説明

温度測定装置、薄膜形成装置、温度測定方法及び半導体装置

【課題】温度測定装置において、熱の影響を受けることなく、真空環境下において複雑に移動する被測定物の温度を正確に測定できるようにする。
【解決手段】装置本体31と、これを固定状態で収容する内装ケース33と、内面寸法が内装ケース33の外面寸法よりも大きく形成されて、内装ケース33との間に隙間が形成されるように内装ケース33を収容する外装ケース35と、外装ケース35の外側に配されると共に内装ケース33及び外装ケース35の挿通孔33c,35cを介して装置本体31に電気配線された温度計37と、外装ケース35内において内装ケース33を非接触状態で浮遊させる浮遊手段49とを備える温度測定装置5を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、温度測定装置、薄膜形成装置、温度測定方法及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップの製造には、例えば特許文献1のように、ウェーハ(被蒸着物、被薄膜形成物)上に金属試料(蒸着物、薄膜形成材料)を蒸着するための真空蒸着装置(薄膜形成装置)が用いられる。この真空蒸着装置は、例えば図6に示すように、真空漕101内に、蒸着源102及び複数のプラネタリドーム103を設けて構成されている。この真空蒸着装置では、碗状に形成された各プラネタリドーム103の内面に複数のウェーハ104を取り付け、さらに、真空漕101内を真空状態とした上で、蒸着源102からプラネタリドーム103の内面に出される金属試料をウェーハ104の面に蒸着する。この蒸着の際、各プラネタリドーム103は第1軸線105を中心に自転すると共に、複数のプラネタリドーム103が第2軸線106を中心に公転する。すなわち、プラネタリドーム103が多軸回転することにより、ウェーハ104面に形成される金属膜の膜厚の均一化を図っている。
【0003】
一方、金属膜の膜質はウェーハ104の温度に左右されるため、蒸着時にはウェーハ104を所定温度に加熱・保持しておく必要があるが、前述したように、プラネタリドーム103は複雑に移動する。このため、従来では、赤外線ランプの熱をプラネタリドーム103の内面に向けて照射することでウェーハ104を加熱している。また、赤外線ランプとプラネタリドーム103との間に温度計を設置し、この温度計により赤外線ランプから照射される熱の温度を計測することで、ウェーハ104の温度を外挿している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−093711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の手法では蒸着時におけるウェーハ104の温度を直接計測していないため、ウェーハ温度を正確に把握することは困難であり、その結果として、金属膜の蒸着コントロールが難しくなる、という問題がある。
なお、プラネタリドーム103自体に温度計及びこれを制御する装置本体を備える温度測定装置を直接取り付けることも考えられるが、装置本体は熱の影響を受けやすい制御回路等を備えるため、ウェーハ104の温度を正しく計測できない、という不具合を生じる。この問題は、真空蒸着装置等の薄膜形成装置に限るものではなく、温度測定の対象となる被測定物がプラネタリドーム103のように複雑に移動する移動体に固定される場合に生じうるものである。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みたものであって、熱の影響を受けることなく、被測定物の温度を正確に測定できる温度測定装置、これを用いた薄膜形成装置、温度測定方法、及び、半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明の温度測定装置は、装置本体と、当該装置本体を固定状態で収容する内装ケースと、内面寸法が前記内装ケースの外面寸法よりも大きく形成されて、前記内装ケースとの間に隙間が形成されるように前記内装ケースを収容する外装ケースと、前記外装ケースの外側に配されると共に、前記内装ケース及び前記外装ケースの挿通孔を介して前記装置本体に電気配線された温度計と、前記外装ケース内において前記内装ケースを非接触状態で浮遊させる浮遊手段とを備えることを特徴とする。
なお、前記装置本体は、温度計を制御する制御回路等を含むと共に電池で駆動するように構成されるものである。
【0008】
本発明の温度測定装置は真空状態において使用することが好ましい。すなわち、この温度測定装置を真空状態において使用する場合には、外装ケースと内装ケースとの隙間も外装ケースに形成された配線用の挿通孔によって熱伝達率の低い真空状態に保たれることになる。このため、外装ケースが外部環境によって加熱されても、この熱が外装ケースの内部において浮遊状態とされた内装ケース及び装置本体に伝わることを極めて低く抑えることができる。
