説明

無段変速機

【課題】高負荷域及び高回転域においてミスアライメントを小さくすることができる無段変速機を提供すること。
【解決手段】プライマリシャフト31に設けられたプライマリプーリ34と、セカンダリシャフト32に設けられたセカンダリプーリ35と、両プーリ34,35間に巻き掛けられたベルト33とを備え、各プーリ34,35間におけるベルト33の巻き掛け半径を変更されることにより、無段階の変速が行われる無段変速機30において、変速比が大きい高負荷域にて、出力トルクが大きくなるに従って各プーリ34,35における各溝の中心線のズレ量を調整するための調整幅を大きくしてズレ量を小さくするズレ量調整機構100を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸の回転を無段階に変速して出力軸に伝達する無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば自動車用エンジンの出力側に搭載される変速機として、ベルト式の無段変速機(いわゆる「CVT」:Continuously Variable Transmission)が知られている。この無段変速機は、互いに平行に配置された2つのシャフト(プライマリシャフト及びセカンダリシャフト)と、各シャフトにそれぞれ個別に設けられたプライマリプーリ及びセカンダリプーリとを有している。プライマリプーリ及びセカンダリプーリは、ともに、固定シーブと可動シーブとを組み合わせた構成となっている。具体的には、固定シーブは、各シャフトの外周に一体に設けられているのに対し、可動シーブは、その固定シーブに対して油圧制御により接離可能に設けられている。
【0003】
このようなベルト式の無段変速機においては、プライマリプーリ及びセカンダリプーリに、エレメントと金属リングにより構成されたベルトが巻き掛けられている。そして、油圧制御により各プーリの可動シーブを固定シーブに向かって進退移動させると、各プーリの半径方向におけるベルトの巻き掛け位置、言い換えれば、各プーリのベルトの巻き掛け半径が変更されるようになっている。このようにしてベルトの巻き掛け半径が変更されることにより、無段変速機における変速比が無段階に変更されるようになっている。
【0004】
ここで、上記の無段変速機では、各プーリの可動シーブを移動させて変速したとき、プライマリプーリとセカンダリプーリにおける各溝の中心線にズレ(以下、このズレを「ミスアライメント」と称す)が生じる。このミスアライメントが大きくなると、ベルトの挙動に悪影響を与えてしまい、動力損失が大きくなったり、あるいはベルトの耐久性が低下してしまうという問題があった。
【0005】
そのため、ミスアライメントをできるだけ小さくするための提案がなされている。例えば、特許文献1には、ベルトの耐久性を向上させるために、車速が最高速となる条件において、ミスアライメントがゼロになるようにされた無段変速機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−92124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の無段変速機では、高負荷域(変速比γが最大付近)において、ミスアライメントが大きくなるとともにトルクに応じた狭圧力がベルトに掛かるため、ベルトのエレメントがプーリに斜めに進入し、プーリとベルト(エレメント)との間における面圧が増加する。その結果、プーリ及びベルト(エレメント)の摩耗が増加してしまい、滑りやすくなり動力伝達効率が低下する(動力損失が大きくなる)という問題があった。
【0008】
ここで、高負荷時のアンダードライブ(変速比γが最大)状態において、ミスアライメントをゼロにすることはできるが、その場合にはベルトが高速回転する高回転域において、ミスアライメントが大きくなるため、ベルトのエレメントがプーリに斜めに進入し片側に強い力(ヨー回転モーメント)を受ける。その結果、ベルトの挙動が悪化して、左右の金属リングのうち一方に応力が集中してしまい、ベルトの耐久性が低下してしまう。
【0009】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、高負荷域及び高回転域においてミスアライメントを小さくすることができる無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、入力軸に設けられた駆動プーリと、出力軸に設けられた従動プーリと、両プーリ間に巻き掛けられた伝動部材とを備え、各プーリ間における前記伝動部材の巻き掛け半径を変更されることにより、無段階の変速が行われる無段変速機において、変速比が大きい高負荷域にて、出力トルクが大きくなるに従って前記各プーリにおける各溝の中心線のズレ量を調整するための調整幅を大きくして前記ズレ量を小さくするズレ量調整機構を有することを特徴とする。
【0011】
この無段変速機では、各プーリ間における伝動部材の巻き掛け半径が変更されて変速されたときにミスアライメントが生じる。そして、このミスアライメントは、高負荷域において大きくなる。すなわち、出力トルクが大きくなるに従ってミスアライメントが大きくなる。そのため、この無段変速機では、ズレ量調整機構により、変速比が大きい高負荷域にて、出力トルクが大きくなるに従って各プーリにおける各溝の中心線のズレ量を調整する調整幅が大きくされるため中心線間のずれが小さくなる。これにより、高負荷域において、ミスアライメントを小さくすることができる。
【0012】
そして、従来と同様に、車速が最高速となる条件において、ミスアライメントが最小になるように初期設定すれば、高回転域でもミスアライメントを小さくすることができる。これにより、高負荷域及び高回転域においてミスアライメントを小さくすることができる。
【0013】
上記した無段変速機において、前記ズレ量調整機構は、さらに、変速比が小さい高回転域にて、出力軸の回転数が大きくなるに従って前記各プーリにおける各溝の中心線のズレ量を調整するための調整幅を大きくして前記ズレ量を小さくすることが望ましい。
【0014】
