説明

無線通信装置

【課題】無線通信装置の筐体が開状態及び閉状態のいずれであっても送受信し、さらに互いに低相関である複数の無線信号の送受信を同時に実行する。
【解決手段】アンテナ装置が開状態にあるときスイッチSW1,SW2は開き、これにより、アンテナ素子1と接地導体3とは第1のダイポールアンテナとして動作し、アンテナ素子2と接地導体3とは、非励振スリットSにより第1のダイポールアンテナとの間に所定のアイソレーションを有して第2のダイポールアンテナとして動作する。アンテナ素子が閉状態にあるときスイッチSW1,SW2は閉じ、これにより、アンテナ素子1と短絡導体4a,4bとは接地導体3上において第1の逆F型アンテナとして動作し、アンテナ素子2と短絡導体5a,5bとは、接地導体3上において、非励振スリットSにより第1の逆F型アンテナとの間に所定のアイソレーションを有して第2の逆F型アンテナとして動作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの筐体部分からなる折りたたみ型の筐体を備えた携帯電話機等の無線通信装置に関し、特に、このような無線通信装置のためのアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機には、図26及び図27に示すように、2つの筐体部分からなる折りたたみ型の筐体を備えて構成されたものがある。図26(a)及び図27(b)は、従来例の2つ折り型携帯電話機の開状態と開状態を示す図であり、この携帯電話機では、スピーカ及びディスプレイ等を備えた上部筐体101と、マイクロホン及びキーボード等を備えた下部筐体102とが、ヒンジ部103によって折りたたみ可能であるように連結されている。また、上部筐体101には液晶ディスプレイや有機ELディスプレイからなる第1の表示装置104と第2の表示装置105が設けられている。第1の表示装置104は、携帯電話機の開状態のとき、下部筐体102に設けられた情報入力端末からの入力情報や、受信情報等の表示を行う。また、第2の表示装置105は、携帯電話機の閉状態のとき、受信情報の表示や時刻等の表示を行う。図27(a)及び図27(b)は、従来例の回転型携帯電話機の開状態と開状態を示す図であり、この携帯電話機では、スピーカ及びディスプレイ等を備えた上部筐体111と、マイクロホン及びキーボード等を備えた下部筐体112とが、上部筐体111及び下部筐体112を厚さ方向に貫通する回転軸113(又は同等の連結機構)によって連結され、上部筐体111が回転軸113を中心として回転することにより携帯電話機が開閉される。また、上部筐体111には液晶ディスプレイや有機ELディスプレイからなる表示装置114が設けられている。表示装置114は、携帯電話機の開状態及び閉状態において、下部筐体112に設けられた情報入力端末からの入力情報や、受信情報及び時刻等の表示を行う。
【0003】
特許文献1は、携帯無線機における内蔵アンテナを開示している。特許文献1の携帯無線機は、その本体の少なくとも一部を覆うように該本体に対して開閉自在に取り付けられたフリップ部を有し、フリップ部に第1の金属板を内蔵するとともに該本体側に第2の金属板を内蔵し、フリップ部を閉じたとき第1及び第2の金属板を電気的に接続し、開いたとき該接続を開放する手段を備え、接続点から所定距離離間して第1及び第2の金属板間に高周波信号を給電するように構成される。
【0004】
特許文献2は、筐体内の回路基板をアンテナとして用いる携帯無線機を開示している。特許文献2の携帯無線機では、上筐体に上回路基板が収容され、下筐体に下回路基板が収容され、上下の回路基板が電気的に接続され、下筐体の上部側にアンテナ部が収容され、下筐体に、アンテナ部に給電する給電部が収容され、上筐体および下筐体が互いに積層された携帯モードのとき、給電部がアンテナ部に接続されるとともに、上筐体および下筐体が互いに相互位置を変更することにより合算全長を長大させる通話モードのとき、給電部がアンテナ部および接続部材を介して上回路基板に接続される。
【0005】
【特許文献1】特開平6−216621号公報。
【特許文献2】特開2006−067361号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、携帯電話機の小型化や、折りたたみ型筐体の採用に伴い、携帯電話機内にアンテナ素子を搭載するための容積を確保することが困難になってきた。特に、折りたたみ型携帯電話機の場合、アンテナの電気長を最大化するため、特許文献1及び2に記載のように、第1の筐体部分と第2の筐体部分にアンテナ素子と接地導体を分離して設け、アンテナ素子と接地導体が互いに近接する位置(すなわち第1の筐体部分と第2の筐体部分の連結部分の近傍)に給電点を設けることにより、アンテナ素子及び接地導体からなるダイポールアンテナを構成することが一般的である。このような携帯電話機は、携帯電話機の筐体が閉状態にあるときには、所望の通りダイポールアンテナとして動作するが、携帯電話機の筐体が閉状態にあるときは、第1の筐体部分内のアンテナ素子と第2の筐体部分内の接地導体が対向する構成となるので、アンテナ素子に流れる電流と接地導体に流れる電流が相互に相殺し、ダイポールアンテナとして動作できなくなる。従って、従来の携帯電話機において閉状態のときに通信を行うためには、閉状態のときに使用するための専用のアンテナ素子を別個に追加することが必要であった。そのため、携帯電話機の筐体が開状態及び閉状態のいずれであっても送受信可能である新規なアンテナ装置を備えた携帯電話機が必要とされる。
【0007】
また、最近になって、通信容量を増大させて高速通信を実現するために、複数のチャネルの無線信号を空間分割多重により同時に送受信するMIMO(Multi−Input Multi−Output)技術を採用したアンテナ装置が登場している。MIMO通信を実行するアンテナ装置は、空間分割多重を実現するために、指向性又は偏波特性などを相違させることにより、互いに低相関である複数の無線信号の送受信を同時に実行する必要がある。
【0008】
本発明の目的は、以上の問題点を解決し、無線通信装置の筐体が開状態及び閉状態のいずれであっても送受信可能であり、さらに互いに低相関である複数の無線信号の送受信を同時に実行可能である無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る無線通信装置は、
第1筐体と、
前記第1筐体と開閉可能に連結された第2の筺体と、
前記第1筺体内に所定距離だけ離隔して設けられた第1及び第2のアンテナ素子と、
前記第2筺体に設置された接地導体と、
前記第1及び第2のアンテナ素子の各々に設けられ前記第1及び第2のアンテナ素子の各々を励振させる第1及び第2の給電点と、
前記第1のアンテナ素子と前記接地導体とを開閉可能に接続する第1接続手段と、
前記第2のアンテナ素子と前記接地導体とを開閉可能に接続する第2接続手段と、
前記第1筺体と前記第2筺体とが開状態の場合、前記第1接続手段により前記第1のアンテナ素子と前記接地導体とを電気的に開放させ且つ前記第2接続手段により前記第2のアンテナ素子と前記接地導体とを電気的に開放させて前記第1及び第2のアンテナ素子をダイポールアンテナとして動作させ、一方、前記第1筺体と前記第2筺体とが閉状態の場合、前記第1接続手段により前記第1のアンテナ素子と前記接地導体とを電気的に短絡させ且つ前記第2接続手段により前記第2のアンテナ素子と前記接地導体とを電気的に短絡させて前記第1及び第2のアンテナ素子を逆F型アンテナとして動作させる制御手段と、
前記第1及び第2の給電点を結ぶ仮想線と直交して前記第1及び第2アンテナ素子の間に前記第1及び第2アンテナ素子の全長に渡って形成され、前記第1及び第2給電点の給電により生成される電波の間に所定のアイソレーションを生成する非励振スリットと、
を備えたものである。
【0010】
本態様によると、前記第1筺体と前記第2筺体とが閉状態の場合でも、前記第1及び第2のアンテナ素子に流れる電流と接地導体に流れる電流とが相互に相殺しないようにできるので、ダイポールアンテナと逆F型アンテナとで別個のアンテナ素子を設けることが不要となって、小スペース化を図ることができる。また、前記第1及び第2の給電点を結ぶ仮想線と直交して前記第1及び第2アンテナ素子の間に前記第1及び第2アンテナ素子の全長に渡って形成され、前記第1及び第2給電点の給電により生成される電波の間に所定のアイソレーションを生成する非励振スリットを設けることにより、第1のアンテナ素子の給電点の給電により生成される電波と、第2のアンテナ素子の給電点の給電により生成される電波とのアイソレーションを向上させることができるので、アンテナ素子を複数の第1及び第2アンテナ素子として機能させ、通信速度を向上できる。
【0011】
また、本発明の第2の態様に係る無線通信装置は、第1の態様に係る無線通信装置において、
前記非励振スリットの前記連結部から離間した側の第1端部で前記第1のアンテナ素子と前記第2のアンテナ素子とを電気的に開閉可能に接続する第3接続手段と、
前記非励振スリットの前記連結部に近接した側の第2端部で前記第1のアンテナ素子と前記第2のアンテナ素子とを電気的に開閉可能に接続する第4接続手段とを設け、
前記制御手段は、
