21の利得部36に電流を注入すると、利得を持つ波長帯域の光がゲインチップの斜め反射鏡33で反射した後に、上部のレンズ32を通して、波長可変フィルタ20に入射する。波長可変フィルタ20の下部電極9を透過した光は、上部電極5と下部電極9間で形成されるエタロン内部で反射を繰り返し、前述の原理に基づき、特定波長のみが透過する。透過した波長は、フィルタ上部に設けられた金属の斜め反射鏡11によって反射され、再び、エタロン内で共振を繰り返し、下部電極9を透過後、ゲインチップ21に結合する。レンズ32を通して結合した光は、斜め反射鏡33で反射し、利得部36と再結合する。ゲインチップ21の斜め反射鏡33と異なる端面が反射鏡になるため、ゲインチップの端面反射鏡と波長可変フィルタ20の金属の斜め反射鏡11によるレーザ共振構造により、特定波長の光のみが共振され、しきい電流以上でレーザ発振が実現する。
【0028】
ここで、ゲインチップの斜め反射鏡33から垂直出射した光が波長可変フィルタ20に入射する際に反射戻り光が発生する。特許文献1では波長可変フィルタを斜めに実装することで、この反射戻り光の影響を回避していたが、フィルタ作製技術や実装技術の難易度が高いため、本発明では以下の方法によって反射戻り光の影響を低減、回避する。
【0029】
本発明のゲインチップの斜め反射鏡33の角度は45°ではなく、意図的に45°から±α°だけずらす。図4に斜め反射鏡33とレンズ32部における光線の振る舞いを示す。斜め反射鏡33の角度61(θ)をθ=45°±αと定義すると、斜め反射鏡33で反射した光は、垂直方向に対して、(90−2θ)°の角度62でレンズ32に入射し、レンズ32の中心を透過した光は、式(6)の角度でレンズから出射する。ゲインチップ21上部に集積された波長可変フィルタ20の下部電極9及び上部電極5は、水平面に平行に作られ実装するため、レンズ出射角が波長可変フィルタ20への入射角65になる。
【0030】
波長可変フィルタ入射角=ArcSin( n1×Sin( 90−2θ))(=レンズ出射角)…(6)
ここで、n1は半導体ゲインチップ21の屈折率であり、InP系のレーザの場合おおよそ3.2である。下部電極9からの反射戻り光は、入射角の2倍の角度で反射し、ゲインチップ21の方に伝播する。ここで、ゲインチップ21のレンズ径を2ωとし、レンズ端から下部電極までの距離63(Siスペーサ10の長さ)をL2とすると、Lが式(7)の条件を満たすときに反射戻り光が再びレンズ32に結合することはなく、反射戻り光によるレーザの不安定発振を抑制できる。
【0031】
L2>ω/Tan(ArcSin( n1×Sin(90−2θ))) …(7)
図5にL2とθの関係を計算した結果を示す。斜め反射鏡33の角度(θ)を45°から2〜3°ずらした場合、ωの値によって若干の違いはあるものの、L2を数百μm程度で作製すれば、反射戻り光の影響を回避できる。また、斜め反射鏡33の角度θは、エッチング液の混合比によって45°±10°程度は変えることができるため、上記ゲインチップ21の作製は容易である。なお、θ<45°の場合、反射戻り光はゲインチップ21の利得部36とは逆方向のチップ上面部に伝播していくが、θ>45°の場合、反射戻り光はゲインチップ21の利得部36方向のチップ上面部に伝播していく。
【0032】
下部電極9を透過してエタロン内部を共振する特定波長の光は、式(6)の角度で伝播し、上部電極5を透過する。そのため、透過光をゲインチップ21に戻すためには、伝播角度と垂直な面を持つ反射鏡が必要である。本発明では、上部電極5で使用するSi基板1の裏面側に金属の斜め反射鏡11を形成している。金属の斜め反射鏡11の角度は式(6)によって決まっており、<±20°程度で良いと思われる。金属の斜め反射鏡11は、通常の基板プロセスを用いればよく、例えば、エッチングや研磨などを用いる。また、広波長帯域にわたって高い反射率の反射鏡が必要であるため、金属を蒸着した反射鏡が適している。もちろん、多層の誘電体膜を裏面側に形成し、反射鏡を実現することは可能であるが、高反射率を得るためには層数をできる限り多く積む必要がある。
【0033】
本実施の形態では、45°からずらしたゲインチップの斜め反射鏡33を用いること、波長可変フィルタ20にも斜めの金属反射鏡11を用いることで、波長可変フィルタ20はゲインチップ21の水平面に対して、平行に実装すればよく、比較的容易な実装手段で波長可変レーザが実現できる。