このようにすることにより、高回転域においては、ズレ量調整機構により、出力軸の回転数が大きくなるに従って各プーリにおける各溝の中心線のズレ量を調整する調整幅が大きくされるため中心線間のずれが小さくなる。これにより、高負荷域において、ミスアライメントをより小さくすることができる。
【0015】
上記した無段変速機において、変速比γが1(γ=1)のときに前記ズレ量がゼロとされていることが望ましい。
【0016】
このようにすることにより、変速比が1のときにミスアライメントがゼロになるとともに、変速比が1より大きい高負荷域、及び変速比が1より小さい高回転域において、ミスアライメントが小さくされているため、無段変速機の使用領域全域において、ミスアライメントを小さくすることができる。
【0017】
上記した無段変速機において、前記ズレ量調整機構は、前記従動プーリを回転可能に支持する軸受と変速機ケースとの間に配置され、前記従動プーリを前記出力軸方向に付勢する弾性部材と、前記従動プーリを前記出力軸方向に付勢するためのプリセット荷重を前記弾性部材に付与するプリセット荷重付与手段と、を備えていれば良い。
【0018】
このように、弾性部材とプリセット荷重付与手段との簡単な構成によりズレ量調整機構を実現することができ、高負荷域において、ミスアライメントを小さくすることができる。
なお、プリセット荷重付与手段として、軸受を変速機ケースに固定するために従来から使用されている軸受押さえ機構を利用することができる。そのため、弾性部材を新たに追加すれば良いため、非常に簡単かつ安価にズレ量調整機構を実現することができる。
【0019】
上記した無段変速機において、前記ズレ量調整機構は、前記出力軸の回転による遠心力により径方向外側へ移動して変速機ケースの内壁に形成されたテーパ面に接触する回転部材と、前記回転部材を径方向内側へ付勢する弾性部材と、を備えていれば良い。
【0020】
このように、回転部材と弾性部材との簡単な構成によりズレ量調整機構を実現することができ、高回転域において、ミスアライメントを小さくすることができる。
【0021】
上記した無段変速機において、前記ズレ量調整機構は、前記従動プーリを軸方向に移動させるアクチュエータを備えていることが望ましい。
【0022】
このようなアクチュエータを備えていることにより、各プーリにおける各溝の中心線のズレ量に応じて従動プーリを移動させることができるため、ミスアライメントを確実に小さく、さらにはゼロにすることができる。
【0023】
そして、前記アクチュエータは、前記出力軸の回転数に基づき予め決定されている移動量だけ前記従動プーリを移動させれば良い。
【0024】
このようにすることにより、出力軸の回転数つまり車速に応じて各プーリにおける各溝の中心線のズレ量を小さくすることができる。そのため、高回転域において、ミスアライメントを確実に小さくすることができる。
【0025】
また、前記アクチュエータは、前記出力軸の回転数、前記入力軸の回転数、及び入力トルクに基づき算出される移動量だけ前記従動プーリを移動させても良い。
【0026】
このようにすることにより、変速比に応じて各プーリにおける各溝の中心線のズレ量をゼロにすることができる。そのため、無段変速機の使用領域全域において、ミスアライメントをゼロにすることができる。
【0027】
あるいは、前記アクチュエータは、前記出力軸の回転数及び前記入力軸の回転数に基づき算出される前記ズレ量をゼロにするように前記従動プーリを移動させても良い。
【0028】
このようにしても、変速比に応じて各プーリにおける各溝の中心線のズレ量をゼロにすることができる。そのため、無段変速機の使用領域全域において、ミスアライメントをゼロにすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る無段変速機によれば、上記した通り、高負荷域及び高回転域においてミスアライメントを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ベルト式無段変速機を備えるトランスアクスルのスケルトン図である。
【図2】高負荷域における第1の実施の形態に係るベルト式無段変速機の要部の状態を示す断面図である。
【図3】高回転域における第1の実施の形態に係るベルト式無段変速機の要部の状態を示す断面図である。
【図4】ズレ量調整機構の断面図である。
【図5】車速とカウンタドリブンギヤに作用するスラスト力との関係を示す図である。
【図6】変速比とミスアライメントとの関係を示す図である。
【図7】第2の実施の形態に係るベルト式無段変速機の要部を示す断面図である。
【図8】第2の実施の形態に係るズレ量調整機構の制御系を示すブロック図である。
【図9】変速比とミスアライメントとの関係を示す図である。
【図10】第3の実施の形態に係るベルト式無段変速機の要部を示す断面図である。
【図11】第3の実施の形態に係るズレ量調整機構の制御系を示すブロック図である。
【図12】変速比とミスアライメントとの関係を示す図である。
【図13】第4の実施の形態に係るベルト式無段変速機の要部を示す断面図である。
【図14】第4の実施の形態に係るズレ量調整機構の制御系を示すブロック図である。
【図15】変速比とミスアライメントとの関係を示す図である。
【図16】ズレ量調整機構におけるおもりの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の無段変速機を具体化した実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。ここでは、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両に搭載されたベルト式無段変速機に本発明を適用した場合を例示する。なお、図面において、エンジンが配置される側をFr(フロント)方向側とし、その逆側をRr(リヤ)方向側とする。
【0032】
[第1の実施の形態]
そこでまず、本実施の形態に係るベルト式無段変速機が搭載されたトランスアクスルの全体構成について、図1を参照しながら説明する。図1は、トランスアクスルのスケルトン図である。