前記第1の筺体と前記第2の筺体とが開状態の場合、前記第3接続手段によりに前記第1のアンテナ素子と前記第2のアンテナ素子とを電気的に閉じ且つ前記第4接続手段により前記第1のアンテナ素子と前記第2のアンテナ素子とを電気的に開き、一方、前記第1の筺体と前記第2の筺体とが閉状態の場合、前記第3接続手段によりに前記第1のアンテナ素子と前記第2のアンテナ素子とを電気的に開き且つ前記第4接続手段により前記第1のアンテナ素子と前記第2のアンテナ素子とを電気的に閉じるようにしたものである。
【0012】
アンテナ素子の全長に渡ってスリットを形成するとアンテナ面積が小さくなり、それに伴ってアンテナ素子を流れる電流の電気長が短くなる。そのため、共振周波数が高周波側にシフトし、所望の周波数特性が得られなくなる。本態様によると、前記第1の筺体と前記第2の筺体とが開状態の場合、前記非励振スリットの前記連結部から離間した側の第1端部で前記第1及び前記のアンテナ素子を接続することにより、第1のアンテナ部と第2のアンテナ部とを流れる電流の電気長が大きくなるので、第1のアンテナ部及び第2のアンテナ部の双方に生ずる共振周波数を低周波側にシフトさせて、周波数帯域を広げることができる。また、本態様によると、前記第1の筺体と前記第2の筺体とが閉状態の場合、前記非励振スリットの前記連結部に近接した側の第2端部で前記第1及び第2のアンテナ素子を接続することにより、前記第1及び第2のアンテナ素子を流れる電流の電気長が長くなるので、前記第1及び第2のアンテナ素子の双方に生ずる共振周波数を低周波側にシフトさせて、周波数帯域を広げることができる。
【0013】
本発明の第3の態様に係る無線通信装置は、第2の態様に係る無線通信装置において、
前記第2端部を、前記非励振スリット上の前記第1端部と前記第1及び第2給電点との間に設けたものである。
【0014】
本態様によると、前記第2端部を、前記非励振スリット上の前記第1端部と前記第1及び第2給電点との間に設けることより、前記第1の筺体と前記第2の筺体とが閉状態の場合、前記1端部と前記第1及び第2の給電点との間の位置で前記第1及び第2のアンテナ素子が接続することになる。これにより、第1及び第2の給電点間にスリットが位置するので、第1及び第2の給電点間に所定のアイソレーションを確保することができる。また、前記第1の筺体と前記第2の筺体とが開状態の場合、前記非励振スリットの前記連結部から離間した側の第1端部で前記第1及び第2のアンテナ素子を接続することにより、前記第1及び第2アンテナ素子に流れる電流の電気長が長くなるので、前記第1及び第2アンテナ素子の双方に生ずる共振周波数を低周波側にシフトさせて、周波数帯域を広げることができる。また、本態様によると、前記第1の筺体と前記第2の筺体とが閉状態の場合、前記非励振スリットの前記連結部に近接した側の第2端部で前記第1及び第2のアンテナ素子を接続することにより、前記第1及び第2のアンテナ素子を流れる電流の電気長が長くなるので、前記第1及び第2のアンテナ素子の双方に生ずる共振周波数を低周波側にシフトさせて、周波数帯域を広げることができる。
【0015】
本発明の第4の態様に係る無線通信装置は、第2の態様に係る無線通信装置において、
前記第1端部に設けられた第1の可変容量素子と、前記第2端部に設けられた第2の可変容量素子とを設け、
前記制御手段は、前記第1筐体と前記第2筐体とが開状態の場合、ダイポールアンテナとして動作する前記第1及び第2のアンテナ素子に係る反射係数を最小化するように前記第2の可変容量素子の印加電圧を制御し、一方、前記第1筐体と前記第2筐体とが閉状態の場合、逆F型アンテナとして動作する前記第1及び第2のアンテナ素子に係る反射係数を最小化するように前記第1の可変容量素子の印加電圧を制御するようにしたものである。
【0016】
本態様によれば、前記第1及び第2の可変容量素子の印加電圧を変えるだけで前記第1及び第2のアンテナ素子の接続/非接続の制御を行うと共に非励振スリットの電気長を変化させ、非励振スリットの周りを流れている電流の経路を仮想的に変化させることで第1及び第2のアンテナ素子の共振周波数を調整することができるので、部品点数を削減することができる。
【0017】
本発明の第5の態様に係る無線通信装置は、第2の態様に係る無線通信装置において、
前記非励振スリットの前記第1端部と前記2端部との間に可変容量素子を設け、
前記制御手段は、前記第1筐体と前記第2筐体が開状態の場合、ダイポールアンテナとして動作する前記第1及び第2のアンテナ素子に係る反射係数を最小化するように前記可変容量素子の印加電圧を制御し、一方、前記第1筐体と前記第2筐体とが閉状態の場合、逆F型アンテナとして動作する前記第1及び第2のアンテナ素子に係る反射係数を最小化するように前記可変容量素子の印加電圧を制御するようにしたものである。
【0018】
本態様によると、通信周波数の変化に伴って、前記第1及び第2のアンテナ素子の共振周波数と通信周波数とのずれが大きくなった場合であっても、通信周波数の変化に対応させて非励振スリットの電気長を変化させ、非励振スリットの周りを流れている電流の経路を仮想的に変化させることで第1及び第2のアンテナ素子の共振周波数の調整を実質的に可変にするので、前記第1及び第2のアンテナ素子の共振周波数を通信周波数に対して適切に調整できる。また、前記非励振スリットの前記第1端部と前記第2端部との間に前記非励振スリットの共振周波数を調整する可変容量素子を設けるので、非励振スリット上に設ける可変容量素子は一つだけでよく、部品点数ならびにコストを削減できる。
【0019】
本発明の第6の態様に係る無線通信装置は、第5の態様に係る無線通信装置において、
前記非励振スリットの前記連結部から離間した側の第1端部に設けられた第1可変容量素子と、前記非励振スリットの前記連結部に近接した側の第2端部に設けられた第2可変容量素子とを設け、
前記制御手段は、前記第1筐体と前記第2筐体とが開状態の場合、前記第1可変容量素子を実質的に短絡状態にするように前記第1可変容量素子の印加電圧を制御し、ダイポールアンテナとして動作する前記第1及び第2のアンテナ素子に係る反射係数を最小化するように前記第2の可変容量素子の印加電圧を制御し、一方、前記第1筐体と前記第2筐体とが閉状態の場合、前記第2可変容量素子を実質的に短絡状態にするように前記第2の可変容量素子の印加電圧を制御し、逆F型アンテナとして動作する前記第1及び第2のアンテナ素子に係る反射係数を最小化するように前記第1可変容量素子の印加電圧を制御するようにしたものである。
【0020】
本態様によれば、前記第1の筐体と前記第2の筐体の開閉状態に応じて変わる前記第1及び第2のアンテナ素子の接続位置から分離して前記第1及び第2の可変容量素子を自由な位置に配置することができるので、前記第1の筐体と前記第2の筐体の開閉状態の応じ、前記非励振スリットの電界強度が大きくなるスリット上の最適位置に前記第1及び第2の可変容量素子を配置することができる。その結果、小さな容量値でスリットの共振周波数を調整することができ、使用する可変容量素子を小型化できる。
【0021】
本発明の第7の態様に係る無線通信装置は、第1乃至第5の態様に係る無線通信装置において、前記第1筐体及び前記第2筐体を、前記連結部において2つ折りに折りたたみ可能に連結したものである。
【0022】
本発明の第8の態様に係る無線通信装置は、第1乃至第5の態様に係る無線通信装置において、前記連結部は、前記第1筐体及び前記第2の筐体を厚さ方向に貫通する回転軸を含み、前記第1筐体及び前記第2筐体を、前記回転軸を中心として回転することにより折りたたみ可能に連結したものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、前記第1筺体と前記第2筺体とが閉状態の場合でも、前記第1及び第2のアンテナ素子に流れる電流と接地導体に流れる電流とが相互に相殺しないようにできるので、ダイポールアンテナと逆F型アンテナとで別個のアンテナ素子を設けることが不要となって、小スペース化を図ることができる。
【0024】
また、前記第1及び第2の給電点を結ぶ仮想線と直交して前記第1及び第2アンテナ素子の間に前記第1及び第2アンテナ素子の全長に渡って形成され、前記第1及び第2給電点の給電により生成される電波の間に所定のアイソレーションを生成する非励振スリットを設けている。これによると、第1のアンテナ素子の給電点の給電により生成される電波と、第2のアンテナ素子の給電点の給電により生成される電波とのアイソレーションを向上させることができるので、アンテナ素子を複数の第1及び第2アンテナ素子として機能させ、通信速度を向上できる。
【0025】
本発明によれば、本発明は、例えばMIMO通信を実行する携帯電話機として実装することができるが、MIMOに限らず、複数のアプリケーションのための通信を同時に実行可能(マルチアプリケーション)な携帯電話機として実装することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る好ましい実施形態について図面を参照して説明する。なお、同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0027】
第1の実施形態.
