説明

無段変速機及びその制御方法

【課題】副変速機構の変速段の変更を伴うキックダウン変速であっても、スルー変速比を速やかに変速比大側に変化させ、駆動力の立ち上がり遅れ、変速フィーリングの悪化を防止する。
【解決手段】変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速段を変更する場合、スルー変速比が目標スルー変速比となるように、副変速機構30の変速比を変化させつつ副変速機構30の変速比の変化方向と逆の方向にバリエータ20の変速比を変化させる協調変速を行う。しかしながら、アクセルペダルが踏み込まれたことで2速から1速への副変速機構30の変速段の変更を伴うキックダウン変速(2速キックダウン変速)が行われるときには、変速機コントローラ12は、協調変速に代えて、スルー変速比と目標スルー変速比のずれを許容しつつ副変速機構30の変速段を協調変速のときよりも速い速度で2速から1速に変更する非協調変速を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機及びその制御方法に関し、特に、無段変速機が無段変速機構と副変速機構を備えるものに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、無段変速機構(以下、「バリエータ」という。)に対して前進2段の副変速機構を直列に設け、車両の運転状態に応じてこの副変速機構の変速段を変更するように構成することで、バリエータを大型化させることなく、とりうる変速比範囲を拡大した無段変速機を開示している。
【0003】
特許文献2は、このような副変速機構付き無段変速機において、副変速機構の変速段を変更する際、副変速機構の変速比変化方向と逆の方向にバリエータの変速比を変化させる変速態様(以下、「協調変速」という。)を開示している。この協調変速を行えば、副変速機構を変速させる際のエンジン及びトルクコンバータの速度変化が小さくなり、これらの慣性トルクによる変速ショックを小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−37455号公報
【特許文献2】特開平5−79554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記副変速機構付き無段変速機においても、通常の変速機同様に、アクセルペダルが大きく踏み込まれた場合にはキックダウン変速が行われる。このキックダウン変速においては、バリエータ及び副変速機構の全体の変速比であるスルー変速比を速やかに変速比大側に変化させて駆動力を増大させ、運転者の加速要求に応える必要がある。
【0006】
しかしながら、キックダウン変速の途中で副変速機構の変速段を変更する必要が生じ、上記協調変速を行っていると、変速完了までに時間を要して駆動力の立ち上がり遅れや変速フィーリングの悪化を招く可能性があった。これは、バリエータの変速速度が副変速機構の変速速度に比べて遅いため、上記協調変速に要する時間がバリエータの変速速度に依存することによる。
【0007】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、副変速機構の変速段の変更を伴うキックダウン変速であってもスルー変速比を速やかに変速比大側に変化させ、駆動力の立ち上がり遅れを防止し、変速フィーリングを向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によれば、車両に搭載される無段変速機であって、変速比を無段階に変化させることができる無段変速機構(以下、「バリエータ」という。)と、前記バリエータに対して直列に設けられ、前進用変速段として第1変速段と該第1変速段よりも変速比の小さな第2変速段とを有する副変速機構と、前記車両の運転状態に基づき、該運転状態で前記バリエータ及び前記副変速機構の全体の変速比(以下、「スルー変速比」という。)が到達すべき目標値である到達スルー変速比を設定する到達スルー変速比設定手段と、前記スルー変速比を所定の過渡応答で前記到達スルー変速比に追従させるための過渡的な目標値である目標スルー変速比を前記到達スルー変速比に基づき設定する目標スルー変速比設定手段と、前記スルー変速比が前記目標スルー変速比となるように前記バリエータ及び前記副変速機構の少なくとも一方を制御する変速制御手段と、前記副変速機構の変速段を変更する場合、前記スルー変速比が前記目標スルー変速比となるように、前記副変速機構の変速比を変化させつつ前記副変速機構の変速比の変化方向と逆の方向に前記バリエータの変速比を変化させる協調変速を行う協調変速手段と、アクセルペダルが踏み込まれたことで前記第2変速段から前記第1変速段への前記副変速機構の変速段の変更を伴うキックダウン変速(以下、「2速キックダウン変速」という。)が行われることを判定する2速キックダウン変速判定手段と、前記2速キックダウン変速判定手段により前記2速キックダウン変速が行われると判定されたときに、前記協調変速手段による前記協調変速に代えて、前記スルー変速比と前記目標スルー変速比のずれを許容しつつ、前記副変速機構の変速段を前記協調変速のときよりも速い速度で前記第2変速段から前記第1変速段に変更する非協調変速を行う非協調変速手段と、を備えたことを特徴とする無段変速機が提供される。
【0009】