図1に示すように、エンジン1のクランクシャフト1aの回転動力は動力伝達系2を介して車輪3に伝達されるようになっている。エンジン1および動力伝達系2は、エンジン制御装置(ECU)4により制御される。
【0033】
動力伝達系2は、クラッチとしてのトルクコンバータ10、前後進切り替え機構20、ベルト式無段変速機30、減速機構40、差動装置50を有している。これらの構成について、以下で簡単に説明する。
【0034】
トルクコンバータ10は、ポンプインペラ13aとタービンランナ13bとの回転速度差が大きいときにトルク増幅機として機能し、両者の回転速度差が小さくなると、流体継手として機能する。
このトルクコンバータ10の動作としては、エンジン1のクランクシャフト1aの回転にともない、ドライブプレート11およびフロントカバー12を介してポンプインペラ13aが回転し、オイルポンプ14から供給される作動液の流れによりタービンランナ13bが引きずられるようにして回転し始める。ポンプインペラ13aとタービンランナ13bとの回転速度差が大きいときに、ステータ13cが作動液の流れをポンプインペラ13aの回転を助ける方向に変換する。
【0035】
そして、車両の発進後、車速が所定速度に達すると、ロックアップクラッチ15が作動して、エンジン1からフロントカバー12に伝えられた動力が入力シャフト16に機械的かつ直接に伝達されるようになる。また、フロントカバー12から入力シャフト16に伝達されるトルクの変動は、ダンパ機構17によって吸収されるようになっている。
【0036】
前後進切り替え機構20は、ダブルピニオン形式の遊星歯車機構21と、フォワードクラッチ22と、リバースブレーキ23とを有している。
遊星歯車機構21のサンギヤ21aが入力シャフト16に、また、遊星歯車機構21のキャリア21bがベルト式無段変速機30のプライマリシャフト31にそれぞれ連結されており、フォワードクラッチ22およびリバースブレーキ23を制御することにより動力伝達経路を変更して前進回転動力(正回転方向)や後進回転動力(逆回転方向)に切り替えるようになっている。
【0037】
ベルト式無段変速機30は、入力軸であるプライマリシャフト31の回転を無段階に変速して出力軸であるセカンダリシャフト32に伝達するものである。プライマリシャフト31のプライマリプーリ(駆動プーリ)34とセカンダリシャフト32のセカンダリプーリ(従動プーリ)35とにベルト33が巻き掛けられている。プライマリプーリ34およびセカンダリプーリ35は、ともに、固定シーブと可動シーブとを組み合わせた構成となっている。プライマリシャフト31およびセカンダリシャフト32は、例えば、鉄等の金属からなる。ベルト33は、多数の金属製のエレメントおよび複数本の金属リングを有して構成されている。
【0038】
プライマリシャフト31は、トルクコンバータ10の入力シャフト16とほぼ同軸となるように、ベアリング61,62を介してFrケース81に一体的に設けられた隔壁部81aおよびRrケース82に軸方向に支持されている。セカンダリシャフト32は、プライマリシャフト31と平行となるように、ベアリング63,64を介してFrケース81およびRrケース82に支持されている。なお、ベアリング63は、セカンダリシャフト32の軸方向移動を許容するものであり、ベアリング64は、Rrケース82に対し摺動可能となっている。また、Frケース81とRrケース82とで変速機ケース80が構成されている。
【0039】
プライマリプーリ34は、プライマリシャフト31の外周に一体に形成される固定シーブ34aと、プライマリシャフト31の外周に軸方向変位可能に装着される可動シーブ34bとからなっており、固定シーブ34aと可動シーブ34bとによりベルト33が挟持されている。そして、可動シーブ34bを油圧アクチュエータ36で駆動することにより、両シーブ34a,34b間のV溝幅が変更される。これにより、プライマリプーリ34の半径方向におけるベルト33の巻き掛け位置、言い換えれば、プライマリプーリ34のベルト33の巻き掛け半径が変更される。
【0040】
セカンダリプーリ35は、セカンダリシャフト32の外周に一体に形成される固定シーブ35aと、セカンダリシャフト32の外周に軸方向変位可能に装着される可動シーブ35bとからなっており、固定シーブ35aと可動シーブ35bとによりベルト33が挟持されている。そして、可動シーブ35bを油圧アクチュエータ37で駆動することにより、両シーブ35a,35b間のV溝幅が変更される。これにより、セカンダリプーリ35の半径方向におけるベルト33の巻き掛け位置、言い換えれば、セカンダリプーリ35のベルト33の巻き掛け半径が変更される。
【0041】
このように、ベルト式無段変速機30では、油圧アクチュエータ36,37で各プーリ34,35の可動シーブ34b,35bを固定シーブ34a,35aに向かって進退移動させて、各プーリ34,35のV溝幅を調整することにより、各プーリ34,35の半径方向におけるベルト33の巻き掛け位置(巻き掛け半径)を変更して、このベルト式無段変速機30による変速比γを変更するようになっている。
【0042】
そして、各プーリ34,35の可動シーブ34b,35bの移動により、プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35における各V溝の中心線がずれてミスアライメントM(図2、図3参照)が発生する。なお、ベルト式無段変速機30では、変速比γが1(γ=1)のときに、ミスアライメントMがゼロ(M=0)となるように設定されている。このミスアライメントMが大きくなると、ベルト33の挙動に悪影響を与えてしまい、動力損失が大きくなったり、あるいはベルト33の耐久性が低下してしまう。
そこで、ベルト式無段変速機30には、ミスアライメントMを小さくするために、セカンダリプーリ35の軸方向位置、言い換えると移動量(ズレ量を調整するための調整幅)を調整して上記中心線間のズレを小さくするズレ量調整機構が設けられている。なお、ズレ量調整機構の詳細については後述する。
【0043】