したがって、装置本体が熱の影響を受けやすい制御回路等の構成要素を備えていても、当該構成要素に外部環境の影響を与えることなく、外装ケースの外側の温度を正しく測定することができる。
【0009】
なお、前記温度測定装置においては、前記浮遊手段が、互いに対向する前記外装ケースの内面及び前記内装ケースの外面のそれぞれをなす磁石によって構成されていることが好ましい。
この構成では、相互に対向する外装ケース及び内装ケースの磁石の磁極を一致させることで、外装ケースの磁石と内装ケースの磁石との間に反発磁力が生じるため、外装ケース内において内装ケースを浮遊させることができる。特に、この反発磁力が外装ケースに作用する外力よりも大きくなるように設定しておけば、内装ケースと外装ケースとの接触を確実に防止でき、また、内装ケースと外装ケースとの衝突を回避して装置本体の保護も確実に図ることができる。
【0010】
また、前記温度測定装置においては、互いに対向する前記内装ケースの外面及び前記外装ケースの内面の断面形状が、互いに相似形となる正多角形状に形成され、正多角形状に形成された前記内装ケースの外面の外接円が、正多角形状に形成された前記外装ケースの内面の外接円よりも小さく、かつ、当該外装ケースの内面の内接円よりも大きくなるように設定されていることが好ましい。
すなわち、正多角形状に形成された内装ケースの外面の外接円を正多角形状に形成された外装ケースの内面の外接円よりも小さく設定することで、内装ケースの外面と外装ケースの内面との間に隙間を形成することができる。また、内装ケースの外面の外接円を外装ケースの内面の内接円よりも大きく設定することで、内装ケースが外装ケースに対して不意に回転することを防止して、内装ケースを外装ケース内において安定した状態に保持することができる。
【0011】
そして、本発明の薄膜形成装置は、内部を真空状態とすることが可能な真空漕内に、被薄膜形成材料と、熱伝導率の高い材料によって碗状に形成されて内面に被薄膜形成物を固定すると共に前記真空漕内において多軸回転するプラネタリドームとを設けて構成され、真空状態において前記被薄膜形成物の薄膜形成面に前記被薄膜形成材料からなる薄膜を形成する薄膜形成装置であって、前記温度測定装置を備え、前記外装ケースが前記プラネタリドームに固定され、前記温度計が前記プラネタリドームの内面に取り付けられた前記被薄膜形成物に固定されることを特徴とする。
【0012】
上記薄膜形成装置によれば、温度測定装置の装置本体がプラネタリドームに固定されるため、装置本体をプラネタリドームから離して真空漕の外側に配置する場合と比較して、温度計から装置本体に引き出す電気配線がプラネタリドームの複雑な動作を阻害しない。すなわち、多軸回転するプラネタリドームに固定された被薄膜形成物の温度を直接測定することが可能となる。
そして、上記薄膜形成装置が真空蒸着装置である場合には、真空漕内を真空状態として被蒸着物(被薄膜形成物)に蒸着物(薄膜形成材料)を蒸着する際には、被蒸着物を所定温度に加熱・保持するが、温度測定装置の外装ケースは熱伝導率の高いプラネタリドームに固定されているため、外装ケースも加熱される。ここで、前述したように、装置本体を収容した内装ケースは浮遊手段によって外装ケースに対して非接触状態で浮遊し、かつ、内装ケースと外装ケースとの隙間が真空状態に保たれるため、外装ケースの熱が内装ケースや装置本体に伝達することは殆ど無い。
したがって、この真空蒸着装置においては、装置本体の構成要素が熱の影響を受けることなく、温度計により被蒸着物の温度を正確に測定することができ、これによって、被蒸着物に対する蒸着物の蒸着制御を容易に行うことが可能となる。そして、この結果として、蒸着面に蒸着された蒸着物の膜質が良好となる。
【0013】
なお、前記薄膜形成装置において、前記プラネタリドームは、その重心を通るようにその内面側から外面側に貫通する回転軸線を中心に回転可能とされ、複数の前記温度測定装置が、同一の前記プラネタリドームに取り付けられ、複数の前記外装ケースが、前記回転軸線を基準として互いに軸対称に配されていることが好ましい。
この構成では、プラネタリドームを回転させる機構に余分な負荷をかけることなく、プラネタリドームを安定した状態で回転させることができる。
【0014】
さらに、本発明の温度測定方法は、被測定物を移動体に固定した上で、真空環境下において前記移動体と共に前記被測定物を移動させながら、前記被測定物の温度を測定する温度測定方法であって、前記温度測定装置の前記外装ケースを前記移動体に固定すると共に前記温度計を前記被測定物に固定した状態で、前記温度計により前記被測定物の温度を測定することを特徴とする。