また、本発明の別の態様によれば、車両に搭載される無段変速機であって、変速比を無段階に変化させることができる無段変速機構(以下、「バリエータ」という。)と、前記バリエータに対して直列に設けられ、前進用変速段として第1変速段と該第1変速段よりも変速比の小さな第2変速段とを有する副変速機構と、を備えた無段変速機の制御方法であって、前記車両の運転状態に基づき、該運転状態で前記バリエータ及び前記副変速機構の全体の変速比(以下、「スルー変速比」という。)が到達すべき目標値である到達スルー変速比を設定する到達スルー変速比設定工程と、前記スルー変速比を所定の過渡応答で前記到達スルー変速比に追従させるための過渡的な目標値である目標スルー変速比を前記到達スルー変速比に基づき設定する目標スルー変速比設定工程と、前記スルー変速比が前記目標スルー変速比となるように前記バリエータ及び前記副変速機構の少なくとも一方を制御する変速制御工程と、前記副変速機構の変速段を変更する場合、前記スルー変速比が前記目標スルー変速比となるように、前記副変速機構の変速比を変化させつつ前記副変速機構の変速比の変化方向と逆の方向に前記バリエータの変速比を変化させる協調変速を行う協調変速工程と、アクセルペダルが踏み込まれたことで前記第2変速段から前記第1変速段への前記副変速機構の変速段の変更を伴うキックダウン変速(以下、「2速キックダウン変速」という。)が行われることを判定する2速キックダウン変速判定工程と、前記2速キックダウン変速判定工程により前記2速キックダウン変速が行われると判定されたときに、前記協調変速工程による前記協調変速に代えて、前記スルー変速比と前記目標スルー変速比のずれを許容しつつ、前記副変速機構の変速段を前記協調変速のときよりも速い速度で前記第2変速段から前記第1変速段に変更する非協調変速を行う非協調変速工程と、を含むことを特徴とする無段変速機の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
これらの態様によれば、アクセルペダルが踏み込まれたことで第2変速段から第1変速段への副変速機構の変速段の変更を伴う2速キックダウン変速が行われる場合には、協調変速ではなく非協調変速が行われる。これにより、変速機のスルー変速比を速やかに変速比大側に変化させることができ、駆動力を速やかに立ち上がらせるとともに、変速フィーリングを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る無段変速機を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】変速機コントローラの内部構成を示した図である。
【図3】変速マップの一例を示した図である。
【図4】協調変速を説明するための図である。
【図5A】オーバーシュートの発生を説明するための図である。
【図5B】オーバーレブの発生を説明するための図である。
【図6】2速キックダウン変速時に協調変速、非協調変速のいずれかを選択して実行する制御プログラムの一例を示したフローチャートである。
【図7】2速キックダウン変速時に非協調変速が行われる場合の様子を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最Low変速比」は当該変速機構の最大変速比を意味し、「最High変速比」は当該変速機構の最小変速比を意味する。
【0013】
図1は本発明の実施形態に係る無段変速機を搭載した車両の概略構成図である。この車両は動力源としてエンジン1を備える。エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、無段変速機(以下、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。
【0014】
また、車両には、エンジン1の動力の一部を利用して駆動されるオイルポンプ10と、オイルポンプ10からの油圧を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11と、油圧制御回路11を制御する変速機コントローラ12とが設けられている。
【0015】
各構成について説明すると、変速機4は、無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に対して直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とは同動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。
【0016】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備えるベルト式無段変速機構である。プーリ21、22は、それぞれ固定円錐板と、この固定円錐板に対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板との間にV溝を形成する可動円錐板と、この可動円錐板の背面に設けられて可動円錐板を軸方向に変位させる油圧シリンダ23a、23bとを備える。油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比vRatioが無段階に変化する。
【0017】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。例えば、Lowブレーキ32を締結し、Highクラッチ33とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33を締結し、Lowブレーキ32とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな2速となる。また、Revブレーキ34を締結し、Lowブレーキ32とHighクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進となる。なお、以下の説明では、副変速機構30の変速段が1速であるとき「変速機4が低速モードである」と表現し、2速であるとき「変速機4が高速モードである」と表現する。
【0018】