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係るアンテナ装置の開状態を示す概略図であり、図1(b)はその閉状態を示す概略図である。図2及び図3は、図1のアンテナ装置を備えた実装例の携帯電話機を示す概略図であり、図4及び図5は、図1のアンテナ装置の回路構成を示すブロック図である。
【0028】
図1(a)において、アンテナ装置は、少なくとも1つの直線状の辺をそれぞれ備えた導体板にてなる2つのアンテナ素子1,2を備え、これらのアンテナ素子1,2を一辺において互いに近接するように対向させることにより、アンテナ素子1,2間には非励振スリットSが形成される。非励振スリットSは、図2に示すように、携帯電話機の長手方向(図1及び図2では上下方向)と平行になるように設けられる。アンテナ装置はさらに、アンテナ素子1,2に近接して設けられた導体板にてなる接地導体3を備え、接地導体3は、その外周の一部(図1(a)では接地導体3の上端の部分)において、非励振スリットSの一端(図1(a)では下端)に対向するとともに、当該非励振スリットSの一端に近接した各アンテナ素子1,2の部分(図1(a)では下端の部分)に対向する。本実施形態において、アンテナ素子1,2及び接地導体3はそれぞれ、矩形形状を有する。また、以下の説明では、図面中のアンテナ素子1,2及び接地導体3において手前を向いた側の面を表面と呼び、奥を向いた側の面を裏面と呼ぶ。各アンテナ素子1,2上の所定の位置において、給電点P1,P2がそれぞれ設けられる。給電点P1,P2間に非励振スリットSが位置することにより、給電点P1,P2間に所定のアイソレーションが確保される。給電点P1,P2は、好ましくは、非励振スリットSに対して対称な位置に設けられ、給電点P1,P2を結ぶ直線と非励振スリットSとは直交する。各給電点P1,P2は、給電線F1,F2を介して接地導体3の裏側に設けられた高周波回路(詳細後述)に接続される。アンテナ素子1は、接地導体3に対向した端部において、スイッチSW1を間に含む短絡導体4a,4bを介して接地導体3に接続される。同様に、アンテナ素子2は、接地導体3に対向した端部において、スイッチSW2を間に含む短絡導体5a,5bを介して接地導体3に接続される。非励振スリットSの両端のうちで、接地導体3に対向した側の端部(図1(a)では下端)において、アンテナ素子1,2を接続するスイッチSW4が設けられ、もう一方の端部(図1(a)では上端)において、アンテナ素子1,2を接続するスイッチSW3が設けられる。図1(a)のようにアンテナ装置が開状態にあるとき、アンテナ装置のコントローラ(詳細後述)はスイッチSW1,SW2を開くように制御し、給電点P1を用いて励振することにより、アンテナ素子1及び接地導体3はダイポールアンテナとして動作し、同様に、給電点P2を用いて励振することにより、アンテナ素子2及び接地導体3もまたダイポールアンテナとして動作する。非励振スリットSの存在により、2つのダイポールアンテナは互いの間に所定のアイソレーションを有して動作する。さらに、アンテナ装置が開状態にあるとき、アンテナ装置のコントローラは、非励振スリットSにおいてスイッチSW3を閉じ、かつスイッチSW4を開くように制御し、これにより、スイッチSW3を通過し、かつアンテナ素子1,2の両方に延在する電流経路が形成され、アンテナ装置の広帯域化に寄与する。
【0029】
本実施形態のアンテナ装置は、図1(b)に示すように、図1(a)でアンテナ素子1,2と接地導体3とが対向していた位置(すなわち短絡導体4a,4b,5a,5b及びスイッチSW1,SW2が設けられた位置)において、2つ折りに折りたたまれて閉状態にされる。アンテナ装置が閉状態にあるとき、アンテナ素子1,2は、実質的にその全体が接地導体3と重なり合うように、接地導体3に近接して位置する。各給電線F1,F2は、アンテナ装置が閉状態にあるときアンテナ素子1,2における接地導体3側の面から給電点P1,P2に接続されるように設けられ、各給電線F1,F2はまた、接地導体3の縁(又は縁に近接して設けられた孔)から接地導体3の裏側に進み、高周波回路に接続される。高周波回路は、携帯電話機が閉状態にあるときに接地導体3の外側に位置するように、言い換えると、アンテナ素子1,2と接地導体3とに挟まれることがないように設けられる。アンテナ装置が閉状態にあるとき、アンテナ装置のコントローラはスイッチSW1,SW2を閉じるように制御し、アンテナ素子1,2は接地導体3に短絡されている。また、アンテナ装置が閉状態にあるとき、給電点P1に接続された給電線F1を用いて励振することにより、アンテナ素子1と短絡導体4a,4bとは、接地導体3上において逆F型アンテナとして動作し、同様に、給電点P2に接続された給電線F2を用いて励振することにより、アンテナ素子2と短絡導体5a,5bもまた、接地導体3上において逆F型アンテナとして動作する。非励振スリットSの存在により、2つの逆F型アンテナは互いの間に所定のアイソレーションを有して動作する。さらに、アンテナ装置が閉状態にあるとき、アンテナ装置のコントローラは、スイッチSW3を開き、かつスイッチSW4を閉じるように制御し、これにより、スイッチSW4を通過し、かつアンテナ素子1,2の両方を含む電流経路が形成され、アンテナ装置の広帯域化に寄与する。
【0030】
本実施形態のアンテナ装置によれば、アンテナ素子1,2と接地導体3との間にスイッチSW1,SW2を備え、アンテナ装置が開状態にあるとき、スイッチSW1,SW2を開くことによりアンテナ装置を2つのダイポールアンテナとして動作させ、アンテナ装置が閉状態にあるとき、スイッチSW1,SW2を閉じることによりアンテナ装置を2つの逆F型アンテナとして動作させることより、閉状態の場合であってもアンテナ素子1,2に流れる電流と接地導体3に流れる電流とが相互に相殺しないようにできるので、閉状態のときに使用するための専用のアンテナ素子を別個に追加することが不要となり、アンテナ装置の小スペース化を達成することができる。また、本実施形態のアンテナ装置によれば、アンテナ素子1,2間において、給電点P1,P2間に所定のアイソレーションを確保するための非励振スリットSを設けたことにより、2つのダイポールアンテナ間のアイソレーションと、2つの逆F型アンテナ間のアイソレーションとを向上させることができるので、アンテナ装置を2つの独立したアンテナとして機能させてMIMO通信等を行うことができ、通信速度を向上できる。
【0031】
図2(a)は、図1のアンテナ装置を備えた実装例の携帯電話機の開状態を透視により示す概略図であり、図2(b)はその閉状態を示す概略図である。また、図3(a)は、図2(a)に示す開状態の携帯電話機の縦断面図であり、図3(b)は図2(b)に示す閉状態の携帯電話機の縦断面図である。図3の縦断面図では、図1に示した構成要素の一部のみを概略的に示す。図2及び図3の携帯電話機の筐体は、図26を参照して説明した従来技術の携帯電話機と同様に構成される。アンテナ素子1,2は、それらの間の非励振スリットSが携帯電話機の長手方向に平行になるように上部筐体101内に設けられ、すなわち、非励振スリットSは、上部筐体101内において、ヒンジ部103と、ヒンジ部103から遠隔した位置(図3(a)では上端の部分)との間に延在するように設けられる。また、接地導体3は下部筐体102内に設けられる。上部筐体101と下部筐体102とは、ヒンジ部103によって折りたたみ可能であるように連結されている。この携帯電話機の開閉に従って、アンテナ素子1,2及び接地導体3は、ヒンジ部において折りたたまれて閉状態にされる。
【0032】
また、上部筐体101には液晶ディスプレイや有機ELディスプレイからなる第1の表示装置104と第2の表示装置105が設けられている。第1の表示装置は携帯電話機を開いた状態で、下部筐体102に設けられた情報入力端末からの入力情報や、受信情報等の表示を行う。また、第2の表示装置は携帯電話機を閉じた状態で、受信情報の表示や時刻等の表示を行う。
【0033】
図4は、図1のアンテナ装置の回路構成を示す開状態のブロック図であり、図5は、図1のアンテナ装置の回路構成を示す閉状態のブロック図である。図4及び図5に示すように、アンテナ装置の高周波回路は、接地導体3の裏側(すなわち、携帯電話機が閉状態にあるときに接地導体3の外側になる面)に設けられたインピーダンス整合回路(以下、整合回路という。)11,13と、無線通信回路12,14とを含む。アンテナ装置はさらに、当該アンテナ装置が開状態にあるのか、それとも閉状態にあるのかを検出する開閉検出器15と、無線通信回路12,14及びスイッチSW1,SW2,SW3,SW4を制御するコントローラ16とを備える。給電点P1に接続された給電線F1は、接地導体3の縁(又は縁に近接して設けられた孔)から接地導体3の裏側に進み、整合回路11を介して無線通信回路12に接続され、同様に、給電点P2に接続された給電線F2は、接地導体3の縁(又は縁に近接して設けられた孔)から接地導体3の裏側に進み、整合回路13を介して無線通信回路14に接続される。給電線F1,F2の一部は、外部導体F1a,F2aを備えた同軸ケーブル等として構成されてもよく、この場合、外部導体F1a,F2aは接地導体3の縁に電気的に接続される。無線通信回路12,14は、コントローラ16の制御下で、MIMO通信に係る変復調を実行する。前述のように、コントローラ16は、アンテナ装置が開状態にあるときに、スイッチSW1,SW2を開くように制御し、さらに、スイッチSW3を閉じ、かつスイッチSW4を開くように制御する。コントローラ16はまた、アンテナ装置が閉状態にあるとき、スイッチSW1,SW2を閉じるように制御し、さらに、スイッチSW3を開き、かつスイッチSW4を閉じるように制御する。