なお、前記移動体の具体例としては、例えば前述した薄膜形成装置のプラネタリドームが挙げられる。また、被測定物の具体例としては、例えば前述した被薄膜形成物が挙げられる。
【0015】
上記温度測定方法によれば、温度測定装置の装置本体が移動体に固定されるため、装置本体を移動体から離して配置する場合と比較して、温度計から装置本体まで引き出す電気配線が移動体の動作を阻害しない。すなわち、移動体が複雑に移動するように構成されていても、移動体に固定された被測定物の温度を直接測定することが可能となる。
そして、上記温度測定方法によれば、被測定物を所定温度に加熱することに伴って移動体や外装ケースが加熱されても、真空環境下においては被測定物の温度を正確に測定することができる。
【0016】
また、本発明の半導体装置は、半導体ウェーハを個片化してなる半導体チップを備える半導体装置であって、前記半導体ウェーハを移動体に固定した上で、真空環境下において前記移動体と共に前記半導体ウェーハを移動させながら当該半導体ウェーハの蒸着面に蒸着物を蒸着する際に、前記温度測定装置の前記外装ケースを前記移動体に固定すると共に前記温度計を前記半導体ウェーハに固定した状態で、前記温度計により前記半導体ウェーハの温度を測定し、測定された前記半導体ウェーハの温度に基づいて、前記半導体ウェーハに対する前記蒸着物の蒸着制御が実施されることで、前記半導体ウェーハが製造されることを特徴とする。
なお、蒸着物の蒸着制御には、例えば半導体ウェーハを所定温度に加熱・保持する制御等が含まれる。
【0017】
このように製造される半導体装置においては、半導体ウェーハの蒸着面に蒸着された蒸着物の膜質が良好となる。したがって、電気特性に優れた半導体チップを備える半導体装置を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、真空環境下においては温度計の制御回路等を含む装置本体が外部環境の熱の影響を受けないため、外装ケースの外側に配された被測定物の温度を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置を示す概略断面図である。
【図2】図1の真空蒸着装置に備えるプラネタリドームであって、(a)は内面側から見た状態を示す概略平面図、(b)は概略断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る温度測定装置を示す概略断面図である。
【図4】図3のA−A矢視断面図である。
【図5】図3,4に示す温度測定装置の変形例を示す概略断面図である。
【図6】従来の真空蒸着装置の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1に示すように、この実施形態に係る真空蒸着装置(薄膜形成装置)1は、半導体チップの製造に際して半導体ウェーハ(被蒸着物、被測定物、被薄膜形成物)3の面に金属試料(蒸着物、薄膜形成材料)を蒸着するものであり、内部を真空状態とすることが可能な真空漕11内に、蒸着源13、加熱源15及び複数のプラネタリドーム(移動体)17を設けて構成されている。また、真空蒸着装置1は、真空漕11内のエアーを排出して真空漕11内の圧力を下げる真空ポンプ19を備えている。なお、図示例において、真空ポンプ19は、真空漕11の下端からエアーを排出するように配置されているが、例えば真空漕11の上端や側部から排出するように配置されていてもよい。
【0021】
蒸着源13は、真空漕11内において金属試料を溶融・気化するものであり、真空漕11の高さ方向(Z方向)の下端に設けられている。なお、金属試料の具体例としては、例えばアルミニウム、ニッケル、モリブデン、チタン、パラジウム、タングステン等が挙げられる。また、金属試料の溶融・気化は、図示例のように電源14による通電によって実施されてもよいが、例えば電子ビームの照射等のように金属試料を加熱する任意の手法で実施することが可能である。
加熱源15は、真空漕11内に配された半導体ウェーハ3を所定温度に加熱するものであり、真空漕11の下端において蒸着源13の周囲に配されている。なお、加熱源15の具体例としては、例えば赤外線を出射する赤外線ランプ等が挙げられる。
【0022】
複数のプラネタリドーム17は、それぞれアーム21を介して真空漕11の上端に設けられた回転軸23に取り付けられている。なお、回転軸23の軸線L2は真空漕11の高さ方向に延びている。