<実施の形態4>
図6のゲインチップ21は変調器を集積している。レーザと変調器をモノリシックに集積することで、更に小型な波長可変レーザモジュールが実現できる。本発明の波長可変レーザ光源においても変調器集積が容易であり、例えば、InGaAsPやInGaAlAs系の材料を用いたEA(Electro-Absorption)変調器やMZ(Mach-Zehnder)変調器を集積した波長可変レーザ光源を実用できる。レーザ部と変調器部45の間にSOA(Semiconductor Optical Amplifier)部44を入れることで、高光出力を得ることが可能である。しかしながら、SOA部44の有無にかかわらず波長可変特性に大きな違いはないため、SOA部44を入れなくてもよい。
<実施の形態5>
図7にアレイ型の波長可変レーザ構造を示す。半導体レーザは一般的には200〜500μm程度の幅で作製されることが多く、アレイ型の波長可変レーザ光源も200〜500μm幅の半導体ゲインチップをアレイ状に作製し、各ゲインチップの上部に波長可変フィルタを集積することで実現する。波長可変フィルタもSiのウエハプロセスで作製できるため、アレイ状に作製することは容易であり、アレイ型波長可変フィルタ71とアレイ型半導体ゲインチップを1度の貼り合わせで作製してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1:Si基板、
2:SiO2膜、
3:Siスペーサ、
4:無反射膜、
5:上部透明電極、
6:上部高反射膜、
7:ギャップ部分(=Lgap)、
8:下部高反射膜、
9:下部透明電極、
10:Siスペーサ、
11:金属の斜め反射鏡、
12:稼動部、
13:電極パッド部、
14:上部電極部、
15:下部電極部、
20:波長可変フィルタ、
21:半導体ゲインチップ、
22:サブマウント、
31:半絶縁InP基板、
32:集積レンズ、
33:斜め反射鏡、
34:n-InP、
35:p-InP、
36:利得部、
37:位相部、
38:分布型反射鏡、
39:p型電極、
40:n型電極、
41:無反射膜、
42:レーザ出射光、
43:共振器内伝播光、
44:SOA部(半導体増幅器)、
45:変調器部、
46:メサ、
50:低反射膜、
51:nガイド層、
52:多重量子井戸、
53:pガイド層、
54:絶縁膜、
55:コンタクト層、
61:斜め反射鏡の角度(=θ)、
62:レンズ入射角(=90−2θ)、
63:Siスペーサ層厚さ(=L2)、
64:波長可変フィルタ入射面、
65:波長可変フィルタ入射角、
66:透過光、
67:反射戻り光、
71:波長可変フィルタアレイ、
72:45°斜め反射鏡、
73:グランド電極、
74:エタロンフィルタ、
75:Si基板、
76:液晶、
77:反射膜、
78:スペーサ、
79:反射膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高反射膜と透明電極とが積層された積層基板の2枚が、前記高反射膜を対向させて所定の距離を保持しながらそれぞれ互いに平行に配置されたエタロンフィルタと、
前記積層基板の一方の外側に、前記積層基板の表面に対して所定の角度で傾斜を有する金属膜で覆われ、前記積層基板から放出される光を前記積層基板の方向に反射し戻すように配置された反射鏡を具備する基板と、を有し、
前記透明電極間に電圧を印加し前記積層基板間に静電力を発生させることによって、前記積層基板間の距離を変化させ、該距離の変化により前記エタロンフィルタを透過する光の波長を変化させることを特徴とする波長可変フィルタ。
【請求項2】
前記対向する高反射膜との間はエアで充填されていることを特徴とする請求項1記載の波長可変フィルタ。
【請求項3】
前記積層基板間の距離の変動量を該積層基板間の静電容量の変化量を用いて検出する距離変動量検出手段を有し、
前記透明電極間に印加する電圧印加以外の外部環境の影響を受けて前記積層基板間の距離が変動した場合の変動量を、前記距離変動量検出手段を用いて検出し、
該変動量に応じて前記透明電極間に印加する電圧の大きさを帰還制御することで前記エタロンフィルタを透過する波長を所定の変動範囲に保持することを特徴とする請求項1項記載の波長可変フィルタ。