【0034】
本実施形態において、非励振スリットSは、好ましくは、図1等に示すようにアンテナ素子1,2の長手方向の全体にわたって設けられ、アンテナ素子1,2を電気的に分離するので、アンテナ素子1,2の面積が小さくなり、それに伴ってアンテナ素子1,2を流れる電流の電気長(すなわち電流経路の長さ)が短くなる。そのため、アンテナ素子1,2の共振周波数が高域側にシフトし、所望の周波数特性が得られなくなる。本実施形態では、アンテナ装置が開状態にあるときスイッチSW3を閉じ、アンテナ装置が閉状態にあるときスイッチSW4を閉じることにより、以下に図6及び図7を参照して詳述するように電流経路の長さを確保して、広帯域の周波数特性を実現する。
【0035】
図6(a)は、図1のアンテナ装置が開状態にあり、スイッチSW3,SW4が開いているときの電流経路を示す概略図であり、図6(b)は、スイッチSW3を閉じたときの電流経路を示す概略図である。説明のために、図6(a)ではスイッチSW1,SW2,SW3,SW4及び短絡導体4a,4b,5a,5bの図示を省略し、図6(b)ではスイッチSW1,SW2,SW4及び短絡導体4a,4b,5a,5bの図示を省略する。図6(a)に示すようにスイッチSW3,SW4が開いているとき、給電線F1を介して給電点P1に到来した高周波電流は、アンテナ素子1において給電点P1から最も遠隔した地点に向かって流れ、すなわち本実施形態では、非励振スリットSに近接し、かつ接地導体3から遠隔した側の端部の地点A1に向かって流れる(電流i1)。ここで、スイッチSW3を閉じると、電流は、給電点P1からスイッチSW3に向かって流れ(電流i1)、スイッチSW3を、アンテナ素子1側の地点A1からアンテナ素子2側の地点A2に通過し(電流i2)、次いで、アンテナ素子2においてスイッチSW3から最も遠隔した地点A3に向かって流れる(電流i3)。このように、スイッチSW3を閉じることにより、スイッチSW3を介してアンテナ素子1からアンテナ素子2に至る電流経路が形成される。同様に、給電線F2を介して給電点P2に高周波電流を給電する場合においても、スイッチSW3を介してアンテナ素子2からアンテナ素子1に至る電流経路が形成される。
【0036】
このように、本実施形態では、アンテナ装置が開状態にあるとき、スイッチSW3によってアンテナ素子1,2を接続することにより、各アンテナ素子1,2に給電される高周波電流に係る電流経路の長さが大きくなるので、各給電点P1,P2を介してアンテナ素子1,2のそれぞれを励振するときの共振周波数を、アンテナ素子1,2のそれぞれを単独で励振するときと比較して低域側にシフトさせることができる。その結果、所望の周波数特性を得ることができる。
【0037】
図7(a)は、図1のアンテナ装置が閉状態にあり、スイッチSW3,SW4が開いているときの電流経路を示す概略図であり、図7(b)は、スイッチSW4を閉じたときの電流経路を示す概略図である。図7(a)及び図7(b)において、スイッチSW1,SW2もまた閉じている。説明のために、図7(a)ではスイッチSW3,SW4の図示を省略し、図7(b)ではスイッチSW3の図示を省略する。図7(a)に示すようにスイッチSW3,SW4が開いているとき、給電線F1を介して給電点P1に到来した高周波電流は、アンテナ素子1において、いったん、アンテナ素子1の裏面(すなわちアンテナ素子1における接地導体3側の面)に沿って給電点P1から最も遠隔した地点A1に向かって流れる(電流i21)。次いで、電流は、アンテナ素子1の表面上をアンテナ素子1の外周に沿って短絡導体4aに接続された地点A5に向かって流れ、すなわち本実施形態では、地点A1から非励振スリットSの他端の地点A4に向かって流れ(電流i22)、地点A4から地点A5に向かって流れる(電流i23)。ここで、非励振スリットSの縁部における電流密度が高くなるので、電流は、地点A1から地点A4まで非励振スリットSに沿った経路を流れる。次いで、電流は、地点A5から短絡導体4a,4b及びスイッチSW1を介して接地導体3に流れる(電流i24)。ここで、スイッチSW4を閉じると、電流は、いったん、アンテナ素子1,2において給電点P1から最も遠隔した地点に向かって流れ、すなわち本実施形態では、アンテナ素子1の裏面に沿って給電点P1からスイッチSW4に向かって流れ(電流i31)、スイッチSW4を、アンテナ素子1側の地点A4からアンテナ素子2側の地点A6に通過し(電流i32)、アンテナ素子2の裏面に沿ってスイッチSW4から最も遠隔した地点A7に向かって流れる(電流i33)。次いで、電流は、アンテナ素子1,2の表面上を短絡導体4aに接続された地点A5に向かって流れ、すなわち本実施形態では、地点A7から地点A6に向かって流れ(電流i34)、スイッチSW4を地点A6から地点A4に通過して地点A5まで流れる(電流i35)、次いで、電流は、地点A5から短絡導体4a,4b及びスイッチSW1を介して接地導体3に流れる(電流i36)。このように、スイッチSW4を閉じることにより、スイッチSW4を介してアンテナ素子1からアンテナ素子2に至り、再びアンテナ素子1に戻って接地導体3に至る電流経路が形成される。同様に、給電線F2を介して給電点P2に高周波電流を給電する場合においても、スイッチSW4を介してアンテナ素子2からアンテナ素子1に至り、再びアンテナ素子2に戻って接地導体3に至る電流経路が形成される。
【0038】
このように、本実施形態では、アンテナ装置が閉状態にあるとき、スイッチSW4によってアンテナ素子1,2を接続することにより、各アンテナ素子1,2に給電される高周波電流に係る電流経路の長さが大きくなるので、各給電点P1,P2を介してアンテナ素子1,2のそれぞれを励振するときの共振周波数を、アンテナ素子1,2のそれぞれを単独で励振するときと比較して低域側にシフトさせることができる。その結果、所望の周波数特性を得ることができる。
【0039】
図8は、図1のアンテナ装置のコントローラ16によって実行される第1のアンテナ制御処理を示すフローチャートである。図8のアンテナ制御処理では、簡単化のためにスイッチSW1,SW2のみを制御している。ステップS1において、コントローラ16は、開閉検出器15からの開閉検出信号に基づいて携帯電話機の開閉状態を検出し、閉状態のときはステップS2に進み、開状態のときはステップS3に進む。ステップS2において、コントローラ16はスイッチSW1及びSW2を閉じ、ステップS4に進む。ステップS3において、コントローラ16はスイッチSW1及びSW2を開き、ステップS4に進む。ステップS4において、コントローラ16は、無線通信を実行するか否かを判断し、YESのときはステップS5に進み、NOのときはステップS1に戻る。ステップS5において、コントローラ16は無線通信回路12,14に無線通信を実行させ、ステップS1に戻る。
【0040】
図9は、図1のアンテナ装置のコントローラ16によって実行される第2のアンテナ制御処理を示すフローチャートである。図9のアンテナ制御処理では、図8の処理に加えて、スイッチSW3,SW4も制御している。ステップS11において、コントローラ16は、開閉検出器15からの開閉検出信号に基づいて携帯電話機の開閉状態を検出し、閉状態のときはステップS12に進み、開状態のときはステップS14に進む。ステップS12において、コントローラ16はスイッチSW1及びSW2を閉じ、次いでステップS13においてスイッチSW3を開き、スイッチSW4を閉じ、ステップS16に進む。ステップS14において、コントローラ16はスイッチSW1及びSW2を開き、次いでステップS15においてスイッチSW3を閉じ、スイッチSW4を開き、ステップS16に進む。ステップS16において、コントローラ16は、無線通信を実行するか否かを判断し、YESのときはステップS17に進み、NOのときはステップS11に戻る。ステップS17において、コントローラ16は無線通信回路12,14に無線通信を実行させ、ステップS11に戻る。
【0041】
変形例として、アンテナ素子1,2及び接地導体3の形状は、矩形形状に限定されるものではなく、例えば他の多角形、又は曲線を含む図形であってもよい。また、アンテナ素子1,2は、図2に示すように携帯電話機の上部筐体101の内部に設けられることに限定されるものではなく、上部筐体101の外部に、又は上部筐体101と一体化されて設けられてもよい。図2では下部筐体102の内部に設けられるように図示された接地導体3についても同様である。