各プラネタリドーム17は、図2に示すように、大略碗状に形成された2枚のドーム状部材24,25によって構成されている。これら2枚のドーム状部材24,25は、鉄やステンレス等のように熱伝導性の高い材料によって形成されおり、外側のドーム状部材24(以下、外側ドーム状部材24と呼ぶ。)の内面24aに内側のドーム状部材25(以下、内側ドーム状部材25と呼ぶ。)の外面25bが対向するように、重ね合わせて一体に固定されている。なお、図示例においては、外側ドーム状部材24の内面24aと内側ドーム状部材25の外面25bとは互いに離間しているが、例えば接触していてもよい。
そして、内側ドーム状部材25の内面17a(以下、プラネタリドーム17の内面17aとも呼ぶ。)には、複数の半導体ウェーハ3が固定されるようになっている。なお、プラネタリドーム17に取り付けられた半導体ウェーハ3において、金属試料が蒸着される蒸着面(薄膜形成面)3aは、プラネタリドーム17の内面17aと同じ方向に向くようになっている。
【0023】
以上のように構成される各プラネタリドーム17は、図1に示すように、その内面17aが軸線L2の径方向内側を向くように、アーム21の先端に対して第1軸線(回転軸線)L1を中心として回転可能に取り付けられている。なお、第1軸線L1は、各プラネタリドーム17においてその重心を通るように内側ドーム状部材25の内面17a側から外側ドーム状部材24の外面17b側に貫通している。
そして、複数のプラネタリドーム17は、回転軸23の軸線L2(以下、第2軸線L2と呼ぶ。)の周方向に均等配列されている。なお、各プラネタリドーム17は、真空漕11の高さ方向に関して回転軸23と蒸着源13及び加熱源15との間に配されているため、各プラネタリドーム17の内面17aが蒸着源13及び加熱源15に向けられるように、第1軸線L1を第2軸線L2の直交方向に対して若干傾斜させている。
【0024】
さらに、複数のプラネタリドーム17の下端は、第2軸線L2を中心とした円環状のレール18によって支持されている。具体的に説明すれば、各プラネタリドーム17を構成する外側ドーム状部材24の外周端が円環状のレール18上に載置されている。これにより、外側ドーム状部材24は、レール18上において第2軸線L2の周方向に延びるレール18の長手方向に転動可能とされている。
以上のように配置された複数のプラネタリドーム17は、不図示の駆動源によって回転軸23が回転することで、第2軸線L2を中心に公転すると共に、各プラネタリドーム17がレール18上を転動して第1軸線L1を中心に自転することになる。すなわち、各プラネタリドーム17は、真空漕11内において多軸回転するように配置されている。
【0025】
さらに、上記構成の真空蒸着装置1は、プラネタリドーム17に取り付けられた半導体ウェーハ3の温度を測定するための温度測定装置5を備えている。この温度測定装置5は、図3,4に示すように、装置本体31、内装ケース33、外装ケース35及び温度計37を備えて構成されている。
装置本体31は、温度計37を制御する制御回路や、温度計37において測定された半導体ウェーハ3の温度履歴データを記憶する記憶媒体を含んで構成されるものであり、電池で駆動するように構成されている。なお、記憶媒体の具体例としては、例えばHDD(Hard Disc Drive)、RAM(Random Access Memory)等が挙げられる。また、図示例において、装置本体31は円柱状に形成されている。
【0026】
内装ケース33は、装置本体31を固定状態に収容する内側ケース本体41と、内側ケース本体41の外面全体を覆うように配されて内装ケース33の外面33aをなすシート状の磁石43(以下、内側磁石シート43と呼ぶ)とを備えて構成されている。内側ケース本体41は、中心軸線L3方向の両端を板状部材により閉塞した断面円形の筒状に形成されている。そして、内側ケース本体41を構成する一方の板状部材は開閉可能な蓋体として機能し、内装ケース本体41に対して装置本体31を出し入れできるようになっている。なお、内側ケース本体41は、内側磁石シート43の磁力が装置本体31内部に到達して制御回路や記憶媒体等に影響を与えないように、例えばパーマロイ等のように磁力を遮蔽する透磁率の高い材料によって形成されることが好ましい。
【0027】
内側磁石シート43は、可撓性を有しており、内側ケース本体41の外周面及び中心軸線L3方向の両端面にそれぞれ別個に配されている。なお、図示例において、内側ケース本体41の外周面には、その周方向に内側磁石シート43を複数に分割して配しているが、例えば外周面の周方向にわたって一枚の内側磁石シート43を配してもよい。
このように構成された内装ケース33の外面形状は、内側ケース本体41の外面形状に相似する形状をなしている。
【0028】
外装ケース35は、内装ケース33を収容する外側ケース本体45と、外側ケース本体45の内面全体を覆うように配されて外装ケース35の内面35bをなすシート状の磁石47(以下、外側磁石シート47と呼ぶ)とを備えて構成されている。外側ケース本体45は、内側ケース本体41と同様に中心軸線L3方向の両端を板状部材により閉塞した断面円形の筒状に形成されている。そして、外側ケース本体45を構成する一方の板状部材は開閉可能な蓋体として機能し、外装ケース35に対して内装ケース33を出し入れできるようになっている。