【請求項4】
前記積層基板間近傍に温度測定手段を有し、
該温度測定手段で得られた温度変化量から、該積層基板間の距離の変動量を算出し、
該算出された変動量に応じて前記透明電極間に印加する電圧の大きさを帰還制御することで前記エタロンフィルタを透過する波長を所定の変動範囲に保持することを特徴とする請求項1項記載の波長可変フィルタ。
【請求項5】
レーザ発振波長において利得を持つ基板上に設けられたゲイン部と、屈折率を変化させることによって位相を調整制御する位相部と、前記ゲイン部から発光される光を前記基板表面に対して垂直に出射させる斜め反射鏡および前記斜め反射鏡の上方に設けられた凸レンズとを具備してなる半導体ゲインチップと、
前記斜め反射鏡から出射され前記凸レンズで集光された光が通過できる位置に配置された波長可変フィルタと、を有し、
前記波長可変フィルタは、高反射膜と透明電極とが積層された積層基板の2枚が、前記高反射膜を対向させて所定の距離を保持しながらそれぞれ互いに平行に配置されたエタロンフィルタと、
前記積層基板の一方の外側に、前記積層基板の表面に対して所定の角度で傾斜を有する金属膜で覆われ、前記積層基板から放出される光を前記積層基板の方向に反射し戻すように配置された反射鏡を具備する基板と、を含み、
前記波長可変フィルタが有する前記反射鏡と前記半導体ゲインチップに設けられた前記斜め反射鏡とでレーザ共振器構造が構成され、
前記波長可変フィルタの反射波長を変えることで、レーザ利得が得られる範囲の波長でレーザ発振させることを特徴とする波長可変レーザ光源。
【請求項6】
前記斜め反射鏡は、前記ゲイン部が設けられた基板表面に対して、45°±α(但しα≠0)の角度の反射面を有することを特徴とする請求項5記載の波長可変レーザ光源。
【請求項7】
レーザ発振波長において利得を持つ基板上に設けられたゲイン部と、屈折率を変化させることによって位相を調整制御する位相部と、レーザ発振波長に複数の反射ピークを有する分布型反射鏡と、前記分布型反射鏡が配置された前記半導体ゲインチップの一端面に対向する他端面に設けられ、前記ゲイン部から発光される光を前記基板表面に対して垂直に出射させる斜め反射鏡と、前記斜め反射鏡の上方に設けられた凸レンズと、を具備してなる半導体ゲインチップと、
前記斜め反射鏡から出射され前記凸レンズで集光された光が通過できる位置に配置された波長可変フィルタと、を有し、
前記波長可変フィルタは、高反射膜と透明電極とが積層された積層基板の2枚が、前記高反射膜を対向させて所定の距離を保持しながらそれぞれ互いに平行に配置されたエタロンフィルタと、
前記積層基板の一方の外側に、前記積層基板の表面に対して所定の角度で傾斜を有する金属膜で覆われ、前記積層基板から放出される光を前記積層基板の方向に反射し戻すように配置された反射鏡を具備する基板と、を含み、
前記波長可変フィルタが有する反射鏡と前記半導体ゲインチップが有する分布型反射鏡とでレーザ共振器構造が構成され、
前記波長可変フィルタの反射波長と前記分布型反射鏡のピーク波長を一致させることにより、レーザ利得が得られる範囲の波長でレーザ発振させることを特徴とする波長可変レーザ光源。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか一つに記載の波長可変レーザ光源において、
前記斜め反射鏡が設けられている前記半導体ゲインチップの一側面側と対向する他側面側の同一基板上に光変調器が設けられ、もしくは、前記他側面側に光変調器がモノリシック集積されていることを特徴とする波長可変レーザ光源。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれか一つに記載の波長可変レーザ光源をアレイ状に配置したことを特徴とする波長可変レーザ光源。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−221345(P2011−221345A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91382(P2010−91382)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】