【0042】
スイッチSW1,SW2は、コントローラ16の制御によって電気的に開閉されるのではなく、携帯電話機の筐体の開閉に連動して機械的に開閉されてもよい。
【0043】
スイッチSW3の位置は、アンテナ装置が開状態にあるときに接地導体3から遠隔した側における非励振スリットSの端部に限定されるものではなく、非励振スリットSの長手方向における当該端部と中央との間の所定の位置であってもよい。同様に、スイッチSW4の位置は、アンテナ装置が開状態にあるときに接地導体3に対向した側における非励振スリットSの端部に限定されるものではなく、非励振スリットSの長手方向における当該端部と中央との間の所定の位置であってもよい。
【0044】
また、アンテナ装置が閉状態にあるときには、アンテナ素子1,2と接地導体3とは短絡導体4a,4b,5a,5bによって電気的に接続されているので、アンテナ装置の構成によっては(例えば、短絡導体4a,5aが非励振スリットSの端部に近接しているとき)、スイッチSW3,SW4を閉じることなく片端開放の非励振スリットを構成できる場合もある。さらに、アンテナ装置が閉状態にあるとき、スイッチS3,S4の両方を閉じることにより、スロットを構成してもよい。この場合、スロットの共振周波数はアンテナ素子1,2の共振周波数よりも高くなるので、アンテナ装置の動作周波数を高域側にシフトすることができる。また、アンテナ装置が閉状態にあるときには、アンテナ素子1,2と接地導体3とは短絡導体4a,4b,5a,5bによって電気的に接続されているので、アンテナ装置の構成によっては、スイッチSW4を閉じることなくスイッチSW3のみを閉じることによってスロットを構成できる場合もある。
【0045】
さらに、無線通信回路12,14は、MIMO通信を行うことに代えて、独立した2つの無線信号の変復調を実行するように構成されてもよく、この場合、本実施形態のアンテナ装置は、複数のアプリケーションに係る無線通信を同時に実行したり、複数の周波数帯での無線通信を同時に実行したりすることが可能になる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態のアンテナ装置及び携帯電話機によれば、アンテナ装置が開状態及び閉状態のいずれであっても送受信することができ、さらに互いに低相関である2つの無線信号の送受信を同時に実行することができる。
【0047】
以下、図10乃至図19を参照して、本実施形態の変形例についてさらに説明する。
【0048】
図10(a)は、本発明の第1の実施形態の第1の変形例に係るアンテナ装置の開状態を示す概略図であり、図10(b)はその閉状態を示す概略図である。また、図11は、図10のアンテナ装置の回路構成を示す開状態のブロック図であり、図12は、図10のアンテナ装置の回路構成を示す閉状態のブロック図である。図10のアンテナ装置は、図1の構成を備えたことに加えて、所望の共振周波数になるように非励振スリットSの実質的な電気長を調整するための可変容量ダイオードD1,D2を備えたことを特徴とする。可変容量ダイオードD1は、非励振スリットSにおいてスイッチSW3に近接し、かつ非励振スリットSにおいてスイッチSW3よりも外側に位置するように、アンテナ素子1,2にわたって接続される。同様に、可変容量ダイオードD2は、非励振スリットSにおいてスイッチSW4に近接し、かつ非励振スリットSにおいてスイッチSW4よりも外側に位置するように、アンテナ素子1,2にわたって接続される。図11及び図12に示すように、アンテナ装置は、図4及び図5のコントローラ16に代えて、可変容量ダイオードD1,D2の印加電圧を計算して制御するように構成され、図15に示すアンテナ制御処理を実行するコントローラ16Aを備える。
【0049】
非励振スリットSの形状が固定されていると、非励振スリットSの共振周波数を変化させることができない。そのため、通信周波数の変化に伴い、各給電点P1,P2を介してアンテナ素子1,2のそれぞれを励振するときの共振周波数と、非励振スリットSの共振周波数とのずれが大きくなるとき、各アンテナ素子1,2と非励振スリットSとの結合度が小さくなり、共振周波数の調整が困難になる。本変形例のコントローラ16Aは、可変容量ダイオードD1,D2に対する印加電圧を制御することにより、所望の共振周波数になるように非励振スリットSの実質的な電気長を調整する。詳しくは、コントローラ16Aは、無線通信回路12,14にそれぞれ所望周波数のテスト信号を送信させながら、可変容量ダイオードD1,D2に対する印加電圧を変化させ、各給電点P1,P2に係る反射係数(VSWR又は反射電力であってもよい。)をモニタリングする。コントローラ16Aは、この反射係数を最小化するような印加電圧値を適応的に計算して、計算された印加電圧値を可変容量ダイオードD1,D2に設定する。コントローラ16Aは、アンテナ装置が開状態にあるときには可変容量ダイオードD2のみを制御し、アンテナ装置が閉状態にあるときには可変容量ダイオードD1のみを制御する。非励振スリットSにおいて可変容量ダイオードD1,D2はスイッチSW3,SW4よりも外側に設けられているので、各可変容量ダイオードD1,D2は、スイッチSW3,SW4を開いたときのみ、実効的に有効になる。アンテナ装置が開状態にあり、従ってスイッチSW3を閉じたときには、可変容量ダイオードD1は非励振スリットSの電気長に実質的に影響せず、また、アンテナ装置が閉状態にあり、従ってスイッチSW4を閉じたときには、可変容量ダイオードD2は非励振スリットSの電気長に実質的に影響しない。これにより、通信周波数の変化に伴って、各給電点P1,P2を介してアンテナ素子1,2のそれぞれを励振するときの共振周波数と、非励振スリットSの共振周波数とのずれが大きくなったときであっても、通信周波数の変化に応じて非励振スリットSの電気長を実質的に変化させることができるので、各アンテナ素子1,2と非励振スリットSとの結合度を向上させ、共振周波数を適切に調整することができる。
【0050】
図13(a)は、可変容量ダイオードに印加される逆電圧Vに対する容量Cの変化を示すグラフであり、図13(b)は、図10の可変容量ダイオードD1の詳細構成を示す回路図である。図13(b)に示すように、可変容量ダイオードD1はアンテナ素子1,2にわたって接続され、その両端は、好ましくは高周波阻止用のインダクタL1,L2をそれぞれ含む制御線を介してコントローラ16Aに接続される。可変容量ダイオードD2もまた、図13(b)と同様にコントローラ16Aに接続される。一般に、容量値Cを有する容量素子における角周波数ωのときのインピーダンスZは、Z=1/(jωC)と表され、容量値Cを十分に大きくするとインピーダンスは実質的に0になり、容量素子は短絡状態になる一方、容量値Cを十分に小さくするとインピーダンスは実質的に無限大になり、容量素子は開放状態になる。可変容量素子の一種として可変容量ダイオード(バラクタダイオード)があるが、可変容量ダイオードは、図13(a)に示すように、印加する逆電圧Vを大きくすると容量値Cが減少し、逆電圧Vを小さくすると容量値Cが増大する特性を持つ。従って、可変容量ダイオードは、印加される逆電圧値Vによって短絡状態、容量素子状態、又は開放状態をとることができる。代替の可変容量素子として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子を使用してもよい。MEMS素子は機械的動作で容量値Cを決めるので、可変容量ダイオードよりも広範囲な容量値Cの変化を行うことができる。さらに、開放とみなせる容量値から、短絡とみなせる容量値までの可変域をもつ可変容量素子を用いることにより、図18及び図19を参照して詳細後述するように、当該可変容量素子は、容量値を調整して非励振スリットSの電気長を変化させる機能に加えて、スイッチSW3,SW4の機能を果たすこともできる。
【0051】
