説明

炭化珪素単結晶ウエハの製造方法

【課題】CVD装置を用いて基板にエピタキシャル膜を形成する際に生じる裏面が粗くなることを抑制することにより、炭化珪素単結晶ウエハの裏面の研磨によって生じる炭化珪素単結晶ウエハの品質の低下を抑制するとともに、工数を減少させることができる炭化珪素単結晶ウエハの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法は、炭化珪素からなる主面30aを有するプレート30の主面30a上に基板10を載置し、基板10上にエピタキシャル膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD装置を用いて基板にエピタキシャル膜を形成する工程を備えた炭化珪素単結晶ウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CVD装置内にあるサセプタ上に炭化珪素単結晶からなる基板を載置して、炭化珪素単結晶ウエハを製造する方法が広く知られている(例えば、特許文献1参照)。サセプタに載置された基板には、エピタキシャル膜が形成され、炭化珪素単結晶ウエハが得られる。このようにして得られた炭化珪素単結晶ウエハは、一般的に半導体デバイス用基板として用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−93791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CVD装置を用いて、基板にエピタキシャル膜を形成する際の温度条件は、1400度〜1800度である。この温度条件では、基板の表面から珪素(Si原子)が離脱するものの、基板の表面は、エピタキシャル膜の原料となる反応性ガスによってエピタキシャル膜が形成されるため、基板の表面から珪素が離脱することが抑制される。しかしながら、基板のサセプタに接する面(以下、裏面と略す)には、エピタキシャル膜が形成されないため、裏面から珪素が離脱していた。このため、基板の裏面が粗くなるという問題が生じていた。基板の裏面が粗い場合、裏面の加工(例えば、裏面に電極を取り付ける)の際に、不都合が生じる。また、基板の裏面が粗い場合には、外観にも問題があった。
【0005】
そのため、CVD装置を用いて基板にエピタキシャル膜を形成した場合、エピタキシャル膜を形成した後に裏面を研磨していた。この場合、基板の裏面とは反対の面(以下、表面)には、エピタキシャル膜が形成されているため、研磨作業中に膜に傷が生じることもあり、炭化珪素単結晶ウエハの半導体デバイス用基板としての品質が低下する問題が生じていた。また、研磨作業を伴うため、工数が増加、ひいては製造コストが増加するという問題も生じていた。
【0006】
そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、CVD装置を用いて基板にエピタキシャル膜を形成する際に生じる裏面が粗くなることを抑制することにより、炭化珪素単結晶ウエハの裏面の研磨によって生じる炭化珪素単結晶ウエハの品質の低下を抑制するとともに、工数を減少させることができる炭化珪素単結晶ウエハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は、次のような特徴を有している。本発明の特徴は、炭化珪素単結晶からなる基板(基板10)を準備する工程(基板準備工程S1)と、CVD装置を用いて前記基板上にエピタキシャル膜を形成する膜形成工程(膜形成工程S2)とを備えた炭化珪素単結晶ウエハの製造方法であって、前記膜形成工程では、炭化珪素からなる主面(主面30a)を有するプレート(プレート30)の前記主面上に前記基板を載置し、前記基板上にエピタキシャル膜を形成することを要旨とする。
【0008】
本発明の特徴によれば、炭化珪素からなる主面を有するプレートの主面上に基板を載置する。プレートの主面と基板の裏面とは、接しているものの、プレートの主面と基板の裏面とには、わずかな空間が形成される。基板上にエピタキシャル膜を形成する際に、CVD装置内が1400度以上になった場合、基板の裏面からだけでなく、プレートの主面からもSi原子が離脱する。これにより、プレートの主面と基板の裏面とにより形成される空間には、早期にSi原子が飽和する。このため、Si原子が基板の裏面から離脱することが抑えられるため、基板の裏面が粗くなることが抑えられる。従って、エピタキシャル膜を形成した炭化珪素単結晶ウエハの裏面を研磨する必要がなくなるため、研磨によって炭化珪素単結晶ウエハに傷が生じることもない。研磨作業が必要なくなるため、工数を減少させることができる。
【0009】
また、前記プレートの前記主面の単位面積当たりの表面積は、前記基板の単位面積当たりの表面積よりも大きくても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、CVD装置を用いて基板にエピタキシャル膜を形成する際に生じる裏面が粗くなることを抑制することにより、炭化珪素単結晶ウエハの裏面の研磨によって生じる炭化珪素単結晶ウエハの品質の低下を抑制するとともに、工数を減少させることができる炭化珪素単結晶ウエハの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】図2は、本実施形態に係る基板10の載置状態を説明するための部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法の一例について、図面を参照しながら説明する。具体的には、(1)炭化珪素単結晶ウエハの製造方法、(2)作用効果、(3)比較評価、(4)その他実施形態、について説明する。
【0013】