【0029】
外側磁石シート47は、可撓性を有しており、外側ケース本体45の内周面及び中心軸線L3方向の両端面にそれぞれ別個に配されている。なお、図示例において、外側ケース本体45の内周面には、その周方向に外側磁石シート47を複数に分割して配しているが、例えば内周面の周方向にわたって一枚の外側磁石シート47を配してもよい。
このように構成された外装ケース35の内面形状は、外側ケース本体45の内面形状に相似する形状をなしている。また、外装ケース35の内面寸法は、内装ケース33の外面寸法よりも大きく形成されており、内装ケース33を収容した状態において外装ケース35と内装ケース33との間に隙間が形成されるようになっている。
【0030】
そして、内側磁石シート43及び外側磁石シート47は、それぞれの厚さ方向の両端面に磁極が現れるように着磁されており、相互に対向する内側磁石シート43及び外側磁石シート47の磁極が一致している。これにより、内側磁石シート43と外側磁石シート47との間に反発磁力が生じる。すなわち、これら内側磁石シート43及び外側磁石シート47は、外装ケース35内において内装ケース33を非接触状態で浮遊させる浮遊手段49を構成している。
温度計37は、例えば熱電対からなり、電気配線39によって装置本体31に電気接続されている。また、温度計37は、電気配線39を内装ケース33及び外装ケース35に形成された挿通孔33c、35cに挿通させることで、外装ケース35の外側に配されている。
【0031】
以上のように構成される温度測定装置5は、図2に示すように、同一のプラネタリドーム17に対して複数(図示例においては2つ)取り付けられている。すなわち、各温度測定装置5のうち、装置本体31及び内装ケース33を収容した外装ケース35は、ネジ止め等によって外側ドーム状部材24の外面17b(以下、プラネタリドーム17の外面17bと呼ぶ。)に固定されている。なお、外装ケース35は、プラネタリドーム17の外面17bにおいて、第1軸線L1の近くに配置することがより好ましい。
また、電気配線39がプラネタリドーム17を構成する2枚のドーム状部材24,25の厚さ方向に貫通する貫通孔17cに挿通され、温度計37がプラネタリドーム17の内面17aに取り付けられた半導体ウェーハ3に固定される。なお、図示例のように、金属試料を蒸着する半導体ウェーハ3の蒸着面3aに温度計37を固定する場合、温度計37は半導体チップの形成領域から外れた位置に配されればよい。
そして、同一のプラネタリドーム17に取り付けられる複数の外装ケース35は、プラネタリドーム17の外面17bにおいて、第1軸線L1を基準として互いに軸対称に配されている。
【0032】
次に、以上のように構成された真空蒸着装置1を用いて半導体ウェーハ3に金属試料を蒸着する蒸着方法、及び、この蒸着方法において半導体ウェーハ3の温度を測定する温度測定方法について説明する。
この蒸着方法においては、予め、装置本体31及び内装ケース33を内包した外装ケース35をプラネタリドーム17の外面17bに固定しておくと共に、温度計37をプラネタリドーム17の貫通孔17cに挿通させてプラネタリドーム17の内面17a側に配置しておく。
そして、多数の半導体ウェーハ3を複数のプラネタリドーム17に固定すると共に、温度計を半導体ウェーハ3の蒸着面3aに固定する。次いで、真空ポンプ19により真空漕11内のエアーを排出して真空状態とし、この真空環境下において不図示の駆動源により回転軸23を回転させることでプラネタリドーム17を多軸回転させると共に、蒸着源13における金属試料を溶融・気化させる。これにより、半導体ウェーハ3の蒸着面3aに金属試料を蒸着して金属膜(蒸着膜、薄膜)を形成する。
【0033】
また、この蒸着の際には、加熱源15である赤外線ランプから半導体ウェーハ3の蒸着面3aに向けて熱を照射して、半導体ウェーハ3の蒸着面3aを加熱し、温度計37により加熱された半導体ウェーハ3の蒸着面3aの温度を測定する。ここで、装置本体31は電池で動作するように構成されているため、温度を測定した結果を温度履歴データとして装置本体31の記憶媒体に記憶させることができる。
そして、このように半導体ウェーハ3を加熱すると、プラネタリドーム17の内面17aも加熱される。なお、本実施形態のプラネタリドーム17は2枚のドーム状部材24,25によって構成されているため、加熱源15の熱によって直接加熱されるのは内側ドーム状部材25のみとなるが、これら2枚のドーム状部材24,25は一体に固定されているため、熱伝導によって外側ドーム状部材24も同様に加熱される。したがって、前述した蒸着の際には、外側ドーム状部材24に固定された温度測定装置5の外装ケース35も加熱されることになる。