図14(a)は、図10のアンテナ装置が開状態にあり、スイッチSW3を閉じたときの電流経路を示す概略図であり、図14(b)は、スイッチSW3を開いたときの電流経路を示す概略図である。説明の簡単化のために、図14(a)ではスイッチSW1,SW2,SW4、短絡導体4a,4b,5a,5b及び可変容量ダイオードD1,D2の図示を省略し、図14(b)ではスイッチSW1,SW2,SW3,SW4、短絡導体4a,4b,5a,5b及び可変容量ダイオードD2の図示を省略し、図14(b)ではさらに、アンテナ装置を折りたたまずに開状態のままで示す。図14(a)に示すようにスイッチSW3が閉じているとき、図6(b)を参照して説明したように、給電線F1を介して給電点P1に到来した高周波電流は、給電点P1からスイッチSW3に向かって流れ(電流i41)、スイッチSW3を、アンテナ素子1側の地点A11からアンテナ素子2側の地点A12に通過し(電流i42)、次いで、アンテナ素子2においてスイッチSW3から最も遠隔した地点A13に向かって流れる(電流i43)。ここで、スイッチSW3を開くと、可変容量ダイオードD1の効果によって非励振スリットSの実質的な電気長が変化するので、非励振スリットSは、その閉端となるスイッチSW3の実際の位置である地点A14及びA15まで延在するのではなく、地点A14及びA15から移動された仮想的な地点A14’及びA15’まで実質的に延在することになる。可変容量ダイオードD1の容量値を大きくすると、図14(b)に示すように非励振スリットSの電気長は長くなる。従って、図14(b)の場合、電流は、実質的に、給電点P1から地点A14’に向かって流れ(電流i44)、地点A14’から地点A15’に流れ(電流i45)、次いで地点A13に向かって流れる(電流i46)。このように、電流は非励振スリットSの周りを流れるので、非励振スリットSに接続した可変容量ダイオードD1の容量値を調整することにより非励振スリットSの電気長を変化させると、非励振スリットSの周りを流れている電流の経路も仮想的に変化し、アンテナ装置の共振周波数が変化する。従って、スイッチSW3を開いて電流が可変容量ダイオードD1を通ることにより、通信周波数の変化に応じて非励振スリットSの電気長を実質的に変化させるとともに、各アンテナ素子1,2に給電される高周波電流に係る電流経路の長さを変化させることができるので、各アンテナ素子1,2と非励振スリットSとの結合度を向上させ、共振周波数を適切に調整することができる。同様に、スイッチSW4を開いて電流が可変容量ダイオードD2を通る場合、さらにアンテナ装置を閉状態で動作させるときにおいても、各アンテナ素子1,2と非励振スリットSとの結合度を向上させ、共振周波数を適切に調整することができる。
【0052】
図15は、図10のアンテナ装置のコントローラ16Aによって実行される第3のアンテナ制御処理を示すフローチャートである。ステップS21において、コントローラ16Aは、開閉検出器15からの開閉検出信号に基づいて携帯電話機の開閉状態を検出し、閉状態のときはステップS22に進み、開状態のときはステップS25に進む。ステップS22において、コントローラ16AはスイッチSW1及びSW2を閉じ、次いでステップS23において、スイッチSW3を開き、スイッチSW4を閉じ、ステップS24に進む。ステップS24において、コントローラ16Aは、テスト信号を送信しながら可変容量ダイオードD1に対する印加電圧を変化させることにより、VSWRを最小化するように可変容量ダイオードD1の容量値を設定し、ステップS28に進む。ステップS25において、コントローラ16AはスイッチSW1及びSW2を開き、次いでステップS26において、スイッチSW3を閉じ、スイッチSW4を開き、ステップS27に進む。ステップS27において、コントローラ16Aは、テスト信号を送信しながら可変容量ダイオードD2に対する印加電圧を変化させることにより、VSWRを最小化するように可変容量ダイオードD2の容量値を設定し、ステップS28に進む。ステップS28において、コントローラ16Aは、無線通信を実行するか否かを判断し、YESのときはステップS29に進み、NOのときはステップS21に戻る。ステップS29において、コントローラ16Aは無線通信回路12,14に無線通信を実行させ、ステップS21に戻る。
【0053】
以上説明した本実施形態の第1の変形例に対するさらなる変形例として、各可変容量ダイオードD1,D2を非励振スリットSにおいてスイッチSW3,SW4にそれぞれ近接させ、かつ非励振スリットSにおいてスイッチSW3,SW4よりも外側に位置するように設けることに限定せず、各可変容量ダイオードD1,D2は、非励振スリットSに沿った他の好ましい位置に配意されてもよい。例えば、アンテナ装置の開状態又は閉状態に応じて、電界強度が大きくなる非励振スリットS上の最適位置に可変容量ダイオードD1,D2を配置することができるので、小さな容量値で非励振スリットSの共振周波数を調整することができ、従って、使用する可変容量ダイオードD1,D2を小型化できる。
【0054】
コントローラ16Aは、反射係数をモニタリングするために、テスト信号を送信することに代えて、実際に通信されるデータ信号を送信しながらモニタリングしてもよい。また、受信時に用いるための印加電圧値を計算するために、テスト信号を送信することに代えて、送信時に得られた印加電圧値に基づいて所定の既知の計算式(例えば、送信周波数と受信周波数との周波数差に基づいて所定値を加算又は減算する式など)を用いて計算してもよい。
【0055】
図16(a)は、本発明の第1の実施形態の第2の変形例に係るアンテナ装置の開状態を示す概略図であり、図16(b)はその閉状態を示す概略図である。本変形例では、第1の変形例のように2つの可変容量ダイオードD1,D2を備えることに代えて、非励振スリットSの長手方向に沿ってスイッチSW3,SW4間の所定の位置に、好ましくは非励振スリットSの長手方向のほぼ中央に、単一の可変容量ダイオードD3を備えたことを特徴とする。本変形例では、第1の変形例の場合に比べ、容量値の変化に対して敏感ではない地点に可変容量ダイオードD3を配置することになるので、容量値の変化幅が大きい可変容量ダイオードを設ける必要がある。この構成によれば、可変容量ダイオードの個数を1つに削減したことにより、アンテナ装置の部品点数ならびにコストを削減でき、アンテナ制御処理を簡単化することができる。
【0056】
図17は、図16のアンテナ装置のコントローラによって実行される第4のアンテナ制御処理を示すフローチャートである。ステップS31において、コントローラは、開閉検出器15からの開閉検出信号に基づいて携帯電話機の開閉状態を検出し、閉状態のときはステップS32に進み、開状態のときはステップS34に進む。ステップS32において、コントローラはスイッチSW1及びSW2を閉じ、次いでステップS33において、スイッチSW3を開き、スイッチSW4を閉じ、ステップS36に進む。ステップS34において、コントローラはスイッチSW1及びSW2を開き、次いでステップS35において、スイッチSW3を閉じ、スイッチSW4を開き、ステップS36に進む。ステップS36において、コントローラは、テスト信号を送信しながら可変容量ダイオードD3に対する印加電圧を変化させることにより、VSWRを最小化するように可変容量ダイオードD3の容量値を設定し、ステップS37に進む。ステップS37において、コントローラは、無線通信を実行するか否かを判断し、YESのときはステップS38に進み、NOのときはステップS31に戻る。ステップS38において、コントローラは無線通信回路12,14に無線通信を実行させ、ステップS31に戻る。
【0057】
図18(a)は、本発明の第1の実施形態の第3の変形例に係るアンテナ装置の開状態を示す概略図であり、図18(b)はその閉状態を示す概略図である。本変形例では、第1の変形例の構成からスイッチSW3,SW4を除去し、可変容量ダイオードD1,D2に、容量値を調整して非励振スリットSの電気長を変化させる機能に加えて、スイッチSW3,SW4の機能をさらに実行させることを特徴とする。本変形例の可変容量ダイオードD1,D2は、開放とみなせる容量値から、短絡とみなせる容量値までの可変域をもつ。この構成によれば、図10のアンテナ装置からスイッチSW3,SW4を削減したことにより、アンテナ装置の部品点数ならびにコストを削減できる。
【0058】
図19は、図18のアンテナ装置のコントローラによって実行される第5のアンテナ制御処理を示すフローチャートである。ステップS41において、コントローラは、開閉検出器15からの開閉検出信号に基づいて携帯電話機の開閉状態を検出し、閉状態のときはステップS42に進み、開状態のときはステップS45に進む。ステップS42において、コントローラはスイッチSW1及びSW2を閉じ、ステップS43に進む。ステップS43において、コントローラは、可変容量ダイオードD2に対する印加電圧を制御することにより、アンテナ素子1,2が実質的に短絡されるように可変容量ダイオードD2の容量値を設定し、ステップS44に進む。ステップS44において、コントローラは、テスト信号を送信しながら可変容量ダイオードD1に対する印加電圧を変化させることにより、VSWRを最小化するように可変容量ダイオードD1の容量値を設定し、ステップS48に進む。ステップS45において、コントローラはスイッチSW1及びSW2を開き、ステップS46に進む。ステップS46において、コントローラは、可変容量ダイオードD1に対する印加電圧を制御することにより、アンテナ素子1,2が実質的に短絡されるように可変容量ダイオードD1の容量値を設定し、ステップS47に進む。ステップS47において、コントローラは、テスト信号を送信しながら可変容量ダイオードD2に対する印加電圧を変化させることにより、VSWRを最小化するように可変容量ダイオードD2の容量値を設定し、ステップS48に進む。ステップS48において、コントローラは、無線通信を実行するか否かを判断し、YESのときはステップS49に進み、NOのときはステップS41に戻る。ステップS49において、コントローラは無線通信回路12,14に無線通信を実行させ、ステップS41に戻る。
【0059】
第2の実施形態.