以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。図面は模式的なのものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることを留意すべきである。従って、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0014】
(1)炭化珪素単結晶ウエハの製造方法
本実施形態に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法について、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法を説明するためのフローチャートである。図2は、本実施形態に係る基板10の載置状態を説明するための部分断面図である。図1に示されるように、本実施形態に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法は、基板準備工程S1と膜形成工程S2とを備える。
【0015】
(1.1)基板準備工程S1
基板準備工程S1は、炭化珪素単結晶からなる基板10を準備する工程である。例えば、炭化珪素単結晶のインゴットをスライスして、基板10を準備することができる。市販されている炭化珪素単結晶からなる基板10を用いても良い。本実施形態において、基板10の形状は、円板状であるが、多角形状の平板であっても良い。図2に示されるように、基板10は、2つの主面を有し、一方の主面を表面10aとし、表面10aとは反対の主面を裏面10bとする。
【0016】
(1.2)膜形成工程S2
膜形成工程S2は、CVD装置を用いて基板10上にエピタキシャル膜を形成する工程である。膜形成工程S2は、図1に示されるように、基板載置工程S21とエピタキシャル膜形成工程S22とを有する。
【0017】
(1.2.1)基板載置工程S21
基板載置工程S21は、基板10をプレート30上に載置する工程である。
【0018】
プレート30は、炭化珪素からなる2つの主面を有する。すなわち、プレート30は、主面30a及び主面30bを有する。本実施形態において、プレート30は、基板10と同様の円板状である。プレート30の材料としては、例えば、炭化珪素単結晶、炭化珪素多結晶、非晶質炭化珪素(アモルファスSiC)及び多孔質炭化珪素(ポーラスSiC)が挙げられる。本実施形態において、プレート30は、不純物を除いて、炭化珪素のみで構成されている。
【0019】
本実施形態において、プレート30の主面30aの単位面積当たりの表面積は、基板10の単位面積当たりの表面積よりも大きい。すなわち、主面30aは、裏面10bよりも表面積が大きい。例えば、主面30aは、裏面10bよりも粗い面である。
【0020】
基板載置工程S21では、図2に示されるように、プレート30をサセプタ50上に載置する。これにより、主面30bとサセプタ50とが接する。次に載置されたプレート30の主面30a上に基板10を載置する。これにより、基板10の他の主面である裏面10bとプレート30の主面30aとが接する。
【0021】
図2に示されるように、膜形成工程S2の際に、基板10の位置がずれないように、サセプタ50には、ポケットが形成されていることが好ましい。ポケットの内部に基板10及びプレート30を収容する。図2に示されるように、基板10の裏面10bは、ポケットの内部に位置する。これにより、基板10が水平に移動する力が働いても、ポケットの側面に当たるため、基板10の位置のずれが抑えられる。
【0022】
(1.2.2)エピタキシャル膜形成工程S22
エピタキシャル膜形成工程S22は、基板10上にエピタキシャル膜を形成する工程である。
【0023】
CVD装置内を、膜を形成するために必要な所定の温度条件(1400度以上)に設定し、CVD装置にエピタキシャル膜の原料となる反応ガスを導入する。これにより、基板10の表面10aにエピタキシャル膜が形成される。基板10にエピタキシャル膜が形成されることにより、エピタキシャル膜を有する炭化珪素単結晶ウエハが製造される。
【0024】
(2)作用効果
本実施形態に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法によれば、炭化珪素からなる主面30aを有するプレート30の主面30a上に基板10を載置する。炭化珪素からなる主面30aと基板10の裏面10bとは、接しているものの、主面30aと裏面10bとには、わずかな空間が形成される。基板10上にエピタキシャル膜を形成する際に、CVD装置内が1400度以上になった場合、裏面10bからだけでなく、プレート30の主面30aからもSi原子が離脱する。これにより、主面30aと裏面10bとにより形成される空間には、早期にSi原子が飽和する。このため、Si原子が裏面10bから離脱することが抑えられるため、基板10の裏面10bが粗くなることが抑えられる。従って、エピタキシャル膜を形成した炭化珪素単結晶ウエハの裏面を研磨する必要がなくなるため、研磨によって炭化珪素単結晶ウエハに傷が生じることもない。研磨作業が必要なくなるため、工数を減少させることができる。
【0025】
プレート30は、容易に準備することが可能であるため、既存のCVD装置を用いることができる。このため、設備投資等のコストを抑えることができる点においても、有効である。
【0026】
プレート30が繰り返し使用された場合、プレート30の主面30aからSi原子が離脱することにより、主面30aは炭化される。この場合、炭化珪素のみで構成されているプレート30の主面30aを研磨したり、化学エッチング処理(ポーラス化)を施したりすることにより、プレート30の再利用ができる。
【0027】
