液体噴射ヘッド、液体噴射装置、及び圧電素子
【課題】環境負荷が小さく且つクラックの発生が抑制された液体噴射ヘッド、液体噴射装置、及び圧電素子を提供する。
【解決手段】弾性膜50、密着層56、第1電極60、圧電体層70、及び第2電極80を備えた圧電素子300を具備し、圧電体層70は、少なくともビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物からなり、チタンとバリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下である。
【解決手段】弾性膜50、密着層56、第1電極60、圧電体層70、及び第2電極80を備えた圧電素子300を具備し、圧電体層70は、少なくともビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物からなり、チタンとバリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電材料からなる圧電体層及び電極を有する圧電素子を具備し、ノズル開口
から液滴を吐出させる液体噴射ヘッド、液体噴射装置、及び圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子としては、電気的機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、結晶化した誘電材料からなる圧電体層を、2つの電極で挟んで構成されたものがある。このような圧電素子は、例えば撓み振動モードのアクチュエーター装置として液体噴射ヘッドに搭載される。ここで、液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。
【0003】
このような圧電素子を構成する圧電体層として用いられる圧電材料には高い圧電特性が求められており、圧電材料の代表例として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が挙げられる(特許文献1参照)。しかしながら、チタン酸ジルコン酸鉛には鉛が含まれており、環境問題の観点から、鉛を含有しない圧電材料が求められている。そこで、鉛を含有しない圧電材料としてビスマス系の圧電材料、例えば、ビスマス及び鉄を含む鉄酸ビスマス系(BiFeO3系)のペロブスカイト型構造を有する圧電材料が提案されている。具体例としては、BiFeO3(鉄酸ビスマス)とBaTiO3(チタン酸バリウム)との混晶として表される複合酸化物がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−223404号公報
【特許文献2】特開2010−16010号公報(請求項7等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、鉄酸ビスマス系のペロブスカイト型構造を有する圧電材料は、従来のPZT系の材料と比較してクラックが発生しやすく、実用化が困難であった。
【0006】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドだけではなく、勿論、インク以外の液滴を吐出する他の液体噴射ヘッドにおいても同様に存在し、また、液体噴射ヘッド以外に用いられる圧電素子においても同様に存在する。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、環境負荷が小さく且つクラックの発生を抑制した液体噴射ヘッド、液体噴射装置、及び圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、圧電体層と、前記圧電体層に設けられた電極と、を具備する圧電素子を備えた液体噴射ヘッドであって、前記圧電体層は、少なくともビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物からなり、前記チタンと前記バリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下であることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、圧電体層は、Ti/Baが1.17以上1.45以下である複合酸化物からなるものとすることにより、圧電素子のクラックの発生が抑制されたものとなる。さらに、鉛の含有量を抑えられるため、環境への負荷を低減することができる。
【0009】
前記複合酸化物は、前記ビスマスと前記バリウムのモル比(Bi/Ba)が2.3以上4.0以下であるのが好ましい。これによれば、さらに圧電素子のクラックの発生が抑制されたものとなる。
【0010】
前記複合酸化物は、マンガンをさらに含むのが好ましい。これによれば、リーク特性に優れた圧電体層とすることができる。
【0011】
本発明の他の態様は、上記液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、鉛の含有量が少なく、環境への負荷を低減し且つクラックの発生を抑制した圧電素子を具備するため、環境への負荷を低減し且つ信頼性に優れた液体噴射装置を実現することができる。
【0012】
本発明の他の態様は、圧電体層と、前記圧電体層に設けられた電極と、を具備し、前記圧電体層は、少なくともビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物からなり、前記チタンと前記バリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下であることを特徴とする圧電素子にある。
かかる態様では、圧電体層は、ビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物において、Ti/Baが1.17以上1.45以下である複合酸化物からなるものとすることにより、クラックの発生が抑制された圧電素子となる。さらに、鉛の含有量を抑えられるため、環境への負荷を低減することができる。
【0013】
前記複合酸化物は、前記ビスマスと前記バリウムのモル比(Bi/Ba)が2.3以上4.0以下であるのが好ましい。これによれば、さらにクラックの発生が抑制された圧電素子となる。
【0014】
前記複合酸化物は、マンガンをさらに含むのが好ましい。これによれば、リーク特性に優れた圧電体層とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図8】実施例のXRD測定結果を示すグラフ。
【図9】実施例のXRD測定結果を示すグラフ。
【図10】各実施例及び各比較例の圧電体層の表面を金属顕微鏡により観察した写真。
【図11】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′線断面図である。
【0017】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には、振動板を構成する二酸化シリコンからなる厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0018】
流路形成基板10には、一方の面とは反対側の面となる他方面側から異方性エッチングすることにより、圧力発生室12が形成されている。そして、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が同じ色のインクを吐出する複数のノズル開口21が並設される方向に沿って並設されている。以降、この方向を圧力発生室12の並設方向、又は第1方向と称し、これと直交する方向を第2方向と称する。また、流路形成基板10の圧力発生室12の第2方向の一端部側には、インク供給路14と連通路15とが隔壁11によって区画されている。また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるマニホールド100の一部を構成する連通部13が形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13からなる液体流路が設けられている。
【0019】
インク供給路14は、圧力発生室12の第2方向一端部側に連通し且つ圧力発生室12より小さい断面積を有する。例えば、本実施形態では、インク供給路14は、マニホールド100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。なお、このように、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。さらに、各連通路15は、インク供給路14の圧力発生室12とは反対側に連通し、インク供給路14の幅方向(第1方向)より大きい断面積を有する。本実施形態では、連通路15を圧力発生室12と幅方向(第1方向)の断面積が同じとなるように形成した。
【0020】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0021】
一方、図2(b)に示すように、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば厚さ30〜50nm程度の酸化チタン等からなり、弾性膜50等の第1電極60の下地との密着性を向上させるための密着層56が設けられている。本実施形態においては、密着層56として酸化チタンを用いたが、密着層56の材質は第1電極60とその下地の種類等により異なるが、例えば、ジルコニウム、アルミニウムを含む酸化物や窒化物や、SiO2、MgO、CeO2等とすることができる。なお、弾性膜50上に、必要に応じて酸化ジルコニウム等からなる絶縁体膜が設けられていてもよい。