図20(a)は、本発明の第2の実施形態に係るアンテナ装置の開状態を示す概略図であり、図20(b)はその閉状態を示す概略図である。図21乃至図23は、図20のアンテナ装置を備えた実装例の携帯電話機を示す概略図であり、図24及び図25は、図20のアンテナ装置の回路構成を示すブロック図である。本実施形態のアンテナ装置は、第1の実施形態のアンテナ装置のように2つ折りに折りたたまれるのではなく、図27を参照して説明した従来技術の携帯電話機と同様に、回転によって折りたたまれることを特徴とする。
【0060】
図20(a)において、導体板にてなるアンテナ素子1,2は所定の平面内に設けられ、この平面に対して平行でありかつ所定距離だけ離隔したもう1つの平面内に、導体板にてなる接地導体3が設けられる。アンテナ素子1,2と接地導体3とが対向する位置において、これらを含む平面に対して鉛直な回転軸(図示せず。)を中心としてアンテナ素子1,2を接地導体3に対して180度回転させることにより、図20(b)に示すようにアンテナ装置は折りたたまれて閉状態にされる。アンテナ装置が閉状態にあるとき、アンテナ素子1,2は、実質的にその全体が接地導体3と重なり合う。アンテナ素子1,2と接地導体3とが対向する位置(すなわち、上記回転軸の付近の位置)には、各給電点P1,P2を2つの高周波回路のいずれかにそれぞれ機械的に接続し、短絡導体4a,5aと短絡導体4b,5bとの開閉を機械的に切り換えるスイッチSW5が設けられる。詳しくは、アンテナ装置が開状態にあるとき、スイッチSW5は、給電点P1に接続された給電線F3を、第1の高周波回路に接続された給電線F1に接続し、給電点P2に接続された給電線F4を、第2の高周波回路に接続された給電線F2に接続する。アンテナ装置が開状態にあるとき、スイッチSW5はさらに、短絡導体4a,4bを、互いに電気的に接続しないように対向させ、短絡導体5a,5bを、互いに電気的に接続しないように対向させる。一方、アンテナ装置が閉状態にあるとき、スイッチSW5は、給電線F3を給電線F2に接続し、給電線F4を給電線F1に接続し、短絡導体4aを短絡導体5bに接続し、短絡導体5aを短絡導体4bに接続する。
【0061】
図20(a)のようにアンテナ装置が開状態にあるとき、給電点P1を用いて励振することにより、アンテナ素子1及び接地導体3はダイポールアンテナとして動作し、同様に、給電点P2を用いて励振することにより、アンテナ素子2及び接地導体3もまたダイポールアンテナとして動作する。非励振スリットSの存在により、2つのダイポールアンテナは互いの間に所定のアイソレーションを有して動作する。さらに、アンテナ装置が開状態にあるとき、アンテナ装置のコントローラ(図示せず。)は、非励振スリットSにおいてスイッチSW3を閉じ、かつスイッチSW4を開くように制御し、これにより、スイッチSW3を通過し、かつアンテナ素子1,2の両方に延在する電流経路が形成され、アンテナ装置の広帯域化に寄与する。一方、図20(b)のようにアンテナ装置が閉状態にあるとき、アンテナ素子1,2は接地導体3に短絡されている。また、アンテナ装置が閉状態にあるとき、給電点P1に接続された給電線F2,F3を用いて励振することにより、アンテナ素子1と短絡導体4a,5bとは、接地導体3上において逆F型アンテナとして動作し、同様に、給電点P2に接続された給電線F1,F4を用いて励振することにより、アンテナ素子2と短絡導体5a,4bもまた、接地導体3上において逆F型アンテナとして動作する。非励振スリットSの存在により、2つの逆F型アンテナは互いの間に所定のアイソレーションを有して動作する。さらに、アンテナ装置が閉状態にあるとき、アンテナ装置のコントローラは、スイッチSW3を開き、かつスイッチSW4を閉じるように制御し、これにより、スイッチSW4を通過し、かつアンテナ素子1,2の両方を含む電流経路が形成され、アンテナ装置の広帯域化に寄与する。
【0062】
図21乃至図23の携帯電話機の筐体は、図27を参照して説明した従来技術の携帯電話機と同様に構成される。図21(a)は、図20のアンテナ装置を備えた実装例の携帯電話機の開状態を透視により示す概略図であり、図21(b)はその閉状態を示す概略図である。アンテナ素子1,2は、それらの間の非励振スリットSが携帯電話機の長手方向に平行になるように上部筐体111内に設けられ、また、接地導体3は下部筐体112内に設けられる。上部筐体111及び下部筐体112は、上部筐体111及び下部筐体112を厚さ方向に貫通する回転軸113(又は同等の連結機構)によって連結され、上部筐体111が回転軸113を中心として回転することにより携帯電話機が開閉される。この携帯電話機の開閉に従って、アンテナ素子1,2は、携帯電話機の筐体の回転軸113を中心として接地導体3に対して180度回転される。
【0063】
図22(a)は、図21(a)に示す開状態の携帯電話機を下端から見たときの構成を透視により示す概略図であり、図22(b)は、図21(b)に示す閉状態の携帯電話機を下端から見たときの構成を透視により示す概略図である。スイッチSW5は、端子部E1,E2,E3,E4を備え、端子部E1,E2,E3,E4は、アンテナ装置が開状態(図22(a))と閉状態(図22(b))にあるとき、それぞれ以下のように作用する。端子部E1は、開状態のときに給電線F3を給電線F1に接続し、閉状態において給電線F4を給電線F1に接続する。端子部E2は、開状態のときに短絡導体4a,4bを互いに電気的に接続しないように対向させ、閉状態において短絡導体5aを短絡導体4bに接続する。端子部E3は、開状態のときに短絡導体5a,5bを互いに電気的に接続しないように対向させ、閉状態において短絡導体4aを短絡導体5bに接続する。端子部E4は、開状態のときに給電線F4を給電線F2に接続し、閉状態において給電線F2を給電線F2に接続する。
【0064】
図23(a)は、本発明の第2の実施形態の変形例に係る開状態の携帯電話機を下端から見たときの構成を透視により示す概略図であり、図23(b)は、閉状態の当該携帯電話機を下端から見たときの構成を透視により示す概略図である。本変形例では、携帯電話機の筐体の回転軸113に対する端子部の距離を相違させることにより、開状態では短絡導体4a,4b,5a,5bを電気的に切断し、閉状態では電気的に接続することを特徴とする。図23(a)において、端子部E1,E4は、図22の場合と同様に構成される。短絡導体4bに接続された端子部E2と、短絡導体5aに接続された端子部E6とは、回転軸113に対して所定の第1の距離に位置し、短絡導体4aに接続された端子部E5と、短絡導体5bに接続された端子部E3とは、回転軸113に対して、第1の距離とは異なる所定の第2の距離に位置する。従って、アンテナ装置が開状態にあるとき、短絡導体4a,4b,5a,5b間には電気的な接続が確立されない。一方、図23(b)において、端子部E5は、回転により端子部E3の位置に移動し(図示せず。)、同様に、端子部E6は、回転により端子部E2の位置に移動する(図示せず。)。従って、アンテナ装置が閉状態にあるとき、短絡導体5aは短絡導体4bに接続され、短絡導体4aは短絡導体5bに接続される。
【0065】
図24は、図20のアンテナ装置の回路構成を示す開状態のブロック図であり、図25は、図20のアンテナ装置の回路構成を示す閉状態のブロック図である。短絡導体4a,4b,5a,5bの開閉は、携帯電話機の筐体の回転により機械的に切り換えられるので、アンテナ装置のコントローラ16Bは、無線通信回路12,14と、スイッチSW3,SW4のみの制御を行う。
【0066】
変形例として、本実施形態のアンテナ装置においても、第1の実施形態の各変形例において説明したように、非励振スリットSの部分に可変容量ダイオードをさらに備えてもよい。また、スイッチSW5は機械的に開閉するものに限定されず、例えば第1の実施形態と同様に、アンテナ装置のコントローラの制御下で開閉するスイッチSW1,SW2を備え、短絡導体4a,4b,5a,5bの接続を制御してもよい。
【0067】
以上説明したように、本発明の各実施形態に係るアンテナ装置及び携帯電話機によれば、アンテナ装置が開状態及び閉状態のいずれであっても送受信することができ、さらに互いに低相関である複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の無線通信装置は、例えばMIMO通信を実行する携帯電話機として実装することができるが、MIMOに限らず、複数のアプリケーションのための通信を同時に実行可能(マルチアプリケーション)な携帯電話機として実装することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係るアンテナ装置の開状態を示す概略図であり、(b)はその閉状態を示す概略図である。
【図2】(a)は、図1のアンテナ装置を備えた実装例の携帯電話機の開状態を透視により示す概略図であり、(b)はその閉状態を示す概略図である。
【図3】(a)は、図2(a)に示す開状態の携帯電話機の縦断面図であり、(b)は図2(b)に示す閉状態の携帯電話機の縦断面図である。
【図4】図1のアンテナ装置の回路構成を示す開状態のブロック図である。
【図5】図1のアンテナ装置の回路構成を示す閉状態のブロック図である。
【図6】(a)は、図1のアンテナ装置が開状態にあり、スイッチSW3,SW4が開いているときの電流経路を示す概略図であり、(b)は、スイッチSW3を閉じたときの電流経路を示す概略図である。
【図7】(a)は、図1のアンテナ装置が閉状態にあり、スイッチSW3,SW4が開いているときの電流経路を示す概略図であり、(b)は、スイッチSW4を閉じたときの電流経路を示す概略図である。