減速機構40は、互いに噛合する二つのカウンタドリブンギヤ41,42と、ファイナルドライブギヤ43とを有している。第1のカウンタドリブンギヤ41は、ベルト式無段変速機30のセカンダリシャフト32に固定されている。第2のカウンタドリブンギヤ42およびファイナルドライブギヤ43は、セカンダリシャフト32とほぼ平行に配置されたインターミディエートシャフト45にそれぞれ軸方向に離隔して固定されている。なお、インターミディエートシャフト45は、ベアリング67,68を介してそれぞれ支持されている。
【0044】
そして、カウンタドリブンギヤ41は、ヘリカルギヤで構成され、同じくこのカウンタドリブンギヤ41に噛み合うカウンタドリブンギヤ42もヘリカルギヤで構成されている。これらのヘリカルギヤの捩じり方向は、カウンタドリブンギヤ41からカウンタドリブンギヤ42に動力が伝達される際に、その噛合い反力がカウンタドリブンギヤ41にRr方向(図1において左方向)にスラスト力を発生させるように設定されている(図2、図3参照)。
【0045】
差動装置(最終減速装置)50は、上述の減速機構40から伝達された回転動力を左右一対のアクスルシャフト51,52に連結される車輪3に適宜の比率で分配して伝達するものである。そして、差動装置50は、デフケース53内に配置されている。
【0046】
次に、ベルト式無段変速機30におけるズレ量調整機構について説明する。本実施の形態では、2つのズレ量調整機構を備えている。そこで、本実施の形態に係る2つのズレ量調整機構について、図2〜図5を参照しながら説明する。図2は、高負荷域におけるベルト式無段変速機の要部の状態を示す断面図である。図3は、高回転域におけるベルト式無段変速機の要部の状態を示す断面図である。図4は、ズレ量調整機構の断面図である。図5は、車速とカウンタドリブンギヤに作用するスラスト力(出力トルクに比例)との関係を示す図である。なお、図5に示す破線は、変速比を固定した場合における車速とスラスト力との関係を示している。
【0047】
本実施の形態では、ミスアライメントを小さくするためのズレ量調整機構として、図2、図3に示すように、2種類のズレ量調整機構100,200を有している。
ズレ量調整機構100は、セカンダリシャフト32のRr側(図2、図3において左端部)に設けられている。このズレ量調整機構100は、高負荷域において発生するミスアライメントMを小さくするものである。ズレ量調整機構100は、ベアリング64と変速機ケース80(Rrケース82)との間に配置され、セカンダリプーリ35をFr方向(図2、図3において右方向)に付勢する弾性部材としての皿バネ101と、皿バネ101に所定のプリセット荷重を付与するためのプリセット荷重付与手段としてのベアリングプレート102及びボルト103とを備えている。
【0048】
そして、ベアリングプレート102には、ボルト103が螺合するネジ孔が形成されており、ボルト103をベアリングプレート102のネジ孔に螺合させ締め付けることにより、ベアリングプレート102を介して皿バネ101に所定のプリセット荷重を付与することができるようになっている。すなわち、ベアリングプレート102のベアリング64への押し付け荷重、言い換えれば、ベアリングプレート102を固定するボルト103の締め付け荷重を調整することにより、皿バネ101に所定のプリセット荷重を付与することができるのである。このようなベアリングプレート102及びボルト103は、従来から無段変速機に備わっているため、ズレ量調整機構100は、皿バネ101を新たに設けただけの非常に簡単な構造で実現することができる。
【0049】
ここで、皿バネ101のプリセット荷重PF1は、図5に示すように、変速比γがγ=1のときにカウンタドリブンギヤ41(セカンダリシャフト32)に作用するスラスト力と同じに設定すれば良い。ベルト式無段変速機30では、γ=1のときにミスアライメントMがM=0となるように設定されているため(図6参照)、このように皿バネ101のプリセット荷重PF1を設定することにより、変速比γが1よりも大きい高負荷域において、カウンタドリブンギヤ41に作用するRr方向へのスラスト力が皿バネ101の付勢力に打ち勝って、セカンダリプーリ35(セカンダリシャフト32)がRr方向へ移動することによりミスアライメントMを小さくすることができるからである。このようにして、ズレ量調整機構100では、高負荷域においてのみ機能するようになっている(図5に示す斜線部(1)参照)。
【0050】
一方、ズレ量調整機構200は、セカンダリシャフト32のFr側(図2、図3において右端部)に設けられている。このズレ量調整機構200は、高回転域において発生するミスアライメントMを小さくするものである。ズレ量調整機構200は、ベアリング63とカウンタドリブンギヤ41との間に配置され、セカンダリシャフト32の回転による遠心力により径方向外側へ移動してFrケース81の内壁に形成された45°のテーパ面81bに接触する回転部材であるおもり201と、おもり201を径方向内側へ付勢する弾性部材としてのバネ202と、おもり201の大半とバネ202を収容してセカンダリシャフト32に固定されたケース203とを備えている。なお、おもり201の外周側端部は、ケース203の外部に位置している。
【0051】
おもり201は、図4に示すように、等間隔に4つ設けられており、その外周側端部にはテーパ面81bに当接する球状の当接部201aが形成されている。このようなおもり201は、縮設されたバネ202により径方向内側へ付勢されてケース203内に配置されている。このように、ズレ量調整機構200も簡単な構成により、実現することができる。
【0052】
ここで、バネ202のプリセット荷重PF2は、変速比γがγ=1の際における最高エンジン回転数のときに、おもり201に作用する遠心力よりも大きく設定すれば良い(図5参照)。このようにバネ202のプリセット荷重を設定することにより、変速比γが1よりも小さい高回転域において、セカンダリシャフト32に作用する遠心力がバネ202の付勢力に打ち勝って、おもり201が径方向外側に移動する。それにより、おもり201の当接部201aがテーパ面81bに当接してセカンダリプーリ35(セカンダリシャフト32)がRr方向へ移動することによりミスアライメントMを小さくすることができるからである。このようにして、ズレ量調整機構200では、高回転域においてのみ機能するようになっている(図5に示す斜線部(2)参照)。