【0022】
さらに密着層56上には、第1電極60と、第1電極60の上方に設けられて厚さが3μm以下、好ましくは0.3〜1.5μmの薄膜である圧電体層70と、圧電体層70の上方に設けられた第2電極80とが、積層形成されて、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段としての圧電素子300を構成している。なお、ここでいう上方とは、直上も、間に他の部材が介在した状態も含むものである。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、変位可能に設けられた圧電素子300をアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、密着層56及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び密着層56を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0023】
そして、圧電体層70は、少なくともビスマス(Bi)、バリウム(Ba)、鉄(Fe)、及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなり、チタンとバリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下である。上述した組成比からなる複合酸化物とすることにより、圧電体層70は粒径が微細化してより均一な緻密膜となる。これにより、クラックの発生を抑制できる。なお、Ti/Baが1.17未満の場合や、Ti/Baが1.45より大きい場合は、クラックの発生を抑制する効果は確認できなかった。
【0024】
また、上述した複合酸化物は、ビスマスとバリウムのモル比(Bi/Ba)が2.3以上4.0以下であるのが好ましい。これにより、よりクラックの発生を抑制することができる。
【0025】
ここで、複合酸化物は、上述したように、ペロブスカイト型構造、すなわち、ABO3型構造であり、この構造のAサイトは酸素が12配位しており、また、Bサイトは酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。そして、このペロブスカイト構造のAサイトにビスマス及びバリウムを含み、Bサイトに、鉄及びチタンを含んでいる。
【0026】
本実施形態にかかる複合酸化物は、例えば、ビスマス及びバリウムの総モル量と、鉄及びチタンの総モル量との比(Bi+Ba):(Fe+Ti)=1:1のものが挙げられるが、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。そして、上述した通り、チタンとバリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下である。また、ビスマスとバリウムのモル比(Bi/Ba)は、例えば、2.3以上4.0以下であるのが好ましい。このようなペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる圧電体層70の組成は、例えば、下記一般式で表すことができる。ここで、一般式(1)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。
【0027】
(Bi1−a,Baa)(Fe1−b,Tib)O3 (1)
式(1)において、a及びbの値は、b/aが1.17以上1.45以下を満たすものであればよく、(1−a)/aが2.3以上4.0以下を満たすものであるのが好ましい。
【0028】
また、圧電体層70を構成する複合酸化物は、所望の特性を向上させるためにBi、Fe、Ba及びTi以外の元素を含んでいてもよい。他の元素としては、例えば、Mn、Coが挙げられ、Mn及びCoのいずれも含むものであってもよい。勿論、他の元素を含む複合酸化物である場合も、ペロブスカイト構造を有する必要がある。
【0029】
圧電体層70が、MnやCoを含む場合、MnやCoはBサイトに位置し、MnやCoが上記Bサイトに存在するFeの一部を置換した構造の複合酸化物であると推測される。例えば、Mnを含む場合、圧電体層70を構成する複合酸化物は、基本的な特性はBi、Fe、Ba及びTiからなるペロブスカイト構造を有する複合酸化物と同じであるが、リーク特性が向上するものである。具体的には、リークの発生が抑制される。また、Coを含む場合も、Mn同様にリーク特性が向上するものである。また、Mn及びCoを例として説明したが、その他Cr、Ni、Cu等の遷移金属元素を含む場合や、前記の遷移元素を2種以上同時に含む場合にも同様にリーク特性が向上することがわかっており、これらも圧電体層70とすることができ、さらに、特性を向上させるため公知のその他の添加物を含んでもよい。
【0030】
かかる複合酸化物の場合は、例えば、Aサイト元素の総モル量と、Bサイト元素の総モル量との比(Aサイト元素の総モル量):(Bサイト元素の総モル量)=1:1のものが挙げられるが、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。このようなBi、Fe、Ba及びTiに加えて、Mn、Co、及びその他の遷移金属元素のうち1以上を含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる圧電体層70は、例えば、下記一般式(2)で表される混晶である。なお一般式(2)において、Mは、Mn、Co、Cr、Ni、Cu等の遷移金属元素である。ここで、一般式(2)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による組成ずれは許容される。
【0031】
(Bi1−a,Baa)(Fe1−b−c,Mc,Tib)O3 (2)
式(2)において、a及びbの値は、b/aが1.17以上1.45以下を満たすものであればよく、(1−a)/aが2.3以上4.0以下を満たすものであるのが好ましい。また、cは、0以上0.09以下であり、好ましくは0.01以上0.05以下であるのが好ましい。
【0032】
また、圧電体層70は、ペロブスカイト型構造を有するその他の化合物、例えば、Bi(Zn,Ti)O3、(Bi,K)TiO3、(Bi,Na)TiO3、(Li,Na,K)(Ta,Nb)O3等を含有していてもよい。
【0033】
本実施形態では、圧電体層70は、ビスマス、バリウム、鉄、マンガン及びチタンを含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなり、下記一般式(3)で表されるものとした。ただし、一般式(3)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、ペロブスカイト構造を取り得る限り、元素拡散、格子不整合、酸素欠損等による組成ずれは許容される。
【0034】
(Bi1−a,Baa)(Fe1−b−c,Mnc,Tib)O3 (3)
式(3)において、a及びbの値は、b/aが1.17以上1.45以下を満たすものであればよく、(1−a)/aが2.3以上4.0以下を満たすものであるのが好ましい。また、cは、0以上0.09以下であり、好ましくは0.01以上0.05以下であるのが好ましい。
【0035】
なお、本実施形態の圧電体層70は、(110)面、(100)面、(111)面のいずれに配向していてもよく、特に限定されるものではない。
【0036】
このような圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、弾性膜50上や必要に応じて設ける絶縁体膜上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0037】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、弾性膜50や必要に応じて設ける絶縁体膜及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。上述した例では、マニホールド部31及び連通部13がマニホールド100として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。また、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、必要に応じて設ける絶縁体膜等)にマニホールド100と各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0038】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0039】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0040】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0041】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0042】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0043】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0044】