【0034】
これに対し、温度測定装置5においては、装置本体31を収容した内装ケース33が浮遊手段49によって外装ケース35に対して非接触状態で浮遊して、内装ケース33と外装ケース35との間に隙間が形成されている。さらに、内装ケース33と外装ケース35との隙間は、電気配線39用の貫通孔17cによって外装ケース35の外側に連通しているため、真空漕11内と同様に、熱伝達率の低い真空状態に保たれることになる。したがって、外装ケース35が加熱されても、この熱が内装ケース33及び装置本体31に伝達されることを極めて低く抑えることができる。
なお、以上の蒸着方法によって金属試料を蒸着して製造された半導体ウェーハ3は、半導体チップに個片化される。そして、この半導体チップは基板に搭載されたり、樹脂で封止されたりすることで半導体装置として構成されることになる。
【0035】
以上説明したように、上記温度測定装置5、これを備える真空蒸着装置1、及び、温度測定方法によれば、装置本体31がプラネタリドーム17に固定されるため、装置本体31をプラネタリドーム17から離して真空漕11の外側に配置する場合と比較して、温度計37から装置本体31に引き出す電気配線39がプラネタリドーム17の複雑な動作を阻害しない。すなわち、多軸回転するプラネタリドーム17に固定された被蒸着物の温度を直接測定することが可能となる。
そして、装置本体31が熱の影響を受けやすい制御回路や記憶媒体等の構成要素を含んでいても、装置本体31は殆ど加熱されないため、外装ケース35の外側に配された半導体ウェーハ3の温度を正確に測定することができる。また、これにより、半導体ウェーハ3に対する金属試料の蒸着制御を容易に行うことが可能となり、その結果として、半導体ウェーハ3の蒸着面3aに蒸着された金属膜の膜質が良好となる。
【0036】
すなわち、正確に測定された半導体ウェーハ3の温度履歴データは装置本体31の記憶媒体に記憶されているため、金属試料の蒸着が終了した後に、装置本体31を真空漕11から取り出すことで、この温度履歴データを取得することができる。そして、この温度履歴データに基づいて、真空蒸着装置1における金属試料の蒸着制御を容易に行うことができる。具体的には、取得した温度履歴データに基づいて加熱源15の出力制御を実施する等して、半導体ウェーハ3を高い精度で所定温度に加熱・保持することが可能となるため、半導体ウェーハ3の蒸着面3aに蒸着された金属膜の膜質が良好となる。
さらに、このように製造される半導体ウェーハ3を個片化してなる半導体チップは電気特性に優れる。したがって、電気特性に優れた半導体チップを備える半導体装置を提供することが可能となる。
【0037】
また、上記温度測定装置5によれば、外装ケース35内において内装ケース33を非接触状態で浮遊させる浮遊手段49として磁石43,47を利用しているため、その反発磁力により外装ケース35内において内装ケース33を確実に浮遊させることができる。なお、この反発磁力が、プラネタリドーム17の回転等によって外装ケース35に作用する外力よりも大きくなるように設定しておけば、内装ケース33と外装ケース35との接触を確実に防止でき、また、内装ケース33と外装ケース35との衝突を回避して装置本体31の保護も確実に図ることができる。
また、上記温度測定装置5によれば、装置本体31が電池で駆動するように構成されていることから、装置本体31から真空漕11の外側まで電源用の配線を引き出す必要も無いため、多軸回転するプラネタリドーム17に対する温度測定装置5の取り付けを容易に行うことができる。
【0038】
また、上記真空蒸着装置1において、同一のプラネタリドーム17に取り付けられる複数の外装ケース35は、プラネタリドーム17の外面17bにおいて、第1軸線L1を基準として互いに軸対称に配されているため、プラネタリドーム17を回転させる機構(例えばプラネタリドーム17とアーム21との連結部分)に余分な負荷をかけることなく、プラネタリドーム17を安定した状態で回転させることができる。
【0039】
なお、中心軸線L3に直交する内装ケース33の外周面(外面)33a及び外装ケース35の内周面(内面)35bの断面形状は、上記実施形態のように円形状に形成されることに限らず、少なくとも互いに相似形となる任意形状に形成されていればよく、例えば図5に示すように、互いに相似形となる正多角形状に形成されていてもよい。すなわち、内装ケース33の外周面33a及び外装ケース35の内周面35bの断面形状は、図示例のように正六角形状でもよいが、例えば正四角形状、正五角形状であってもよい。この場合、内装ケース33の外周面33aの外接円は、外装ケース35の内周面35bの外接円よりも小さく、かつ、外装ケース35の内周面35bの内接円よりも大きくなるように設定されることが好ましい。