【図8】図1のアンテナ装置のコントローラ16によって実行される第1のアンテナ制御処理を示すフローチャートである。
【図9】図1のアンテナ装置のコントローラ16によって実行される第2のアンテナ制御処理を示すフローチャートである。
【図10】(a)は、本発明の第1の実施形態の第1の変形例に係るアンテナ装置の開状態を示す概略図であり、(b)はその閉状態を示す概略図である。
【図11】図10のアンテナ装置の回路構成を示す開状態のブロック図である。
【図12】図10のアンテナ装置の回路構成を示す閉状態のブロック図である。
【図13】(a)は、可変容量ダイオードに印加される逆電圧Vに対する容量Cの変化を示すグラフであり、(b)は、図10の可変容量ダイオードD1の詳細構成を示す回路図である。
【図14】(a)は、図10のアンテナ装置が開状態にあり、スイッチSW3を閉じたときの電流経路を示す概略図であり、(b)は、スイッチSW3を開いたときの電流経路を示す概略図である。
【図15】図10のアンテナ装置のコントローラ16Aによって実行される第3のアンテナ制御処理を示すフローチャートである。
【図16】(a)は、本発明の第1の実施形態の第2の変形例に係るアンテナ装置の開状態を示す概略図であり、(b)はその閉状態を示す概略図である。
【図17】図16のアンテナ装置のコントローラによって実行される第4のアンテナ制御処理を示すフローチャートである。
【図18】(a)は、本発明の第1の実施形態の第3の変形例に係るアンテナ装置の開状態を示す概略図であり、(b)はその閉状態を示す概略図である。
【図19】図18のアンテナ装置のコントローラによって実行される第5のアンテナ制御処理を示すフローチャートである。
【図20】(a)は、本発明の第2の実施形態に係るアンテナ装置の開状態を示す概略図であり、(b)はその閉状態を示す概略図である。
【図21】(a)は、図20のアンテナ装置を備えた実装例の携帯電話機の開状態を透視により示す概略図であり、(b)はその閉状態を示す概略図である。
【図22】(a)は、図21(a)に示す開状態の携帯電話機を下端から見たときの構成を透視により示す概略図であり、(b)は、図21(b)に示す閉状態の携帯電話機を下端から見たときの構成を透視により示す概略図である。
【図23】(a)は、本発明の第2の実施形態の変形例に係る開状態の携帯電話機を下端から見たときの構成を透視により示す概略図であり、(b)は、閉状態の当該携帯電話機を下端から見たときの構成を透視により示す概略図である。
【図24】図20のアンテナ装置の回路構成を示す開状態のブロック図である。
【図25】図20のアンテナ装置の回路構成を示す閉状態のブロック図である。
【図26】(a)は従来例の2つ折り型携帯電話機の開状態を示す図であり、(b)はその閉状態を示す図である。
【図27】(a)は従来例の回転型携帯電話機の開状態を示す図であり、(b)はその閉状態を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1、2…アンテナ素子、
3…接地導体、
4a,4b,5a,5b…短絡導体、
11,13…整合回路、
12,14…無線通信回路、
15…開閉検出器、
16,16A,16B…コントローラ、
101,111…上部筐体、
102,112…下部筐体、
103…ヒンジ部、
104,105,114…表示装置、
113…回転軸、
D1,D2,D3…可変容量ダイオード、
E1,E2,E3,E4,E5,E6…端子部、
F1,F2,F3,F4…給電線、
F1a,F2a…外部導体、
L1,L2…インダクタンス、
P1,P2…給電点、
S…非励振スリット、
SW1,SW2,SW3,SW4,SW5…スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1筐体と、
前記第1筐体と連結部を介して開閉可能に連結された第2の筺体と、
前記第1筺体内に所定距離だけ離隔して設けられた第1及び第2のアンテナ素子と、
前記第2筺体に設置された接地導体と、
前記第1及び第2のアンテナ素子の各々に設けられ前記第1及び第2のアンテナ素子の各々を励振させる第1及び第2の給電点と、
前記第1のアンテナ素子と前記接地導体とを開閉可能に接続する第1接続手段と、
前記第2のアンテナ素子と前記接地導体とを開閉可能に接続する第2接続手段と、
前記第1筺体と前記第2筺体とが開状態の場合、前記第1接続手段により前記第1のアンテナ素子と前記接地導体とを電気的に開放させ且つ前記第2接続手段により前記第2のアンテナ素子と前記接地導体とを電気的に開放させて前記第1及び第2のアンテナ素子をダイポールアンテナとして動作させ、一方、前記第1筺体と前記第2筺体とが閉状態の場合、前記第1接続手段により前記第1のアンテナ素子と前記接地導体とを電気的に短絡させ且つ前記第2接続手段により前記第2のアンテナ素子と前記接地導体とを電気的に短絡させて前記第1及び第2のアンテナ素子を逆F型アンテナとして動作させる制御手段と、
前記第1及び第2の給電点を結ぶ仮想線と直交して前記第1及び第2アンテナ素子の間に前記第1及び第2アンテナ素子の全長に渡って形成され、前記第1及び第2給電点の給電により生成される電波の間に所定のアイソレーションを生成する非励振スリットと、
を備えた無線通信装置。
【請求項2】
前記非励振スリットの前記連結部から離間した側の第1端部で前記第1のアンテナ素子と前記第2のアンテナ素子とを電気的に開閉可能に接続する第3接続手段と、
前記非励振スリットの前記連結部に近接した側の第2端部で前記第1のアンテナ素子と前記第2のアンテナ素子とを電気的に開閉可能に接続する第4接続手段とを設け、
前記制御手段は、
前記第1の筺体と前記第2の筺体とが開状態の場合、前記第3接続手段によりに前記第1のアンテナ素子と前記第2のアンテナ素子とを電気的に閉じ且つ前記第4接続手段により前記第1のアンテナ素子と前記第2のアンテナ素子とを電気的に開き、一方、前記第1の筺体と前記第2の筺体とが閉状態の場合、前記第3接続手段によりに前記第1のアンテナ素子と前記第2のアンテナ素子とを電気的に開き且つ前記第4接続手段により前記第1のアンテナ素子と前記第2のアンテナ素子とを電気的に閉じることを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記第2端部は、前記非励振スリット上の前記第1端部と前記第1及び第2給電点との間に設けられていることを特徴とする請求項2記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記第1端部に設けられた第1の可変容量素子と、
前記第2端部に設けられた第2の可変容量素子と、を設け、
前記制御手段は、前記第1筐体と前記第2筐体とが開状態の場合、ダイポールアンテナとして動作する前記第1及び第2のアンテナ素子に係る反射係数を最小化するように前記第2の可変容量素子の印加電圧を制御し、一方、前記第1筐体と前記第2筐体とが閉状態の場合、逆F型アンテナとして動作する前記第1及び第2のアンテナ素子に係る反射係数を最小化するように前記第1の可変容量素子の印加電圧を制御することを特徴とする請求項2記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記非励振スリットの前記第1端部と前記2端部との間に設けられた可変容量素子を設け、
前記制御手段は、前記第1筐体と前記第2筐体が開状態の場合、ダイポールアンテナとして動作する前記第1及び第2のアンテナ素子に係る反射係数を最小化するように前記可変容量素子の印加電圧を制御し、一方、前記第1筐体と前記第2筐体とが閉状態の場合、逆F型アンテナとして動作する前記第1及び第2のアンテナ素子に係る反射係数を最小化するように前記可変容量素子の印加電圧を制御することを特徴とする請求項2記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記非励振スリットの前記連結部から離間した側の第1端部に設けられた第1可変容量素子と、
前記非励振スリットの前記連結部に近接した側の第2端部に設けられた第2可変容量素子と、を設け、
前記制御手段は、前記第1筐体と前記第2筐体とが開状態の場合、前記第1可変容量素子を実質的に短絡状態にするように前記第1可変容量素子の印加電圧を制御し、ダイポールアンテナとして動作する前記第1及び第2のアンテナ素子に係る反射係数を最小化するように前記第2の可変容量素子の印加電圧を制御し、一方、前記第1筐体と前記第2筐体とが閉状態の場合、前記第2可変容量素子を実質的に短絡状態にするように前記第2の可変容量素子の印加電圧を制御し、逆F型アンテナとして動作する前記第1及び第2のアンテナ素子に係る反射係数を最小化するように前記第1可変容量素子の印加電圧を制御することを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記第1筐体及び前記第2筐体は、前記連結部において2つ折りに折りたたみ可能に連結されたことを特徴とする請求項1乃至6のうちのいずれか1つに記載の無線通信装置。
【請求項8】
前記連結部は、前記第1筐体及び前記第2の筐体を厚さ方向に貫通する回転軸を含み、
前記第1筐体及び前記第2筐体は、前記回転軸を中心として回転することにより折りたたみ可能に連結されたことを特徴とする請求項1乃至6のうちのいずれか1つに記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2010−28413(P2010−28413A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186859(P2008−186859)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】