次に、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法の一例について、図3〜図7を参照して説明する。なお、図3〜図7は、圧力発生室の長手方向(第2方向)の断面図である。
【0045】
まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)等からなる二酸化シリコン膜を熱酸化等で形成する。次いで、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコ
ン膜)上に、酸化チタン等からなる密着層56を、スパッタリング法や熱酸化法等を用い
て形成する。
【0046】
次に、図4(a)に示すように、密着層56上の全面に亘って第1電極60を形成する。具体的には、密着層56上に、スパッタリング法や蒸着法により、例えば、白金、イリジウム、酸化イリジウム又はこれらの積層構造等からなる白金からなる第1電極60を形成する。次に、図4(b)に示すように、第1電極60上に所定形状のレジスト(図示無し)をマスクとして、密着層56及び第1電極60の側面が傾斜するように同時にパターニングする。
【0047】
次いで、レジストを剥離した後、第1電極60上(及び密着層56)に、圧電体層70を積層する。
【0048】
圧電体層70の製造方法は特に限定されないが、例えば、Bi,Fe,Mn,Ba,Tiを含む金属錯体を溶媒に溶解・分散した溶液を塗布乾燥し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層(圧電体膜)を得るMOD(Metal−Organic Decomposition)法やゾル−ゲル法等の化学溶液法を用いることができる。その他、スパッタリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD法、エアロゾル・デポジション法など、液相法でも固相法でも気相法でも圧電体層70を製造することができる。
【0049】
なお、本実施形態では、MOD法やゾル−ゲル法等の化学溶液法を用いて、圧電体層70を製造した。具体的には、まず、図4(c)に示すように、第1電極60上に、金属錯体、具体的には、Bi,Fe,Mn,Ba,Tiを含有する金属錯体を、所定の割合で含むゾルやMOD溶液(前駆体溶液)をスピンコート法などを用いて、塗布して圧電体前駆体膜71を形成する(塗布工程)。
【0050】
本実施形態のように、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム、及びチタンを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物からなる圧電体層70を形成する場合は、塗布する前駆体溶液は、焼成によりビスマス、鉄、マンガン、バリウム、及びチタンを含む複合酸化物を形成しうる金属錯体混合物を、有機溶媒に溶解または分散させたものである。かかる金属錯体混合物は、複合酸化物を構成する金属のうち一以上の金属を含む金属錯体の混合物であり、Bi,Fe,Mn,Ba,Tiの各金属が所望のモル比となるように、具体的には、チタンとバリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下であり、好ましくはビスマスとバリウムのモル比(Bi/Ba)が2.3以上4.0以下となるように、金属錯体が混合されている。すなわち、本実施形態では、Bi,Fe,Mn,Ba,Tiをそれぞれ含む金属錯体の混合割合は、Bi,Fe,Mn,Ba,Tiの各金属が所望の組成比を満たす複合酸化物となるような割合となるようにする。
【0051】
Bi,Fe,Mn,Ba,Tiをそれぞれ含む金属錯体としては、例えば、アルコキシド、有機酸塩、βジケトン錯体などを用いることができる。Biを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸ビスマス、酢酸ビスマスなどが挙げられる。Feを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸鉄、酢酸鉄などが挙げられる。Mnを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸マンガン、酢酸マンガンなどが挙げられる。Baを含む金属錯体としては、例えばバリウムイソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸バリウム、バリウムアセチルアセトナートなどが挙げられる。Tiを含有する金属錯体としては、例えばチタニウムイソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸チタン、チタン(ジ−i−プロポキシド)ビス(アセチルアセトナート)などが挙げられる。勿論、Bi、Fe、Mn、Ba、Tiを二種以上含む金属錯体を用いてもよい。
【0052】
また、溶媒は、金属錯体混合物を溶解又は分散させるものであればよく、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、オクタン、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、ブタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸、水、等の様々な溶媒が挙げられる。勿論、これらを2種以上用いてもよい。
【0053】
次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度(例えば130〜200℃)に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度(例えば350〜450℃)に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。乾燥工程や脱脂工程の雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。なお、塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程を複数回行ってもよい。
【0054】
次に、図5(a)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度、例えば600〜850℃程度に加熱して、一定時間、例えば、1〜10分間保持することによって結晶化させ、ビスマス、バリウム、鉄、及びチタン、マンガンを含み、チタンとバリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下である複合酸化物からなる圧電体膜72を形成する(焼成工程)。この焼成工程においても、雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。
【0055】
乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置やホットプレート等が挙げられる。
【0056】
次いで、レジストを剥離した後、上述した塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程や、塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を所望の膜厚等に応じて複数回繰り返して複数の圧電体膜72を形成する。これにより、図5(b)に示すように複数層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70が形成される。なお、複数の圧電体膜72を形成する際には、塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を順に行って積層していってもよいが、塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程を繰り返し行った後、複数層をまとめて焼成するようにしてもよい。また、本実施形態では、圧電体膜72を積層して設けたが、1層のみでもよい。
【0057】
このように圧電体層70を形成した後は、図6(a)に示すように、圧電体層70上に白金等からなる第2電極80をスパッタリング法等で形成し、各圧力発生室12に対向する領域に圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングして、第1電極60と圧電体層70と第2電極80からなる圧電素子300を形成する。なお、圧電体層70と第2電極80とのパターニングでは、所定形状に形成したレジスト(図示なし)を介してドライエッチングすることにより一括して行うことができる。その後、必要に応じて、600℃〜800℃の温度域でポストアニールを行ってもよい。これにより、圧電体層70と第1電極60や第2電極80との良好な界面を形成することができ、かつ、圧電体層70の結晶性を改善することができる。
【0058】
次に、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングする。
【0059】
次に、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合した後に、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。
【0060】