【0040】
すなわち、内装ケース33の外周面33aの外接円を外装ケース35の内周面35bの外接円よりも小さく設定することで、内装ケース33の外周面33aと外装ケース35の内周面35bとの間に隙間を形成することができる。また、内装ケース33の外周面33aの外接円を外装ケース35の内周面35bの内接円よりも大きく設定することで、内装ケース33が外装ケース35に対して中心軸線L3回りに不意に回転することを防止して、内装ケース33を外装ケース35内において安定した状態に保持することができる。
【0041】
また、上記実施形態の温度測定装置5において、装置本体31は円柱状に形成されるとしたが、任意の外面形状を有していてよい。また、内装ケース33の内面は、少なくとも装置本体31を固定状態で収容できる形状に形成されていればよく、例えば装置本体31の外面形状に対応する形状に形成されていてもよい。
さらに、内装ケース33や外装ケース35を構成する磁石43,47はシート状に形成されるとしたが、外装ケース35内において内装ケース33を非接触状態で浮遊させることができれば、任意の形状に形成されていてよい。さらに、浮遊手段49は磁石43,47によって構成されることに限らず、少なくとも外装ケース35内において内装ケース33を非接触状態で浮遊させるものによって構成されればよい。
【0042】
また、外装ケース35は、プラネタリドーム17の外面17bに固定されるとしたが、例えばプラネタリドーム17の内面17aに固定されてもよい。ただし、半導体ウェーハ3を赤外線ランプ(加熱源15)の照射によって加熱する場合には、外装ケース35も赤外線ランプからの熱によって直接加熱されるため、外装ケース35の加熱を極力減らすことを考慮すれば、外装ケース35は、上記実施形態のようにプラネタリドーム17の外面17bに固定されることがより好ましい。
さらに、温度計37によって測定された半導体ウェーハ3の温度履歴データは、装置本体31において記憶されることに限らず、例えば無線により真空漕11の外側に送信されてもよい。この場合には、装置本体31に無線送信機を設けると共に、真空漕11の外側に無線送信機から送信された温度履歴データを受信する無線受信機、及び、これに接続されて温度履歴データを記憶する記憶媒体や温度履歴データを表示する表示装置等を設けておけばよい。この構成では、蒸着の即時制御を実施することが可能となる。すなわち、蒸着を実施しながら、温度履歴データに基づいて金属試料の蒸着制御を行うことができる。
【0043】
また、上記実施形態の真空蒸着装置1において、各プラネタリドーム17は、2枚のドーム状部材24,25によって構成されるとしたが、例えば1枚のドーム状部材によって構成されてもよい。また、真空漕11内にはプラネタリドーム17が複数設けられるとしたが、例えば1つだけ設けられてもよい。
さらに、真空蒸着装置1においては、半導体ウェーハ3に金属膜を形成するとしたが、例えばガラス基板等の他の被蒸着物の蒸着面に金属膜等の蒸着膜を形成してもよい。
また、温度測定装置5は、半導体ウェーハ3等の蒸着面に金属試料を蒸着する真空蒸着装置1に設けられることに限らず、少なくとも真空漕11内に設けられたプラネタリドーム17の内面17aに半導体ウェーハ3やガラス基板等の被薄膜形成物を固定した上で、真空状態において被薄膜形成物の薄膜形成面に薄膜形成材料からなる薄膜を形成する薄膜形成装置に設けられればよい。
【0044】
さらに、温度測定装置5は、多軸回転するプラネタリドーム17に取り付けられることに限らず、複雑に移動する任意の移動体に取り付けることが可能である。そして、移動体が真空環境下で移動するものである限り、上記実施形態の場合と同様に、外装ケース35の外部環境に影響されることなく、移動体あるいはこれに固定された被測定物の温度を測定することができる。なお、複雑な移動をする移動体としては、多軸回転するプラネタリドーム17のほかに、例えば振動等の平行移動及び自転を組み合わせた移動をするもの、平行移動及び公転を組み合わせた移動をするもの等が挙げられる。
また、温度測定装置5は、上述した移動体に固定されなくても、真空環境下において使用することで上記実施形態と同様の効果を奏する。すなわち、温度測定装置5が真空環境下に配置されていれば、外装ケース35が外部環境によって加熱されても、外装ケース35の内部において浮遊状態とされた内装ケース33及び装置本体31が加熱されることは殆ど無いため、温度計37により外装ケース35の外側の温度を正しく測定することができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0046】