【0053】
続いて、上記したベルト式無段変速機30の動作について、図6を参照しながら説明する。図6は、変速比とミスアライメントとの関係を示す図である。
まず、ベルト式無段変速機30では、図6に示すように、変速比γがγ=1のときにミスアライメントMがM=0となるように初期設定されている。そして、負荷が大きい領域(γ>1)においては、ズレ量調整機構がない場合、図6に一点鎖線で示すように、ミスアライメントMが大きくなるとともに負荷に応じた狭圧力がベルト33に掛かるため、ベルト33のエレメントが各プーリ34,35に斜めに進入し、各プーリ34,35のシーブ面とベルト33(エレメント)との間における面圧が増加する。そのため、プーリ34,35及びベルト33の摩耗が増加してしまい、滑りやすくなり動力伝達効率が低下する(動力損失が大きくなる)。
【0054】
これに対して、ベルト式無段変速機30では、変速比が1より大きくなると(γ>1)、カウンタドリブンギヤ41に作用するRr方向へのスラスト力が、ズレ量調整機構100における皿バネ101の付勢力(プリセット荷重PF1)に打ち勝って、セカンダリプーリ35(セカンダリシャフト32)がRr方向へ移動する。そして、出力トルクが大きくなるに従って上記スラスト力も大きくなるため、ズレ量の調整幅に相当するこの移動量(図6に示す一点鎖線と実線との差分)も大きくなっていく。そのため、各プーリ34,35における各V溝の中心線のズレが小さくなる。これにより、変速比が大きくなるに従って増大していくミスアライメントMを、ズレ量調整機構100によって図6に実線で示すように小さくすることができる。
その結果、ベルト33のエレメントが各プーリ34,35に真直ぐに進入するため、各プーリ34,35とベルト33(エレメント)との間における面圧が増加しない。従って、高負荷のときに発生しやすい、プーリ34,35及びベルト33の摩耗を抑制することができるので、滑りが低減されて動力伝達効率を向上させることができる。
【0055】
一方、高回転領域(γ<1)においては、ズレ量調整機構がない場合、図6に一点鎖線で示すように、ミスアライメントMが大きくなるため、ベルト33のエレメントがプーリ34,35に斜めに進入し片側に強い力(ヨー回転モーメント)を受ける。そのため、ベルト33の挙動が悪化して、左右の金属リングのうち一方に応力が集中してしまい、ベルト33の耐久性が低下する。
【0056】
これに対して、ベルト式無段変速機30では、変速比が1より小さくなると(γ<1)、ズレ量調整機構200におけるおもり201に作用する遠心力が、バネ202の付勢力(プリセット荷重PF2)に打ち勝って、おもり201が径方向外側に移動する。それにより、おもり201の当接部201aがテーパ面81bに当接してセカンダリプーリ35(セカンダリシャフト32)がRr方向へ移動する。そして、セカンダリシャフト32の回転数が大きくなるに従って遠心力が大きくなるため、ズレ量の調整幅に相当するこの移動量(図6に示す一点鎖線と実線との差分)も大きくなっていく。そのため、各プーリ34,35における各V溝の中心線のズレが小さくなる。これにより、変速比が小さくなるに従って増大していくミスアライメントMを、ズレ量調整機構200によって図6に実線で示すように小さくすることができる。
その結果、ベルト33のエレメントが各プーリ34,35に真直ぐに進入するため、ベルト33のエレメントに余計なヨー回転モーメントが発生しない。従って、高回転のときに発生しやすい、左右の金属リングのうち一方への応力集中を抑制することができるので、ベルト33の耐久性を向上させることができる。
【0057】
以上、詳細に説明したように第1の実施の形態に係る無段変速機30では、変速比γ=1のときにミスアライメントMをゼロに設定して、ズレ量調整機構100によって高負荷域におけるミスアライメントMを小さく、ズレ量調整機構200によって高回転域におけるミスアライメントMを小さくすることができる。従って、無段変速機30によれば、使用領域全域において、ミスアライメントMを小さくすることができるため、動力伝達効率を向上させるとともに、ベルト33の耐久性を向上させることができる。
【0058】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、上記した第1の実施の形態と基本的な構成は同じであるが、高回転域におけるミスアライメントMを調整するズレ量調整機構の構成が異なっている。
そこで、第1の実施の形態に係る無段変速機について、図7及び図8を参照しながら説明する。図7は、第2の実施の形態に係るベルト式無段変速機の要部を示す断面図である。図8は、第2の実施の形態に係るズレ量調整機構の制御系を示すブロック図である。以下の説明では、第1の実施の形態との相違点を中心に説明し、第1の実施の形態と同様の構成については図面に同じ符号を付してその説明を適宜省略する。
【0059】
図7に示すように、第2の実施の形態に係るベルト式無段変速機30aでは、ズレ量調整機構300の構成が、第1の実施の形態におけるズレ量調整機構200とは異なっている。具体的には、ズレ量調整機構300が、セカンダリプーリ35(セカンダリシャフト32)を軸方向Rr側(図7では左方向)へ移動させる油圧アクチュエータを備えている。すなわち、ズレ量調整機構300には、Frケース81に形成された油圧室301と、セカンダリシャフト32のFr側端面に当接しつつ油圧室301に摺動可能に配置されたシリンダ302と、油圧室301内における油圧を制御する油圧制御弁303と、油圧を発生させるオイルポンプ304と、セカンダリシャフト32(セカンダリプーリ35)の回転数を検出する回転数センサ305とが備わっている。回転数センサ305からの出力信号はECU4に入力されるようになっている。なお、回転数センサ305で検出されるセカンダリシャフト32の回転数は車速に比例する。
【0060】