次に、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、マスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0061】
そして、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0062】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面のマスク膜52を除去した後にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
【0063】
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1及び比較例1〜2)
まず、(110)に配向した単結晶シリコン基板の表面に熱酸化により膜厚1170nmの二酸化シリコン膜を形成した。次に、二酸化シリコン膜上にRFマグネトロンスパッタ法により膜厚20nmのチタン膜を形成し、熱酸化することで酸化チタン膜を形成した。次に、酸化チタン膜上にRFマグネトロンスパッタ法により膜厚130nmの白金膜を形成して第1電極60とした。
【0065】
また、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸チタン、2−エチルヘキサン酸マンガンのn−オクタン溶液を混合し、Bi:Ba:Fe:Ti:Mnのモル比が表1に示す組成比となるようにして、前駆体溶液を調整した。
【0066】
次いで、この前駆体溶液を酸化チタン膜及び第1電極60が形成された上記基板上に滴下し、500rpmで5秒間回転後、3000rpmで基板を20秒回転させてスピンコート法により圧電体前駆体膜を形成した(塗布工程)。次に、ホットプレート上に基板を載せ、180℃で3分間乾燥した(乾燥工程)。次いで、ホットプレート上に基板を載せ、350℃で3分間脱脂を行った(脱脂工程)。この塗布工程・乾燥及び脱脂工程からなる工程を3回繰り返した後に、酸素雰囲気中で、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置で700℃、5分間焼成を行った(焼成工程)。
【0067】
次いで、上記の工程を4回繰り返し、計12回の塗布により全体で厚さ880nmの圧電体層70を形成した。
【0068】
その後、圧電体層70上に、第2電極80としてDCスパッタ法により膜厚100nmの白金膜を形成した後、RTA装置を用いてO2フローのもと700℃で5分間焼成を行うことで、圧電素子を形成した。
【0069】
(実施例2及び比較例3〜5)
Bi:Ba:Fe:Ti:Mnのモル比が表1に示す組成比となるようにし、焼成温度を750℃として厚さ800nmの圧電体層70を形成した以外は実施例1と同様にして、圧電素子を形成した。
【0070】
(実施例3〜10及び比較例6)
Bi:Ba:Fe:Ti:Mnのモル比が表1に示す組成比となるようにし、焼成温度を800℃として厚さ850nmの圧電体層70を形成した以外は実施例1と同様にして、圧電素子を形成した。
【0071】
(実施例11及び比較例7〜9)
Bi:Ba:Fe:Ti:Mnのモル比が表1に示す組成比となるようにし、焼成温度を800℃として厚さ1080nmの圧電体層70を形成した以外は実施例1と同様にして、圧電素子を形成した。
【0072】
【表1】
【0073】
(試験例1)
各実施例及び各比較例の圧電素子について、Bruker AXS社製の「D8 Discover」を用い、X線源にCuKα線を使用し、室温で、圧電体層のX線回折パターンを求めた。実施例の回折強度−回折角2θの相関関係を示す図であるX線回折パターンの一例を、図8〜9に示す。
【0074】
この結果、各実施例及び各比較例の全てにおいて、ペロブスカイト型構造に起因するピークと、基板由来のピークが観測された。具体的には、ペロブスカイト型構造単相からなる圧電体層に起因する(100)のピークが23°付近に、シリコン基板に起因する(110)のピークが32°付近に、白金に起因する(111)のピークが40°付近に確認された。すなわち、図8に示すように、鉄(Fe)とチタン(Ti)の割合を変化させても異相は確認されず、図9に示すように、ビスマス(Bi)とバリウム(Ba)の割合を変化させても異相は確認されず、いずれの圧電体層もペロブスカイト単相であることがわかった。
【0075】
(試験例2)
実施例1〜11及び比較例1〜9において、第2電極80を形成していない状態の圧電体層70について、圧電体層70の形成後5日経過時のクラックの発生の有無を確認した。圧電体層の表面は500倍の金属顕微鏡により観察した。結果を表2に示す。また、結果の一例として、比較例7の結果を図10(a)、比較例5の結果を図10(b)、実施例8の結果を図10(c)、実施例3の結果を図10(d)、実施例10の結果を図10(e)、実施例9の結果を図10(f)に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
この結果、Ti/Baが1.17以上1.45以下である実施例1〜11は、膜厚を比較的厚い800nm以上としても、クラックの発生は確認されなかった。
【0078】
これに対し、Ti/Baが1.00〜1.15である比較例1,3〜5及び7〜9は、クラックが発生していた。また、Ti/Baが1.63以上である比較例2及び6についても同様に、クラックが発生していた。
【0079】
以上より、Ti/Baが1.17以上1.45以下となるようにすることにより、クラックの発生を抑制することができることがわかった。
【0080】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0081】
さらに、上述した実施形態では、基板(流路形成基板10)上に第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を順次積層した圧電素子300を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子にも本発明を適用することができる。
【0082】
また、これら実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図11は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0083】
図11に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0084】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0085】
なお、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0086】
また、本発明にかかる圧電素子は、液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子に限定されず、その他のデバイスにも用いることができる。その他のデバイスとしては、例えば、超音波発信器等の超音波デバイス、超音波モーター、温度−電気変換器、圧力−電気変換器、強誘電体トランジスター、圧電トランス、赤外線等の有害光線の遮断フィルター、量子ドット形成によるフォトニック結晶効果を使用した光学フィルター、薄膜の光干渉を利用した光学フィルター等のフィルターなどが挙げられる。また、センサーとして用いられる圧電素子、強誘電体メモリーとして用いられる圧電素子にも本発明は適用可能である。圧電素子が用いられるセンサーとしては、例えば、赤外線センサー、超音波センサー、感熱センサー、圧力センサー、焦電センサー、及びジャイロセンサー(角速度センサー)等が挙げられる。
【符号の説明】
【0087】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 マニホールド部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 マニホールド、 120 駆動回路、 300 圧電素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電材料からなる圧電体層及び電極を有する圧電素子を具備し、ノズル開口
から液滴を吐出させる液体噴射ヘッド、液体噴射装置、及び圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子としては、電気的機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、結晶化した誘電材料からなる圧電体層を、2つの電極で挟んで構成されたものがある。このような圧電素子は、例えば撓み振動モードのアクチュエーター装置として液体噴射ヘッドに搭載される。ここで、液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。
【0003】
このような圧電素子を構成する圧電体層として用いられる圧電材料には高い圧電特性が求められており、圧電材料の代表例として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が挙げられる(特許文献1参照)。しかしながら、チタン酸ジルコン酸鉛には鉛が含まれており、環境問題の観点から、鉛を含有しない圧電材料が求められている。そこで、鉛を含有しない圧電材料としてビスマス系の圧電材料、例えば、ビスマス及び鉄を含む鉄酸ビスマス系(BiFeO3系)のペロブスカイト型構造を有する圧電材料が提案されている。具体例としては、BiFeO3(鉄酸ビスマス)とBaTiO3(チタン酸バリウム)との混晶として表される複合酸化物がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−223404号公報