1 真空蒸着装置(薄膜形成装置)
3 半導体ウェーハ(被蒸着物、被測定物、被薄膜形成物)
3a 蒸着面(薄膜形成面)
5 温度測定装置
11 真空漕
13 蒸着源
17 プラネタリドーム(移動体)
17a 内面
17b 外面
31 装置本体
33 内装ケース
33a 外面
33c 挿通孔
35 外装ケース
35b 内面
35c 挿通孔
37 温度計
43 内側磁石シート(磁石)
47 外側磁石シート(磁石)
49 浮遊手段
L1 第1軸線(回転軸線)
L2 第2軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体と、
当該装置本体を固定状態で収容する内装ケースと、
内面寸法が前記内装ケースの外面寸法よりも大きく形成されて、前記内装ケースとの間に隙間が形成されるように前記内装ケースを収容する外装ケースと、
前記外装ケースの外側に配されると共に、前記内装ケース及び前記外装ケースの挿通孔を介して前記装置本体に電気配線された温度計と、
前記外装ケース内において前記内装ケースを非接触状態で浮遊させる浮遊手段とを備えることを特徴とする温度測定装置。
【請求項2】
前記浮遊手段が、互いに対向する前記外装ケースの内面及び前記内装ケースの外面のそれぞれをなす磁石によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項3】
互いに対向する前記内装ケースの外面及び前記外装ケースの内面の断面形状が、互いに相似形となる正多角形状に形成され、
正多角形状に形成された前記内装ケースの外面の外接円が、正多角形状に形成された前記外装ケースの内面の外接円よりも小さく、かつ、当該外装ケースの内面の内接円よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の温度測定装置。
【請求項4】
内部を真空状態とすることが可能な真空漕内に、被薄膜形成材料と、熱伝導率の高い材料によって碗状に形成されて内面に被薄膜形成物を固定すると共に前記真空漕内において多軸回転するプラネタリドームとを設けて構成され、真空状態において前記被薄膜形成物の薄膜形成面に前記被薄膜形成材料からなる薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の温度測定装置を備え、
前記外装ケースが前記プラネタリドームに固定され、
前記温度計が前記プラネタリドームの内面に取り付けられた前記被薄膜形成物に固定されることを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項5】
前記プラネタリドームは、その重心を通るようにその内面側から外面側に貫通する回転軸線を中心に回転可能とされ、
複数の前記温度測定装置が、同一の前記プラネタリドームに取り付けられ、
複数の前記外装ケースが、前記回転軸線を基準として互いに軸対称に配されていることを特徴とする請求項4に記載の薄膜形成装置。
【請求項6】
被測定物を移動体に固定した上で、真空環境下において前記移動体と共に前記被測定物を移動させながら、前記被測定物の温度を測定する温度測定方法であって、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の温度測定装置の前記外装ケースを前記移動体に固定すると共に前記温度計を前記被測定物に固定した状態で、前記温度計により前記被測定物の温度を測定することを特徴とする温度測定方法。
【請求項7】
半導体ウェーハを個片化してなる半導体チップを備える半導体装置であって、
前記半導体ウェーハを移動体に固定した上で、真空環境下において前記移動体と共に前記半導体ウェーハを移動させながら当該半導体ウェーハの蒸着面に蒸着物を蒸着する際に、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の温度測定装置の前記外装ケースを前記移動体に固定すると共に前記温度計を前記半導体ウェーハに固定した状態で、前記温度計により前記半導体ウェーハの温度を測定し、
測定された前記半導体ウェーハの温度に基づいて、前記半導体ウェーハに対する前記蒸着物の蒸着制御が実施されることで、前記半導体ウェーハが製造されることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−229498(P2010−229498A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78598(P2009−78598)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000002037)新電元工業株式会社 (776)
【Fターム(参考)】