変速機コントローラ12は、図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0019】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの開度(以下、「アクセル開度APO」という。)を検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4の入力回転速度(=プライマリプーリ21の回転速度、以下、「プライマリ回転速度Npri」という。)を検出する回転速度センサ42の出力信号、車両の走行速度(以下、「車速VSP」という。)を検出する車速センサ43の出力信号、変速機4の油温を検出する油温センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号などが入力される。
【0020】
記憶装置122には、変速機4の変速制御プログラム、この変速制御プログラムで用いる変速マップ(図3)が格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されている変速制御プログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して変速制御信号を生成し、生成した変速制御信号を出力インターフェース124を介して油圧制御回路11に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0021】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、変速機コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにオイルポンプ10で発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比vRatio、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0022】
図3は変速機コントローラ12の記憶装置122に格納される変速マップの一例を示している。
【0023】
この変速マップ上では変速機4の動作点が車速VSPとプライマリ回転速度Npriとに基づき決定される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比vRatioに副変速機構30の変速比subRatioを掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比Ratio」という。)を表している。この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、図3には簡単のため、全負荷線(アクセル開度APO=8/8のときの変速線)、パーシャル線(アクセル開度APO=4/8のときの変速線)、コースト線(アクセル開度APO=0のときの変速線)のみが示されている。
【0024】
変速機4が低速モードのときは、変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる低速モード最Low線とバリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる低速モード最High線の間で変速することができる。このとき、変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、変速機4が高速モードのときは、変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる高速モード最Low線とバリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる高速モード最High線の間で変速することができる。このとき、変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0025】
副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最High線に対応する変速比(低速モード最High変速比)が高速モード最Low線に対応する変速比(高速モード最Low変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとりうる変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である低速モードレシオ範囲と高速モードでとりうる変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である高速モードレシオ範囲とが部分的に重複し、変速機4の動作点が高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域にあるときは、変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0026】
変速機コントローラ12は、この変速マップを参照して、車速VSP及びアクセル開度APO(車両の運転状態)に対応するスルー変速比Ratioを到達スルー変速比DRatioとして設定する。この到達スルー変速比DRatioは、当該運転状態でスルー変速比Ratioが最終的に到達すべき目標値である。そして、変速機コントローラ12は、スルー変速比Ratioを所望の応答特性で到達スルー変速比DRatioに追従させるための過渡的な目標値である目標スルー変速比tRatioを設定し、スルー変速比Ratioが目標スルー変速比tRatioに一致するようにバリエータ20及び副変速機構30を制御する。
【0027】