【特許文献2】特開2010−16010号公報(請求項7等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、鉄酸ビスマス系のペロブスカイト型構造を有する圧電材料は、従来のPZT系の材料と比較してクラックが発生しやすく、実用化が困難であった。
【0006】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドだけではなく、勿論、インク以外の液滴を吐出する他の液体噴射ヘッドにおいても同様に存在し、また、液体噴射ヘッド以外に用いられる圧電素子においても同様に存在する。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、環境負荷が小さく且つクラックの発生を抑制した液体噴射ヘッド、液体噴射装置、及び圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、圧電体層と、前記圧電体層に設けられた電極と、を具備する圧電素子を備えた液体噴射ヘッドであって、前記圧電体層は、少なくともビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物からなり、前記チタンと前記バリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下であることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、圧電体層は、Ti/Baが1.17以上1.45以下である複合酸化物からなるものとすることにより、圧電素子のクラックの発生が抑制されたものとなる。さらに、鉛の含有量を抑えられるため、環境への負荷を低減することができる。
【0009】
前記複合酸化物は、前記ビスマスと前記バリウムのモル比(Bi/Ba)が2.3以上4.0以下であるのが好ましい。これによれば、さらに圧電素子のクラックの発生が抑制されたものとなる。
【0010】
前記複合酸化物は、マンガンをさらに含むのが好ましい。これによれば、リーク特性に優れた圧電体層とすることができる。
【0011】
本発明の他の態様は、上記液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、鉛の含有量が少なく、環境への負荷を低減し且つクラックの発生を抑制した圧電素子を具備するため、環境への負荷を低減し且つ信頼性に優れた液体噴射装置を実現することができる。
【0012】
本発明の他の態様は、圧電体層と、前記圧電体層に設けられた電極と、を具備し、前記圧電体層は、少なくともビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物からなり、前記チタンと前記バリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下であることを特徴とする圧電素子にある。
かかる態様では、圧電体層は、ビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物において、Ti/Baが1.17以上1.45以下である複合酸化物からなるものとすることにより、クラックの発生が抑制された圧電素子となる。さらに、鉛の含有量を抑えられるため、環境への負荷を低減することができる。
【0013】
前記複合酸化物は、前記ビスマスと前記バリウムのモル比(Bi/Ba)が2.3以上4.0以下であるのが好ましい。これによれば、さらにクラックの発生が抑制された圧電素子となる。
【0014】
前記複合酸化物は、マンガンをさらに含むのが好ましい。これによれば、リーク特性に優れた圧電体層とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図8】実施例のXRD測定結果を示すグラフ。
【図9】実施例のXRD測定結果を示すグラフ。
【図10】各実施例及び各比較例の圧電体層の表面を金属顕微鏡により観察した写真。
【図11】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′線断面図である。
【0017】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には、振動板を構成する二酸化シリコンからなる厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0018】
流路形成基板10には、一方の面とは反対側の面となる他方面側から異方性エッチングすることにより、圧力発生室12が形成されている。そして、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が同じ色のインクを吐出する複数のノズル開口21が並設される方向に沿って並設されている。以降、この方向を圧力発生室12の並設方向、又は第1方向と称し、これと直交する方向を第2方向と称する。また、流路形成基板10の圧力発生室12の第2方向の一端部側には、インク供給路14と連通路15とが隔壁11によって区画されている。また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるマニホールド100の一部を構成する連通部13が形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13からなる液体流路が設けられている。
【0019】
インク供給路14は、圧力発生室12の第2方向一端部側に連通し且つ圧力発生室12より小さい断面積を有する。例えば、本実施形態では、インク供給路14は、マニホールド100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。なお、このように、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。さらに、各連通路15は、インク供給路14の圧力発生室12とは反対側に連通し、インク供給路14の幅方向(第1方向)より大きい断面積を有する。本実施形態では、連通路15を圧力発生室12と幅方向(第1方向)の断面積が同じとなるように形成した。
【0020】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0021】
一方、図2(b)に示すように、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば厚さ30〜50nm程度の酸化チタン等からなり、弾性膜50等の第1電極60の下地との密着性を向上させるための密着層56が設けられている。本実施形態においては、密着層56として酸化チタンを用いたが、密着層56の材質は第1電極60とその下地の種類等により異なるが、例えば、ジルコニウム、アルミニウムを含む酸化物や窒化物や、SiO2、MgO、CeO2等とすることができる。なお、弾性膜50上に、必要に応じて酸化ジルコニウム等からなる絶縁体膜が設けられていてもよい。
【0022】
さらに密着層56上には、第1電極60と、第1電極60の上方に設けられて厚さが3μm以下、好ましくは0.3〜1.5μmの薄膜である圧電体層70と、圧電体層70の上方に設けられた第2電極80とが、積層形成されて、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段としての圧電素子300を構成している。なお、ここでいう上方とは、直上も、間に他の部材が介在した状態も含むものである。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、変位可能に設けられた圧電素子300をアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、密着層56及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び密着層56を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0023】
そして、圧電体層70は、少なくともビスマス(Bi)、バリウム(Ba)、鉄(Fe)、及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなり、チタンとバリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下である。上述した組成比からなる複合酸化物とすることにより、圧電体層70は粒径が微細化してより均一な緻密膜となる。これにより、クラックの発生を抑制できる。なお、Ti/Baが1.17未満の場合や、Ti/Baが1.45より大きい場合は、クラックの発生を抑制する効果は確認できなかった。
【0024】
また、上述した複合酸化物は、ビスマスとバリウムのモル比(Bi/Ba)が2.3以上4.0以下であるのが好ましい。これにより、よりクラックの発生を抑制することができる。
【0025】
ここで、複合酸化物は、上述したように、ペロブスカイト型構造、すなわち、ABO3型構造であり、この構造のAサイトは酸素が12配位しており、また、Bサイトは酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。そして、このペロブスカイト構造のAサイトにビスマス及びバリウムを含み、Bサイトに、鉄及びチタンを含んでいる。