このズレ量調整機構300の動作は、ECU4によって制御されるようになっている。具体的には、図8に示すように、油圧室301の油圧が、回転数センサ305で検出された回転数Aに応じて予め決定されている(マップで算出される)目標油圧Pとなるように、ECU4によって油圧制御弁303の動作が制御される。これにより、回転数Aに比例する車速に応じて、各プーリ34,35における各溝の中心線のズレ量を小さくするように、シリンダ302によってセカンダリシャフト32(セカンダリプーリ35)を移動させることができるようになっている。なお、シリンダ302に作用する油圧を解放すると、皿バネ101の付勢力によってセカンダリシャフト32(セカンダリプーリ35)がFr方向(図7では右方向)へ移動する。
【0061】
続いて、上記したベルト式無段変速機30aの動作について、図9を参照しながら説明する。図9は、変速比とミスアライメントとの関係を示す図である。なお、図9において、破線は、従来例を示している。
まず、ベルト式無段変速機30aでも、図9に示すように、変速比γがγ=1のときにミスアライメントMがM=0となるように初期設定されている。そして、負荷が大きい領域(γ>1)においては、第1の実施の形態と同様に、ズレ量調整機構100によってミスアライメントMを小さくすることができる。なお、図9における一点鎖線は、ズレ量調整機構がない場合を示している。
【0062】
そして、ベルト式無段変速機30aでは、変速比γが1より小さくなる(γ<1)領域において、ズレ量調整機構300が作動する。すなわち、図8に示すように、γ<1となるセカンダリシャフト32の回転数域において、回転数(車速)が大きくなるに従って目標油圧Pが大きく設定される。これにより、車速に応じてシリンダ302に作用する油圧が変更されて、セカンダリシャフト32の移動量が調整され、各プーリ34,35における各V溝の中心線のズレが小さくなる。そのため、図9に実線で示すように、ミスアライメントMを小さくすることができる。
【0063】
このようにして、第2の実施の形態に係るベルト式無段変速機30aでは、変速比γ=1のときにミスアライメントMをゼロに設定して、ズレ量調整機構100によって高負荷域におけるミスアライメントMを小さく、ズレ量調整機構300によって高回転域におけるミスアライメントMを小さくすることができる。
従って、無段変速機30aによれば、使用領域全域において、ミスアライメントMを小さくすることができるため、動力伝達効率を向上させるとともに、ベルト33の耐久性を向上させることができる。
【0064】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態は、上記した第2の実施の形態と基本的な構成は同じであるが、ミスアライメントMを調整するズレ量調整機構における制御が異なっている。
そこで、第3の実施の形態に係る無段変速機について、図10及び図11を参照しながら説明する。図10は、第3の実施の形態に係るベルト式無段変速機の要部を示す断面図である。図11は、第3の実施の形態に係るズレ量調整機構の制御系を示すブロック図である。以下の説明では、第2(及び第1)の実施の形態との相違点を中心に説明し、第2(及び第1)の実施の形態と同様の構成については図面に同じ符号を付してその説明を適宜省略する。
【0065】
図10に示すように、第3の実施の形態に係るベルト式無段変速機30bにおけるズレ量調整機構310には、油圧室301と、シリンダ302と、油圧制御弁303と、オイルポンプ304と、回転数センサ305と、プライマリプーリ34(プライマリシャフト31)の回転数を検出する回転数センサ311とが備わっている。すなわち、ズレ量調整機構310では、第2の実施の形態と比べ、新たに回転数センサ311が設けられている。この回転数センサ311を設けることにより、ベルト式無段変速機30bにおける変速比γを算出することができるようになっている。
【0066】
このズレ量調整機構310の動作は、ECU4によって制御されるようになっている。具体的には、図11に示すように、回転数センサ305の出力信号(回転数A)と回転数センサ311の出力信号(回転数B)に基づき、変速比γ(=A/B)が算出される。そうすると、算出された変速比γからマップに基づきズレ量mが算出される。一方、エンジン1の出力トルクTeと変速比γからセカンダリプーリ35の出力トルクが算出される。そして、セカンダリプーリ35の出力トルクとカウンタドリブンギヤ(出力ギヤ)41の諸元から、カウンタドリブンギヤ41に作用するスラスト力が算出される。その後、そのスラスト力と皿バネ101のバネ定数kから、スラスト力によるセカンダリシャフト32の変位xout が算出される。
【0067】
次に、ズレ量mと変位xout から現時点におけるミスアライメントM(=m−xout )が算出される。そうすると、ミスアライメントMをゼロにするために必要な目標油圧P(=k・(m−xout )/S)が算出される。なお、Sはシリンダ302の受圧面積である。そして、油圧室301内の油圧が目標油圧Pとなるように、ECU4によって油圧制御弁303の動作が制御される。このようにして、ズレ量調整機構310では、変速比γに応じて各プーリ34,35における各溝の中心線のズレ量を小さくするように、シリンダ302に油圧を作用させることによりセカンダリシャフト32(セカンダリプーリ35)をRr方向(図10では左方向)に移動させることができるようになっている。なお、シリンダ302に作用する油圧を解放すると、皿バネ101の付勢力によってセカンダリシャフト32(セカンダリプーリ35)がFr方向(図10では右方向)へ移動する。
【0068】
続いて、上記したベルト式無段変速機30bの動作について、図12を参照しながら説明する。図12は、変速比とミスアライメントとの関係を示す図である。なお、図12において、破線は、従来例を示している。
まず、ベルト式無段変速機30bでも、図12に示すように、変速比γがγ=1のときにミスアライメントMがM=0となるように初期設定されている。そして、負荷が大きい領域(γ>1)においては、ズレ量調整機構100によってミスアライメントMを小さくする(図12に示す二点鎖線参照)とともに、さらにズレ量調整機構310によってミスアライメントMをゼロにすることができる。具体的には、ズレ量調整機構310では、ミスアライメントMをゼロにするために必要な目標油圧Pが算出され、その目標油圧Pによりシリンダ302が駆動されてセカンダリシャフト32の移動量(図12に示す二点鎖線と実線との差分相当)が調整され、各プーリ34,35における各V溝の中心線のズレがなくなる。そのため、図12に実線で示すように、ミスアライメントMをゼロにすることができる。なお、図12における一点鎖線は、ズレ量調整機構がない場合を示している。