また、変速マップ上には副変速機構30の変速を行うモード切換変速線(副変速機構30の1−2変速線)が低速モード最High線上に重なるように設定されている。モード切換変速線に対応するスルー変速比(以下、「モード切換変速比mRatio」という。)は低速モード最High変速比に等しい。
【0028】
そして、変速機4の動作点がモード切換変速線を横切った場合、すなわち、変速機4のスルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioを跨いで変化した場合は、変速機コントローラ12はモード切換変速制御を行う。このモード切換変速制御では、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比vRatioを副変速機構30の変速比subRatioが変化する方向と逆の方向に変化させる協調変速を行う。
【0029】
協調変速では、変速機4のスルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioよりも大きい状態から小さい状態になったときは、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速段を1速から2速に変更(以下、「1−2変速」という。)するとともに、バリエータ20の変速比vRatioを変速比大側に変化させる。逆に、変速機4のスルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioよりも小さい状態から大きい状態になったときは、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速段を2速から1速に変更(以下、「2−1変速」という。)するとともに、バリエータ20の変速比vRatioを変速比小側に変化させる。
【0030】
モード切換変速時、協調変速を行うのは、変速機4のスルー変速比Ratioの段差により生じる入力回転の変化に伴う運転者の違和感を抑えるためである。また、モード切換変速をバリエータ20の変速比vRatioが最High変速比のときに行うのは、この状態では副変速機構30に入力されるトルクがそのときにバリエータ20に入力されるトルクのもとでは最小になっており、この状態で副変速機構30を変速すれば副変速機構30の変速ショックを緩和することができるからである。
【0031】
図4は、上記協調変速が行われる様子を示したタイムチャートである。副変速機構30の変速は、準備フェーズ、トルクフェーズ、イナーシャフェーズ、終了フェーズの4つのフェーズで構成される。
【0032】
準備フェーズは、締結側摩擦締結要素への油圧のプリチャージを行い、締結側摩擦締結要素を締結直前の状態で待機させるフェーズである。締結側摩擦締結要素とは、変速後の変速段で締結される摩擦締結要素であり、1−2変速ではHighクラッチ33、2−1変速ではLowブレーキ32である。
【0033】
トルクフェーズは、解放側摩擦締結要素への供給油圧を低下させるとともに締結側摩擦締結要素への供給油圧を上昇させ、トルクの伝達を受け持つ変速段が解放側摩擦締結要素の変速段から締結側摩擦締結要素の変速段に移行するフェーズである。解放側摩擦締結要素とは、1−2変速ではLowブレーキ32、2−1変速ではHighクラッチ33である。
【0034】
イナーシャフェーズは、副変速機構30の変速比subRatioが変速前変速段の変速比から変速後変速段の変速比まで変化するフェーズである。イナーシャフェーズにおいては、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速前変速段の変速比から変速後変速段の変速比まで滑らかに、かつ、バリエータ20の変速速速度と同程度の変速速度で移り変わる副変速機構30の目標変速比tsubRatioを生成するとともに、目標スルー変速比tRatioを副変速機構30の目標変速比tsubRatioで割ってバリエータ20の目標変速比tvRatioを算出する。そして、変速機コントローラ12は、バリエータ20の変速比vRatioが目標変速比tvRatioに一致するようにバリエータ20を制御し、副変速機構30の変速比subRatioが目標変速比tsubRatioに一致するようにLowブレーキ32、Highクラッチ33への供給油圧をフィードバック制御する。これにより、目標スルー変速比tRatioを実現しつつ、バリエータ20と副変速機構30の変速比が逆方向に制御される。
【0035】
終了フェーズは、解放側摩擦締結要素への供給油圧をゼロとして解放側摩擦締結要素を完全解放させるとともに締結側摩擦締結要素への供給油圧を上昇させて締結側摩擦締結要素を完全締結させるフェーズである。
【0036】
4つのフェーズは、運転者がアクセルペダルを踏み込んでおり車速が増大することで起こるアップシフト(オートアップシフト)、運転者がアクセルペダルを離しており車速が減少することで起こるダウンシフト(コーストダウンシフト)ではこの順で起こる。しかしながら、運転者がアクセルペダルから足を離したときに起こるアップシフト(足離しアップシフト)や運転者がアクセルペダルを踏み込んだときに起こるダウンシフト(踏込みダウンシフト、後述するキックダウン変速含む)ではトルクフェーズとイナーシャフェーズの順序が逆になる。
【0037】
なお、図4では協調変速前後でスルー変速比Ratioが変化していないが、これは協調変速前後で目標スルー変速比tRatioを一定値としているからである。本明細書における協調変速は、このような変速態様に限定されず、副変速機構30の変速段を変更する際に、副変速機構30の変速比変化方向と逆の方向にバリエータ20の変速比を変化させてスルー変速比Ratioを目標スルー変速比tRatioに制御するもの全般を指す。
【0038】