【0026】
本実施形態にかかる複合酸化物は、例えば、ビスマス及びバリウムの総モル量と、鉄及びチタンの総モル量との比(Bi+Ba):(Fe+Ti)=1:1のものが挙げられるが、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。そして、上述した通り、チタンとバリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下である。また、ビスマスとバリウムのモル比(Bi/Ba)は、例えば、2.3以上4.0以下であるのが好ましい。このようなペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる圧電体層70の組成は、例えば、下記一般式で表すことができる。ここで、一般式(1)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。
【0027】
(Bi1−a,Baa)(Fe1−b,Tib)O3 (1)
式(1)において、a及びbの値は、b/aが1.17以上1.45以下を満たすものであればよく、(1−a)/aが2.3以上4.0以下を満たすものであるのが好ましい。
【0028】
また、圧電体層70を構成する複合酸化物は、所望の特性を向上させるためにBi、Fe、Ba及びTi以外の元素を含んでいてもよい。他の元素としては、例えば、Mn、Coが挙げられ、Mn及びCoのいずれも含むものであってもよい。勿論、他の元素を含む複合酸化物である場合も、ペロブスカイト構造を有する必要がある。
【0029】
圧電体層70が、MnやCoを含む場合、MnやCoはBサイトに位置し、MnやCoが上記Bサイトに存在するFeの一部を置換した構造の複合酸化物であると推測される。例えば、Mnを含む場合、圧電体層70を構成する複合酸化物は、基本的な特性はBi、Fe、Ba及びTiからなるペロブスカイト構造を有する複合酸化物と同じであるが、リーク特性が向上するものである。具体的には、リークの発生が抑制される。また、Coを含む場合も、Mn同様にリーク特性が向上するものである。また、Mn及びCoを例として説明したが、その他Cr、Ni、Cu等の遷移金属元素を含む場合や、前記の遷移元素を2種以上同時に含む場合にも同様にリーク特性が向上することがわかっており、これらも圧電体層70とすることができ、さらに、特性を向上させるため公知のその他の添加物を含んでもよい。
【0030】
かかる複合酸化物の場合は、例えば、Aサイト元素の総モル量と、Bサイト元素の総モル量との比(Aサイト元素の総モル量):(Bサイト元素の総モル量)=1:1のものが挙げられるが、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。このようなBi、Fe、Ba及びTiに加えて、Mn、Co、及びその他の遷移金属元素のうち1以上を含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる圧電体層70は、例えば、下記一般式(2)で表される混晶である。なお一般式(2)において、Mは、Mn、Co、Cr、Ni、Cu等の遷移金属元素である。ここで、一般式(2)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による組成ずれは許容される。
【0031】
(Bi1−a,Baa)(Fe1−b−c,Mc,Tib)O3 (2)
式(2)において、a及びbの値は、b/aが1.17以上1.45以下を満たすものであればよく、(1−a)/aが2.3以上4.0以下を満たすものであるのが好ましい。また、cは、0以上0.09以下であり、好ましくは0.01以上0.05以下であるのが好ましい。
【0032】
また、圧電体層70は、ペロブスカイト型構造を有するその他の化合物、例えば、Bi(Zn,Ti)O3、(Bi,K)TiO3、(Bi,Na)TiO3、(Li,Na,K)(Ta,Nb)O3等を含有していてもよい。
【0033】
本実施形態では、圧電体層70は、ビスマス、バリウム、鉄、マンガン及びチタンを含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなり、下記一般式(3)で表されるものとした。ただし、一般式(3)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、ペロブスカイト構造を取り得る限り、元素拡散、格子不整合、酸素欠損等による組成ずれは許容される。
【0034】
(Bi1−a,Baa)(Fe1−b−c,Mnc,Tib)O3 (3)
式(3)において、a及びbの値は、b/aが1.17以上1.45以下を満たすものであればよく、(1−a)/aが2.3以上4.0以下を満たすものであるのが好ましい。また、cは、0以上0.09以下であり、好ましくは0.01以上0.05以下であるのが好ましい。
【0035】
なお、本実施形態の圧電体層70は、(110)面、(100)面、(111)面のいずれに配向していてもよく、特に限定されるものではない。
【0036】
このような圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、弾性膜50上や必要に応じて設ける絶縁体膜上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0037】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、弾性膜50や必要に応じて設ける絶縁体膜及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。上述した例では、マニホールド部31及び連通部13がマニホールド100として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。また、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、必要に応じて設ける絶縁体膜等)にマニホールド100と各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0038】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0039】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0040】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0041】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0042】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0043】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0044】
次に、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法の一例について、図3〜図7を参照して説明する。なお、図3〜図7は、圧力発生室の長手方向(第2方向)の断面図である。
【0045】
まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)等からなる二酸化シリコン膜を熱酸化等で形成する。次いで、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコ
ン膜)上に、酸化チタン等からなる密着層56を、スパッタリング法や熱酸化法等を用い
て形成する。
【0046】
次に、図4(a)に示すように、密着層56上の全面に亘って第1電極60を形成する。具体的には、密着層56上に、スパッタリング法や蒸着法により、例えば、白金、イリジウム、酸化イリジウム又はこれらの積層構造等からなる白金からなる第1電極60を形成する。次に、図4(b)に示すように、第1電極60上に所定形状のレジスト(図示無し)をマスクとして、密着層56及び第1電極60の側面が傾斜するように同時にパターニングする。
【0047】
次いで、レジストを剥離した後、第1電極60上(及び密着層56)に、圧電体層70を積層する。
【0048】
圧電体層70の製造方法は特に限定されないが、例えば、Bi,Fe,Mn,Ba,Tiを含む金属錯体を溶媒に溶解・分散した溶液を塗布乾燥し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層(圧電体膜)を得るMOD(Metal−Organic Decomposition)法やゾル−ゲル法等の化学溶液法を用いることができる。その他、スパッタリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD法、エアロゾル・デポジション法など、液相法でも固相法でも気相法でも圧電体層70を製造することができる。
【0049】
なお、本実施形態では、MOD法やゾル−ゲル法等の化学溶液法を用いて、圧電体層70を製造した。具体的には、まず、図4(c)に示すように、第1電極60上に、金属錯体、具体的には、Bi,Fe,Mn,Ba,Tiを含有する金属錯体を、所定の割合で含むゾルやMOD溶液(前駆体溶液)をスピンコート法などを用いて、塗布して圧電体前駆体膜71を形成する(塗布工程)。
【0050】