【0069】
また、ベルト式無段変速機30bでは、変速比が1より小さくなる(γ<1)高回転域においても、ズレ量調整機構310により、ミスアライメントMをゼロにするために必要な目標油圧Pが算出され、その目標油圧Pによりシリンダ302が駆動されてセカンダリシャフト32の移動量(図12に示す一点(二点)鎖線と実線との差分相当)が調整され、各プーリ34,35における各V溝の中心線のズレがなくなる。そのため、図12に実線で示すように、ミスアライメントMをゼロにすることができる。
【0070】
このようにして、第3の実施の形態に係るベルト式無段変速機30bでは、変速比γ=1のときにミスアライメントMをゼロに設定して、ズレ量調整機構310によって、皿バネ101のバネ力とシリンダ302に作用させる油圧力の釣り合いで、セカンダリプーリ35の位置を制御することにより、高負荷域においてはズレ量調整機構100によってミスアライメントMを小さくしていき、ズレ量調整機構310によってミスアライメントMをゼロにすることができる。また、高回転域においてはズレ量調整機構310によってミスアライメントMをゼロにすることができる。
従って、無段変速機30bによれば、使用領域全域において、ミスアライメントMをゼロにすることができるため、動力伝達効率をより向上させるとともに、ベルト33の耐久性をより向上させることができる。
【0071】
[第4の実施の形態]
最後に、第4の実施の形態について説明する。第4の実施の形態は、上記した第2の実施の形態と基本的な構成は同じであるが、ミスアライメントMを調整するズレ量調整機構における構成および制御が異なっている。
そこで、第4の実施の形態に係る無段変速機について、図13及び図14を参照しながら説明する。図13は、第4の実施の形態に係るベルト式無段変速機の要部を示す断面図である。図14は、第4の実施の形態に係るズレ量調整機構の制御系を示すブロック図である。以下の説明では、第1〜第3の実施の形態との相違点を中心に説明し、第1〜第3の実施の形態と同様の構成については図面に同じ符号を付してその説明を適宜省略する。
【0072】
図13に示すように、第4の実施の形態に係るベルト式無段変速機30cでは、第1〜第3の実施の形態において設けられていたズレ量調整機構100がなく、ズレ量調整機構400のみが備わっている。このズレ量調整機構400は、セカンダリプーリ35(セカンダリシャフト32)を軸方向Rr側及びFr側(図13では左右方向)へ移動させる油圧アクチュエータを備えている。すなわち、ズレ量調整機構400には、Frケース81に形成された第1油圧室401及び第2油圧室402と、セカンダリシャフト32のFr側端部に連結され油圧室401,402に摺動可能に配置されたシリンダ403と、油圧室401,402に供給する作動元圧を設定する油圧制御弁404と、油圧室401,402に供給する油圧を制御するサーボ弁405と、油圧を発生させるオイルポンプ406と、回転数センサ305,311と、セカンダリプーリ35(セカンダリシャフト32)の位置を検出する位置センサ407とが備わっている。このように、ズレ量調整機構400では、復動型のシリンダとサーボ弁を使用して、セカンダリプーリ35を軸方向Rr側及びFr側へ精度良く移動させることができるようになっている。
【0073】
このズレ量調整機構400の動作は、ECU4によって制御されるようになっている。具体的には、図14に示すように、まず、回転数センサ305の出力信号(回転数A)と回転数センサ311の出力信号(回転数B)に基づき、変速比γ(=A/B)が算出される。そうすると、算出された変速比γからマップに基づき初期設定ズレ量m0 が算出される。この初期設定ズレ量m0 は、ズレ量調整機構400の制御を行わない場合に生じる各プーリ34,35の中心線間のズレ量である。
そして、初期設定ズレ量m0 の符号が反転させられて、セカンダリプーリ35(セカンダリシャフト32)の目標位置Yが算出される。一方、位置センサ407の出力信号からセカンダリプーリ35(セカンダリシャフト32)の軸方向における現在位置yが算出される。
【0074】
次に、目標位置Yと現在位置yとの差(Y−y)をなくす、言い換えるとミスアライメントMをなくすように、ECU4によってサーボアンプ405aを介して駆動電流iでサーボ弁405の動作が制御されて、第1油圧室401あるいは第2油圧室402に油圧が供給される。これにより、ミスアライメントMをなくすようにシリンダ403に所定の油圧が作用して、セカンダリシャフト32(セカンダリプーリ35)がRr方向(図13では左方向)あるいはFr方向(図13では右方向)に移動するようになっている。
【0075】
続いて、上記したベルト式無段変速機30cの動作について、図15を参照しながら説明する。図15は、変速比とミスアライメントとの関係を示す図である。なお、図15において、破線は、従来例を示している。
まず、ベルト式無段変速機30cでは、図15に示すように、変速比γがγ=1のときにミスアライメントMがM=0となるように初期設定されている。そして、変速比γが1以外の領域においては、ズレ量調整機構400によってミスアライメントMをゼロにすることができる。具体的には、ズレ量調整機構400では、位置センサ407によりセカンダリプーリ35(セカンダリシャフト32)の軸方向位置を検出してフィードバックさせて、ミスアライメントMがゼロになるようにサーボ弁405が駆動され、セカンダリシャフト32の移動量が調整され、各プーリ34,35における各V溝の中心線のズレがなくなる。そのため、図15に実線で示すように、ミスアライメントMをゼロにすることができる。なお、図15における一点鎖線は、ズレ量調整機構がない場合(初期設定状態)を示している。
【0076】