炭化珪素からなる主面30a上に炭化珪素単結晶からなる基板10を載置しているため、プレート30と基板10との熱伝導率は等しい又はほぼ等しい。このため、均熱性も向上する。
【0028】
本実施形態に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法によれば、プレート30の主面30aの単位面積当たりの表面積は、基板10の単位面積当たりの表面積よりも大きい。これにより、裏面10bからSi原子が離脱する量よりも、主面30aからSi原子が離脱する量が多くなりやすい。このため、裏面10bからSi原子が離脱することがさらに抑制される。
【0029】
(3)比較評価
本発明に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法の効果を確かめるために、以下の評価を行った。
【0030】
実施例では、4インチの直径を有するサセプタ上に、4インチの直径を有する円板状のプレートを載置した。プレートは、非晶質炭化珪素により構成されている。プレート上に4インチの直径を有する炭化珪素単結晶からなる基板を載置した。その後、基板にエピタキシャル膜を形成した。これにより、炭化珪素単結晶ウエハを得た。
【0031】
比較例では、4インチの直径を有するサセプタ上に、4インチの直径を有する炭化珪素単結晶からなる基板を載置した。すなわち、比較例では、プレートを用いなかった。その後、実施例と同様に、基板にエピタキシャル膜を形成した。これにより、炭化珪素単結晶ウエハを得た。
【0032】
実施例及び比較例により得られた炭化珪素単結晶ウエハの裏面、すなわち、エピタキシャル膜が形成されていない主面の表面粗さを測定した。また、エピタキシャル膜を形成する前の基板の裏面の表面粗さも測定した。具体的には、PV値及びRMSを測定した。結果を表1に示す。
【0033】
なお、PV(peak to valley)値とは、有効範囲表面全体を見た際に一番高い所(Peak)と一番低い所(Valley)の差で表される。RMS(root mean square)は、平均線から測定曲線までの偏差の2乗を平均した値の平方根で表される。RMSは、粗さ曲線から求められる。両方の値とも、値が小さいほど、表面が粗くない、すなわち平坦であることを表す。
【表1】

【0034】
表1に示されるように、比較例に比べて実施例の方がPV値及びRMS値が小さいことが分かる。また、肉眼にて目視観察を行った結果、実施例の炭化珪素単結晶ウエハは、裏面は、平坦であり、エピタキシャル膜が形成された面と裏面とではほとんど違いがみられなかった。一方、比較例の炭化珪素単結晶ウエハは、エピタキシャル膜が形成された面と裏面との違いが明らかであった。以上のことから、本発明に係る炭化珪素単結晶ウエハの製造方法によれば、基板の裏面の粗さを抑制できることが確認できた。
【0035】
(4)その他実施形態
本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。本発明はここでは記載していない様々な実施形態を含む。
【0036】
例えば、上述した実施形態において、プレート30は、炭化珪素のみで構成されていたが、これに限られない。プレート30は、炭化珪素以外の別の材料によって構成されていても良い。この場合、基板10は、炭化珪素からなる炭化珪素層を有し、炭化珪素層は、主面30aを構成する。
【0037】
このようなプレート30を用いる場合には、炭化珪素層と裏面10bとが接するようにプレート30を載置する。すなわち、炭化珪素以外の材料から構成される面が主面30bとなり、主面30bは、サセプタ50と接する。これにより、主面30aと裏面10bとにより形成される空間には、早期にSi原子が飽和するため、Si原子が裏面10bから離脱することが抑えられる。
【0038】
上述した実施形態では、プレート30と基板10とは、同様の円板状であり、プレート30の主面30aと基板10の裏面10bとの大きさは等しかったが、これに限られない。プレート30の主面30aは、基板10の裏面10bよりも大きくても良い。主面30aと裏面10bとの大きさが等しい場合、プレート30と基板10とがずれると、主面30bと接しない基板10の裏面10bからは、Si原子が裏面10bから離脱する効果が得られない。プレート30の主面30aは、基板10の裏面10bよりも大きくすることにより、主面30bと裏面10bとが接することが保ち易くなる。
【0039】
上述の通り、本発明はここでは記載していない様々な実施形態を含む。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0040】
10…基板
10a…表面
10b…裏面
30…プレート
30a…主面
30b…主面
50…サセプタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素単結晶からなる基板を準備する工程と、
CVD装置を用いて前記基板上にエピタキシャル膜を形成する膜形成工程とを備えた炭化珪素単結晶ウエハの製造方法であって、
前記膜形成工程では、炭化珪素からなる主面を有するプレートの前記主面上に前記基板を載置し、前記基板上にエピタキシャル膜を形成する炭化珪素単結晶ウエハの製造方法。
【請求項2】
前記プレートの前記主面の単位面積当たりの表面積は、前記基板の単位面積当たりの表面積よりも大きい請求項1に記載の炭化珪素単結晶ウエハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−151227(P2012−151227A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7917(P2011−7917)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】