本実施形態のように、ビスマス、鉄、マンガン、バリウム、及びチタンを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物からなる圧電体層70を形成する場合は、塗布する前駆体溶液は、焼成によりビスマス、鉄、マンガン、バリウム、及びチタンを含む複合酸化物を形成しうる金属錯体混合物を、有機溶媒に溶解または分散させたものである。かかる金属錯体混合物は、複合酸化物を構成する金属のうち一以上の金属を含む金属錯体の混合物であり、Bi,Fe,Mn,Ba,Tiの各金属が所望のモル比となるように、具体的には、チタンとバリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下であり、好ましくはビスマスとバリウムのモル比(Bi/Ba)が2.3以上4.0以下となるように、金属錯体が混合されている。すなわち、本実施形態では、Bi,Fe,Mn,Ba,Tiをそれぞれ含む金属錯体の混合割合は、Bi,Fe,Mn,Ba,Tiの各金属が所望の組成比を満たす複合酸化物となるような割合となるようにする。
【0051】
Bi,Fe,Mn,Ba,Tiをそれぞれ含む金属錯体としては、例えば、アルコキシド、有機酸塩、βジケトン錯体などを用いることができる。Biを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸ビスマス、酢酸ビスマスなどが挙げられる。Feを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸鉄、酢酸鉄などが挙げられる。Mnを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸マンガン、酢酸マンガンなどが挙げられる。Baを含む金属錯体としては、例えばバリウムイソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸バリウム、バリウムアセチルアセトナートなどが挙げられる。Tiを含有する金属錯体としては、例えばチタニウムイソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸チタン、チタン(ジ−i−プロポキシド)ビス(アセチルアセトナート)などが挙げられる。勿論、Bi、Fe、Mn、Ba、Tiを二種以上含む金属錯体を用いてもよい。
【0052】
また、溶媒は、金属錯体混合物を溶解又は分散させるものであればよく、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、オクタン、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、ブタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸、水、等の様々な溶媒が挙げられる。勿論、これらを2種以上用いてもよい。
【0053】
次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度(例えば130〜200℃)に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度(例えば350〜450℃)に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。乾燥工程や脱脂工程の雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。なお、塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程を複数回行ってもよい。
【0054】
次に、図5(a)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度、例えば600〜850℃程度に加熱して、一定時間、例えば、1〜10分間保持することによって結晶化させ、ビスマス、バリウム、鉄、及びチタン、マンガンを含み、チタンとバリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下である複合酸化物からなる圧電体膜72を形成する(焼成工程)。この焼成工程においても、雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。
【0055】
乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置やホットプレート等が挙げられる。
【0056】
次いで、レジストを剥離した後、上述した塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程や、塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を所望の膜厚等に応じて複数回繰り返して複数の圧電体膜72を形成する。これにより、図5(b)に示すように複数層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70が形成される。なお、複数の圧電体膜72を形成する際には、塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を順に行って積層していってもよいが、塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程を繰り返し行った後、複数層をまとめて焼成するようにしてもよい。また、本実施形態では、圧電体膜72を積層して設けたが、1層のみでもよい。
【0057】
このように圧電体層70を形成した後は、図6(a)に示すように、圧電体層70上に白金等からなる第2電極80をスパッタリング法等で形成し、各圧力発生室12に対向する領域に圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングして、第1電極60と圧電体層70と第2電極80からなる圧電素子300を形成する。なお、圧電体層70と第2電極80とのパターニングでは、所定形状に形成したレジスト(図示なし)を介してドライエッチングすることにより一括して行うことができる。その後、必要に応じて、600℃〜800℃の温度域でポストアニールを行ってもよい。これにより、圧電体層70と第1電極60や第2電極80との良好な界面を形成することができ、かつ、圧電体層70の結晶性を改善することができる。
【0058】
次に、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングする。
【0059】
次に、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合した後に、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。
【0060】
次に、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、マスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0061】
そして、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0062】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面のマスク膜52を除去した後にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
【0063】
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1及び比較例1〜2)
まず、(110)に配向した単結晶シリコン基板の表面に熱酸化により膜厚1170nmの二酸化シリコン膜を形成した。次に、二酸化シリコン膜上にRFマグネトロンスパッタ法により膜厚20nmのチタン膜を形成し、熱酸化することで酸化チタン膜を形成した。次に、酸化チタン膜上にRFマグネトロンスパッタ法により膜厚130nmの白金膜を形成して第1電極60とした。
【0065】
また、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸チタン、2−エチルヘキサン酸マンガンのn−オクタン溶液を混合し、Bi:Ba:Fe:Ti:Mnのモル比が表1に示す組成比となるようにして、前駆体溶液を調整した。
【0066】
次いで、この前駆体溶液を酸化チタン膜及び第1電極60が形成された上記基板上に滴下し、500rpmで5秒間回転後、3000rpmで基板を20秒回転させてスピンコート法により圧電体前駆体膜を形成した(塗布工程)。次に、ホットプレート上に基板を載せ、180℃で3分間乾燥した(乾燥工程)。次いで、ホットプレート上に基板を載せ、350℃で3分間脱脂を行った(脱脂工程)。この塗布工程・乾燥及び脱脂工程からなる工程を3回繰り返した後に、酸素雰囲気中で、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置で700℃、5分間焼成を行った(焼成工程)。
【0067】
次いで、上記の工程を4回繰り返し、計12回の塗布により全体で厚さ880nmの圧電体層70を形成した。
【0068】
その後、圧電体層70上に、第2電極80としてDCスパッタ法により膜厚100nmの白金膜を形成した後、RTA装置を用いてO2フローのもと700℃で5分間焼成を行うことで、圧電素子を形成した。