ところで、上記構成の変速機4においても、従来の変速機と同様に、運転者がアクセルペダルを大きく踏み込んだ場合には、キックダウン変速が行われる。このキックダウン変速においては、スルー変速比Ratioを速やかに変速比大側に変化させて駆動力を増大させ、運転者の加速要求に応える必要がある。しかしながら、キックダウン変速前の副変速機構30の変速段が2速で副変速機構30の2−1変速を伴うキックダウン変速(以下、「2速キックダウン変速」という。)を行う場合に、上記協調変速により副変速機構30の2−1変速を行っていると、スルー変速比Ratioの変化が遅れて駆動力を速やかに立ち上がらせることができず、また、変速フィーリングを悪化させる。
【0039】
そこで、変速機コントローラ12は、2速キックダウン変速を行う場合には、上記協調変速に代えて以下に説明する非協調変速を行い、スルー変速比Ratioを速やかに変速比大側に変化させる。
【0040】
非協調変速は、スルー変速比Ratioと目標スルー変速比tRatioのずれを許容する変速態様である。具体的には、まず、変速機コントローラ12は、副変速機構30のイナーシャフェーズにおいて、2速の変速比から1速の変速比まで滑らかに、かつ、協調変速時よりも時間を掛けて移り変わるような副変速機構30の目標変速比tsubRatioを生成する。ここで生成される目標変速比tsubRatioはバリエータ20の制御のみ用いられる値であり、副変速機構30はこの目標変速比tsubRatioとは無関係に制御される。
【0041】
そして、変速機コントローラ12は、目標スルー変速比tRatioを副変速機構30の目標変速比tsubRatioで割ってバリエータ20の目標変速比tvRatioを算出し、バリエータ20の変速比が目標変速比tvRatioとなるようにバリエータ20を制御する。協調変速時よりも副変速機構30の目標変速比tsubRatioの変化が緩やかであるので、バリエータ20の目標変速比tvRatioも緩やかに変化し、非協調変速中のバリエータ20の変速比変化が抑制される。非協調変速中のバリエータ20の変速比変化を抑制するのは、協調変速時同様に副変速機構30の変速比変化に協調させてバリエータ20を変速させると、短い時間の間に変速比小側への変速と変速比大側への変速が続けて発生し、バリエータ20の変速ロスによる燃費悪化、バリエータ20の変速に起因する元圧変動及び副変速機構30への入力トルクの変動による副変速機構30の制御性悪化が懸念されるためである。
【0042】
また、非協調変速中、変速機コントローラ12は、協調変速時よりも速い変速速度で副変速機構30の変速段を2速から1速に変更する。具体的には、Highクラッチ33への供給油圧を協調変速時よりも速やかに下降させるとともに、Lowブレーキ32への供給油圧を協調変速時よりも速やかに上昇させる。これにより、トルク伝達を受け持つ変速段が2速から1速に速やかに移行し、副変速機構30の2−1変速を協調変速時よりも短い時間で完了させる。
【0043】
したがって、この非協調変速によれば、スルー変速比Ratioと目標スルー変速比tRatioの間にずれが生じるが、副変速機構30の2−1変速を伴う2速キックダウン変速であっても変速機4のスルー変速比Ratioを速やかに変速比大側に変化させることができ、この結果、駆動力を速やかに立ち上がらせて運転者が期待する加速を実現するとともに、良好な変速フィーリングを実現することができる。
【0044】
ただし、この非協調変速によればスルー変速比Ratioを速やかに変速比大側に変化させることが可能であるが、副変速機構30の変速タイミングが早まるためにスルー変速比Ratioが到達スルー変速比DRatioを超える可能性がある。
【0045】
この場合、プライマリ回転速度Npriが、スルー変速比Ratioが到達スルー変速比DRatioに到達したときに実現されるプライマリ回転速度Npriを超えて上昇する。そして、上昇の程度(例えば、300回転以上の上昇)によっては加速中とはいえ運転者に違和感を与える可能性がある(オーバーシュートの発生)。
【0046】
図5Aはオーバーシュートが発生する様子を示している。動作点X1でアクセルペダルが踏み込まれて到達スルー変速比DRatioに対応する動作点X2に向けてキックダウン変速が行われたとすると、上記非協調変速によれば副変速機構30が先行して変速するために、動作点X1は一旦動作点X3まで移動し、その後動作点X2に移動する。このとき動作点X3におけるプライマリ回転速度Npriは、動作点X2におけるプライマリ回転速度Npriを超えて上昇し、この上昇量が大きいと運転者は違和感を覚える。
【0047】
また、非協調変速開始前のプライマリ回転速度Npriが高いと、オーバーシュートによりプライマリ回転速度Npriがその上限値を超えてしまう可能性がある(オーバーレブの発生)。プライマリ回転速度Npriの上限値は、エンジン1の回転速度の上限値を第1ギヤ列3のギヤ比で割った値と変速機4の入力回転速度の上限値のうち低い方、例えば、6000回転に設定され、プライマリ回転速度Npriがその上限値を超えるオーバーレブが起こると、エンジン1や変速機4に対し悪影響を与える可能性がある。
【0048】
図5Bはオーバーレブが発生する様子を示している。動作点X4でアクセルペダルが踏み込まれると図5A同様にオーバーシュートが発生しており、さらに、非協調変速開始前のプライマリ回転速度Npriが既に高いため、プライマリ回転速度Npriはその上限値を超えて上昇している(動作点X5)。
【0049】
このため、変速機コントローラ12は、2速キックダウン変速を行う場合には、非協調変速に先立ち、オーバーシュートやオーバーレブが発生しないか判定し、これらが発生する場合には、非協調変速ではなく協調変速を行うようにする。
【0050】
図6は、2速キックダウン変速時に協調変速、非協調変速のいずれかを選択して実行する制御プログラムの一例を示している。これを参照しながら2速キックダウン変速時の変速機コントローラ12の具体的な制御内容を説明する。なお,図6に示すフローチャートは、所定時間毎(例えば、10msec毎)に実行される。