このようにして、第4の実施の形態に係るベルト式無段変速機30cでは、変速比γ=1のときにミスアライメントMをゼロに設定して、ズレ量調整機構400によって、第1油圧室401と第2油圧室402においてシリンダ403に作用させる油圧力を釣り合わすことにより、セカンダリプーリ35の位置を制御してミスアライメントMをゼロにすることができる。
従って、無段変速機30cによれば、使用領域全域において、ミスアライメントMをゼロにすることができるため、動力伝達効率をより向上させるとともに、ベルト33の耐久性をより向上させることができる。
【0077】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した第1の実施の形態において、ズレ量調整機構200におけるおもり201では、当接部201aが本体に一体化されているが、図16に示すおもり210のように、おもり本体211と当接部となる球体212とを別体で構成しても良い。具体的には、球体212を本体211に対し回転可能にかしめておもり210を構成すれば良い。これにより、おもり210がテーパ面81bに沿って移動する際に、球体212が回転して摩擦力が小さくなるため、接触部における耐久性を向上させることができる。
【0078】
また、上記した第1の実施の形態において、ズレ量調整機構200を設けることなく、ズレ量調整機構100のみを設けて、車両の最高速時にミスアライメントがゼロとなるように初期設定(従来例と同じ)しても良い。このような構成であっても、従来例に比べれば、ミスアライメントを小さくすることができる。
【0079】
さらに、上記した第2〜第4の実施の形態において、アクチュエータとして油圧式のものを用いているが、油圧式以外のもの(例えば、電動式など)を使用することもできる。
また、上記した実施の形態では、ベルト式無段変速機に本発明を適用した場合を例示したが、本発明はベルト式以外の無段変速機(例えば、チェーン式など)にも適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 エンジン
4 ECU
30 ベルト式無段変速機
31 プライマリシャフト(入力軸)
32 セカンダリシャフト(出力軸)
33 ベルト
34 プライマリプーリ(駆動プーリ)
34a 固定シーブ
34b 可動シーブ
35 セカンダリプーリ(従動プーリ)
35a 固定シーブ
35b 可動シーブ
36 油圧アクチュエータ
37 油圧アクチュエータ
41 カウンタドリブンギヤ
63 ベアリング
64 ベアリング
80 変速機ケース
81 Frケース
81a 隔壁部
81b テーパ面
82 Rrケース
100 ズレ量調整機構
101 皿バネ
102 ベアリングプレート
103 ボルト
200 ズレ量調整機構
201 おもり
201a 当接部
202 バネ
203 ケース
M ミスアライメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸に設けられた駆動プーリと、出力軸に設けられた従動プーリと、両プーリ間に巻き掛けられた伝動部材とを備え、各プーリ間における前記伝動部材の巻き掛け半径を変更されることにより、無段階の変速が行われる無段変速機において、
変速比が大きい高負荷域にて、出力トルクが大きくなるに従って前記各プーリにおける各溝の中心線のズレ量を調整するための調整幅を大きくして前記ズレ量を小さくするズレ量調整機構を有する
ことを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
請求項1に記載する無段変速機において、
前記ズレ量調整機構は、さらに、変速比が小さい高回転域にて、出力軸の回転数が大きくなるに従って前記各プーリにおける各溝の中心線のズレ量を調整するための調整幅を大きくして前記ズレ量を小さくする
ことを特徴とする無段変速機。
【請求項3】
請求項2に記載する無段変速機において、
変速比γが1(γ=1)のときに前記ズレ量がゼロとされている
ことを特徴とする無段変速機。
【請求項4】
請求項1に記載する無段変速機において、
前記ズレ量調整機構は、
前記従動プーリを回転可能に支持する軸受と変速機ケースとの間に配置され、前記従動プーリを前記出力軸方向に付勢する弾性部材と、
前記従動プーリを前記出力軸方向に付勢するためのプリセット荷重を前記弾性部材に付与するプリセット荷重付与手段と、
を備えている
ことを特徴とする無段変速機。
【請求項5】
請求項2から請求項4に記載するいずれか1つの無段変速機において、
前記ズレ量調整機構は、
前記出力軸の回転による遠心力により径方向外側へ移動して変速機ケースの内壁に形成されたテーパ面に接触する回転部材と、
前記回転部材を径方向内側へ付勢する弾性部材と、
を備えている
ことを特徴とする無段変速機。
【請求項6】
請求項1から請求項4に記載するいずれか1つの無段変速機において、
前記ズレ量調整機構は、前記従動プーリを軸方向に移動させるアクチュエータを備えている
ことを特徴とする無段変速機。
【請求項7】
請求項6に記載する無段変速機において、
前記アクチュエータは、前記出力軸の回転数に基づき予め決定されている移動量だけ前記従動プーリを移動させる
ことを特徴とする無段変速機。
【請求項8】
請求項6に記載する無段変速機において、
前記アクチュエータは、前記出力軸の回転数、前記入力軸の回転数、及び入力トルクに基づき算出される移動量だけ前記従動プーリを移動させる
ことを特徴とする無段変速機。
【請求項9】
請求項6に記載する無段変速機において、
前記アクチュエータは、前記出力軸の回転数及び前記入力軸の回転数に基づき算出される前記ズレ量をゼロにするように前記従動プーリを移動させる
ことを特徴とする無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−7397(P2013−7397A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138618(P2011−138618)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】