【0069】
(実施例2及び比較例3〜5)
Bi:Ba:Fe:Ti:Mnのモル比が表1に示す組成比となるようにし、焼成温度を750℃として厚さ800nmの圧電体層70を形成した以外は実施例1と同様にして、圧電素子を形成した。
【0070】
(実施例3〜10及び比較例6)
Bi:Ba:Fe:Ti:Mnのモル比が表1に示す組成比となるようにし、焼成温度を800℃として厚さ850nmの圧電体層70を形成した以外は実施例1と同様にして、圧電素子を形成した。
【0071】
(実施例11及び比較例7〜9)
Bi:Ba:Fe:Ti:Mnのモル比が表1に示す組成比となるようにし、焼成温度を800℃として厚さ1080nmの圧電体層70を形成した以外は実施例1と同様にして、圧電素子を形成した。
【0072】
【表1】
【0073】
(試験例1)
各実施例及び各比較例の圧電素子について、Bruker AXS社製の「D8 Discover」を用い、X線源にCuKα線を使用し、室温で、圧電体層のX線回折パターンを求めた。実施例の回折強度−回折角2θの相関関係を示す図であるX線回折パターンの一例を、図8〜9に示す。
【0074】
この結果、各実施例及び各比較例の全てにおいて、ペロブスカイト型構造に起因するピークと、基板由来のピークが観測された。具体的には、ペロブスカイト型構造単相からなる圧電体層に起因する(100)のピークが23°付近に、シリコン基板に起因する(110)のピークが32°付近に、白金に起因する(111)のピークが40°付近に確認された。すなわち、図8に示すように、鉄(Fe)とチタン(Ti)の割合を変化させても異相は確認されず、図9に示すように、ビスマス(Bi)とバリウム(Ba)の割合を変化させても異相は確認されず、いずれの圧電体層もペロブスカイト単相であることがわかった。
【0075】
(試験例2)
実施例1〜11及び比較例1〜9において、第2電極80を形成していない状態の圧電体層70について、圧電体層70の形成後5日経過時のクラックの発生の有無を確認した。圧電体層の表面は500倍の金属顕微鏡により観察した。結果を表2に示す。また、結果の一例として、比較例7の結果を図10(a)、比較例5の結果を図10(b)、実施例8の結果を図10(c)、実施例3の結果を図10(d)、実施例10の結果を図10(e)、実施例9の結果を図10(f)に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
この結果、Ti/Baが1.17以上1.45以下である実施例1〜11は、膜厚を比較的厚い800nm以上としても、クラックの発生は確認されなかった。
【0078】
これに対し、Ti/Baが1.00〜1.15である比較例1,3〜5及び7〜9は、クラックが発生していた。また、Ti/Baが1.63以上である比較例2及び6についても同様に、クラックが発生していた。
【0079】
以上より、Ti/Baが1.17以上1.45以下となるようにすることにより、クラックの発生を抑制することができることがわかった。
【0080】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0081】
さらに、上述した実施形態では、基板(流路形成基板10)上に第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を順次積層した圧電素子300を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子にも本発明を適用することができる。
【0082】
また、これら実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図11は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0083】
図11に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0084】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0085】
なお、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0086】
また、本発明にかかる圧電素子は、液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子に限定されず、その他のデバイスにも用いることができる。その他のデバイスとしては、例えば、超音波発信器等の超音波デバイス、超音波モーター、温度−電気変換器、圧力−電気変換器、強誘電体トランジスター、圧電トランス、赤外線等の有害光線の遮断フィルター、量子ドット形成によるフォトニック結晶効果を使用した光学フィルター、薄膜の光干渉を利用した光学フィルター等のフィルターなどが挙げられる。また、センサーとして用いられる圧電素子、強誘電体メモリーとして用いられる圧電素子にも本発明は適用可能である。圧電素子が用いられるセンサーとしては、例えば、赤外線センサー、超音波センサー、感熱センサー、圧力センサー、焦電センサー、及びジャイロセンサー(角速度センサー)等が挙げられる。
【符号の説明】
【0087】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 マニホールド部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 マニホールド、 120 駆動回路、 300 圧電素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体層と、前記圧電体層に設けられた電極と、を具備する圧電素子を備えた液体噴射ヘッドであって、
前記圧電体層は、少なくともビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物からなり、前記チタンと前記バリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドにおいて、前記複合酸化物は、前記ビスマスと前記バリウムのモル比(Bi/Ba)が2.3以上4.0以下であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドにおいて、前記複合酸化物は、マンガンをさらに含むことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
圧電体層と、前記圧電体層に設けられた電極と、を具備し、
前記圧電体層は、少なくともビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物からなり、前記チタンと前記バリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下であることを特徴とする圧電素子。
【請求項6】
請求項5に記載の圧電素子において、前記複合酸化物は、前記ビスマスと前記バリウムのモル比(Bi/Ba)が2.3以上4.0以下であることを特徴とする圧電素子。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の圧電素子において、前記複合酸化物は、マンガンをさらに含むことを特徴とする圧電素子。
【請求項1】
圧電体層と、前記圧電体層に設けられた電極と、を具備する圧電素子を備えた液体噴射ヘッドであって、
前記圧電体層は、少なくともビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物からなり、前記チタンと前記バリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドにおいて、前記複合酸化物は、前記ビスマスと前記バリウムのモル比(Bi/Ba)が2.3以上4.0以下であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドにおいて、前記複合酸化物は、マンガンをさらに含むことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
圧電体層と、前記圧電体層に設けられた電極と、を具備し、
前記圧電体層は、少なくともビスマス、バリウム、鉄、及びチタンを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物からなり、前記チタンと前記バリウムのモル比(Ti/Ba)が1.17以上1.45以下であることを特徴とする圧電素子。
【請求項6】
請求項5に記載の圧電素子において、前記複合酸化物は、前記ビスマスと前記バリウムのモル比(Bi/Ba)が2.3以上4.0以下であることを特徴とする圧電素子。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の圧電素子において、前記複合酸化物は、マンガンをさらに含むことを特徴とする圧電素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図10】
【公開番号】特開2013−93342(P2013−93342A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232281(P2011−232281)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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