【0051】
S11では、変速機コントローラ12は、非協調変速中か判定する。後述するS17で非協調変速が開始されており、かつ、当該非協調変速がまだ完了していない場合に非協調変速中と判定され、処理がS19に進む。非協調変速中と判定されなかった場合は、処理がS12に進む。
【0052】
S12では、変速機コントローラ12は、協調変速中か判定する。後述するS18で協調変速が開始されており、かつ、当該協調変速がまだ完了していない場合に協調変速中と判定され、処理がS22に進む。協調変速中と判定されなかった場合は、処理がS13に進む。
【0053】
S13では、変速機コントローラ12は、ダウンシフトが開始されたか判定する。ダウンシフトが開始されたかどうかは、スルー変速比Ratioと到達スルー変速比DRatioを比較し、スルー変速比Ratioが到達スルー変速比DRatioよりも大きい場合にダウンシフトが開始されたと判定される。ダウンシフトが開始されたと判定された場合は処理がS14に進み、そうでない場合は処理が終了する。
【0054】
S14では、変速機コントローラ12は、副変速機構30の2−1変速を伴う2速キックダウン変速か判定する。2速キックダウン変速かの判定は、アクセルペダル踏込み前後でのアクセル開度APOの変化量、踏込み後のアクセル開度APO、到達スルー変速比DRatioがモード切換変速比mRatioよりも大側に変化したか等に基づき判定される。2速キックダウン変速と判定された場合は処理がS15に進み、そうでない場合は処理がS18に進む。
【0055】
S15では、変速機コントローラ12は、非協調変速を行った場合にプライマリ回転速度Npriのオーバーシュートが発生するか判定する。この判定は次のように行われる。
【0056】
まず、変速機コントローラ12は、プライマリ回転速度Npriが非協調変速中にとりうる値の最大値を推定する。最大値は、例えば、非協調変速前のプライマリ回転速度Npriに副変速機構30の段間比(=1速のギヤ比/2速のギヤ比)を掛けることで推定する。
【0057】
次に、変速機コントローラ12は、スルー変速比Ratioが到達スルー変速比DRatioに到達したときのプライマリ回転速度Npriを現在の車速VSPと到達スルー変速比DRatioに基づき算出する。
【0058】
そして、変速機コントローラ12は、非協調変速中のプライマリ回転速度Npriの最大値とスルー変速比Ratioが到達スルー変速比DRatioに到達したときに得られるプライマリ回転速度Npriとを比較し、前者が後者よりも所定のオーバーシュート判定値以上高い場合には、非協調変速を行うことによりオーバーシュートが発生すると判断する。オーバーシュート判定値は、キックダウン変速中は車両が加速中で、オーバーシュートに関係なくプライマリ回転速度Npriが上昇する状況にあることを考慮し、運転者がオーバーシュートとして認識しない程度の上昇幅、例えば、300回転に設定される。オーバーシュートが発生すると判定された場合は処理がS18に進み、そうでない場合は処理がS17に進む。
【0059】
S16では、変速機コントローラ12は、非協調変速を行った場合にプライマリ回転速度Npriのオーバーレブが発生するか判定する。この判定は、S15で算出された非協調変速中のプライマリ回転速度Npriの最大値がプライマリ回転速度Npriの上限値を超えているかどうかにより行われ、前者が後者を超えている場合には、変速機コントローラ12は、非協調変速を行うことによりオーバーレブが発生すると判定する。オーバーレブが発生すると判定された場合は処理がS18に進み、そうでない場合は処理がS17に進む。
【0060】
処理がS17に進んだ場合は、変速機コントローラ12は、非協調変速を開始し、処理がS18に進んだ場合は協調変速を開始する。
【0061】
S17で非協調変速が開始された場合は、処理がS11からS19に進み、非協調変速が実行される。
【0062】
具体的には、まず、S19で、変速機コントローラ12は、副変速機構30の目標変速比tsubRatioを協調変速時よりも緩やかに変化するように設定する。この目標変速比tsubRatioはバリエータ20の制御にのみ利用される値である。
【0063】
次に、S20で、変速機コントローラ12は、目標スルー変速比tRatioを副変速機構30の目標変速比tsubRatioで割ってバリエータ20の目標変速比tvRatioを算出する。協調変速時よりも副変速機構30の目標変速比tsubRatioが緩やかに変化するので、バリエータ20の目標変速比tvRatioも緩やかに変化する。
【0064】
S21では、変速機コントローラ12は、バリエータ20と副変速機構30の変速を行う。バリエータ20はその変速比vRatioが目標変速比tvRatioに一致するように制御されるが、目標変速比tvRatioは上記の通り緩やかに変化するので、バリエータ20の変速比変化は抑制される。また、変速機コントローラ12は、Highクラッチ33への供給油圧を協調変速時よりも速やかに下降させるとともに、Lowブレーキ32への供給油圧を協調変速時よりも速やかに上昇させ、副変速機構30の2−1変速を協調変速時よりも短い時間で完了させる。
【0065】
これに対し、S18は、協調変速が開始された場合は、処理がS12からS22に進み、協調変速が実行される。
【0066】
具体的には、変速機コントローラ12は、2速の変速比から1速の変速比まで滑らかに移り変わるような副変速機構30の目標変速比tsubRatioを生成するとともに、目標スルー変速比tRatioを副変速機構30の目標変速比tsubRatioで割ってバリエータ20の目標変速比tvRatioを算出する。そして、変速機コントローラ12は、バリエータ20の変速比vRatioが目標変速比tvRatioに一致するようにバリエータ20を制御し、副変速機構30の変速比subRatioが目標変速比tsubRatioに一致するようにLowブレーキ32、Highクラッチ33への供給油圧をフィードバック制御する。これにより、スルー変速比Ratioが目標スルー変速比tRatioとなるようにバリエータ20と副変速機構30の変速比が逆方向に制御される。
【0067】
したがって、上記制御によれば、2速キックダウン変速が行われる場合には、プライマリ回転速度Npriがオーバーシュートしないか、また、オーバーレブしないか判定され(S15、S16)、これらが起こらないと判定された場合にのみ非協調変速が行われてスルー変速比Ratioが速やかに変速比大側に変化する(S17、S19〜S21)。これに対し、プライマリ回転速度Npriのオーバーシュートあるいはオーバーレブが起こると判定された場合には非協調制御ではなく協調変速が行われる(S15、S16、S18)。
【0068】
続いて上記制御を行うことによる作用効果について説明する。
【0069】
図7は、副変速機構30の変速段が2段のときにアクセルペダルが踏み込まれ、2速キックダウン変速が行われる場合の様子を示したタイムチャートである。
【0070】
この例では、オーバーシュート及びオーバーレブが起こらないと判定されて非協調変速が行われる場合を示している。非協調変速では、Highクラッチ33への供給油圧を協調変速時(一点鎖線)よりも速やかに下降させるとともに(実線)、Lowブレーキ32への供給油圧を協調変速時(細破線)よりも速やかに上昇させるので(太破線)、副変速機構30の変速比subRatioは協調変速を行う場合に比べて速やかに2速の変速比から1速の変速比まで変化する(実線)。
【0071】
また、バリエータ20の変速に関しては、副変速機構30の目標変速比tsubRatio(一点鎖線)を協調変速時の目標変速比(破線)に比べて遅く変化するように設定したことでこれを用いて算出される目標変速比tvRatioも緩やかに変化するので、バリエータ20の変速比vRatioが短時間の間に変化するのが抑制される(実線)。
【0072】
これにより、バリエータ20の変速比vRatioと副変速機構30の変速比subRatioを掛けて得られるスルー変速比Ratioは協調変速時に比べて速やかに変速比大側に変化し、これに対応して車両の駆動力、ひいては車両加速度が速やかに増大する。なお、図中破線で示すバリエータ20の変速比vRatioは、バリエータ20の目標変速比tvRatioを協調変速時の副変速機構30の目標変速比tsubRatioを用いて算出し、これに基づきバリエータ20を制御した場合である。
【0073】
このように、本実施形態では、副変速機構30の2−1変速を伴う2速キックダウン変速が行われる場合には、協調変速に代えて非協調変速が行われるので、変速機4のスルー変速比Ratioを速やかに変速比大側に変化させ、駆動力を速やかに立ち上がらせることができるとともに、変速フィーリングを向上させることができる(請求項1、5に対応する効果)。
【0074】
また、非協調変速中のバリエータ20の変速比の変化を抑制するようにしたので、短い時間の間に変速比小側への変速と変速比大側への変速が発生することによるバリエータ20の変速ロスによる燃費悪化、バリエータ20の変速に起因する元圧変動及び副変速機構30への入力トルクの変動による副変速機構30の制御性悪化を防止することができる(請求項2に対応する効果)。
【0075】
また、非協調変速では副変速機構30の変速タイミングが早まるためにスルー変速比Ratioが到達スルー変速比DRatioを超える可能性があるが、プライマリ回転速度Npriのオーバーシュートやオーバーレブが起こると判定された場合には非協調変速を行わず、協調変速を行うようにしたので、オーバーシュートが運転者に与える違和感、オーバーレブがエンジン1や変速機4に与える悪影響を防止することができる(請求項3、4に対応する効果)。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0077】
例えば、上記実施形態では、バリエータ20としてベルト式無段変速機構を備えているが、バリエータ20は、Vベルト23の代わりにチェーンがプーリ21、22の間に掛け回される無段変速機構であってもよい。あるいは、バリエータ20は、入力ディスクと出力ディスクの間に傾転可能なパワーローラを配置するトロイダル式無段変速機構であってもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、副変速機構30は前進用の変速段として1速と2速の2段を有する変速機構としたが、副変速機構30を前進用の変速段として3段以上の変速段を有する変速機構としても構わない。
【0079】
また、副変速機構30をラビニョウ型遊星歯車機構を用いて構成したが、このような構成に限定されない。例えば、副変速機構30は、通常の遊星歯車機構と摩擦締結要素を組み合わせて構成してもよいし、あるいは、ギヤ比の異なる複数の歯車列で構成される複数の動力伝達経路と、これら動力伝達経路を切り換える摩擦締結要素とによって構成してもよい。
【0080】
また、プーリ21、22の可動円錐板を軸方向に変位させるアクチュエータとして油圧シリンダ23a、23bを備えているが、アクチュエータは油圧で駆動されるものに限らず電気的に駆動されるものあってもよい。
【符号の説明】
【0081】
4…無段変速機
11…油圧制御回路
12…変速機コントローラ
20…バリエータ(無段変速機構)
21…プライマリプーリ
22…セカンダリプーリ
23…Vベルト
30…副変速機構
32・・・Lowブレーキ(締結側摩擦締結要素)
33・・・Highクラッチ(解放側摩擦締結要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される無段変速機であって、
変速比を無段階に変化させることができる無段変速機構(以下、「バリエータ」という。)と、
前記バリエータに対して直列に設けられ、前進用変速段として第1変速段と該第1変速段よりも変速比の小さな第2変速段とを有する副変速機構と、
前記車両の運転状態に基づき、該運転状態で前記バリエータ及び前記副変速機構の全体の変速比(以下、「スルー変速比」という。)が到達すべき目標値である到達スルー変速比を設定する到達スルー変速比設定手段と、
前記スルー変速比を所定の過渡応答で前記到達スルー変速比に追従させるための過渡的な目標値である目標スルー変速比を前記到達スルー変速比に基づき設定する目標スルー変速比設定手段と、
前記スルー変速比が前記目標スルー変速比となるように前記バリエータ及び前記副変速機構の少なくとも一方を制御する変速制御手段と、
前記副変速機構の変速段を変更する場合、前記スルー変速比が前記目標スルー変速比となるように、前記副変速機構の変速比を変化させつつ前記副変速機構の変速比の変化方向と逆の方向に前記バリエータの変速比を変化させる協調変速を行う協調変速手段と、
アクセルペダルが踏み込まれたことで前記第2変速段から前記第1変速段への前記副変速機構の変速段の変更を伴うキックダウン変速(以下、「2速キックダウン変速」という。)が行われることを判定する2速キックダウン変速判定手段と、
前記2速キックダウン変速判定手段により前記2速キックダウン変速が行われると判定されたときに、前記協調変速手段による前記協調変速に代えて、前記スルー変速比と前記目標スルー変速比のずれを許容しつつ、前記副変速機構の変速段を前記協調変速のときよりも速い速度で前記第2変速段から前記第1変速段に変更する非協調変速を行う非協調変速手段と、
を備えたことを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の無段変速機であって、
前記非協調変速中の前記バリエータの変速比の変化を抑制するバリエータ変速抑制手段、
を備えたことを特徴とする無段変速機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の無段変速機であって、
前記非協調変速により前記無段変速機の入力回転速度が、前記スルー変速比が前記到達スルー変速比まで変化したときに得られる前記無段変速機の入力回転速度よりも所定の上昇幅以上高くなるオーバーシュートが起こるか判定するオーバーシュート判定手段と、
前記オーバーシュート判定手段によって前記オーバーシュートが起こると判定された場合は、前記非協調変速手段は前記2速キックダウン変速が行われると判定されたときであっても前記非協調変速を行わず、前記協調変速手段が前記協調変速を行う、
ことを特徴とする無段変速機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の無段変速機であって、
前記非協調変速により前記無段変速機の入力回転速度が所定の上限値よりも高くなるオーバーレブが起こるか判定するオーバーレブ判定手段と、
前記オーバーレブ判定手段によって前記オーバーレブが起こると判定された場合は、前記非協調変速手段は前記2速キックダウン変速が行われると判定されたときであっても前記非協調変速を行わず、前記協調変速手段が前記協調変速を行う、
を備えたことを特徴とする無段変速機。
【請求項5】
車両に搭載される無段変速機であって、変速比を無段階に変化させることができる無段変速機構(以下、「バリエータ」という。)と、前記バリエータに対して直列に設けられ、前進用変速段として第1変速段と該第1変速段よりも変速比の小さな第2変速段とを有する副変速機構と、を備えた無段変速機の制御方法であって、
前記車両の運転状態に基づき、該運転状態で前記バリエータ及び前記副変速機構の全体の変速比(以下、「スルー変速比」という。)が到達すべき目標値である到達スルー変速比を設定する到達スルー変速比設定工程と、
前記スルー変速比を所定の過渡応答で前記到達スルー変速比に追従させるための過渡的な目標値である目標スルー変速比を前記到達スルー変速比に基づき設定する目標スルー変速比設定工程と、
前記スルー変速比が前記目標スルー変速比となるように前記バリエータ及び前記副変速機構の少なくとも一方を制御する変速制御工程と、
前記副変速機構の変速段を変更する場合、前記スルー変速比が前記目標スルー変速比となるように、前記副変速機構の変速比を変化させつつ前記副変速機構の変速比の変化方向と逆の方向に前記バリエータの変速比を変化させる協調変速を行う協調変速工程と、
アクセルペダルが踏み込まれたことで前記第2変速段から前記第1変速段への前記副変速機構の変速段の変更を伴うキックダウン変速(以下、「2速キックダウン変速」という。)が行われることを判定する2速キックダウン変速判定工程と、
前記2速キックダウン変速判定工程により前記2速キックダウン変速が行われると判定されたときに、前記協調変速工程による前記協調変速に代えて、前記スルー変速比と前記目標スルー変速比のずれを許容しつつ、前記副変速機構の変速段を前記協調変速のときよりも速い速度で前記第2変速段から前記第1変速段に変更する非協調変速を行う非協調変速工程と、
を含むことを特徴とする無段変速機の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−21716(P2011−21716A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169142(P2009−169142)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】